(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-17
(54)【発明の名称】豚レンサ球菌感染防御のためのワクチン
(51)【国際特許分類】
A61K 39/09 20060101AFI20220107BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
A61K39/09
A61P31/04 171
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021524157
(86)(22)【出願日】2019-11-07
(85)【翻訳文提出日】2021-06-30
(86)【国際出願番号】 EP2019080482
(87)【国際公開番号】W WO2020094762
(87)【国際公開日】2020-05-14
(32)【優先日】2018-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510000976
【氏名又は名称】インターベット インターナショナル ベー. フェー.
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ヤコブス,アントニウス・アルノルドゥス・クリスティアーン
【テーマコード(参考)】
4C085
【Fターム(参考)】
4C085AA03
4C085BA14
4C085BA31
4C085BB22
4C085CC07
4C085CC21
4C085DD62
4C085EE01
(57)【要約】
本発明は、血清型2の豚レンサ球菌による感染および血清型14の豚レンサ球菌による感染に対して豚を防御する方法における使用のための、豚レンサ球菌のIgMプロテアーゼ抗原を含むワクチンに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血清型2の豚レンサ球菌(Streptococcus suis)による病原性感染および血清型14の豚レンサ球菌による病原性感染に対して豚を防御するための方法における使用のための豚レンサ球菌のIgMプロテアーゼ抗原。
【請求項2】
前記方法が、豚に1回だけ前記抗原を投与することを含む、請求項1に記載の使用のためのIgMプロテアーゼ抗原。
【請求項3】
前記方法が、最長で28日齢の豚に抗原を投与することを含む、請求項1または2のいずれか一項に記載の使用のためのIgMプロテアーゼ抗原。
【請求項4】
前記方法が、豚を離乳させる日齢以前に抗原を投与することを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用のためのIgMプロテアーゼ抗原。
【請求項5】
前記方法が、母体由来の抗体豚レンサ球菌抗体を有する豚に抗原を投与することを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用のためのIgMプロテアーゼ抗原。
【請求項6】
前記方法が、血清型2および血清型14の豚レンサ球菌の病原性感染に関連する死亡に対して防御を付与するためのものである、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用のためのIgMプロテアーゼ抗原。
【請求項7】
前記方法が、血清型2および血清型14の豚レンサ球菌の病原性感染に関連する臨床徴候に対して防御を付与する、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用のためのIgMプロテアーゼ抗原。
【請求項8】
血清型2の豚レンサ球菌による病原性感染および血清型14の豚レンサ球菌による病原性感染に対して豚を防御するためのワクチンの製造における、豚レンサ球菌のIgMプロテアーゼ抗原の使用。
【請求項9】
豚レンサ球菌のIgMプロテアーゼ抗原を含むワクチンを豚に投与することによって、血清型2の豚レンサ球菌の病原性感染および血清型14の豚レンサ球菌の病原性感染に対して豚を防御する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一般的な分野
【0002】
本発明は、様々な血清型の豚レンサ球菌(Streptococcus suis)による病原性感染に対する豚の防御に関するものである。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
Streptococcus suis(S. suis)は、豚の伝染性細菌疾患の主要な病原体のひとつである。この病原体は、髄膜炎、関節炎、心膜炎、多発性漿膜炎、敗血症、肺炎および突然死を含む様々な臨床症候群を引き起こしうる。S. suisはグラム陽性の通性嫌気性球菌であり、もともとLancefieldグループR、S、R/SまたはTと定義されていた。後に、細胞壁に位置する型特異的莢膜多糖類抗原に基づく新しいタイピングシステムが提案された。このことから、35種類の血清型(Rasmussen and Andresen, 1998、”16S rDNA sequence variations of some Streptococcus suis serotypes”、Int. J. Syst. Bacteriol. 48、1063-1065)からなるシステムが導かれ、そのうち血清型2、9、1、7および1/2が最も多く、一方、血清型14は特にヨーロッパ全域で出現している。豚群におけるStreptococcus suisの管理は非常に困難であると思われる。Streptococcus suisは豚の共生および日和見病原体である。おそらく、感染のたびに免疫システムが引き起こされるわけではない。これに隣接して、Streptococcus suisは十分に莢膜を有する病原体であり、宿主免疫系を回避するために毒性因子の武器を用いる。まとめると、これらの特徴は、この重要な病原体と闘うための有効なワクチンの開発に抵抗してきた。最近、Streptococcus suisに対するワクチンに関して概説論文が発表されている(Mariela Segura: “Streptococcus suis vaccines: candidate antigens and progress、in Expert Review of Vaccines, Volume 14, 2015, Issue 12, p. 1587-1608)。この総説では、Streptoccus suisに対するワクチン開発の現状を概観するため、臨床現場情報および実験データをまとめ、比較している。その概要を以下に示す。
【0004】
現在使用されているワクチンは主に全細胞バクテリンである。しかしながら、野外報告では疾患のコントロールおよび管理の困難さが報告されており、特に「ワクチン失敗」がよくみられる。保菌豚が主要な感染源であり、垂直伝播と水平伝播の両方が群れ内での本疾患の拡大に関与している。離乳や輸送などのストレスの多い条件下でキャリア動物と感受性動物を混合すると、通常、臨床疾患が生じる。早期に薬物を投与した離乳や隔離した早期離乳方法では、Streptococcus suis感染は排除されない。したがって、疾病を予防するための効果的な管理措置は、(許される場合には)予防/予防処置およびワクチン接種にかかっているであろう。現在、野外予防接種の取り組みでは、市販または自家バクテリンの使用に焦点が当てられている。これらのワクチン戦略は、子豚または雌豚のいずれかに適用されている。離乳期以降の子豚は、離乳に伴うストレス、およびその後の一般的な輸送に起因するStreptococcus suis感染に感受性が高い。そのため、母豚の分娩前免疫化は、子豚に受動免疫を試行・伝達し、生後早期にこれらのストレスの多い状況下でStreptococcus suisに対する防御を提供するために用いられることが多い。さらに、雌豚へのワクチン接種は費用と労力がかからず、子豚へのワクチン接種に代わる経済的な方法となっている。しかし、利用可能な結果は、バクテリンの雌豚へのワクチン接種も議論の余地があることを示しているように思われる。多くの場合、ワクチン接種を受けた雌豚は、分娩前に2回ワクチン接種した場合でも、ワクチン接種にあまり反応しないか、まったく反応しないため、同腹児に移行する母体免疫が低くなる。そして、母親の免疫が十分なレベルで移入されても、多くの場合、母親の抗体が低すぎて、4~7週齢という最も重要な時期に防御ができない。
【0005】
子豚では、自家バクテリンが野外、特にヨーロッパで頻繁に使用されている。臨床的に問題のある農場で分離された病毒菌株から調製し、同一農場に適用する。自家バクテリンの欠点の1つは、ワクチンの安全性データが不足しており、重度の副作用が発生する可能性があることである。サンプリングミス(1頭または2頭の豚またはサンプルのみの使用による)は、最近のアウトブレイクに関連する株または血清型の特定に失敗する可能性がある。この失敗は、流行群において特に問題となる可能性がある。最後に、自家バクテリンの最も重要なジレンマは、その実際の有効性についてはほとんど研究されていないことである。自家ワクチンの適用は経験的であるため、これらのワクチンで得られた結果が一貫していないことは驚くにあたらない。
【0006】
他の実験的ワクチンも当技術分野に記載されている。Kai-Jen Hsuehらは、バクテリンとサブユニットは、子豚に防衛免疫を与えるための雌豚のワクチン接種を成功させるための基礎となる可能性があると記している(”Immunization with Streptococcus suis bacterin plus recombinant Sao protein in sows conveys passive immunity to their piglets”, in : BMC Veterinary Research, BMC series-open, inclusive and trusted, 13:15, 7 January 2017)。
【0007】
当技術分野では、生弱毒化ワクチンもまた意図されている。Streptococcus suis血清型2の非莢膜同質遺伝子変異体は、非病原性であることが明確に示されている。しかし、非莢膜血清型2突然変異体に基づく生ワクチン製剤は、死亡率に対して部分的な防御のみを誘導し、野生型株で攻撃した豚の臨床徴候の発現を防ぐことができなかった(Wisselink HJ, Stockhofe-Zurwieden N, Hilgers LA, et al. “Assessment of protective efficacy of live and killed vaccines based on a non-encapsulated mutant of Streptococcus suis serotype 2.” in: Vet Microbiol. 2002, 84:155-168)。
【0008】
過去数年間、抗原性または免疫原性Streptococcus suis分子の広範なリストが報告されており、これらのほとんどは感染豚またはヒト由来の回復期血清および/または実験室産生免疫血清のいずれかを用いた免疫プロテオミクスによって発見されている。WO2015/181356(IDT Biologika GmbH)は、IgMプロテアーゼ抗原(全タンパク質または完全タンパク質の約35%に相当する高度に保存されたMac-1ドメインのいずれか)が、任意にバクテリンを含むプライムワクチン接種と組み合わせて、2回のIgMプロテアーゼ抗原の投与というワクチン接種スキームにおいて、子豚において防御免疫応答を誘発できることを示している。WO2017/005913(Intervacc AB)も、IgMプロテアーゼ抗原(特に、ヌクレオチダーゼに融合したIgMプロテアーゼポリペプチド)の使用についても記載していることに留意すべきである。しかし、血清反応を誘発できる特性のみが示されている。IgMプロテアーゼ抗原に対する保護作用は、この国際特許出願において示されていない。
【0009】
Streptococcus suisに対する適切な防御を提供する問題を増大させるもう一つの要因は、既存のワクチンの異種防御の欠如である。例えば、Porcilis Strepsuis(登録商標)は、Streptococcus suis血清型2から豚を保護するための登録ワクチン(MSD Animal Health and Coopers Animal Health社から入手可能)である。また、初乳の摂取を介して子孫を血清型2型から受動的に防御する。また、WO 2010/108977から知られているように、ワクチンを雌豚に投与した場合、子孫は異種攻撃に対してある程度の(非常に低い)レベルの防御能を有すると思われる。しかし、このような受動的防御は非常に短命にすぎない。次に、このワクチンは他のどの血清型のStreptococcus suis細菌に対する初乳の摂取を介した子の防御のために登録されたことはなかったので、明らかに異種防御のレベルは登録基準を満たすには低すぎた。これはStreptococcus suisワクチンの場合、ワクチンに含まれない血清型の菌に対する防御が起こらないという共通の知識と一致している。これは、2001年12月6日付Hendrikus Jan Wisselinkの「豚におけるStreptococcus suis感染:診断およびワクチンにおける毒性関連マーカーの使用」と題した博士論文で確認されている。その要約(129頁)では、「ワクチンの使用によるS. suisによる疾患の予防戦略。死菌全細胞ワクチンは、相同血清型の株による攻撃に対して有意な防御を誘導すると思われるが、この防御はおそらく血清型特異的である。」と記載されている。
【0010】
これらの所見は、Smithによる所見(US 7,125,548;2006年10月24日発表)と一致している。彼女は、「抗体は血清型特異的であり、多くの場合、Streptococciのグループ内で知られている多くの血清型のうちの1つのみに対する防御能を付与するであろう。例えば、一般的に全細胞-細菌製剤に基づいている現在市販されているS. suisワクチン、またはS. suisの莢膜濃縮画分に基づいている現在市販されているS. suisワクチンは、異種株に対する限られた防御能しか付与しない」と述べている(4列目42-28行)。2008年1月に発表された研究((Medycyna Weterynaryjna, Volume 64, issue 1, pages 113-116)では、血清型2および1/2のS. suis細菌に対する防御について記述されている。異なる血清型間で異種防御の期待されるレベルがあるとすれば、それらは免疫学的に非常に密接に関連しているため、これらの血清型間であると考えられる。それでも、両血清型は十分な防御を得るためにワクチンに含まれていた。英国を拠点とするRUMA (Responsible Use of Medicines in prograde Alliance)は、2006年11月に豚生産におけるワクチンおよびワクチン接種の使用に関するガイドラインを発表している。S. suisによる疾患に関しては、本ガイドラインでは、雌豚へのワクチン接種により豚の防御は可能であるが、「他のStrep. suis血清型による疾患に対する防御は起こりにくい」と記載されている(19ページ)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO2015/181356
【特許文献2】WO2017/005913
【特許文献3】WO 2010/108977
【特許文献4】US 7,125,548
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Rasmussen and Andresen, 1998、”16S rDNA sequence variations of some Streptococcus suis serotypes”、Int. J. Syst. Bacteriol. 48、1063-1065)
【非特許文献2】Mariela Segura: “Streptococcus suis vaccines: candidate antigens and progress、in Expert Review of Vaccines, Volume 14, 2015, Issue 12, p. 1587-1608
【非特許文献3】”Immunization with Streptococcus suis bacterin plus recombinant Sao protein in sows conveys passive immunity to their piglets”, in : BMC Veterinary Research, BMC series-open, inclusive and trusted, 13:15, 7 January 2017
【非特許文献4】Wisselink HJ, Stockhofe-Zurwieden N, Hilgers LA, et al. “Assessment of protective efficacy of live and killed vaccines based on a non-encapsulated mutant of Streptococcus suis serotype 2.” in: Vet Microbiol. 2002, 84:155-168)。
【非特許文献5】Medycyna Weterynaryjna, Volume 64, issue 1, pages 113-116
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の対象
本発明の目的は、豚のStreptococcusに対する防御、特に2つの優勢な血清型2および14の細菌に対する防御に有効なワクチンを見出すことである。既存の市販のバクテリンワクチンの防御レベルに相当する(少なくとも)両血清型の細菌に対する防御レベルに到達することがさらに目的である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明の概要
本発明の主な目的を満たすために、Streptococcus suisのIgMプロテアーゼ抗原が、血清型2のStreptococcus suisによる病原性感染に対して、および血清型14のStreptococcus suisによる病原性感染に対して豚を保護するための方法において使用され得ることが見出されている。IgMプロテアーゼ抗原は、典型的には、ワクチン組成物、すなわちブタに投与するのに安全な組成物を含み、この組成物では、抗原は、投与を容易にするために、薬学的に許容可能な担体と混合される。ブタに抗原を投与することにより、ブタは血清型2および血清型14のStreptococcus suis細菌による病原性感染に対して防御されることが分かった。両血清型に対する防御レベルは、従来の血清型2バクテリンワクチン(Porcilis Strepsuis cf)を用いた場合に到達する相同防御レベルに相当することがわかった。これは、少なくとも血清型2と血清型14の間で、IgMプロテアーゼ抗原に対して異種防御が示されていることを意味する。少なくとも血清型2および血清型14のStreptococus suis細菌に対する適切な能動的防御が、1つの抗原のみを用いることによって示されたのは今回が初めてであり、特にこれがIgMプロテアーゼ抗原を用いて示されたのは初めてである。特に、これはIgMプロテアーゼ抗原を用いてこれが示されたのは初めてであり、WO2010/108977として知られる免疫化された母動物の初乳を介して得られる短時間の受動的防御に頼る代わりに、豚自身にワクチン接種し能動的異種防御を誘導する独自の選択肢を提供するものである。次に、実際の防御レベルは、相同および異種の両方で、既知のバクテリン型ワクチンで得ることができるよりも有意に優れているようである。
【0015】
本発明はまた、血清型2のStreptococcus suisによる病原性感染に対して、および血清型14のStreptococcus suisによる病原性感染に対して、豚を保護するためのワクチンの製造のための、および血清型2のStreptococcus suisによる病原性感染に対して、および血清型14のStreptococcus suisによる病原性感染に対して、豚にStreptococcus suisのIgMプロテアーゼ抗原を含むワクチンを投与することによって、豚を保護するための、Streptococcus suisのIgMプロテアーゼ抗原の製造のための、Streptococcus suisのIgMプロテアーゼ抗原の使用に関する。
【0016】
ここで述べたように、ワクチンにおいて、抗原は、典型的には、薬学的に許容される担体、すなわち、生体適合性媒体、すなわち、ワクチンの投与後に宿主動物の免疫系に抗原を提示することができる、投与後に被験動物に重大な副作用を誘発しない媒体と組み合わせられる。このような薬学的に許容可能な担体は、例えば、水および/または任意の他の生体適合性溶媒、または凍結乾燥ワクチン(糖および/またはタンパク質に基づく)を得るために一般的に使用されるような固体担体、任意に免疫刺激剤(アジュバント)を含む液体であってもよい。任意に、ワクチンの意図された使用または必要な特性に応じて、安定剤、粘度改変剤または他の成分などの他の物質を添加する。
【0017】
定義
Streptococcus suisのIgMプロテアーゼ抗原は、(豚IgGまたは豚IgAではなく; Seele at al, Journal of Bacteriology, 2013, 195 930-940;およびVaccine 33:2207-2212; 2015年5月5日)豚IgMを特異的に分解する酵素である。この酵素は、IdeSsuisと表記されるタンパク質またはその免疫原性部分(典型的には全長酵素の少なくとも約30-35%の長さを有する)である。全酵素は、約1000~1150個のアミノ酸に対応する約100~125kDaの重量を持ち、S. suisの血清型によって大きさが異なる。2015/181356 WOでは、Streptococcus suisのIgMプロテアーゼ抗原を示すいくつかの配列が示されている。配列番号1、配列番号2、配列番号6、配列番号7および配列番号5は、全長酵素(Mac-1ドメイン、すなわち、SED ID NO:7のアミノ酸80-414として表される)の免疫原性部分である。全長酵素の免疫原性部分の他の例は、WO2017/005913に記載されている。特に、IgMプロテアーゼは、WO2015/1818356の配列番号:1に従うプロテアーゼであってもよく、または重複領域において少なくとも90%、または91、92、93、94、95、96、97、98、99%から100%までの配列同一性を有するタンパク質であってもよい。アミノ酸配列の同一性は、デフォルトパラメータを有するブラストプ(blastp)アルゴリズムを用いて、BLASTプログラムで確立することができる。様々な血清型のStreptococcus suisのIgMプロテアーゼは90%を超える配列同一性、特に91、92、93、94、95、96、97、98、99%から100%までの配列同一性を有すると予想される。人工タンパク質、例えば、抗原の組換え生産系における収率を最適化するために作られた人工タンパク質は、必要とされる免疫原性機能を維持しながら、酵素全体と比較して、85%、80%、75%、70%、またはさらに60%のような低いアミノ酸配列同一性を導くことができ、本発明の意味において、Streptococcus suisのIgMプロテアーゼ抗原であると理解される。
【0018】
微生物による病原性感染に対する防御は、防御免疫(即ち、その微生物またはその感染から生じる障害による病原性感染の予防、改善または治癒、例えば、実際の感染の予防または減少、または病原体による病原性感染から生じる1以上の臨床的徴候を補助すること)に到達するのと同じである。
【0019】
抗原を1回だけ投与することを含む方法は、抗原の単回ショットのみの後に防御免疫が与えられ、従って、追加ワクチン接種が前記防御免疫に到達するのに省略されることを意味する。2ショット方式では、1回目の(プライム)ワクチン接種は、典型的には、1回目の投与から6週間以内に追加接種され、一般的には、1回目の投与から3または2週間以内であり、2回目の(追加)投与後にのみ防御免疫、すなわち、ここで定義したように、成功した防御が得られると理解される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施態様
本発明の第1の実施形態において、この方法は、ブタに抗原を1回だけ投与することを含む。意外なことに、抗原の1ショットのみで、豚において防御免疫を誘発できると思われる。当該技術分野において、非生Streptococcus suisワクチンは、プライム-ブースト(追加)レジメンで常に投与されており、それでも、比較的低い有効性に導いた。本発明において使用するための抗原に関して、従来技術(WO2015/181356およびWO2017/005913を参照)では、一貫してこの抗原を、任意に多元ワクチン(即ち、IgMプロテアーゼ抗原に他抗原を追加)を使用する2ショット投与アプローチで投与している。したがって、IgMプロテアーゼを用いた単回投与が、豚において防御免疫を誘導することができることを見出したことは、非常に驚くべきことであった。
【0021】
第2の実施形態において、この方法は、多くても28日齢の豚に抗原を投与することを含む。上述のように、Streptococcus suisは豚の共生および日和見病原体である。特にストレス下では、細菌は病原性感染を誘発し、疾患を誘発する可能性がある。現代の養豚条件下では、豚が28日齢に達した後に大きなストレスが誘発され、例えば、子豚の離乳(3~4週)や、その後すぐに若い子豚の輸送などによってストレスが誘発される。Streptococcus suisによる病原性感染から防御するためには、豚は非常に若い年齢、典型的には28日齢に達する前にワクチンを接種する必要がある。最大28日齢、すなわち1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27または28日齢の豚にIgMプロテアーゼ抗原を用いることにより、適切な(異種)防御が得られることが分かった。従来技術、特にWO2017/005913から知られているように、IgMプロテアーゼ抗原に対する陽性免疫応答は、出生日以降の若いブタで得ることができる。これは、25日齢のブタで実際の防御が示されていることを意味し、より若い年齢でも防御が得られると理解される。
【0022】
別の実施形態では、この方法は、豚を離乳させる年齢前に抗原を投与することを含む。言い換えれば、子豚が実際に離乳する前(典型的には3~4週齢)に抗原を投与する。この若齢時に抗原を用いると、離乳直後の2~3週間という短い時間帯内のストレスによって誘発されるStreptococcus suisの病原性感染に対して異種防御が得られることが示されている。WO2015/181356は、抗原としてIgMプロテアーゼを用いたワクチン接種の成功を示すことが認められている。しかしながら、異種防御が示されなかったという事実は別として、このワクチンは5~7週齢の子豚に使用され、9週齢で攻撃感染を受けたため、離乳/輸送後2~3週間、すなわち5~7週齢のリスク期間(すなわち、病原性Streptococcus suis感染の発生率のピークの期間)のかなり後であった。したがって、実用的な状況下(すなわち、離乳後2-3週のウインドウでの攻撃感染と輸送ストレス)での有効性の証明なしには、(異種防御得られるかどうかという問題は別として)現実的な状況下で、WO 2015/181356に記載されているようなIgMプロテアーゼ/バクテリン混合ワクチン戦略が可能かどうかは依然疑問である。
【0023】
別の実施形態では、この方法は、母体由来の抗Streptococcus suis抗体を有する豚に抗原を投与することを含む。若齢動物の能動ワクチン接種は、自然感染によって、または雌豚の能動免疫によって産生される、母体抗体への干渉の可能性の懸念がある(Baums CG, Bruggemann C, Kock C, et al.”Immunogenicity of an autogenous Streptococcus suis bacterin in preparturient sows and their piglets in relation to protection after weaning”, in: Clin Vaccine Immunol. 2010;17:1589-1597)。実際、免疫した雌豚からの授乳または離乳子豚のワクチン接種はいずれも、8週齢での顕著な能動的免疫応答および防御とは関連していなかった。この失敗は、母体抗体または他の初乳成分の強い阻害作用と関連していた。この点に関して、母親の抗体とS. suisに対する抗体の能動的産生との干渉は、自家豚連鎖球菌莢膜1/2型ワクチン製剤によるワクチン接種後の野外試験においても確認できた(Lapointe L, D’Allaire S, Lebrun A, et al.: “Antibody response to an autogenous vaccine and serologic profile for Streptococcus suis capsular type 1/2.”in: Can J Vet Res. 2002; 66:8-14.)。4日齢の授乳中の子豚における単回投与のS.suis血清型14バクテリンプロトコルの有効性を決定することを目的とした野外試験でも、同種の攻撃から子豚を保護することができなかった(Amass SF, Stevenson GW, Knox KE, et al. “Efficacy of an autogenous vaccine for preventing streptococcosis in piglets” in: Vet Med. 1999, 94, 480-484)。したがって、IgMプロテアーゼ抗原を使用すると、母体由来の抗Streptococc
us suis抗原の存在下でも適切な防御が得られることは驚くべきことであった。
【0024】
さらに別の実施形態では、この方法は、血清型2および血清型14のStreptococcus suisによる病原性感染に関連する死亡に対する防御を付与するためである。
【0025】
さらに別の実施形態では、この方法は、血清型2および血清型14のStreptococcus suisによる病原性感染に関連する臨床徴候に対する防御を付与するためである。Streptococcus suisの病原性感染に関連する典型的な臨床徴候は、直腸温の上昇、運動障害(跛行、腫脹関節)、呼吸数の増加および神経学的徴候(振戦、痙攣、斜頸、運動失調など)である。これらの徴候の1つ以上を予防、改善または治癒することは、病原性感染が抑制されていることの徴候であることは別として、豚にとって有益であろう。
【0026】
ここで、本発明については、以下の実施例に基づいてさらに説明する。
【実施例】
【0027】
実施例
実施例1
最初の研究の目的は、IgMプロテアーゼ抗原(この場合はStreptococcus suis血清型2のIgMプロテアーゼ抗原)が、血清型2のStreptococcus suisによる攻撃感染に対して防御能を有するかどうかを、死菌血清型2のS. suis細菌(cf. Porcilis Strepsuis)を含む通常のバクテリンワクチンと比較して検証することであった。
【0028】
試験デザイン
30頭の離乳豚を用いた。豚を各10頭ずつ3群(異なる同腹児に均等に分布)に割り付けた。第1群は、組換えrIdeSsuis IgMプロテアーゼ抗原(Seele et al: Vaccine 33:2207-2212; 5 May 2015, par. 2.2.)を、1用量当たり230μg(BSAを標準として用いたBradfordタンパク質アッセイにより確立された)の水中油型アジュバントで、5週齢および7週齢で2回筋肉内接種した。第2群には、水中油型アジュバント中の血清型2の全細胞バクテリン(cf Porcilis Strepsuis)を5週齢および7週齢で2回筋肉内接種した(陽性対照)。第3群はワクチン未接種のまま、攻撃管理とした。9週齢時に、S. suis血清型2の毒性培養物で豚を攻撃した。感染前後の定期的な時期に、攻撃誘発株の再分離のためにヘパリン血液を採取した。感染後、S. suis感染の臨床徴候(うつ病、運動障害および/または神経学的徴候など)について豚を毎日観察し、重症例については0(徴候なし)から3までの通常のスコアリングシステムを用いてスコア化した。重度に罹患した動物を安楽死させ、剖検を行った。試験終了時(攻撃7日後)に、生存豚全頭を安楽死させ、剖検した。
【0029】
結果
いずれのワクチンも許容できない部位または全身反応を誘発しなかったことから、安全であると考えることができた。安楽死前の期間(7日目)の感染後のデータを表1に示す。感染当日、第1群の豚1頭は発育不良であると思われ、この動物は感染させなかったこと。平均臨床スコア、攻撃後の死亡動物数、血液から病原体を再分離できた動物数は、いずれのワクチンについても改善されたと思われる。
【0030】
【0031】
結論
予想通り、不活化全細胞ワクチンは有意な同種防御を誘導した。IgMプロテアーゼ抗原は、Streptococcus suis血清型2の感染に対してさらに良好な防御を誘導した。
【0032】
実施例2
2番目の研究の目的は、IgMプロテアーゼ抗原が血清型14のStreptococcus suisによる感染に対して防御能を有するかどうかを検証することであった。
【0033】
試験デザイン
試験のデザインは、本質的に最初の試験と同じであった。10頭の豚群を用い、5週齢および7週齢時に2回、IgMプロテアーゼ抗原(第1群)を接種するか、またはワクチン未接種の対照動物(第2群)として放置した。9週齢時に、S. suis血清型14の病原性培養物を豚に投与した。
【0034】
結果
また、この試験では、ワクチンは許容できない部位または全身反応を誘発しなかった。初回ワクチン接種日(5週齢)には、ほとんどの豚が(母体由来)抗体価が約4 log 2であった。ワクチン接種後、ワクチン群は良好な抗体反応を示し、追加ワクチン接種後の平均抗体価は9.3 log2であった。対照群の抗体価は低レベルで推移し、平均抗体価は4.1 log2であった。安楽死前(抗原投与後11日目)の感染後データを表2に示す(ACS = 平均臨床スコア; APT = 平均ピーク時間; AST = 平均生存時間; DAC = 抗原投与後死亡; PBI = 血液分離陽性)。
【0035】
【0036】
結論
本研究では、感染は毒性が低いように思われたが、結果から、IgMプロテアーゼ抗原がS. suis血清型14攻撃に対する防御を誘発することが実証された。これは、臨床スコアの低下、人道的エンドポイントに達した動物数、感染細菌が血液から再分離できた動物数によって実証された。次に、ワクチン接種した動物の平均生存期間が良好であるように思われた。最初の研究のデータと合わせると、IgMプロテアーゼ抗原は、血清型2および血清型14の細菌による病原性Streptococcus suis感染に対する防御を提供することができるという結論を導くことができる。このことは、血清型2のIgMプロテアーゼと血清型14のIgMプロテアーゼの同一性が高いことも考慮に入れて、これらの血清型間の交差防御が実証されていることを意味している(すなわち、Streptococcus suis血清型2のIgMプロテアーゼが血清型14の攻撃に対して防御し、逆も同様である)。また、両血清型に対する防御レベルは、一般的に利用可能な血清型2バクテリンワクチンで得られる同種防御レベルに相当する(またはさらに優れている)ようである。
【0037】
実施例3
豚に対するStreptococcus suisに対する防御は、リスク期間(典型的には4~7週齢)に得られることが望ましいため、3週齢の母体由来抗Streptococcus suis陽性豚において、IgMプロテアーゼ含有ワクチンが単回ショットワクチンとして有効であるかどうかを評価した。
【0038】
試験デザイン
試験デザインは上記2件の試験のデザインと同等であり、主な相違点は、5週齢の動物の代わりに、3週齢の抗Ssuis MDA陽性子豚にワクチンを接種したことであった(MDAレベルが検出限界以下であると思われたのは10匹中1匹のみであった)。第1群には、水中油型アジュバント中のIgMプロテアーゼ抗原を1回筋肉内接種した。第2群を陰性負荷(negative challenge)対照群とした。4週齢で子豚を離乳させた。6週齢時に、子豚を感染室に搬送し、直ちに感染させた。自然ストレスを模倣するために輸送と感染との間に馴化期間を設けなかった。子豚にStreptococcus suis血清型2の病原性培養物を接種した。
【0039】
結果
ワクチンは受容できない部位や全身反応を誘発しなかった。安楽死前の期間(7日目)の感染後データを表3に示す。感染当日、第2群の豚1頭が発育不良であると思われ、この動物に感染誘発しないこととした。
【0040】
【0041】
結論
結論として、これらの結果は、IgMプロテアーゼ抗原を一度だけ投与することにより、3週齢のMDA陽性子豚において、Streptococcus suisの病原性感染に対して、ワクチン接種3週間後、離乳2週間後および輸送直後に感染させた場合でも、適切な防御能を誘導できることを実証している。このことは、血清型2感染のみで実証されているが、実施例2は、この抗原が血清型14に対しても同様に防御を誘導できることを示しているので、この種の豚において血清型14感染に対する防御を目的とする場合、同等の結果が得られることが理解される。
【国際調査報告】