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特表2022-507179発熱体のクロム合金化モリブデンシリサイド部分を製造するための新しい方法
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  • 特表-発熱体のクロム合金化モリブデンシリサイド部分を製造するための新しい方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(54)【発明の名称】発熱体のクロム合金化モリブデンシリサイド部分を製造するための新しい方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/58 20060101AFI20220111BHJP
【FI】
C04B35/58 092
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021525631
(86)(22)【出願日】2019-11-15
(85)【翻訳文提出日】2021-07-06
(86)【国際出願番号】 EP2019081506
(87)【国際公開番号】W WO2020099644
(87)【国際公開日】2020-05-22
(31)【優先権主張番号】18206793.4
(32)【優先日】2018-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591098101
【氏名又は名称】カンタール・アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ストレーム, エリック
(72)【発明者】
【氏名】イバーマーク, マリア
(57)【要約】
発熱体のクロム合金化モリブデンシリサイド部分を製造する方法であって、
- クロム粉末とケイ素粉末の混合物を形成する工程と;
- 不活性雰囲気中、少なくとも1100℃であるが1580℃以下の温度で混合物を反応させて反応生成物とする工程と;
- 反応生成物をCrSiを含む粉末に変換する工程と;
- CrSiを含む粉末を、MoSi粉末、および任意選択で押出助剤と混合することにより、粉末セラミック組成物を形成する工程と;
- 発熱体の部分を成形する工程と;
- 約1450℃~約1700℃の温度で発熱体の部分を焼結する工程と;
を含み、クロム粉末とケイ素粉末が別々に混合物に供給されることを特徴とする、方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱体のクロム合金化モリブデンシリサイド部分を製造する方法であって、
クロム粉末とケイ素粉末の混合物を形成する工程と;
不活性雰囲気中、少なくとも1100℃であるが1580℃以下の温度で混合物を反応させて反応生成物とする工程と;
反応生成物をCrSiを含む粉末に変換する工程と;
CrSiを含む粉末を、MoSi粉末、および任意選択で押出助剤と混合することにより、粉末セラミック組成物を形成する工程と;
発熱体の部分を成形する工程と;
約1450℃~約1700℃の温度で発熱体の部分を焼結する工程と;
を含み、
クロム粉末とケイ素粉末が別々に混合物に供給されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
成形する工程が、粉末セラミック組成物を押し出して発熱体の部分とすることである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
成形する工程が、セラミック粉末組成物を静水圧成形プレスプロセスに付すことを含み、前記プロセスが、
セラミック粉末組成物を、所望の物体の形状の少なくとも一部を有するカプセルに添加する工程と;
前記カプセルに所定温度で所定時間、所定圧力を加える工程と
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
発熱体の部分を、焼結前に任意選択で予備焼結する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
予備焼結工程が、不活性雰囲気中、約1400℃~約1600℃の温度で行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
押出助剤が無機質粘土である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
無機質粘土がケイ酸アルミニウム粘土、例えばベントナイト粘土である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
焼結した発熱体の部分が、90重量%を超えるMo1-xCrSiを含み、残部が押出助剤と不可避不純物である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
xが0.08~0.15の間である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載のクロム合金化モリブデンシリサイド部分を含む、発熱体。
【請求項11】
発熱体が、請求項1から9のいずれか一項に記載のクロム合金化モリブデンシリサイド部分の2つ以上を含んでもよい、請求項10に記載の発熱体。
【請求項12】
発熱体全体が、請求項1から9のいずれか一項に記載のクロム合金化モリブデンシリサイド部分で構成される、請求項10に記載の発熱体。
【請求項13】
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法の、発熱体の製造のための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、クロム合金化モリブデンジシリサイドを含む、発熱体の一部分を製造するための新しい方法、およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
モリブデンジシリサイドベースの材料は、多くの要求の厳しい高温用途、例えばエンジン、タービンおよび炉の部品に成功裡に使用されてきた。これらの材料は、典型的には、1800℃までの高温で良好な機械的特性を呈するだけでなく、空気中で良好な耐食性および耐酸化性を呈する。これは主に、モリブデンジシリサイドを保護する、連続した密着性の高いSiO層の形成によるものである。
【0003】
しかし、モリブデンジシリサイドベースの材料を空気中で加熱すると、MoOの形成にもつながり、それが、とりわけ400~600℃の温度範囲では、モリブデンジシリサイドベースの材料上での連続した密着性の高いSiO層の形成を阻害する。この現象は、1955年にFitzerによって最初に記載され、「ペスティング」と命名された。ペスティングは、保護シリカ層の形成を妨げるため、ペスティングが発生した箇所では、酸化と腐食に起因する材料の消費が多くなると共に、継続化する。高温用途、例えば炉においては、そこで使用される発熱体の少なくとも一部が、ペスティング温度領域に入ることになる。
【0004】
例えばStromらにより、「Low temperature oxidation of Cr-alloyed MoSi」、Transaction of Nonferrous Metals Society of China、2007:17(6)1282~1286において、クロム合金化モリブデンジシリサイド組成物、例えば(Mo0.90Cr0.10)Siおよび(Mo0.85Cr0.15)Siは、ペスティングに対する耐性の向上が見られることが示されている。
【0005】
しかし、耐酸化性が向上したクロム合金化モリブデンジシリサイド発熱体が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
したがって、本開示は、発熱体のクロム合金化モリブデンジシリサイド部分を製造するための新しい方法を提供する。この方法により得られる発熱体のクロム合金化モリブデンジシリサイド部分は、耐酸化性が向上したものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本方法は、
- クロム粉末とケイ素粉末の混合物を形成する工程と;
- 不活性雰囲気中、少なくとも1100℃であるが1580℃以下の温度で混合物を反応させて反応生成物とする工程と;
- 反応生成物をCrSiを含む粉末に変換する工程と;
- CrSiを含む粉末を、MoSi粉末、および任意選択で押出助剤と混合することにより、粉末セラミック組成物を形成する工程と;
- 発熱体の部分を成形する工程と;
- 約1450℃~約1700℃の温度で発熱体の部分を焼結する工程と;
を含み、
クロム粉末とケイ素粉末が別々に混合物に供給されることを特徴とする。
【0008】
したがって、この方法に際し、化学元素クロムは、製造方法の最終工程までモリブデンジシリサイド(MoSi)粉末に添加されない。驚くべきことに、方法の最終段階でクロム粉末を添加することにより、上記または下記に規定されるような部分におけるペスティング率の低下が達成されることが示されている(実施例を参照されたい)。いかなる理論にも拘束されるものではないが、この効果は、MoSiの粒界に沿った元素クロムの均一な分布によるものと考えられる。更に、追加の利点として、発熱体の部分の他の重要な特性が全て維持されることが示されている。
【0009】
本方法の別の利点は、MoSi粉末とCrSiを含む粉末が方法の最終段階において混合されるため、これらの粉末の製造が異なる製造設備を使用して行うことができることであり、したがって、製造設備のクロム汚染が低減される。
【0010】
第1の工程において、クロム粉末とケイ素粉末を、別々の粉末として混合装置に添加し、混合する。混合装置の例は、様々なタイプのミルである。次いで、得られた混合物を、不活性雰囲気を有し、温度が少なくとも1100℃であるが1580℃以下、例えば約1300~約1400℃の炉に投入してもよい。本開示において、「約」という用語は、それと一緒に使用されている数字の数値のプラスまたはマイナス10%を意味する。
【0011】
混合物は反応し、本質的にCrSiで構成された反応生成物を形成するが、反応生成物は、CrSi、CrSi、CrSi、ならびに未反応のクロムおよび未反応のケイ素も含み得る。これらの他の化合物/元素の濃度は非常に低いため、発熱体の前記部分の最終的な特性には影響しない。
【0012】
反応生成物を、例えば粉砕し、所望の粒径範囲を得るために篩を使用することにより、CrSiを含む粉末組成物に変換する。次いで、CrSiを含む粉末組成物を、MoSi粉末、および任意選択で押出助剤と混合し、それによりセラミック粉末組成物を得る。
【0013】
一実施形態によると、押出助剤は、無機質粘土、例えばケイ酸アルミニウム粘土である。ケイ酸アルミニウム粘土の例は、Bentolite-Lである。
【0014】
一実施形態によると、得られたセラミック粉末組成物を、押出機を使用することにより押出成形し、それにより発熱体の押出部分を形成する。押出部分は、棒の形態であってもよい。本開示によると、発熱体全体を形成してもよい。
【0015】
一実施形態によると、得られたセラミック粉末組成物を、静水圧プレスプロセスを使用することにより成形し、静水圧成形プロセスは、
- 粉末セラミック組成物を、発熱体の所望の部分の形状の少なくとも一部を有するカプセルに添加する工程と、
- 前記カプセルに所定温度で所定時間、所定圧力を加える工程と
を含む。所定圧力の例は、約150bar~約250barの圧力である。温度の例は室温であり、時間の例は約1~30分である。
【0016】
一実施形態によると、この方法により、発熱体全体を形成してもよい。
【0017】
成形後、得られた発熱体の部分を焼結する。得られた発熱体の部分は、予備焼結して褐色体にすることもできる。予備焼結は、約1400~約1600℃の温度で、不活性雰囲気中で行ってもよい。加えて、一実施形態によると、発熱体の部分は、予備焼結および/または焼結の前に乾燥させてもよい。
【0018】
一実施形態によると、焼結した発熱体の部分は、90重量%を超えるMo1-xCrSiを含み、残部は、押出助剤と不可避不純物である。別の実施形態によると、xは、0.08~0.15の間である。これらの数字の間のxを有することで、発熱体の部分において最良のペスティング耐性が得られることがわかっている。
【0019】
本開示はまた、上記または下記に規定されるような方法に従い製造されるクロム合金化モリブデンシリサイド部分を含むか、そうしたものからなる発熱体に関する。一実施形態によると、発熱体は、上記または下記に規定されるような部分を2つ以上含んでもよい。
【0020】
本開示はまた、上記または下記に規定されるような方法の、発熱体の製造のための使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】450℃での空気曝露時の重量変化を示す。
【0022】
本開示を、下記の非限定的な例示的実施例によって更に説明する。
【実施例
【0023】
クロム粉末とケイ素粉末を混合し、混合物をアルゴン雰囲気中で反応させてCrSiを形成し、X線回折(XRD)により分析した。粉砕によって得た得られた粉末が含有していたのはほとんどがCrSiであるが、少量のCrSiを含有し、元素状のSiおよびCrの痕跡があった。次いで、CrSi粉末を、特定の化学量論的組成に従い製造仕込量のMoSi粉末と混合し、4~6重量%のBentolite-Lを、結合剤相(押出助剤)およびボールミルにおける溶き油として使用した。セラミックペーストを押し出して直径6mmの棒とし、その後それを乾燥させ、予備焼結し、次いで不活性雰囲気中で、例えば水素またはアルゴンを使用し、1000℃~1520℃の温度で、緻密な材料が得られるまで焼結した。結果として得られた材料は、Mo1-xCrSiを含有しており、式中、x=0.08、0.12、0.14および0.16であり、それぞれ2.7、4.1、4.9および5.4at%のCrに相当する。購入したCrSi粉末から作られた、4.3at%のCrに相当するx=0.13の最終組成を有する参照物質も準備した。各組成物の試料を研磨して、最終焼結中に形成された保護SiOスケールを除去した。試料を個別にアルミナ試料ホルダ上に置いて潜在的な酸化生成物を収集し、それらを重量測定に含めた。試料を実験室空気中で、FeCrAl発熱体を採用し、セラミック繊維断熱材を併用した、450℃に加熱した電気炉に入れた。試料とホルダを計量し、曝露時間の関数としての個々の重量変化を監視した。MoSi参照とCr合金化MoSi参照の2つの参照物質については、他のペスティング試験からデータを取得した。結果として得られたデータを、以下の図に提示する:
【0024】
図1は、Cr合金化材料が全て、参照MoSiベース材料KS1700よりも実質的に成績が良好であり、Cr合金化材料の以前の経験と比較して成績が良好であることを示している。4.9at%のCrに相当するCr0.14(オレンジ)が、ペスティングに対する耐性に関して理想的な組成を有しているように思われる。
【0025】
材料を、相分布と酸化物の厚さに関して、SEM-EDSでも評価した。参照Cr0.15材料と比較すると、Crの分布がわずかに異なるようである。元素状のMo、SiおよびCrから作られた参照Cr0.15の場合、Crは、材料の断面に不均一に分布する特定の領域に集中していた。MoSiとCrSiを焼結することにより合金化した材料の場合、Crは、正方(Mo,Cr)Si(D8)相または六方(Mo,Cr)Si(C40)相のいずれかとしてMoSiの粒界に沿ってより均一に分布していた。したがって、EDSでは、元素状粉末から作られた参照Cr0.15の場合、Crの分布が特定の粒界に集中している一方、CrSiとMoSiの粉末から作られたCr0.14では、MoSiの粒界に沿ったCrの均一な分布が認められることが示された。
図1
【国際調査報告】