(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-14
(54)【発明の名称】機能的な創傷治療ドレッシング材
(51)【国際特許分類】
A61L 15/22 20060101AFI20220106BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20220106BHJP
A61L 15/26 20060101ALI20220106BHJP
A61L 15/32 20060101ALI20220106BHJP
A61L 15/28 20060101ALI20220106BHJP
A61L 15/42 20060101ALI20220106BHJP
A61L 15/44 20060101ALI20220106BHJP
A61L 15/64 20060101ALI20220106BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20220106BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220106BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20220106BHJP
A61K 38/18 20060101ALI20220106BHJP
A61K 38/28 20060101ALI20220106BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20220106BHJP
A61K 47/59 20170101ALI20220106BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20220106BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20220106BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20220106BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20220106BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20220106BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
A61L15/22 310
A61P17/02
A61L15/26 100
A61L15/32 310
A61L15/28 100
A61L15/42 100
A61L15/42 310
A61L15/44 100
A61L15/64 100
A61K45/06
A61P43/00 121
A61K38/02
A61K38/18
A61K38/28
A61K9/70 401
A61K47/59
A61K47/64
A61K47/34
A61K47/42
A61K47/36
A61K47/10
A61K39/395 N
A61K39/395 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021522426
(86)(22)【出願日】2019-10-24
(85)【翻訳文提出日】2021-06-17
(86)【国際出願番号】 US2019057810
(87)【国際公開番号】W WO2020086812
(87)【国際公開日】2020-04-30
(32)【優先日】2018-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519070703
【氏名又は名称】ソムニオ グローバル ホールディングス,エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】SOMNIO GLOBAL HOLDINGS, LLC
【住所又は居所原語表記】45145 W. 12 Mile Road, Novi, MI 48377, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【氏名又は名称】笹沼 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100187469
【氏名又は名称】藤原 由子
(72)【発明者】
【氏名】モハンティ・プラバンス
(72)【発明者】
【氏名】ワン・ズオラン
(72)【発明者】
【氏名】ダス・サブヘンドゥ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C084
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA74
4C076AA94
4C076BB31
4C076CC19
4C076CC41
4C076EE10
4C076EE12
4C076EE12M
4C076EE23
4C076EE23A
4C076EE30
4C076EE30A
4C076EE41
4C076EE41M
4C076EE47
4C076EE48
4C076EE48M
4C076EE59
4C076EE59M
4C076FF01
4C076FF31
4C081AA02
4C081AA12
4C081BA12
4C081BA16
4C081BB06
4C081CA171
4C081CA172
4C081CA181
4C081CA182
4C081CD011
4C081CD012
4C081CD121
4C081CD122
4C081CE02
4C081DA02
4C081DB03
4C081DC02
4C081DC04
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA37
4C084BA41
4C084BA44
4C084CA18
4C084DA41
4C084DB34
4C084DB52
4C084MA02
4C084MA05
4C084MA32
4C084MA63
4C084NA12
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZB112
4C084ZB352
4C084ZC032
4C084ZC352
4C084ZC751
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB31
4C085CC22
4C085CC23
4C085EE01
4C085EE05
(57)【要約】
【課題】皮膚創傷、糖尿病性潰瘍、その他の治療部位のような所望の作用部位への、1種以上の活性成分の送達を向上させることによって、創傷治癒を促進させる。
【解決手段】本発明に係る創傷ドレッシング材は、任意の接着剤層と、活性成分徐放送達層と、を備え、前記活性成分徐放送達層は、水安定性ポリマー及び生分解性ポリマーを有し、前記水安定性ポリマーは、当該水安定性ポリマーに対して非晶化された1種以上の活性成分を含み、前記活性成分徐放送達層は、治療の間に、前記生分解性ポリマーが1種又は複数種の活性成分を創傷部位に対して放出し得るように構成されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
創傷ドレッシング材であって、
任意の接着剤層と、
活性成分徐放送達層と、を備え、
前記活性成分徐放送達層は、水安定性ポリマー及び生分解性ポリマーを有し、
前記水安定性ポリマーは、当該水安定性ポリマーに対して非晶化された1種以上の活性成分を含み、
前記活性成分徐放送達層は、治療の間に、前記生分解性ポリマーが1種又は複数種の活性成分を創傷部位に対して放出し得るように構成されている、創傷ドレッシング材。
【請求項2】
請求項1に記載の創傷ドレッシング材であって、前記水安定性ポリマー及び前記生分解性ポリマーは、織り合わされた交互の層に存在する、創傷ドレッシング材。
【請求項3】
請求項1に記載の創傷ドレッシング材であって、前記水安定性ポリマー及び前記生分解性ポリマーは、前記活性成分徐放送達層の全体において織り合わされている、創傷ドレッシング材。
【請求項4】
請求項1に記載の創傷ドレッシング材であって、前記水安定性ポリマーは、コラーゲン、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、乳酸-グリコール酸共重合体、又はそれらの組み合わせを含む、創傷ドレッシング材。
【請求項5】
請求項1に記載の創傷ドレッシング材であって、前記生分解性ポリマーが水に対し少なくとも30分にわたって50重量%又はそれ以上に溶解する、創傷ドレッシング材。
【請求項6】
請求項1に記載の創傷ドレッシング材であって、前記生分解性ポリマーが、エチレンオキシド、多糖、又はそれらの組み合わせを含む、創傷ドレッシング材。
【請求項7】
請求項1に記載の創傷ドレッシング材であって、前記生分解性ポリマーが、ポリエチレンオキシド、プルラン、又はそれらの組み合わせを含む、創傷ドレッシング材。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の創傷ドレッシング材であって、前記活性成分徐放送達層は、第2の活性成分を含み、当該第2の活性成分は第1の活性成分とは異なる、創傷ドレッシング材。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか一項に記載の創傷ドレッシング材であって、前記活性成分が、抗菌ペプチド、抗体、成長因子、インスリン、又はそれらの組み合わせを含む、創傷ドレッシング材。
【請求項10】
請求項1から7のいずれか一項に記載の創傷ドレッシング材であって、前記活性成分が前記水安定性ポリマーに対して共有結合している、創傷ドレッシング材。
【請求項11】
請求項1から7のいずれか一項に記載の創傷ドレッシング材であって、前記活性成分が前記水安定性ポリマー又は前記生分解性ポリマーに対して共有結合していない、創傷ドレッシング材。
【請求項12】
請求項1から7のいずれか一項に記載の創傷ドレッシング材であって、前記活性成分徐放送達層は、2種以上の活性成分を含み、第1の活性成分は前記水安定ポリマーに対して共有結合し、第2の活性成分は前記水安定性ポリマーに対しても前記生分解性ポリマーに対しても共有結合していない、創傷ドレッシング材。
【請求項13】
請求項12に記載の創傷ドレッシング材であって、前記第1の活性成分及び前記第2の活性成分が、それぞれ独立して、抗菌ペプチド、抗体、成長因子、インスリン、又はそれらの組み合わせを含む、創傷ドレッシング材。
【請求項14】
請求項12に記載の創傷ドレッシング材であって、前記第1の活性成分が、抗体、抗菌ペプチド、又はそれらの組み合わせである、創傷ドレッシング材。
【請求項15】
請求項12に記載の創傷ドレッシング材であって、前記第2の活性成分は、成長因子、インスリン、抗体、抗炎症剤、又はそれらの組み合わせである、創傷ドレッシング材。
【請求項16】
請求項1から7のいずれか一項に記載の創傷ドレッシング材であって、速放層を更に備え、当該速放層は、前記活性成分徐放送達層の接着剤層とは反対側に隣接している、創傷ドレッシング材。
【請求項17】
請求項16に記載の創傷ドレッシング材であって、前記速放層は水溶解性ポリマーを有する、創傷ドレッシング材。
【請求項18】
請求項17に記載の創傷ドレッシング材であって、前記水溶解性ポリマーは、ポリエチレングリコールを含む、創傷ドレッシング材。
【請求項19】
請求項16に記載の創傷ドレッシング材であって、スキャホールド層を更に備え、当該スキャホールド層は、前記活性成分徐放送達層の前記反対側において、前記速放層に隣接している、創傷ドレッシング材。
【請求項20】
請求項19に記載の創傷ドレッシング材であって、前記スキャホールド層はコラーゲンを含む、創傷ドレッシング材。
【請求項21】
請求項19に記載の創傷ドレッシング材であって、前記スキャホールド層は、1種以上の活性成分を含む、創傷ドレッシング材。
【請求項22】
請求項21に記載の創傷ドレッシング材であって、1種以上の活性成分は前記スキャホールド層において非晶化される、創傷ドレッシング材。
【請求項23】
請求項19~22のいずれか一項に記載の創傷ドレッシング材であって、前記活性成分は、抗菌ペプチド、抗体、成長因子、インスリン、またはそれらの組み合わせを含む、創傷ドレッシング材。
【請求項24】
請求項23に記載の創傷ドレッシング材であって、前記スキャホールド層は成長因子を含む、創傷ドレッシング材。
【請求項25】
請求項19に記載の創傷ドレッシング材であって、前記スキャホールド層は、1種以上のオメガ-3-脂肪酸を含む、創傷ドレッシング材。
【請求項26】
請求項19に記載の創傷ドレッシング材であって、前記スキャホールド層は、体液又は水と接触する前記速放層の表面において前記速放層から放出可能である、創傷ドレッシング材。
【請求項27】
請求項19に記載の創傷ドレッシング材であって、前記スキャホールド層は、当該スキャホールド層内における1又は複数の内皮細胞の移動を可能とするのに十分な多孔性を有する、創傷ドレッシング材。
【請求項28】
請求項19に記載の創傷ドレッシング材であって、前記スキャホールド層は魚由来の無細胞コラーゲンである、創傷ドレッシング材。
【請求項29】
請求項1から27のいずれか一項に記載の創傷ドレッシング材であって、前記活性成分徐放送達層及び前記スキャホールド層のいずれもが成長因子を有し、当該成長因子は、前記活性成分徐放送達層又はスキャホールド層のいずれに対しても共有結合していない、創傷ドレッシング材。
【請求項30】
請求項29に記載の創傷ドレッシング材であって、前記活性成分徐放送達層は抗菌ペプチド又は抗体を含み、前記抗菌ペプチド、前記抗体、又はそれらの両方が、任意に、前記活性成分徐放送達層と共有結合し、又は共有結合していない、創傷ドレッシング材。
【請求項31】
請求項29に記載の創傷ドレッシング材であって、前記活性成分徐放送達層は、抗体、インスリン、又はそれらの両方を更に含む、創傷ドレッシング材。
【請求項32】
請求項29に記載の創傷ドレッシング材であって、前記スキャホールド層は、抗体、インスリン、又はそれらの両方を有する、創傷ドレッシング材。
【請求項33】
創傷ドレッシング材であって、
活性成分徐放送達層であって、当該活性成分徐放送達層は水安定性ポリマー及び生分解性ポリマーを有し、水安定性ポリマーは当該水安定性ポリマーに対して非晶化された1種以上の活性成分を含み、前記活性成分徐放送達層は、前記生分解性ポリマーが、治療の間に1種又は複数種の活性成分を創傷部位に放出するように構成された、活性成分徐放送達層と、
速放層であって、前記活性成分徐放送達層に結合した速放層と、
スキャホールド層であって、当該スキャホールド層は前記速放層に結合され、体液との接触時に創傷ドレッシング材から放出可能であるように構成される、スキャホールド層と、
を備える、創傷ドレッシング材。
【請求項34】
請求項33に記載の創傷ドレッシング材であって、前記水安定性ポリマーが、コラーゲン、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、乳酸-グリコール酸共重合体、又はそれらの組み合わせを含む、創傷ドレッシング材。
【請求項35】
請求項33に記載の創傷ドレッシング材であって、前記生分解ポリマーは少なくとも30分にわたって水に50重量%以上溶解する、創傷ドレッシング材。
【請求項36】
請求項33に記載の創傷ドレッシング材であって、前記生分解性ポリマーが、エチレンオキシド、プルラン、又はそれらの組み合わせを含む、創傷ドレッシング材。
【請求項37】
請求項33に記載の創傷ドレッシング材であって、前記スキャホールド層は、当該スキャホールド層に非晶化された第2の活性成分をさらに含み、当該第2の活性成分が前記第1の活性成分とは異なるか、又は前記第1の活性成分と同じである、創傷ドレッシング材。
【請求項38】
請求項33に記載の創傷ドレッシング材であって、前記活性成分徐放送達層は2種以上の活性成分を含み、第1の活性成分は前記水安定性ポリマーに対して共有結合し、第2の活性成分は、前記水安定性ポリマー又は前記生分解性ポリマーのいずれに対しても供給結合しない、創傷ドレッシング材。
【請求項39】
請求項33から38のいずれか一項に記載の創傷ドレッシング材であって、前記活性成分は、抗菌ペプチド、抗体、成長因子、インスリン、又はそれらの組み合わせを含む、創傷ドレッシング材。
【請求項40】
請求項33から38のいずれか一項に記載の創傷ドレッシング材であって、スキャホールド層はコラーゲンを含む、創傷ドレッシング材。
【請求項41】
請求項33から38のいずれか一項に記載の創傷ドレッシング材であって、前記スキャホールド層は、1種又は複数種のオメガ-3-脂肪酸を含む、創傷ドレッシング材。
【請求項42】
請求項33から38のいずれか一項に記載の創傷ドレッシング材であって、前記スキャホールド層は、当該スキャホールド層内における1又は複数の内皮細胞の移動を可能とするのに十分な多孔性を有する、創傷ドレッシング材。
【請求項43】
対象の創傷の治癒を促進する方法であって、
請求項1から42のいずれか一項に記載の第1の創傷ドレッシング材を、第1の治療時間にわたって、対象の創傷に適用する、方法。
【請求項44】
請求項43に記載の方法であって、
前記第1の創傷手当て用品を除去し、
請求項1から42のいずれか一項に記載の第2の創傷ドレッシング材を、第2の治療時間にわたって、前記創傷に適用する、方法。
【請求項45】
請求項43又は44に記載の方法であって、
前記第1の創傷手当て用品は
活性成分徐放送達層であって、当該活性成分徐放送達層は水安定性ポリマー及び生分解性ポリマーを備え、前記水安定性ポリマーは当該水安定性ポリマーに対して非晶化された1つ又は複数の活性成分を含み、前記活性成分徐放送達層は、第1の治療時間にわたって、生分解性ポリマーが治療部位に対し1種又は複数種の活性成分を放出するように構成された、活性成分徐放送達層と、
前記活性成分徐放送達層に結合された速放層と、
スキャホールド層であって、当該スキャホールド層は、体液と接触する表面上において創傷手当て用品から放出可能なように、前記速放層に結合されたスキャホールド層と、
を備える、方法。
【請求項46】
請求項43又は44に記載の方法であって、前記第2の創傷ドレッシング材にはスキャホールド層は含まれない、方法。
【請求項47】
請求項43又は44に記載の方法であって、前記第2の創傷ドレッシング材には成長因子は含まれない、方法。
【請求項48】
請求項43から47のいずれか一項に記載の方法であって、前記第1の創傷ドレッシング材、前記第2の創傷ドレッシング材又はそれらの両方は、対象の皮膚に創傷ドレッシング材を接着させるのに適した接着剤層を更に備える、方法。
【請求項49】
請求項43から47のいずれか一項に記載の方法であって、前記創傷は外科的創傷である、方法。
【請求項50】
請求項43から47のいずれか一項に記載の方法であって、前記創傷は糖尿病性潰瘍であり、前記活性剤がインスリンを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願についての相互参照
この出願は、2018年10月24日に出願された米国仮出願62/749,974に依存し、それに基づいて優先権を主張し、その内容の全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、創傷を覆うのに用いられるドレッシング材またはその他の無菌物品に関する。本明細書で提供されるドレッシング材は、創傷の治癒を促進する。
【背景技術】
【0003】
血管生成を阻害するいくつかの治療アプローチは、癌を含む様々な病的状態の治療に用いられ、成果を上げている。しかしながら、糖尿病性潰瘍における創傷治癒障害の治療などのような、血管新生を刺激するための及び/又は機能不全の血管を改善するための治療戦略も、とられてきたが、それらはあまり成功していない。血管内皮増殖因子(VEGF)は血管新生の調整において重要な役割を担うことが知られているため、血管新生や血管機能の障害に関連する様々な病的状態の治療にVEGFを利用しようと、数多くのアプローチが試みられてきた。
【0004】
しかしながら、最近臨床試験が行われた糖尿病性足潰瘍の治療のためのVEGFの局所的使用に関する研究を含め、いくつかの研究では、その第2相試験で失敗に終わっている。これらが失敗に終わったのは、VEGFの半減期が短いことに起因すると考えられる。徐放ゲルや不均一スキャホールドシステムを利用することにより、局所的に適用されたVEGFに創傷組織を長時間晒すことができることが実証されたが、体温においてはVEGFが不安定であること等が原因で、これらを利用する戦略はあまり効果的ではなかった。
【0005】
さらに、創傷治癒は、複数の細胞種の協調的な働きを伴う複雑なプロセスであり、また近年の研究によれば、VEGFは、血管新生において果たしている役割とは独立して、創傷治癒において多面的な役割を果たす可能性があることが示唆されている。内皮細胞にのみ存在すると長年考えられてきたVEGF受容体は、皮膚の創傷治癒において不可欠な役割を果たす角化細胞やマクロファージなど、様々な非内皮細胞種においても存在することが、今日では確認されている。インビトロ研究では、角化細胞の増殖および移動に対するVEGFの直接的な影響が実証されている。しかしながら、創傷治癒において見られるVEGFの、血管新生以外の機能は、一見すると矛盾する報告であり、不明確である。例えば、最近の研究では、VEGFシグナル伝達を阻害すると創傷血管新生が完全に遮蔽されるにも関わらず、創傷閉鎖には影響が及ばないことが示された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、皮膚創傷、糖尿病性潰瘍、その他の治療部位のような所望の作用部位への、1種以上の活性成分の送達を向上させることによって、創傷治癒を促進させるために、新しいメカニズム及び器材が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下の要約は、本開示に特有の革新的な特徴のいくつかを理解し易くするために提供されるものであり、完全な説明を提供することを意図したものではない。本開示の様々な態様の完全な理解は、明細書、特許請求の範囲、図面、及び要約書を全体として見ることにより、得ることができる。
【0008】
体液と接触した時に、創傷部位に対して機能的活性成分を選択的に放出することが可能な、創傷ドレッシング材を提供する。創傷ドレッシング材は、当該創傷ドレッシング材の1つ以上の層に対して非晶化(vitrified)された活性成分を含むので、当該活性成分は時間及び温度の点で保存性が良好で、そのため活性成分が創傷に送達されたときに当該活性成分を機能させることが可能である。
【0009】
本明細書で提供される創傷ドレッシング材は、活性成分徐放送達層を含み、当該活性成分徐放送達層は水安定性ポリマーと生分解性ポリマーとを含み、当該水安定性ポリマーはさらに当該水安定性ポリマーに対して非晶化された1種以上の活性成分を含み、活性成分徐放送達層は、前記生分解性ポリマーが創傷部位に対して治療の間に1種以上の活性成分を放出することを可能とするように構成される。次に、体液と接触したときに生分解性ポリマーが分解することにより、活性成分は、活性成分徐放送達層を通過するか、あるいは活性成分徐放送達層から下側にある創傷へと、任意選択で、活性成分徐放送達層内の1層以上の層の分解時間に応じて、遅滞させた時間で送達される。
【0010】
創傷ドレッシング材は、任意選択で1層以上の追加の層を含み、任意選択でスキャホールド層を含み、スキャホールド層は、任意選択で、創傷ドレッシング材の1層以上の他の層から放出可能であり、それにより細胞移動および創傷治癒のスキャホールドとして機能する。スキャホールド層は、層内で非晶化された1種以上の活性成分を含み、それにより体液と接触したときに即座に活性成分を送達可能としてもよい。
【0011】
創傷ドレッシング材は、1層以上の層から創傷部位への放出を可能とする他の層を含んでいてもよく、またそれは1種以上の活性成分を創傷部位へ放出する際に徐放したり、遅延させた放出を実現したりするのに適していてもよい。
【0012】
対象の(任意選択でヒトの)創傷の治癒を促進する方法も提供され、それによれば、本明細書で提供される1つ以上の創傷ドレッシング材が、第1の治療時間にわたって、創傷に接触される。当該方法にはさらに、第1のドレッシング材を除去するプロセスや、第2の治療時間にわたって第2の創傷ドレッシング材を適用するプロセスが、含まれていてもよく、第2の創傷ドレッシング材は、第1の創傷ドレッシング材とは異なっていても、同じであってもよく、任意選択で活性成分の種類または種類の数が異なっていてもよく、あるいは存在する層の種類や数が異なっていてもよい。任意選択で、第2のドレッシング材はスキャホールド層を有していなくてもよい。任意選択で、第2のドレッシング材は1種以上の抗菌ペプチドを含み、任意選択で第2のドレッシング材の1層以上の層と共有結合しているとしてもよい。任意選択で、第2のドレッシング材は活性成分にVEGFを含まないとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図面に記載された態様は、理解を助けるためのものであり、本質的に例示に過ぎず、特許請求の範囲に定義された主題を限定することを意図するものではない。例示的な態様についての以下の詳細な説明は、以下の図面と併せて参照することにより理解することができ、当該図面においては、同様の構成のものには同様の参照符号が付してある。
【0014】
【
図1】
図1は、正常なヒトの皮膚に創傷が発生したときの、創傷の治癒の過程を一般化したものを示している。
【
図2】
図2は、本明細書で提供される創傷ドレッシング材の例示的な態様を示す(A)とともに、当該創傷ドレッシング材を皮膚へ適用し体液と接触させた後に活性成分徐放送達層が溶解する様子を示している(B)。
【
図3】
図3は、本明細書で提供される創傷ドレッシング材の例示的な態様を示す(A)とともに、当該創傷ドレッシング材を皮膚へ適用し体液と接触させた後に中間層の分解によって活性成分徐放送達層が放出される様子を示している(B)。
【
図4】
図4は、本明細書で提供される創傷ドレッシング材の例示的な態様を示す(A)とともに、当該創傷ドレッシング材を皮膚へ適用し体液と接触させた後に、中間層の分解により、活性成分徐放送達層からスキャホールド層が放出される様子を示している(B)。
【
図5】
図5は、本明細書で提供される創傷ドレッシング材の例示的な態様を示す(A)とともに、当該創傷ドレッシング材を皮膚へ適用し体液と接触させた後に生分解性成分層の分解により、活性成分徐放送達層が溶解する様子を示している(B)。
【
図6】
図6は、本明細書で提供される創傷ドレッシング材の例示的な態様を示しており、当該創傷ドレッシング材は、皮膚へ適用し体液と接触させた後に、中間層の分解により、非放出性セクションから放出可能なスキャホールド層を含んでいる。ここで、非放出性層は活性成分徐放送達層を含み、当該活性成分徐放送達層は、創傷に接触した状態のスキャホールド層を後に残した状態でドレッシング材から除去することが可能である。
【
図7】
図7は、水溶性ポリマー(A)および生分解性ポリマー(B)の繊維層の構造を示している。
【
図8】
図8は、プルラン中においてインスリンを非晶化させた繊維層の構造を示している。
【
図9】
図9は、本明細書に記載のように形成されたPCL膜に共有結合したストレプトアビジンを示しており、(A)はストレプトアビジンが共有結合したPCL繊維膜を示しており、(B)は、共有結合したストレプトアビジンの存在を示す蛍光顕微鏡画像であり、ストレプトアビジンに蛍光標識されたビオチン化ウシ血清アルブミン(BSA)を結合させて撮像したものである。
【
図10】
図10は、PCL繊維とPEO繊維の交互の層からなる多層繊維材料の溶解を示しており、繊維層のうちのPEO繊維は、緩衝液への浸漬後30分間をかけて分解する。
【
図11】
図11は、本明細書で提供されるいくつかの態様において、多層繊維材料からBSAが溶解する様子を示している。
【
図12】
図12は、内皮細胞増殖アッセイによって示されるように、VEGFを非晶化することにより、優れた高温耐性および時間経過に対する安定性が実現することを表している。
【
図13】
図13は、55℃で保存された非晶化VEGFは、非晶化されていないVEGFと比べて、培養中の内皮細胞の管形成を効率的に促進することを示している。
【
図14】
図14は、55℃で保存された非晶化VEGFは、非晶化されていないVEGFと比べて、培養中の内皮細胞の管形成を効率的に促進することを示しており、管形成を、ループ数(A)、分岐点数(B)、およびループの長さ(C)によって数値化して評価した結果を示している。
【
図15】
図15は、皮膚創傷治癒過程でVEGFが血管新生および再上皮化において重要な役割を担うことを示しており、病変サイズまたはCD31レベルによって数値化したデータを示している。
【
図16】
図16は、VEGFが、トランスウェル移動(A)および引っかき傷治癒アッセイ(B)の両方において角化細胞の移動を刺激することを示しており、(C)に数値化した結果を示している。
【
図17】
図17は、非晶化VEGFが瘢痕形成遺伝子に対して強力な抑制効果を誘導することを示している。
【
図18】
図18は、非晶化抗菌ペプチドは、55℃で2週間保存した後も、微生物の増殖を抑制するように機能することを示している。
【
図19】
図19は、非晶化抗菌ペプチドは、55℃で7週間保存した後も、微生物の増殖を抑制するように機能することを示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書では、創傷治癒を促進したり、或いは対象となる創傷に対し他の治療的特性を提供したりするように機能する、創傷ドレッシング材を提供する。本明細書で詳細に記載されているように、本願の出願人は、1種以上の活性成分(例えば、成長因子、例示的には、血管内皮増殖因子(VEGF))を非晶化することにより、以前に安定に維持することが可能であった温度よりも高い環境温度においても当該活性成分を安定化させることが可能な効果的な方法が提供されることを見出し、またそれにより、損傷、疾患の部位において、或いは対象の皮膚表面又は皮膚内部の状態に応じて、上記活性成分を治療に用いることを促進できることを発見した。この明細書で提供されるように、創傷ドレッシング材に1種以上の活性成分を用いることで、血管新生、再上皮化、および創傷修復中に生じる瘢痕形成遺伝子の抑制などの、有益な生理学的応答が、当該活性成分により提供されることとなる。
【0016】
本明細書で提供されるドレッシング材は、1種以上の成長因子またはその他の活性成分を、創傷部位へと送達し、創傷治癒を促進したり、病気又は病的状態の治療を促進したり、あるいは対象の皮膚内部または皮膚表面の欠陥を解消したりすることが可能である。対象が哺乳類の場合、擦過傷、切断、皮膚の欠陥、その他の手段により、皮膚に損傷が生じると、当該哺乳類の体内では、創傷を閉じて創傷領域を治癒させるのを補助する生理学的反応が進行する。
図1に概略的に示されるように、損傷が生じることにより、損傷治癒反応が開始される。損傷治癒反応は、凝固経路が活性化されることにより開始するが、この凝固経路の活性化は、組織因子の暴露、および損傷部位における血小板の活性化によって、促進される。凝固系は、循環フィブリノゲンを開裂させてフィブリンのネットワークを形成させ、それにより出血を停止させる。創傷治癒は、上皮細胞、成長因子、ケモカイン、および炎症細胞が協調的に働くことによって継続され、それにより創傷が修復される。体に含まれる細胞のうち、多形核細胞(PMC)、線維芽細胞、マクロファージ、そして表皮に存在するT細胞までもが全て、創傷修復に関与している。例えば、表皮に存在するT細胞は、表皮成長因子受容体(EGFR)を発現することも、最近になって発見されており、このことからも、T細胞が、創傷治癒の促進ならびに真皮および表皮の再生の促進をする役割をも担うことが示唆される(Nosbaum,et al., J Immunol,2016; 196:2010-2014)。EGFRを介したシグナル伝達経路は、創傷部位での創傷治癒活性を促進する上で主要な役割を果たす(Bodnar, et al., Adv. Wound Care(New Rochelle), 2013; 2:24-29)。
【0017】
本開示の一態様は、非晶化させた血管内皮増殖因子(VEGF)を、任意選択で1種以上の他の特異的に機能する活性成分(任意選択で抗体、抗菌ペプチド(AMP)、インスリン、又は創傷治癒のため(そして任意選択で瘢痕予防のため)の他の機能的活性成分)と共に用いることに関する。VEGFなどの成長因子を徐放的な態様で導入することにより、創傷治癒が促進されることが見出された。したがって、繊維ネットワーク内に1種以上の生物活性成分を捕捉することにより当該生物活性成分が創傷部位に放出されることを抑制する、選択的に溶解可能な材料またはセットまたは層を含む創傷ドレッシング材が、本明細書において提供される。創傷部位などにおける体液との接触に続いて、生分解性繊維ネットワークが溶解すると、1種以上の活性成分を選択的かつ直接的に所望の作用部位に送達することができ、それにより創傷治癒を促進することができる。
【0018】
本明細書で示される「創傷」とは、対象の皮膚の任意の欠陥である。創傷は、擦過傷、剥離、裂傷、穿刺、癌、糖尿病性潰瘍または病変(例えば、糖尿病性水泡症)、火傷、手術、又は対象の皮膚若しくは皮膚の層への怪我または損傷によるものであってもよい。
【0019】
本明細書で使用される場合、「対象」は、動物、つまり任意選択でヒト、非ヒト霊長類、ウマ、ウシ、ネズミ、ヒツジ、ブタ、ウサギ、又は他の哺乳類である。
【0020】
したがって、本明細書でいくつかの態様により提供されるのは、1種以上のポリマーを含む活性成分徐放送達層をする創傷ドレッシング材であり、そのため、ポリマーは、ポリマー内又はポリマー上に非晶化された1種以上の活性成分を含む。それにより、体液に接触して1種以上の生分解性ポリマーが溶解したときに、活性成分が創傷部位に対して選択的に放出されるようになっている。ポリマーはメッシュ、繊維ネットワーク(任意選択で不織布)、又は他の多孔質構造の形態であってもよく、またこのような構造を有することにより、流体が多孔質構造に浸透することができ、活性成分の放出がもたらされる。
【0021】
任意選択で、ポリマーは繊維状のランダムな又は秩序立ったメッシュの形態で存在し、これらは、流体又は活性成分のためのチャネル又はその他の連続的な若しくは不連続のアクセス通路をなしている。任意選択で、ポリマーは、高い多孔性(例えば、50体積%を上回る)を有する不織布繊維メッシュの形態である。
【0022】
本明細書で任意選択で使用されるポリマーは、フィルター、対称メッシュ、またはその他のそのような多孔質性シート状材料の形態の、多孔質メッシュとすることができる。例示的には、ポリマーは、エレクトロスピニング処理を含む方法等によって、繊維ネットワーク状に形成される。エレクトロスピニング処理では、所望のポリマーを所望の溶媒(例えば、2,2,2-トリフルオロエタノール(TFE)またはヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP))に入れ、エレクトロスピニング処理を経ることで、所望の断面寸法および長さの繊維を形成し、所望の配向(任意選択でランダム)で配置することで結果物としての細孔サイズ(ストランド間の平均距離)を得て、それにより活性成分がポリマーネットワークによって当該ポリマーネットワーク内を通過するように又は当該ポリマーネットワーク内に保持されるようにしている。
【0023】
活性成分徐放送達層は、任意選択で、層を形成する2種以上のポリマーを含んでおり、前記ポリマーの層は、当該層を形成するときにポリマーを織り合わせる(interweaving)ことによって形成され、あるいは個々のポリマーを交互の態様で交互にエレクトロスピニング処理を行うことによって層を形成することにより活性成分徐放送達層が複数の薄い個別の層からなるように形成され、あるいは、異なる層を一緒に結合させて全体として活性成分送達層をなすように形成される。場合により、活性成分徐放送達層は、生分解性ポリマーと水安定性ポリマーとを有する。生分解性ポリマーと水安定性ポリマーとは、エレクトロスピニング処理において共形成(co-formation)することにより結合され、あるいは、1つ以上の水安定性ポリマーの層が1つ以上の生分解性ポリマーの層と交互になるように、異なる溶解特性を有する2種以上のポリマーが全体としてハイブリッド構造をなすように結合されている。
【0024】
互いに異なる相対量の水安定性ポリマーと生分解性ポリマーとの双方が活性成分徐放送達層に含まれることにより、活性成分の放出量の制御が効果的に実現される。例えば、水安定性ポリマーの含有量をより多くしたり、含有層の厚みを増したり、あるいはそのような傾向を付与すると、活性成分徐放送達層の全体としての溶解速度が減少し、活性成分の放出の速度が減少する。対照的に、生分解性ポリマーの含有量をより多くしたり、含有層の厚みを増したり、あるいはそのような傾向を付与すると、活性成分徐放送達層の溶解速度が増大し、活性成分の放出の速度が増大する。
【0025】
例えば、水安定性ポリマーは、エレクトロスピニング処理によって、任意に単層または多層の繊維構造に形成される。生分解性層は、水安定性ポリマー上に配置するとともに創傷と対向するように配置するようにして、体液が水安定性ポリマー層に到達するためには生分解性層を通らなければならないように構成してもよい。水安定性ポリマー層から放出された活性成分は、生分解性ポリマー層が十分に溶解して活性成分が創傷に放出されるようになるまで、このシステムに捕捉される。異なる量の生分解性ポリマーまたは複数の生分解性ポリマー層からなるハイブリッド活性成分徐放送達層を形成することにより、活性成分の放出速度は、生分解性ポリマーの溶解によって制御される。
【0026】
したがって、活性成分徐放送達層は、任意選択で、1種以上の非晶化された活性成分を有する水安定性ポリマーと、活性成分の放出速度を制御するための1つ以上の生分解性ポリマー層とを有する、ハイブリッド層である。任意選択で、活性成分徐放送達層は、水安定性ポリマーの1つの層を有する。場合によっては、活性成分徐放送達層は、任意選択で水安定性ポリマーの2つ以上の層を有し、あるいは3つ以上の層を有し、あるいは4つ以上の層を有する。場合によっては、活性成分徐放送達層は、任意選択で生分解性ポリマーの1つの層を有し、または2つ以上の層を有し、または3、4、5、6、若しくはそれ以上の層を有する。
【0027】
場合によっては、水安定性ポリマーは、メッシュ状繊維の層に形成され、任意選択で不織布の態様に形成される。メッシュ状繊維の形成は、繊維径が0.1マイクロメートル(μm)から200μmの繊維を形成することにより、実現できる。場合によっては、水安定性ポリマーは、繊維径が0.5μmを超える、任意選択で0.5μmを超えて4μm以下の、任意選択で0.5μmを超えて3μm以下の、任意選択で0.5μmから2μmまでの、繊維中にある。
【0028】
水安定性ポリマー層に生じる孔径は、任意選択で10μmから200μmまでであり、任意選択で10μmを上回り40μm以下であり、任意選択で10μmから35μmまでであり、任意選択で10μmを上回り30μm以下であり、任意選択で10μmを上回り25μm以下である。
【0029】
水安定性ポリマー層は、任意選択で0.1μm以上の、任意選択で0.5μm以上の、任意選択で1μm以上の、任意選択で2μm以上の、任意選択で5μm以上の、任意選択で10μm以上の、任意選択で20μm以上の、任意選択で50μm以上の、任意選択で100μm以上の、任意選択で200μm以上の、任意選択で500μm以上の、又はそれ以上の厚みを有する。
【0030】
水安定性ポリマーは、30分以内には水に溶解しない、任意選択で24時間以上経っても溶解しない、任意選択で48時間以上経っても溶解しない、任意のポリマー材料である。水安定性ポリマーは、水への溶解に対して完全に耐性があるとは必ずしも限らないが、本明細書で提供される生分解性ポリマーと比べれば水への溶解に対してより耐性があってもよいことに留意されたい。このようなシステムによれば、水安定性ポリマーは、仮に溶解するとしてもより長期間をかけて徐々に溶解することが可能となるので、創傷部位に1種以上の活性剤をより長い持続時間にわたって送達することができる。
【0031】
水安定性ポリマーの例には、コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸およびその誘導体、アルギン酸ナトリウムおよびその誘導体、キトサンおよびその誘導体、ゼラチン、デンプン、セルロースポリマー(例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、酢酸コハク酸セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート)、ポリ(クエン酸ジオール)(例えば、ポリ(クエン酸オクタンジオール)など)、カゼイン、デキストランおよびその誘導体、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(ヒドロキシル酸)、ポリ(L-ラクチド)、ポリ(D,L-ラクチド)、ポリ(D,L-ラクチド-
グリコリド共重合体)、ポリ(L-ラクチド-グリコリド共重合体)、乳酸-グリコール酸共重合体、ε-カプロラクトンとラクチドの共重合体、グリコリドとε-カプロラクトンの共重合体、ラクチドおよび1,4-ジオキサン-2-オンの共重合体、D-ラクチド、L-ラクチド、D,L-ラクチド、グリコリド、ε-カプロラクトン、トリメチレン炭酸塩、1,4-ジオキサン-2-オンまたは1,5-ジオキセパン-2-オンのようなモノマーの1または複数の残基(residue)単位を含むポリマー及び共重合体、ポリ(グリコリド)、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(アルキルカーボネート)及びポリ(オルトエステル)、ポリエステル、ポリ(ヒドロキシ吉草酸)、ポリジオキサン、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(リンゴ酸)、ポリ(タートロン酸)、ポリ無水物、ポリホスファゼン、ポリ(アミノ酸)、及び上記のポリマーの共重合体、並びに上記のポリマーの混合物および組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。例として、そのようなポリマーは、米国特許出願公開2018/0125990に記載されているとおりであり、そこに引用される参考文献には、Illum, L., Davids, S. S. (eds.)”Polymers in Controlled Drug Delivery ” Wright Bristol, 1987; Arshady, J. Controlled Release 17:1-22, 1991; Pitt, Int. J. Phar. 59:173-196, 1990; Holland et al., J. Controlled Release 4:155-0180, 1986が含まれる。
【0032】
いくつかの態様においては、水安定性ポリマーは、ポリカプロラクトン(PCL)、コラーゲン、若しくはそれらの組み合わせ、又はそれらのいずれかを含む。そのような水安定性ポリマーの主な特徴は、そられはネットワーク又は繊維を形成することが可能であり、それにより1種以上の活性成分をその上にまたはその中に非晶化することが可能である点である。したがって、水安定性ポリマーは、1種以上の活性成分を含む水性非晶化媒体の非晶化に適した表面として機能するために、水性環境において十分な安定性を有していなければならない。例として、水安定性ポリマーは、約Mn80,000DaのPCLを含む。
【0033】
任意選択で、水安定性ポリマーはコラーゲンであり、又はコラーゲンを含む。コラーゲンは、天然由来のものであっても、化学合成されたものであっても構わない。任意のタイプのコラーゲンを用い得るが、所望の繊維ネットワークを形成することが可能であり、また、1種以上の活性成分を送達するための安定したポリマーとして機能するのに適した安定性を持ち合わせていることから、タイプIコラーゲンが特に挙げられる。コラーゲンは、動物(例えば、牛、豚、馬、ヒト)の皮膚またはその他の供給源などから、任意選択で商業的に供給される。例として、コラーゲンの繊維層を形成するのに用いられるコラーゲンは、分子量が139kDa(モノマー)の、子牛の皮膚由来のタイプIのものである。
【0034】
いくつかの態様においては、水安定性ポリマーは、本明細書で示されるように繊維層となるように形成されたものであってもよいし、或いは魚や動物の皮膚を脱細胞化(decellularizing)すること等によって自然に形成されたネットワークであってもよい。これらの無細胞コラーゲンネットワークは、火傷またはその他の広範囲にわたる損傷の治療のための皮膚代替物として研究されてきた。場合によっては、コラーゲンは、例えばタラやその他の望ましい魚由来の無細胞魚皮であり、これらについては、例えば、Magnusson S, et al., Laenabladid, 2015; 101(12):567-73、及びMagnusson S, et al., Military Medicine, 2017; 182, 3/4:383に記載されている。
【0035】
水安定性ポリマーの繊維層とは対照的に、生分解性ポリマーは、任意選択で、より小さな繊維径および細孔サイズを有し、また、体液と接触すると分解して1種以上の活性成分を創傷部位などの所望の作用部位へと移動させることを可能にするポリマー材料から形成される。生分解性ポリマーのサイズおよび材質を適宜選択することにより、生分解性ポリマーをより迅速に分解させることが可能になるだけでなく、生分解性ポリマーが十分に溶解して活性成分が創傷に放出されるようになるまで、活性成分を水安定性ポリマー内に保持することが可能となる。
【0036】
したがって、ポリマーに関して本明細書で使用される「生分解性」という用語は、体液への暴露下でポリマーがより小さい炭素数の分子へと分解(degraded)、溶解、あるいは「分解(破壊)(broken down)」され得ることを意味する。実例として、体液は、水、血液、血漿、血清、漿液性流体、および/または化膿性滲出液、またはそれらの任意の組み合わせであるか、あるいはそれらを一部に含む液体である。いくつかの実施形態において、生分解性ポリマーは、水性環境、細胞機構、酵素分解、化学プロセス、またはその他により溶解することによって分解(破壊)されるものである。特定の態様において、生分解性ポリマーは、単独で存在する場合に、30分以内に水性環境で完全に溶解し得るものである。本明細書で使用される生分解性ポリマーは、ポリマーの厚みにおいて毎分3ミクロンを超える速度で水に溶解するものである。
【0037】
生分解性ポリマーの具体的な例には、ポリエーテルが含まれる。ポリエーテルの例には、ポリエチレングリコール(本明細書では、高分子量のポリエチレングリコールポリマーを、エチレンオキシドと称する場合がある。)およびプルランが含まれる。例示としては、生分解性ポリマー層を形成するために使用されるポリエチレングリコールは、粘度平均分子量が約600,000であるが、より長いまたはより短いこのようなポリマー材料を同様に使用することもできる。任意選択で、粘度平均分子量は400,000から700,000とすることができ、さらに任意選択で、500,000から700,000とすることができる。このような材料を用いれば、例えばエレクトロスピニング処理のような技術を利用することにより、良好に生分解性ポリマー層を形成することができる。
【0038】
場合によっては、生分解性ポリマーは、繊維サイズが0.5μm未満の、任意選択で0.1μmから0.5μmまでの、任意選択で0.1μmから0.4μmまでの、任意選択で0.1μmから0.3μmまでの、メッシュ状繊維(任意選択で不織布)をなすように形成される。
【0039】
生分解性ポリマー線維のメッシュの孔径は、水安定性ポリマーの繊維層の孔径よりも小さい。場合によっては、生分解性ポリマー層は、1μm未満から10μm未満までの、任意選択で1μmから10μmまでの、任意選択で2μmから10μmまでの、任意選択で2μmから9μmまでの、任意選択で3μmから8μmまでの、任意選択で4μmから7μmまでの、孔径を有する。
【0040】
生分解性ポリマー層は、任意選択で0.1μm以上の、任意選択で0.5μm以上の、任意選択で1μm以上の、任意選択で2μm以上の、任意選択で5μm以上の、任意選択で10μm以上の、任意選択で20μm以上の、任意選択で50μm以上の、任意選択で100μm以上の、任意選択で200μm以上の、任意選択で500μm以上の、またはそれ以上の、厚みを有する。
【0041】
任意選択で、活性成分徐放送達層は、速放性の非晶化活性成分の1つ以上の層をさらに含む。エレクトロスピニング処理において、活性成分が直接的に非晶化されることにより非晶化材料層が形成され、当該非晶化材料層は活性成分徐放送達層に結合されるか若しくは活性成分徐放送達層内に存在することが見出された。エレクトロスピニング装置において、プルラン、トレハロース、および活性成分を組み合わせることによって、プルランは繊維形成スキャホールドとして機能する。このようにして、活性成分は、エレクトロスピニング処理によって結晶化するのではなく、ガラス状に非晶化した状態に移行するので、活性成分は、熱に対して安定かつ貯蔵時間の間安定であるように、活性成分徐放送達層に含まれ得る。このように、任意選択で、非晶化活性成分速放層が、活性成分徐放送達層と共に備えられ、又は非晶化活性成分徐放層内に含まれるものとすることができる。場合によっては、1層、2層、3層、4層、5層、又はそれ以上の非晶化活性成分速放層が、1つ以上の水安定性ポリマー層および/または1つ以上の生分解性ポリマー層の中に含まれ、またはそれらの間に含まれ、必要に応じて分散して位置する。
【0042】
本明細書で提供される創傷ドレッシング材は、内部に1種以上の活性成分が含まれるような、水安定性ポリマーを作成することにより、機能する。任意選択で、1種以上の活性成分が水安定性ポリマーに対して非晶化されることにより、経時変化および温度条件の両方に対して安定な活性成分の層が形成される。この活性成分は、体液と接触することで再構成(reconstituted)されて放出され、新鮮な(保存過程を経ていない)活性成分と同様の活性を発揮する。活性成分は、実質的に米国特許第10,433,540号に記載されているように、トレハロースの存在下において、任意選択で水安定性ポリマーに対して非晶化される。水安定性ポリマーの細孔によって、当該細孔内への活性成分の非晶化が促進され、水安定性ポリマー層内に安定な活性成分を生成することができる。実例として、コラーゲンまたはPCL膜が、HEPES緩衝生理食塩水中に活性成分、トレハロース、およびグリセロールを溶解させた溶液を非晶化させるために用いられる。非晶化溶液を1層以上の水安定性ポリマー層に接触させて、システムを、真空ポンプおよび乾燥システムに接続された真空チャンバー内に入れることにより、活性成分溶液を連続的に乾燥させて、水安定性ポリマー層内にガラス状に非晶化させた安定的な材料を形成することができる。本明細書で提供される創傷ドレッシング材に用いられる場合、体液に接触すると、非晶化された活性成分は再構成され、水安定性層から創傷部位上へとまたは創傷部位内へと移動し、それにより、放出された活性成分のタイプに応じて、1種以上の所望の生物学的に関連する活性を誘発することができる。
【0043】
あるいは、1種以上の活性成分が、水安定性ポリマーに共有結合している。例えば、1種以上の抗菌ペプチドは、創傷部位で機能させることが好ましいが、循環系に放出されることを防ぐために、創傷部位に自由な形で入ってしまうことは防ぐことが望まれる。あるいは、抗体は、ドレッシング材内に保持され、創傷領域内に放出されない方が好ましい場合もある。一例として、PCL水安定性ポリマーに対する共有結合は、ACRL-PEG-SVA 5000および光開始剤である2-ヒドロキシ-4´-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノンを含むリン酸緩衝生理食塩水中でポリ(エチレングリコール)ジアクリレートと、活性成分とを、反応させることによって活性成分(例えば、抗体、AMP)をアクリル化することで、実現することができる。次に、これの片面または両面をコーティングし、コーティングされた層をUV光に晒して、活性成分を水安定性ポリマーに共有結合させることにより、PLC層と反応させることができる。その結果、活性成分が水安定性ポリマーに共有結合することとなる。得られた材料は、その後に付加的な1種以上の活性成分を水安定性ポリマーに対して非晶化させるのに用いられ、あるいは、本明細書に記載されるように、水安定性ポリマーに対し非晶化された1種以上の活性成分を含む別個の層を有する多層システムにも用いることができる。
【0044】
活性成分徐放送達層、スキャホールド層、又はそれらの一部には、1種以上の活性成分が含まれる。活性成分は、所望の生物活性を示すものである。創傷部位において関連する生物活性を示す活性成分の例には、免疫刺激成分、抗ウィルス成分、化学療法成分、PD-1又はPD-L1阻害剤、インスリンまたはその誘導体、成長因子、角質溶解成分、抗炎症成分、抗真菌成分、トレチノイン、局所抗ヒスタミン成分、抗菌成分(例えば、抗菌ペプチドであるが、これに限定されない。)、生体接着剤、凝固促進剤(例えば、活性化因子VII、活性化因子V、活性化因子X、又は3若しくは4因子プロトロンビン複合体濃縮物の組み合わせ)、プロスタグランジン合成の阻害剤(例えば、イブプロフェン、アスピリン、インドメタシン、メクロフェノミック酸、レチノイン酸、パジメートO、メクロメン、オキシベンゾン)、ステロイド系抗炎症成分(例えば、合成類似体を含むコルチコステロイド)、抗菌剤(例えば、シルバジン)、防腐剤、麻酔剤(例えば、塩酸プラモキシン、リドカイン、ベンゾカイン)、燃焼除去薬、日焼け薬、にきび調合薬、脂肪酸(例えば、オメガ-3-脂肪酸)、虫刺されおよび刺傷薬、瘢痕低減剤(例えば、ビタミンE)など、およびこれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。場合によっては、2種以上の活性成分が含まれ、任意選択で3種以上、任意選択で4種以上が含まれるとしてもよい。
【0045】
任意選択で、創傷ドレッシング材またはその一部には、1種以上の成長因子と、1種以上の抗菌剤とが含まれる。任意選択で、創傷ドレッシング材またはその一部には、1種以上の成長因子と、1種以上の抗菌剤と、1種以上の抗炎症剤とが含まれる。任意選択で、創傷ドレッシング材又はその一部には、1種以上の成長因子と、1種以上の抗菌剤と、1種以上の抗炎症剤と、1種以上の脂肪酸が含まれる。
【0046】
いくつかの態様において、活性成分は抗菌剤であるか、又は抗菌剤を含み、任意選択で抗菌ペプチド(AMP)であるか、又は抗菌ペプチドを含む。任意の抗菌ペプチドを使用することができる。例として、抗菌ペプチドは、他のもののうち、マキシミンH5、デルムシジン、セクロピン、アンドロピン、モリシン、セラトトキシン、メリチン、マガイニン、デルマセプチン、ボンビニン、ブレビニン-1、エスキュレンチン、ブフォリンII、CAP18、LL37、Waghu, et al., Front Microbiol. 2018;9:325に記載のペプチドのいずれか、およびこれらのうちの2種以上の組み合わせである。任意選択で、AMPは、生分解性ポリマー層内、水安定性ポリマー層内、又はその両方の層内で、非晶化される。本明細書で示されるように、任意選択で、1種、2種、3種、4種、5種、6種、又はそれ以上のAMPが、水安定性ポリマー層に存在する。
【0047】
場合によっては、活性成分は成長因子である。本明細書で使用される「成長因子」は、1種以上の細胞型において、細胞の成長または細胞の分裂を刺激するポリペプチドである。成長因子の非限定的な例には、血管内皮成長因子(VEGF)、インスリン様成長因子(IGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、表皮成長因子(EGF)、肝細胞成長因子(HGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、およびこれらのうちの2種以上の組み合わせが含まれる。任意選択で、成長因子は、生分解性ポリマー層内、水安定性ポリマー層内、又はこれらの両方の層内において非晶化される。本明細書で示されるように、任意選択で、1種、2種、3種、4種、5種、6種、又はそれ以上の成長因子が、水安定性ポリマー層に存在する。
【0048】
いくつかの態様において、活性成分は抗癌剤であるか、又は抗癌剤を含む。例としての抗癌剤には、プログラムされた細胞死タンパク質1(PD-1)またはプログラムされた細胞死リガンド1(PD-L1)の機能、結合または合成を阻害する阻害剤が含まれるが、これらに限定されない。任意選択で、活性成分は、PD-L1に対するヒト化IgG分子であるアテゾリズマブである。任意選択で、活性成分は、PD-1に対するヒト化IgG分子であるペンブロリズマブである。任意選択で、抗癌剤は、とりわけ、イミキモド、フルオロウラシル、ビスモデギブ、ニボルマブ、イピリムマブ、アベルマブである。1つまたは複数の腫瘍に対して作用するその他の活性成分も同様に含まれていてもよい。任意選択で、抗癌剤は、生分解性ポリマー層内、水安定性ポリマー層内、又はこれらの両方の層内において非晶化される。本明細書で示されるように、任意選択で、1種、2種、3種、4種、5種、6種、又はそれ以上の抗癌剤が、水安定性ポリマー層に存在する。
【0049】
場合によっては、活性成分は抗体である。本明細書で使用される「抗体」という用語は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、二重特異性抗体、類似化抗体、及びヒト抗体、並びにFabフラグメントを含む。このFabフラグメントには、Fab免疫グロブリン発現ライブラリーの産物が含まれる。無傷の抗体、そのフラグメント(例えば、FabまたはF(ab´)2)、またはその改変変異体(例えば、sFv)も、用いることができる。任意選択で、抗体は、当該技術分野で認識されているようにヒト化される。場合によっては、抗体はヒト化されない。抗体は、IgG、IgM、IgE、IgA、IgD、およびそれらの任意のサブクラスを含む、任意の免疫グロブリンクラスのものであり得る。抗体の実例には、二機能性の抗体が含まれる。抗体の非限定的な例には、抗CD3 mAB(例えば、オテリキシズマブ、テプリズマブ、ビシリズマブ)、抗ブドウ球菌治療抗体(例えば、テフィバズマブ、トサトクスマブ、パギバキシマブ、スブラトクスマブ、およびその他のmAb)、特異的な細胞集団の抗体(F4/80-マクロファージまたはc-kit-幹細胞)、外傷に関連した抗原に対する抗体(VCAMまたはフィブリノペプチドA)、またはTGF-β、TNF-α、IL-6、およびIL-lβ、ならびに上述のうちのいずれかの2種以上の組み合わせが含まれるが、これに限定されない。このような抗体は、例えばR&D Sytems(カリフォルニア州サンタクルーズ)またはAbcam(マサチューセッツ州ケンブリッジ)から市販されている。二機能性抗体には、例として、抗ブドウ球菌治療抗体(例えば、テフィバズマブ、トサトクスマブ、パギバキシマブ、スブラトクスマブ、およびその他のmAb)の1つに連結された抗CD3抗体の抗体融合(ハイブリドーマ融合または化学的に産生される。)、外傷に関連した抗原(VCAMまたはフィブリノペプチドA)に対するモノクローナルに結合した特異的な細胞集団(F4/80-マイクロファージまたはc-kit-幹細胞)に対するモノクローナル抗体が含まれていてもよい。二機能性抗体を作製する方法は、Nolan and O’Kennedy, Biochim Biophys Acta., 1990; 1040(1):1-11に示されているように、当該技術分野において例示的に認識されている。抗体は、任意選択で、生分解性ポリマー層内、水安定性ポリマー層内、またはその両方の層内で非晶化されている。本明細書で示されるように、任意選択で、1種、2種、3種、4種、5種、6種、又はそれ以上の抗体が、水安定性ポリマー層に存在する。
【0050】
いくつかの態様において、創傷ドレッシング材は、VEGF、1種以上のAMP、および1種以上の抗炎症剤を含む。任意選択で、創傷ドレッシング材は、VEGFおよび1種以上のAMPを含む。任意選択で、創傷ドレッシング材は、VEGF、1種以上のAMP、および1種以上の脂肪酸を含む。任意選択で、創傷ドレッシング材は、VEGFおよびインスリンまたはインスリン誘導体を含む。任意選択で、創傷ドレッシング材は、VEGF、1種以上の抗菌ペプチド、およびインスリンまたはインスリン誘導体を含む。任意選択で、創傷ドレッシング材は、VEGF、1種以上の抗菌ペプチド、インスリンまたはインスリン誘導体、および1種以上の抗炎症剤を含む。
【0051】
1つ以上の層(例えば、スキャホールド層、活性成分徐放送達層、生分解性層、水安定性ポリマー層など)が、1種以上の接着剤を使用することにより結合されていてもよい。接着剤の選択は、接着剤に望まれる効能と局在性に依存する。例示として、接着剤を層の外縁部または外縁部の一部に局所的に位置させることができ、その場合、接着剤は、1種以上の活性成分の創傷ドレッシング材から創傷への移動を妨げるとは認められない(接着剤が不溶性の場合)。任意選択で、接着剤は、層の表面全体またはその一部を、隣接する層に対して接着させてもよい。接着剤の例には、ポリエチレングリコールが含まれるが、これに限定されない。ポリエチレングリコールは、乾燥させたときにそれ自体が層に対して接着するように機能するが、体液に接触すると分解し、それにより、層やその一部を好ましく分離させることができる。また、接着剤の例には、2-オクチルシアノアクリレート(DERMABOND)、又は当該技術分野で知られているその他の皮膚接着性材料が含まれるが、これらに限定されない。
【0052】
創傷ドレッシング材は、任意選択で気体透過性であり、かつ/または、任意選択でポリマー層よりも大きいサイズを有し、又はポリマー層の1以上の辺から延出し、当該延出部分を利用して創傷ドレッシング材を作用させたい部位へと接着させることを可能とする、接着剤層をさらに任意で含んでいてもよい。接着剤層は任意で設けられるものであり、テープ、ラップ、又はその他の、創傷ドレッシング材を皮膚または作用部位に取り付ける方法として認められたものに、置き換えてもよい。場合によっては、接着剤層は存在しない。接着剤層が存在するとしたら、それは織物、ラテックス、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、又はポリウレタンなどの任意の材料からなるものとしてもよい。ただし上記したものに限定されるものではなく、当該材料に接着剤が貼られることにより、接着剤層を皮膚に着脱可能に貼ることができるものであればよい。
【0053】
例示的な態様によれば、例としての創傷ドレッシング材が
図2に示されている。創傷ドレッシング材は、任意の接着剤層10を含んでいてもよい。この接着剤層10は、包帯システムの外層として機能し、また創傷ドレッシング材を所望の作用部位に接着させるのに役立つ。所望の作用部位とは、対象の皮膚上又は皮膚中における、真皮、表皮若しくはその両方の中の損傷、病変、又は治療領域がある部位、又はその他の所望の部位である。接着剤層は、必要に応じて、皮膚に対して創傷ドレッシング材を貼り付けるための接着剤11を含む。接着剤層10の下には、任意選択で1層または複数層の活性成分徐放送達層20が位置し、これにより活性成分徐放送達層は、接着剤層よりも、皮膚に近接して位置することができる。活性成分徐放送達層は、表面の全体をカバーしていてもよく、あるいは、表面のうちの一部のセクションまたは部分をカバーするように存在していてもよい。したがって、活性成分徐放送達層は、体液と接触することにより、当該活性成分徐放送達層内において非晶化された活性成分を溶解させて、本明細書に別段の記載があるように、活性成分徐放送達層の構造に応じて制御される放出速度にて、活性成分を当該活性成分徐放送達層から放出させて創傷やその他の作用部位に接触させることができる。
【0054】
図2に例示されるような創傷ドレッシング材、またはその他の態様または設計の創傷ドレッシング材においては、任意選択で、保護層30をさらに含む。保護層30は、保管中または創傷等への適用前において、創傷ドレッシング材を清潔な又は無菌の環境に保つために用いられる。保護層として有用な材料は当該技術分野において認識されている。
【0055】
他の態様においては、創傷ドレッシング材は、水安定性ポリマーは含むものの、1種以上の生分解性ポリマーは含んでいても含んでいなくてもよい、解放可能な活性成分徐放送達層を、任意で有する。一例として、活性成分徐放送達層は、細胞移動を可能とし、上皮化および迅速な創傷治癒を促進するためのスキャホールドとして機能するのに十分な多孔性を有する、水安定性ポリマーを含むものとしてもよい。したがって、1種以上の活性成分が放出されると共に活性成分徐放送達層内の任意の生分解性ポリマーが分解した後に、残りの水安定性材料は、細胞の移動および浸潤を可能としかつ促進するのに十分な多孔性を有する。細胞移動を促進する能力は、本明細書で提供される創傷ドレッシング材により促進される創傷治癒の速度および質を向上させることに寄与する。
【0056】
放出可能な層を有する創傷ドレッシング材の例が
図3の(A)に示されている。活性成分徐放送達層20は、任意選択で、1種以上の生分解性ポリマーを含む中間層40を介して、接着剤層10に取り付けられる。体液と接触すると、中間層の生分解性ポリマーが溶解し、その結果、活性成分徐放層からの活性成分の持続放出(徐放)が実現する。これにより、活性成分徐放層の水安定性ポリマー成分は、スキャホールドとして機能して、当該水安定性ポリマー内での細胞移動を可能にし、創傷の閉鎖および治癒を促進することができる(実質的に
図3の(B)に示される)。
【0057】
いくつかの態様においては、活性成分徐放送達層は、層内に1種以上の生分解性ポリマーが存在しない。このような環境下では、1種以上の生物活性成分を含む非晶化された材料が再構成されるまでに要する時間以外には、時間を遅延させることなく、活性成分徐放送達層は、1種以上の生物活性成分を作用部位に直接的かつ迅速に送達する。このような環境下では、活性成分徐放送達層は、速放層とみなすことができる。場合により、活性成分徐放送達層は1層以上の生分解性ポリマーを含むため、1種以上の生物活性成分が作用部位に放出される速度や、細胞移動を促進するのに適したスキャホールドを形成するまでに掛かる時間が、体液と接触して生分解性ポリマー層が分解されるまでに要する時間の分だけ遅延することとなる。生分解性ポリマーが全体的に溶解または部分的に溶解すると、水安定性ポリマーが細胞移動のスキャホールドとして機能することにより、創傷の治癒がさらに促進される。
【0058】
創傷ドレッシング材の他の1つの例示的な態様においては、本明細書で提供されるように、また
図4の(A)に示されるように、ドレッシング材はスキャホールド層60を有する。スキャホールド層60は、当該スキャホールド層上またはスキャホールド層内に非晶化された1種以上の活性成分を任意選択でさらに含む水安定性ポリマーを有していてもよい。スキャホールド層60は、活性成分徐放送達層20に直接的に結合されていてもよく、あるいは中間層40を介して結合されていてもよく、当該中間層40は1種以上の生分解性ポリマーを含み速放層として機能する。体液と接触すると、中間層40が分解してスキャホールド層60を解放するので、スキャホールド層は細胞移動のスキャホールドとして機能し、創傷の治癒を促進することができる。スキャホールド層は、本明細書に別段の記載があるように、任意選択で、1種以上の水安定性ポリマーを含む。スキャホールド層は、任意選択で、その層上又は層内に非晶化された1種以上の生物活性成分を含む。
図4の(B)に示されるように、体液に接触すると、非晶化された活性成分が体液に放出され、活性成分のタイプに応じた生物活性が誘発される。その後、スキャホールド層60の水安定性ポリマーは、創傷部位に残存してスキャホールドとして機能し、細胞移動を促進し、また任意選択で、創傷の治癒過程で創傷が収縮してしまうのを防止する。活性成分徐放層20は、必ずしもその必要はないが、任意選択で接着剤層に取り付けられた状態に維持され、本明細書に別段の記載があるように、活性成分徐放層の特性に応じて、1種以上の生物活性成分を持続放出(徐放)方式で自由に送達する。
【0059】
図5の(A)に例として示されるように、他の態様では、創傷ドレッシング材は、場合によっては、活性成分徐放層の形式の単一の層を有する。このような態様は、創傷ドレッシング材の別の態様を以前に適用したときに送達された所望の活性成分または追加の活性成分を標的とするために、本明細書で提供される、以前に適用された他の1つ以上の態様に続いて、任意選択で使用することができる。したがって、創傷ドレッシング材は、任意選択で、スキャホールド層、中間層、またはこれらの両方を、除外することができる。活性成分徐放層20は、任意で設けられる接着剤層10と接続されるので、活性成分徐放層は、創傷または創傷からの体液に、直接的にかつ即座に接触することができる。
図5の(B)に示されるように、体液に接触した後に、活性成分徐放層内の任意の生分解性ポリマーが分解されることにより、生物活性成分が送達される。任意選択で、活性成分徐放層に残っている水安定性ポリマーは、創傷からの体液の移動を促進するか、または細胞移動を促進するように機能し、それにより創傷治癒をさらに促進することができる。
【0060】
他の態様では、
図6に示されるように、解放可能部分100および解放不能部分110を含む創傷ドレッシング材が提供される。解放可能部分は、生分解性ポリマーの速放層120が分解されることによって解放不能部分から分離可能であり、速放層が分解(例えば、溶解)されると、解放可能部分の分離が促進されて、創傷ドレッシング材が除去されても解放可能部分が創傷部位に留まる。例示的な態様においては、解放可能部分は、ドレッシング材中において創傷に最も近い位置に配置されるスキャホールド層60を含む。保護層(不図示)は、創傷ドレッシング材を対象の皮膚へ適用する前において、当該創傷ドレッシング材を保護するために、スキャホールド層の表面に任意選択で設けられる。スキャホールド層60は、接着剤を介して、生分解性ポリマー層に貼り付けられる。この生分解性ポリマーは、接着剤により水安定性ポリマー層130に貼り付けられて任意に存在し、当該水安定性ポリマー層は創傷ドレッシング材の解放不能部分を保持するのに役立つ。創傷部位から離れて(distal)位置し、水安定性ポリマーに隣接して位置するのは、活性成分徐放送達層であり、当該層はこの例では関連する3層として示されている。このうちの第1の層は生分解性層70であり、当該生分解性層70は、非晶化活性成分速放層80に貼り付けられており、当該非晶化活性成分速放層は、1種以上の非晶化された活性成分を含む水安定性ポリマー層90に貼り付けられる。例として考えられるドレッシング材の、活性成分徐放送達層をなす層としては、多くの追加の層や、複数の個々の層を挙げ得るので、活性成分徐放送達層をなす3つの層は、単に例示する目的で示したものに過ぎないことに留意されたい。複数層からなる活性成分徐放送達層は、水安定性ポリマー層および非晶化活性成分速放層内の1種以上の非晶化薬剤の溶解速度に基づいて、時間の経過と共に1種以上の活性成分を送達するように機能し、その送達速度は生分解性ポリマー層の分解によって制御される。したがって、水安定性ポリマー層は1種以上の活性成分を含むものとしてもよく、非晶化活性成分速放層は1種以上の活性成分を含むものとしてもよく、また、スキャホールド層は1種以上の活性成分を含むものとしてもよく、これらの各層において選択される活性成分の種類と量は、創傷部位に送達される各活性成分の存続の最適時間に関連して決められる。例えば、スキャホールド層は、VEGF、1種以上のAMP、および/または1種以上の抗炎症剤を含んでいてもよく、これらの全ては創傷部位に対して速放するために用いられる。活性成分徐放送達層は、VEGF、1種以上のAMP、および/または任意選択で1種以上の抗炎症剤を含んでいてもよく、これらの全ては創傷部位に対して遅延放出するために、又は創傷に対して作用させるために用いられる。スキャホールド層は、VEGF、1種以上のAMP、および/または任意選択で1種以上の抗炎症剤を含んでいてもよく、これらの全ては創傷部位に対して速放するために、又は創傷に対して作用させるために用いられる。
【0061】
あるいは、活性成分徐放送達層は、1種以上のAMPを有し、このAMPが任意選択で水安定性ポリマーに共有結合することにより、AMPが循環系に入ってしまう(passing)ことを防ぐものとしてもよく、かつ/または、この活性成分徐放送達層は、1種以上の抗炎症剤を含むことにより創傷部位への放出を遅延させるものとしてもよい。必要に応じて、活性成分徐放送達層からVEGFを除外してもよい。
【0062】
本明細書で提供されるドレッシング材の態様においては、その構造内に非晶化されたVEGFを有していてもよい。斯かる構造により、創傷ドレッシング材からVEGFが徐放されることとなり、創傷内における細胞移動を十分なものとすることができ、それにより自然な創傷の治癒を支援することができ、その結果、創傷の自然な治癒の速度を増大させ、および/または治癒を効率化することができる。
【0063】
本明細書で提供される創傷ドレッシング材は、任意選択で非晶化されたVEGFを含む。VEGFが存在する膜は、創傷と接触するように配置したとき、ある分解速度を示し、これにより作用部位に対してVEGFを直接的に投与することが可能となるが、場合によっては、継続的に又は徐放速度で投与することにより、薬剤の有効性を向上させることがある。本明細書に提供されるように、ある層に生分解性ポリマーを使用することにより、ポリマー密度の低い領域が作り出され、それにより創傷部位における細胞移動が促進され、その結果、創傷の治癒をさらに促進することができることが見出された。VEGFまたはその任意の機能的類似体を使用することができる。任意選択で、VEGFは、ミズーリ州セントルイスのシグマアルドリッチ社から入手することができる。任意選択で、VEGFは、ヒトVEGFであるか、またはその機能的類似体であるとしてもよい。任意選択で、VEGFは、マウスVEGFであるか、またはその機能的類似体であるとしてもよい。
【0064】
本明細書で提供される創傷ドレッシング材は、任意選択で、非晶化されたインスリンを含むものとしてもよい。インスリンは、活性成分徐放送達層および/またはスキャホールド層の一部に相当する、1つ以上の水安定性ポリマー層内において非晶化されるものとしてもよい。場合によっては、インスリンは、単独で使用される又は活性成分徐放送達層の一部として使用される、非晶化活性成分速放層内において、非晶化されるものとしてもよい。本明細書に記載の処理工程に従って非晶化を行うことにより、インスリンの安定性が劇的に向上するので、インスリンまたは創傷ドレッシング材全体を低温で保存する必要が無くなることが、見出された。水または体液と接触させることによりインスリンを再構成させても、非晶化を経たインスリンと、新鮮なインスリンとの間で、区別がつかないほどであり、再構成させたインスリンを本明細書で提供されるように創傷ドレッシング材に含ませることにより、糖尿病性潰瘍や、その他の糖尿病を患っている被験者にとって一般的な他の病変などの、所望の部位に対して、インスリンを最適に機能させることが可能となり、そしてインスリンを最適に送達することが可能となる。
【0065】
また、本明細書で提供される創傷ドレッシング材を、創傷の表面またはその一部に適用する処理過程を含む、対象の創傷を治療するプロセスも、ここに提供される。創傷ドレッシング材は、治療の間にわたって適用され、その後除去され、場合によっては交換されてもよい。必要に応じて、創傷ドレッシング材は、10分以上の、任意選択で30分以上の、治療時間にわたって適用される。必要に応じて、創傷ドレッシング材は、10分以上、20分以上、30分以上、40分以上、50分以上、60分以上、2時間以上、3時間以上、4時間以上、5時間以上、6時間以上、10時間以上、24時間以上、2日間以上、またはそれを上回る治療時間にわたって適用される。
【0066】
いくつかの態様においては、第1の創傷ドレッシング材が第1の治療時間にわたって適用され、その後この創傷ドレッシング材が除去され(またはその適用可能な部分が除去され)、そして第2の創傷ドレッシング材が第2の治療時間にわたって適用される。第1の創傷ドレッシング材と第2の創傷ドレッシング材とは、同じであってもよく、あるいは構造や構成が異なっていてもよい。一例として、第1の創傷ドレッシング材が第1の治療時間にわたって適用されるが、ここで第1の創傷ドレッシング材はこの創傷ドレッシング材の他のセクションから取外し可能なスキャホールド層を備えるものとしてもよい。第1の治療時間の後、第1の創傷ドレッシング材は、そのスキャホールド層の部分を皮膚上に残した状態で除去されて、これによりスキャホールド層が細胞移動のためのスキャホールドとして機能するものとしてもよい。
【0067】
第2スキャホールド層を含む、又は第2スキャホールド層を含まない第2の創傷ドレッシング材を、適用することができる。第2の創傷ドレッシング材は、第1の創傷ドレッシングのものと同一のまたは異なる1種以上の活性成分を、第1の創傷ドレッシング材の治療時間と同様の又は異なる治療時間にわたって送達するように調整されるものとしてもよい。非限定的な例として、第2の創傷ドレッシング材はスキャホールド層を含まないが、第1の治療時間において必要とされる成分よりも創傷治癒過程の遅いタイミングで適用されることが望ましい1種以上の活性成分を含む活性成分徐放送達層を有しているとしてもよい。
【0068】
第2の創傷ドレッシング材は、その1つ以上の層に、第1の創傷ドレッシング材に含まれているものと同じ又は異なる活性成分を含んでいるとしてもよい。一例として、第1のドレッシング材は、そのスキャホールド層に、VEGF、1種以上のAMP、および1種以上の抗炎症剤を含み、また活性成分徐放層は、1種以上のVEGF、1種以上のAMP、および1種以上の抗炎症剤を含むとしてもよい。第2の治療時間において適用される第2の創傷ドレッシング材は、その活性成分徐放送達層に1種以上のAMPを含み得るが、VEGFは含まないとすることができる。これは、後の治療時間において創傷治癒を促進するためには抗菌活性を確保することがより望ましいところ、VEGFの存在は、第2の治療時間中に望まれる創傷治癒の段階において弊害をもたらす可能性があるためである。このようにして、創傷ドレッシング材のタイプおよび創傷ドレッシング材内に存在する活性成分の種類は、創傷にドレッシング材が適用される治療時間中に必要とされる創傷治癒の段階に合わせて、決められる。
【0069】
他の例では、創傷は、対象が有する遺伝的欠陥、疾患、又は慢性的な状態の結果として生じたものである可能性がある。第1の治療時間において適用される第1のドレッシング材は、創傷治癒の最初の段階を促進させることを期待して用いられ、第2のおよびそれ以降の治療時間において適用されるドレッシング材は、対象の遺伝的欠陥、疾患、又は状態を治療するための特異的な1種以上の治療薬剤を送達するために用いられるとしてもよい。
【0070】
あるいは、対象に遺伝的欠陥、その他の疾患、又は状態があり、それにより創傷治療に長期間を要する場合、第1の創傷ドレッシング材と、第2の創傷ドレッシング材とは、同一であってもよい。例としては、創傷ドレッシング材は、癌性病変の除去後に適用されてもよいし、あるいは、対象に基底細胞癌や扁平上皮癌による病変などがある場合に、これを除去することなく、これに単に直接的に適用してもよい。病変を除去すると、1つまたは複数の癌細胞が皮膚内に残る虞がある。これらの残存する癌細胞を治療するために設計された活性成分(例えば、PD-1又はPD-L1阻害剤)が新規のドレッシング材に適用されて、これが毎日又は他の治療時間にわたって用いられることにより、病変中に残存する癌細胞を確実に治療し、再発の虞を低減させることができる。
【0071】
第1の治療時間は、第2の治療時間と連続的であってもよい。これは、第1の創傷ドレッシング材が除去された後、実質的に直ちに、第2の創傷ドレッシング材が適用されることを意味する。任意に乾燥時間が必要な場合や、創傷に対し他の何らかの介入が望まれる場合には、治療は不連続に行われてもよい。
【0072】
本開示の様々な態様は、以下の非限定的な例により示されている。示した例は説明を目的としたものであり、本開示の実施を制限するものではない。本開示の精神および範囲から逸脱することなく、変更および修正を行うことができると理解されるべきである。特に明記しない限り、全ての試薬は市販されており、当業者はそのような試薬がどこで入手できるかを容易に理解し得る。
【実施例】
【0073】
[実施例1:ポリマー繊維層の形成]
ポリカプロラクトン(シグマアルドリッチ社 440744,Mn 80,000)を有機溶媒2,2,2-トリフルオロエタノール(TFE,シグマアルドリッチ社 T63002)15%w/vの濃度となるように溶解した。室温で攪拌しながらの環境下では、完全に溶解するのに通常2から3時間かかる。得られたポリマー溶液を標準の10mLシリンジにロードし、22ゲージの先端を鈍化した(blunt)針を紡糸口金として使用する。エレクトロスピニング処理は、15kVの高電圧DC、1.5mLの溶液供給速度、および15cmの針先からのコレクタースタンドオフの条件下で実行される。典型的には、約100~200マイクロメートルの膜厚を得るために、15~30分の紡糸時間が掛かる。次に、紡糸された繊維膜を化学フードの下で12時間乾燥させ、続いて真空下で2時間乾燥させて、残留有機溶媒を除去する。
【0074】
同様の条件で、ポリエチレンオキシド繊維層は、高分子量ポリエチレングリコール(Sigma Aldrich 182028)を使用して作成される。水に溶かした5%PEOのポリマー溶液が形成され、22ゲージの針状紡糸口金を使用して、15kVの電圧の下、15cmの針先からのコレクタースタンドオフの条件で、繊維層にエレクトロスピニング処理された。得られた繊維層は、上記と同様にして乾燥させる。
【0075】
上記と同様の条件で、コラーゲン繊維層を作製した。コラーゲン(タイプI、シグマアルドリッチ社 C9791)を用いて、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)に溶かした10%コラーゲンのポリマー溶液を形成した。繊維層は、15kVの電圧の下、15cmの針先からのコレクタースタンドオフの条件で、22ゲージの針状紡糸口金を使用したエレクトロスピニング処理によって形成された。得られた繊維層は、上記と同様にして乾燥させる。
【0076】
顕微鏡を用いて、個々に乾燥させた層の繊維構造と寸法を調べた。結果を
図7に示す。PCL繊維材料を
図7の(A)に示しており、エレクトロスピニング処理によって形成されたオーバーラップする繊維ネットワークの様子が示されている。
図7の(B)には、PEO繊維ネットワークの様子が、
図7の(A)よりも高倍率で示されており、比較的小さな繊維構造、およびより小さな細孔サイズが見受けられる。
【0077】
ポリ乳酸(PLA)と乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)から形成される繊維状材料は、コラーゲン繊維層で使用されていたのと同じ処理手順で作製された。このとき、ラクチド:グリコリド比が75:25(モル)で、分子量が76-115kDaのPLGAが用いられた。供給速度は、30kVの電圧の下、15cmのスタンドオフで、1時間あたり1mLであった。繊維状材料の構造は、顕微鏡で観察されたものと同様の構造であった。
【0078】
[実施例2:直接非晶化された活性成分の形成]
非晶化活性成分速放層として用いられるインスリン含有活性成分繊維状材料は、20%プルラン(Sigma Aldrich P4516)および20%トレハロースを水に含むインスリンの溶液を形成することにより、作製された。当該溶液を、15kVの電圧の下、15cmの針先からのコレクタースタンドオフの条件で、22ゲージの針状紡糸口金を使用してエレクトロスピニング処理することによって、非晶化材料の繊維層とした。得られた層を乾燥させ、上記のように顕微鏡で調べた。
図8に示されるように、インスリンは繊維状にされ、それによってインスリンは非晶化され、繊維層が溶解すると速放されるようになっている。
【0079】
[実施例3:水安定ポリマーに対するタンパク質の共有結合の形成]
ストレプトアビジンは、実施例1のようにして生成されたPCL繊維層に対して共有結合している。簡単に説明すると、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEG-DA、シグマアルドリッチ社 701963)を10%w/v、ACRL-PEG-SVA 5000(Laysan Bio INC)を10%w/v、2-ヒドロキシ-4´-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(光開始剤、シグマアルドリッチ社 410896)を2%w/vと共に、ストレプトアビジンを、PBSに溶解させる。溶液を、室温の下で、シェーカーにより150rpmの速度で3時間にわたり混合する。この混合期間中に、全てのポリマーが溶液に溶解し、ACRL-PEG-SVA 5000がストレプトアビジンに結合し、ストレプトアビジンがアクリル化される。溶液を調製した後に、表面密度が0.05~0.1μL/mm
2となるようにPCL膜の両面に当該溶液を適用した。次にコーティングされた膜にUV光(365nmの波長、400μW/cm
2)を照射してUV硬化させた。当該膜の各面を1分間UVに晒すことで、十分に硬化させた。そして、コーティングしてUV硬化させた膜を、PBS緩衝液を使用して洗浄し、それにより未硬化の成分や残留成分を全て除去した。得られた膜に、蛍光標識されたビオチン化ウシ血清アルブミンを結合させた後、顕微鏡検査および蛍光顕微鏡検査によって分析した結果を、
図9の(A)及び
図9の(B)に示している。
【0080】
[実施例4:多層繊維構造の溶解]
多層材料は、PCLの層と、PEOの層とを、交互に配置することにより形成された。各層は、実施例1のようにエレクトロスピニング処理によって形成された。エレクトロスピニング原液(electrospinning source solution)をPCL溶液からPEO溶液へと2分毎に切り替えることを、10層からなる多層材料が形成されるまで繰り返すことで、多層材料が作製される。
【0081】
得られた多層繊維材料は、リン酸緩衝生理食塩水に浸漬することにより、溶解試験に供される。0分、15分、及び30分後に、サンプルが取り出されて、顕微鏡により繊維密度が調べられた。
図10は、0分後(A)、5分後(B)、15分後(C)、30分後(D)、及び60分後(E)の繊維構造を得られた結果として示しており、これらによれば、繊維の品質が高水準に維持されていること、および、溶解時間が経過するにつれて繊維密度が減少することが、見て取れる。PCL繊維(太い)は、損傷を受けず、60分にわたって浸漬しても分解が始まらない。対照的に、PEO繊維(細い)は、浸漬5分後にはほぼ完全に溶解した。
【0082】
別の一連の実験では、PEO繊維層は上記と同様の処理手順で作製されるが、BSAの存在下でPEO層をエレクトロスピニング処理することにより、BSAをPEO層に捕捉する。多層材料は、PCLの第1層、PEO/BSAの第2層、及びPCLの第3層からなる。これらの層を、1分間(薄い層)、15分間(中間の厚さの層)、又は30分間(厚い層)にわたってエレクトロスピニング処理することにより、様々な厚みのPCL層が形成される。得られた多層材料は、その後、上記と同様にPBSに溶解される。様々な時点で、上澄みが除去されて、これを用いて緩衝液中の遊離BSAの存在を分析する。
図11に示されるように、厚いPCL層が存在することにより、(溶解可能な)PEO層からのBSAの溶解速度が減少された。また、
図11からは、いずれかの層の厚みを変えることにより、如何に活性成分の溶解速度が変化するかが、見て取れる。
【0083】
[実施例5:活性成分の非晶化]
VEGF、ペンブロリズマブやアテゾリズマブのような抗体、および抗菌ペプチドを、外部環境の不安定化要因(stressor)(最も重要なのは温度)に対して安定化させるために、新規の非晶化プロセスが採用された。活性成分(例えば、VEGFまたはペンブロリズマブ)は、アフィニティー担体上において非晶化賦形剤に懸濁され、これを減圧環境下に晒すと、ガラス状の状態に変化した。簡単に説明すると、蒸留水中の活性成分(Sigma,ミズーリ州セントルイス)25μg/mLに、Pfanstiehl(クリーブランド、オハイオ州)から入手した高純度かつ低エンドトキシンのトレハロース二水和物を加えるとともに、Sigmaから入手したグリセロールを加えた。実験溶液は4℃で保存した。全てのサンプルは、Edwards RV3 2ステージロータリーベーンポンプ(Crawley、英国)と、Drierite乾燥カラムとに接続された、真空チャンバー内に配置された。次に、サンプルを、-27~-30Hgの真空圧下に、25分間にわたって配置して、連続的に乾燥させた。
【0084】
アフィニティー担体として、実施例1で作製されたPCL膜を使用して、同様の非晶化のプロセスが行われ、同様の結果が得られた。
【0085】
非晶化させたVEGF、および非晶化させたペンブロリズマブについては、以下の3つの条件下で安定性の試験が行われた。(1)1日の間55℃の温度下に晒す、(2)7日間にわたって55℃の温度下に晒す、(3)15日間にわたって55℃の温度下に晒す。
【0086】
所定の温度下に晒した後、アフィニティー担体に捕捉されたVEGFは、最終的にはPBS中で再構成された。捕捉されたままの状態で(as received)凍結乾燥されたVEGFは、55℃で15日間保存され、55℃での独自の非晶化が生じていない負の対照サンプル(negative control)として、VEGFの活性を評価するために用いられた。一定分量の非晶化されていないVEGFは、-20℃で上記と同じ期間だけ保存され、以下の実施例において、標準的かつ推奨された保存条件で、総VEGF活性を測定するための正の対照サンプル(positive control)として、用いられた。
【0087】
[実施例6:内皮細胞増殖アッセイ]
ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を18時間、血清飢餓状態とした。その後、溶媒(vehicle)(PBS)の存在下で、または標準的な条件(-20℃)で保存されたVEGF(10ng/ml)の存在下で、または実施例5のようにして生産されて55℃で1~15日間保存された非晶化VEGFの存在下で、2wt%のノックアウト血清(Lifeline Cell Technology,CA)を含む培地に置き換えられた。
【0088】
55℃での保存は、VEGFを高温不安定化から保護するために、非晶化プロセスが如何に寄与するかを試験するために実行された。HUVEC細胞増殖は、VEGF活性を評価するための指標として測定された。細胞増殖を測定するために、24ウェルプレートに対数期の細胞を4000細胞/mlの濃度でプレーティングし、24時間接着させた。様々な培地のそれぞれで24時間処理した後の、付着細胞の量を、新鮮な無血清培地で希釈した0.5mg/mlジメチル-2-チアゾリルブルーテトラゾリウムブロミド(MTT)(シグマアルドリッチ社)中で、37℃でインキュベートすることにより、評価した。
【0089】
4時間後に、各ウェルからMTT試薬を吸引し、ホルマザン生成物を200μlのDSMOに溶解した。SpevctraMax M5マイクロプレートリーダー(Molecular Devices)
を使用して、各サンプルの500nm及び650nmでの吸光度を測定し、細胞増殖率を吸光度(500-650nm)から計算し、PBSコントロールを100%増殖と見なして。溶媒(PBS)で処理した細胞との比較結果として表した。
【0090】
図12に示されるように、55℃で保存した場合、非晶化されていないVEGF中で細胞間接触がないまばらな単一細胞群と比べて、非晶化VEGF処理がなされたグループにおいては、健康な細胞が細胞間接触をより確立していた。スケールバー=200mm
【0091】
この結果は、55℃で保存された非晶化VEGFで得られた効果は、適切な保存温度(-20℃)で保存されたVEGFにおいて得られた効果に対して遜色がないことを示している。特に、非晶化されていないVEGFを55℃に暴露すると、細胞増殖を促進するVEGFが含まれていないコントロールで得られるVEGF活性と同程度にまで、VEGF活性が完全に失われた。
【0092】
MTTアッセイの結果(
図12の右側)は、55℃で1、7、および15日間それぞれ保存された非晶化VEGFでは、55℃で15日間保存された非晶化されていないVEGFと比べて、有意に高い効果が見られたことを示している。一方で、VEGFが含まれていないサンプルと、55℃で保存された非晶化されていないサンプルとの間では、顕著な差異は見られなかった。適切な温度(-20℃)で保存されたVEGFにより得られた結果と、55℃で保存された非晶化VEGFにより得られた結果との間には、統計的に有意な差はなかった。全ての値は、平均±SEM、n=3.*、P<.05を表す。
【0093】
[実施例7:内皮細胞チューブ形成アッセイ]
マトリゲル上での内皮細胞による管形成を評価することにより、非晶化VEGFによる血管新生の可能性を測定した。成長因子が減少したマトリゲル(Corning Life Sciences;1ウェルあたり289ml)を、24ウェルプレートのガラスカバースリップにコーティングし、37℃で30分間放置してゲル化させた。
【0094】
VascuLife完全培地で増殖させたHUVECのうち、2継代以内のものが、チューブ形成アッセイのために使用された。トリプシン処理後、2継代のHUVECを、2%ノックアウト血清を含むVascuLife基本培地(Lifeline Cell Technology、カルフォルニア州)に再懸濁し、溶媒(PBS)、又は標準条件(-20℃)で保存されたVEGF(10ng/ml)、又は55℃で1~15日間保存された非晶化VEGF(10ng/ml)を含む、300ml培地に、60,000細胞/ウェルの細胞密度でゲルマトリックス上に穏やかに播種した。
【0095】
ウェルプレートを、37℃で8時間インキュベートした。各ウェルでの管形成は、倒立位相差顕微鏡(Nikon Instruments)を使用して画像化され、ループ数/mm2、分岐点数/mm2
、およびループの平均長さ(mm)は、ImageJソフトウェアを使用して数値化された。
【0096】
図13に示されるように、55℃で保存された非晶化VEGFは、非晶化されていないVEGFと比べて、培養中の内皮細胞による管形成を効率的に促進する。55℃で保存された非晶化VEGFで見られた効果は、適切な保存温度(-20℃)で保存された標準のVEGFで見られた効果に対して遜色がないことが示された。特に、非晶化されていないVEGFを55℃に暴露すると管形成の能力が完成に損なわれ、これは、VEGFなしのコントロールサンプルで見られた結果と同様であった。
【0097】
図14はまた、管形成の促進を示している。例えばこの図は、55℃で1、7及び15日間保存した非晶化VEGFで得られる効果を表す数値、すなわちループ数(A)、分岐点数(B)、及びループの長さ(C)を含む数値化されたデータを提供している。特に、55℃で保存された非晶化されていないVEGFと比較した場合、上記数値化されたデータのそれぞれは有意に高かったが、55℃で保存された非晶化されていないVEGFと、VEGFなしのサンプルとの間では有意な差異は見られなかった。
【0098】
適切な温度(-20℃)で保存されたVEGFによって得られる効果は、55℃で保存された非晶化VEGFによって得られる効果に対して、統計的に有意な差異はなかった。全ての値は、負の対照サンプル(55℃で15日間おいたVEGF)に対しての、平均±SEM、n=3.*、P<.05を表す。
【0099】
[実施例8:マウスの皮膚創傷治癒モデル]
C57/BL6J雌マウス(n=5)は、VEGFの作用を阻害する可溶型のFlk1(sFlk1)をコードするアデノウィルスで処理され、年齢を一致させた対照マウス(n=5)は、Fcのみを発現する対照ウィルスで処理された。
【0100】
ウィルスを注射した24時間後に、使い捨ての皮膚パンチ生検ツールを用いて、各マウスの背中に、2つの全層切除創(直径0.8cm)を作成した。0日目と9日目に、デジタルカメラで創傷サイズを測定することによって、創傷閉鎖の程度が評価された。9日目の終わりに、ヘマトキシリン&エオシン(H&E)染色法による治癒過程の標準的な組織的分析のために、皮膚のサンプルを採取した。
【0101】
創傷治癒率は、9日後に採取されたAdFcコントロール(対照)群およびAdFlk処理群のそれぞれの切片の、創傷の端と端との間の距離を測定することにより、算出された。別の組織片が採取されて、4%パラホルムアルデヒドでプレフィックス(prefixed)して、従来の低温保存装置により凍結切片とするのに用いられた。内皮細胞マーカーをCD31で染色するのに10mm切片を使用し、CD31で染色された切片を載せて、蛍光イメージング用のZeiss Axio Camカメラを搭載したZeiss Axioskop 2顕微鏡で検査した。
【0102】
毛細血管密度は、CD31染色細胞/領域の数を数えることによって評価され、各領域の核染色DAPIによって測定された有核細胞の総数に対する%CD31として表された。
【0103】
図15に示されるように、VEGFは、皮膚の創傷治癒過程で、血管新生と再上皮化における重要な役割を果たす。AdFlk1処理によってVEGFの作用を阻害すると、皮膚の創傷閉鎖が著しく遅延することが分かった。さらに、CD31陽性免疫染色血管が有意に減少したことからも明らかなように、AdFlk1で処理したマウスにおいて創傷の再上皮化が完全に遮断されたのが観察され、また、AdFlk1で処理したマウスにおいて血管密度(血管新生)が著しく抑制されたのが観察された。*P<0.05;スチューデントのt検定;n=5マウス/グループ
【0104】
[実施例9:トランスウェル移動および引っかき傷治癒アッセイ]
トランスウェル移行において確立された2つの細胞培養モデルと、新たに単離されたC57/BL6Jマウス角化細胞を用いた引っかき傷治癒モデルとが、使用された。最初に、角化細胞培養物は、穏やかに攪拌しながら、ディスパーゼ(皮膚の表皮を単離するため)と、トリプシン(表皮から角化細胞を単離するため)とを用いて、マウスの皮膚の表皮層から角化細胞を酵素的に分離することによって、確立された。収集した細胞をSFM-角化細胞培地(Life Technologies)で増殖させた。
【0105】
角化細胞がVEGFの影響下で移動する能力を評価するために、細胞をトリプシンで処理し遠心分離によって収集し、これをトランスウェルインサートの上部チャンバーに添加した。一方で、トランスウェルインサートの下部チャンバーには、血清を含まない培地が入れられ、そこにVEGFなしのコントロール(対照サンプル)、VEGF、又はVEGF+VEGF阻害剤のいずれかが添加された。細胞を通常の増殖条件下で移動できるようにした。24時間が経過したときに、ビヒクル(溶媒)対照の影響下で、または下部チャンバー内のVEGFの影響下で移動した細胞を視覚的にカウントし、細胞移動率として表した。
【0106】
角化細胞が移動して創傷のギャップを治癒する能力を評価するために、均一な寸法の引っかき傷を角化細胞単層全体に形成し、そこに培養物を残して、VEGFの存在下/非存在下およびVEGF阻害剤の存在下/非存在下での治癒の状況を調べるために用いられた。
【0107】
図16に示されるように、VEGFは、トランスウェル移動アッセイおよび引っかき傷治癒アッセイの両方において、角化細胞の移動を刺激する。
図16の(A)は、トランスウェル移動アッセイの結果を提供しており、血管新生誘導物質であるVEGFに対して角化細胞が移動応答することが示唆されている。角化細胞培養物に対するVEGFの作用の特異性は、VEGF阻害剤により応答を遮断してみることによって確認できた。
図16の(B)は、培養した角化細胞に由来する融合単層上に均一に作成された引っかき傷を用いて、創傷治癒アッセイを行った結果を提供している。これによれば、角化細胞を移動させる能力を有するVEGFによって、創傷ギャップに角化細胞が動員され、引っかき傷領域の著しい治癒が促進されることが分かる。角化細胞の引っかき傷治癒に対するVEGFの作用の特異性は、VEGF阻害剤によって応答を阻害してみることにより、確認できた。
図16の(C)は、トランスウェル移動アッセイにおける細胞数の定量化を提供しており、引っかき傷領域に移動する細胞数は、VEGFによる角化細胞の移動を劇的に誘導することが明らかとなった。この角化細胞の移動は、特異的なVEGF阻害剤によって著しく阻害された。*P<0.05;スチューデントのt検定;n=3
【0108】
[実施例10:皮膚線維芽細胞においてLPSにより誘発される瘢痕形成遺伝子発現アッセイ]
皮膚線維芽細胞を、非晶化VEGF(10ng/ml)の存在下で3日間、リポ多糖LPS(500ng/ml)または溶媒PBS(LPSコントロールなし)により処理し、これを1~15日の間55℃に暴露して、安定性を試験した。
【0109】
非晶化がされることなく熱による不安定化を受けたVEGF(10ng/ml)に暴露されたLPS処理細胞は、負のコントロール(陰性対照サンプル)として機能し、非晶化がされることもなく不安定化もされなかったVEGFにより処理された細胞は、正のコントロール(陽性対照サンプル)として機能した。
【0110】
皮膚線維芽細胞においてLPSにより誘発される瘢痕形成遺伝子プロファイル、すなわちTNFα、COLlAl、DSTN、TGFβ、IL-6、およびCOL3Alを、定量的リアルタイムPCR(qPCR)で測定し、β-アクチンの発現に対して正規化し(normalized)、LPSなしのコントロールで測定される程度の発現量とした。
【0111】
図17に示されるように、理想的な条件(+コントロール)の下で保存されたVEGFは、瘢痕形成遺伝子に対して強い抑制効果を示した。この効果は、非晶化VEGFを用いると完全に再現されたが、15日間にわたって55℃に暴露した非晶化されていないVEGFを用いると再現できなかった。このことより、VEGFを非晶化させて安定化させることで、その抗瘢痕活性が維持されることとなり、理想的な保存条件におかなくても創傷治癒が可能になることが示唆される。
【0112】
全ての値は、3つの独立した反復の平均±SEMを表している。LPSのみ、又は負の対照サンプルと比較して、*p<0.05が成り立つ。
【0113】
[実施例11:抗菌ペプチド]
抗菌ペプチド(AMP)は、広範囲で抗菌活性を発揮する。AMPは複数の細胞標的を有するため、多くの場合に単一の標的しか持たない抗生物質と比較して、微生物がそれに対する耐性を持つようになることが困難となる。さらに、AMPは、サイトカインやケモカインの発現の調節、白血球の活性化の調節など、いくつかの免疫調節特性も発揮する。AMPは、血管新生や創傷治癒などの他の生物学的プロセスでも、役割を担っている。これらの抗菌ペプチドが機能不全に終わってしまういくつかの原因には、インビトロおよびインビボでの安定性、効率性および毒性が挙げられる。
【0114】
環境温度での安定性を獲得するために、ペプチドを、ポリカプロラクトン(PCL-生分解性ポリエステル)膜(実施例1のようにして形成されたもの。)上にトレハロースおよびグリセロールを含む二糖賦形剤中で非晶化した。広範囲の抗菌性、抗真菌性、および抗ウィルス活性を獲得するために、N末端にアミノラウリン酸を、C末端にアミドコンジュゲーションを有するペプチドPlm[分子量-2024.60Da]が固相F-moc化学を使用して商業的に合成され(ペプチド2、米国)、逆相高速液体クロマトグラフィーによって純度が95%を上回るように精製された。
【0115】
ペプチドの活性と安定性を改善するために、N末端およびC末端の修飾が行われた。非晶化したサンプルは、室温と55℃のそれぞれで、様々な長さに設定された時間だけ、保存された。以下の実施例では、-20℃および4℃で保存された非晶化されていないペプチドが、コントロール(対照サンプル)として使用された。
【0116】
[実施例12:放射状拡散感染アッセイ]
2層のルリア-ベルターニ(LB)-アガロースプレートを用いて、放射状拡散アッセイを実行するとともに、非晶化抗菌ペプチドおよび対照ペプチドの抗菌効果を評価した。
【0117】
第1の層に直径0.5インチのウェルが形成された(cut through)。2500CFUのBacillus subtilis(グラム陽性細菌)がウェルに加えられた。1番目のウェルは、ペプチドを含まないPCL膜で覆われ、また水和させるために150mlのPBSが添加された。2番目、3番目、および4番目のウェルは、それぞれ異なる濃度のペプチドを含み、またそれぞれ150mlのPBSを含んだ。
【0118】
非晶化ペプチドは非晶化プロセス中に膜上に保存されたのに対し、対照ペプチドは配置前に膜上に追加された点に留意されたい。サンプルは、18時間にわたって、湿式インキュベータ(moist incubator)内に37℃で保存された。
【0119】
図18に示されるように、55℃で2週間保存した後の非晶化ペプチドは、-20℃で保存した対照ペプチドと同等の抗菌活性を示した。特に、冷蔵庫で4℃で保存された対照ペプチドは、2週間後には完全に変性しており、抗菌活性を示さなかった。
【0120】
図19は、非晶化ペプチドは、55℃で7週間保存した後であっても安定であり、-20℃で保存された対照ペプチドと同等の抗菌活性を発揮することを示している。したがって、創傷ドレッシング材に埋め込まれた非晶化ペプチドは、環境温度において安定した状態を保っており、抗菌保護を提供することができる。
【0121】
[参考文献]
1.Bao P, Kodra A, Tomic-Canic M, Golinko MS, Ehrlich HP, Brem H. 2009.
The role of vascular endothelial growth factor in wound healing. J Surg Res. 2009 May 15; 153 (2):347-58. 2008.04.023. Epub 2008 May 12. Review
2.Wietecha MS, DiPietro LA. 2013. Therapeutic approaches to the regulation of wound angiogenesis. Adv Wound Care (New Rochelle). 2(3):8l-86. Review.
3.Frank S, Hiibner G, Breier G, Longaker MT, Greenhalgh DG, Werner S.1995. Regulation of vascular endothelial growth factor expression in cultured keratinocytes. Implication for normal and impaired wound healing. Journal of Biological Chemistry 270(21): 12607-13
4.Jacobi J, Tam BY, Sundram El, von Degenfeld G, Blau HM, Kuo CJ, Cooke JP. 2004.
Discordant effects of a soluble VEGF receptor on wound healing and angiogenesis. Gene Ther. 11(3):302-9.
5.Hideyuki Mlizumachi, Hiroyuki Ijima. 2013. Measuring Stability of Vascular Endothelial Growth Factor using an Immobilization Technique. Advanced Biomedical Engineering 2: 130-136.
【0122】
本明細書に記載の組成物および方法は、現時点における例示的な態様を代表するものであり、本発明の範囲を限定することを意図したものではない。記載の中の変更および他の使用は、当業者が容易に想到するであろう。そのような変更および他の使用は、本発明の範囲から逸脱することなく行うことができる。
【0123】
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、本発明を限定することを意図するものではない。本明細書で使用される場合、単数形の「a」、「an」、「the」、そして「少なくとも1つ」という表現は、文脈が明確に別段の示唆をしていない限り、複数形を含むことを意図している。「または」は、「および/または」を意味する。本明細書で使用される場合、「および/または」という用語は、1つ以上の関連する列挙した項目のうちのいずれか、またはありとあらゆる組み合わせを含む。さらに、本明細書で「comprises」及び/又は「comprising」、又は「includes」及び/又は「including」という用語を用いた場合、記載された特徴、領域、整数、ステップ、操作、要素が存在することを規定するが、1つ以上の他の特徴、領域、整数、ステップ、操作、要素、成分、及び/又はそれらの組み合わせの存在や追加を除外するものではないと理解されるべきである。「またはその組み合わせ」という用語は、前述した複数の要素のうちの少なくとも1つを含む組み合わせを意味する。
【0124】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。さらに、一般的に用いられる辞書に定義されているような用語は、関連技術および本開示の内容における意味と合致する意味を有するように解釈されるべきであり、本明細書で明示的に定義されない限り、理想化されたまたは過度に形式的な意味を有するものと解釈されるべきではない。
【0125】
本明細書で示され説明されたもの以外の、本発明に対しての様々な変更が、上記の説明の技術分野における当業者には明らかであろう。このような変更も、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図されている。
【0126】
本明細書で触れた特許、刊行物、および出願は、本発明が関係する技術分野における当業者のレベルを示す。これらの特許、刊行物、および出願は、これらをこの出願に対し具体的かつ個別に組み込んだ場合と同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0127】
上述の説明は、本発明の特定の実施形態を例示するものであるが、その実施を制限することを意味するものではない。以下の特許請求の範囲は、その全ての同等物を含めて、本発明の範囲を定義することを意図している。
【国際調査報告】