(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-17
(54)【発明の名称】ヒトまたは動物循環腫瘍細胞を増幅するための動物モデル
(51)【国際特許分類】
C12N 5/073 20100101AFI20220107BHJP
C12N 5/09 20100101ALI20220107BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220107BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220107BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
C12N5/073
C12N5/09
C12Q1/02
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021523990
(86)(22)【出願日】2019-10-29
(85)【翻訳文提出日】2021-06-24
(86)【国際出願番号】 FR2019052571
(87)【国際公開番号】W WO2020089560
(87)【国際公開日】2020-05-07
(32)【優先日】2018-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521186959
【氏名又は名称】イノヴォション
【氏名又は名称原語表記】INOVOTION
(71)【出願人】
【識別番号】508277405
【氏名又は名称】ホスピス・シビル・ドゥ・リヨン
【氏名又は名称原語表記】HOSPICES CIVILS DE LYON
(71)【出願人】
【識別番号】511196870
【氏名又は名称】ユニベルシテ クロード ベルナール リヨン プルミエ
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【氏名又は名称】大森 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100207907
【氏名又は名称】赤羽 桃子
(74)【代理人】
【識別番号】100217294
【氏名又は名称】内山 尚和
(72)【発明者】
【氏名】ザビエル、ルセ
(72)【発明者】
【氏名】エミリアン、ドスダ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン、ヴィアレ
(72)【発明者】
【氏名】レア、ペイアン-ゲイ
(72)【発明者】
【氏名】ドニ、マイエ
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
2G045AA24
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(57)【要約】
本発明は、ヒトまたは動物循環腫瘍細胞(CTC)の増幅を可能にする鳥類モデル、ならびにモニタリングするためおよび癌に罹患している患者または動物の1以上の治療剤に対する感受性を決定するため、ならびに癌の治療を目的とした新規な治療剤をスクリーニングするためのその使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌に罹患している患者または動物のサンプルから単離されたヒトまたは動物循環腫瘍細胞(CTC)を含んでなる鳥類胚含有卵モデルであって、前記CTCは、胚含有卵の絨毛尿膜(CAM)のレベルで移植され、前記胚含有卵が、CAMの形成に対応する発生段階にあり、かつ、移植時にニワトリの少なくとも8日間の発生に相当する、鳥類胚含有卵モデル。
【請求項2】
前記胚含有卵は、最大でも20日の発生段階にある、請求項1に記載のモデル。
【請求項3】
癌に罹患している患者または動物のサンプルから単離されたヒトまたは動物循環腫瘍細胞(CTC)の増幅を可能にする、請求項1または2に記載の鳥類胚含有卵モデルの調製方法であって、以下の工程:
前記サンプルから単離されたCTCを、鳥類胚含有卵の絨毛尿膜(CAM)のレベルで移植すること(前記胚含有卵は、CAMの形成に対応する発生段階にあり、かつ、ニワトリの少なくとも8日間の発生に相当する)、
所望により、それによって移植された前記胚含有卵を少なくとも12時間インキュベートすること
を含んでなる、方法。
【請求項4】
癌に罹患している患者または動物のサンプルから単離されたヒトまたは動物循環腫瘍細胞(CTC)の増幅方法であって、以下の工程:
a)請求項3に記載の方法を用いて胚含有卵モデルを調製すること、
b)増幅されたCTCから発生する腫瘍を収集すること、
c)所望により、工程b)で収集された腫瘍からCTCを回収すること
を含んでなる、方法。
【請求項5】
以下の工程:
a)請求項3に記載の方法を用いて第1の胚含有卵モデルを調製すること、
b)増幅されたCTCから発生する腫瘍を収集すること、
b1)工程b)で収集された腫瘍を、第2の鳥類胚含有卵の絨毛尿膜(CAM)のレベルで移植すること(前記第2の胚含有卵は、CAMの形成に対応する発生段階まで事前にインキュベートされ、かつ、ニワトリの少なくとも8日間の発生に相当する)、
b2)所望により、それによって移植されたこの第2の胚含有卵を少なくとも12時間インキュベートすること、
b3)工程b1)で移植された腫瘍から発生する腫瘍を収集すること、および所望により、
c)工程b3)で収集された腫瘍からCTCを回収すること
を含んでなる、請求項4に記載のヒトまたは動物循環腫瘍細胞(CTC)の増幅方法。
【請求項6】
癌に罹患している患者または動物の1以上の治療剤に対する感受性の決定方法であって、
請求項4または5に定義されるような方法に従って、前記癌に罹患している患者または動物のサンプルから単離された循環腫瘍細胞(CTC)を増幅すること、
それによって収集された腫瘍を、新しい鳥類胚含有卵の絨毛尿膜(CAM)のレベルで移植すること(前記新しい胚含有卵は、CAMの形成に対応する発生段階まで事前にインキュベートされ、かつ、ニワトリの少なくとも8日間の発生に相当する)、
前記移植の少なくとも12時間後に、前記胚含有卵に前記治療剤を投与すること、
それによって投与された前記治療剤の、この新しい移植された胚含有卵で発生した収集された腫瘍の腫瘍形成に対する効果を研究すること
を含んでなることを特徴とする、方法。
【請求項7】
前記腫瘍形成の研究が、腫瘍成長、転移性浸潤、血管新生、新血管新生、炎症および/または腫瘍免疫浸潤、腫瘍に対するおよび/または胚全体に対する毒性などの異なるパラメーターの評価または測定を含んでなる、請求項6に記載の、癌に罹患している患者または動物の1以上の治療剤に対する感受性の決定方法。
【請求項8】
癌に罹患している患者または動物のモニタリング方法であって、
T1時に前記患者または動物のサンプルから単離されたCTCを用いて、請求項3に従って、第1の鳥類胚含有卵を調製すること、およびこの第1の胚含有卵で発生する腫瘍の腫瘍形成を研究すること、
T2時に同じ患者または動物のサンプルから単離されたCTCを用いて、請求項3に従って、第2の鳥類胚含有卵を調製すること、およびこの第2の胚含有卵で発生する腫瘍の腫瘍形成を研究すること、
前記第1の胚含有卵および前記第2の胚含有卵で発生した腫瘍の腫瘍形成を比較すること
を含んでなる、方法。
【請求項9】
癌のイン・ビボ治療を目的とした治療剤のスクリーニング方法であって、
請求項3に記載の方法を用いて胚含有卵モデルを調製すること、
移植の少なくとも12時間後に、前記胚含有卵に1以上の候補薬剤を投与すること、
それによって投与された前記治療剤の、前記移植された胚含有卵で発生した腫瘍の腫瘍形成に対する効果を研究すること
を含んでなる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトまたは動物循環腫瘍細胞(CTC)の増幅を可能にする鳥類モデルに関する。
【背景技術】
【0002】
CTCは、腫瘍から分離し、血管系に加わった後に血液中に進むように置き換えられ得る細胞である。従って、これらの細胞は、他の臓器に移動し、転移の発生に関与する可能性がある。従って、これらの細胞は、癌の進化および治療のモニタリングにおいて、または新規な治療法の発見においてさえも非常に魅力的な標的に相当する。
【0003】
しかしながら、CTCの単離は、これらの細胞の数が非常に少ないことから、簡単なことではない。従って、それらを研究する前にそれらを拡大する必要がある。現在、CTCは、マウスモデルでイン・ビトロ(in vitro)またはイン・ビボ(in vivo)培養を使用して増幅することができる(Kowalik A et al., 2017; Drapkin B. J. et al., 2018)。数多くの癌(肺癌、前立腺癌、乳癌、尿路癌、頭部癌または頸部癌など)に由来するCTCのイン・ビトロ培養はすでに行われており、治療計画の高速前臨床検査を実施することは可能であるが、これらの培養は長すぎて臨床診療に適合し得ず、CTCを表現型改変に曝すため、成功は限られている(Pantel K, Alix-Panabieres C., 2016)。
【0004】
さらに、短期間のイン・ビボ培養は、マウスモデルにおいて、CTCから、およびCTCの量が少なすぎる場合のイン・ビトロ拡大の第1ステップの後に確立された(Giuliano M et al., 2015; Williams ES et al., 2015; Torphy RJ et al., 2014; Rossi E et al., 2013)。免疫不全マウスへのCTCの直接接種も、単離されたCTCの増幅方法として想定されている。高転移性小細胞肺癌(SCLC)では、高レベルのCTC(血液7.5mLあたり400個を超えるCTC)を有する患者で単離されたCTCは、マウスにおいて腫瘍を形成し、この腫瘍の白金によるおよびエトポシドによる化学療法への応答は臨床観察と一致した(Hodgkinson, C. L. et al., 2014)。これらの研究は、患者の個々の腫瘍に適した前臨床モデルを作製することが可能な、CTCの「インキュベーター」としての免疫不全マウスの使用への道を開く。
【0005】
しかしながら、これらのモデルは、費用がかかりすぎてそれらを体系的に使用することは想定することができない。それらはしばしば、前述の欠点を有するイン・ビトロ拡大の前ステップの実施を必要とする。最後に、これらのモデルの確立には、時間を要するが、これは必ずしも所望の効果の観察とは適合しない。
【発明の概要】
【0006】
従って、より安価なイン・ビボモデルを見つける必要があるが、これはまた、より迅速に結果をもたらし、特に、患者のイン・ビボに存在するものに最も近いこれらのCTCに取り組むために、事前のイン・ビトロ拡大段階を必要としないものである。
【0007】
本発明は、癌に罹患している患者または動物のサンプルから単離されたヒトまたは動物循環腫瘍細胞(CTC)を含んでなる、鳥類胚含有卵、優先的には、ニワトリからなる、循環腫瘍細胞を研究するための動物モデルであって、前記CTCは、胚含有卵の絨毛尿膜(CAM)のレベルで移植され、前記胚含有卵が、CAMの形成に対応する発生段階にあり、かつ、移植時にニワトリの少なくとも8日間の発生に相当する、モデルに関する。
【0008】
この胚含有卵は、CTCを増幅するための動物モデル、より具体的には、鳥類モデルである。また、それは、腫瘍形成に対する種々の薬剤の効果を研究して、抗癌活性を有し、その結果、特に、胚含有卵に移植されているCTCの由来となる患者または動物を治療するための、有効な治療法に相当し得るものを選択することを可能にする。これにより、患者自身の腫瘍の細胞に対して事前に試験された治療剤を患者に投与することが可能になり、従って、個別化された治療につながる。
【0009】
本発明はまた、癌に罹患している患者または動物のサンプルから得られるヒトまたは動物循環腫瘍細胞(CTC)の増幅を可能にするこの鳥類胚含有卵モデルの調製方法にも関し、前記方法は、前記サンプルから単離されたCTCを、胚含有卵の絨毛尿膜(CAM)のレベルで移植すること(前記胚含有卵が、CAMの形成に対応する発生段階にあり、かつ、ニワトリの少なくとも8日間の発生に相当する)を含んでなる。
【0010】
本発明はまた、対象として、癌に罹患している患者または動物のサンプルから単離されたヒトまたは動物循環腫瘍細胞(CTC)の増幅方法であって、以下の工程:
a)癌に罹患している患者または動物のサンプルから単離されたCTCを、鳥類胚含有卵の絨毛尿膜(CAM)のレベルで移植すること(前記胚含有卵は、CAMの形成に対応する発生段階にあり、かつ、ニワトリの少なくとも8日間の発生に相当する)により、本発明に従う胚含有卵モデルを調製すること、
b)増幅されたCTCから発生する腫瘍を収集すること、および所望により、
c)工程b)で収集された腫瘍からCTCを回収すること
を含んでなる方法を有する。
好ましくは、CTCの増幅をさらに最適化するために、この方法の範囲内で移植を複数回、有利には、移植を2回実施し得る。従って、その方法は、第1の胚含有卵のCAMへのCTCの一次移植に由来する腫瘍の、第2の胚含有卵のCAMへの二次移植を実施することを含む。
【0011】
本発明はまた、癌に罹患している患者または動物の1以上の治療剤に対する感受性の決定方法であって、
癌に罹患している患者または動物のサンプルから単離されたCTCを、胚含有卵の絨毛尿膜(CAM)のレベルで移植すること(前記胚含有卵が、CAMの形成に対応する発生段階にあり、かつ、ニワトリの少なくとも8日間の発生に相当する)により、前記癌に罹患している患者または動物のサンプルから得られる循環腫瘍細胞(CTC)を本発明に従って増幅すること、
胚で発生した腫瘍を、新しい鳥類胚含有卵の前記絨毛尿膜(CAM)のレベルで移植すること(前記新しい胚含有卵は、CAMの形成に対応する発生段階まで事前にインキュベートされ、かつ、ニワトリの少なくとも8日間の発生に相当する)、
前記移植の少なくとも12時間後に、前記胚含有卵に前記治療剤を投与すること、
それによって投与された前記治療剤の、この新しい移植された胚含有卵で発生した腫瘍の腫瘍形成に対する効果を研究すること
を含んでなることを特徴とする方法にも関する。
【0012】
好ましくは、癌に罹患している患者または動物の1以上の治療剤に対する感受性を決定するためのこの方法は、前記薬剤の投与後に、移植された胚含有卵の少なくとも1時間のインキュベーション、および所望により、前記新しい移植された胚含有卵のインキュベーションの終わりに、移植されたCTCから発生する腫瘍の収集工程をさらに含んでなる。
【0013】
本発明はさらに、対象として、癌に罹患している患者または動物のモニタリング方法であって、
T1時に前記患者または動物のサンプルから単離されたCTCを用いて、上記のように、第1の鳥類胚含有卵を調製すること、およびこの第1の胚含有卵で発生する腫瘍の腫瘍形成を研究すること、
T2時に同じ患者または動物のサンプルから単離されたCTCを用いて、上記のように、第2の鳥類胚含有卵を調製すること、およびこの第2の胚含有卵で発生する腫瘍の腫瘍形成を研究すること、
前記第1の胚含有卵および前記第2の胚含有卵で発生した腫瘍の腫瘍形成を比較すること
を含んでなる方法を有する。
【0014】
最後に、本発明は、対象として、癌のイン・ビボ治療を目的とした治療剤のスクリーニング方法であって、
上記の方法によって、癌に罹患している患者または動物のサンプルから単離されたCTCを、胚含有卵の絨毛尿膜(CAM)のレベルで移植すること(前記胚含有卵が、CAMの形成に対応する発生段階にあり、かつ、ニワトリの少なくとも8日間の発生に相当する)により、胚含有卵モデルを調製すること、
前記移植の少なくとも12時間後に、前記胚含有卵に1以上の候補薬剤を投与すること、
それによって投与された前記治療剤の、前記移植された胚含有卵で発生した腫瘍の腫瘍形成に対する効果を研究すること
を含んでなる方法を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、上部CAMにCTC移植部位がある胚含有卵モデルの図を表す。
【
図2】
図2は、本発明を実施するための可能な実験体制を表す:初回の移植(第1の卵群):患者から収集されたサンプルから単離されたCTCは1患者につき卵1個で移植される。2回目の移植(第2の卵群):二次移植により、移植後の卵中に収集された腫瘍の新たな増幅が可能になる。
【
図3】
図3は、肺癌、乳癌、または前立腺癌に罹患している患者の血液から単離されたCTCの初回の増幅時にCAM上への異種移植により得られた腫瘍の成長のイン・オボ(in ovo)画像を表す。
【
図4】
図4は、初回の増幅時にCAM上に移植された、乳癌に罹患している患者の血液から単離されたCTCに由来する腫瘍の組織学的切片を表す。
【
図5】
図5は、初回の増幅時にCAM上に移植された、肺癌に罹患している患者(♯SH103および♯CM105)のCTCに由来する腫瘍に関するヒト腫瘍マーカーTP53(A)およびKRAS(B)の遺伝子解析の結果を表す。
【
図6】
図6は、2回目の増幅(二次移植)時にCAM上に移植された、肺癌に罹患している患者の血液から単離されたCTCに由来する腫瘍の成長のイン・オボ画像を表す。
【
図7】
図7は、一次移植(A)および二次移植(B)後の、前立腺癌に罹患している患者の血液から単離されたCTCから得られた腫瘍のイン・オボ画像と、二次移植後のイン・オボ移植されたCTCの増幅を示す腫瘍(C)切片の組織学的分析を表す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、癌に罹患している患者または動物のサンプルから単離されたヒトまたは動物循環腫瘍細胞(CTC)を含んでなる、鳥類胚含有卵からなる、循環腫瘍細胞を研究するための動物モデル、特に、鳥類モデルであって、前記CTCは、胚含有卵の絨毛尿膜(CAM)のレベルで移植され、前記胚含有卵が、CAMの形成に対応する発生段階にあり、かつ、移植時にニワトリの少なくとも8日間の発生に相当する、モデルに関する。
【0017】
好ましくは、本発明による胚含有卵は、キジ目(Galliformes)またはダチョウ目(Struthioniformes)の鳥類の卵である。特に、この卵は、キジ目の鳥、特に、ニワトリ、ウズラ、シチメンチョウ、キジ、クジャク、ホロホロチョウまたは他の農場構内の鳥の卵であることが特に好ましい。また、ダチョウの卵であってもよい。有利には、本発明による胚含有卵は、ニワトリ(Gallus gallus)の卵である。
【0018】
本発明の範囲内で、「胚含有卵」という用語は、胚が好適な条件下で、特に、37℃~38℃の温度のインキュベーター内で発生することができる受精した鳥類の卵を示す。これらの条件下で、卵が孵化するまでのインキュベーション時間は、ニワトリでは21日である。
【0019】
本明細書に教示される発生段階は、卵の受精後のインキュベーション時間、特に、上で定義されたような好適な条件下でのインキュベーション時間の関数として定義される。「CAMのレベルでの移植」は、これが上部CAMまたは下部CAMであるかにかかわらず、CAMへの並置または注入による投与を示すために使用される。
【0020】
本発明による胚含有卵モデルは、2つの異なる生物体または異種移植片に由来する細胞を有する:「宿主」または「受けて」鳥類の細胞および「受けて」鳥類とは異なる種のヒトまたは動物生物体に由来する卵に移植されたCTC。特に好ましい様式では、鳥類胚含有卵に移植されたCTCはヒト細胞である。これらの移植されたCTCは、次に、1以上の固形腫瘍を形成しながらおよび/または卵内で置き換えられながら胚で発達する。
【0021】
自明のこととして、「CAMのレベルでの移植」は、CAMが形成された後、通常および標準的な成長条件下で、ニワトリの少なくとも8日間の発生に相当する段階で行われる。使用される鳥類がニワトリである場合、この段階は、少なくとも8日間の発生に対応する。発生の日数は種によって異なる可能性があり、移植は発生の日数を変更した後に行われる。例えば、ニワトリの少なくとも8日間の発生段階は、ウズラの少なくとも6.5日間の発生段階に対応する。
【0022】
「癌に罹患している患者または動物のサンプル」は、癌に罹患しているヒトまたは動物に由来する、CTCを含む任意のサンプルを意味すると理解されるべきである。好ましくは、前記サンプルは、全血または胸水、腹水および脳脊髄液(CSF)などのCTCを含み得る生体液、好ましくは、全血から選択される。従って、胚含有卵に移植されるCTCは、血液またはこのタイプの体液中にCTCを産生するいずれものタイプの癌に、特に、転移性癌に由来するものであってよい。本発明の好ましい態様によれば、胚含有卵に移植されるCTCが単離される患者または動物は、肺癌、前立腺癌、乳癌、結腸直腸癌から選択される少なくとも1つの癌に罹患している。
【0023】
有利には、本発明による胚含有卵モデルは、ヒトCTCが少なくとも8日間の発生の後にCAMのレベルで移植されたニワトリの卵である。
【0024】
本発明に従って移植される胚は、孵化する使命がなく、その結果、成体生物体を作り出すことを意図したものではないことが理解される。このため、本発明に従って移植される胚は、ニワトリの21日間の発生に対応する、孵化までには及ばないそれらの増幅時期にCTCを受けることを意図したモデルである。事情に応じて、本発明による鳥類胚は、孵化前および移植されたCTCが卵内に1以上の腫瘍の発生をもたらした後、施行されている倫理規則に従って、犠牲にされる。
【0025】
そのようなモデルは、同時にCTCを増幅すること可能にし、特に、これらのCTCからの腫瘍の発生によって、これに対して、抗癌活性を有することが知られているかまたはそれらがそのような活性を有するかどうかを決定するための候補である種々の薬剤の抗癌活性を試験することが可能である。移植されるCTCを得る患者を治療するための最も有望な治療法を決定するために、複数の治療剤の有効性比較も試験することができる。
【0026】
第2の側面によれば、本発明は、癌に罹患している患者または動物のサンプルから単離されたヒトまたは動物循環腫瘍細胞(CTC)の増幅を可能にする、上記の鳥類胚含有卵モデルの調製方法であって、前記サンプルから単離されたCTCを、鳥類胚含有卵の絨毛尿膜(CAM)のレベルで移植すること(前記胚含有卵は、CAMの形成に対応する発生段階にあり、かつ、ニワトリの少なくとも8日間の発生に相当する)を含んでなる方法に関する。
【0027】
当業者は、CTCの移植を実施する時期を、使用される鳥類の種の関数として、すなわち、CAMの形成およびニワトリの少なくとも8日間の発生に相当する発生段階に到達するための胚含有卵のインキュベーションまたは発生の最小日数を決定する方法を知っているであろう。例えば、ニワトリでは、移植は、8日間の発生から、ウズラでは6.5日間の発生から行うことができる。
【0028】
好ましい態様によれば、胚含有卵は、移植前に、ニワトリでの少なくとも9日間またはいっそうより好ましい様式では、少なくとも9.5日間の発生に相当する、CAMの形成に対応する発生段階までインキュベートしている。
【0029】
インキュベーションは、好適な条件下で、すなわち、胚含有卵の正常な発生を可能にする条件下で、特に、37℃~39℃に含まれる温度、好ましくは、38℃、または38.5℃でさえも実施される。
【0030】
CTCの移植は、CAMの任意場所、上部または下部、好ましくは、上部CAMのレベルで実施され得る。当業者に周知の任意の方法をこの移植に使用することができ、特に、Crespo P. & Casar B, 2016によって参照される移植技術を使用することが可能である。
【0031】
特定の態様によれば、移植されるCTCの量は、およそ5~およそ5000個のCTC、好ましい様式では、およそ5~およそ2500個のCTCおよびいっそうより好ましい様式では、およそ5~およそ1000個のCTCになる。
【0032】
好ましい態様によれば、使用されるCTCは、癌に罹患している患者または動物のサンプルからの単離の後、胚含有卵への移植の前に凍結される。
【0033】
CAMのレベルでの移植では、CTCは、癌に罹患している患者または動物のサンプルから、当業者に周知の方法のいずれかによって、単離される。従って、CTCは、癌に罹患している患者または動物に由来するサンプルに存在する他の細胞からそれらを精製することによって、特に、サンプルに存在する免疫細胞からそれらを分離することによって、単離される。
【0034】
CTCを単離するための方法は、サンプルの他の構成要素からそれらを分離し、その結果、CTC濃縮を実施することを可能にする異なる原理に基づくことができる。多数の異なる方法が、特に、Zheyu Shen et al., 2017によって記載されている。それらは、目的が非標的細胞を捕捉し、CTCを溶出することである場合、いわゆる「陰性」濃縮となることを可能にし、または目的がCTCを捕捉し、サンプルの非標的細胞を溶出することである場合、いわゆる「陽性」濃縮となることを可能にする。
【0035】
これらの方法の中で、濾過による、特に、例えば、the Rarecells SAS Companyにより販売されている、特に、Han Wei Hou et al., 2013により記載されているISET(腫瘍細胞のSizEによる単離)技術などの垂直濾過による分離方法を引用することが可能である。
【0036】
特定の上皮細胞接着マーカー(EpCAM)を標的とする抗体を含む強磁性流体のナノ粒子を使用したCTCの免疫選択に基づくCellSearch法(Kagan M, et al., 2002)など、特定の方法は、マーキング工程に頼ることがある。従って、CTCは、他の血液細胞の大部分から磁気分離される。
【0037】
また、細胞のサイズ、形状、密度、変形性などの異なるパラメーターの関数としての分離に依存する、マイクロ流体システムの使用に基づく他の方法も使用し得る。これらの中で、Sollier-Christen et al., 2018によって記載されているようなVTX-1法、抗EpCam抗体でのコーティングされたマイクロスポットを使用した、EpCam分子を発現する腫瘍細胞の捕捉に基づくマイクロ流体法(CTCチップ)(これは、特に、Nagrath S et al., 2007によって記載されている)、赤血球および白血球を標的とする、磁性ビーズに結合した抗体(CD45、CD66bおよびグリコフォリンA)の混合物を使用するthe Stemcells CompanyのRosetteSep技術、またはそれに代わるthe Biolidics Company(旧称ClearBridge)によって開発されたClearCell Fx1法(これは、特に、Laget S et al., 2017によって記載されており、特に有利である)が特に引用され得る。
【0038】
特定の態様によれば、本発明による鳥類胚含有卵モデルの調製方法は、一度移植された胚含有卵の、使用される前の、移植後少なくとも12時間、好ましくは、少なくとも24時間、いっそうより好ましい様式では、少なくとも48時間のインキュベーション工程をさらに含んでなる。好ましくは、一度移植された胚含有卵は、ニワトリ胚の発生段階に関連して、最大でも20日間、特に、18日までインキュベートされる。
【0039】
第3の側面によれば、本発明は、癌に罹患している患者または動物のサンプルから単離されたヒトまたは動物循環腫瘍細胞(CTC)の増幅方法であって、以下の工程:
a)上記のように、癌に罹患している患者または動物のサンプルから単離されたCTCを、鳥類胚含有卵の絨毛尿膜(CAM)のレベルで移植すること(前記胚含有卵は、CAMの形成に対応する発生段階にあり、かつ、ニワトリの少なくとも8日間の発生に相当する)、
b)増幅されたCTCから発生する腫瘍を収集すること、および所望により、
c)工程b)で収集された腫瘍からCTCを回収すること
を含んでなる方法に関する。
【0040】
本発明者らは、意外な様式で、CTC、特に、ヒト由来のCTCが鳥類胚含有卵モデルにおいて増幅され得ることを実証し、これは、それらを研究するのに十分な量でそれらを取得することを可能にするだけでなく、新規な治療の特定に導くためまたは個別的様式で最も有効である見込みがあるものを選択するためにそれらを使用することも可能にした。
【0041】
上記のヒトまたは動物循環腫瘍細胞(CTC)の増幅方法の好ましい態様によれば、例えば、移植および収集を複数回実施することにより(二次移植という用語は、2回目の移植に使用される)増幅されたCTCをもう一度移植することが可能であり、これはCTCの増幅をさらに改善するためである。従って、その方法は、以下の工程:
a)癌に罹患している患者または動物のサンプルから単離されたCTCを、鳥類胚含有卵の絨毛尿膜(CAM)のレベルで移植すること(前記胚含有卵は、CAMの形成に対応する発生段階にあり、かつ、ニワトリの少なくとも8日間の発生に相当する)、
b)増幅されたCTCから発生する腫瘍を収集すること、
b1)工程b)で収集された腫瘍を、第2の鳥類胚含有卵の絨毛尿膜(CAM)のレベルで移植すること(前記第2の胚含有卵は、CAMの形成に対応する発生段階まで事前にインキュベートされ、かつ、ニワトリの少なくとも8日間の発生に相当する)、
b2)所望により、それによって移植されたこの第2の胚含有卵を少なくとも12時間インキュベートすること、
b3)工程b1)で移植された腫瘍から発生する腫瘍を収集すること、および所望により、
c)工程b3)で収集された腫瘍からCTCを回収すること
を含んでなり得る。
【0042】
特定の態様によれば、上記のヒトまたは動物循環腫瘍細胞(CTC)の増幅方法は、一度移植された胚含有卵を、移植されたCTCに由来する腫瘍の収集を実施する前に、移植後少なくとも12時間、好ましくは、少なくとも24時間、いっそうより好ましい様式では、少なくとも48時間インキュベートする工程をさらに含んでなる。好ましくは、一度移植された胚含有卵は、ニワトリ胚の発生段階に関連して、最大でも20日間、特に、18日までインキュベートされる。
【0043】
従って、本発明はまた、癌に罹患している患者または動物の1以上の治療剤に対する感受性の決定方法であって、
上記のように、癌に罹患している患者または動物のサンプルから単離されたCTCを鳥類胚含有卵において増幅すること、
それによって収集された腫瘍を、新しい鳥類胚含有卵の絨毛尿膜(CAM)のレベルで移植すること(前記新しい胚含有卵は、CAMの形成に対応する発生段階まで事前にインキュベートされ、かつ、ニワトリの少なくとも8日間の発生に相当する)、
前記移植の少なくとも12時間後に、前記胚含有卵に前記治療剤を投与すること、
それによって投与された前記治療剤の、この新しい移植された胚含有卵で発生した腫瘍の腫瘍形成に対する効果を研究すること
を含んでなることを特徴とする方法に関する。
【0044】
「治療剤」は、抗腫瘍作用を有する、特に、前記胚含有卵に移植された腫瘍状細胞から発生した癌のタイプを治療するために潜在的に有効である任意の化学的または生物学的分子または化合物、ナノ構造、物理的方法またはそれらの組合せを示すと解釈される。
【0045】
そのような化合物は、化学療法薬などの化学的分子、抗体などの生物学的化合物、CARTなどの治療細胞、照射などの物理的手段、例えば、イリノテカンなどのインターカレート剤、例えば、スニチニブなどのチロシンキナーゼのシグナル経路阻害剤、例えば、タモキシフェンなどの抗ホルモン薬、例えば、Ketrudaなどの免疫調節薬、例えば、トラスツズマブなどの膜受容体阻害剤などであり得る。
【0046】
本発明の範囲内で、腫瘍および癌という用語は、悪性細胞の増殖を定義するために、無差別に、同じ意味で使用される。抗腫瘍および抗癌という用語の使用についても同じことがいえる。
【0047】
特に、移植されるCTCは、癌に罹患している患者または動物のサンプルから単離されるため、複数の治療剤を試験するという事実により、この患者の腫瘍の治療に最も有望なものを選択することが可能である。従って、これは、本発明の好ましい態様によれば、CTCが移植された鳥類胚含有卵が、試験された種々の薬剤の中で最高の抗癌活性を有する薬剤を決定するために使用されるということである。
【0048】
CTCが移植された鳥類胚含有卵はまた、本発明によれば、治療剤の組合せの抗癌効力を、独立に試験されたそれぞれの薬剤で得られた効果と比較して試験するためにも使用され得る。
【0049】
この胚含有卵の使用の範囲内で、移植されたCTCから発生した腫瘍に対しておよび胚全体に対しての両方で、試験された治療剤の毒性を決定すること、または定量することさえも可能である。従って、本発明の別の対象は、1以上の治療剤の、腫瘍に対するおよび/または胚全体に対する毒性を定量するための、癌に罹患している患者または動物のサンプルから単離されたCTCが移植された鳥類胚含有卵の使用に関する。
【0050】
胚含有卵内への治療剤の投与工程は、当業者に周知の技術による種々の方法で実施され得る。投与は、特に、CAMのレベルでの並置または注入により、腫瘍内注入により、胚含有卵の胚構造または胚外構造への注入により実施され得る。
【0051】
治療剤の投与は、CTCの移植の少なくとも12時間後、好ましくは、少なくとも24時間後、またはいっそうより好ましい様式では、移植の少なくとも48時間後、すなわち、移植の1~2日後に実施される。治療剤はまた、例えば、2日に1回、または毎日、または1日2回、または単回注入、および胚含有卵のインキュベーション最終日までなど、持続期間だけでなく投与回数に関しても異なる治療方式に従って投与され得る。これらの選択は、投与される薬剤の関数として決定される。
【0052】
好ましい態様によれば、本発明による、癌に罹患している患者または動物の1以上の治療剤に対する感受性の決定方法は、一度移植された胚含有卵の少なくとも1時間のインキュベーションを、移植された胚含有卵への治療剤の投与後、腫瘍形成に対する効果を研究する前にさらに含んでなる。有利には、このインキュベーションは、最大21日の胚の発生段階、有利には、18日の発生に相当するように、投与後少なくとも4日間、最大でも12日間実施される。特定の態様によれば、本発明による、癌に罹患している患者または動物の1以上の治療剤に対する感受性の決定方法は、投与された治療剤の投与後の、前記胚含有卵のインキュベーションの終わりに、特に、顕微解剖によって、移植されたCTCから発生する腫瘍を収集することをさらに含んでなる。それによって投与された治療剤の腫瘍形成に対する効果の研究は、特に、移植された胚含有卵で発生した腫瘍の収集後に複数の補完的なアプローチをとり得る。その方法は、特に、腫瘍成長、転移性浸潤、血管新生、新血管新生、炎症および/または腫瘍免疫浸潤、腫瘍に対するおよび/または胚全体に対する毒性などのパラメーターの分析を含んでなり得る。
【0053】
従って、腫瘍は、腫瘍成長を研究するための腫瘍重量および/または体積、転移性浸潤を研究するための異なる特定のマーカーの発現(例えば、ヒト転移についての定量的PCRによるAlu配列の増幅)、血管新生および新血管新生についての腫瘍内の血管数、炎症についてのインターロイキンの定量および/または腫瘍免疫浸潤を評価するための、特に、rtQPCRによる、CD3、CD8、CD4、CD45およびCD56などのマーカーの定量、重量、ならびに腫瘍に対する毒性を評価するための組織学的分析など、これらの異なるパラメーターを測定および/または分析するための分析に供され得る。
【0054】
転移性浸潤の研究は、容易に接近可能な下部CAMで実施され得るが、また、特に、癌のタイプおよび関連する転移現象に関する既知のデータの関数として、胚内のいずれの標的臓器でも実施され得る。
【0055】
炎症および/または腫瘍免疫浸潤は、特に、CD3(Tリンパ球膜マーカー)、CD4(調節性Tリンパ球、単球およびマクロファージ膜マーカー)、CD8(細胞傷害性Tリンパ球マーカー)、CD45(白血球膜マーカー)、CD56(NK細胞マーカー)などのような種々のマーカーの発現の分析によって研究され得る。種間の異種交配を回避するために、これらのマーカーの特定のオリゴヌクレオチド対を開発することができる。
【0056】
拡大解釈すれば、転移部位における免疫系の細胞の炎症および浸潤をモニタリングすることも可能である。
【0057】
当業者によく知られているこれら総ての因子の複合分析は、移植されたCTCが得られた、癌に罹患している患者または動物の、胚に投与された治療剤に対する感受性を決定することを可能にする。これらのパラメーターは、特に、癌に罹患している患者に採用する治療管理を決定するために臨床医によって使用される決定木の不可欠な部分を形成する。
【0058】
腫瘍形成に対する治療剤の効果を含んでなる本発明による総ての方法の範囲内で、これらのパラメーターは、優先的には、一度移植された胚含有卵への治療剤の投与後の比較により、同じCTCを用いて同じ方法により事前に移植されたが治療剤が投与されていない同じ鳥類の別の胚含有卵で決定されたものと比較して評価される。同様に、複数の治療剤の効果が研究される場合、効果は、優先的には、一度移植された胚含有卵への治療剤の組合せの投与後のパラメーターの比較により、同じCTCを用いて同じ方法により事前に移植されたが治療剤のそれぞれが個別に投与された同じ鳥類の他の1以上の胚含有卵で決定されたものと比較して評価されることとなる。
【0059】
別の側面によれば、本発明はまた、癌に罹患している患者または動物のモニタリング方法であって、
T1時に前記患者または動物のサンプルから単離されたCTCを用いて、上記のように、第1の鳥類胚含有卵を調製すること、およびこの第1の胚含有卵で発生する腫瘍の腫瘍形成を研究すること、
T2時に同じ患者または動物のサンプルから単離されたCTCを用いて、上記のように、第2の鳥類胚含有卵を調製すること、およびこの第2の胚含有卵で発生する腫瘍の腫瘍形成を研究すること、
前記第1の胚含有卵および前記第2の胚含有卵で発生した腫瘍の腫瘍形成を比較すること
を含んでなる方法に関する。
【0060】
本発明はまた、対象として、癌のイン・ビボ治療を目的とした治療剤のスクリーニング方法であって、
癌に罹患している患者または動物のサンプルから単離された循環腫瘍細胞を、鳥類胚含有卵の絨毛尿膜(CAM)のレベルで移植すること(前記胚含有卵は、CAMの形成に対応する発生段階まで事前にインキュベートされ、かつ、ニワトリの少なくとも8日間の発生に相当する)、
前記移植の少なくとも12時間後に、前記胚含有卵に1以上の候補薬剤を投与すること、
それによって投与された前記治療剤の、移植された胚含有卵で発生した腫瘍の腫瘍形成に対する効果を研究すること
を含んでなる方法を有する。
【0061】
「候補治療剤」とは、抗癌活性を有する可能性のある、特に、前記胚含有卵に移植された腫瘍状細胞から発生した癌のタイプを治療するために潜在的に有効である、上で定義されたような化学的または生物学的治療剤を意味すると解釈される。本発明によるスクリーニング方法は、候補治療剤が抗癌活性を有するか否か、およびそれが抗転移活性を有するかどうかを決定することを可能にする。
【0062】
異なる方法の範囲内での上述の総ての選好および精度は、本発明によるモニタリング方法およびスクリーニング方法にも適用される。
【実施例】
【0063】
本発明を、ヒトCTCを増幅するためのニワトリ胚含有卵の使用により以下に説明する。
【0064】
CTCの調製
胚含有卵に移植されるCTCは、転移期の肺癌、乳癌、または前立腺癌に罹患している患者の血液サンプルから、ISET法(Han Wei Hou et al., 2013)による細胞のサイズに基づく濾過によりまたはClearCell法(Laget S et al., 2017)によるマイクロ流体システムにより単離する。それによって得られたCTCは、凍結保存され、移植の直前に解凍される。
【0065】
腫瘍の誘導
白色レグホーン鶏の受精卵を背臥位で9~10日間、37.5℃、相対湿度40%でインキュベートする。このインキュベーション期間(E9またはE10)の後、これらの卵は移植を受ける準備ができる。CAMの完全性を維持しながらそれらに開きを作る。この完全性は卵殻に小さな穴を開けることにより低下する。次に、CAMの上におよそ1cm2の窓を切り開く。CTC(5~2500個の細胞)をCAM上への並置により移植し、その後、卵を37.5℃および湿度40%でもう一度インキュベートする。移植後、イン・オボ腫瘍は上部CAMで発生する。卵は、それらの発生をモニタリングするために最低48時間ごとに観察する。
【0066】
上部CAMにCTC移植部位がある胚含有卵の図を
図1に示す。実験プログラムの例を
図2に示す。
【0067】
発生18日目(E18)に、CAMの上部を取り去り、リン酸緩衝生理食塩水で洗浄し、その後、パラホルムアルデヒド(PFA)に直接入れ、48時間固定する。次に、腫瘍を正常なCAM組織から注意深く取り出す。
【0068】
次に、収集した腫瘍を分析する、特に:
腫瘍成長を研究するために計量する(
図2、初回);
組織学的または遺伝子解析(例えば、転移)に使用する(
図2、初回);
増幅のために発生9日目に新しいバッチの胚含有卵での二次移植に使用する(
図2、2回目)。この工程は必要な回数だけ繰り返すことができる(表現型を定期的に制御する)。
【0069】
二次移植
移植されたCTCの9日の成長後に、発生した腫瘍を収集し、二次移植の実施の準備をする。腫瘍を小片に切断し、各断片を、CTCの強い増幅を得るために新しい卵のCAMに移植する。
【0070】
転移の分析
転移の分析は、下部CAMの一部(移植部位の反対側)でまたは腫瘍と同時に収集され好適な様式で保存された胚組織でのいずれかで実施し得る。全ゲノムDNAを抽出した後、これらのサンプル中のヒト細胞の検出は、ヒトAlu配列(ヒトでよく保存されているマルチコピー配列)の特定のプライマーを使用したqPCRによって行い得る。
【0071】
結果
上記の実験設計は、肺癌に罹患している患者の血液から単離されたCTC(#DA106、#DA107、#PA108、#CB110、#PC111、#VM109、#SH103、#CM105)、乳癌に罹患している患者の血液から単離されたCTC(#PS234、#SS226、#UR227、#LP229)、前立腺癌に罹患している患者の血液から単離されたCTC(#PT319、#BG320)に関して適用した。
【0072】
CAMで9日後(E18)、患者CTCの全サンプルはCAMへの移植に成功し、腫瘍の発生を示した。初回の増幅後の腫瘍の成長のイン・オボ画像を、
図3にまとめている。
【0073】
ヘマトキシリン/エオジン染色法による組織学的分析を、初回の増幅時に収集した、乳癌に罹患している患者の血液から単離されたCTC(#PS234)から誘導され、その後、上部CAMに移植された腫瘍で実施した。
【0074】
結果は
図4にまとめており、これは悪性腫瘍の増殖の存在を示している。
【0075】
最後に、遺伝子突然変異の分析を、初回の増幅時に収集した、肺癌に罹患している患者の血液から単離されたCTC(#PS234)に由来する腫瘍から抽出されたゲノムDNAについて、2017年に、ヒト腫瘍マーカーTP53(Mogi A & Kuwano H 2011)およびKRAS(Gou LY et al., 2015)を使用したYohe S & Thyagarajan B.の総説に参照される「次世代シークエンシング(Next Generation Sequencing)」(NGS)法による高速シークエンシングによって実施した。DNAの抽出は、ThermoFisherから販売されているGeneJET FFPE DNA精製キットの方法に従って実施した。
【0076】
結果は
図5にまとめており、これは、肺癌に罹患している患者のCTC(#SH103および#CM105)の初回移植に由来する2つの異なる腫瘍におけるヒト腫瘍マーカーTP53(
図5A)およびKRAS(
図5B)の突然変異の存在を示している。
【0077】
肺癌に罹患している患者の血液から単離されたCTCの初回移植に由来する腫瘍をE18時に収集し、細かく切り、その後、第2の胚含有卵群のCAM上へもう一度移植した。2回目の増幅後にE18時に収集した腫瘍の成長のイン・オボ画像を
図6にまとめている(AおよびBは、2つの異なる二次移植片に由来するCAM上の腫瘍のイン・オボ画像に対応する)。
【0078】
前立腺癌に罹患している患者の血液から単離されたCTC(ClearCell Fx1 マイクロ流体法)の初回移植に由来する腫瘍をE18時に収集し、細かく切り、その後、第2の胚含有卵群のCAM上へもう一度移植した。腫瘍の成長のイン・オボ画像を
図7にまとめている。画像Aは、一次移植後にCTCからイン・オボで得られた腫瘍を表す。2つの腫瘍発生部位を矢印で示している。画像Bは、Aに示されている腫瘍から生成された二次移植片に由来する、CAM上のイン・オボ腫瘍のものに対応する。画像Cは、Bに示されている腫瘍の切片の組織学的分析に対応し、一方で組織のCAMを示し、もう一方で腫瘍組織を示している。
【0079】
結論
上記の結果は、鳥類胚含有卵モデルの使用は、従来技術のマウスモデルと比較して、より迅速でかつ安価な様式で、患者のサンプルから単離されたCTCのイン・オボ増幅を可能にすることを示している。従って、本発明は、CTCのバイオバンクを迅速に構成することを可能にし、これは、次には、抗癌療法の有効性試験のために、有効な個別化された治療を生み出し得る能力のある新規な薬剤のモニタリングおよびスクリーニングのために使用され得る。
参照文献
【国際調査報告】