(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-17
(54)【発明の名称】軟質化熱処理の省略が可能な線材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20220107BHJP
C22C 38/22 20060101ALI20220107BHJP
C21D 8/06 20060101ALI20220107BHJP
C21D 9/52 20060101ALI20220107BHJP
C21D 1/32 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
C22C38/00 301Y
C22C38/22
C21D8/06 A
C21D9/52 103Z
C21D1/32
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021523443
(86)(22)【出願日】2019-10-18
(85)【翻訳文提出日】2021-06-28
(86)【国際出願番号】 KR2019013702
(87)【国際公開番号】W WO2020091277
(87)【国際公開日】2020-05-07
(31)【優先権主張番号】10-2018-0132073
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジェ-スン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ヨ-セプ
(72)【発明者】
【氏名】パク,イン-ギュ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ハン-フィ
【テーマコード(参考)】
4K032
4K043
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA05
4K032AA11
4K032AA12
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA31
4K032BA02
4K032CA01
4K032CA02
4K032CB01
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4K032CC02
4K032CC03
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4K032CD02
4K032CF02
4K043AA02
4K043AB01
4K043AB04
4K043AB10
4K043AB11
4K043AB15
4K043AB18
4K043AB20
4K043AB27
4K043BA01
4K043BA02
4K043BA03
4K043BA04
4K043BA06
4K043DA05
4K043EA01
4K043FA03
4K043FA12
(57)【要約】
【課題】軟質化熱処理の省略が可能な線材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の軟質化熱処理の省略が可能な線材は、重量%で、C:0.2~0.45%、Si:0.02~0.4%、Mn:0.3~1.5%、Cr:0.01~1.5%、Al:0.02~0.05%、Mo:0.01~0.5%、N:0.01%以下、残部はFe及びその他の不可避不純物からなり、微細組織は主相が初析フェライトとパーライトの複合組織であり、ベイナイトまたはマルテンサイトのうち1種以上を10面積%以下含み(0%を含む)、上記パーライトのコロニーの平均大きさは、5μm以下であることを特徴とする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.2~0.45%、Si:0.02~0.4%、Mn:0.3~1.5%、Cr:0.01~1.5%、Al:0.02~0.05%、Mo:0.01~0.5%、N:0.01%以下、残部はFe及びその他の不可避不純物からなり、
微細組織は、主相が初析フェライトとパーライトの複合組織であり、ベイナイトまたはマルテンサイトのうち1種以上を10面積%以下含み(0%を含む)、
前記パーライトのコロニーの平均大きさは、5μm以下であることを特徴とする軟質化熱処理の省略が可能な線材。
【請求項2】
前記初析フェライトの分率は、平衡相の80%以上であることを特徴とする請求項1に記載の軟質化熱処理の省略が可能な線材。
【請求項3】
前記線材は、初析フェライト結晶粒の平均大きさが7μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の軟質化熱処理の省略が可能な線材。
【請求項4】
前記線材は、前記パーライトのコロニー内のセメンタイトの長軸の平均大きさが5μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の軟質化熱処理の省略が可能な線材。
【請求項5】
前記線材は、800MPa以下の引張強度を有することを特徴とする請求項1に記載の軟質化熱処理の省略が可能な線材。
【請求項6】
前記線材は、1回の球状化熱処理後のセメンタイトの平均アスペクト比が2.5以下であることを特徴とする請求項1に記載の軟質化熱処理の省略が可能な線材。
【請求項7】
前記線材は、1回の球状化熱処理後に540MPa以下の引張強度を有することを特徴とする請求項1に記載の軟質化熱処理の省略が可能な線材。
【請求項8】
重量%で、C:0.2~0.45%、Si:0.02~0.4%、Mn:0.3~1.5%、Cr:0.01~1.5%、Al:0.02~0.05%、Mo:0.01~0.5%、N:0.01%以下、残部はFe及びその他の不可避不純物からなるビレットを950~1050℃で加熱する段階、
前記加熱されたビレットを730℃~Ae3で0.3~2.0の変形量で仕上げ熱間圧延して線材を得る段階、及び
前記線材をAe1以下の温度まで2℃/sec以下に冷却する段階を含むことを特徴とする軟質化熱処理の省略が可能な線材の製造方法。
【請求項9】
前記加熱時の加熱時間は90分以下であることを特徴とする請求項8に記載の軟質化熱処理の省略が可能な線材の製造方法。
【請求項10】
前記仕上げ熱間圧延前のビレットのオーステナイト結晶粒の平均大きさは、5~20μmであることを特徴とする請求項8に記載の軟質化熱処理の省略が可能な線材の製造方法。
【請求項11】
前記冷却後の線材をAe1~Ae1+40℃に加熱し、10~15時間維持した後、660℃まで20℃/hr以下に冷却する球状化アニーリング熱処理をさらに含むことを特徴とする請求項8に記載の軟質化熱処理の省略が可能な線材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟質化熱処理の省略が可能な線材及びその製造方法に係り、より詳しくは、自動車、建設用部品などに適用可能な機械構造用線材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、冷間加工のための素材の軟質化のためには、600~800℃の高温で10~20hr以上の長時間の熱処理が必要であり、この処理を短縮、或いは省略するために多くの技術が開発されてきた。
【0003】
代表的な技術としては、特許文献1がある。上記技術は、フェライト結晶粒度を11以上に制御して結晶粒を微細化し、パーライト組織内の硬い板状セメンタイト相のうち、約3~15%を分節された形に制御することによって、後続する軟質化熱処理工程を省略することができる。しかしながら、かかる素材の製造は、熱間圧延後の冷却時に0.02~0.3℃/sの非常に遅い冷却速度によってのみ、達成されることができる。このような遅い冷却速度は、生産性の低下を伴い、環境雰囲気によっては、さらなる徐冷設備及び徐冷ヤードなどが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的とするところは、自動車、建設用部品などの冷間加工時に必要な軟質化熱処理の省略が可能な線材及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の軟質化熱処理の省略が可能な線材は、重量%で、C:0.2~0.45%、Si:0.02~0.4%、Mn:0.3~1.5%、Cr:0.01~1.5%、Al:0.02~0.05%、Mo:0.01~0.5%、N:0.01%以下、残部はFe及びその他の不可避不純物からなり、微細組織は柱状が初析フェライトとパーライトの複合組織であり、ベイナイトまたはマルテンサイトのうち1種以上を10面積%以下含み(0%を含む)、前記パーライトのコロニーの平均大きさは、5μm以下であることを特徴とする。
【0007】
本発明の軟質化熱処理の省略が可能な線材の製造方法は、重量%で、C:0.2~0.45%、Si:0.02~0.4%、Mn:0.3~1.5%、Cr:0.01~1.5%、Al:0.02~0.05%、Mo:0.01~0.5%、N:0.01%以下、残部はFe及びその他の不可避不純物からなるビレットを950~1050℃で加熱する段階、前記加熱されたビレットを730℃~Ae3で0.3~2.0の変形量に仕上げ熱間圧延して線材を得る段階、及び前記線材をAe1以下の温度まで2℃/sec以下に冷却する段階、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、自動車、建設用部品などの冷間加工時に必要な軟質化熱処理の省略が可能な線材及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】比較例1の仕上げ熱間圧延前の微細組織を光学顕微鏡で観察した写真である。
【
図2】発明例1の仕上げ熱間圧延前の微細組織を光学顕微鏡で観察した写真である。
【
図3】比較例1の圧延及び冷却後の微細組織をSEMで観察した写真である。
【
図4】発明例1の圧延及び冷却後の微細組織をSEMで観察した写真である。
【
図5】比較例1の球状化熱処理後の微細組織をSEMで観察した写真である。
【
図6】発明例1の球状化熱処理後の微細組織をSEMで観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態による球状化熱処理性に優れた線材について説明する。まず、本発明の合金組成を説明する。下記説明される合金組成の含有量は、特に断りのない限り、重量%を意味する。
【0011】
C:0.2~0.45%
Cは一定水準の強度を確保するために添加される元素である。上記C含有量が0.45%を超える場合には、すべての組織がパーライトからなり、本発明が目的とするフェライト組織を確保することが難しく、焼入れ性が過度に増加して軽い低温変態組織が発生する可能性がある。これに対し、0.2%未満の場合には、母材の強度低下により、軟質化熱処理及び鍛造加工の工程後に行われる焼入れ、焼戻しの熱処理後に十分な強度を確保することが困難である。したがって、上記C含有量は、0.2~0.45%の範囲を有することが好ましい。上記C含有量の下限は、0.22%であることがより好ましく、0.24%であることがさらに好ましく、0.26%であることが最も好ましい。上記C含有量の上限は、0.43%であることがより好ましく、0.41%であることがさらに好ましく、0.39%であることが最も好ましい。
【0012】
Si:0.02~0.4%
Siは、代表的な置換型元素であって、一定水準の強度を確保するために添加される元素である。上記Siが0.02%未満の場合には、鋼の強度確保及び十分な焼入れ性の確保が難しく、0.4%を超える場合には、軟質化熱処理後の鍛造時の冷間鍛造性を悪化させる欠点がある。したがって、上記Si含有量は、0.02~0.4%の範囲を有することが好ましい。上記Si含有量の下限は、0.022%であることがより好ましく、0.024%であることがさらに好ましく、0.026%であることが最も好ましい。上記Si含有量の上限は、0.038%であることがより好ましく、0.036%であることがさらに好ましく、0.034%であることが最も好ましい。
【0013】
Mn:0.3~1.5%
Mnは、基地組織内に置換型固溶体を形成し、A1温度を下げてパーライト層間の間隔を微細化し、フェライト組織内の亜結晶粒を増加させる元素である。上記Mnが1.5%を超える場合には、マンガン偏析による組織不均質によって有害な影響を及ぼすようになる。鋼の凝固時の偏析機構によってマクロ偏析及びミクロ偏析が生じやすいが、Mnは他の要素に比べて相対的に低い拡散係数により偏析帯を助長し、これによる硬化能の向上は、中心部にマルテンサイトのような低温組織を生成する主原因となる。これに対し、上記Mnが0.3%未満の場合には、軟質化熱処理及び鍛造加工工程後に行われる焼入れ及び焼戻しの熱処理後に、マルテンサイト組織を確保するための十分な焼入れ性が確保され難い。したがって、Mn含有量は0.3~1.5%の範囲を有することが好ましい。上記Mn含有量の下限は、0.4%であることがより好ましく、0.5%であることがさらに好ましく、0.6%であることが最も好ましい。上記Mn含有量の上限は、1.4%であることがより好ましく、1.3%であることがさらに好ましく、1.2%であることが最も好ましい。
【0014】
Cr:0.01~1.5%
Crは、Mnと同様に鋼の焼入れ性を高める元素として主に用いられる。上記Crが0.01%未満の場合には、軟質化熱処理及び鍛造加工工程後に行われる焼入れ及び焼戻しの熱処理時に、マルテンサイトを得るための十分な焼入れ性の確保が難しく、1.5%を超える場合には、中心偏析の助長により線材内の低温組織が発生する可能性が高くなる。したがって、上記Cr含有量は0.01~1.5%の範囲を有することが好ましい。上記Cr含有量の下限は、0.1%であることがより好ましく、0.3%であることがさらに好ましく、0.5%であることが最も好ましい。上記Cr含有量の上限は、1.4%であることがより好ましく、1.3%であることがさらに好ましく、1.2%であることが最も好ましい。
【0015】
Al:0.02~0.05%
Alは、脱酸効果だけでなく、Al系炭窒化物を析出させ、オーステナイト結晶粒の成長抑制及び初析フェライトの分率を平衡相に近く確保するのに役立つ元素である。上記Alが0.02%未満の場合には、脱酸効果が十分でなく、0.05%を超える場合には、Al2O3などの硬質介在物が増加することがあり、特に、連鋳時の介在物によるノズルの目詰まりが発生する可能性がある。したがって、上記Al含有量は0.02~0.05%の範囲を有することが好ましい。上記Al含有量の下限は、0.022%であることがより好ましく、0.024%であることがさらに好ましく、0.026%であることが最も好ましい。上記Al含有量の上限は、0.048%であることがより好ましく、0.046%であることがさらに好ましく、0.044%であることが最も好ましい。
【0016】
Mo:0.01~0.5%
Moは、Mo系炭窒化物を析出させ、オーステナイト結晶粒の成長を抑制させ、初析フェライトの分率を平衡相に近く確保するのに役立つだけでなく、軟質化熱処理及び鍛造加工工程後に行われる焼入れ及び焼戻しの熱処理のうち焼戻しの際に、Mo2C析出物を形成させることによる強度低下(焼戻し軟化)の抑制に効果的な元素である。上記Moが0.01%未満の場合には、十分な強度低下の抑制効果を有し難く、0.5%を超える場合には、線材内に低温組織が発生する可能性があり、これにより、低温組織を除去するための追加的な熱処理費用がかかることがある。したがって、上記Moは0.01~0.5%の範囲を有することが好ましい。上記Mo含有量の下限は、0.012%であることがより好ましく、0.013%であることがさらに好ましく、0.014であることが最も好ましい。上記Mo含有量の上限は、0.49%であることがより好ましく、0.48%であることがさらに好ましく、0.47%であることが最も好ましい。
【0017】
N:0.01%以下
Nは、不純物元素であり、0.01%を超える場合には、析出物に結合していない固溶窒素により素材靭性及び延性の低下が発生する可能性がある。したがって、上記N含有量は0.01%以下の範囲を有することが好ましい。上記N含有量は、0.019%以下であることがより好ましく、0.018%以下であることがさらに好ましく、0.017%以下であることが最も好ましい。
【0018】
本発明の残りの成分は、鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料や周囲環境から意図されない不純物が不可避に混入することがあるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者であれば、誰でも分かることであるため、そのすべての内容を特に本明細書に記載しない。
【0019】
本発明の線材の微細組織は、初析フェライトとパーライトの複合組織であることが好ましい。鋼の球状化の一面だけ見れば、微細なセメンタイトを有するベイナイト鋼が有利な側面があるが、ベイナイトで球状化したセメンタイトは、過度に微細で成長が非常に遅いと報告されており、フェライトとパーライトとベイナイトの複合組織は、組織均質化の側面で不利である。したがって、本発明では線材の微細組織を初析フェライトとパーライトの複合組織に制御することにより、球状化熱処理性を向上させるだけでなく、組織をより均質化させることができる。このとき、上記初析フェライトの分率は、平衡相の80%以上であることが好ましく、もし、平衡相の80%未満の場合には、比較的軽い低温組織が多量形成されるにつれ、球状化熱処理性を効果的に確保することが困難であることがある。但し、本発明では製造時に不可避に形成され得る低温組織、例えば、ベイナイトまたはマルテンサイトのうち1種以上を10面積%以下含むことができる。すなわち、本発明の微細組織は、主相がフェライトとパーライトの複合組織であり、ベイナイトまたはマルテンサイトのうち1種以上を10面積%以下含む(0%を含む)ことができる。上記ベイナイトまたはマルテンサイトのうち1種以上の分率は、5面積%以下であることがより好ましい。一方、上記初析フェライトの平衡相とは、Fe3C状態図上において安定した状態で有することができる初析フェライトの最大分率を意味する。上記初析フェライトの平衡相は、当該技術分野で通常の知識を有する者であれば、Fe3C状態図によりC含有量及びその他の合金元素の含有量を考慮して、容易に導出することができる。
【0020】
このとき、上記パーライトのコロニーの平均大きさは、5μm以下であることが好ましい。上記のようにパーライトのコロニーの平均大きさを微細に制御することで、セメンタイトの分節効果を向上させ、球状化熱処理時のセメンタイトの球状化率を高めることができる。
【0021】
また、上記初析フェライトの結晶粒の平均大きさは、7μm以下であることが好ましい。このように、フェライトの結晶粒の平均大きさを微細に制御することで、パーライトのコロニーの大きさも微細化させることができ、これにより、球状化熱処理時にセメンタイトの球状化率を高めることができる。
【0022】
併せて、上記パーライトのコロニー内のセメンタイトの長軸の平均大きさは、5μm以下であることが好ましい。このようにパーライトのコロニー内のセメンタイトの長軸の平均大きさを小さく制御することで、すなわち、セメンタイトのアスペクト比を小さく制御して球状化熱処理時にセメンタイトの球状化率を高めることができる。
【0023】
一方、本発明において、上記パーライトのコロニーの平均大きさ、初析フェライトの結晶粒の平均大きさ、及びパーライトのコロニー内のセメンタイトの長軸の平均大きさは、線材の直径の基準中心部、例えば、直径を基準にして表面から2/5地点~3/5地点の領域であることができる。一般に、線材の表層部は、圧延時に強い圧下力を受けるため、上記表層部でのパーライトのコロニーの平均大きさ、初析フェライトの結晶粒の平均大きさ、及びパーライトのコロニー内のセメンタイトの長軸の平均大きさは、微細であることができる。一方、本発明では線材の表層部だけでなく、中心部までパーライトのコロニーの平均大きさ及びフェライトの結晶粒の平均大きさを微細化させることで、球状化熱処理時にセメンタイトの球状化率を効果的に高めることができる。
【0024】
本発明で提供する線材は800MPa以下の引張強度を有することができる。一般に線材を鋼線で製造するためには、1次軟質化熱処理→1次伸線加工→2次軟質化熱処理→2次伸線加工を経るように行う。しかしながら、本発明の線材は、素材の十分な軟質化により、1次軟質化熱処理及び1次伸線加工に該当する工程を省略することができる。一方、本発明で言及する軟質化熱処理は、Ae1相変態点以下で実施する低温アニーリング熱処理、Ae1近くで実施する中温アニーリング熱処理、Ae1以上で実施する球状化アニーリング熱処理などが挙げられる。
【0025】
また、本発明の線材は、1回の球状化アニーリング熱処理後のセメンタイトの平均アスペクト比が2.5以下であることができる。一般に、上記球状化アニーリング熱処理は、その処理の回数が増加するほどセメンタイトの球状化に効果的であることが広く知られている。しかし、本発明では1回の球状化アニーリング熱処理だけでもセメンタイトを十分に球状化させることができる。また、上述したように、線材の表層部は、圧延時に強い圧下力を受けるため、セメンタイトの球状化も円滑に行われることができる。しかしながら、本発明では線材の直径の基準中心部、詳しくは、直径を基準にして表面から1/4地点~1/2地点の領域でのセメンタイトも十分球状化が可能であり、線材中心部でのセメンタイトの平均アスペクト比が2.5以下であることができる。さらに、本発明の線材は、1回の球状化熱処理後に540MPa以下の引張強度を有することができ、これにより、最終製品の製造のための冷間圧造または冷間鍛造の加工を容易にすることができる。
【0026】
以下、本発明の一実施形態による球状化熱処理性に優れた線材の製造方法について説明する。
【0027】
まず、上述した合金組成を有するビレットを950~1050℃で加熱する。上記ビレット加熱温度が950℃未満の場合には、圧延性が低下し、上記ビレット加熱温度が1050℃を超える場合には、圧延のために急激な冷却が必要なため、冷却制御が困難となるだけでなく、亀裂などが発生して良好な製品品質を確保することが困難となり得る。
【0028】
上記加熱時の加熱時間は90分以下であることが好ましい。上記加熱時間が90分を超える場合には、表面脱炭層の深さが厚くなって圧延終了後に脱炭層が残存することがある。
【0029】
この後、上記加熱されたビレットを730℃~Ae3で0.3~2.0の変形量(ε)で仕上げ熱間圧延して線材を得る。線材圧延速度は非常に速く、動的再結晶の領域に属する。現在までの研究結果によると、動的再結晶の条件下では、オーステナイト結晶粒の大きさが変形速度及び変形温度のみに依存することが明らかになっている。線材圧延の特性上、線径が決まると変形量、変形速度が定まるようになり、オーステナイト結晶粒の大きさは、変形温度を調整して変化させることができるようになる。本発明では動的再結晶のうち動的変形誘起変態現象を利用して、結晶粒を微細化する。このような現象を利用して、本発明が得ようとする微細組織の結晶粒を確保するためには、仕上げ圧延温度を730℃~Ae3に制御することが好ましい。上記仕上げ圧延温度がAe3を超える場合には、本発明で得ようとする微細組織結晶粒を得ることが難しく、十分な球状化熱処理性を得ることが困難であり、730℃未満の場合には、設備の負荷が高くなり、設備の寿命が急激に低下する虞がある。また、上記変形量(ε)が0.3未満の場合には、圧下量が十分でないため、線材中心部での微細組織を十分に微細化させ難く、これにより得られる線材の球状化熱処理性が低下する虞があり、2.0を超える場合には、圧延負荷のために、生産性の低下及び設備のベアリング破損などによる設備の寿命が急激に低下する虞がある。
【0030】
一方、上記仕上げ熱間圧延前のビレットのオーステナイト結晶粒の平均大きさは5~20μmであることが好ましい。フェライトはオーステナイト結晶粒界から核生成して成長することが知られている。母相であるオーステナイト結晶粒が微細であると、その結晶粒界から核生成するフェライトも微細に生成を開始することができるため、上記のように仕上げ熱間圧延前のビレットのオーステナイト結晶粒の平均大きさを制御することにより、フェライト結晶粒の微細化効果を得ることができる。上記オーステナイト結晶粒の平均大きさが20μmを超える場合には、フェライト結晶粒微細化の効果を得ることが困難であり、5μm未満のオーステナイト結晶粒の平均大きさを得るためには、強圧下のような高い変形量をさらに加える別の設備が必要であるという欠点がある。
【0031】
この後、上記線材をAe1以下の温度まで2℃/sec以下に冷却する。上記線材の冷却速度が2℃/secを超える場合には、線材の微細偏析部でベイナイトのような低温組織が生成する虞がある。上記微細偏析部では、線材の平均に対して2倍以上の偏析が形成される可能性があり、これにより、低い冷却速度でも低温組織が生成され、鋼の組織均質化に良くない影響を及ぼす虞がある。よって、上記線材の冷却速度は、微細組織の結晶粒微細化の観点から0.5~2℃/secであることがより好ましい。
【0032】
本発明では上記冷却後、線材をAe1~Ae1+40℃に加熱し、10~15時間維持した後、660℃まで20℃/hr以下に冷却する球状化熱処理をさらに含むことができる。上記加熱温度がAe1未満の場合には、球状化熱処理時間が長くなる欠点がある可能性があり、Ae1+40℃を超える場合には、球状化炭化物のシードが減って、球状化熱処理の効果が十分でない可能性がある。上記維持時間が10時間未満の場合には、球状化熱処理が十分に行われず、セメンタイトのアスペクト比が大きくなる欠点がある可能性があり、15時間を超える場合には、費用が増加する欠点がある可能性がある。上記冷却速度が20℃/hrを超える場合には、速い冷却速度によりパーライトが再び形成される欠点がある可能性がある。しかしながら、上述したように、本発明では1次軟質化熱処理及び1次伸線加工をせず、上記球状化熱処理のみを行っても、十分な球状化熱処理性を確保することができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。但し、下記実施例は、本発明を例示して、より詳細に説明するためのものにすぎず、本発明の権利範囲を限定するためのものではない点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項と、それから合理的に類推される事項によって決定されるものであるためである。
【0034】
下記表1の合金組成を有するビレットを用意した後、下記表2に記載された条件を利用して、直径が9mmである線材を製造した。このように製造された線材について微細組織、初析フェライトの結晶粒の平均大きさ、パーライトのコロニーの平均大きさ、パーライトのコロニー内のセメンタイトの長軸の平均大きさ及び引張強度を測定した後、その結果を下記表3に示した。併せて、上記線材に対して下記表4の条件で1回の球状化熱処理をした後、セメンタイトの平均アスペクト比及び引張強度を測定して、その結果を下記表4に示した。このとき、上記球状化熱処理は、上記のように製造された線材の試験片に対して1次軟質化処理及び1次伸線加工工程をせずに行った。
【0035】
オーステナイト結晶粒の平均大きさ(AGS)は、仕上げ熱間圧延前に行う切断cropを介して測定した。
【0036】
Ae1及びAe3は、常用プログラムであるJmatProを利用して計算した値を示した。
【0037】
初析フェライトの結晶粒の平均大きさ(FGS)は、ASTM E112法を利用して、線材圧延後に未水冷部を除去した後、採取した試験片に対して直径から2/5地点~3/5地点の領域で任意の3地点を測定した後、平均値で示した。
【0038】
パーライトのコロニーの平均大きさは、ASTM E112法を利用して、上記FGS測定と同一地点で任意のパーライトのコロニー10個を選定し、各コロニーの(長軸+短縮)/2の値を求めた後、測定したコロニーの大きさの平均値で示した。
【0039】
球状化熱処理後のセメンタイトの平均アスペクト比は、線材の直径方向に1/4~1/2地点をSEMを用いて(倍率)2000倍にて3視野を撮影し、視野内のセメンタイトの長軸/短縮をイメージ測定プログラムを用いて自動測定した後、統計処理を介して算出した。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
上記表1~4に示すように、本発明が提案する合金組成及び製造条件を満たす発明例1~5の場合には、本発明の微細組織の種類及び分率だけでなく、微細な結晶粒を確保することで、1回の球状化熱処理だけでも2.5以下のセメンタイトの平均アスペクト比を有することが分かる。
【0045】
しかし、本発明が提案する合金組成または製造条件を満たしていない比較例1~4の場合には、本発明の微細組織の種類及び分率を満たしていないか、または微細な結晶粒が確保できなかったことにより、1回の球状化熱処理時のセメンタイトの平均アスペクト比が高い水準であることが分かり、その結果、最終製品に適用するためには、さらなる球状化熱処理が必要であることが確認できる。
【0046】
図1は、比較例1の仕上げ熱間圧延前の微細組織を光学顕微鏡で観察した写真であり、
図2は、発明例1の仕上げ熱間圧延前の微細組織を光学顕微鏡で観察した写真である。
図1及び2に示すように、発明例1は、比較例1に比べて仕上げ熱間圧延前のAGSが比較的微細であることが分かる。
【0047】
図3は、比較例1の圧延及び冷却後の微細組織をSEMで観察した写真であり、
図4は、発明例1の圧延及び冷却後の微細組織をSEMで観察した写真である。
図3及び4に示すように、発明例1は、比較例1に比べて圧延及び冷却した後の微細組織が微細化しており、セメンタイトが分節されていることが確認できる。
【0048】
図5は、比較例1の球状化熱処理後の微細組織をSEMで観察した写真であり、
図6は、発明例1の球状化熱処理後の微細組織をSEMで観察した写真である。
図5及び6に示すように、発明例1は、比較例1に比べて球状化熱処理後の微細組織がより球状化していることが確認できる。
【国際調査報告】