(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-14
(54)【発明の名称】神経刺激療法のアーチファクト最小化
(51)【国際特許分類】
A61N 1/36 20060101AFI20220106BHJP
【FI】
A61N1/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021522042
(86)(22)【出願日】2019-10-23
(85)【翻訳文提出日】2021-06-09
(86)【国際出願番号】 AU2019051160
(87)【国際公開番号】W WO2020082126
(87)【国際公開日】2020-04-30
(32)【優先日】2018-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513144730
【氏名又は名称】サルーダ・メディカル・ピーティーワイ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ピーター・スコット・ヴァラック・シングル
(72)【発明者】
【氏名】ディーン・マイケル・カラントニス
(72)【発明者】
【氏名】ジョナサン・ブレアトン・スコット
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053JJ02
4C053JJ03
4C053JJ04
4C053JJ05
4C053JJ27
(57)【要約】
神経刺激装置は、刺激と、刺激に関する測定電極の位置を有し、これらは刺激電極からの距離に関して生じるアーチファクトにおいて、アーチファクトの最小領域が測定電極と実質的に同一箇所となるように構成される。或いは、電極間間隔と電極長の比は2~3.66の間である。或いは、インピーダンスがパッシブ電極に接続され、測定電極上で発生するアーチファクトを低減させるように構成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経刺激装置であって、
電気刺激を神経組織に送達するように構成された少なくとも1つの刺激電極と、
刺激に対する前記神経組織の反応を記録するように構成された少なくとも1つの測定電極と、
を含み、
前記刺激と、前記刺激電極に関する前記測定電極の位置は、前記刺激電極からの距離に関して生じるアーチファクトにおいて、前記アーチファクトの最小領域が実質的に前記測定電極と同一箇所となるように構成されている、神経刺激装置。
【請求項2】
前記測定電極上で生じるアーチファクトは、前記刺激電極からより遠い空間領域内で生じるピークアーチファクトの75%未満である、請求項1に記載の神経刺激装置。
【請求項3】
前記測定電極上で生じるアーチファクトは、前記刺激電極からより遠い空間領域内で生じるピークアーチファクトの50%未満である、請求項2に記載の神経刺激装置。
【請求項4】
前記測定電極上で生じるアーチファクトは、前記刺激電極からより遠い空間領域内で生じるピークアーチファクトの25%未満である、請求項3に記載の神経刺激装置。
【請求項5】
前記アーチファクトの最小領域は前記アーチファクトのゼロ交差領域を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の神経刺激装置。
【請求項6】
3つ以上の刺激電極を利用して多極的に前記刺激を送達し、刺激電極のそれぞれのペアにミスマッチを生じさせることによって、前記アーチファクトの前記最小領域が前記測定電極と同一箇所となるように構成されている請求項1から5のいずれか一項に記載の神経刺激装置。
【請求項7】
刺激電流の全体を伝送する中央電極と前記刺激電流の2つのそれぞれの部分を伝送して電荷平衡刺激を保持する2つの周辺電極を含む3つの刺激電極を介して三極刺激を送達することによって、前記周辺電極により伝送される前記刺激電流のそれぞれの部分が、前記アーチファクトの前記最小領域が前記測定電極と実質的に同一箇所となるような方法でミスマッチの状態とされるように構成されている請求項6に記載の神経刺激装置。
【請求項8】
前記刺激電極により伝送される刺激電流のそれぞれの部分間の比である刺激比を、どの測定電極が使用されているかに応じて適応的に変更するように構成されている請求項6又は7に記載の神経刺激装置。
【請求項9】
変化する刺激比のある範囲の刺激を、神経反応を動員しない閾値以下のレベルで送達し、各刺激により前記測定電極で生じた前記アーチファクトを観察し、使用時に前記測定電極上で観察されるアーチファクトを最小にする刺激比を求めることによってアーチファクト最小化を行うように構成されている請求項8に記載の神経刺激装置。
【請求項10】
4つの刺激電極を使用して四極刺激を送達するように構成されている請求項6に記載の神経刺激装置。
【請求項11】
神経刺激の方法であって、
少なくとも1つの刺激電極を使って電気刺激を神経組織に送達するステップと、
少なくとも1つの測定電極を使って刺激に対する前記神経組織の反応を記録するステップと、
を含み、
前記刺激と、前記刺激電極に関する前記測定電極の位置は、前記刺激電極からの距離に関して生じるアーチファクトにおいて、前記アーチファクトの最小領域が前記測定電極と実質的に同一箇所となるように構成される、方法。
【請求項12】
神経刺激のための植込み型リードであって、
複数の電極を含み、各電極はある電極長と電極幅を有し、前記電極は電極間間隔によって長さ方向に離間され、
前記電極幅は前記電極長より大きく、
前記電極長は3mm未満であり、
前記電極間間隔と前記電極長の比は2~3.66である、植込み型リード。
【請求項13】
前記電極長は1.5mmより長い、請求項12に記載の植込み型リード。
【請求項14】
前記電極長は1.8mmより長い、請求項13に記載の植込み型リード。
【請求項15】
前記電極長は2.9mmより短い、請求項12から14のいずれか一項に記載の植込み型リード。
【請求項16】
前記電極長は2.2mmより短い、請求項12から15のいずれか一項に記載の植込み型リード。
【請求項17】
前記電極間間隔と前記電極長の比は2.1より大きい、請求項12から16のいずれか一項に記載の植込み型リード。
【請求項18】
前記電極間間隔と前記電極長の比は2.4より大きい、請求項17に記載の植込み型リード。
【請求項19】
前記電極間間隔と前記電極長の比は3.5より小さい、請求項12から16のいずれか一項に記載の植込み型リード。
【請求項20】
前記電極間間隔と前記電極長の比は2.7より小さい、請求項19に記載の植込み型リード。
【請求項21】
神経刺激装置であって、
電極刺激を神経組織に送達するように構成された少なくとも1つの刺激電極と、
刺激に対する前記神経組織の反応を記録するように構成された少なくとも1つの測定電極と、
前記測定電極に近接する少なくとも1つのパッシブ電極と、
前記パッシブ電極に接続されたインピーダンスであって、前記測定電極で生じるアーチファクトを低減させるように構成されるインピーダンスと、
を含む神経刺激装置。
【請求項22】
前記インピーダンスは可変インピーダンスであり、前記神経刺激装置は、前記可変インピーダンスを適応的に制御して、前記少なくとも1つの測定電極で観察されるアーチファクトを低減させるように構成される、請求項21に記載の神経刺激装置。
【請求項23】
前記可変インピーダンスの調整中にある範囲の刺激を送達してある範囲の異なる値を取るようにし、前記測定電極でこのような各刺激により生じる前記アーチファクトを観察し、その時点で使用中の前記測定電極で観察されるアーチファクトを最小化するインピーダンス値を求めることによって、前記可変インピーダンスを制御するように構成される、請求項22に記載の神経刺激装置。
【請求項24】
請求項9に記載のアーチファクトを最小にする刺激比を求めるように構成された第二のフィードバックループをさらに含む請求項23の神経刺激装置。
【請求項25】
前記インピーダンスは、前記測定電極のそれぞれの側に位置付けられたパッシブ電極のペア間に接続される、請求項21から24のいずれか一項に記載の神経刺激装置。
【請求項26】
神経刺激の方法であって、
少なくとも1つの刺激電極を使って神経組織に電気刺激を送達するステップと、
測定電極を使って刺激に対する前記神経組織の反応を記録するステップと、
前記測定電極に近接するパッシブ電極に接続されたインピーダンスを、前記測定電極で生じるアーチファクトを低減させるように構成するステップと、
を含む方法。
【請求項27】
神経刺激装置であって、
神経組織に電気刺激を送達するように構成された少なくとも1つの刺激電極と、
刺激に対する前記神経組織の反応を記録するように構成された少なくとも1つの測定電極と、
を含み、
前記刺激電極と前記測定電極は長さ方向のアレイに配置され、前記刺激電極と前記測定電極の少なくとも一方は、横方向への電極の抵抗と比較して長さ方向により大きい抵抗を示すように構成されている、神経刺激装置。
【請求項28】
神経刺激装置であって、
神経組織に電気刺激を送達するように構成された少なくとも1つの刺激電極と、
前記電気刺激を生成するように構成された電流源と、
刺激に対する前記神経組織の反応を記録するように構成された少なくとも1つの測定電極と、
を含み、
前記刺激電極は、組織と電極の界面の不連続部分を作るように構成された少なくとも2つの電極部分に分割され、前記電流源はそれぞれの抵抗器によって前記電極部分に接続される、神経刺激装置。
【請求項29】
前記電流源を分割された刺激電極の第一の電極部分に接続する第一の抵抗は、前記電流源を分割された刺激電極の第二の電極部分に接続する第二の抵抗と、電極と組織の界面上の非対称の電圧に対抗するように異なる、請求項28に記載の神経刺激装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2018年10月23日に出願されたオーストラリア仮特許出願第2018904012号の利益を主張するものであり、同仮特許を参照によって本願に援用する。
【0002】
本発明は、神経刺激装置により誘発される複合活動電位の測定に関し、特に電気刺激の付加により生じるアーチファクトの最小化に関する。
【背景技術】
【0003】
複合活動電位(CAP:compound action potential)を上昇させるために、神経刺激を付加することが望ましい様々な状況がある。例えば、ニューロモデュレーションは、慢性疼痛、パーキンソン病、及び片頭痛をはじめとする様々な疾患の治療に使用される。ニューロモデュレーションシステムは、電気パルスを組織に印加することにより、治療効果を生む。慢性疼痛の緩和に使用される場合、電気パルスは脊髄の後柱(DC:dorsal column)に印加され、脊髄刺激(SCS:spinal cord stimulation)と呼ばれる。ニューロモデュレーションシステムは典型的に、植え込まれる電気パルス発生器と、経皮的誘導伝達によって再充電可能であってよいバッテリ等の電源とを含む。電極アレイはパルス発生器に接続され、脊髄後柱の上方の硬膜外腔の中に位置付けられる。電極により脊髄後柱に印加される電気パルスは、ニューロンの脱分極と伝播動作電位の生成を生じさせる。このようにして刺激された神経線維は脊髄中のその分節から脳への痛みの伝達を阻止する。疼痛緩和効果を保持するために、刺激は実質的に連続的に、例えば50~100Hzの範囲の周波数で印加される。
【0004】
ニューロモデュレーションはまた、例えば運動機能を誘導するために遠心性線維の刺激にも使用されてよい。一般に、ニューロモデュレーションシステム内で生成される電気信号は神経活動電位をトリガし、するとこれは抑制性又は興奮性効果の何れかを有する。抑制性効果は、痛みの伝達等の望ましくないプロセスを変調させるため、又は筋肉収縮等の望ましい効果を生じさせるために使用できる。
【0005】
神経経路に印加される電気刺激により神経経路上で誘発される複合活動電位(CAP)の電気測定値を得ることが望ましい様々な事情がある。しかしながら、観察されるCAP信号の最大振幅は典型的に数十マイクロボルト又はそれ以下であるのに対し、CAPを引き起こすために印加される刺激は典型的に数ボルトであるため、これは困難な作業であり得る。電極アーチファクトは通常、刺激に起因し、CAPが生じている期間全体を通じて数ミリボルト又は数百マイクロボルトの減衰出力として現れ、関心対象であるずっと小さいCAPを分離する上での大きな障害となる。神経反応は刺激及び/又は刺激アーチファクトと同時に起こり得るため、CAP測定はインプラントの設計における難しい課題となる。実際、回路の理想的ではない多くの面がアーチファクトにつながり、これらのほとんどが正又は負極の何れかであり得る減衰する指数関数特性を有するため、アーチファクトの原因の特定と排除が面倒となる可能性がある。CAPの記録に関して数多くの方法が提案されており、これにはKing(特許文献1)、Nygard(特許文献2)、Daly(特許文献3)、及び本出願人(特許文献4)が含まれる。
【0006】
誘発される反応は、これらが時間的にアーチファクトより後に現れる場合、又は信号対ノイズ比が十分に高い場合には幾分検出しやすい。アーチファクトは多くの場合、刺激の1~2ms後に限定され、そのため、神経反応がこの時間枠の後で検出されれば、データを取得できる。これは、刺激及び記録電極間の距離が長く、刺激部位から記録電極までの神経反応の伝播時間が2msを超えるような外科的モニタリングのケースに当てはまる。しかしながら、例えば脊髄後柱からSCSへの反応のように、1つのインプラントによって誘発される反応を特徴付けるには、高い刺激電流と電極間の近接性が必要となり、したがって、測定プロセスは同時に生じるアーチファクトを直接克服しなければならないため、神経測定の困難さが大幅に増大する。
【0007】
同様の事柄は脳深部刺激でも考えられ、その場合、神経構造を刺激し、その直後に、神経反応が脳内の他の箇所に伝搬しないうちにその構造内で生じた誘発複合活動電位を測定することが望ましい。アーチファクトは、刺激箇所の付近で神経反応を測定するための大きな障害のままであり、その結果、従来の神経刺激インプラントは、全てではないとしてもほとんどが、インプラントの刺激により誘発された神経反応の測定を全く行わない。
【0008】
本明細書に含まれている文献、行為、物質、装置、成形品、又はその他の何れについての議論も、本発明の内容を提供するためのものにすぎない。これは、これらの何れか又は全部が先行技術の基礎の一部を形成すること、又は本発明に関係する分野における、本願の各特許請求項の優先権日以前に存在していた通常の一般的知識であったことを認めているとは解釈されないものとする。
【0009】
本明細書全体を通じて、「~を含む」という用語又はその変化形などは、明記された要素、整数、若しくはステップ、又は要素、整数、若しくはステップの集合の包含を示唆し、他の何れの要素、整数、若しくはステップ、又は要素、整数、若しくはステップの集合の排除も示唆しないと理解されたい。
【0010】
本明細書において、ある要素が選択肢の羅列のうちの「少なくとも1つ」であってよいとの記述は、その要素が列挙された選択肢のうちの何れの1つであっても、又は列挙された選択肢のうちの2つ以上の何れの組合せであってもよいと理解されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5913882号明細書
【特許文献2】米国特許第5758651号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2007/0225767号明細書
【特許文献4】米国特許第9386934号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
第一の態様によれば、本発明は神経刺激装置を提供し、これは、
電気刺激を神経組織に送達するように構成された少なくとも1つの刺激電極と、
刺激に対する神経組織の反応を記録するように構成された少なくとも1つの測定電極と、
を含み、
刺激と、刺激電極に関する測定電極の位置は、刺激電極からの距離に関して生じるアーチファクトにおいて、アーチファクトの最小領域が実質的に測定電極と同一箇所となるように構成される。
【0013】
第二の態様によれば、本発明は神経刺激の方法を提供し、方法は、
少なくとも1つの刺激電極を使って電気刺激を神経組織に送達するステップと、
少なくとも1つの測定電極を使って刺激に対する神経組織の反応を記録するステップと、
を含み、
刺激と、刺激電極に関する測定電極の位置は、刺激電極からの距離に関して生じるアーチファクトにおいて、アーチファクトの最小領域が測定電極と実質的に同一箇所となるように構成される。
【0014】
アーチファクトの最小領域は、アーチファクトの大きさが刺激電極からより遠い空間領域におけるピークアーチファクトに関して減少する空間領域と定義される。幾つかの実施形態において、アーチファクトの最小領域は、アーチファクトのゼロ交差領域を含んでいてよく、これはアーチファクトの大きさが刺激電極からより遠い空間領域におけるピークアーチファクトに関して減少する空間領域であり、アーチファクトのゼロ交差領域はアーチファクトのゼロ交差を含む。例えば、幾つかの実施形態において、アーチファクトの最小領域は、アーチファクトの大きさが、刺激電極からより遠い空間領域において生じるピークアーチファクトの75%未満、より好ましくは50%未満、より好ましくは25%未満の空間領域を含んでいてよい。特に、アーチファクトの最小領域を測定電極と同一箇所に置くことにより、測定電極を刺激部位により近付け、それゆえより強く、且つより分散されていない誘発複合活動電位(ECAP)を捕捉でき、他方で、刺激部位からより離れた幾つかの位置でも生じるであろう場合よりアーチファクトを低くすることができる。好ましい実施形態において、刺激と、刺激電極に関する測定電極の位置は、アーチファクトのゼロ交差等のアーチファクトの最小値が実質的に、又は好ましくは正確に、測定電極と同一箇所となるように構成され、それによって測定電極が受けるアーチファクトは、刺激電極からのそれ以外の距離において生じるピークアーチファクトと比較して無視できる程度となる。
【0015】
このために、少なくとも幾つかの実施形態において、本発明は、脊髄刺激及びその他のニューロモデュレーション方式のための刺激パターンの設計に関する技術を提供し、アーチファクトを最小化し、又はゼロにし、それゆえ、付加された刺激により誘発される神経複合活動電位等の刺激に対する組織の反応の測定を改善するために使用されてよい方法の集合を提供する。
【0016】
本発明の第一の態様の幾つかの実施形態において、刺激は、アーチファクトの最小領域が測定電極と実質的に同一箇所となるように構成され、これは3つ以上の刺激電極を利用して多極的に刺激を送達し、刺激電極のそれぞれのペアにミスマッチを生じさせることでアーチファクトの最小領域を測定電極と同一箇所に置くことによって行われる。例えば、刺激は3つの刺激電極によって三極的に送達されてよく、これは、刺激電極の全部を供給する中央電極と、電荷平衡刺激を保持するために刺激電流の2つのそれぞれの部分を供給する2つの周辺電極を含み、周辺刺激電極により供給される刺激電流のそれぞれの部分は、アーチファクトの最小領域が測定電極と実質的に同一箇所に置かれることになるような方法でミスマッチの状態とされる。
【0017】
周辺電極により供給される刺激電流のそれぞれの部分の所望の比は、本明細書では刺激比と呼ぶが、どの測定電極が使用されるかに応じて異なる。したがって、好ましい実施形態は、異なる刺激比のある範囲の刺激を、神経反応を動員しない閾値以下のレベルで送達し、測定電極においてこのような刺激の各々により生じるアーチファクトを観察することにより、使用時に測定電極上に見られるアーチファクトが最小化する刺激比を見出すアーチファクト最小化アルゴリズムを提供する。
【0018】
本発明の第一の態様の他の実施形態は、その他の刺激構成を用いてアーチファクトの最終領域が測定電極と実質的に同一箇所となるようにしてよい。例えば、4つの電極を用いる四極刺激構成又は5つ以上の電極を使用する多極刺激構成が使用されてよく、アーチファクトの最小領域の位置を、これは、それが実質的に測定電極と同一箇所となるように操作するためにミスマッチの刺激比を送達するように事前に構成されるか、又は適応的に構成されてよい。
【0019】
第三の態様によれば、本発明は神経刺激のための植込み型リードを提供し、このリードは複数の電極を含み、各電極はある電極長と電極幅を有し、電極は電極間間隔によって長さ方向に離間され、
電極幅は電極長より大きく、
電極長は3mm未満であり、
電極間間隔と電極長の比は2~3.66である。
【0020】
リードがリードの円周の、又は円筒形以外のリードの場合はリードの断面の周囲の実質的部分又は全体にわたって延びるカフ電極を含む経皮的リードである第三の態様の実施形態において、電極幅は本明細書において、リードの幅又は直径若しくは最大断面寸法と等しいと定義される。
【0021】
第三の態様の実施形態において、電極長は好ましくは1.5mmより大きく、例えば1.6mmより大きく、より好ましくは1.8mmより大きい。電極長は好ましくは、2.9mm未満、より好ましくは2.55mm、より好ましくは2.2mm未満である。電極長は好ましくは2.0mmである。
【0022】
第三の態様の実施形態において、電極間間隔と電極長の比は好ましくは2.1より大きく、例えば2.25より大きく、より好ましくは2.4より大きい。電極間間隔と電極長の比は好ましくは3.5未満であり、例えば3.1未満であり、より好ましくは2.7未満である。電極間間隔と電極長の比は好ましくは2.5である。
【0023】
第四の態様によれば、本発明は神経刺激装置を提供し、これは、
電極刺激を神経組織に送達するように構成された少なくとも1つの刺激電極と、
刺激に対する神経組織の反応を記録するように構成された少なくとも1つの測定電極と、
測定電極に近接する少なくとも1つのパッシブ電極と、
パッシブ電極に接続されたインピーダンスであって、測定電極で生じるアーチファクトを低減させるように構成されるインピーダンスと、
を含む。
【0024】
第五の態様によれば、本発明は神経刺激の方法を提供し、この方法は、
少なくとも1つの刺激電極を使って神経組織に電気刺激を送達するステップと、
測定電極を使って刺激に対する神経組織の反応を記録するステップと、
測定電極に近接するパッシブ電極に接続されたインピーダンスを、測定電極で生じるアーチファクトを低減させるように構成するステップと、
を含む。
【0025】
本発明の第四及び第五の態様の実施形態において、インピーダンスは事前に構成され、固定されてよい。代替的な実施形態において、インピーダンスは可変インピーダンスであってよく、測定電極上で観察されるアーチファクトを低減させるため、又は好ましくはその最小値を求めるための何れかの適当な手段により適応的に構成されてもよい。例えば、可変インピーダンスは、ある範囲の刺激を送達しながら、可変インピーダンスを、異なる値の範囲を取るように調整し、刺激は神経反応を動員しない、閾値以下のレベルであり、測定電極におけるこのような刺激の各々により引き起こされたアーチファクトを観察して、その時点で使用中の測定電極上に見られるアーチファクトを最小化するインピーダンス値を求めるアーチファクト最小化アルゴリズムを使って適応的に構成されてよい。代替的に、この技術は神経反応を動員する、閾値より高い刺激の使用を採用してよく、神経反応とアーチファクトの合計のエネルギーを測定してよく、可変インピーダンスを、このようなエネルギーの減少又は最小値を求めるような方法で調整してよい。このような実施形態のアーチファクト最小化アルゴリズムは、本発明の第一及び第二の幾つかの実施形態の前述のようなアーチファクト最小化アルゴリズムと、例えば同時に又は同時間に動作するフィードバックループの使用によって、同時に実行されてもよい。
【0026】
インピーダンスは、抵抗又はリアクタンスを含んでいてよい。インピーダンスは、交換コンデンサの切替レート又はパルス幅変調によって電子的に規定される制御可能な抵抗を提示するように構成される交換コンデンサ抵抗の形態で実装されることによって可変とされてもよい。
【0027】
いくつかの実施形態において、インピーダンスは測定電極の何れかの側に位置付けられるパッシブ電極のペア間に接続される。このような実施形態において、複数の測定電極が使用される場合、パッシブ電極の一方は好ましくは、測定電極間に位置付けられ、パッシブ電極の他方は好ましくは、刺激電極と測定電極との間に位置付けられる。それによって、刺激又は測定に関わらない電極ペアは、測定電極にもたらされるアーチファクトが最小又はゼロとなるようにするために使用できる。
【0028】
第六の態様によれば、本発明は神経刺激装置を提供し、これは、
神経組織に電気刺激を送達するように構成された少なくとも1つの刺激電極と、
刺激に対する神経組織の反応を記録するように構成された少なくとも1つの測定電極と、
を含み、
電極は長さ方向のアレイに配置され、電極の少なくとも一方は、横方向へのその電極の抵抗と比較して、長さ方向により大きい抵抗を示すように構成される。
【0029】
第六の態様の幾つかの実施形態において、電極は、長さ方向の電流路の長さを増大させるように構成された横方向のスロット又はリブを電極に提供することによって、長さ方向により大きい抵抗を示すように構成されてよい。
【0030】
第七の態様によれば、本発明は神経刺激装置を提供し、これは、
神経組織に電気刺激を送達するように構成された少なくとも1つの刺激電極と、
電気刺激を生成するように構成された電流源と、
刺激に対する神経組織の反応を記録するように構成された少なくとも1つの測定電極と、
を含み、
刺激電極は、組織と電極の界面の不連続部分を作るように構成された少なくとも2つの電極部分に分割され、電流源はそれぞれの抵抗器によって電極部分に接続される。
【0031】
第七の幾つかの実施形態において、電流源を分割された電極の第一の部分に接続する第一の抵抗は、電流源を分割された電極の第二の部分に接続する第二の抵抗とは異なる。第一及び第二の抵抗は好ましくは、電極と組織の界面上の非対称の電圧に対抗するような方法で選択され、又は適応的に制御される。
【0032】
以下に、本発明の一例を下記のような添付の図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】植え込まれた脊髄刺激装置を概略的に図解する。
【
図2】植え込まれた神経刺激装置のブロック図である。
【
図3】植え込まれた刺激装置と神経との相互作用を描いた略図である。
【
図6】電極カフが刺激において名目上分割されるセクション数に応じた予想アーチファクト振幅のグラフである。
【
図7】電極リードの刺激及び測定構成を絵的な方法で示す。
【
図8】刺激電圧及びその結果として得られる生理食塩水のアーチファクトのグラフである。
【
図9】4つの電極の2つずつのスライスへのスライスのシミュレーションと、生理食塩水によるメッシュ抵抗表現とのその相互作用を示す概略回路図である。
【
図10】21スライスシミュレーションにおける電極2及び1間に付加された刺激に応答する、名目上のスライス位置に応じた電極4の界面層に生じた、刺激の終了時及び1msの緩和後の両方における電位のシミュレーションのグラフである。
【
図11】21スライスシミュレーションにおける二相性刺激の終了時に刺激電極上に生じる電位のシミュレーションのグラフである。
【
図12】刺激電流に関するアーチファクトの、測定及びシミュレーションの両方のグラフである。
【
図13】刺激電極からの変位に関する隣接する電極ペア間で測定されたアーチファクトの、実測及び予想の両方のグラフである。
【
図14】
図14aと
図14bは、それぞれシミュレーションパルス中及びパルス後の、2つの刺激電極及び1つのパッシブ電極内の電流経路の図である。
【
図15】刺激完了後まもなくの2つの刺激及び2つのパッシブ電極の周囲における生理食塩水中の電界のシミュレーションによるグラフである。
【
図16】刺激完了後まもなくの2つの刺激及び1つのパッシブ電極の周囲における生理食塩水中の電界のシミュレーションによるグラフである。
【
図17】アーチファクト最小化のための三極刺激の方法を示す。
【
図19】
図18の構成要素からのアーチファクト加算を図解する。
【
図20】項Aが変えられる三極刺激のためのシミュレーションによるアーチファクトを示す。
【
図21】本発明の1つの実施形態による可変三極刺激波形を示す。
【
図22】三極刺激比が変えられたときの電極E4~E8上のアーチファクト振幅を示す。
【
図23a】本発明の実施形態による、アーチファクトの最小値を見つけるために多極刺激比を自動的に調整するフィードバック制御ループを図解する。
【
図23b】本発明の実施形態による、アーチファクトの最小値を見つけるために多極刺激比を自動的に調整するフィードバック制御ループを図解する。
【
図23c】本発明の実施形態による、アーチファクトの最小値を見つけるために多極刺激比を自動的に調整するフィードバック制御ループを図解する。
【
図23d】本発明の実施形態による、アーチファクトの最小値を見つけるために多極刺激比を自動的に調整するフィードバック制御ループを図解する。
【
図24】birding抵抗器がアーチファクトを最小化する他の実施形態を図解する。
【
図25】従来の大きさの電極を有する4コンタクト硬膜外電極アレイと、短縮電極を含む本発明の実施形態による硬膜外電極アレイとを図解する。
【
図26】生理食塩水槽内の単一電極の回路モデルを示す。
【
図28】生理食塩水槽内の刺激電極ペアの回路モデルを示す。
【
図30】生理食塩水槽中の記録電極ペアの回路モデルを示す。
【
図32】
図34のアーチファクトをハイライトするために使用される圧縮アルゴリズムを示す。
【
図34】二相性刺激に反応する生理食塩水槽中の圧縮電界を示す。
【
図36】本発明の他の実施形態による短縮電極を有するパドル電極アレイを示す。
【
図37】本発明の実施形態による分割電極を有する神経刺激リードを図解する。
【
図38】本発明の他の実施形態による分割電極を有する他の神経刺激リードを図解する。
【
図39】本発明の別の実施形態による、より大きい長さ方向の抵抗を有する神経刺激電極を図解する。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、植え込まれた脊髄刺激装置100を概略的に図解している。刺激装置100は、患者の下腹部又は後上臀部の適当な位置に植え込まれた電極モジュール110と、硬膜外腔内に植え込まれ、モジュール110に適当なリードによって接続された電極アセンブリ150を含む。植え込まれた神経装置100の動作の多くの面は、外部制御装置192によって再構成可能である。さらに、植え込まれた神経装置100は、データ収集の役割も果たし、収集されたデータは、何れかの適当な経皮的通信チャネル190を介して外部装置192に通信される。
【0035】
図2は、植え込まれた神経刺激装置100のブロック図である。モジュール110は、バッテリ112とテレメトリモジュール114を含む。本発明の実施形態において、何れの適当な種類の経皮的通信190、例えば赤外線(IR)、電磁波、容量性、及び誘導性伝送がテレメトリモジュール114によって、電力及び/又はデータを外部装置192と電極モジュール110との間で伝送するために使用されてもよい。モジュールコントローラ116は、患者の設定120及び制御プログラム122及びその他を記憶する関連のメモリ118を有する。コントローラ116は、パルス発生器124を制御して、患者の設定120及び制御ブログラム122に応じた電流パルスの形態の刺激を生成させる。電極選択モジュール126は、生成されたパルスを電極アレイ150の中の適切な電極に切り替えて、電流パルスが選択された電極の周囲の組織に送達されるようにする。測定回路128は、電極選択モジュール126により選択された電極アレイのセンス電極により検知される神経反応の測定値を捕捉するように構成される。
【0036】
図3は、植え込まれた刺激装置100と神経180、この場合は脊髄との相互作用を概略的に図解するが、代替的な実施形態は、末梢神経、内蔵神経、副交感神経、又は脳構造を含む何れの所望の神経組織に隣接して位置付けられてもよい。電極選択モジュール126は、電極アレイ150から電流パルスを神経180を含む周辺組織に送達するための刺激電極2を選択し、また、アレイ150から、正味電荷移動をゼロに保つために刺激電流回復のためのリターン電極4も選択する。
【0037】
神経180に適当な刺激を送達することによって、複合活動電位を含む神経反応が誘発され、これは、慢性疼痛のための脊髄刺激装置の場合は、所望の位置において感覚障害を生じさせることであり得る治療目的のために、図のように神経180に沿って伝播する。このために、刺激電極は治療的に適当な何れかの周波数、例えば30Hzの刺激を送達するために使用されるが、kHz範囲の高さのものを含むその他の周波数も使用されてよく、及び/又は刺激は患者にとって適当な、バースト方式等の非周期的に、若しくは単発的に送達されてもよい。装置のフィッティングを行うために、臨床医は使用者が感覚異常と受け取る感覚を生じさせるものを探すための各種の構成の刺激を付加する。使用者の体の痛みの影響受ける領域と正確に合致する位置にあり、そのような大きさである感覚障害を引き起こす刺激構成が見つかったところで、臨床医はその構成を引き続き採用するものとして決定する。
【0038】
装置100はさらに、神経180に沿って伝播する複合活動電位(CAPs)の存在と強度を検知するように構成され、このようなCPAsは電極2及び4からの刺激により誘発されたか、それ以外に誘発されたかを問わない。このために、アレイ150の何れかの電極が電極選択モジュール126によって、測定電極6及び測定参照電極8としての役割を果たすように選択されてもよい。測定電極6及び8により検知された信号は測定回路128に伝えられ、これは例えば、本出願人による国際公開第2012155183号パンフレットの教示にしたがって動作してよく、同出願の内容を参照によって本願に援用する。それでも、アーチファクトは刺激箇所の付近の神経反応の測定の大きな障害物のままである。本開示はまず、アーチファクト現象をより詳しく調べ、その後、所見に基づいて多数の新規な解決策を提供する。
【0039】
ニューロンを動員するために医療用インプラントによりプラチナ電極を通じて送達される電流パルスは、ゆっくりと減衰する電圧尾部が生じ、これが「アーチファクト」と呼ばれる。これらの尾部によって、パルス後の誘発電位の測定が非常に難しくなる。ここで、典型的な臨床的状況では、これらの尾部のほとんどが、刺激及びパッシブ電極の両方のプラチナ表面上に吸着する電気二重層の中に誘導される種の濃度勾配に起因することを示すエビデンスを提示する。これらのアーチファクトのシミュレーションを可能にする小型モデルが提示される。このモデルは、アーチファクトの振幅を縮小するための技術の有効性を予測することにおいて有益であることがわかると予想できる。
【0040】
最近、ニューロモデュレーションシステムにおいてフィードバックを適用するために、神経刺激パルスの存在中及びその直後に神経活動を検知することに大きな関心が寄せられている。刺激と同期され、刺激部位付近で測定される誘発複合活動電位(ECAP)によって、パルスに起因する神経動員の範囲が明らかとなる。それゆえ、測定されたECAPは、植込み手術中にも、通常の使用における刺激パルス振幅と位置の自動調整にも大いに役立つ可能性がある。
【0041】
典型的なニューロモデュレーションパルスは数ボルトの振幅を有し、それに対して神経発火の結果として電極で見える信号の振幅は数マイクロボルトに過ぎないかもしれない。有益とするには、誘発反応の記録を刺激パルスの終了から約数百マイクロ秒以内に開始しなければならない。記録用電子部品の仕事をさらにより困難とするのが、アーチファクトの尾部の振幅が、刺激と記録電極との間の間隔に応じてミリボルトから数十マイクロボルトであることである。刺激部位に最も近いセンサ電極は、動員を評価するのに最もよく位置付けられるが、ECAPが動員部位から伝播する間に散乱するため、より大きいアーチファクトを有する。特にCMOSにおけるアナログ‐デジタル変換のためにこれらの信号を処理できる増幅器を設計することは骨の折れる作業である。
【0042】
このことに照らして、電極と電解物の界面のインピーダンスの小型モデルが提示される。このモデルは、電極と電解物との間の界面の等価回路表現の中で、Constant‐Phase Element(CPE)及び他のより一般的な要素を使用している。このモデルは、界面のインピーダンスを正確に表すことができる。回路シミュレータにおいて、このモデルにより、全部ではないが幾つかの状況における残留電圧とアーチファクト尾部を予想できる。以下においてわかるように、モデルでは特定の回路構成においてゼロアーチファクトが予想されるが、その一方で、測定によるとこのような構成でかなりのアーチファクトが実際に生じていることが明らかとなる。これによって、シングルCPE小型モデルでは捕捉されない動作中のメカニズムがあることが明らかとなる。
【0043】
したがって、本発明は分割電極モデルを導入する。アーチファクトは、電極の周囲の二重層の中にその電流伝導後に残る残留電荷を通じてだけでなく、電極表面に沿ったその電荷の不均一な分布によっても発生する可能性があると仮定される。このような不均一な電荷分布は、電極を通じて電子部品の中に流れる正味電流がなくても起こり得る。表面伝導の結果として電極の一端に蓄積される電気二重層の拡散領域における、刺激電極により生成される電界から得られるカウンタチャージを可視化することができるかもしれない。多くの目的のためにより精巧なモデルが必要であるが、電極の一端に蓄積される電荷のこの考えは、その現象をシミュレートするために小型モデルを構成できる簡単な方法を示唆している。
【0044】
提案される分割電極モデルでは、電極は複数のセクション、すなわち「スライス」に分割され、それが別々にモデル化される。電極のシングルブランチモデルがn個のブランチを有するものに置き換えられ、各々が元の電極により示された全アドミタンス(面積)の1/n倍に対応する。ブランチは、電極の金属側の1つのノードで一本化されるが、界面の流体側のバルク流体を表す抵抗器メッシュを通じてのみ接続される(
図9に示され、後でさらに説明する)。
【0045】
回転対称の場合について考え、二次元表現を使ってシミュレーションが簡単になり、またオクトロード(8つの電極のアレイ)又はドデカトロード(12の電極のアレイ)等の円筒形植込み型プラチナ電極アレイとの比較測定を行うことができるようにする。
図1~3の実施形態のアレイ150として使用するのに適した、8つの電極の集合(円筒形プラチナカフ)を有する典型的な植込み型リード電極アレイが
図4に示されている。各カフは直径約1.3mm、長さ3mmであり、4mmの絶縁区間により離間されている。
【0046】
1つのカフの等価回路が
図5に示されており、明瞭にするためにダイオードとメモリスタは省略されている。
図5においてわかるように、電極アレイの1つの3mmのカフの等価回路は、各々がそれ自体のCPEを有するn個の部分の連続となり、各々が電解物を表す抵抗器のメッシュの中の異なる幾何学的地点にタップされる。ダイオードは、小信号のシミュレーションを除き、このようなモデルに含めなければならないが、この図では明瞭にするためにこのようなダイオードは省略されている。人体での使用にとって安全な状況の小信号のシミュレーションのために、ダイオード-メモリスタブランチ素子は無視できるが、非線形ファラデ効果を検出し、モデル化するためには少なくともダイオードを含めなければならない。回路内で使用されるCPEの基本的モデルパラメータを取得し、トリミングによって電極1及び2を見て観察されるインピーダンスとの一致を示し、使用中の分割係数にしたがってスケーリングした。本願のシミュレーションでは、m=1.5、1Hzで|Z|=6500Ω、R
S=12Ωの基本値を使用した。10mHz~500kHzでk=1.3の密度を用いてSPICE等価回路を作成した。
【0047】
抵抗器メッシュの値は、6400mmの生理食塩水伝導率の測定値を使用し、分割係数に適するように選択されるグリッド上で計算した。この説明では主に、
図7に絵的に示されている1つの特定の回路配置について考える。刺激電流は、
図4及び7の中で電極2と表示されたリードの第二の円筒形カフに印加される。刺激電流リターンは、第一のカフ、電極1を介して行われる。関心対象の電圧は、第四及び第七のカフ、電極4及び7間に現れる。これは、フィードバックインプラントで使用するための、典型的な、臨床的に望ましい配置を表す。刺激パルスは、240μsにわたり送達される+5mA、200μsのゼロ電流、240μsにわたり送達される-5mA、及び最後に駆動電子部品の切断からなるいわゆる二相性パルスとなる。刺激パルスの形態は、どのようにアーチファクトが生じるかの問題に特に密接に関係しているわけではないため、以下に提示する解決策は他のシミュレーションレジームにも適用できる。
【0048】
この構成のシミュレーションを、0.1×のリン酸緩衝生理食塩水(PBS:Phosphate Buffered Saline)中で電極のためのシングルCPEモデルを使って行った。シングルブランチ電極モデルの場合、電極4及び7間には、これらの電子部品によっていかなる負荷も付与されないと仮定すると、絶対ゼロのアーチファクトが現れると予想される。しかしながら、電極モデルがずっと多くのスライスに分割されると、予想は変わる。
図6は、その影響を劇的に示している。
図6は、SPICEシミュレーションにおいて電極カフが分割されるセクションの数に応じた予想アーチファクト振幅を示す。
図6は、アーチファクト振幅を合理的程度に正確にするには、シミュレーションにおいて電極を7つ以上のスライスに分割する必要があることを示唆している。したがって、以下では、ことわりがないかぎり、分割係数11を使用する。電解物を表す抵抗器メッシュ(
図9に示される)はまた、同じ幾何学的大きさ、例えば3/11ミリメートル以下のスライスに分割されるため、60mmの電解物上に延びる電極をシミュレートすることに関わるメッシュノードの数は、かなり大きくすることができる。SPICEは、典型的なパーソナルコンピュータ上でこのようなシミュレーションを1回行うのに数秒~数分かかる。
【0049】
測定との比較を行った。Saluda Medical Pty Ltdの“Evoke”インプラントを使ってパルスを発生させ、測定信号を増幅した。配線配置を
図7に絵的に示す。刺激が電極2に送達され、電極1を介して接地がなされていることが示されている。反応は、電極7に関して電極4で測定される。0.1×のPBSは、Medicago 09‐2051‐100 PBSタブレットと脱イオン水を1リットルにつき1錠の割合で使って作成した。これは、脳脊髄液(CSF:cerebrospinal fluid)内の組織の一般的なファントムである。受信した信号はインプラントによりデジタル化されるが、インプラントICにより提供されるテストポートからTektronix TPS2014分離入力オシロスコープを使ったデジタル化も行った。同じデータはインプラントから取得できるが、サンプルレートは、約1秒当たり約16kサンプルと遅い。インプラントの増幅器の有限の同相信号除去比(CMRR:Common‐Mode Rejection Ratio)によって同相信号からの不確実な付加的寄与があるが、これは最悪でも75dBである。
【0050】
図8は、刺激電圧810(左軸)と、第一及び第二の電極から印加される5mAパルスに関する、
図7に示される第四及び第七の電極間に現れる電圧を測定した典型的な測定反応信号820(右軸)を示す。第四及び第七の電極間で測定された反応820(単位μV、右軸)は、刺激810(単位Vで表示、左軸)の開始から約800μsまでブランキング状態である。反応820は、in vivoでの神経測定を不明瞭にするアーチファクトの現れであり、アーチファクト820のダイナミックレンジは約150μVで、これは誘発された神経反応で見られる電圧より顕著に大きく、このようなアーチファクトによって生じる問題の重大さを示している点に留意されたい。受信したパルス尾部820上の小さいインパルスの連続は、インプラントのADC動作に起因しており、信号の一部ではない。
図8に見られるように、信号820を記録するために使用される前置増幅器(FEA:front‐end amplifier)は、パルス810中にブランクにされ、このブランキングは刺激電流がオフにされてから約100μs後に解除される。インプラントパルス発生器(IPG)FEAはac接続されているため、テストポート電圧から任意のdcオフセットを差し引いた。約31μs間隔の一連の小さいスパイクは、インプラントチップの内部のアナログ‐デジタル変換に関連するクロックフィードスルーである。
図8の刺激電圧トレース810上には、スイッチングスパイクが見られる。これらは、刺激の大きさで変化しないアーチファクトへの寄与の原因となる。後述のように、これは測定されたアーチファクトの大きさに対する一定のオフセットに寄与する。
【0051】
図8の中で820に見られるようなアーチファクトのシミュレーションと実測とを一致させることは難しいことがわかった。この難しさについて、本発明者は、そのアーチファクトがかなりの程度まで相互に打ち消し合う幾つかの成分の合計であることが原因であるとしている。それゆえ、おそらく特定のカフ(コンタクト、本明細書では電極とも呼ぶ)に関連する、何れか1つの成分の小さい偏差でも、最終的なアーチファクトの値に比較的大きいばらつきを生じさせる可能性がある。出願人は、これが、組織の不均質性が問題とならない生理食塩水においてさえも、明確な理由なく、観察されるアーチファクトが異なるコンタクト上でより良かったり悪かったりする可能性があるという裏付けに乏しい意見の原因であると考える。出願人のモデルによれば、これらの成分を以下のように別々に識別できる。
【0052】
第一のこのようなアーチファクト成分は、パッシブ電極からのアーチファクトである。リード上の電極の全てがパルス中にその長さに沿って電圧勾配にさらされる。電荷は、各導電カフの一端において他方の端より堆積する。リードが浸漬される組織又は電解質の中では、この例では電極2及び1である刺激及びリターン電極の双極により電極勾配が発生する。電荷は、周囲の媒質よりカフの表面に沿ってより変位しやすい。パルスが終了すると、電気的に接続されず、正味電流を伝導していない電極でさえも、その表面に沿って電荷不均衡を生じ、これはカフの金属とバルク媒質との間の過渡的正味電位として現れる。
【0053】
図9は、4つの電極を有する簡略化された回路を示しており、各電極は単に2つのスライスに分割されている。本願のシミュレーションでは11のスライスを使用するが、この2つのスライスの簡略回路は、パッシブ電極におけるアーチファクトの生成を可視化するのを助けるために提供される。
図9の矢印は、刺激によってパッシブ電極の一方の端で誘導され、パッシブ電極の他端から出る電流を示す。本発明者はこのような単独電極の各々のCPEsが「循環電流」によって帯電することに気付いた。
【0054】
図10は、純粋に電極2及び1間に流れる5mAの刺激電流の結果としての、電極4に沿った位置に関する界面層内に蓄積された電荷から得られる電位のシミュレーションをプロットしたものである。電極は、このシミュレーションで21のスライスに分割された。長方形の記号1010は、
図8に示される二相性刺激パルスの終了時に記録されるシミュレーションによる電圧を示す。点1020は、1ms経過時のシミュレーションによるデータを示しており、緩和を示す。電極は接続されなかったため、正味電極電流はずっとゼロのままである。分布は電極の長さに沿って対称でない点に留意されたく、例えば-1.4mmの変位でのスライス電位1010は約2.3mVであるのに対し、+1.4mmの変位でのスライス電位1010は約1.9mVである。このシミュレーションは、平均又は正味電位がコンタクトからバルク生理食塩水まで電極4を通じて約100μVであることを示唆している。残留電位は刺激ペアにより近い個々の電極上でより大きく、離れた電極ではより小さい。この分布は、パルスの終了時に電荷が再分散するため緩和される。
【0055】
同じメカニズムが電極7でも働くが、電極4上の正味100μVと比較して2μV低い結果が得られる。それゆえ、全体として≒100μVの寄与がV(4,7)になされ、これが検知される電圧であり、その主な原因は電極4の組織側と金属側との間の正味電圧である。第一のアーチファクト成分、すなわちパッシブ電極からのアーチファクトはそれゆえ、アーチファクトの問題の顕著な寄与要因である。
【0056】
第二のアーチファクト成分は、刺激電極からのアーチファクトである。刺激電極、すなわち本願の例では2番は、その長さにわたり電極4と比較して約25倍の電荷勾配を生じさせ、これは、その一方の端が隣接する電極1により提供される接地経路にはるかに近いからである。
【0057】
図11は、5mAの刺激パルスの結果としての、電極2に沿った位置に関する界面層内に蓄積された電荷から生じるシミュレーションによる電位を示す。
図11に示されるシミュレーションデータは、
図8に示される二相性刺激パルス810の終了時のものである。y軸の単位は、
図10のそれらと同じとなるように選択されている。この電極のエッジでは、5mAの刺激パルスであっても線非線形の勾配を生じさせているが、電流がカフの面積全体にわたり均一に送達されたとすれば、これよりはるかに非線形の低い動作が予想される。この大きい電荷勾配は、パルスの終了時に緩和され、これによってリードに沿った全ての電極間に電位差が誘導される。測定電圧V(4,7)への寄与は≒100μVである。さらに、ゼロからの平均オフセットは刺激後に蓄積された電荷を表していることに留意されたい。電極に沿った電位のばらつきは、電荷が不均一に蓄積されることを示している。二重層における電荷又は種の濃度は、電極に沿った各点において同じではない。
【0058】
接地電極1は、刺激電極2と同様に応答するが、その寄与の極性が逆であり、受信ペア4、7からの距離も異なる。接地電極1もそれゆえ、測定電圧V(4,7)へのアーチファクトの寄与を生じさせる。刺激及び接地電極からの寄与間の差は典型的に、5mAの刺激について≒50μVである。それゆえ、第二のアーチファクト成分、すなわち刺激電極からのアーチファクトもまた、アーチファクトの問題に対する顕著な寄与要因である。
【0059】
第三のアーチファクト成分は同相アーチファクトである。刺激及びリターン電極の各々を通じて金属と媒体との間に蓄積される電荷全体(カフに沿った純粋に電解質側の差とは異なる)は、
図11からわかるように、何百mVにもなる。最新技術のSaluda Medical Evokeインプラントの受信振幅は典型的に、80dBの範囲の同相信号除去比(CMRR)を有する。回路の接地線はリターン電流電極に接続されたままである。接地電極の平均電圧は、同相信号として現れる。これによって、≒50μVの追加のアーチファクトが生じる。それゆえ、第三のアーチファクト成分、すなわち同相アーチファクトもまた、アーチファクトの問題に対する顕著な寄与要因である。
【0060】
アーチファクトのこれらの成分を考えると、これらのメカニズムが一緒に作用したときにそれによってどれだけの全体的アーチファクトが生成されるかの問題に対処することが可能となる。
図12は、ピーク刺激電流に関する、実測及びシミュレーションの両方によるアーチファクトを示す。3つの実測トレース1210、1212、1214は、同一と仮定されるリード間の通常のばらつきを示す。実測トレース上の、同相及びスイッチ信号の結果としてのゼロオフセットに注目されたい。シミュレーショントレース1220と実測トレースとの間の大きさの違いは、全ての電極が同じであり、同相信号がいかなる寄与もしない小型モデルの理想的な性質による。この状況では、一致は極めて良いと考えられる。
【0061】
図13は、刺激電極からの多数の電極のそれぞれの変位によりx軸上に示される、隣接電極ペアv(3,4)、v(4,5)、v(5,6)、v(6,7)、及びV(7,8)間で測定されるアーチファクトの実測と予測を示す。
図12に見られる約20μVの刺激電流がないときのオフセットは、
図13に示される実測データから差し引かれている。前述のように、5mAの刺激が電極2に印加され、電極1を通じて接地される。シミュレーションでは、第一の電極ペア(v(3,4)、変位1)と第二の電極ペア(v(4,5)、変位2)との間のアーチファクトの逆説的な符号の変化が予想される。このアーチファクトの符号の変化は、これまでも観察されていたが、逆説的に見え、また、それによってアーチファクトを解消する問題はさらに非常に扱いにくいものとなる。この符号の変化がこのモデルにより予想されることは、モデルの正確度の高い信頼性につながる。さらに、これは、アーチファクトのゼロ交差、より一般的には1310により示されるゼロ交差領域が存在することを示しており、これは低アーチファクトの神経測定の機会を提供し、提示される本発明の実施形態により利用される発見である。
【0062】
第四のアーチファクト成分は、1つのパッシブカフ電極からの寄与である。刺激電流の流れにより「受動的に変位する」電荷の影響は理解のための鍵であり、軽視することはできない。この点を強調し、理解を助けるために、
図14を考えるが、これは2つの刺激電極及び1つのパッシブ電極の簡略化したケースにおける、刺激パルス中(
図14a)及びその後(
図14b)の電流路の図である。「5」と表示される電流は、電流「1」、「2」、及び「3」より100分の1であり得るが、e3には大きく変位した電荷が残る。この図は、完全にパッシブな金属構造がどのように「帯電」するか、すなわちそれがどのようにグーイ‐シュテルン‐チャップマン層の中の変位する移動種群のホストとなるかを示唆する。
【0063】
次に、
図15及び16は、1つのパッシブカフを含めた場合又は省略した場合に残留電界が受ける影響を示す。
図15は、2つの刺激電極と2つのパッシブ電極の場合の、刺激除去(完了)後まもなくの電極集合の周囲の生理食塩水中の電界のグラフである。電極は、y軸に沿って設置されている。電極は完全に切断され、電解質に出入りする電流はない。
図16は、2つの刺激電極と1つのパッシブ電極の場合の、刺激除去後まもなくの電極集合の周囲の生理食塩水中の電界のグラフを示しており、
図15と比較した
図16の唯一の違いは、パッシブ電極のうちの1つ(e3)がなくされていることである。これら2つの図を比較すると、切断されたパッシブ金属片を追加すると(
図15)、電界の極性が変化し、ゼロを通り、以前(
図16)はゼロがまったくなかった新しい領域(電極e3の付近のスライス100の周囲)に導入されることがすぐにわかる。もちろん、この現象は、植え込まれたリード自体のコンポーネントだけでなく、刺激電極付近にある何れの金属構造でも生じる。
【0064】
この電極モデルは、電極が、同等でない電荷が自由に蓄積する平行な一連の「スライス」としてモデル化された場合のアーチファクトを予想するにすぎないという発見により、個々の電極の表面上の不均等な電荷分布が、植え込まれた測定電極で見られる「アーチファクト」と呼ばれる長いパルス尾部に寄与するとの推論が確認される。さらに、モデルは、表面文化の不均衡はアーチファクトの主な、又はおそらく唯一の寄与要因であることを示している点にも留意されたく、これは、
図12が、このモデルは記録に使用される前置増幅器内の良好な同相信号除去比を有する適正な設計のインプラントに見られるアーチファクトの大きさを説明できることを実証しているからである。
【0065】
それゆえ、上述の分析から、電極アーチファクトの原因となる電極固有のメカニズムが確認される。「電極固有の」とは、電極の設計の不可避的な物理的結果である、電極の形状と材料に固有の、関連する電子部品の電気的動作、接続、又は負荷に無関係な現象を意味する。関連する電子部品の電気的動作、接続、又は負荷から生じるニューロモデュレーションシステム内のアーチファクト尾部を最小化する電気的手段は重要であり、引き続き使用されるが、この説明における測定されたアーチファクトは電極‐電解質システムそのものの中でも不可避的に生じることは明らかである。それゆえ、完全な前置増幅器でもこの信号に遭遇する。
【0066】
表面電荷平衡によって、誘発複合活動電位に必然的に追加される(すなわち、それと同時に発生し、それを不明瞭にする)アーチファクトの下限(最善のケース)が設定されるとの新たな理解を得ることで、この現象を本来的に最小化するためにどのように電極が設計され得るかを考え、また、この電極固有のメカニズムと前述の分析の所見に対応し、又はそれを有利に利用するためにどのような電気的ステップがとられ得るかを考えることが可能となり、重要となる。以下の解決策が提案される。
【0067】
具体的には、前述の分析の所見に基づいて考案された幾つかの技術を説明する。これらの技術には、三極刺激、ブリッジ電極、及び電極の大きさと形状の変更が含まれ、その何れか又は全部が本発明の実施形態にしたがって実装されてよい。
【0068】
再び
図13を参照すると、アーチファクトの符号が、リード上での刺激電極からの距離が増大する位置変化に伴って変化することに留意されたい。特に、1つの電極の変位においてV(3,4)を測定すると、アーチファクトは負であるが、刺激電極からの2つの電極の変位で、また、より大きい変位でV(4,5)を測定した場合、アーチファクトは正である。これは、
図13のグラフの中に示されているように、シミュレーションと実測の両方により確認される。
図13には示されていないが、その他の測定電極構成、例えばV(3,5)又はV(3,6)の測定でもまた、刺激部位からの変位の変化と共にこのようなアーチファクトの符号の変化が生じる可能性がある。
【0069】
本発明の第一の態様では、刺激電極からの変位の増大に伴うこのアーチファクトの符号の変化は、リード上に、アーチファクト成分の合計がゼロの少なくとも1つの位置が存在することを示唆していることが認識された。したがって、アーチファクトのゼロ交差が測定電極と実質的に同一箇所となるようにすることによって、アーチファクトが測定電極から離れた場所において非ゼロであったとしても、測定電極の位置にアーチファクトが最小化され、又は実質的に排除される方法の検討に移る。これは、様々な方法のうちの1つ又は複数により行われてよいと提案され、これには電極レイアウトの変更、電極の相互接続の変更、及び/又は送達される電流の空間‐時間分布の変更が含まれる。
【0070】
この実施形態では、アーチファクトゼロは慎重な三極刺激で行えることが認識される。特に、本発明者は、アーチファクトゼロは、第三の電極にある寄与的電流を付加することによって第四の電極へと移動させることができ、それによって、結合された第二及び第三の電極が第一の電極を通じて戻る刺激電流を提供することに気付いた。一般に、原理は、3つ以上の電極をあるやり方で、多くの場合、非対称の電流分割を用いて、他の1つ又は複数の電極のアーチファクトを最小化するようにある方法で刺激する、というものである。
【0071】
生理食塩水中、シミュレーションでは、電極1に流れる刺激電流XがyXによって電極2から供給され、(1-y)Xが電極3から供給されると、電極4上のアーチファクトがゼロになると予想する。測定によって、これらの電流はそれぞれ0.5X及び0.5X、y=0.5に近付けられる。
【0072】
図17は、外側コンタクトへの電流がパラメータアルファを使って変更できる場合の三極刺激の方法を示す。複数の電極間で電流を分割するための一般的な方法を説明するのに簡潔な用語が必要となる:[E,e,A]という用語は、電極Eと電極eとの間で分割される全体的な電流Cの割合「A」を注入することを説明するために使用される。この表記法において、不関電極、すなわちシステムの「接地」点は、電極0と定義される。これはまた、[1,2,1]とも表記できる。このような定義の一覧は完全な分布パターンを説明している。例えば、[1,0,1]、[2,0,-1]は、電極1及び2間の双極刺激を表す。同じ刺激パターンの拡縮版が異なる電極に適用されるため、この定義は振幅、又は、二相、三相、又は他の何れの波形とすることもできる波形に無関係である。双極及び三極の何れについても、第二相は刺激電極のための陰極という規定がある。これは、神経活性化をできるだけ遅らせるために行われる。
【0073】
三極刺激はここでは、[X,x,A]、[Y,y,-1]、[Z,z,1-A]という一般的定義で記され、このうちX、Y、Zはコンタクトの数であり、x、y、zは電流源の他方の端の各々が接続されるノードである。本書中、ほとんどの場合、x=y=z=0であり、これは、そのほうが電極間の電流源の状況を説明しやすい可能性があるからである。通常、X<Y<Zであり、これは電極番号が連続していることを示し、A<1である。A=1又はA=0であると、これは双極刺激となる。
【0074】
図18は、三極刺激が、同時に発生する2つの双極刺激に分解できることを示している。
図19は、これら2つの成分からのアーチファクトが増幅器の出力でどのように現れるかを示す。これらは反対の相となり、より離れた電極ペアからのアーチファクトはより低い振幅のものとなる。しかしながら、2つの双極刺激の相対振幅を調整することによって、これらの成分は打ち消されると予想される。
図18では、中央の電流源e2を取り除き、接地に、又は陰極若しくは陽極の動作にとって適当な何れかの電圧供給レールとの切替接続に置き換えることができることに注目されたい。
【0075】
図20は、項Aが変更される三極刺激に関するアーチファクトのシミュレーションを示し、予想通りにそれがゼロになることを示している。ゼロになるのは、Aがほぼ0.7と等しいときである。これは、
図19に示される方法が原則的に有効であることを示している。
図20はまた、E4上でアーチファクトゼロとなるようにするための理想的な電流比(約0.4の比)はE5~E8とは異なることも示しており、これらは全て同じ電流比(約0.7)でアーチファクトゼロとなる。好ましい実施形態はそれゆえ、E4を避けるようにE5~E8のうちの2つ間の示差神経測定を利用し、アーチファクトが両方の測定電極上で同時に最もよく最小化されるようにする。三極刺激の電流比を変化させてアーチファクトゼロを実現するこの方法は、本発明の1つの態様を表す。本発明の他の実施形態は、四極刺激を使ってアーチファクト最小値が測定電極と同一箇所となるようにしてよい。本発明の他の実施形態は、2つの測定電極間の示差測定値を得るときに発生するアーチファクトにおいて観察される最小値を、各電極測定電極上のアーチファクトがゼロ又は最小値であるときではなく、各測定電極上のアーチファクトの大きさが、例えば
図20内でE4及びE6を使用した場合の0.2の比で起こるように、同じであるときに求めてもよいかもしれない。
【0076】
四極は、[1,0,A.B]、[2,0,A.(1-B)]、[3,0,-1]、[4,0,1-A]の表記で記すことができ、0<A<1、0<B<1である。「A」は、電極E1及びE2とE3との間の電荷分配を表し、これらはE3の近位側と遠位側にあり、BはE1とE2との間の電荷の分配を定義する。
図21は、A=0.75、B=0.5の場合の典型的な刺激波形を示す。この波形から、E3上の陰極刺激が他の電極上の陰極刺激の振幅の2倍より大きいことがわかる。その結果、E3はECAPを生成する唯一の電極となる。また、E3の他に3つの電極があり、3つの電極上で、これらの何れもE3の50%を超える電流を持たなければ、異なる電荷分配の組合せがあるため、これらの比を調整することによって、アーチファクトゼロを作り出しながら1つのECAPのみを生成するチャンスがあることもわかる。
図22は、比Aを変化させたときの電極E4~E8上のアーチファクト振幅を示す。これは、ほぼ0.7と等しいAにおいて、アーチファクトゼロがあることを示している。
【0077】
Aが0.7と等しいとき、電極の抵抗が同程度であると仮定すると、E1、E2、及びE4の電流の割合は35%、35%、及び30%となる。同様の効果は、電極E1、E2、及びE4が単純に相互に接続されているときにも予想され、それによって、一定のインピーダンスとの概算の下では、33%、33%、及び33%の分割比が得られる。これは、本出願人による、一般に「陽極を追加するとアーチファクトが減る」という臨床的観察により裏付けられている。それぞれの電極インピーダンスは同じではないかもしれないため、各電極上で個々の電流源を使用すればよりロバストな結果が得られるかもしれない。シミュレーションによれば、アーチファクトは37.5%、37.5%、及び25%に設定された電流分割でゼロとなり、ゼロはE5~E6で同様の比で現れることを示す(E5は四極刺激の中の第一の利用可能な記録電極であり、E4は三極刺激の中のそれである)。この四極式はそれゆえ、本発明の他の態様を表す。この多極方式は、リターン電極の数が2より大きいかぎり、拡張できると理解されたい。例えば、[1,0,A/2]、[2,0,A/2]、[3,0,-1]、[4,0,(1-A)/2]、[4,0,(1-A)/2]の刺激プロファイルはE3上の1つの陰極に関する条件を保持しながら、アーチファクトゼロを生じさせると予想される。
【0078】
本発明の他の実施形態は、三極刺激の変形型[X,0,A]、[Y,0,-1]、[Z,0,1-A]として記され、X、Y、及びZは何れか3つの電極であり、Zは記録電極として使用され、0<A<1である。それゆえ、この実施形態では、アーチファクトは少量の電流を記録電流に注入することによってゼロにされ、それによってアーチファクトの量を決定できる。
【0079】
三極刺激のその他の変形実施形態は、自動調整を利用してよい。この実施形態では、パラメータAは自動的に調整されてアーチファクトが最小化され、これはフィードバックループ中に埋め込まれて、誘発される反応を事前設定されたレベルに保持する。これは
図23に示されている。この実施形態は、ECAP検出器と、電流値Iを生成するSCSループからなるECAPフィードバックループを有する。この実施形態はさらに、アーチファクトを最小化するように構成された第二のフィードバックループを提供し、この第二のループは、acエネルギー検出器、アーチファクトループコントローラ、及び電流源コントローラを含む。この第二のループは、電極1と3との間での電流の分割を制御するパラメータAを制御する。
【0080】
アーチファクトループのための検出器は、記録電極上の総エネルギーを測定する。このエネルギーには、ECAPとアーチファクトの両方が含まれる。しかしながら、陰極間の電流の分布は、電流が一定であるためECAPに影響を与えない。しかしながら、分布のこのばらつきはアーチファクトに影響を与える。アーチファクトがゼロである点では、ECAPだけが残る。アーチファクトゼロ化フィードバックループは、まず信号の総エネルギーを測定することにより動作する。これは、測定時間にわたる信号サンプルの標準偏差を測定することによって最もよく行われる。このような方法は、標準偏差の定義に基づいて、信号のDCオフセットの影響を受けない。すると、アーチファクトループコントローラは制御パラメータAを調整する。当初、この変更は何れの方向にも行うことができる。その後、アーチファクトループコントローラは総エネルギーの2回目の測定を行い、それが増加したか減少したかを特定する。アーチファクトループコントローラはすると、値Aを、検出されたエネルギーを減らす方向に変化させる。
【0081】
他の実施形態において、
図23の構成は、パラメータAの好ましい値の閾値以下で特定するために調整されてよい。この実施形態は、刺激比の異なるある範囲の刺激を、閾値以下のレベル、すなわち非ゼロであるが、いかなる神経反応も動員しない程度に小さい刺激レベルで送達するアーチファクト最小化アルゴリズムを提供する。その後、このような閾値以下の各刺激によって測定電極で引き起こされたアーチファクトを観察して、測定電極で観察されるアーチファクトを最小化するような刺激比Aを求める。すると、Aのこの値は、継続される治療用刺激における閾値以上の刺激の刺激比を構成するために使用される。本発明者らは、閾値以下の刺激レベルでアーチファクトを最小化するように最適化されるAの値は、驚くべきことに、閾値以上の刺激電流でのアーチファクトも最小化するのに十分に適していることを発見した。
【0082】
電流分割の選択肢が
図23cに示されている。
図23cは、
図23bに示される記号キーを利用する。ボックスは、電極とその接続を表す記号である。グレーのボックスは、その電極の電流リターン(接地)接続を示す。白いボックスは、その電極の電流源接続を示し、その電極のための電流のパーセンテージが示されている。右の記録電極は、増幅器の入力に接続される。記録電極は、簡潔にするために
図23cでは示されていない。
【0083】
図23cに示されるように、双極刺激は1つの電流源と接地線を使用する。三極刺激は、2つの接地線を使用し、これは通常、刺激電極のそれぞれの側にある。これは本書中、不明瞭にならないように「パッシブ」三極と呼ばれる。それに対して、アクティブ三極は、中央のコンタクトをアースに接続し、また電流源を外部電極に接続する。50/50のアクティブ三極は、電極インピーダンスが同じであれば挙動においてパッシブ三極と同様であるが、電流分割比は組織のインピーダンスと共に、それゆえ、時間が経ち、組織が刺激電極の周囲で増殖するにつれて変化する。アクティブ三極はそれゆえ、パッシブ三極より好ましい方法である。パッシブ三極と50/50アクティブ三極は何れも、双極刺激と比べて、特に隣接する電極の場合にアーチファクトを減少させる(本明細書に記載したとおり)。本発明者らは、1つの特に好ましい方法は、アクティブ三極を75/25の電流分割比で使用することであることに気付いたが、これは、それによって記録コンタクトの中の幾つかで同時にゼロとなるからである。アクティブ三極又は多極は、幾つかの実施形態において、さらには全ての刺激電極のための電流源を提供し、何れの刺激電極も接地されなくてよいが、これは各刺激相中の正味陰極電流がその相での正味陽極電流と平衡状態であることが条件となる。このような実施形態において、電流源マッチングにおける何れのミスマッチも、国際公開第2014071446号パンフレットの教示にしたがって対処されてよく、その内容を参照によって本願に援用する。
【0084】
別の方法は、パッシブ四極を使用することである。全てのリターン電極上の組織インピーダンスが等しいと仮定すると、これによって33/33/33電力分割比が実現されるが、この過度に単純な仮定では、リターン電流の分割比が不均一になる原因である、それぞれの接地リターン電極間の不均一な距離は無視される点に留意されたい。それでもなお、パッシブ四極はパッシブ三極より好ましく、それは、これによって生じるアーチファクトが電流分割におけるこの違いから、より低くなるからである。しかしながら、パッシブ四極では追加される刺激電極のための余地がリード上に必要となる。アクティブ四極の37.5/37.5/25の分割比は、75/25の三極と同様のアーチファクト特性を有する。これらの方法には、正確な患者の状態に応じて多くの変形型がある。しかしながら、原理を説明したため、このような他の変異形も本発明の範囲に含まれると理解されたい。
【0085】
図23dはさらに、本発明の幾つかの実施形態による多極刺激構成を、使用されてよい測定電極の構成の幾つかと共に示している。
図23dは、12の電極を含む植込み型リードと共に使用する刺激構成を示す。
図23dは電極1~3が三極刺激に使用されることを示し、また、電極1~4が四極刺激に使用されることを示しているが、他の実施形態では、
図1及び2に関して上で説明したように、12の電極の何れの適当な幾つかから刺激を送達してもよい。
図23dにおいて、各行は異なる電極刺激構成を示している。例えば、刺激構成Bは中央の刺激電極(2)と脇の2つのリターン電極(1及び3)が相互に接続された三極刺激構成を示している。組織が均一であれば、電流の50%が各リターン電極を通じて戻るが、これは組織インピーダンスと共に変化し、姿勢によっても変化する可能性があるため、それぞれのリターン電流は確実とすることばできない。それゆえ、各リターン電流の値は括弧内に示されており、それぞれリターン電極1及び3(又は例えば構成Eでは電極1、2、及び4)を通じたそれぞれのリターン電流の正確な値は患者の体内構造によって異なる。ここでも、行Dに示されているように、1つの特に好ましい方法は75/25の電流分割比のアクティブ三極を使用することであり、より大きいリターン電流が測定電極から強制的に遠ざけられる。
図23dの刺激構成に示されているように、リードの他の何れの電極も測定電極として選択されてよく、刺激に最も近い3又は4つの電極の何れの1つもセンス電極として選択されてよく、最も遠い電極(12)は測定参照電極として使用される。
【0086】
図23cで、又はより広い範囲で、説明された他の実施形態全体を通じて提示されている刺激構成の幾つかは、アーチファクトのゼロ交差を生じさせないかもしれないことに留意されたい。それに加えて、又は代替的に、使用される測定回路の種類に応じて、検知された信号の出力しか読み取られないかもしれない。このような場合、ゼロ交差アーチファクトは存在しないかもしれないか、又は検出されないかもしれない。しかしながら、本発明のこの実施形態ではそれでも、アーチファクトの空間的最小値が生じさせられるかもしれず、最小値が測定電極上又はその付近へと「向けられ」、又は意図的に位置付けられるようにするためのステップが取られるかもしれないことが認められる。
【0087】
他のアーチファクト低減方法は、
図24に示されるように、刺激又は測定に関わらない電極ペアを使ってゼロを測定電極上へと向かわせることができる、というものである。
【0088】
図24の例では、電極3及び5間に抵抗を追加するだけで、接合される抵抗の調整によって、電極4の上のアーチファクトをゼロ付近まで減らすことができる。シミュレーションは上述のケースについて400オームと予想する。測定値は200オームにより近く、これはかなり良い一致である。抵抗は、接続のパルス幅変調により実現されるインピーダンスを切り替えることによって提供できる。アーチファクトの大きさの制御を可能にするこうした「ブリッジ」接続は数多く存在するかもしれず、このようなブリッジ型抵抗器の配置は全て本発明の範囲に含まれる。
【0089】
アーチファクト最小化のための第三の方式は、多電極リードの中の電極の数、大きさ、及び配置を変えて、刺激電極に隣接する電極上のアーチファクトを最小化することである。
【0090】
再び
図13を参照する。このグラフは、7mmの周期で3mmの電極と4mmの絶縁スペースを有する標準的なリードで測定されたものである。最も簡単に言えば、リードは、最小のアーチファクトが測定されるゼロ交差の地点に小さい検知電極を有するように構成できる。シミュレーションでは、第三及び第四の電極がゼロの状態を作るのに役立つことを示唆しており、そのため、これらは以前のように残され、小さい電極が第三及び第四の電極間の、ゼロとなるのに正しい位置に追加される。電極をアーチファクトゼロにするための電極と絶縁体のパターンは複数存在し、このような変形型も本発明の範囲に含まれる。
【0091】
本発明により提供される別の解決策には、好ましい実施形態において、現在の最新技術の電極の設計と比べてアーチファクトを1/3削減する変更された電極設計が関わる。
図25の上部は、最新技術の硬膜外電極の4コンタクト型を示す。このような電極のほとんどは8つのコンタクトを有し、図のように各々が長さ3mmで、7mm間隔で位置付けられる。これに対して、
図25の下部に示される好ましい実施形態では、長さ2mmのコンタクトが7mm間隔で提供される。
【0092】
図25において、幾つかの電極には「S」と表示して、刺激電極であることを示し、幾つかには「R」と表示して、記録電極であることを示す。電極は実質的に同じであり、何れの電極も刺激及び記録に使用できると理解されたい。しかしながら、この表記は、ここでは以下の説明を行いやすくするために使用されている。
図25は、4コンタクトリードがフィードバックSCSシステムでの刺激に使用される状況を示しており、2つが刺激電極、2つが記録電極である。8又は12の電極を有するシステムにおいて、電極の用途のさらに多くの組合せが利用できる。
【0093】
図26は、電極に沿って流れる電流にさらされる生理食塩水槽中の1つの電極の回路モデルを示す。これは、SCSの場合では体軸方向となる。この図では、生理食塩水槽の立体構造が抵抗の2次元アレイとしてモデル化され、電極は前述のように、一連の同相素子(CPEs)としてモデル化されている。しかしながら、
図26においては、抵抗器メッシュとCPEは、より詳細部まで見えるように拡張されており、電極は金属側で直接接続され、生理食塩水側で分散される一連のCPEsとなっている。実験的に、3mm電極を十分に説明するには7つ以上のスライスが必要であるが、この図では明瞭さのために4つが示され、これは連続する状況の離散モデルであり、それゆえ、成果を上げないことが分かった。この図では、周辺部の抵抗器は接続されていない。実際には、このメッシュはそれの模型のもとになるものの物理的体積の限界で終了する。
【0094】
この図から、電圧がメッシュの右側と左側との間に印加されると電流が流れ、一部は一番左のCPE中に、次に金属電極に流れ、その後これは一番右のCPEから出ることがわかるであろう。電流はまた、それより程度は低いが、中央の2つのCPE素子を通じて対称にも流れる。その結果、ある周期の終わりに、アレイの表面に沿った電圧は、金属に関して、
図27に示されるようになる。
【0095】
ここで、
図28に示される隣接する刺激電極ペアを考える。電流はコンタクト金属が最も近いところに優先的に流れる。1つの刺激周期の後、電極表面上の、金属に関する電圧は
図29に示されるようになる。
【0096】
ここで、
図30に示される隣接する記録電極ペアを考える。左にあるが図示されていない刺激で電極ペアは、メッシュ内に縦の電流勾配を生じさせる。これは抵抗器メッシュ全体にわたって広がり、より遠い記録電極より、より近い記録電極に影響を与える。この電流は、刺激電流全体の一部であるため、小文字iで示されている。1つの刺激周期の後、記録電極の表面上の、金属に関する電圧は
図31に示されるようになる。
【0097】
これもまた、アーチファクト生成の主なメカニズム、すなわち、刺激源により近い電極のほうがより大きい、記録電極に沿った電圧と、刺激コンタクトが相互に近いエッジにおいて最も大きい刺激電極上の勾配を示している。すると、アーチファクトは記録期間中にこの電荷が再分散されると発生し、記録電極の金属コンタクト間に充電差動電圧が生じる。前述のシミュレーションは、これらの効果が同等の大きさであることを示している。
【0098】
これらの現象は、刺激及び記録電極上に作られる双極に起因する。双極は、その大きさ及び対向する電荷間の距離に比例する電気的モーメントを生じさせる。それゆえ、双極の長さを縮小することにより、電界、それゆえアーチファクトが減少する。双極は刺激電極に近いと不均衡となるため(
図29に示すとおり)、電極間のギャップの増大は、より対称な電荷分布につながると予想され、それゆえ、より小さい双極となる。シミュレーションにより、電極の長さを3mmから2mmに減らすとアーチファクトは3分の1に減ることが証明されている。これは、どちらのメカニズムも存在することを示している。
【0099】
これらの現象は、この短小電極の構成のシミュレーションでも見ることができる。シミュレーションは、前述の方法を使って行われた。
図32は、この現象を二次元フィールドプロットでハイライトするために使用される圧縮アルゴリズムを示す。
図33は刺激波形を示し、その後のグラフの基準となる。
図34は、二相性刺激に応答する、異なる時間での生理食塩水槽内の圧縮電界を示す。
図35は、電極表面に沿った圧縮されていない電流を示す。
【0100】
電極の大きさを縮小した場合のシステムによる示唆には以下が含まれる。電極のインピーダンスはその面積、それゆえその長さに伴って変化する。電極の長さを3mmから2mmに減らすと、そのインピーダンスは(三極モードにおいて1/10生理食塩水の生理食塩水槽で行われたシミュレーションのとおり)750から950オームに増大する。これによって、電極を駆動するのにより多くのパワーが必要となり、それゆえバッテリ寿命が短くなる。しかしながら、このトレードオフは容認可能な程度であり、他のシステム設計変更によって回収でき、これは例えばオーストラリア仮特許出願第2018900480号明細書による電流送達メカニズムの改善等であり、その内容を参照によって本願に援用する。
【0101】
システムによる他の示唆は、安全な電荷に関する。安全でないラジカル(例えば、Cl及びH)が発生するまでに電極を通じて送達できる最大電荷は、電極の面積によって異なる。3mm×1.3mmの電極は、14.5uCを送達するために使用できる。ほとんどの患者快適さを実現するために必要とする電荷は7uC未満であり、長さ2mmの電極はその不安全限度に到達するまでに9.7uCを送達できるため、2mmの電極長さはそれゆえ、十分以上と言える。
【0102】
図25~35はリード電極に関係しているが、パドル電極コンタクトもまた体軸方向の寸法を短縮して、このようなアレイに生じるアーチファクトを改善するかもしれない。
図36の右側には、本発明の1つの実施形態によるこの目的のためのコンタクトの短縮が示されている。
【0103】
図37は、前述の所見を利用する本発明のまた別の実施形態を示している。この実施形態では、各刺激電極は2つのリングに分割され、これらは独立して駆動される。各電極を2つの部分に分割することにより、電極の各部分が確実に同じ電流、すなわち1/2を供給することになる。この配置はそれによって、
図35に示されるような単独の電極にわたって生じる非対称の電圧に対抗する。刺激中に同様に記録電極を分割することにより、リングを通る電流がブロックされ、それゆえこれは記録電極上での非対称の電圧の展開に対抗する。記録電極の2つの部分は、記録フェーズ中、必要に応じてスイッチ3702によって相互に電気的に接続できる。第二の記録電極(図示せず)も同様の構成を有する。
図37の実施形態は各刺激電極のために2つの電流源が使用され、1つの電流源は電極の各部分に関連付けられているが、他の実施形態では、電極のリングに沿って流れる電流はその代わりに、
図38に示されるように、分割電極を使い、またリードワイヤに抵抗を追加することによって、減衰させることもできる。この抵抗は、個々のコンポーネントとしても、又は絶縁ストランドを有し、各ストランドが1つのリングにつながる接続ワイヤを使用しても追加できる。
【0104】
別の変形型が
図39に示されている。この実施形態には、抵抗を方向特定的に追加することが含まれ、それによって抵抗は、コンタクト材料自体を使用してコンタクトの長さに沿った方向に優先的に増大する。この抵抗により、前述のアーチファクトに関連する電流の流れ及び非対称の電圧分布の展開が阻止される。
図39の実施形態で、長さ方向の追加的な抵抗は、リングにスロットを切り込むことによって追加される。組織インピーダンスと同等の抵抗を実現するために、スロットは電流経路の長さ、及びそれゆえ抵抗を増大させる。リングは中央のコンタクトから供給される。このようなスロットの作成は、レーザエッチングを用いて行われてよい。
【0105】
本発明の幾つかの実施形態は、装置の製作のために3Dプリンティングを利用してもよい。したがって、幾つかの実施形態において、本発明は、STL(ステレオリソグラフィ)ファイルフォーマットの場合のような、ラピッドプロトタイピング及びコンピュータ援用設計(CAD)及び/又は製造用に構成されたフォーマットでのデジタルファイルを含むデジタルブループリントであってもよい。このようなデジタルブループリントファイルは、本発明の実施形態の3次元スキャンを行うことによって製作されるか、CAD開発ソフトウェアツールによって製作されるか、又はその他かを問わず、本発明の範囲に含まれる。
【0106】
本発明の幾つかの実施形態は、アーチファクト最小化又は改善のその他の方法と共に実装されてもよく、これには例えば、本出願人の国際公開第2017219096号パンフレットの教示による三相性刺激方式の利用が含まれ、その内容を参照によって本願に援用する。
【0107】
当業者であれば、具体的な実施形態に示されているような本発明に対して、広く説明される本発明の主旨又は範囲から逸脱せずに様々な変更及び/又は改良を加えてもよいことがわかるであろう。したがって、本明細書内の実施形態は、あらゆる点において、例示的であって限定的又は制限的ではないとみなされるものとする。
【国際調査報告】