(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-17
(54)【発明の名称】ヘッドホンの音響変成器
(51)【国際特許分類】
H04R 1/10 20060101AFI20220107BHJP
【FI】
H04R1/10 101B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021525132
(86)(22)【出願日】2019-11-06
(85)【翻訳文提出日】2021-07-01
(86)【国際出願番号】 US2019060138
(87)【国際公開番号】W WO2020097249
(87)【国際公開日】2020-05-14
(32)【優先日】2018-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521195984
【氏名又は名称】ブイゼットアール,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ティスカネロ,ビクター マニュエル
【テーマコード(参考)】
5D005
【Fターム(参考)】
5D005BB00
(57)【要約】
ヘッドホンで使用して、聴取者の聴覚体験を向上させるための音響変成器は、ヘッドホンのイヤー・カップ内の音響ドライバの前方に配置される音響開口又は開口領域を有するディスク又は板を備える。例示的な構成では、音響変成器の片側又は区域は、相対的に小さい複数の開口を備え、音響変成器の反対側又は反対の区域は、相対的に少ない数の相対的に大きい開口、又は相対的に大きい単一の開口を備える。ヘッドホンが聴取者の耳を覆っているとき、音響変成器は、音響ドライバと聴取者の間に並置され、例示的な構成では、相対的に小さい開口は、聴取者の耳の前部に向けて配置され、相対的に大きい開口部は、聴取者の耳の後部に向けて配置される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イヤー・カップと、
音響変成器と、
前記イヤー・カップの内面と前記音響変成器との間のドライバと
を備えるヘッドホンであって、
前記音響変成器が、前記音響変成器の第1の領域内に少なくとも2つの開口を有し、前記第1の領域に対向する前記音響変成器の第2の領域内に、単一の開口を有し、前記第2の領域内の前記単一の開口が、前記第1の領域内の前記少なくとも2つの開口の合計面積よりも広い面積を有し、
前記第1及び第2の領域が、前記音響変成器の両側に半分ずつ形成し、
前記第1の領域が、前記第1の領域内の前記少なくとも2つの開口のうち最大の開口よりも大きいいかなる開口も含まず、
前記ヘッドホンが、同軸上に配置された複数のドライバを含まない、
ヘッドホン。
【請求項2】
前記第1の領域における前記開口が、前記第2の領域における前記単一の開口よりも高い周波数を通過させるように構成されている、請求項1に記載のヘッドホン。
【請求項3】
前記音響変成器の中心に最も近い前記単一の開口の境界が、規則的なくぼみを含む、請求項1に記載のヘッドホン。
【請求項4】
前記イヤー・カップが、聴取者の耳に対してある向きで収まるように構成され、前記向きにあるとき、前記音響変成器が、前記イヤー・カップ内で前記聴取者の耳に対して位置合せされ、その結果、前記第1の領域と前記第2の領域とを分離する軸が、前記聴取者の頭の垂直軸と概ね位置合せされ、
前記イヤー・カップが前記聴取者の耳と前記向きにあるとき、前記単一の開口が、前記聴取者の外耳の後部と位置合せされ、
前記イヤー・カップが前記聴取者の耳と特定の向きにあるとき、前記少なくとも2つの開口が、前記聴取者の耳介の前部に対向して配置される、
請求項1に記載のヘッドホン。
【請求項5】
前記単一の開口の内縁部が、前記音響変成器の境界によって形成され、
前記単一の開口の外縁部が、前記ドライバの外縁部によって形成される、
請求項1に記載のヘッドホン。
【請求項6】
前記音響変成器が、前記ドライバの音響駆動面から1ミリメートル~3ミリメートルの間の距離に配置される、請求項1に記載のヘッドホン。
【請求項7】
イヤー・カップと、
音響変成器と、
前記イヤー・カップの内面と前記音響変成器との間のドライバと
を備えるヘッドホンであって、
前記音響変成器が、少なくとも2つの開口を含む第1の部分、及び単一の開口を含む第2の部分を含み、前記第2の部分が、前記第1の部分と横方向に対向し、前記少なくとも2つの開口のそれぞれが、前記単一の開口の面積の30%未満の面積を有し、
前記第1の部分及び前記第2の部分が、前記音響変成器の両側に半分ずつ形成し、
前記第1の部分が、前記第1の部分における前記少なくとも2つの開口のうち最大の開口よりも大きいいかなる開口も含まない、
ヘッドホン。
【請求項8】
前記ドライバが電磁コイルを備え、前記少なくとも2つの開口が、前記電磁コイルの外側境界に対向して配置される、請求項7に記載のヘッドホン。
【請求項9】
前記少なくとも2つの開口のうち少なくとも1つが、少なくとも3つの直線状側部を有し、前記側部のうちの1つが、前記1つの側部と対向する、前記少なくとも1つの開口の頂点よりも、前記音響変成器の中心に近い、請求項7に記載のヘッドホン。
【請求項10】
前記少なくとも2つの開口の形状が異なり、
前記少なくとも2つの開口のサイズが異なり、
前記少なくとも2つの開口が、前記単一の開口よりも前記音響変成器の中心に近い、
請求項7に記載のヘッドホン。
【請求項11】
前記イヤー・カップが、聴取者の耳に対してある向きで収まるように構成され、その結果、前記イヤー・カップが前記向きにあるとき、前記音響変成器が、前記イヤー・カップ内で前記聴取者の耳に対して位置合せされ、その結果、前記第1の領域と前記第2の領域とを分離する軸が、前記聴取者の耳の耳中心線と概ね位置合せされ、
前記単一の開口が、前記聴取者の外耳の後部と位置合せされ、
前記少なくとも2つの開口が、前記聴取者の外耳の前部に対向して配置される、
請求項7に記載のヘッドホン。
【請求項12】
前記第1及び第2の領域を分離する前記軸が、前記耳中心線から10度以内にあり、
前記少なくとも2つの開口のうち少なくとも1つが、音響フィルタリング要素を含む、
請求項11に記載のヘッドホン。
【請求項13】
前記イヤー・カップが前記向きにあるとき、前記少なくとも2つの開口のうちの1つが、前記聴取者の外耳道開口と部分的に重なって配置される、請求項11に記載のヘッドホン。
【請求項14】
イヤー・カップと、
音響変成器と、
前記イヤー・カップの内面と前記音響変成器との間のドライバとを備えるヘッドホンであって、
前記音響変成器が、少なくとも2つの開口部分を有する第1の領域、及び前記第1の領域に対して横方向に対向する、前記音響変成器の第2の領域内の単一の開口部分を含み、前記第2の領域内の前記単一の開口部分が、前記第1の領域内の前記少なくとも2つの開口部分の合計面積よりも広い面積を有し、前記音響変成器内の前記開口部分のうち少なくとも2つが、前記少なくとも2つの開口部分と同じ平面内にあるスロットによって連結され、
前記ヘッドホンが、同軸状に配置された複数のドライバを含まない、
ヘッドホン。
【請求項15】
前記スロットが、前記第1の領域内の前記少なくとも2つの開口部分の間に延在し、前記第1の領域内の前記少なくとも2つの開口部分、及びそれらの間に延在する前記スロットの前記部分が、前記ドライバ内のボイス・コイルの外周を覆う、請求項14に記載のヘッドホン。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
背景
[0001] 音再生の分野、具体的には、聴取者の耳の周りのカップ内に、スピーカ又はドライバを設けて音を生成し、聴取者の耳にこの音を届けるヘッドセットの分野では、聴取者が、ヘッドホンを装着せずに屋外で音を聞いている場合と同じに又は同様に音を知覚するようなやり方で音を再生することは困難になる場合がある。さらに、特定の方向からくる(又、聴取者に対して移動する)音を聴取者に体験させるヘッドセットにおいて、音を生成又は再生することも困難になる場合がある。
【0002】
図面の簡単な説明
[0002] 参照番号の左端の桁は、その参照番号が最初に現れる図を識別し、同じ参照番号は同様の又は同一の項目を示す。
【図面の簡単な説明】
【0003】
【
図1】[0003]第1の例示的な音響変成器を示す。
【
図2】[0004]第2の例示的な音響変成器を示す。
【
図3】[0005]第3の例示的な音響変成器を示す。
【
図4】[0006]第4の例示的な音響変成器を示す。
【
図5】[0007]第5の例示的な音響変成器を示す。
【
図6】[0008]第6の例示的な音響変成器を示す。
【
図7】[0009]第7の例示的な音響変成器を示す。
【
図8】[0010]対向するドライバの輪郭を補完する第1の輪郭を有する例示的な音響変成器の垂直断面図を示す。
【
図9】[0011]対向するドライバの輪郭を補完する第2の輪郭を有する例示的な音響変成器の垂直断面図を示す。
【
図10】[0012]音響変成器の断面での例示的な音響開口の横断面図を示す。
【
図11】[0012]音響変成器の断面での例示的な音響開口の横断面図を示す。
【
図12】[0012]音響変成器の断面での例示的な音響開口の横断面図を示す。
【
図13】[0013]スロットによって接続された相対的に小さい複数の開口領域と相対的に大きい開口領域とを有する、音響変成器の例示的な一実施形態を示す。
【
図14】[0014]音響変成器を備え、聴取者の耳を覆うように配置されたヘッドホンのイヤー・カップの垂直断面図を示す。
【
図15】[0015]聴取者の耳に対する音響変成器の例示的な向きを示す。
【
図16】[0016]様々な角度から聴取者の耳に届く音が、どのようにして、様々に知覚された周波数応答になるのかの例を示す。
【
図17】[0017]ドライバの駆動コイルに対する例示的な音響変成器を示す。
【
図18】[0018]ドライバの駆動コイルに対する例示的な別の音響変成器を示す。
【
図19】[0019]聴取者の耳よりも大きいドライバに対する例示的な別の音響変成器を示す。
【
図20】[0020]開口カバーとともに使用するための例示的な音響変成器を示す。
【
図21】[0021]開口カバーを有する、
図20の音響変成器を示す。
【
図22】[0022]
図21の音響変成器及び開口カバーの垂直断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0004】
詳細な説明
[0023] 音は、視覚、触覚、嗅覚などとともに、日常生活で人々が使用する最も重要な感覚の1つである。我々は、自身の背後及び/又は上方から発する音など、様々な方向からの音を聞くことができ、又(音量又は強度の変化、ドップラー・シフトなど周波数又は音色の変化などから)音源の方向及び距離、並びに我々とそうした音源との間の相対スピードすなわち相対速度を識別できることが多い。家庭用電化製品(ハードウェア及びソフトウェア)がますます高性能になるにつれて、電話呼出しや電話会議呼出しなど、リアルタイムの電子通信、映画、ゲーム、音楽、拡張現実の場面などを含め、あらゆるタイプのデジタル・メディア音源から自然な音を体験したいという要求が高まっている。これに関連して、電子装置及び電気機械装置から「自然な」音を放出することが、聴取者に夢中になる体験を与えるための音を再現することを含み、これが、聴取者のために特定の音響環境及び/又は音響イベントを正確に、確かに、又は説得力をもってシミュレーションする。たとえば、3次元のオーディオ・キューと、音源及び聴取者を取り巻く環境についての(反射性、吸収性、密閉性などの)情報を含む、聴取者に対する音源の方向及び/又は位置などの空間情報を聴取者に提示する音響特性とを取り込み又は符号化する専用の記録方法又はデジタル信号処理を用いて、これを実行することができる。この種の聴覚体験を実現する際の1つの課題は、ヘッドホンなどの再生装置が使用され、音源と聴取者の内耳との間において、ヘッドホンと聴取者の耳構造とを組み合わせた伝達関数が、屋外と聴取者の耳構造とを組み合わせた伝達関数と異なることである。
【0005】
[0024] 聴取体験は、発生源、伝送媒体、及び聴取者という、少なくとも3つの主要な構成要素を有するものと考えることができる。自然のシステムでは、音源は、たとえば、コンサートでのラウドスピーカ、ヘリコプタ、雷雨、ピアノ又はギターを弾く人、話す人、ライフル、風の中の木などとすることができる。たとえば、伝送媒体は、(たとえば、エコーを反射する)屋外の自然環境、音源を内部に備えた部屋又は洞窟、トンネル、森林、近くに岩肌のある山岳峡谷などとすることができる。聴取者の状況が聴取体験に影響を及ぼすことがあり、たとえば、音は、その人(衣服、髪、顔など)にぶつかることがあり、聴取者の鼓膜と伝送媒体の間での聴取者の耳の構造(外耳、内耳など)によって、様々な方式で誘導することができる。骨伝導、すなわち耳以外の聴取者の身体部分を介して、鼓膜まで音が伝送することは、聴取者の自然な聴取体験に影響を及ぼすことができる。回折、屈折、干渉、反射などの原理は、たとえば、伝送媒体又は伝送環境が何から構成されているのか、又、その中の様々な要素がどのように配置されているのかに応じて、音源と聴取者の鼓膜との間を移動する音に影響を及ぼすことがある。聴取者の状況は、伝送媒体の一部(たとえば、衣類、耳介若しくは外耳を含む身体構造など)とみなすことも、又は聴取者の一部とみなすこともできるが、原理的には、最終的な受信者が聴取者の脳、蝸牛、鼓膜、内耳、外耳、若しくは人全体と定義されているかどうかにかかわらず、発生源と最終的な受信者との間の総合的な伝達機能若しくは伝達効果の一部である。
【0006】
[0025] ヘッドホンを介して聴取者向けに音が再生される場合、その結果得られるシステムは、基本的にヘッドホンに供給される電子信号であり、次いでこの信号が、イヤー・ピース又はイヤー・カップにおいて音を生成し、その音を聴取者の耳へ向けて放射する。ヘッドホン内のドライバは、特定の(不完全である可能性が高い、又は不完全な妥協点の)性能特性を有することになり、ヘッドホンが非常に近接して耳の周りに閉じた環境を生成することにより、ヘッドホンのイヤー・ピース又はイヤー・カップはまた、耳介などの聴取者の耳構造の機能を修正及び/又は抑制する。したがって、聴取者の耳を覆うように、又、聴取者の頭に乗せて装着されるヘッドホンのイヤー・カップ内など、小さい密閉空間から音を生成及び送信することは、指向性の著しい屋外環境において生成される音(たとえば、聴取者の周りをヘリコプタが旋回するような感覚)を再現することを目的とする音響体験を聴取者に提供することが困難になる場合がある。
【0007】
[0026] ヘッドホンを使用して自然な音体験を生成するには、いくつかの要因から特定の課題が生じる。第1に、自然な音体験では、指向性の音源と、この音源環境での音要素のさらなる拡散との両方が存在する場合が多い。ラウドスピーカで再生するために録音が処理される場合、それらの録音がヘッドホンで再生されると、主として消失クロストークと定位に関連する問題とが理由で、聴取者のオーディオ体験は不自然である。消失クロストークとは、たとえば音源から直接に、またそれに加えて、エコーからのように間接的に、聴取者の外耳経由ではなく、骨を介して聴取者の内耳に音の一部分が伝導することによって間接的に、様々な経路で聴取者に到達する音や、聴取者の耳の片方に到達するよりも早く(又は遅く)、聴取者のもう一方の耳に到達する音などがないことを指す。第2に、ヘッドホンは、聴取者の頭上にあり、この聴取者の頭とヘッドホンのイヤー・カップとの間に小さいチャンバを効果的に作製してあるので、屋外の伝達関数及び聴取者の耳の伝達関数は、変更されるか又は存在しない。したがって、ヘッドホンは、少なくとも部分的に補償するための、さらなる等化を必要とする。この等化は、非常に困難となる場合がある。等化が困難である1つの理由としては、聴取者の外耳が聴取者の指向性識別を助け、イヤー・カップ内のヘッドホンの局所的な音源が、指向性情報を省略し又は歪ませ、また、音色の色付けが不正確になる場合があるからであり、聴取者の頭が動くと、ヘッドホンがともに動くので、(自然なシステム又は自然な音体験での聴取者の聴覚体験とは異なり)聴取者の頭の動きが指向性情報を提供しなくなる。等化が困難になる場合があるさらに別の理由は、音波が聴取者の内耳に到達する前に、聴取者の外耳だけでなく、聴取者の体の他の部分も、この音波に影響を及ぼす場合があることであり、たとえば、聴取者の衣類、顔に沿って伝わる音、聴取者の顎や頭蓋骨などを通過する骨伝導による音などである。
【0008】
[0027] ヘッドホンでの別の問題は、十分なパワー及びバランスを有するヘッドセットにおいて、相対的に高い周波数の音を再生するのが困難になり得ることである。たとえば、数多くのヘッドホンは、通常約8kHzを超える線形の周波数応答を実現するのに苦労する。これによりさらに、聴取者に指向性情報を提供するのは相対的に高い周波数、たとえば6kHz以上なので、リアルな3次元の聴覚体験を聴取者に提供することがますます困難になる。
【0009】
[0028] 本明細書で様々に記載されている例示的な実施形態は、こうした課題の多くに取り組み、解決し、又は軽減し、信号、たとえば屋外の信号と同等の信号を受信し、この信号を変更して、ヘッドセット及び聴取者の耳の構造がともに生成する環境によって省略又は変更される聴取者の耳の機能を補償するするように信号を変更する物理的又はソリッド・ステートの伝達関数を含む。
【0010】
[0029] 本明細書に記載の様々な実施形態によれば、音響変成器は、板、ディスク、又は、聴取者がヘッドホンを装着しているときに、ヘッドホンのイヤー・カップ内で、イヤー・カップ内のスピーカ又はドライバとこの聴取者の耳との間に設けられた他の一般の固定要素の形態とすることができる。この音響変成器は、聴取者の外耳の標準の伝達関数、すなわち自然のフリーエア音源と聴取者の内耳との間に存在する伝達関数に及ぼすヘッドセットの負の効果を、緩和又は修正する物理的な伝達関数としての役割を効果的に果たす。音響変成器は、目的にかなうように配置された開口すなわち音響窓(たとえば、音響インピーダンスが低い区域)を含み、これは、音響変成器が聴取者の耳に対して配向されているとき、相対的に高い周波数を聴取者の外耳道に向けて送り、相対的に低い周波数を聴取者の耳の後方に向けて送る。音響変成器はまた、ドライバからの音が他のやり方で移動して聴取者の耳に届くまでの経路長を効果的に変更し、これにより、聴取者の聴取体験を改善することもできる。人間の耳の耳介は、たとえば垂直軸と水平軸の両方に沿って非対称である。この効果の1つは、耳介から内耳までの経路長が様々に異なることを含め、聴取者の耳へ向けての様々な方向から到来する音が別々に取り込まれることであり、これにより、音源に関する指向性情報を聴取者の脳に提示することができる。この例示的な態様が、全体として
図16に示してある。
【0011】
[0030]
図16に示すように、垂直方向下方に到来して聴取者の耳1602にぶつかる音波1607、1609は、その経路長が異なる場合がある。音波1607は、外耳道1604まで直接移動し、音波1609は、聴取者の外耳道1604を通過して移動し、次いで聴取者の耳の内側隆起部1606で跳ね返って戻り、相対的に長い経路を辿って外耳道1604に入る。グラフ1601には、垂直方向から到来する音波、たとえば音波1607、1609に対する、聴取者の耳1602の一般的な周波数応答の一例が示してある。
図16にはまた、別の聴取者の耳1612が示してあり、音波1619、1617が正面の水平方向から到来する。図に示すように、音波1617は、聴取者の外耳道1614まで直接移動し、音波1619は、外耳道1614を通過して移動し、次いで聴取者の耳の内側の隆起部又は特徴部分1618で跳ね返って戻り、相対的に長い経路を辿って外耳道1614に入る。グラフ1611には、たとえば音波1617、1619など、正面の水平方向から到来する音波に対する、聴取者の耳1612の一般的な周波数応答の一例が示してある。したがって、耳介を含む人間の聴取者の耳の物理的構造は、この聴取者の耳にぶつかる音の周波数、及び方向又はベクトルに応じて、聴取者に対して様々な聴覚周波数応答をもたらす。
【0012】
[0031] 先に述べたように、ヘッドホンは、少なくとも部分的には、ヘッドホン音響ドライバが聴取者の耳に近接すること、及びヘッドホン・カップによって聴取者の耳の周りに密閉空間が形成されることによって、フリーエアの音源とは異なるように聴取者の耳に音を提供する。したがって、ヘッドホンを用いる聴取者の聴取体験は、フリーエアの音源が実現することになる聴取体験とは非常に異なる場合がある。本明細書に記載の音響変成器の各実施形態は、ヘッドホンと聴取者の耳との間に、補正オーディオの転送又は変換の機能を実現することができ、これにより、ヘッドホンがもたらす音響の変化及び歪みの多くを克服して、聴取者向けのフリーエア聴取体験を模倣し、この聴取者体験の質を改善する。
【0013】
[0032] さらに、たとえばスピーカ・コーン又は振動板など、ドライバの音響ドライブ面(ドライバの駆動面とも呼ばれる)の外面に対する音響変成器の近接度並びに向きを調節又は選択して、ドライバが生成する相対的に高い周波数の音のパワーすなわち強度を効果的に増大させることができ、したがって、相対的に高い周波数でのドライバの応答の線形性が改善され、この周波数により、聴取者にとってバランスのとれた心地よい聴覚体験、並びにリアルな3次元(x、y、z)の聴覚体験、たとえば頭上を飛行して通過したり、又は旋回したりするヘリコプタなど、聴取者に対して音源が移動していることをリアルに知覚することの両方が実現される。一般に、この効果は、オーディオ・スペクトル全体にわたって、たとえば人間の自然な聴取範囲内で実現される。人間の自然な聴取範囲は、20Hz~20kHzに及ぶと考えることができるが、人によっては、こうした上限及び下限の一方又は両方を超えて拡がる聴取範囲を有する場合がある。さらに、環境によっては、聴取者の聴取範囲内で聴取者が体験する音に影響を及ぼすことのある高調波及び他の現象に起因して、例示的な実施形態の能力を、20Hzの下限及び/又は20kHzの上限を超えて、たとえば、生成される音の上限として20kHzの分数倍又は整数倍にまで拡げることが有利になる場合がある。測定してみると、この改善又はオーディオ効果の向上は広範囲に及ぶ可能性があり、たとえば1kHz(若しくはそれ未満)から少なくとも12kHzまでに注目することができる。このタイプの体験は、効果的に実行するために聴覚情報と視覚情報とに依存するビデオ・ゲーマーや、状況認識の向上などのためにオーディオ刺激又は視聴覚刺激を含む没入型の仮想体験を探し求める聴取者によって特に評価される。したがって、音響変成器とドライバの音響コーン又はドライブ面/駆動面の外面との間の近接度すなわち距離は、約4kHz~16kHzの間、又は約8kHz~14kHzの間の周波数のパワーを増大させるのに十分に狭くすなわち十分に近くなるように、又は相対的に狭い範囲内で効果を有するように、若しくはこうした範囲の上下に拡がるように選択することができる。一般に、可聴範囲内で、又、任意選択として可聴範囲を超えて、たとえば1kHz、及び16kHzまで、20kHzまで、又は、たとえば30kHz若しくは40kHz以上まで、ヘッドホン性能を改善するために音響変成器を適用することができる。ドライバが停止又は静止しているときの音響変成器とドライバのドライブ面との間の距離は、停止位置又は静止位置からのドライバの音響ドライブ面の最大偏向と、それに加えて、ドライブ面が音響変成器に向かって最大偏向しているときの、ドライブ面と音響変成器との間の距離であるクリアランス距離に基づいて選択することができる。このクリアランス距離は、動的クリアランス距離と呼ぶことができる。たとえば、音響変成器に向かうドライブ面の最大偏向が0.6ミリメートルであり、所望の動的クリアランス距離が1ミリメートルである場合、音響変成器と、停止状態又は静止状態にあるドライバの音響ドライブ面(たとえば、ドライブ・コーン)との間の距離は1.6ミリメートルとなり、動作にあたっては、このドライブ面は音響変成器に1ミリメートルよりも近づくことはないはずである。停止状態又は静止状態での音響変成器とドライバの音響ドライブ面(たとえば、ドライブ・コーンの駆動面)との間の距離は、静止クリアランス距離と呼ぶことができる。ドライブ面又は駆動面の最大偏向は、ドライバが達成できるが超えない絶対的な物理的最大値であってもよく、又は、たとえば音響ドライバに供給される入力信号範囲若しくは入力信号振幅が制限されるか、若しくは特定の境界内に存在するように指定される場合に、所与の動作エンベロープ内で生じることになる最大偏向距離であってもよい。例示的な実施形態では、所望の、又は指定されたクリアランス距離は、0.5ミリメートルほどの小ささ、1センチメートルほどの大きさ、又は0.5ミリメートル~10ミリメートルの間の任意の列挙値とすることができる。例示的なクリアランス距離の範囲は、たとえば、0.5~1.5ミリメートル、1.0~2.0ミリメートル、1.0~3.0ミリメートル、又は0.5ミリメートル~10ミリメートルの間の任意のサブセットとすることができる。
【0014】
[0033] 実施形態によっては、音響変成器での各開口は、ドライバの観測又は決定された性能異常に基づいて配置されて、設計上若しくは構造上の欠陥、又は許容される工学的公差のばらつきの結果として生じることがある誤った音を抑制又は減衰させることができる。このような欠陥又はばらつきには、たとえば、ドライバのドライブ・コイルからわずかに中心を外れて配置されたドライバのドライブ・コーン、場合によってはこのコーンの片側での過剰な接着性から生じる、ドライブ・コーンを横切る非対称の質量分布、ドライブ・コーン材料の厚さ又は密度の変化、ボイス・コイル又はドライブ・コイルの中心を覆うダスト・キャップのオイルキャニングなどが含まれ得る。こうした種類の変化は、局所的な共鳴又は歪みを生じる場合があり、ドライブ・コーンのこうした異常な区域に対して音響変成器での開口及び音響変成器の固体面を目的にかなうように配置することによって、これらをマスキングし、又は減衰させることができる。
【0015】
[0034] ドライブ・コーンの駆動面と固体面の間の近接度すなわち距離が近くなるにつれて、ドライブ・コーンからの相対的に低い周波数の音が抑制され、相対的に高い周波数の音が誘導され、又はその大きさが増大され、駆動面の動きが制限又は抑制される。たとえば、低周波音が所望よりも大きいドライバの駆動面の各位置において、音響変成器は、相対的に低い周波数の音と、この相対的に低い周波数の音を生成する駆動面の動きとを抑制するために近接するように構成することができる。所望の周波数よりも高い周波数の音を生成するドライバの駆動面の各区域は、音響変成器の対応する対向面をさらに近接して配置して、この相対的に高い周波数の音を誘導したり増大させたりしないようにしてもよく、、又は、この音(及び、ドライバの駆動面での他の場所から誘導される相対的に高い周波数の音)を聴取者の耳に向けて通すための開口さえも設けてもよい。所望のエネルギーよりも低い高周波音エネルギーを生成するドライバの駆動面の各区域は、この相対的に高い周波数の音を増大させるように、音響変成器の対応する対向面(開口ではなく)をさらに近くに有することができる。一般に望ましいレベルの高周波音エネルギーを生成するドライバの駆動面の区域は、その音エネルギーを聴取者の耳に向けて送るように反対側に配置された開口を音響変成器内に有することができ、又は、音響変成器の表面を有することができ、この表面は、高周波音エネルギーを増大させるほど近くでもなく、減衰させるほど遠くでもなく、代わりに、高周波音エネルギーを音響変成器の開口に対して横方向又は対角線上に誘導し、この開口は、一般に望ましいレベルの高周波音エネルギーを生成するドライブ面又は駆動面の発生区域の反対側ではなく、その領域からさらに離れている。この開口は、誘導されたこのような音エネルギーを収集及び/又は伝送するのを助けるように、角度の付いた壁及び/又は延在させる機能を有することができる。ドライバの駆動面から音響変成器の表面に沿って、この音響変成器内の1つ又は複数の開口又は開口区域まで移動する、誘導された音エネルギーが、この開口を介して聴取者の耳の各位置に供給されるだけでなく、この移動によってもたらされる追加の経路長(音響変成器が存在しない場合の、音響ドライバから聴取者の耳までの直接経路とは異なる)が、たとえば経路長が長くなることから生じる位相差を介して、ヘッドホンを用いた聴取者の聴覚経験に、改善又は向上した現実感覚をもたらすこともできる。
【0016】
[0035]
図1には、例示的な音響変成器102が示してあり、これは、相対的に低い周波数を通過させるための、変成器102の第1の領域上に配置された大きい開口108と、この第1の領域の反対側にある、音響変成器102の第2の側部又は領域上に配置された、相対的に高い周波数を通過させる相対的に小さい開口104、105、106とを特徴とする。第1の領域及び第2の領域は、半円形とすることができ、又は、たとえば各図で様々に示すように、音響変成器の他の形状及び相対的な大きさを有することができる。
図1に示すように、大きい開口108の内縁部110には、図に示すような規則正しいくぼみ又は幾何学的外観を有するパターン付けされた縁部が設けられていて、このくぼみ又は幾何学的外観にぶつかる音波を分散させ、したがって、聴取者が知覚する音を歪ませることになる音響共鳴を防止するのに役立つ。
図1に示すように、一実施形態によれば、大きい開口108の2次元の面積は、相対的に小さい開口104、105、106の2次元の合算面積を超える。音響変成器102の周辺部は、それが対となるドライバ、たとえば、直径が約40ミリメートルのドライバの周辺部に一致するか、又は近似することができる。したがって、音響変成器は、ドライバの特定の作り及び/又はモデルにマッチするようにサイズ調整することができる。あるいは、例示的な実施形態では、音響変成器は、一般に、サイズ及びデザインが異なる、ある範囲のドライバと互換性があるようにサイズ調整することができ、そうした様々なドライバに何らかの改善対策を講じる。
【0017】
[0036]
図14には、本明細書に記載の例示的な実施形態による音響変成器を、ヘッドホンにどのように組み込むことができるかが示してある。具体的には、
図14には、音響変成器を備え、聴取者の耳を覆うように配置された、ヘッドホンのイヤー・カップの断面を有する側面図が示してある。聴取者の頭の一部分1402は、この聴取者の耳介又は外耳1422を含み、聴取者の外耳道1424も示してある。音響変成器1404は、ドライバ1414と聴取者の耳との間に、聴取者の耳と向かい合って配置される。音響変成器1404は、たとえば、
図1の音響変成器102とすることができる。
図14の表示は、
図1に示す表示と直交しており、
図1の正面図の代わりに側面図又は端面図を示す。イヤー・カップ要素1406、1420は、ハウジング1408に固定されるか、又は他の方法で取り付けられ、このハウジングは、ドライバ1414を支持する側部1412、1416を有する内部マウントを囲繞及び支持する構造体を形成する。音響変成器1404はまた、内部マウントによって、たとえば音響変成器1404と内部マウント側部1412、1416との間にそれぞれ配置された支柱又はフランジ1410、1418を用いて支持される。ハウジング1408は、ドライバ1414の裏側に空洞1426を形成することができ、場合によっては、この空洞1426を外部環境に接続する通気孔、たとえば通気孔1428がハウジング1408内に存在することができる。ヘッドホンのイヤー・カップの各要素は、様々な材料で、様々に又適切に作製することができ、たとえば、要素1406、1420は、プラスチック発泡体で作製することができ、ゲルなどを含むことができ、ハウジング1408は、プラスチック又は他の適切な材料で作製することができる。図に示したもの以外に、様々な取付け構成を使用して、音響変成器1404及びドライバ1414を支持することができる。たとえば、音響変成器1404は、一体式の取付けフランジを有することができ、及び/又は内部取付け側部1412、1416は、ドライバ1414から任意の所望の距離において、音響変成器1404を支持するように別々の形状で作製することができる。
【0018】
[0037]
図15には、例示的な聴取者の耳に対する音響変成器の例示的な向きが示してある。第1の
図1502には、水平に見て聴取者の頭が直立姿勢にある状態で、この聴取者の垂直軸を表す軸1520を基準にして、聴取者の耳介1506及び外耳道の穴1508が示してある。この軸1520はまた、聴取者の頭の側部から見て、この聴取者の頭の垂直軸であるとみなすことができる。
図15には、聴取者の外耳道の穴1508の中心、及び聴取者の耳介1506の上部の幾何学的中心を通過する、耳の中心線1522が示してある。軸1520に対する耳の中心線1522の位置から見て分かるように、聴取者の耳は、この垂直軸1520に対してわずかに後方へ傾斜している。ほとんどの人の耳は、おおよそ10~15度ほどわずかに後方へ傾斜しており、この範囲から外れる場合がある個人差及び統計的外れ値がある。
【0019】
[0038]
図15の第2の
図1504に示すように、音響変成器1510は一般に、垂直軸1520と位置合せされており、その結果、大きい開口1518がこの軸1520の片側にあり、小さい方の開口1512、1514、1516がこの垂直軸1520のもう一方の側にある。これにより、大きい開口1518は、耳介1506の後部に隣接するか、又はその近傍に配置され、小さい方の開口1512、1514、1516は、耳介1506の前部に隣接するか、又はその近傍に配置される。小さい方の開口のうちの1つ又は複数が、場合によっては、図に示すように部分的に、又は全体的に、外耳道の穴1508に部分的に重なることがある(したがって、開口又は外耳道の穴のうちの大きい方が他方を完全に覆うことになる)。例示的な実施形態によっては、音響変成器は、一般にある許容範囲内で、たとえば、プラスマイナス10度以内、若しくはプラスマイナス15度以内、又は10度未満若しくは15度超でもよい他の許容範囲内で、垂直軸1520と位置合せされている。他の実施形態では、音響変成器は一般に、たとえば、プラスマイナス5度以内、若しくはプラスマイナス10度以内、若しくはプラスマイナス15度以内、又はそれより小さくても大きくてもよい他の限度内で、聴取者の耳の中心線1522と位置合せされている。特定の音響変成器1510が
図15に示してあるが、各図で様々に示されていて、及び/又は本明細書に記載されている音響変成器のいずれも、
図15に関して図示され、説明されているのと同じ原理に従って、又、同じ又は同様にして、聴取者の耳又は頭に対して配置又は配向することができる。
【0020】
[0039] 音響変成器を備えたヘッドホンを装着することを聴取者がどのように選択するかは、この変成器が聴取者の耳とどのように位置合せするかに影響を及ぼす場合があると認識されよう。一般に、音響変成器は、ヘッドホンのイヤー・カップ内で配向することができ、したがって、このヘッドホンは、その意図された設計目的に従って装着されると、たとえば、聴取者の頭の頂部にわたってヘッドホンのイヤー・カップ間に延在するヘッドバンドを用いて装着されると、この音響変成器は、聴取者の頭の垂直軸に概ね位置合せされるか、又は聴取者の耳の中心線(又はその両方)に概ね位置合せされる。たとえば、実施形態によっては、音響変成器を、ヘッドホンのヘッドバンドと位置合せすることができ、相対的に小さい1組の開口がヘッドバンドの前方に向いており、相対的に大きい開口がヘッドバンドの後方に向いている。本明細書で様々に記載されているものなど、音響変成器を備えたヘッドホンを特徴とする実施形態によっては、音響変成器は、聴取者がヘッドホンのイヤー・カップ内でそれらを回転又は再配向することができ、及び/又はヘッドホンのヘッドバンド若しくは他の支持構造体に対してイヤー・カップを回転又は再配向することができるように取り付けられ、したがって、聴取者が特定の又は好ましい位置又はやり方でヘッドホンを装着しているとき、音響変成器は、聴取者の耳と有利に位置合せされる。したがって、実施形態によっては、聴取者は、自身の好みに合うように音響変成器の向きをカスタマイズすることができる。
【0021】
[0040]
図2には、相対的に高い周波数を通過させるための三角形状の相対的に小さい開口204、206を有し、音響変成器202の反対側が切り取られた別の例示的な音響変成器202が示してあり、したがって、音響変成器202がドライバに嵌合又は合致すると、相対的に大きい開口が形成されることになり、この開口は、滑らかな縁部、たとえば、くぼんだ又はざらざらした縁部ではなく、滑らかな内縁部208によって示される滑らかな縁部を有することができる。
【0022】
[0041]
図3には、
図2のものと同様であるが、相対的に小さい開口304、306が丸みを帯びた形状を有し、相対的に大きい開口の一部分を形成する内縁部310が、たとえば、内縁部310から反射した音からの共鳴又は歪みを、防止又は改善する助けとなるように、くぼんだ又はざらざらした縁部を含む、別の例示的な音響変成器302が示してある。
【0023】
[0042]
図4には、第4の例示的な音響変成器402が示してあり、これは、円形状の相対的に小さい3つの開口404、406、407と、音響変成器402の外縁部に近接して配置され、円弧と直線によって形成される相対的に大きい開口408とを有し、その両方が滑らかな輪郭を有する。
【0024】
[0043] たとえば、
図1~
図4に示すものを含め、本明細書に記載の音響変成器の例示的な実施形態は、これが形成される板、ディスク、又は要素の表面を完全に通過する開口を含み、したがって、開口は、ドライバの音響面から音響変成器を通って聴取者の耳までのフリーエアの経路の一部分を形成する。
【0025】
[0044] 他の例示的な実施形態では、開口又は開口位置のうちの1つ又は複数を、音響変成器の材料、又はMylar(商標)のような可撓性を有し、及び/又は音響変成器の周囲部分とは異なる音響インピーダンスをもたらす他の特性を有する異なる材料若しくは膜の厚さが相対的に薄いことなど、何らかの物的障壁を有する区域で置換することができる。このような位置は、音響変成器の他の部分よりも多くの音エネルギーを通過させるための音響開口の役割を効果的に果たすことができる。さらに、こうした音響開口での材料及び厚さは、ある特定の音の周波数、又は周波数帯若しくは周波数範囲を通過するように、及び/又は所望の経路遅延を改善すなわち低減するように調整することができる。例示的な材料には、たとえば、布、綿、プラスチック、金属、木材、又は任意の適切な構成(層状、フェルト状、母材の形成、1つ若しくは複数の膜の形成など)での他の任意の物質が含まれ得る。
【0026】
[0045] 開口1210内に異なる材料1208を有する音響変成器1202の横断面図を含む例示的な実施形態が
図12に示してあり、開口1210を通過する音の特定の周波数範囲を概ね減衰又はフィルタリングする。たとえば、この材料1208は、開口1210の音響透過性を変化させることができ、たとえば、開口1210を通過する音の何らかの特定の周波数、又は概ねあらゆる周波数を減衰させることができる。このような音響フィルタリングは、音響変成器での様々な開口に選択的に適用することができ、したがって、開口のうち1つ又は複数が、フィルタリング(たとえば、フィルタリング効果を実現するフィルタ要素の役割を果たす材料を開口内に有する)を含むが、この開口のすべてがフィルタリングを含むわけではない。さらに、又は別法として、異なるフィルタリングを異なる開口に適用することができる。また、音響変成器1202の相対的に薄い部分1204が
図12に示してあり、これが、音響変成器1202の隣接する相対的に厚い部分よりも多くの音が通過する音響開口1212の役割を効果的に果たす。
図12にはまた、開口1200が音響変成器1202に対して垂直に、すなわち直交して位置するのではなく、ある角度が付いており、開口1212の壁1206など、開口の角度が付いた壁がある例示的な一実施形態が示してある。
図12に示す各特徴は、効率的に説明するために相対的に接近して示してあるが、任意の適切なやり方で分散することができ、又は拡大縮小することができる。
【0027】
[0046]
図10及び
図11には、追加の実施形態による様々な開口の詳細を特徴付ける、音響変成器の横断面図が示してある。
図10に示すように、音響変成器部分1001は、壁1002など角度の付いた開口壁に起因して、音響変成器の片側がもう一方の側よりも大きいホーン形状を有する開口1000を備えることができる。開口の壁及び縁部は、様々な形状、たとえば、開口1006について図に示すような面取りされた縁部1004又は丸みを帯びた縁部1010、並びに開口1008の湾曲した壁1012、1014によって図に示すような音響変成器の両側での丸みを帯びた縁部を有することができる。
【0028】
[0047]
図11に示すように、開口の特徴は、たとえば、この開口を通過する音をさらに誘導又は増大させるように、音響変成器の表面から外側に延在することができる。たとえば、開口1100の壁1102は、音響変成器部分1101の表面1112の上方に延在してもよく、壁1102などの壁は、リブ1104などのリブ又はフランジによって支持することができる。さらに、拡張された壁1108を有する開口1106など、相対的に長い壁を有する開口は、音響変成器部分1101の相対的に厚い部分1110、1114によって形成することができる。音響変成器の外縁部を拡張及び/又は成形して、ドライバに対して、及び/又はヘッドホンのイヤー・カップ内において、音響変成器を取り付けるための、又はその位置決めを容易にするための、取付けフランジ又は取付け面を設けることができる。
【0029】
[0048] 例示的な音響変成器の開口の特徴は、これらに限定されるものではないが、音響変成器の材料の肉厚部分、延在部、音響変成器の片側から別の側に延在するときに、様々に角度付けされ、及び/又は輪郭及び表面積が異なる開口、リブ付き又はフランジ付きの支持体又はスプライン、面取りされた、又は他の方法で輪郭付けされた縁部、様々な幾何学的形状又は輪郭を有するくぼみ又は凹部などの規則的な縁部変化、並びに不規則な縁部変化などを含め、様々な特徴を示すことができることが理解されよう。完全に又は部分的に開口を囲繞する隆起区域又は延在部は、口広げ(flaring)又は半径が異なる円筒形、円錐形、台形、又は他の形状を有することができる。さらに、先に考察したように、例示的な音響変成器は、この音響変成器の表面位置とドライバのドライブ面との間に様々な距離を設けるように輪郭付けされた表面を有していて、周波数応答又は機能強化を調整するとともに、ドライバの性能異常を補償することができる。
【0030】
[0049]
図5には、相対的に小さい3つの開口504、506、507と、音響変成器の周りに約半分まで延在し、ざらざらした内端部510を含む、音響変成器502の反対側の側部又は縁部に沿った相対的に大きい開口508とを有する、別の例示的な音響変成器502が示してある。相対的に小さい開口504、506、507は、それぞれ音響変成器502の中心から最も遠い頂点と、音響変成器502の中心に最も近い三角形状の側部とを有する丸みを帯びた三角形状を有することにも注目すべきである。これにより、音響変成器502の中心に相対的に近い、相対的に小さい開口504、506、507の区域がさらに広く効果的に配置される。この構造により、ドライバから音響変成器502を通って聴取者の耳に至る、相対的に高い周波数の音の通過を改善することができるが、それというのも、ドライバの全体にわたって測定すると、相対的に低い周波数は概ね、相対的に大きい強度又はパワーが、ドライバの外周に向かって、又はドライバの相対的に長い半径から到来して、ドライバから生じるが、相対的に高い周波数は、相対的に大きい強度が、ドライバの中心に向かって、又はドライバの相対的に短い半径に沿って到来して、ドライバから生じる傾向があるからである。言い換えれば、市販の数多くのドライバは、このドライバの中心付近で、相対的に高い周波数の音の強度又はパワーを相対的に多く生成し、中心から離れたドライバの外側部分から、相対的に低い周波数の音の強度又はパワーを相対的に多く生成する。
図5に示す三角形状以外の形状を使用することができ、その形状は、ドライバの中心からの放射状の距離に応じて幅が変化し、これは、その放射状の距離においてドライバから生じる音のエネルギー/周波数の分布、及び音響変成器502の耳側での所望のエネルギー/周波数の分布に基づいている。円形で同心の電磁的成分によって駆動されるドライブ・コーンを有する円形のドライバにおいては、このドライバから生じる音のエネルギー/周波数の分布は、一般的に、ドライバの中心からの所与の放射状の距離によって形成又は規定される円に沿って一定であり、何らかの差を生じさせることのある製造のばらつき又は公差、及び場合によってはドライバの全体にわたる過渡的な高調波又は反射などの影響も受けることに留意されたい。実施形態によっては、たとえば、
図5、
図6、
図7、及び
図15に示す実施形態では、具体的には、相対的に小さい開口の境界及び/又は幾何学的中心が、相対的に大きい開口の境界及び/又は幾何学的中心よりも、ドライバのドライブ面の中心に近く配置される。
【0031】
[0050]
図6には、
図2及び
図3に示す音響変成器と構成が同様であるが、二等辺の形状を有する音響変成器602の半径に沿って延在する、相対的に小さい4つの開口604、605、607、609を有し、相対的に大きいその開口が、音響変成器602を包含することになるディスクの半分未満に沿って形成される、第6の例示的な音響変成器602が示してある。音響変成器602の内縁部610は、たとえば
図1、
図3、及び
図5について説明するように、輪郭すなわちざらざら模様を含む。
【0032】
[0051]
図7には、音響変成器702の中心に最も近い(側部の輪郭ではなく)頂点をそれぞれが有する、丸みを帯びた三角形又は涙滴形状を有する相対的に小さい3つの開口704、705、706を有する、別の例示的な音響変成器702が示してある。相対的に大きい開口708は、音響変成器702のディスクの少なくとも半分(180度)に沿って、音響変成器702の外周近くに延在し、くぼみ又はざらざらした輪郭が、内縁部710を含む相対的に大きい開口708のあらゆる縁部に沿って存在する。音響変成器702はまた、この音響変成器702と対をなすドライバの中心から放射される高周波音を通過させるように、細長くて湾曲部を有することのある、中央に配置された小さい開口711を備える。
【0033】
[0052]
図8には、ドライバ805の反対側に配置された例示的な音響変成器の中心部分803との例示的な関係が示してある。話を簡単にするために、ドライバ805は、スピーカ・コーン、ダスト・キャップ、駆動コイルなど、複数の構成要素を有する複合的な物体としてではなく、単一の物体として示してある。音響変成器部分803及びドライバ805のそれぞれの表面804、806の輪郭に注目すべきであり、凸面が凹面に合致していて、音響変成器部分803とドライバ805との間の空気圧縮を容易にし、したがって、ドライバ805の中心付近で生成される相対的に高い周波数の音の強度を増強又は保持する。
【0034】
[0053]
図9には、
図8と同様の実施形態が示してあるが、音響変成器部分903は、ドライバ905の中心の凸面906の反対側に、凹面の輪郭の代わりに直線状すなわち平らな輪郭を有する内面を有する。凸面906の中心は、この凸面906の外側部分よりも音響変成器部分903に近いので、これを使用して、たとえばドライバ905からの相対的に高い周波数の音、たとえば凸面906から生じる相対的に高い周波数の音をいくらか増強又は保持することができ、相対的に低コストで又は単純な音響変成器が実現可能になる。
【0035】
[0054]
図8、
図9に示す音響変成器部分とそれぞれのドライバとの間の距離は、ドライバ/音響変成器システムの相対的に高い周波周での性能の許容できる改善をもたらすのに使用される、特定のドライバに応じて容易に調整することができる。
【0036】
[0055]
図1~
図7に示す音響変成器によって示すように、相対的に小さい開口の数及び相対的な配置は変化することがある。例示的な実施形態では、相対的に小さい開口はそれぞれ、相対的に大きい開口よりも小さく、相対的に大きい開口は、相対的に小さい開口よりも音響変成器の外縁部に向かって配置することができる。実施形態によっては、相対的に大きい開口の面積は、所与の音響変成器における相対的に小さい開口の合計面積を超えることがある。相対的に大きい開口及び相対的に小さい複数の開口を特徴とする他の実施形態では、相対的に小さい開口の合計面積は、相対的に大きい開口の合計面積を超えることがある。
図1に示すように、例示的な音響変成器は、ディスク形状とすることができ、又は、たとえば
図2、
図3、及び
図6に示すように、ディスクの一部分から形成することができ、又は、音響ドライバに対応する、若しくはそれと対をなす他の形状、たとえば2次元の外形を有することができる。
【0037】
[0056] 音響変成器の実施形態によっては、音響変成器における相対的に小さい開口のすべては、形状が同じであり、及び/又は面積が同じである。他の実施形態では、相対的に小さい開口の少なくともいくつかは、その面積と形状の両方が互いに異なる。実施形態によっては、相対的に小さい開口のうち1つ又は複数のそれぞれの面積は、音響変成器の最大の開口若しくは開口区域の面積の5%~10%の範囲内(両端を含む)とすることができ、又は最大の開口若しくは開口区域の面積の10%~15%の範囲内(両端を含む)とすることができ、又は最大の開口若しくは開口区域の面積の15%~20%の範囲内(両端を含む)とすることができ、又は最大の開口若しくは開口区域の面積の20%~25%の範囲内(両端を含む)とすることができ、又は音響変成器の最大の開口若しくは開口区域の面積の25%~30%の範囲内(両端を含む)とすることができる。したがって、たとえば、音響変成器は、最大開口の面積の25%の面積をそれぞれが有する相対的に小さい4つの開口を有することもでき、又は第1の開口が最大の開口若しくは開口区域の面積の10%の面積を有し、第2及び第3の開口が20%の面積を有し、第4の開口が30%の面積を有することもでき、又は第1の開口が5%の面積を有し、第2、第3、及び第4の開口がそれぞれ10%の面積を有することもでき、又は4つの開口すべてがそれぞれ30%の面積を有することもでき、又は第1の開口が7%、第2の開口が13%、第3及び第4の開口が17%を有することなどもできる。
【0038】
[0057]
図13には、相対的に小さい複数の開口又は開口領域1304、1306、1308、1310と、相対的に大きい開口又は開口領域1302とを有し、これらがスロット1312、1314など狭いスロット又は通路によって接続される、音響変成器1300の例示的な一実施形態が示してある。したがって、
図13には実際に、スロット1312、1314など、スロット又は狭い通路によって連続して接続された互いに異なる開口領域1302、1304、1306、1308、1310から構成される1つの開口が示してある。しかし、この実施形態では、各スロットは、所定の閾値を下回る音響効果を有するように十分に狭く、開口の領域又は区域1302、1304、1306、1310の音響効果は、別の所定の閾値を上回る有益な効果を有する。すなわち、各開口領域を接続する狭いスロットのいかなる有害な音響効果も、様々な実施形態による開口領域1302、1304、1306、1310によってもたらされる利益と比較して、無視できるか、又は許容できる。たとえば、製造を容易にするために、又は他の理由で、このようなスロットを備えることができる。実施形態によっては、相対的に小さい開口又は相対的に小さい開口領域(たとえば、聴取者の耳の前部の反対側又はその近くに配置されることになる開口)を連結し、相対的に高い周波数の音が音響変成器を通過するための追加の区域を設けるように、スロットを備えることができる。相対的に小さい開口を接続するスロットの幅は、たとえば、そのスロットが接続する開口の幅又は長さの5~15%とすることができる。有利には、ドライバの音響駆動面を駆動するために、電磁コイル又は「ボイス」コイルを有する音響ドライバを使用する実施形態では、1つ又は複数の相対的に小さい開口を、この開口がコイルの外縁部又は外周に配置されるか、又はそれを覆うように配置することができる。これは、たとえば
図17及び
図18に示してあり、以下でより詳細に説明する。こうしたコイルの外縁部は、音響ドライバによって生成される相対的に高い周波数の音エネルギーのための「ホット・スポット」とすることができ、相対的に小さい開口は、このエネルギーを通過させるために、その上に有利に配置することができ、聴取者、又は大多数の人若しくは複数の聴取者を楽しませる聴取体験をもたらす、相対的に高い周波数のある一定量の音エネルギーを通過させるようにサイズ変更し、又は調整することができる。
【0039】
[0058] さらに、音響変成器内に形成された相対的に大きい開口の縁部の一部又は全部に沿って、くぼみ及び/又は延在部が設けられる場合、このくぼみ又は凹部、及び延在部には、様々な形状、たとえば、正方形、又は三角形/鋸歯、又は平坦な部分がそれらの間にある半円形の「歯」などの規則的な多角形形状をもたせることができ、したがって、規則的なテクスチャを形成し、くぼみ及び/又は延在部、又はざらざらした輪郭の凸部と凹部の比は変化することができる(さらに、凹部が相対的に長くてもよく、又は凸部が相対的に長くてもよい)。さらに、又は別法として、不規則な、又はランダム化された縁部のテクスチャ、たとえばサンドペーパ・タイプのテクスチャを設けることもでき、3次元(音響変成器の長軸又は長手方向に沿ったテクスチャ、並びに音響変成器の厚さ又は深さに沿ったテクスチャを有する)とすることができる。
【0040】
[0059]
図17には、ドライバのドライブ・コイルの外周1714に沿って配置された相対的に小さい開口1704、1706、1708、1710、及び1712と、ドライブ・コイルの外周1714の外側に配置された相対的に大きい開口1716とを有する音響変成器1702が示してある。
【0041】
[0060]
図18には、ドライブ・コイルの外周1814の外側に配置された相対的に大きい開口1812と、幅が狭く、ドライブ・コイルの外周1814の一部分に沿って配置された相対的に小さい単一の開口1804とを有し、追加の開口延在部1806、1808、及び1810が、開口1804の幅の狭い長手方向から外側に延在する音響変成器1802が示してある。これにより、ドライブ・コイル外周の相対的に高い周波数の「ホット・スポット」すなわち帯域からのエネルギーの量を測定し、本明細書に記載の原理及び技法によって、聴取者の耳介の内部に向けてこのエネルギーを誘導することができる。
【0042】
[0061]
図19には、聴取者の耳よりも大きい音響ドライバ、たとえば、聴取者の耳介の大部分又はすべてを越えて延在する音響ドライバを覆う、又は包含するように構成された、音響変成器1902が示してある。
図19に示すように、この音響変成器1902は、音響ドライバのドライブ・コイルの外周1914の内側に置くことができ、又は、図に示すようにドライブ・コイルの外周1914上に置くことができる、相対的に小さい開口1904、1906、1908を含む。相対的に小さい開口1704、1706、1708、1710、1712の広い部分が、ドライブ・コイル外周1714に部分的に重なり合う様子を示す
図17とは対照的に、
図19に示すように、実施形態によっては、相対的に小さい開口の狭い部分が、ドライブ・コイル外周に部分的に重なり合うことができる。1つの理由は、音響ドライバから音響変圧器を通って聴取者の耳までの、相対的に高い周波数のエネルギーの相対的に少ない量を測定すること、又はそれを可能にすることでもよい。具体的には、
図19に示すように、相対的に小さい開口1904、1906、1908の狭い部分が、ドライブ・コイル外周1914上に配置される。
図19はまた、ドライバ・コイルの外周1914内に配置された、相対的に小さい開口1910を含む。
図19はまた、本明細書に記載の他の実施形態により、ドライバ・コイルの外周1914の外側に配置された、相対的に大きい開口1912を含む。
図19はさらに、音響変成器1902の外縁部の近くに配置され、相対的に大きい開口1912よりも音響変成器1902の中心からさらに離れている、相対的に小さい開口1916、1918、1920、1922、1924などの相対的に小さい開口を含む。相対的に小さい開口1916、1918、1920、1922、1924など、こうした相対的に小さい開口は、たとえば
図19に示すように、音響変成器1902の周囲全体にわたって延在することができ、それらの多く又はすべて(たとえば、少なくとも半分)を、聴取者の耳介の外側に置くことができ、又は言い換えると、聴取者の耳介を越えて延在し、聴取者の耳介に部分的に重なったり、又はその上に覆い被さったりすることのない、音響変成器1902の区域に置くことができる。このような場合の例示的な実施形態では、音響変成器1902の周囲に沿ったこうした相対的に小さい開口は、聴取者の耳介の一部又はすべてを越えて延在する音響ドライバによって供給される、余分で不要な相対的に低い周波数のエネルギーを放出することができる。音響ドライバからの相対的に高い周波数の何らかの音エネルギーも、相対的に小さい開口1916、1918、1920、1922、1924など、こうした相対的に小さい開口を通して放出されることになるが、それは、聴取者の耳介の周囲の外側に、及び/又は聴取者の耳介の外側部分に沿って放出されることになる。こういう理由で、又、相対的に高い周波数の音は、相対的に低い周波数の音よりも指向性が強いという事実によって、相対的に小さい開口を通して放出される相対的に高い周波数の音の大部分又はすべては、聴取者の耳介によって捕捉されることはなく、したがって聴取者の耳又は聴覚から効果的に(又、望ましくは)放出されることになる。
【0043】
[0062]
図20には、
図21に示す開口カバー2102とともに、中央開口とその下に配置される開口とを備える組立体を形成する音響変成器2002が示してあり、この両方の開口は、聴取者の外耳道に向けて下向きの角度で音を送る。以下でさらに詳細に説明するように、音響変成器2002と開口カバー2102の両方を設けることにより、この2つを第1の構成で組み合わせて、聴取者の右耳で使用し、又は第2の構成で組み合わせて、聴取者の左耳で使用することができるようになる。
【0044】
[0063] 具体的には、
図20には、相対的に小さい開口2006、2010、2014、2016、及び相対的に大きい開口2004を有する、音響変成器2002が示してある。この音響変成器2002はまた、中央開口2012、及びこの中央開口2012から同様の放射状距離に配置された、2つの湾曲開口2008、2018を備える。
図21には、音響変成器2002上に配置された開口カバー2102が示してある。開口カバー2102は、この開口カバー2102の中心付近に配置された開口2106、及び開口カバー2102の中心から離れて配置された開口2108を備える。例示的な一実施形態では、開口2108は、直径を2ミリメートルとすることができ、開口2106は、直径を3ミリメートルとすることができる。たとえば、開口2108では1~2ミリメートルの範囲、開口2106では2~3ミリメートルの範囲での相対的に小さいサイズ、又は、たとえば、開口2018では2~3ミリメートルの範囲、開口2106では3~4ミリメートルの範囲での相対的に大きいサイズなど、別法として他の開口サイズを使用することができる。開口2106、2108は、円とは異なる形状で設けることができ、たとえば、円形、長円形、多角形、又はこれらの組合せとすることができる。
【0045】
[0064]
図22には、
図21に示す線A-Aに沿った、音響変成器2002及び開口カバー2102の垂直断面図が示してある。
図22に示すように、音響変成器2002及び開口カバー2102が、たとえば
図14及び
図15に示す配置と一致するよう、聴取者の頭と接触するように配置されたヘッドセットのイヤー・カップ内に取り付けられる場合、開口2108、2106は、聴取者の外耳道に向けて下向きに音を送るような角度が付いている。例示的な一実施形態では、開口カバー2102は、聴取者の耳と音響変成器2002との間に配置され、その結果、
図21に示す音響変成器と開口カバーとの組合せが、聴取者の右耳を覆うように配置するために右側のイヤー・カップ内に配置するのに適したものになるはずである。音響変成器2002内に、2つの湾曲開口2018、2008を設けることは、音響変成器2002及び開口カバー2102を容易に組み立てることができ、又は聴取者の右耳又は聴取者の左耳用にマッチさせることができることを意味する。たとえば、
図21に示す開口カバー2102を時計回りに180度回転させて、開口2108が、開口2008の代わりに開口2018を覆うように配置される場合、音響変成器2002と開口カバー2102との組合せが、聴取者の左耳を覆うように配置するためにヘッドホンのイヤー・カップで使用するのに適したものになるはずである。例示的な一実施形態では、湾曲開口2018、2008は、音響変成器2002と対をなすドライバのドライブ・コイルの内周上に、又は単に内側に配置される。
【0046】
[0065] あるいは、例示的な一実施形態では、開口2018及び2008、並びに開口カバー2102も音響変成器に設ける代わりに、この開口カバー2102を省略することができ、その代わりに、中央開口2012、及び開口2108に対応する開口(開口2018、2008の代わりに)を音響変成器に設けることができる。この実施形態では、音響変成器の左耳バージョン及び右耳バージョンが存在することになり、大きい開口2004及び相対的に小さい開口2006、2010、2014、2016の配置が、開口2012と、開口2108に対応する開口とによって形成される軸を中心に入れ替わり、その結果、ヘッドホンが聴取者の頭に配置されると、各ヘッドホンのイヤー・カップでの大きい開口2004が、聴取者の耳介の後部の反対側に配置されるようになる。この実施形態では、中央開口2012、及び開口2108に対応する開口もまた、たとえば
図22に示すように、開口2108、2106の角度と一致するように角度を付けることができる。
【0047】
[0066]
図20、
図21に示す開口2106、2108など、角度の付いた開口は、開口カバーを有するか、又は開口カバーを省略する音響変成器の専用の左右バージョンを有する他の音響変成器で、同様に実装することができる。すなわち、
図1~5に示す音響変成器など、他の音響変成器は、開口2106、2108のような開口を備えるように同様に構成することができる。
【0048】
[0067] 様々なサイズ及び構成で、様々なドライバが存在してもよく、本明細書に記載の原理及び例示に従って、それらにマッチするように音響変成器を実現することができる。例示的な音響変成器は、ドライバのドライブ面よりも大きくても、小さくても、又はそれと同一の広がりをもっていてもよい。たとえば、様々な実施形態の音響変成器は、ドライバ面の外周を越えて延在してもよく、又はその外周内に留まってもよく、特定のドライバの音響の特性及び異常、又はドライバのモデル、又はドライバのタイプにマッチするように構成することができる。たとえば、ドライバの能動的なドライブ面が、1つ又は複数の寸法又は方向において、聴取者の耳の寸法を超える状況では、例示的な実施形態によれば、たとえば先に述べたように、開口又は開口領域が、目的にかなうように聴取者の耳に位置合せされた能動的なドライブ面の寸法にマッチするように、音響変成器をサイズ調整することができる。あるいは、聴取者の耳の正反対にある能動的なドライブ面の各部分と主に相互作用するように、音響変成器をサイズ調整することができる。場合によっては、たとえば開口又は開口領域が存在しないことにより、又、場合によっては、音響変成器の隣接又は対応するそうした要素において設けられた吸音材料又は偏向材料を用いて、音響変成器の隣接又は対応する各要素によって、聴取者の耳の境界を越えて延在する音響変成器の各要素を遮断し、又は減衰させることができる。さらに、聴取者の耳に向けて提示されるか、又は音伝搬の意図された方向で、すなわち円形状で提示されるので、ドライバの周囲は全周とすることもでき、又は能動的な面、若しくは音を生成する面の一部とすることができる。あるいは、こうした周囲の片方又は両方は、六角形、多角形、円形、楕円形、長円形、卵形、いくらかの直線縁部といくらかの曲線縁部を有する多角形、又は他の任意の適切な形状など、様々な多角形又は丸みを帯びた形状を有することができ、本明細書に記載の音響変成器はまた、ドライバの全周又は能動的な面の周囲の、片方又は両方にマッチするように、又は両立するように形状付けることができる。
【0049】
[0068] 本明細書に記載の音響変成器は、プラスチック、金属、ガラス、セラミック、木材、若しくは他の材料、又は、たとえば剛性、堅さ、及び/又は音響の不透明性など、適切な特性を有する適切な材料の複合材を含むが、それらには限定されない、様々な材料及び/又は材料の複合材から作製できることが当業者には理解されよう。
【0050】
[0069] 例示的な実施形態について、本明細書において動的なコーン又はコイルのドライバを説明し、図示してきた。本明細書において説明し、図示したものと一致する音響変成器の例示的な実施形態は、ヘッドホン性能において同じ又は同様の有益な効果を有し、様々な形状を有することのできる、様々な種類又はタイプの音の生成器又は磁気増幅器とともに実装することもできる。たとえば、平面の磁気ドライバ、静電スピーカ、圧電素子を有するドライバ又はスピーカ、及びリボン・スピーカ又はリボン・ドライバである。音の生成器又は磁気増幅器は、境界が円形、長方形、又は他の形状であるドライブ面を有することができ、例示的な実施形態では、音響変成器は、対応する形状若しくは境界、又は有効面を有することができ、これらは、対をなす音の生成器又は磁気増幅器の、形状若しくは境界、又は有効面とマッチし、又はそれに対応する。
【0051】
結論
[0070] 構造上の特徴及び/又は方法若しくはプロセスの作用に特有の用語で、これまで主題について述べてきたが、特許請求の範囲で定義される主題は、前述の具体的な特徴又は作用を限定するものではないことを理解されたい。特許請求の範囲を様々に実施することのできる例として、本明細書に記載の実施形態、方法、及び特徴が開示されている。
【国際調査報告】