(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-17
(54)【発明の名称】二流体炉-液体金属核分裂性物質を用いた変形(DFR/m)
(51)【国際特許分類】
G21C 1/22 20060101AFI20220107BHJP
G21C 3/52 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
G21C1/22
G21C3/52
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021524316
(86)(22)【出願日】2019-11-01
(85)【翻訳文提出日】2021-06-03
(86)【国際出願番号】 DE2019000288
(87)【国際公開番号】W WO2020088707
(87)【国際公開日】2020-05-07
(31)【優先権主張番号】102018008541.5
(32)【優先日】2018-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521189639
【氏名又は名称】デュアル・フルーイド・エナジー・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【氏名又は名称】虎山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】フーケ・アルミン
(72)【発明者】
【氏名】ゴットリープ・シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイスバッハ・ダーニエール
(72)【発明者】
【氏名】ルプレヒト・ゲッツ
(72)【発明者】
【氏名】チェルスキー・コンラート
(57)【要約】
本発明は、液体燃料ライン中の液体燃料として特殊な液体金属核分裂性物質混合物を使用し、前記液体金属核分裂性物質混合物がアクチノイド類を高割合で、好ましくは69%以上の割合で有する、二流体原理に従い稼働する原子炉に関する。前記金属は、好ましくはクロム(Cr)、マンガン(Mn)及び鉄(Fe)から選択される。好ましいアクチノイド類は、トリウム(Th)、ウラン(U)及びプルトニウム(Pu)から選択される。前記混合物及び生じる多成分合金は、必ずしも共晶である必要はない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体燃料ライン中に液体燃料を含み、この液体燃料が、主たる割合のアクチノイド類を有する金属からなる液体混合物を液体金属核分裂性物質混合物として含むことを特徴とする、二流体炉(DFR)。
【請求項2】
アクチノイド類の割合が少なくとも69原子%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の炉。
【請求項3】
追加的な非アクチノイド系金属が、クロム(Cr)、マンガン(Mn)及び/または鉄(Fe)から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の炉。
【請求項4】
液体金属核分裂性物質混合物が、炉心中の新鮮なインベントリとして、(好ましくは4:1のモル比の)二元共晶ウラン/クロムまたはウラン/マンガンからなる及び/または(好ましくは7:3の比率の)トリウム/鉄からなることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一つに記載の炉。
【請求項5】
液体金属核分裂性物質混合物が、最初は、[79、81]原子%のU、[19、21]原子%のCrとしての二元共晶ウラン/クロム、[79、81]原子%のU、[19、21]原子%のMnとしての二元共晶ウラン/マンガン、及び/または[69、71]原子%のTh、[29、31]原子%のFeからなり、好ましくは[7、12]原子%のU-235、[67、74]原子%のU-238、[19、21]原子%の{CrまたはMn}からなり、この際、3原子%までの核分裂生成物元素が、上記の割合を相応して減少させ、但しそれらの組成比は維持しつつ、含まれていることができ、かつ百分率は合計して常に100%であることを特徴とする、請求項4に記載の炉。
【請求項6】
液体金属核分裂性物質混合物が、炉心中の新鮮なインベントリとして、プロトニウム/ウラン/クロムまたはプルトニウム/ウラン/マンガンからなる三元混合物であり、好ましくは、[7、12]原子%のPu-239、[67、74]原子%のU-238、[19、21]原子%の{CrまたはMn}からなる三元混合物であり、この際、3原子%までの核分裂生成物元素が、上記の割合を相応して減少させ、但しそれらの組成比は維持しつつ、含まれていることができ、かつ百分率は合計して常に100%であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一つに記載の炉。
【請求項7】
液体金属核分裂性物質混合物が、炉心中の新鮮なインベントリとして、ウラン/トリウム/鉄/クロムまたはウラン/トリウム/鉄/マンガンからなる四元混合物であり、好ましくは、[7、12]原子%のU-233、[1、4]原子%の{CrまたはMn}、[59、64]原子%のTh及び[25、29]原子%のFeからなる四元混合物であり、この際、3原子%までの核分裂生成物元素が、上記の割合を相応して減少させ、但しそれらの組成比は維持しつつ、含まれていることができ、かつ百分率は合計して常に100%であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一つに記載の炉。
【請求項8】
液体金属核分裂性物質混合物が、炉心中の新鮮なインベントリとして、プルトニウム/トリウム/鉄/クロムまたはプルトニウム/トリウム/鉄/マンガンからなる四元混合物であり、好ましくは、[7、12]原子%のPu、[1、4]原子%の{CrまたはMn}、[59、64]原子%のTh-232及び[25、29]原子%のFeからなる四元混合物であり、この際、3原子%までの核分裂生成物元素が、上記の割合を相応して減少させ、但しそれらの組成比は維持しつつ、含まれていることができ、かつ百分率は合計して常に100%であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一つに記載の炉。
【請求項9】
液体金属核分裂性物質混合物が、炉心中の新鮮なインベントリとして、ウラン/プルトニウム/トリウム/鉄/クロムまたはウラン/プルトニウム/トリウム/鉄/マンガンからなる五元混合物であり、好ましくは、{CrまたはMn}=1/4(U及びPu)及びFe=3/7Thの限界条件で20原子%の{CrまたはMn}の上限及び30%原子%のFeと、U及びPu及びThの可変の割合を有するU/Pu/Th/Fe/{CrまたはMn}からなる五元混合物で有り、この際、3原子%までの核分裂生成物元素が、上記の割合を相応して減少させ、但しそれらの組成比は維持しつつ、含まれていることができ、かつ百分率は合計して常に100%であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一つに記載の炉。
【請求項10】
液体金属核分裂性物質混合物が、炉心中の新鮮なインベントリとして、[7、12]原子%のU-235、[67、74]原子%のU-238、[19、21]原子%の{CrまたはMn}からなる二元共晶であり、この際、百分率は合計して常に100%であり、及び場合によっては、U/Pu/Th/Fe/{CrまたはMn}からなる五元混合物が、リサイクルされたインベントリとして一時的に生じ、[7、12]原子%のU-233、[1、4]原子%の{CrまたはMn}、[59、64]原子%のTh及び[25、29]原子%のFeからなる四元混合物へと長期的に遷移し、この際、3原子%までの核分裂生成物元素が、上記の割合を相応して減少させ、但しそれらの組成比は維持しつつ、含まれていることができ、かつ百分率は合計して常に100%であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一つに記載の炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体燃料ラインにおいて液体燃料として特殊な液体金属核分裂性物質混合物を用いた、二流体原理に従い作動する炉に関する。
【背景技術】
【0002】
EP2758965B1(特許文献1)から知られている二流体炉(DFR)は、高速中性子スペクトルを用いる新しいタイプの高温炉であり、これは、発電プラントのための他の全ての炉のコンセプトとは異なり、2つの別個の液体循環系で作動する。これらの2つの液体流は、核分裂反応の高出力密度を高効率に排出するための液体金属からなる一次冷却剤循環系と、核分裂性物質の最適な利用及び処理のための液体核分裂性物質循環系とを含み、この際、液体分裂性物質から冷却剤への熱伝達は、炉心中の核分裂域内の管系を介して行われる。それによって、従来型の原子力発電所よりも一桁高いエネルギー収支比を有する、高効率で固有受動的安全性の高い断熱式の発電炉が構築される。この際、液体核分裂性物質の組成は特定されない。二つの変形が考えられる:液体溶融塩または液体金属混合物。
【0003】
液体溶融塩の場合には、最適な組成はアクチノイド三塩化物からなる。液体金属冷却剤の高い熱輸送能力により、核連鎖反応の高い熱出力を炉心から排出することができる。アクチノイド塩の希釈は必要ではない。これは、溶融塩が核分裂性物質を提供するだけでなく、熱伝達をも担い、従って必ず希釈されなければならない既知の溶融塩炉(MSR)からDRFを区別するものである。従って、MSRでは、比較的低い出力密度及び高められた腐食問題を結果として招く低いアクチノイド濃度を有する塩共晶のみが考慮される。
【0004】
しかし、希釈されていないアクチノイド三塩化物も欠点を有する。1:3の化学量論の時には既に、比較的軽い塩素の緩和効果も介して中性子経済の低下にその効果を現すアクチニド濃度の希釈となる。更に別の明らかな欠点の一つは、塩の低い熱伝導性であり、これは、特に熱伝達に関して被覆管に影響を及ぼし、また塩内の熱分布に関しても影響を及ぼす。これは、液体中の乱流の発生を保証する速度で溶融塩を炉心にポンプ輸送することによって対処する必要がある。これは、出力密度も制限する。更に、核分裂生成物を除去するための連続的な核分裂性物質の処理も明らかに困難になる。
【0005】
核分裂性物質液体として液体金属混合物を使用する場合は、熱伝導率の問題は、EP2758965B1(特許文献1)に既に記載のように直ちに解決される。核分裂性物資はもはやポンプ輸送する必要はなく、稼働温度と同様に出力密度を高めることができる。しかし、適切な液体金属混合物の設計は困難である。
【0006】
ウランの融点は発電所の稼働にとっては高すぎ、トリウムにあっては更にもっと高い。それ故、十分に有利な中性子特性を持つ他の金属を混合することによって少なくとも固相線温度を低下させることが必要である。生じる多成分合金は、必ずしも共晶である必要はない。液相線温度が稼働温度よりも高い場合も、このペースト相の混合物は十分にポンプ輸送可能である。
【0007】
核分裂性物質としての液体金属混合物の使用は、過去において既に研究の対象となっている。融点が低いために鉛、特にビスマスが使用された。この際、アクチノイド類は溶解されるべきであり、これは、溶融塩の場合よりも顕著な相応する欠点を伴って非常に低いアクチノイド濃度を与える。それよって、中性子経済性が低下し得、及びそれに伴い、そのような炉の核変換性能が低下する虞がある。
【0008】
特殊な固体核分裂炉についての安全性に関わる研究は、異なる方法を指し示す:従前の型の原子炉では、初期(第一世代)において既に、固形の金属核分裂性物質の使用が検討され、相応する試験が行われた。金属核分裂性物質を用いた燃料集合体の稼働中は、これが、その燃焼中に反り返り、空洞及び亀裂を形成することが判明している。これは、更に、熱伝達を低下させ、そして被覆管の変形を招く。それ故、低い熱伝導率は低いものの、セラミック酸化物核分裂性物質パレットを使用する方向に移行した。そこで、一体型高速炉(IFR)のためには、米国では、金属核分裂性物質を使用することが再び求められている。そこでは、核分裂性物質が、被覆管中に存在する場合よりも小さい体積を占めることによって上記の問題は解決された。既に存在する空洞は、液体ナトリウムで満たされた。
【0009】
核分裂性物質が過剰に加熱されそして被覆管材料に対するその影響が明らかになった場合の予想される事故の展開についての試験が、具体的な核分裂性物質混合物とは無関係に行われた。この際、金属核分裂性物質の場合には、これはそれの融解という結果になり得る。従って、融解した核分裂性物質がどのように被覆管材料を攻撃するかも研究の対象であった。液化ウランは、(主として特殊鋼合金から構築される高速炉では)被覆管を溶解し始め、その際、各鋼合金元素はそれぞれ異なる強さで溶解される。これらの溶解特性及び生じる金属混合物のより精密な研究により、ウラン及びトリウムと特殊鋼からの化学元素との共晶混合物が特徴付けされた。DFRなどの炉用の液体金属核分裂性物質混合物の基礎として、これらは二元共晶である:1.ウラン/クロム(80原子%U、20原子%Cr) 2.ウラン/マンガン(80原子%U、20原子%Mn) 3.トリウム/鉄(70原子%Th、30原子%Fe)。
【0010】
しかし、液体核分裂性物質炉におけるこれらの共晶の使用は考えられていなかったし、またこれまでも考慮されなかった。これは、液体核分裂性物質炉のこれまでの唯一のバリエーションが上記のMSRであったために、このような問題は提起されなかったという事実による。DFRの発明により、状況は根本的に変わる、というのも、この場合は、金属液体核分裂性物質も考慮の対象になるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
既に述べたように、適切な液体金属核分裂性物質混合物の組成を見出すことは困難である。従って、本発明の課題は、高い熱伝導率、高いアクチノイド核種濃度、高い出力密度及び高い稼働温度を特徴とし、二流体炉において連続的な排出を可能とし、それ故、二流体炉の燃料ラインで燃料として使用できる、二流体炉のための液体原子核分裂性物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題は、主たる割合のアクチノイド類、特にアクチノイド共晶をベースとする金属融解物混合物を、以下に記載するように、DFRにおける様々な稼働モード及び増殖サイクルのために使用することによって解消される。
【0014】
多成分合金または生じる多成分合金は、必ずしも共晶である必要はないことが見出された。
【0015】
本発明の基礎をなすものは、核分裂性物質が過剰に加熱されそして被覆管材料に対するそれの影響が明らかとなった場合の予想される事故の展開のために実施された研究である。この際、金属核分裂性物質の場合には、これはそれの融解という結果になり得る。例えば液化ウランは(大概は特殊鋼合金から構築される高速炉では)被覆管を溶解し始め、その際、各鋼合金元素はそれぞれ異なる強さで溶解される点が欠点である。
【0016】
本発明によれば、これらの溶解特性に基づいて、好ましくは、鉄、クロムまたはマンガンなどの鋼鉄からの化学元素とトリウム、ウラン及びプルトニウムとの、適切で有利な、一部では共晶の混合物である、金属混合物を見出すことができた。
【0017】
液体核分裂性物質炉における共晶の使用は、これまで考慮されてこなかった、なぜならば、液体核分裂性物質炉のこれまで唯一のバリエーションが上記のMSRであるためである。しかし、本発明は、二流体炉(DFR)において液体金属核分裂性物質混合物としてアクチノイド共晶及び高い割合でアクチノイドを含む多成分合金を使用することを可能にする。
【0018】
二流体炉は既知であり(EP2758965B1(特許文献1)参照)、そして例えば、炉心容器中の炉心容積中内での液体燃料の連続的な供給及び排出のための第一のラインであって、入口を介して炉心容器中に入り、炉心容積中を通り、そして連鎖反応が臨界的にもしくは非臨界的に進行し得る炉心容器から出口を介して再び去る第一のライン、及び液体冷却剤のための第二のラインであって、冷却剤が、第二のラインから上記の炉心容器中に入口を介して入り、前記第一のラインの周りをパージしながら進行し、そして炉心容器から出口を介して再び去るように配置された第二のライン、を特徴とする。
【0019】
それ故、本発明の対象は、二流体系反応器(DFR)であって、液体燃料ライン中の液体燃料として、アクチノイド類の割合が高い金属からなる液体混合物を液体金属核分裂性物質混合物として含む二流体系反応器(DFR)である。
【0020】
好ましくは、混合物中の非アクチノイド系金属の割合は最大で31原子%であり、そしてアクチノイド類の割合は少なくとも69原子%である。最大1%の偏差は可能である。
【0021】
本発明の実施形態の一つでは、金属は、クロム(Cr)、マンガン(Mn)及び/または鉄(Fe)から選択される。好ましいアクチノイド類は、トリウム(Th)、ウラン(U)及び/またはプルトニウム(Pu)から選択される。
【0022】
トリウムは、好ましくは、Th-232並びに場合によっては使用済み燃料が使用される時は一部は他の同位体として、ウランは、好ましくは、U-233、U-235、U-238、並びに場合によっては使用済み燃料が使用される時は一部はU-236などの他の同位体として、そしてプルトニウムは、好ましくは、Pu-239、Pu-240、Pu-241、Pu-242、並びに場合によっては使用済み燃料が使用される時は一部は他の同位体として、炉心の初期装荷に使用される。加えて、使用済み燃料を使用する時は、3原子%までの割合で核分裂生成物が初期装荷に含まれていることができ、弱及び/または強核分裂性物質の一部は、超ウラン元素の核種によって置き換えることができる。
【0023】
このような二流体炉のための液体金属核分裂性物質混合物の基礎としては、本発明の好ましい実施形態の一つでは次の二元共晶が使用される。
【0024】
1. ウラン/クロム
(好ましくは4:1の比率、すなわち、好ましくは約80原子%のU、約20原子%のCr)、
2. ウラン/マンガン
(好ましくは4:1の比率、すなわち、好ましくは約80原子%のU、約20原子%のMn)、及び/または
3. トリウム/鉄
(好ましくは7:3の比率、すなわち、好ましくは約70原子%のTh、約30原子%のFe)
【0025】
上記の二元共晶は原子力発電所のための液体金属核分裂性物質混合物としてはこれまで考慮されていなかったものの、この混合物は、DFRでの使用には特に適している。これらは、非常に高いアクチノイド濃度を特徴とし、これは、中性子経済性、それ故、炉の核変換性能を最適化する。それらの融点は800℃であり、稼働にとって的確である。沸点は2000℃を明らかに超え、そのため、稼働温度も高めることができる、というのも、気泡形成は遙か遠くにあり、鉛冷却剤と適応するからである。高い熱伝導率は、核分裂性物質液体の持続的なポンプ輸送を時代遅れなものとする。全体としては、これは、出力密度の向上と、それにより、発電所のより高い効率をももたらす。
【0026】
純粋に二元の合金形態では、それらは、高速核分裂炉では使用できないし、また、稼働中に続く核変換のためにこれらはこの形態のまま残らない。すべての臨界原子炉は、十分に高濃度の強核分裂性物質、すなわち、弱核分裂性物質のように高い中性子エネルギーでしか核分裂できるもの(Th-232、U-238、また偶数の中性子数を有する超ウラン核種)ではなく、熱的及び熱外中性子エネルギーでも核分裂できる核種(すなわち、U-233、U-235、Pu-239、Pu-241、すなわち、主に奇数の中性子を有する核種)を必要とする。トリウムはいかなる炉においても臨界的に核分裂可能ではなく、天然ウランは、高速中性子スペクトルを用いたいかなる炉中でも臨界的に核分裂可能ではない。強核分裂性物質の濃度は、高速核分裂炉では大きく高める必要はある。両者とも、二元合金のままではいられず、そして恐らくは共晶の条件も保持されない、すなわち、固相線温度及び液相線温度が一致するという結果になる。生じる核分裂生成物は、核分裂の低い質量変換の故に、最初は合金中に完全に溶解し得た。しかし、このようなDFRの優れた中性子経済性は、核分裂性混合物の再処理無しで長い稼働時間を可能にし、そうしてこの場合も、凝集効果が生じる程度まで濃度を高めることができるようになる。加えて、アクチノイド核種も、ステライルな(sterile)中性子捕獲及びβ崩壊によっても変化し;新しいウラン及びプルトニウムの他に、例えばプロトアクチニウム、ネプツニウム、アメリシウムが発生する。そうして、二元共晶から定性的に及び定量的に明らかに外れる混合物が得られる。二つ以上の成分及び特に高められた核分裂生成物濃度を有するこの混合物は、確かに、パラメータ範囲において共晶の値から外れるが、固相線温度及び総粘度がポンプ輸送のために十分に低い場合は、これは稼働性に影響を及ぼさない。
【0027】
本発明によれば、以下の好ましい態様の金属混合物が、DFR炉心のための新鮮なインベントリとして使用される。
【0028】
1. 二元共晶としての、濃縮されたU/Cr、U/Mn及び/またはTh/Fe。[79、81]原子%のU、[19、21]原子%のCrとしてのウラン/クロム、[79、81]原子%のU、[19、21]原子%のMnとしてのウラン/マンガン、及び/または[69、71]原子%、[29、31]原子%のFeとしてのトリウム/鉄が特に好ましく使用される。非常に特に好ましくは、[7、12]原子%のU-235、[67、74]原子%のU-238、[19、21]原子%の{CrまたはMn}からなる二元共晶が最初に使用される。稼働中の変換によって、U-235の部分が徐々にプルトニウム、主にPu-239に置き換えられ、この際、三元混合物と核分裂生成物とが生じる。
2. Pu/U/Crからなる三元混合物。特に好ましくは、[7、12]原子%のPu-239、[67、74]原子%のU-238、[19、21]原子%の{CrまたはMn}からなる三元混合物が最初に使用される。Puの割合は、U-238の変換によってほぼ一定に維持される。U-238は消費され、そして核分裂生成物に置き換えられる。
3. U/Th/Fe/Crからなる四元混合物。特に好ましくは、[7、12]原子%のU-233、[1、4]原子%の{CrまたはMn}、[59、64]原子%のTh-232及び[25、29]原子%のFeからなる四元混合物が最初に使用される。ここではU-233は、唯一の強核分裂性物質として必要である。トリウムは、U-233への変換のための消費用の親物質でしかない。Fe及びCrからなる混合物は、四元混合物のための共晶条件を達成するべきである。
4. Pu/Th/Fe/Crからなる四元混合物。この四元混合物は、U-233燃焼のためのトリウムサイクル用のスタートインベントリとして機能する。というのも、プルトニウムは、U-233よりも非常に簡単に入手可能であるからである。特に好ましくは、[7、12]原子%のPu、[1、4]原子%の{CrまたはMn}、[59、64]原子%のTh-232及び[25、29]原子%のFeからなる混合物が最初に使用される。五元混合物U/Pu/Th/Fe/Crが一時的に生じ、U/Th/Fe/Crとなる。
5. U/Pu/Th/Fe/Crからなる五元混合物。この五元混合物は、U-238からのプロトニウムの再生の他にトリウムからU-233を最大限に増殖させるためにプロトニウムの非常に高い中性子収率が使用されるハイブリッド稼働のために適している。逆に、トリウム/U-238の割合は、バーナー/焼却炉の稼働のために変換速度が最小化されるように調節される。この目的のためには、核分裂性物質を希釈する中性子物理的にほぼ不活性の物質、例えばZr、AlまたはMgを添加することもできる。成分の割合は、燃焼度の最適化からも決まる。
【0029】
使用するべき混合物中の物質の百分率は合計して常に100%である。
【0030】
本発明を、以下に例示的に更に詳しく説明する:
液体金属燃料を用いて稼働されるDFRの中性子物理的シミュレーションは、臨界条件を満たすための強核分裂性物質の濃度は、炉心の公称出力に依存して約10原子%である必要があることを示した。600MWthのSMR炉心では、これは約11原子%であり、3000MWthの慣用の発電所規模では約9原子%であり、そして30000MWthの精油所のプロセス熱施設では約8原子%である。異なる強核分裂性核種の濃度差は千分率範囲であり、ここで、高速スペクトルにおける中性子収率が最大であるためにプロトニウムが下限となる。クロムは、合金成分として、ウランと組み合わせた場合に、マンガンと比べると中性子の吸収が少ないという利点を有するが、この差異は、排除基準ではない。Crの他、Mnも使用することができる。Mnの使用は、補償のために強核分裂性物質の濃度の増加を必要とする。更に、このシミュレーションは、中性子スペクトルが非常に硬く;そしてそれによって偶数の中性子数を有する複数の核種が可燃になる、すなわちKinf>1となる。これらは、実際の稼働のために重要な核種U-234、Pu-240及びPu-242である。これは、炉の変換速度を飛躍的に高める結果となる、というのも、上記の核種の発生は、もはやステアリルな中性子捕獲ではないからである。U/Puサイクルのためには、これは、例えば1.3から2.1への上昇を意味する。それよって、地層処分しなければならない廃棄物問題を構成する、従前の原子力発電所の使用済み燃料集合体からの超ウラン元素の焼却が最高の効率で可能になる。
【0031】
そのことから、合計すると、強核分裂性物質の濃度について[7、12]原子%の間隔が推論される。他の面では、共晶条件を達成するための合金成分の割合{CrまたはMn]20原子%及びFe30原子%は明確に規定され、1%で変化する。100%までの補完分は、弱核分裂性物質または親物質(天然ウラン中のウラン-238、またはU-236と一緒に劣化ウランもしくは再処理ウラン中のウラン-238、トリウム-232)によって満たされる。
【0032】
強核分裂性物質核種及び種々の増殖物質核種の添加を伴う上記の単純な共晶に基づいて、混合および遷移稼働モードも含む、核分裂性物質の様々な組み合わせを用いたDFRの複数の稼働方法がある。最も単純な遷移稼働モードは、僅かに濃縮されたウラン(LEU)を用いて開始する方法である。合金添加元素は、一定の割合の{CrまたはMn}である。更なる過程では、増殖物質U-238の消費によってプロトニウムの割合が増加し、そして最後には強核分裂性物質としてU-235を置き換え、この際、上述のような核分裂性生成物を加える。
【0033】
増殖物質としてのトリウムの使用は、混合稼働を最初から示唆する。トリウムは、共晶条件のためには、合金成分として30原子%の鉄(1%で変動)を必要とし(Fe/Th=3/7)、他方で、増殖プロセスで生じる強核分裂性物質U-233は、合金成分として20原子%のクロムを必要とする(Cr/U=1/4)。全ての成分が合計で100%となる必要があるという条件と共に、合金成分及びトリウムの三つの未知数を含む化学量論的成分のための線形方程式系があり、この際、強核分裂性物質の割合は、これらの各々の割合を用いて、炉出力によって解として与えられる(可変数は範囲をとることができる)。
【0034】
プラクチスでは、U-233はトリウムサイクルの増殖の結果としては殆ど得られないため、増殖物質としてトリウムを用いた炉の開始のためには、商業的なPUREX再処理プラントからの強核分裂性物質としてのプロトニウムの使用も企図される。プロトニウムは、その関連する化学的性質ではウランと類似しており、そのため、{CrまたはMn}は同様に、共晶条件の達成のための合金成分として使用される。それ故、ウラン及びプロトニウムは化学量論的計算において合計される(Cr/(U+Pu)=1/4)。これは同様に遷移稼働モードを現し、この場合は、プロトニウムは、トリウムの消費下に徐々にU-233に置き換えられる。トリウムサイクルへの更に別の非常に長期的な遷移稼働モードが、LEUを用いた炉開始の一つのバリエーションとしてある。Pu-239の増殖中に消費される増殖物質U-238は、燃料処理サイクルの際にDFRのPPU(高温度化学的プロセスユニット)においてU-238ではなく、Th-232によって置き換えられる。
【0035】
他の使用目的のための、例えば移動型熱増殖炉における唯一の強核分裂性物質としてのU-233の最大化された増殖のためにはあるいは増殖対抗処置としてのHEU(高濃縮ウラン)の汚染のためには、PPUとの共同動作においてハイブリッド式稼働も行うことができ、この際、プロトニウムは、それの高い中性子収率により、トリウムの捕捉のための増殖過剰中性子を提供する。この際、消費されたプロトニウムを再生できるように十分なU-238が加えられる。PPUにおいて燃料液体を頻繁に処理することによって、炉心の外ではU-233が主に生じそして炉中では分裂しないように、中間核種であるPa-233を分離できる。組成は、中性子物理的な最適化の課題である。{Cr、Mn}の割合は、Pu及びUの添加された割合の四分の一として与えられる。Feの必要な割合は、Thの3/7である。
【0036】
原子力発電所の照射された燃料集合体から超ウラン元素の焼却のためには、これらは、大概は、弱核分裂性物質として増殖物質に混合することができる。{Cr、Mn}及びFeの割合は、割合の大きさ及び化学的性質に応じて適合される。バーナー/焼却炉としての稼働が望ましい場合、すなわち過剰の増殖を避けるべき場合には、増殖物質は、中性子物理的に不活性な核種(すなわち、中性子吸収断面が小さく、かつ寿命の長いラジオ活性核種を形成しない核種)、例えばZr、MgまたはAlで希釈することができる。
【国際調査報告】