(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-17
(54)【発明の名称】高強度構造用鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20220107BHJP
C22C 38/50 20060101ALI20220107BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
C22C38/00 301F
C22C38/50
C21D8/02 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021524195
(86)(22)【出願日】2019-11-08
(85)【翻訳文提出日】2021-06-28
(86)【国際出願番号】 KR2019015124
(87)【国際公開番号】W WO2020096398
(87)【国際公開日】2020-05-14
(31)【優先権主張番号】10-2018-0136846
(32)【優先日】2018-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジン‐ホ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジュ‐ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ユ,スン‐ホ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ボン‐ジュ
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA04
4K032AA11
4K032AA12
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032BA01
4K032CA02
4K032CC03
4K032CC04
4K032CD03
4K032CD06
(57)【要約】
【課題】高強度構造用鋼及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、重量%で、C:0.03%以上0.1%未満、Si:0.1%以上0.8%未満、Mn:0.3%以上1.5%未満、Cr:0.5%以上1.5%未満、Cu:0.1%以上0.5%未満、Al:0.01%以上0.08%未満、Ti:0.01%以上0.1%未満、Ni:0.05%以上0.1%未満、Nb:0.002%以上0.07%未満、P:0.03%以下、S:0.02%以下、残部はFe及び不可避不純物からなり、微細組織が、面積分率で、ベイナイト20%以上、ポリゴナルフェライト及び針状フェライトが合計で80%未満、その他の相としてパーライト及び島状マルテンサイトが10%未満であることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.03%以上0.1%未満、Si:0.1%以上0.8%未満、Mn:0.3%以上1.5%未満、Cr:0.5%以上1.5%未満、Cu:0.1%以上0.5%未満、Al:0.01%以上0.08%未満、Ti:0.01%以上0.1%未満、Ni:0.05%以上0.1%未満、Nb:0.002%以上0.07%未満、P:0.03%以下、S:0.02%以下、残部はFe及び不可避不純物からなり、
微細組織が、面積分率で、ベイナイト20%以上、ポリゴナルフェライト及び針状フェライトが合計で80%未満、その他の相としてパーライト及び島状マルテンサイトが10%未満であることを特徴とする高強度構造用鋼。
【請求項2】
前記Cは、0.03%以上0.09%未満で含まれることを特徴とする請求項1に記載の高強度構造用鋼。
【請求項3】
前記Siは、0.2%以上0.8%未満で含まれることを特徴とする請求項1に記載の高強度構造用鋼。
【請求項4】
前記Cuは、0.1%以上0.45%未満で含まれることを特徴とする請求項1に記載の高強度構造用鋼。
【請求項5】
前記高強度構造用鋼は、500MPa以上の降伏強度、600MPa以上の引張強度を有することを特徴とする請求項1に記載の高強度構造用鋼。
【請求項6】
重量%で、C:0.03%以上0.1%未満、Si:0.1%以上0.8%未満、Mn:0.3%以上1.5%未満、Cr:0.5%以上1.5%未満、Cu:0.1%以上0.5%未満、Al:0.01%以上0.08%未満、Ti:0.01%以上0.1%未満、Ni:0.05%以上0.1%未満、Nb:0.002%以上0.07%未満、P:0.03%以下、S:0.02%以下、残部はFe及び不可避不純物からなるスラブを1000℃以上1200℃以下の温度で再加熱する段階、
再加熱した前記スラブを750℃以上950℃以下の仕上げ圧延温度で熱間圧延する段階、及び
圧延された鋼板を750℃以上の冷却開始温度から400~700℃の冷却終了温度まで10℃/sec以上の冷却速度で冷却する段階、
を含むことを特徴とする高強度構造用鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度構造用鋼及びその製造方法に係り、より詳しくは、海岸沿いの建築構造用鋼または船舶内部のバラストタンク及び関連付属機器などのように海水による腐食加速化が著しい環境において優れた腐食抵抗性を有する高強度構造用鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の腐食は、食塩のように水によく溶けるイオン形態の無機物質が多い環境下で促進されるのが一般的であり、特に、塩素イオン(Cl-)のように腐食を促進させる性質のイオンがある場合、非常に速く腐食が起こる。したがって、平均で3.5%のNaClを含んでいる海水中で、金属は非常に速い速度で腐食されるため、海水に隣接した構造物、海水環境下で運航する船舶など、様々な条件で腐食が問題となっている。
これに伴い、いくつかの種類の防食処理により腐食を抑制する技術が提案されている。しかし、このような防食処理の防食年限は20~30年程度に過ぎないため、素材自体の耐食性が確保されない場合、維持補修費用が絶え間なく発生する。つまり、構造物の耐久性を50年以上の長期間に増大させ、構造物の運用期間中の各種防食費用を低減するためには、素材自体の耐食性の強化が必須である。
【0003】
鋼材の耐海水性を向上させる元素のうち最も効果的な元素として、クロム(Cr)及び銅(Cu)がある。クロム及び銅は、腐食環境に応じて異なる役割を果たし、適切な比率で添加すると、海水による腐食加速化環境下でも優れた耐食効果を発揮することができる。しかし、クロムの場合、酸性環境では大きな効果を発揮できず、銅の場合、鋳造過程で鋳造亀裂を誘発するため、高価なニッケルを一定水準以上に添加する必要があるという問題がある。しかし、クロムは強酸以外の殆どの環境で耐食性向上の効果があり、最近の連続鋳造技術の発展によって銅添加鋼の鋳造欠陥防止のためのニッケルの最小添加量を少なくし、高価なニッケル添加量を減らして製品の原価を低下させることが可能となった。
【0004】
一方、耐海水特性に優れた鋼材に関しては、従来技術として、特許文献1、2及び3が提案されている。特許文献1は、構成成分及び製造条件を工夫して鋼板の微細組織を制御することを提示しているが、温組織の含有量が少ない場合(20%未満)、強度の確保に困難があり、Ni含有量を0.05%以下に規定しているため、鋳造時の鋳造欠陥が多量に発生する虞がある。特許文献2の場合、Alが0.1%以上添加されて製鋼工程で粗大な酸化性介在物が形成され、圧延時の介在物が潰れて長く連なる延伸介在物が発生し、それにより、空孔形成が助長されて局部腐食の抵抗性が阻害される問題がある。また、特許文献3の場合のようにWが添加されると、連鋳性の欠陥発生の虞があり、また、粗大析出物の生成によるガルバニック腐食の虞があり、更に、空冷による組織粗大化に伴う強度低下の虞がある。
したがって、特許文献1~3による構造用鋼では、それ自体で海水耐食性及び強度を確保するのに無理がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】韓国特許出願公開第10-2011-0076148号公報
【特許文献2】韓国特許出願公開第10-2011-0065949号公報
【特許文献3】韓国特許出願公開第10-2004-0054272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的とするところは、構成成分及び製造条件の最適化により鋼板表面の腐食特性及び微細組織を制御し、鋼板の強度特性を向上させ、腐食速度を最小化し、鋼板自体の海水環境の耐腐食特性に優れた鋼板及びこれを製造する方法を提供することにある。
一方、本発明の課題は、上記内容に限定されない。本発明の課題は、本明細書の全体内容から理解することができ、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の付加的な課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の高強度構造用鋼は、重量%で、C:0.03%以上0.1%未満、Si:0.1%以上0.8%未満、Mn:0.3%以上1.5%未満、Cr:0.5%以上1.5%未満、Cu:0.1%以上0.5%未満、Al:0.01%以上0.08%未満、Ti:0.01%以上0.1%未満、Ni:0.05%以上0.1%未満、Nb:0.002%以上0.07%未満、P:0.03%以下、S:0.02%以下、残部はFe及び不可避不純物からなり、微細組織が、面積分率でベイナイト20%以上、ポリゴナルフェライト及び針状フェライトが合計で80%未満、その他の相としてパーライト及び島状マルテンサイトが10%未満であることを特徴とする。
【0008】
上記高強度構造用鋼におけるCは、0.03%以上0.09%未満で含むことができる。
上記高強度構造用鋼におけるSiは、0.2%以上0.8%未満で含むことがよい。
上記高強度構造用鋼におけるCuは、0.1%以上0.45%未満で含むことが好ましい。
上記高強度構造用鋼は、500MPa以上の降伏強度、600MPa以上の引張強度を有することができる。
【0009】
本発明の高強度構造用鋼の製造方法は、重量%で、C:0.03%以上0.1%未満、Si:0.1%以上0.8%未満、Mn:0.3%以上1.5%未満、Cr:0.5%以上1.5%未満、Cu:0.1%以上0.5%未満、Al:0.01%以上0.08%未満、Ti:0.01%以上0.1%未満、Ni:0.05%以上0.1%未満、Nb:0.002%以上0.07%未満、P:0.03%以下、S:0.02%以下、残部はFe及び不可避不純物からなるスラブを1000℃以上1200℃以下の温度で再加熱する段階、再加熱した上記スラブを750℃以上950℃以下の仕上げ圧延温度で熱間圧延する段階、及び圧延された鋼板を750℃以上の冷却開始温度から400~700℃の冷却終了温度まで10℃/sec以上の冷却速度で冷却する段階、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、本発明の高強度構造用鋼は、海水の雰囲気環境で鋼板自体の耐食性が向上し、500MPa以上の降伏強度、600MPa以上の引張強度を有する強度特性に優れた構造用鋼板を提供することができる。
本発明の多様で有意義な利点及び効果は、上述した内容に限定されず、本発明の具体的な実施形態を説明する過程でより容易に理解されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】発明鋼4を顕微鏡で観察した写真であって、(a)は表面、(b)は厚さ方向1/4tの部分、(c)は厚さ方向1/2tの部分を観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。しかし、本発明の実施形態は、いくつかの他の形態に変形することができ、本発明の範囲は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。また、本発明の実施形態は、当該技術分野で平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
本発明者は、構造用鋼の自体の耐食性を向上させるための方法について深く研究した結果、クロム、銅などの含有量を適宜制御し、再加熱温度、仕上げ圧延温度、冷却終了温度、冷却速度などの製造条件を最適化することで、微細組織を制御し、優れた耐海水特性及び強度特性を確保することができることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0013】
以下、本発明の一側面による高強度構造用鋼について詳細に説明する。
[高強度構造用鋼]
まず、本発明の高強度構造用鋼の構成成分について説明する。
本発明の高強度構造用鋼は、重量%で、C:0.03%以上0.1%未満、Si:0.1%以上0.8%未満、Mn:0.3%以上1.5%未満、Cr:0.5%以上1.5%未満、Cu:0.1%以上0.5%未満、Al:0.01%以上0.08%未満、Ti:0.01%以上0.1%未満、Ni:0.05%以上0.1%未満、Nb:0.002%以上0.07%未満、P:0.03%以下、S:0.02%以下、残部はFe及び不可避不純物からなる。以下、各合金元素の単位は重量%である。
【0014】
炭素(C):0.03%以上0.1%未満
Cは、強度を向上させるために添加される元素であって、その含有量を増加させると、焼入れ性を向上させて強度を向上させることができるが、添加量が増加するにつれて全面腐食の抵抗性を阻害し、炭化物などの析出を助長するため、局部腐食の抵抗性にも一部影響を及ぼす。全面腐食及び局部腐食の抵抗性を向上させるためには、C含有量を減らす必要があるが、その含有量が0.03%未満であると、構造用鋼の用途材料としての十分な強度を確保するのが難しく、0.1%以上であると、溶接性を劣化させるため、溶接構造物用鋼として好ましくない。したがって、本発明におけるC含有量を0.03%以上0.1%未満に制限することが好ましい。一方、耐食性の観点からC含有量が0.09%未満であることがより好ましく、場合によっては、鋳造亀裂をさらに向上させ、炭素当量を減らすために、C含有量は0.08%未満であることが更に好ましい。一方、上記C含有量の下限は0.035%であることが好ましい。また、上記C含有量の上限は0.06%であることがより好ましく、0.054%であることが更に好ましい。
【0015】
シリコン(Si):0.1%以上0.8%未満
Siは、脱酸剤として作用するだけでなく、鋼の強度を増加させる役割を発揮する元素であって、その効果が発揮されるためには0.1%以上が必要である。また、Siは全面腐食の抵抗性の向上に寄与するため、含有量を増加させることが有利であるが、Si含有量が0.8%以上の場合、靭性及び溶接性を阻害し、圧延時のスケールの剥離を難しくしてスケールによる表面欠陥などを誘発する。したがって、本発明におけるSi含有量を0.1%以上0.8%未満に制限することが好ましい。場合によっては、耐食性の向上のためにSi含有量を0.2%以上に制限することがより好ましい。従って、Si含有量の下限は0.2%であることがより好ましく、0.27%であることが更に好ましい。また、上記Si含有量の上限は0.5%であることが好ましく、0.44%であることがより好ましい。
【0016】
マンガン(Mn):0.3%以上1.5%未満
Mnは、靭性を低下させず、固溶強化によって強度を上昇させる有効な成分である。しかし、過度に添加した場合、腐食反応時に鋼材表面の電気化学反応速度を上昇させることで耐食性が低下することもある。Mnが0.3%未満添加される場合、構造用鋼材の耐久性の確保が困難であるという問題がある。これに対し、Mn含有量が増加すると、焼入れ性が増加して強度が上昇するが、1.5%以上添加されると、製鋼工程でスラブ鋳造時の厚さ中心部で偏析部が大きく発達し、溶接性が低下し、これに伴い、鋼板表面の耐食性を低下させるという問題点がある。したがって、本発明におけるMn含有量は0.3%以上1.5%未満に制限することが好ましい。Mn含有量の下限は0.4%であることがより好ましく、0.5%であることが更に好ましい。また、上記Mn含有量の上限は1.4%であることが好ましく、0.9%であることがより好ましい。
【0017】
クロム(Cr):0.5%以上1.5%未満
Crは、腐食環境で鋼材表面にCrを含む酸化膜を形成して耐食性を上昇させる元素である。海水環境において、Cr添加による耐食性の効果が十分に現れるためには、0.5%以上含有する必要がある。しかし、上記Crが1.5%以上と過度に含有されると、靭性及び溶接性に悪影響を及ぼすため、その含有量を0.5%以上1.5%未満に制限することが好ましい。一方、Cr含有量の下限は0.6%であることがより好ましく、1.2%であることが更に好ましい。また、上記Cr含有量の上限は1.4%であることがより好ましい。すなわち、本発明の一側面による構造用鋼は、Cr含有量が1.2%以上1.4%以下(すなわち、1.2~1.4%)であることが最も好ましい。
【0018】
銅(Cu):0.1%以上0.5%未満
Cuは、Niと同様に0.1%以上含有させると、Feの溶出を遅延させるため、全面腐食及び局部腐食の抵抗性の向上に有効である。しかし、Cu含有量が0.5%以上添加されると、スラブ製造時の液体状態のCuが粒界に溶け込んで熱間加工時にクラックを発生させるホットショートネス(Hot Shortness)現象を誘発するため、本発明におけるCu含有量は0.1%以上0.5%未満に制限することが好ましい。特に、Cu含有量の下限は0.2%であることがより好ましく、0.28%であることが最も好ましい。
一方、スラブ製造時に発生する表面亀裂は、C、Ni、Mnの含有量と相互的に作用するため、各元素の含有量に応じて表面亀裂の発生頻度は異なる場合があるが、該当元素の含有量に関わらず、表面亀裂発生の可能性を最小限に抑えるためには、Cu含有量を0.45%未満にすることがより好ましく、Cu含有量を0.43%以下にすることが最も好ましい。
【0019】
アルミニウム(Al):0.01%以上0.08%未満
Alは、脱酸のために添加される元素であって、鋼中でNと反応してAlNを形成し、オーステナイト結晶粒を微細化して靭性を向上させる元素である。Alは、十分な脱酸のために溶解状態で0.01%以上含有されることが好ましい。一方、Al含有量の下限は0.02%であることが好ましく、0.022%であることがより好ましい。これに対し、Alが0.08%以上に過度に含有されると、製鋼工程で粗大な酸化物の介在物を形成し、アルミニウム酸化物(Al oxide)系の特徴によって圧延時に潰れて長く連なる延伸介在物を形成する。このような延伸介在物の形成は、介在物の周辺に空孔の形成を助長し、このような空孔は、局部腐食の開始点として作用するため、局部腐食の抵抗性を阻害する虞がある。したがって、本発明におけるAl含有量は0.08%未満に制限することが好ましい。一方、Al含有量の上限は0.05%であることが好ましく、0.034%であることがより好ましい。
【0020】
チタン(Ti):0.01%以上0.1%未満
Tiは、0.01%以上添加すると、鋼中で炭素と結合してTiCを形成することにより、析出強化効果によって強度を向上させる役割を果たす。これに対し、Ti含有量が0.1%以上添加される場合には、その含有量の増加に対する強度向上効果が大きくない。したがって、本発明におけるTi含有量は、0.01%以上0.1%未満に制限することができる。Ti含有量の下限は0.015%であることがより好ましい。また、Ti含有量の上限は0.05%であることがより好ましく、0.028%であることが更に好ましい。
【0021】
ニッケル(Ni):0.05%以上0.1%未満
Niは、Cuと同様に0.05%以上含有させると、全面腐食及び局部腐食の抵抗性の向上に有効である。Ni含有量の下限は0.07%であることがより好ましい。また、Cuと共に添加すると、Cuと反応して融点の低いCu相の生成を抑制して、ホットショートネスを抑制する効果があるため、殆どのCu添加鋼では、NiをCu含有量の1倍以上添加することが一般的である。本発明のようにC、Mnなどの炭素当量に関する元素の含有量が低く、Cr含有量が大きい場合、Cu含有量の半分以下で入れてもショートネスを十分に防止することができる。Niは高価な元素であるため、相対的な投入効果を考慮してNi含有量の上限を0.1%未満に制限することが好ましい。更に、Ni含有量の上限は0.09%であることがより好ましい。
【0022】
ニオブ(Nb):0.002%以上0.07%未満
Nbは、Tiと同様に鋼中で炭素と結合してNbCを形成することで、析出強化の役割を果たす元素であり、0.002%以上添加すると、強度を効果的に向上させる。但し、その含有量が0.07%以上添加された場合には、その含有量の増加に対する強度向上効果がそれほど大きくない。したがって、本発明におけるNb含有量は0.002%以上0.07%未満に制限することが好ましい。Nb含有量の下限は0.01%であることがより好ましく、0.017%であることが最も好ましい。また、Nb含有量の上限は0.05%であることがより好ましく、0.044%であることが更に好ましい。
【0023】
リン(P):0.03%以下
Pは、鋼中に不純物として存在し、その含有量が0.03%を超えて添加されると、溶接性が顕著に低下するだけでなく、靭性が低下する。したがって、P含有量を0.03%以下に制限することが好ましい。また、P含有量の上限が0.02%であることが好ましく、0.018%であることがより好ましい。一方、Pは、不純物であることから、その含有量を低減するほど有利であるため、その下限は別途限定しない。
【0024】
硫黄(S):0.02%以下
Sは、鋼中に不純物として存在し、その含有量が0.02%を超えると、鋼の延性、衝撃靭性及び溶接性を劣化させる問題点がある。したがって、本発明におけるS含有量を0.02%以下に制限することが好ましい。特に、SはMnと反応してMnSのように延伸介在物を形成しやすく、延伸介在物の両端に存在する空孔は局部腐食の開始点となり得るため、その含有量の上限を0.01%以下にすることがより好ましく、0.008%以下にすることが最も好ましい。一方、Sは、不純物であることから、その含有量を低減するほど有利であるため、その下限は別途限定しない。
【0025】
本発明の高強度構造用鋼は、上記の合金元素以外に、残りは鉄(Fe)成分である。但し、通常の製造過程では、原料や周囲環境から意図されない不純物が不可避に混入することがあるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の技術者であれば、誰でも分かることであるため、そのすべての内容を詳細に言及しない。
【0026】
一方、本発明の一側面による高強度構造用鋼は、微細組織として面積分率で、ベイナイト20%以上、ポリゴナルフェライト及び針状フェライトが合計で80%未満、その他の相としてパーライト及びMA(島状マルテンサイト)が10%未満であることができる。
【0027】
本発明の一側面による高強度構造用鋼は、微細組織のうちベイナイトの面積分率が20%以上であることができ、30%以上であることがより好ましく、51%以上であることが最も好ましい。
一方、本発明の一側面による高強度構造用鋼は、微細組織のうちベイナイトの面積分率が78%以下であることができる。
本発明の一側面による高強度構造用鋼は、微細組織のうちベイナイトの面積分率が68%以上71%以下であることができる。
【0028】
また、本発明の一側面による高強度構造用鋼は、微細組織のうちポリゴナルフェライト及び針状フェライトの合計の面積分率が80%未満であることができ、45%以下であることがより好ましい。
本発明の一側面による高強度構造用鋼は、微細組織のうちポリゴナルフェライト及び針状フェライトの合計の面積分率が10%以上であることができ、19%以上であることがより好ましい。
本発明の一側面による高強度構造用鋼は、微細組織のうちポリゴナルフェライト及び針状フェライトの合計の面積分率が25%以上30%以下であることができ、27%以上30%以下であることがより好ましい。
【0029】
また、本発明の一側面による高強度構造用鋼は、微細組織のうちその他の相としてパーライト及びMA(島状マルテンサイト)の面積分率が10%未満であることができ、5%以下であることが好ましく、4%以下であることがより好ましく、2%以下であることが更に好ましい。
【0030】
高強度構造用鋼の材料として使用するためには、少なくとも500MPa、普遍的には600MPa以上の厚物材の強度を確保する必要があり、このために微細組織にベイナイト20%以上及びその他のポリゴナル及び/または針状フェライト中心の組織を構成した。また、その他の相であるパーライト及びMAの場合、10%以上含まれると、本発明に係る構造用鋼が用いられる環境において、低温靭性及び耐食性が不足する虞があるため、上限を10%未満に制限した。
本発明の一側面による高強度構造用鋼は、上記の構成成分系及び微細組織を満たすことで、500MPa以上の降伏強度、600MPa以上の引張強度を有することができる。
【0031】
次に、本発明の他の一側面による高強度構造用鋼の製造方法について詳細に説明する。
[高強度構造用鋼の製造方法]
本発明の一側面による高強度構造用鋼の製造方法は、スラブ再加熱-熱間圧延-冷却の過程からなり、各製造段階別の詳細な条件は、以下のとおりである。
【0032】
スラブ再加熱段階
まず、上記の構成成分からなるスラブを用意し、上記スラブを1000~1200℃の温度範囲で再加熱する。鋳造中に形成された炭窒化物を固溶させるために再加熱温度を1000℃以上とし、炭窒化物を十分に固溶させるために1050℃以上に加熱することがより好ましい。一方、過度に高い温度で再加熱した場合、オーステナイトが粗大に形成される虞があるため、上記再加熱温度は1200℃以下にすることが好ましい。
【0033】
熱間圧延段階
上記再加熱したスラブに対して粗圧延及び仕上げ圧延を含む熱間圧延を行う。この時、仕上げ圧延は750℃以上の仕上げ圧延温度で完了することが好ましい。上記仕上げ圧延温度が750℃未満であると、空冷フェライトが多量に生成される問題がある。これに対し、上記仕上げ圧延温度が950℃を超えると、組織の粗大化による強度及び靭性の低下を引き起こす虞がある。したがって、本発明における上記仕上げ圧延温度は、750~950℃に制限することが好ましい。
【0034】
冷却段階
熱間圧延を終了した鋼材に対して水冷による強制冷却を行う。本発明では十分な冷却により厚物材でも高強度を確保することが核心技術であり、組織の粗大化を防ぐために、10℃/s以上の冷却速度で700℃以下の温度まで冷却する必要がある。また、上記冷却は、750℃以上の冷却開始温度から開始することができる。但し、400℃未満の温度まで冷却する場合、急冷過程によって中心部に微細なクラックが誘発されることがあり、製品表面と中心部の材質偏差及び製品の先/後端部の材質偏差を誘発する虞があるため、400℃以上の温度で冷却を終了することが好ましい。すなわち、冷却段階では、圧延された鋼板を750℃以上の冷却開始温度から400~700℃の冷却終了温度まで10℃/sの冷却速度で冷却することが好ましい。特に、上記冷却終了温度の範囲は、500~650℃であることがより好ましく、522~614℃であることが更に好ましい。
【0035】
一方、冷却速度の上限は、主に設備能力に関係し、10℃/s以上であれば、冷却速度が増加しても強度に有意な変化が見られないため、冷却速度の上限は、別途限定しなくてもよい。一方、上記冷却速度の下限は20℃/sであることがより好ましく、25℃/sであることが更に好ましく、30℃/sであることが最も好ましい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、下記実施例は、本発明を例示して、より詳細に説明するためのものにすぎず、本発明の権利範囲を限定するためのものではない点を留意するべきである。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項と、それから合理的に類推される事項によって決定されるものであるためである。
【0037】
(実施例)
まず、下記表1に示した構成成分を有する溶鋼を準備した後、連続鋳造を用いてスラブを製造した。以後、上記スラブを下記表2の製造条件で再加熱、熱間圧延、冷却して鋼板を製造した。
製造された鋼板について光学及び電子顕微鏡で微細組織を観察し、各相の面積分率を測定した後、引張試験によって降伏強度及び引張強度を測定して表3に示した。また、耐海水特性評価として海水の代替として3.5%NaCl溶液に一日間浸漬した後、50% HCl+0.1% Hexamethylene tetramine溶液と共に超音波洗浄機に入れて試験片を洗浄し、重量減少を測定した。この重量減少量を初期試験片の表面積で割って腐食速度を算出し、比較鋼及び発明鋼の腐食速度を比較するために、比較鋼1の腐食速度を100を基準として相対腐食速度を比較評価し、その結果を表3に併せて示した。
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
上記表1から分かるとおり、発明鋼1~4は、すべて本発明で規定する成分範囲を満たしているのに対し、比較鋼1~3は、Cr、Cu、NiまたはMnの成分範囲が本発明の範囲から外れていた。
その結果、発明鋼1~4は、フェライト系に(基盤に)ベイナイト20%以上の低温組織を有する微細組織を有するようになり、降伏強度500MPa以上、引張強度600MPa以上の高い強度を有しており、構造用鋼として十分な材質を備えていることが分かった。また、本発明で規定する成分範囲を満たすことにより、比較鋼1に比べて遅い腐食速度を示し、耐海水雰囲気で十分な寿命を有することが確認できた。
これに対し、比較鋼1~3は、Cr、Cu、NiまたはMnの成分範囲が本発明の範囲から逸脱していたため、本発明の製造条件を満たす製造方法で製造されたにも関わらず、表3から分かるとおり、相対腐食速度100以上の高い腐食速度を示し、結果的には耐海水雰囲気で十分な寿命を有することができないことが分かった。
【0042】
一方、Crを1.2%以上1.4%以下で含有する発明鋼1及び2の場合、Crを1.2%以上1.4%以下で含有しない発明鋼3及び4に比べて、より遅い腐食速度を示すことが確認された。
これにより、本発明の一側面による構造用鋼として、Crを1.2%以上1.4%以下で含有することで、耐海水雰囲気で最も優れた寿命特性を有することが確認できた。
【0043】
以上、実施例について説明したが、当該技術分野における熟練した通常の技術者は、下記の特許請求の範囲に記載された本発明の思想及び領域から逸脱しない範囲内で、本発明の多様な修正及び変更が可能であるということを理解することができる。
【国際調査報告】