(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-17
(54)【発明の名称】液分布試料中の細胞外小胞を検出して識別する装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/49 20060101AFI20220107BHJP
G01N 15/14 20060101ALI20220107BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220107BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20220107BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
G01N21/49 Z
G01N15/14 C
G01N33/50 Z
G01N33/483 C
C12Q1/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021523415
(86)(22)【出願日】2019-10-31
(85)【翻訳文提出日】2021-06-16
(86)【国際出願番号】 IB2019059371
(87)【国際公開番号】W WO2020089836
(87)【国際公開日】2020-05-07
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】PT
(32)【優先日】2019-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516286707
【氏名又は名称】イーエニエーエスセー テック - インスティチュート デ エンゲンハリア デ システマス エ コンピュータドレス テクノロジア エ シエンシア
【氏名又は名称原語表記】INESC TEC - INSTITUTO DE ENGENHARIA DE SISTEMAS E COMPUTADORES, TECNOLOGIA E CIENCIA
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(72)【発明者】
【氏名】ジョアナ イザベル ドス サントス パイヴァ
(72)【発明者】
【氏名】ジョアン パウロ トリゲイロス ダ シウヴァ クーニャ
(72)【発明者】
【氏名】ペドロ アルベルト ダ シウヴァ ジョルジ
【テーマコード(参考)】
2G045
2G059
4B063
【Fターム(参考)】
2G045DA80
2G045FA12
2G045GC11
2G045JA01
2G045JA07
2G059AA05
2G059BB04
2G059BB09
2G059BB14
2G059CC16
2G059DD12
2G059EE02
2G059FF04
2G059GG01
2G059GG06
2G059HH01
2G059HH02
2G059JJ11
2G059JJ17
2G059KK01
2G059MM01
2G059MM02
2G059MM09
2G059MM10
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QS39
4B063QX10
(57)【要約】
液分布試料中に分散した細胞外小胞を検出する装置及び方法を開示し、この方法は電子データプロセッサを用いて試料を細胞外小胞が存在するものと存在しないものとに分類し、この方法は、電子データプロセッサを用いて、複数の細胞外小胞の液分布標本で機械学習分類器を事前学習させるステップを含み、この方法は、変調周波数によって変調したレーザーを各標本上へ放射するステップと;標本毎に、所定継続時間の複数の期間について、各標本によって後方散乱されたレーザー光から時間信号を捕捉するステップと;期間毎に、捕捉した信号から、標本のDCT係数またはウェーブレット変換係数を計算するステップと;計算した係数を用いて機械学習分類器を事前学習させるステップとを含み、この方法は、当該レーザー発光器に結合された焦点調節光学系を有するレーザー発光器を用いて、変調周波数によって変調したレーザーを試料上へ放射するステップと;受光器を用いて、所定継続時間の複数の期間について、試料によって後方散乱されたレーザー光から信号を捕捉するステップと;上記期間毎に、捕捉した信号から試料のDCT係数またはウェーブレット変換係数を計算するステップと;事前学習させた機械学習分類器を用いて、計算した試料の係数を、細胞外小胞が存在するものと存在しないものとに分類するステップとをさらに含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液分布試料中に分散した細胞外小胞を検出する方法であって、電子データプロセッサを用いて前記試料を細胞外小胞が存在するものと存在しないものとに分類する方法において、
前記電子データプロセッサを用いて、細胞外小胞の複数の液分布標本で機械学習分類器を事前学習させることを含み、
変調周波数によって変調したレーザーを各々の前記標本上へ放射するステップと、
前記標本毎に、所定継続時間の複数の期間について、当該標本によって後方散乱されたレーザー光から時間信号を捕捉するステップと、
前記期間毎に、前記捕捉した時間信号から、前記標本のDCT係数またはウェーブレット変換係数を計算するステップと、
前記計算した係数を用いて、前記機械学習分類器を事前学習させるステップとを含み、
前記方法は、
焦点調節光学系が結合されたレーザー発光器を用いて、前記変調周波数によって変調したレーザーを前記試料上へ放射するステップと、
受光器を用いて、前記所定継続時間の複数の期間について、前記試料によって後方散乱されたレーザー光から信号を捕捉するステップと、
前記期間毎に、前記捕捉した信号から、前記試料のDCT係数またはウェーブレット変換係数を計算するステップと、
前記事前学習させた前記機械学習分類器を用いて、前記計算した前記試料の係数を、細胞外小胞が存在するものと存在しないものとに分類するステップと
をさらに含む方法。
【請求項2】
前記細胞外小胞が、任意の粒子方向に1μm未満の粒子サイズを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法が、前記液分布試料中の細胞外小胞を検出して識別し、前記電子データプロセッサが、前記細胞外小胞が存在する場合に、前記細胞外小胞の前記液分布標本の種類の複数クラスを用いて事前学習させた前記機械学習分類器を用いることによって、前記細胞外小胞を、細胞外小胞タイプの複数クラスのうちの1つに分類するステップをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記レーザーが可視光レーザーまたは赤外線レーザーであり、特に赤外線レーザーである、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記レーザーが1つ以上の追加的な変調周波数によってさらに変調される、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記標本用の前記変調周波数と前記試料用の前記変調周波数とが同一である、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記標本用の前記所定継続時間と前記試料用の前記所定継続時間とが同一である、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記捕捉における前記所定継続時間の複数の期間が、前記捕捉した時間信号のうち前記所定継続時間よりも長い継続時間を有する時間信号を分割することによって得られる、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記分割された期間が、互いにオーバーラップする期間である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記所定継続時間が、1.5~2.5秒から選択され、特に2秒である、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記電子データプロセッサが、前記捕捉した信号からの、時間領域のヒストグラム由来の特徴または時間領域の統計量由来の特徴、特に、wNakagamiパラメータ、μNakagamiパラメータ、エントロピー、標準偏差、またはこれらの組合せを用いて、前記事前学習及び前記分類を行うようにさらに構成されている、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記焦点調節光学系が収束レンズであり、特に光ファイバまたは導波路の先端に配置されたポリマー集光器である、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記レンズが、当該レンズのベース直径の1/3~1/4のビームウェストに相当する焦点スポットを有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記レンズが0.5を超える開口数(NA)を有する、請求項11~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記レンズが、5~10μm、特に6~8μmのベース直径を有する、請求項11~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記レンズが球形であり、30~50μm、特に37~47μmの長さを有する、請求項11~15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記レンズが、2~5μm、特に2.5~3.5μmの曲率半径を有する、請求項11~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記赤外線受光器が、400~1000nmの帯域幅を具えた光検出器である、請求項1~17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記DCT係数または前記ウェーブレット変換係数の計算が、前記信号の全エネルギーのうちの所定割合が前記DCTまたは前記ウェーブレット変換によって保存されるように、DCT係数またはウェーブレット変換係数の最小部分集合を選択することを含む、請求項1~18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記最小部分集合中の前記DCT係数の個数を、20~40から選択し、あるいは20、30、または40から選択する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記信号の捕捉を、少なくとも、前記変調周波数の少なくとも5倍のサンプリング周波数で実行するステップを含む、請求項1~20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記信号の捕捉がハイパスフィルタの使用を含む、請求項1~21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記変調周波数が1kHz以上である、請求項1~22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
液分布試料中の細胞外小胞を検出する方法を実現するためのプログラム命令を含む非一時的記憶媒体であって、該プログラム命令は、電子データプロセッサによって実行可能であり、請求項1~23のいずれかに記載の方法を実行するための命令を含む非一時的記憶媒体。
【請求項25】
液分布試料中の細胞外小胞を検出する装置であって、レーザー発光器と、該レーザー発光器に結合された焦点調節光学系と、赤外線受光器と、電子データプロセッサとを具えた装置において、
前記電子データプロセッサは、細胞外小胞の複数の液分布標本を用いて事前学習させた機械学習分類器を用いて、方法によって前記試料を細胞外小胞が存在するものと存在しないものとに分類するように構成され、前記方法は、
変調周波数によって変調したレーザーを各々の前記標本上へ放射するステップと、
前記標本毎に、所定継続時間の複数の期間について、当該標本によって後方散乱されたレーザー光から時間信号を捕捉するステップと、
前記期間毎に、前記捕捉した時間信号から、前記標本のDCT係数またはウェーブレット変換係数を計算するステップと、
前記計算した係数を用いて、前記機械学習分類器を事前学習させるステップとを含み、
前記電子データプロセッサは、
前記レーザー発光器を用いて、変調周波数によって変調したレーザーを前記試料上へ放射し、
前記受光器を用いて、所定継続時間の複数の期間について、前記試料によって後方散乱されたレーザー光からの信号を捕捉し、
前記期間毎に、前記捕捉した信号から、前記試料のDCT係数またはウェーブレット変換係数を計算し、
前記事前学習させた前記機械学習分類器を用いて、前記計算した前記試料の係数を、細胞外小胞が存在するものと存在しないものとに分類するようにさらに構成されている装置。
【請求項26】
前記装置が、前記液分布試料中の細胞外小胞を検出して識別し、前記電子データプロセッサが、前記細胞外小胞が存在する場合に、前記細胞外小胞の前記液分布標本の種類の複数クラスを用いて事前学習させた前記機械学習分類器を用いることによって、前記細胞外小胞を、細胞外小胞タイプの複数クラスのうちの1つに分類するステップをさらに含む、請求項25に記載の装置。
【請求項27】
前記細胞外小胞が、任意の粒子方向に1μm未満の粒子サイズを有する、請求項25または26に記載の装置。
【請求項28】
前記レーザーが赤外線レーザーである、請求項25~27のいずれかに記載の装置。
【請求項29】
分割された前記期間が、互いにオーバーラップする期間である、請求項25~28のいずれかに記載の装置。
【請求項30】
前記電子データプロセッサが、前記捕捉した信号からの、時間領域のヒストグラム由来の特徴または時間領域の統計量由来の特徴、特に、wNakagamiパラメータ、μNakagamiパラメータ、エントロピー、標準偏差、またはこれらの組合せを用いて、前記事前学習及び前記分類を行うようにさらに構成されている、請求項25~29のいずれかに記載の装置。
【請求項31】
前記焦点調節光学系が収束レンズであり、特に、該レンズが、当該レンズのベース直径の1/3~1/4のビームウェストに相当する焦点スポットを有する、請求項25~30のいずれかに記載の装置。
【請求項32】
前記焦点調節光学系が、視野勾配パターンを提供するのに適した焦点調節光学系である、請求項25~31のいずれかに記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞外小胞(EV:Extracellular Vesicle)を検出する方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
細胞外小胞(EV)は、細胞間コミュニケーション、及び診断及び健康アセスメント(評価)用のトランスレーショナル・バイオマーカー(生体指標、生物指標化合物)としての用途におけるその大きな潜在的役割により、学界及び産業の両方からの関心をますます集めつつある。EVとは、細胞から導出される膜小胞を表し、直径30nmから1000nmまでの範囲であり、大半は100~150nmの領域内であると考えられている。
【0003】
EVの小さいサイズ及び複雑性に起因して、従来の技術は、異なる細胞集団によって生成されるEVを検出して識別するのに苦心していた。実際に、100nmから150nmまでの範囲の寸法では、光学的手段を用いてEVを検出することは挑戦的である、というのは、光の回折限界を大きく下回るからである(非特許文献1、非特許文献2)。
【0004】
現在、こうしたサイズ範囲の粒子の検出に適合する機器に欠け、電子顕微鏡(非特許文献1、非特許文献2)、従来型及び高分解能のフローサイトメトリー(非特許文献1、非特許文献2)、ナノ粒子追跡分析(非特許文献1、非特許文献2)が、試料中に存在するEVを検出して定量化するための代表的なやり方である。
【0005】
高分解能フローサイトメトリーを用いた細胞外小胞(主にエクソソーム)検出が、生物由来のナノ粒子研究の90%において使用されているものと推定される(非特許文献1、非特許文献2)。これらの新たな方法に含まれる分解能が従来の分解能に比べて向上したにもかかわらず、この分解能は未だに大型でさらに高価な機器に基づく(例えば、従来の方法に比べて、より小さな焦点のビームスポットサイズを有する高出力レーザーを必要とする)(被特許文献2)。さらに、次の2種類の信号:散乱信号及び蛍光信号の分析に依存し続け、高価な計算システム及び制御システムを必要とし、時間を費やす分析技術を伴う。
【0006】
ある粒子によって散乱される光の量は、その粒子の粒径、屈折率、外形/幾何学的形状、組成、含有物の種類(合成、生物性)、及び周囲媒質との相互作用といった重要な散乱特性への依存性が与えられれば、単純な粒子特性化の代表的な技術と考えられてきた(非特許文献3、非特許文献4)。異なる細胞または臓器細胞は、発現タンパク質に起因する屈折率値、及び相互間の細胞内カーゴ差の観点で区別されることが多い(非特許文献2)。
【0007】
これらの文献のいずれも、液体試料中の細胞外小胞を検出するのに適した方法または装置を教示していない。これらの事実は、本発明が応える技術的課題を説明するために開示する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Steinbichler, T., Dudas, J., Riechelmann, H. & Skvortsova, I., “The role of exosomes in cancer metastatis”, Seminars in cancer biology 44, 170-181 (2017)
【非特許文献2】Welsh, J., Holloway, J., Wilkinson, J. & Enlyst, N, “Extracellular vesicle flow cytometry analysis and standardization”, Frontiers in Cell and Developmental Biology 5, 78 (2017)
【非特許文献3】Mei, Z., Wu, T., Pion-Tonachini, L., Qiao, W., Zhao, C., Liu, Z., and Lo, Y., “Applying an optical space-time coding method to enhance light scattering signals in microfluidic devices”, Biomicrofluidics 5(3), 034116 (2011)
【非特許文献4】Wu, T., Cho, S., Chiu, Y., and Lo, Y., “Lab-on-a-Chip Device and System for Point-of-Care Applications”, Handbook of Photonics for Biochemical Engineering, 87-121 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の第一の目的は、液分布試料中の細胞外小胞(EV)を検出する方法及び装置である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
提案する方法及び装置は、複合溶液中の生物学的複合ナノ粒子(例えば、特定種類の癌エキソソーム)の存在を検出することができる。開示する方法及び装置は、30nm~24μmのターゲットサイズに関する検出範囲をカバーする。
【0011】
本発明は、高速かつ単純な実施形態でEVの種類を区別するために極めて有用である。
【0012】
特定の好適例では、この装置は、迅速な臨床診断用のマイクロ(微小)流体マイクロチップ内に埋め込むことができ、あるいは特定の製品基準による酵母(イースト)/他の微小合成物の仕分け及び選択用の自動食品生産システム内に統合することができる。
【0013】
液分布試料中の細胞外小胞を検出する装置を開示し、この装置は、レーザー発光器と;この発光器に結合された焦点調節光学系と;赤外線受光器と;電子データプロセッサとを具え、この電子データプロセッサは、複数の細胞外小胞の液分布標本を用いて事前学習させた機械学習分類器を用いて、次の方法によって試料を細胞外小胞が存在するものと存在しないものとに分類するように構成され、この方法は:
変調周波数によって変調したレーザーを各標本上へ放射するステップと;
標本毎に、所定継続時間の複数の期間について、各標本によって後方散乱されたレーザー光から時間信号を捕捉するステップと;
上記期間毎に、捕捉した信号から、標本のDCT(Discrete Cosine Transformation:離散(ディスクリート)コサイン変換)係数またはウェーブレット変換係数を計算するステップと;
計算した係数を用いて機械学習分類器を事前学習させるステップとを含み、
上記電子データプロセッサは:
レーザー発光器を用いて、変調周波数によって変調したレーザーを試料上へ放射し;
上記受光器を用いて、所定継続時間の複数の期間について、試料によって後方散乱されたレーザー光からの信号を捕捉し;
上記期間毎に、捕捉した信号から、試料のDCT係数またはウェーブレット変換係数を計算し;
事前学習させた機械学習分類器を用いて、計算した試料の変換係数を、細胞外小胞が存在するものと存在しないものとに分類する
ように構成されている。
【0014】
液分布試料中の細胞外小胞を検出する方法も開示し、この方法は、電子データプロセッサを用いて試料を細胞外小胞が存在するものと存在しないものとに分類し、
この方法は、電子データプロセッサを用いて、細胞外小胞の複数の液分布標本で機械学習分類器を事前学習させ:
変調周波数によって変調したレーザーを各標本上へ放射するステップと;
標本毎に、所定継続時間の複数の期間について、各標本によって後方散乱されたレーザー光から時間信号を捕捉するステップと;
上記期間毎に、捕捉した信号から、標本のDCT係数またはウェーブレット変換係数を計算するステップと;
計算した係数を用いて機械学習分類器を事前学習させるステップとを含み、
この方法は、
当該レーザー発光器に結合された焦点調節光学系を有するレーザー発光器を用いて、変調周波数によって変調したレーザーを試料上へ放射するステップと;
受光器を用いて、所定継続時間の複数の期間について、試料によって後方散乱されたレーザー光から信号を捕捉するステップと;
上記期間毎に、捕捉した信号から、試料のDCT係数またはウェーブレット変換係数を計算するステップと;
事前学習させた機械学習分類器を用いて、計算した試料の係数を、細胞外小胞が存在するものと存在しないものとに分類するステップと
をさらに含む。
【0015】
1つの好適例では、上記電子データプロセッサが、細胞外小胞が存在する場合に、細胞外小胞の液分布標本の種類の複数クラスを用いて事前学習させた機械学習分類器を用いることによって、細胞外小胞を、細胞外小胞タイプの複数クラスのうちの1つに分類する。
【0016】
1つの好適例では、上記レーザーが、可視光レーザーまたは赤外線レーザーまたはその組合せであり、特に赤外線レーザーであり、上記受光器が可視光及び赤外線受光器である。
【0017】
1つの好適例では、上記レーザーが1つ以上の追加的な変調周波数によってさらに変調される。
【0018】
1つの好適例では、上記標本用の変調周波数と上記試料用の変調周波数とが同一である。
【0019】
1つの好適例では、上記標本用の所定継続時間と上記試料用の所定継続時間とが同一である。
【0020】
1つの好適例では、上記捕捉における所定継続時間の複数の期間が、捕捉した時間信号のうち所定継続時間よりも長い継続時間を有する時間信号を分割することによって得られる。
【0021】
1つの好適例では、上記分割された期間が、互いにオーバーラップする期間である。
【0022】
1つの好適例では、上記所定継続時間が、1.5~2.5秒から選択され、特に2秒である。
【0023】
1つの好適例では、上記電子データプロセッサが、上記捕捉した信号からの、時間領域のヒストグラム由来の特徴または時間領域の統計量由来の特徴、特に次の特徴:wNakagami(w仲上)パラメータ;μNakagamiパラメータ;エントロピー;標準偏差;またはこれらの組合せを用いて、事前学習及び分類を行うようにさらに構成されている。
【0024】
1つの好適例では、上記焦点調節光学系が収束レンズである。
【0025】
1つの好適例では、上記焦点調節光学系が収束レンズであり、光ファイバまたは導波路の先端に配置されたポリマー集光器である。
【0026】
1つの好適例では、上記焦点調節光学系が視野勾配パターンを提供するのに適し、特に、ポリマーレンズ、テーパ付きファイバ、振幅または位相フレネルプレート、またはこれらのいずれかに金フィルム(薄膜)、または厚さを有し、かつプラズモン効果用のナノホールまたはマイクロホール、あるいはホールのアレイを有するフィルムを付加したものである。
【0027】
1つの好適例では、上記レンズが、当該レンズのベース直径の1/3~1/4のビームウェスト(ビーム周囲長)に相当する焦点スポットを有する。
【0028】
1つの好適例では、上記レンズが0.5を超える開口数(NA:Numerical Aperture)を有する。
【0029】
1つの好適例では、上記レンズが5~10μm、特に6~8μmのベース直径を有する。
【0030】
1つの好適例では、上記レンズが球形であり、30~50μm、特に37~47μmの長さを有する。
【0031】
1つの好適例では、上記レンズが2~5μm、特に2.5~3.5μmの曲率半径を有する。
【0032】
1つの好適例では、上記赤外線受光器が400~1000nmの帯域幅を具えた光検出器である。
【0033】
1つの好適例では、上記変換係数の計算が、信号の全エネルギーのうちの所定割合が当該変換によって保存されるように、変換係数の最小部分集合を選択することを含む。
【0034】
1つの好適例では、上記最小部分集合中のDCT係数の個数を、20~40から選択し、あるいは20、30、または40から選択する。
【0035】
1つの好適例では、上記信号の捕捉を、少なくとも、上記変調周波数の少なくとも5倍のサンプリング周波数で実行する。
【0036】
1つの好適例では、上記信号の捕捉がハイパス(高域通過)フィルタを含む。
【0037】
1つの好適例では、上記変調周波数が1kHz以上である。
【0038】
1つの好適例では、細胞外小胞が、任意の粒子方向に1μm未満の、あるいは30nm~30μmの粒子サイズを有する。
【0039】
非一時的記憶媒体も開示し、この非一時的記憶媒体は、液分布試料中の細胞外小胞を検出する方法を実現するためのプログラム命令を含み、これらのプログラム命令は、電子データプロセッサによって実行可能であり、開示した好適例のいずれかの方法を実行するための命令を含む。
【0040】
DCTまたはウェーブレット変換の代わりに、DCT及びウェーブレット変換を共に用いることができ、あるいは時系列の次元を低減する他の変換を用いることができ、あるいは複数の時系列の次元を低減する変換を用いることができる。
【0041】
1つの好適例では、上記時系列の次元を低減する変換が離散コサイン変換、DCTである。
【0042】
1つの好適例では、上記時系列の次元を低減する変換がウェーブレット変換である。
【0043】
1つの好適例では、ウェーブレットの種類がハール(Haar)及びドベシィ(Daubechies)(Db10)である。
【0044】
本開示は、高度に集中した電磁ポテンシャルに対する異なる種類のナノ粒子の区別される応答によって説明することができる。従って、次の2種類の現象が、異なる種類のナノ粒子間のこうした区別される応答に寄与することができる:液分布中の当該ナノ粒子のブラウン運動パターン、及び/または当該ナノ粒子の異なる光学的分極率、これは当該ナノ粒子の微視的な屈折率と固有の相関がある。従って、ブラウン運動パターン及び/または光学的分極率は、後方散乱光から抽出したDCT由来のパラメータ及びウェーブレット由来のパラメータによって顕在化することができ、上記事前学習させた機械学習分類器はこれらのパラメータを用いて細胞外小胞を分類する。
【0045】
この場合、本発明は、建設的干渉及び相殺的干渉によって生じる散乱強度の区別される時間依存性の変動を使用し、この変動は液分布中のナノ粒子の相対的なブラウン運動及び高度に集中した電磁ポテンシャルに対する応答の両方により生じ、上記相対的なブラウン運動は液分布中の粒子の拡散性によって決まり-これは粒子サイズのみに依存するパラメータであり、上記高度に集中した電磁ポテンシャルは、粒子の光学的分極率に依存する。これら2つの効果の重畳は、同じサイズのEVの区別を可能にし、この区別は現在技術の光散乱に基づく方法を用いては不可能である。
【0046】
本発明は、建設的干渉及び相殺的干渉によって生じる散乱強度の区別される時間依存性の変動を示すナノ粒子またはマイクロ粒子に適用可能であり、この変動は、液分布試料中のナノ粒子の相対的なブラウン運動により生じて、後方散乱光及び区別される光学的分極率(または微視的な屈折率)に悪影響を与える。
【0047】
本発明は、所定の直径及び/または屈折率及び/または光学的分極率を有するナノ粒子を検出して識別する。
【0048】
本発明は個別の細胞にも適用可能であり、ここでは上記装置を用いて液分布試料中の個別の細胞を検出する。さらに、本発明は液分布試料中の個別の細胞を分類するためにも適用可能である。これらの細胞は測定用に捕捉することができることが好ましい。この細胞は、個別化された細胞、特に個別化された人間の細胞、あるいは単細胞微生物とすることができる。例えば、センシング能力を有する光ファイバ・ピンセットは、測定中に安定して捕捉された個別のターゲット(標的)粒子についての有意味で具体的な情報を提供することができる。
【0049】
特に、本発明は、翻訳後修飾、例えばより短い、または短縮型O-グリカンのようなリン酸化またはグリコシル化事象を検出するために適用可能であり、これらは特定の癌における予後不良の予測マーカーであるものと考えられる。これらの現象は、細胞のグリコシル化中の不完全なグリカン合成に頻繁に関連する。
【0050】
次の図面は、説明を例示するための好適な実施形態を提供し、本発明の範囲を限定するものとして見るべきでない。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】一実施形態による光学装置設定の概略表現である。
【
図2】一実施形態による集光装置の概略表現である。
【
図3】一実施形態による信号処理の流れの概略表現である。
【
図4】EVタイプa及びEVタイプbの後方散乱信号(十字形対円形)についてのシミュレーションにより抽出した2つの最も重要なDCT由来の特徴の2D分布のグラフ表現である。
【
図5】データを学習用とテスト用とに分割する方法の一実施形態による概略表現であり、3クラスの粒子を含む実験の例を考慮し、「n」は評価実行の回数/学習セットとテストセットとの異なる組合せの数を表すことを意図している。
【
図6】生物学的複合粒子を含有する複合溶液の実験についての信号チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0052】
詳細な説明
本発明を以下により詳細に説明する。
【0053】
図1に光学装置設定(100)を示す。ピグテール付き980nmレーザー(500mW、Lumics社製、型番LU0980M500)(105)を、この光学装置設定に含めた。1×2のトポロジを有する50/50のファイバカプラ(110)を用いて、2つの入力-レーザー(105)と光検出器(フォトディテクタ)(115)(後方散乱捕捉モジュール)とが接続されている。そして、光ファイバチップ(ファイバの先端)(120)が、ファイバカプラ(110)の出力部に接合されて、モータ駆動のマイクロマニピュレータ(130)によって制御される金属キャピラリ(120)内に挿入されている。この構成は、光ファイバを通ってファイバチップ(120)に至るレーザー光の導光と、光検出器(Thorlabs(ソーラボ)社製のPDA 36A-EC)による後方散乱信号の捕捉を共に可能にした。光検出器に加えて、後方散乱信号捕捉モジュール(135)も、アナログ-デジタル捕捉基板(National Instrument社製のDAQ)によって構成され、後方散乱信号捕捉モジュールは光検出器(115)に接続されて、捕捉した信号をラップトップ・コンピュータ(145)に伝送し、ラップトップ・コンピュータでは、捕捉した信号をさらなる処理のために記憶する。DAQ(Data Acquisition:データ収集)(135)のデジタル-アナログ出力端子もレーザーに接続されて、1kHzの基本周波数を有する正弦波信号を用いてレーザーの信号を変調する。液体試料(140)をガラス・カバースリップ上に載せて、集光器(120)を先端に有するファイバが試料に挿入されている。
【0054】
集光器の種類を
図2に提示し、導波光重合法により製造したポリマーレンズが存在する。この集光器は、NA>0.5を有する収束球面レンズによって特徴付けられ、レンズのベース直径の約1/3~1/4のビームウェストに相当する高度に集中したスポット上にレーザービームの焦点を合わせることができる。それに加えて、6~8μmのベース直径(205)及び2~3.5μmの曲率半径も適切な解決策である。集光器を有するファイバチップを液体試料中に浸漬させて、溶液中のチップの異なる位置を考慮して後方散乱信号を捕捉する。
【0055】
図3を参照しながら、信号の捕捉及び処理を説明する。全部の実験(I~VII)について、生の後方散乱信号を、アナログ-デジタル変換器(National Instruments社製のDAQ)に接続された光検出器(PDA 36A-EC、Thorlabs社製)により、5kHzのサンプリングレート(標本化速度)で捕捉した。各捕捉後に、元の信号を処理ステップに通した。信号処理中には、入力照射レーザーが1kHzの正弦波信号を用いて変調されているので、信号をまず500Hzの2次バタワース・ハイパスフィルタを用いてフィルタ処理して、捕捉した信号のノイズ性の低周波成分(例えば、50Hzの電力グリッド(配電網)成分)を除去した(305)。次に、粒子及び条件毎に捕捉した信号全体を、2秒のエポック(時期)に分割した(310)。各2秒間の信号部分のz-スコアを計算して、ノイズ性の信号エポックを除去した(315)。z-スコア付けした2秒間の信号部分のうち大きさが5~10の閾値を超えたものを除去した(315)。これらのステップ後に、EVのタイプ識別が可能になる妥当な信号対ノイズ比(SNR:Signal to Noise Ratio)を有する2s(2秒)の信号部分を有するデータセット(データ集合体)を得ることができた(320)。
【0056】
合計54個の特徴を後方散乱信号から抽出して(
図3の325)、次の2つの主要な種類:時間領域及び周波数領域の特徴に分割することのできる各クラスを特性化する。第1の集合は次の2つの部分集合:時間領域の統計量と時間領域のヒストグラム由来の特徴とに分割することができる。周波数領域の集合も次の2つのグループ:離散コサイン変換(DCT)由来の特徴とウェーブレットの特徴とに分割される。考慮した54個の特徴を表1に要約する。
【0057】
次の時間領域の統計量の特徴を、各2秒間の信号部分から抽出する:標準偏差(SD:Standard Deviation)、二乗平均平方根(RMS:Root Mean Square)、歪度(Skew:スキュー)、尖度(Kurt:カートシス(Kurtosis))、四分位範囲(IQR:Interquartile Range)、エントロピー(E)、統計的有意性を以って合成粒子を異なるタイプ及び酵母細胞から区別するに当たっての妥当性を考慮する。主に生物医学領域内では仲上分布(Nakagami distribution)が後方散乱したエコーを統計的表現で記述するために広く用いられていることを考慮して、確率密度関数(PDF:Probability Density Function)由来のμ
Nakagami及びω
Nakagamiパラメータも考慮し、これらのパラメータは、各2秒間の信号部分の分布の近似をより良好に仲上分布に適合させる。これらは時間領域のヒストグラム由来のパラメータであり、分類において考慮される。合計では、後方散乱信号の時間領域分析により得られた8つの特徴が、提案する方法によって用いられる。分析した信号の最小の周期性を捕捉する能力、及び関連する係数が無相関であることを考慮し、かつ、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)とは対照的に、変換されたデータに高周波のアーティファクトを入れないことにより、離散コサイン変換(DCT)を元の短期間の信号部分に適用して、周波数由来の情報を抽出する。散乱するエコー信号のDCTの最初n個の係数は、次式:
【数1】
によって定義されることを考慮し、ここに、ε
iはヒルベルト変換を用いて推定した信号エンベロープであり、これらのDCT係数を大きさの最高値から最低値までの順に並べ替えて、次のベクトル:
【数2】
を得ることによって、ここにE
DCT
i[l
1]は大きさが最高のDCT係数を表し、(最高のものから最低のものまでの順に編成された)係数の各組が表す信号エネルギーの総量に対する比率を決定することができる。係数の各組(1番目からn番目までの係数)に関する各比率値は、1番目からn番目までの係数によって形成される上記ベクトルのノルムを、全n個の係数によって構成される上記ベクトルのノルムで除算することによって得ることができる。従って、次のDCT由来の特徴を用いて、各2sの信号部分を特性化する:元の信号の総エネルギーの約98%を表すのに必要な係数の個数(N
DCT)、(2)式によって定義されるベクトルから抽出した最初の20個、30個、または40個のDCT係数、全周波数(0Hzから2.5kHzまで)についてのDCTスペクトルの曲線下面積(AUT:Area Under the Curve)(AUT
DCT)、DCTスペクトルの最大振幅(Peak
DCT)、及び分析した周波数範囲(0Hzから2.5kHzまで)内の全部の値を考慮したDCTにより得られた信号のパワースペクトル(P
DCT)-表1を参照されたい。
【0058】
残りの12個の特徴は、ウェーブレット21を用いた2秒間の信号部分の分解後に抽出した。2つのマザーウェーブレット-ハール及びドベシィ(Db10)-を選択して、各後方散乱信号部分を特性化する。従って、ウェーブレット・パケット由来の再構成した信号の相対パワー(電力)(1~6レベル)に基づいて、マザーウェーブレットの種類毎に6つの特徴が、各短期間の2秒間の信号から抽出される。
【0059】
本発明は、粒子の寸法、光学的分極率、及び微視的な屈折率に敏感な周波数由来の特徴を後方散乱信号から抽出するので、異なるタイプの細胞外小胞を検出して識別することができる。
【0060】
式(3)中に提示されているように、ナノ粒子の動きは、拡散率D、及び高度に集中した電磁界によって与えられる光学ポテンシャルに対する当該粒子の応答の両方によって影響される。従って、時間に伴う粒子位置の変動性は次式(3)によって与えられる:
【数3】
【0061】
ここに、k
potentialは、光学ポテンシャルに対する粒子の応答を定め、粒子の分極率αに依存し、次式(4)で表される:
【数4】
【0062】
ここに、▽Iは1D(一次元:1 Dimension)上の電磁界の勾配を表し、xは、印加される電磁界によって加えられる力を受ける所定点の1D座標である。粒子の分極率αは次式のように定義される:
【数5】
【0063】
ここに、npは粒子の微視的な屈折率であり、nmは上記媒質の屈折率である。
【0064】
式(3)及び(4)は、現在技術の方法でナノ粒子のブラウン運動を記述するために用いられる「より単純な」定式化(例えば、動的な光散乱)と対照的であり、こうした定式化は液分布中の粒子の拡散率Dのみに依存する。こうした単純なブラウン運動は、時間に伴う粒子位置(σ(t))の変動率によって与えられる:
σ(t)=2Dt (5)
及びD:
【数6】
ここに、k
Bはボルツマン定数であり、Tは絶対温度であり、ηは上記流体の粘度であり、rは粒子の半径である。従って、ブラウン運動のこうした数学的定式化は、時間に伴う粒子位置(σ(t))はナノ粒子の半径のみに依存する。
【0065】
図4を参照し、
図4は、およそ同じサイズを有する異なるEVの2つの集団(集団a及びb)の組合せによって散乱される光の強度について、理論的シミュレーションを用いて得られた結果を示す。EVの2つの集団a及びbを用い、これらは:r
a=100nm、r
b=120nm、及びk
potential,aとk
potential,bとの比率2によって特徴付けられる。
図4は、EVの2つの異なるクラス間の完全な分離を得て(
図4A)、研究室で得られた実験結果を要約する(
図4B)ための、光学的分極率及び微視的な屈折率を粒子の寸法と共に考慮することの計測上の役割を強調する。単純なブラウン運動のみを考慮した際には、クラス分離が実現されなかった(
図4C)。
【0066】
分類アルゴリズム、即ちランダムフォレスト(Random Forest)分類器を用いて、液体試料中のEVを検出した。
【0067】
図5を参照しながら、リーブワンアウト(Leave-One-Out)手順(400)を説明し、この手順を実行して、分類器の性能を評価するために用いたデータが、上記学習に少しも関与していない主体/実体に属することを確証した。従って、あるデータセットがn個の主体/実体からのデータによって構成される場合、このテストセットをn個のテスト回(テスト・ラウンド)に分割し、各回では、1つの主体からのデータをテスト用に用い、残りのn-1個の主体からのデータを分類学習用に用いる。次の回では、前の回で学習用に選択した他の主体からのデータ部分集合を、上記分類器をテストするために別個に用いる。次に、n個のテスト回の後に得られた平均値に基づいて、上記分類器の性能を決定する。
【0068】
上述した方法及び装置を数回の実験に用いて、目標の対象物に対する実現可能性及び潜在力を証明した。従って、実験II、IV、V、VI、及びVIIは、特定の粒子を個別化して識別しないように設計され、その代わりに、溶液中の所定種類のナノ粒子の存在を検出するように設計され、上記のリーブワンアウトに基づく方法を大幅に変更した。ナノ粒子及びマイクロ粒子が関与する実験中に捕捉した2秒間の信号部分どうしを区別する要因は、各捕捉においてこれらの粒子を取得した場所であった。従って、テスト用に用いた信号部分は、ナノ粒子での実験中に学習用に考慮した位置とは異なる位置で捕捉され、過学習の影響を回避する方法である。なお、これらの場合には、粒子のナノスケールの寸法、及び我々のファイバツールがこれらの粒子を捕捉することができないことに起因して、これらの粒子を個別化することはできなかった。
【0069】
実験/課題毎の、かつn回目の評価実行における最も正確な分類率は、次の3つのパラメータ(
図5、405):ツリー(木)の数、試料に対する予測器の数、及び最小のリーフサイズ-表1を参照されたい-の値の最も適切な組合せを決定することによって得られた。従って、この組合せは、値の組合せ(
図5、405)を考慮して学習させた分類器を生成する。次に、これらのパラメータの最も効果的な組合せを、実験及び評価実行毎に、学習段階中に、5-分割交差検証(クロスバリデーション、相互検証)(
図5、405)を用いて決定した。しかし、学習サンプルは正規化した。各特徴の全体にわたる学習サンプルの平均値を 当該特徴の各データサンプルから減算して、当該特徴の対応する標準偏差で除算した。テスト入力サンプルも、以前に得られた特徴毎の学習平均値及び標準偏差を用いて、この手順により正規化しなければならない。このことは、新規のテスト特徴ベクトルを学習特徴空間内にマッピングすることを可能にする。
【0070】
【0071】
実験II、VI、及びVIIで用いた、2つの選択した細胞株及びそのEVは、胃癌の細胞株MKN45:HST6から導出され、遺伝的に修飾されて、より短い/短縮型O-グリカンをそれらの表面に提供し、このことは、ST6GalNAc1シアル酸転移酵素(トランスファーゼ)-及びモック(Mock)-O-グリカンに何の変化も誘発しない空ベクターを導入した対応する対照細胞-の過剰発現に起因する。参照したモックとHST6癌細胞とは、その表面に付着したO-グリカン(炭水化物)のみが異なる。
【0072】
より短い、または短縮型O-グリカンは、特定の癌における予後不良の予測マーカーと考えられている。これらの現象は、健康体の下での細胞経路に比べて、細胞グリコシル化(糖鎖形成)中の不完全なグリカン合成に頻繁に関連する。
【0073】
実験IIは、リン酸緩衝食塩水(PBS:Phosphate Buffered Saline)中の真核細胞の識別及び分類を4クラス問題の形でテストした。3種類の溶液を用意して、提案する単細胞識別方法をテストした。これらの溶液のうちの2つは、以下に説明する、異なるようにグリコシル化した癌細胞-モック及びHST6-であり、PBS(リン酸緩衝食塩水、1x)中に懸濁している。3番目の溶液は、8μmのポリスチレン(PS:Polystyrene)合成ミクロスフェア(球状微粒子)を含み、これもPBS(1x)中に懸濁している。
【0074】
実験IVは、PBS中のバクテリア(細菌)細胞の識別及び分類を、次の3クラス問題の形でテストした:(1)「粒子の捕捉なし」;(2)「アシドフィルス乳酸菌のヨーグルト・バクテリアが捕捉された」;及び(3)「サーモフィルス連鎖球菌のヨーグルト・バクテリアが捕捉された」(ターゲット(標的)寸法:1.5~0.6μm)。
【0075】
実験VI及びVIIは、HST6及びモック細胞を生成した細胞外小胞の識別及び分類をテストした。
【0076】
実験VIは、提案する方法及び装置により、PBS中に懸濁したモック由来及びHST6由来のエクソソームをテストし;次のクラスを考慮した:「クラス1:エクソソームなし(ブランク溶液のみ)」;「クラス2:モック由来のエクソソームが懸濁液中に存在」;及び「クラス3:HST6由来のエクソソームが懸濁液中に存在」。
【0077】
実験VIIは、ウシ胎児血清(FBS:Fetal Bovine Serum)を補充したPBS、即ち高濃度のタンパク質、糖分、及び脂質を有する複合液体媒質を用いてEVを再懸濁させる挑戦的な条件で実行した。このFBSを処理して天然のEVを除去した。
図6に、次の3つの異なる試料:細胞培養基(培地)を有するEVなしのFBS(A)、細胞培養基を有する、モックのEVを補充したEVなしのFBS(B)、及び細胞培養基を有する、HST6のEVを補充したEVなしのFBSで得られた後方散乱信号を示す。
【0078】
表2は、本発明により得られた実験結果、特に提案する方法及び装置による細胞またはEV間の区別性能に関する結果を要約したものである。
【0079】
「具えている」とは、本明細書中で用いる際には常に、提示した特徴、数値、ステップ、構成要素を示すことを意図しているが、他の1つ以上の特徴、数値、ステップ、構成要素、またはそのグループの存在を排除することは意図していない。本発明は、形はどうであれ記載した実施形態に限定されるものと見るべきでなく、通常の当業者はその変更の多数の可能性を予見する。上述した実施形態は組合せ可能である。以下の特許請求の範囲は、本発明の特定の好適例をさらに明記する。
【0080】
【0081】
【国際調査報告】