IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アルカヘスト,インコーポレイテッドの特許一覧

特表2022-505915疼痛、創傷治癒及び術後回復の改善のための血漿及び血漿画分の使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-14
(54)【発明の名称】疼痛、創傷治癒及び術後回復の改善のための血漿及び血漿画分の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/16 20150101AFI20220106BHJP
   A61K 38/38 20060101ALI20220106BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20220106BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220106BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
A61K35/16 Z
A61K38/38
A61P25/04
A61P25/00
A61P17/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021523001
(86)(22)【出願日】2019-10-21
(85)【翻訳文提出日】2021-06-24
(86)【国際出願番号】 US2019057235
(87)【国際公開番号】W WO2020086469
(87)【国際公開日】2020-04-30
(31)【優先権主張番号】62/751,448
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/842,403
(32)【優先日】2019-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517404061
【氏名又は名称】アルカヘスト,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】カストロ,マリアン
(72)【発明者】
【氏名】ギャラガー,イアン
(72)【発明者】
【氏名】ケイフェッツ,ヴィクトリア
(72)【発明者】
【氏名】ルー,ベンソン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA44
4C084DA37
4C084NA14
4C084ZA01
4C084ZA08
4C084ZA89
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB35
4C087CA16
4C087DA26
4C087NA14
4C087ZA01
4C087ZA08
4C087ZA89
(57)【要約】
【解決手段】術後回復を改善するための方法及び組成物を述べる。この方法で使用される組成物には、術後回復に関連した状態を処置及び/又は予防する際に有効性がある血漿及び血漿から得られた血漿画分が含まれている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
術後回復の際に対象を処置する方法であって、
前記対象に有効量の血漿画分を投与することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記血漿画分は、血漿タンパク質画分であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記血漿タンパク質画分は、83%~95%の範囲内のアルブミンを含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記血漿タンパク質画分は、市販の血漿タンパク質画分であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
パルス投与計画を使用して投与を行うことを特徴とする請求項1~4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
疼痛と診断された対象を処置する方法であって、
前記対象に有効量の血漿画分を投与することを特徴とする方法。
【請求項7】
前記疼痛は慢性疼痛であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記疼痛は末梢疼痛であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記疼痛は中枢性疼痛であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記血漿画分は、血漿タンパク質画分であることを特徴とする請求項6~9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
前記血漿タンパク質画分は、83%~95%の範囲内のアルブミンを含むことを特徴とする請求項6~9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
前記血漿タンパク質画分は、市販の血漿タンパク質画分であることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
パルス投与計画を使用して投与を行うことを特徴とする請求項6~12のいずれか1つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疾患及び加齢性疾患の予防及び処置に関する。本発明は、手術並びに手術に関連する状態及び徴候などからの回復を改善して促進するための血漿及び血漿画分のような血液製剤の使用に関する。本発明は更に、慢性疼痛又は神経障害を緩和し、創傷治癒に関連する徴候を処置するための血漿又は血漿画分のような血液製剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の記載は、単に背景情報として示されており、本発明の先行技術として認めるものではない。
【0003】
手術は、疼痛、心肺問題、感染、血栓塞栓問題及び術後の創傷治癒による合併症に関連付けられることが多い。更に、創傷が手術自体(例えば切開)から生じるか、又は事故、暴力若しくは疾患によって生じて、その後外科処置によって処置されるかに関わらず、創傷の治癒には時間がかかる。このような合併症は、加齢によって更に悪化することが多い。更なる合併症は、器官機能に対するその後の要求に伴い外科的ストレス反応から生じる場合があり、外傷による内分泌代謝変化並びにカスケード(サイトカイン、補体、アラキドン酸代謝物、一酸化窒素及び遊離酸素ラジカル)の活性化により媒介されることが多い(Kehlet H., et al., Br. J. Anaesthesia, 78:606-17 (1997))。外科的ストレス反応中、交感神経系が活性化される(Starkweather A, et al., Topics in Pain Management, 32(8):1-11 (2017))。下垂体ホルモン分泌の増加により、異化作用を通じてエネルギーの移動が生じる。その結果、塩及び水が保持される。副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌の増加により、ノルエピネフリン及び交感神経活動が増加する。このため、頻脈及び高血圧などの心血管系応答が生じ、グルカゴンが放出され、高血糖になる。成長ホルモン及びコルチゾールの増加により、単球からマクロファージへの分化が阻害される。このため、T細胞シグナル伝達/ヒスタミン生成が妨げられ、免疫細胞の移動が減少する(上記文献)。
【0004】
術後回復のための現在の処置には、術後疼痛の軽減及びマルチモーダルな介入が含まれる(上記文献)。疼痛管理は多くのタイプの外科回復において重要であり、急性疼痛が予想される(Pinto PR, J Pain Res, 10:1087-98 (2017))。術後疼痛は、一般的な手術を受ける患者にかなりの割合で生じる(Couceiro TC, Rev Bras Anestesiol, 59(3):314-20 (2009))。疼痛は、治癒及び回復を損なうため、臨床転帰にもマイナスの役割を果たす(上記文献)。股関節及び膝関節の置換は特に(例えば変形性関節症からの)慢性疼痛及び急性疼痛の両方に関連付けられる(上記文献)。従って、入院患者の処置及び在宅回復の両方において術後回復に鎮痛薬を一般的に使用する。
【0005】
マルチモーダルな介入の一タイプは術後回復強化(ERAS)である(上記のStarkweather A)。ERASは、幅広い手術、例えば結腸直腸手術、整形外科手術、婦人科手術、泌尿器科手術、頭頚部癌手術、膀胱癌手術、肝疾患手術、直腸/骨盤疾患手術、結腸病変手術、膵頭十二指腸切除術、胃切除手術、肥満手術及び婦人科腫瘍手術に重点を置いている(上記文献)。マルチモーダルな方法として、術前技術(カウンセリング、流体/炭水化物負荷、短期間の絶食)、周術期技術(短時間作用型麻酔薬、正常体温、抗生物質予防投与、血栓塞栓予防、塩/水の過負荷防止、嘔吐防止)、並びに術後技術(早期の経口食、運動、非オピオイド鎮痛薬及び退院後の支援)に重点が置かれている(上記文献)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、現在の治療法では術後の罹患者及び死亡者を排除することができなかった。マルチモーダルな技術はその本来の特質により時間及びリソースを消費する。また、このようなマルチモーダルな治療法に適合し得るあらゆる単一の技術又は薬物処置は存在しない。このような欠点のため、術後回復を改善するための新たな処置が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、例えば疼痛及び創傷治癒などの術後回復に影響を与える症状及び状態を処置するための血液製剤の製造及び使用に基づいている。本発明では、特に術後回復に関連した望ましくない状態を処置するため、及びこのような回復を改善するための新たな処置の必要性が認識されている。血液及び血漿から得られた本発明の本組成物は、術後回復に関連する望ましくない状態を処置する際に有効性を示す、このような回復を改善するための血漿画分を利用して、現在の治療法の欠点及び不足点のための解決策に関する。
【0008】
本発明は更に、急性疼痛及び慢性疼痛に関連する症状及び状態を処置するための血液製剤の製造及び使用に基づいている。本発明では、特に疼痛を緩和するための新たな治療法の必要性が認識されている。急性疼痛及び慢性疼痛を処置するための治療法は存在するが、オピオイド鎮痛薬のような多くのこのような治療法は、中毒、乱用並びに関連する罹患者数及び死亡者数の高い発生率を示す。
【0009】
本明細書で言及されている全ての文献及び特許出願は、個別の文献又は特許出願が夫々参照によって組み込まれることが具体的且つ個別に示されているのと同じ程度まで参照によって本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】慢性絞扼損傷(CCI) 実験を示す図である。23ヶ月齢の野生型マウスには、PPF1、ガバペンチン、組換えヒトアルブミン(rhAlb) 又はビヒクル対照のいずれかの7日間連続パルス投与計画を実施する24時間前に結紮によりCCI 手術又は偽手術を実施した。2~5週目に行動を評価し、5週目に組織構造の組織採取を実施した。
図2】22ヶ月齢の野生型マウスに実施されたCCI の位置を示す図である。結紮を、図2に示されているように坐骨神経に実施した。図2の出典は、全体が参照によって本明細書に組み込まれるSuter MR, et al., Anesthesiology Res and Practice (2011)である。
図3図1に示されているCCI 手術又は偽手術で処置された野生型マウスのフォン・フレイの機械的アロディニア試験のデータを示す図表である。対象の坐骨神経によって弱まった後足は疼痛行動の解析に有用であり、フォン・フレイのフィラメント刺激で実施された。マウスが後足を引っ込めた圧力を測定し、図3にプロットした。図3は、CCI 後にPPF1で処置されたマウスが、CCI 後にビヒクル対照で処置されたマウスより著しく低下した疼痛を示した(より高い圧力に耐えることができた)ことを示す。また、偽手術後にビヒクルで処置されたマウスは更に、CCI 後にビヒクル対照で処置されたマウスより著しく低下した疼痛を示した。これは、PPF1が機械的痛覚の欠如にプラスの影響を与えることを示す。
図4図1に示されている野生型マウスで行われた海馬の組織構造からのデータを示す図表である。神経発生をダブルコルチン(DCX) マーカを使用して測定した。CCI を受けてPPF1で処置されたマウスは、ビヒクルを受けたマウスより海馬での神経発生が著しく増えた。偽手術を受けてビヒクルを受けたマウスは、CCI を受けて術後にビヒクルを受けたマウスより神経発生が増える傾向にあった。このように、PPF1は慢性神経損傷後に神経発生を回復させる能力を示した。
図5図1に示されている野生型マウスで行われた海馬の組織構造からのデータを示す図表である。CD68発現を定量化し、CCI 及びビヒクルを受けたマウスは、CCI 及びPPF1を受けたマウスより海馬のCD68陽性細胞の数が著しく増えたことを示した。CCI 及びビヒクルを受けたマウスと偽手術及びビヒクルを受けたマウスとの間に同程度の差が観察された。これは、PPF1が慢性神経損傷による神経炎症を遮断するのに役立ち得ることを示す。
図6】CCI 手術又は偽手術を受けて、図1に示されているようなタイムラインで試験された22ヶ月齢のC57BL/6Jマウスのフォン・フレイの機械的アロディニア試験のデータを示す図表である。マウスが後足を引っ込めた圧力を評価し、図6にCCI 手術後又は偽手術後の週数として示した。図6は、CCI 手術後にPPF1が投与されたマウスが、CCI 手術後にビヒクルで処置されたマウスより全ての評価時点で機械的痛覚に対する耐性を著しく増加させたことを示している。対照的に、ガバペンチンのみが投与されたマウスは、CCI 手術後2週間で機械的痛覚の著しい改善を示し、ビヒクルで処置されたマウスと他の全ての時点で同様である。偽手術を受けたマウスは、外科処置後3週間及び5週間で機械的痛覚に対する反応が著しく増加したことを示している。これらのデータは、PPF1が標準治療(ガバペンチン)より長い時間、末梢疼痛を改善することを示している。
図7】CCI 手術又は偽手術を受けて、図1に示されているようなタイムラインで試験された22ヶ月齢の野生型マウスのホットプレート試験のデータを示す図表である。このアッセイを、Woolfe及びMacdonald によって記載されているように実施した(全体が参照によって本明細書に組み込まれるWoolfe G. and Macdonald AD, J. Pharmacol. Exp. Ther. 80:300-07 (1944))。ホットプレートの温度は55℃に設定されている。マウスは透明なシリンダの中に30分間置かれて順応している。シリンダをホットプレートの上に置き、タイマを開始した。侵害防御機構行動(例えば後足をなめる又はジャンプする)が最初に観察されると、その時間を潜時として記録する。図7は、CCI 手術又は偽手術から5週間後のホットプレート侵害防御機構潜時を示す。PPF1処置は、CCI 及びビヒクル対照を受けたマウスと比較してホットプレート刺激に対する反応を著しく低下させ、PPF1による救済効果を示す。一方、標準治療(ガバペンチン)の効果はビヒクルの効果と同様である。
図8】CCI 手術又は偽手術を受けて、図1に示されているようなタイムラインで試験された野生型マウスのホットプレート試験のデータを示す図表である。図8は、CCI 手術又は偽手術から5週間後のホットプレート侵害防御機構潜時を示す。PPF1処置及びrhALB は、CCI 及びビヒクル対照を受けたマウスと比較してホットプレート刺激に対する反応を著しく低下させている。
図9】CCI 手術又は偽手術を受けて、図1に示されているようなタイムラインで試験されたC57BL/6Jマウスのフォン・フレイの機械的アロディニア試験のデータを示す図表である。図9は、CCI 手術後にPPF1が投与されたマウスが、CCI 手術後にビヒクルで処置されたマウスより全ての評価時点で機械的痛覚に対する耐性を著しく増加したことを示している。対照的に、rhALB が投与されたマウスは、全ての時点でビヒクルが処置されたマウスと同様の機械的アロディニアへの反応を示している。
図10図1に示されているようにCCI 手術又は偽手術を受けて35日後に組織採取して解析されたC57BL/6Jマウスにおけるミエリン塩基性タンパク質(MBP) 発現の(最後の結紮糸から約1000μm遠位の)坐骨神経組織学的解析のデータを示す図表である。図10は、CCI 手術後にPPF1が投与されたマウスがビヒクルで処置されたマウスと比較してMBP 強度を著しく増大させ、ミエリン発現を増加させたことを示す。偽マウスは更に、CCI で損傷したビヒクルマウスと比較してより多いMBP を発現する。
図11図1に示されているようにCCI 手術又は偽手術を受けて35日後に組織採取して解析されたC57BL/6Jマウスにおける(シュワン細胞によって発現した)S-100 タンパク質の(最後の結紮糸から約1000μm遠位の)坐骨神経組織学的解析のデータを示す図表である。図11は、CCI 手術後にPPF1が投与されたマウスがビヒクルで処置されたマウスと比較してS-100 強度を著しく増大させ、(末梢神経でミエリンを生成する細胞である)シュワン細胞を増加させたことを示す。偽マウスは更に、CCI で損傷したビヒクルマウスと比較してより多いS-100 を発現する。
図12図1に示されているようにCCI 手術を受けてビヒクル又はPPF1のいずれかで処置され、35日後に坐骨神経組織の定性解析に使用されたC57BL/6Jマウスにおける、図10及び図11で定量化のために使用された(最後の結紮糸から約1000μm遠位の)位置を識別する坐骨神経組織学的解析から選択されて、(シュワン細胞によって発現した)S-100 タンパク質及びミエリン塩基性タンパク質の強度を表す画像を示す図である。
図13図1に示されているようにCCI 手術又は偽手術を受けて35日後に組織採取して解析されたC57BL/6Jマウスの(腰部L4-L6 から採取された脊髄組織で行われた)脊髄組織学的解析のデータを示す図表である。図13は、CCI 手術後にPPF1が投与されたマウスが脊髄の後角内のBDNF強度を著しく低下させ、脊髄内のミクログリアの活性化を低下させたことを示す図表である。BDNFは活性化したミクログリアによって放出される炎症性サイトカインであるため、これらの結果は、PPF1が脊髄内の疼痛状態の根本的な調節因子を減少させ、偽(CCI で損傷していない)マウスのレベルにレベルを標準化していることを示唆している。
図14図1に示されているようにCCI 手術又は偽手術を受けて35日後に組織採取して解析されたC57BL/6Jマウスの(腰部L4-L6 から採取された脊髄組織で行われた)脊髄組織学的解析のデータを示す図表である。図14は、CCI 手術後にPPF1が投与されたマウスが脊髄の後角内のCD68強度を著しく低下させ、脊髄内のミクログリアの活性化を低下させたことを示す図表である。CD68タンパク質は活性化したミクログリアによって発現するため、これは、PPF1が脊髄内の疼痛状態の導入に関与する基本的な細胞型の活性化を低下させ、偽(CCI で損傷していない)マウスのレベルにレベルを標準化していることを示唆している。図13及び図14に示されているデータは、PPF1が坐骨神経損傷に起因する疼痛状態を中心的に調節し、中枢性感作としても記載される、末梢神経と脳との間の疼痛シグナル伝達の確立を改善又は防止していることを示している。
図15図1に示されているようにCCI 手術を受けてビヒクル又はPPF1のいずれかで処置され、35日後に脊髄組織の定性解析に使用されたC57BL/6Jマウスにおける(腰部L4-L6 から採取された脊髄組織で行われた)図14の定量化のために使用された後角の位置を識別する脊髄組織学的解析から選択されて、(活性化したミクログリアによって発現した)CD68タンパク質の強度を表す画像を示す図である。
図16図1に示されているようにCCI 手術を受けてビヒクル又はPPF1のいずれかで処置され、35日後に脊髄組織の定性解析に使用されたC57BL/6Jマウスにおける(腰部L4-L6 から採取された脊髄組織で行われた)図13の定量化のために使用された後角の位置を識別する脊髄組織学的解析から選択されて、BDNFタンパク質(活性化したミクログリアによって放出されたサイトカイン)の強度を表す画像を示す図である。
図17】慢性絞扼損傷(CCI) 実験を示す図である。22ヶ月齢の野生型マウスに、PPF1、rhALB 又はビヒクル対照のいずれかの7日間連続パルス投与計画を実施する2週間前に結紮によりCCI 手術又は偽手術を実施した。2~7週目に毎週行動を評価し、7週目に組織構造の組織採取を実施した。
図18】CCI 手術又は偽手術を受けて、図17に示されているようなタイムラインで試験されたC57BL/6Jマウスのフォン・フレイの機械的アロディニア試験のデータを示す図表である。図18は、CCI 手術から2週間後にPPF1が投与されたマウスが、研究期間を通じて維持されたPPF1処置の停止から1週間の時点で始まる機械的痛覚に対する耐性を著しく増加させたことを示している。図18の結果から、耐性の向上が(オピオイド鎮痛薬のような処置中のみ有効性をもたらす治療法とは対照的に)処置から1週間まで証明されないが、少なくとも28日間持続されるので、PPF1処置が機械的アロディニアに対する感度を長期的に低下させるプロセスを開始させることが示唆されている。対照的に、rhALB が投与されたマウスは、全ての時点でビヒクルが処置されたマウスと同様の機械的アロディニアへの反応を示している。
図19】CCI 手術又は偽手術を受けて、図17に示されているようなタイムラインで試験された野生型マウスのホットプレート試験のデータを示す図表である。図19は、CCI 手術又は偽手術から5週間後のホットプレート侵害防御機構潜時を示す。PPF1処置は、CCI 及びビヒクル対照を受けたマウスと比較してホットプレート刺激に対する反応を著しく低下させている。
図20】CCI 手術又は偽手術を受けて、図17に示されているようなタイムラインで試験された野生型マウスのホットプレート試験のデータを示す図表である。図20は、CCI 手術又は偽手術から7週間後のホットプレート侵害防御機構潜時を示す。PPF1処置は、CCI 及びビヒクル対照を受けたマウスと比較してホットプレート刺激に対する反応を著しく低下させている。
図21】(B6.BKS(D)-Leprdb/J糖尿病マウスモデルの)処置されなかった糖尿病創傷(図21A)又はPPF1で処置された糖尿病創傷(図21B)の組織学的比較を示す図である。黒色のバーは創傷の層厚(表皮及び肉芽形成層)を示す。矢印は創傷境界を示す。PPF1で処置されたマウスでは、創傷の層厚によって決定されるように創傷の層厚が増加した。従って、PPF1は創傷治癒の改善を実証している。
図22】(B6.BKS(D)-Leprdb/J糖尿病マウスモデルの)処置されなかった糖尿病創傷(図22A)又はPPF1で処置された糖尿病創傷(図22B)の組織学的比較を示す図である。黒色のバーは肉芽形成層を示す。青色のバーは表皮層を示す。PPF1で処置された創傷は、処置されなかった創傷より厚い表皮層を示したが、肉芽形成層では、PPF1で処置された創傷と処置されなかった創傷との差が更に大きい傾向を示した(つまり、肉芽形成層は処置されなかった創傷よりPPF1で処置された創傷でより厚かった)。
図23図24から図28で使用されている糖尿病創傷治癒実験の一般的な設計を示す図である。血液の液滴が、絶食時血糖値を測定するために血液を採取したときを示す。2日目に皮膚を傷つけ、1日目~7日目に静脈内(iv)投与を行った。屠殺後に(顕微鏡によって示される)組織構造を調べた。
図24】第1の研究(研究1)における傷つけた後の複数の時点で未だ開いている創傷の割合を示す図表である。マウスを7日間PPF1(150 μL)又は生理食塩水対照のいずれかで処置した。10日後、PPF1で処置されたマウスの開いた創傷の大きさは、生理食塩水対照と比較して大幅に減少した(独立T検定による**p< 0.006)。
図25】同様の第2の研究(研究2)における傷つけた後の複数の時点で未だ開いている創傷の割合を示す図表である。マウスを7日間PPF1(150 μL)又は生理食塩水対照のいずれかで処置した。8日後、PPF1で処置されたマウスの開いた創傷の大きさは、生理食塩水対照と比較して大幅に減少した(独立T検定による**p<0.0018)。
図26】研究1のデータ及び研究2のデータを組み合わせた、傷つけてから11日目で未だ開いている創傷の割合を示す図表である。PPF1で処置されたマウスは、11日後に開いたままであった創傷の割合の統計的に有意な減少を示す(独立T検定による**p< 0.006)。10日目のPPF1で処置されたマウスとビヒクルで処置されたマウスとの差は同様に有意であった(独立T検定による**p< 0.006)。
図27】B6 ob/ob(B6.Cg-Lepob/J マウス)の創傷に局所投与されたPPF1又はビヒクルを用いた研究結果を示す図である。図27は、創傷に局所投与された30μLのPPF1又は対照ビヒクルの連日投与の研究パラダイムを示す。図10に関して記載されているように傷つけた。
図28】処置の10日後に残っている最初の創傷の面積の割合と共に局所研究の結果を示す図である。図28は、PPF1が対照ビヒクルと比較して10日後に残っている開いた創傷の割合を大幅に減少させたことを示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
A.導入部
本発明は、術後回復に関連する望ましくない状態を処置して、このような回復を改善するための方法及び組成物の識別及び発見に関する。「このような回復を改善する」とは、対象の術後回復を促進し得ることを意味し、つまり、対象が、本発明の実施形態の介入無しの治療より短い時間で動けるようになり得る又は入院治療から退院し得ることを意味する。「望ましくない状態」とは、限定することなく例として疼痛、心肺問題、感染、血栓塞栓問題、炎症及び創傷治癒の遅れなどの状態又は症状を意味する。術後回復に関連する望ましくない状態に苦しむ対象を処置して、このような回復を改善するための方法及び組成物が本明細書に記載されており、これらは本発明の態様である。また、術後回復に関連する望ましくない状態に苦しむ対象の改善を引き起こして、このような回復を改善するための投与計画が本明細書に記載されている。本明細書に記載されている方法及び組成物は、術後回復による合併症の防止、術後回復による合併症の症状の改善及び術後回復の促進に有用である。本発明の方法及び組成物は、術前に(手術前)、術中に(手術中)又は術後に(手術後)利用されてもよく又は投与されてもよい。
【0012】
本発明の別の態様は、術後回復に関連した慢性疼痛/神経障害のみではなく、より一般的に慢性疼痛/神経障害を処置するためのものである。本明細書に記載されている本発明の方法及び組成物は、慢性疼痛及び神経障害を処置するために使用され得る。「慢性疼痛及び神経障害を処置する」とは、本発明の組成物が投与された対象が経験する慢性疼痛の程度が、主観的手段又は客観的手段によって評価されるように僅かに、適度に又は著しく低下することを意味する。このような手段は、限定することなく例として、X線、MRI 、CTスキャン、患者による疼痛の評点又は記述、可動域、反射、筋力、感度(例えば、対象が圧力又は他の刺激を受けた手足を取り除くのにかかる時間)、炎症マーカの血液検査、筋電図検査(EMG) 及び神経伝導速度などの自己又は医療従事者により実施される試験を含んでもよい。
【0013】
本発明を実施する際、例えば以下に記載されるコーン分画処理のような血液画分処理から得られた一又は複数の画分又は流出物などの血漿画分を処置として使用する。本発明の実施形態では、血漿画分(正常ヒトアルブミン、αグロブリン、βグロブリン、γグロブリン及び他のタンパク質を個々に又は複合体として含む溶液(以下「血漿画分」と称する))を使用する。本発明の別の実施形態では、血漿タンパク質画分(PPF) を処置として使用する。本発明の別の実施形態では、ヒトアルブミン溶液(HAS) 画分を処置として使用する。更に別の実施形態では、以下に記載される流出物I 又は流出物II/IIIなどの、血液画分処理から得られた流出物を使用する。更なる実施形態は、血栓症のリスクを低下させながら有効性を保持するために実質的に全ての凝固因子を除去した血漿画分を含む(例えば、全体が参照によって本明細書に組み込まれる米国特許出願第62/236710号明細書及び米国特許出願第63/376529号明細書参照)。
【0014】
本発明を詳細に説明する前に、本発明は、言うまでも無くそれ自体が変わり得るように、説明された特定の方法又は組成物に限定されないことを理解すべきである。本明細書に使用されている専門用語は、具体的な実施形態について説明するためだけのものであり、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるので、限定的であることを意図するものではないことも理解されたい。
【0015】
本明細書に記載されている刊行物は、本出願の出願日に先立ってその開示のためだけに提供されている。本明細書では、先行発明を理由として、本発明がそのような刊行物に先行する権限がないことを認めるものであると解釈されるべきではない。更に、提供される刊行物の日付は実際の公開日とは異なる場合があり、個別に確認する必要がある。
【0016】
ある範囲の値が与えられる場合、その範囲の上限及び下限の間の、文脈が別段に明示しない限りは下限の単位の10分の1までの各介在値が更に具体的に開示されていることを理解されたい。記載された範囲内の任意の記載された値又は介在する値とその記載された範囲内の任意の他の記載された値又は介在する値との間のより小さい範囲が夫々本発明に包含される。これらのより小さい範囲の上限及び下限は、より小さい範囲内に独立して含まれてもよく又は除外されてよく、上限及び下限の一方又は両方がより小さい範囲内に含まれているか又はいずれも含まれていない各範囲は、記載された範囲内の任意の具体的に除外された限度を条件として本発明に更に包含される。記載された範囲が限度のうちの一方又は両方を含む場合、これらの含まれた限度の一方又は両方を除外した範囲も本発明に包含される。
【0017】
特許請求の範囲は、あらゆるオプション要素を除外するように起草され得ることに留意されたい。従って、この記載は、請求項の要素の記載に関する「唯一の(solely)」、「のみの(only)」等の排他的用語の使用、又は「否定的な(negative)」限定の使用のための先行記載として機能すべく意図される。
【0018】
当業者が本開示を読むと明らかであるように、本明細書に説明され例示された個々の実施形態は夫々、別々の構成要素及び特徴を有しており、別々の構成要素及び特徴は、本発明の範囲又は趣旨から逸脱することなく、他の複数の実施形態のいずれかの特徴から容易に分離されてもよく、又はいずれかの特徴と容易に組み合わされてもよい。全ての記載された方法は、記載された事象の順序で、又は論理的に可能な任意の他の順序で実行され得る。
【0019】
B.定義
本明細書で使用されている全ての技術的用語及び科学的用語は、特に定義されていない限り、本発明が属する技術分野の当業者によって共通して理解されているものと同じ意味を有する。本明細書に記載の方法及び材料と同様又は同等の全ての方法及び材料を、本発明の実施又は試験に使用することができるが、幾つかの可能性がある好ましい方法及び材料を本明細書に記載している。本明細書に述べられている全ての刊行物は、引用されている刊行物に関連して本方法及び/又は本材料を開示して記載すべく参照によって本明細書に組み込まれている。本開示が、矛盾が存在する程度まで組み込まれた刊行物のあらゆる開示に優先することを理解されたい。
【0020】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されているように、単数形「a」、「an」及び「the 」は、文脈上明らかに別段の規定がない限り、複数の指示対象を含むということに留意されねばならない。従って、例えば、「細胞」への言及はこのような複数の細胞を含んでおり、「ペプチド」への言及は、一又は複数のペプチド及びこの等価物、例えば当業者に公知のポリペプチドなどへの言及を含んでいる。
【0021】
本発明の方法を記載する際、「宿主」、「対象」、「個体」及び「患者」という用語は互換的に使用されており、開示された方法に従って、このような処置が必要なあらゆる哺乳類を指す。このような哺乳類には、例えばヒト、ヒツジ、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ科動物、ネコ科動物、非ヒト霊長類、マウス及びラットが含まれている。ある実施形態では、対象は非ヒト哺乳類である。一部の実施形態では、対象は家畜である。他の実施形態では、対象はペットである。一部の実施形態では、対象は哺乳類である。ある実施形態では、対象はヒトである。他の対象には、飼いならされたペット(例えばイヌ及びネコ)、家畜(例えばウシ、ブタ、ヤギ、ウマなど)、齧歯類(例えば疾患モデル動物のような、例えばマウス、モルモット及びラット)並びに非ヒト霊長類(例えばチンパンジー、サル)が含まれている。そのため、本発明の対象は、哺乳類、例えばヒト及び他の霊長類、例えばチンパンジー及び他の類人猿及びサル種及び同種のものを含むが、これらに限定されず、ある実施形態では対象はヒトである。対象という用語は、あらゆる年齢、体重又は他の物理的な特性のヒト又は有機体を含むことを意味し、対象は成体、小児、幼児又は新生児であってもよい。
【0022】
「若齢」又は「若齢の個体」は、40歳以下、例えば35歳以下、30歳以下、例えば25歳以下又は22歳以下の暦年齢の個体を意味する。場合によっては、若齢の血漿を含有する血液製剤の源として機能する個体は、10歳以下、例えば5歳以下、1歳以下の個体である。場合によっては、対象は新生児であり、血漿製剤の源は臍帯であり、この場合、血漿製剤は新生児の臍帯から採取される。そのため、「若齢」及び「若齢の個体」は、0歳と40歳との間の年齢、例えば0歳、1歳、5歳、10歳、15歳、20歳、25歳、30歳、35歳又は40歳の対象を指してもよい。他の場合、「若齢」及び「若齢の個体」は、(暦年齢とは対照的に)生物学的年齢、例えば比較的高齢の個体に示される血漿中の炎症性サイトカインのレベルを示さなかった個体を指してもよい。対照的に、「若齢」及び「若齢の個体」は、(暦年齢とは対照的に)生物学的年齢、例えば比較的高齢の個体のレベルと比較して血漿中の抗炎症性サイトカインのより高いレベルを示す個体を指してもよい。限定することなく例として、炎症性サイトカインはエオタキシンであり、若齢の対象又は若齢の個体とより高齢の個体との倍率差は少なくとも1.5 倍である。同様に、他の炎症性サイトカインのより高齢の個体とより若齢の個体との倍率差は、生物学的年齢を指すために使用されてもよい(参照によって本明細書に組み込まれる米国特許出願第13/575437号明細書参照)。通常、個体は健康であり、例えば、個体は採取のときに血液悪性腫瘍又は自己免疫疾患を持っていない。
【0023】
「処置」は、本明細書で使用する場合、(i) 疾患若しくは障害の予防、又は(ii)疾患若しくは障害の症状の軽減若しくは除去のいずれかを指す。処置は、予防として(疾患の発症前に)又は治療として(疾患の発症後に)実施されてもよい。効果は、疾患又はその症状を完全に若しくは部分的に予防する点で予防的であってもよく、並びに/又は疾患及び/若しくは疾患に起因する副作用の部分的若しくは完全な治癒の点で治療的であってもよい。従って、本明細書に使用されている「処置」という用語は、哺乳類の術後回復に関連した状態のあらゆる処置を含み、(a) 対象での状態の発生を予防する、(b) 状態を阻害する、つまり状態の発生を阻止する、又は(c) 状態を軽減する、つまり状態の消失を引き起こすことを含む。処置の結果、様々な異なる身体的徴候、例えば遺伝子発現の調整、組織又は器官の若返り、炎症の低下などがもたらされてもよい。治療薬を、状態の発症前、発症中又は発症後に投与してもよい。本治療法を、状態の有症状期中、場合によっては状態の有症状期後に行ってもよい。
【0024】
血漿成分を含む血液製剤
本方法を実行する際、血漿成分を含有する血液製剤を、その必要性のある個体、例えば術後の状態に苦しむ個体に投与する。そのため、本発明の実施形態に係る方法では、個体(「ドナー個体」又は「ドナー」)からの血漿成分を含有する血液製剤を、術後の状態に苦しむ個体(「レシピエント個体」又は「レシピエント」)に投与する。「血漿成分を含有する血液製剤」とは、血漿を含有する血液(例えば全血、血漿又はその画分)から得られたあらゆる製剤を意味する。「血漿」という用語は、約92%の水と、7%のタンパク質、例えばアルブミン、γグロブリン、抗血友病因子及び他の凝固因子と、1%の無機塩類、糖、脂肪、ホルモン及びビタミンとで構成された血液の淡黄色/微黄色の液体成分を指すために従来の意味で使用されている。本方法での使用に適している血漿含有血液製剤の非限定例は、抗凝固剤(例えばEDTA、クエン酸塩、シュウ酸塩、ヘパリンなど)で処置された全血、白血球を除去すべく(「白血球除去」のために)全血を濾過することにより生成された血液製剤、プラスマフェレーシス又はアフェレーシスによって得られた血漿で構成された血液製剤、新鮮凍結血漿、精製血漿で本質的に構成された血液製剤及び血漿画分で本質的に構成された血液製剤を含んでいる。場合によっては、使用される血漿製剤は非全血血漿製剤であり、非全血血漿製剤は、少なくとも赤血球、白血球などの全血に見つけられる一又は複数の成分が全血に存在する限りは、非全血血漿製剤がこのような成分を欠いているため、非全血血漿製剤は全血ではないことを意味する。場合によっては、血漿製剤は、完全ではないにしても実質的に無細胞であり、このような場合、細胞内含有量は5体積%以下、例えば1体積%以下、0.5 体積%以下であってもよく、場合によっては、無細胞血漿画分は細胞を完全に欠く組成物であり、すなわち、無細胞血漿画分は細胞を含まない。
【0025】
血漿成分を含有する血液製剤の採取
本明細書に記載されている方法の実施形態には、ヒトボランティアを含むドナー由来とすることができる血漿成分を含有する血液製剤の投与が含まれる。「ヒト由来」という用語はこのような製剤を指すことができる。血漿含有血液製剤をドナーから採取する方法は本技術分野では周知である(例えば参照によって本明細書に組み込まれるAABB TECHNICAL MANUAL, (Mark A. Fung, et al., eds., 18th ed. 2014)参照)。
【0026】
一実施形態では、静脈穿刺によって供血を行う。別の実施形態では、静脈穿刺はたった1回の静脈穿刺である。別の実施形態では、生理食塩水の補充を採用しない。好ましい実施形態では、プラスマフェレーシスの処理を用いて血漿含有血液製剤を得る。プラスマフェレーシスでは、重量調節した血漿量の血漿を取り出し、細胞成分をドナーに戻すことができる。好ましい実施形態では、細胞の凝固を防ぐためにプラスマフェレーシス中にクエン酸ナトリウムを使用する。ドナーから採取される血漿量はクエン酸塩投与後、好ましくは690 ~880 mLの範囲内であり、好ましくはドナーの体重と適合する。
【0027】
C.血漿画分
第二次世界大戦中、兵士が大量の血液を失った際、戦場で採用され得る安定した血漿増量剤の必要性が生じた。その結果、凍結乾燥血漿を調製する方法が開発された。しかしながら、再構成には滅菌水が必要だったので、凍結乾燥血漿の使用は戦闘の状況では困難だった。E. J. Cohn博士は、代替策としてアルブミンが使用され得ることを提案し、ショックの処置のために直ちに導入され得る使用準備済の安定した溶液を調製した(Johan, Current Approaches to the Preparation of Plasma Fractions in (Biotechnology of Blood) 165 (Jack Goldstein ed., 1st ed. 1991)参照)。Cohn博士の血漿画分を精製する手順は、冷エタノールをその変性効果のために利用し、分離を実現するためにpH及び温度の変化を用いる。
【0028】
本明細書に記載されている方法の実施形態には、血漿画分の対象への投与が含まれる。分画法は、特定のタンパク質サブセットを血漿から分離する処理である。分画法の技術は本技術分野では公知であり、1940年代にCohnらによって開発された工程を基にしている(参照によって本明細書に組み込まれるE. Cohn, Preparation and properties of serum and plasma proteins. IV. A system for the separation into fractions of the protein and lipoprotein components of biological tissues and fluids. 68 J Am Chem Soc 459 (1946))。この処理には複数の工程が含まれ、各工程は、選択的なタンパク質の沈殿をもたらす特定のエタノール濃度並びにpH、温度及び浸透圧の変化を含む。沈殿物を遠心分離又は沈殿によって更に分離する。元の「コーン分画処理」には、タンパク質を沈殿物によって画分I、画分II+III、画分IV-1、画分IV-4及び画分Vと称される5つの画分に分離することが含まれた。アルブミンは、この処理の最初に識別されたエンドポイント(画分V)産物であった。本発明の実施形態によれば、各画分(又は前の分離工程からの流出物)は治療上有用なタンパク質画分を含有する又は含有する可能性がある(参照によって本明細書に組み込まれるThierry Burnouf, Modern Plasma Fractionation, 21(2) Transfusion Medicine Reviews 101 (2007);Adil Denizli, Plasma fractionation: conventional and chromatographic methods for albumin purification, 4 J. Biol. & Chem. 315, (2011);及びT. Brodniewicz-Proba, Human Plasma Fractionation and the Impact of New Technologies on the Use and Quality of Plasma-derived Products, 5 Blood Reviews 245 (1991),並びに米国特許第3869431 号明細書,米国特許第5110907 号明細書,米国特許第5219995 号明細書,米国特許第7531513 号明細書及び米国特許第8772461 号明細書参照)。特定のタンパク質画分を得るために上記の実験パラメータを調節することができる。
【0029】
より近年では、分画法は更に複雑になり、従って本発明の更なる実施形態を構成する。こうした近年における複雑さの増加は、寒冷沈降物、脱クリオ血漿(cryo-poor plasma)及びコーン画分のような既存の画分からの新しいタンパク質の単離をもたらすクロマトグラフィの導入、クロマトグラフィ及びエタノール分画処理の統合によるIgG 回収量の増加、並びにウイルスの低減/不活性化/除去を通じて生じた(上記文献)。生理学的なpH及びイオン強度でタンパク質を捕捉するために、アニオン交換クロマトグラフィを利用することができる。これによってタンパク質及び/又はタンパク質画分の機能活性が保持される。ヘパリン及びモノクローナル抗体も親和性クロマトグラフィに使用される。更に、ゲル濾過による画分、塩による画分及びポリエチレングリコールによる画分が使用される(参照によって本明細書に組み込まれるHosseini M Iran J Biotech, 14(4): 213-20 (2016))。当業者には、特に所望の血漿タンパク質を含有する画分を得るために上述されたパラメータ及び技術を調節してもよいことが認識される。
【0030】
血漿分画法を、硫酸アンモニウムに基づく分画法とすることが更に可能である(例えば、参照によって本明細書に組み込まれるOdunuga OO, Biochem Compounds, 1:3 (2013);Wingfield PT, Curr Protoc Protein Sci, Appx. 3 (2001)参照)。硫酸アンモニウムに基づく分画法は、特定の血液画分を得ることに加えて、血漿から大量のタンパク質を減少させるために用いられてきた(参照によって本明細書に組み込まれるSaha S, et al., J. Proteomics Bioinform, 5(8) (2012))。
【0031】
本発明の実施形態では、工業的環境で血漿を分画する。凍結血漿を1℃~4℃で解凍する。解凍された血漿に連続冷却遠心分離を行い、寒冷沈降物を単離する。回収された寒冷沈降物を-30℃以下で凍結して保存する。不安定な凝固因子、例えば第IX因子複合体及びその成分、並びにプロテアーゼ阻害剤、例えばアンチトロンビン及びC1エステラーゼ阻害剤を(例えば一次クロマトグラフィにより)捕捉するために、寒冷沈降物欠乏(cryoprecipitate-poor)(「脱クリオ」)血漿を直ちに処理する。その後の工程で連続遠心分離及び沈殿単離を適用することができる。このような技術は当業者に知られており、開示内容全体が参照によって本明細書に組み込まれる、例えば米国特許第4624780 号明細書、米国特許第5219995 号明細書、米国特許第5288853 号明細書、米国特許出願公開第2014/0343255 号明細書及び米国特許出願公開第2015/0343025 号明細書に記載されている。
【0032】
本発明の実施形態では、血漿画分は実質的な濃度のアルブミンを含有する血漿画分を含んでもよい。本発明の別の実施形態では、血漿画分は実質的な濃度のIgG 又は静注用免疫グロブリン(IGIV)(例えばGamunex-C(登録商標))を含有する血漿画分を含んでもよい。本発明の別の実施形態では、血漿画分は、例えばプロテインA介在の枯渇などの当業者に周知の方法によって免疫グロブリン(IgG) が実質的に枯渇しているGamunex-C(登録商標)などのIGIV血漿画分を含んでもよい(Keshishian, H., et al., Multiplexed, Quantitative Workflow for Sensitive Biomarker Discovery in Plasma Yields Novel Candidates for Early Myocardial Injury, Molecular & Cellular Proteomics, 14 at 2375-93 (2015)参照)。更なる実施形態では、血漿画分は、血栓症のリスクが低下した画分の有効性を保持するために実質的に全ての凝固因子が取り除かれているものであってもよい。例えば、血漿画分は、開示内容全体が参照によって本明細書に組み込まれる、2016年8月18日に出願された米国特許第62/376529号明細書に記載の血漿画分であってもよい。
【0033】
D.アルブミン製剤
当業者にとって、血漿タンパク質画分(「PPF」)及びヒトアルブミン溶液(「HAS」)の2つの一般的なカテゴリーのアルブミン血漿製剤(「APP」)が存在する。PPFはHASより収率が高い処理から得られるが、HASより低い最小アルブミン純度を有する(PPFについては83%より高く、HASについては95%より高い)(Production of human albumin solution: a continually developing colloid, P. Matejtschuk et al., British J. of Anaesthesia 85(6): 887-95, at 888 (2000))。場合によっては、PPFは83%~95%の範囲内又は83%~96%の範囲内のアルブミン純度を有する。アルブミン純度は、電気泳動又は他の定量アッセイ、例えば質量分析によって決定され得る。更に、PPFは、PKAなどのタンパク質「混入物」の存在のために不利な点を有すると一部では指摘されている(上記文献)。結果として、PPF調剤はアルブミン血漿製剤としての人気を失い、更にはある国々の薬局方から外されている(上記文献)。これらの懸念に反して、本発明はこれらの「混入物」の有益な利用を行う。本発明の方法は、αグロブリン、βグロブリン及びγグロブリン並びに前述のPKAに加えて、例えば神経発生、神経細胞の生存、認知機能又は運動機能の改善及び神経炎症の減少などのプロセスを促進する「混入物」内の追加のタンパク質又は他の因子を利用する。
【0034】
当業者はPPFの複数の市販の供給源(「市販のPPF 調剤」)がある又はあったことを認識する。これらには、Plasma-Plex(商標)PPF (Armour Pharmaceutical Co., Tarrytown, NY),Plasmanate(商標)PPF (Grifols, Clayton, NC),Plasmatein(商標)(Alpha Therapeutics, Los Angeles, CA)及びProtenate(商標)PPF (Baxter Labs, Inc. Deerfield, IL)が含まれる。当業者はHASの複数の市販の供給源(「市販のHAS 調剤」)がある又はあったことを認識する。これらには、Albuminar(商標)(CSL Behring),AlbuRx(商標)(CSL Behring),Albutein(商標)(Grifols, Clayton, NC),Buminate(商標)(Baxatla, Inc., Bannockburn, IL),Flexbumin(商標)(Baxalta, Inc., Bannockburn, IL)及びPlasbumin(商標)(Grifols, Clayton, NC)が含まれる。
【0035】
1.血漿タンパク質画分(ヒト)(PPF)
米国食品医薬品局(「FDA」)によれば、「血漿タンパク質画分(ヒト)」、すなわちPPFは、「ヒト血漿由来のアルブミン及びグロブリンから構成されるタンパク質の滅菌溶液」と定義される産物の正式名称である(参照によって本明細書に組み込まれる連邦規則集“CFR”21 CFR640.90)。PPFの原料は、(参照によって本明細書に組み込まれる)21 CFR 640.1-640.5に規定されているように調製された全血から回収された血漿、又は(参照によって本明細書に組み込まれる)21 CFR 640.60-640.76に規定されているように調製された血漿源である。
【0036】
PPFは、(参照によって本明細書に組み込まれる)21 CFR 640.92に従って以下の基準を満たすことを判定するために試験される。
(a)最終製剤はタンパク質の5.0 ±0.30パーセント溶液であるべきである。
(b)最終製剤の総タンパク質は少なくとも83パーセントのアルブミン及び17パーセント以下のグロブリンから構成されているべきである。総タンパク質の1パーセント以下はγグロブリンであるべきである。タンパク質の組成は、食品医薬品局の生物製剤評価研究センターのセンター長によって夫々の製造元について認可されている方法により決定される。
【0037】
本明細書で使用される「血漿タンパク質画分」すなわち「PPF」は、ヒト血漿由来のアルブミン及びグロブリンから構成されるタンパク質の滅菌溶液を指し、電気泳動により決定されるとき、アルブミン含有量が少なくとも83%であり、グロブリン(α1グロブリン、α2グロブリン、βグロブリン及びγグロブリンを含む)並びに他の血漿タンパク質の含有量が17%以下であり、ガンマグロブリン含有量が1%以下である(Hink, J.H., Jr., et al., Preparation and Properties of a Heat-Treated Human Plasma Protein Fraction, VOX SANGUINIS 2(174) (1957))。PPFは、溶媒に懸濁すると同様の組成を有する固体形態を指す場合もある。総グロブリン画分は、総タンパク質からアルブミンを差し引くことによって決定され得る(Busher, J., Serum Albumin and Globulin, CLINICAL METHODS: THE HISTORY, PHYSICAL, AND LABORATORY EXAMINATIONS, Chapter 10, Walker HK, Hall WD, Hurst JD, eds. (1990))。
【0038】
2.アルブミン(ヒト)(HAS)
FDAによれば、「アルブミン(ヒト)」(本明細書では「HAS」とも称される)は、「ヒト血漿由来のアルブミンの滅菌溶液」と定義される産物の正式名称である(参照によって本明細書に組み込まれる連邦規則集“CFR”21 CFR640.80)。アルブミン(ヒト)の原料は、(参照によって本明細書に組み込まれる)21 CFR 640.1-640.5に規定されているように調製された全血から回収された血漿、又は(参照によって本明細書に組み込まれる)21 CFR 640.60-640.76に規定されているように調製された血漿源である。アルブミン(ヒト)に関する他の要件は、(参照によって本明細書に組み込まれる)21 CFR 640.80-640.84に列記されている。
【0039】
アルブミン(ヒト)は、21 CFR 640.82により、以下の基準を満たすかどうかを判定するために試験される。
(a)タンパク質濃度
最終製剤は、タンパク質の4.0 ±0.25パーセント;5.0 ±0.30パーセント;20.0±1.2 パーセント;及び25.0±1.5 パーセント溶液の濃度の内の1つに適合すべきである。
(b)タンパク質組成
食品医薬品局の生物製剤評価研究センターのセンター長によって夫々の製造元について認可されている方法により決定されるとき、最終製剤の総タンパク質の少なくとも96パーセントはアルブミンであるべきである。
【0040】
本明細書で使用される「アルブミン(ヒト)」又は「HAS」は、ヒト血漿由来のアルブミン及びグロブリンから構成されるタンパク質の滅菌溶液を指し、アルブミン含有量が少なくとも95%であり、グロブリン(α1グロブリン、α2グロブリン、βグロブリン及びγグロブリンを含む)並びに他の血漿タンパク質の含有量が5%以下である。HASは、溶媒に懸濁すると、同様の組成を有する固体形態を指す場合もある。総グロブリン画分は、総タンパク質からアルブミンを差し引くことによって決定され得る。
【0041】
当業者に認識され得るように、PPF画分及びHAS画分は、凍結乾燥形態又は他の固体形態とすることもできる。このような調剤を適切な添加剤と共に使用して、例えば錠剤、粉末、顆粒又はカプセルを作ることができる。固体形態では、必要に応じて可溶化剤、等張剤、懸濁剤、乳化剤、安定剤及び防腐剤などの従来の添加剤と共に、水性又は非水性の溶媒、例えば植物油又は他の同様の油類、合成脂肪酸グリセリド、高級脂肪酸又はプロピレングリコールのエステルにPPF画分及びHAS画分を溶解、懸濁又は乳化させることにより注射用調剤に製剤化することができる。
【0042】
E.凝固因子を減らした画分
本発明の別の実施形態では、血栓症のリスクを減らして画分の有効性を保持するために実質的に全ての凝固因子が取り除かれている血漿画分を使用する。簡便なことに、血液製剤は若齢ドナー又は若齢ドナーのプールから得られることができ、ABOが適合する若齢血液製剤を提供するためにIgMを欠くようにすることができる。現在、A抗原及びB抗原に対して天然に存在する抗体の存在が輸血反応を生じさせ得るので、輸注される血漿をABOの血液型と一致させる。IgMは、ABOが一致しない血漿を患者に与えるときの輸血反応に関与すると思われる。血液製剤又は血液画分からIgMを除去することにより、本発明の血液製剤及び血漿画分が投与される対象の輸血反応を回避することに役立つ。
【0043】
従って、一実施形態では、本発明は、術後回復に関連した望ましくない状態に苦しむ対象を処置する方法を対象にする。本方法では、個体又は個体プールからの全血由来の血液製剤又は血液画分を対象に投与し、血液製剤又は血液画分は、(a)少なくとも1つの凝固因子及び/又は(b)IgMを実質的に欠いている。一部の実施形態では、血液製剤又は血液画分を得る一又は複数の個体は若齢の個体である。一部の実施形態では、血液製剤は、少なくとも1つの凝固因子及びIgMを実質的に欠いている。ある実施形態では、血液製剤は、フィブリノゲン(第I因子)を実質的に欠いている。更なる実施形態では、血液製剤は、赤血球及び/又は白血球を実質的に欠いている。更なる実施形態では、血液製剤は、実質的に無細胞である。他の実施形態では、血液製剤は、血漿に由来する。本発明のこのような実施形態は、参照によって本明細書に組み込まれる2016年8月18日に出願された米国特許出願第62/376529号によって更に裏付けられている。
【0044】
F.タンパク質を濃縮した血漿タンパク質産物の処理
本発明の更なる実施形態では、PPFと比較してアルブミン濃度は減少しているが、グロブリン及び他の血漿タンパク質(一部では「混入物」と称されるもの)の量は増加している血漿画分を使用する。このような実施形態では全て、PPF、HAS、流出物I及び流出物II/IIIと同様に、凝固因子が効果的に存在しない。このような血漿画分を、以降「タンパク質濃縮血漿タンパク質産物」と称する。例えば、本発明の実施形態では、82%のアルブミンと、18%のαグロブリン、βグロブリン及びγグロブリン並びに他の血漿タンパク質とで構成されるタンパク質濃縮血漿タンパク質産物を使用してもよい。本発明の別の実施形態では、81%のアルブミンと、19%のαグロブリン、βグロブリン及びγグロブリン並びに/又は他の血漿タンパク質とで構成されるタンパク質濃縮血漿タンパク質産物を使用してもよい。本発明の別の実施形態では、80%のアルブミンと、20%のαグロブリン、βグロブリン及びγグロブリン並びに/又は他の血漿タンパク質とで構成されるタンパク質濃縮血漿タンパク質産物を使用してもよい。本発明の更なる実施形態では、70~79%のアルブミンと、対応する21~30%のαグロブリン、βグロブリン及びγグロブリン並びに他の血漿タンパク質とで構成されるタンパク質濃縮血漿タンパク質産物を使用してもよい。本発明の更なる実施形態では、60~69%のアルブミンと、対応する31~40%のαグロブリン、βグロブリン及びγグロブリン並びに他の血漿タンパク質とで構成されるタンパク質濃縮血漿タンパク質産物を使用してもよい。本発明の更なる実施形態では、50~59%のアルブミンと、対応する41~50%のαグロブリン、βグロブリン及びγグロブリン並びに他の血漿タンパク質とで構成されるタンパク質濃縮血漿タンパク質産物を使用してもよい。本発明の更なる実施形態では、40~49%のアルブミンと、対応する51~60%のαグロブリン、βグロブリン及びγグロブリン並びに他の血漿タンパク質とで構成されるタンパク質濃縮血漿タンパク質産物を使用してもよい。本発明の更なる実施形態では、30~39%のアルブミンと、対応する61~70%のαグロブリン、βグロブリン及びγグロブリン並びに他の血漿タンパク質とで構成されるタンパク質濃縮血漿タンパク質産物を使用してもよい。本発明の更なる実施形態では、20~29%のアルブミンと、対応する71~80%のαグロブリン、βグロブリン及びγグロブリン並びに他の血漿タンパク質とで構成されるタンパク質濃縮血漿タンパク質産物を使用してもよい。本発明の更なる実施形態では、10~19%のアルブミンと、対応する81~90%のαグロブリン、βグロブリン及びγグロブリン並びに他の血漿タンパク質とで構成されるタンパク質濃縮血漿タンパク質産物を使用してもよい。本発明の更なる実施形態では、1~9%のアルブミンと、対応する91~99%のαグロブリン、βグロブリン及びγグロブリン並びに他の血漿タンパク質とで構成されるタンパク質濃縮血漿タンパク質産物を使用してもよい。本発明の更なる実施形態では、0%のアルブミンと、100%のαグロブリン、βグロブリン及びγグロブリン及び他の血漿タンパク質とで構成されるタンパク質濃縮血漿タンパク質産物を使用してもよい。
【0045】
上記の本発明の実施形態では、全ガンマグロブリン濃度が1~5%であってもよい。
【0046】
血漿画分中のタンパク質の具体的な濃度を、関連技術分野の当業者に周知の技術を使用して決定してもよい。限定することなく例として、このような技術には、電気泳動、質量分析、ELISA解析及びウエスタンブロット解析が含まれる。
【0047】
G.血漿画分の調製
PPF及び他の血漿画分を調製する方法は当業者に周知である。本発明の実施形態では、ヒト血漿タンパク質画分の調製に使用される血液を、凝固を阻止するためにクエン酸塩又は抗凝固性クエン酸デキストロース溶液(又は他の抗凝固剤)を含むフラスコに収集し、Hinkらによって開示された方法(参照によって本明細書に組み込まれるHink, J.H., Jr., et al., Preparation and Properties of a Heat-Treated Human Plasma Protein Fraction, VOX SANGUINIS 2(174) (1957)参照)に従って画分I、画分II+III、画分IV及びPPFの分離を更に行うことができる。この方法によれば、2~8℃で混合物を収集することができる。続いて血漿を7℃で遠心分離により分離して取り出し、-20℃で保管することができる。その後、この血漿を、好ましくは-20℃の保管場所から取り出してから8時間以内に37℃で解凍して分画することができる。
【0048】
5.1 ~5.6 パーセントのタンパク質濃度でpH 7.2及び温度-2~-2.5 ℃の8%エタノールを使用して画分Iから血漿を分離することができる。血漿温度を-2℃に低下させながら、例えば450 mL/分の割合のジェットを使用して53.3パーセントの冷エタノール(176 mL/血漿1L)を酢酸緩衝液(200 mLの4M酢酸ナトリウム、230 mLの氷酢酸、1Lまで適量のH2O )と共に添加することができる。超遠心分離により、流出物(流出物I)から画分Iを分離して取り出すことができる。当業者に周知の方法に従い、画分Iからフィブリノゲンを得ることができる。
【0049】
4.3 パーセントのタンパク質濃度でpH6.8 及び温度-6℃で21パーセントのエタノールに対して流出物を調節することにより、流出物Iから画分II+IIIを分離することができる。流出物Iの温度を-6℃に低下させながら、例えば500 mL/分の割合のジェットを使用して95パーセントの冷エタノール(176 mL/流出物I 1L)を、pH調節のために使用される10M酢酸と共に添加することができる。結果として得られる沈殿物(画分II+III)を、-6℃で遠心分離によって取り出すことができる。当業者に周知の方法を使用して、画分II+IIIからガンマグロブリンを得ることができる。
【0050】
3パーセントのタンパク質濃度でpH5.2 及び温度-6℃で19パーセントエタノールに対して流出物を調節することにより、流出物II+III(「流出物II/III」)から画分IV-1を分離することができる。流出物II/IIIを6時間-6℃に維持しながら、ジェットを使用してH2O とpH調節のために使用される10M酢酸とを添加することができる。沈殿した画分VI-1を-6℃で6時間に亘って安定させ、その後、同じ温度で遠心分離によって流出物から分離することができる。pH4.65、温度-7℃及び2.5 パーセントのタンパク質濃度でエタノール濃度を30パーセントに調節することにより、流出物IV-1から安定した血漿タンパク質画分を回収することができる。このような回収は、冷酸・アルコール(2M酢酸2部及び95パーセントエタノール1部)を用いて流出物IV-1のpHを調節することにより行われ得る。-7℃の温度を維持しながら、調節した流出物IV-1に1リットル毎に170 mLの冷エタノール(95%)を添加する。沈殿するタンパク質を36時間に亘って安定させた後、-7℃で遠心分離によって取り出すことができる。
【0051】
回収されたタンパク質(安定した血漿タンパク質画分)を(例えば凍結乾燥により)乾燥させて、アルコール及びH2O を除去することができる。結果として得られる乾燥した粉末を、例えば水15リットル/粉末1kgを使用して滅菌蒸留水に溶解させ、この溶液を1MのNaOHでpH7.0 に調節することができる。タンパク質5パーセントの最終濃度は、アセチルトリプトファンナトリウム、カプリル酸ナトリウム及びNaClを含有する滅菌蒸留水を添加し、アセチルトリプトファン塩0.004 M、カプリル酸塩0.004 M及びナトリウム0.112 Mの最終濃度に調節することによって実現され得る。最後に、この溶液を10℃で濾過して透明な溶液を得た後、60℃で少なくとも10時間熱処理することにより、病原体を不活性化することができる。
【0052】
上記の様々な画分及び流出物の各々が、術後回復に関連した状態を処置するために本発明の方法と共に使用され得ることが、当業者に認識される。例えば、限定することなく、流出物I又は流出物II/IIIは、術後回復に関連した状態を処置するため、又は術後回復を促進するために利用されてもよく、これらは本発明の実施形態である。
【0053】
前述の血漿画分及び血漿タンパク質画分(PPF)の調製方法は単なる例示であり、本発明の実施形態を単に含んでいるだけである。当業者は、これらの方法が変わり得ることを認識する。例えば、本発明の様々な実施形態及び方法で様々なバリエーションの血漿画分及び血漿タンパク質画分を生成するために、特にpH、温度及びエタノール濃度を調節することができる。別の例では、本発明の更なる実施形態は、血漿画分及び血漿タンパク質画分中の病原体の除去/不活性化のためのナノ濾過の使用を想定する。
【0054】
本発明の更なる実施形態は、追加の血漿画分を用いた及び/又は追加の血漿画分を含む方法及び組成物を想定する。例えば、本発明は、特に、特定濃度のアルブミンが術後回復に関連する状態を処置するため、又は術後回復を促進するために重要ではないと想定する。従って、アルブミン濃度を下げた画分、例えば83%未満のアルブミンを有する画分が、本発明により想定される。
【0055】
H.処置
本明細書に記載される本発明の方法の態様は、例えば上述されているような血漿含有血液製剤、例えば血漿画分を用いた対象の処置を含む。実施形態は、血漿含有血液製剤を用いたヒト対象の処置を含む。血漿含有血液製剤を用いて対象を処置する方法が本技術分野で知られていることを当業者は認識する。限定することなく例として、本明細書に記載されている本発明の方法の一実施形態では、術後回復に関連した状態を処置するために新鮮凍結血漿を対象に投与する。一実施形態では、血漿含有血液製剤を直ちに、例えば、ドナーから採取されてから約12~48時間以内に、術後回復に関連した状態に苦しむ個体に投与する。このような場合、製剤を、例えば0~10℃で冷蔵保管してもよい。別の実施形態では、新鮮凍結血漿は、-18℃以下で冷凍保存(凍結保存)されているものである。新鮮凍結血漿は、投与前に解凍され、解凍されると、解凍処理が開始してから60~75分後に対象に投与される。各対象は、好ましくは単一ユニットの新鮮凍結血漿(200 ~250 mL)を受ける。この新鮮凍結血漿は、好ましくは所定の年齢範囲のドナー由来のものである。本発明の一実施形態では、新鮮凍結血漿は、若齢個体によって提供される(若齢個体由来のものである)。本発明の別の実施形態では、新鮮凍結血漿は、同じ性別のドナーによって提供される(同じ性別のドナー由来のものである)。本発明の別の実施形態では、新鮮凍結血漿は18~22歳の年齢範囲のドナーによって提供される(18~22歳の年齢範囲のドナー由来のものである)。
【0056】
本発明の実施形態では、本発明の組成物(例えば血漿画分などの血漿含有血液製剤)を静脈内に投与する。本発明の組成物を更に腹腔内に投与してもよい。本発明の別の実施形態では、本発明の組成物を経口で、皮下に又は局所的に投与してもよい。創傷を処置して促進するための局所製剤が、ジェル、クリーム、軟膏、ガーゼ、絆創膏及び同種のものとして本技術分野で知られているように治癒するので、本発明の組成物をこのように処方してもよい(例えば、全体が本明細書に組み込まれるKahn AW, et al., Pharmacogn Mag, 9(Suppl 1):S6-S10 (2013);米国特許第5641483 号明細書;米国特許第4885163 号明細書;米国特許第8313764 号明細書参照)。
【0057】
本発明の実施形態では、血漿含有血液製剤を供血後に血液型によってスクリーニングする。本発明の別の実施形態では、血漿含有血液製剤を、21 CFR 640.33の要件及びFDAの指針書に含まれている勧告に従いHIV I&II、HBV 、HCV 、HTLV I&II 、抗HBc などの感染性病因物質についてスクリーニングする。
【0058】
本発明の更に別の実施形態では、血漿画分を用いて対象を処置する。本発明の実施形態では、血漿画分はPPF又はHASである。本発明の更なる実施形態では、血漿画分は市販のPPF調剤又は市販のHAS調剤の内の1つである。本発明の別の実施形態では、血漿画分は、若齢個体などの特定の年齢範囲の個体のプールから得られたPPF若しくはHASであるか、又は、更なる分画若しくは処理が施されている改変されたPPF画分若しくはHAS画分(例えば、一若しくは複数の特定のタンパク質が部分的若しくは実質的に除去されたPPF又はHAS)である。本発明の別の実施形態では、血漿画分は免疫グロブリン(IgG)を実質的に枯渇させているIGIV血漿画分である。IgGなどの特定のタンパク質が「実質的に枯渇している」又は「実質的に除去されている」血液画分とは、本技術分野では周知の標準的なアッセイを使用して測定した場合に、基準産物又は全血血漿中で生じる量の約50%未満、例えば45%未満、40%未満、35%未満、30%未満、25%未満、20%未満、15%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満、0.5 %未満、0.25%未満、0.1 %未満、検出不可能なレベル又はこれらの値の間の任意の整数を含む血液画分を指す。
【0059】
I.投与
本明細書に記載されている本発明の方法の態様は、例えば上述されているような血漿含有血液製剤、例えば血漿又は血漿画分を用いた対象の処置を含む。実施形態は、血漿含有血液製剤を用いたヒト対象の処置を含む。血漿含有血液製剤を用いて対象を処置する方法が本技術分野で知られていることを当業者は認識する。限定することなく例として、本明細書に記載されている本発明の方法の一実施形態では、術後回復に関連した状態を処置するために新鮮凍結血漿を対象に投与する。一実施形態では、血漿含有血液製剤を直ちに、例えば、ドナーから採取されてから約12~48時間以内に、術後回復に関連した望ましくない状態に苦しむ個体に投与する。このような場合、製剤を、例えば0~10℃で冷蔵保管してもよい。別の実施形態では、新鮮凍結血漿は、-18℃以下で冷凍保存(凍結保存)されているものである。新鮮凍結血漿は、投与前に解凍され、解凍されると、解凍処理が開始してから60~75分後に対象に投与される。各対象は、好ましくは単一ユニットの新鮮凍結血漿(200 ~250 mL)を受ける。この新鮮凍結血漿は、好ましくは所定の年齢範囲のドナーから得られたものである。本発明の一実施形態では、新鮮凍結血漿は、若齢個体によって提供される(若齢個体から得られる)。本発明の別の実施形態では、新鮮凍結血漿は、同じ性別のドナーによって提供される(同じ性別のドナーから得られる)。本発明の別の実施形態では、新鮮凍結血漿は18~22歳の年齢範囲のドナーによって提供される(18~22歳の年齢範囲のドナーから得られる)。
【0060】
本発明の実施形態では、血漿含有血液製剤を供血後に血液型によってスクリーニングする。本発明の別の実施形態では、血漿含有血液製剤を、21 CFR 640.33の要件及びFDAの指針書に含まれている勧告に従いHIV I&II、HBV 、HCV 、HTLV I&II 、抗HBc などの感染性病因物質についてスクリーニングする。
【0061】
本発明の更に別の実施形態では、血漿画分を用いて対象を処置する。本発明の実施形態では、血漿画分はPPF又はHASである。本発明の更なる実施形態では、血漿画分は市販のPPF調剤又は市販のHAS調剤の内の1つである。本発明の別の実施形態では、血漿画分は、若齢個体などの特定の年齢範囲の個体のプールから得られたPPF若しくはHASであるか、又は、更なる分画若しくは処理が施されている改変されたPPF画分若しくはHAS画分(例えば、一若しくは複数の特定のタンパク質が部分的若しくは実質的に除去されたPPF又はHAS)である。本発明の別の実施形態では、血漿画分は免疫グロブリン(IgG)を実質的に枯渇させているIGIV血漿画分である。IgGなどの特定のタンパク質が「実質的に枯渇している」又は「実質的に除去されている」血液画分とは、本技術分野では周知の標準的なアッセイを使用して測定した場合に、基準産物又は全血血漿中で生じる量の約50%未満、例えば45%未満、40%未満、35%未満、30%未満、25%未満、20%未満、15%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満、0.5 %未満、0.25%未満、0.1 %未満、検出不可能なレベル又はこれらの値の間の任意の整数を含む血液画分を指す。
【0062】
本発明の実施形態では、術後回復に関連した状態に苦しむ対象に有効量の血漿又は血漿画分を投与することによって、その対象を処置する。本発明の別の実施形態では、有効量の血漿又は血漿画分を投与し、その後、機能の改善、創傷治癒、マーカの存在、疼痛の減少又は炎症の減少について対象をモニタする。本発明の別の実施形態では、有効量の血漿又は血漿画分を対象に投与することにより、術後回復に関連した状態に苦しむ対象を処置し、ここで血漿又は血漿画分は、直近の投与量と比べて血漿タンパク質又は血漿画分タンパク質の半減期の平均又は中央値に達した後に機能の改善、創傷治癒、マーカの存在、疼痛の減少又は炎症の減少をもたらすように投与される(本明細書では「パルス投与」又は「パルス投与される」と称する)(全体が参照によって本明細書に組み込まれる米国特許第10357513号明細書並びに米国特許出願第15/961618号明細書及び米国特許出願第62/701411号明細書参照)。本発明の別の実施形態では、少なくとも2日連続の投与計画によって血漿又は血漿画分を投与し、最後の投与日から少なくとも3日後に機能の改善又はHSCマーカのレベルについて対象をモニタする。本発明の更なる実施形態では、少なくとも3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日又は14日連続の投与計画によって血漿又は血漿画分を投与し、最後の投与日から少なくとも3日後に機能の改善、創傷治癒、マーカの存在、疼痛の減少又は炎症の減少について対象をモニタする。本発明の更に別の実施形態では、少なくとも2日連続の投与計画によって血漿又は血漿画分を投与し、最後の投与日の後、血漿又は血漿画分中のタンパク質の平均半減期に達してからの機能の改善、創傷治癒、マーカの存在、疼痛の減少又は炎症の減少についてモニタする。本発明の別の実施形態では、2~14日の非連続の投与計画によって血漿又は血漿画分を投与し、ここで投与の間隔は夫々0~3日間の範囲内であってもよい。
【0063】
場合によっては、本発明に従ってパルス投与する際、例えば上述されているように、第1の用量セットを投与し、この後に投与無しの期間、例えば「無投与期間」が続き、その後、別の用量又は用量セットを投与する。この「無投与」期間の長さは様々であってもよいが、一部の実施形態では、7日以上、例えば10日以上、例えば14日以上であり、場合によっては、無投与期間は15~365日間、例えば30~90日間、例えば30~60日間に及ぶ。従って、本方法の実施形態は、非慢性(すなわち非持続)投与、例えば血漿製剤の非慢性投与を含む。一部の実施形態では、パルス投与後に無投与期間が続くパターンを、必要に応じて複数回繰り返し、場合によっては、このパターンを1年以上、例えば2年以上、最長で対象の生涯に亘って継続する。本発明の別の実施形態では、5日連続の投与計画によって血漿又は血漿画分を投与し、2~3日の無投与期間後に、2~14日連続して投与する。
【0064】
生化学的に、活性剤の「有効量」又は「有効用量」とは、術後回復に関連した望ましくない状態を、約20%以上、例えば30%以上、40%以上又は50%以上、場合によっては60%以上、70%以上、80%以上又は90%以上、ある場合には約100%、すなわち無視できる程度まで阻止する、弱める、減少させる、低減させる又は抑制し、場合によっては術後回復に関連した望ましくない状態を反転する活性剤の量を意味する。
【0065】
J.血漿タンパク質画分
本発明の方法を実施する際、血漿画分を対象に投与する。実施形態では、血漿画分は血漿タンパク質画分(PPF)である。更なる実施形態では、PPFは、市販のPPF調剤から選択される。
【0066】
別の実施形態では、PPFは、電気泳動により決定されるとき、88%の正常なヒトアルブミン、12%のアルファグロブリン及びベータグロブリン並びに1%以下のガンマグロブリンで構成されている。本発明の方法を実施する際に使用される本実施形態の更なる実施形態には、例えば炭酸ナトリウムで緩衝し、0.004 Mカプリル酸ナトリウム及び0.004 Mアセチルトリプトファンで安定化したPPFの5%溶液の実施形態が含まれる。更なる製剤、例えば溶液中のPPFの割合(例えば約1%から約10%、約10%から約20%、約20%から25%、約25%から30%)並びに溶媒及び安定剤の濃度が変更された製剤を、本発明の方法を実施する際に利用してもよい。
【0067】
K.特定のドナー年齢の血漿画分
本発明の更なる実施形態では、ある年齢範囲の個体の血漿から得られた血漿タンパク質画分を投与する。実施形態では、若齢個体の血漿から得られたPPF又はHASを投与する。本発明の別の実施形態では、若齢個体は単一の特定の年齢又は特定の年齢範囲である。更に別の実施形態では、ドナーの平均年齢は、対象の年齢未満、又は処置される対象の平均年齢未満である。
【0068】
本発明のある実施形態では、特定の年齢範囲の個体から得られた血液又は血漿をプールし、上述されているように血漿を分画して、PPF又はHASなどの血漿タンパク質画分産物を得る。本発明の代替的な実施形態では、血漿タンパク質画分又は特定の血漿タンパク質画分を、指定された年齢範囲に当てはまる特定の個体から得る。
【0069】
L.徴候
本方法、血漿含有血液製剤及び画分は、術後回復に関連した望ましくない状態の処置、及び術後回復の促進に使用される。このような状態及び徴候は、限定することなく例として疼痛及び創傷治癒を含む。本発明の本方法及び組成物は、術後回復に必ずしも関連しない疾患又は状態における急性疼痛及び慢性疼痛の処置にも使用される。本方法及び組成物は、術後回復に必ずしも関連しない創傷治癒の処置にも使用される。本方法及び組成物は、再ミエリン化を促進又は刺激して、多発性硬化症などのミエリン化に関連する疾患を処置する際にも使用される。
【0070】
本方法、血漿含有血液製剤及び画分は、神経系に関連した徴候の処置にも使用される。このような徴候には、限定することなく例として、中枢神経系の状態、例えば中枢神経障害性疼痛、脊髄損傷、骨髄障害、及び術後回復に関連した中枢神経障害性疼痛が含まれる。年間1万7千件の新たな脊髄損傷の症例が発生し、約30万の有病数の40~75%は、中枢神経障害性疼痛を含む脊髄損傷の対象である(Jadad A et al., AHRQ Evidence Report Summaries, Agency for Healthcare Research and Quality; (1998-2005);https://www.nscisc.uab.edu/Public/Facts%202016.pdf;及びhttps://www.nscisc.uab.edu/PublicDocuments/fact_figures_docs/Facts%202012%20Feb%20Final.pdf)。患者の3分の1が激痛を経験しており、1/3だけ処置により疼痛が50%以上低下している(Charbonneau R, CMAJ, 189(2):E48-E49 (2017);及びHadjipavlou G, et al., BJA Education, 16(8):264-68 (2016))。骨髄障害の発生頻度は100 万当たり605 であり、外科的選択肢はあるが、薬物療法がなく、当該分野でのニーズが満たされていないことを示している(Nouri A, et al., Spine, 40(12):E675-93 (2015);及びThe Lancet Neurology, editorial 18(7):P615 (2019))。
【0071】
これらの状態には、限定することなく例として、叢/神経根状態、例えば神経叢障害、頸部神経根症及び坐骨神経痛(腰髄神経根障害)も含まれる。神経叢障害の発生頻度は、10万当たり2~3である。現在の選択肢には、抗癲癇薬及び抗うつ薬を用いた神経障害性疼痛の管理が含まれ、これはニーズが満たされていないことを示している。頸部神経根症の発生頻度は、男性10万当たり100 であり、女性10万当たり60である(McCartney S, et al., Br. J. Gen. Pract., 68(666):44-46 (2018))。坐骨神経痛の年間発症率は1~5%であり、多くの症例は自然に解消されているが、坐骨神経痛は長期に亘る症状の発現で処置への反応が低下する。処置の選択肢には、外科処置、標準的な疼痛薬及びステロイドが含まれ、これは新たな治療法の必要性を示している(Lewis R, et al., Health Technology Assessment - The Clinical Effectiveness and Cost-Effectiveness of Management Strategies for Sciatica: Systematic Review and Economic Model, No. 15.39 NIHR Journals Library (2011))。
【0072】
更なる徴候には、末梢神経系障害が含まれる。これには、限定することなく例として、末梢神経障害、術後回復に関連する末梢神経障害、手根管症候群、化学療法による末梢神経障害、圧迫及び外傷、糖尿病性神経障害、帯状疱疹に関連した末梢神経障害(帯状疱疹後神経痛)、複合性局所疼痛症候群及び三叉神経痛が含まれる。末梢神経障害は末梢神経の障害であり、米国では少なくとも2000万人が発症する。糖尿病を有する対象の約60%が、末梢神経障害の一種である糖尿病性神経障害を経験している(http://www.healthcommunities.com/neuropathy/overview-of-neuropathy.shtml)。手根管症候群は成人の3~6%に発症し、処置には副子、ステロイド及び手術が含まれる(LeBlanc KE, et al., Am Fam Physician, 83(8):952-58 (2011))。化学療法による末梢神経障害は、化学療法を受けている間及び化学療法を受けてから3ヶ月までの両方で患者の40~60%に発症し、年間65万人の患者が化学療法を受けていると報告されている。末梢神経障害は、化学療法の用量の減少又は中止の原因になり、生活の質に影響を与え、障害を予防するための薬物又はサプリメントが示されていない(JAMA Oncology, 5(5):750, (2019))。圧迫及び外傷に関連する末梢神経障害は外傷患者の2~3%に発症し、米国には300 万の外傷の症例がある。手術が有効である場合が多いが、新たな薬物の必要性が存在する(http://www.aast.org/trauma-factsで入手可能なAmerican Association for the Surgery of Trauma - Trauma Facts;及びhttps://emedicine.medscape.com/article/1270360-overview で入手可能なNovak CB, Medscape - Peripheral Nerve Injuries, (Oct 5, 2018))。
【0073】
本方法、血漿含有血液製剤及び画分が処置に更に使用される更なる末梢神経系の徴候に、糖尿病性神経障害が含まれる。米国では、糖尿病患者の人口が約3000万人であり、その内の8~26%が神経障害を患っている(https://www.valueinhealthjournal.com/article/S1098-3015(17)31179-8/pdfで入手可能なRisson V, et al., Incidence and prevalence of painful diabetic neuropathy and postherpetic neuralgia in major 5 European countries, the United States and Japan, Value in Health (20):A339-A811 PSY18 (2017))。糖尿病性神経障害の疼痛のためのFDA 承認済みの選択肢には、プレガバリン、デュロキセチン、フルオキセチン及びタペンタドールが含まれ、これら全てに多くの患者が反応せず、これらに神経損傷に直接対処するものはない。
【0074】
本発明の方法及び製剤によって、帯状疱疹に関連した末梢神経障害(帯状疱疹後神経痛)を更に処置してもよい。帯状疱疹の患者の20%は帯状疱疹後神経痛を経験しており、米国では年間100 万の症例がある(https://emedicine.medscape.com/article/1143066-overview#a6、及びhttps://www.cdc.gov/shingles/hcp/clinical-overview.html.参照)。ガバペンチン及びプレガバリンは、この状態のための処置として承認されているが、疼痛は処置で治療しにくいことが多い(Sacks GM, Am J Manag Care 19(1 Suppl):S207-13 (2013))。
【0075】
複合性局所疼痛症候群及び三叉神経痛などの更なる末梢神経障害の徴候を、本発明の方法及び組成物を用いて処置してもよい。人口10万人当たり5.5 ~26の症例がある。このような徴候は激痛及び身体障害と関連付けられ、処置に対する反応は変わりやすく、満たされていないニーズが高いことが示されている(https://www.ninds.nih.gov/Disorders/Patient-Caregiver-Education/Fact-Sheets/Complex-Regional-Pain-Syndrome-Fact-Sheetで入手可能なComplex Region Pain Syndrome Fact Sheet, National Institutes of Health - National Institute of Neurological Disorders and Stroke)。三叉神経痛は、人口10万人当たり4.2 ~28.9で発生する。三叉神経痛は生活の質に大きな影響を与え、経時的に処置に対する耐性を示すようになり得るため、患者は様々な処置を試す必要がある(Wu N, et al., J Pain, 18(Suppl 4):S69, (2017))。承認された唯一の処置はカルバマゼピンである。そのため、これらの患者が経験する疼痛を処置する必要性は満たされていない。
【0076】
本発明の方法及び組成物を用いて処置してもよい更なる徴候には、中枢性脳卒中後疼痛、多発性硬化症の中枢性疼痛、外傷後頭痛、デジェリーヌ・ルシー症候群、視神経炎、ミトコンドリア視神経症、虚血性視神経症、視神経脊髄炎、遺伝性視神経症、アルコール性神経障害、ギラン-バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経障害(CIDP)、多巣性運動ニューロパチー(MNN) 、腫瘍随伴性自律神経障害、サルコイドーシスに関連する末梢神経障害、リウマチ性関節炎に関連する末梢神経障害、全身性エリテマトーデスに関連する末梢神経障害、シェーグレン症候群に関連する末梢神経障害、セリアック病に関連する末梢神経障害、ベル麻痺、ライム病に関連する末梢神経障害、ハンセン病に関連する末梢神経障害、B型肝炎に関連する末梢神経障害、C型肝炎に関連する末梢神経障害、HIV/AIDSに関連する末梢神経障害、アミロイドーシスに関連する末梢神経障害、抗MAG に関連する末梢神経障害、クリオグロブリン血症に関連する末梢神経障害、POEMS に関連する末梢神経障害、毒素による末梢神経障害、腎疾患に関連する末梢神経障害、血管炎に関連する末梢神経障害、ビタミン欠乏症及び栄養欠乏症に関連する末梢神経障害、シャルコー・マリー・トゥース病(CMT) 、特発性末梢神経障害、線維筋痛症並びに傍腫瘍性末梢性ニューロパチーの例が含まれる。
【0077】
本方法、血漿含有血液製剤及び画分は、創傷治癒に関連した徴候の処置にも使用される。創傷は、例えば限定されることなく、剥離、裂離、切開、裂傷及び穿刺であってもよい。このような徴候には、慢性創傷及び急性創傷の両方が含まれ得る。限定することなく例として、創傷の徴候には、糖尿病性潰瘍、褥瘡、静脈性潰瘍、動脈性潰瘍などの慢性創傷と、手術創傷、外傷性創傷、熱傷などの急性外傷とが含まれる。しかしながら、あらゆるタイプの慢性創傷又は急性創傷を、本発明の本方法及び組成物によって処置してもよい。
【0078】
糖尿病性潰瘍は、米国では220 万人以上の人に発症し、世界での発生率は6.4 %である(Chun D, et al., J Clin Med, 8:748 (2019))。デブリードマン及び医療用ドレッシング材などの複数の処置選択肢があるにも関わらず、多くの患者は感染に耐え、最終的に切断手術を必要とし、新たな治療の必要性、特に薬物治療の必要性を際立たせている。
【0079】
褥瘡は、病院の入院患者の全体割合の1.8 %で生じ、年間の症例の総数は数十万である(Bauer K, et al., Ostomy Wound Manage, 62(11):30-38 (2016))。糖尿病性潰瘍と同様に、デブリードマン及び医療用ドレッシング材などの処置選択肢があるが、多くの患者が感染を経験し、褥瘡が死亡につながり得る。
【0080】
静脈性潰瘍は主に脚に発症し、高齢者に多大な負担を与え、世界人口の約1%で発症する(Nelzen O, Phlebolymphology, 15(4) (2008))。静脈性潰瘍は治癒が困難であり、他の慢性潰瘍より再発する傾向が高い。糖尿病性潰瘍及び褥瘡と同様に、デブリードマン及び医療用ドレッシング材などの処置選択肢があるが、静脈性潰瘍の再発は、新たな処置、特に薬物に基づく処置の必要性を際立たせている。動脈性潰瘍は、静脈性潰瘍の約4分の1の割合で発症する(https://emedicine.medscape.com/article/1298345-overview#a6で入手可能なGabriel A, Vascular Ulcers, (2018))。処置の選択肢にはデブリードマン及び医療用ドレッシング材が含まれるが、承認された薬物は不足している。
【0081】
手術創傷は、年間約130 万人の患者に生じる(http://ir.mediwound.com/static-files/cd547017-d1ed-460e-8cb2-0550b1e18a29で入手可能なMediWound -Innovating Solutions for Wound & Burn Care (2019)19参照)。手術創傷は、通常手術中にメスによって切られた皮膚の切り口又は切り込みであるが、手術中に置かれるドレインによっても生じ得る。手術創傷の治癒は、手術にとって重要な成果である。術後創傷離開、又は筋膜離開を伴う創傷層の分離は深刻な合併症となり得る(https://www.patientsafetyinstitute.ca/en/toolsResources/Hospital-Harm-Measure/Documents/Resource-Library/HHIR%20Wound%20Disruption.pdfで入手可能なHospital Harm Improvement Resource - Wound Disruption (2016)参照)。更に、手術創傷の治癒は、若齢の個体と比べて高齢の患者では遥かに時間がかかる(Gerstein AD, Dermatol Clin, 11(4):749-57 (1993))。
【0082】
外傷性創傷は、主に切り口、裂傷、穿刺又は剥離の創傷であり、皮膚及びその下の組織に損傷を与える。外傷性創傷は典型的には、急性創傷、切創及び穿通創の3つのタイプに分類される。急性創傷は、皮膚が破けたり裂けたりしたときに創傷の外見がギザギザになる傷であり、通常、ガラス、金属、砂利、砂又は泥などの異物を含んでいる。切創は、鋭利な物体が皮膚及びその下の皮下組織を貫通するときの傷である。穿通創は3つのタイプの内、最も深く、最も深刻である。刺創及び銃創が典型的な例である(https://www.woundcarecenters.org/article/wound-types/traumatic-woundsで入手可能なTraumatic Wounds;及びLeaper DJ, BMJ, 332(7540):532-35 (2006)参照)。複数の物理的処置の選択肢(例えば縫合)があるが、薬理学的介入の必要性は依然として存在する。
【0083】
世界保健機関は、熱傷の結果、毎年18万人が死亡していると推定している。また、致命的でない熱傷は、長期入院を含む罹患の主な原因である(https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/burns)。典型的な処置には、外科処置及びドレッシング材が含まれる。薬物処置は、鎮痛、感染予防、鎮静、循環血液の補充、抗凝固及び栄養摂取に重点を置いている(Green A, et al., Clinical Pharmacist, 2:249-54 (2010))。本発明の方法及び組成物は、皮膚及びその下の組織への損傷の治癒を促進する薬理学的介入の満たされていない必要性を満たすことができる。
【0084】
本方法、血漿含有血液製剤及び画分を使用して、術後回復に関連する状態及び徴候を様々な時点で処置することができる。例えば、限定することなく、対象への投与を術前に、術中(処置中)に又は術後に行うことができる。
【0085】
本発明の一実施形態では、本方法、血漿含有血液製剤及び画分を使用して疼痛を処置することが可能である。このような疼痛は、限定することなく例として、急性疼痛又は慢性疼痛を含んでもよい。本発明の別の実施形態では、本方法、血漿含有血液製剤及び画分を使用して中枢性疼痛又は中枢性神経障害を処置することが更に可能である。中枢性疼痛は、脳、脳幹及び脊髄を含む中枢神経系(CNS) の損傷又は機能不全による神経学的状態を含む。中枢性疼痛は、身体の大部分に発症したり特定の領域に限定されたりする場合がある。疼痛は持続的であってもよく、又は断続的であってもよい。疼痛の強度は中程度から重度であってもよい。このような疼痛は、接触、動き、感情及び体温の変化によっても影響を受ける場合がある。疼痛は、原因となる出来事の直後に発症する場合もあれば、数ヵ月又は数年遅れて発症する場合もある(https://www.ninds.nih.gov/disorders/all-disorders/central-pain-syndrome-information-pageで入手可能なCentral Pain Information Page - National Institute of Neurological Disorders and Stroke, Central Pain Syndrome Information Page;及びColloca L, et al., Nat Rev Dis Primers, 3:17002 (2017)参照)。本発明の更なる実施形態では、本方法、血漿含有血液製剤及び画分を使用して、脊髄損傷(SCI) 、骨髄障害、神経叢障害、頸部神経根症、坐骨神経痛(腰髄神経根障害)、中枢性脳卒中後疼痛、多発性硬化症の中枢性疼痛、外傷後頭痛、デジェリーヌ・ルシー症候群、視神経炎、ミトコンドリア視神経症、虚血性視神経症、視神経脊髄炎及び遺伝性視神経症を処置する。
【0086】
本発明の別の実施形態は、本方法、血漿含有血液製剤及び画分を使用して末梢疼痛又は末梢神経障害を処置することが更に可能であるということである。末梢神経障害は、末梢神経系の損傷を伴う複数の状態を指し得る。100 を超える末梢神経障害が特定されており、運動神経、感覚神経及び自律神経を含む、一又は複数のどのタイプの一又は複数の神経かによって決まる(https://www.ninds.nih.gov/Disorders/Patient-Caregiver-Education/Fact-Sheets/Peripheral-Neuropathy-Fact-Sheetで入手可能なCentral Page Information Page - National Institute of Neurological Disorders and Stroke, Peripheral Neuropathy Fact Sheet;及びColloca L, et al., Nat Rev Dis Primers, 3:17002 (2017)参照)。本発明の更なる実施形態では、本方法、血漿含有血液製剤及び画分を使用して、手根管症候群、化学療法による末梢神経障害、圧迫及び外傷、糖尿病性神経障害、帯状疱疹に関連する末梢神経障害(帯状疱疹後神経痛)、複合性局所疼痛症候群、三叉神経痛、アルコール性神経障害、ギラン-バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経障害(CIDP)、多巣性運動ニューロパチー(MNN) 、腫瘍随伴性自律神経障害、サルコイドーシスに関連する末梢神経障害、リウマチ性関節炎に関連する末梢神経障害、全身性エリテマトーデスに関連する末梢神経障害、シェーグレン症候群に関連する末梢神経障害、セリアック病に関連する末梢神経障害、ベル麻痺、ライム病に関連する末梢神経障害、ハンセン病に関連する末梢神経障害、B型肝炎に関連する末梢神経障害、C型肝炎に関連する末梢神経障害、HIV/AIDSに関連する末梢神経障害、アミロイドーシスに関連する末梢神経障害、抗MAG に関連する末梢神経障害、クリオグロブリン血症に関連する末梢神経障害、POEMS に関連する末梢神経障害、毒素による末梢神経障害、腎疾患に関連する末梢神経障害、血管炎に関連する末梢神経障害、ビタミン欠乏症及び栄養欠乏症に関連する末梢神経障害、シャルコー・マリー・トゥース病(CMT) 、特発性末梢神経障害、線維筋痛症並びに傍腫瘍性末梢性ニューロパチーを処置する。
【0087】
本発明の一実施形態は、本方法、血漿含有血液製剤及び画分を使用して、創傷治癒を促進することにより創傷を処置することが可能であるということである。本発明の更なる実施形態では、本方法、血漿含有血液製剤及び画分を使用して慢性創傷又は急性創傷を処置する。本発明の更なる実施形態では、糖尿病性潰瘍、褥瘡、静脈性潰瘍、動脈性潰瘍、手術創傷、外傷性創傷及び熱傷を処置する。
【0088】
M.試薬、デバイス及びキット
上記の方法の内の一又は複数を実施するための試薬、デバイス及びキットを更に提供する。本試薬、デバイス及びそのキットは大きく異なる場合がある。
【0089】
注目する試薬及びデバイスには、例えば抗凝固剤、凍結保存剤、緩衝液、等張液など、必要とする対象に輸注するための血漿含有血液製剤を調製する方法に関して上述したものが含まれる。
【0090】
キットは、採血バッグ、管類、針、遠心管などを更に備えてもよい。更に他の実施形態では、本明細書に記載されるキットは、血漿タンパク質画分などの血漿製剤の容器を2以上、例えば3以上、4以上、5以上、例えば6以上含む。場合によっては、キット内の血漿製剤の個別容器の数は9以上、12以上、15以上、18以上、21以上、24以上、30以上、例えば36以上、例えば48以上であってもよい。各容器は、この容器に含まれる血漿製剤に関する様々なデータを含む識別情報と関連付けられてもよく、この識別情報は、血漿製剤のドナーの年齢、血漿製剤に関する処理の詳細、例えば(上述したような)平均分子量を超えるタンパク質を除去すべく血漿製剤が処理されたか否か、血液型の詳細などの内の一又は複数を含んでもよい。場合によっては、キット内の各容器は、この容器に含まれる血漿に関する識別情報を含んでおり、この識別情報は、血漿製剤のドナーの年齢に関する情報を含んでおり、例えば識別情報によって、血漿製剤のドナーの年齢に関するデータが提供される(このような識別情報は、採取したときのドナーの年齢であってもよい)。場合によっては、キットの各容器は、実質的に同じ年齢のドナーからの血漿製剤を含む。すなわち、全ての容器が、全く同じでないにしても実質的に同じ年齢のドナーからの製剤を含む。実質的に同じ年齢とは、キットの血漿製剤を得る様々なドナーの年齢が、場合によっては5歳以下、例えば4歳以下、例えば3歳以下、例えば2歳以下、例えば1歳以下、例えば9か月以下、6か月以下、3か月以下、例えば1か月以下だけ夫々異なることを意味する。識別情報は、ラベル、RFIDチップなどの容器のあらゆる簡便な要素に存在し得る。識別情報は、必要に応じて人間可読であってもよく、コンピュータ可読であってもよい。容器は、あらゆる簡便な構成を有してもよい。容器の容積は様々であってもよいが、場合によっては、この容積は10mL~5000mL、例えば25mL~2500mL、例えば50mL~1000mL、例えば100 mL~500 mLの範囲である。容器は剛性又は可撓性を有してもよく、あらゆる簡便な材料、例えば医療用のプラスチック材料を含むポリマー材料から形成されてもよい。場合によっては、容器はバッグ又はパウチの構成を有する。このようなキットは、容器に加えて、例えば上述したような投与デバイスを更に備えてもよい。このようなキットの要素は、容器及びキットの他の要素を保持すべく構成されたあらゆる適した包装体、例えば箱又は類似の構造に設けられてもよい。
【0091】
本キットは、上記の要素に加えて、本方法を実施するための使用説明書を更に備えてもよい。これらの使用説明書は、本キット内に様々な形態で備えられてもよく、使用説明書の内の一又は複数がキット内に備えられてもよい。これらの使用説明書が備えられてもよい一形態は、適した媒体又は基板上に印刷された情報であり、例えば、情報が印刷されている一又は複数の紙片、キットの包装体、添付文書等である。別の手段は、情報が記録されているコンピュータ可読媒体であり、例えばディスケット、CD、携帯型のフラッシュドライブ等である。存在し得る更なる別の手段は、離れた場所で情報にアクセスするためにインターネットを介して使用可能なウェブサイトアドレスである。あらゆる簡便な手段がキット内に設けられてもよい。
【0092】
N.実験的実施例
1.疼痛のためのモデル
a)疼痛-損傷前の処置
(1)神経障害性神経損傷の変化
慢性絞扼損傷(CCI) を採用した慢性疼痛モデルを用いて、(1)CCI 後にPPF1、(2)CCI 後にビヒクル、又は(3)偽手術後にビヒクルで処置された22ヶ月齢のC57BL/6Jマウスの疼痛レベルを決定した。このようなモデルを使用することにより、神経系は、最初の損傷が発生してから長期間経過後に疼痛閾値を下げる高反応性の持続的な状態に調節される(例えば、全体が参照によって本明細書に組み込まれるSafakhah, H.A. et.al., Journal of Pain, 10:1457-66、及びSuter MR, et al., Anesthesiology Res and Practice (2011)参照)。
【0093】
PPF1は、電気泳動によって決定されるとき、(総タンパク質に対して)約88%の正常ヒトアルブミンと12%のアルファグロブリン及びベータグロブリンと1%以下のガンマグロブリンとを有するPPF である。言及される場合を除いて、PPF1は、本明細書の実施例では5%溶液(w/v ,50 g/L)を用いてインビボで投与される。PPF2もPPF であるが、PPF1とは大きく異なる。PPF2は、PPF1と同じタンパク質含有量及びタンパク質濃度の仕様を満たしている。
【0094】
図1は、CCI 実験のタイムラインを示す。23ヶ月齢の野生型マウスには、(尾静脈への)150 μL/日のPPF1又はビヒクル対照のいずれかの7日連続パルス投与計画を実施する24時間前に結紮によりCCI 手術又は偽手術を実施した。4週目に行動を評価し、5週目に組織構造の組織採取を実施した。
【0095】
図2は、23ヶ月齢の野生型マウスに実施されたCCI の位置を示す図である。この結紮を、図2に示されているように坐骨神経に実施した。図2の出典は、全体が参照によって本明細書に組み込まれるSuter MR, et al., Anesthesiology Res and Practice, (2011)である。
【0096】
図3は、図1に詳細に示されているようにCCI 手術又は偽手術から4週間後の野生型マウスのフォン・フレイの機械的アロディニア試験のデータを示す。機械的圧力に対するマウスの耐性を決定するため、対象の坐骨神経によって弱まった後足を、異なる厚さのフォン・フレイフィラメントによって刺激した。マウスが後足を引っ込めた圧力を測定し、図3にプロットした。図3は、CCI 後にPPF1で処置されたマウスが、CCI 後にビヒクル対照で処置されたマウスより著しく低下した疼痛を示した(より高い圧力に耐えることができた)ことを示す。偽手術のマウスは、CCI 後にビヒクル対照で処置されたマウスより著しく低下した疼痛を更に示した。PPF1がCCI による機械的痛覚の欠如にプラスの影響を与えることが主な発見である。*** P< 0.001 CCI PPF1処置対CCI ビヒクル処置,*P<0.05 偽 ビヒクル対CCI ビヒクル;Tukey 事後検定を使用した一元配置ANOVA 。
【0097】
図4は、図1に示されている野生型マウスで行われた海馬の組織構造からのデータを示す。ダブルコルチン(DCX) マーカを使用して神経発生を測定した。CCI 手術を受けてPPF1で処置されたマウスは、ビヒクルを受けたマウスより海馬の歯状回での神経発生が著しく増えた。偽手術を受けたマウスは、CCI 手術を受けたマウスより神経発生が増加した傾向にあった。両方のグループとも術後にビヒクル処置を受けた。このように、PPF1は慢性神経損傷後に神経発生を回復させる能力を示した。*P<0.05 CCI PPF1処置対CCI ビヒクル処置;独立T検定。
【0098】
図5は、図1に示されている野生型マウスで行われた海馬の組織構造からのデータを示す。CD68発現によって測定された炎症マーカを定量化した。我々の結果は、CCI 手術及びビヒクル処置を受けたマウスが、CCI 手術後にPPF1で処置されたマウスより海馬のCD68陽性細胞の数を著しく増加させたことを示している。PPF1で処置されたマウスは、偽手術グループのマウスと同様の炎症レベルを示した。これは、PPF1が慢性神経損傷による神経炎症を改善するのに役立ち得ることを示している。*P<0.05 CCI PPF1処置対CCI ビヒクル処置,偽 ビヒクル対CCI ビヒクル;Tukey 事後検定を使用した一元配置ANOVA 。
【0099】
図6は、CCI 手術又は偽手術を受けて、図1に示されているようなタイムラインで試験されたC57BL/6Jマウスのフォン・フレイの機械的アロディニア試験のデータを示す。22ヶ月齢のマウスには、(尾静脈への)150 μL/日のPPF1又はビヒクル対照のいずれかの7日間連続パルス投与計画を実施した。別のグループは、7日間連続で毎日(腹腔内投与で)75 mg/kgのガバペンチンを受けた。全ての処置をCCI 手術又は偽手術から24時間後に開始した。機械的圧力に対するマウスの耐性を決定するため、対象の坐骨神経によって弱まった後足を、異なる厚さのフォン・フレイフィラメントによって刺激した。マウスが後足を引っ込めた圧力を評価して、CCI 手術後又は偽手術後の週数として図6に示した。図6は、CCI 手術後にPPF1が投与されたマウスが、CCI 手術後にビヒクルで処置されたマウスより全ての評価時点で機械的痛覚に対する耐性を著しく増加させたことを示している。対照的に、ガバペンチンのみが投与されたマウスは、CCI 手術から2週間後に機械的痛覚の著しい改善を示し、他の全ての時点でビヒクルで処置されたマウスと同様である。偽手術を受けたマウスは、外科処置から3週間後及び5週間後に機械的痛覚に対する反応が著しく増加したことを示している。これらのデータは、PPF1が標準的な処置(ガバペンチン)より長い時間、末梢疼痛を改善することを示している。*** ,**** P<0.001,P<0.0001 PPF1対ビヒクル対照;Tukey 事後検定を用いたANOVA 。* P<0.05 ガバペンチン対ビヒクル対照;Tukey 事後検定を用いたANOVA 。*,** P<0.05,P<0.01 偽対ビヒクル対照;Tukey 事後検定を用いたANOVA 。
【0100】
図7は、図1に示されてWoolfe及びMacdonald によって記載されているように処置された野生型マウスのホットプレート試験からのデータを示す(全体が参照によって本明細書に組み込まれるWoolfe G. and Macdonald AD, J. Pharmacol. Exp. Ther. 80:300-07 (1944))。ホットプレートの温度は55℃に設定されている。マウスは透明なシリンダの中に30分間置かれて順応している。シリンダをホットプレートの上に置き、タイマを開始した。侵害防御機構行動(例えば後足をなめる又はジャンプする)が最初に観察されるとき、その時間を潜時として記録する。侵害防御機構行動が観察されない場合、組織損傷を防ぐために、30秒などの所定のカットオフ時間でマウスを取り除く。試験を繰り返し行うと感度が変わることが示されているので、CCI 手術から2週間後及び5週間後だけマウスを試験した。図7は、CCI 手術又は偽手術から5週間後のホットプレート侵害防御機構潜時を示す。PPF1処置は、CCI 及びビヒクル対照を受けたマウスと比較してホットプレート刺激に対する反応を著しく低下させ、PPF1による救済効果を示す。** P<0.01 偽手術対CCI 手術,**** P<0.0001 PPF1で処置されてCCI 手術を受けたマウス対ビヒクルで処置されてCCI 手術を受けたマウス。Tukey 事後検定を使用したANOVA 。
【0101】
(2)脊髄の神経炎症の予防
先の試験(上記)と同様の別の試験を22ヶ月齢のC57BL/6Jマウスに行った。コホートのマウスを、(1)CCI 後にPPF (PPF2)、(2)CCI 後にビヒクル、(3)CCI 後に組換えヒトアルブミン(rhAlb) 、又は(4)偽手術後にビヒクルで処置した。マウスには、(尾静脈への)150 μL/日のPPF2、組換えヒトアルブミン又はビヒクル対照の7日間連続パルス投与計画を実施した。全ての処置をCCI 手術又は偽手術から24時間後に開始した。
【0102】
図8は、図1のタイムラインで処置されたようにCCI から35日後の(上述されているような)ホットプレート試験からのデータを示す。PPF2で処置されたマウスは、CCI 及びビヒクル対照を受けたマウスと比較してホットプレート刺激に対する反応を著しく低下させた。組換えヒトアルブミンで処置されたマウスも、CCI 及びビヒクル対照を受けたマウスより反応を著しく低下させているが、PPF2で処置されたマウス程ではない。* P<0.05 rhAlb で処置されたCCI マウス対ビヒクルで処置されたCCI マウス,*** P<0.001 PPF2で処置されたCCI 手術のマウス対ビヒクルで処置されたCCI 手術のマウス。Tukey 事後検定を使用したANOVA 。
【0103】
図9は、CCI 前(ベースライン)及びCCI 後の両方の様々な時間間隔でのこれらの同じマウスのフォン・フレイの機械的アロディニア試験からのデータを示す。マウスが後足を引っ込めた圧力を評価して、CCI 手術後又は偽手術後の週数として図9に示した。図9は、CCI 手術後にPPF2が投与されたマウスが、CCI 手術後にビヒクル又は組換えヒトアルブミン(rhAlb) で処置されたマウスより全ての評価時点で機械的痛覚に対する耐性を著しく増加させたことを示している。これは、PPF (PPF2)が、対照ビヒクル、又はPPF の主要なタンパク質成分であるアルブミンより長い時間、疼痛を改善したことを示している。このように、これらの作用はアルブミンを介して媒介されるのではなく、PPF に存在する他のタンパク質を介して媒介されるようである。* P<0.05;** P<0.01;*** P<0.001;**** P<0.0001 対ビヒクル対照;Tukey 事後検定を用いたANOVA 。
【0104】
図10は、上述されているような22ヶ月齢のマウスで実施された別の同様の実験でPPF (PPF1)の最後の投与から5週間後に遠位坐骨神経内のミエリン塩基性タンパク質(MBP ,Abcam による検出,ab40390 抗ウサギ抗体)の相対レベルを示す。* P<0.05;*** P<0.001 対ビヒクル対照;Tukey 事後検定を用いたANOVA 。
【0105】
図11は、S-100 シュワン細胞マーカのこれらのマウスの相対レベルを示す。どちらの場合も、CCI を受けたマウスのPPF は、CCI を受けたビヒクル対照のマウスと比較して、これらのマーカの相対レベルを高めた。これは共に、PPF がミエリンタンパク質及びS-100 タンパク質の発現を増加させることにより、坐骨神経修復機構を促進していることを示している。更に、PPF がミエリン形成修復機構を引き起こしていることを示している。** P<0.01;*** P<0.001 対ビヒクル対照;Tukey 事後検定を用いたANOVA 。
【0106】
図12は、図10及び図11に示されたデータの蛍光顕微鏡検査の定性図である。
【0107】
図13及び図14は、CCI 損傷から24時間後に処置されたマウスの脊髄の後角でのBDNF及びCD68の検出結果を示す。脳由来の神経栄養因子(BDNF,Abcam による検出,ab108319抗ウサギ抗体)は活性化ミクログリアによって分泌され、シナプスの促進及び中枢性感作のような機構の関与により、脊髄の痛覚(疼痛性刺激の検出)を高めることが示されている。末梢神経損傷による神経障害性疼痛は、BDNFの脊髄発現の増加を伴うことが多い(Garraway SM, et al. Neural Plast. Article ID 9857201 (2016))。(Biorad MCA1957 GA 抗ラット抗体によって検出される)CD68レベルを更に決定した。CD68は、活性化ミクログリアのマーカである。図13及び図14は、CCI 損傷から24時間後のPPF 処置により、脊髄の後角でのBDNFマーカ及びCD68マーカの両方が大幅に減少していることを示し、ミクログリアの活性化の予防、及び神経障害性疼痛の発生に関連する有害な下流現象の阻止を示す。** P<0.01;*** P<0.001 対ビヒクル対照;Tukey 事後検定を用いたANOVA 。
【0108】
図15及び図16は、図13及び図14に示されているデータの蛍光顕微鏡画像を夫々示す。矩形は、L4-L6 の腰椎部分で解析された脊髄の後角を強調している。図15及び図16の右側の画像は、各図の左側の矩形領域の高焦点画像である。
【0109】
b)疼痛-損傷から14日後の処置
図17は、22ヶ月齢のC57BL/6Jマウスで使用されたプロトコルを示す。機械的アロディニアを測定するためのベースラインフォン・フレイ足引っ込め閾値をCCI 処置又は偽処置の3~4日前に取得した。コホートのマウスを、(1)CCI から14日後にPPF (PPF1)、(2)CCI から14日後にビヒクル、(3)CCI から14日後に組換えヒトアルブミン(rhAlb) 、又は(4)偽手術から14日後にビヒクルで処置した。マウスには、(尾静脈への)150 μL/日のPPF1、組換えヒトアルブミン又はビヒクル対照の7日間連続パルス投与計画を実施した。全ての処置をCCI 手術又は偽手術から14日後に開始した。
【0110】
図18は、ベースライン、CCI 後14日目、21日目、28日目、35日目、42日目及び49日目でのフォン・フレイ足引っ込め閾値を示す。14日目には、偽手術グループを除く全てのグループで顕著な低下が見られ、損傷の2週間後に全てのCCI グループで中枢性感作があることを示している。これは、PPF での処置を中止してから7日目(28日目)まで反転されず、このモデルでは簡単な鎮痛がPPF で行われないことを示す。代わりに、ビヒクル又は組換えヒトアルブミン(rhアルブミン)では観察されない機構的効果がPPF 処置で生じる。これは、PPF 処置前に完全に確立された疼痛(中枢性要素を必ず含む)が、ビヒクル対照と比較してPPF によって大幅に緩和されることを示す。** P<0.01;*** P<0.001;**** P<0.0001 対ビヒクル対照;Tukey 事後検定を用いたANOVA 。
【0111】
図19及び図20は、CCI から35日目(図19)及びCCI から49日目(図20)のホットプレート潜時値を示す。両方の組の結果は、PPF で処置されたマウスでは、ホットプレート疼痛感度の低下が長期に亘って続いたことを示している。これは、鎮痛効果を単純に与えるのとは対照的に、PPF が機構的効果によって機能することを更にサポートしている。**P<0.01;Tukey 事後検定を使用したANOVA 。
【0112】
2.創傷治癒のためのモデル
糖尿病のマウスモデル(B6.BKS(D)-Leprdb/J)を使用して、創傷治癒における PPF1の有効性を評価した。6週齢のオスのB6.BKS(D)-Leprdb/Jマウスの背中を1日前に剪毛した。0日目にマウスの背中を2箇所傷つけた。マウスは、0日目(皮膚を傷つけた直後)から6日目までビヒクル(150 μL)又はPPF1(150 μL)の処置(IV)を毎日受けた。
【0113】
皮膚を、以下の通り傷つけた。マウスを、皮膚を傷つける前の日に脱毛クリームを使用して脱毛し、その後、温水で皮膚を優しく洗った。吸入イソフルランを用いてマウスを麻酔し、手術部位を剪毛し、ポビドンヨード(「ベタジン」)又はクロルヘキシジン消毒薬(又は同様の外科用スクラブ)及び70%エタノールを用意した。温水熱パッド(又は同様の外科用製品)をマウスの下に置いた。背部皮膚の2つの創傷部位に油性マーカを使用して5mm直径の円でマークした。背部皮膚を清潔な鉗子を使用して持ち上げ、マークした円に沿って良質な外科用はさみを使用して切った。中央が直径6mmで切られている直径15mmのシリコーン副子を、Vetbond 及びナイロン縫合糸を使用して創傷の周囲に適用した。皮膚を傷つけた後、マウスを計量し(最初の体重)、加熱パッドを下に置いて柔らかくした食物を置いた清潔なケージ内に置いた。マウスは加熱パッド上にとどまり、マウスが活発且つ意識清明で反応を示す(Bright, Alert, and Reactive)までマウスをモニタした。
【0114】
術後、縫合糸を取り除くまで創傷治癒を毎日評価した。ブプレノルフィンを手術直後及び約12時間毎に合計3回腹腔内に投与した。手術前及び手術から24時間後にメロキシカムを腹腔内に投与した。柔らかくした食物及び清潔なH2O 回復ゲルを手術後にケージの底部に置く。マウスの体重を手術後に毎日測定した。マウスが術後の体重から1グラムを超えて体重を減らした場合、500 μl生理食塩水/日を投与した。
【0115】
カリパスを用いて創傷の大きさを測定して、創傷閉鎖量についてマウスを毎日評価した。マウスを10日目及び14日目に屠殺した。マウスをアベルチン(250mg/kg IP)で深く麻酔し、次に心臓穿刺を行って、EDTAが予め充填された注射器を使用して血液サンプルを採取した。その後、血液/EDTAをマイクロ遠心管に注入した。マイクロ遠心管を氷の上で保持して、血漿を可能な限り早く15分間で1000 g(+4℃)で遠心分離によって分離した。各マウスからの血漿をバイアル当たり100 μLで分注し、残りを第2のバイアルに入れて-80℃で保存した。
【0116】
各マウスから皮膚を採取して4%パラホルムアルデヒドで固定した後、PBS 中で2回洗浄し、その後パラフィン包埋した。組織を薄切するか又は溶解し、qRT-PCR 、ウエスタンブロット、ELISA 、免疫組織化学法などの標準的な組織学的且つ生化学的な方法により炎症のマーカについて解析した。
【0117】
図21は、(B6.BKS(D)-Leprdb/J糖尿病マウスモデルの)処置されなかった糖尿病創傷(図21A)又はPPF1で処置された糖尿病創傷(図21B)の組織学的比較を示す。黒色のバーは創傷の層厚(表皮及び肉芽形成層)を示す。矢印は創傷境界を示す。PPF1で処置されたマウスでは、創傷の層厚によって決定されるように創傷の層厚が増加した。従って、PPF1は創傷治癒の改善を実証している。
【0118】
図22は、(B6.BKS(D)-Leprdb/J糖尿病マウスモデルの)処置されなかった糖尿病創傷(図22A)又はPPF1で処置された糖尿病創傷(図22B)の組織学的比較を示す。黒色のバーは肉芽形成層を示す。青色のバーは表皮層を示す。PPF1で処置された創傷は、処置されなかった創傷より厚い表皮層を示したが、肉芽形成層は、PPF1で処置された創傷と処置されなかった創傷との差に更に大きな傾向を示した(すなわち、肉芽形成層は、処置されなかった創傷よりPPF1で処置された創傷でより厚かった)。
【0119】
図23図26は、糖尿病性創傷治癒におけるPPF1対ビヒクルの有効性を評価するB6 ob/ob(B6.Cg-Lepob/J マウス)糖尿病マウスモデルの結果を示す。9週齢のオスのB6 OB/OBマウスを使用した。傷つける前の日にマウスを計量して5時間絶食させ、尾血から絶食時の血糖値を決定した。体重及び血糖値に応じてマウスを2つの異なる処置グループに均等に分けた。傷つけるために、マウスを剪毛して脱毛クリーム(Nair(商標)をマウスに塗布し、背中の2箇所を傷つけ(直径5mmの切除)、その後、70%アルコールに浸したシリコーンリング(外周12mm及び内周6mm)をマウスに適用した。このシリコーンリングは、開いた創傷にVectabond (商標)を使用して取り付けられた。実験の全過程を通してシリコーンリングが創傷に取り付けられたままであることを保証するために、各シリコーンリングに縫合を4箇所行った。30μLのPPF1及び対照を創傷の最上部に直接適用し、2つの創傷を一枚のTegaderm(商標)を用いて密閉した。創傷を覆ったTegaderm(商標)の内側にPPF1及び対照を注射することにより、処置を毎日行った。創傷を画像化するために、創傷を覆っていたTegaderm(商標)を切り取り、創傷を新しい一枚のTegaderm(商標)で再度密閉した。屠殺の際にリングを取り除き、組織構造を採取するために背中から創傷を切った。
【0120】
創傷閉鎖量を決定することにより、創傷治癒を毎日評価した。カメラとスケールのための精密定規とを使用して創傷の大きさを測定した。10日目及び14日目に末端組織採取を行った。組織を薄切するか又は溶解し、免疫組織化学法、qRT-PCR 及びH&E 並びに他の特別な染色などの標準的な組織学的方法により炎症のマーカについて解析した。
【0121】
図23は、実験の一般的な設計を示している。血液の液滴は、絶食時の血糖値を測定するために血液が採取されたときを示す。2日目に皮膚を傷つけ、1日目~7日目に静脈内(iv)投与を行った。図24は、第1の研究(研究1)で傷つけた後の複数の時点で未だ開いている創傷の割合を示す。マウスを7日間PPF1(150 μL)又は生理食塩水対照のいずれかで処置した。10日後、PPF1で処置されたマウスの開いた創傷の大きさは、生理食塩水対照と比較して大幅に減少した(独立T検定による**p< 0.006)。
【0122】
図25は、同様の第2の研究(研究2)で傷つけた後の複数の時点で未だ開いている創傷の割合を示す。マウスを7日間PPF1(150 μL)又は生理食塩水対照のいずれかで処置した。8日後、PPF1で処置されたマウスの開いた創傷の大きさは、生理食塩水対照と比較して大幅に減少した(独立T検定による**p<0.0018)。
【0123】
図26は、研究1及び研究2のデータを組み合わせた、傷つけてから11日目で未だ開いている創傷の割合を示す。PPF1で処置されたマウスは、11日後に開いたままであった創傷の割合の統計的に有意な減少を示す(独立T検定による**p< 0.006)。10日目のPPF1で処置されたマウスとビヒクルで処置されたマウスとの差は同様に有意であった(独立T検定による**p<0.006 )。
【0124】
図27及び図28は、B6 ob/ob(B6.Cg-Lepob/J マウス)の創傷に局所投与されたPPF1又はビヒクルを用いた研究結果を示す。図27は、創傷に局所投与された30μLのPPF1又は対照ビヒクルの連日投与の研究パラダイムを示す。図23に関して記載されているように傷つけた。図28は、処置の10日後に残っている最初の創傷の面積の割合を用いた局所研究の結果を示す。図28は、PPF1が対照ビヒクルと比較して10日後に残っている開いた創傷の割合が大幅に減少したことを示している。
【0125】
前述の実施形態の少なくとも一部では、交換が技術的に実現不可能でない限り、実施形態で使用される一又は複数の要素を別の実施形態で使用することができる。当業者は、様々な他の省略、追加及び変更を、請求された主題の範囲を逸脱することなく上述された方法及び構造に行ってもよいことを理解する。このような変更及び変化は全て、添付された特許請求の範囲によって定められているように主題の範囲内に含まれることが意図されている。
【0126】
一般に本明細書、特に添付された特許請求の範囲(例えば添付された特許請求の範囲の本文)で使用されている用語は、「オープン」な用語として一般的に意図されていることを当業者は理解する(例えば、「含んでいる“including”」という用語は「含んでいるが、これに限定されない」と解釈されるべきであり、「有している“having”」という用語は「少なくとも有している」と解釈されるべきであり、「含む“includes”」という用語は「含むが、これに限定されない」と解釈されるべきである)。導入された請求項の記載の特定数が意図されている場合、このような意図は請求項で明示的に記載されており、このような記載がない場合には、このような意図が存在しないことを、当業者は更に理解する。例えば、以下の添付された特許請求の範囲は、理解の手助けとして請求項の記載を導入すべく「少なくとも1つ」及び「一又は複数」という導入句の使用を含んでもよい。しかしながら、このような導入句の使用は、同一の請求項が導入句「一又は複数」又は「少なくとも1つ」及び不定冠詞、例えば「a」又は「an」を含む場合であっても、不定冠詞「a」又は「an」による請求項の記載の導入が、このように導入された請求項の記載を含むあらゆる特定の請求項を、このような1つの記載だけを含む実施形態に限定することを意味すると解釈されるべきではない(例えば「a」及び/又は「an」は「少なくとも1つ」又は「一又は複数」と意味すると解釈されるべきである)。請求項の記載を導入すべく使用される定冠詞の使用についても同一のことが当てはまる。加えて、導入された請求項の記載の特定数が明示的に述べられている場合であっても、当業者は、このような記載が少なくとも記載された数を意味すると解釈されるべきであることを認識する(例えば、「2つの記載」というそのままの記載は、他の修飾語句無しで少なくとも2つの記載又は2以上の記載を意味する)。更に、「A,B及びCなどの内の少なくとも1つ」に類似した慣例を使用する場合、一般に、このような構成は、当業者がこの慣例を理解するという意味で意図されている(例えば、「A,B及びCの内の少なくとも1つを備えたシステム」はAのみ、Bのみ、Cのみ、A及びB共に、A及びC共に、B及びC共に、及び/又はA,B及びC共になどを備えたシステムを含むが、これらに限定されない)。「A,B又はCなどの内の少なくとも1つ」に類似した慣例を使用する場合、一般に、このような構成は、当業者がこの慣例を理解するという意味で意図されている(例えば、「A,B又はCの内の少なくとも1つを備えたシステム」はAのみ、Bのみ、Cのみ、A及びB共に、A及びC共に、B及びC共に、及び/又はA,B及びC共になどを備えたシステムを含むが、これらに限定されない)。明細書、特許請求の範囲又は図面であろうとなかろうと、2以上の代替用語を表す実質的にあらゆる離接語及び/又は離接句が、用語の内の1つ、用語のいずれか又は両方の用語を含む可能性を想定すると理解されるべきであると、当業者は更に理解する。例えば、「A又はB」という表現は、「A」若しくは「B」又は「A及びB」の可能性を含むと理解される。
【0127】
加えて、本開示の特徴又は態様がマーカッシュ形式で記述されている場合、当業者は、本開示がマーカッシュグループのあらゆる個々のメンバー又はサブグループのメンバーに関して更に記載されていることを認識する。
【0128】
当業者によって理解されるように、明細書について説明するなど、あらゆる全ての目的のために、本明細書に開示されている全ての範囲は、あらゆる全ての可能なサブ範囲及びこれらのサブ範囲の組み合わせを更に包含する。あらゆる列記されている範囲は、同一の範囲が少なくとも均等な半分、3分の1、4分の1、5分の1、10分の1などに分割されることを十分記載して可能にすると容易に認識され得る。非制限例として、本明細書に記載されている夫々の範囲は、下側3分の1、中央3分の1、上側3分の1などに容易に分割され得る。当業者によって更に理解されるように、「最大」、「少なくとも」、「より大きい」、「より小さい」などの全ての用語には、記載された数を含み、続いて前述のようにサブ範囲に分割され得る範囲を指す。最後に、当業者によって理解されるように、範囲は個々のメンバーを夫々含んでいる。従って、例えば、1~3の要素を有するグループは、1、2又は3の要素を有するグループを指す。同様に、1~5の要素を有するグループは、1、2、3、4又は5の要素を有するグループなどを指す。
【0129】
理解の明瞭化のために、上記の発明について、図示及び例によって、ある程度詳細に説明してきたが、本発明の教示に鑑みれば、添付の特許請求の範囲の趣旨又は範囲から逸脱することなく、本発明に対して特定の変更及び修正を行ってよいことは当業者に容易に明らかとなる。
【0130】
従って、前述の内容は本発明の本質を単に示しているだけである。本明細書に明示的に説明されていないか又は示されていないが、本発明の本質を具体化して本発明の趣旨及び範囲に含まれる様々な構成を当業者が考案し得ることは明らかである。更に、本明細書に述べられている全ての例及び条件的な用語は、本発明の本質と本技術分野を進展させるために本発明者らにより与えられた概念とを理解する際に読者を支援することを本質的に意図するものであり、このように具体的に述べられた例及び条件に限定するものではないと解釈されるべきである。更に、本発明の本質、態様及び実施形態並びに本発明の具体的な例を述べている本明細書における全ての記載は、本発明の構造的且つ機能的な等価物の両方を含むことを意図するものである。加えて、このような等価物は、現時点で既知の等価物及び今後開発される等価物の両方、すなわち構造に関わらず同一の機能を行う開発された全ての要素を含むことを意図するものである。更に、このような開示が特許請求の範囲に明示的に記載されているか否かにかかわらず、本明細書に開示されている記載は公開することだけが意図されているわけではない。
【0131】
従って、本発明の範囲は、本明細書に示され説明された例示的な実施形態に限定されることを意図するものではない。むしろ、本発明の範囲及び趣旨は、添付の特許請求の範囲により具体化される。特許請求の範囲に関して、米国特許法第112 条(f)又は米国特許法第112 条(6) は、「ための手段"means for"」又は「ためのステップ"step for"」という厳格な表現が請求項のこのような限定の始まりで記載されているときのみ、請求項における限定について行使されると明確に定められており、このような厳格な表現が請求項の限定で使用されない場合、米国特許法第112 条(f) 又は米国特許法第112 (6)は行使されない。
【0132】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119 条(e) に従って、2018年10月26日に出願された米国仮特許出願第62/751448号明細書、及び2019年5月2日に出願された米国仮特許出願第62/842403号明細書の出願日の優先権を主張しており、その開示内容が参照によって本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
【国際調査報告】