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特表2022-505878耐食性かつ耐摩耗性のニッケル系合金
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-14
(54)【発明の名称】耐食性かつ耐摩耗性のニッケル系合金
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/30 20060101AFI20220106BHJP
   C22C 19/05 20060101ALI20220106BHJP
   C22C 27/06 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
B23K35/30 340L
C22C19/05 B
B23K35/30 340Z
C22C27/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021522960
(86)(22)【出願日】2019-10-25
(85)【翻訳文提出日】2021-06-11
(86)【国際出願番号】 US2019058080
(87)【国際公開番号】W WO2020086971
(87)【国際公開日】2020-04-30
(31)【優先権主張番号】62/751,020
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515195347
【氏名又は名称】エリコン メテコ(ユーエス)インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】ヴェッキオ, ジェームス
(72)【発明者】
【氏名】チーニー, ジャスティン リー
(72)【発明者】
【氏名】ブラッチ, ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】フィアラ, ペトル
(57)【要約】
ニッケル系合金の実施形態を本明細書において開示する。ニッケル系合金は、PTA及びレーザークラッディングハードフェーシング処理のための原料として使用することができ、ハードフェーシング層を形成するために使用されるコアードワイヤとして製造することができる。ニッケル系合金は、高い耐食性と、分離過共晶硬質相などの多数の硬質相を有することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Niと、
0.5重量%~2重量%のCと、
10重量%~30重量%のCrと、
5.81重量%~18.2重量%のMoと、
2.38重量%~10重量%のNb+Tiとを含む原料。
【請求項2】
約0.8重量%~約1.6重量%のCと、
約14重量%~約26重量%のCrと、
約8重量%~約16重量%のMoとを含む、請求項1に記載の原料。
【請求項3】
約0.84重量%~約1.56重量%のCと、
約14重量%~約26重量%のCrと、
約8.4重量%~約15.6重量%のMoと、
約4.2重量%~約8.5重量%のNb+Tiとを含む、請求項1に記載の原料。
【請求項4】
約8.4重量%~約1.56重量%のCと、
約14重量%~約26重量%のCrと、
約8.4重量%~約15.6重量%のMoと、
約4.2重量%~約7.8重量%のNbと、
約0.35重量%~約0.65重量%のTiとを含む、請求項1に記載の原料。
【請求項5】
約1.08重量%~約1.32重量%のCと、
約13重量%~約22重量%のCrと、
約10.8重量%~約13.2重量%のMoと、
約5.4重量%~約6.6重量%のNbとを含む、請求項1に記載の原料。
【請求項6】
約1.2重量%のCと、
約20重量%のCrと、
約12重量%のMoと、
約6重量%のNbと、
約0.5重量%のTiとを含む、請求項1に記載の原料。
【請求項7】
前記原料は粉末である、請求項1~6のいずれか1項に記載の原料。
【請求項8】
前記原料はワイヤである、請求項1~6のいずれか1項に記載の原料。
【請求項9】
前記原料はワイヤと粉末との組合せである、請求項1~6のいずれか1項に記載の原料。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の原料から形成されるハードフェーシング層。
【請求項11】
前記ハードフェーシング層は、
合計で5モル%以上である1,000以上のビッカース硬度の硬質相、
20重量%以上の組み合わせた合計のクロム及びモリブデン、
合計で総硬質相分率の50モル%以上である分離過共晶硬質相、
0.33~3のWC/Cr比率、
250mm未満のASTM G65A摩耗損失、及び
650以上のビッカース硬度を含むニッケル母材を含む、請求項10に記載のハードフェーシング層。
【請求項12】
前記ハードフェーシング層は750以上のビッカース硬度を有する、請求項10又は11に記載のハードフェーシング層。
【請求項13】
前記ハードフェーシング層は、平方インチあたり2つ以下の割れを示し、9,000psi以上の付着性を有し、2体積%以下の有孔率を有する、請求項10~12のいずれか1項に記載のハードフェーシング層。
【請求項14】
前記ハードフェーシング層は0.5体積%以下の有孔率を有する、請求項10~13のいずれか1項に記載のハードフェーシング層。
【請求項15】
前記ハードフェーシング層は、28%のCaCl電解液、pH=9.5の環境において1mpy以下の腐食速度を有する、請求項10~14のいずれか1項に記載のハードフェーシング層。
【請求項16】
前記ハードフェーシング層は、28%のCaCl電解液、pH=9.5の環境において0.4mpy以下の腐食速度を有する、請求項15に記載のハードフェーシング層。
【請求項17】
前記ハードフェーシング層は、G-59/G-61にしたがった16時間の3.5%塩化ナトリウム溶液中において0.1mpyより小さい腐食速度を有する、請求項10~16のいずれか1項に記載のハードフェーシング層。
【請求項18】
前記ハードフェーシング層は、G-59/G-61にしたがった16時間の3.5%塩化ナトリウム溶液中において0.08mpyより小さい腐食速度を有する、請求項17に記載のハードフェーシング層。
【請求項19】
前記ニッケル母材は、Ni:残量、X>20重量%で規定される耐食性合金と比較して、80%以上の母材近似性を有し、XはCu、Cr,又はMoの少なくとも1つを表す、請求項10~18のいずれか1項に記載のハードフェーシング層。
【請求項20】
前記耐食性合金は、Inconel(登録商標)625、Inconel622、Hastelloy(登録商標)C276、HastelloyX、及びMonel(登録商標)400からなる群より選択される、請求項19に記載のハードフェーシング層。
【請求項21】
前記ハードフェーシング層は、液圧シリンダー、テンションライザー、マッドモーターローター、又は油田部材用途に適用される、請求項10~20のいずれか1項に記載のハードフェーシング層。
【請求項22】
ニッケルを含む原料であって、
前記原料は、熱力学的平衡状態下で、
合計で5モル%以上である1,000以上のビッカース硬度の硬質相、及び
既知の耐食性ニッケル合金と比較したとき80%以上の母材近似性を有することで特徴づけられる耐食性母材を形成するように構成される、原料。
【請求項23】
前記既知の耐食性ニッケル合金は、配合成分Ni:残量、X>20重量%によって表され、XはCu、Cr,又はMoの少なくとも1つを表す、請求項22に記載の原料。
【請求項24】
前記原料は粉末である、請求項22又は23に記載の原料。
【請求項25】
前記粉末は噴霧プロセスによって作製される、請求項24に記載の原料。
【請求項26】
前記粉末は凝集及び焼結プロセスによって作製される、請求項24に記載の原料。
【請求項27】
前記耐食性母材は、20重量%以上の組み合わせた合計のクロム及びモリブデンを含むニッケル母材である、請求項22~26のいずれか1項に記載の原料。
【請求項28】
前記耐食性母材は、熱力学的平衡状態下において、合計で総硬質相分率の50モル%以上である分離過共晶硬質相を有することで特徴づけられる、請求項22~27のいずれか1項に記載の原料。
【請求項29】
前記既知の耐食性ニッケル合金は、Inconel(登録商標)625、Inconel622、Hastelloy(登録商標)C276、HastelloyX、及びMonel(登録商標)400からなる群より選択される、請求項22~28のいずれか1項に記載の原料。
【請求項30】
前記原料は、
0.84重量%~1.56重量%のCと、
14重量%~26重量%のCrと、
8.4重量%~15.6重量%のMoと、
4.2重量%~7.8重量%のNbと、
0.35重量%~0.65重量%のTiとを含む、請求項22~29のいずれか1項に記載の原料。
【請求項31】
前記原料は、
約2.5重量%~約5.7重量%のBと、及び
約9.8重量%~約23重量%のCuとをさらに含む、請求項30に記載の原料。
【請求項32】
前記原料は、
約7重量%~約14.5重量%のCrを含む、請求項31に記載の原料。
【請求項33】
前記耐食性母材は、熱力学的平衡状態下において、
合計で50モル%以上である硬質相、及び
1550K以下の液相線温度を有することで特徴づけられる、請求項22~32のいずれか1項に記載の原料。
【請求項34】
前記原料は、MonelとWC又はCrの少なくとも1つとの混合物を含む、請求項22~33のいずれか1項に記載の原料。
【請求項35】
前記原料は、
75重量%~85重量%のWC+15重量%~25重量%のMonel、
65重量%~75重量%のWC+25重量%~35重量%のMonel、
60重量%~75重量%のWC+25重量%~40重量%のMonel、
75重量%~85重量%のCr+15重量%~25重量%のMonel、
65重量%~75重量%のCr+25重量%~35重量%のMonel、
60重量%~75重量%のCr+25重量%~40重量%のMonel、
75重量%~85重量%のWC/Cr+15重量%~25重量%のMonel、
65重量%~75重量%のWC/Cr+25重量%~35重量%のMonel、及び
60重量%~75重量%のWC/Cr+25重量%~40重量%のMonelからなる群より選択される、請求項22~34のいずれか1項に記載の原料。
【請求項36】
前記耐食性母材のWC/Cr比は、体積において0.02~5である、請求項22~35のいずれか1項に記載の原料。
【請求項37】
前記原料はワイヤを含む、請求項22に記載の原料。
【請求項38】
前記原料はワイヤと粉末との組合せを含む、請求項22に記載の原料。
【請求項39】
請求項22~38のいずれか1項に記載の原料から形成されるハードフェーシング層。
【請求項40】
前記ハードフェーシング層は、
250mm未満のASTM G65A摩耗損失、及び
前記ハードフェーシング層をPTA又はレーザークラッディング処理から形成するとき平方インチあたり2つ以下の割れを含む、請求項39に記載のハードフェーシング層。
【請求項41】
前記ハードフェーシング層は、28%のCaCl電解液、pH=9.5の環境において1mpy以下の腐食速度を示す不透過性HVOFコーティングを含む、請求項39又は40に記載のハードフェーシング層。
【請求項42】
前記ハードフェーシング層は、
650以上のビッカース硬度、及び
前記ハードフェーシング層をHVOF溶射処理から形成するとき9,000psi以上の付着性をさらに含む、請求項39~41のいずれか1項に記載のハードフェーシング層。
【請求項43】
前記ハードフェーシング層は、液圧シリンダー、テンションライザー、マッドモーターローター、又は油田部材用途に適用される、請求項39~42のいずれか1項に記載のハードフェーシング層。
【請求項44】
前記ハードフェーシング層は、
750以上のビッカース硬度、及び
前記ハードフェーシング層をHVOF溶射処理から形成するとき2体積%以下、好ましくは0.5%以下の有孔率を含む、請求項39~43のいずれか1項に記載のハードフェーシング層。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[任意の先願の言及による援用]
本願は、2018年10月26日に出願した、「耐食性かつ耐摩滅性のニッケル系合金」という発明の名称の米国特許出願第62/751,020号の優先権を主張し、そのすべてが言及によって本明細書に援用される。
【0002】
[技術分野]
本開示の実施形態は、概して、プラズマトランスファードアーク(PTA)、高速レーザークラッディングを含むレーザークラッディングハードフェーシング処理、及び高速フレーム(HVOF)溶射等の溶射処理などのハードフェーシング処理のための適切な原料とすることができるニッケル系合金に関する。
【背景技術】
【0003】
[関連技術の説明]
摩滅性及び腐食性の摩耗は、表面を摩耗させる砂、岩、又は他の硬質媒体に関わる用途において作業者にとって大きな問題である。著しい摩耗が起こる用途では、典型的に、激しい摩耗による材料の不良を起こりにくくするため高硬度材料を使用する。これらの材料は、典型的に、材料を摩滅しにくくするとともに材料のバルク硬度を高める硬質析出物としてカーバイド及び/又はボライドを含む。これらの材料は、多くの場合、種々の溶接処理によってハードフェーシングとして知られるコーティングとして塗布される、又は直接部品に鋳造される。
【0004】
作業者にとっての他の大きな問題は腐食である。激しい腐食が起こる用途では、典型的に、クロム高含有の軟質ニッケル系又はステンレス鋼タイプの材料を使用する。これらのタイプの用途では、下にある基材の腐食をもたらすことから、肉盛り層に割れは存在すべきでない。
【0005】
現在のところ、耐摩耗材料又は耐食材料のいずれかを使用することは、この両方の要求を満たす合金がほとんど存在しないことから、一般的である。現行の材料は、多くの場合、必要な耐用年数が得られない、又は、割れをもたらし得る耐摩耗性を高めるためのカーバイドの添加を必要とする。
【発明の概要】
【0006】
本明細書において、重量%で、Ni、C:0.5~2、Cr:10~30、Mo:5.81~18.2、Nb+Ti:2.38~10を含む原料の実施形態が開示される。
【0007】
一部の実施形態において、原料は、重量%で、C:約0.8~約1.6、Cr:約14~約26、及びMo:約8~約16をさらに含むことができる。一部の実施形態において、原料は、重量%で、C:約0.84~約1.56、Cr:約14~約26、Mo:約8.4~約15.6、及びNb+Ti:約4.2~約8.5をさらに含むことができる。一部の実施形態において、原料は、重量%で、C:約8.4~約1.56、Cr:約14~約26、Mo:約8.4~約15.6、Nb:約4.2~約7.8、及びTi:約0.35~約0.65をさらに含むことができる。一部の実施形態において、原料は、重量%で、C:約1.08~約1.32、Cr:約13~約22、Mo:約10.8~約13.2、及びNb:約5.4~約6.6をさらに含むことができる。一部の実施形態において、原料は、重量%で、C:約1.2、Cr:約20、Mo:約12、Nb:約6、及びTi:約0.5をさらに含むことができる。
【0008】
一部の実施形態において、原料は粉末である。一部の実施形態において、原料はワイヤである。一部の実施形態において、原料はワイヤと粉末との組合せである。
【0009】
また、本明細書に開示するような原料から形成されるハードフェーシング層の実施形態が本明細書において開示される。
【0010】
一部の実施形態において、ハードフェーシング層は、合計で5モル%以上である1,000以上のビッカース硬度の硬質相、20重量%以上の組み合わせた合計のクロムとモリブデン、合計で総硬質相分率の50モル%以上である分離過共晶硬質相、0.33~3のWC/Cr比率、250mm未満のASTM G65A摩耗損失、及び650以上のビッカース硬度、を含むニッケル母材を含むことができる。
【0011】
一部の実施形態において、ハードフェーシング層は750以上のビッカース硬度を有することができる。一部の実施形態において、ハードフェーシング層は、平方インチあたり2つ以下の割れを示し、9,000psi以上の付着性を有し、2体積%以下の有孔率を有することができる。一部の実施形態において、ハードフェーシング層は0.5体積%以下の有孔率を有することができる。一部の実施形態において、ハードフェーシング層は、28%のCaCl電解液、pH=9.5の環境において1mpy以下の腐食速度を有することができる。一部の実施形態において、ハードフェーシング層は、28%のCaCl電解液、pH=9.5の環境において0.4mpy以下の腐食速度を有することができる。一部の実施形態において、ハードフェーシング層は、G-59/G-61にしたがった16時間の3.5%塩化ナトリウム溶液中において0.1mpyより小さい腐食速度を有することができる。一部の実施形態において、ハードフェーシング層は、G-59/G-61にしたがった16時間の3.5%塩化ナトリウム溶液中において0.08mpyより小さい腐食速度を有することができる。
【0012】
一部の実施形態において、ニッケル母材は、Ni:残量、X>20重量%で規定される耐食性合金と比較して、80%以上の母材近似性を有することができ、XはCu、Cr,又はMoの少なくとも1つを表す。一部の実施形態において、耐食性合金は、Inconel(登録商標)625、Inconel622、Hastelloy(登録商標)C276、HastelloyX、及びMonel(登録商標)400からなる群より選択される。
【0013】
一部の実施形態において、ハードフェーシング層は、液圧シリンダー、テンションライザー、マッドモーターローター、又は油田部材用途に適用することができる。
【0014】
ニッケルを含む原料の実施形態がさらに本明細書において開示され、原料は、熱力学的平衡状態下で、全部で5モル%以上である1,000以上のビッカース硬度の硬質相と、既知の耐食性ニッケル合金と比較したとき80%以上の母材近似性とを有することで特徴づけられる耐食性母材を形成するように構成される。
【0015】
一部の実施形態において、既知の耐食性ニッケル合金は、配合成分Ni:残量、X>20重量%によってあらわすことができ、XはCu、Cr,又はMoの少なくとも1つを表す。
【0016】
一部の実施形態において、原料は粉末とすることができる。一部の実施形態において、粉末は噴霧プロセスによって作製することができる。一部の実施形態において、粉末は凝集及び焼結プロセスによって作製することができる。
【0017】
一部の実施形態において、耐食性母材は、20重量%以上の組み合わせた合計のクロム及びモリブデンを含むニッケル母材とすることができる。一部の実施形態において、熱力学的平衡状態下において、耐食性母材は、合計で総硬質相分率の50モル%以上である分離過共晶硬質相を有することで特徴づけることができる。
【0018】
一部の実施形態において、既知の耐食性ニッケル合金は、Inconel625、Inconel622、HastelloyC276、HastelloyX、及びMonel400からなる群より選択することができる。
【0019】
一部の実施形態において、原料は、C:0.84~1.56、Cr:14~26、Mo:8.4~15.6、Nb:4.2~7.8、及びTi:0.35~0.65を含むことができる。一部の実施形態において、原料は、B:約2.5~約5.7、及びCu:約9.8~約23をさらに含むことができる。一部の実施形態において、原料は、Cr:約7~約14.5をさらに含むことができる。
【0020】
一部の実施形態において、熱力学的平衡状態下において、耐食性母材は、合計で50モル%以上となる硬質相と、1550K以下の液相線温度とを有することで特徴づけることができる。
【0021】
一部の実施形態において、原料は、MonelとWC又はCrの少なくとも1つとの混合物を含むことができる。
【0022】
一部の実施形態において、原料は、重量における、75~85%WC+15~25%Monel、65~75%WC+25~35%Monel、60~75%WC+25~40%Monel、75~85%Cr+15~25%Monel、65~75%Cr+25~35%Monel、60~75%Cr+25~40%Monel、75~85%WC/Cr+15~25%Monel、65~75%WC/Cr+25~35%Monel、及び60~75%WC/Cr+25~40%Monel、からなる群より選択される。
【0023】
一部の実施形態において、耐食性母材のWC/Cr比は、体積において0.02~5とすることができる。一部の実施形態において、溶射原料はワイヤを含むことができる。一部の実施形態において、溶射原料はワイヤと粉末との組合せを含むことができる。
【0024】
また、本明細書に開示するような原料から形成されるハードフェーシング層の実施形態が本明細書において開示される。
【0025】
一部の実施形態において、ハードフェーシング層は、250mm未満のASTM G65A摩耗損失、及び該ハードフェーシング層をPTA又はレーザークラッディング処理から形成するとき平方インチあたり2つ以下の割れを含むことができる。一部の実施形態において、ハードフェーシング層は、28%のCaCl電解液、pH=9.5の環境において1mpy以下の腐食速度を示す不透過性HVOFコーティングを含むことができる。
【0026】
一部の実施形態において、ハードフェーシング層は、650以上のビッカース硬度、及び該ハードフェーシング層をHVOF溶射処理から形成するとき9,000psi以上の付着性をさらに含むことができる。
【0027】
一部の実施形態において、ハードフェーシング層は、液圧シリンダー、テンションライザー、マッドモーターローター、又は油田部材用途に適用することができる。
【0028】
一部の実施形態において、ハードフェーシング層は、750以上のビッカース硬度、及び該ハードフェーシング層をHVOF溶射処理から形成するとき2体積%以下、好ましくは0.5%以下の有孔率を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、様々な温度において合金に存在する相のモル分率を示す、合金P82-X6の温度に対する相モル分率のダイヤグラムを示す。
図2図2は、様々な温度において合金に存在する相のモル分率を示す、合金P76-X23の温度に対する相モル分率のダイヤグラムを示す。
図3図3は、硬質相、過共晶硬質相、及び母材を含む合金P82-X6の一実施形態におけるSEMイメージを示す。
図4図4は、実施例1、パラメーターセット1におけるガス噴霧粉末からレーザー溶接したP82-X6の光学顕微鏡イメージを示す。
図5図5は、実施例2におけるP76-X24合金のガス噴霧粉末501及び得られたコーティング502のSEMイメージを示す。
図6図6は、実施例3におけるWC/Cr+Ni合金の凝集及び焼結粉末、具体的に20重量%Monelと混合した80重量%WC/Cr(50/50体積%)の混合物を堆積させたHVOFコーティングのSEMイメージを示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本開示の実施形態は、これらに限定されないが、ハードフェーシング/ハードバンディング材料、そうしたハードフェーシング/ハードバンディング材料を作製するために使用される合金又は粉末組成物、ハードフェーシング/ハードバンディング材料を形成する方法、及び、これらのハードフェーシング/ハードバンディング材料を混合する、又はこれらのハードフェーシング/ハードバンディング材料によって保護される部品又は基材を含む。
【0031】
特定の用途において、摩滅及び腐食性の摩耗に対して高耐性の金属層を形成し、腐食しにくくすることが有利となり得る。本明細書において、耐摩滅及び耐食性を与えるように開発されているニッケル系合金の実施形態を開示する。合わせた耐食性及び耐摩耗性から恩恵を受け得る産業は、海洋用途、電力産業におけるコーティング、石油及びガス用途、ガラス製造のためのコーティングを含む。
【0032】
一部の実施形態において、本明細書に開示する合金は、性能を向上させるためにさらなる元素も含みながら、Inconel(登録商標)及びHastelloy(登録商標)などの一部の既知の合金に類似する母材化学成分を有する、微細構造を形成するように設計することができる。例えば、カーバイドを材料の母材に添加することができる。特に、耐食性を向上及び耐摩滅性を向上させることができる。
【0033】
複合合金空間において、単に元素を取り除く、又は他のもので置換し、同等の結果を得ることは不可能であるということを理解する必要がある。
【0034】
一部の実施形態において、本明細書に記載するようなニッケル系合金は、プラズマトランスファードアーク(PTA)、高速レーザークラッディングを含むレーザークラッディングハードフェーシング処理、及び高速フレーム(HVOF)溶射を含む溶射処理のための適切な原料とすることができるが、本開示はそのように限定されない。一部の実施形態は、ハードフェーシング処理のためにニッケル系合金をコアードワイヤへと製造することと、ワイヤ供給レーザー及び短波長レーザーを使用したニッケル系ワイヤ及び粉末の溶接方法とを含む。
【0035】
合金という用語は、金属部材を形成するために使用される粉末の化学組成、粉末自体、鋳造部材を形成するために使用される溶融物の化学組成、溶融物自体、並びに、冷却後の金属部材の組成を含む、粉末の加熱、焼結、及び/又は堆積によって形成される金属部材の組成を指し得る。一部の実施形態において、合金という用語は、開示の粉末を形成する化学組成、粉末自体、原料自体、ワイヤ、粉末を含むワイヤ、ワイヤの組合せの合わせた組成、粉末の加熱及び/又は堆積、又は他の手法によって形成される金属部材の組成、並びに金属部材を指し得る。
【0036】
一部の実施形態において、溶接のための、又は他の処理の原料として使用するための、ソリッド又はコアードワイヤ(粉末含有シース)に製造される合金は、本明細書において特定の化学成分によって記述することができる。例えば、ワイヤは溶射に使用することができる。さらに、以下に開示する組成は、単一のワイヤ、又は複数のワイヤ(2、3、4、又は5つのワイヤなど)の組合せのものとすることができる。
【0037】
一部の実施形態において、合金は、HVOF合金など溶射コーティングを形成するように溶射処理によって塗布することができる。一部の実施形態において、合金は、溶接肉盛り層として塗布することができる。一部の実施形態において、合金は、例えば2つの用途を有する、溶射層として又は溶接肉盛り層として塗布することができる。
【0038】
[金属合金組成]
一部の実施形態において、本明細書に開示するような原料の組成物など、製品は、Niと、重量パーセントにおける、
B:0~4(又は約0~約4);
C:0~9.1(又は約0~約9.1);
Cr:0~60.9(又は約0~約60.9);
Cu:0~31(又は約0~約31);
Fe:0~4.14(又は約0~約4.14);
Mn:0~1.08(又は約0~約1.08);
Mo:0~10.5(又は約0~約10.5);
Nb:0~27(又は約0~約27);
Si:0~1(又は約0~約1);
Ti:0~24(又は約0~約24);及び
W:0~12(又は約0~約12)とを含むことができる。
【0039】
一部の実施形態において、本明細書に開示するような原料の組成物など、製品は、Niと、重量パーセントにおける、
C:0.5~2(又は約0.5~約2);
Cr:10~30(又は約10~約30);
Mo:5~20(又は約5~約20);及び
Nb+Ti:2~10(又は約2~約10)とを含むことができる。
【0040】
一部の実施形態において、本明細書に開示するような原料の組成物など、製品は、Niと、重量パーセントにおける、
C:0.8~1.6(又は約0.8~約1.6);
Cr:14~26(又は約14~約26);
Mo:8~16(又は約8~約16);及び
Nb+Ti:2~10(又は約2~約10)とを含むことができる。
【0041】
一部の実施形態において、本明細書に開示するような原料の組成物など、製品は、Niと、重量パーセントにおける、
C:0.84~1.56(又は約0.84~約1.56);
Cr:14~26(又は約14~約26);
Mo:8.4~15.6(又は約8.4~約15.6);及び
Nb+Ti:4.2~8.5(又は約4.2~約8.5)とを含むことができる。
【0042】
一部の実施形態において、本明細書に開示するような原料の組成物など、製品は、Niと、重量パーセントにおける、
C:0.84~1.56(又は約0.84~約1.56);
Cr:14~26(又は約14~約26);
Mo:8.4~15.6(又は約8.4~約15.6);
Nb:4.2~7.8(又は約4.2~約7.8);及び
Ti:0.35~0.65(又は約0.35~約0.65)とを含むことができる。
【0043】
一部の実施形態において、本明細書に開示するような原料の組成物など、製品は、Niと、重量パーセントにおける、
C:1.08~1.32(又は約1.08~約1.32);
Cr:13~22(又は約13~約22);
Mo:10.8~13.2(又は約10.8~約13.2);及び
Nb:5.4~6.6(又は約5.4~約6.6)とを含むことができる。
【0044】
一部の実施形態において、本明細書に開示するような原料の組成物など、製品は、Niと、重量パーセントにおける、
C:0.5~2(又は約0.5~約2);
Cr:10~30(又は約10~約30);
Mo:5.81~18.2(又は約5.81~約18.2);及び
Nb+Ti:2.38~10(又は約2.38~約10)とを含むことができる。
【0045】
一部の実施形態において、本明細書に開示するような原料の組成物など、製品は、重量パーセントにおける、以下の1つを含むことができる。
C:0.5、Cr:24.8、Mo:9.8、Ni:残量(又はC:約0.5、Cr:約24.8、Mo:約9.8、Ni:残量);
C:0.35~0.65、Cr:17.3~32.3、Mo:6.8~12.7、Ni:残量(又はC:約0.35~約0.65、Cr:約17.3~約32.3、Mo:約6.8~約12.7、Ni:残量);
C:0.45~0.55、Cr:22.3~27.3、Mo:8.8~10.8、Ni:残量(又はC:約0.45~約0.55、Cr:約22.3~約27.3、Mo:約8.8~約10.8、Ni:残量);
C:0.8、Cr:25、Mo:14、Ni:残量(又はC:約0.8、Cr:約25、Mo:約14、Ni:残量);
C:0.56~1.04、Cr:17.5~32.5、Mo:9.8~18.2、Ni:残量(又はC:約0.56~約1.04、Cr:約17.5~約32.5、Mo:約9.8~約18.2、Ni:残量);
C:0.7~0.9、Cr:22.5~27.5、Mo:12.6~15.4、Ni:残量(又はC:約0.7~約0.9、Cr:約22.5~約27.5、Mo:約12.6~約15.4、Ni:残量);
C:1.2、Cr:24、Mo:14、Ni:残量(又はC:約1.2、Cr:約24、Mo:約14、Ni:残量);
C:0.84~1.56、Cr:16.8~31.2、Mo:9.8~18.2、Ni:残量(又はC:約0.84~約1.56、Cr:約16.8~約31.2、Mo:約9.8~約18.2、Ni:残量);
C:1.08~1.32、Cr:21.6~26.4、Mo:12.6~15.4、Ni:残量(又はC:約1.08~約1.32、Cr:約21.6~約26.4、Mo:約12.6~約15.4、Ni:残量);
C:1.2、Cr:20、Mo:12、Nb:6、Ti:0.5、Ni:残量(又はC:約1.2、Cr:約20、Mo:約12、Nb:約6、Ti:約0.5、Ni:残量);
C:0.84~1.56、Cr:14~26、Mo:8.4~15.6、Nb:4.2~7.8、Ti:0.35~0.65、Ni:残量(又はC:約0.84~約1.56、Cr:約14~約26、Mo:約8.4~約15.6、Nb:約4.2~約7.8、Ti:約0.35~約0.65、Ni:残量);
C:1.08~1.32、Cr:18~22、Mo:10.8~13.2、Nb:5.4~6.6、Ti:0.45~0.55、Ni:残量(又はC:約1.08~約1.32、Cr:約18~約22、Mo:約10.8~約13.2、Nb:約5.4~約6.6、Ti:約0.45~約0.55、Ni:残量);
C:1.6、Cr:18、Mo:14、Nb:6、Ni:残量(又はC:約1.6、Cr:約18、Mo:約14、Nb:約6、Ni:残量);
C:1.12~2.08、Cr:12.6~23.4、Mo:9.8~18.2、Nb:4.2~7.8、Ni:残量(又はC:約1.12~約2.08、Cr:約12.6~約23.4、Mo:約9.8~約18.2、Nb:約4.2~約7.8、Ni:残量);
C:1.44~1.76、Cr:16.2~19.8、Mo:12.6~15.4、Nb:5.4~6.6、Ni:残量(又はC:約1.44~約1.76、Cr:約16.2~約19.8、Mo:約12.6~約15.4、Nb:約5.4~約6.6、Ni:残量)。
【0046】
一部の実施形態において、本明細書に開示するような原料の組成物など、製品は、Niと、重量パーセントにおける、
C:1.4、Cr:16、Fe:1.0、Mo:10、Nb:5、Ti:3.8(若しくはC:約1.4、Cr:約16、Fe:約1.0、Mo:約10、Nb:約5、Ti:約3.8);
B:3.5、Cu:14(若しくはB:約3.5、Cu:約14);
B:2.45~4.55(若しくは約2.45~約4.55)、Cu:9.8~18.2(若しくは約9.8~約18.2);
B:3.15~3.85(若しくは約3.15~約3.85)、Cu:12.6~15.4(若しくは約12.6~約15.4);
B:4.0、Cr:10、Cu:16(若しくはB:約4.0、Cr:約10、Cu:約16);
B:2.8~5.2(若しくは約2.8~約5.2)、Cr:7~13(若しくは約7~約13)、Cu:11.2~20.8(若しくは約11.2~約20.8);
B:3.6~4.4(若しくは約3.6~約4.4)、Cr:9~11(若しくは約9~約11)、Cu:14.4~17.6(若しくは約14.4~約17.6);又は
C:1.2、Cr:20、Mo:12、Nb:6、Ti:0.5(又はC:約1.2、Cr:約20、Mo:約12、Nb:約6、Ti:約0.5)とを含むことができる。
【0047】
一部の実施形態において、本明細書に開示するような原料の組成物など、製品は、重量パーセントにおける、凝集及び焼結させた、
75~85%WC+15~25%Monel;
65~75%WC+25~35%Monel;
60~75%WC+25~40%Monel;
75~85%Cr+15~25%Monel;
65~75%Cr+25~35%Monel;
60~75%Cr+25~40%Monel;
60~85%WC+15~40%Ni30Cu;
60~85%Cr+15~40%Ni30Cu;
75~85%(50/50体積%)WC/Cr+15~25%Monel;
75~85%(50/50体積%)WC/Cr+25~35%Monel;
75~85%WC/Cr+15~25%Monel;
75~85%WC/Cr+25~35%Monel;又は
60~90%硬質相+10~40%Monel合金、の混合物を含むことができる。
【0048】
上述において、硬質相は、タングステンカーバイド(WC)及び/又はクロムカーバイド(Cr)の1つ以上である。Monel(登録商標)は、C、Mn、S、Si、及びFeを含むがこれらに限定されない既知の不純物を含む20~40重量%Cu又はより好ましくは又は28~34重量%Cuの一般的な化学成分許容差を有するターゲット組成物がNi残量30重量%Cuのニッケル銅合金である。Monelはいずれのカーバイドも含まず、ゆえに本開示の実施形態は、タングステンカーバイド及び/又はクロムカーバイドなどのカーバイドを含む。タングステンカーバイドは一般的に配合成分W:残量、4~8重量%Cによって表される。一部の実施形態において、タングステンカーバイドは一般的に配合成分W:残量、1.5重量%Cによって表すことができる。
【0049】
60~85%WC+Ni30Cuを有する一部の実施形態において、製品は、重量パーセントにおいて、
Ni:10.5~28(又は約10.5~約28);
Cu:4.5~12(又は約4.5~約12);
C:3.66~5.2(又は約3.66~約5.2);
W:56.34~79.82(又は約56.34~約79.82)とすることができる。
【0050】
60~85%Cr+Ni30Cuを有する一部の実施形態において、製品は、重量パーセントにおいて、
Ni:10.5~28(又は約10.5~約28);
Cu:4.5~12(又は約4.5~約12);
C:7.92~11.2(又は約7.92~約11.2);
W:52.1~73.78(又は約52.1~約73.79)とすることができる。
【0051】
このように、上述の原料の記載は、(所定比の単純なNi30Cuの化学式によって表されるように)単純な化学式の既知の合金であるタングステンカーバイドをMonelと機械的に混合したことを示す。このプロセス全体において、多くの粒子がくっついて、新たな「凝集」粒子を形成するようになる。それぞれの場合において、凝集粒子は記載の比からなる。
【0052】
表1では、重量パーセントで表した組成と共に、多数の実験用合金を挙げている。
【表1】
【0053】
一部の実施形態において、P76合金は溶射合金とし、P82合金は溶接肉盛合金(PTA又はレーザーなど)とすることができる。しかしながら、本開示はそのように限定されない。例えば、本明細書に開示するような組成のいずれも、プラズマトランスファードアーク(PTA)、高速レーザークラッディングを含むレーザークラッディングハードフェーシング処理、及び高速フレーム(HVOF)溶射等の溶射処理などのハードフェーシング処理に適切とすることができる。
【0054】
表1において、すべての値は「約」記載の値でもあるとすることができる。例えば、P82-X1では、Niは59(又は約59)である。
【0055】
一部の実施形態において、開示の組成はワイヤ/粉末、コーティング若しくは他の金属製部材、又はその両方とすることができる。
【0056】
開示の合金は、上述の元素成分を全体で100重量%まで含むことができる。一部の実施形態において、合金は、上述で挙げた元素を含むことができる、上述で挙げた元素に限定することができる、又は実質的に上述で挙げた元素からなることができる。一部の実施形態において、合金は、2重量%(若しくは約2重量%)以下、1重量%(若しくは約1重量%)以下、0.5重量%(若しくは約0.5重量%)以下、0.1重量%(若しくは約0.1重量%)以下、若しくは0.01重量%(若しくは約0.01重量%)以下、又は任意のそれらの値同士の間の任意の範囲の不純物を含むことができる。不純物は、製造プロセスにおいて導入されることによって、原料成分に含まれるため、合金に含まれ得る元素又は組成物として理解することができる。
【0057】
さらに、上述の段落に記載される組成のすべてにおいて特定されるNi含有量は、組成の残量とすることができる、又は、Niが残量として提供される場合、組成の残量はNi及び他の元素を含むことができる。一部の実施形態において、残量は実質的にNiからなり、付随する不純物を含み得る。
【0058】
[熱力学的条件]
一部の実施形態において、合金はその平衡熱力学的条件によって特徴づけることができる。一部の実施形態において、合金は、記載される熱力学的条件の一部を満たすとして特徴づけることができる。一部の実施形態において、合金は、記載される熱力学的条件のすべてを満たすとして特徴づけることができる。
【0059】
第1の熱力学的条件は、微細構造における超硬質粒子の総濃度に関する。超硬質粒子のモル分率が増大すると、合金のバルク硬度は増大し得るので、耐摩耗性も増大し得、これはハードフェーシング用途に有利であり得る。この開示のため、超硬質粒子は1000ビッカース以上(又は約1000ビッカース以上)の硬度を示す相として規定することができる。超硬質粒子の総濃度は、1000ビッカース(又は約1000ビッカース)の硬度を満たす又はそれを超えるとともに、合金において1500K(又は約1500K)で熱力学的に安定である、すべての相の総モル%として規定することができる。
【0060】
一部の実施形態において、超硬質粒子分率は、3モル%以上(若しくは約3モル%以上)、4モル%以上(若しくは約4モル%以上)、5モル%以上(若しくは約5モル%以上)、8モル%以上(若しくは約8モル%以上)、10モル%以上(若しくは約10モル%以上)、12モル%以上(若しくは約12モル%以上)、若しくは15モル%以上(若しくは約15モル%以上)、20モル%以上(若しくは約20モル%以上)、30モル%以上(若しくは約30モル%以上)、40モル%以上(若しくは約40モル%以上)、50モル%以上(若しくは約50モル%以上)、60モル%以上(若しくは約60モル%以上)、又は任意のそれらの値同士の間の任意の範囲とする。
【0061】
一部の実施形態において、超硬質粒子分率は、目的の合金処理に対応して変わり得る。例えば、溶射合金では、硬質粒子分率は、40~60モル%(又は約40~約60モル%)とすることができる。レーザー、プラズマトランスファーアーク、又は他のワイヤ溶接施工によって溶接するために用いられる合金では、硬質粒子相分率は、15~30モル%(又は約15~約30モル%)とすることができる。
【0062】
第2の熱力学的条件は、合金に形成される過共晶硬質相の量に関する。過共晶硬質相は、合金の共晶点より高い温度で形成し始める硬質相である。これらの合金の共晶点は、FCC母材が形成され始める温度である。
【0063】
一部の実施形態において、過共晶硬質相は、合金に存在する総硬質相において、全部で40モル%以上(若しくは約40%以上)、45モル%以上(若しくは約45%以上)、50モル%以上(若しくは約50%以上)、60モル%以上(若しくは約60%以上)、70モル%以上(若しくは約70%以上)、75モル%以上(若しくは約75%以上)、若しくは80モル%以上(若しくは約80%以上)、又は任意のそれらの値同士の間の任意の範囲となる。
【0064】
第3の熱力学的条件は、合金の耐食性に関する。ニッケル系合金の耐食性は、FCC母材に存在するクロム及び/又はモリブデンの重量パーセンテージがより高くなると増大し得る。この第3の熱力学的条件は、1500K(又は約1500K)におけるFCC母材のクロム及びモリブデンの総重量%を評価する。
【0065】
一部の実施形態において、母材におけるクロム及びモリブデンの総重量%は、15重量%以上(若しくは約15重量%以上)、18重量%以上(若しくは約18重量%以上)、20重量%以上(若しくは約20重量%以上)、23重量%以上(若しくは約23重量%以上)、25重量%以上(若しくは約25重量%以上)、27重量%以上(若しくは約27重量%以上)、若しくは30重量%以上(若しくは約30重量%以上)、又は任意のそれらの値同士の間の任意の範囲とする。
【0066】
第4の熱力学的条件は、合金の母材化学成分に関する。一部の実施形態において、例えば、Inconel622、Inconel625、Inconel686、HastelloyC276、HastelloyX、又はMonel400などの既知の合金に類似する母材化学成分を保持することが有益とすることができる。一部の実施形態において、既知の合金に類似する母材化学成分を保持するため、1300Kにおける合金の母材化学成分を既知の合金のものと比較した。こうした比較は母材近似性と称される。一般に、そうした超合金は、重量%において配合成分Ni:残量、Cr:15~25、Mo:8~20によって表すことができる。
Inconel622 Cr:20~22.5、Mo:12.5~14.5、Fe:2~6、W:2.5~3.5、Ni:残量
Inconel625 Cr:20~23、Mo:8~10、Nb+Ta:3.15~4.15、Ni:残量
Inconel686 Cr:19~23、Mo:15~17、W:3~4.4、Ni:残量
HastelloyC276 Cr:16、Mo:16、鉄:5、W:4、Ni:残量
HastelloyX Cr:22、Fe:18、Mo:9、Ni:残量
Monel Cr:28~34、Ni:残量
【0067】
一部の実施形態において、母材近似性は、任意の上述の既知の合金の、50%(若しくは約50%)以上、55%(若しくは約55%)以上、60%(若しくは約60%)以上、70%(若しくは約70%)以上、80%(若しくは約80%)以上、85%(若しくは約85%)以上、90%(若しくは約90%)以上である。母材近似性は、エネルギー分散型分析法(EDS)などの多数の方法で判定することができる。
【0068】
以下の数式は、既知の耐食性を有する合金とモデル合金母材の類似性又は近似性を算出するために使用可能である。100%の値は、比較した元素間で厳密に一致することを意味する。
【数1】
は、参照合金におけるn番目の元素のパーセンテージである。
は、モデル合金の母材におけるn番目の元素の算出パーセンテージである。
Σrは、比較される元素の総パーセンテージである。
mは、比較に使用する溶質元素の数である。
【0069】
第5の熱力学的条件は、合金がガス噴霧製造プロセスに適切であることの判定に利用可能な合金の液相線温度に関する。液相線温度は、合金がなお100%液相である最も低い温度である。一般に、より低い液相線温度はガス噴霧プロセスの安定性の増大に相当する。一部の実施形態において、合金の液相線温度は、1850K(又は約1850K)以下とすることができる。一部の実施形態において、合金の液相線温度は、1600K(又は約1600K)以下とすることができる。一部の実施形態において、合金の液相線温度は、1450K(又は約1450K)以下とすることができる。
【0070】
合金P82-X6の熱力学的挙動を図1に示す。ダイヤグラムは、1500Kにおいて5%より多い、ニッケル母材103における過共晶FCCカーバイド101を析出する材料を示す。101は、分離過共晶相を形成する、温度の関数としてのFCCカーバイド分率を示す。102は、M6Cカーバイドに加えてFCCカーバイドを含む、1300Kにおける総硬質相含有量を指す。このように、過共晶硬質相は、合金の総硬質相の50%を超える。103は、FCC_L12ニッケル母材である、合金の母材を指す。合金103の母材近似性は、Inconel625と比較したとき60%より大きい。
【0071】
Cタイプのカーバイドも、低い温度で析出して、1300Kで約15モル%の総カーバイド含有量を構成する(12.6%のFCCカーバイド、2.4%のMCカーバイド)。FCCカーバイドは、合金における分離カーバイドを表すとともに、合金における総カーバイドの大部分(>50%)を構成する。矢印は、母材近似性の式に挿入するためFCC_L12母材の組成を抽出する点を具体的に指している。この例に示すように、すべての硬質相の体積分率は5モル%を超える一方、カーバイド分率の50%を超えるのものが、分離形態を形成することで知られる過共晶相として形成され、残りのFCC_L12母材相がInconel625に対して60%を超える近似性を有する。
【0072】
この算出において、図1には示していないものの、FCC_L12母材相の化学成分が抽出される。母材化学成分は、18重量%のCr、1重量%のFe、9重量%のMo、及び1重量%のTi、残量のニッケルである。P82-X6の母材化学成分がP82-X6のバルク化学成分と完全に異なるということが理解できる。P82-X6は、Inconel625と類似する腐食性能を有するように設計されており、Inconel625との母材近似性は87%である。
【0073】
合金P76-X23の熱力学的挙動を図2に示す。ダイヤグラムは、ニッケル母材201における共晶NiB203を析出する材料を示す。201は、好ましい実施形態において1850Kより低い、合金の液相線温度を示す。202は、この場合は1200Kで5モル%を超えるニッケルボライド(NiB)である、合金における硬質相のモル分率を示す。203は、この場合母材化学成分が1200Kで抽出されるとともに、母材近似性がMonelに対して60%を超える、母材相分率を示す。合金の液相線温度は1400Kであり、これは材料をガス噴霧に極めて適するものとする。NiBは、この例では硬質相であり、1300Kにおいて66%のモル分率で存在する。母材化学成分は、33重量%のCu、残量のニッケルである。P76-X23の母材化学成分がP76-X23のバルク化学成分と完全に異なるということが理解できる。P76-X23はMonel400と類似する腐食性能を有するように設計されており、P76-X23のMonel400との母材近似性は100%である。
【0074】
[微細構造条件]
一部の実施形態において、合金はその微細構造条件によって記述することができる。一部の実施形態において、合金は、記載される微細構造条件の一部を満たすとして特徴づけることができる。一部の実施形態において、合金は、記載される微細構造条件のすべてを満たすとして特徴づけることができる。
【0075】
第1の微細構造条件は、超硬質粒子の総測定体積分率に関する。この開示のため、超硬質粒子は1000ビッカース以上(又は約1000ビッカース以上)の硬度を示す相として規定することができる。超硬質粒子の総濃度は、1000ビッカース(又は約1000ビッカース)の硬度を満たす又はそれを超えるとともに、合金において1500K(又は約1500K)で熱力学的に安定である、すべての相の総モル%として規定することができる。一部の実施形態において、合金は、少なくとも3体積%(若しくは少なくとも約3体積%)、少なくとも4体積%(若しくは少なくとも約4体積%)、少なくとも5体積%(若しくは少なくとも約5体積%)、少なくとも8体積%(若しくは少なくとも約8体積%)、少なくとも10体積%(若しくは少なくとも約10体積%)、少なくとも12体積%(若しくは少なくとも約12体積%)、若しくは少なくとも15体積%(若しくは少なくとも約15体積%)の超硬質粒子、少なくとも20体積%(若しくは少なくとも約20体積%)の超硬質粒子、少なくとも30体積%(若しくは少なくとも約30体積%)の超硬質粒子、少なくとも40体積%(若しくは少なくとも約40体積%)の超硬質粒子、少なくとも50体積%(若しくは少なくとも約50体積%)の超硬質粒子、又は、任意のそれらの値同士の間の任意の範囲の超硬質粒子を有する。
【0076】
一部の実施形態において、超硬質粒子分率は、目的の合金処理に対応して変わり得る。例えば、溶射合金では、硬質粒子分率は、40~60体積%(又は約40~約60体積%)とすることができる。レーザー、プラズマトランスファーアーク、又は他のワイヤ溶接施工によって溶接するために用いられる合金では、硬質粒子相分率は、15~30体積%(又は約15~約30体積%)とすることができる。
【0077】
第2の微細構造条件は、合金における過共晶分離硬質相分率に関する。本明細書において使用するとき、分離とは、特定の分離相(球状又は部分的に球状の粒子など)が他の硬質相とつながっていないことを意味し得る。例えば、分離相は母材相によって100%囲むことができる。これは、微細構造にわたって割れを起こす靭性の低い「ブリッジ」として作用する長針を形成し得る棒状相と対照的とすることができる。
【0078】
合金の割れやすさを低減するため、連続的な粒界相ではなく分離過共晶相を形成することが有益であるとすることができる。一部の実施形態において、分離過共晶硬質相は、合金に存在する総硬質相分率において、全部で40体積%(若しくは約40%)以上、45体積%(若しくは約45%)以上、50体積%(若しくは約50%)以上、60体積%(若しくは約60%)以上、70体積%(若しくは約70%)以上、75体積%(若しくは約75%)以上、若しくは80体積%(若しくは約80%)以上、又は任意のそれらの値同士の間の任意の範囲となる。
【0079】
第3の微細構造条件は、合金における耐食性増大に関する。ニッケル系合金における耐食性を増大させるため、母材におけるクロム及びモリブデンの総重量%を高くすることが有益であるとすることができる。母材におけるクロム及びモリブデンの総重量%を測定するため、エネルギー分散型分光器(EDS)を使用した。一部の実施形態において、母材におけるクロム及びモリブデンの総含有量は、15重量%以上(若しくは約15重量%以上)、18重量%以上(若しくは約18重量%以上)、20重量%以上(若しくは約20重量%以上)、23重量%以上(若しくは約23重量%以上)、25重量%以上(若しくは約25重量%以上)、27重量%以上(若しくは約27重量%以上)、若しくは30重量%以上(若しくは約30重量%以上)、又は任意のそれらの値同士の間の任意の範囲とすることができる。
【0080】
第4の微細構造条件は、例えばInconel625、Inconel686、又はMonelなどの既知の合金のものと比較した合金の母材近似性に関する。合金の母材化学成分を測定するため、エネルギー分散型分光器(EDS)を使用した。一部の実施形態において、母材近似性は、既知の合金の、50%(若しくは約50%)以上、55%(若しくは約55%)以上、60%(若しくは約60%)以上、70%(若しくは約70%)以上、80%(若しくは約80%)以上、85%(若しくは約85%)以上、若しくは90%(若しくは約90%)以上、又は任意のそれらの値同士の間の任意の範囲である。
【0081】
母材近似性は、熱力学的条件の項で記載するものと類似しており、この場合算出される。「母材化学成分」と「母材近似性」との違いは、化学成分がニッケル母材の固溶体に見受けられるCr、Mo、又は他の元素の実際の値であることである。近似性は、良好な耐食性を有する既知の合金の化学成分に設計の合金のニッケル母材がどれほど近く一致するかの定量的尺度として使用される%の値である。明確にするため、Inconelなどの既知の合金は単一相合金であるので、合金組成は事実上母材組成であり、すべての合金元素は固溶体に見受けられる。耐摩耗性のため硬質相を析出する本明細書に記載する合金ではそうではない。
【0082】
図3は、PTA溶接によって作製された際のP82-X6の微細構造のSEMイメージを示す。この場合において、実験のため合金を粉末混合物として作製した。301は、1500Kにおいて5%を超える体積分率を有する分離ニオブカーバイド析出物を示し、302は、合金において総硬質相の50%を超える過共晶硬質相を示し、303は、Inconel625と比較したとき60%を超える母材近似性を有する母材を示す。カーバイド析出物は、ともに総硬質相含有量に寄与する分離形態(より大きいサイズ)と共晶形態(より小さいサイズ)との組合せを形成する。この例において、分離形態の硬質相は、総カーバイド分率の50体積%を超える。
【0083】
[パフォーマンス条件]
一部の実施形態において、ハードフェーシング層は、PTAクラッディング又はレーザークラッディングを含むがこれらに限定されない溶接肉盛り処理によって作製される。
【0084】
一部の実施形態において、合金は多数の有利なパフォーマンス特性を有することができる。一部の実施形態において、合金が、1)高耐摩滅性、2)レーザークラッディング処理又は他の溶接方法によって溶接するとき割れが最小限であるか、割れがない、及び3)高耐食性の1つ以上を有することが有利であるとすることができる。ハードフェーシング合金の耐摩滅性は、ASTM G65A乾式砂摩耗試験を使用して定量化することができる。材料の割れ耐性は、合金における色素浸透試験を使用して定量化することができる。合金の耐食性は、ASTM G48、G59、及びG61試験を使用して定量化することができる。上述のASTM試験のすべては、言及によってそのすべてが本明細書に援用される。
【0085】
一部の実施形態において、ハードフェーシング層は、250mm未満(若しくは約250mm未満)、100mm未満(若しくは約100mm未満)、30mm未満(若しくは約30mm未満)、又は20mm未満(若しくは約20mm未満)のASTM G65A摩耗損失を有し得る。
【0086】
一部の実施形態において、ハードフェーシング層は、コーティングの平方インチあたり5つの割れ、平方インチあたり4つの割れ、平方インチあたり3つの割れ、平方インチあたり2つの割れ、平方インチあたり1つの割れ、若しくは平方インチあたり0の割れ、又は任意のそれらの値同士の間の任意の範囲を発生させ得る。一部の実施形態において、割れは、別個の部品に分かれることなく割れている表面のラインである。
【0087】
一部の実施形態において、ハードフェーシング層は、既知の合金の、50%(若しくは約50%)以上、55%(若しくは約55%)以上、60%(若しくは約60%)以上、70%(若しくは約70%)以上、80%(若しくは約80%)以上、85%(若しくは約85%)以上、90%(若しくは約90%)以上、95%(若しくは約95%)以上、98%(若しくは約98%)以上、99%(若しくは約99%)以上、若しくは99.5%(若しくは約99.5%)以上、又は任意のそれらの値同士の間の任意の範囲の耐食性を有することができる。
【0088】
耐食性は複合的であり、使用する腐食性媒体よって決まり得る。好ましくは、開示する合金の実施形態の腐食速度は、これらが再現しようとする比較される合金の腐食速度とほぼ同等とすることができる。例えば、Inconel625が特定の腐食性媒体において1mpy(1年あたりのミル)腐食速度を有する場合、P82-X6は80%の耐食性を得るように1.25mpy以下の耐食性を有することができる。耐食性は、本開示のため1/腐食速度として規定される。
【0089】
一部の実施形態において、合金は、28%のCaCl電解液、pH=9.5の環境において1mpy以下(又は約1mpy以下)の腐食速度を有することができる。一部の実施形態において、合金は、28%のCaCl電解液、pH=9.5の環境において0.6mpy以下(又は約0.6mpy以下)の腐食速度を有することができる。一部の実施形態において、合金は、28%のCaCl電解液、pH=9.5の環境において0.4mpy以下(又は約0.4mpy以下)の腐食速度を有することができる。
【0090】
一部の実施形態において、合金は、G-59/G-61にしたがった16時間の3.5%塩化ナトリウム溶液中において0.1mpyより小さい(又は約0.1mpyより小さい)耐食性を有することができる。一部の実施形態において、合金は、G-59/G-61にしたがった16時間の3.5%塩化ナトリウム溶液中において0.08mpyより小さい(又は約0.08mpyより小さい)耐食性を有することができる。
【0091】
一部の実施形態において、ハードフェーシング層は、高速フレーム(HVOF)溶射を含むがこれに限定されない溶射処理によって作製される。
【0092】
一部の実施形態において、コーティングの硬度は650(又は約650)ビッカース以上とすることができる。一部の実施形態において、溶射処理の硬度は700(又は約700)ビッカース以上とすることができる。一部の実施形態において、溶射処理の硬度は900(又は約900)ビッカース以上とすることができる。
【0093】
一部の実施形態において、溶射コーティングの付着性は7,500(又は約7,500)psi以上とすることができる。一部の実施形態において、溶射コーティングの付着性は8,500(又は約8,500)psi以上とすることができる。一部の実施形態において、溶射コーティングの付着性は9,500(又は約9,500)psi以上とすることができる。
【実施例
【0094】
[実施例1:P82-X6のPTA溶接]
合金P82-X6は、PTA及び/又はレーザークラッディングに適するように53~150μm粒径分布の粉末にガス噴霧した。合金を、1)1.8kWレーザーパワー及び20L/min流速、並びに2)2.2kWレーザーパワー及び14L/min流速の2つのパラメーターセットを使用してレーザークラッディングを行った。双方の場合において、コーティングは、図4に示すように意図するようなニッケル母材402における微細な分離ニオブ/チタンカーバイド析出物401を示した。レーザークラッディングにおける300重量グラムのビッカース硬度は、それぞれパラメーターセット1及び2に対して435及び348であった。ASTM G65試験は、それぞれパラメーターセット1及び2に対して1.58g(209mm)損失及び1.65g(200mm)損失であった。
【0095】
[実施例2:P76-X23及びP76-X24のHVOF溶射]
合金P76-X23及びP76-X24は、HVOF溶射処理に適するように15~45μm粒径分布の粉末にガス噴霧した。双方の粉末は、ニッケル母材相及びニッケルボライド相が計算モデリングによって予測したように共に存在すると考えられるが、識別及び定量的測定が非常に困難である、極めて微細スケールの形態を形成する。
【0096】
図5に示すように、501はガス噴霧した粉末であり、502は得られた粉末のコーティングであり、母材及びNiボライド相504(例えば、ガス噴霧した粉末の共晶ニッケル/ニッケルボライド構造)に加えて、P76-X24合金はまた、微細分離粒子としてモデルによって予測したようにクロムボライド析出物503も形成する。
【0097】
505は、HVOF溶射コーティングにおける1次ニッケル/ニッケルボライド共晶構造の領域を示し、506は、コーティングにおいて多くのクロムボライド析出物を含む領域を示す。
【0098】
双方の合金を、約200~300μmコーティング厚にHVOF溶射し、密なコーティングを形成した。コーティングにおける300重量グラムのビッカース硬度は、それぞれP76-X23及びP76-X24に対して693及び726であった。P76-X23の付着性試験は、最大9,999psiの接着不良になり、P76-X24は9、576及び9,999psiに達する2つの試験において75%の付着性、25%の接着不良を示した。ASTM G65A(ASTM G65B試験から変換)試験は、P76-X24では87mm損失を示した。ASTM G65A試験は6,000回転を使用し、方法Bは2,000回転を使用し、典型的には溶射コーティングなどの薄膜コーティングに使用される。
【0099】
P76-X24を、28%のCaCl電解液、pH=9.5で試験し、0.4mpyの測定腐食速度を得た。比較すると、割れた硬質クロムは、類似の環境で1.06mpyの速度を示している。硬質Crは、耐食性及び耐摩滅性の両方を必要とする多様な用途のため適切なコーティングとして使用される。一部の実施形態において、HVOFコーティングの形態の合金は、28%のCaCl電解液、pH=9.5の環境において1mpy以下の腐食速度をもたらす。一部の実施形態において、HVOFコーティングの形態の合金は、28%のCaCl電解液、pH=9.5の環境において0.6mpy以下の腐食速度をもたらすことができる。一部の実施形態において、HVOFコーティングの形態の合金は、28%のCaCl電解液、pH=9.5の環境において0.4mpy以下の腐食速度をもたらすことができる。一部の実施形態において、HVOFコーティングの形態の合金は、ECP(電気化学ポテンシャル)試験において不透過コーティングをもたらす。
【0100】
[実施例3:WC/Cr、Ni合金母材混合物のHVOF溶射]
20重量%Monelと混合した80重量%WC/Cr(50/50体積%)の混合物を、溶射処理に適するように15~45μmに凝集させて焼結した。HVOFコーティングは、図6に示すように、946の300グラムビッカース硬度を有し、0.43%測定有孔率の密なコーティングを形成した。HVOFコーティングは、ASTM G65Aにおいて約12mmの質量損失をもたらした。図6は、実施例3におけるWC/Cr+Ni合金の凝集及び焼結粉末、具体的に20重量%Monelと混合した80重量%WC/Cr(50/50体積%)の混合物のSEMイメージを示す。
【0101】
[実施例4:Inconel625との比較におけるP82-X13、14、15、18、19の溶接の研究]
Inconel625との比較において種々のカーバイド含有量及び形態のいくつかの合金を評価して、溶接の研究を行った。研究におけるすべての合金は、Inconel625と類似する母材を形成するために用い、これは母材近似性によって定量化され、100%はInconel625のバルク組成と厳密に類似する母材と同等である。割れ耐性を試験するため、すべての合金を重なり合う3層にレーザー溶接した。同様に、割れ及び他の特性を試験するため、各合金の2層溶接をプラズマトランスファードアーク溶接によって作製した。
【表2】
【0102】
P82-X18は、この研究の結論で良好な結果をもたらすこの開示の実施形態を表す。P82-X18は、PTA及びレーザーの両処理においてInconel625より著しく硬質である。硬度が増大しても、レーザー又はPTAクラッディング試料において割れは明らかに起こらなかった。P82-X18は、両処理においてInconel625と比較したとき耐摩滅性の向上を示す。硬度が増大する一般的な傾向は、表3に示すように、すべての試験合金において同様である。しかしながら、驚いたことに、硬度の増大はすべての場合で耐摩滅性の増大をもたらすわけではない。P82-X13、P82-X14、及びP82-X15はすべて、より硬質でカーバイドを含むものの、Inconel625より大きい摩耗速度を示した。この結果は、総カーバイド分率及び合金硬度と比較したときの有利なカーバイド形態の発見を示す。
【0103】
合金P82-X18は、本開示の熱力学的条件、微細構造条件、及びパフォーマンス条件を満たす。P82-X18は、8.1モル%の分離カーバイドを形成すると予測され、実際に、研究した産業上関連する溶接処理において8~12%の分離カーバイドを形成する。また、この合金は、9.9モル%の粒界硬質相を形成すると予測され、実際に、10体積%以下の粒界硬質相を形成する。分離カーバイド含有量は、合金における総カーバイド含有量の40%を超える。この分離カーバイド分率比の上昇は、総カーバイド分率のみから予期され得るものを超えて耐摩耗性を向上させる。
【表3】
【表4】
【0104】
P82-X18の母材をエネルギー分散型分析法によって測定し、Cr:19~20重量%、Mo:10~12重量%、Ni:残量を得た。このように、母材組成は、Cr:20~23、Mo:8~10、Nb+Ta:3.15~4.15、Ni:残量である、典型的なInconel625製造範囲と極めて類似し、ある程度重複する。P82-X18をG-48塩化第二鉄浸漬試験で24時間試験し、Inconel625と同様に腐食を示さなかった。P82-X18をG-59/G-61ASTM規格にしたがって16時間の3.5%塩化ナトリウム溶液中において腐食試験し、0.075~0.078mpy(1年あたりのミル)の腐食速度を測定した。
【0105】
一部の実施形態において、G-59/G-61にしたがった16時間の3.5%塩化ナトリウム溶液中において測定した材料の腐食速度は、0.1mpyより小さい。一部の実施形態において、G-59/G-61にしたがった16時間の3.5%塩化ナトリウム溶液中において測定した材料の腐食速度は、0.08mpyより小さい。
【0106】
一部の実施形態において、本明細書に開示する合金、例えばP82-X18は、カーバイド金属母材複合材料(MMC)における金属成分としてニッケル又は他の一般的な材料の代わりに使用可能である。MMCのタイプの一般的な例は、重量でWC60重量%、Ni40重量%を含む。この例においてP82-X18利用することで、WC60重量%、P82-X18 40重量%のタイプのMMCを得ることができる。多様なカーバイド比及びカーバイドタイプが使用可能である。
【0107】
[実施例5:P82-X18のHVOF溶射の研究]
水素燃料HVOF処理を使用して、P82-X18を溶射した。得られたコーティングは、10,000psiの付着強度、700HV300ビッカース硬度、及び0.856のASTM G65B質量損失(10.4.6g/mm体積損失)を有するものであった。
【0108】
[実施例6:30%NiCu凝集及び焼結材料のHVOF溶射の研究]
配合成分1)65~75%WC/Cr+25~35%NiCu合金と、配合成分2)65~75%Cr+25~35%NiCu合金にしたがって凝集及び焼結プロセスによって2つの粉末を製造した。第1の混合物を明確にすると、凝集及び焼結粒子の総体積分率の65~75%がカーバイドであり、残りの部分がNiCu金属合金である。粒子のカーバイド含有量は、それ自体、WC及びCrのカーバイドタイプの両方の組合せからなる。一部の実施形態において、WC/Cr比は体積で0~100である。一部の実施形態において、WC/Cr比は体積で約0.33~3である。一部の実施形態において、WC/Cr比は体積で約0.25~5である。一部の実施形態において、WC/Cr比は約0.67~1.5である。NiCu合金の組成は、それぞれ3重量%より少ない他の一般的な不純物を含む、Cu:20~40重量%、好ましくはCu:25~35重量%、さらに好ましくはCu:28~34重量%、残量ニッケルである。
【0109】
双方の粉末をHVOF処理によって溶射してコーティングを形成し、これを試験した。粉末1及び粉末2から作製したコーティングは、28%のCaCl電解液、pH=9.5溶液においてそれぞれ腐食速度0.15mpy及び0.694mpyを示した。粉末1及び粉末2から作製したコーティングは、ECP試験によって測定されるように不透過性であった。粉末1及び粉末2から作製したコーティングは、それぞれASTM G65Aにおける11.3mm及び16.2mmの摩耗体積損失を示した。粉末1及び粉末2から作製したコーティングは、それぞれ816HV300及び677HV300の微小硬さ値を示した。両方の粉末から作製したコーティングは、12,500psiを超える接着強度であった。
【0110】
[用途]
本開示に記載する合金は、多様な用途及び産業に使用可能である。一部の非限定的な使用用途の例は、露天採掘用途、海洋用途、電力産業用途、石油及びガス用途、及びガラス製造用途を含む。
【0111】
露天採掘用途は、以下の部材、及び以下の部材のコーティングを含む。スラリーパイプラインの耐摩耗性スリーブ及び/又は耐摩耗性ハードフェーシング、ポンプ筐体若しくは羽根車を含む泥水ポンプ部材又は泥水ポンプ部材のハードフェーシング、シュートブロック又はシュートブロックのハードフェーシングを含む給鉱シュート部材、ロータリーブレーカースクリーン、バナナスクリーン、及びシェーカースクリーンを含むがこれらに限定されない分離スクリーン、自生粉砕ミル及び準自生粉砕ミルのライナー、掘削具及び掘削具のハードフェーシング、バケットトラック及びダンプトラックのライナーのための摩耗プレート、採鉱ショベルのヒールブロック及びヒールブロックのハードフェーシング、グレーダー排土板及びグレーダー排土板のハードフェーシング、スタッカーリクレーマー、サイザークラッシャー、採掘部材及び他の粉砕部材の一般的な摩耗パッケージ。
【0112】
上述より、創意に富んだニッケル系ハードフェーシング合金及び使用方法を開示することが理解される。いくつかの部材、技術、及び態様がある程度の詳細な事項とともに記載されているが、本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく本明細書に上述される特定の設計、構成、及び方法において多くの変更がなされ得ることが明らかである。
【0113】
別の実施形態の文脈でこの開示に記載される所定の特徴も単一の実施形態において組合せで実施することができる。あるいは、単一の実施形態の文脈で記載される種々の特徴も別々に複数の実施形態で又は任意の適切な副組合せで実施することができる。さらに、特徴を所定の組合せで作用するとして上述し得るものの、記載の組合せにおける1つ以上の特徴を、一部の場合において、組合せから除いて、その組合せを副組合せ又は副組合せの変形として記載することができる。
【0114】
また、方法について、特定の順序で図面に示される又は明細書に記載され得るが、所望の結果を得るために、そうした方法を、示される特定の順序又は連続の順序で行う必要はなく、すべての方法を行う必要はない。示されていない又は記載されていない他の方法を例示の方法及びプロセスに組み込むことができる。例として、1つ以上のさらなる方法を、記載の方法のいずれかの前、それらの後、それらと同時に、又はそれらの間に行うことができる。さらに、他の実施形態において方法を再度編成又は順序付けすることができる。また、上述の実施形態において種々のシステム構成要素を分離することを、すべての実施形態においてそうした分離を要求するとして理解すべきではなく、一般に、記載の構成要素及びシステムが単一の製品でともに統合できる、又は複数の製品にパッケージ化できるということが理解される必要がある。さらに、他の実施形態はこの開示の範囲内にある。
【0115】
具体的に記載されない限り、又は使用される文脈内で理解されない限り、「できる」、「できた」、「し得る」、又は「してもよい」などの条件的文言は、一般に、所定の実施形態が所定の特徴、構成要素、及び/又はステップを含む、又は含まないということを意味することを意図している。このように、そうした条件的文言は、特徴、構成要素、及び/若しくはステップが1つ以上の実施形態に何らかの形で要求されることの示唆を一般に意図していない。
【0116】
具体的に記載されない限り、「少なくとも1つのX、Y、及びZ」という記載などの接続的文言は、アイテム、用語等がX、Y、又はZのいずれかであり得るということを意味するように一般に使用される文脈で理解される。ゆえに、そうした接続的文言は、所定の実施形態が少なくとも1つのX、少なくとも1つのY、及び少なくとも1つのZの存在を要求するということの示唆を一般に意図しない。
【0117】
本明細書に使用される「およそ」、「約」、「一般に」、及び「実質的に」という用語などの本明細書に使用される程度の文言は、なお所望の機能をなす又は所望の結果を得る、記載される値、量、又は特徴に近似する、値、量、又は特徴を表す。例として、「およそ」、「約」、「一般に」、及び「実質的に」という用語は、記載される量の10%以下、5%以下、1%以下、0.1%以下、0.01%以下の量を指すことができる。記載される量が0である(例えば、まったくない、有しない)場合、上述の範囲は特定の範囲とすることができ、値の特定のパーセンテージ内ではない。例として、記載される量の10重量/体積%以下、5重量/体積%以下、1重量/体積%以下、0.1重量/体積%以下、0.01重量/体積%以下である。
【0118】
種々の実施形態に関する任意の特定の特徴、態様、方法、特性、特質、性質、属性、構成要素などの本明細書における開示は、本明細書に示される他のすべての実施形態に使用可能である。さらに、本明細書に記載される任意の方法は、記載のステップを行うことに適する任意のデバイスを使用して実施することができるということが認められる。
【0119】
多くの実施形態及びそれらの変形を詳細に記載しているが、他の改変及びそれらを用いる方法は当業者に明らかになるものである。したがって、種々の用途、改変、材料、及び代替物は、本明細書における特有の創意に富んだ開示、又は特許請求の範囲から逸脱することなく同等物からなすことができるということを理解する必要がある。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】