(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-17
(54)【発明の名称】グリコシル化ApoJに特異的な抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220107BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20220107BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220107BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220107BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220107BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220107BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220107BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220107BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/18 ZNA
C07K16/46
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
G01N33/53 V
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021523276
(86)(22)【出願日】2019-10-23
(85)【翻訳文提出日】2021-06-18
(86)【国際出願番号】 EP2019078855
(87)【国際公開番号】W WO2020083979
(87)【国際公開日】2020-04-30
(32)【優先日】2018-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】521173041
【氏名又は名称】グリカルディアル ダイアグノスティクス エセ. エレ.
【氏名又は名称原語表記】GLYCARDIAL DIAGNOSTICS, S.L.
(71)【出願人】
【識別番号】518360014
【氏名又は名称】フンダシオ インスティトゥト デ レセルカ デ ロスピタル デ ラ サンタ クレウ イ サン パウ
【氏名又は名称原語表記】FUNDACIO INSTITUT DE RECERCA DE L’HOSPITAL DE LA SANTA CREU I SANT PAU
(71)【出願人】
【識別番号】508157886
【氏名又は名称】コンセジョ スペリオール デ インベスティガショネス シエンティフィカス
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】バディモン マエストロ、リナ
(72)【発明者】
【氏名】クベド ラフォルス、ジュディット
(72)【発明者】
【氏名】パドロ カプマニ、テレサ
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA57X
4B065AA57Y
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AA83X
4B065AA83Y
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA50
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、ApoJタンパク質内の特定のグリコシル化部位に対する新規抗体、ならびに虚血の診断および予後予測、および虚血性イベントの再発リスクの判定におけるそれらの適用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコシル化ApoJに特異的に結合するが、非グリコシル化ApoJには結合しない抗体であって、
(i)前記抗体が、ApoJ内のN-グリコシル化部位を含むエピトープを特異的に認識し、前記グリコシル化部位が、NCBIデータベースにアクセッション番号NP_001822.3で登録されているものとして定義されるApoJ前駆体配列に関して、86番目、103番目、145番目、291番目、317番目、354番目または374番目のAsn残基からなる群から選択されるAsn残基を含むものであるか、または
(ii)前記抗体が、配列番号118、119、120、121、122、123または124からなる群から選択されるペプチドを特異的に認識するか、または該ペプチドを用いて作製されたものであって、該ペプチドは、配列番号118の5番目、配列番号119の5番目、配列番号120の5a番目、配列番号121の6番目、配列番号122の5番目、配列番号123の5番目、または配列番号124の5番目のAsn残基がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されているものである
ことを特徴とする抗体。
【請求項2】
前記グリコシル化ApoJが、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基を含有するグリコシル化ApoJであるか、またはN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基およびシアル酸残基を含有するグリコシル化ApoJである、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか一項に記載の抗体であって、
a)配列番号1、6、11、16、21、26、31、36、41のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域1(VL-CDR1)またはその機能的に等価な改変体;
b)アミノ酸配列QAS、KAS、RAS、SAS、DASのいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域2(VL-CDR2)、またはその機能的に等価な改変体;
c)配列番号2、7、12、17、22、27、32、37、42のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域3(VL-CDR3)またはその機能的に等価な改変体;
d)配列番号3、8、13、18、23、28、33、38、43のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域1(VH-CDR1)またはその機能的に等価な改変体;
e)配列番号4、9、14、19、24、29、34、39、44のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域2(VH-CDR2)またはその機能的に等価な改変体;あるいは
f)配列番号5、10、15、20、25、30、35、40、45のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域3(VH-CDR3)またはその機能的に等価な改変体
を含む、抗体。
【請求項4】
請求項3に記載の抗体であって、
(i)前記VL-CDR1が配列番号6で示されるアミノ酸配列を含み、前記VL-CDR2が前記アミノ酸配列KASを含み、かつ前記VL-CDR3が配列番号7で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(ii)前記VL-CDR1が配列番号1で示されるアミノ酸配列を含み、前記VL-CDR2が前記アミノ酸配列QASを含み、かつ前記VL-CDR3が配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(iii)前記VL-CDR1が配列番号11で示されるアミノ酸配列を含み、前記VL-CDR2が前記アミノ酸配列RASを含み、かつ前記VL-CDR3が配列番号12で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(iii)前記VL-CDR1が配列番号11で示されるアミノ酸配列を含み、前記VL-CDR2が前記アミノ酸配列RASを含み、かつ前記VL-CDR3が配列番号12で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(iv)前記VL-CDR1が配列番号16で示されるアミノ酸配列を含み、前記VL-CDR2が前記アミノ酸配列QASを含み、かつ前記VL-CDR3が配列番号17で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(v)前記VL-CDR1が配列番号21で示されるアミノ酸配列を含み、前記VL-CDR2が前記アミノ酸配列SASを含み、かつ前記VL-CDR3が配列番号22で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(vi)前記VL-CDR1が配列番号26で示されるアミノ酸配列を含み、前記VL-CDR2が前記アミノ酸配列DASを含み、かつ前記VL-CDR3が配列番号27で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(vii)前記VL-CDR1が配列番号31で示されるアミノ酸配列を含み、前記VL-CDR2が前記アミノ酸配列SASを含み、かつ前記VL-CDR3が配列番号32で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(viii)前記VL-CDR1が配列番号36で示されるアミノ酸配列を含み、前記VL-CDR2が前記アミノ酸配列KASを含み、かつ前記VL-CDR3が配列番号37で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(iX)前記VL-CDR1が配列番号41で示されるアミノ酸配列を含み、前記VL-CDR2が前記アミノ酸配列KASを含み、かつ前記VL-CDR3が配列番号42で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(x)前記VH-CDR1が配列番号8で示されるアミノ酸配列を含み、前記VH-CDR2が配列番号9で示されるアミノ酸配列を含み、かつ前記VH-CDR3が配列番号10で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(xi)前記VH-CDR1が配列番号3で示されるアミノ酸配列を含み、前記VH-CDR2が配列番号4で示されるアミノ酸配列を含み、かつ前記VH-CDR3が配列番号5で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(xii)前記VH-CDR1が配列番号13で示されるアミノ酸配列を含み、前記VH-CDR2が配列番号14で示されるアミノ酸配列を含み、かつ前記VH-CDR3が配列番号15で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(xiii)前記VH-CDR1が配列番号18で示されるアミノ酸配列を含み、前記VH-CDR2が配列番号19で示されるアミノ酸配列を含み、かつ前記VH-CDR3が配列番号20で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(xiv)前記VH-CDR1が配列番号23で示されるアミノ酸配列を含み、前記VH-CDR2が配列番号24で示されるアミノ酸配列を含み、かつ前記VH-CDR3が配列番号25で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(xv)VH-CDR1が配列番号28で示されるアミノ酸配列を含み、前記VH-CDR2が配列番号29で示されるアミノ酸配列を含み、かつ前記VH-CDR3が配列番号30で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(xvi)前記VH-CDR1が配列番号33で示されるアミノ酸配列を含み、前記VH-CDR2が配列番号34で示されるアミノ酸配列を含み、かつ前記VH-CDR3が配列番号35で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(xvii)前記VH-CDR1が配列番号38で示されるアミノ酸配列を含み、前記VH-CDR2が配列番号39で示されるアミノ酸配列を含み、かつ前記VH-CDR3が配列番号40で示されるアミノ酸配列を含むこと、または
(xviii)前記VH-CDR1が配列番号43で示されるアミノ酸配列を含み、前記VH-CDR2が配列番号44で示されるアミノ酸配列を含み、かつ前記VH-CDR3が配列番号45で示されるアミノ酸配列を含むこと
を特徴とする、抗体。
【請求項5】
請求項4に記載の抗体であって、
(i)前記VL-CDR1が配列番号6で示されるアミノ酸配列を含み、前記VL-CDR2が前記アミノ酸配列KASを含み、前記VL-CDR3が配列番号7で示されるアミノ酸配列を含み、前記VH-CDR1が配列番号8で示されるアミノ酸配列を含み、前記VH-CDR2が配列番号9で示されるアミノ酸配列を含み、かつ前記VH-CDR3が配列番号10で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(ii)前記VL-CDR1が配列番号1で示されるアミノ酸配列を含み、前記VL-CDR2が前記アミノ酸配列QASを含み、前記VL-CDR3が配列番号2で示されるアミノ酸配列を含み、前記VH-CDR1が配列番号3で示されるアミノ酸配列を含み、前記VH-CDR2が配列番号4で示されるアミノ酸配列を含み、かつ前記VH-CDR3が配列番号5で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(iii)前記VL-CDR1が配列番号1で示されるアミノ酸配列を含み、前記VL-CDR2が前記アミノ酸配列RASを含み、前記VL-CDR3が配列番号12で示されるアミノ酸配列を含み、前記VH-CDR1が配列番号13で示されるアミノ酸配列を含み、前記VH-CDR2が配列番号14で示されるアミノ酸配列を含み、かつ前記VH-CDR3が配列番号15で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(iv)前記VL-CDR1が配列番号16で示されるアミノ酸配列を含み、前記VL-CDR2が前記アミノ酸配列QASを含み、前記VL-CDR3が配列番号17で示されるアミノ酸配列を含み、前記VH-CDR1が配列番号18で示されるアミノ酸配列を含み、前記VH-CDR2が配列番号19で示されるアミノ酸配列を含み、かつ前記VH-CDR3が配列番号20で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(v)前記VL-CDR1が配列番号21で示されるアミノ酸配列を含み、前記VL-CDR2が前記アミノ酸配列SASを含み、前記VL-CDR3が配列番号22で示されるアミノ酸配列を含み、前記VH-CDR1が配列番号23で示されるアミノ酸配列を含み、前記VH-CDR2が配列番号24で示されるアミノ酸配列を含み、かつ前記VH-CDR3が配列番号25で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(vi)前記VL-CDR1が配列番号26で示されるアミノ酸配列を含み、前記VL-CDR2が前記アミノ酸配列DASを含み、前記VL-CDR3が配列番号27で示されるアミノ酸配列を含み、前記VH-CDR1が配列番号28で示されるアミノ酸配列を含み、前記VH-CDR2が配列番号29で示されるアミノ酸配列を含み、かつ前記VH-CDR3が配列番号30で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(vii)前記VL-CDR1が配列番号31で示されるアミノ酸配列を含み、前記VL-CDR2が前記アミノ酸配列SASを含み、前記VL-CDR3が配列番号32で示されるアミノ酸配列を含み、前記VH-CDR1が配列番号33で示されるアミノ酸配列を含み、前記VH-CDR2が配列番号34で示されるアミノ酸配列を含み、かつ前記VH-CDR3が配列番号35で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(viii)前記VL-CDR1が配列番号36で示されるアミノ酸配列を含み、前記VL-CDR2が前記アミノ酸配列KASを含み、前記VL-CDR3が配列番号37で示されるアミノ酸配列を含み、前記VH-CDR1が配列番号38で示されるアミノ酸配列を含み、前記VH-CDR2が配列番号39で示されるアミノ酸配列を含み、かつ前記VH-CDR3が配列番号40で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(ix)前記VL-CDR1が配列番号41で示されるアミノ酸配列を含み、前記VL-CDR2が前記アミノ酸配列KASを含み、前記VL-CDR3が配列番号42で示されるアミノ酸配列を含み、前記VH-CDR1が配列番号43で示されるアミノ酸配列を含み、前記VH-CDR2が配列番号44で示されるアミノ酸配列を含み、かつ前記VH-CDR3が配列番号45で示されるアミノ酸配列を含むこと
を特徴とする、抗体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の抗体であって、
(i)配列番号46、54、62、70、78、86、94、102または110のいずれか1つで示されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一である、軽鎖フレームワーク1(VL-FR1)領域のアミノ酸配列、
(ii)配列番号47、55、63、71、79、87、95、103または111のいずれか1つで示されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一である、軽鎖フレームワーク2(VL-FR2)領域のアミノ酸配列、
(iii)配列番号48、56、64、72、80、88、96、104または112のいずれか1つで示されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一である、軽鎖フレームワーク3(VL-FR3)領域のアミノ酸配列、および
(iv)配列番号49、57、65、73、81、89、97、105または113のいずれか1つで示されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一である、軽鎖フレームワーク4(VL-FR4)領域のアミノ酸配列
の1つ以上をさらに含む、抗体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体であって、
(i)配列番号50、58、66、74、82、90、98、106または114のいずれか1つで示されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一である、重鎖フレームワーク1(VH-FR1)領域のアミノ酸配列、
(ii)配列番号51、59、67、75、83、91、99、107または115のいずれか1つで示されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一である、重鎖フレームワーク2(VH-FR2)領域のアミノ酸配列、
(iii)配列番号52、60、68、76、84、92、100、108または116のいずれか1つで示されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一である、重鎖フレームワーク3(VH-FR3)領域のアミノ酸配列、および
(iv)配列番号53、61、69、77、85、93、101、109または117のいずれか1つで示されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一である、重鎖フレームワーク4(VH-FR4)領域のアミノ酸配列
の1つ以上をさらに含む、抗体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体であって、
i)配列番号125、126、127、128、129、130、131、132または133のいずれか1つで示されるアミノ酸配列によって定義される軽鎖ドメイン、および/または
ii)配列番号134、135、136、137、138、139、140、141または142のいずれかで示されるアミノ酸配列によって定義される重鎖ドメイン
を含む、抗体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の抗体であって、各抗体の前記それぞれのVL-FWR1領域、VL-CDR1領域、VL-FWR2領域、VL-CDR2領域、VL-FWR3領域、VL-CDR3領域、VL-FWR4領域、VH-FWR1領域、VH-CDR1領域、VH-FWR2領域、VH-CDR2領域、VH-FWR3領域、VH-CDR3領域およびVH-FWR4領域が、第1表に示されるアミノ酸配列を含む、抗体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体であって、ヒト化または超ヒト化された、ヒト抗体フレームワーク領域に由来する少なくとも1つのフレームワーク領域を含む、抗体。
【請求項11】
前記抗体が、Fab、F(ab)
2、単一ドメイン抗体、単鎖可変フラグメント(scFv)、またはナノボディである、請求項1~10のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項12】
前記抗体が、検出可能な標識と結合している、請求項1~11のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項13】
前記標識が、その物理的、化学的、電気的または磁気的特性の少なくとも1つの変化によって検出され得る、請求項12に記載の抗体。
【請求項14】
ポリヌクレオチドであって、
(i)請求項1~11のいずれか一項に記載の抗体をコードするポリヌクレオチドであって、前記抗体が、単一ドメイン抗体、単鎖可変フラグメント(scFv)、またはナノボディである、ポリヌクレオチド、
(ii)第1表に記載の重鎖可変領域をコードするポリヌクレオチド、
(iii)第1表に記載の軽鎖可変領域をコードするポリヌクレオチド、および
(iv)第1表に記載の軽鎖可変領域および第1表に記載の重鎖可変領域をコードする多シストロン性ポリペプチド
からなる群から選択される、ポリヌクレオチド。
【請求項15】
請求項14に記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
【請求項16】
請求項15のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドまたは請求項17に記載の発現ベクターを含む、宿主細胞。
【請求項17】
少なくとも2つの請求項1~13のいずれか一項に記載の抗体を含む、組成物。
【請求項18】
前記抗体の1つがAg2G-17抗体である、請求項16に記載の組成物。
【請求項19】
(i) Ag2G-17抗体およびAg6G-1抗体、
(ii) Ag2G-17抗体およびAg6G-11抗体、
(iii) Ag2G-17抗体およびAg7G-19抗体、
(iv) Ag2G-17抗体およびAg1G-11抗体、
(v) Ag2G-17抗体およびAg7G-17抗体、
(vi) Ag2G-17抗体およびAg4G-6抗体、
(vii) Ag2G-17抗体およびAg3G-4抗体、または
(viii)Ag2G-17抗体およびAg5G-17抗体
を含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
試料中のグリコシル化ApoJを特定するための方法であって、
(i)前記試料と、請求項1~13のいずれか一項に記載の抗体または請求項17~19のいずれか一項に記載の組成物とを、前記抗体と前記試料中に存在するグリコシル化ApoJとの間の複合体の形成に適した条件下で接触させる工程と、
(ii)工程(i)で形成された複合体の量を特定する工程と
を含む、方法。
【請求項21】
工程(ii)における前記複合体の特定が、抗ApoJ抗体を用いて実施される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
工程(i)で使用される前記抗体または工程(i)で使用される前記組成物中の前記抗体が固定化されている、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
被験体における虚血または虚血性組織損傷の診断のための方法であって、請求項1~13のいずれか一項に記載の抗体、請求項17~19に記載の組成物を使用するか、または請求項20~22のいずれか一項に記載の方法を使用して、前記被験体の試料におけるグリコシル化ApoJのレベルを決定する工程を含み、ここで、グリコシル化ApoJのレベルが基準値に対して低下していることが、前記患者が虚血または虚血性組織損傷を罹患していることを示すことを特徴とする、方法。
【請求項24】
前記虚血が心筋虚血である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記心筋虚血が、急性心筋虚血または微小血管性狭心症である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記患者が虚血性イベントを罹患している疑いがある、請求項23~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記決定が、前記疑われた虚血性イベントの発症から最初の6時間以内に、少なくとも1つの壊死マーカーのレベルが上昇する前に、および/または前記疑われた虚血性イベントに対して前記患者が任意の治療を受ける前に実施される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
虚血性イベントを罹患した患者における虚血の進行を予測するための、または虚血性イベントを罹患した患者の予後を判定するための方法であって、請求項1~13のいずれか一項に記載の抗体、請求項17~19に記載の組成物を使用するか、または請求項20~22のいずれか一項に記載の方法を使用して、前記患者の試料におけるグリコシル化ApoJのレベルを決定する工程を含み、ここで、グリコシル化ApoJのレベルが基準値に対して低下していることが、前記虚血が進行していること、または前記患者の予後不良を示すことを特徴とする、方法。
【請求項29】
前記虚血性イベントが心筋虚血性イベントである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記心筋虚血性イベントがST上昇型心筋梗塞である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記患者の予後を、6ヶ月再発のリスク、院内死亡のリスク、または6ヶ月死亡のリスクとして判定することを特徴とする、請求項29または30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
安定冠動脈疾患に罹患している患者が虚血性イベントを再発するリスクを判定するための方法であって、請求項1~13のいずれか一項に記載の抗体、請求項17~19に記載の組成物を使用するか、または請求項20~22のいずれか一項に記載の方法を使用して、前記患者の試料におけるグリコシル化ApoJのレベルを決定する工程を含み、ここで、グリコシル化ApoJのレベルが基準値に対して低下していることが、前記患者が虚血性イベントを再発するリスクが高まっていることを示すことを特徴とする、方法。
【請求項33】
安定冠動脈疾患に罹患している前記患者が、該安定冠動脈疾患の前に急性冠症候群に罹患していたことを特徴とする、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記再発性の虚血性イベントが、急性冠症候群、脳卒中、または一過性虚血性イベントである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
患者における虚血または虚血性組織損傷の診断のための、虚血性イベントを罹患した患者における虚血の進行を判定するための、虚血性イベントを罹患した患者の予後予測のための、または安定冠動脈疾患に罹患している患者が虚血性イベントを再発するリスクを判定するための、請求項1~13のいずれか一項に記載の抗体または請求項17~19のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医学の分野に包含される。具体的には、本発明は、グリコシル化ApoJに特異的に結合する抗体、ならびに虚血の診断および予後予測におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
急性心筋梗塞(AMI)は、アテローム血栓症の最も頻度の高い臨床症状の1つであり、世界中の死亡および障害の主要原因の1つである。早期血行再建術の重要性および高い死亡リスクのために、早期診断は非常に重要である。このような背景から、バイオマーカーは、AMIが疑われる患者の診断、トリアージ、リスク層別化、および管理において、臨床評価および12誘導心電図(ECG)を補完する重要なツールとして注目されている。
【0003】
タンパク質は、病状の進行の種々の段階に直接関与している可能性があるため、バイオマーカー探索の優れた標的となる。したがって、現在までに提案されている心血管疾患(CVD)の進行および臨床イベントの提示に関するバイオマーカーのほとんどは、特に脂質代謝(ApoA-I)、炎症(CRP)、細胞壊死(トロポニン、CK-MBおよびミオグロビン)または心機能(NT-proBNP)など、疾患発症の種々の段階に関与するタンパク質である。しかしながら、急性冠症候群(ACS)の診断および管理は、臨床評価、心電図所見、および唯一認められたバイオマーカーであるトロポニン値に基づいて行われている。このプロトコルの適用にはいくつかの限界があり、心筋虚血患者の管理アルゴリズムを改善するためには、新たなバイオマーカーの探索が不可欠である。心筋トロポニン(cTn)は、その構造的役割から、不可逆的な細胞損傷の優れたマーカーである。しかしながら、cTnは、本格的な壊死に進行する前に虚血性イベントを検出することができない。高感度cTnアッセイ(hs-cTn)は、最小量の循環cTnを検出可能であり、このイベントが虚血期に関連していることが示唆されているにもかかわらず、心筋梗塞(MI)のブタモデルにおける最近の研究では、早期cTn上昇が心筋細胞アポトーシスと関連していることが明らかになり、cTnの放出には何らかの細胞死が必要であることが示唆されている。さらに、現行のガイドラインでは、急性胸痛患者の適切なトリアージを行うためには、hs-cTnの連続測定を行う必要性が強調されている。AMIの早期には、クラスタリンとしても知られるアポリポタンパク質J(ApoJ)のグリコシル化プロファイルの変化が検出可能であると言われている。このことから、グリコシル化ApoJは、AMIの有望なバイオマーカーとして提案されている(Cubedo J.ら、Journal of Proteome Research 2011;10:211~20)。
【0004】
このような背景から、虚血の初期から虚血性イベントをマッピングできる虚血に特異的なバイオマーカーを同定することは、急性虚血性イベントの最新診断アルゴリズムを改善するために非常に重要である。
【発明の概要】
【0005】
本発明の著者らは、驚くべきことに、ApoJタンパク質内の特定のグリコシル化部位に対する特異的モノクローナル抗体を用いて、グリコシル化ApoJタンパク質の全身レベルを決定することにより、虚血の診断および予後予測、ならびに虚血性イベントの再発リスクを判定するための新たなツールを見出した。意外なことに、本明細書の実施例に示されるように、ApoJ内の種々のグリコシル化部位を標的とするモノクローナル抗体は、ApoJ内に存在するN-グリカンを特異的に認識するレクチンよりも、虚血の存在を識別する能力が向上している。高度にグリコシル化されたタンパク質は、不十分な親和性および低い特異性によって制限されるため、mAb作製にとって典型的に困難な標的であることが一般に知られているので、これらの結果は予想外である。
【0006】
したがって、第一の態様において、本発明は、グリコシル化ApoJに特異的に結合するが、非グリコシル化ApoJには結合しない抗体に関し、
(i)上記抗体が、ApoJ内のN-グリコシル化部位を含むエピトープを特異的に認識し、上記グリコシル化部位が、NCBIデータベースにアクセッション番号NP_001822.3で登録されているものとして定義されるApoJ前駆体配列に関して、86番目、103番目、145番目、291番目、317番目、354番目または374番目のAsn残基からなる群から選択されるAsn残基を含むものであるか、または
(ii)上記抗体が、配列番号118、119、120、121、122、123または124からなる群から選択されるペプチドを特異的に認識するか、またはそのペプチドを用いて作製されたものであって、上記ペプチドは、配列番号118の5番目、配列番号119の5番目、配列番号120の5a番目、配列番号121の6番目、配列番号122の5番目、配列番号123の5番目、または配列番号124の5番目のAsn残基がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されているものであることを特徴とする。
【0007】
第二の態様において、本発明は、本発明の抗体をコードするポリヌクレオチド、ならびにベクターおよび宿主細胞に関する。
【0008】
第三の態様において、本発明は、本発明の第一の態様において定義される少なくとも2つの抗体を含む組成物に関する。
【0009】
第四の態様において、本発明は、以下の工程を含む、試料中のグリコシル化ApoJを特定するための方法に関する:
(i)上記試料と、本発明の第一の態様による抗体または本発明の第三の態様による組成物とを、上記抗体と上記試料中に存在するグリコシル化ApoJとの間の複合体の形成に適した条件下で接触させる工程と、
(ii)工程(i)で形成された複合体の量を特定する工程。
【0010】
第五の態様において、本発明は、被験体における虚血または虚血性組織損傷の診断のための方法に関し、該方法は、本発明の第一の態様で定義された抗体、本発明の第三の態様による組成物を使用するか、または本発明の第四の態様で定義された方法を用いて、グリコシル化ApoJのレベルを上記被験体の試料において決定する工程を含み、ここで、グリコシル化ApoJのレベルが基準値に対して低下していることが、患者が虚血または虚血性組織損傷を罹患していることを示すことを特徴とする。
【0011】
第六の態様において、本発明は、虚血性イベントを罹患した患者における虚血の進行を予測するための、または虚血性イベントを罹患した患者の予後を判定するための方法に関し、該方法は、本発明の第一の態様で定義された抗体、本発明の第三の態様による組成物を使用するか、または本発明の第四の態様で定義された方法を用いて、上記患者の試料におけるグリコシル化ApoJのレベルを決定する工程を含み、ここで、グリコシル化ApoJのレベルが基準値に対して低下していることが、虚血が進行していること、または患者の予後不良を示すことを特徴とする。
【0012】
第七の態様において、本発明は、安定冠動脈疾患に罹患している患者が虚血性イベントを再発するリスクを判定するための方法に関し、該方法は、本発明の第一の態様で定義された抗体、本発明の第三の態様による組成物を使用するか、または本発明の第四の態様で定義された方法を使用して、上記患者の試料におけるグリコシル化ApoJのレベルを決定する工程を含み、ここで、グリコシル化ApoJのレベルが基準値に対して低下していることが、患者が虚血性イベントを再発するリスクが高まっていることを示すことを特徴とする。
【0013】
第八の態様において、本発明は、患者の虚血または虚血性組織損傷の診断のための、虚血性イベントを罹患した患者における虚血の進行を判定するための、虚血性イベントを罹患した患者の予後予測のための、または安定冠動脈疾患の患者が虚血性イベントを再発するリスクを判定するための、本発明の第一の態様のいずれかによる抗体の使用、または本発明の第三の態様による組成物の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】シグナルペプチド(アミノ酸1~22)に続いて、β鎖(アミノ酸23~227)およびα鎖(アミノ酸228~449)を示すApoJタンパク質配列である。グルコサミン(GlcNAc)残基を有するApoJタンパク質配列の7つの異なるN-グリコシル化部位(86、103、145、291、317、354および374)に対するモノクローナル抗体を開発した。
【
図2】7つのApoJ-GlcNAcグリコシル化部位に対する特異的モノクローナル抗体を開発するために用いた方法論的アプローチを示す概略図である。5個の標的部位については各1個のクローン、2個の標的部位については各2個のクローンの、9個のクローンが作製された。
【
図3】ApoJ-GlcNAc総レベルおよび種々のMAbsを用いた検出レベルである。棒グラフ(平均±SEM)は、総ApoJ-GlcNAcレベルを検出するレクチンベースのイムノアッセイを用いて測定した場合(A)、および各々独立したApoJ-GlcNAcグリコシル化残基を標的とする特異的抗体を用いて測定した場合(B~J)の、健常対照および虚血性前AMI患者の血清試料中のApoJ-GlcNAcレベルの強度(任意単位(AU)の光学密度(OD))を示す図である。特に、グリコシル化残基2に対するMAb(クローンAg2G-17)およびグリコシル化残基6に対するMAb(クローンAg6G-1)を用いたApoJ-GlcNAcの検出は、虚血早期のAMI患者におけるApoJ-GlcNAcレベルの最も強い低下を示した。
【
図4】健常対照および虚血性前AMI患者の血清試料において、総ApoJ-GlcNAcレベル(ApoJ-GlcNAc総レベル)を検出するレクチンベースのイムノアッセイを用いた場合、および各々独立したApoJ-GlcNAcのグリコシル化残基を標的とする特異的抗体を用いた場合の、心筋虚血で測定されたApoJ-GlcNAcレベルの低下のパーセンテージである。
【
図5】MAbsの組み合わせのC統計量ROC解析結果である。ROC曲線により、虚血の検出に高い識別能力を有する、種々のApoJ-GlcNAcグリコシル化残基を検出するためのMAbsの組み合わせを示した。
【
図6】GlcNAcグリコシル化ApoJを標的とする特異的抗体Ag2G17およびAg6G11のドットブロット結合アッセイであり、ヒトの血漿および血清から精製されたApoJタンパク質に結合するが、アルブミンおよびトランスフェリンなどの他の高グリコシル化タンパク質には結合しない抗体の特異性を示した。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の著者らは、ApoJ内のグリコシル化部位の各々に対する特異的モノクローナル抗体を用いたタンパク質ApoJのグリコシル化パターンの同定に基づいて、虚血の診断および予後予測のための新たな方法論をここに開示する。
【0016】
特に定義のない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書および本発明の他のすべての態様において提供される定義は、本発明全体に等しく適用可能である。
【0017】
抗体
第一の態様において、本発明は、グリコシル化ApoJに特異的に結合するが、非グリコシル化ApoJには結合しない抗体に関し、
(i)上記抗体が、ApoJ内のN-グリコシル化部位を含むエピトープを特異的に認識し、上記グリコシル化部位が、NCBIデータベースにアクセッション番号NP_001822.3で登録されているものとして定義されるApoJ前駆体配列に関して、86番目、103番目、145番目、291番目、317番目、354番目または374番目のAsn残基からなる群から選択されるAsn残基を含むものであるか、または
(ii)上記抗体が、配列番号118、119、120、121、122、123もしくは124からなる群から選択されるペプチドを特異的に認識するか、またはそのペプチドを用いて作製されたものであって、上記ペプチドは、配列番号118の5番目、配列番号119の5番目、配列番号120の5a番目、配列番号121の6番目、配列番号122の5番目、配列番号123の5番目、もしくは配列番号124の5番目のAsn残基がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されているものであることを特徴とする。
【0018】
用語「抗体」とは、本明細書中で使用される場合、免疫グロブリン分子、または本発明のいくつかの実施形態によれば、免疫グロブリン分子のフラグメントであって、分子(「抗原」)のエピトープに特異的に結合する能力を有するものをいう。天然に存在する抗体は、通常、少なくとも2つの重(H)鎖および少なくとも2つの軽(L)鎖から構成される四量体を典型的には包含する。各重鎖は、重鎖可変ドメイン(本明細書ではVHと略す)および通常は3つのドメイン(CH1、CH2およびCH3)から構成される重鎖定常ドメインから構成される。重鎖は、IgG(IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4のサブタイプ)を包含する任意のアイソタイプのものであり得る。各軽鎖は、軽鎖可変ドメイン(本明細書ではVLと略す)および軽鎖定常ドメイン(CL)から構成される。軽鎖はカッパ鎖およびラムダ鎖を包含する。重鎖および軽鎖の可変ドメインは、典型的には、抗原の認識を担っており、一方、重鎖および軽鎖の定常ドメインは、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)および古典的補体系の第一成分(C1q)などの宿主の組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介し得る。VHドメインおよびVLドメインは、「相補性決定領域」と呼ばれる超可変ドメインにさらに細分され得、これらのドメインには、「フレームワーク領域」(FR)と呼ばれる、より保存された配列のドメインが散在している。各VHおよびVLは、3つのCDRドメインおよび4つのFRドメインから構成され、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4の順で配列されている。重鎖および軽鎖の可変ドメインは、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。特に重要なのは、自然界に存在し得るものとは異なる物理的環境下で存在するように「単離」されたか、あるいはアミノ酸配列が天然に存在する抗体とは異なるように改変された、抗体およびそれらのエピトープ結合フラグメントである。
【0019】
用語「抗体」とは、1つ以上のCDR領域を保持するモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体の全体、あるいはそれらのフラグメントを包含し、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、および非ヒト由来の抗体を包含する。
【0020】
「モノクローナル抗体」とは、単一の部位または抗原「決定基」に対する均一で高度に特異的な抗体集団である。「ポリクローナル抗体」は、種々の抗原決定基に対する不均一な抗体集団を包含する。
【0021】
特定の実施形態において、本発明の抗体は、非ヒト由来の抗体、好ましくはマウス由来の抗体である。好ましい実施形態において、本発明の抗体は、モノクローナル抗体である。別の特定の実施形態において、本発明の抗体は、ポリクローナル抗体である。
【0022】
好ましい実施形態において、本発明の抗体は、ヒト-ウサギキメラ抗体である。さらに好ましい実施形態において、ヒト-ウサギキメラ抗体は、ヒト定常ドメイン(CκおよびCH1)に連結されたウサギ可変ドメイン(Vλ、Vκ、およびVH)、特に、ヒトIgG1のヒトCH1に融合させたウサギVHドメインおよびヒトCκに融合させたウサギVλ/Vκドメインを含む。
【0023】
抗体の基本構造単位が四量体を含むことは周知である。各四量体は、軽鎖(25KDa)および重鎖(50~75KDa)でそれぞれ構成される2つの同一のポリペプチド鎖のペアで構成されている。各鎖のアミノ末端領域には、抗原認識に関与する約100~110個またはそれ以上のアミノ酸からなる可変領域が含まれる。各鎖のカルボキシ末端領域には、エフェクター機能を媒介する定常領域が含まれる。軽鎖および重鎖の各ペアの可変領域は、抗体の結合部位を形成する。したがって、インタクトな抗体は、2つの結合部位を有する。軽鎖はκまたはλに分類される。重鎖はγ、μ、α、δおよびεに分類され、それにより、抗体のアイソタイプがそれぞれIgG、IgM、IgA、IgDまたはIgEと定義される。
【0024】
軽鎖および重鎖の各ペアの可変領域は、抗体の結合部位を形成する。これらは、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる3つの超可変領域によって連結されたフレームワーク(FR)と呼ばれる比較的保存された領域で構成される、同一の一般構造を特徴とする(Kabatら、1991、免疫学的に重要なタンパク質の配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest)、第5版、NIH出版91~3242、Bethesda,MD.;ChothiaおよびLesk、1987、J Mol Biol 196:901~17)。用語「相補性決定領域」または「CDR」とは、本明細書中で使用される場合、抗体内の領域であって、このタンパク質が抗原の形状を補完する領域をいう。したがって、CDRは、特定の抗原に対するタンパク質の親和性(大雑把には、結合力)および特異性を決定する。各ペアの2つの鎖のCDRは、フレームワーク領域によって整列されて、特定のエピトープに結合する機能を獲得する。その結果、重鎖および軽鎖の両方が、3つのCDR、それぞれCDRH1、CDRH2、CDRH3およびCDRL1、CDRL2、CDRL3で特徴付けられる。
【0025】
CDR配列は、従来の基準に従って、例えば、IgBLAST:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/igblast/(Yeら、2013、Nucleic Acids Res 41(Web Server issue:W34~40))の基準によって、Kabatら、免疫学的に重要なタンパク質の配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest)、第5版、Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991)で提供されている番号付けに従って、またはChothiaら(1989、Nature342:877~83)で提供されている番号付けに従って、決定され得る。
【0026】
本明細書中で使用される場合、本発明の抗体は、完全長抗体(例えば、IgG)のみならず、その抗原結合フラグメント、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fvフラグメントなど、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、非ヒト由来の抗体、組換え抗体、および遺伝子工学技術を用いて作製された免疫グロブリン由来のポリペプチド、例えば、単鎖Fv(scFv)、ダイアボディ、重鎖またはそのフラグメント、軽鎖またはそのフラグメント、VHまたはその二量体、VLまたはその二量体、ジスルフィドブリッジによって安定化されたFvフラグメント(dsFv)、単鎖可変領域ドメインを有する分子(Abs)、ミニボディ、scFv-Fc、VLおよびVHドメイン、および抗体を含む融合タンパク質、または所望の特異性を有する抗原認識部位を含む免疫グロブリン分子の任意の他の修飾構造体を包含する。また、本発明の抗体は、二重特異性抗体であってもよい。抗体フラグメントとは、抗原結合フラグメントを指す場合がある。
【0027】
本明細書中で使用される場合、「組換え抗体」とは、2つの異なる種または2つの異なる供給源に由来するアミノ酸配列を含む抗体であり、合成分子、例えば、非ヒトのCDRとヒトのフレームワークまたは定常領域を含む抗体が挙げられる。特定の実施形態において、本発明の組換え抗体は、組換えDNA分子から作製されるか、または合成される。
【0028】
当業者であれば、本発明の抗体のアミノ酸配列は、ポリペプチドの一次配列が変化しても、グリコシル化ApoJに結合する抗体の能力が維持されるように、1つ以上のアミノ酸置換を含み得ることを理解するであろう。上記置換は、保存的置換であってもよく、一般に、あるアミノ酸を類似の特性を有する別のアミノ酸で置換することを示すために適用される(例えば、グルタミン酸(負電荷のアミノ酸)をアスパラギン酸で置換することは、保存的アミノ酸置換となる)。
【0029】
本明細書に記載される抗体のアミノ酸配列の修飾が企図される。例えば、抗体の結合親和性および/または他の生物学的特性を改善することが望ましい場合がある。抗体のアミノ酸配列改変体は、抗体をコードする核酸への適切なヌクレオチド変化の導入によって、またはペプチド合成によって調製される。このような修飾としては、例えば、抗体のアミノ酸配列内の残基からの欠失、および/または残基への挿入、および/または残基の置換が挙げられる。最終構築物が所望の特徴を有する限り、欠失、挿入、および置換を任意に組み合わせて最終構築物に到達させる。アミノ酸変化はまた、グリコシル化部位の数または位置の変化など、タンパク質の翻訳後プロセスを変化させてもよい。
【0030】
アミノ酸配列挿入としては、1残基から100個以上の残基を含むポリペプチドまでの長さに及ぶアミノ末端融合および/またはカルボキシル末端融合、ならびに単一または複数のアミノ酸残基の配列内挿入が挙げられる。末端挿入体の例としては、N末端にメチオニル残基を有するペプチド、または細胞毒性ポリペプチドに融合させた抗体ポリペプチド鎖が挙げられる。上記分子の他の挿入改変体としては、上記分子のN末端またはC末端への酵素の融合、または血清半減期を延長させるポリペプチドの融合が挙げられる。
【0031】
別のタイプの改変体は、アミノ酸置換改変体である。これらの改変体は、分子内の少なくとも1つのアミノ酸残基が、異なる残基で置き換えられている。抗体の置換変異誘発で最も関心の高い部位としては、超可変領域が挙げられるが、FRの改変も企図される。
【0032】
抗体のアミノ酸改変体の別のタイプは、抗体の本来のグリコシル化パターンを変更するものである。変更するとは、分子内に存在する1つ以上の糖鎖を欠失させること、および/または分子内に存在しない1つ以上のグリコシル化部位を付加することを意味する。ポリペプチドのグリコシル化は、典型的には、N-結合型またはO-結合型のいずれかである。N-結合型とは、アスパラギン残基の側鎖への糖鎖の結合をいう。アスパラギン-X-セリンおよびアスパラギン-X-スレオニン(Xは、プロリンを除く任意のアミノ酸である)のトリペプチド配列は、アスパラギン側鎖に糖鎖が酵素的結合するための認識配列である。したがって、ポリペプチドにこれらのトリペプチド配列のいずれかが存在すると、グリコシル化部位となる可能性がある。O-結合型グリコシル化とは、ヒドロキシアミノ酸(最も一般的にはセリンまたはスレオニン)への単糖または単糖誘導体であるN-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、またはキシロースのうちの1つの結合をいうが、5-ヒドロキシプロリンまたは5-ヒドロキシリジンを用いてもよい。抗体へのグリコシル化部位の付加は、上記トリペプチド配列の1つ以上を含むようにアミノ酸配列を変更することによって、都合よく達成される(N-結合型グリコシル化部位の場合)。また、本来の抗体の配列に1つ以上のセリン残基またはスレオニン残基を付加または置換することによっても変更が生じ得る(O-結合型グリコシル化部位の場合)。抗体のアミノ酸配列改変体をコードする核酸分子は、当該分野で公知の様々な方法で調製される。これらの方法としては、天然源からの単離(天然に存在するアミノ酸配列改変体の場合)、または抗体の以前に調製した改変体もしくは非改変体バージョンのオリゴヌクレオチド媒介(または部位特異的)変異誘発、PCR変異誘発、およびカセット変異誘発による調製が挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
抗原に対する抗体の親和性は、抗体がその抗原に結合する際の有効性と定義され得る。抗原抗体結合は可逆的な結合であるため、十分な時間をかけて両分子を同一溶液中で希釈すると、この溶液は抗原抗体複合体(AgAb)、遊離抗原(Ag)および遊離抗体(Ab)の濃度が一定となる平衡状態に達する。したがって、[AgAb]/[Ag]*[Ab]の比は、Kaと呼ばれる会合定数として定義される定数でもあり、それぞれのエピトープに対するいくつかの抗体の親和性を比較するために用いられ得る。
【0034】
親和性を測定するための一般的な方法は、結合曲線を実験的に決定するものである。この方法は、抗体-抗原複合体の量を、遊離抗原の濃度の関数として測定する工程を含む。この測定を実施するための2つの一般的な方法としては、(i)スキャッチャード解析を用いた古典的な平衡透析法、および(ii)抗体または抗原のいずれかを導電性表面に結合させ、そこに抗原または抗体がそれぞれ結合することによってこの表面の電気的特性に影響を及ぼす、表面プラズモン共鳴法がある。
【0035】
本発明の抗体がグリコシル化ApoJタンパク質に結合する能力は、当該分野で利用可能ないくつかのアッセイによって決定され得る。好ましくは、ハイブリドーマ細胞のクローンによって産生されたモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降法によって、あるいはラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、表面プラズモン共鳴などのインビトロ結合アッセイによって、あるいは免疫組織化学(IHC)、蛍光顕微鏡またはフローサイトメトリーなどの免疫蛍光法によって決定される。
【0036】
多くの場合、本発明の抗体とその機能的改変体の場合のように、同じエピトープに結合する2つ以上の抗体の相対的親和性を決定することのみが必要である。この場合、これらの抗体のうちの1つの連続希釈液を一定量のリガンドとインキュベートし、次いで任意の適切なトレーサーで標識した第二抗体を添加する、競合アッセイを行ってもよい。このmAbを結合させて、結合していない抗体を洗浄した後、第二抗体の濃度を測定し、第一抗体の濃度に対してプロットし、スキャッチャード法で分析する。例としては、Tamuraら、J.Immunol.163:1432~1441(2000)である。
【0037】
用語「ApoJ」とは、本明細書中で使用される場合、「クラスタリン」、「テストステロン抑制前立腺メッセージ(testosterone-Repressed Prostate Message)」、「アポリポタンパク質J」、「補体関連タンパク質SP-40,40」、「補体細胞溶解阻害剤」、「補体溶解阻害剤」、「硫酸化糖タンパク質」、「Ku70結合タンパク質」、「NA1/NA2」、「TRPM-2」、「KUB1」、「CLI」としても知られるポリペプチドをいう。ヒトApoJは、UniProtKB/Swiss-Protデータベースのアクセッション番号P10909で提供されているポリペプチドである(2018年9月12日のエントリーバージョン212)。
【0038】
用語「グリコシル化」とは、一般に、共有結合したオリゴ糖鎖を有する任意のタンパク質をいう。
【0039】
用語「グリコシル化ApoJ」または「GlcNAc残基を含むApoJ」とは、本明細書中で使用される場合、少なくとも1つのグリカン鎖に少なくとも1つのN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)の繰り返しを含む任意のApoJ分子をいうが、典型的には、ApoJは、各グリカン鎖に少なくとも1つのN-アセチルグルコサミンを含むものである。1つの実施形態において、グリコシル化ApoJは、NCBIデータベースにアクセッション番号NP_001822.3で登録されているもの(2018年9月23日公開)として定義されるApoJプレプロタンパク質配列に関して、86番目、103番目、145番目、291番目、317番目、354番目または374番目のAsn残基からなる群から選択される単一のAsn残基にN-グリカンを含む。別の実施形態において、グリコシル化ApoJは、ApoJ内のすべてのN-グリコシル化部位に、すなわち、NCBIデータベースにアクセッション番号NP_001822.3で登録されているもの(2018年9月23日公開)として定義されるApoJプレプロタンパク質配列に関して、86番目、103番目、145番目、291番目、317番目、354番目および374番目の各AsnにN-グリカンを含む。
【0040】
「GlcNAc残基を含むApoJ」としては、高マンノースN-グリカン、複合型N-グリカン、ハイブリッドオリゴ糖N-グリカン、またはO-グリカンに、少なくとも1つのGlcNAc残基を含むApoJ分子が挙げられる。N-グリカンのタイプに応じて、GlcNAcは、ポリペプチド鎖に直接結合している場合もあれば、N-グリカンの末端に存在する場合もある。
【0041】
用語「GlcNAc」または「N-アセチルグルコサミン」とは、グルコサミンを酢酸でアミド化することによって得られるグルコースの誘導体であって、以下の一般構造を有するものをいう:
【化1】
【0042】
1つの実施形態において、ApoJ含有GlcNAc残基は、2残基のGlcNAcを含み、本明細書では(GlcNAc)2と呼ばれる。(GlcNAc)2残基を含むApoJ分子としては、(GlcNAc)2が高マンノースN-グリカンか、複合型N-グリカンか、ハイブリッドオリゴ糖N-グリカンか、またはO-グリカンに存在する分子が挙げられる。N-グリカンのタイプに応じて、(GlcNAc)2は、ポリペプチド鎖に直接結合している場合もあれば、N-グリカンの末端に存在する場合もある。
【0043】
好ましい実施形態において、「ApoJ含有GlcNAc残基」は、他のタイプのN-結合型またはO-結合型の炭水化物を実質的に含まない。1つの実施形態において、「GlcNAc残基を含むApoJ」は、N-結合型またはO-結合型のα-マンノース残基を含まない。別の実施形態において、「ApoJ含有GlcNAc残基」は、N-結合型またはO-結合型のα-グルコース残基を含まない。さらに別の実施形態において、「ApoJ含有GlcNAc残基」は、N-結合型もしくはO-結合型のα-マンノース残基、またはN-結合型もしくはO-結合型のα-グルコース残基を含まない。
【0044】
用語「非グリコシル化ApoJ」とは、本明細書中で使用される場合、NCBIデータベースにアクセッション番号NP_001822.3で登録されているもの(2018年9月23日公開)として定義されるApoJプレプロタンパク質配列に関して、ApoJポリペプチドの86番目、103番目、145番目、291番目、317番目、354番目または374番目のAsn残基のいずれもがグリコシル化されていないApoJをいう。
【0045】
本発明による「結合している(binding)」、「結合(bond)」または「結合する(binds)」という用語は、例えば、限定されないが、水素結合、疎水性相互作用、ファンデルワールス結合、イオン結合またはこれらの組み合わせなどの非共有結合の結果としての親和性結合分子間または特異的結合対間の相互作用をいう。「結合対」という用語は、上記結合対が、結合対の他方のメンバーと相互作用して結合することが可能であり、その結果、結合対の第一のメンバーと第二のメンバーの間の特異的相互作用によって第一の構成要素と第二の構成要素が相互に結合されたコンジュゲートを生じるということ以外には、任意の他の技術的構造特性の任意の特定のサイズを包含するものではない。本発明との関連において、結合対は、抗原/抗体、抗原/抗体フラグメントまたはハプテン/抗ハプテンなど、任意のタイプの免疫相互作用を包含する。
【0046】
「特異的に結合する」、「特異的結合の」または「特異的に認識する」という用語は、抗体またはそのフラグメントがApoJのグリコシル化形態に結合することをいうために本発明で使用される場合、非特異的結合に対して実質的に高い親和性を有する2つの分子の三次元構造間に相補性が存在することによって、抗体またはそのフラグメントがApoJのグリコシル化形態に特異的に結合する能力と理解され、上記抗体またはそのフラグメントとApoJのグリコシル化形態との間の結合は、好ましくは、上記分子のいずれかが反応混合物中に存在する他の分子に結合する前に生じる。これにより、抗体またはそのフラグメントは、他のグリカンがApoJ分子に存在するか否かにかかわらず、他のグリカンとは交差反応しないことになる。抗体またはそのフラグメントの交差反応性は、例えば、目的のグリカンに対するだけでなく、多かれ少なかれ(構造的におよび/または機能的に)密接に関連するいくつかのグリカンに対する、上記抗体またはそのフラグメントの通常の条件下での結合を評価することによって、試験され得る。抗体またはそのフラグメントが、目的のグリカンには結合するが、他のグリカンのいずれにも結合しないかまたは本質的に結合しない場合にのみ、目的のグリカンに特異的であるとみなされる。例えば、抗体とグリコシル化ApoJとの間の結合親和性が、10-6M未満、10-7M未満、10-8M未満、10-9M未満、10-10M未満、10-11M未満、10-12M未満、10-13M未満、10-14M未満または10-15M未満の解離定数(KD)を有する場合、結合は特異的であるとみなされ得る。
【0047】
1つの実施形態において、NCBIデータベースにアクセッション番号NP_001822.3で登録されているものとして定義されるApoJ前駆体配列に関して、86番目にApoJ内N-グリコシル化部位を含むエピトープを特異的に認識する抗体は、103番目、145番目、291番目、317番目、354番目または374番目にApoJ内N-グリコシル化部位を含む1つ以上のまたは任意のエピトープには実質的に結合しない。
【0048】
1つの実施形態において、NCBIデータベースにアクセッション番号NP_001822.3で登録されているものとして定義されるApoJ前駆体配列に関して103番目にApoJ内N-グリコシル化部位を含むエピトープを特異的に認識する抗体は、86番目、145番目、291番目、317番目、354番目または374番目にApoJ内N-グリコシル化部位を含む1つ以上のまたは任意のエピトープには実質的に結合しない。
【0049】
1つの実施形態において、NCBIデータベースにアクセッション番号NP_001822.3で登録されているものとして定義されるApoJ前駆体配列に関して145番目にApoJ内N-グリコシル化部位を含むエピトープを特異的に認識する抗体は、86番目、103番目、291番目、317番目、354番目または374番目にApoJ内N-グリコシル化部位を含む1つ以上のまたは任意のエピトープには実質的に結合しない。
【0050】
1つの実施形態において、NCBIデータベースにアクセッション番号NP_001822.3で登録されているものとして定義されるApoJ前駆体配列に関して291番目にApoJ内N-グリコシル化部位を含むエピトープを特異的に認識する抗体は、86番目、103番目、145番目、317番目、354番目または374番目にApoJ内N-グリコシル化部位を含む1つ以上のまたは任意のエピトープには実質的に結合しない。
【0051】
1つの実施形態において、NCBIデータベースにアクセッション番号NP_001822.3で登録されているものとして定義されるApoJ前駆体配列に関して317番目にApoJ内N-グリコシル化部位を含むエピトープを特異的に認識する抗体は、86番目、103番目、145番目、291番目、354番目または374番目にApoJ内N-グリコシル化部位を含む1つ以上のまたは任意のエピトープには実質的に結合しない。
【0052】
1つの実施形態において、NCBIデータベースにアクセッション番号NP_001822.3で登録されているものとして定義されるApoJ前駆体配列に関して354番目にApoJ内N-グリコシル化部位を含むエピトープを特異的に認識する抗体は、86番目、103番目、145番目、291番目、317番目または374番目にApoJ内N-グリコシル化部位を含む1つ以上のまたは任意のエピトープには実質的に結合しない。
【0053】
1つの実施形態において、NCBIデータベースにアクセッション番号NP_001822.3で登録されているものとして定義されるApoJ前駆体配列に関して374番目にApoJ内N-グリコシル化部位を含むエピトープを特異的に認識する抗体は、86番目、103番目、145番目、291番目、317番目または354番目にApoJ内N-グリコシル化部位を含む1つ以上のまたは任意のエピトープには実質的に結合しない。
【0054】
1つの実施形態において、ApoJ内のN-グリコシル化部位を含むエピトープに特異的な結合を示す本発明による抗体は、N-グリコシル化部位を含むApoJ内の他のエピトープには実質的に結合せず、かつ/またはApoJ以外のN-グリコシル化ポリペプチドには実質的に結合しない。
【0055】
別の実施形態において、5番目のAsn残基がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されている配列番号118のペプチドを特異的に認識する抗体は、配列番号119、120、121、122、123または124のペプチドであって、配列番号119の5番目、配列番号120の5a番目、配列番号121の6番目、配列番号122の5番目、配列番号123の5番目、または配列番号124の5番目のAsn残基がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されているペプチドのうちの1つ以上または任意を実質的に認識しない。
【0056】
別の実施形態において、5番目のAsn残基がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されている配列番号119のペプチドを特異的に認識する抗体は、配列番号118、120、121、122、123または124のペプチドであって、配列番号118の5番目、配列番号120の5a番目、配列番号121の6番目、配列番号122の5番目、配列番号123の5番目、または配列番号124の5番目のAsn残基がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されているペプチドのうちの1つ以上または任意を実質的に認識しない。
【0057】
別の実施形態において、5番目のAsn残基がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されている配列番号120のペプチドを特異的に認識する抗体は、配列番号118、119、121、122、123または124のペプチドであって、配列番号118の5番目、配列番号119の5a番目、配列番号121の6番目、配列番号122の5番目、配列番号123の5番目、または配列番号124の5番目のAsn残基がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されているペプチドのうちの1つ以上または任意を実質的に認識しない。
【0058】
別の実施形態において、6番目のAsn残基がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されている配列番号121のペプチドを特異的に認識する抗体は、配列番号118、119、120、122、123または124のペプチドであって、配列番号118の5番目、配列番号119の5a番目、配列番号120の5番目、配列番号122の5番目、配列番号123の5番目、または配列番号124の5番目のAsn残基がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されているペプチドのうちの1つ以上または任意を実質的に認識しない。
【0059】
別の実施形態において、5番目のAsn残基がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されている配列番号122のペプチドを特異的に認識する抗体は、配列番号118、119、120、121、123または124のペプチドであって、配列番号118の5番目、配列番号119の5a番目、配列番号120の5番目、配列番号121の6番目、配列番号123の5番目、または配列番号124の5番目のAsn残基がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されているペプチドのうちの1つ以上または任意を実質的に認識しない。
【0060】
別の実施形態において、5番目のAsn残基がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されている配列番号123のペプチドを特異的に認識する抗体は、配列番号118、119、120、121、122または124のペプチドであって、配列番号118の5番目、配列番号119の5a番目、配列番号120の5番目、配列番号121の6番目、配列番号122の5番目、または配列番号124の5番目のAsn残基がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されているペプチドのうちの1つ以上または任意を実質的に認識しない。
【0061】
別の実施形態において、配列番号118の5番目がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されている配列番号118のペプチドを用いて作製された抗体は、配列番号119、120、121、122または124のペプチドであって、配列番号119の5a番目、配列番号120の5番目、配列番号121の6番目、配列番号122の5番目、配列番号123の5番目、または配列番号124の5番目のAsn残基がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されているペプチドのうちの1つ以上または任意を実質的に認識しない。
【0062】
別の実施形態において、5番目のAsn残基がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されている配列番号119のペプチドを用いて作製された抗体は、配列番号118、120、121、122または124のペプチドであって、配列番号118の5番目、配列番号120の5番目、配列番号121の6番目、配列番号122の5番目、配列番号123の5番目、または配列番号124の5番目のAsn残基がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されているペプチドのうちの1つ以上または任意を実質的に認識しない。
【0063】
別の実施形態において、配列番号120の5番目がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されている配列番号120のペプチドを用いて作製された抗体は、配列番号118、119、121、122または124のペプチドであって、配列番号118の5番目、配列番号119の5a番目、配列番号121の6番目、配列番号122の5番目、配列番号123の5番目、または配列番号124の5番目のAsn残基がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されているペプチドのうちの1つ以上または任意を実質的に認識しない。
【0064】
別の実施形態において、配列番号121の6番目がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されている配列番号121のペプチドを用いて作製された抗体は、配列番号118、119、120、122または124のペプチドであって、配列番号118の5番目、配列番号119の5a番目、配列番号120の5番目、配列番号122の5番目、配列番号123の5番目、または配列番号124の5番目のAsn残基がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されているペプチドのうちの1つ以上または任意を実質的に認識しない。
【0065】
別の実施形態において、5番目がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されている配列番号122のペプチドを用いて作製された抗体は、配列番号118、119、120、121、124のペプチドであって、配列番号118の5番目、配列番号119の5a番目、配列番号120の5番目、配列番号121の6番目、配列番号123の5番目、または配列番号124の5番目のAsn残基がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されているペプチドのうちの1つ以上または任意を実質的に認識しない。
【0066】
別の実施形態において、5番目がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されている配列番号123のペプチドを用いて作製された抗体は、配列番号118、119、120、121、122または124のペプチドであって、配列番号118の5番目、配列番号119の5a番目、配列番号120の5番目、配列番号121の6番目、配列番号122の5番目、または配列番号124の5番目のAsn残基がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されているペプチドのうちの1つ以上または任意を実質的に認識しない。
【0067】
別の実施形態において、5番目がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されている配列番号124のペプチドを用いて作製された抗体は、配列番号118、119、120、121、122または123のペプチドであって、配列番号118の5番目、配列番号119の5a番目、配列番号120の5番目、配列番号121の6番目、配列番号122の5番目、または配列番号123の5番目のAsn残基がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されているペプチドのうちの1つ以上または任意を実質的に認識しない。
【0068】
別の実施形態において、本発明による抗体は、O-結合型グリカンには、より好ましくはO-結合型GlaNAcには、実質的に結合しない。
【0069】
さらなる実施形態において、ApoJ内のN-グリコシル化部位を含むエピトープを特異的に認識する抗体であって、上記グリコシル化部位が、NCBIデータベースにアクセッション番号NP_001822.3で登録されているものとして定義されるApoJ前駆体配列に関して、86番目、103番目、145番目、291番目、317番目、354番目または374番目のAsn残基からなる群から選択されるAsn残基を含むことを特徴とする抗体である発明は、O-結合型グリカンには、より好ましくはO-結合型GlaNAcには、実質的に結合しない。
【0070】
さらなる実施形態において、配列番号118、119、120、121、122、123または124からなる群から選択されるペプチドであって、配列番号118の5番目、配列番号119の5番目、配列番号120の5a番目、配列番号121の6番目、配列番号122の5番目、配列番号123の5番目、または配列番号124の5番目のAsn残基がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されている上記ペプチドを特異的に認識するか、または上記ペプチドを用いて作製された抗体である発明は、O-結合型グリカンには、より好ましくはO-結合型GlaNAcには、実質的に結合しない。
【0071】
別の実施形態において、本発明による抗体は、N-アセチルガラクトサミンには、またはN-アセチルガラクトサミンを含むがN-アセチルグルコサミンを含まないエピトープには、実質的に結合しない。
【0072】
さらなる実施形態において、ApoJ内のN-グリコシル化部位を含むエピトープを特異的に認識する抗体であって、上記グリコシル化部位が、NCBIデータベースにアクセッション番号NP_001822.3で登録されているものとして定義されるApoJ前駆体配列に関して、86番目、103番目、145番目、291番目、317番目、354番目または374番目のAsn残基からなる群から選択されるAsn残基を含むことを特徴とする抗体である発明は、N-アセチルガラクトサミンには、またはN-アセチルガラクトサミンを含むがN-アセチルグルコサミンを含まないエピトープには、実質的に結合しない。
【0073】
さらなる実施形態において、配列番号118、119、120、121、122、123または124からなる群から選択されるペプチドであって、配列番号118の5番目、配列番号119の5番目、配列番号120の5a番目、配列番号121の6番目、配列番号122の5番目、配列番号123の5番目、または配列番号124の5番目のAsn残基がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されている上記ペプチドを特異的に認識するか、または上記ペプチドを用いて作製された抗体である発明は、N-アセチルガラクトサミンには、またはN-アセチルガラクトサミンを含むがN-アセチルグルコサミンを含まないエピトープには、実質的に結合しない。
【0074】
別の実施形態において、本発明による抗体は、配列番号167(TKLKELPGVCNETMMALWEE)の配列を含むエピトープであって11番目にN-グリコシル化を含む上記エピトープには、実質的に結合しない。
【0075】
別の実施形態において、NCBIデータベースにアクセッション番号NP_001822.3で登録されているものとして定義されるApoJ前駆体配列に関して103番目にApoJ内N-グリコシル化部位を含むエピトープを特異的に認識する本発明による抗体である発明は、配列番号167の配列を含むエピトープであって11番目にN-グリコシル化を含む上記エピトープには、実質的に結合しない。
【0076】
別の実施形態において、配列番号119の5番目のAsn残基がN-アセチルグルコサミン残基で修飾されている、配列番号119のペプチドを特異的に認識するか、または上記ペプチドを用いて作製された抗体は、配列番号167の配列を含むエピトープであって11番目にN-グリコシル化を含む上記エピトープには、実質的に結合しない。
【0077】
グリコシル化ApoJタンパク質に結合する本発明による結合物質の能力、特に本明細書に記載の抗体または抗体フラグメントの能力は、当該分野で周知のいくつかのアッセイによって決定され得る。好ましくは、結合物質の結合能力は、免疫沈降法によって、あるいはラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、表面プラズモン共鳴などのインビトロ結合アッセイによって、あるいは免疫組織化学(IHC)、蛍光顕微鏡またはフローサイトメトリーなどの免疫蛍光法によって決定される。
【0078】
好ましい実施形態において、本発明の抗体は、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基を含むグリコシル化ApoJに、またはN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基およびシアル酸残基を含むグリコシル化ApoJに特異的に結合する。
【0079】
用語「ApoJ含有GlcNAc残基およびシアル酸残基」とは、本明細書中で使用される場合、ApoJのグリカン鎖に少なくとも1つのN-アセチル-グルコースの繰り返しと、少なくとも1つのシアル酸残基の繰り返しを含む、任意のApoJ分子をいう。
【0080】
用語「シアル酸」とは、本明細書中で使用される場合、N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)として知られる単糖であって、以下の一般構造を有するものをいう:
【化2】
【0081】
1つの実施形態において、ApoJは、2つのGlcNAc残基および1つのシアル酸残基を含む(以下、(GlcNAc)2-Neu5Acと呼ぶ)。別の実施形態において、GlcNAc残基とシアル酸残基は、1つ以上の単糖によって連結されている。1つの実施形態において、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基およびシアル酸残基を含むグリコシル化ApoJのレベルは、小麦(Triticum Vulgaris)レクチンに特異的に結合できるApoJのレベルに相当する。
【0082】
好ましい実施形態において、「ApoJ含有GlcNAc残基およびシアル酸残基」は、他のタイプのN-結合型またはO-結合型の炭水化物を実質的に含まない。1つの実施形態において、「ApoJ含有GlcNAc残基およびシアル酸残基」は、N-結合型またはO-結合型のα-マンノース残基を含まない。別の実施形態において、「ApoJ含有GlcNAc残基およびシアル酸残基」は、N-結合型またはO-結合型のα-グルコース残基を含まない。さらに別の実施形態において、「ApoJ含有GlcNAc残基およびシアル酸残基」は、N-結合型またはO-結合型のα-マンノース残基、あるいはN-結合型またはO-結合型のα-グルコース残基を含まない。
【0083】
本発明の抗体は、ApoJ内のN-グリコシル化部位を含むエピトープを特異的に認識し、上記グリコシル化部位は、NCBIデータベースにアクセッション番号NP_001822.3で登録されているもの(2018年9月23日公開)として定義されるApoJプレプロタンパク質配列に関して、86番目、103番目、145番目、291番目、317番目、354番目または374番目のAsn残基からなる群から選択されるAsn残基を含む。
【0084】
用語「エピトープ」とは、本明細書中で使用される場合、当該分野で公知の任意の方法によって決定される、所定の免疫原性物質に対する免疫応答を開始した宿主免疫系の抗体もしくは細胞表面受容体の標的となるか、またはそれらが結合する、上記所定の免疫原性物質の一部をいう。さらに、エピトープは、当該分野で利用可能な任意の方法で決定される、動物において抗体応答を誘発するかまたはT細胞応答を誘導する免疫原性物質の一部と定義され得る。Walker J編、「タンパク質プロトコルハンドブック(The Protein Protocols Handbook)」(Humana Press,Inc.,Totoma,NJ,US,1996)を参照のこと。また、用語「エピトープ」は、「抗原決定基」または「抗原決定基部位」と互換的に使用されてもよい。タンパク質抗原のエピトープは、それらの構造および抗体との相互作用に基づいて、構造的エピトープと線状エピトープの2つのカテゴリーに分類される。
【0085】
Asn残基とは、ポリペプチドの配列内のアスパラギンアミノ酸をいう。本実施形態において、グリコシル化はAsn残基に結合しており、上記グリコシル化は、Asn結合型グリコシル化、またはN結合型グリコシル化とも呼ばれ、糖残基がアスパラギン残基のアミド窒素を介して結合される場合に生じる。Asn結合型オリゴ糖の細胞内での生合成は、小胞体の内腔、およびゴルジ体へのタンパク質の輸送後の両方で行われる。Asn結合型グリコシル化は、以下のトリペプチドグリコシル化コンセンサス配列:Asn-Xaa-Yaa (Asn-Xaa-Thr/Ser;NXT/S)で生じ、ここで、Xaaはプロリンを除く任意のアミノ酸であってもよく、Yaaはセリンまたはスレオニンである。
【0086】
すべてのAsn結合型オリゴ糖は、共通の生合成中間体に由来する共通の五糖コア(Man3GlcNAc2)を有する。Asn結合型オリゴ糖は、分岐の数ならびにフコースおよびシアル酸などの周辺糖の存在が異なる。Asn結合型オリゴ糖は、その分岐構成要素に従って分類され得、分岐構成要素が、マンノースのみ(高マンノース型N-グリカン);様々な糖配列で終結し、二分岐するFucおよびコアGlcNAcの鎖内置換の可能性を有する、交互のGIcNAc残基およびGal残基(複合型N-グリカン);または高マンノース型および複合鎖の両方の特質を有するもの(ハイブリッド型N-グリカン)で構成されていてもよい。Hounsell,E.F.編、「生物医学における糖タンパク質分析(Glycoprotein Analysis in Biomedicine)」、Methods in Molecular Biology 14:298(1993)を参照のこと。
【0087】
あるいは、本発明の抗体は、配列番号118、119、120、121、122 123または124からなる群から選択されるペプチドを特異的に認識するか、あるいはそのペプチドを用いて作製された抗体であって、上記ペプチドが、配列番号118の5番目、配列番号119の5番目、配列番号120の5番目、配列番号121の6番目、配列番号122の5番目、配列番号123の5番目、または配列番号124の5番目のAsn残基でNアセチルグルコサミン残基により修飾されている。
【0088】
用語「ポリペプチド」および「ペプチド」は、本明細書中で互換的に使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。
【0089】
用語「アミノ酸」とは、天然に存在するアミノ酸および合成アミノ酸、ならびに天然に存在するアミノ酸と同様に機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣体をいう。さらに、用語「アミノ酸」は、D-およびL-アミノ酸(立体異性体)の両方を包含する。
【0090】
好ましい実施形態において、本発明の抗体は、以下を含む:
a)配列番号1、6、11、16、21、26、31、36、41のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域1(VL-CDR1)またはその機能的に等価な改変体;
b)アミノ酸配列QAS、KAS、RAS、SAS、DASのいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域2(VL-CDR2)またはその機能的に等価な改変体;
c)配列番号2、7、12、17、22、27、32、37、42のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域3(VL-CDR3)またはその機能的に等価な改変体;
d)配列番号3、8、13、18、23、28、33、38、43のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域1(VH-CDR1)またはその機能的に等価な改変体;
e)配列番号4、9、14、19、24、29、34、39、44のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域2(VH-CDR2)またはその機能的に等価な改変体;あるいは
f)配列番号5、10、15、20、25、30、35、40、45のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域3(VH-CDR3)またはその機能的に等価な改変体。
【0091】
用語「相補性決定領域」または「CDR」とは、本明細書中で使用される場合、抗体内の領域であって、このタンパク質が抗原の形状を補完する領域をいう。したがって、CDRは、特定の抗原に対するタンパク質の親和性(大雑把には、結合力)および特異性を決定する。各ペアの2つの鎖のCDRは、フレームワーク領域によって整列され、特定のエピトープに結合する機能を獲得する。その結果、重鎖および軽鎖の両方が、それぞれ3つのCDRである、VH-CDR1、VH-CDR2、VH-CDR3、およびVL-CDR1、VL-CDR2、VL-CDR3で特徴付けられる。
【0092】
本明細書中で使用される場合、用語「CDR配列の機能的に等価な改変体」とは、特定のCDR配列の配列改変体であって、上記CDR配列と実質的に類似の配列同一性を有し、本明細書中に記載される抗体または抗体フラグメントの一部である場合には、その同種抗原に結合する能力を実質的に保持するものをいう。例えば、CDR配列の機能的に等価な改変体は、1つ以上のアミノ酸の付加、欠失または置換を有する上記配列のポリペプチド配列誘導体であってもよい。
【0093】
本発明によるCDR配列の機能的に等価な改変体としては、上記参照配列の1つに示される対応するアミノ酸配列と、少なくとも約70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を有するCDR配列が挙げられる。また、CDR配列の機能的に等価な改変体は、上記参照配列の1つに示される対応するアミノ酸配列のN末端に、またはC末端に、またはN末端およびC末端の両方に、少なくとも1個のアミノ酸、または少なくとも2個のアミノ酸、または少なくとも3個のアミノ酸、または少なくとも4個のアミノ酸、または少なくとも5個のアミノ酸、または少なくとも6個のアミノ酸、または少なくとも7個のアミノ酸、または少なくとも8個のアミノ酸、または少なくとも9個のアミノ酸、または少なくとも10個のアミノ酸、またはそれ以上のアミノ酸からなる付加を有することも企図される。同様に、改変体は、上述の配列の1つに示される対応するアミノ酸配列のN末端に、またはC末端に、またはN末端およびC末端の両方に、少なくとも1個のアミノ酸、または少なくとも2個のアミノ酸、または少なくとも3個のアミノ酸、または少なくとも4個のアミノ酸からなる欠失を有することも企図される。
【0094】
本発明によるCDR配列の機能的に等価な改変体は、本発明の抗体または抗体フラグメントの一部である場合には、その同種抗原に結合するための、配列番号1~45のうちの1つまたは軽鎖CDR2配列QAS、KAS、RAS、SASおよびDASのいずれかに示される対応するアミノ酸配列の能力を、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも100%、少なくとも105%、少なくとも110%、少なくとも115%、少なくとも120%、少なくとも125%、少なくとも130%、少なくとも135%、少なくとも140%、少なくとも145%、少なくとも150%、少なくとも200%またはそれ以上を保持することが好ましい。その同種抗原に結合する能力は、抗体または抗体フラグメントのその同種抗原に対する親和性、結合活性、特異性および/または選択性の値として決定され得る。
【0095】
別の好ましい実施形態において、本発明の抗体は、以下を特徴とする:
(i)VL-CDR1が配列番号6で示されるアミノ酸配列を含み、VL-CDR2がアミノ酸配列KASを含み、かつVL-CDR3が配列番号7で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(ii)VL-CDR1が配列番号1で示されるアミノ酸配列を含み、VL-CDR2がアミノ酸配列QASを含み、かつVL-CDR3が配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(iii)VL-CDR1が配列番号11で示されるアミノ酸配列を含み、VL-CDR2がアミノ酸配列RASを含み、かつVL-CDR3が配列番号12で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(iii)VL-CDR1が配列番号11で示されるアミノ酸配列を含み、VL-CDR2がアミノ酸配列RASを含み、かつVL-CDR3が配列番号12で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(iv)VL-CDR1が配列番号16で示されるアミノ酸配列を含み、VL-CDR2がアミノ酸配列QASを含み、かつVL-CDR3が配列番号17で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(v)VL-CDR1が配列番号21で示されるアミノ酸配列を含み、VL-CDR2がアミノ酸配列SASを含み、かつVL-CDR3が配列番号22で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(vi)VL-CDR1が配列番号26で示されるアミノ酸配列を含み、VL-CDR2がアミノ酸配列DASを含み、かつVL-CDR3が配列番号27で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(vii)VL-CDR1が配列番号31で示されるアミノ酸配列を含み、VL-CDR2がアミノ酸配列SASを含み、かつVL-CDR3が配列番号32で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(viii)VL-CDR1が配列番号36で示されるアミノ酸配列を含み、VL-CDR2がアミノ酸配列KASを含み、かつVL-CDR3が配列番号37で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(ix)VL-CDR1が配列番号41で示されるアミノ酸配列を含み、VL-CDR2がアミノ酸配列KASを含み、かつVL-CDR3が配列番号42で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(x)VH-CDR1が配列番号8で示されるアミノ酸配列を含み、VH-CDR2が配列番号9で示されるアミノ酸配列を含み、かつVH-CDR3が配列番号10で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(xi)VH-CDR1が配列番号3で示されるアミノ酸配列を含み、VH-CDR2が配列番号4で示されるアミノ酸配列を含み、かつVH-CDR3が配列番号5で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(xii)VH-CDR1が配列番号13で示されるアミノ酸配列を含み、VH-CDR2が配列番号14で示されるアミノ酸配列を含み、かつVH-CDR3が配列番号15で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(xiii)VH-CDR1が配列番号18で示されるアミノ酸配列を含み、VH-CDR2が配列番号19で示されるアミノ酸配列を含み、かつVH-CDR3が配列番号20で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(xiv)VH-CDR1が配列番号23で示されるアミノ酸配列を含み、VH-CDR2が配列番号24で示されるアミノ酸配列を含み、かつVH-CDR3が配列番号25で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(xv)VH-CDR1が配列番号28で示されるアミノ酸配列を含み、VH-CDR2が配列番号29で示されるアミノ酸配列を含み、かつVH-CDR3が配列番号30で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(xvi)VH-CDR1が配列番号33で示されるアミノ酸配列を含み、VH-CDR2が配列番号34で示されるアミノ酸配列を含み、かつVH-CDR3が配列番号35で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(xvii)VH-CDR1が配列番号38で示されるアミノ酸配列を含み、VH-CDR2が配列番号39で示されるアミノ酸配列を含み、かつVH-CDR3が配列番号40で示されるアミノ酸配列を含むこと、または
(xviii)VH-CDR1が配列番号43で示されるアミノ酸配列を含み、VH-CDR2が配列番号44で示されるアミノ酸配列を含み、かつVH-CDR3が配列番号45で示されるアミノ酸配列を含むこと。
【0096】
別の実施形態において、上記の抗体は、以下を特徴とする:
(i)VL-CDR1が配列番号6で示されるアミノ酸配列を含み、VL-CDR2がアミノ酸配列KASを含み、VL-CDR3が配列番号7に記載のアミノ酸配列を含み、VH-CDR1が配列番号8で示されるアミノ酸配列を含み、VH-CDR2が配列番号9で示されるアミノ酸配列を含み、かつVH-CDR3が配列番号10で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(ii)VL-CDR1が配列番号1で示されるアミノ酸配列を含み、VL-CDR2がアミノ酸配列QASを含み、VL-CDR3が配列番号2に記載のアミノ酸配列を含み、VH-CDR1が配列番号3で示されるアミノ酸配列を含み、VH-CDR2が配列番号4で示されるアミノ酸配列を含み、かつVH-CDR3が配列番号5で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(iii)VL-CDR1が配列番号11で示されるアミノ酸配列を含み、VL-CDR2がアミノ酸配列RASを含み、VL-CDR3が配列番号12で示されるアミノ酸配列を含み、VH-CDR1が配列番号13で示されるアミノ酸配列を含み、VH-CDR2が配列番号14で示されるアミノ酸配列を含み、かつVH-CDR3が配列番号15で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(iv)VL-CDR1が配列番号16で示されるアミノ酸配列を含み、VL-CDR2がアミノ酸配列QASを含み、VL-CDR3が配列番号17で示されるアミノ酸配列を含み、VH-CDR1が配列番号18で示されるアミノ酸配列を含み、VH-CDR2が配列番号19で示されるアミノ酸配列を含み、かつVH-CDR3が配列番号20で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(v)VL-CDR1が配列番号21で示されるアミノ酸配列を含み、VL-CDR2がアミノ酸配列SASを含み、VL-CDR3が配列番号22で示されるアミノ酸配列を含み、VH-CDR1が配列番号23で示されるアミノ酸配列を含み、VH-CDR2が配列番号24で示されるアミノ酸配列を含み、かつVH-CDR3が配列番号25で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(vi)VL-CDR1が配列番号26で示されるアミノ酸配列を含み、VL-CDR2がアミノ酸配列DASを含み、VL-CDR3が配列番号27で示されるアミノ酸配列を含み、VH-CDR1が配列番号28に記載のアミノ酸配列を含み、VH-CDR2が配列番号29で示されるアミノ酸配列を含み、かつVH-CDR3が配列番号30で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(vii)VL-CDR1が配列番号31で示されるアミノ酸配列を含み、VL-CDR2がアミノ酸配列SASを含み、VL-CDR3が配列番号32で示されるアミノ酸配列を含み、VH-CDR1が配列番号33で示されるアミノ酸配列を含み、VH-CDR2が配列番号34で示されるアミノ酸配列を含み、かつVH-CDR3が配列番号35で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(viii)VL-CDR1が配列番号36で示されるアミノ酸配列を含み、VL-CDR2がアミノ酸配列KASを含み、VL-CDR3が配列番号37で示されるアミノ酸配列を含み、VH-CDR1が配列番号38で示されるアミノ酸配列を含み、VH-CDR2が配列番号39で示されるアミノ酸配列を含み、かつVH-CDR3が配列番号40で示されるアミノ酸配列を含むこと、
(ix)VL-CDR1が配列番号41で示されるアミノ酸配列を含み、VL-CDR2がアミノ酸配列KASを含み、VL-CDR3が配列番号42で示されるアミノ酸配列を含み、VH-CDR1が配列番号43で示されるアミノ酸配列を含み、VH-CDR2が配列番号44で示されるアミノ酸配列を含み、かつVH-CDR3が配列番号45で示されるアミノ酸配列を含むこと。
【0097】
別の実施形態において、本発明の抗体は、以下を特徴とする:
(i)軽鎖フレームワーク1(VL-FR1)領域のアミノ酸配列が、配列番号46、54、62、70、78、86、94、102または110のいずれか1つで示されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一であること、
(ii)軽鎖フレームワーク2(VL-FR2)領域のアミノ酸配列が、配列番号47、55、63、71、79、87、95、103または111のいずれか1つで示されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一であること、
(iii)軽鎖フレームワーク3(VL-FR3)領域のアミノ酸配列が、配列番号48、56、64、72、80、88、96、104または112のいずれか1つで示されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一であること、および
(iv)軽鎖フレームワーク4(VL-FR4)領域のアミノ酸配列が、配列番号49、57、65、73、81、89、97、105または113のいずれか1つで示されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一であること。
【0098】
別の実施形態において、本発明の抗体は、以下の1つ以上をさらに含む:
(i)配列番号50、58、66、74、82、90、98、106または114のいずれか1つで示されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一である、重鎖フレームワーク1(VH-FR1)領域のアミノ酸配列、
(ii)配列番号51、59、67、75、83、91、99、107または115のいずれか1つで示されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一である、重鎖フレームワーク2(VH-FR2)領域のアミノ酸配列、
(iii)配列番号52、60、68、76、84、92、100、108または116のいずれか1つで示されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一である、重鎖フレームワーク3(VH-FR3)領域のアミノ酸配列、および
(iv)配列番号53、61、69、77、85、93、101、109または117のいずれか1つで示されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一である、重鎖フレームワーク4(VH-FR4)領域のアミノ酸配列。
【0099】
別の実施形態において、本発明の抗体は、Ag1G-11抗体、Ag2G-17抗体、Ag3G-4抗体、Ag4g-6抗体、Ag5G-17抗体、Ag6G-1抗体、Ag6G-11抗体、Ag7G-17抗体またはAg7g-19抗体であって、各抗体のそれぞれのVL-FR1領域、VL-CDR1領域、VL-FR2領域、VL-CDR2領域、VL-FR3領域、VL-CDR3領域、VL-FR4領域、VH-FR1領域、VH-CDR1領域、VH-FR2領域、VH-CDR2領域、VH-FR3領域、VH-CDR3領域およびVH-FR4領域が、第1表に記載のアミノ酸配列を含む。
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
別の好ましい実施形態において、本発明による抗体は、以下を含む:
i)配列番号125、126、127、128、129、130、131、132または133のいずれか1つで示されるアミノ酸配列によって定義される軽鎖、および/または
ii)配列番号134、135、136、137、138、139、140、141または142のいずれかで示されるアミノ酸配列によって定義される重鎖。
【0110】
さらなる実施形態において、本発明の任意の抗体は、ヒト化または超ヒト化された、ヒト抗体フレームワーク領域に由来する少なくとも1つのフレームワーク領域を含む。
【0111】
「ヒト化」とは、非ヒト抗体、典型的にはマウス抗体に由来する抗体であって、親抗体の抗原結合特性を保持しているが、ヒトでの免疫原性は低い抗体を意味する。これは、(a)非ヒト可変ドメイン全体をヒト定常領域に移植してキメラ抗体を作製する方法;(b)重要なフレームワーク残基を保持したまま、または保持せずに、非ヒト相補性決定領域(CDR)のみをヒトフレームワークおよび定常領域に移植する方法;ならびに(c)非ヒト可変ドメイン全体を移植するが、表面残基を置換することによってそれらをヒト様部位で「覆う(cloaking)」方法など、様々な方法によって達成され得る。非ヒト抗体をヒト化する方法は、当該分野において記載されている。好ましくは、ヒト化抗体は、非ヒト供給源から導入された1つ以上のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基は、しばしば「移入」残基と呼ばれ、典型的には「移入」可変ドメインから得られる。
【0112】
ヒト化は、本質的には、Winterらの方法(Jonesら、Nature、321:522~525(1986);Reichmannら、Nature、332:323~327(1988);Verhoeyenら、Science、239:1534~1536(1988))に従って、超可変領域配列でヒト抗体の対応する配列を置換することによって実施され得る。実際には、ヒト化抗体は典型的には、いくつかの超可変領域残基および場合によってはいくつかのフレームワーク領域(FR)残基が、げっ歯類抗体の類似部位由来の残基で置換されているヒト抗体である。ヒト化抗体を作製する際に使用するヒトの軽重両方の可変ドメインの選択は、抗原に対する特異性および親和性を保持しつつ免疫原性を低下させるために非常に重要である。いわゆる「ベストフィット」法では、げっ歯類抗体の可変ドメインの配列を、既知のヒト可変ドメイン配列のライブラリー全体に対してスクリーニングする。次に、げっ歯類のものと最も近いヒト配列を、ヒト化抗体のヒトフレームワーク領域(FR)として受容する(Sunsら、J.Immunol,151:2296(1993);Chothiaら、J.Mol.Biol,196:901(1987))。別の方法では、軽鎖または重鎖の特定のサブグループのすべてのヒト抗体のコンセンサス配列に由来する特定のフレームワーク領域を使用する。同じフレームワークをいくつかの異なるヒト化抗体に使用してもよい(Carterら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:4285(1992);Prestaら、J.Immunol,151:2623(1993))。
【0113】
抗体を、抗原に対する高い親和性および他の好ましい生物学的特性を保持したままヒト化することは、さらに重要である。この目標を達成するために、親配列およびヒト化配列の三次元モデルを使用して、親配列および種々の概念的ヒト化産物を分析するプロセスによって、ヒト化抗体を調製する。抗体をよりヒトに近づけるために、このアプローチのさらなる工程では、いわゆる霊長類化抗体、すなわちサル(または他の霊長類)抗体、特にカニクイザル抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメインを含むように操作されており、かつヒト定常ドメイン配列、好ましくはヒト免疫グロブリンガンマ1またはガンマ4定常ドメイン(またはPE改変体)を含む組換え抗体を調製する。
【0114】
「ヒト抗体」とは、公知の標準的方法のいずれかによって作製される、ヒト軽鎖および重鎖ならびに定常領域を完全に含む抗体を意味する。
【0115】
ヒト化の代わりに、ヒト抗体を作製してもよい。例えば、免疫化の際に内因性免疫グロブリンを産生することなくヒト抗体の完全なレパートリーを産生することができるトランスジェニック動物(例えばマウス)を作製することは、いまや可能である。例えば、キメラマウスおよび生殖系列変異マウスにおける抗体重鎖連結領域PH遺伝子のホモ接合型欠失により、内因性抗体産生が完全に阻害されることが記載されている。このような生殖系列変異マウスにヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子アレイを導入すると、免疫化後にヒト抗体が産生されるようになる。例えば、Jakobovitsら、Proc.Mad.Acad.Sci.USA,90:255 1(1993);Jakobovitsら、Nature,362:255~258(1993),Lonberg,2005,Nature Biotech.23:1117~25を参照のこと。
【0116】
ヒト抗体は、インビトロ活性化B細胞によるか、またはヒト細胞で免疫系を再構成させたSCIDマウスによっても作製され得る。
【0117】
ヒト抗体が得られれば、そのコードDNA配列を単離し、クローン化し、適切な発現系、すなわち細胞株、好ましくは哺乳動物由来の細胞株に導入することで、抗体を発現させ、培地中に遊離させ、そこから抗体を単離し得る。
【0118】
別の好ましい実施形態において、本発明の抗体は、Fab、F(ab)2、単一ドメイン抗体、単鎖可変フラグメント(scFv)、またはナノボディである。
【0119】
Fab、F(ab)2、単一ドメイン抗体、単鎖可変フラグメント(scFv)、およびナノボディは、エピトープ結合抗体フラグメントとみなされる。
【0120】
抗体フラグメントは、例えば、Fab、F(ab’)2、Fab’およびscFvなどの抗体のフラグメントである。抗体フラグメントの生成のために様々な技術が開発されている。従来、これらのフラグメントは、インタクトな抗体のタンパク質消化によって誘導されていたが、最近では、これらのフラグメントは、組換え宿主細胞によって直接産生され得る。他の実施形態において、最適な抗体は、単鎖Fv(scFv)フラグメントであり、さらに、単一特異性であっても二重特異性であってもよい。
【0121】
抗体のパパイン消化により、「Fab」フラグメントと呼ばれる、各々が単一の抗原結合部位を有する2つの同一の抗体結合フラグメント、および容易に結晶化する能力を反映して命名された残りの「Fc」フラグメントが生成する。ペプシン処理により、2つの抗原結合部位を有し、なおも抗原を架橋可能なF(ab’)2フラグメントが得られる。
【0122】
「Fv」は、完全な抗原認識部位および抗原結合部位を含む、最小の抗体フラグメントである。この領域は、1つの重鎖可変ドメインおよび1つの軽鎖可変ドメインが緊密に非共有結合した二量体からなる。この立体配置において、各可変ドメインの3つの超可変領域が相互作用して、VH-VL二量体の表面に抗原結合部位を規定する。まとめると、これらの6つの超可変領域が、抗体に抗原結合特異性を付与する。しかしながら、単一の可変ドメイン(または抗原に特異的な3つの超可変領域のみを含むFvの半分)であっても、結合部位全体に比べて低い親和性ではあるが、抗原を認識して結合する能力を有する。
【0123】
Fabフラグメントはまた、軽鎖の定常ドメインおよび重鎖の第一定常ドメイン(CHI)も含む。Fab’フラグメントは、重鎖CHIドメインのカルボキシ末端に、抗体ヒンジ領域由来の1つ以上のシステインを含めた数個の残基が付加されているという点で、Fabフラグメントとは異なる。Fab’-SHは、定常ドメインのシステイン残基(1つまたは複数)が少なくとも1つの遊離チオール基を有するFab’に対する、本明細書における呼称である。F(ab’)Z抗体フラグメントは元々、それらの間にヒンジシステインを有するFab’フラグメントのペアとして生成された。抗体フラグメントの他の化学的カップリングも公知である。
【0124】
用語「単一ドメイン抗体」とは、相補性決定領域が単一ドメインポリペプチドの一部である抗体をいう。例としては、重鎖抗体(ナノボディ)、天然に軽鎖を欠く抗体、従来の4鎖抗体に由来する単一ドメイン抗体、改変抗体、および抗体由来のもの以外の単一ドメインスキャホールドが挙げられるが、これらに限定されない。単一ドメイン抗体は、当該分野の任意のものであっても、任意の将来の単一ドメイン抗体であってもよい。単一ドメイン抗体は、マウス、ヒト、ラクダ、ラマ、ヤギ、ウサギ、ウシが挙げられるがこれらに限定されない任意の種に由来するものであってもよい。
【0125】
「単鎖Fv」または「scFv」抗体フラグメントは、抗体のVHおよびVLドメインを含み、これらのドメインは、単一のポリペプチド鎖に存在する。好ましくは、Fvポリペプチドは、VHドメインとVLドメインとの間にポリペプチドリンカーをさらに含み、これによりscFvが抗原結合のための所望の構造を形成することが可能になる。scFvの総説については、「モノクローナル抗体の薬理学(The Pharmacology of Monoclonal Antibodies)」、113巻、RosenburgおよびMoore編、Springer-Verlag、N.Y.、269~315頁(1994)におけるPluckthunを参照のこと。
【0126】
より好ましくは、Fvフラグメントの2つのドメインであるVLおよびVHは、天然には別個の遺伝子によってコードされているが、あるいはそのような遺伝子配列をコードするポリヌクレオチド(例えば、それらをコードするcDNA)を、組換え法を用いて、VL領域とVH領域が結合して一価エピトープ結合分子を形成する単一タンパク質鎖(単鎖Fv(scFv)として公知)として作製することを可能にする柔軟なリンカーによって連結させてもよい。あるいは、単一ポリペプチド鎖のVLドメインとVHドメインが互いに結合するには短すぎる(例えば、約9残基未満)柔軟なリンカーを使用することによって、二重特異性抗体、ダイアボディなどの分子(2つのそのようなポリペプチド鎖が互いに結合して2価のエピトープ結合分子を形成するもの)を形成してもよい。本発明の範囲内に包含されるエピトープ結合抗体フラグメントの例としては、(i)Fab’またはFabフラグメント、すなわちVL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価のフラグメント、あるいはWO2007059782に記載されている一価の抗体;(ii)F(ab’)2フラグメント、すなわちヒンジドメインでジスルフィド架橋によって連結された2つのFabフラグメントを含む二価のフラグメント;(iii)本質的にVHドメインおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント;(iv)本質的にVLドメインおよびVHドメインからなるFvフラグメント、(v)本質的にVHドメインからなり、ドメイン抗体とも呼ばれるdAbフラグメント;(vi)ラクダ類のもの(camelid)またはナノボディ、および(vii)単離された相補性決定領域(CDR)が挙げられる。さらに、Fvフラグメントの2つのドメインであるVLおよびVHは、別個の遺伝子によってコードされているが、組換え法を用いて、VL領域およびVH領域が対合して一価分子を形成する単一タンパク質鎖(単鎖抗体または単鎖Fv(scFv)として公知)として作製することを可能にする合成リンカーによって連結させてもよい。
【0127】
用語「ナノボディ」とは、免疫グロブリンの重鎖(VHフラグメント)の抗原結合領域のみで形成された小さなサイズの実体(15kDa)をいう。上記ナノボディは、ラクダ、ラマおよびヒトコブラクダなどのラクダ科の動物(主にラマ);ならびに軽鎖を天然に欠き重鎖可変ドメインで抗原を認識する抗体を有するという特殊性を有するサメ科の動物を免疫化した後に主に作製される。とはいえ、これらの供給源に由来するナノボディは、それらを治療に適用するためにはヒト化プロセスを要する。ナノボディを得るための別の有望な供給源は、可変領域のVHドメインおよびVLドメインを分離することによって異なるヒト試料に由来する抗体に由来する。ナノボディには、全抗体と比較して製造コストの削減、安定性、および免疫原性の低減などの利点がある。
【0128】
用語「ダイアボディ」とは、2つの抗原結合部位を有する小さな抗体フラグメントをいい、それらのフラグメントは、軽鎖可変ドメイン(VL)に連結された重鎖可変ドメイン(VH)を、同じポリペプチド鎖内に含む(VH-VL)。同じ鎖上の2つのドメイン間での対合を可能とするには短すぎるリンカーを使用することにより、これらのドメインは別の鎖の相補的ドメインと対合することを余儀なくされ、2つの抗原結合部位を創出する。
【0129】
本発明の範囲内に包含されるグリコシル化ApoJに結合する抗体の機能性フラグメントは、それらが由来する完全長抗体の少なくとも1つの結合機能および/または調節機能を保持している。好ましい機能性フラグメントは、対応する完全長抗体の抗原結合機能(例えば、哺乳動物のCCR9を結合する能力)を保持している。
【0130】
本発明はまた、二重特異性抗体も包含し得る。二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なるエピトープに対する結合特異性を有する抗体である。例示的な二重特異性抗体は、グリコシル化ApoJの2つの異なるエピトープに結合し得る。二重特異性抗体は、完全長抗体または抗体フラグメントとして調製され得る(例えば、F(ab)2二重特異性抗体、ミニボディ、ダイアボディ)。異なるアプローチによれば、所望の結合特異性を有する抗体可変ドメイン(抗体-抗原結合部位)を、免疫グロブリン定常ドメイン配列に融合させる。この融合は、ヒンジ領域、CH2領域、およびCH3領域の少なくとも一部を含む免疫グロブリン重鎖定常ドメインとの融合であることが好ましい。 軽鎖結合に必要な部位を含む第一重鎖定常領域(CHI)が、融合物の少なくとも1つに存在することが好ましい。免疫グロブリン重鎖融合物をコードするDNAと、必要に応じて免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAを、別個の発現ベクターに挿入し、適切な宿主生物に同時導入する。これにより、3つのポリペプチド鎖を等しくない比で構築に使用すると最適な収率が得られる実施形態において、3つのポリペプチドフラグメントの相互割合を調整する際に極めて融通がきく。しかしながら、少なくとも2つのポリペプチド鎖が等しい比で発現すると高い収率が得られる場合、または比が特に重要でない場合には、2つのまたは3つすべてのポリペプチド鎖のコード配列を1つの発現ベクターに挿入することも可能である。
【0131】
抗体フラグメントから二重特異性抗体を作製するための技術もまた、文献に記載されている。例えば、二重特異性抗体は、化学結合を用いて調製され得る。
【0132】
グリコシル化ApoJに結合する能力を有するフラグメントは、当業者に公知の従来の方法によっても得られ得る。上記方法は、目的のモノクローナル抗体のポリペプチド鎖(またはそのフラグメント)をコードするDNAを単離する工程、および組換えDNA技術によってDNAを操作する工程を含み得る。DNAを使用して、目的の別のDNAを、あるいは、1つ以上のアミノ酸を付加、欠失または置換した改変DNA(例えば変異誘発によって)を作製してもよく、例えば、抗体(例えば、重鎖もしくは軽鎖、可変領域、または抗体全体)のポリペプチド鎖をコードするDNAは、グリコシル化ApoJで免疫したマウス由来のマウスB細胞から単離してもよい。DNAは、従来の方法によって、例えばPCRによって、単離および増幅され得る。
【0133】
単鎖抗体は、アミノ酸架橋によって重鎖および軽鎖の可変領域(Fv領域)を結合する従来の方法によって得られ得る。scFvsは、可変領域(VLおよびVH)のポリペプチドをコードするDNAの間にリンカーペプチドをコードするDNAを融合させることによって調製され得る。scFvsの生成については、例えば、米国特許US4,946,778、Bird(Science 242:423,1988)、Hustonら(Proc.Natl.Acad Sci USA 85:5879,1988)およびWardら(Nature 334:544,1989)など、いくつかの文献に記載されている。
【0134】
別の実施形態において、抗体は、VLドメインおよびVHドメインを含む。用語「VHドメイン」とは、免疫グロブリン重鎖のアミノ末端可変ドメインをいい、用語「VLドメイン」とは、免疫グロブリン軽鎖のアミノ末端可変ドメインをいう。本明細書に記載されるVLドメインは、定常ドメインに連結されて、軽鎖、例えば完全長軽鎖を形成してもよい。本明細書に記載されるVHドメインは、定常ドメインに連結されて、重鎖、例えば、完全長重鎖を形成してもよい。
【0135】
さらなる実施形態において、本発明の抗体は、検出可能な標識と結合している。別の好ましい実施形態において、上記標識は、その物理的、化学的、電気的または磁気的特性の少なくとも1つの変化によって検出され得る。
【0136】
本発明との関連において、用語「検出可能な標識」または「標識剤」とは、本明細書中で使用される場合、例えば、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的または化学的手段による検出に適した手順および装置を用いて、標識が付着している分子の検出、局在化および/または同定を可能にする分子標識をいう。抗体を標識するのに適した標識剤としては、放射性核種、酵素、フルオロフォア、化学発光試薬、酵素基質または補因子、酵素阻害剤、粒子、磁性粒子、染料および誘導体などが挙げられる。
【0137】
放射性同位元素(放射性同位体または放射性核種とも呼ばれる)によって放射性標識された化合物としては、3H、14C、15N、35S、90Y、99Tc、mIn、125I、131I、133Xe、111Lu、211Atおよび213Bが挙げられるが、これらに限定されない。放射性同位体標識は、典型的には、DOTA、DOTP、DOTMA、DTPAおよびTETAなどの金属イオンを錯化する能力を有するキレート配位子を使用することによって行われる。放射性同位体をタンパク質に結合させる方法は、先行技術において周知である。
【0138】
別の特定の実施形態において、本発明の抗体は、蛍光基で標識される。蛍光基は、アミノ酸の側鎖に直接または連結基を介して結合され得る。ポリペプチドを蛍光試薬に結合させる方法は、従来技術において周知である。
【0139】
抗体などのポリペプチドを蛍光基で標識するのに適した試薬としては、タンパク質の側鎖にリストされている種々の基(アミノ基およびチオール基など)と反応する能力を示す化学基が挙げられる。したがって、本発明による抗体の修飾に使用され得る化学基としては、限定されないが、マレイミド、ハロアセチル、ヨードアセトアミド、スクシンイミジルエステル(例えば、NHS、N-ヒドロキシスクシンイミド)、イソチオシアネート、塩化スルホニル、2,6-ジクロロトリアジニル、ペンタフルオロフェニルエステル、ホスホラミダイトなどが挙げられる。適切な反応性官能基の例は、カルボキシル基で修飾された検出基のN-ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHS)である。典型的には、蛍光化合物を修飾するカルボキシル基は、上記化合物をカルボジイミド試薬(例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド)、ウラン、またはTSTU(0-(N-サクシニミジル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロホウ酸)、HBTU((0-ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸)、もしくはHATU(0-(7-アザベンゾトリアゾール-l-イル)-Ν,Ν,Ν’,Ν’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸)などの試薬、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)タイプの活性化剤およびN-ヒドロキシスクシンイミドと接触させることによって活性化され、標識のNHSエステルが得られる。
【0140】
蛍光標識としては、エチジウムブロマイド、SYBRグリーン、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミンテトラメチルイソチオール(TRIT)、5-カルボキシフルオレセイン、6-カルボキシフルオレセイン、フルオレセイン、HEX(6-カルボキシ-2’,4,4’,5’,7,7’-ヘキサクロロフルオレセイン)、オレゴングリーン488、オレゴングリーン500、オレゴングリーン514、ジョー(6-カルボキシ-4’,5’-ジクロロ-2’,7’-ジメトキシフルオレセイン)、5-カルボキシ-2’,4’,5’,7’-テトラクロロフルオレセイン、5-カルボキシローダミン、ローダミン、テトラメチルローダミン(Tamra)、Rox(カルボキシ-X-ローダミン)、R6G(ローダミン6G)、フタロシアニン、アゾメタジナ(azometazinas)、シアニン(Cy2,Cy3およびCy5)、テキサスレッド、プリンストンレッド、BODIPY FL-Br2、BODIPY530/550、BODIPY TMR、BODIPY558/568、BODIPY564/570、BODIPY576/589、BODIPY581/591、BODIPY TR、BODIPY630/650、BODIPY650/665、DABCYL、エオシン、エリスロシン、エチジウムブロマイド、緑色蛍光タンパク質(GFP)およびその類似体、無機系蛍光性半導体ナノ結晶(量子ドット)、Eu3+およびSm3+などのランタニドベースの蛍光標識、ローダミン、リン-ランタニドまたはFITCが挙げられるが、これらに限定されない。
【0141】
酵素標識としては、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼまたはアルカリホスファターゼが挙げられるが、これらに限定されない。
【0142】
好ましい標識としては、フルオレセイン、アルカリホスファターゼなどのホスファターゼ、ビオチン、アビジン、西洋ワサビペルオキシダーゼなどのペルオキシダーゼ、およびビオチン関連化合物またはアビジン関連化合物(例えば、ストレプトアビジンまたはイリノイ州ロックフォードのPierce社から入手可能なImmunoPure(登録商標)NeutrAvidin)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0143】
別の特定の実施形態において、本発明の抗体は、結合対の第一のメンバーへの結合によって標識される。好ましい実施形態において、この修飾は共有結合性ビオチン化である。用語「ビオチン化」は、本明細書中で使用される場合、分子(典型的にはタンパク質)へのビオチンの共有結合をいう。ビオチン化は、タンパク質の側鎖に結合可能なビオチン試薬を用いて行われ、上記結合は主に、タンパク質の側鎖に含まれる一級アミノ基およびチオール基上で生じる。アミノ基のビオチン化に適した試薬としては、ビオチンと、スクシンイミドエステル、ペンタフルオロフェニルエステルまたはハロゲン化アルキルなどのアミノ基と反応可能な基とを含む分子であって、上記ビオチン部分と反応基が任意の長さのスペーサーで分離されているものが挙げられる。
【0144】
別の特定の実施形態において、本発明の抗体は、金(Au)などの金属イオンで標識されており、コロイド金ナノ粒子を、静電相互作用を介して抗体に直接結合させてもよい。別の特定の実施形態において、コロイド金ナノ粒子をビオチンに予め結合させ、これを抗体に共有結合させてもよい。
【0145】
ポリヌクレオチド、ベクターおよび宿主細胞
グリコシル化ApoJに対して高い親和性および特異性を有するモノクローナル抗体またはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド配列、ならびにこれらのポリヌクレオチド配列を担持するベクターおよび宿主細胞が、本発明の別の態様によって提供される。
【0146】
したがって、第二の態様において、本発明は、本発明の第一の態様による抗体をコードするポリヌクレオチドに関する。
【0147】
本発明は、いくつかの実施形態において、本発明の1つ以上の抗体をコードする核酸分子、具体的にはポリヌクレオチドを提供する。広義の用語「核酸」は、ヌクレオチドのポリマーを含む任意の化合物および/または物質を包含する。これらのポリマーは、しばしばポリヌクレオチドと呼ばれる。本明細書でいう用語「ポリヌクレオチド」とは、長さが少なくとも10塩基のヌクレオチドの重合形態を意味する。特定の実施形態において、これらの塩基は、リボヌクレオチドもしくはデオキシリボヌクレオチド、またはいずれかのタイプのヌクレオチドの修飾形態であってもよい。この用語には、一本鎖形態および二本鎖形態のDNAが包含される。
【0148】
本発明の例示的な核酸またはポリヌクレオチドとしては、リボ核酸(RNAs)、デオキシリボ核酸(DNAs)、トレオース核酸(TNAs)、グリコール核酸(GNAs)、ペプチド核酸(PNAs)、ロック核酸(β-D-リボ配置を有するLNA、a-L-リボ配置を有するa-LNA(LNAのジアステレオマー)、2’-アミノ官能基を有する2’-アミノ-LNA、および2’-アミノ官能基を有する2’-アミノ-a-LNAなどのLNAs)、エチレン核酸(ENA)、シクロヘキセニル核酸(CeNA)またはそれらのハイブリッドもしくは組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0149】
1つの実施形態において、インビトロ転写(IVT)酵素合成法のみを用いて作製される本発明の1つ以上の抗体構築物をコードする線状ポリヌクレオチドは、「IVTポリヌクレオチド」と呼ばれる。IVTポリヌクレオチドの作製方法は当該分野で公知であり、2013年3月9日に出願された同時係属中の国際公開WO2013151666号(代理人整理番号M300)に記載されており、その内容の全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0150】
上記ポリヌクレオチドのいずれも、例えば、コードされたポリペプチドの分泌を指示するシグナルペプチド、本明細書に記載の抗体定常領域、または本明細書に記載の他の異種ポリペプチドをコードする追加の核酸を、さらに含んでもよい。また、本明細書の他の箇所でより詳細に記載されるように、本発明は、上記ポリヌクレオチドの1つ以上を含む組成物を包含する。
【0151】
1つの実施形態において、本発明は、第一のポリヌクレオチドおよび第二のポリヌクレオチドを含む組成物であって、上記第一のポリヌクレオチドが、本明細書に記載のVHドメインをコードし、上記第二のポリヌクレオチドが、本明細書に記載のVLドメインをコードする、組成物を包含する。
【0152】
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドのフラグメントも包含する。さらに、本明細書に記載される融合ポリペプチド、Fabフラグメント、および他の誘導体をコードするポリヌクレオチドも、本発明によって企図される。
【0153】
ポリヌクレオチドは、当該分野で公知の任意の方法で作製または製造されてよい。例えば、抗体のヌクレオチド配列が既知である場合、その抗体をコードするポリヌクレオチドは、化学的に合成されたオリゴヌクレオチドからアセンブルされ得(例えば、Kutmeierら、Bio Techniques 17:242(1994)に記載のように)、これは、簡潔には、抗体をコードする配列の部分を含むオーバーラップするオリゴヌクレオチドを合成し、それらのオリゴヌクレオチドをアニーリングおよび連結し、次いでそれらの連結されたオリゴヌクレオチドをPCRによって増幅することを包含する。
【0154】
あるいは、本発明のグリコシル化ApoJ抗体、またはその抗原結合フラグメント、改変体、もしくは誘導体をコードするポリヌクレオチドは、適切な供給源由来の核酸から作製され得る。特定の抗体をコードする核酸を含むクローンが入手不可能であっても、抗体分子の配列が既知である場合、その抗体をコードする核酸は、化学的に合成されてもよく、あるいは適切な供給源(例えば、抗体cDNAライブラリー、またはその抗体もしくは他の抗グリコシル化ApoJ抗体を発現する任意の組織または細胞(例えば、抗体の発現のために選択されたハイブリドーマ細胞)から作製されたcDNAライブラリー、またはそれらの組織または細胞から単離された核酸、好ましくはポリA+RNA)から、その配列の3’および5’末端にハイブリダイズ可能な合成プライマーを用いたPCR増幅によって取得されてもよく、または、例えば、その抗体をコードするcDNAライブラリー由来のcDNAクローンを特定するために、その特定の遺伝子配列に特異的なオリゴヌクレオチドプローブを用いたクローニングによって取得されてもよい。次いで、PCRによって生成された増幅核酸は、当該分野で周知の任意の方法を使用して、複製可能なクローニングベクターにクローニングされ得る。
【0155】
一旦、抗グリコシル化ApoJ抗体、またはその抗原結合フラグメント、改変体、もしくは誘導体のヌクレオチド配列および対応するアミノ酸配列が決定されると、そのヌクレオチド配列は、異なるアミノ酸配列を含む抗体を作製するために、例えば、アミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を作製するために、例えば、組換えDNA技術、部位特異的変異誘発、PCRなど、ヌクレオチド配列の操作に関する当該分野で周知の方法(例えば、Sambrookら(1990)分子クローニング、実験マニュアル(Molecular Cloning,A Laboratory Manual)(第二版;Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.)およびAusubelら編(1998)分子生物学の最新プロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)(John Wiley&Sons,NY)に記載の技術を参照のこと。これらは両方とも参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を用いて操作され得る。
【0156】
抗グリコシル化ApoJ抗体、またはその抗原結合フラグメント、改変体、もしくは誘導体をコードするポリヌクレオチドは、任意のポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチドから構成され得、これらは未修飾のRNAもしくはDNAであっても、修飾されたRNAもしくはDNAであってもよい。例えば、抗グリコシル化ApoJ抗体、またはその抗原結合フラグメント、改変体、もしくは誘導体をコードするポリヌクレオチドは、一本鎖DNAおよび二本鎖DNA、一本鎖領域および二本鎖領域の混合物であるDNA、一本鎖RNAおよび二本鎖RNA、ならびに一本鎖領域および二本鎖領域の混合物であるRNA、一本鎖であっても、より典型的には二本鎖であっても、一本鎖領域および二本鎖領域の混合物であってもよいDNAおよびRNAを含むハイブリッド分子から構成されてもよい。さらに、抗グリコシル化ApoJ抗体、またはその抗原結合フラグメント、改変体、もしくは誘導体をコードするポリヌクレオチドは、RNAもしくはDNA、またはRNAおよびDNAの両方を含む三本鎖領域から構成されてもよい。
【0157】
抗グリコシル化ApoJ抗体、またはその抗原結合フラグメント、改変体、もしくは誘導体をコードするポリヌクレオチドはまた、1つ以上の修飾塩基または安定性などの理由で改変されたDNA骨格もしくはRNA骨格を含んでもよい。「修飾された」塩基としては、例えば、トリチル化塩基およびイノシンなどの普通でない塩基が挙げられる。DNAおよびRNAには様々な修飾が可能であり、したがって、「ポリヌクレオチド」は化学的、酵素的、または代謝的に修飾された形態を包含する。
【0158】
免疫グロブリン(例えば、免疫グロブリン重鎖部分または軽鎖部分)に由来するポリペプチドの非天然改変体をコードする単離ポリヌクレオチドは、免疫グロブリンのヌクレオチド配列中に1つ以上のヌクレオチド置換、付加または欠失を導入することによって作製され得、その結果、1つ以上のアミノ酸置換、付加または欠失が、そのコードされるタンパク質に導入される。変異は、部位特異的変異誘発およびPCR媒介変異誘発などの標準的な技術によって導入され得る。好ましくは、保存的アミノ酸置換は、1つ以上の非必須アミノ酸残基で行われる。
【0159】
1つの実施形態において、ポリヌクレオチドは、本明細書に記載される抗体、そのフラグメントまたは改変体のうちの少なくとも1つをコードするモジュラー設計を有する。非限定的な例として、ポリヌクレオチド構築物は、以下の設計のいずれかをコードし得る:1)抗体の重鎖、(2)抗体の軽鎖、(3)抗体の重鎖および軽鎖、(4)リンカーによって分離された重鎖および軽鎖、(5)VHI、CHI、CH2、CH3ドメイン、リンカー、および軽鎖、ならびに(6)VHI、CHI、CH2、CH3ドメイン、VL領域、および軽鎖。また、これらの設計のいずれも、任意のドメインおよび/または領域の間に任意のリンカーを含んでもよい。
【0160】
特定の実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、Fab、F(ab)2、単一ドメイン抗体、単鎖可変フラグメント(scFv)、またはナノボディをコードする。
【0161】
好ましい実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、以下からなる群から選択される:
(i)抗体が単一ドメイン抗体、単鎖可変フラグメント(scFv)、またはナノボディである、本発明による抗体をコードするポリヌクレオチド、
(ii)第1表に記載の重鎖可変領域を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(iii)第1表に記載の軽鎖可変領域を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および
(iv)第1表に記載の軽鎖可変領域および第1表に記載の重鎖可変領域を含むポリペプチドをコードする多シストロン性ポリヌクレオチド。
【0162】
好ましい実施形態において、本発明によるポリヌクレオチドは、配列番号143、144、145、146、147、148、149、150または151で定義される配列を含む。
【0163】
関連する態様において、本発明は、本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターに関する。
【0164】
「ベクター」は、シャトルベクターおよび発現ベクターを包含し、例えば、プラスミド、コスミド、またはファージミドなどを包含する。典型的には、プラスミド構築物は、細菌内でのプラスミドの複製および選択のために、それぞれ複製起点(例えば、ColE1複製起点)および選択可能マーカー(例えば、アンピシリン耐性またはテトラサイクリン耐性)を含む。「発現ベクター」とは、本発明の抗体フラグメントを含む抗体を、原核細胞、例えば細菌細胞、または真核細胞で発現させるために必要な制御配列または調節エレメントを含むベクターをいう。適切なベクターを以下に開示する。
【0165】
抗体の組換え生産のためには、その抗体をコードする核酸分子を単離し、複製可能なベクターに挿入してさらにクローニング(DNAの増幅)するか、またはプロモーターと作動可能に連結したベクターに挿入して発現させる。抗体をコードするDNAは、従来の手順を用いて(例えば、抗体の重鎖および軽鎖をコードする核酸分子に特異的に結合可能なオリゴヌクレオチドプローブを用いて)容易に単離および配列決定される。多くのベクターが利用可能である。ベクターの構成要素としては、一般に、シグナル配列、複製起点、1つ以上のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター、および転写終結配列のうちの1つ以上が挙げられるが、これらに限定されない。
【0166】
本発明の抗グリコシル化ApoJ抗体は、直接的のみならず、異種ポリペプチドとの融合ポリペプチドとして組換え的に生成されてもよく、この異種ポリペプチドは、好ましくは、成熟タンパク質または成熟ポリペプチドのN末端に特異的切断部位を有するシグナル配列または他のポリペプチドである。選択される異種シグナル配列は、好ましくは、宿主細胞によって認識され、プロセシングされる(すなわち、シグナルペプチダーゼによって切断される)ものである。ネイティブな抗グリコシル化ApoJ抗体のシグナル配列を認識およびプロセシングしない原核宿主細胞の場合は、このシグナル配列を、例えば、アルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、1pp、または熱安定性エンテロトキシンIIリーダーの群から選択される原核生物シグナル配列で置換する。酵母での分泌の場合には、ネイティブシグナル配列を、例えば、酵母インベルターゼリーダー、oc因子リーダー(サッカロミセス(Saccharomyces)およびクルイベロミセス(Kluyveromyces )のcc因子リーダーなど)、または酸性ホスファターゼリーダー、カンジダ・アルビカンス(C.albicans)グルコアミラーゼリーダー、またはWO90/13646に記載のシグナルで置換してもよい。哺乳動物細胞での発現においては、哺乳動物シグナル配列のみならず、ウイルス分泌リーダー、例えば単純ヘルペスgDシグナルなども利用可能である。このような前駆体領域のDNAは、抗グリコシル化ApoJ抗体をコードするDNAにリーディングフレームでライゲーションされている。
【0167】
発現ベクターおよびクローニングベクターは共に、1つ以上の選択宿主細胞内でベクターが複製することを可能にする核酸配列を含む。一般に、クローニングベクターでは、
この配列は、ベクターが宿主染色体DNAとは独立して複製できるようにする配列であり、複製起点または自己複製配列を含む。このような配列は、様々な細菌、酵母、ウイルスに関して周知である。プラスミドpBR322由来の複製起点はほとんどのグラム陰性菌に適しており、2μプラスミドの起点は酵母に適しており、種々のウイルスの起点(SV40、ポリオーマ、アデノウイルス、VSVまたはBPV)は哺乳動物細胞におけるクローニングベクターに有用である。一般に、複製起点成分は、哺乳動物発現ベクターには必要ではない(SV40の複製起点は、典型的には初期プロモーターを含んでいるという理由だけで使用される場合がある)。
【0168】
発現ベクターおよびクローニングベクターは、選択可能マーカーとも呼ばれる選択遺伝子を含み得る。典型的な選択遺伝子は、(a)抗生物質または他の毒素、例えば、アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキサート、またはテトラサイクリンなどに対する耐性を付与するタンパク質、(b)栄養要求性欠損を補うタンパク質、あるいは(c)複合培地からは得られない重要な栄養素を供給するタンパク質をコードしており、例えば、桿菌(Bacilli)のD-アラニンラセマーゼをコードする遺伝子である。選択スキームの一例として、薬剤を利用して宿主細胞の増殖を停止させる。異種遺伝子での形質転換に成功した細胞は、薬剤耐性を付与するタンパク質を産生するので、選択レジメンを生き残る。このような優性選択の例では、薬物のネオマイシン、ミコフェノール酸およびハイグロマイシンを使用する。
【0169】
哺乳動物細胞に適した選択可能マーカーの別の例としては、抗グリコシル化ApoJ抗体核酸を取り込む能力のある細胞の同定を可能にするものであり、例えば、DHFR、チミジンキナーゼ、メタロチオネイン-Iおよび-11、好ましくは、霊長類メタロチオネイン遺伝子、アデノシンデアミナーゼ、オルニチンデカルボキシラーゼなどである。例えば、DHFR選択遺伝子で形質転換された細胞は、まず、DHFRの競合的拮抗薬であるメトトレキサート(Mtx)を含む培地において形質転換体のすべてを培養することによって同定される。野生型DHFRを使用する場合の適切な宿主細胞は、DHFR活性を欠損したチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株(例えば、ATCC CRL-9096)である。
【0170】
あるいは、抗グリコシル化ApoJ抗体、野生型DHFRタンパク質、および例えばアミノグリコシド3’-ホスホトランスフェラーゼ(APH)などの別の選択可能マーカーをコードするDNA配列で形質転換または同時形質転換された、内因性DHFRを有する宿主細胞、特に野生型宿主は、アミノグリコシド系抗生物質、例えばカナマイシン、ネオマイシンまたはG418などの選択可能マーカーに対する選択薬剤を含む培地中での細胞増殖によって選択され得る。
【0171】
酵母での使用に適した選択遺伝子は、酵母プラスミドYRp7に存在するtrp1遺伝子である(Stinchcombら、Nature,282:39(1979))。trp1遺伝子は、トリプトファン中で増殖する能力が欠如した酵母の変異株、例えば、ATCC番号44076またはPEP4に対する選択マーカーを提供する。Jones,Genetics,85:12(1977)。酵母宿主細胞ゲノムにtrp1損傷が存在することで、トリプトファン非存在下での増殖によって形質転換を検出するための有効な環境が整う。同様に、Leu2欠損酵母株(ATCC20,622または38,626)は、Leu2遺伝子を有する既知のプラスミドによって補完される。
【0172】
また、1.6pmの円形プラスミドpKDI由来のベクターは、クルイベロミセス(Kluyveromyces)酵母の形質転換に使用され得る。あるいは、組換え仔ウシキモシンの大規模生産のための発現系が、クルイベロミセス・ラクチス(K.lactis)について報告された。Van den Berg,Bio/Technology, 8:135(1990)。また、クルイベロミセス(Kluyveromyces)の工業用株による成熟組換えヒト血清アルブミンの分泌のための安定したマルチコピー発現ベクターも開示されている。Fleerら、Bio/Technology,9:968~975(1991)。
【0173】
発現ベクターおよびクローニングベクターは、通常、宿主生物に認識され、かつ抗グリコシル化ApoJ抗体核酸に作動可能に連結されたプロモーターを含む。原核生物宿主での使用に適したプロモーターとしては、phoAプロモーター、P-ラクタマーゼおよびラクトースプロモーター系、アルカリホスファターゼプロモーター、トリプトファン(trp)プロモーター系、ならびにtacプロモーターなどのハイブリッドプロモーターが挙げられる。しかしながら、他の既知の細菌プロモーターも適している。細菌系で使用するためのプロモーターはまた、抗グリコシル化ApoJ抗体をコードするDNAに作動可能に連結されたシャイン-ダルガーノ(S.D.)配列を含む。
【0174】
真核生物については、プロモーター配列は公知である。事実上すべての真核細胞遺伝子は、転写が開始される部位から約25~30塩基上流に位置するATリッチ領域を有する。多くの遺伝子の転写開始点から70~80塩基上流に存在する別の配列は、CNCAAT領域であり、ここでNは任意のヌクレオチドであってよい。ほとんどの真核細胞遺伝子の3’末端は、コード配列の3’末端にポリAテールを付加するためのシグナルであり得るAATAAA配列である。これらの配列はすべて、真核細胞発現ベクター中に適宜挿入される。酵母宿主での使用に適したプロモーター配列の例としては、3-ホスホグリセリン酸キナーゼまたは他の解糖酵素、例えば、エノラーゼ、グリセルアルデヒドリン酸脱水素酵素、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコースリン酸イソメラーゼ、3-ホスホグリセリン酸ムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、およびグルコキナーゼなどのプロモーターが挙げられる。
【0175】
他の酵母プロモーターには、増殖条件によって転写が制御されるという付加的利点を有する誘導性プロモーターである、アルコール脱水素酵素2、イソシトクロムC、酸性ホスファターゼ、窒素代謝に関わる分解酵素、メタロチオネイン、グリセルアルデヒドリン酸脱水素酵素、ならびにマルトースおよびガラクトース利用に関わる酵素のプロモーター領域がある。酵母発現における使用に適したベクターおよびプロモーターは、EP73,657にさらに記載されている。酵母エンハンサーもまた、酵母プロモーターとともに有利に使用される。
【0176】
哺乳動物宿主細胞におけるベクターからの抗グリコシル化ApoJ抗体の転写は、例えば、ポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス、アデノウイルス(アデノウイルス2など)、ウシパピローマウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルスおよび最も好ましくはシミアンウイルス40(SV40)などのウイルスのゲノムから得られるプロモーターによって、アクチンプロモーターまたは免疫グロブリンプロモーターなどの異種哺乳動物プロモーターによって、熱ショックプロモーターによって、これらのプロモーターが宿主細胞系に適合しているという条件で、制御される。
【0177】
SV40ウイルスの初期および後期プロモーターは、SV40ウイルスの複製起点も含むSV40制限フラグメントとして好都合に得られる。ヒトサイトメガロウイルスの前初期プロモーターは、HindIII E制限フラグメントとして好都合に得られる。ウシパピローマウイルスをベクターとして使用して哺乳動物宿主においてDNAを発現させる系が、米国特許4,419,446号に開示されている。この系の改変は、米国特許4,601,978号に記載されている。単純ヘルペスウイルス由来のチミジンキナーゼプロモーターの制御下での、マウス細胞におけるヒトP-インターフェロンcDNAの発現に関しては、Reyesら、Nature 297:598~601(1982)も参照のこと。あるいは、ラウス肉腫ウイルスの長末端反復配列をプロモーターとして使用してもよい。
【0178】
高等真核生物による、本発明の抗グリコシル化ApoJ抗体をコードするDNAの転写は、ベクター中にエンハンサー配列を挿入することによって増大する場合が多い。哺乳動物遺伝子(グロビン、エラスターゼ、アルブミン、α-フェトプロテイン、およびインスリン)由来の多数のエンハンサー配列が、いまや既知である。しかしながら、通常は、真核細胞ウイルス由来のエンハンサーを使用する。例としては、複製起点の後側にあるSV40エンハンサー(100~270bp)、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後側にあるポリオーマエンハンサー、およびアデノウイルスエンハンサーが挙げられる。真核細胞プロモーターの活性化のための増強エレメントに関しては、Yaniv、Nature 297:17~18(1982)も参照のこと。エンハンサーは、抗グリコシル化ApoJ抗体をコードする配列の5’または3’の位置でベクター中にスプライシングされてもよいが、好ましくは、プロモーターから5’の部位に配置される。
【0179】
真核生物宿主細胞(酵母、真菌、昆虫、植物、動物、ヒト、またはその他の多細胞生物由来の有核細胞)において使用される発現ベクターはまた、転写の終結およびmRNAの安定化に必要な配列も含む。このような配列は、真核生物またはウイルスのDNAまたはcDNAの5’および場合により3’非翻訳領域から一般に入手可能である。これらの領域は、抗グリコシル化ApoJ抗体をコードするmRNAの非翻訳部分にポリアデニル化フラグメントとして転写されるヌクレオチドセグメントを含む。1つの有用な転写終結成分は、ウシ成長ホルモンポリアデニル化領域である。WO94/11026およびそこに開示される発現ベクターを参照のこと。
【0180】
別の関連する態様において、本発明は、本発明のポリヌクレオチドまたはベクターを含む宿主細胞に関する。
【0181】
用語「宿主細胞」は、本明細書中で使用される場合、例えば本発明によるポリヌクレオチドまたはベクターなどの本発明の核酸が導入され、本発明のマイクロペプチドを発現可能な細胞をいう。用語「宿主細胞」および「組換え宿主細胞」は、本明細書中で互換的に使用される。このような用語は、特定の対象細胞をいうだけでなく、このような細胞の子孫または潜在的子孫もいうことが理解されるべきである。変異または環境の影響のいずれかによって、次の世代で特定の改変が生じ得るため、このような子孫は、実際には親細胞と同一ではない場合があるが、依然として本明細書中で使用される用語の範囲内に包含される。この用語は、異種DNAの導入によって改変され得る任意の培養可能な細胞を包含する。好ましくは、宿主細胞は、その細胞内で本発明のポリヌクレオチドが安定的に発現され、翻訳後修飾され、適切な細胞内区画に局在し、適切な転写装置に結合され得るものである。適切な宿主細胞の選択は、検出シグナルの選択によっても影響を受ける。
【0182】
本明細書におけるベクター中のDNAのクローニングまたは発現に適した宿主細胞は、上記の原核生物、酵母、または高等真核生物の細胞である。この目的に適した原核生物としては、グラム陰性生物またはグラム陽性生物などの真正細菌、例えば、大腸菌属(Escherichia)、例えば大腸菌(E.coli)、エンテロバクター属(Enterobacter)、エルウィニア属(Erwinia)、クレブシエラ属(Klebsiella)、プロテウス属(Proteus)、サルモネラ属(Salmonella)、例えばサルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)、セラチア属(Serratia)、例えばセラチア・マルセセンス(Serratia marcescans)、および赤痢菌属(Shigella)などの腸内細菌科、ならびにバチルス属(Bacilli)、例えば枯草菌(B.subtilis)およびB.リケニフォルミス(B.licheniformis)(例えば、1989年4月12日に公開されたDD266,710に開示されたB.リケニフォルミス41P)、シュードモナス属(Pseudomonas)、例えば緑膿菌(P.aeruginosa)、およびストレプトミセス属(Streptomyces)が挙げられる。1つの好ましい大腸菌クローニング宿主は、大腸菌294(ATCC31,446)であるが、大腸菌B、大腸菌X1776(ATCC31,537)、および大腸菌W31 10(ATCC27,325)などの他の株も適する。これらの例は、限定するものではなく例示的なものである。
【0183】
特に、グリコシル化およびFcエフェクター機能が必要でない場合、例えば、治療用抗体を細胞傷害性薬剤(例えば、毒素)と結合させ、その免疫複合体が単体で腫瘍細胞の破壊に有効性を示す場合などには、完全長抗体、抗体フラグメント、および抗体融合タンパク質は、細菌内で産生させ得る。完全長抗体は、循環中の半減期がより長い。大腸菌での産生は、より速く、より費用対効果が高い。細菌における抗体フラグメントおよびポリペプチドの発現については、例えば、米国特許5,648,237号(Carterら)、米国特許5,789,199(Jolyら)、および米国特許5,840,523(Simmonsら)を参照のこと。これらの特許には、発現および分泌を最適化するための翻訳開始領域(TIR)およびシグナル配列が記載されており、これらの特許は、参照により本明細書に組み込まれる。発現後、抗体は大腸菌細胞ペーストから可溶性画分中に単離され、アイソタイプに応じて、例えばプロテインAカラムまたはプロテインGカラムなどで精製され得る。最終的な精製は、例えばCHO細胞で発現させた抗体を精製するプロセスと同様に実施され得る。
【0184】
原核生物に加えて、糸状菌または酵母などの真核微生物も、抗グリコシル化ApoJ抗体をコードするベクターに適したクローニング宿主または発現宿主である。サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、すなわち一般的なパン酵母は、下等真核生物宿主微生物の中で最もよく使用される。しかしながら、いくつかの他の属、種、および株が一般に利用可能であり、本明細書において有用であり、これらとしては、例えば、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe);クルイベロミセス属(Kluyveromyces)宿主、例えば、K.ラクチス(K.lactis)、K.フラギリス(K.fragilis)(ATCC12,424)、K.ブルガリクス(K.bulgaricus)(ATCC16,045)、K.ウィッケラミイ(K.wickeramii)(ATCC24,178)、K.ワルティイ(K.waltii)(ATCC56,500)、K.ドロソフィラルム(K.drosophilarum)(ATCC36,906)、K.サーモトレランス(K.thermotolerans)、およびK.マルキシアヌス(K.marxianus)など;ヤロウイア属(yarrowia)(EP402,226);ピキア・パストリス(Pichia pastoris)(EP183,070);カンジダ属(Candida);トリコデルマ・リーシア(Trichoderma reesia)(EP244,234);アカパンカビ(Neurospora crassa);シュワニオミセス属(Schwanniomyces)、例えば、シュワニオミセス・オキシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis);ならびに糸状菌、例えば、アカパンカビ属(Neurospora)宿主、アオカビ属(Penicillium)宿主、トリポクラジウム属(Tolypocladium)宿主、およびアスペルギルス属(Aspergillus)宿主、例えば、A.ニデュランス(A.nidulans)およびA.ニガー(A.niger)などが挙げられる。
【0185】
グリコシル化抗グリコシル化ApoJ抗体の発現に適した宿主細胞は、多細胞生物に由来する。無脊椎動物細胞の例としては、植物および昆虫の細胞が挙げられる。多数のバキュロウイルス株および改変体、ならびに宿主、例えばヨトウガ(Spodoptera frugiperda )(イモムシ)、ネッタイシマカ(Aedes aegypti) (蚊)、ヒトスジシマカ(Aedes albopictus) (蚊)、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster) (ショウジョウバエ)、およびカイコ(Bombyx mori) などに由来する、対応する許容昆虫宿主細胞が同定されている。トランスフェクションのための様々なウイルス株、例えば、オートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)NPVのL-1改変体およびカイコ(Bombyx mori)NPVのBm-5株などが公的に入手可能であり、このようなウイルスは、本発明による本明細書のウイルスとして、特にヨトウガ(Spodoptera frugiperda)細胞のトランスフェクションに使用され得る。
【0186】
また、綿、トウモロコシ、ジャガイモ、大豆、ペチュニア、トマト、シロイヌナズナ属(Arabidopsis)およびタバコなどの植物細胞培養物も、宿主として利用され得る。植物細胞培養におけるタンパク質の生産に有用なクローニングベクターおよび発現ベクターは、当業者に公知である。例えば、Hiattら、Nature(1989)342:76~78、Owenら(1992)Bio/Technology 10:790~794、Artsaenkoら(1995)The Plant J 8:745~750、およびFeckerら(1996)Plant Mol Biol 32:979~986を参照のこと。
【0187】
しかしながら、最も関心が高いのは脊椎動物細胞であり、培養(組織培養)での脊椎動物細胞の増殖は、日常的な手順になっている。有用な哺乳動物宿主細胞株の例は、SV40によって形質転換されたサル腎臓CVI株(COS-7、ATCC CRL1651);ヒト胚腎臓株(293または懸濁培養での増殖のためにサブクローン化された293細胞、Grahamら、J.Gen Virol.36:59(1977));ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO、Urlaubら、Proc.Natl.Acad.Sci. USA77:4216(1980));マウスセルトリ細胞(TM4、Mather,Biol.Reprod.23:243~251(1980));サル腎臓細胞(CVI ATCC CCL70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76、ATCC CRL1587);ヒト子宮頸癌細胞(HELA、ATCC CCL2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL34);バッファローラット肝細胞(BRL 3A、ATCC CRL1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL75);ヒト肝細胞(HepG2、1413 8065);マウス乳腺腫瘍(MMT060562、ATCC CCL5 1);TRI細胞(Matherら、Annals N.Y.Acad.Sci.383:44~68(1982));MRC5細胞;FS4細胞;およびヒト肝細胞腫株(HepG2)である。
【0188】
抗グリコシル化ApoJ抗体を作製するために、宿主細胞を上記の発現ベクターまたはクローニングベクターで形質転換し、プロモーターの誘導、形質転換体の選択、または所望の配列をコードする遺伝子の増幅のために適宜改変された従来の栄養培地で培養する。
【0189】
本発明の抗グリコシル化ApoJ抗体の作製に使用される宿主細胞は、様々な培地で培養され得る。HamのFIO(Sigma)、最小必須培地(MEM)(Sigma)、RPMI-1640(Sigma)、およびダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Sigma)などの市販の培地が、宿主細胞の培養に適している。さらに、Hamら、Meth.Enz.58:44(1979)、Barnesら、Anal.Biochem.102:255(1980)、米国特許4,767,704号;4,657,866号;4,927,762号;4,560,655号;または5,122,469号;WO90/03430;WO87/00195;あるいは米国特許Re.30,985号に記載の培地のいずれも、宿主細胞の培地として使用してよい。これらの培地のいずれにも、必要に応じて、ホルモンおよび/または他の成長因子(インスリン、トランスフェリン、または上皮成長因子など)、塩類(塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、およびリン酸塩など)、緩衝剤(HEPESなど)、ヌクレオチド(アデノシンおよびチミジンなど)、抗生物質(ゲンタマイシン(商標)薬など)、微量元素(通常、マイクロモル範囲の最終濃度で存在する無機化合物と定義される)、ならびにグルコースまたは同等のエネルギー源が補充されていてよい。任意の他の必要な補充物も、当業者に公知であろう適切な濃度で含有され得る。温度、pHなどの培養条件は、発現のために選択された宿主細胞で以前に使用されたものであり、当業者には明らかであろう。
【0190】
組換え技術を使用する場合、抗体を、細胞内で(細胞膜周辺腔で)産生させても、あるいは培地中に直接分泌させてもよい。抗体が細胞内で産生される場合、第一の工程として、宿主細胞または溶解断片のいずれかである粒子状デブリを、例えば、遠心分離または限外濾過によって除去する。Carterら、Bio/Technology 10:163~167(1992)には、大腸菌(E.coli)の細胞膜周辺腔に分泌される抗体を単離するための手順が記載されている。簡潔には、細胞ペーストを、酢酸ナトリウム(pH3.5)、EDTA、およびフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)の存在下で、約30分間にわたって解凍する。細胞デブリは、遠心分離によって除去し得る。抗体が培地中に分泌される場合、そのような発現系からの上清を、一般的には先ず、市販のタンパク質濃縮フィルター、例えば、AmiconまたはMillipore Pellicon限外濾過ユニットを使用して濃縮する。PMSFなどのプロテアーゼ阻害剤を前述の工程のいずれかに含めてタンパク質分解を阻害してもよく、抗生物質を含めて外来性混入物の増殖を防いでもよい。
【0191】
細胞から調製された抗体組成物は、例えば、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、およびアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製され得るが、アフィニティークロマトグラフィーが好ましい精製技術である。アフィニティーリガンドとしてのプロテインAの適合性は、抗体に存在する任意の免疫グロブリンFcドメインの種およびアイソタイプに依存する。プロテインAは、ヒトγ1、ヒトγ2、またはヒトγ4の重鎖に基づく抗体を精製するために使用され得る(Lindmarkら、J.Immunol.Meth.62:1~13(1983))。プロテインGは、すべてのマウスアイソタイプおよびヒトγ3に推奨される(Gussら、EMBO J.5:15671575(1986))。アフィニティーリガンドを結合させるマトリックスは、ほとんどの場合アガロースであるが、他のマトリックスも利用可能である。制御細孔ガラスまたはポリ(スチレンジビニル)ベンゼンなどの機械的に安定なマトリックスは、アガロースで達成され得るよりも速い流速および短い処理時間が可能にする。抗体がCH3ドメインを含む場合、精製にはBakerbond ABX(商標)樹脂(J.T.Baker、Phillipsburg、N.J.)が有用である。イオン交換カラムでの分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカでのクロマトグラフィー、ヘパリンSEPHAROSE(商標)でのクロマトグラフィー、陰イオンまたは陽イオン交換樹脂(ポリアスパラギン酸カラムなど)でのクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE、および硫酸アンモニウム沈殿などのタンパク質精製のための他の技術もまた、回収される抗体によっては利用可能である。
【0192】
任意の予備精製工程に続いて、目的の抗体および混入物を含む混合物を、約2.5~4.5のpHの溶出緩衝液を用いて、好ましくは低い塩濃度(例えば、約0~0.25Mの塩)で実施される低pH疎水性相互作用クロマトグラフィーに供してもよい。
【0193】
組成物
第三の態様において、本発明は、本発明の第一の態様または上述の具体的な実現もしくは実施形態のいずれかにおいて定義される少なくとも2つの抗体を含む組成物に関する。
【0194】
用語「組成物」は、本明細書中で使用される場合、上述の抗体のいずれかを任意の割合および量で含む材料組成物、ならびに異なる抗体を任意の量で組み合わせることにより直接的または間接的に得られる任意の生成物に関するものである。
【0195】
好ましい実施形態において、本発明の組成物の一部を形成する抗体のw/w比は、典型的には、約0.01:1~100:1の範囲内である。適切な比としては、例えば、0.05:1、0.1:1、0.5:1、1:1、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:10、1:15、1:20、1:25、1:30、1:35、1:40、1:45、1:50、1:55、1:60、1:65、1:70、1:75、1:80、1:85、1:90、1:95、1:100、100:1、95:1、90:1、85:1、80:1、75:1、70:1、65:1、60:1、55:1、50、45:1、40:1、35:1、30:1、25:1、20:1、15:1、10:1、9:1、8:1、7:1、6:1、5:1、4:1、3:1、2:1、1:0.5、1:0.1および1:0.05が挙げられるが、これらに限定されない。
【0196】
さらに好ましい実施形態において、本発明の組成物の一部を形成する抗体のw/w比は、1:1である。
【0197】
当業者であれば、上記組成物が単一の処方物として処方されても、または各抗体の個別の処方物として提供されてもよく、これらは組み合わせ調製物として併用使用するために組み合わされてもよいことがわかる。上記組成物は、各成分が個別に処方および包装されたパーツキットであってもよい。
【0198】
特定の実施形態において、本発明の組成物は、抗体の1つがAg2G-17抗体であることを特徴とする。
【0199】
別の実施形態において、本発明の組成物は以下を含む:
(i) Ag2G-17抗体およびAg6G-1抗体、
(ii) Ag2G-17抗体およびAg6G-11抗体、
(iii) Ag2G-17抗体およびAg7G-19抗体、
(iv) Ag2G-17抗体およびAg1G-11抗体、
(v) Ag2G-17抗体およびAg7G-17抗体、
(vi) Ag2G-17抗体およびAg4G-6抗体、
(vii) Ag2G-17抗体およびAg3G-4抗体、または
(viii)Ag2G-17抗体およびAg5G-17抗体。
【0200】
抗グリコシル化ApoJの検出方法
第四の態様において、本発明は、試料中のグリコシル化ApoJを特定するための方法(以下、本発明の第一の方法)に関し、該方法は以下の工程を含む:
(i)上記試料と、本発明の抗体または本発明の組成物とを、上記抗体と上記試料中に存在するグリコシル化ApoJとの間の複合体の形成に適した条件下で接触させる工程と、
(ii)工程(i)で形成された複合体の量を特定する工程。
【0201】
一般に、免疫結合法は、グリコシル化ApoJタンパク質を含むことが疑われる試料を入手する工程、および上記試料と、グリコシル化ApoJタンパク質を選択的に結合または検出し得る組成物とを、免疫複合体の形成を可能にするのに有効な条件下で接触させる工程を含む。
【0202】
試料は、グリコシル化ApoJタンパク質を含むことが疑われる任意の試料、例えば、組織切片または検体、ホモジナイズされた組織抽出物、細胞、オルガネラ、任意の上記抗原含有組成物の分離形態および/または精製形態、あるいは血液、血清および血漿などの任意の生体体液などであってよい。好ましくは、グリコシル化ApoJタンパク質を含むことが疑われる試料は、血液、血清または血漿である。
【0203】
選択された生物学的試料と、本発明の抗体とを、免疫複合体の形成を可能にするのに有効な条件下かつ十分な期間接触させる工程は、一般に、単に上記抗体組成物を上記試料に添加し、この混合物を上記抗体が免疫複合体を形成するのに十分な期間インキュベートするだけのことである。
【0204】
「複合体の形成に適した条件下で」とは、好ましくは、BSA、ウシγグロブリン(BGG)またはリン酸緩衝食塩水(PBS)/Tweenなどの溶液で抗原および/または抗体を希釈することを包含する条件を意味する。これらの添加される薬剤は、非特異的バックグラウンドの低下も補助する傾向がある。
【0205】
「適切な」または「適した」条件とは、インキュベーションが、効果的な結合を可能にするのに十分な温度または期間でなされることも意味する。インキュベーション工程は、典型的には、約1~2時間から4時間程度まで、好ましくは約25℃~27℃の温度で実施するか、または約4℃程度で一晩実施してもよい。
【0206】
形成された複合体の量の決定は、いくつかの方法で実施され得る。好ましい実施形態において、抗体を標識し、結合を直接決定する。例えば、グリコシル化ApoJタンパク質を固体支持体に付着させ、標識抗体(例えば、蛍光標識)を添加し、過剰な試薬を洗浄除去し、標識が固体支持体上に存在するか否かを決定することによって実施され得る。当該分野で公知のように、様々なブロッキング工程および洗浄工程を利用し得る。
【0207】
一般に、免疫複合体形成の検出は、当該分野で周知であり、多くのアプローチの適用によって達成され得る。これらの方法は、一般に、放射性タグ、蛍光性タグ、生物学的タグおよび酵素的タグのいずれかなどの標識またはマーカーの検出に基づいている。このような標識の使用に関する米国特許としては、米国特許3,817,837号;3,850,752号;3,939,350号;3,996,345号;4,277,437号;4,275,149号および4,366,241号が挙げられる。もちろん、当該分野で公知のように、二次抗体などの二次結合リガンドおよび/またはビオチン/アビジンリガンド結合配置の使用により、さらなる利点を見出し得る。
【0208】
好ましい実施形態において、本発明の第一の方法の工程(ii)における複合体の特定は、抗ApoJ抗体を用いて実施される。
【0209】
さらに好ましい実施形態において、本発明の第一の方法の工程(i)で使用される抗体または工程(i)で使用される組成物中の抗体は、固定化されている。
【0210】
当業者であれば、標識されていない本発明の抗体(一次抗体)および標識された本発明の抗体(二次抗体)を使用する、本発明で使用され得る多種多様な従来のアッセイが存在することを理解するであろう。これらの技術としては、ウェスタンブロットまたはイムノブロット、ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、競合EIA(競合酵素イムノアッセイ)、DAS-ELISA(二重抗体サンドイッチ-ELISA)、免疫細胞化学的技術および免疫組織化学的技術、フローサイトメトリー、または本発明の抗体を含むタンパク質ミクロスフェア、バイオチップもしくはマイクロアレイの使用に基づく多重検出技術が挙げられる。本発明の抗体を用いてグリコシル化ApoJを検出および定量する他の方法としては、アフィニティークロマトグラフィー技術、リガンド結合アッセイまたはレクチン結合アッセイが挙げられる。
【0211】
標識されていない抗体は、追加の試薬、例えば、標識された二次抗体を用いて検出される必要があることも理解されるであろう。これにより、シグナルを増幅することが可能になるので、検出方法の感度を高めるために特に有用である。
【0212】
さらに、抗体の検出はまた、抗体とその同種抗原との結合の結果として生じる試料中の物理的性質の変化を検出することによっても実施され得る。これらのアッセイには、試料中の透過関連パラメータを決定する工程が包含され、これらのアッセイは当該分野で公知である。用語「透過関連パラメータ」は、本明細書中で使用される場合、試料の入射光に対する透過光の比を示すかまたはその比と相関するパラメータ、あるいはそこから導出されるパラメータに関する。
【0213】
1つの実施形態において、透過関連パラメータは、タービジメトリーまたはネフェロメトリーによって決定される。
【0214】
タービジメトリーとは、本明細書中で使用される場合、溶液中の光散乱種を、溶液を通過した後の入射ビームの強度の低下によって測定する方法をいう。タービジメトリーアッセイでは、吸収された光の量(透過した光の量の逆数)の変化が、生じる凝集の量に関連し得る。そのため、試料中の分析物(凝集を引き起こす種)の量を容易に決定し得る。
【0215】
ネフェロメトリーとは、本明細書中で使用される場合、溶液中の光散乱種を、試料を通過する入射光から離れた角度での光強度によって測定する技術をいう。ネフェロメトリーアッセイは、原点から所定の角度(典型的には90°)で散乱または反射した光の量を測定することによって、試料中の分析物の量を間接的に測定する方法を提供する。タンパク質抗原の存在下で、抗体が抗原と反応し、沈降反応を開始する。測定は、この沈降反応時系列の初期に実施される。定量値は、あらかじめ確立された標準曲線との比較によって得られる。検出感度を高めるために、抗体を高分子ミクロスフェアに吸着させても、共有結合させてもよい。このようにして、より少ない試薬でより大きなシグナルが生成される。
【0216】
本開示によるタービジメトリーまたはネフェロメトリーに基づく検出方法は、微小粒子増強の有無にかかわらず、すべての公知の凝集試験で機能する。本開示内で典型的に使用されるのは、「微粒子増強光散乱凝集試験」であり、これは「粒子増強比濁イムノアッセイ」(PETIA)とも呼ばれる。凝集に基づくイムノアッセイは、分離または洗浄のいずれの工程も必要としない準均一アッセイであるという利点を有することから、臨床化学分析装置での血清タンパク質、治療薬および乱用薬物の定量のために臨床診断で日常的に使用される。反応混合物中の検出すべき抗原と特異的抗体との間の光検出を強化するために、抗体を適切な粒子に連結させてもよい。それにより、抗原は抗体で被覆された粒子と反応して凝集する。抗体量の増加に伴い、凝集および複合体のサイズが増大し、さらに光散乱の変化をもたらす。
【0217】
別の実施形態において、抗体とその同種抗原との結合を、表面プラズモン共鳴(SPR)によって検出してもよい。
【0218】
本明細書中で使用される場合、SPRとは、金属薄膜にレーザー光を照射すると、特定の入射角(すなわち、共鳴角)で反射光の強度が急激に低下する現象をいう。SPRは、上記の現象に基づく測定方法であり、センサーである金属薄膜の表面に吸着した物質を高感度でアッセイすることができる。本発明によれば、例えば、本発明による1つ以上の抗体を予め金属薄膜の表面に固定化し、試料に金属薄膜の表面を通過させ、試料が通過する前と後とで、抗体と標的抗原の結合により生じる金属薄膜の表面に吸着した物質の量の差を検出することにより、試料中の標的物質を検出してもよい。
【0219】
虚血性組織損傷の診断方法
第五の態様において、本発明は、被験体における虚血または虚血性組織損傷の診断のための方法に関し、該方法は、本発明の第一の態様で定義された抗体、本発明の第三の態様による組成物を使用するか、または本発明の第四の態様で定義された方法を用いて、グリコシル化ApoJのレベルを上記被験体の試料において決定する工程を含み、ここで、グリコシル化ApoJのレベルが基準値に対して低下していることが、患者が虚血または虚血性組織損傷を罹患していることを示すことを特徴とする。
【0220】
本発明との関連において、用語「診断」は、本明細書に開示された方法を適用した場合に、心筋虚血またはそれに関連する虚血性組織損傷を有する患者由来の試料と、この傷害および/または損傷を罹患していない個体由来の試料とを識別する能力に関する。この検出は、当業者が理解しているように、すべての試料について100%正しいことを意図したものではない。しかしながら、統計的に有意な数の分析試料を正しく分類する必要がある。統計的に有意な量は、例えば、限定されるものではないが、信頼区間の決定、p値決定、スチューデントt検定、およびフィッシャーの識別関数など、種々の統計ツールを用いることによって、当該分野の専門家によって設定され得る。好ましくは、信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%または99%未満である。好ましくは、p値は、0.05未満、0.01未満、0.005未満または0.0001未満である。好ましくは、本発明は、試験された特定の群または集団の被験体の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%において、虚血または虚血性損傷を正しく検出し得る。
【0221】
用語「虚血」は、本明細書において「虚血性イベント」と互換的に使用され、器官または組織への血流の減少または中断から生じる任意の状況をいう。虚血は一過性の場合もあれば永続的な場合もある。
【0222】
「虚血性組織損傷」、「虚血性組織傷害」、「虚血による組織損傷」、「虚血に関連した組織損傷」、「虚血の結果としての組織損傷」、「虚血によって損傷を罹患した組織」、および「虚血性損傷を罹患した組織」という表現は、一定期間の虚血の結果としての器官または組織または細胞への形態学的、生理学的、および/または分子的損傷を意味する。
【0223】
1つの実施形態において、虚血によって引き起こされる損傷は、心臓組織の損傷である。さらにより好ましい実施形態において、心臓組織への損傷は、心筋虚血によって引き起こされる。
【0224】
用語「心筋虚血」とは、冠動脈硬化および/または心筋への酸素供給不足によって引き起こされる循環障害をいう。例えば、急性心筋梗塞は、心筋組織に対する不可逆的な虚血発作である。この発作は、冠循環における閉塞性(例えば、血栓性または塞栓性)イベントを引き起こし、心筋代謝要求が心筋組織への酸素供給を上回る環境を作り出す。
【0225】
さらに別の実施形態において、心筋虚血は、急性心筋虚血または微小血管性狭心症である。
【0226】
用語「微小血管性狭心症」とは、本明細書中で使用される場合、心臓の微小な血管を通る血流が不十分なために生じる状態をいう。
【0227】
1つの実施形態において、虚血によって引き起こされる損傷は、大脳組織の損傷である。別の実施形態において、大脳組織への損傷は、虚血性脳卒中によって引き起こされる。用語「虚血性脳卒中」とは、脳への血管の閉塞(結果として、脳への酸素の欠乏を生じる)によって引き起こされる脳機能の突然の喪失をいい、筋肉の制御不能、感覚または意識の減退または喪失、めまい、不明瞭言語、あるいは脳への損傷の程度および重症度によって異なる他の症状を特徴とするもので、脳事故または脳血管事故とも呼ばれる。また、用語「脳虚血」(または「脳卒中」)とは、脳への血液供給の不足をいい、多くの場合、脳への酸素不足を生じる。
【0228】
さらなる実施形態において、患者は虚血性イベントを罹患している疑いがある。
【0229】
用語「被験体」、または「個体」または「動物」または「患者」は、治療が望まれる任意の被験体、特に哺乳動物被験体を包含する。哺乳動物被験体には、ヒト、飼育動物、家畜、および動物園の動物または愛玩動物、例えば、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、ウシ、雌ウシなどが包含される。本発明の好ましい実施形態において、被験体は哺乳動物である。本発明のより好ましい実施形態において、被験体はヒトである。
【0230】
用語「試料」または「生物学的試料とは、本明細書中で使用される場合、被験体から単離された生物学的材料をいう。生物学的試料は、所定のタンパク質のグリコシル化形態のレベルを検出するのに適した任意の生物学的材料、例えばApoJを含む。試料は、例えば、血液、唾液、血漿、血清、尿、脳脊髄液(CSF)または糞便など、任意の適切な組織または生物学的流体から単離され得る。本発明の特定の実施形態において、試料は、組織試料または生物流体である。本発明のより特定の実施形態において、生物流体は、血液、血清または血漿からなる群から選択される。
【0231】
好ましくは、ApoJの異なるグリコシル化形態のレベルを決定するために使用される試料は、決定が相対的に行われる場合には、基準値を決定するために使用される試料と同じタイプの試料である。一例として、グリコシル化ApoJの定量が血漿試料で実施される場合、基準値の決定にも血漿試料が使用される。試料が生物流体である場合、基準試料も、同じタイプの生物流体、例えば、血液、血清、血漿、脳脊髄液で定量される。
【0232】
グリコシル化ApoJのレベルに関連して、用語「低下したレベル」または「低いレベル」は、基準値よりも低い、本発明による抗体を用いて試料中で検出されるグリコシル化ApoJの任意の発現レベルに関するものである。したがって、グリコシル化ApoJの発現レベルは、その基準値よりも少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なくとも130%、少なくとも140%、少なくとも150%低いか、またはそれよりも低い場合、その基準値よりも低下しているか、またはそれよりも低いとみなされる。
【0233】
本発明の診断方法は、研究対象の被験体で得られたレベルを基準値と比較する工程を含み、グリコシル化ApoJのレベルが基準値に対して低下していることが、患者が虚血または虚血性組織損傷を罹患していることを示すことを特徴とする。
【0234】
用語「基準値」とは、本明細書中で使用される場合、被験体から採取した試料から得られた値またはデータを評価するための基準として用いられる所定の判定基準に関するものである。基準値または基準レベルは、絶対値;相対値;上限または下限を有する値;値の範囲;代表値;中央値;平均値;または特定の対照値もしくはベースライン値と比較される値であり得る。基準値は、例えば、試験対象の被験体由来の試料から得られた値であるが、より早い時点での値など、個々の試料値に基づいていてよい。基準値は、暦年齢を一致させた群の被験体の集団由来などの多数の試料に基づいてもよく、あるいは試験される試料を含むかまたは除外する試料のプールに基づいてもよい。1つの実施形態において、基準値は、健常被験体において決定されたグリコシル化ApoJ残基のレベルに相当し、健常被験体とは、グリコシル化ApoJのレベルが決定された時点で虚血性組織損傷を示さず、好ましくは、虚血性損傷の病歴を示さない被験体であると理解される。
【0235】
別の実施形態において、基準値は、臨床的観点から十分に実証された患者であり、かつ疾患のない、特に虚血性組織損傷を罹患していない、特に虚血性心筋損傷または虚血性脳損傷を罹患していない患者の群から得られた試料のプールから決定された、対応するバイオマーカーの代表レベルまたは平均レベルに相当する。上記試料において、発現レベルは、例えば、基準集団における代表発現レベルの決定によって決定され得る。基準値を決定する際には、患者の年齢、性別、身体状態または他の特徴など、試料のタイプの特徴を考慮する必要がある。例えば、基準試料は、集団が統計的に有意であるように、少なくとも2個体、少なくとも10個体、少なくとも100個体~1000個体よりも多い同一個体数の群から得てもよい。
【0236】
好ましい実施形態において、本発明による診断方法は、Ag2G-17抗体、Ag3G-4抗体、Ag4G-6抗体、Ag5G-17抗体、Ag6G-1抗体、Ag6G-11抗体、Ag7G-17抗体、Ag7G-19抗体を用いて実施される。
【0237】
別の実施形態において、本発明の診断方法は、本発明によるいくつかの抗体を含む組成物を使用して実施され、したがって、比較に用いられる値は、使用される抗体のそれぞれに対する結合の集計値である。好ましい実施形態において、グリコシル化ApoJの検出は、以下の群から選択される組成物を使用して実施される:
(i) Ag2G-17抗体およびAg6G-1抗体を含む組成物、
(ii) Ag2G-17抗体およびAg6G-11抗体を含む組成物、
(iii) Ag2G-17抗体およびAg7G-19抗体を含む組成物、
(iv) Ag2G-17抗体およびAg1G-11抗体を含む組成物、
(v) Ag2G-17抗体およびAg7G-17抗体を含む組成物、
(vi) Ag2G-17抗体およびAg4G-6抗体を含む組成物、
(vii) Ag2G-17抗体およびAg3G-4抗体を含む組成物、または
(viii)Ag2G-17抗体およびAg5G-17抗体を含む組成物。
【0238】
本発明の診断方法による患者の診断に用いられる基準値は、診断で考慮されたものと同じタイプの試料および同じ抗体から得られた値であることが理解されるであろう。したがって、Ag2G-17抗体を使用してグリコシル化ApoJのレベルを決定することによって診断方法を実施する場合、診断に用いられる基準値も、同じ抗体を使用して検出されたグリコシル化ApoJの発現レベルである。同様に、本発明によるいくつかの抗体の組成物を使用してグリコシル化ApoJのレベルを決定することによって診断方法を実施する場合、診断に用いられる基準値も、場合によっては、健常被験体からまたは上記で定義された試料のプールから得られた同じ組成物を使用して検出されたグリコシル化ApoJの発現レベルである。
【0239】
別の実施形態において、心筋組織損傷を診断するためにバイオマーカーを定量する場合、基準値は、心筋組織損傷を示さず、好ましくは心筋組織損傷を罹患した記録がない健常被験体由来の同じバイオマーカーのレベルである。基準値が、被験体由来の試料のプールから得られた同じバイオマーカーの代表レベルである場合、その試料のプールが調製される被験体は、心筋組織損傷を示さず、好ましくは心筋組織損傷を罹患した記録がない被験体である。
【0240】
別の実施形態において、脳組織損傷を診断するためにバイオマーカーを定量する場合、基準値は、脳組織損傷を示さず、好ましくは脳組織損傷を罹患した記録がない健常被験体由来の同じバイオマーカーのレベルである。基準値が、被験体由来の試料のプールから得られた同じバイオマーカーの代表レベルである場合、試料のプールが得られる被験体は、脳組織損傷を示さず、好ましくは脳組織損傷を罹患した記録がない被験体である。
【0241】
本発明の診断方法で用いられる基準値は、所望の特異性および感度を得るために最適化され得る。
【0242】
好ましい実施形態において、グリコシル化ApoJのレベルの決定は、壊死マーカーの検出可能な増加が試料中で検出され得る前に実施される。好ましい実施形態において、壊死マーカーは、T-トロポニンまたはCKのいずれかである。さらに別の実施形態において、グリコシル化ApoJのレベルの決定は、虚血性損傷の症状の発症から1時間以内、2時間以内、3時間以内、4時間以内、5時間以内、6時間以内、7時間以内、8時間以内、9時間以内、10時間以内、12時間以内、14時間以内、16時間以内、18時間以内、20時間以内、30時間以内、40時間以内、50時間以内またはそれ以降以内に得られた試料で実施される。好ましい実施形態において、心筋虚血性損傷の場合、症状は通常、胸痛、息切れ、発汗、脱力感、意識朦朧、悪心、嘔吐、および動悸である。1つの実施形態において、患者は前AMI患者である。
【0243】
別の実施形態において、本発明の診断方法によるグリコシル化ApoJのレベルの決定は、患者が虚血の軽減または虚血性組織損傷の軽減を目的とした任意の医薬を投与される前に得られた、患者由来の試料において実施される。1つの実施形態において、心筋組織損傷の場合、ApoJのグリコシル化形態のレベルの決定は、患者がスタチン系薬剤、抗血小板および/または抗凝固剤で治療される前に得られた、患者由来の試料において実施される。
【0244】
さらに好ましい実施形態において、上記決定は、疑われた虚血性イベントの発症から最初の6時間以内に、少なくとも1つの壊死マーカーのレベルが上昇する前に、および/または疑われた虚血性イベントに対して患者が任意の治療を受ける前に実施される。
【0245】
虚血性損傷を罹患した患者の予後予測の方法
第六の態様において、本発明は、虚血性イベントを罹患した患者における虚血の進行を予測するための、または虚血性イベントを罹患した患者の予後を判定するための方法に関し、該方法は、本発明の第一の態様で定義された抗体、本発明の第三の態様による組成物を使用するか、または本発明の第四の態様で定義された方法を用いて、上記患者の試料においてグリコシル化ApoJのレベルを決定する工程を含み、ここで、グリコシル化ApoJのレベルが基準値に対して低下していることは、虚血が進行しているか、または患者の予後不良を示す。
【0246】
好ましい実施形態において、本発明による予後予測方法は、Ag1G-11抗体、Ag2G-17抗体、Ag3G-4抗体、Ag4G-6抗体、Ag5G-17抗体、Ag6G-1抗体、Ag6G-11抗体、Ag7G-17抗体、Ag7G-19抗体を用いて実施される。
【0247】
別の実施形態において、本発明の予後予測方法は、本発明によるいくつかの抗体を含む組成物を使用することによって実施され、したがって、比較に用いられる値は、使用される抗体のそれぞれに対する結合の集計値である。好ましい実施形態において、グリコシル化ApoJの検出は、以下の群から選択される組成物を使用して実施される:
(i) Ag2G-17抗体およびAg6G-1抗体を含む組成物、
(ii) Ag2G-17抗体およびAg6G-11抗体を含む組成物、
(iii) Ag2G-17抗体およびAg7G-19抗体を含む組成物、
(iv) Ag2G-17抗体およびAg1G-11抗体を含む組成物、
(v) Ag2G-17抗体およびAg7G-17抗体を含む組成物、
(vi) Ag2G-17抗体およびAg4G-6抗体を含む組成物、
(vii) Ag2G-17抗体およびAg3G-4抗体を含む組成物、または
(viii)Ag2G-17抗体およびAg5G-17抗体を含む組成物。
【0248】
本発明との関連において、用語「進行の予測」は、本明細書に開示された方法を適用した場合に、虚血またはそれに関連する虚血性組織損傷を罹患した後の疾患の経過を予測する能力に関する。この検出は、当業者が理解しているように、すべての試料について100%正しいことを意図したものではない。しかしながら、統計的に有意な数の分析試料を正しく分類する必要がある。統計的に有意な量は、例えば、限定されるものではないが、信頼区間の決定、p値決定、スチューデントt検定、およびフィッシャーの識別関数など、種々の統計ツールを用いることによって、当該分野の専門家によって設定され得る。好ましくは、信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または99%未満である。好ましくは、p値は、0.05未満、0.01未満、0.005未満、または0.0001未満である。好ましくは、本発明は、試験された特定の群または集団の被験体の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%において、虚血または虚血性損傷を正しく検出し得る。
【0249】
本発明との関連において、用語「予後の判定」は、「予後予測」と互換的に使用され、本明細書に開示された方法を適用した場合に、心筋虚血もしくは脳虚血またはそれに関連する虚血性組織損傷を罹患した後の患者の転帰を予測する能力に関する。この検出は、当業者が理解しているように、すべての試料について100%正しいことを意図したものではない。しかしながら、統計的に有意な数の分析試料を正しく分類する必要がある。統計的に有意な量は、例えば、限定されるものではないが、信頼区間の決定、p値決定、スチューデントt検定、およびフィッシャーの識別関数など、種々の統計ツールを用いることによって、当該分野の専門家によって設定され得る。好ましくは、信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または99%未満である。好ましくは、p値は、0.05未満、0.01未満、0.005未満、または0.0001未満である。好ましくは、本発明は、試験された特定の群または集団の被験体の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%において、虚血または虚血性損傷を正しく検出し得る。
【0250】
好ましい実施形態において、虚血性イベントは、心筋虚血性イベントである。さらに好ましい実施形態において、心筋虚血性イベントは、ST上昇型心筋梗塞である。
【0251】
1つの実施形態において、患者の予後は、6ヶ月間の再発リスクとして判定される。6ヶ月間の再発リスクを判定する場合、再発とは、第一の虚血性イベント後の最初の6ヶ月以内に生じた第二の虚血性イベントをいうことが理解されるであろう。1つの実施形態において、第二の虚血性イベントは、第一の虚血性イベントと同じタイプであり、すなわち、第一の虚血性イベントが心筋虚血であり、予後は、患者が第二の心筋虚血性イベントを罹患するリスクとして判定される。別の実施形態において、第2の虚血性イベントは、第一の虚血性イベントとは異なるタイプのものであり、すなわち、第一の虚血性イベントが心筋虚血である場合、予後は、患者が脳虚血性イベントを罹患するリスクとして判定され、または逆に、第一の虚血性イベントが脳虚血性イベントである場合、予後は、患者が心筋虚血性イベントを罹患するリスクとして判定される。
【0252】
さらに好ましい実施形態において、患者の予後は、6ヶ月再発のリスク、院内死亡のリスク、または6ヶ月死亡のリスクとして判定される。
【0253】
別の実施形態において、患者の予後は、院内死亡のリスクとして判定される。
【0254】
好ましい実施形態において、患者の予後は、6ヶ月死亡のリスクとして判定される。
【0255】
用語「基準値」は、本発明の予後予測方法についていう場合、被験体から採取した試料から得られた値またはデータを評価するための基準として用いられる所定の判定基準に関するものである。基準値または基準レベルは、絶対値;相対値;上限または下限を有する値;値の範囲;代表値;中央値;平均値;または特定の対照値もしくはベースライン値と比較される値であり得る。基準値は、例えば、試験対象の被験体由来の試料から得られた値であるが、より早い時点での値など、個々の試料値に基づいていてよい。基準値は、暦年齢を一致させた群の被験体の集団由来などの多数の試料に基づいてもよく、あるいは試験される試料を含むかまたは除外する試料のプールに基づいてもよい。1つの実施形態において、基準値は、虚血性イベントを罹患したが、虚血が進行していない被験体、または経過が良好な被験体において決定されたグリコシル化ApoJのレベルに相当する。6ヵ月再発のリスクと判定される進行の場合、基準値は、虚血性イベント時に採取された患者由来の試料におけるグリコシル化ApoJレベルであるが、上記患者が第一の虚血性イベント後、少なくとも6ヵ月、7ヵ月、8ヵ月、9ヵ月、10ヵ月、11ヵ月、12ヵ月、18ヵ月、24ヵ月、36ヵ月、48ヵ月またはそれ以上、さらなる虚血性イベントを罹患していないものとしてもよい。別の実施形態において、進行が院内死亡のリスクと判定される場合、基準値は、虚血性イベント時の患者のグリコシル化ApoJのレベルであるが、上記患者が病院から退院しているものとしてもよい。6ヵ月死亡のリスクと判定される進行の場合、基準値は、虚血性イベント時に採取された患者由来の試料におけるグリコシル化ApoJレベルであるが、上記患者が虚血性イベント後、少なくとも6ヵ月、7ヵ月、8ヵ月、9ヵ月、10ヵ月、11ヵ月、12ヵ月、18ヵ月、24ヵ月、36ヵ月、48ヵ月またはそれ以上経過しても生存しているものとしてもよい。
【0256】
別の実施形態において、基準値は、臨床的観点から十分に実証された患者であり、かつ虚血性イベントを罹患した後に前段落に定義された良好な予後を示している患者の群から得られた試料のプールから決定された、対応するバイオマーカーの代表レベルまたは平均レベルに相当する。上記試料において、発現レベルは、例えば、基準集団における代表発現レベルの決定によって決定され得る。基準値を決定する際には、患者の年齢、性別、身体状態および他の特徴など、試料のタイプのいくつかの特徴を考慮する必要がある。例えば、基準試料は、集団が統計的に有意であるように、少なくとも2個体、少なくとも10個体、少なくとも100個体~1000個体よりも多い同一個体数の群から得てもよい。
【0257】
本発明の予後予測方法による患者の予後予測に用いられる基準値は、分析対象の患者由来の試料に使用されたものと同じ抗体または抗体の組成物を使用して、同じタイプの試料から得られた値であることが理解されるであろう。したがって、Ag2G-17抗体を使用してグリコシル化ApoJのレベルを決定することによって予後予測方法を実施する場合、予後予測に用いられる基準値も、同じ抗体を使用して検出されたグリコシル化ApoJの発現レベルである。同様に、本発明によるいくつかの抗体の組成物を使用してグリコシル化ApoJのレベルを決定することによって予後予測方法を実施する場合、予後予測に用いられる基準値も、場合によっては、健常被験体からまたは上記で定義された試料のプールから得られた同じ組成物を使用して検出されたグリコシル化ApoJの発現レベルである。
【0258】
別の実施形態において、心筋組織損傷を罹患した患者の予後を判定するためにバイオマーカーを決定する場合、基準値は、心筋虚血性イベントを罹患した後に、上記で定義された判定基準(6か月後に虚血性イベントの再発がないこと、6か月後の院内死亡または死亡率がないこと)のいずれかによる良好な予後を示している被験体由来の同じバイオマーカーのレベルとなる。基準値が、被験体由来の試料のプールから得られた同じバイオマーカーの代表レベルである場合、その試料のプールが調製される被験体は、心筋虚血性イベントを罹患した後、上記で定義された判定基準(6か月後に虚血性イベントの再発がないこと、6か月後の院内死亡または死亡率がないこと)のいずれかによる良好な予後を示している被験体である。
【0259】
別の実施形態において、脳組織損傷の予後を判定するためにバイオマーカーを決定する場合、基準値は、脳虚血性イベントを罹患した後に、上記で定義された判定基準(6か月後に虚血性イベントの再発がないこと、6か月後の院内死亡または死亡率がないこと)のいずれかによる良好な予後を示している被験体由来の同じバイオマーカーのレベルとなる。基準値が、被験体由来の試料のプールから得られた同じバイオマーカーの代表レベルである場合、その試料のプールが調製される被験体は、脳虚血性イベントを罹患した後、上記で定義された判定基準(6か月後に虚血性イベントの再発がないこと、6か月後の院内死亡または死亡率がないこと)のいずれかによる良好な予後を示している被験体である。
【0260】
本発明の予後予測方法に用いられる基準値は、所望の特異性および感度を得るために最適化され得る。
【0261】
本発明のリスク層別化方法
本発明の著者らはまた、本発明による抗体および組成物を使用して決定されたグリコシル化ApoJのレベルが、安定冠動脈疾患(CAD)に罹患している患者が虚血性イベントを再発するリスクを判定するための有用なバイオマーカーでもあることを示している。この方法により、患者が虚血性イベントを罹患するリスクに応じて患者を層別化することが可能になり、したがって、リスクに応じて患者に特定の予防治療を割り当てるのに有用である。
【0262】
第七の態様において、本発明は、安定冠動脈疾患に罹患している患者が虚血性イベントを再発するリスクを判定するための方法に関し、該方法は、本発明の第一の態様で定義された抗体、本発明の第三の態様による組成物を使用するか、または本発明の第四の態様で定義された方法を用いて、上記患者の試料におけるグリコシル化ApoJのレベルを決定する工程を含み、ここで、グリコシル化ApoJのレベルが基準値に対して低下していることが、患者が虚血性イベントを再発するリスクが高まっていることを示すことを特徴とする。
【0263】
好ましい実施形態において、本発明によるリスク層別化方法は、Ag1G-11抗体、Ag2G-17抗体、Ag3G-4抗体、Ag4g-6抗体、Ag5G-17抗体、Ag6G-1抗体、Ag6G-11抗体、Ag7G-17抗体、Ag7g-19抗体を用いて実施される。
【0264】
別の実施形態において、本発明のリスク層別化方法は、本発明によるいくつかの抗体を含む組成物を使用することによって実施され、したがって、比較に用いられる値は、使用される抗体のそれぞれに対する結合の集計値である。好ましい実施形態において、グリコシル化ApoJの検出は、以下の群から選択される組成物を使用して実施される:
(i) Ag2G-17抗体およびAg6G-1抗体を含む組成物、
(ii) Ag2G-17抗体およびAg6G-11抗体を含む組成物、
(iii) Ag2G-17抗体およびAg7G-19抗体を含む組成物、
(iv) Ag2G-17抗体およびAg1G-11抗体を含む組成物、
(v) Ag2G-17抗体およびAg7G-17抗体を含む組成物、
(vi) Ag2G-17抗体およびAg4G-6抗体を含む組成物、
(vii) Ag2G-17抗体およびAg3G-4抗体を含む組成物、または
(viii)Ag2G-17抗体およびAg5G-17抗体を含む組成物。
【0265】
本発明との関連において、用語「リスクの判定」または「リスク層別化」は、本明細書に開示された方法を適用した場合に、a)心筋または脳の虚血もしくはそれに関連した虚血性組織損傷に罹患した後に、患者がさらなる臨床的合併症に罹患すること、および/またはb)心筋または脳の虚血もしくはそれに関連した虚血性組織損傷に対する特定の治療から利益を得ること、のリスクまたは確率を判定する能力に関する。この検出は、当業者が理解しているように、すべての試料について100%正しいことを意図したものではない。しかしながら、統計的に有意な数の分析試料を正しく分類する必要がある。統計的に有意な量は、例えば、限定されるものではないが、信頼区間の決定、p値決定、スチューデントt検定、およびフィッシャーの識別関数など、種々の統計ツールを用いることによって、当該分野の専門家によって設定され得る。好ましくは、信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または99%未満である。好ましくは、p値は、0.1未満、0.05未満、0.01未満、0.005未満、または0.0001未満である。好ましくは、本発明は、試験された特定の群または集団の被験体の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%において、虚血または虚血性損傷を正しく検出し得る。
【0266】
用語「安定冠動脈疾患」および「安定冠動脈心疾患」は同じ意味を有し、互換的に使用される。両用語とも、医学的状態である安定冠動脈疾患(SCAD)を包含する。用語「安定心血管疾患」、「安定冠動脈疾患」または「安定冠動脈心疾患」との関連における「安定」とは、急性心血管イベントを罹患していない状態で診断された心血管疾患の任意の状態と定義される。したがって、例えば、安定冠動脈疾患は、冠動脈血栓症が臨床症状を支配する状況(急性冠症候群)を除いた、冠動脈疾患の種々の進化段階を定義している。SCADに罹患している患者は、以下の条件のうちの1つ以上によって定義される:安定狭心症であって心電図ストレステスト陽性または心筋シンチグラフィー陽性または冠動脈の50%を超える狭窄があること、急性冠症候群の既往があること、冠動脈血行再建術の既往があること、少なくとも3ヵ月間の安定用量での抗血小板薬、抗凝固薬および/またはスタチン系薬剤による治療下であること。
【0267】
好ましい実施形態において、安定冠動脈疾患に罹患している患者は、その安定冠動脈疾患の前に急性冠症候群に罹患していた。好ましい実施態様において、安定冠動脈疾患に罹患している患者は、その安定冠動脈疾患の少なくとも1ヵ月前、2ヵ月前、3ヵ月前、4ヵ月前、5ヵ月前、6ヵ月前、7ヵ月前、8ヵ月前、9ヵ月前、10ヵ月前、11ヵ月前、12ヵ月前、18ヵ月前、24ヵ月前、36ヵ月前、48ヵ月前、60ヵ月前またはそれ以上前に、急性冠症候群に罹患していた。
【0268】
用語「基準値」とは、本発明のリスク層別化方法についていう場合、被験体から採取した試料から得られた値またはデータを評価するための基準として用いられる所定の判定基準に関するものである。基準値または基準レベルは、絶対値;相対値;上限または下限を有する値;値の範囲;代表値;中央値;平均値;または特定の対照値もしくはベースライン値と比較される値であり得る。基準値は、例えば、試験対象の被験体由来の試料から得られた値であるが、より早い時点での値など、個々の試料値に基づいていてよい。基準値は、暦年齢を一致させた群の被験体の集団由来などの多数の試料に基づいてもよく、あるいは試験される試料を含むかまたは除外する試料のプールに基づいてもよい。1つの実施形態において、基準値は、安定冠動脈疾患に罹患しているが、虚血性イベントを再発していない被験体において決定されたグリコシル化ApoJのレベルに相当する。この場合、基準値が決定され得る適切な患者は、安定冠動脈疾患に罹患しており、かつ、その安定冠動脈疾患の発症後、少なくとも6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、12ヶ月、18ヶ月、24ヶ月、36ヶ月、48ヶ月またはそれ以上の間、虚血性イベントを再発していない患者である。
【0269】
別の実施形態において、基準値は、臨床的観点から十分に実証された患者であり、かつ安定冠動脈疾患に罹患しているが、その安定冠動脈疾患の発症後、少なくとも6か月、7か月、8か月、9か月、10か月、11か月、12か月、18か月、24か月、36か月、48か月またはそれ以上の間、虚血性イベントを再発していない患者の群から得られた試料のプールから決定された、対応するバイオマーカーの代表レベルまたは平均レベルに相当する。上記試料において、発現レベルは、例えば、基準集団における代表発現レベルの決定によって決定され得る。基準値を決定する際には、患者の年齢、性別、身体状態など、試料のタイプのいくつかの特徴を考慮する必要がある。例えば、基準試料は、集団が統計的に有意であるように、少なくとも2個体、少なくとも10個体、少なくとも100個体~1000個体よりも多い同一個体数の群から得てもよい。
【0270】
本発明の方法によるリスク層別化に用いられる基準値は、分析対象の患者由来の試料に使用されたものと同じ抗体または抗体の組成物を使用して、同じタイプの試料から得られた値であることが理解されるであろう。したがって、Ag2G-17抗体を使用してグリコシル化ApoJのレベルを決定することによってリスク層別化方法を実施する場合、リスク層別化に用いられる基準値も、同じ抗体を使用して検出されたグリコシル化ApoJの発現レベルである。同様に、本発明によるいくつかの抗体の組成物を使用してグリコシル化ApoJのレベルを決定することによってリスク層別化方法を実施する場合、リスク層別化に用いられる基準値も、場合によっては、健常被験体からまたは上記で定義された試料のプールから得られた同じ組成物を使用して検出されたグリコシル化ApoJの発現レベルである。
【0271】
好ましい実施形態において、安定冠動脈疾患に罹患している患者は、その安定冠動脈疾患の前に急性冠症候群に罹患していた。
【0272】
さらに好ましい実施形態において、再発性の虚血性イベントは、急性冠症候群、脳卒中、または一過性虚血性イベントである。
【0273】
第七の態様において、本発明は、患者における虚血または虚血性組織損傷の診断のための、虚血性イベントを罹患した患者における虚血の進行を判定するための、虚血性イベントを罹患した患者の予後予測のための、または安定冠動脈疾患に罹患している患者が虚血性イベントを再発するリスクを判定するための、本発明の第一の態様による抗体または本発明の第三の態様による組成物の使用に関する。
【0274】
第八の態様において、本発明は、患者における虚血または虚血性組織損傷の診断のための、虚血性イベントを罹患した患者における虚血の進行を判定するための、虚血性イベントを罹患した患者の予後予測のための、または安定冠動脈疾患に罹患している患者が虚血性イベントを再発するリスクを判定するための、本発明の第一の態様による抗体または本発明の第三の態様による組成物の使用に関する。
【0275】
以下の実施例を用いて本発明を説明するが、これらの実施例は単なる例示であって、本発明の範囲を限定するものではないとみなされるべきである。
【実施例】
【0276】
材料および方法
ApoJ-GlcNAcに対する特異的モノクローナル抗体(MAbs)の開発
ApoJ配列中の7つのグリコシル化部位を含む7つのグリコシル化ペプチドに対する特異的モノクローナル抗体を、ファージディスプレイによって開発した(
図2)。具体的には、各特定部位に対する1つの抗体、ならびに部位6および部位7については2つの追加のクローンを開発した。
【0277】
虚血検出のための種々のApoJ-GlcNAc形態の定量のためのMAbsの検証
患者集団
検証研究では、疼痛発症後6時間以内に救急入院し、入院時に従来のトロポニンT(cTn-T)レベルが陰性であり(亜急性心筋梗塞を除く)、その後、初回採血後に基準値上限の99パーセンタイルを超えて上昇した(虚血性前AMI)、新規発症のST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者群を対象とした。
【0278】
心血管疾患の既往のない健常ドナー群を対照群として用いた。対照群および虚血性前AMI患者の人口統計学的および臨床的特徴を第2表に示す。
【0279】
【0280】
サンタ・クレウ・イ・サン・パウ病院の倫理委員会が本プロジェクトを承認し、ヘルシンキ宣言の原則に従って研究が行われた。すべての参加者から、本研究に参加するために書面によるインフォームド・コンセントを得た。
【0281】
試料採取および調製
患者および健常者から採血した直後の静脈血試料を収集して血清を調製し、これを分注して-80℃で保存した。
【0282】
特異的MAbsによる種々のApoJ-GlcNAc形態の定量化
虚血性前AMI患者および健常対照の血清試料中の種々のApoJ-GlcNAc形態のレベルを、異なるApoJ-GlcNAc残基に対する異なるMAbsに基づくイムノアッセイで測定した。この方法論は、以下に基づいている:
1)ApoJ-GlcNAcを、ApoJタンパク質配列内の特定のグリコシル化残基と各々の特異的なMAbとの特異的結合によって固定化する、第一工程;
2)固定化されたApoJを、ApoJタンパク質配列に対して特異的な市販ビオチン化抗体(ab69644,Abcam)で検出する、第二工程;および
3)特定の固定化されたグリコシル化ApoJ形態の量を、ビオチン化抗体と反応するストレプトアビジン-HRPコンジュゲート(21130,Pierce)からなるレポーターシステムによってさらに定量化する、最終工程。
【0283】
レクチンによる総ApoJ-GlcNAcレベルの定量化
虚血性前AMI患者および健常対照の血清試料中の総ApoJ-GlcNAc形態のレベルを、レクチンベースのイムノアッセイで測定した。この方法論は、以下に基づいている:
1)タンパク質を、固定化されたシロバナヨウシュチョウセンアサガオ(D.stramonium)レクチンに結合させる、第一工程;
2)ApoJを、ApoJタンパク質配列に対するモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体で検出する、第二工程;および
3)固定化されたグリコシル化ApoJ形態の量を、レポーターシステムまたは分子によってさらに検出および定量化する、最終工程。このレポーターシステムは、二次抗体とビオチン-ストレプトアビジン-HRPなどのレポーターシステムとの組み合わせに基づいている。
【0284】
統計分析
データは、表示されている場合を除き、平均値および標準誤差で表した。Nは試験される被験体の数を示す。統計分析は、Stat View 5.0.1ソフトウェアを用いて行った。群間の比較にはスチューデントt検定を用いた。カテゴリー変数には、カイ二乗検定(χ2)またはフィッシャーの正確確率検定(期待値のいずれかが5未満の場合)を用いた。受信者動作特性(ROC)曲線(選択された変数の識別力を評価するため)は、IBM SPSS Statistics v19.0を用いて行った。P値<0.05を有意とみなした。
【0285】
結果
モノクローナル抗体開発
図2は、7つのApoJ-GlcNAcグリコシル化部位に対する特異的モノクローナル抗体を開発するために用いた方法論的アプローチの概略図を示す。
【0286】
1.免疫ライブラリー構築
各々の標的グリコシル化部位(
図1)について5種類のペプチドを、異なるフォーマットで合成した(ネイキッド、BSA結合およびビオチン結合グリコシル化ペプチド、ネイキッドペプチド、ならびにビオチン結合非グリコシル化ペプチド)。次に、各々のBSA結合グリコシル化ペプチドを用いて、別々のウサギを7回免疫した。その後、放血を行い、ビオチン結合ペプチドを陽性対照として用いて、ビオチン結合グリコシル化ペプチドで抗血清力価測定を行い、免疫応答をモニターした。力価測定のためのペプチド配列を第3表にリストする。
【0287】
【0288】
7つすべてのビオチン結合グリコシル化ペプチドに対する抗血清の力価が、ビオチン結合ペプチドの力価よりも高かったことから、抗体ファージディスプレイライブラリー構築に使用され得ることが示された。
【0289】
続いて、免疫ライブラリーを構築した。脾臓からRNAを単離した。Vκ、VH、CκおよびCH1をPCRで増幅し、Fabをコードする遺伝子をアセンブルし、pCDisplay-11にクローニングしてライブラリーを構築した。第4表に要約したように、ライブラリーの多様性は2.8×108に達した。QCコロニーPCRを行って、エンドライブラリーの挿入比をアッセイした。
【0290】
【0291】
エンドライブラリーの挿入比をアッセイするためにQCコロニーPCRを行ったところ、陽性率は14/20であった。その後、DNAを配列決定した。
【0292】
2.ライブラリースクリーニング
ウサギ/ヒトキメラFabライブラリーの構築に成功した後、スクリーニング段階を実施した。2ラウンドのバイオパンニングを完了した。非グリコシル化部位および非特異的グリコシル化部位に結合する結合物質を排除するために、7つのビオチン結合非グリコシル化ペプチド(Ag1、Ag2、Ag3、Ag4、Ag5、Ag6、Ag7)の混合およびビオチン結合グリコシル化ペプチド(AgnG、n=1~7(標的ペプチドを除く))の混合を、ファージライブラリーに対して最初に行った。その後、陽性標的をスクリーニングして濃縮した。
【0293】
バックグラウンドを低減させるために、実験条件を以下のように最適化した。(1)ファージライブラリーに対して最初に、ストレプトアビジンコートウェルをブロッキングしないこと、およびストレプトアビジンコートウェルをブロッキングすることを、(Ag1、Ag2、Ag3、Ag4、Ag5、Ag6、Ag7)混合および(AgnG、n=1-7、標的ペプチドを除く)混合の前に行った。(2)陽性標的をスクリーニングして濃縮した。(3)ブロッキングバッファーを変更し、ブロッキング時間も延長した。(4)洗浄回数および時間を拡大する。
【0294】
7つの標的(Ag1G、Ag2G、Ag3G、Ag4G、Ag5G、Ag6G、Ag7G)に対する3ラウンドのバイオパンニングの後、第1ラウンド、第2ラウンドおよび第3ラウンドの産物を用いてポリクローナルファージELISAを実施した。次いで、スキームを最適化した後、ポリクローナルファージELISAを再度実施した。非特異的結合物質をさらに減少させるために、(Ag1、Ag2、Ag3、Ag4、Ag5、Ag6、Ag7)混合および(AgnG、n=1~7、標的ペプチドを除く)混合を、インキュベーションの前に、第1ラウンド、第2ラウンドおよび第3ラウンドの産物に対して行った。
【0295】
3.結合物質の検証
7つの標的に対するバイオパニングの第3ラウンドの産物から、20個のコロニーを無作為に選択した。QCモノクローナルファージELISAを、沈殿を含む培地中のファージを用いて行った。その結果、6つの標的(Ag1G、Ag2G、Ag4G、Ag5G、Ag6G、Ag7G)に対して合計17個/59個のユニークなクローンが同定された。そのうち、Ag1Gについては2クローン、Ag2Gについては2クローン、Ag4Gについては4クローン、Ag5Gについては2クローン、Ag6Gについては3クローン、Ag7Gについては4クローンであった。しかしながら、標的であるAg3Gについては、第1ラウンドではインタクトな抗体の配列は同定されなかった。また、残りの42個/59個のクローンは同一の配列であり、これらはVHドメインの一部を含む不完全な抗体配列であり、すべての標的から非特異的に検出された。
【0296】
第2ラウンドでは、Ag3G群からさらに5つのクローンを採取して配列決定した。これらの5つのクローンの配列を解析したところ、そのうち4つのクローンは同一の非特異的配列であった(他の6つの標的で起こったことと同様)。1つの陽性クローンが同定され、その抗体配列はインタクトであった。
【0297】
次に、選択されたクローンについて、7つの標的に対する可溶性ELISAを行った。モノクローナルファージELISAでは、各標的(Ag1G~Ag5G)に対しては1つの陽性クローンが、標的Ag6GおよびAg7Gに対しては2つの陽性クローンが同定された。発現ベクターを構築し、細胞溶解物を用いた可溶性ELISAを実施した。
【0298】
4.IgGsの作製および検証
IgGの形態で9つのクローン(Ag1G-11、Ag2G-17、Ag3G-4、Ag4G-6、Ag5G-17、Ag6G-1、Ag6G-11、Ag7G-17、およびAg7G-19)を作製し、QC ELISAを行った。最終的に、9つのIgGsはすべて、以前のQC可溶性ELISAと一貫した結果を示した。さらに、Ag6Gに対する2つのIgGsは、他の結合物質(対応する標的に対する)よりも高い相違識別性を示した。モノクローナル抗体の命名法および対応する結合グリコシル化部位を第5表に示す。
【0299】
【0300】
虚血の存在を識別する能力
GlcNAcを含むApoJ配列の特定のグリコシル化残基の検出による識別能力を試験するために、7つの異なるグリコシル化部位を標的とする各特異的クローンを用いて、虚血性前AMI患者(N=38)および健常対照(N=40)の血清試料でELISA試験を行った。総ApoJ-GlcNAcレベルをレクチンベースのイムノアッセイで定量した場合と比較して、各々独立したグリコシル化残基を標的とした特異的抗体を用いて各ApoJ-GlcNAc形態を定量した場合、虚血性前AMI患者では対照被験者と比較して最も強い減少を示した。
図3および
図4ならびに第6表。
【0301】
【0302】
具体的には、グリコシル化残基2に対するMAb(クローンAg2G-17)およびグリコシル化残基6に対するMAb(クローンAg6G-1)を用いたApoJ-GlcNAcの検出は、虚血早期のAMI患者においてApoJ-GlcNAcレベルの最も強い低下を示した。さらに、第6表から、GlcNAc残基を有するApoJに対するすべてのMAbsが、ApoJ-Glycレベルの低下を検出するための高い識別能力を有し、虚血性前AMI患者におけるApoJ-Glycの低下の%がレクチンよりも高いことが示された:MAbsが49~76%に対し、レクチンは46%(
図4)。
【0303】
C統計量解析により、各々独立したApoJ-GlcNAcグリコシル化残基を標的とする特異的抗体を用いた血清試料中のApoJ-GlcNAcレベルの検出が、虚血性イベントの存在について高い識別能力を有することが明らかになった。個々のMAbsのROC解析では、AUC(曲線下面積)値が0.751~0.918の間であり、高い感度および特異度のパーセンテージを示した。第7表。
【0304】
【0305】
異なるグリコシル化残基の組み合わせが、虚血の存在を識別するためのApoJ-GlcNAc定量法の感度および特異度を高め得るか否かを試験するために、個々のMAbs測定のすべての可能な組み合わせのROC解析を行った。
図5は、虚血性イベントの存在の検出に高い識別能力を示した6つの組み合わせのROC曲線を示す。重要なことには、独立したグリコシル化残基を標的とする特異的抗体を用いた異なるApoJ-GlcNAc形態の検出の組み合わせは、レクチンベースのイムノアッセイによる総ApoJ-GlcNAcレベルの定量よりも、虚血性イベントの検出に高い識別能力を示したことである。第8表。特に、クローンAg2G-17を、クローンAg6G-1、Ag6G-11、Ag7G-19およびAg1G-11と組み合わせて用いたApoJ-GlcNAcの血清レベルの検出の組み合わせは、虚血の検出のための最大の識別能力を示した(95%信頼区間の値が1.000に到達)。
【0306】
【0307】
ApoJの7つの異なるグリコシル化部位を標的とするMAbsは、ApoJに存在するN-グリカンを特異的に認識するレクチンよりも、虚血の存在を識別する能力が向上していることを示す
GlcNAcを含むApoJ配列の特定のグリコシル化残基の検出による識別能力を試験するために、7つの異なるグリコシル化部位を標的とする各特異的クローンを用いて、虚血性前AMI患者(N=38)および健常対照(N=40)の血清試料でELISA試験を行った。シロバナヨウシュチョウセンアサガオ(D.Stramonium)レクチンベースのイムノアッセイによる総ApoJ-GlcNAcレベルの定量結果を第9表に示す。
【0308】
【0309】
レクチンベースのイムノアッセイによる総ApoJ-GlcNAcレベルの定量(第9表)と比較して、各々独立したグリコシル化残基を標的とする特異的抗体を用いた各ApoJ-GlcNAc形態の定量は、虚血性前AMI患者では対照被験者と比較して最も強い減少を示した(
図3および4ならびに第6表を参照)。特に、グリコシル化残基2に対するMAb(クローンAg2G-17)およびグリコシル化残基6に対するMAb(クローンAg6G-1)を用いたApoJ-GlcNAcの検出は、虚血早期のAMI患者におけるApoJ-GlcNAcレベルの最も強い低下を示した。
【0310】
C統計量解析により、各々独立したApoJ-GlcNAcグリコシル化残基を標的とする特異的抗体を用いた血清試料中のApoJ-GlcNAcレベルの検出が、虚血性イベントの存在について高い識別能力を有することが明らかになった。個々のMAbsのROC解析では、AUC(曲線下面積)値が0.751~0.918の間であり、レクチンよりも高い特異度のパーセンテージ(MAbsが74~82%に対し、レクチンは53~72%)を示した(第7表のMAbs検出アッセイの特異度の値と第9表のレクチンアッセイの特異度の値を比較)。
【0311】
MAbsは、血清由来のネイティブApoJに結合するが、他の高度N-GlcNAcグリコシル化タンパク質には結合しない
MAbsの特異性を、他の高度N-GlcNAcグリコシル化タンパク質(アルブミンおよびトランスフェリンなど)に対しても試験した。この目的のために、ヒトの血漿および血清から精製したネイティブApoJタンパク質、アルブミンならびにトランスフェリンのいずれか2μgを、細口ピペットチップを用いてニトロセルロース膜にロードした。乾燥後、5%BSA/TBS-Tに浸漬することによって非特異的部位をブロックした(室温で1時間)。膜をAg2G-17またはAg6G-11のいずれかのクローン(これらが特異度-感度の最良の組み合わせを示したクローンであったため)と共に室温で30分間インキュベートした。TBS-Tで3回洗浄した後、膜を、HRPとコンジュゲートした二次抗体と共に室温で30分間インキュベートした。最後に、TBS-Tによる3回の洗浄(1回×15分間および2回×5分間)を行った後、TBSによる洗浄(5分間)を行った。膜をSupersignalと共にインキュベートし、ChemiDocで露光した。
【0312】
モノクローナル抗体は、血漿および血清由来のネイティブApoJに結合するが、他の高度N-GlcNAcグリコシル化タンパク質(アルブミンおよびトランスフェリンなど)には結合しないことから、グリコシル化ApoJに対する特異性を示している(
図6)。一方、レクチンは、その定義上当然、アミノ酸配列に関係なくすべてのグリコシル化タンパク質に非特異的に結合する。
【配列表】
【国際調査報告】