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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-17
(54)【発明の名称】自動車乗員室の熱管理システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20220107BHJP
   B60H 1/00 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
A61B5/00 A
B60H1/00 101Q
B60H1/00 101T
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021524446
(86)(22)【出願日】2019-11-07
(85)【翻訳文提出日】2021-06-25
(86)【国際出願番号】 FR2019052661
(87)【国際公開番号】W WO2020095001
(87)【国際公開日】2020-05-14
(31)【優先権主張番号】1860336
(32)【優先日】2018-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505113632
【氏名又は名称】ヴァレオ システム テルミク
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100141830
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 卓久
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル、ヌブ
(72)【発明者】
【氏名】オマール、ズウバイリ
(72)【発明者】
【氏名】シバクマール、プッタスワーミー
【テーマコード(参考)】
3L211
4C117
【Fターム(参考)】
3L211BA02
3L211DA93
3L211EA01
3L211EA80
3L211FB09
3L211FB15
4C117XB01
4C117XB03
4C117XC06
4C117XC13
4C117XD01
4C117XD11
4C117XD22
4C117XD31
4C117XE13
4C117XE24
4C117XE42
4C117XJ52
(57)【要約】
本発明は、自動車乗員室の熱管理システムに関し、このシステムは、乗員の呼吸振幅を表すデータ(BA)、及び/又は、乗員の呼吸リズムを表すデータ(BR)、乗員の心臓律動を表すデータ(HR)、任意選択的に、前記乗員の年齢に関するデータ、任意選択的に、例えば、一日のうちの時間など、日中の瞬間を表す時間関連のデータ(T)を取得し、前述のデータに基づいて乗員の代謝活性を表すデータ(MET)を決定し、好ましくは、次いで、乗員の前記代謝活性を表すデータ(MET)に基づいて、乗員室内記乗員に関連付けられる熱快適性指標(PMV)の値を決定するように構成されている処理ユニットを備える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車内部の熱管理システムであって、前記システムは、
乗員の呼吸振幅を表すデータ(BA)、
前記乗員の呼吸数を表すデータ(BR)、
前記乗員の心拍数を表すデータ(HR)、
任意選択的に、前記乗員の年齢に関するデータ、
任意選択的に、例えば、一日のうちの時間など、日中の瞬間を表す時間を表すデータ(T)を取得することと、
前記データに基づいて前記乗員の代謝活性を表すデータ(MET)を決定することと、
好ましくは、前記乗員の前記代謝活性を表すデータ(MET)に基づいて、前記内部の前記乗員に関連付けられる熱快適性指標(PMV)の値を決定することに進むことと、を行うように構成されている処理ユニットを備える、熱管理システム。
【請求項2】
前記代謝活性(MET)はまた前記乗員の性別に基づいて決定される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記代謝活性(MET)はまた前記乗員の体格指数(BMI)に基づいて決定される、請求項1から2のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項4】
前記システムは、心拍数に関するデータを供給するための接触型又は非接触型のセンサを備える、請求項1から3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記システムは、呼吸数及び/又は呼吸振幅に関するデータを供給するための接触型又は非接触型のセンサを備える、請求項1から4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記システムは、前記乗員の性別及び/又は年齢を決定するように構成され、前記データは、好ましくは、1つ又は複数の正面カメラ及び訓練されたモデルを使用する認識アルゴリズムによって、又は特に、好ましくはプロファイルのセットにおいて前記乗員によって入力されるデータによって自動的に識別される、請求項1から5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記システムは、前記乗員の体重及び/又は身長を決定するように構成され、前記データは、好ましくは1つ又は複数のドームカメラ及び訓練されたモデルを使用する認識アルゴリズムによって、又は特に、好ましくはプロファイルのセットにおいて前記乗員によって入力されるデータによって自動的に識別される、請求項1から6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記システムは、前記代謝モデルが、ユーザのプロファイルに基づいて、地域又は車両の製造元もしくはモデルに対して調整され得るように構成される、請求項1から7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
自動車内部の熱管理の方法、前記方法は、
乗員の呼吸振幅を表すデータ(BA)、
前記乗員の呼吸数を表すデータ(BR)、
前記乗員の心拍数を表すデータ(HR)、
任意選択的に、前記乗員の年齢に関するデータ、
任意選択的に、例えば、一日のうちの時間など、日中の瞬間を表す時間を表すデータ(T)を取得するステップと、
前記データに基づいて前記乗員の代謝活性を表すデータ(MET)を決定するステップと、
好ましくは、前記乗員の前記代謝活性を表すデータ(MET)に基づいて、前記内部の前記乗員に関連付けられる熱快適性指標(PMV)の値を決定することに進むステップとを含む、方法。
【請求項10】
足で走った直後の夏の前記乗員の快適性を管理する、
高い体格指数を有する前記乗員の快適性を管理する、
ストレスの多い状況、例えば事故の危険性に反応した直後の前記乗員の快適性を管理する、
昼食時間後の快適性を管理する、
男性と女性の熱的快適性を別様に管理する、
若年者及び高齢者の熱的快適性を別様に管理する、という利用事例のうちの1つに使用される、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車熱管理システムに関する。本発明はさらに、そのような熱管理システムによって実施される熱管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車では、外気温及び日射条件に応じて、様々なファンによる送風空気の流量、温度及び分布を管理することが知られている。特定の車両では、これは、ステアリングホイールの加熱及び/又は座席の加熱もしくは冷却の作動と組み合わされる場合があり、場合によっては肘掛けなどの表面の接触を介した加熱と組み合わされ得る。
【0003】
一時的な乗車段階中の間の初期条件(人が低温環境から入っているか、又は高温環境から入っているか)並びに放射及び対流交換から生じる熱平衡をより良好に考慮に入れるために、乗員の衣服の表面温度を検出する赤外線センサを使用する数例を除いて、乗員の熱状態を検出及び/又は考慮に入れることはほとんど知られていない。一般に、内部の熱状態の測定は、日射センサと組み合わせた空気温度の測定に限定される。
【0004】
快適性管理のためのより高度な手法が提案されており、これらは、新規のセンサ、特に赤外線カメラ、並びに新規のアクチュエータ、特に放射パネル及び/又は局所的な空気送達を可能にするアクチュエータに基づいている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、特に、既知の熱管理システムの改善を提案することを意図している。
【課題を解決するための手段】
【0006】
したがって、本発明は、自動車内部の熱管理システムに関し、本システムは、
内部の乗員の衣服レベルを表す第1のデータ(Clo)及び/又は乗員の代謝活性を表す第2のデータ(MET)を取得するステップと、
内部の乗員の熱環境を表す第3のデータ、特に熱環境を特徴付けるためのデータのセットを取得するステップと、
このようにして取得されたデータに基づいて、内部の乗員に関連付けられる熱快適性指標(PMV)の値を決定するステップとを行うように構成されている処理ユニットを備える。
【0007】
本発明は、特に各乗員の要件に適合する能力を高めることによって、乗車中の快適さ及び幸福に関する、高まる期待に応えることを可能にする。
【0008】
本発明によるシステムは、以下の態様を可能にする。
各乗員の特定のプロファイルに適応する能力、すなわち、乗員個人のプロファイル(性別、年齢、筋肉量対脂肪の比など)に関連するその特定の快適さの分野と共に、乗員の特定の期待又は好みを考慮に入れる能力、
衣服、代謝(消化、スポーツ、時間など)、ストレス、疲労などを含む、熱的快適性に影響を及ぼし得る利用又は乗員の状態の各状況を考慮に入れる能力、
乗員の性質(対流、放射、接触)又は位置(頭、首、胴体、腕、手、背中、大腿部、脚、足)に関する、乗員に影響を及ぼす多種多様な熱交換を考慮に入れる能力、
【0009】
本発明の一態様によれば、システムは、第1のデータ、第2のデータ、及び第3のデータのうちの少なくとも1つを決定するのに役立つパラメータを測定するように構成された少なくとも1つのセンサを備える。
【0010】
本発明の一態様によれば、センサは、
内部の乗員を観察するように構成されたカメラ、特にDMSカメラ、
内部の壁及び窓の温度を測定するために、内部の天井に配置された広角赤外線カメラによって形成された赤外線ドーム、
太陽センサ、
交換器の後ろで空調ユニット又はHVACの出口にある温度センサ、
内部の現在の空気温度のセンサから選択される。
【0011】
DMS(運転者監視システム(Driver Monitoring System)の頭字語)カメラは、近赤外線において動作し、内部の光レベルに関係なく、運転者の顔及び/又は胸部の画像を収集することを可能にするカメラである。アルゴリズムによって、特に物理的分析又はビッグデータの使用によって、乗員の身元の認識、疲労度の評価、心拍数の推定、身体の上部に着用された衣服アイテムの認識などの多くの情報を推定することが可能である。
【0012】
本発明の一態様によれば、システムは、空調装置、特にHVACを備え、システムは、内部の乗員の熱環境を表す第3のデータを決定するのに役立つパラメータを測定するように構成され、このパラメータは、空調装置の状態、特に空調装置の送風機の出力又は空調装置からの調整空気の分配に関する。
【0013】
本発明の一態様によれば、内部の乗員の衣服レベルを表す第1のデータ(Clo)は、乗員が着用する衣服の衣服断熱に対応する。
【0014】
本発明の一態様によれば、システムは、カメラによって撮影された画像を処理し、この画像から、特に画像認識を介して、乗員が着用する衣服の種類(Tシャツ及び/又はシャツ及び/又はプルオーバー及び/又はオーバーコート及び/又はスカーフ及び/又は帽子)を判定するように構成され、システムはさらに、このようにして測定される衣服の種類から衣服断熱を判定するように構成される。
【0015】
本発明の一態様によれば、乗員の代謝活性を表す第2のデータ(MET)は、少なくとも、特にシステムのカメラ、特にDMSカメラによって測定される乗員の心拍数に依存する。
【0016】
本発明の一態様によれば、このカメラは、顔の皮膚の下の血液の動きによる乗員の顔の色の変化を観察するように構成され、システムはこれらの画像に基づいて心拍数を測定する。
【0017】
本発明の一態様によれば、乗員の代謝活性を表す第2のデータ(MET)は、特にシステムのカメラ、特にDMSカメラによって測定される乗員の少なくとも1つの身体的特性に依存する。
【0018】
本発明の一態様によれば、カメラは、特に画像処理を介して、乗員の身体的特性、特に乗員の性別、年齢、身長及び体積を測定するように構成される。そこから重量を推定することができる。
【0019】
本発明の一態様によれば、乗員の代謝活性を表す第2のデータ(MET)は、少なくとも乗員の心拍数及び少なくとも乗員の1つの身体的特性に依存する。
【0020】
本発明の一態様によれば、乗員の代謝活性を表す第2のデータ(MET)は、乗員によって生成される単位面積当たりの熱出力に対応する。
【0021】
本発明の一態様によれば、システムは、センサ、特に赤外線ドームによって測定される壁及び/又は窓の温度から、乗員の頭、胸部、背中、脚、ふくらはぎ、足、及び/又は腕などの乗員の身体の少なくとも1つの部分、特に複数の部分の放射温度を計算するように構成される。
【0022】
本発明の一態様によれば、計算は、少なくとも6つの異なる身体部分、特に頭、首、胴体、腕、手、背中、下部、大腿部、脚及び足などの少なくとも10の異なる身体部分に対して実行される。
【0023】
本発明の一態様によれば、システムは、特に送風機の出力及び/又はHVACの分布及び/又は吹出空気の温度及び内部の温度に基づいて、特にチャートに基づいて、乗員の身体の一部、特に乗員の身体の複数の部分、特に乗員の頭、胸部、背中、脚、ふくらはぎ、足及び/又は腕と接触する空気の温度を推定するように構成される。
【0024】
本発明の一態様によれば、システムは、HVAC分布及び/又は送風機の出力に基づいて、特にチャートを使用して、乗員の身体の1つの部分又は複数の部分と接触する空気の速度を推定するように構成される。
【0025】
本発明の一態様によれば、システムは、乗員の周りの空気の速度を推定するために、シャッタの位置及び送風機の特性などのHVACの特性を取得するように構成される。
【0026】
本発明の一態様によれば、これらの温度及び/又は速度は、内部の乗員の熱環境を表す第3のデータを計算するために使用される。
【0027】
本発明の一態様によれば、システムは、乗員の身体の各部分、特に頭、胸部、背中、脚、ふくらはぎ、足及び腕によって交換される熱出力を推定することによって、乗員によって自身の環境と交換される総熱出力(P_tot_theoritical)を推定するように構成される。
【0028】
本発明の一態様によれば、交換される出力は、局所空気速度、局所空気温度、局所放射温度、乗員の表面積、乗員の衣服レベル(Clo)、及び乗員の代謝活性を表す第2のデータ(MET)に依存する。
【0029】
本発明の一態様によれば、システムは、環境と交換される総熱出力(P_tot_theoritical)を乗員の代謝によって生成される理論出力と比較し、この出力差に係数を乗算することによって熱快適性指標(PMV)の値を決定するように構成される。
【0030】
本発明の一態様によれば、次いで、このモデルを使用して、乗員の瞬間的な快適性を推定することができる。設定点もまた、乗員の快適性を確保するために熱アクチュエータに対して規定されてもよい。したがって、熱システムの調整はパーソナライズされる。
【0031】
乗員の外部のパラメータ(キャブ温度、外部温度、日射)のみに基づく既知の調整とは対照的に、本発明は、好ましくは外部データと乗員特性の両方を使用する。これにより、乗員の熱的快適性を確保するために熱的要件を改善することが可能になる。
【0032】
本発明はまた、身体の異なる部分における熱交換の計算と、結果として生じる平衡温度及び出力収支の分析とに基づいて、熱感覚及び熱的快適性の推定モデルを使用して自動車内部の熱的快適性を管理する方法に関し、方法は、快適性指標を推定する目的で、
測定データ及び/又は所定の推定モデルに基づく、乗員(複数可)の代謝活性、
測定データ及び/又は所定の推定モデルに基づく乗員(複数可)の衣服レベル、
身体の少なくとも6つの別個の領域において記録される対流、放射、及び乗員(複数可)との接触による交換を同時に決定することを特徴とする。
【0033】
本発明の一態様によれば、本方法は、快適性指標を推定するために、周囲の湿度及び温度並びに代謝に依存する、呼吸、湿潤(sweating)及び発汗(perspiration)による熱交換を考慮に入れるように構成される。
【0034】
本発明の一態様によれば、代謝活性は、日付及び/又は時間、乗員の性別、年齢及び他の個人的特徴、並びに現在又は過去の活動のデータ又は知識に応じて決定される。
【0035】
本発明の一態様によれば、本方法は、赤外線カメラによって測定される皮膚温度の、時間的な変動、又は顔の部分間の変動を考慮に入れるように構成される。
【0036】
本発明の一態様によれば、方法は、身体の各部分における快適性の基準として記録される皮膚温度のデータに基づいて、及びこれらの温度によって見出される局所的及び全体的な交換の収支から生じる熱不足の計算に基づいて、局所的及び全体的な熱感覚の推定値を考慮に入れるように構成される。
【0037】
本発明の一態様によれば、本方法は、快適性基準として記録される皮膚温度のチャートを、各乗員のプロファイル及び好み、環境条件、及び使用状況に基づいて、表にされた及び/又はモデル化された及び/又は学習によって求められた値の形で考慮に入れるように構成される。
【0038】
本発明の一態様によれば、本方法は、平衡皮膚温度と快適性基準温度との間の身体の各部分における差の影響、並びにこの差の経時的な変化を組み合わせて重み付けする式の適用に基づいて、全体的な熱的快適性の推定値を考慮に入れるように構成される。
【0039】
本発明の一態様によれば、本方法は、各乗員のプロファイル及び好み、環境条件、並びに使用状況の関数として、表にされた及び/又はモデル化された及び/又は学習によって求められた値の形で各項(平衡温度と基準温度との間の差及び/又はその局所的変動)の効果を重み付けするための係数を考慮に入れるように構成される。
【0040】
一般的に、車両内の乗員の熱的快適性を監視及び/又は予測するために、代謝活性を表すデータ(MET)をファンガーのモデルなどの温熱生理学的モデルの入力データとして使用することによって、人の代謝活性を推定することが必要である。このモデルは、人の熱感覚及び熱的快適性を同時に評価することを可能にする。熱感覚は、例えば、暑い、普通又は寒いなど、人の熱的知覚の表現である。熱的快適性は、例えば快適又は不快など、熱さ及び寒さに対する人の要件に基づくこの熱的知覚に対する人の満足度の表現である。
【0041】
このモデルを改善するために、本発明は、代謝活性を測定し、最も影響力のある因子を理解することを可能にする。
【0042】
熱快適性指標(PMV)の値は、以下のように定義することができる。
PMV=Coef(A.MET)×(A.MET-DT)
式中、
METは、人の体重に関連する代謝活性(W/kg又はkCal/hr/kg単位)を表すデータである。
Aは、人の代謝活性を、外部熱交換に関与する身体の表面に関連付けるための変換係数である(A.MET、W/m2単位)。
Coefは、A.METの関数である影響係数である。
DTは、外部環境との熱交換に起因する吸熱又は放熱の値である。
【0043】
METの値を予測するための既知のモデルは、熱感覚の評価に著しい誤差を生じさせる。
【0044】
難点は、代謝活性が、安静時の基礎代謝活性の値に影響を及ぼす個人(性別、年齢、体型、ホルモンなど)と、身体的又は認知的活性(走行、歩行、運転、金属濃度、ストレス、交感神経系及び副交感神経系の活動)に関連する文脈上の両方の多数のパラメータに依存するという事実にある。熱発生(震え、血管収縮、消化)などの他の生理学的メカニズムも代謝に影響を及ぼす。
【0045】
本発明は、関連する測定又は予測の手段と共に、代謝を十分な正確度で推定するために使用される最も関連性の高いパラメータのセットを特定することを提案する。
【0046】
したがって、本発明は、自動車内部の熱管理システムに関し、本システムは、
乗員の呼吸振幅(各呼吸において吸い込まれる空気の量)を表すデータ(BA)、
乗員の呼吸数(毎分の呼吸数)を表すデータ(BR)、
乗員の心拍数(毎分の拍動数)を表すデータ(HR)、
任意選択的に、乗員の年齢に関するデータ、
任意選択的に、例えば、一日のうちの時間など、日中の瞬間を表す時間を表すデータ(T)を取得することと、
上記データに基づいて乗員の代謝活性を表すデータ(MET)を決定することと、
好ましくは、乗員の代謝活性を表すデータ(MET)に基づいて、内部の乗員に関連付けられる熱快適性指標(PMV)の値を決定することに進むこととを行うように構成されている処理ユニットを備える。
【0047】
本出願人は、まったく肯定的な方法で、人のパネルにおいて、乗員の代謝活性(MET)を計算するためのこれらのデータが、この活性(MET)のはるかに精密な推定を達成することを可能にすることを発見した。
【0048】
本発明は、代謝の活性を推定し、利用可能なデータ又は利用可能な測定値に基づいてモデルの関連する正確度及び誤差を予測する目的で、最も従属する変数及び関連するデフォルト値を求めることを可能にする。
【0049】
本発明の一態様によれば、代謝活性(MET)はまた乗員の性別に基づいて決定される。
【0050】
本発明の一態様によれば、代謝活性(MET)はまた、乗員の体格指数(BMI)に基づいて決定される。この指標は、特に、乗員の体重を身長の2乗で除算した値に等しい。
【0051】
本発明の一態様によれば、システムは、心拍数に関するデータを供給するための接触型又は非接触型のセンサを備える。
【0052】
このセンサは、例えば時計など、乗員が着用するように構成されたセンサであってもよい。
【0053】
本発明の一態様によれば、システムは呼吸数及び/又は呼吸振幅に関するデータを供給するための接触型又は非接触型のセンサを備える。
【0054】
このセンサは、例えば時計など、乗員が着用するように構成されたセンサであってもよい。
【0055】
本発明の一態様によれば、システムは、乗員の性別及び/又は年齢を決定するように構成され、これらのデータは、好ましくは、1つ又は複数の正面カメラ及び訓練されたモデルを使用する認識アルゴリズムによって、又は特に、好ましくはプロファイルのセットにおいて乗員によって入力されるデータによって自動的に識別される。
【0056】
本発明の一態様によれば、システムは、乗員の体重及び/又は身長を決定するように構成され、これらのデータは、好ましくは1つ又は複数のカメラ及び訓練されたモデルを使用する認識アルゴリズムによって、又は特に、好ましくはプロファイルのセットにおいて乗員によって入力されるデータによって自動的に識別される。
【0057】
本発明の一態様によれば、システムは、代謝モデルが、ユーザのプロファイルに基づいて、地域又は車両の製造元もしくはモデルに対して調整され得るように構成される。
【0058】
本発明の一態様によれば、システムは、車両又は乗員を基準として使用して、代謝モデルのレベルを無線で更新できるように構成されている。直接更新は、車両の接続性又は乗員の接続性を使用して実行することができる。
【0059】
本発明の一態様によれば、システムは、要求に応じて又はサブスクリプションによって代謝モデルを起動することができるように構成される。
【0060】
特に、本発明は、以下の使用事例に特によく適合している。
足で走った直後の夏の乗員の快適性を管理する、
高い体格指数を有する乗員の快適性を管理する、
ストレスの多い状況、例えば事故の危険性に反応した直後の乗員の快適性を管理する、
昼食時間後の快適性を管理する、
男性と女性の熱的快適性を別様に管理する、
若年者及び高齢者の熱的快適性を別様に管理する。
【0061】
METの値を計算するための式は、一方における男性の式及び女性の式、並びに、他方における低心拍数の状況の式(HR<遷移HR)及び高心拍数の状況の式(HR>遷移HR)の4つのタイプのものであってもよく、2つの式の間の「遷移HR」は、各乗員に固有の生理学的パラメータ(性別、年齢、及び分かっている場合はBMI)に依存する。
【0062】
これらの方程式は、多項式型であってもよい。
【0063】
式は、例えば、以下のように書くことができる。
MET=a1×(HR)a2+b1×(BR)b2+c1×(BA)c2+d1×(Age)d2+e1×(T)e2
【0064】
係数a1、b1、c1、d1及びe1、並びにa2、b2、c2、d2及びe2は、性別(男性又は女性)及び心拍数の範囲(遷移HRよりも低い又は高い)の関数となる。
【0065】
BAが未知である場合、専用の係数及び指標bc1及びbc2を用いて、BRのみがアクティブである置換式を使用することができる。
MET=a1×(HR)a2+bc1×(BR)bc2+d1×(Age)d2+e1×(T)e2
【0066】
「Age」及び/又は「T」が未知である場合、省略された項の一方又は両方の代わりに定数「de」を使用することができる。
MET=a1×(HR)a2+b1×(BR)b2+c1×(BA)c2+de
【0067】
この式は、以下のデータを利用する。
乗員の呼吸振幅を表すデータ(BA)、
乗員の呼吸数を表すデータ(BR)、
乗員の心拍数を表すデータ(HR)、
乗員の年齢に関するデータ(Age)、
日中の瞬間、例えば一日のうちの時間を表す時間に関するデータ(T)。
【0068】
本発明はまた、自動車内部の熱管理の方法に関し、本方法は、
乗員の呼吸振幅(各呼吸において吸い込まれる空気の量)を表すデータ(BA)、
乗員の呼吸数(毎分の呼吸数)を表すデータ(BR)、
乗員の心拍数(毎分の拍動数)を表すデータ(HR)、
任意選択的に、乗員の年齢に関するデータ、
任意選択的に、例えば、一日のうちの時間など、日中の瞬間を表す時間を表すデータ(T)を取得するステップと、
上記データに基づいて乗員の代謝活性を表すデータ(MET)を決定することと、
好ましくは、乗員の代謝活性を表すデータ(MET)に基づいて、内部の乗員に関連付けられる熱快適性指標(PMV)の値を決定することに進むステップとを含む。
【0069】
添付の図面を参照して非限定的な例として与えられる以下の説明を読めば、本発明がよりよく理解され、本発明の他の詳細、特徴及び利点が明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0070】
図1】本発明による熱システムの部分概略図である。
図2図1のシステムにおける熱的快適性を管理する方法におけるステップを示す図である。
図3図2の方法に関与する乗員の異なる領域を示す。
【発明を実施するための形態】
【0071】
図1は、自動車内部の熱管理システム1に関し、本システムは、
内部の乗員の衣服レベルを表す第1のデータ(Clo)を取得し、
乗員の代謝活性を表す第2のデータ(MET)を取得し、
内部の乗員の熱環境を表す第3のデータを取得し、
このようにして取得された3つのデータに基づいて、内部の乗員に関連付けられる熱快適性指標(PMV)の値を決定するステップとを行うように構成されている処理ユニット2を備える。
【0072】
システムは、第1のデータ、第2のデータ及び第3のデータを決定するのに役立つ複数のパラメータを測定するように構成された複数のセンサを備える。
【0073】
これらのセンサは、
内部の乗員を観察するように構成されたDMSカメラ3、
内部の壁及び窓の温度を測定するために、内部の天井に配置された広角赤外線カメラによって形成された赤外線ドーム4、
太陽センサ5、
空調ユニット又はHVAC10の出口にある空気温度センサ6、
内部の現在の空気温度のセンサ7を含む。
【0074】
システム1は、内部の乗員の熱環境を表す第3のデータを決定するのに役立つパラメータを測定するように構成され、このパラメータは、空調装置の状態、特に空調装置の送風機の出力又は空調装置からの調整空気の分配に関する。
【0075】
内部の乗員の衣服レベルを表す第1のデータ(Clo)は、乗員が着用する衣服の測定衣服断熱に対応する。
【0076】
この目的のために、システム1は、カメラ3によって撮影された画像を処理し、この画像から、特に画像認識を介して、乗員が着用する衣服の種類(Tシャツ及び/又はシャツ及び/又はプルオーバー及び/又はオーバーコート及び/又はスカーフ及び/又は帽子)を判定するように構成され、システム1はさらに、このようにして測定される衣服の種類から衣服断熱を判定するように構成される。
【0077】
乗員の代謝活性を表す第2のデータ(MET)は、図3に見られるように、特にカメラ3によって測定される乗員の心拍数HRに依存する。
【0078】
このカメラ3は、顔の皮膚の下の血液の動きによる乗員の顔の色の変化を観察するように構成され、システムはこれらの画像に基づいて心拍数を測定する。
【0079】
乗員の代謝活性を表す第2のデータ(MET)は、乗員の身体的特性に依存し、これは、画像処理によって乗員の身体的特性PC、特に性別、年齢、サイズ及び体積、並びに間接的に体重を決定するために、カメラ6によって測定される。
【0080】
乗員の代謝活性を表す第2のデータMETは、データPCを使用して推定される、乗員によって生成される単位面積当たりの熱出力PSに対応する。
【0081】
乗員の代謝活性を表す複数のデータ(MET)が使用される。
【0082】
システム1は、赤外線ドーム4によって測定される壁及び/又は窓の温度から、図3に示すように、乗員の頭Z1、胸部Z2、背中Z3、脚 Z4、足Z5、腕Z6及び手Z7などの乗員の身体の複数の部分の放射温度を計算するように構成される。
【0083】
システム1は、特に送風機の出力及び/又はHVACの分布及び/又は吹出空気の温度及び内部の温度に基づいて、特にチャートに基づいて、乗員の身体の一部、特に乗員の身体の複数の部分、特に乗員の頭、胸部、背中、脚、ふくらはぎ、足及び/又は腕と接触する空気の温度を推定するように構成される。
【0084】
システム1は、HVAC分布及び/又は送風機の出力に基づいて、特にチャートを使用して、乗員の身体の1つの部分又は複数の部分と接触する空気の速度を推定するように構成される。
【0085】
これらの温度及び/又は速度TVは、内部の乗員の熱環境を表す第3のデータを計算するために使用される。
【0086】
システム1は、乗員の身体の各部分、特に頭、胸部、背中、脚、ふくらはぎ、足及び腕によって交換される熱出力を推定することによって、乗員によって自身の環境と交換される総熱出力(P_tot_theoritical)を推定するように構成される。この総交換熱出力(P_tot_theoritical)は、データClo、Met及びPSに依存する。
【0087】
具体的には、交換される出力は、局所空気速度、局所空気温度、局所放射温度、乗員の表面積、乗員の衣服レベル(Clo)、及び乗員の代謝活性を表す第2のデータ(MET)に依存する。
【0088】
システム1は、環境と交換される総熱出力(P_tot_theoritical)を乗員の代謝によって生成される理論出力と比較し、この出力差に係数を乗算することによって熱快適性指標(PMV)の値を決定するように構成される。
【0089】
本発明の一態様によれば、次いで、このモデルを使用して、乗員の瞬間的な快適性を推定することができる。設定点もまた、乗員の快適性を確保するために熱アクチュエータに対して規定されてもよい。したがって、熱システムの調整はパーソナライズされる。
【0090】
本方法は、快適性指標を推定するために、周囲の湿度及び温度並びに代謝に依存する、呼吸、湿潤及び発汗による熱交換を考慮に入れることが可能である。
【0091】
代謝活性は、日付及び/又は時間、乗員の性別、年齢及び他の個人的特徴、並びに現在又は過去の活動のデータ又は知識に応じて決定される。
【0092】
図4に示す例において、熱管理システムは、
乗員の呼吸振幅を表すデータ(BA)、
乗員の呼吸数を表すデータ(BR)、
乗員の心拍数を表すデータ(HR)、
任意選択的に、乗員の年齢に関するデータ、
任意選択的に、例えば、一日のうちの時間など、日中の瞬間を表す時間を表すデータ(T)を取得することと、
上記データに基づいて乗員の代謝活性を表すデータ(MET)を決定することと、
好ましくは、乗員の代謝活性を表すデータ(MET)に基づいて、内部の乗員に関連付けられる熱快適性指標(PMV)の値を決定することに進むこととを行うように構成されている処理ユニット100を備える。
【0093】
代謝活性(MET)はまた乗員の性別に基づいて決定される。
【0094】
代謝活性(MET)はまた、既知であれば、乗員の体格指数(BMI)に基づいて決定される。
【0095】
システムは、心拍数に関するデータを供給するための接触型又は非接触型のセンサを備える。
【0096】
このセンサは、例えば時計など、乗員が着用するように構成されたセンサであってもよい。
【0097】
システムは呼吸数及び/又は呼吸振幅に関するデータを供給するための接触型又は非接触型のセンサを備える。
【0098】
このセンサは、例えば時計など、乗員が着用するように構成されたセンサであってもよい。
【0099】
本発明の一態様によれば、システムは、乗員の性別及び/又は年齢を決定するように構成され、これらのデータは、好ましくは、1つ又は複数の正面カメラ及び訓練されたモデルを使用する認識アルゴリズムによって、又は特に、好ましくはプロファイルのセットにおいて乗員によって入力されるデータによって自動的に識別される。
【0100】
本発明の一態様によれば、システムは、乗員の体重及び/又は身長を決定するように構成され、これらのデータは、好ましくは1つ又は複数のドームカメラ及び訓練されたモデルを使用する認識アルゴリズムによって、又は特に、好ましくはプロファイルのセットにおいて乗員によって入力されるデータによって自動的に識別される。
【0101】
METの値を計算するための式は、一方における男性の式及び女性の式、並びに、他方における低心拍数の状況の式(HR<遷移HR)及び高心拍数の状況の式(HR>遷移HR)の4つのタイプのものであってもよく、2つの式の間の「遷移HR」は、各乗員に固有の生理学的パラメータ(性別、年齢、及び分かっている場合はBMI)に依存する。
【0102】
これらの方程式は、多項式型であってもよい。
【0103】
式は、例えば、以下のように書くことができる。
MET=a1×(HR)a2+b1×(BR)b2+c1×(BA)c2+d1×(Age)d2+e1×(T)e2
【0104】
係数a1、b1、c1、d1及びe1、並びに、a2、b2、c2、d2及びe2は、性別(男性又は女性)及び心拍数の範囲(遷移HRよりも低い又は高い)の関数である。
【0105】
BAが未知である場合、専用の係数及び指標bc1及びbc2を用いて、BRのみがアクティブである置換式を使用することができる。
【0106】
MET=a1×(HR)a2+bc1×(BR)bc2+d1×(Age)d2+e1×(T)e2
【0107】
「Age」及び/又は「T」が未知である場合、省略された項の一方又は両方の代わりに定数「de」を使用することができる。
MET=a1×(HR)a2+b1×(BR)b2+c1×(BA)c2+de
【0108】
この式は、以下のデータを利用する。
乗員の呼吸振幅を表すデータ(BA)、
乗員の呼吸数を表すデータ(BR)、
乗員の心拍数を表すデータ(HR)、
日中の瞬間、例えば一日のうちの時間を表す時間に関するデータ(T)。
【0109】
このようにして見出されたデータMETは、値PMVを決定するために、図1及び図2の実施形態に記載されたシステム内で使用することができる。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】