(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-17
(54)【発明の名称】肥大型心筋症治療用薬学組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4164 20060101AFI20220107BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220107BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220107BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
A61K31/4164
A61P9/00
A61P43/00 121
A61K45/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021523826
(86)(22)【出願日】2019-11-01
(85)【翻訳文提出日】2021-04-30
(86)【国際出願番号】 KR2019014726
(87)【国際公開番号】W WO2020091512
(87)【国際公開日】2020-05-07
(31)【優先権主張番号】10-2018-0133958
(32)【優先日】2018-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515074983
【氏名又は名称】セルトリオン, インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】ナムグン、フン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ボン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ボ ラム
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ウン サン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084ZA361
4C084ZA382
4C084ZC432
4C084ZC502
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC38
4C086GA13
4C086GA14
4C086GA16
4C086ZA36
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、シベンゾリン(Cibenzoline)を、特にS(-)-シベンゾリンまたはその薬剤学的に許容される塩を有効成分として含む肥大型心筋症治療用薬学組成物およびこれを用いた肥大型心筋症の治療方法に関する。本発明による治療用組成物および方法は、肥大型心筋症患者を治療する。また、本発明による組成物および方法は、既存のオフ-ラベル治療方法と対比して優れた有効性および安全性を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
S(-)-シベンゾリンまたはS(-)-シベンゾリンの薬剤学的に許容される塩を含む肥大型心筋症治療用薬学組成物。
【請求項2】
前記薬学的に許容される塩は、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、クエン酸塩から選択されるものである、請求項1に記載の肥大型心筋症治療用薬学組成物。
【請求項3】
前記薬学組成物は、S(-)-シベンゾリンまたはS(-)-シベンゾリンの薬剤学的に許容される塩を200mg、300mgまたは400mg含むものである、請求項1に記載の肥大型心筋症治療用薬学組成物。
【請求項4】
前記薬学組成物を1日1回~3回投与するものである、請求項1に記載の肥大型心筋症治療用薬学組成物。
【請求項5】
前記薬学組成物を1日1回または1日2回投与するものである、請求項4に記載の肥大型心筋症治療用薬学組成物。
【請求項6】
前記肥大型心筋症は、閉塞性肥大型心筋症(HOCM、Hypertrophic obstructive cardiomyopathy)または非閉塞性肥大型心筋症(HNCM、Hypertrophic non-obstructive cardiomyopathy)である、請求項1に記載の肥大型心筋症治療用薬学組成物。
【請求項7】
前記肥大型心筋症は、閉塞性肥大型心筋症(HOCM、Hypertrophic obstructive cardiomyopathy)である、請求項1に記載の肥大型心筋症治療用薬学組成物。
【請求項8】
前記肥大型心筋症は、下記の特性の1つ以上を有する閉塞性肥大型心筋症(HOCM、Hypertrophic obstructive cardiomyopathy)である、請求項1に記載の肥大型心筋症治療用薬学組成物:
a)最大左心室厚さが15mm以上(家族歴がある場合に13mm以上);
b)休息期の左心室流出路(LVOT、Left Ventricular Outflow Tract)圧力勾配が30mmHg以上か、挑発(バルサルバ法(Valsalva)、スタンディング(Standing)または運動後などの刺激を含む)後にLVOT勾配が50mmHg以上;または
c)左心室駆出率(LVEF、left ventricular ejection fraction)55%以上。
【請求項9】
前記薬学組成物は、左心室圧力差(LVPG、Left ventricular pressure gradient)の数値を改善させるものである、請求項1に記載の肥大型心筋症治療用薬学組成物。
【請求項10】
前記改善は、初期測定値対比、少なくとも1%、5%または10%以上変化(または減少)したものである、請求項10に記載の肥大型心筋症治療用薬学組成物。
【請求項11】
前記薬学組成物は、心臓疾患治療剤と併用投与されるものである、請求項1に記載の肥大型心筋症治療用薬学組成物。
【請求項12】
前記心臓疾患治療剤は、ベータ抑制剤(Beta blocker)、カルシウムチャネル抑制剤(Calcium channel blocker)および抗不整脈剤(antiarrhythmic drugs)からなる群より選択されるものである、請求項11に記載の肥大型心筋症治療用薬学組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シベンゾリン(Cibenzoline)を有効成分として含む肥大型心筋症治療用薬学組成物およびこれを用いた肥大型心筋症の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肥大型心筋症(HCM、hypertrophic cardiomyopathy)は、20世紀半ばに急死患者および大動脈弁狭窄手術後の死亡患者を剖検する途中に中隔肥大が観察されたことにより知られた疾患で、初期には非常に珍しい疾患と考えられていたが、現在は出生者500人あたり1人と頻度が高く、特に若い年齢で急死を起こす最もよくある疾患で常染色体優性遺伝をすることが明らかになった。
【0003】
現在、肥大型心筋症に使用可能な治療方法として承認された薬物は存在しないが、処置ガイドラインでは、ベータ抑制剤(Beta blocker)、カルシウムチャネル抑制剤(Calcium channel blocker)およびジソピラミド(disopyramide)の使用が知られている。しかし、既存のオフ-ラベル治療方法(off-label SOC(standard of care))の場合、肥大型心筋症の症状のみ緩和するだけで、疾病進行の抑制などの根本的な治療には効果がないことが知られている。もし、症状調節に関連する部分で薬物の効果があり、明白な心臓機能喪失(Overt heart failure)への進行を予防または遮断する薬物が存在すれば、当該患者にとって大いに役立つことが予想される。
【0004】
日本で数十年間にわたり肥大型心筋症患者を診療しながら臨床研究を行ってきた濱田(Hamada)博士の論文(J Cardiol.2016Mar;67(3):279-86)によれば、ジソピラミドと同じ系のClass Ia抗不整脈剤であるシベンゾリン(cibenzoline)の場合、ジソピラミドに比べて副作用が少なくかつ効果を奏し得ることを示唆する臨床根拠が提示された。しかし、対照群が存在しておらず、実際の治療ケースに関連する臨床研究はなかった。したがって、前記研究だけではシベンゾリンの肥大型心筋症の用途および用法を確定することはできず、臨床により有効性および安全性が立証されなければならない。
【0005】
また、薬理学分野における鏡像異性体は、心臓および肝組織で標的酵素に対して差別的な選択性を示し得ることが知られている。前記シベンゾリンは、2つの鏡像異性体であるS(-)-シベンゾリンとR(+)-シベンゾリンとして存在する薬物であるにもかかわらず、それぞれの鏡像異性体に関する実体的な薬理学的研究はなかった。薬理学的に効果がある1つの鏡像異性体を見出す場合、これによりラセミ混合物を投与する薬物の投与量を減少させることができ、効果を持たない鏡像異性体による副作用も低減可能である。
【0006】
本出願人は、シベンゾリンの肥大型心筋症患者への投与時、既存のオフ-ラベル治療方法と対比して優れた有効性および安定性を立証し、シベンゾリンは2つの鏡像異性体のうち薬理学的効果を示す鏡像異性体を究明しようとする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、肥大型心筋症治療のために、シベンゾリンまたはその薬剤学的に許容される塩を含む薬学組成物を提供することである。
【0008】
本発明が解決しようとする他の課題は、シベンゾリンまたはその薬剤学的に許容される塩を含む薬学組成物を肥大型心筋症患者に投与する肥大型心筋症の治療方法を提供することである。
【0009】
本発明が解決しようとするさらに他の課題は、シベンゾリンまたはその薬剤学的に許容される塩を含む薬学組成物および肥大型心筋症を治療するために、当該薬学組成物を対象に投与することを指示する指針を含むキットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、シベンゾリンまたはその薬学的に許容される塩を含む肥大型心筋症治療用薬学組成物を提供する。
【0011】
本発明の一実施形態において、前記薬学的に許容される塩は、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、クエン酸塩から選択されるものであってもよい。
【0012】
本発明の一実施形態において、前記シベンゾリンは、S(-)-シベンゾリンまたはS(-)-シベンゾリンの薬剤学的に許容される塩を含む肥大型心筋症治療用薬学組成物であってもよい。
【0013】
本発明の一実施形態において、前記薬学組成物は、S(-)-シベンゾリンまたはS(-)-シベンゾリンの薬剤学的に許容される塩を200mg、300mgまたは400mg含むことができる。
【0014】
本発明の一実施形態において、前記薬学組成物を1日1回~3回投与するものであってもよい。より具体的には、前記薬学組成物は、1日1回または1日2回投与するものであってもよい。
【0015】
本発明の一実施形態において、前記肥大型心筋症は、閉塞性肥大型心筋症(HOCM)または非閉塞性肥大型心筋症(HNCM)であってもよい。より具体的には、前記肥大型心筋症は、閉塞性肥大型心筋症(HOCM)であってもよい。
【0016】
本発明の一実施形態において、前記肥大型心筋症は、下記の特性の1つ以上を有する閉塞性肥大型心筋症(HOCM)であってもよい。
【0017】
a)最大左心室厚さが15mm以上(家族歴がある場合に13mm以上);
【0018】
b)休息期の左心室流出路(LVOT、Left Ventricular Outflow Tract)圧力勾配が30mmHg以上か、挑発(バルサルバ法(Valsalva)、スタンディング(Standing)または運動後などの刺激を含む)後にLVOT勾配が50mmHg以上;または
【0019】
c)左心室駆出率(LVEF、left ventricular ejection fraction)55%以上
【0020】
本発明の一実施形態において、前記薬学組成物は、左心室圧力差(LVPG)の数値を改善させるものであってもよい。より具体的には、前記改善は、初期測定値対比、少なくとも1%、5%または10%以上変化(または減少)したものであってもよい。
【0021】
本発明の一実施形態において、前記薬学組成物は、最大酸素消費量(PVO2)の数値を改善させるものであってもよい。
【0022】
本発明の一実施形態において、前記薬学組成物は、ニューヨーク心臓協会分類(NYHA class)段階に区分される症状を改善させるものであってもよい。
【0023】
本発明の一実施形態において、前記薬学組成物は、心臓疾患治療剤と併用投与されるものであってもよい。
【0024】
本発明の一実施形態において、前記心臓疾患治療剤は、ベータ抑制剤(Beta blocker)、カルシウムチャネル抑制剤(Calcium channel blocker)および抗不整脈剤(antiarrhythmic drugs)からなる群より選択されるものであってもよい。
【0025】
また、本発明は、シベンゾリンまたはその薬学的に許容される塩を含む薬学組成物を肥大型心筋症患者に投与することを含む肥大型心筋症の治療方法を提供する。
【0026】
本発明の一実施形態において、前記薬学組成物は、S(-)-シベンゾリンまたはS(-)-シベンゾリンの薬剤学的に許容される塩を含む薬学組成物を肥大型心筋症患者に1日投与量200mg、300mgまたは400mgで投与することができる。
【0027】
本発明の一実施形態において、前記薬学組成物を肥大型心筋症患者に1日1回~3回投与するものであってもよい。より具体的には、前記薬学組成物は、1日1回または1日2回投与するものであってもよい。
【0028】
本発明の一実施形態において、前記肥大型心筋症患者は、閉塞性肥大型心筋症患者(HOCM)または非閉塞性肥大型心筋症患者(HNCM)であってもよい。
【0029】
本発明の一実施形態において、前記治療方法は、左心室圧力差(LVPG)の数値を改善させるものであってもよい。より具体的には、前記改善は、初期測定値対比、少なくとも1%、5%または10%以上変化(または減少)したものであってもよい。
【0030】
本発明の一実施形態において、前記治療方法は、最大酸素消費量(PVO2)の数値を初期改善させるものであってもよい。
【0031】
本発明の一実施形態において、前記治療方法は、ニューヨーク心臓協会分類(NYHA class)段階に区分される症状を改善するものであってもよい。
【0032】
本発明の一実施形態において、前記治療方法は、患者に心臓疾患治療剤を併用投与することができる。
【0033】
本発明の一実施形態において、前記心臓疾患治療剤は、ベータ抑制剤(Beta blocker)、カルシウムチャネル抑制剤(Calcium channel blocker)および抗不整脈剤(antiarrhythmic drugs)からなる群より選択されるものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0034】
また、本発明は、シベンゾリンまたはその薬学的に許容される塩を含む薬学組成物;および肥大型心筋症患者に投与することを指示する指針を含むキットを提供する。
【発明の効果】
【0035】
本発明による治療用組成物および方法は、肥大型心筋症患者を治療する。また、本発明による組成物および方法は、既存のオフ-ラベル治療方法と対比して優れた有効性および安全性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】シベンゾリンの安定性を評価するための臨床デザインである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明をより容易に理解するために、本発明で使った用語を下記に定義する。
【0038】
シベンゾリンまたはその薬剤学的に許容される塩
【0039】
【0040】
シベンゾリン(Cibenzoline;Cifenline;2-(2,2-diphenylcyclopropyl)-4,5-dihydro-1H-imidazole;53267-01-9(CAS number))は、前記化学式1の構造を有する化合物であり、グループ1のナトリウムチャネル抑制剤(Group 1 sodium channel blocker)であって、抗不整脈剤として使用される薬物である。加えて、カルシウムチャネル抑制およびカリウムチャネル抑制剤の効果もともに知られている。
【0041】
本発明のシベンゾリンは、シベンゾリン遊離塩だけでなく、その塩化物を含むことができ、シベンゾリンは、薬学的に許容される塩だけでなく、すべての水和物、そして溶媒和物であってもよい。一実施形態において、前記水和物または溶媒和物は、前記シベンゾリンをメタノール、エタノール、アセトン、1,4-ジオキサンのような水と混合可能な溶媒に溶かした後に、遊離酸または遊離塩基を加えた後に結晶化されるか、または再結晶化された溶媒和物(特に水和物)であってもよい。また、凍結乾燥のような方法で製造可能な多様な量の水含有化合物のほか、水和物をはじめとする化学両論的溶媒和物も含むことができる。
【0042】
前記シベンゾリンの塩化物は、無機酸塩および有機酸塩の両者を含み、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、クエン酸塩などを含むが、これらに限定されるものではない。
【0043】
前記シベンゾリンは、2つの鏡像異性体であるS(-)-シベンゾリンとR(+)-シベンゾリンとして存在し、現在市販中のシベンゾリンは、S(-)-シベンゾリンとR(+)-シベンゾリンが1:1で混合された組成物(ラセミ混合物(Racemic):鏡像異性体の50:50の混合物)である。本発明では、S(-)-シベンゾリンとその薬剤学的に許容される塩がより好ましい。
【0044】
前記シベンゾリンは、患者に投与するために製剤化され、1つ以上の生理学的に許容される担体または賦形剤を含む。担体は、製剤の他の成分と両立可能であり、受容者に有害ではないとの意味であり、薬剤は、経口、静脈内または直腸投与などに製剤化される。製剤化の例としては、錠剤、カプセル、シロップのような通常の形態に製剤化されてもよいし、これに限定されるものではない。
【0045】
肥大型心筋症(HCM、Hypertrophic Cardiomyopathy)
肥大型心筋症は、高度の発現性、単一遺伝子、常染色体優性心筋疾患群を含み、心筋の機能的単位である筋節に寄与する構造タンパク質遺伝子のいずれか1つにおける1,000種を超える公知の点突然変異の1つ以上によって誘発される。初期には非常に珍しい疾患と考えられていたが、現在は出生者500人あたり1人と頻度が高く、特に若い年齢で急死を起こす最もよくある疾患で常染色体優性遺伝をすることが明らかになった。主に若い成人で健康検診のために心電図および心臓超音波を行いながら偶然に発見された後、追跡観察をする場合が多い。
【0046】
血力学的または症状学的に肥大型心筋症は閉塞性(obstructive)と非-閉塞性(non-obstructive)とに分けられる。閉塞性は、弁膜下部閉塞と心室中部閉塞とに分けられ、遅延性閉塞性は、安定時は圧力差がないが、挑発時に30mmHg以上に発生する場合をいう。
【0047】
肥大型心筋症を患う患者に対する臨床症状は運動性呼吸困難であり、卒中をはじめとする全身動脈血栓塞栓性疾患、急性肺水腫、心房細動、血量症または血量過多症の不耐性、および失神を含む。最近は、心臓突然死(Sudden cardiac Death、SCD)も肥大型心筋症の主な症状として確認されている。
【0048】
対象
対象は、すべてのヒトまたは非-ヒト動物を含む。用語「非-ヒト動物」は、脊椎動物、例えば、非-ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウサギおよびシロイタチ、齧歯類、鳥類、両生類、および爬虫類を含むが、これに限定されない。一実施形態において、前記対象は、哺乳類であって、ヒト(人間)、非-ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウサギ、シロイタチまたは齧歯類である。本発明において、用語「対象」、「患者」および「個体」は、相互交換的に使われる。
【0049】
投与
治療学的目的(例:肥大型心筋症治療)を達成するための物質(例:シベンゾリンまたはその薬剤学的に許容される塩)の投与をいう。前記投与は、経口または非経口投与可能であり、非経口投与の場合には、静脈内注入、皮下注入、筋肉注入、腹腔注入、内皮投与、局所投与、鼻内投与、肺内投与および直腸内投与などで投与可能である。前記投与は、対象に治療学的目的を達成するために薬物を伝達するすべての方法を含む。
【0050】
投与用量
本発明の薬学組成物の好適な投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、病的状態、飲食、投与時間、投与経路、排泄速度および反応感応性のような要因によって多様に選択可能である。
【0051】
本発明の一実施形態において、本発明の薬学組成物の1日投与量は、200mg、300mgまたは400mgであってもよい。
【0052】
投与回数
本発明の薬学組成物の好適な投与回数は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、病的状態、飲食、投与時間、投与経路、排泄速度および反応感応性のような要因によって多様に選択可能である。
【0053】
本発明の一実施形態において、本発明の薬学組成物の1日投与回数は、1日1~5回、1日3回、1日2回または1日1回であってもよいが、より具体的には、1日1回または1日2回投与することができる。
【0054】
キット
キットは、肥大型心筋症治療のための、本発明のシベンゾリンまたはその薬学的に許容される塩を投与するための成分を含む包装された製品をいう。当該キットは、キットの成分を維持する容器またはボックスを含む。ボックスまたは容器は、食品医薬局が承認したプロトコルまたは標識が添付される。ボックスまたは容器にはプラスチック、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンまたはプロピレン容器内に含有された本発明の成分を保有する。当該容器は、蓋のあるチューブまたは瓶であってよい。キットはまた、本発明のシベンゾリンまたはその薬学的に許容される塩を投与するための指針書を含む。
【0055】
左心室圧力差(LVPG、Left ventricular pressure gradient)
左心室圧力差は、心臓の左心室内の血圧である左心室圧力を測定した時、左心室収縮期血圧と左心室弛緩期血圧との差を意味する。
【0056】
前記左心室圧力差が減少する場合、肥大型心筋症による心不全などの危険が減少することが知られており、左心室圧力差は、心臓疾患に関連して運動、薬物または装置のような治療方法を評価する要素として活用できる。
【0057】
最大酸素消費量(PVO2、Peak volume O2)
最大酸素消費量は、臨床的に酸素摂取量(Vo2、oxygen uptake)、二酸化炭素生産量(Vco2、carbon dioxide production)および分時換気(minute ventilation:1分間肺から排出されるガスの全体量)を測定して定量化することができる。最大酸素消費量は、運動中の吸気および呼気された空気で測定されたそれぞれのO2およびCO2の濃度をガス分析器で測定して決定される。
【0058】
前記最大酸素消費量は、心血管の健康を評価する標準指標でかつ慢性心不全の強い予後指標である。最大酸素消費量は体質量に比例するというが、薬物、装置、運動および体重変化を含んだ多様な要因によって変化する。最大酸素消費量は心臓疾患に関連して運動、薬物または装置のような治療方法を評価する要素として活用できる。
【0059】
ニューヨーク心臓協会分類(New York Heart Association(NYHA)classification)
ニューヨーク心臓協会による心不全(心臓機能喪失、heart failure)の重症度分類で、心不全の重症度を自覚症状によって4段階に分類したものである。1902年に心臓の寄贈に対する測定可能な要素がなかった時、医師の間での患者区分のために制定されたものであるが、現在も心不全における重要な決定要素として使用されている。
【0060】
[NYHAの4段階の分類]
【0061】
第1群(A):活動の制限がない患者。日常活動では症状がない。
【0062】
第2群(B):活動の軽い制限を伴う患者。安定および中等程度の動作には症状がない。
【0063】
第3群(C):活動の著しい制限を伴う患者。安定時にのみ無症状である。
【0064】
第4群(D):完全な安定を必要とし、ベッドまたは椅子生活をしなければならない患者。少しだけ動いても不快な症状が現れる。
【0065】
心電図検査(electrocardiogram、ECG)
心臓の拍動によって心筋で発生する活動電流を体表面の適当な2ヶ所に誘導して電流計で記録し、心筋活動電流の記録を図で示したことを意味する。一般的に、12ヶ所の誘導心電図計を活用し、これによって心拍動数、心臓電気軸と回転程度を評価することができ、心室内伝導異常の有無も分かる。
【0066】
心電図信号の波形は、心臓の収縮によって発生する電流と電位差を曲線で表示する。心電図信号の1周期内には、一般的にP波(P wave)、Q波(Q wave)、R波(R wave)、S波(S wave)、T波(T wave)が連続して発生する。P波は心房の収縮、一連のQ波(Q wave)およびR波(R wave)およびS波(S wave)は心室の収縮を示し、T波は心室の弛緩時に現れる特徴である。
【0067】
QRS(QRS-complex)は、心室の収縮に関連するQ、R、S波の組み合わせで現れ、QRS波、心室に興奮が伝えられて心臓が収縮することを示す。
【0068】
QTcは、Q波とT波との間隔であるQT間隔を心拍数で補正したものと定義する。QTcを計算する方法のうち、Fridericia法(QTcF=QT/RR0.33)の補正式を用いたことをQTcFと定義する。
【0069】
改善
本発明の改善の意味は、患者の臨床的または病理学的状態を薬物投与前より好転させることを意味する。
【0070】
本発明の一実施形態において、前記薬学組成物は、左心室圧力差(LVPG)の数値を改善させるとの意味は、初期測定値対比、少なくとも1%、5%または10%以上変化(または減少)したものであってもよい。また、左心室圧力差(LVPG)の数値の場合、その値が0に収斂するものであってもよい。
【0071】
本発明の一実施形態において、前記最大酸素消費量(PVO2)の数値を改善させるとの意味は、初期測定値対比、少なくとも1%、5%または10%以上増加したものであってもよい。
【0072】
本発明の一実施形態において、前記薬学組成物は、ニューヨーク心臓協会分類(NYHA class)段階に区分される症状を改善させることの意味は、内部(intra)または間(inter)の変化で区分される症状の等級(class)を減少させるというもので、例えば、ニューヨーク心臓協会分類(NYHA class)の第3段階重症と区分された患者が、ニューヨーク心臓協会分類(NYHA class)の第3段階軽症またはニューヨーク心臓協会分類(NYHA class)の第2段階に区分される場合を意味するが、これに限定されるものではない。
【0073】
併用投与
本発明のシベンゾリンまたはその薬剤学的に許容される塩と他の心臓疾患治療剤が投与されてもよい。投与は、シベンゾリンまたはその薬剤学的に許容される塩の投与と同時、前または後に投与される。
【0074】
本発明の一実施形態において、併用投与される前記心臓疾患治療剤は、ベータ抑制剤(Beta blocker)、カルシウムチャネル抑制剤(Calcium channel blocker)および抗不整脈剤(antiarrhythmic drugs)などであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0075】
本発明の一実施形態において、併用投与される前記心臓疾患治療剤薬物としては、アテノロール(atenolol)、メトプロロール(metoprolol)、ビソプロロール(bisoprolol)、プロプラノロール(propranolol)、ジルチアゼム(diltiazem)、ベラパミル(verapamil)、アムロジピン(amlodipine)、ジソピラミド(disopyramide)などであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0076】
以下、本発明を実施例により詳しく説明する。下記の実施例は本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明の範囲が下記の実施例によって限定されるものではない。
【0077】
実施例1.シベンゾリンの健康な対象に対する臨床学的安定性評価(単回、単一投与)
この研究は、健康な対象者において、3週間、S(-)-シベンゾリン200mgまたは300mgを1日に1回経口投与、あるいはラセミ混合物(Racemic mixture)シベンゾリン150mgを1日に3回経口投与して、安全性および耐薬性を評価する臨床である。より具体的には、次のように投与して臨床実験を進行させた。
【0078】
-コホート1:S(-)-シベンゾリン200mg、1日1回経口単回投与
【0079】
-コホート2:S(-)-シベンゾリン300mg、1日1回経口単回投与
【0080】
-コホート3:ラセミ混合物(Racemic mixture)シベンゾリン150mg、1日3回経口投与
【0081】
シベンゾリンの安全性(safety)、耐薬性(tolerability)、薬動学(pharmacokinetics)および薬力学(pharmacodynamics)を評価するための、ランダム(randomized)、二重盲検(double-blind)、偽薬統制(Placebo-Controlled)、順次(sequential)、用量増加(ascending)、単回投与(single dose)の研究が行われた。
【0082】
この研究は、計24人の試験対象者を3つのコホートに1:1:1ランダムに割り当てて、スクリーニング、治療期間1、休薬期間、治療期間2の計4つの段階で進行させる。投薬群と無投薬群(プラシーボ、Placebo)の割合は6:2に割り当てる。
【0083】
主な評価変数は、安全性と耐薬性および副作用であり、臨床検査項目は、補正されたQT間隔(corrected QT interval(Fridericia公式で計算)[QTc(F)])、QT間隔(QT interval)、QRS間隔(QRS interval)、PR間隔(PR interval)、および心室収縮速度(ventricular rate)を含む12電極心電図、活力兆候(血圧、脈拍、体温、呼吸率)、過敏反応(心電図記録および活力兆候で判断)、臨床検査評価(血液学、血液化学、小便検査など)、異常反応(重大な異常反応を含む)である。
【0084】
そして、健康な対象者におけるシベンゾリンの用量増加に対する血液薬動学分析のために、血中濃度-時間曲線下面積(AUC、Area under the concentration-time curve)、血中最高薬物濃度(Cmax)、最高血中濃度到達時間(tmax)、最高血中濃度半減期(t1/2)を測定する。
【0085】
また、健康な対象者におけるシベンゾリンの薬力学分析のために、左心室駆出率(Left ventricular ejection fraction)、収縮期および弛緩期の左心室厚さ(Left ventricular systolic and diastolic dimensions)、速度時間積分(Velocity time integral)を測定する。
【0086】
前記臨床実験を通して、コホート1および2は、既存の薬物療法で使用されているコホート3と比較した時、重大な副作用が発生しないことを確認した。これを通して、S(-)-シベンゾリン200mgおよび300mgの1日1回投与療法の安全性および耐薬性を確認した。
【0087】
追加的に、下記表1のように、コホート1および3の患者の心電図検査結果、QcTFおよびQRSの延長効果を確認した。
【0088】
【0089】
実施例2.シベンゾリンの健康な対象に対する臨床学的安定性評価(単回反復投与)
この研究は、健康な対象者において、下記のコホート(Cohort)4~6の患者群に臨床実験を進行させて、安全性および耐薬性を評価する臨床である。
【0090】
-コホート4:S(-)-シベンゾリン200mg、1日1回/計5日経口投与
【0091】
-コホート5:S(-)-シベンゾリン300mg、1日1回/計14日経口投与
【0092】
-コホート6:ラセミ混合物(Racemic mixture)シベンゾリン150mg、1日3回/計14日経口投与
【0093】
シベンゾリンの安全性(safety)、耐薬性(tolerability)、薬動学(pharmacokinetics)および薬力学(pharmacodynamics)を評価するための、ランダム(randomized)、二重盲検(double-blind)、偽薬統制(Placebo-Controlled)、順次(sequential)、用量増加(ascending)、単回投与(single dose)、反復投与の研究が行われた。
【0094】
この研究は、計24人の試験対象者を3つのコホートに1:1:1ランダムに割り当てて、スクリーニング、治療期間1、休薬期間、治療期間2の計4つの段階で進行させる。投薬群と無投薬群(プラシーボ、Placebo)の割合は6:2に割り当てる。
【0095】
主な評価変数は、安全性と耐薬性および副作用であり、臨床検査項目は、補正されたQT間隔(corrected QT interval(Fridericia公式で計算)[QTc(F)])、QT間隔(QT interval)、QRS間隔(QRS interval)、PR間隔(PR interval)、および心室収縮速度(ventricular rate)を含む12電極心電図、活力兆候(血圧、脈拍、体温、呼吸率)、過敏反応(心電図記録および活力兆候で判断)、臨床検査評価(血液学、血液化学、小便検査など)、異常反応(重大な異常反応を含む)である。
【0096】
そして、健康な対象者におけるシベンゾリンの用量増加に対する血液薬動学分析のために、血中濃度-時間曲線下面積(AUC、Area under the concentration-time curve)、血中最高薬物濃度(Cmax)、最高血中濃度到達時間(tmax)、最高血中濃度半減期(t1/2)を測定する。
【0097】
また、健康な対象者におけるシベンゾリンの薬力学分析のために、左心室駆出率(Left ventricular ejection fraction)、収縮期および弛緩期の左心室厚さ(Left ventricular systolic and diastolic dimensions)、速度時間積分(Velocity time integral)を測定する。
【0098】
前記臨床実験を通して、コホート4および5は、既存の薬物療法で使用されているコホート6と比較した時、多回投与でも重大な副作用が発生しないことを確認した。これを通して、S(-)-シベンゾリン200mgおよび300mgの1日1回投与療法の安全性および耐薬性を確認した。
【0099】
また、前記実施例1の単回投与と同様に、コホート4および5の患者の心電図検査結果、QcTFおよびQRSの延長効果を確認した。
【0100】
実施例3.シベンゾリンの肥大型心筋症患者対象に対する臨床学的安定性評価
この研究は、症状学的閉塞性肥大型心筋症(Symptomatic Obstructive HCM、HOCM)患者に、下記のコホート(Cohort)1~3の患者群に臨床実験を進行させて、シベンゾリンの有効性および安全性を評価する臨床である。
【0101】
-コホート1:S(-)-シベンゾリン200mg、1日1回/計5日経口投与
【0102】
-コホート2:S(-)-シベンゾリン300mg、1日1回/計5日経口投与
【0103】
-コホート3:S(-)-シベンゾリン200mg、1日2回/計5日経口投与
【0104】
この研究は、計24人の試験対象者を3つのコホートに1:1:1ランダムに割り当てて、スクリーニング、治療期間1、休薬期間、治療期間2の計4つの段階で進行させる。投薬群と無投薬群(プラシーボ、Placebo)の割合は6:2に割り当てる。
【0105】
試験対象者である患者の評価は、次の基準に基づいて進行させる。
【0106】
-最大左心室厚さが15mm以上の患者(家族歴がある場合に13mm以上の患者)
【0107】
-休息期の左心室流出路(LVOT、Left Ventricular Outflow Tract)圧力勾配が30mmHg以上か、挑発(バルサルバ法(Valsalva)、スタンディング(Standing)または運動後などの刺激を含む)後にLVOT勾配が50mmHg以上の患者
【0108】
-左心室駆出率(LVEF、left ventricular ejection fraction)55%以上の患者
【0109】
この研究は、スクリーニング段階および治療段階で進行する。公開標識(open label)、非ランダム(Non-randomized)、活性対照群(Active-controlled)、多機関(Multicenter)の研究が行われる。
【0110】
主な評価変数は、安全性と耐薬性および副作用であり、臨床検査項目は、補正されたQT間隔(corrected QT interval(Fridericia公式で計算)[QTc(F)])、QT間隔(QT interval)、QRS間隔(QRS interval)、PR間隔(PR interval)、および心室収縮速度(ventricular rate)を含む12電極心電図、活力兆候(血圧、脈拍、体温、呼吸率)、過敏反応(心電図記録および活力兆候で判断)、臨床検査評価(血液学、血液化学、小便検査など)、異常反応(重大な異常反応を含む)である。
【0111】
2次的な評価変数は、Cmaxなどを含んだ薬動学(pharmacokinetics)、経胸超音波(Transthoracic Echocardiography、TTE)を検査による左心室圧力差(Left ventricular pressure gradient、LVPG)および左心室駆出率(LVEF、left ventricular ejection fraction)などであり、追加的に、血中BNP(B-natriuretic peptide)およびTroponinの数値である。
【国際調査報告】