(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(54)【発明の名称】セラミックターゲットから堆積されたAlリッチな立方晶AlTiNコーティング
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20220111BHJP
B23P 15/28 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
C23C14/06 A
B23P15/28 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021525266
(86)(22)【出願日】2019-11-11
(85)【翻訳文提出日】2021-07-06
(86)【国際出願番号】 EP2019080809
(87)【国際公開番号】W WO2020094882
(87)【国際公開日】2020-05-14
(32)【優先日】2018-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598051691
【氏名又は名称】エリコン・サーフェス・ソリューションズ・アクチェンゲゼルシャフト,プフェフィコーン
【氏名又は名称原語表記】OERLIKON SURFACE SOLUTIONS AG, PFAEFFIKON
(71)【出願人】
【識別番号】000233066
【氏名又は名称】株式会社MOLDINO
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤラマンチリ,シバ・ファニ・クマール
(72)【発明者】
【氏名】クラポフ,デニス
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智也
(72)【発明者】
【氏名】クボタ,カズユキ
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029BA03
4K029BA16
4K029BA17
4K029BA58
4K029BB02
4K029BB08
4K029BC02
4K029BD05
4K029CA03
4K029CA05
4K029CA13
4K029DA08
4K029DC05
4K029DC39
4K029DD06
4K029EA01
4K029JA02
4K029JA05
(57)【要約】
本発明は、アルミニウムリッチなAlxTi1-xNベースの薄膜を製造するための非反応性PVDコーティングプロセスを開示し、上記アルミニウムリッチなAlxTi1-xNベースの薄膜は、薄膜におけるアルミニウムおよびチタンの総量に基づくアルミニウム含有量が>75原子パーセントであって、立方晶構造と柱状の微細構造とを有し、アルミニウムリッチなAlxTi1-xNベースの薄膜のための材料源としてセラミックターゲットが使用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムリッチなAl
xTi
1-xNベースの薄膜を製造するための非反応性PVDコーティングプロセスであって、前記アルミニウムリッチなAl
xTi
1-xNベースの薄膜は、前記薄膜におけるアルミニウムおよびチタンの総量に基づくアルミニウム含有量が>75原子パーセントであって、立方晶構造と柱状の微細構造とを有し、前記アルミニウムリッチなAl
xTi
1-xNベースの薄膜のための材料源としてセラミックターゲットが使用される、コーティングプロセス。
【請求項2】
前記セラミックターゲットは、窒化物および/または酸化物および/または炭化物の形態で形成される、請求項1に記載のコーティングプロセス。
【請求項3】
コーティング対象の基板には負のバイアス電圧が印加され、前記基板に印加される前記バイアス電圧は、<120V、好ましくは<100V、特に<80Vである、請求項1または2に記載のコーティングプロセス。
【請求項4】
前記セラミックターゲットは、AlおよびTiを含み、前記ターゲットにおけるアルミニウムおよびチタンの総量に基づくアルミニウム含有量は、50原子パーセントよりも高い、先行する請求項のいずれか1項に記載のコーティングプロセス。
【請求項5】
前記コーティングは、反応性ガスを使用することなく行われる、先行する請求項のいずれか1項に記載のコーティングプロセス。
【請求項6】
前記アルミニウムリッチなAl
xTi
1-xNベースの薄膜のためのターゲット材料としてAlN
80TiN
20が使用される、先行する請求項のいずれか1項に記載のコーティングプロセス。
【請求項7】
非反応性PVDコーティングプロセスとしてスパッタリング技術、特にHiPIMSまたはアークPVDコーティングプロセスが使用される、先行する請求項のいずれか1項に記載のコーティングプロセス。
【請求項8】
前記セラミックターゲットは、AlおよびTiとは別の他の元素、好ましくは遷移金属、より好ましくはZrおよび/またはNbおよび/またはTaも含む、先行する請求項のいずれか1項に記載のコーティングプロセス。
【請求項9】
多層薄膜を製造するために、複数のアルミニウムリッチなAl
xTi
1-xNベースの薄膜が上下に堆積される、先行する請求項のいずれか1項に記載のコーティングプロセス。
【請求項10】
前記基板の温度は、100℃~350℃、好ましくは150℃~250℃、特に200℃~250℃である、先行する請求項のいずれか1項に記載のコーティングプロセス。
【請求項11】
アルミニウムリッチなAl
xTi
1-xNベースの薄膜であって、前記アルミニウムリッチなAl
xTi
1-xNベースの薄膜は、前記薄膜におけるアルミニウムおよびチタンの総量に基づくアルミニウム含有量が>75原子パーセントであって、立方晶構造と柱状の微細構造とを有し、請求項1~10のいずれか1項に記載のプロセスによって製造可能である、アルミニウムリッチなAl
xTi
1-xNベースの薄膜。
【請求項12】
層厚みは、>200nm、好ましくは>300nm、特に>500nmである、請求項11に記載のアルミニウムリッチなAl
xTi
1-xNベースの薄膜。
【請求項13】
前記薄膜は、表面粗さR
zが<0.8μm、好ましくは<0.7μmである、請求項11または12のいずれか1項に記載のアルミニウムリッチなAl
xTi
1-xNベースの薄膜。
【請求項14】
前記立方晶構造は、平均粒径が15nmを越える結晶粒を含む、請求項11~13のいずれか1項に記載のアルミニウムリッチなAl
xTi
1-xNベースの薄膜。
【請求項15】
前記薄膜は、前記薄膜におけるアルミニウムおよびチタンの総量に基づくアルミニウム含有量が>76原子パーセント、好ましくは>80原子パーセント、より好ましくは>85原子パーセントである、請求項11~14のいずれか1項に記載のアルミニウムリッチなAl
xTi
1-xNベースの薄膜。
【請求項16】
前記薄膜は、アルミニウムおよびチタンに加えて、他の金属元素、好ましくは遷移金属、より好ましくはZrおよび/またはNbおよび/またはTaを含む、請求項11~15のいずれか1項に記載のアルミニウムリッチなAl
xTi
1-xNベースの薄膜。
【請求項17】
前記薄膜は、上下に堆積された少なくとも2つのアルミニウムリッチなAl
xTi
1-xNベースの薄膜を備える多層構造の形態で形成される、請求項11~16のいずれか1項に記載のアルミニウムリッチなAl
xTi
1-xNベースの薄膜。
【請求項18】
工具、特に切削工具または成形工具を製造するための、請求項11~17のいずれか1項に記載の構造の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Al含有量が(原子百分率割合で)x>0.75であって、かつ、柱状構造を有する立方晶相を示すAlリッチなAlxTi1-xNコーティングの堆積に関し、コーティングの堆積のための材料源としてセラミックターゲットが使用される。
【0002】
本発明は、Al含有量が75原子パーセントを上回り、さらには78原子パーセントを上回り(Al含有量とTi含有量との合計を100%として考える。したがって、たとえばAlxTi1-xNコーティング層のAl含有量が80原子パーセントであることを示す場合、それはx=0.80であることを意味する。)、かつ、柱状の微細構造を示すAlリッチなAlTiNコーティングを確実な態様で合成するためのPVD法の使用を可能にする。
【背景技術】
【0003】
技術水準
Al含有量が75原子パーセントを上回り、立方晶構造および柱状の微細構造を示す現在利用可能な(薄膜タイプの)AlリッチなAlTiNコーティングは、既に公知のLP-CVDプロセスによって合成可能である。これらの種類のコーティングは、Al0.67Ti0.33NコーティングなどのAl含有量が低いコーティングと比較して、優れた摩耗保護を示すことが予想されるので、かなり注目されてきた。この優位性は、切削工具、成形工具、および広範囲の用途における部材で期待される。
【0004】
本発明の文脈における薄膜という用語は、ナノメートル~数マイクロメートルの厚みを有するコーティングまたはコーティング層を指すものとして理解されるべきである。
【0005】
本発明の文脈におけるAlリッチなAlTiNという用語は、チタンよりも多くの量のアルミニウムを含むAlTiNコーティングまたはコーティング層を指すものとして理解されるべきである。特に、本発明は、Al/Tiの比率(Alの含有量(原子百分率)/Tiの含有量(原子百分率))が3よりも大きなAlリッチなAlTiNコーティングまたはコーティング層を指す。
【0006】
歴史的に見て、PVD法を使用して、AlTiN膜内のAlが最大70原子パーセントである状態で準安定立方晶相を成長させることができる、ということが知られていた。
【0007】
EP 2 247 772 B1は、互いに交互に堆積された2つの異なる種類の層を備え、より正確には立方晶構造の(Ti1-xAlx)N層(0.3<x<0.95)と、立方晶構造のMeN層(Meは、金属元素Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、MoおよびAlのうちの1つまたはそれ以上である)とを備える多層構造を開示している。しかし、EP 2 247 772 B1によれば、この多層構造に含まれる(Ti1-xAlx)N層の厚みは、20nm未満である。
【0008】
EP 2 926 930 B1は、(AlxTi1-x)N(0.5≦x≦0.8)のハードコーティング層であるが、立方晶相および六方晶相の両方の相を備える(AlxTi1-x)Nコーティング層を堆積させる方法を開示している。
【0009】
US 10 184 187 B2は、(M1-xAlxN)層(xは0.7~0.85である)であるが、ウルツ鉱型相を備える(M1-xAlxN)層の製造方法を開示しており、ウルツ鉱型相の含有量は、1~35重量パーセント(重量百分率)である。
【0010】
さらに、WO 2019/048507 A1は、Alリッチな立方晶AlTiNを成長させる方法を開示している。ここでは、発明者等は、予め定められたプロセスパラメータセットを特定の範囲内に調整することによってHiPIMS技術を使用する反応性PVDプロセスを使用して、Al含有量が75原子パーセントを上回るAlリッチなAlTiNを合成できるかどうかを実験した。これらのプロセスパラメータは、たとえば電力密度およびパルス長を含む。WO 2019/048507 A1に記載されている反応性PVDプロセスによれば、非常に重要なパラメータはN2分圧である。非常に狭い範囲のN2分圧値の中でしか立方晶相が形成されないことが認められた。N2圧力がこの特定の範囲内の値よりも低いまたは高い場合には、六方晶相が形成され、これは望ましくない。これによってプロセスは複雑になる。なぜなら、最適な分圧は、使用される各々の特定のターゲットについて、またターゲットの重量または厚みによっても、常に較正されなければならないからである。つまり、所望のコーティングを製造するために必要なN2消費量、したがって必要なN2分圧は、ターゲットの寿命によってさまざまであるということである。さらに、Al80Ti20Nを製造するための立方晶相(たとえば、>120V)を形成するためには、(絶対値で)高い負の基板バイアスが必要である。このような高いバイアス電圧値を使用することによって、非常に高い内部応力(PVDによって堆積された場合、通常は固有の圧縮応力)を示す膜が成長し、特にコーティングの厚みが増加することによってコーティングのフレーキングを生じさせる可能性がある。
【0011】
セラミックターゲットの使用は避けられる。なぜなら、それらの使用は、繰り返される温度サイクリングと組み合わさったそれらの固有のもろい性質により、亀裂を生じさせることが知られており、この亀裂は、スパッタリングまたはアーク放電プロセスを使用したターゲット材料の蒸着中にターゲットに影響を及ぼす。亀裂が入ったターゲットは、アーク放電プロセスでは使用できない。なぜなら、アークは、亀裂を通り抜けて堆積チャンバ部材の損傷を生じさせるからである。同様に、亀裂が入ったターゲットは、スパッタリングプロセスでは適切に使用できない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的
本発明の目的は、先行技術に関連する1つまたは複数の問題を軽減または克服することである。特に、本発明の目的は、立方晶相の(AlxTi1-x)N形式の構造のアルミニウムリッチな薄膜を、簡単で確実な環境に優しい態様で製造することを可能にするPVDコーティングプロセスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の説明
発明者等は、反応性のN2含有雰囲気において金属AlTiターゲットを蒸着またはスパッタリングする任意の一般的な反応性PVDプロセスを使用するのではなく、コーティングチャンバ内でいかなる反応性ガスも必要とすることなくセラミックAlTiNターゲットをスパッタリングまたは蒸着する非反応性PVDプロセスを使用することにした。
【0014】
したがって、本発明の第1の局面では、アルミニウムリッチなAlxTi1-xNベースの薄膜を製造するための非反応性PVDコーティングプロセスが開示されており、上記アルミニウムリッチなAlxTi1-xNベースの薄膜は、上記薄膜におけるアルミニウムおよびチタンの総量に基づくアルミニウム含有量が>75原子パーセントであって、立方晶構造と柱状の微細構造とを有し、上記アルミニウムリッチなAlxTi1-xNベースの薄膜のための材料源としてセラミックターゲットが使用される。
【0015】
この本発明の構成を使用することによって、立方晶相で成長するが、金属ターゲットおよび反応性ガスとしてのN2を有する反応性プロセスを使用する場合よりもはるかに低い基板バイアスを含む、より広範なパラメータウィンドウ、したがってはるかに広範なパラメータ動作範囲を有するAlリッチなAlTiN膜を製造することが驚くほどに可能であった。
【0016】
本発明に係る立方晶構造および柱状の微細構造は、好ましくはもっぱら立方晶の構造およびもっぱら柱状の微細構造を意味する。しかし、これは、薄膜におけるアルミニウムおよびチタンの総質量に対して好ましくは1原子パーセント未満の微量または少量が異なる相または構造を有していてもよいということを意味するものではない。本発明はさらに、非反応性コーティングプロセスを、好ましくは亀裂(この点について、「亀裂」という用語は、コーティングのフレーキングまたは剥離を指すために使用される)を防止するために120V未満のバイアス電圧が基板に印加されるコーティングプロセスとして定義する。
【0017】
本発明は、さらなる元素または成分を含むAlTiNコーティング(AlTiN薄膜)を製造するためのさらなる元素を含むセラミックターゲットの使用も含む。したがって、第1の局面の一例では、セラミックターゲットは、窒化物に加えて、他の成分、たとえば酸化物、炭化物、ケイ化物またはホウ化物も含み得る。
【0018】
第1の局面の別の例では、コーティング対象の基板には負のバイアス電圧が印加され、上記基板に印加される上記バイアス電圧は、<120V、好ましくは<100V、特に<80Vである。
【0019】
第1の局面の別の例では、上記セラミックターゲットは、AlおよびTiを含み、上記ターゲットにおけるアルミニウムおよびチタンの総量に基づくアルミニウム含有量は、50原子パーセントよりも高い。
【0020】
第1の局面の別の例では、上記コーティングは、反応性ガスなしに行われる。本発明に係るプロセスは、いかなるN2ガスフローもコーティングチャンバに導入しなくてもよいので、プロセスは、非常に安定的であり、比較的単純であり、パラメータの動作範囲が広範である。
【0021】
第1の局面の別の例では、上記アルミニウムリッチなAlxTi1-xNベースの薄膜のためのターゲット材料としてAlN80TiN20が使用される。この例によれば、AlN相の割合が大きく、それが半導性特性を有するという事実にもかかわらず、安定した放電が得られた。さらに、たとえば-80Vのバイアス電圧を使用することによって、より低い基板バイアスで立方晶形態のコーティングを成長させることができた。Al含有量がx=0.78までのAlxTi1-xNを製造することができた。驚くべきことに、このようなコーティングにおける固有応力は、反応性PVD法を使用するよりも大幅に低かった。セラミックターゲットが、繰り返される温度サイクリングと組み合わさったそれらの固有のもろい性質により、スパッタリングおよびアーク放電プロセス中に亀裂を生じさせるということが知られていたにもかかわらず、AlN含有量が高い(50原子パーセントよりも高い)ターゲットを使用することによって、ターゲット亀裂なしに本発明のプロセスを実行することが驚くほどに可能であった。特に、組成AlN50TiN50を有するセラミックターゲットを有するターゲットとは対照的に、組成AlN80TiN20を有するセラミックターゲットは、亀裂を生じさせず、安定的かつ再現可能なコーティングプロセスを実行することを可能にする。言い換えれば、AlNTiNターゲットにおいてより高いAlN含有量を使用することによって亀裂を抑制することができ、特にAlN80TiN20セラミックターゲットを使用することによって非常に優れた結果(亀裂なし)が観察された。
【0022】
第1の局面の別の例では、非反応性PVDコーティングプロセスとしてスパッタリング技術、特にHiPIMSまたはアークPVDコーティングプロセスが使用される。特に、(たとえば、AlN含有量がTiNよりも高いAlNTiN、たとえばAlN80TiN20のセラミックターゲットを使用することによる)上記の亀裂抑制は、セラミックターゲットからの本発明のコーティングのコーティング堆積にアークPVD技術を使用することを可能にする。
【0023】
第1の局面の別の例では、上記セラミックターゲットは、他の元素、たとえばAlおよびTiとは別の他の金属元素、好ましくはその他の遷移金属、より好ましくはZrおよび/またはNbおよび/またはTaも含む。
【0024】
第1の局面の別の例では、多層薄膜を製造するために、複数のアルミニウムリッチなAlxTi1-xNベースの薄膜が上下に堆積される。
【0025】
第1の局面の別の例では、上記基板の温度は、100℃~350℃、好ましくは150℃~250℃、特に200℃~250℃である。
【0026】
第2の局面では、アルミニウムリッチなAlxTi1-xNベースの薄膜が開示されており、上記アルミニウムリッチなAlxTi1-xNベースの薄膜は、上記薄膜におけるアルミニウムおよびチタンの総量に基づくアルミニウム含有量が>75原子パーセントであって、立方晶構造と柱状の微細構造とを有し、上記のプロセスによって製造可能である。
【0027】
第2の局面の別の例では、上記アルミニウムリッチなAlxTi1-xNベースの薄膜の厚みは、≧200nm、好ましくは≧300nm、特に≧500nmである。
【0028】
本発明の好ましい実施形態によれば、上記アルミニウムリッチなAlxTi1-xNベースの薄膜の厚みは、0.5μm~20μmである。
【0029】
本発明の文脈におけるアルミニウムリッチなAlxTi1-xNベースの薄膜は、少なくとも1つのAlリッチなAlxTi1-xNコーティング層(x>0.75)を備えるコーティング、または主としてAlxTi1-xN(x>0.75)を含む少なくとも1つの層を備えるコーティングとして理解されるべきであり、いずれの場合も、上記の少なくとも1つの層の厚みは、好ましくは200nmまたはそれ以上である。さらに、アルミニウムリッチなAlxTi1-xNベースの薄膜は、単層である1つの層によって形成されてもよく、または多層である2つ以上の層によって形成されてもよい。
【0030】
第2の局面の別の例では、上記薄膜は、表面粗さRzが<0.8μm、好ましくは<0.7μmである。
【0031】
第2の局面の別の例では、上記立方晶構造は、平均粒径が15nmを超える結晶粒を含む。
【0032】
第2の局面の別の例では、上記アルミニウムリッチなAlxTi1-xNベースの薄膜は、上記薄膜におけるアルミニウムおよびチタンの総量に基づくアルミニウム含有量が>76原子パーセント、好ましくは>80原子パーセント、より好ましくは>85原子パーセントである。
【0033】
第2の局面の別の例では、上記アルミニウムリッチなAlxTi1-xNベースの薄膜は、アルミニウムおよびチタンに加えて、他の金属元素、好ましくは遷移金属、より好ましくはZrおよび/またはNbおよび/またはTaを含む。
【0034】
第2の局面の別の例では、上記薄膜は、上下に堆積された少なくとも2つのアルミニウムリッチなAlxTi1-xNベースの薄膜を備える多層構造の形態で形成される。
【0035】
第3の局面では、工具、特に切削工具または成形工具を製造するための上記の構造の使用が開示されている。上記の説明は、本発明を限定するものとして考えられるべきではなく、本発明をより詳細に理解するための単なる例として考えられるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1(a)は、N
2分圧に応じたw-AlNの割合、N
2消費量(成長率/単位時間)の変化の概略図であり、
図1(b)は、さまざまなN
2分圧におけるXRDスペクトルを示す図である。
【
図2】
図2(a)は、基板バイアス電圧に応じたw-AlNの割合の概略図であり、
図2(b)は、さまざまな基板バイアスにおいてAl
80Ti
20ターゲットから合成されたAlTiNコーティングのXRDスペクトルを示す図である。
【
図3】セラミックターゲットから膜を成長させるために使用されるコンビナトリアル堆積機構の概略図である。
【
図4】TiNAlNのセラミックターゲットの光学写真およびSEM顕微鏡写真を示す図である。
【
図5.1】セラミックターゲットを使用してコンビナトリアルアプローチによって成長させた膜を示す図である。
【
図5.2】セラミックターゲットを使用してコンビナトリアルアプローチによって成長させた膜を示す図である。
【
図5.3】セラミックターゲットを使用して成長させた膜を示す図である。
【
図6】金属ターゲットおよびセラミックターゲットを用いて成長させた膜を示す図である。
【
図7】AlN
77TiN
23ターゲットを使用して成長させた膜を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下の図面は、本発明を理解するのに役立つように意図されているが、本発明を限定することを意図したものではない。
【0038】
図1は、200Cの基板温度および0.2PaのAr分圧でAl
80Ti
20金属ターゲットから合成されたAlTiNコーティングの構造進化に対するN
2分圧の影響を示す。
図1(a)は、N
2分圧に応じたw-AlNの割合、N
2消費量(成長率/単位時間)の変化を示す。注釈付きテキストは、金属、遷移および化合物スパッタリングモードに対応する反応性ガスの分圧を示している。
図1(b)は、0.09Pa、0.11Pa、0.13Paおよび0.15Pa(1、2、3および4に連続して対応する)のさまざまなN
2分圧におけるXRDスペクトルを示す。
【0039】
図2は、金属ターゲットを使用したAlTiN合金の構造進化に対する基板バイアスの影響を示す。
図2(a)は、基板バイアス電圧に応じたw-AlNの割合を示す。データは、xrdスペクトル(F w-AlN:ウルツ鉱型相の強度/Σ(立方晶相の強度+ウルツ鉱型相の強度)から抽出される。
図2(b)は、80V、120Vおよび200Vのさまざまな基板バイアスにおいてAl80Ti20ターゲットから合成されたAlTiNコーティングのXRDスペクトルを示す。
【0040】
図3は、セラミックターゲットから膜を成長させるために使用されるコンビナトリアル堆積機構の概略図である。
【0041】
図4は、受け取ったままの状態および6回の堆積後のTiNAlNのセラミックターゲットの光学写真およびSEM顕微鏡写真を示す。TiN
50AlN
50ターゲットは亀裂を示しており、TiN
20AlN
80は数回のプロセスの繰り返し後もこのような亀裂を示していないことに注目されたい。
【0042】
図5.1は、セラミックターゲットを使用してコンビナトリアルアプローチによって成長させた膜を示す。
図5.1(a)は、バッチパラメータを示し、
図5.1(b)は、基板ホルダのさまざまな位置における膜の組成を示し、
図5.1(c)は、X-SEM顕微鏡写真およびXRDプロットを示す。注釈:Sは基板ピークであり、Cは立方晶のピークであり、Wはウルツ鉱型相である。
図5.1に示されるように、以下のコーティングパラメータ、すなわち電力密度:1kW/cm
2、パルス時間:5ms、窒素分圧:0Pa(0sccmの窒素ガスフローに対応する)およびアルゴンガスフロー:40sccmを使用した。
【0043】
図5.2は、セラミックターゲットを使用してコンビナトリアルアプローチによって成長させた膜を示す。
図5.2(a)は、バッチパラメータを示し、
図5.2(b)は、基板ホルダのさまざまな位置における膜の組成を示し、
図5.2(c)は、X-SEM顕微鏡写真およびXRDプロットを示す。注釈:Sは基板ピークであり、Cは立方晶のピークであり、Wはウルツ鉱型相である。
図5.2に示されるように、以下のコーティングパラメータ、すなわち電力密度:1kW/cm
2、パルス時間:5ms、窒素分圧:0Pa(窒素ガスフロー:0sccm)およびアルゴンガスフロー:300sccmを使用した。
【0044】
図5.3は、セラミックターゲットを使用して成長させた膜を示す。
図5.3(a)は、バッチパラメータを示し、
図5.3(b)は、基板ホルダのさまざまな位置における膜の組成を示し、
図5.3(c)は、X-SEM顕微鏡写真およびXRDプロットを示す。注釈:Sは基板ピークであり、Cは立方晶のピークであり、Wはウルツ鉱型相である。
図5.3に示されるように、以下のコーティングパラメータ、すなわち電力密度:1kW/cm
2、パルス時間:5ms、窒素分圧:0Pa(窒素ガスフロー:0sccm)およびアルゴン分圧:60Paを使用した。
【0045】
図5.1、
図5.2および
図5.3に示される例では、コーティング対象の基板は、エリコン・バルザースによって製造されたIngenia S3pタイプのコーティング機に設置された取付具システムを使用して保持された。これらの例では、2種類の回転可能な取付具部材を備える取付具システムが使用された。第1の回転を生じさせるために、カルーセルと呼ばれる第1の種類の回転可能な取付具部材がコーティングチャンバの中央に公知の態様で設置された。第2の回転を生じさせるために、このカルーセルの上に、第2の種類の回転可能な取付具部材が同様に公知の態様で設置された。コーティング対象の基板は、第2の種類の回転可能な取付具部材内に保持された。カルーセルの回転速度は、
図5.1、
図5.2および
図5.3のそれぞれに示されるように、30秒/回転であった。しかし、使用されるコーティング機および取付具システムの種類は、本発明を限定するものとして理解されるべきではない。同様に、
図5.1、
図5.2および
図5.3に示される例で使用されるコーティングパラメータは、本発明を限定するものとして理解されるべきではない。
【0046】
図6は、3つの異なる条件で金属ターゲットおよびセラミックターゲットを用いて成長させた膜を示す。
図6に示されるように、上の行におけるアプローチで使用された条件は、0.1PaのAr圧力と0.04PaのN圧力との混合物、温度:200℃および電圧:150Vであった。しかし、真ん中の行におけるアプローチで使用された条件は、Arガスフロー:60秒、温度:300℃および電圧:150Vであった。下の行におけるアプローチで使用された条件は、Arガスフロー:40秒、温度:300℃および電圧:80Vであった。なお、セラミックターゲットでは、わずか80Vのバイアスを使用してAl濃度が78原子パーセントまでで立方晶相を実現することができる。金属ターゲットでは、立方晶相を成長させるために、120Vを上回る高いバイアスが要求される。
【0047】
顕微鏡写真は、左から右に、チャンバの底部、中央部および上部である。
上記の例およびコンビナトリアル設計実験に基づいて、カルーセル長さに沿った立方晶相成長の均一性をテストするために、Alが77原子パーセントであるセラミックターゲットが選択された。
【0048】
この方法で成長させたコーティングのさらなる特徴は、表面粗さが比較的低いことであり、Ra値は、0.03±0.01μmであり、Rz値は、0.6±0.01μmである。以下の
図7(a)は、calo研削前のコーティング表面を示し、
図7(b)は、calo研削後のコーティング表面を示し、
図7(c)は、本発明の方法を使用して成長させたコーティングの測定されたプロファイルを示す。
【国際調査報告】