(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-14
(54)【発明の名称】血漿カリクレイン阻害剤の結晶塩
(51)【国際特許分類】
C07D 231/14 20060101AFI20220106BHJP
A61K 31/415 20060101ALI20220106BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220106BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220106BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220106BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20220106BHJP
A61P 7/10 20060101ALI20220106BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220106BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20220106BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20220106BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20220106BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220106BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220106BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20220106BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20220106BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
C07D231/14 CSP
A61K31/415
A61P25/00
A61P29/00
A61P9/10
A61P7/02
A61P7/10
A61P31/04
A61P19/02
A61P7/04
A61P1/00
A61P3/10
A61P27/02
A61P9/12
A61P13/12
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021522086
(86)(22)【出願日】2019-11-01
(85)【翻訳文提出日】2021-05-17
(86)【国際出願番号】 US2019059385
(87)【国際公開番号】W WO2020092898
(87)【国際公開日】2020-05-07
(32)【優先日】2018-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511230406
【氏名又は名称】バイオクリスト ファーマスーティカルズ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BIOCRYST PHARMACEUTICALS,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】エル-カタン,ヤーヤ
(72)【発明者】
【氏名】バブ,ヤーラガダ エス
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086AA04
4C086BC36
4C086GA13
4C086GA15
4C086MA01
4C086MA52
4C086MA55
4C086NA03
4C086ZA01
4C086ZA02
4C086ZA33
4C086ZA36
4C086ZA42
4C086ZA53
4C086ZA54
4C086ZA66
4C086ZA81
4C086ZA96
4C086ZB11
4C086ZB35
4C086ZC20
4C086ZC35
(57)【要約】
化合物Iの結晶塩、それらを調製する方法、及びそれらの関連薬学的調製物が開示される。本発明の結晶塩を使用した治療の方法も開示される。
【化1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物Iの結晶塩。
【化1】
【請求項2】
前記塩が塩酸塩である、請求項1に記載の結晶塩。
【請求項3】
前記塩がビス(塩酸)塩である、請求項2に記載の結晶塩。
【請求項4】
5.3、9.0、及び22.0の2シータ(°2θ±0.2°)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおける特徴的なピークを有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の結晶塩。
【請求項5】
5.3、9.0、及び22.0の2シータ(°2θ)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおける特徴的なピークを有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の結晶塩。
【請求項6】
5.3、9.0、19.8、21.2、22.0、及び23.3の2シータ(°2θ±0.2°)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおける特徴的なピークを有する、請求項4または5に記載の結晶塩。
【請求項7】
5.3、9.0、19.8、21.2、22.0、及び23.3の2シータ(°2θ)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおける特徴的なピークを有する、請求項5に記載の結晶塩。
【請求項8】
5.3、9.0、14.3、16.2、19.8、21.2、22.0、23.3、24.6、及び30.3の2シータ(°2θ±0.2°)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおける特徴的なピークを有する、請求項6または7に記載の結晶塩。
【請求項9】
5.3、9.0、14.3、16.2、19.8、21.2、22.0、23.3、24.6、及び30.3の2シータ(°2θ)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおける特徴的なピークを有する、請求項7に記載の結晶塩。
【請求項10】
5.28、8.96、及び22.01の2シータ(°2θ±0.2°)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおける特徴的なピークを有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の結晶塩。
【請求項11】
5.28、8.96、及び22.01の2シータ(°2θ)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおける特徴的なピークを有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の結晶塩。
【請求項12】
5.28、8.96、19.79、21.16、22.01、及び23.31の2シータ(°2θ±0.2°)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおける特徴的なピークを有する、請求項10または11に記載の結晶塩。
【請求項13】
5.28、8.96、19.79、21.16、22.01、及び23.31の2シータ(°2θ)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおける特徴的なピークを有する、請求項11に記載の結晶塩。
【請求項14】
5.28、8.96、14.27、16.18、19.79、21.16、22.01、23.31、24.64、及び30.31の2シータ(°2θ±0.2°)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおける特徴的なピークを有する、請求項12または13に記載の結晶塩。
【請求項15】
5.28、8.96、14.27、16.18、19.79、21.16、22.01、23.31、24.64、及び30.31の2シータ(°2θ)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおける特徴的なピークを有する、請求項13に記載の結晶塩。
【請求項16】
図1に示されるものと実質的に類似したXRPDパターンを有する、請求項1~15のいずれか1項に記載の結晶塩。
【請求項17】
前記結晶塩が、1:1結晶塩対水のモル比で水と錯体化される、請求項1~16のいずれか1項に記載の結晶塩。
【請求項18】
前記結晶塩が、1:2結晶塩対水のモル比で水と錯体化される、請求項1~16のいずれか1項に記載の結晶塩。
【請求項19】
前記結晶塩が、1:2.5結晶塩対水のモル比で水と錯体化される、請求項1~16のいずれか1項に記載の結晶塩。
【請求項20】
前記結晶塩が、
図2に実質的に示される熱重量赤外線スペクトルを有する、請求項1~16のいずれか1項に記載の結晶塩。
【請求項21】
化合物Iの結晶塩
【化2】
であって、
式中、前記塩がビス(塩酸)塩である、前記結晶塩。
【請求項22】
5.3、9.0、及び22.0の2シータ(°2θ±0.2°)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおいて特徴的なピークを有する、請求項21に記載の結晶塩。
【請求項23】
5.3、9.0、及び22.0の2シータ(°2θ)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおいて特徴的なピークを有する、請求項21に記載の結晶塩。
【請求項24】
5.3、9.0、19.8、21.2、22.0、及び23.3の2シータ(°2θ±0.2°)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおいて特徴的なピークを有する、請求項22または23に記載の結晶塩。
【請求項25】
5.3、9.0、19.8、21.2、22.0、及び23.3の2シータ(°2θ)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおいて特徴的なピークを有する、請求項23に記載の結晶塩。
【請求項26】
5.3、9.0、14.3、16.2、19.8、21.2、22.0、23.3、24.6、及び30.3の2シータ(°2θ±0.2°)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおいて特徴的なピークを有する、請求項24または25に記載の結晶塩。
【請求項27】
5.3、9.0、14.3、16.2、19.8、21.2、22.0、23.3、24.6、及び30.3の2シータ(°2θ)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおいて特徴的なピークを有する、請求項25に記載の結晶塩。
【請求項28】
5.28、8.96、及び22.01の2シータ(°2θ±0.2°)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおいて特徴的なピークを有する、請求項21に記載の結晶塩。
【請求項29】
5.28、8.96、及び22.01の2シータ(°2θ)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおいて特徴的なピークを有する、請求項21に記載の結晶塩。
【請求項30】
5.28、8.96、19.79、21.16、22.01、及び23.31の2シータ(°2θ±0.2°)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおいて特徴的なピークを有する、請求項28または29に記載の結晶塩。
【請求項31】
5.28、8.96、19.79、21.16、22.01、及び23.31の2シータ(°2θ)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおいて特徴的なピークを有する、請求項29に記載の結晶塩。
【請求項32】
5.28、8.96、14.27、16.18、19.79、21.16、22.01、23.31、24.64、及び30.31の2シータ(°2θ±0.2°)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおいて特徴的なピークを有する、請求項30または31に記載の結晶塩。
【請求項33】
5.28、8.96、14.27、16.18、19.79、21.16、22.01、23.31、24.64、及び30.31の2シータ(°2θ)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおいて特徴的なピークを有する、請求項31に記載の結晶塩。
【請求項34】
図1に示されるものと実質的に類似したXRPDパターンを有する、請求項21~33のいずれか1項に記載の結晶塩。
【請求項35】
前記結晶塩が、1:1結晶塩対水のモル比で水と錯体化される、請求項21~34のいずれか1項に記載の結晶塩。
【請求項36】
前記結晶塩が、1:2結晶塩対水のモル比で水と錯体化される、請求項21~34のいずれか1項に記載の結晶塩。
【請求項37】
前記結晶塩が、1:2.5結晶塩対水のモル比で水と錯体化される、請求項21~34のいずれか1項に記載の結晶塩。
【請求項38】
前記結晶塩が、
図2に実質的に示される熱重量赤外線スペクトルを有する、請求項21~34のいずれか1項に記載の結晶塩。
【請求項39】
請求項1~38のいずれか1項に記載の結晶塩と、1つ以上の薬学的に許容される担体と、を含む、薬学的組成物。
【請求項40】
前記薬学的組成物が、非経口投与用に製剤化される、請求項39に記載の薬学的組成物。
【請求項41】
前記薬学的組成物が、経口投与用に製剤化される、請求項39に記載の薬学的組成物。
【請求項42】
前記薬学的組成物が、異常な血漿カリクレイン活性によって特徴付けられる疾患または病態の予防的または治療的処置のために製剤化される、請求項39に記載の薬学的組成物。
【請求項43】
異常な血漿カリクレイン活性によって特徴付けられる疾患または病態を治療または予防する方法であって、それを必要とする対象に、治療有効量の、請求項1~38のいずれか1項に記載の結晶塩を投与することを含む、前記方法。
【請求項44】
異常な血漿カリクレイン活性によって特徴付けられる前記疾患または病態が、脳卒中、炎症、再灌流傷害、急性心筋梗塞、深部静脈血栓、線維素溶解性治療後の病態、扁桃炎、浮腫、血管性浮腫、遺伝性血管性浮腫、敗血症、関節炎、出血、心肺バイパス中の失血、炎症性腸疾患、真性糖尿病、網膜症、糖尿病性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、糖尿病性黄斑変性、加齢黄斑浮腫、加齢黄斑変性、増殖性網膜症、神経障害、高血圧症、脳浮腫、増加したアルブミン排泄、顕性アルブミン尿、及び腎症からなる群から選択される、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
異常な血漿カリクレイン活性によって特徴付けられる前記疾患または病態が、血管性浮腫である、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
異常な血漿カリクレイン活性によって特徴付けられる前記疾患または病態が、遺伝性血管性浮腫である、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
異常な血漿カリクレイン活性によって特徴付けられる前記疾患または病態が、脳卒中である、請求項44に記載の方法。
【請求項48】
異常な血漿カリクレイン活性によって特徴付けられる前記疾患または病態が、再灌流傷害である、請求項44に記載の方法。
【請求項49】
異常な血漿カリクレイン活性によって特徴付けられる前記疾患または病態が、急性心筋梗塞である、請求項44に記載の方法。
【請求項50】
異常な血漿カリクレイン活性によって特徴付けられる前記疾患または病態が、出血である、請求項44に記載の方法。
【請求項51】
異常な血漿カリクレイン活性によって特徴付けられる前記疾患または病態が、心肺バイパス中の失血である、請求項44に記載の方法。
【請求項52】
異常な血漿カリクレイン活性によって特徴付けられる前記疾患または病態が、網膜症、糖尿病性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、糖尿病性黄斑変性、加齢黄斑浮腫、加齢黄斑変性、及び増殖性網膜症からなる群から選択される、請求項44に記載の方法。
【請求項53】
化合物Iの結晶塩
【化3】
を調製するための方法であって、
a)第1の有機溶媒中の化合物Iの遊離塩基混合物を提供することと、
b)前記遊離塩基混合物を、化合物Iの塩を含む混合物を形成するために十分な条件下で試薬溶液と組み合わせることであって、前記試薬溶液が酸及び第2の有機溶媒を含む、前記組み合わせることと、
c)化合物Iの塩を含む混合物から化合物Iの塩を結晶化することと、を含む、前記方法。
【請求項54】
前記結晶塩が塩酸塩である、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記結晶塩がビス(塩酸)塩である、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記第1の有機溶媒が極性非プロトン性溶媒を含む、請求項53~55のいずれか1項に記載の方法。
【請求項57】
前記極性非プロトン性溶媒がメチルtert-ブチルエーテルである、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記第1の有機溶媒が非極性溶媒をさらに含む、請求項56または57に記載の方法。
【請求項59】
前記非極性溶媒がトルエンである、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記酸が塩酸である、請求項53~59のいずれか1項に記載の方法。
【請求項61】
前記第2の有機溶媒が極性プロトン性溶媒である、請求項53~60のいずれか1項に記載の方法。
【請求項62】
前記極性プロトン性溶媒がメタノールである、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
化合物Iの塩を含む前記混合物が溶液であり、前記混合物から化合物Iの前記塩を結晶化する前記ステップが、前記溶液を過飽和にして、化合物Iの前記塩を溶液から沈殿させることを含む、請求項53~62のいずれか1項に記載の方法。
【請求項64】
前記溶液を過飽和にする前記ステップが、貧溶媒をゆっくりと添加すること、前記溶液を冷却させること、前記溶液の体積を低減すること、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
化合物Iの塩を含む前記混合物が溶液であり、前記混合物から化合物Iの前記塩を結晶化する前記ステップが、結晶化を誘導することを含む、請求項53~62のいずれか1項に記載の方法。
【請求項66】
結晶化を誘導することが、前記溶液に化合物Iの前記塩の結晶種を播種することを含む、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
前記結晶塩を単離することをさらに含む、請求項53~66のいずれか1項に記載の方法。
【請求項68】
前記結晶塩を単離することが、前記混合物から前記結晶化塩を濾過することを含む、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記結晶塩を減圧下で乾燥させることをさらに含む、請求項67または68に記載の方法。
【請求項70】
前記結晶塩が、請求項1~38のいずれか1項に記載の結晶塩である、請求項53~69のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2018年11月2日に出願された米国仮特許出願第62/754,983号の優先権の利益を主張し、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
セリンプロテアーゼは、タンパク質分解酵素の最大かつ最も広く研究されている群を構成する。セリンプロテアーゼの生理的プロセスにおける重要な役割は、血液凝固、線維素溶解、補体活性化、生殖作用、消化作用、及び生理活性ペプチドの放出などの多様な領域に及ぶ。これらの生命プロセスの多くが、前駆体タンパク質またはペプチド中の単一ペプチド結合またはいくつかのペプチド結合の切断から開始される。連続的で限定されたタンパク質分解反応またはカスケードが、血液凝固、線維素溶解、及び補体活性化に関与する。これらのカスケードを開始する生体信号は制御することができ、また同様に増幅することもできる。同様に、制御されるタンパク質分解は、単一の結合の切断によって、タンパク質またはペプチドを停止または不活性化することができる。
【0003】
カリクレインは、セリンプロテアーゼの下位群である。ヒトにおいて、血漿カリクレイン(KLKB1)は既知の相同物を有さないが、一方で組織カリクレイン関連ペプチダーゼ(KLK)は、15種類の密接に関連するセリンプロテアーゼのファミリーをコードする。血漿カリクレインは、凝固、炎症、及び補体系の内因性経路に関する、いくつかの経路に関係する。
【0004】
凝固は、血液が例えば出血を止めるために血塊を形成するプロセスである。凝固の生理機能は、それが、血塊形成へとつながる最終共通経路に収束する2つの別個の初期経路を含む限りにおいて、やや複雑である。最終共通経路においては、プロトロンビンがトロンビンへと変換され、このトロンビンが今度はフィブリノーゲンをフィブリンへと変換し、この後者は、止血栓を形成する架橋化フィブリンポリマーの主要な成分となる。最終共通経路の上流の2つの初期経路のうち、1つは接触活性化経路または内因性経路として知られ、他方は組織因子経路または外因性経路として知られる。
【0005】
内因性経路は、高分子キニノーゲン(HMWK)、プレカリクレイン、及びFXII(第XII因子、ハーゲマン因子)による、コラーゲン上における一次複合体(primary complex)の形成で開始される。プレカリクレインはカリクレインへと変換され、FXIIは活性化されてFXIIaとなる。次いで、FXIIaは第XI因子(FXI)をFXIaへと変換し、FXIaが今度は第IX因子(FIX)を活性化し、このFIXが、その補因子であるFVIIIaとともに「テナーゼ」複合体を形成し、この「テナーゼ」複合体が、第X因子(FX)をFXaへと活性化する。最終共通経路内において、プロトロンビンのトロンビンへの変換を担うのはFXaである。
【0006】
血漿カリクレインの不活性前駆物質であるプレカリクレインは、肝臓中で合成され、HMWKと結合した状態で、または遊離したチモーゲンとして血漿中を循環する。プレカリクレインは、活性化因子XII(FXIIa)によって切断されて、活性化血漿カリクレイン(PK)を放出する。活性化血漿カリクレインは、アルギニン(好ましい)及びリジンの後ろのペプチド結合に向けて、エンドペプチダーゼ活性を表す。PKは次いで、フィードバックループ中でさらなるFXIIaを生成し、これが今度は第XI因子(FXI)をFXIaへと活性化して、共通経路へと接続する。内因性経路の初期活性化は少量のPKを活性化する少量のFXIIaによるものであるが、内因性経路の活性化の程度を制御し、したがって下流の凝固を制御するのは、後に続くPKによるFXIIのフィードバック活性化である(非特許文献1)。
【0007】
活性化血漿カリクレインはまた、HMWKを切断して、強力な血管拡張性ペプチドであるブラジキニンを放出する。活性化血漿カリクレインはまた、いくつかの不活性前駆体タンパク質を切断して、プラスミン(プラスミノーゲンから)及びウロキナーゼ(プロウロキナーゼから)などの活性産物を生成することができる。凝固の制御因子であるプラスミンは、フィブリンをフィブリン分解生成物へとタンパク質分解性に切断し、過剰なフィブリン形成を阻害する。
【0008】
急性心筋梗塞(MI)を患っている患者は、凝固亢進(血塊促進)状態にあるという臨床的エビデンスを示す。逆説的なことに、この凝固亢進は、線溶療法を受けている人々においてさらに悪化する。そのような治療を受けている患者においては、ヘパリン単独の治療を受けている人々において観察される既に高いレベルと比較しても、トロンビン・アンチトロンビンIII(TAT)レベルで測定した、増加したトロンビンの生成が観察される(非特許文献2)。トロンビンの増加は、プラスミンによるFXIIの直接活性化による、内因性経路のプラスミン媒介活性化に起因することが提示されている。
【0009】
線溶誘導性凝固亢進が再閉塞率の増加をもたらすだけでなく、それは、おそらく、少なくとも部分的に、線溶療法の大きな欠点である凝固(血栓)の完全な線溶を達成できない原因でもある(非特許文献3)。線溶療法の別の問題は、付随する、頭蓋内出血のリスクの上昇である(非特許文献4及び5)。それ故に、出血のリスクを増加させずに、新規のトロンビンの形成を阻害する付属の抗凝固療法が、非常に有益であろう。
【0010】
血漿カリクレイン阻害剤は、遺伝性血管性浮腫(HAE)を治療するための治療可能性も有する。HAEは、染色体11qに位置するC1エステラーゼ阻害因子(C1INH)遺伝子の変異によって引き起こされる深刻で命を脅かす可能性のある希な遺伝子病である。診断された症例の4分の1が新たな変異から生じるが、HAEは常染色体優性状態として遺伝する。HAEは欧州では奇病として分類されており、推定有病率は5万人に1人である。HAEを有する個人は、顔面、喉頭、胃腸管、四肢、または生殖器の有痛性皮下または粘膜下浮腫の再発性急性発作に見舞われ、治療しない場合には最大で5日間続く場合がある。発作は頻度、重篤度、及び部位によって異なり、生命を脅かし得る。窒息する可能性がある喉頭の発作は、最も大きな危険性をもたらす。腹部の発作は特に有痛性であり、しばしば探索的処置または不必要な手術へとつながる。顔面及び抹消発作は外観を損なわせ、衰弱させる。
【0011】
HAEはいくつかのサブタイプを有する。I型HAEは低レベルのC1阻害因子を生成するC1INH遺伝子変異によって定義されるのに対して、II型HAEは正常レベルの無効な(ineffective)C1タンパク質を生成する変異によって定義される。III型HAEは、第XII因子として既知であるセリンプロテアーゼをコードするF12遺伝子の変異によって引き起こされる別個の発病機序を有する。HAEのサブタイプを区別し、HAEを他の血管性浮腫から区別するための診断基準は、本明細書に参照により組み込まれる、非特許文献6及び7に見出すことができる。
【0012】
現在のHAE治療は2つの主な種類に分類される。アンドロゲン及び抗線溶薬を含むより古い非特異的治療は、特に女性において、重大な副作用に関連する。新しい治療は、疾患の分子病理学の理解、すなわち、C1INHがヒト血漿中のカリクレインの最重要の阻害因子であり、C1INHの欠乏がカリクレイン-ブラジキニンカスケードの対立しない(unopposed)活性化を引き起こし、ブラジキニンが発作の特徴である局所的に増加した血管透過性の最も重要な媒介物であるという理解に基づく。現在利用可能な標的療法は全て、静脈内または皮下注射によって投与される。現在、HAEのための経口による特定の標的長期療法はない。
【0013】
したがって、閉塞血栓における線溶/血栓症のバランスを溶解へと傾け、それによって再灌流を促進し、また凝固亢進状態を減衰させ、よって血栓の再形成及び血管の再閉塞を防止することができるPKの阻害剤を開発する必要性が存在する。特に、特異的であり、インビボ使用のために製剤化することができる血漿カリクレイン阻害剤の作製は、新しいクラスの治療薬をもたらす可能性がある。よって、血漿カリクレイン阻害剤を調製及び製剤化するための改善された組成物及び方法が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Hathaway,W.E.,et al.(1965)Blood 26:521-32
【非特許文献2】Hoffmeister,H.M.et al.(1998)Circulation 98:2527-33
【非特許文献3】Keeley,E.C.et al.(2003)Lancet 361:13-20
【非特許文献4】Menon,V.et al.(2004)(Chest 126:549S-575S
【非特許文献5】Fibrinolytic Therapy Trialists’Collaborative Group(1994)Lancet 343:311-22
【非特許文献6】Ann Allergy Asthma lmmunol 2008;100(Suppl2):S30-S40
【非特許文献7】J Allergy Clin lmmunol 2004;114:629-37
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様は、化合物Iの結晶塩に関する。
【化1】
【0016】
本発明の別の態様は、化合物Iの結晶塩を調製するための方法に関する。そのような態様では、方法は、a)第1の有機溶媒中の化合物Iの遊離塩基混合物を提供することと、b)化合物Iの塩を含む混合物を形成するために十分な条件下で、遊離塩基混合物を、酸及び第2の有機溶媒を含む試薬溶液と組み合わせることと、c)化合物Iの塩を含む混合物から化合物Iの塩を結晶化することと、を含む。
【0017】
ある特定の実施形態において、本発明は、化合物Iの結晶塩と、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤と、を含む、薬学的組成物を提供する。ある特定の実施形態において、薬学的調製物は、異常な血漿カリクレイン活性によって特徴付けられる病態または疾患の治療または予防に使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】化合物I・2(HCl)のX線粉末回折(XRPD)パターンである。
【
図2】化合物I・2(HCl)のTG-IR分析を示すスペクトルである。
【
図3】125、250、及び500mgQDでの化合物I・2(HCl)の1日1回(QD)経口投与後の7日目、ならびに350mgQDでの化合物I・2(HCl)のQD経口投与後の14日目の化合物I・2(HCl)の血漿濃度対時間プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
ある特定の実施形態において、本発明は、化合物Iの結晶塩を提供する。
【化2】
【0020】
化合物Iは、WO2015/134998及び米国特許出願第2017/0073314A1号に記載される、血漿カリクレインの強力な阻害剤であり、その両方の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0021】
化合物Iの結晶形態を使用して、固体状態特性(例えば、結晶性、吸湿性、融点、または水和)、薬学的特性(例えば、可溶性/溶解速度、安定性、または適合性)、及び結晶化特性(例えば、純度、収率、または形態)を含むが、これらに限定されない、化合物の物理化学的特性を調節/改善することができる。例えば、化合物Iの結晶化は、一貫した予測可能な純度レベルを有する化合物へのアクセスを可能にする。加えて、結晶化から生じる均一な粒径は、固体非晶質形態と比較して固体結晶化合物の加工性の向上につながる。化合物Iの結晶形態は、有益な薬物動態特性も示し、結晶形態の均一性は、一貫した予測可能な薬物動態プロファイルをもたらす。
【0022】
ある特定の実施形態において、結晶塩は、塩酸塩、例えば、ビス(塩酸)塩である。
【0023】
ある特定の実施形態において、結晶塩の多形は、X線粉末回折(XRPD)によって特徴付けられる。θは、度で測定される回折角を表す。ある特定の実施形態において、XRPDで使用される回折計は、回折角θの2倍として回折角を測定する。よって、ある特定の実施形態において、本明細書に記載される回折パターンは、角度2θに対して測定されるX線強度を指す。
【0024】
回折角θまたは2倍回折角θ(2θ)のピーク値は、XRPD機器または測定が行われる条件に起因するわずかな測定誤差を示し得る。したがって、ある特定の実施形態において、XRPDパターンにおける特徴的なピークは、°2θ±0.2°の値を有する。ある特定の実施形態において、XRPDパターンにおける特徴的なピークは、°2θ±0.1°の値を有する。ある特定の実施形態において、XRPDパターンにおける特徴的なピークは、°2θ±0.06°の値を有する。
【0025】
ある特定の実施形態において、化合物Iの結晶塩は、5.3、9.0、及び22.0の2シータ(°2θ±0.2°)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおいて特徴的なピークを有する。ある特定の実施形態において、化合物Iの結晶塩は、5.3、9.0、及び22.0の2シータ(°2θ)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおいて特徴的なピークを有する。
【0026】
さらなる実施形態において、結晶塩は、5.3、9.0、19.8、21.2、22.0、及び23.3の2シータ(°2θ±0.2°)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおいて特徴的なピークを有する。ある特定の実施形態において、結晶塩は、5.3、9.0、19.8、21.2、22.0、及び23.3の2シータ(°2θ)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおいて特徴的なピークを有する。
【0027】
またさらなる実施形態において、結晶塩は、5.3、9.0、14.3、16.2、19.8、21.2、22.0、23.3、24.6、及び30.3の2シータ(°2θ±0.2°)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおいて特徴的なピークを有する。ある特定の実施形態において、結晶塩は、5.3、9.0、14.3、16.2、19.8、21.2、22.0、23.3、24.6、及び30.3の2シータ(°2θ)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおいて特徴的なピークを有する。
【0028】
ある特定の実施形態において、化合物Iの結晶塩は、5.28、8.96、及び22.01の2シータ(°2θ±0.2°)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおいて特徴的なピークを有する。ある特定の実施形態において、化合物Iの結晶塩は、5.28、8.96、及び22.01の2シータ(°2θ)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおいて特徴的なピークを有する。
【0029】
さらなる実施形態において、結晶塩は、5.28、8.96、19.79、21.16、22.01、及び23.31の2シータ(°2θ±0.2°)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおいて特徴的なピークを有する。ある特定の実施形態において、化合物Iの結晶塩は、5.28、8.96、19.79、21.16、22.01、及び23.31の2シータ(°2θ)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおいて特徴的なピークを有する。
【0030】
さらなる実施形態において、結晶塩は、5.28、8.96、14.27、16.18、19.79、21.16、22.01、23.31、24.64、及び30.31の2シータ(°2θ±0.2°)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおいて特徴的なピークを有する。ある特定の実施形態において、化合物Iの結晶塩は、5.28、8.96、14.27、16.18、19.79、21.16、22.01、23.31、24.64、及び30.31の2シータ(°2θ)の値でX線粉末回折(XRPD)パターンにおいて特徴的なピークを有する。
【0031】
ある特定の実施形態において、化合物Iの結晶塩は、
図1に示されるものと実質的に類似のXRPDパターンを有する。
【0032】
上記で説明され、
図1に示されるXRPDパターンにおける各ピークの相対強度、及び2シータ値は、ある特定の条件下で変化またはシフトし得るが、結晶形態は同じである。XRPDデータセットを比較することによって、当業者は、所与の結晶形態が、上記で説明され、
図1に示されるものと同じ結晶形態であるかを容易に決定することができるはずである。
【0033】
ある特定の実施形態において、化合物Iの結晶塩は、1:1結晶塩対水のモル比で水と錯体化される。ある特定のそのような実施形態において、結晶格子は、水の分子を含まない。
【0034】
ある特定の実施形態において、化合物Iの結晶塩は、1:2結晶塩対水のモル比で水と錯体化される。ある特定のそのような実施形態において、結晶格子は、水の分子を含まない。
【0035】
ある特定の実施形態において、化合物Iの結晶塩は、1:2.5結晶塩対水のモル比で水と錯体化される。ある特定のそのような実施形態において、結晶格子は、水の分子を含まない。
【0036】
ある特定の実施形態において、化合物Iの結晶塩は、
図2に示されるものと実質的に類似の熱重量測定-赤外線スペクトルを有する。
【0037】
本明細書で使用する場合、用語「実質的に純粋」は、10%未満の、対応する非晶質化合物または結晶塩の代替多形を含む、任意の他の化合物を含有することを意味する、90%超純粋である結晶多形を指す。好ましくは、結晶多形は、95%超純粋であるか、またはさらに98%超純粋である。
【0038】
ある特定の実施形態において、化合物Iの結晶塩は、本明細書で記載される2シータ(°2θ)の値でXRPDパターンにおいて特徴的なピークを有し、実質的に純粋である。例えば、結晶塩形態は、少なくとも90%純粋、好ましくは少なくとも95%純粋、またはより好ましくは少なくとも98%純粋であり得る。
【0039】
ある特定の実施形態において、化合物Iの結晶塩は、
図1に示されるものと実質的に同じであるXRPDパターンを有し、実質的に純粋である。例えば、結晶塩形態は、少なくとも90%純粋、好ましくは少なくとも95%純粋、またはより好ましくは少なくとも98%純粋であり得る。
【0040】
結晶塩を作製する方法
ある特定の実施形態において、本発明は、a)第1の有機溶媒中の化合物Iの遊離塩基混合物を提供することと、b)化合物Iの塩を含む混合物を形成するために十分な条件下で、遊離塩基混合物を酸及び第2の有機溶媒を含む試薬溶液と組み合わせることと、c)化合物Iの塩を含む混合物から化合物Iの塩を結晶化することと、を含む、化合物Iの結晶塩の調製方法に関する。
【0041】
ある特定の実施形態において、結晶塩は、塩酸塩、例えば、ビス(塩酸)塩である。
【0042】
ある特定の実施形態において、第1の有機溶媒は、極性非プロトン性溶媒、例えば、アセトニトリル、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジエチルエーテル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、メチルエチルケトン、メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、テトラヒドロフランを含む。好ましくは、極性非プロトン性溶媒は、メチルtert-ブチルエーテルである。
【0043】
ある特定の実施形態において、第1の有機溶媒は、非極性溶媒をさらに含む。非極性溶媒としては、例えば、ベンゼン、ヘプタン、ヘキサン、及びトルエンが挙げられる。ある特定の実施形態において、非極性溶媒は、トルエンである。
【0044】
ある特定の実施形態において、酸は、塩酸である。
【0045】
ある特定の実施形態において、第2の有機溶媒は、極性プロトン性溶媒、例えば、エタノール、メタノール、2-プロパノール、1-ブタノール、水、またはそれらの任意の組み合わせである。好ましくは、極性プロトン性溶媒は、メタノールである。
【0046】
ある特定の実施形態において、ステップb)で形成される化合物Iの塩を含む混合物は、溶液である。
【0047】
ある特定の実施形態において、化合物Iの塩を含む混合物は、溶液であり、混合物から塩を結晶化するステップは、溶液を過飽和にして、化合物Iを溶液から沈殿させることを含む。
【0048】
ある特定の実施形態において、化合物Iの塩を含む混合物を過飽和にすることは、ヘプタン、ヘキサン、エタノール、または有機溶媒と混和可能な別の極性もしくは非極性液体などの貧溶媒をゆっくりと添加すること、(溶液に播種するか否かにかかわらず)溶液を冷却させること、溶液の体積を低減すること、またはそれらの任意の組み合わせを含む。ある特定の実施形態において、化合物Iの塩を含む混合物を過飽和にすることは、例えば、溶液から溶媒を蒸発させることによって、貧溶媒を添加すること、溶液を周囲温度以下に冷却すること、及び溶液の体積を低減することを含む。ある特定の実施形態において、溶液を冷却させることは、受動的(例えば、溶液を周囲温度で静置させること)または能動的(例えば、氷浴または冷凍庫で溶液を冷却すること)であってもよい。
【0049】
ある特定の実施形態において、調製方法は、結晶化を誘導することをさらに含む。方法はまた、例えば、減圧下で結晶を乾燥させるステップを含むことができる。ある特定の実施形態において、沈殿または結晶化を誘導することは、二次核形成を含み、核形成は、種結晶の存在下または環境(結晶化壁、撹拌インペラー、超音波処理など)との相互作用において生じる。ある特定の実施形態において、結晶化を誘導することは、化合物Iの塩の結晶種を溶液に播種することを含む。
【0050】
ある特定の実施形態において、調製方法は、例えば、結晶を濾過することによって、結晶から流体をデカントすることによって、または任意の他の好適な分離技法によって、塩結晶を単離することをさらに含む。さらなる実施形態において、調製方法は、結晶を洗浄することをさらに含む。
【0051】
ある特定の実施形態において、結晶を洗浄することは、貧溶媒、アセトニトリル、エタノール、ヘプタン、ヘキサン、メタノール、テトラヒドロフラン、トルエン、水、またはそれらの組み合わせから選択される液体で洗浄することを含む。本明細書で使用する場合、「貧溶媒」は、塩結晶が不溶性、最小限に可溶性、または部分的に可溶性である溶媒を意味する。実際には、塩結晶が溶解される溶液への貧溶媒の添加は、溶液中の塩結晶の可溶性を低減し、それによって塩の沈殿を促進する。ある特定の実施形態において、結晶は、貧溶媒と有機溶媒との組み合わせで洗浄される。ある特定の実施形態において、貧溶媒は水であり、他の実施形態において、それはヘキサンもしくはペンタンなどのアルカン溶媒、またはベンゼン、トルエン、もしくはキシレンなどの芳香族炭化水素溶媒である。
【0052】
ある特定の実施形態において、結晶を洗浄することは、上述される溶媒または1つ以上の溶媒の混合物で化合物Iの結晶塩を洗浄することを含む。ある特定の実施形態において、溶媒または溶媒の混合物は、洗浄の前に冷却される。
【0053】
ある特定の実施形態において、方法は、結晶塩を乾燥させることをさらに含む。
【0054】
本明細書に記載される結晶塩は、上述の方法に従って作製してもよい。
【0055】
薬学的組成物
本発明は、それぞれが1つ以上の本発明の結晶塩及び薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物を提供する。ある特定の実施形態において、薬学的組成物は、本発明の結晶塩及び薬学的に許容される担体を含む。ある特定の実施形態において、薬学的組成物は、複数の本発明の結晶塩及び薬学的に許容される担体を含む。
【0056】
本明細書で使用する場合、用語「担体」及び「薬学的に許容される担体」は、化合物がともに投与されるか、または投与のためにともに製剤化される、希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。そのような薬学的に許容される担体の非限定的例としては、水、生理食塩水、及び油などの液体、ゴムアカシア、ゼラチン、デンプンのり、タルク、ケラチン、コロイド状シリカ、ウレアなどの固体が挙げられる。加えて、補助剤、安定化剤、増粘剤、潤滑剤、香味剤、及び着色剤を使用することができる。好適な薬学的担体の他の例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences by E.W.Martinに記載されており、これは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0057】
ある特定の実施形態において、本発明の薬学的組成物は、本発明の化合物以外に、少なくとも1つの追加の薬学的活性剤をさらに含む。少なくとも1つの追加の薬学的活性剤は、異常な血漿カリクレイン活性によって特徴付けられる疾患または病態の治療に有用な薬剤であり得る。例えば、この少なくとも1つの追加的な薬学的活性剤は、抗凝固剤、抗血小板剤、または血栓溶解剤であってもよい。
【0058】
抗凝固剤は、血液成分の凝固を予防し、したがって例えば心房細動における血塊形成を予防する。抗凝血薬としては、限定されるものではないが、ヘパリン、ワルファリン、クマジン、ジクマロール、フェンプロクモン、アセノクマロール、エチルビスクムアセテート、ヒルジン、ビバラルチン(bivalarutin)、直接トロンビン阻害剤、及びインダンジオン誘導体が挙げられる。
【0059】
抗血小板剤は、血小板凝集を阻害し、一過性脳虚血発作、脳卒中、または心房細動を経験した患者における血栓塞栓性脳卒中を予防するためにしばしば使用される。抗血小板剤としては、限定されるものではないが、アスピリン、チクロポジン(ticlopodine)、及びクロピドグレルなどのチエノピリジン誘導体、ジピリダモール、ならびにスルフィンピラゾン、ならびにRGD模倣物が挙げられる。
【0060】
血栓溶解剤は、脳卒中、心筋梗塞、及び肺血栓塞栓症などの血栓塞栓性事象を引き起こす血塊を溶解する。血栓溶解剤としては、限定されるものではないが、プラスミノーゲン、a2-アンチプラスミン、ストレプトキナーゼ、アンチストレプラーゼ(antistreplase)、TNK、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)、及びウロキナーゼが挙げられる。組織プラスミノーゲン活性化因子は、天然tPA及び組換えtPA、ならびに天然tPAの酵素活性または線維素溶解活性を保持するtPAの改変形態を含む。
【0061】
本発明の薬学的組成物は、1つ以上の本発明の結晶塩を、薬学的に許容される担体及び任意に1つ以上の追加の薬学的活性剤と組み合わせることによって調製することができる。
【0062】
ある特定の実施形態において、本発明は、異常な血漿カリクレイン活性によって特徴付けられる疾患または病態の予防的または治療的処置のために製剤化される薬学的組成物を提供する。
【0063】
使用方法
本発明は、内因性経路を介するトロンビンの形成を阻害し、したがって新規の血栓形成の発症(血管閉塞または再閉塞)のリスクを低減し、また線溶レジメンを伴う補助的療法として与えられる場合に線維素溶解によって誘導される再灌流を向上する、化合物を提供する。本発明の化合物を用いて治療することができる疾患及び病態としては、限定されるものではないが、脳卒中、炎症、再灌流傷害、急性心筋梗塞、深部静脈血栓、線維素溶解性治療後の病態、扁桃炎、浮腫、血管性浮腫、遺伝性血管性浮腫、敗血症、関節炎、出血、心肺バイパス中の失血、炎症性腸疾患、真性糖尿病、網膜症、糖尿病性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、糖尿病性黄斑変性、加齢黄斑浮腫、加齢黄斑変性、増殖性網膜症、神経障害、高血圧症、脳浮腫、増加したアルブミン排泄、顕性アルブミン尿、及び腎症が挙げられる。
【0064】
例えば、血管性浮腫の病態を有する患者においては、小ポリペプチドPK阻害剤DX-88(エカランチド)が、遺伝性血管性浮腫(HAE)を有する患者における浮腫を緩和する。Williams,A.et al.(2003)Transfus.Apher.Sci.29:255-8、Schneider,L.et al.(2007)J Allergy Clin Immunol.120:416-22、及びLevy,J.H.et al.(2006)Expert Opin.Invest.Drugs 15:1077-90。ブラジキニンB2受容体拮抗薬であるイカチバントもまた、HAEを治療するのに有効である。Bork,K.et al.(2007)J.Allergy Clin.Immunol.119:1497-1503。血漿カリクレインはブラジキニンを生成するため、血漿カリクレインの阻害はブラジキニン生成を阻害することが予期される。
【0065】
例えば、線維素溶解性治療(例えば、組織プラスミノーゲン活性化因子またはストレプトキナーゼによる治療)に起因する凝固において、線維素溶解を受けている患者では、より高いレベルの血漿カリクレインが見られる。Hoffmeister,H.M.et al.(1998)J.Cardiovasc.Pharmacol.31:764-72。内因性経路のプラスミン媒介活性化が血漿及び血液中において起こることが示されており、内因性経路の構成成分のいずれかが不足している個体からの血漿においては、顕著に減弱された。Ewald,G.A.et al.(1995)Circulation 91:28-36。
【0066】
急性MIを有した個体は、活性化血漿カリクレイン及びトロンビンのレベルの上昇が見られた。Hoffmeister,H.M.,et al.(1998)Circulation 98:2527-33。
【0067】
DX-88が、虚血性脳卒中の動物モデルにおいて、脳浮腫、梗塞容積、神経障害を低減した。Storini,C.et al.(2006)J.Pharm.Exp.Ther.318:849-854。C1-阻害剤が、中大脳動脈閉塞(MCAO)のマウスモデルにおいて、梗塞サイズを低減した。De Simoni,M.G.et al.(2004)Am.J.Pathol.164:1857-1863、及びAkita,N.et al.(2003)Neurosurgery 52:395-400)。B2受容体拮抗薬が、梗塞容積、脳腫脹、及び好中球蓄積を低減することが見られ、またMCAO動物モデルにおいて神経保護的であった。Zausinger,S.et al.(2003)Acta Neurochir.Suppl.86:205-7、Lumenta,D.B.et al.(2006)Brain Res.1069:227-34、Ding-Zhou、L.et al.(2003)Br.J Pharmacol.139:1539-47。
【0068】
心肺バイパス(CPB)中の失血に関しては、カリクレイン・キニン(すなわち、接触)系がCABG中に活性化されることが分かっている。Wachtfogel,Y.T.(1989)Blood 73:468。CPB中の接触系の活性化は、血漿ブラジキニンの最大20倍の増加をもたらす。Cugno,M.et al.(2006)Chest 120:1776-82、及びCampbell,D.J.et al.(2001)Am.J.Physiol.Reg.Integr.Comp.Physiol.281:1059-70。
【0069】
血漿カリクレイン阻害剤、P8720及びPKSI-527もまた、関節炎のラットモデルにおける関節腫脹を低減することが分かっている。De La Cadena,R.A.et al.(1995)FASEB J.9:446-52、Fujimori,Y.(1993)Agents Action 39:42-8。また、関節炎の動物モデルにおける炎症が、接触系の活性化を伴うことも分かっている。Blais,C.Jr.et al.(1997)Arthritis Rheum.40:1327-33。
【0070】
加えて、血漿カリクレイン阻害剤P8720は、炎症性腸疾患(IBD)の急性及び慢性ラットモデルにおける炎症を低減することが分かっている。Stadnicki,A.et al.(1998)FASEB J.12:325-33、Stadnicki,A.et al.(1996)Dig.Dis.Sci.41:912-20、及びDe La Cadena,R.A.,et al.(1995)FASEB J.9:446-52。接触系は、急性及び慢性小腸炎症中に活性化される。Sartor,R.B.et al.(1996)Gastroenterology 110:1467-81。B2受容体拮抗薬、高分子量キニノーゲンに対する抗体、またはキニノーゲンのレベルの低減が、IBDの動物モデルにおいて臨床病理を低減したことが分かっている。同上、Arai,Y.et al.(1999)Dig.Dis.Sci.44:845-51、及びKeith,J.C.et al.(2005)Arthritis Res.Therapy 7:R769-76。
【0071】
PK及びFXIIの阻害剤であり、生理的阻害剤(C1-阻害剤)であるH-D-Pro-Phe-Arg-クロロメチルケトン(CMK)は、多臓器において血管透過性を低減し、動物におけるリポ多糖(LPS)または細菌誘導性敗血症の病変を低減することが分かっている。Liu,D.et al.(2005)Blood 105:2350-5、Persson,K.et al.(2000)J.Exp.Med.192:1415-24。臨床的改善が、C1-阻害剤で治療される敗血症患者において観察された。Zeerleder,S.et al.(2003)Clin.Diagnost.Lab.Immunol.10:529-35、Caliezi,C.,et al.(2002)Crit.Care Med.30:1722-8、及びMarx,G.et al.(1999)Intensive Care Med.25:1017-20。敗血症の死亡症例は、より高い度合いの接触活性化を有することが分かっている。Martinez-Brotons,F.et al.(1987)Thromb.Haemost.58:709-713、及びKalter,E.S.et al.(1985)J.Infect.Dis.151:1019-27。
【0072】
糖尿病患者、特に増殖性網膜症を有する患者ではプレPKレベルがより高く、フルクトサミンレベルと相関することも分かっている。Gao,B.-B.,et al.(2007)Nature Med.13:181-8、及びKedzierska,K.et al.(2005)Archives Med.Res.36:539-43。プレPKはまた、感覚運動性ニューロパチーを有する患者において最も高いことも分かっている。Christie,M.et al.(1984)Thromb.Haemostas.(Stuttgart)52:221-3。プレPKレベルは糖尿病患者で上昇しており、血圧上昇と関連付けられる。プレPKレベルはアルブミン排泄速度と独立して相関し、顕性アルブミン尿を伴う糖尿病患者において上昇しており、これにより、プレPKが進行性腎症のマーカーとなり得ることが示唆される。Jaffa,A.A.et al.(2003)Diabetes 52:1215-21。B1受容体拮抗薬は、ストレプトゾトシンで治療されているラットにおける血漿漏出を減少させることが分かっている。Lawson,S.R.et al.(2005)Eur.J.Pharmacol.514:69-78。B1受容体拮抗薬はまた、ストレプトゾトシンで治療されているマウスが、高血糖症及び腎機能不全を発症することも予防する。Zuccollo,A.et al.(1996)Can.J.Physiol.Pharmacol.74:586-9。
【0073】
ある特定の態様において、本発明は、医薬品として使用するための、化合物Iの結晶塩を提供する。
【0074】
ある特定の態様において、本発明は、異常な血漿カリクレイン活性によって特徴付けられる疾患または病態を治療または予防する方法を提供する。方法は、それを必要とする対象に、治療有効量の化合物Iの結晶塩を投与し、それによって異常な血漿カリクレイン活性によって特徴付けられる疾患または病態を治療または予防するステップを含む。対象における血漿カリクレイン活性を低減することによって、異常な血漿カリクレイン活性によって特徴付けられる疾患または病態が治療される。
【0075】
本明細書で使用する場合、用語「治療する」、「治療すること」、及び「治療」は、対象における疾患もしくは病態を予防するか、その進行を停止もしくは遅延させるか、またはそれを排除することを意味する。いくつかの実施形態において、「治療する」、「治療すること」、及び「治療」は、対象における疾患もしくは病態の進行を停止もしくは遅延させるか、またはそれを排除することを意味する。いくつかの実施形態において、「治療する」、「治療すること」、及び「治療」は、対象における疾患または病態の少なくとも1つの客観的徴候を低減することを意味する。
【0076】
本明細書で使用する場合、用語「有効量」は、所望の生物学的効果をもたらすのに十分な量を指す。
【0077】
本明細書で使用する場合、用語「治療有効量」は、所望の治療効果をもたらすのに十分な量を指す。
【0078】
本明細書で使用する場合、用語「阻害する」は、客観的に測定可能な量または程度減少させることを意味する。様々な実施形態において、「阻害する」は、関連する対照と比較して、少なくとも5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、または95パーセント減少させることを意味する。一実施形態において、「阻害する」は、100パーセント減少させること、すなわち停止または排除することを意味する。
【0079】
本明細書で使用する場合、用語「対象」は哺乳動物を指す。様々な実施形態において、対象は、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、ヒツジ、ウマ、ウシ、または非ヒト霊長類である。一実施形態において、対象はヒトである。
【0080】
あるいは、ある特定の態様において、本発明は、異常な血漿カリクレイン活性によって特徴付けられる疾患または病態の治療のための化合物Iの結晶塩を提供する。
【0081】
あるいは、ある特定の態様において、本発明は、異常な血漿カリクレイン活性によって特徴付けられる疾患または病態の治療における使用のための医薬品の製造のための化合物Iの結晶塩の使用を提供する。
【0082】
本明細書で使用する場合、「異常な血漿カリクレイン活性によって特徴付けられる疾患または病態」とは、血漿カリクレイン活性を低減することが望ましい任意の疾患または病態を指す。例えば、カリクレインの不適切な活性化または過剰活性化の状況において血漿カリクレイン活性を低減することが所望され得る。別の例として、凝固亢進状態の状況において血漿カリクレイン活性を低減することが所望され得る。別の例として、血栓の存在または形成と関連付けられる組織虚血の状況においては、血漿カリクレイン活性を低減させることが望ましい場合がある。
【0083】
特定の実施形態において、異常な血漿カリクレイン活性によって特徴付けられる疾患または病態は、脳卒中、炎症、再灌流傷害、急性心筋梗塞、深部静脈血栓、線維素溶解性治療後の病態、扁桃炎、浮腫、血管性浮腫、遺伝性血管性浮腫、敗血症、関節炎、出血、心肺バイパス中の失血、炎症性腸疾患、真性糖尿病、網膜症、糖尿病性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、糖尿病性黄斑変性、加齢黄斑浮腫、加齢黄斑変性、増殖性網膜症、神経障害、高血圧症、脳浮腫、増加したアルブミン排泄、顕性アルブミン尿、及び腎症からなる群から選択される。
【0084】
ある特定の実施形態において、異常な血漿カリクレイン活性によって特徴付けられる疾患または病態は、血管性浮腫である。
【0085】
ある特定の実施形態において、異常な血漿カリクレイン活性によって特徴付けられる疾患または病態は、後天性血管性浮腫または遺伝性血管性浮腫(HAE)である。
【0086】
後天性血管性浮腫(AAE)(Caldwell JR,et al.Clin Immunol Immunopathol.1972;1:39-52)は、後天性C1阻害因子(C1-INH)欠損症、接触キニン系の不適切な活性化によって放出されるブラジキニンによって媒介されるヒト補体の古典的経路の過剰活性化及び血管性浮腫症状を含む、いくつかの方法で特徴付けられる。AAEは、AAEI型(これは通常、別の疾患と関連する)及びAAEII型(これは通常、自己免疫疾患と関連する)の2つの形態で存在し得る。AAEは、自己免疫疾患(例えば、抗C1INH抗体の産生)を含むがこれに限定されない多くの要因によって、またはC1 INHにおける後天性の変異によって引き起こされ得る。さらに、化合物Iの結晶塩は、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤治療の副作用を治療するために使用され得る。ACE阻害剤はブラジキニン分解のための主要経路を遮断する。本発明の結晶塩の使用によってカリクレイン形成を阻害することにより、ブラジキニンの形成を低減する。
【0087】
ある特定の実施形態において、異常な血漿カリクレイン活性によって特徴付けられる疾患または病態は、遺伝性血管性浮腫(HAE)である。ある特定の実施形態において、遺伝性血管性浮腫は、I型遺伝性血管性浮腫である。あるいは、遺伝性血管性浮腫は、II型遺伝性血管性浮腫であり得る。あるいは、遺伝性血管性浮腫は、III型遺伝性血管性浮腫であり得る。
【0088】
ある特定の実施形態において、化合物Iの結晶塩は、HAEの予防的処置に使用される。他の実施形態において、化合物Iの結晶塩は、HAEの急性治療に使用される。
【0089】
ある特定の実施形態において、化合物Iの結晶塩は、HAEを有する対象における血管性浮腫発作の予防または治療のために使用される。ある特定の実施形態において、化合物Iの結晶塩は、HAEを有する対象における血管性浮腫発作の頻度を低減するための予防的処置として使用される。他の実施形態において、化合物Iの結晶塩は、HAEを有する対象における急性血管性浮腫発作の治療のために使用される。
【0090】
ある特定の実施形態において、異常な血漿カリクレイン活性によって特徴付けられる疾患または病態は、脳卒中である。
【0091】
ある特定の実施形態において、異常な血漿カリクレイン活性によって特徴付けられる疾患または病態は、再灌流傷害である。
【0092】
ある特定の実施形態において、異常な血漿カリクレイン活性によって特徴付けられる疾患または病態は、急性心筋梗塞である。
【0093】
ある特定の実施形態において、異常な血漿カリクレイン活性によって特徴付けられる疾患または病態は、出血である。
【0094】
ある特定の実施形態において、異常な血漿カリクレイン活性によって特徴付けられる疾患または病態は、心肺バイパス中の失血である。
【0095】
ある特定の実施形態において、異常な血漿カリクレイン活性によって特徴付けられる疾患または病態は、網膜症、糖尿病性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、糖尿病性黄斑変性、加齢黄斑浮腫、加齢黄斑変性、及び増殖性網膜症からなる群から選択される。
【0096】
製剤化、投与経路、及び投薬
本明細書に記載される化合物Iの結晶塩は、薬学的組成物として製剤化することができ、ヒト患者などの哺乳動物宿主に、選択された投与経路、例えば、経口的もしくは非経口的、静脈内、腹腔内、筋肉内、局所、または皮下経路に適合した様々な形態で投与することができる。さらなる投与経路がまた、本発明によって企図される。
【0097】
したがって、化合物Iの結晶塩(本明細書において「活性化合物」とも称される)は、不活性希釈剤などの薬学的に許容されるビヒクルまたは吸収可能な可食担体とともに、例えば、経口的に全身投与することができる。それらは、ハードもしくはソフトシェルゼラチンカプセルに封入してもよく、錠剤へと圧縮してもよく、または患者の食餌の食べ物と直接組み合わせてもよい。治療用経口投与の場合、活性化合物は、1つ以上の賦形剤と組み合わせてもよく、摂取可能な錠剤、バッカル錠、トローチ、カプセル、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ、ウエハスなどの形態で使用してもよい。そのような組成物及び調製物は、少なくとも0.1%の活性化合物を含むべきである。組成物及び調製物の割合は勿論異なってもよく、便宜的に、所与の単位剤形の重量の約2%~約60%の間であり得る。そのような治療上有用な組成物中の活性化合物の量は、効果的な投与量レベルが得られるような量である。
【0098】
錠剤、トローチ、丸剤、カプセルなどはまた、以下の希釈剤及び担体も含有し得る:トラガカントゴム、アカシア、コーンスターチ、またはゼラチンなどの結合剤;リン酸二カルシウムなどの賦形剤;コーンスターチ、ジャガイモデンプン、アルギン酸などの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤;及びスクロース、フルクトース、ラクトース、もしくはアスパルテームなどの甘味料、またはペパーミント、冬緑油、もしくはチェリー香料などの香味剤を添加してもよい。単位剤形がカプセルである場合、それは、上記の種類の材料に加えて、植物油またはポリエチレングリコールなどの液体担体を含有してもよい。様々な他の材料が、コーティングとして、または別様に固体単位剤形の物理的形態を改変するために存在してもよい。例えば、錠剤、丸剤、またはカプセルは、ゼラチン、ワックス、シェラック、または糖などでコーティングしてもよい。シロップまたはエリキシル剤は、活性化合物、甘味料としてスクロースまたはフルクトース、保存剤としてメチルパラベン及びプロピルパラベン、色素、ならびにチェリーまたはオレンジ香料などの香味剤を含有してもよい。勿論、任意の単位剤形を調製する際に使用されるいかなる材料も、採用される量において薬学的に許容され、かつ実質的に無毒性であるべきである。加えて、活性化合物は、徐放性調製物及び装置に組み込まれてもよい。
【0099】
活性化合物はまた、注入または注射によって、静脈内または腹腔内に投与されてもよい。活性化合物の溶液は、無毒性界面活性剤と任意選択で混合された、水または生理的に許容される水溶液中で調製することができる。分散体もまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、トリアセチン、及びそれらの混合物中において、ならびに油中において調製することができる。通常の保存条件と使用条件の下では、これらの調製物は、微生物の成長を防止するための保存剤を含有する。
【0100】
注射または注入に好適な薬学的剤形としては、滅菌した注射可能もしくは注入可能な溶液または分散体の即時調製用に適合され、任意選択でリポソーム中にカプセル化される、活性化合物を含む滅菌水溶液もしくは分散体または滅菌粉末が挙げられ得る。全ての場合において、最終的な剤形は、製造条件及び保存条件下において、滅菌、流体、かつ安定であるべきである。液体担体またはビヒクルは、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、植物油、無毒性グリセリルエステル、及びそれらの好適な混合物を含む、溶媒または液体分散媒体であり得る。適切な流動性は、例えばリポソームの形成、分散体の場合に必要な粒径の維持、または界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物の作用の予防は、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどの様々な抗菌剤及び抗真菌剤によってもたらされ得る。多くの場合、例えば糖、緩衝体、または塩化ナトリウムといった等張剤を含むことが好ましいであろう。注射可能組成物の吸収の延長は、吸収を遅延させる薬剤、例えばモノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンの、組成物中における使用によってもたらされ得る。
【0101】
滅菌注射用溶液剤は、必要な量の活性化合物を、上記に列挙された様々なその他の成分とともに適切な溶媒中で組み合わせ、必要に応じてその後濾過滅菌することによって調製される。滅菌注射用溶液剤の調製用の滅菌粉末の場合は、調製方法としては真空乾燥技術及び凍結乾燥技術を挙げることができ、これらの方法では、前もって滅菌濾過した溶液中に存在する、任意の所望の追加成分を伴う活性化合物の粉末がもたらされる。
【0102】
局所投与の場合、化合物Iの結晶塩は、純粋形態で(すなわち、本化合物が液体で調製されるとき)適用することができる。しかしながら、本化合物は、皮膚科学的に許容される担体(固体でも液体でもよい)とともに、組成物または製剤として皮膚に投与することが概して好ましいだろう。
【0103】
有用な固形担体としては、タルク、粘土、微結晶セルロース、シリカ、アルミナなどの微粉固体が挙げられる。有用な液体担体としては、水、アルコール、もしくはグリコール、または水-アルコール/グリコールブレンドが挙げられ、この中に、任意選択で無毒性界面活性剤の補助を伴って、本発明の結晶塩を有効なレベルで溶解または分散させ得る。芳香剤及び追加の抗菌剤などのアジュバントを添加して、所与の使用のために特性を最適化することができる。結果として得られる液体組成物は、吸収パッドから適用してもよく、包帯及び他の包帯材を含浸するために使用してもよく、またはポンプ型もしくはエアロゾル噴霧器を用いて患部に噴霧してもよい。
【0104】
合成ポリマー、脂肪酸、脂肪酸塩及びエステル、脂肪アルコール、変性セルロース、または変性鉱物材料などの増粘剤もまた、ユーザの皮膚に直接適用するために、液体担体とともに採用して、塗布可能な糊剤、ゲル、軟膏、石鹸などを形成することができる。
【0105】
本発明の結晶塩を皮膚に送達するために使用することができる有用な皮膚用組成物の例は当該技術分野において既知であり、例えば、Jacquetら(米国特許第4,608,392号;参照により本明細書に組み込まれる)、Geria(米国特許第4,992,478号;参照により本明細書に組み込まれる)、Smithら(米国特許第4,559,157号;参照により本明細書に組み込まれる)、及びWortzman(米国特許第4,820,508号;参照により本明細書に組み込まれる)を参照のこと。
【0106】
化合物Iの結晶塩の有用な投与量は、少なくとも最初は、それらのインビトロ活性、及び動物モデルにおけるインビボ活性を比較することによって決定できる。マウス及び他の動物における有効投与量をヒトに外挿する方法は当該技術分野において既知であり、例えば、米国特許第4,938,949号(参照により本明細書に組み込まれる)を参照のこと。
【0107】
治療での使用のために必要な化合物Iの結晶塩の量は、選択される特定の結晶塩によって異なるだけでなく、投与経路、治療される病態の性質、ならびに患者の年齢及び状態によっても異なり、最終的には担当医師または臨床医の裁量による。
【0108】
しかしながら、概して、好適な用量は1日で受容者の体重1kg当たり約0.5~約100mgの範囲であり、例えば1日で体重1kg当たり約3~約90mg、1日で体重1kg当たり約6~約75mg、1日で体重1kg当たり約10~約60mg、または1日で体重1kg当たり約15~約50mgである。
【0109】
化合物Iの結晶塩は、例えば、5~1000mg、10~750mg、50~500mg、75mg~350mg、75mg~300mg、75mg~250mg、75mg~200mg、75mg~175mg、75mg~150mg、75mg~125mg、100mg~750mg、100mg~500mg、100mg~350mg、100mg~300mg、100mg~250mg、100mg~200mg、100mg~175mg、100mg~150mg、100mg~125mg、125mg~350mg、125mg~300mg、125mg~250mg、125mg~200mg、125mg~175mg、125mg~150mg(例えば、5mg、10mg、25mg、50mg、75mg、100mg、125mg、150mg、175mg、200mg、250mg、300mg、350mg、400mg、450mg、500mg、550mg、600mg、650mg、700mg、750mg、800mg、850mg、900mg、950mg、1000mg、及び前述の単位投与量範囲内に含まれる他のそのような単位投与量を含む)の単位剤形当たりの活性化合物を含有する、単位剤形で便宜的に製剤化することができる。一実施形態において、本発明は、そのような単位剤形で製剤化された化合物Iの結晶塩を含む組成物を提供する。所望の用量は、便宜的に単回用量で提示されてもよく、または、適切な間隔で投与される分割用量として、例えば1日あたり2、3、4回以上のサブ用量として提示されてもよい。サブ用量自体はまた、例えば、多くの別個かつ大まかに間隔の空いた投与にさらに分割することができる。
【0110】
化合物Iの結晶塩はまた、他の治療剤、例えば、虚血、失血、または再灌流傷害の治療または予防にとって有用である他の薬剤と組み合わせて投与することができる。
【0111】
他の送達系としては、当該技術分野において周知であるものなどの、時限放出、遅延放出、または持続放出送達系が挙げられ得る。そのような送達系は、活性化合物の反復投与を回避することができ、対象及び医師にとっての利便性を向上させる。多くの種類の放出送達系が当業者にとって利用可能であり、既知である。長期持続放出インプラントの使用が望ましい場合がある。本明細書で使用する場合、長期放出は、送達系またはインプラントが、少なくとも30日間、好ましくは60日間にわたって治療レベルの活性化合物を送達するように構成及び配置されることを意味する。
【0112】
ある特定の実施形態において、化合物Iの結晶塩は、眼内投与用に、例えば、眼内医療機器内での、またはそれに伴う直接注射または挿入用に製剤化される。
【0113】
化合物Iの結晶塩は、医療機器内に付着させるために製剤化することができ、この医療機器は、様々な従来型のグラフト、ステントグラフトなどのステント、カテーテル、バルーン、バスケット、または体管腔内に配置もしくは永続的に移植できる他の機器のうち任意のものを含み得る。ある特定の例としては、インターベンション技術で治療されている身体領域に本発明の結晶塩を送達できる、機器及び方法を有することが望ましくあり得る。
【0114】
例示的実施形態において、化合物Iの結晶塩は、ステントなどの医療機器内に付着させ、身体の一部の治療のために治療部位へと送達できる。
【0115】
ステントは、治療剤(すなわち、薬物)の送達ビヒクルとして使用されている。血管内ステントは概して、冠状血管または末梢血管内に永続的に移植される。ステント設計としては、米国特許第4,733,655号(Palmaz)、米国特許第4,800,882号(Gianturco)、または米国特許第4,886,062号(Wiktor)のステント設計が挙げられる。そのような設計としては、金属製及びポリマー製のステントの両方、ならびに自己拡張型及びバルーン拡張型ステントが挙げられる。ステントはまた、例えば、米国特許第5,102,417号(Palmaz)、米国特許第5,419,760号(Narciso,Jr.)、米国特許第5,429,634号(Narciso,Jr.)、ならびに国際特許出願第WO91/12779号(Medtronic,Inc.)、及びWO90/13332(Cedars-Sanai Medical Center)に記載のように、血管系との接触部位において薬物を送達するのに使用し得る。
【0116】
用語「付着した」は、活性化合物が、当該技術分野において既知の方法によって、機器内にコーティング、吸着、配置、または別様に組み込まれることを意味する。例えば、本化合物は、医療機器をコーティングするか、もしくはそれに広がるポリマー材料中に埋め込まれ、そこから放出されるか(「マトリックス型」)、またはポリマー材料に包囲され、そこを通じて放出され得る(「リザーバ型」)。後者の例においては、本化合物は、当該技術分野において既知のそのようなポリマー材料を生成させるための1つ以上の技術を使用して、ポリマー材料内に封入、またはポリマー材料と連結することができる。他の製剤においては、本化合物は、コーティングの必要を伴わずに、例えば脱離可能な結合によって医療機器の表面に結合され、時間とともに放出されてもよく、または能動的な機械的プロセスもしくは化学的プロセスによって除去され得る。他の製剤においては、本化合物は、移植部位において本化合物を提供する永続的に固定化された形態であってもよい。
【0117】
ある特定の実施形態において、活性化合物は、ステントなどの医療機器用の生体適合性コーティングの形成中に、ポリマー組成物とともに組み込まれてもよい。これらの構成成分から生成されるコーティングは典型的には均質であり、移植用に設計される多くの機器をコーティングするのに有用である。
【0118】
ポリマーは、所望の放出速度または所望のポリマー安定性の度合いに応じて、生体安定性ポリマーまたは生体吸収性ポリマーのいずれかであり得るが、生体吸収性ポリマーは、生体安定性ポリマーとは異なり、移植後に長く存在して任意の有害で慢性的な局所反応を引き起こすことがないため、この実施形態に関しては生体吸収性ポリマーが多くの場合好ましい。使用できる生体吸収性ポリマーとしては、限定されるものではないが、ポリ(L-乳酸)、ポリカプロラクトン、ポリグリコリド(PGA)、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLLA/PGA)、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(ヒドロキシブチレート-co-バレレート)、ポリジオキサノン、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリ(グリコール酸)、ポリ(D-乳酸)、ポリ(L-乳酸)、ポリ(D,L-乳酸)、ポリ(D,L-ラクチド)(PLA)、ポリ(L-ラクチド)(PLLA)、ポリ(グリコール酸-co-トリメチレンカーボネート)(PGA/PTMC)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリジオキサノン(PDS)、ポリホスホエステル、ポリホスホエステルウレタン、ポリ(アミノ酸)、シアノアクリレート、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(イミノカーボネート)、コポリ(エーテル-エステル)(例えば、PEO/PLA)、ポリアルキレンオキサレート、ポリホスファゼン、ならびにフィブリン、フィブリノーゲン、セルロース、デンプン、コラーゲン、及びヒアルロン酸などの生体分子、ポリε-カプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリジヒドロピラン、ポリシアノアクリレート、ヒドロゲルの架橋性または両親媒性のブロックコポリマー、ならびに当該技術分野で既知の他の好適な生体吸収性ポプリマー(poplymer)が挙げられる。また、ポリウレタン、シリコーン、及びポリエステルなどの比較的低い慢性的組織反応性をもつ生体安定性ポリマーを用いることもでき、溶解して医療機器上で硬化または重合できるならば、ポリオレフィン、ポリイソブチレン、及びエチレン-αオレフィンコポリマー;アクリルポリマー及びコポリマー、ポリ塩化ビニルなどのハロゲン化ビニルポリマー及びコポリマー;ポリビニルピロリドン;ポリビニルメチルエーテルなどのポリビニルエーテル;ポリフッ化ビニリデン及びポリ塩化ビニリデンなどのポリハロゲン化ビニリデン;ポリアクリロニトリル、ポリビニルケトン;ポリスチレンなどのポリビニル芳香族、ポリ酢酸ビニルなどのポリビニルエステル;エチレン-メタクリレート酸メチルコポリマー、アクリロニトリル-スチレンコポリマー、ABS樹脂、及びエチレン-酢酸ビニルコポリマーなどのビニルモノマー同士及びそれとオレフィンとのコポリマー;ピランコポリマー;ポリヒドロキシ-プロピル-メタクリルアミド-フェノール;ポリヒドロキシエチル-アスパルトアミド-フェノール;パルミトイル残基で置換されたポリエチレンオキシド-ポリリジン;ナイロン66及びポリカプロラクタムなどのポリアミド;アルキド樹脂、ポリカーボネート;ポリオキシメチレン;ポリイミド;ポリエーテル;エポキシ樹脂、ポリウレタン;レーヨン;レーヨン-トリアセテート;セルロース、酢酸セルロース、酪酸セルロース;酢酸酪酸セルロース;セロファン;硝酸セルロース;プロピオン酸セルロース;セルロースエーテル;ならびにカルボキシメチルセルロースなどの他のポリマーを用いることもできる。
【0119】
ポリマー及び半透性ポリマーマトリックスを、弁、ステント、管材、補綴などの成形物品へと形成してもよい。
【0120】
本発明のある特定の実施形態において、化合物Iの結晶塩は、ステントまたはステント-グラフト機器として形成されるポリマーまたは半透性ポリマーマトリックスと連結される。
【0121】
典型的には、ポリマーは、埋め込み型機器の表面に対してスピンコーティング、浸漬、または噴霧によって塗布される。当該技術分野で既知の追加の方法もまた、この目的のために活用できる。噴霧方法としては、従来型の方法、ならびにインクジェット型のディスペンサでのマイクロデポジション技術が挙げられる。加えて、ポリマーは、機器の特定の部分のみにポリマーを配置する光パターニングを使用して、埋め込み型機器上に付着させることもできる。機器のこのコーティングは、機器の周りに均一な層を提供し、これは、機器のコーティングを通じた様々な分析物の改善された拡散を可能にする。
【0122】
本発明のある特定の実施形態において、活性化合物は、医療機器が配置される環境中へのポリマーコーティングからの放出のために製剤化される。好ましくは、本化合物は、溶出を制御するためのポリマー担体または層に関与するいくつかの周知の技術のうちの少なくとも1つを使用して、長期的な時間枠(例えば、数カ月)にわたって、制御された様式で放出される。これらの技術のいくつかは米国特許出願第2004/0243225A1号に記載されており、その開示全体はその全体が本明細書に組み込まれる。
【0123】
さらに、例えば、その全体が本明細書に組み込まれる米国特許第6,770,729号に記載されるように、ポリマーコーティングからの活性化合物の放出を制御することができるように、ポリマー組成物の試薬及び反応条件を操作することができる。例えば、ポリマーコーティングからの本化合物の放出を制御するために、1つ以上のポリマーコーティングの拡散係数を調節することができる。この主題のある変形物においては、医療機器が配置される環境に存在する分析物(例えば、ポリマーのある部分の崩壊または加水分解を促進する分析物)が、ポリマー組成物内の1つ以上の構成成分にアクセスする能力(例えば、それによってポリマーコーティングからの本化合物の放出を調節する能力)を調節するために、1つ以上のポリマーコーティングの拡散係数を制御することができる。本発明のさらに別の実施形態は、それぞれが複数の拡散係数を有する複数のポリマーコーティングを有する機器を含む。本発明のそのような実施形態において、ポリマーコーティングからの活性化合物の放出は、複数のポリマーコーティングによって調節することができる。
【0124】
本発明のさらに別の実施形態において、ポリマーコーティングからの活性化合物の放出は、1つ以上の内因性もしくは外因性化合物の存在、または代替的に、ポリマー組成物のpHなどの、ポリマー組成物の特性のうちの1つ以上を調節することによって制御される。例えば、ある特定のポリマー組成物は、ポリマー組成物のpHの低下に応じて化合物を放出するように設計することができる。
【0125】
キット
本発明はまた、化合物Iの結晶塩と、少なくとも1つの他の治療剤と、梱包材料と、化合物Iの結晶塩及び他の治療剤(複数可)を哺乳動物に投与して、哺乳動物における異常なカリクレイン活性によって特徴付けられる疾患または病態を治療または予防するための説明書と、を含む、キットも提供する。一実施形態において、哺乳動物はヒトである。
【実施例】
【0126】
材料及び方法
X線粉末回折
XRPDパターンを、Optix長高精度焦点源を使用して生成されたCu放射線の入射ビームを使用して、PANalytical X’Pert PRO MPD回折計で収集した。楕円傾斜多層鏡を使用して、CuKαX線を、検体を通して検出器上に焦点を合わせた。分析の前に、シリコン検体(NIST SRM 640e)を分析して、Si 111ピークの観察された位置がNIST認定位置と一致していることを検証した。試料の検体を3μm厚フィルムの間に挟み、透過幾何学で分析した。ビームストップ、短い散乱防止エクステンション、及び散乱防止ナイフエッジを使用して、空気によって生成されるバックグラウンドを最小限に抑えた。入射及び回折ビームのソーラースリットを使用して、軸発散からの拡大を最小限に抑えた。回折パターンを、検体から240mmに位置する走査位置感知検出器(X’Celerator)及びData Collectorソフトウェアv.2.2bを使用して収集した。
【0127】
熱重量分析
TG分析は、IR炉を有するTA Instruments Discovery熱重量分析器を使用して行った。温度較正は、ニッケル及びAlumel(商標)を用いて実施した。各試料をアルミ鍋に入れた。試料を密封し、蓋に穴をあけ、次いでTG炉に挿入した。炉を窒素下で加熱した。取得スキャン速度は、サーモグラムヘッダーに記録され、加熱範囲は、個々のプロットから決定することができる。
【0128】
赤外線(IR)分光法
Ever-Glo中/遠IR源、臭化カリウム(KBr)ビームスプリッター、及びテルル化カドミウム水銀(MCT-A)検出器を備えたMagna-IR560(登録商標)フーリエ変換赤外線(FT-IR)分光光度計(Thermo Nicolet)に接続されたTA Instruments Q5000IR熱重量分析(TG)分析器に対して熱重量赤外線(TG-IR)分析を行った。FT-IR波長検証は、ポリスチレンを使用して行い、TG較正標準物は、ニッケル及びAlumel(商標)であった。試料を白金試料鍋に入れ、鍋をTG炉に挿入した。まずTG機器を開始し、直後にFT-IR機器を開始した。TG機器は、パージ及びバランスのためにそれぞれ90及び10cc/分のヘリウム流下で操作した。炉をヘリウム下で20℃/分の速度で350℃の最終温度まで加熱した。IRスペクトルを約16秒毎に約13分間収集した。各IRスペクトルは、4cm-1のスペクトル分解能で収集された16の共添加スキャンを表す。高分解能Nicolet蒸気相スペクトルライブラリの検索から揮発物を特定した。
【0129】
実施例1:ラセミ化合物54eの合成プロトコル
WO2015/134998及び米国特許出願公開第2017/0073314A1号(ともに参照により組み込まれる)から再現
【化3】
1-(3-(アミノメチル)フェニル)-N-(5-((3-シアノフェニル)(シクロプロピル-メチルアミノ)メチル)-2-フルオロフェニル)-3-(トリフルオロメチル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド(54e)の調製
【0130】
ステップ1:3-((3-アミノ-4-フルオロフェニル)(ヒドロキシ)メチル)ベンゾニトリル(54b)の調製
0℃に冷却されたテトラヒドロフラン(200mL)中の3-ホルミルベンゾニトリル(54a)(29g、217mmol)の溶液に、調製したばかりのグリニャール試薬(52c)(THF中245mL、221mmol、約0.9M)を添加し、0℃で1時間、室温で18時間撹拌した。反応混合物を1N HCl(水性440mL)でクエンチし、3時間撹拌し、NaOH(2N、水性)でpH=約8まで中和した。反応混合物を酢酸エチル(600、300mL)で抽出した。組み合わせた抽出物をブライン(120mL)で洗浄し、MgSO4で乾燥させ、濾過し、真空中で濃縮した。粗生成物をフラッシュカラムクロマトグラフィー[シリカゲル、ヘキサン/酢酸エチル(1:0~1:1)で溶出]によって精製して、3-((3-アミノ-4-フルオロフェニル)(ヒドロキシ)メチル)ベンゾニトリル(54b)(36.28g)を褐色のガムとして得、これをそのまま次のステップに使用した;MS (ES+) 265.3 (M+23)。
【0131】
ステップ2:tert-ブチル3-(5-(5-((3-シアノフェニル)(ヒドロキシ)メチル)-2-フルオロフェニルカルバモイル)-3-(トリフルオロメチル)-1H-ピラゾール-1-イル)ベンジルカルバメート(54c)の調製
DMF(480mL)中の3-((3-アミノ-4-フルオロフェニル)(ヒドロキシ)メチル)ベンゾニトリル(54b)(24.682g、102mmol)の溶液に、1-(3-((tert-ブトキシカルボニルアミノ)メチル)フェニル)-3-(トリフルオロメチル)-1H-ピラゾール-5-カルボン酸(10d)(35.0g、91mmol)、N-エチル-N-イソプロピルプロパン-2-アミン(132mL、758mmol)、ブロモトリピロリジン-1-イルホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(V)(PyBrOP、42.8g、91mmol)を添加し、室温で19時間撹拌した。反応混合物を酢酸エチル(1000mL)、水(500、400mL)、ブライン(400mL)で洗浄し、MgSO4で乾燥させ、濾過し、真空中で濃縮した。粗生成物をフラッシュカラムクロマトグラフィー[シリカゲル、ヘキサン/酢酸エチル(1:0~1:1)で溶出]によって精製して、tert-ブチル3-(5-(5-((3-シアノフェニル)(ヒドロキシ)メチル)-2-フルオロフェニルカルバモイル)-3-(トリフルオロメチル)-1H-ピラゾール-1-イル)ベンジルカルバメート(54c)(4.583g、2ステップで5%)を黄色の固体として得た;1H NMR (300 MHz, DMSO-d6) δ 10.57 (s, 1H),7.81 (t, J = 1.7 H, 1H), 7.73 - 7.66 (m, 2H), 7.64 - 7.19 (m, 10H), 6.25 (d, J = 4.0 Hz, 1H), 5.78 (d, J = 4.0 Hz, 1H), 4.19 (d, J = 6.1 Hz, 2H), 1.37 (s, 9H); 19FNMR (282 MHz, DMSO-d6) δ -60.81, -123.09; MS (ES+) 632.3 (M+23)。
【0132】
ステップ3:tert-ブチル3-(5-(5-((3-シアノフェニル)(シクロプロピルメチルアミノ)メチル)-2-フルオロフェニルカルバモイル)-3-(トリフルオロメチル)-1H-ピラゾール-1-イル)ベンジルカルバメート(54d)の調製
0℃のジクロロメタン(40mL)中のtert-ブチル3-(5-(5-((3-シアノフェニル)(ヒドロキシ)メチル)-2-フルオロフェニルカルバモイル)-3-(トリフルオロメチル)-1H-ピラゾール-1-イル)ベンジルカルバメート(54c)(1.333g、2.187mmol)の溶液に、塩化チオニル(0.340mL、4.59mmol)を添加し、2時間かけて室温に温めた。反応混合物をトリエチルアミン(2.0mL、14.35mmol)でクエンチし、室温で1時間撹拌した。次いで、それをシクロプロピルメタンアミン(4.30mL、48.0mmol)で処理し、濃縮して、ジクロロメタンの大部分を除去し、続いてアセトニトリル(30mL)を添加し、70℃で14時間撹拌し、真空中で濃縮乾固させた。残渣をクロロホルム(200mL)で処理し、水(100mL)で洗浄し、MgSO4で乾燥させ、続いて濾過及び濃縮した。粗生成物をフラッシュカラムクロマトグラフィー[シリカゲル、ヘキサン/酢酸エチル(1:0~2:1)で溶出]によって精製して、tert-ブチル3-(5-(5-((3-シアノフェニル)(シクロプロピルメチルアミノ)メチル)-2-フルオロフェニルカルバモイル)-3-(トリフルオロメチル)-1H-ピラゾール-1-イル)ベンジルカルバメート(54d)(184mg、13%)を無色のガムとして得た;1H NMR (300 MHz, DMSO-d6) δ 10.56 (s, 1H), 7.89 (t, J = 1.7 Hz, 1H), 7.77 - 7.71 (m, 1H), 7.70 - 7.30 (m, 10H), 7.22 (dd, J = 10.3, 8.5 Hz, 1H), 4.93 (s, 1H), 4.19 (d, J = 6.2 Hz,2H), 2.26 (d, J = 6.6 Hz, 2H), 1.37 (s, 9H), 1.00 - 0.80 (m, 1H), 0.45 - 0.28 (m, 2H), 0.12 - 0.01 (m, 2H); 19F NMR (282 MHz, DMSO-d6) δ -60.80, -123.20; MS (ES+) 663.4 (M+1)。
【0133】
ステップ4:1-(3-(アミノメチル)フェニル)-N-(5-((3-シアノフェニル)(シクロプロピル-メチルアミノ)メチル)-2-フルオロフェニル)-3-(トリフルオロメチル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド(54e)の調製
1,4-ジオキサン(18mL)中のtert-ブチル3-(5-(5-((3-シアノフェニル)(シクロプロピルメチルアミノ)メチル)-2-フルオロフェニルカルバモイル)-3-(トリフルオロメチル)-1H-ピラゾール-1-イル)ベンジルカルバメート(54d)(161mg、0.243mmol)の溶液に、塩化水素(1,4-ジオキサン中2.60mL、10.40mmol、4M)を添加し、室温で16時間撹拌した。反応混合物をヘキサンで処理し、デカントし、ヘキサンで洗浄し、再びデカントした。不溶性粗生成物をフラッシュカラムクロマトグラフィー[シリカゲル、クロロホルム/CMA80(1:0~2:1)で溶出]によって精製して、1-(3-(アミノメチル)フェニル)-N-(5-((3-シアノフェニル)(シクロプロピル-メチルアミノ)メチル)-2-フルオロフェニル)-3-(トリフルオロメチル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド(54e)を得た。純粋な生成物をメタノール(10mL)に溶解し、4N HCl(水性0.14mL)を添加し、続いて真空中で濃縮乾固させて、1-(3-(アミノメチル)フェニル)-N-(5-((3-シアノフェニル)(シクロプロピル-メチルアミノ)メチル)-2-フルオロフェニル)-3-(トリフルオロメチル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド(54e)(74mg、48%)白色固体のHCl塩を得た;1H NMR (300 MHz, DMSO-d6, D2O ex NMR) δ 8.13 (t, J = 1.7 Hz, 1H), 7.98 - 7.84 (m, 3H), 7.73 - 7.64 (m, 3H), 7.63 - 7.48 (m, 4H), 7.44 (d, J = 10.2, 8.6 Hz, 1H), 5.75 (s, 1H), 4.12 (s, 2H), 2.76 (d, J = 7.2 Hz, 2H), 1.17 - 0.94 (m, 1H), 0.68 - 0.47 (m, 2H), 0.34 - 0.24 (m, 2H); 19F NMR (282 MHz, DMSO-d6) δ -60.82, -120.02; MS (ES+): 563.3 (M+1); 分析C30H26F4N6O・2.0HCl・3.0H2Oについての計算値: C, 52.26; H, 4.97; N, 12.19; 実測値: C, 52.26; H, 5.00; N, 11.72。
【0134】
実施例2:ラセミ化合物54eのエナンチオマーの分離
WO2015/134998及び米国特許出願公開第2017/0073314A1号(ともに参照により組み込まれる)から再現
【化4】
(+)-1-(3-(アミノメチル)フェニル)-N-(5-((3-シアノフェニル)(シクロプロピル-メチルアミノ)メチル)-2-フルオロフェニル)-3-(トリフルオロメチル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド(化合物I)、及び(-)-1-(3-(アミノメチル)フェニル)-N-(5-((3-シアノフェニル)(シクロプロピル-メチルアミノ)メチル)-2-フルオロフェニル)-3-(トリフルオロメチル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド((-)-エナンチオマー)の分離
ラセミ1-(3-(アミノメチル)フェニル)-N-(5-((3-シアノフェニル)(シクロプロピル-メチルアミノ)メチル)-2-フルオロフェニル)-3-(トリフルオロメチル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド(54e)(0.4g)の異性体を、以下を備える条件を使用する分取SFC法を使用することによって分離した:
使用される分取SFC法:
Regis Technologies(Morton Grove,IL)製カラム20mm×25.0cm ChromegaChiral CCS
CO
2共溶媒(溶媒B)メタノール:1%イソプロピルアミンを含むイソプロパノール(1:1)
アイソクラティック法80mL/分での20%共溶媒
システム圧力200バール
カラム温度25℃
試料希釈剤メタノール:イソプロパノール
ピークのキラル純度を、以下の分析SFC法によって決定した:
Chiral Technologies(West Chester,PA)製カラム4.6×100mm ChiralPak AS
CO
2共溶媒(溶媒B)メタノール:0.1%イソプロピルアミンを含むイソプロパノール(1:1)
アイソクラティック法4mL/分での5~65%共溶媒勾配
システム圧力100バール
カラム温度25℃
試料希釈剤メタノール
ピーク-1(化合物I)2.1分144mg>95%ee(UV 254)98.6%純度(UV254)
ピーク-2((-)-エナンチオマー)2.4分172mg 95.5%ee(UV254)96.5%純度(UV254)
【0135】
1.(+)-1-(3-(アミノメチル)フェニル)-N-(5-((3-シアノフェニル)(シクロプロピル-メチルアミノ)メチル)-2-フルオロフェニル)-3-(トリフルオロメチル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド(化合物I)(144mg、>95%ee)遊離塩基として白色の固体として割り当てられたピーク-1;光学回転:[α]D=(+)6.83[CH3OH、1.2];1H NMR (300 MHz, DMSO-d6) δ 10.53 (s, 1H, D2O交換可能), 7.88 (t, J = 1.7Hz, 1H), 7.77 - 7.71 (m, 1H), 7.67 (dt, J = 7.7, 1.4 Hz, 1H), 7.63 (dd, J = 7.5, 2.1 Hz, 1H), 7.56 (s, 1H), 7.54 - 7.47 (m, 2H), 7.47 - 7.38 (m, 2H), 7.34 (ddt, J = 8.6, 5.9, 2.8 Hz, 2H), 7.22 (dd, J = 10.3, 8.5 Hz, 1H), 4.93 (s, 1H), 3.77 (s, 2H), 2.31 - 2.21 (m, 2H), 0.97 - 0.80 (m, 1H), 0.42 - 0.33 (m, 2H), 0.10 - -0.02 (m, 2H); 19F NMR (282 MHz, DMSO-d6) δ -60.73, -123.20; MS (ES+) 563.3 (M+1), 561.3 (M-1)。メタノール(15mL)中の(+)-1-(3-(アミノメチル)フェニル)-N-(5-((3-シアノフェニル)(シクロプロピル-メチルアミノ)メチル)-2-フルオロフェニル)-3-(トリフルオロメチル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド(化合物I)(120mg)の遊離塩基混合物の溶液に、塩化水素(0.969mL、1.938mmol)を添加し、室温で10分間撹拌し、蒸発乾固させて、(+)-1-(3-(アミノメチル)フェニル)-N-(5-((3-シアノフェニル)(シクロプロピル-メチルアミノ)メチル)-2-フルオロフェニル)-3-(トリフルオロメチル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド(化合物I)(100mg)塩酸塩を白色の固体として得た;1H NMR (300 MHz, DMSO-d6) δ 10.84 (s, 1H, D2O交換可能), 10.44 (s, 2H, D2O交換可能), 8.44 (s, 3H, D2O交換可能), 8.30 (s, 1H, D2O交換可能), 8.09 (d, J = 7.9 Hz, 1H), 7.99 (d, J = 6.8 Hz, 1H), 7.91 - 7.83 (m, 1H), 7.80 - 7.50 (m, 7H), 7.42 (dd, J = 10.3, 8.6 Hz, 1H), 5.78 (d, J = 6.9 Hz, 1H), 4.13 (d, J = 5.7 Hz, 2H), 2.88 - 2.62 (m, 2H), 1.42 - 0.99 (m, 1H), 0.73 - 0.46 (m, 2H), 0.32 (d, J = 4.4 Hz, 2H); 19F NMR (282 MHz, DMSO-d6) δ -60.81, -119.99; MS (ES+): MS (ES+) 563.3 (M+1), MS (ES-) 561.3 (M-1), 597.3 (M+Cl); 分析C30H26F4N6O・2HCl・1.75H2Oについての計算値: C, 54.02; H, 4.76; Cl, 10.63; N, 12.60; 実測値: C, 54.12; H, 4.83; Cl, 10.10; N, 11.97。
【0136】
2.(-)-1-(3-(アミノメチル)フェニル)-N-(5-((3-シアノフェニル)(シクロプロピル-メチルアミノ)メチル)-2-フルオロフェニル)-3-(トリフルオロメチル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド((-)-エナンチオマー)(172mg、95.5%ee)として遊離塩基として割り当てられたピーク-2を、フラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル12g、クロロホルム中0~30%MeOHを15分間溶出)によって再精製して、(-)-1-(3-(アミノメチル)フェニル)-N-(5-((3-シアノフェニル)(シクロプロピル-メチルアミノ)メチル)-2-フルオロフェニル)-3-(トリフルオロメチル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド((-)-エナンチオマー)遊離塩基をオフホワイトの固体として得た;光学回転:[α]D=(-)5.44[CH3OH、1.25];1H NMR (300 MHz, DMSO-d6) δ 7.88 (t, J = 1.6 Hz, 1H), 7.74 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 7.70 - 7.61 (m, 2H), 7.57 (s, 1H), 7.54 - 7.47 (m, 2H), 7.45 - 7.41 (m, 2H), 7.34 (ddq, J = 8.7, 6.1, 3.5, 2.8 Hz, 2H), 7.22 (dd, J = 10.3, 8.5 Hz, 1H), 4.93 (s, 1H), 3.78 (s, 2H), 2.25 (d, J = 6.9 Hz, 2H), 0.90 (ddd, J = 9.8, 8.0, 5.2 Hz, 1H), 0.47 - 0.29 (m, 2H), 0.04 (dd, J = 5.0, 1.5 Hz, 2H); 19F NMR (282 MHz, DMSO-d6) δ -60.73, -123.19; MS (ES+) 563.3 (M+1), MS (ES-), 561.3 (M-1)。メタノール(15mL)中の(-)-1-(3-(アミノメチル)フェニル)-N-(5-((3-シアノフェニル)(シクロプロピル-メチルアミノ)メチル)-2-フルオロフェニル)-3-(トリフルオロメチル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド((-)-エナンチオマー)(0.124g、0.220mmol)の遊離塩基の溶液に、塩化水素(1.102mL、2.204mmol)を添加し、室温で10分間撹拌し、蒸発乾固させて、(-)-1-(3-(アミノメチル)フェニル)-N-(5-((3-シアノフェニル)(シクロプロピル-メチルアミノ)メチル)-2-フルオロフェニル)-3-(トリフルオロメチル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド((-)-エナンチオマー)(0.121g)塩酸塩をオフホワイトの固体として得た;1H NMR: 1H NMR (300 MHz, DMSO-d6) δ 10.82 (s, 1H, D2O交換可能), 10.36 (s, 2H, D2O交換可能), 8.38 (s, 3H, D2O交換可能), 8.27 (s, 1H), 8.06 (d, J = 7.9 Hz, 1H), 7.98 (d, J = 6.7 Hz, 1H), 7.87 (d, J = 7.7 Hz, 1H), 7.78 - 7.49 (m, 7H), 7.48 - 7.37 (m, 1H), 5.78 (s, 1H), 4.13 (d, J = 5.7 Hz, 2H), 2.72 (s, 2H), 1.14 (s, 1H), 0.56 (d, J = 7.7 Hz, 2H), 0.31 (d, J = 5.0 Hz, 2H); 19F NMR (282 MHz, DMSO-d6) δ -60.82, -120.03; MS (ES+): MS (ES+) 563.3 (M+1), MS (ES-), 561.3 (M-1), 597.2 (M+Cl); 分析C30H26F4N6O.2HCl.1.75H2Oについての計算値: C, 54.02; H, 4.76; Cl, 10.63; N, 12.60; 実測値: C, 54.12; H, 4.83; Cl, 10.10; N, 11.97。
【0137】
実施例3:化合物I・2(HCl)の種結晶の調製
メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)(1当量)中の化合物I(実施例2参照)の溶液を、メタノール(冷)中のHCl(水性)(2当量)の溶液に添加し、続いて約30℃に加熱し、約115rpmで撹拌しながら5時間以下にわたって約30℃で維持する。化合物Iビス(HCl)を濾過によって回収し、乾燥させる。得られた結晶材料を、実施例4に記載される結晶化プロトコルの種として使用することができる。
【0138】
実施例4:化合物I・2(HCl)の大規模合成及び結晶化プロトコル
【化5】
37%水性塩酸(38.1kg、32.3L、2.14当量)を清潔な空の結晶化容器に入れ、メタノール(228.9kg、39.5当量)を添加し、内容物を-7±3℃に冷却した。MTBE(約1,300L)中の化合物I遊離塩基(約101.8kg、180.9モル)の溶液を、ポリッシュフィルターを通して温度-5±5℃の結晶化容器に濾過した。MTBEですすいだ後、予め秤量した化合物I・2(HCl)種結晶(1.39kg、0.012当量、実施例3)をマンホールを介して結晶化容器に入れた。容器内容物を30~33℃に加熱し、撹拌速度を25~50rpmに設定した。結晶化が確認された後、スラリーをさらに3~4時間撹拌した。生成物スラリーを遠心分離機に移し、遠心分離によって単離した。生成物をMTBE(585L)で洗浄した。湿った生成物、化合物I・2(HCl)をスピン乾燥させた後、それを遠心分離機から排出し、生成物をコーンドライヤーにおいて真空下≦40℃で乾燥させた。生成物化合物I・2(HCl)収率:100kg、157.4mol、約85%。
1H NMR(300MHz、DMSO-d
6)データを次の表に示す:
19F NMR(282MHz、DMSO-d
6)データを次の表に示す:
【0139】
化合物Iは、2つの塩基性部位を有する。第一級アミンの共役酸は、8.89のpKa値を有することが計算され、第二級アミンの共役酸は、7.86のpKa値を有することが計算された。
【0140】
化合物I・2(HCl)のXRPDパターンを
図1に示す。化合物I・2(HCl)は、5.28、8.96、14.27、16.18、19.79、21.16、22.01、23.31、24.64、及び30.31の2つシータ(°2θ)の値でそのXRPDパターンにおいて特徴的なピークを有する。
【0141】
TG-IR分析は、2つの異なる重量減少領域を示した:第1は125℃までに完了し、第2は約208℃で開始した。この実験からのオフガスのIR分析は、初期重量減少時に微量の水のみを検出し、HClガスは、208℃事象で検出された。試料中に他の溶媒は検出されなかった。よって、化合物I・2(HCl)は、加熱されると最初に水を失い、200℃超に加熱されると、塩が分解し始め、HClガスが発生することが決定された。全てのこれらの事象のIRシグナルは、非常に弱く、特定の温度ではなく、範囲にわたって発生していることを示す。例示的なTG-IRスペクトルを
図2に示す。
【0142】
実施例5:化合物アッセイ
ヒト血漿カリクレイン活性の阻害を測定するインビトロ生化学アッセイにおいて、化合物Iをアッセイした。アッセイの実験プロトコル及び結果は、WO2015/134998及び米国特許出願公開第2017/0073314A1号(ともに参照により組み込まれる)に見られる。この生化学アッセイの結果は、化合物Iがヒト血漿カリクレイン活性の強力な阻害剤であることを実証する。
【0143】
実施例6:健康な対象における化合物I・2(HCl)の薬物動態
第I相、二重盲検、プラセボ対照用量範囲研究の一部として、化合物I・2(HCl)の複数回漸増経口用量の薬物動態を健康な対象において評価した。4つの漸増用量コホートを順次投与のために登録した。開始時に、12人の対象を、以下の用量レジメン:コホート1では125mgの化合物I・2(HCl)もしくはプラセボ1日1回(QD)7日間、コホート2では250mgの化合物I・2(HCl)もしくはプラセボQD7日間、コホート3では500mgの化合物I・2(HCl)もしくはプラセボQD7日間、またはコホート4では350mgの化合物I・2(HCl)もしくはプラセボQD14日間に従った、7日間または14日間の試験薬物の投与のために各コホートに無作為化した(n=10/コホートが化合物I・2(HCl)を受け、n=2/コホートがマッチングプラセボを受けた)。全体として、化合物I・2(HCl)の複数回用量を受ける40人の対象のうち37人は、それぞれの用量レジメンを完了し、7日目または14日目のいずれかでPKパラメータの評価に対応可能であった。
【0144】
7日目または14日目の用量投与前、及びその後24時間にわたる薬物動態分析のために連続血液試料を採取した。化合物I・2(HCl)濃度の決定のための血漿試料を、検証されたLC-MS/MS(タンデム質量分析法を用いた液体クロマトグラフィー)生体分析アッセイを使用して分析した。
【0145】
125、250、及び500mgQDでの化合物I・2(HCl)のQD経口投与後7日目、ならびに350mgQDでの化合物I・2(HCl)のQD経口投与後14日目の血漿化合物I・2(HCl)濃度対時間プロファイルを
図3に示す。
【0146】
表1は、化合物I・2(HCl)の7日または14日の複数回経口用量後の血漿薬物動態パラメータ[薬物投与後の最大(ピーク)血漿薬物濃度(Cmax)、最大(ピーク)血漿薬物濃度に達するまでの時間(観察された時点)(Tmax)、投与間隔の終了時に観察されたトラフ血漿濃度(Ctau)、及び投与間隔にわたる血漿濃度-時間曲線下面積(AUCtau)]の要約を提供する。
【0147】
【0148】
最大血漿化合物I・2(HCl)濃度は、投与後約2~6時間で達成された。125mgから250mgQDへ、及び250mgから500mgQDへの投与量の増加は、妥当な用量比例性を与えた。全4倍の用量範囲にわたって、曝露は、それぞれAUCtau及びCmaxの幾何平均値の5.1倍及び5.3倍増加で、用量比例的様式よりもわずかに大きく増加した。
【0149】
参照による組み込み
本明細書に言及された全ての米国特許ならびに米国及びPCT公開特許出願は、各個々の特許または公開出願が参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示されたかのように、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。矛盾する場合、本明細書の任意の定義を含む本出願が優先される。
【0150】
等価物
本発明の特定の実施形態が議論されているが、上記明細書は、例示的であり、制限的ではない。本発明の多くの変形は、本明細書及び以下の特許請求の範囲を見直すと、当業者に明らかになるであろう。本発明の全範囲は、特許請求の範囲、それらの等価物の全範囲、及び本明細書を、そのような変形とともに、参照することによって決定されるべきである。
【国際調査報告】