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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-14
(54)【発明の名称】人工心臓弁
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/24 20060101AFI20220106BHJP
【FI】
A61F2/24
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021523044
(86)(22)【出願日】2019-10-24
(85)【翻訳文提出日】2021-06-11
(86)【国際出願番号】 EP2019079043
(87)【国際公開番号】W WO2020084061
(87)【国際公開日】2020-04-30
(31)【優先権主張番号】102018126828.9
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513301919
【氏名又は名称】エヌヴィーティー アーゲー
【住所又は居所原語表記】Rue de Lausanne 29,1110 Morges Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】キュティング,マキシミリアン
(72)【発明者】
【氏名】カルギン,ナタリア
(72)【発明者】
【氏名】バルサモ,エリカ
(72)【発明者】
【氏名】チェントラ,マルコス
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA27
4C097BB01
4C097CC01
4C097CC05
4C097CC15
4C097DD10
4C097DD15
4C097EE02
4C097EE06
4C097EE08
4C097EE09
4C097SB03
(57)【要約】
本発明は、機能喪失または機能不全の状態にある生体本来の心臓弁を補助または置換するための人工心臓弁(10)であって、内面(16)と外面(17)とを有する、拡張可能で概して管状のステント支持体(12)、外面(21)と内面(22)とを有する弁要素(20)、および複数の封止要素(30)を含み、前記封止要素(30)が、それぞれ間隔を空けて、前記弁要素(20)の外面(21)に周方向に取り付けられており、該弁要素(20)の外面(21)から径方向に突出する唇状要素(31)を形成すること、ならびに前記弁要素が、前記ステント支持体(12)の内面(16)に取り付けられていることを特徴とする人工心臓弁(10)に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能喪失または機能不全の状態にある生体本来の心臓弁を補助または置換するための、圧縮状態から拡張状態へと拡張可能な人工心臓弁(10)であって、
近位端(13)と、遠位端(14)と、近位端(13)から遠位端(14)へと延びる長軸(15)とを有する、拡張可能で概して管状のステント支持体(12);
外面(21)と、内面(22)と、複数の弁尖(23)と、長軸(24)と、外周(25)とを有する弁要素(20);および
複数の封止要素(30)
を含み、
前記管状のステント支持体(12)が、内面(16)と外面(17)とを有すること;
前記封止要素(30)が、それぞれ間隔を空けて、互いに接することなく前記弁要素(20)の外面(21)に周方向に取り付けられており、拡張時には、各封止要素(30)が、該弁要素(20)の外面(21)から径方向に突出する唇状要素(31)を形成すること;ならびに
前記封止要素(30)が取り付けられている前記弁要素(20)が、前記ステント支持体(12)の内面(16)に取り付けられていること
を特徴とする人工心臓弁(10)。
【請求項2】
前記封止要素(30)が、ストリップ(32)の形態で、長さ(33)と幅(34)を有し、かつ該封止要素(30)が、その幅(34)より前記弁要素(20)の長軸(24)に垂直な方向Pに長く延びて、該弁要素(20)の外面(21)に設けられている、請求項1に記載の人工心臓弁(10)。
【請求項3】
前記封止要素(30)が、前記弁要素(20)の外周(25)に沿って、それぞれ規則的または不規則的に間隔を空けて配置されている、請求項1または2に記載の人工心臓弁(10)。
【請求項4】
前記封止要素(30)が、前記弁要素(20)の長軸(24)に沿って、それぞれ規則的または不規則的に間隔を空けて配置されている、先行する請求項のいずれかに記載の人工心臓弁(10)。
【請求項5】
少なくとも2つの前記封止要素(30)の長さ(33)および/または幅(34)が同一または異なる、先行する請求項のいずれかに記載の人工心臓弁(10)。
【請求項6】
前記封止要素(30)が、その長さ方向が前記弁要素(20)の外周(25)に沿うように、該弁要素(20)の外面(21)に取り付けられている、先行する請求項のいずれかに記載の人工心臓弁(10)。
【請求項7】
前記複数の封止要素(30)が、前記弁要素(20)の外面(21)に縫い付けられている、先行する請求項のいずれかに記載の人工心臓弁(10)。
【請求項8】
前記ステント支持体(12)が、相互に連結された実質的に菱形状の開放セル構造(18)で構成された隣接する複数の列を含み、拡張時には、前記唇状要素(31)が、少なくとも部分的に該セル構造(18)を貫通して突出する、先行する請求項のいずれかに記載の人工心臓弁(10)。
【請求項9】
2~20個の封止要素(30)を含む、先行する請求項のいずれかに記載の人工心臓弁(10)。
【請求項10】
前記複数の封止要素(30)が、互いに接していない複数の唇状要素(31)から構成される列が複数形成されるように、前記弁要素(20)の外面(21)に配置されており、各列の封止要素(30)が、該弁要素(30)の外周(25)に沿って、それぞれ距離Rの間隔を空けて配置されており、該列同士が、該弁要素(20)の長軸(24)に沿って、それぞれ距離Sの間隔を空けて配置されている、先行する請求項のいずれかに記載の人工心臓弁(10)。
【請求項11】
前記弁要素(20)の外面(21)に配置された封止要素(30)から構成される第1の列(30a)および第2の列(30b)を含み、該第1の列(30a)および該第2の列(30b)の各列の封止要素(30)が、該弁要素(20)の外周(25)に沿って、それぞれ距離Rの間隔を空けて配置されており、該第1の列(30a)の封止要素(30)が、該弁要素(20)の長軸(24)に沿って、該第2の列(30b)の封止要素(30)からオフセットされた位置に配置されている、先行する請求項のいずれかに記載の人工心臓弁(10)。
【請求項12】
前記弁要素(20)の外面(21)に配置された封止要素(30)から構成される第1の列(30c)、第2の列(30d)、および第3の列(30e)を含み、該第1の列(30c)、該第2の列(30d)、および該第3の列(30e)の各列の封止要素(30)が、該弁要素(20)の外周(25)に沿って、それぞれ距離Aの間隔を空けて配置されており、該第1の列(30c)の封止要素(30)が、該弁要素(20)の長軸(24)に沿って、該第2の列(30d)および該第3の列(30e)の封止要素(30)からオフセットされた位置に配置されている、先行する請求項のいずれかに記載の人工心臓弁(10)。
【請求項13】
前記封止要素(30)が、生体組織もしくは生体適合性を有する合成材料を含むか、または生体組織もしくは生体適合性を有する合成材料からなる、先行する請求項のいずれかに記載の人工心臓弁(10)。
【請求項14】
前記封止要素(30)が、心膜組織、ポリエステル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、超高分子量ポリエチレン(UHMPE)、およびこれらの混合物から選択される組織もしくは材料を含むか、該組織もしくは材料からなる、先行する請求項のいずれかに記載の人工心臓弁(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能喪失または機能不全の状態にある生体本来の心臓弁を補助または置換するための人工心臓弁に関する。
【背景技術】
【0002】
関連分野
心臓弁置換術は、生体本来の心臓弁が損傷した状態、あるいは機能喪失や機能不全の状態にある場合に必要とされる処置である。心臓では、心臓弁の両側の圧力差に応じて弁が開閉することにより、血液が一方向に流れるように維持されている。哺乳動物の心臓は、4つの部屋、すなわち血液が貯留される部屋である2つの心房と、血液を送り出す部屋である2つの心室で構成されている。哺乳動物の心臓には、4つの心臓弁が存在し、これらの弁によって、血液が心臓内を通常一方向にのみに流れるようになっており、各心臓弁は、弁の両側の血圧の差に応じて開閉する。
【0003】
心臓内の主要な4つの弁のうち、二尖弁である僧帽弁と三尖弁は、それぞれ上部に位置する心房と下部に位置する心室の間にあり、そのため房室(AV)弁と呼ばれる。大動脈弁と肺動脈弁は、心臓から出る動脈にある。なお、僧帽弁と大動脈弁は左心に、三尖弁と肺動脈弁は右心に位置する。
【0004】
各弁には弁尖すなわちカスプが存在し、僧帽弁以外はそれぞれ3つのカスプを有するが、僧帽弁のカスプは2つである。
【0005】
理想的には、心臓弁の生体本来の弁尖は、弁が開いた状態では互いに離れ、弁が閉じた状態では互いに接触、すなわち「接合」する。したがって、心臓弁は様々な病気の影響を受ける可能性があり、そのため、心臓弁置換術が必要になる場合がある。弁の脇漏れ、すなわち逆流が生じるか、弁が十分に閉じなくなる可能性があり、その場合は、大動脈弁が機能せず、血液は受動的に誤った方向に流れ、心臓に戻る。また、弁が部分的に閉じたままの状態、すなわち狭窄した状態になる可能性があり、その場合は、弁が完全に開かなくなり、心臓からの血液が送出されなくなる。この2つの状態はよく併発する。
【0006】
心臓弁置換術では、従来、胸骨正中切開、つまり心臓切開手術が必要であり、このような手術は、治療を受ける患者に大きな影響を与える。具体的には、胸骨を半分に切り、心膜を開いた後、心肺バイパス装置を患者に取り付ける。患者にバイパスを施した後、病変した大動脈弁を取り除き、機械弁または組織弁に置き換える。この手術においては、手術に伴う肉体的ストレスの他に、特に患者の健康状態や年齢によっては、心臓切開手術による死亡や重篤な合併症の危険性がある。
【0007】
しかし、経皮的に人工心臓弁を導入して配置できるシステムが開発され、心臓切開手術を回避できるようになった。低侵襲性アプローチが求められている背景には、相当数の患者、特に高齢者や深刻な併存疾患または重度の左室機能不全症を有する患者に対しては、外科手術(心臓切開手術)が推奨されていないという事実がある。人工心臓弁は、通常の血流に対して逆方向に配置する場合と、血流に対して順方向に配置する場合がある。人工心臓弁は、例えば、バルーンカテーテルに圧着したり、送達カテーテルのシース部に圧縮した状態で収容したりすることで直径を小さくして、静脈や動脈の血管系から挿入することができる。人工心臓弁を治療部位(例えば、障害のあるまたは機能喪失した生体本来の弁の内側)に配置した後、人工心臓弁のステント構造を、例えば、バルーン拡張により、あるいは自己拡張型ステント支持材を使用して拡張するなどして、人工心臓弁をしっかり固定する。
【0008】
経皮的な弁置換術においては、現在、様々な種類や構造の人工心臓弁が使用されているが、特定の人工心臓弁の実際の形状と構造は、置換される弁により決まる。一般的に、人工心臓弁の設計は、置換される弁の機能を再現しようとするものであり、通常、弁尖様の構造を含んでいる。このような構造は、動物の心臓弁組織や心膜組織といった動物組織から作られ、拒絶反応と石灰化を防ぐための処理が施されたバイオプロテーゼ、または、一般的に合成材料もしくは非生物材料のみで構成されている機械式人工心臓弁に使用されている。したがって、置換用の弁は、(自己)拡張可能なステント構造内に何らかの方法で取り付けられた弁部分を含む。通常、このような弁構造物が取り付けられているステントには、自己拡張型ステントおよびバルーン拡張型ステントの2種類がある。このような弁を送達装置、最終的には患者に装着するために、まず弁を折りたたむか圧着して周方向のサイズを小さくする必要がある。
【0009】
折りたたまれた人工弁は、患者の所望の移植部位、すなわち人工弁で置換される患者の心臓弁の弁輪またはその近傍に到達すると、人工弁が配置されて送達装置から解放され、完全な動作サイズに拡張される。バルーン拡張型弁では、一般的に弁全体が解放され、その後、弁ステント内に配置された拡張可能なバルーンによって拡張される。自己拡張型の弁では、通常、配置システムに抜去可能なシースが含まれており、シースを引き抜くと、ステントが自動的に拡張し始める。
【0010】
人工心臓弁が完全に機能するためには、すべての構成要素がそれぞれの役割を果たすことが重要である。まず、弁は、ステント支持体に適切に取り付けられている必要があり、そうでない場合は、弁が故障しやすくなり、循環系における弁の故障は、患者に重大な影響を与えることになる。一方で、ステント支持体は、完全に拡張して、心臓血管内での確実な固定を保証するものであることが求められる。
【0011】
また、病変した生体本来の心臓弁を人工心臓弁で置換して適切に固定することは、例えば、生体本来の心臓弁の石灰化などにより、複雑になることが多い。石灰化した弁組織は弁輪が不規則になっているため、このような弁輪に人工置換弁を確実に固定することは難しい。
【0012】
さらに、低侵襲手術のための配置システムへの人工心臓弁の装填は、その性質上、人工心臓弁を慎重に装填する必要があると同時に、配置システムにきっちり詰め込むために圧縮することが必須であるため、非常に困難である。
【0013】
経カテーテル送達法により、欠陥のある生体本来の心臓弁をより安全かつ低侵襲性で置換する方法が可能になっているが、移植された人工心臓弁と周囲の生体組織との間で漏れが生じることは、依然として繰り返し発生している問題である。低侵襲かつ経皮的な心臓弁置換術では、通常、病変した心臓弁や障害のある心臓弁を実際に除去しないため、脇漏れが生じることがある。より正確に言えば、置換用のステント付き人工心臓弁は、圧縮された状態で弁の部位に送達され、治療対象である弁の内側で動作可能な状態に拡張される。人工心臓弁のステント支持体の径方向の力によって、障害のある生体本来の弁尖が側壁に押し付けられる。多くの場合、障害のある生体本来の弁の弁尖が、ステント支持体と生体本来の弁との完全な適合の妨げになるため、弁周囲逆流(PVL)がよく起こる。その結果、弁の両側の圧力勾配の大きさにより、移植された人工心臓弁と障害のある生体本来の弁との間の隙間から血液が漏れる。
【0014】
以上のことから、治療対象である心臓への人工心臓弁の配置および固定が改善されること同時に、送達システムへの容易な装填と、配置システムから心臓血管内への人工心臓弁のスムーズな解放を保証することが絶えず求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の目的は、上記の要件を満たし、現在利用可能な人工心臓弁の欠点を克服した人工心臓弁を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、上記の目的およびその他の目的は、下記の人工心臓弁によって解決される。すなわち、圧縮状態から拡張状態へと拡張可能な人工心臓弁であって、近位端と、遠位端と、近位端から遠位端へと延びる長軸とを有する、拡張可能で概して管状のステント支持体;外面と、内面と、複数の弁尖と、長軸と、外周とを有する弁要素;および複数の封止要素を含み、前記管状のステント支持体が、内面と外面とを有すること、前記封止要素が、それぞれ間隔を空けて、互いに接することなく前記弁要素の外面に周方向に取り付けられており、拡張時には、各封止要素が、該弁要素の外面から径方向に突出する唇状要素を形成すること、さらに、前記封止要素が取り付けられている前記弁要素が、前記ステント支持体の内面に取り付けられていることを特徴とする人工心臓弁である。
【0017】
本発明の人工心臓弁により、より正確に言えば、弁要素の外面に封止要素が取り付けられ、該弁要素がステント支持体の内面に取り付けられているという特定の設計により、好都合な経カテーテル人工心臓弁が提供される。この人工心臓弁は、その配置システムにしっかりと圧縮して装填することができると同時に、該人工心臓弁と、障害、病変、機能喪失または機能不全を有する生体本来の弁組織との間の隙間を良好に封止することができる。
【0018】
請求項に記載され開示されている「唇状要素」は、封止要素、好ましくは扁平状の封止要素が、好ましくはその中央で、折り畳まれるなどして、この構成になるように形成された任意の形状を含むものであり、この折り畳まれるなどして形成された形状は、それぞれ概して自由に可動する上下に位置した2つの扁平状要素を形成するとともに、該2つの扁平状要素が共有している部分を介して、前記弁要素に取り付けられている。言い換えれば、前記封止要素は、前記弁要素に取り付けられたフラップのペアを形成するように、前記弁に取り付けられており、各ペアが「唇状部」を形成している。
【0019】
また、本発明において、前記封止要素は、それぞれ間隔を空けて配置されており、互いに接触していない、つまり、互いに「接して」いない。このように、前記封止要素は、前記弁要素の外周にわたって分散配置されている。
【0020】
本発明の人工心臓弁において、前記封止要素の唇形状の提供および配置により、その外面/外表面を大きくすることができる。
【0021】
また、前記弁要素の外面から、少なくとも部分的に前記ステント支持体の開放構造を貫通して突出する封止要素の特殊な形状により、前記人工心臓弁の治療部位への固定がより良好かつより強固に行われるため、前記人工心臓弁の不要な移動を防ぐことができる。これは特に、前記ステント支持体またはステントフレームの開放構造を貫通して突出する唇状をなす封止要素と、該ステント支持体またはステントフレームとの双方により、前記人工心臓弁と、該人工心臓弁が移植された血管壁との摩擦が増加することに起因する。その結果、自己拡張型のステント支持体またはステントフレームの径方向に作用する力が増強される。さらに、本発明の人工心臓弁の特定の構造、特に封止要素により、該人工心臓弁は、全体的な安定性が高く、グリップ性能も優れている。これは、本発明の人工心臓弁が移植された位置で目的とする適切な機能を発揮するための前提条件である。
【0022】
このように、本発明の人工心臓弁、特に封止要素の特定の設計により、例えば大動脈弁輪への固定がより良好に行われる。
【0023】
前記弁要素に配置され、取り付けられている封止要素は、つまり、言い換えれば、間隔を空けて間欠的/断続的に配置された輪状構造を形成しているので、前記弁要素において一つの基準線(周方向および長手方向)に設けられている材料が少なく、よって、本発明の人工心臓弁を、例えば配置カテーテルに容易に装填することができる。このように、前記弁要素上の封止要素は、迷路様パターンで分散配置されている。
【0024】
好ましい一実施形態において、本発明による人工心臓弁の封止要素は、ストリップの形態で、長さと幅を有し、かつ該封止要素は、その幅より前記弁要素の長軸に垂直な方向Pに長く延びて、該弁要素の外面に設けられている。
【0025】
この実施形態において、言い換えれば、ストリップとして形成されている前記封止要素は、(前記弁に取り付けられて唇状要素を形成する前は)実質的に長方形、楕円形または円形の形態を有していることが好ましく、それぞれ前記人工心臓弁の外周の一部にわたって延びているが、唇状をなす封止要素同士は接触していない。
【0026】
この文脈において、「複数のストリップ」、「ストリップ」、または「ストリップ」片という用語は、実質的に長方形状の要素であり、その一辺(すなわち「長さ」)が他辺(すなわち「幅」)よりも長いものを意味する。
【0027】
本発明による人工心臓弁の好ましい一実施形態において、前記封止要素は、前記弁要素の外周に沿って、それぞれ規則的または不規則的に間隔を空けて配置されている。
【0028】
この点において、「前記弁要素の外周に沿って、それぞれ規則的または不規則的に間隔を空けて配置されている」は、一方では、該弁要素上に配置され、取り付けられている複数の封止要素の間の距離が同じ(=規則的)になるか、それぞれ異なる(=不規則)ように、該封止要素が該弁要素の外周にわたって分散配置されていることを意味する。また、前記封止要素は、周方向の同一線上にそれぞれ規則的もしくは不規則的に間隔を空けて配置されていてもよく、かつ/またはそれぞれオフセットされた位置に配置されていてもよい。
【0029】
本発明による人工心臓弁の好ましい一実施形態において、前記封止要素は、前記弁要素の長軸に沿って、それぞれ規則的または不規則的に間隔を空けて配置されている。
【0030】
この点において、「前記弁要素の長軸に沿って、それぞれ規則的または不規則的に間隔を空けて配置されている」は、一方では、該弁要素上に配置され、取り付けられている複数の封止要素の間の距離が、該弁要素の長軸に関して同じ(=規則的)になるか、それぞれ異なる(=不規則)ように、該封止要素が該弁要素上に取り付けられ、分散配置されていることを意味する。また、前記封止要素は、長軸方向の同一線上にそれぞれ規則的もしくは不規則的に間隔を空けて配置されていてもよく、かつ/またはそれぞれオフセットされた位置に配置されていてもよい。
【0031】
本発明の一実施形態において、前記封止要素は、前記弁要素の外周に沿って、それぞれ規則的もしくは不規則的に間隔を空けて配置されていてもよく、かつ/または、前記弁要素の長軸に沿って、それぞれ規則的もしくは不規則的に間隔を空けて配置されていてもよい。
【0032】
本発明による人工心臓弁の好ましい一実施形態において、少なくとも2つの前記封止要素の長さおよび/または幅は同一または異なる。
【0033】
本発明において、前記封止要素の形状および/または寸法は必ずしもすべて同じでなくてもよい。したがって、各封止要素は、唇状要素を形成することができれば、それぞれ異なる形状であってもよく、かつ/または、各形状はそれぞれ異なる寸法であってもよい。
【0034】
好ましい一実施形態において、少なくとも2つの前記封止要素は、同じ形状および/または同じ寸法(長さ、幅)を有する。同じ形状および/もしくは同じ寸法を有する前記少なくとも2つの封止要素は、前記弁要素の周方向または長軸方向に配置されていてもよい。
【0035】
さらに、本発明による人工心臓弁の好ましい一実施形態において、前記弁要素の周方向の同一線上に配置されているすべての封止要素、および/または、前記弁要素の長軸方向の同一線上に配置されているすべての封止要素は、同じ形状および/または同じ寸法を有する。
【0036】
前述したように、本発明による人工心臓弁の好ましい一実施形態において、前記封止要素は、実質的に長方形状を有し、1~80mm、好ましくは1~20mmの範囲の長さを有し、1~20mm、好ましくは1~10mmの範囲の幅を有する。
【0037】
別の実施形態において、前記封止要素は、実質的に楕円形状または円形状を有し、その直径は、1mm~80mmの範囲、好ましくは1~20mmの範囲である。
【0038】
本発明による人工心臓弁の好ましい一実施形態において、前記封止要素は、その長さ方向が前記弁要素の外周に沿うように、該弁要素の外面に取り付けられている。
【0039】
前記弁要素の外面への前記封止要素の取り付けは、縫製、ステッチ、接着、ホチキス止めなどの任意の適切な取り付け手段によって行うことができる。
【0040】
したがって、本発明による人工心臓弁の好ましい一実施形態において、前記複数の封止要素は、前記弁要素の外面に縫い付けられている。
【0041】
本発明による人工心臓弁の好ましい一実施形態において、前記封止要素により形成されている唇状要素が、少なくとも部分的に、概して管状のステント支持体を貫通して突出することから、本発明の人工心臓弁を移植すると、前記封止要素が周囲の弁組織と接触して弁を封止し、弁周囲逆流を防ぐことができる。
【0042】
本発明による人工心臓弁の好ましい一実施形態において、前記ステント支持体は、相互に連結された実質的に菱形状の開放セル構造で構成された隣接する複数の列を含み、拡張時には、前記唇状要素は、少なくとも部分的に該セル構造を貫通して突出する。
【0043】
この実施形態において、前記唇状要素は、少なくとも部分的に前記ステント支持体の前記セル構造を貫通して突出し、周囲の弁組織と接触して封止する。
【0044】
本発明による人工心臓弁の好ましい一実施形態において、該人工心臓弁は、2~20個の封止要素、好ましくは2~15個の封止要素、より好ましくは2~10個の封止要素を含む。
【0045】
さらに、好ましい一実施形態において、前記人工心臓弁は、1つの外周線上に2~5個の封止要素、および/または1つの長軸線上に2~4個の封止要素を含む。
【0046】
本発明による人工心臓弁の好ましい一実施形態において、前記複数の封止要素は、互いに接していない複数の唇状要素から構成される列が複数形成されるように、前記弁要素の外面に配置されており、各列の封止要素は、該弁要素の外周に沿って、それぞれ距離Rの間隔を空けて配置されており、該列同士は、該弁要素の長軸に沿って、それぞれ距離Sの間隔を空けて配置されている。
【0047】
本発明による人工心臓弁の好ましい一実施形態において、該人工心臓弁は、前記弁要素の外面に配置された封止要素から構成される第1の列および第2の列を含み、該第1の列および該第2の列の各列の封止要素は、該弁要素の外周に沿って、それぞれ距離Rの間隔を空けて配置されており、該第1の列の封止要素は、該弁要素の長軸に沿って、該第2の列の封止要素からオフセットされた位置に配置されている。
【0048】
本発明による人工心臓弁の好ましい一実施形態において、該人工心臓弁は、前記弁要素の外面に配置された封止要素から構成される第1の列、第2の列、および第3の列を含み、該第1の列、該第2の列、および該第3の列の各列の封止要素が、該弁要素の外周に沿って、それぞれ距離Aの間隔を空けて配置されており、該第1の列の封止要素は、該弁要素の長軸に沿って、該第2の列および該第3の列の封止要素からオフセットされた位置に配置されている。
【0049】
前記人工心臓弁が、前記封止要素から構成される列を2列以上含む場合、該人工心臓弁の外面における各列の配置は、支持または置換を必要とする生体本来の弁または組織の性質に応じて決められるものであることに留意されたい。したがって、前記列は、前記人工心臓弁の中間部分に多く配置されていてもよく、近位端に多く配置されていてもよい。
【0050】
本発明による人工心臓弁の好ましい一実施形態において、前記封止要素は、生体組織もしくは生体適合性を有する合成材料を含むか、または生体組織もしくは生体適合性を有する合成材料からなる。
【0051】
前記生体組織または生体材料は、心膜組織であることが好ましく、生体適合性を有する前記合成材料は、ポリエステル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、超高分子量ポリエチレン(UHMPE)、およびこれらの混合物から選択されることが好ましい。
【0052】
本発明の人工心臓弁の好ましい一実施形態において、弁本体スカート部と複数の弁尖とから構成されている前記弁要素は、ブタ、ウシ、ウマ、または他の哺乳類の組織、例えば心膜組織などから選択される材料を含んでいてもよく、弁尖に沿って力を前記ステント支持体に効率的に分散させることができるように、縫製、溶接、成形または接着されている。また、前記弁本体は、合成樹脂または高分子材料を含んでいてもよい。
【0053】
本発明の人工心臓弁の好ましい一実施形態において、該人工心臓弁は、僧帽弁、三尖弁、肺動脈弁および大動脈弁から選択される生体本来の心臓弁の治療、置換または支持に使用することができる。
【0054】
本明細書でこれまで説明してきた特徴および以下に説明される特徴は、それぞれ明記した組み合わせだけでなく、他の異なる組み合わせまたは単独でも本発明の範囲に含まれる。したがって、本開示は、従属請求項に記載の特徴の任意の他の可能な組み合わせを有する他の実施形態にも関するものであると認識すべきである。例えば、請求項公開の目的上、多項従属請求項の形式が管轄権内で容認されている場合は、後続の従属請求項はいずれも、各従属請求項で参照されるすべての先行詞を有するすべての先行請求項に従属する多項従属請求項の形式で代替的に記載されているものとして解釈されるべきである(例えば、請求項1に直接従属する請求項はそれぞれ、先行するすべての請求項に従属するものとして代替的に解釈されるべきである)。多項従属請求項の形式が制限されている管轄権内では、後続の従属請求項はそれぞれ、各従属請求項に記載されている特定の請求項以外の、先行詞を有する先行請求項に従属する単一従属請求項形式で代替的に記載されているものとして解釈されるべきである。
【0055】
好ましい実施形態を図に示し、以下でさらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
各図は以下の通りである。
【0057】
図1図1は、例示的な人工心臓弁の弁要素の一部を示す正面図(1A)と、1つの封止要素を示した、若干拡大した側面図(1B)である。
【0058】
図2図2は、ステント支持体の内面に弁要素が取り付けられている、例示的な人工心臓弁を示した図である。左図および中央図は、封止要素から構成される列を3列有する実施形態を示した図であり、右図は、封止要素から構成される列を2列有する実施形態を示した図である。
【0059】
図3図3は、本発明による人工心臓弁の様々な実施形態の概略図であり、それぞれ、弁要素上の封止要素の分散配置パターンが異なる。
【発明を実施するための形態】
【0060】
本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を成す添付図面は、本発明の原理を説明し、関連分野の当業者が本発明を実施し使用できるようにする役割を果たすものである。ただし、添付図面は原寸に比例して描写したものではない。
【0061】
次に、本発明の具体的な実施形態について、図を参照しながら説明する。同じ参照番号は、同じ要素または機能的に類似した要素を示す。本明細書において、「遠位」または「遠位に」という用語は、心臓から遠い位置または心臓から遠ざかる方向を指し、「近位」または「近位に」という用語は、心臓に近い位置または心臓へと近づく方向を指す。以下の詳細な説明は、本質的に単なる例示に過ぎず、本発明自体または本発明の適用および使用を限定するものではない。本発明についての説明は、心臓弁の治療に沿って行うが、本発明は、心臓以外の弁を有する管腔内部位で有用であると考えられる場合にも利用することができる。例えば、本発明は、静脈弁にも適用することができる。さらに、上記の技術分野、背景、発明の概要、または以下の詳細な説明に記載されている、いかなる明示的または暗示的な理論による束縛も意図していない。
【0062】
図1では、人工心臓弁10の弁要素20が示されており、弁要素20は、外面21と、内面22と、複数の弁尖と、長軸24と、外周25とを有する。長軸24と外周25は、それぞれ点線で示されている。
【0063】
図1に示すように、弁要素20は、弁要素20の外面21に取り付けられた複数の封止要素30を含む。ここに示した実施形態において、封止要素30は、弁要素20の外面21に分散配置されている。2つの封止要素30が、長軸24の同一線上に間隔を空けて配置されており、また、別の2つの封止要素30が、外周または周方向25の同一線上に間隔を空けて配置されている。また、図1から分かるように、長軸24に沿って配置された封止要素30と、外周に沿って配置された封止要素30とは、間隔を空けて配置されている。
【0064】
言い換えれば、封止要素30は、外周25に沿って輪状をなす列を複数形成しており、各列は互いに間隔を空けて、隣接する列または次の列の封止要素30からオフセットされた位置に配置されている。
【0065】
図1Bによりさらに詳細に分かるように、この図に示した実施形態において、封止要素30は、長さ33および幅34を有する、長さ方向に長いストリップ32片の形態を有する。
【0066】
図1からも分かるように、ストリップ32は、その長さ33に沿ってほぼ中央で折り畳まれ、唇状要素31を形成している。このように、唇状要素31は、2つの可動ストリップ部から構成されており、共通部分または接合部分を介して弁要素に取り付けられている。図1に示した実施形態において、封止要素30は、弁要素20の外面21に縫い付けられている。
【0067】
なお、前記封止要素は、正確に中央で折り畳まれている必要はなく、接合部または接合線を介して弁要素20に取り付けられて、隣接する2つのフラップが形成されている限り、別の折り畳み方および別の寸法も採用できることに留意されたい。唇部、すなわちフラップの端部は自由に可動し、弁要素20をステント支持体に装着すると、該端部は該ステント支持体を貫通して突出する。
【0068】
このことは、図2においてより明確に分かる。本発明による人工心臓弁の例示的な一実施形態において、弁要素20は、ステント支持体12の内面16に取り付けられているが、図2では、明瞭性を期すために、弁要素20は描かれておらず、弁要素20に取り付けられている封止要素30のみが描かれている。封止要素30は、ステント支持体12を貫通して、より正確に言えばステント支持体12のメッシュの開口部を貫通して突出している。
【0069】
ステント支持体12は、概して管状の形態を有し、近位端13と、遠位端14と、近位端13から遠位端14まで延びる長軸15とを有し、長軸15は、図2の左側に示した実施形態において点線で示されている。ステント支持体12は、拡張可能であり、概して管状の形態を有することから、内面16と外面17とを有する。人工心臓弁の外面は、該人工心臓弁が治療対象である患者の心臓に配置されると、周囲の生体本来の壁または組織と接触し、一方で、弁要素20が取り付けられている内面116は、弁要素20を支持し、これにより、ステント支持体12内に血液用ルーメンが設けられる。
【0070】
図2から分かるように、ステント支持体12は、ワイヤ、好ましくはニチノール製のワイヤが交差して構成されたものであり、交差するワイヤは、概して菱形状のセル構造18を形成している。
【0071】
封止要素20により形成された唇状要素31は、セル構造18を貫通して部分的に突出している。この文脈において、かつ明細書全体を通して、「部分的」という用語は、ステント支持体12の構造、すなわち、ワイヤまたはワイヤ交差部により突出が阻止されているところでは、唇状要素31は突出しない、より正確に言えば突出できないことを意味するものである。
【0072】
図3は、本発明の人工心臓弁10の例示的な実施形態の概略図であり、弁要素20上の封止要素30の分散配置パターンの具体例を示している。図1に関して、封止要素30は、弁要素20の外面21に取り付けられているが、図の明瞭性を期すために、弁要素20は描かれていない。ステント支持体12は示されており、該ステント支持体に対する封止要素30の配置が示されている。
【0073】
左上に示した実施形態において、人工心臓弁10は、封止要素30から構成される列を2列、すなわち、第1の列30aと第2の列30bを含み、第2の列30bは、第1の列30aから近位方向の位置(すなわち、ステント支持体12の近位端13側に)に配置されている。第1の列30aの封止要素30は、弁要素20の外周25に沿って、それぞれ距離Rの間隔を空けて配置されている。第2の列30bの封止要素30は、第1の列30aの封止要素30からオフセットされた位置に配置されており、したがって、長軸24方向に、または長軸24に沿って見ると、第1の列30aの封止要素とは一直線上に配置されていない。さらに、第2の列30bの封止要素30は、長軸24方向に測定または観察すると、第1の列30の封止要素30と距離2の間隔を空けて配置されている。
【0074】
右上に示した実施形態においても、封止要素から構成される列が2列あるが、外周25に沿って配置された封止要素30間の距離Rは、左上に示した実施形態の封止要素30間の距離より短い。また、右上の実施形態では、列30aおよび列30bの2つの列は、弁要素20上の、近位端13からより近い位置に配置されている。
【0075】
左下に示した実施形態においては、封止要素30から構成される列が3列、すなわち列30c、列30dおよび列30eが設けられており、列30c、列30dおよび列30eの各列の封止要素30は、外周に沿って、それぞれ距離Aの間隔を空けて配置されている。列30dは、列30cに続いて、ステント支持体12の近位端13側に、一定の距離を置いて配置されており、列30eは、列30dに続いて、ステント支持体12の近位端13側に、一定の距離を置いて配置されている。図3の上半分に示した実施形態に関して、列30c、列30dおよび列30eの封止要素30は、それぞれ次の列または隣接する列の封止要素30からオフセットされた位置に配置されている。図3に示した実施形態において、封止要素30は、長軸に沿って見ると、それぞれの端部のみが重なっており、それぞれ長軸方向に距離Sの間隔を空けて配置されている。
【0076】
ただし、本発明において、封止要素の端部は必ずしも長軸方向に見て重なっている必要はないことに留意されたい。別の実施形態において、封止要素は、ステント支持体の近位端方向に並んだ別の列の封止要素と、末端同士が重ならないように配置されている。
【0077】
右下に示した実施形態においても、封止要素30から構成される列が2列、すなわち列30aおよび列30bが設けられており、やはり他の実施形態とは異なるパターンが示されている。
【0078】
本明細書に記載され開示されているすべての実施形態において、封止要素30の取り付け線と、ステント支持体を形成するワイヤの交差部とが一致するように、封止要素30を弁要素20の表面に配置できることに留意されたい。ただし、必ずしもこのような配置である必要はなく、封止要素30の分散配置は、任意の形態をとることができる。
【0079】
本発明の上述した特徴および利点ならびにその他の特徴および利点は、添付図面に示されている各実施形態の詳細な説明から明らかになるであろう。
図1
図2
図3
【国際調査報告】