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特表2022-507212ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸およびその製造方法
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  • 特表-ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(54)【発明の名称】ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/22 20060101AFI20220111BHJP
   D01F 6/04 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
D02G3/22
D01F6/04 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021525673
(86)(22)【出願日】2019-12-26
(85)【翻訳文提出日】2021-05-11
(86)【国際出願番号】 KR2019018514
(87)【国際公開番号】W WO2020138971
(87)【国際公開日】2020-07-02
(31)【優先権主張番号】10-2018-0171614
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0174354
(32)【優先日】2019-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518215493
【氏名又は名称】コーロン インダストリーズ インク
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】イ,シン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソン-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ナム,ミン-ウ
(72)【発明者】
【氏名】イ,サン-モク
(72)【発明者】
【氏名】イ,ヨン-ス
【テーマコード(参考)】
4L035
4L036
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB31
4L035BB65
4L035BB81
4L035BB91
4L035HH04
4L035HH10
4L035MA01
4L036MA04
4L036MA33
4L036PA03
4L036PA18
4L036PA42
4L036PA49
4L036UA07
(57)【要約】
本発明は、ポリエチレンマルチフィラメント糸に十分な交絡が付与され得るようにして高い耐切断性と優れた着用感を有する保護用製品の製造を可能にするだけでなく、優れた製織性を有するポリエチレンマルチフィラメント交絡糸およびその製造方法が開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
90,000~300,000g/molの重量平均分子量および12~20g/dの強度を有し、交絡度が10nodes/m以上であるフィラメントを含むことを特徴とする、
ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸。
【請求項2】
20~40nodes/mの交絡度を有する、
請求項1に記載のポリエチレンマルチフィラメント交絡糸。
【請求項3】
30~40nodes/mの交絡度を有する、
請求項1に記載のポリエチレンマルチフィラメント交絡糸。
【請求項4】
100~300g/dの初期モジュラス(initial modulus)を有する、
請求項1に記載のポリエチレンマルチフィラメント交絡糸。
【請求項5】
6~10%の伸び率(elongation)を有する、
請求項1に記載のポリエチレンマルチフィラメント交絡糸。
【請求項6】
5超過9以下の多分散指数(Polydispersity Index:PDI)を有する、
請求項1に記載のポリエチレンマルチフィラメント交絡糸。
【請求項7】
1~3デニールの繊度をそれぞれ有する40~500個のフィラメントを含み、
100~1,000デニールの総繊度を有する、
請求項1に記載のポリエチレンマルチフィラメント交絡糸。
【請求項8】
5超過9以下の多分散指数(PDI)および0.3~3g/10minの溶融指数(Melt Index:MI)(190℃で)を有するポリエチレンチップを溶融させてポリエチレン溶融物を得る段階;
多数のノズルホールを有する口金を通じて前記ポリエチレン溶融物を押出す段階;
前記ポリエチレン溶融物が前記ノズルホールから吐出される際に形成される多数のフィラメントを冷却させる段階;
冷却された前記多数のフィラメントを集束させてマルチフィラメント糸を形成させる段階;
前記マルチフィラメント糸を11倍~23倍の総延伸比で延伸および熱固定する段階;
延伸された前記マルチフィラメント糸を交絡させる段階;および
交絡された前記マルチフィラメント糸を巻取る段階;を含む、
請求項1に記載のポリエチレンマルチフィラメント交絡糸の製造方法。
【請求項9】
前記交絡の段階は、15~100psiの空気圧で行われる、
請求項8に記載のポリエチレンマルチフィラメント交絡糸の製造方法。
【請求項10】
前記延伸の段階は、多数のゴデットローラーを利用した4段以上の多段延伸で行われ、
延伸された前記マルチフィラメント糸には下記式1で計算される0~10%のリラックス(relax)が付与される、
請求項8に記載のポリエチレンマルチフィラメント交絡糸の製造方法。
[式1]
R(%)=[(Vmax-V)/Vmax]×100
(式1中、Rはリラックスであり、Vmaxは前記ゴデットローラーの線速度のうちの最も高い線速度であり、Vは巻取速度である。)
【請求項11】
前記延伸の段階は、4段以上20段以下の多段延伸で行われる、
請求項8に記載のポリエチレンマルチフィラメント交絡糸の製造方法。
【請求項12】
前記交絡および巻取の段階中に、前記マルチフィラメント糸に0.1~0.5g/dの張力が加えられる、
請求項8に記載のポリエチレンマルチフィラメント交絡糸の製造方法。
【請求項13】
前記マルチフィラメント糸の熱固定が前記多数のゴデットローラーによって行われることを特徴とする、
請求項8に記載のポリエチレンマルチフィラメント交絡糸の製造方法。
【請求項14】
前記多数のゴデットローラーは、40~140℃の温度で設定され、
前記多数のゴデットローラーのうちの最初のゴデットローラーの温度は40~80℃であり、
前記多数のゴデットローラー部のうちの最後のゴデットローラーの温度は110~140℃であり、
前記多数のゴデットローラーのうちの前記最初および最後のゴデットローラーを除いたゴデットローラーのそれぞれの温度は、その直ぐ前段に位置したゴデットローラーの温度と同じかまたはそれより高いことを特徴とする、
請求項13に記載のポリエチレンマルチフィラメント交絡糸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願(ら)(「(ら)」は複数であり得ることを示す)との相互引用
本出願は、2018年12月28日付韓国特許出願第10-2018-0171614号、および、2019年12月24日付韓国特許出願第10-2019-0174354号に基づいた優先権の利益を主張しており、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸およびその製造方法に関し、より具体的には、高強度の、高い耐切断性を有する保護用製品の製造を可能にするだけでなく、優れた製織性(weavability)を有するポリエチレンマルチフィラメント交絡糸およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
警察および軍人といった保安(security)分野に従事する人はもちろんのこと、他の多様な産業分野にて鋭い切断工具を扱う人たちも、負傷の危険に常に露出される。負傷の危険を最小化するためには、手袋または衣服といった保護用製品が提供されなければならない。
【0004】
前記保護用製品は、刃物といった凶器または鋭い切断工具から人体を適切に保護するために耐切断性を有することが要求される。
【0005】
高い耐切断性を提供するために高強度ポリエチレン原糸が、前記保護用製品の製造に使用されている。例えば、高強度ポリエチレン原糸を単独で生地の製造に使用したり、高強度ポリエチレン原糸と他の種類の原糸とが一緒に合撚糸を形成するようにした後、前記合撚糸が生地の製造に使用され得る。
【0006】
高強度ポリエチレン原糸の一種類である超高分子量ポリエチレン(以下、「UHMWPE」と称する)原糸は、一般的に600,000g/mol以上の重量平均分子量を有する線状ポリエチレンでもって形成された原糸であって、UHMWPEの高い溶融粘度(melt viscosity)のために、ゲル紡糸方式によってのみ製造され得ると知られている。例えば、エチレンを有機溶媒内で触媒の存在下で重合させることによってUHMWPE溶液を作り、前記溶液を紡糸および冷却させることによって繊維形態のゲルを形成させ、前記繊維形態のゲルを延伸することによって、高強度および高モジュラスのポリエチレン原糸を得ることができる。しかし、このようなゲル紡糸方式は、有機溶媒の使用を要求するため、環境問題が生じるだけでなく、有機溶媒の回収に莫大な費用がかかる。
【0007】
また、一般的に20,000~600,000g/molの重量平均分子量を有する線状ポリエチレンである高密度ポリエチレンは、前記UHMWPEに比べて相対的に低い溶融粘度を有しているため、溶融紡糸が可能であり、その結果、ゲル紡糸方式では避けられない環境問題および高費用の問題点を克服することができる。しかし、前記20,000~600,000g/molの重量平均分子量を有する線状ポリエチレンである高密度ポリエチレンは、UHMWPEに比べて相対的に低い分子量により、高密度ポリエチレン原糸の強度がUHMWPE原糸に比べて低くならざるを得ない。
【0008】
したがって、高密度ポリエチレン原糸の強度を向上させようとする努力が続いたのであり、その結果、溶融紡糸を通じて製造されたポリエチレン原糸としても満足する程度の耐切断性を有する保護用製品を製造することが可能となった。
【0009】
一方、ポリエチレンで形成されたフィラメントは、滑らかな表面を有するだけでなく、フィラメント間に斥力を誘発する静電気的表面特性を有するため、フィラメント間の集束力(cohesion strength)が一般的に低い。したがって、ポリエチレンフィラメント間の集束力を増加させるための交絡工程(interlacing process)が行われる必要がある。
【0010】
しかし、保護用製品の製造のために使用することができる高密度ポリエチレン原糸として今まで開発されたものは、十分な交絡(entanglements)を付与することが不可能であった。つまり、交絡は、高圧の空気を噴射してフィラメントの形態を変形させることによってこれらが互いに絡まるようにすることであるが、既存の高密度ポリエチレン原糸は、形態の変形自体が難しいだけでなく、たとえ高圧の空気噴射によってフィラメントが瞬間的に絡まるようになっても、その絡まりの強さが弱くて絡まりが直ぐに解かれてしまうという問題がある。
【0011】
要約すれば、強度向上だけを強調して開発された既存の高密度ポリエチレン原糸は、満足する程度の耐切断性を保護用製品に提供することはできたが、十分な交絡が付与されず、前記原糸を構成するフィラメント間の集束力が低くならざるを得ず、その結果、保護用製品の生地を製織する過程および/または他の種類の原糸と合糸される過程で、摩擦によって一部のフィラメント(ら)が切断されて毛羽(Fluff)が発生するという問題が頻繁に発生した(つまり、前記原糸の製織性が低かった)。このような毛羽の発生は、生地の生産性の低下および生産費の上昇を誘発するだけでなく、保護用製品の品質低下を招く。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明は、前記のような関連技術の制限および短所に起因した問題点を防止することができる高強度ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸およびその製造方法に関する。
【0013】
本発明の一観点は、毛羽発生が最小化されて高い耐切断性を有し、優れた着用感を有する保護用製品の製造を可能にするだけでなく、優れた製織性を有するポリエチレンマルチフィラメント交絡糸を提供することにある。
【0014】
本発明の他の観点は、毛羽発生が最小化されて高い耐切断性を有し、優れた着用感を有する保護用製品の製造を可能にするだけでなく、優れた製織性を有するポリエチレンマルチフィラメント交絡糸を製造する方法を提供することにある。
【0015】
前記で言及された本発明の観点以外にも、本発明の他の特徴および利点について、以下で説明されるか、そのような説明から、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者に、明確に理解され得るだろう。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記のような本発明の一観点により、本明細書では、90,000~300,000g/molの重量平均分子量および12~20g/d(デニール)の強度を有し、交絡度が10nodes/m以上であるフィラメントを含むことを特徴とするポリエチレンマルチフィラメント交絡糸が提供される。
【0017】
前記ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸は、20~40nodes/mの交絡度を有することができる。
【0018】
前記ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸は、30~40nodes/mの交絡度を有することができる。
【0019】
前記ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸は、100~300g/dの初期モジュラス(initial modulus)を有することができる。
【0020】
前記ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸は、6~10%の伸び率(elongation)を有することができる。
【0021】
前記ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸は、5超9以下の多分散指数(Polydispersity Index:PDI)を有することができる。
【0022】
また、前記ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸は、1~3デニールの繊度をそれぞれ有する40~500個のフィラメントを含み、100~1,000デニールの総繊度を有することができる。
【0023】
本発明の他の観点により、本発明の明細書では、5超9以下の多分散指数(PDI)および0.3~3g/10minのメルトインデックス(溶融指数、Melt Index:MI)(190℃で)を有するポリエチレンチップを溶融させてポリエチレン溶融物を得る段階;多数のノズルホールを有する口金を通じて前記ポリエチレン溶融物を押し出す段階;前記ポリエチレン溶融物が前記ノズルホールから吐出される際に形成される多数のフィラメントを冷却させる段階;冷却された前記多数のフィラメントを集束させてマルチフィラメント糸を形成させる段階;前記マルチフィラメント糸を11倍~23倍の総延伸比に延伸および熱固定する段階;延伸された前記マルチフィラメント糸を交絡させる段階;および交絡された前記マルチフィラメント糸を巻取る段階;を含む、ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸の製造方法が提供される。
【0024】
前記交絡段階は、15~100psiの空気圧で行われ得る。
【0025】
前記延伸段階は、多数のゴデットローラーを利用した4段以上の多段延伸で行われ得、延伸された前記マルチフィラメント糸に0~10%のリラックス(relax)が付与され得る。前記リラックスは、下記式1で計算される。
【0026】
[式1]
R(%)=[(Vmax-V)/Vmax]×100
【0027】
式1中、Rはリラックスであり、Vmaxは前記ゴデットローラーの線速度のうちの最も高い線速度であり、Vは巻取速度である。
【0028】
前記延伸段階は、4段以上20段以下の多段延伸で行われ得る。
【0029】
前記交絡および巻取段階中に前記マルチフィラメント糸に0.1~0.5g/dの張力が加えられ得る。
【0030】
前記マルチフィラメント糸の熱固定が前記多数のゴデットローラーによって行われ得る。
【0031】
前記多数のゴデットローラーは、40~140℃の温度に設定され、前記多数のゴデットローラーのうちの最初のゴデットローラーの温度は40~80℃であり、前記多数のゴデットローラー部のうちの最後のゴデットローラーの温度は110~140℃であり、前記多数のゴデットローラーのうちの前記の最初および最後のゴデットローラーを除いたゴデットローラーのそれぞれの温度は、その直ぐ前段に位置したゴデットローラーの温度と同じかまたはそれより高くなり得る。
【0032】
前記のような本発明に対する一般的な記述は、本発明を例示したり説明したりするためのものに過ぎず、本発明の権利範囲を制限しない。
【発明の効果】
【0033】
本発明のポリエチレンマルチフィラメント交絡糸は、溶融紡糸を通じて製造されるにも拘らず、高い強度を有することによって、優れた耐切断性を有する保護用製品の製造を可能にする。
【0034】
また、本発明によれば、ポリエチレンマルチフィラメント糸に十分な交絡が付与され得るため、フィラメント間の集束力が向上しうる。したがって、本発明によれば、保護用製品の生地を製織する過程および/または他の種類の原糸と合糸される過程で、摩擦によって一部のフィラメント(ら)が切断されて毛羽(Fluff)が発生するという問題が防止または最小化され得る。このような高い製織性のポリエチレン原糸を使用して保護用製品を製造することによって、最終製品の品質を向上させ、その生産性を増加させることができる。
【0035】
添付した図面は、本発明の理解を助け、本明細書の一部を構成するためのものであって、本発明の実施例を例示し、発明の詳細な説明と共に本発明の原理を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の一実施例によるポリエチレンマルチフィラメント交絡糸製造装置を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態によるポリエチレンマルチフィラメント交絡糸およびその製造方法の多様な実施例を具体的に説明する。
【0038】
それに先立ち、本明細書で明示的な言及がない限り、専門用語は単に特定の実施例を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。
【0039】
本明細書で使用される単数の形態は、文句がこれと明確に反対の意味を示さない限り、複数の形態も含む。
【0040】
本明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素、成分および/または群の存在や付加を除外させるものではない。
【0041】
本発明の一実施形態により、90,000~300,000g/molの重量平均分子量および12~20g/dの強度を有し、交絡度が10nodes/m以上であるフィラメントを含むことを特徴とするポリエチレンマルチフィラメント交絡糸が提供され得る。
【0042】
本発明は、従来のフィラメント原糸の毛羽発生による集束力低下および製織性を向上させるために、フィラメント原糸製造時の交絡度を最適化させると同時に、優れた強度などを有するようにする保護製品用ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸およびその製造方法に関するものである。
【0043】
本発明の方法により、延伸時および合糸工程で毛羽発生頻度が従来よりも顕著に減少して、高い耐切断性を有し、優れた着用感を有する保護用製品の生地用ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸を提供することができる。したがって、本発明では、原糸の製織性も向上させて生産性および生産費用も減らすことができる。
【0044】
具体的に、本発明のポリエチレンマルチフィラメント交絡糸は、一定の個数のフィラメント束を含むことができ、これらは、フィラメントの集束性を付与するために交絡度が10nodes/m以上で交絡されている。ここで、前記交絡度は、ASTM D4724(2011)(Standard Test Method for Entanglements in Unwinded Filament Yarns by Needle Insertion)にしたがい、Lenzing社のRAPID-500を利用して、ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸を解糸しながらその交絡度を測定することができる。
【0045】
つまり、前記ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸は、10ノード(nodes)/m以上、より好ましくは20~40nodes/m、さらに好ましくは30~40nodes/mの交絡度を有する。
【0046】
前述のように、ポリエチレンで形成されたフィラメントは、滑らかな表面を有するだけでなく、フィラメント間に斥力を誘発する静電気的表面特性を有するため、前記交絡度が10nodes/m未満であれば、フィラメント間の集束力が不足して保護用製品の生地を製織する過程および/または他の種類の原糸と合糸される過程で、摩擦によって一部のフィラメント(ら)が切断されて毛羽(Fluff)が発生するのであり、このような毛羽発生は、生地の生産性の低下および生産費の上昇を誘発するだけでなく、保護用製品の品質低下を招く。
【0047】
反面、40nodes/mを超える交絡度を有するマルチフィラメント交絡糸を形成するためには、過度に高い圧力の空気を交絡工程中にマルチフィラメント糸に加えなければならないが、この過程でフィラメント(ら)の切断およびそれによる毛羽が発生する危険が大きい。
【0048】
また、発明の一実施形態により、高い耐切創性および/または高い強度が要求される製品、例えば保護用製品の製造に使用され、溶融紡糸を通じて生産される本発明のポリエチレンマルチフィラメント交絡糸は、90,000~300,000g/molの重量平均分子量(Mw)を有する。好ましくは、前記ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸は、90,000~250,000g/molの重量平均分子量(Mw)を有することができる。
【0049】
本明細書で、重量平均分子量(Mw)は、GPC法によって測定したポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。前記GPC法によって測定したポリスチレン換算の重量平均分子量を測定する過程では、通常知られている分析装置と示差屈折検出器(Refractive Index Detector)などの検出器および分析用カラムを使用することができ、通常適用される温度条件、溶媒、流速(flow rate)を適用することができる。前記測定条件の具体的な例として、160℃の温度、トリクロロベンゼン(TCB)および1mL/minの流速(flow rate)が挙げられる。
【0050】
また、前記ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸は、交絡度が10nodes/m以上を満足しながらも、保護用製品の品質向上のために、12~20g/d、100~300g/dの初期モジュラス、6~10%の伸び率(elongation)、および5超9以下の多分散指数(Polydispersity Index:PDI)の物性を全て満足することが好ましい。
【0051】
好ましい一例として、前記ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸の強度は、13~20g/dであり、伸び率は7~10%であり得る。
【0052】
また、前記ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸は、100~250g/dの初期モジュラスを有することが好ましく、120~240g/dあるいは150~235g/dの初期モジュラスを有することが最も好ましい。
【0053】
また、前記強度が20g/dを超えるか、初期モジュラスが300g/dを超えるか、伸び率が6%未満であれば、前記ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸を利用した生地製造時に製織機の損傷が誘発されることがあり、また製造された生地が過度にごわごわして保護用製品着用者が不便さを感じるようになる。特に、初期モジュラスが300g/dを超えるか、伸び率が6%未満であれば、フィラメントの形態変形が難しいため、マルチフィラメント糸に10nodes/m以上の交絡度を付与し難くなる。
【0054】
反対に、強度が12g/d未満であるか、初期モジュラスが100g/d未満であるか、伸び率が10%を超えれば、このようなポリエチレンマルチフィラメント交絡糸から製造された生地を使用者が持続的に使用する場合、前記生地に毛玉(pills)が誘発され、甚だしくは生地の破損がもたらされる。
【0055】
ただし、ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸で、強度および初期モジュラスの条件が前記条件を満足しても、本発明による10nodes/m以上の交絡度を満足しない場合、原糸の生地を製織する過程および/または他の種類の原糸と合糸される過程で摩擦によって一部のフィラメント(ら)が切断されて毛羽(Fluff)が発生しうる。また、前記ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸の強度などの物性調節と共に交絡度は、後述する内容により延伸段階および交絡段階の構成を調節することによって好ましい範囲で具現され得る。
【0056】
本発明のポリエチレンマルチフィラメント交絡糸は、40~500個のフィラメントを含む。前記フィラメントのそれぞれは、1~3デニールの繊度を有し、前記ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸は、100~1,000デニールの総繊度を有する。
【0057】
このように、前記ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸の場合、その物性が前記構成を全て満足しなければフィラメントの交絡糸を利用した合糸工程時に毛羽発生頻度が多くなって生地製造時に加工性が低下し、生地製品の外観が不良であるだけでなく、使用時に毛玉が簡単に誘発されて所望する形態を有する製品を得難い。
【0058】
特に、前記ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸で、初期モジュラス値と交絡度が前述した範囲を同時に満足してこそ、延伸時に毛羽発生頻度を減らして製品生地の着用感を向上させることができる。
【0059】
一方、本発明の他の一実施形態により、5超過9以下の多分散指数(PDI)および0.3~3g/10minの溶融指数(Melt Index:MI)(190℃で)を有するポリエチレンチップを溶融させてポリエチレン溶融物を得る段階;多数のノズルホールを有する口金を通じて前記ポリエチレン溶融物を押出す段階;前記ポリエチレン溶融物が前記ノズルホールから吐出される際に形成される多数のフィラメントを冷却させる段階;冷却された前記多数のフィラメントを集束させてマルチフィラメント糸を形成させる段階;前記マルチフィラメント糸を11倍~23倍の総延伸比に延伸および熱固定する段階;延伸された前記マルチフィラメント糸を交絡させる段階;および交絡された前記マルチフィラメント糸を巻取る段階;を含む、前述したポリエチレンマルチフィラメント交絡糸の製造方法が提供され得る。
【0060】
本発明では、一定の多分散指数範囲と溶融指数範囲を有するポリエチレンチップを利用する時、延伸段階で総延伸比を特定して11倍~23倍に調節する。また、本発明では、延伸段階の段数と交絡段階の空気圧条件を調節することによって、ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸の交絡度を10nodes/m以上で付与することができる。これによって、本発明は、従来よりも毛羽の発生を減らし、生地の製織性と生産性を向上させることができる交絡度を付与することができる。付加して、本発明によれば、交絡度の特徴の付与と同時に、フィラメントを利用した原糸製織時に形態の変形および製織機の損傷を防止できる強度、初期モジュラスおよび伸び率の範囲を満足するようにすることを特徴とする。
【0061】
以下、図1を参照して本発明の一実施例によるポリエチレンマルチフィラメント交絡糸製造方法を具体的に説明する。
【0062】
まず、チップ(chip)の形態のポリエチレンを、エクストルーダー(extruder)100に投入して溶融させることによって、ポリエチレン溶融物を得る。
【0063】
本発明の方法で原料として使用されるポリエチレン(以下、「ポリエチレンチップ」)は、0.3~3g/10minのメルトインデックス(Melt Index:MI)を有する。本明細書でポリエチレンチップのメルトインデックスは190℃で測定した値である。
【0064】
ポリエチレンチップのメルトインデックス(MI)が0.3g/10min未満であれば、ポリエチレン溶融物の高い粘度および低い流れ性により、エクストルーダー100内で円滑な流れ性を確保することが難しいため、紡糸装置に過負荷がかかるようになり、工程制御が適切に行われないため、原糸物性の均一性を確保することが難しい。反面、ポリエチレンチップのメルトインデックス(MI)が3g/10minを超える場合、エクストルーダー100内でのポリエチレン溶融物の流れ性は相対的に良好であるが、ポリエチレンの低い分子量により12g/d以上の高強度物性を有する原糸を得難い。
【0065】
ポリエチレンチップは、90,000g/mol以上の重量平均分子量(Mw)を有することができる。前記重量平均分子量(Mw)が90,000g/mol未満であれば、最終的に得られる原糸が12g/d以上の強度を得難い。
【0066】
反面、メルトインデックス(MI)と一般的に反比例の関係にある前記重量平均分子量(Mw)が過度に大きい場合、高い溶融粘度によって紡糸装置に過負荷がかかるようになり、工程制御が適切に行われず、原糸の優れた物性が担保され難い。したがって、前記ポリエチレンチップの重量平均分子量(Mw)の上限は、ターゲット分子量(つまり、ポリエチレン原糸の重量平均分子量であって、本発明では90,000~300,000g/molである)の上限より若干高い320,000であることが好ましい(紡糸過程でポリエチレンの熱分解により分子量減少が多少発生し得るため)。
【0067】
本発明のポリエチレンチップは、5超過9以下の多分散指数(PDI)を有する。多分散指数(PDI)は、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比率(Mw/Mn)であって、分子量分布指数(MWD)とも称される。
【0068】
高密度ポリエチレン(HDPE)の溶融紡糸を通じて製造される高強度ポリエチレン原糸を開示しているほぼ全ての先行技術[例えば、韓国特許第10-0943592号(以下、「先行技術1」)、韓国公開特許公報第10-2014-0075842号(以下、「先行技術2」)など]においては、ポリエチレン原糸が高強度を有するためには、ポリエチレンが4.0以下(先行技術1:「要約」参照)、甚だしくは2.5以下(先行技術2:段落[0034]、[0035]参照)の多分散指数(PDI)を有さなければならないと教示している。
【0069】
しかし、先行技術が教示したように、低い多分散指数(PDI)を有するポリエチレンチップを利用して原糸を製造する場合、たとえ高強度を発現させることは容易であるとしても、過度に高い初期モジュラス[例えば、先行技術1のポリエチレン原糸は500cN/dtex(=約567g/d)以上の初期モジュラスを有する]、および、過度に低い伸び率によって十分な交絡(entanglements)を原糸に付与することが不可能である。
【0070】
前記初期モジュラスが300g/dを超えるか、前記伸び率が6%未満であれば、交絡付与のために高圧の空気を噴射してもフィラメントの形態を変形させて互いに絡まるようにさせることが非常に難しいだけでなく、たとえフィラメントが瞬間的に絡まるようになるとしても、その絡まりの強さが弱くて絡まりが直ぐ解かれてしまうため、ポリエチレン原糸に10nodes/m以上の交絡度を付与し難い。特に、交絡を無理に付与するために空気圧を過度に大きくする場合、毛玉(pills)が発生したり糸切が発生したりする。
【0071】
本発明によれば、ポリエチレン原糸の初期モジュラスおよび伸び率は、原料として使用されるポリエチレンチップの多分散指数(PDI)によって主に左右され、ポリエチレン原糸が300g/d以下の初期モジュラスおよび6%以上の伸び率を有するようにするためには、前記ポリエチレンチップが5を超える多分散指数(PDI)を有さなければならないという事実が明らかになった。
【0072】
ただし、ポリエチレンチップの多分散指数(PDI)が過度に高ければ(つまり、低分子量ポリエチレンが過度に多く含まれていれば)、12g/d以上の高強度を有するポリエチレン原糸を製造し難いため、前記ポリエチレンチップの多分散指数(PDI)の上限は、ターゲット多分散指数(つまり、ポリエチレン原糸の多分散指数であって、本発明では5超過8以下である)の上限よりも若干高い、9であることが好ましい(紡糸過程で多分散指数が減少し得るという点を考慮して)。
【0073】
任意選択的に、紡糸工程および延伸工程中の糸切の発生を抑制するために、前記ポリエチレン溶融物にフッ素系ポリマーを添加することができる。フッ素系ポリマーの添加方法としては、(i)ポリエチレンとフッ素系ポリマーを含むマスターバッチ(master batch)をポリエチレンチップと共にエクストルーダー100に投入した後、その中で共に溶融させる方法、または(ii)ポリエチレンチップをエクストルーダー100に投入しながら、サイドフィーダー(side feeder)を通じてフッ素系ポリマーを前記エクストルーダー100に投入した後、これらを共に溶融させる方法などがある。
【0074】
ポリエチレン溶融物に添加されるフッ素系ポリマーは、例えば、テトラフルオロエチレン共重合体であり得る。前記フッ素系ポリマーは、最終生産された原糸内のフッ素(fluorine)の含有量が50~2500ppmになるようにする量で、前記ポリエチレン溶融物に添加され得る。
【0075】
ポリエチレン溶融物は、前記エクストルーダー100内のスクリューによって、多数のノズルホールを有する口金200に運搬された後、前記ノズルホールを通じて押し出される。前記口金200のノズルホールの個数は、製造される原糸の単糸繊度(DPF;Denier Per Filament)および総繊度により決定され得る。本発明の一実施例によれば、1~3DPFの単糸繊度および100~1,000デニールの総繊度を有する原糸を製造するために、前記口金200は40~500個のノズルホールを有することができる。
【0076】
エクストルーダー100内での溶融工程および口金200を通じた押出工程は、150~315℃、好ましくは250~315℃、より好ましくは280~310℃で行われる。つまり、エクストルーダー100および口金200が、150~315℃、好ましくは250~315℃、より好ましくは280~310℃で維持されることが好ましい。本発明の一実施例によれば、ポリエチレンチップがエクストルーダー100に投入されて口金200のノズルホールを通じて吐出される時までに移動する空間を、複数個に分割して、各分割空間別に温度を制御することができる。例えば、150~315℃、好ましくは250~315℃、より好ましくは280~310℃の温度範囲内で、後段の分割空間温度が前段の分割空間温度以上になるように各分割空間の温度を制御することができる。
【0077】
前記紡糸温度が150℃未満である場合、低い紡糸温度によってポリエチレンチップの均一な溶融(melting)が行われず紡糸が困難になり得る。反面、紡糸温度が315℃を超える場合、ポリエチレンの熱分解が引き起こされて高強度の発現が難しいのでありうる。
【0078】
前記口金200のホール直径(D)に対するホール長さ(L)の比率であるL/Dは、3~40であり得る。L/Dが3未満であれば、溶融押出時にダイスウェル(Die Swell)現象が発生し、ポリエチレンの弾性挙動制御が困難になることによって紡糸性が不良になり、L/Dが40を超える場合には、口金200を通過するポリエチレン溶融物のネッキング(necking)現象による糸切と共に圧力降下に伴う吐出不均一の現象が発生しうる。
【0079】
ポリエチレン溶融物が口金200のノズルホールから吐出される際、紡糸温度と室温との間の差によってポリエチレン溶融物の固化が始まり、半固化状態の多数のフィラメント11が形成される。本明細書では、半固化状態のフィラメントはもちろんのこと、完全固化されたフィラメントの全てを「フィラメント」と総称する。
【0080】
前記多数のフィラメント11は、冷却部(または「quenching zone」)300で冷却されることによって完全固化される。前記フィラメント11の冷却は空冷方式で行われ得る。例えば、前記フィラメント11の冷却は、0.2~1m/secの風速の冷却風を利用して15~40℃で行われ得る。前記冷却温度が15℃未満であれば、過冷却により伸び率が不足して、後続の延伸過程で糸切が発生しうるのであり、前記冷却温度が40℃を超えれば、固化の不均一によって、フィラメント11同士の間の繊度の偏差が大きくなり、延伸過程で糸切が発生しうる。
【0081】
次に、集束機400により前記冷却および完全固化されたフィラメント11を集束させて一つのマルチフィラメント糸(multifilament yarn)10を形成させる。
【0082】
図1に例示されているように、前記マルチフィラメント糸10を形成させる前に、オイルローラ(OR)あるいはオイルジェット(oil jet)を利用して、前記冷却されたフィラメント11に油剤を付与するオイリング工程(oiling process)がさらに行われ得る。前記油剤付与段階は、MO(Metered Oiling)方式を通じて行われることもありうる。
【0083】
選択的に、マルチフィラメント糸10を形成させるために前記フィラメント11を集束させる際、前記オイリング工程が同時に行われることもありうるのであり、追加的なオイリング工程が、延伸工程中および/または巻取工程の直前にさらに行われることもありうる。
【0084】
次に、前記マルチフィラメント糸10が11倍~23倍、より好ましくは14倍~20倍の総延伸比に延伸される。
【0085】
前記総延伸比が11倍以下であれば、ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸の交絡度を向上させるのが難しいのでありうる。つまり、5を超える多分散指数(PDI)を有するポリエチレンチップを利用するにも拘らず、最終のポリエチレンマルチフィラメント交絡糸が12g/d以上、より好ましくは13g/d以上の強度を有するようにするためには、前記マルチフィラメント糸10が11倍以上の総延伸比に延伸されなければならない。しかし、その延伸比が過度に低ければ、最終のポリエチレンフィラメント交絡糸が12g/d以上の強度を有しうるが、前記初期モジュラスが300g/dを超えることで、交絡付与のために高圧の空気を噴射してもフィラメントの形態を変形させて互いに絡まるようにさせることが非常に難しくなるだけでなく、たとえフィラメントが瞬間的に絡まるようになるとしても、その絡まりの強さが弱くて、絡まりが直ぐに解かれてしまうため、合糸工程時に毛羽発生頻度が増加する。また、延伸工程で23倍を超える総延伸比を適用する場合、フィラメント(ら)11の糸切が発生する危険が高くなる。
【0086】
図1に例示されているように、本発明のポリエチレンマルチフィラメント交絡糸は、前記マルチフィラメント糸10が巻取られずに直ちに延伸部500に伝達されて延伸される直接紡糸延伸(DSD)工程を通じて製造され得る。
【0087】
代案的に、前記マルチフィラメント糸10を未延伸糸として一応巻取った後、前記未延伸糸を解糸および延伸することもできる。つまり、本発明のポリエチレンマルチフィラメント交絡糸は、未延伸糸を一応製造した後、前記未延伸糸を延伸する2段階工程を通じて製造されることもありうる。
【0088】
特に、直接紡糸延伸(DSD)工程と2段階工程のうちのどちらを適用しても、前記マルチフィラメント糸10を11倍~23倍の大きい総延伸比に延伸する際、フィラメント(ら)11の糸切の危険を最小化するために、前記延伸工程が精密に制御される必要がある。
【0089】
本発明の一実施例によれば、前記延伸工程の精密制御のために、前記マルチフィラメント糸10が多数のゴデットローラー(GR1…GRn)を含む延伸部500によって多段延伸され得る。つまり、前記マルチフィラメント糸10は、延伸条件の精密制御を可能にする十分な個数のゴデットローラー(GR1…GRn)によって多段延伸され得る。
【0090】
一実施形態により、前記多数のゴデットローラーを利用する延伸段階は、4段以上の多段延伸で行うことが好ましい。最も好ましくは、前記延伸段階は、多数のゴデットローラーを利用して4段以上20段以下の多段延伸で行われ得る。前記多段延伸が4段以下である場合、ゴデットローラーの各区間(GR1とGR2…GRn-1とGRn)で急激な延伸が起こって、フィラメント糸製造時に毛羽発生の頻度が増加し、初期モジュラスが増加して生地が過度にごわごわになりうる。また、前記多段延伸時、20段以上で行う場合、フィラメント糸とゴデットローラーとの間の摩擦が増加して、フィラメント損傷および断糸が発生するという問題がある。
【0091】
また、5超過9以下の多分散指数(PDI)および0.3~3g/10minの溶融指数(Melt Index:MI)(190℃で)を有するポリエチレンチップを使用しても、本発明の方法による11倍~23倍の大きい総延伸比条件や段数条件を満足しなければ、交絡度が低くなり得る。つまり、ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸が一定水準の強度、初期モジュラスおよび伸び率の値を示しても、交絡度が10nodes/m以下と低いため、延伸時に毛羽発生の頻度が多くなって合糸工程が難しくなるという問題が発生する。したがって、11倍~23倍の大きい総延伸比に延伸する際、段数を調節して精密制御をしてこそ、糸切の危険を最小化することが分かる。
【0092】
本発明の一実施例によれば、前記延伸部500のゴデットローラー(GR1…GRn)の温度を、40~140℃の範囲、より好ましくは60~130℃の範囲、さらに好ましくは70~120℃の範囲に適切に設定することによって、前記マルチフィラメント糸10の多段延伸および熱固定(heat-setting)が、前記ゴデットローラー(GR1…GRn)によって同時に行われるようにすることができる。
【0093】
例えば、前記多数のゴデットローラー(GR1…GRn)のうちの最初のゴデットローラー(GR1)の温度は40~80℃であり、最後のゴデットローラー(GRn)の温度は110~140℃であり得る。前記最初および最後のゴデットローラー部(GR1、GRn)を除いた残りのゴデットローラーのそれぞれの温度は、その直ぐ前段のゴデットローラーの温度と同一であるかまたはそれより高く設定され得る。前記最後のゴデットローラー部(GRn)の温度は、直ぐ前段のゴデットローラー部の温度と同一であるかまたはそれより高く設定され得るが、それより多少低く設定されることもありうる。
【0094】
次に、11倍~23倍の総延伸比に延伸されたマルチフィラメント糸10が、交絡装置600によって交絡された後、ワインダ700に巻取られる。
【0095】
前述のように、本発明により紡糸および延伸された前記マルチフィラメント糸10は、300g/d以下の相対的に低い初期モジュラス、および、6%以上の相対的に高い伸び率を有するため、前記交絡工程を通じて10nodes/m以上、より好ましくは20~40nodes/m、さらに好ましくは30~40nodes/mの交絡度を付与することが可能である。
【0096】
前記交絡工程中にマルチフィラメント糸10に加えられる空気圧は15~100psiであり得る。好ましくは、前記空気圧は30~80psiあるいは50~70psiであり得る。
【0097】
前記空気圧が15psi未満であれば、10nodes/m以上の交絡度が付与され難い。反面、100psiを超える過度に高い空気圧が前記マルチフィラメント糸10に加えられると、フィラメント(ら)の切断およびそれによる毛羽が発生する危険が大きい。
【0098】
前記交絡工程中にマルチフィラメント糸10に加えられる空気圧が同一であると仮定する場合、前記交絡度は前記マルチフィラメント糸10に加えられるリラックス(relax)および/または張力によってさらに調節され得る。
【0099】
本発明の一実施例によれば、10nodes/m以上、より好ましくは20~40nodes/m、最も好ましくは30~40nodes/mの交絡度を提供するために、前記延伸されたマルチフィラメント糸10に0~10%のリラックス(relax)が付与される。前記リラックスは、下記の式1によって算出される。
【0100】
[式1]
R(%)=[(Vmax-V)/Vmax]×100
【0101】
式1中、Rはリラックス(%)であり、Vmaxは前記ゴデットローラーの線速度のうちの最も高い線速度(mpm)であり、Vは巻取速度(mpm)である。
【0102】
また、本発明の一実施例によれば、前記交絡および巻取工程中に、前記マルチフィラメント糸10に0.1~0.5g/dの張力が加えられる。
【0103】
0%以上のリラックスおよび0.5g/d以下の張力を前記マルチフィラメント糸10に付与することによって、より大きい交絡度が前記マルチフィラメント糸10に付与され得る。ただし、10%を超えるリラックスまたは0.1g/d未満の張力は、ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸の生産性を低下させる。
【0104】
前記のように製造された本発明の高強度ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸は、保護用製品の製造に使用され得ることはもちろんのこと、優れた耐切創性および/または高い強度を要求する他の応用分野、例えばロープ、釣糸、漁網、テント、テント材、スポーツ用品などだけでなく、日常生活で使用される寝具、衣類などの生活材の製造にも使用され得る。
【0105】
以下、具体的な実施例を通じて、本発明を具体的に説明する。ただし、下記の実施例は本発明の理解を助けるためのものに過ぎず、これによって本発明の権利範囲が制限されてはならない。
【0106】
実施例1
図1に例示した装置を利用して、200個のフィラメントを含み、総繊度が400デニールであるポリエチレンマルチフィラメント交絡糸を製造した。
【0107】
具体的に、200,000g/molの重量平均分子量(Mw)、1g/10minの溶融指数(MI)(at 190℃)、および7.5の多分散指数(Mw/Mn:PDI)を有するポリエチレンチップをエクストルーダー100に投入して溶融させた。ポリエチレン溶融物は200個のノズルホールを有する口金200を通じて押出された。
【0108】
口金200のノズルホールから吐出されて形成されたフィラメント11は、冷却部300で冷却された後、集束機400によってマルチフィラメント糸10として集束された。
【0109】
次に、前記マルチフィラメント糸は、延伸部500で70~115℃に設定された多数のゴデットローラー(後段のゴデットローラー温度は直ぐ前段のゴデットローラー温度より高く設定される)によって16倍の総延伸比に延伸および熱固定された。
【0110】
具体的に、前記延伸段階は、7個のゴデットローラーを利用して7段延伸で行った。
【0111】
次に、前記延伸されたマルチフィラメント糸は、交絡装置600で60psiの空気圧で交絡された後、ワインダ700に巻取られた。巻取張力は0.5g/dであった。
【0112】
実施例2
延伸されたマルチフィラメント糸に下記式1で表される1%のリラックスが付与されることを除き、実施例1と同様の方法でポリエチレンマルチフィラメント交絡糸を製造した。
【0113】
[式1]
R(%)=[(Vmax-V)/Vmax]×100
【0114】
式1中、Rはリラックスであり、Vmaxはゴデットローラーの線速度のうちの最も高い線速度であり、Vは巻取速度である。
【0115】
実施例3
巻取張力が0.16g/dであることを除き、実施例1と同様な方法でポリエチレンマルチフィラメント交絡糸を製造した。
【0116】
実施例4
延伸されたマルチフィラメント糸に3%のリラックスが付与されることを除き、実施例3と同様の方法でポリエチレンマルチフィラメント交絡糸を製造した。
【0117】
実施例5
170,000g/molの重量平均分子量(Mw)、1g/10minの溶融指数(MI)(at 190℃)、および7.5の多分散指数(Mw/Mn:PDI)を有するポリエチレンチップを使用し、巻取張力が0.35g/dであることを除き、実施例1と同様の方法でポリエチレンマルチフィラメント交絡糸を製造した。
【0118】
実施例6
延伸段階で5個のゴデットローラーを利用した5段延伸と11倍の総延伸比での延伸および熱固定を行い、巻取張力が0.35g/dであることを除き、実施例1と同様な方法でポリエチレンマルチフィラメント交絡糸を製造した。
【0119】
実施例7
延伸段階で14個のゴデットローラーを利用した14段延伸と23倍の総延伸比での延伸および熱固定を行い、巻取張力が0.35g/dであることを除き、実施例1と同様な方法でポリエチレンマルチフィラメント交絡糸を製造した。
【0120】
比較例1
200,000g/molの重量平均分子量(Mw)、1g/10minの溶融指数(MI)(at 190℃)、および4.5の多分散指数(Mw/Mn:PDI)を有するポリエチレンチップを使用したことを除き、実施例1と同様の方法でポリエチレンマルチフィラメント交絡糸を製造した。
【0121】
比較例2
延伸されたマルチフィラメント糸に3%のリラックスが付与され、巻取張力が0.35g/dであることを除き、比較例1と同様の方法でポリエチレンマルチフィラメント交絡糸を製造した。
【0122】
比較例3
延伸段階で2個のゴデットローラーを利用した2段延伸と6倍の総延伸比に延伸および熱固定を行い、巻取張力が0.35g/dであることを除き、実施例2と同様の方法でポリエチレンマルチフィラメント交絡糸を製造した。
【0123】
比較例4
延伸段階で3個のゴデットローラーを利用した3段延伸と8倍の総延伸比での延伸および熱固定を行い、巻取張力が0.35g/dであることを除き、実施例2と同様の方法でポリエチレンマルチフィラメント交絡糸を製造した。
【0124】
比較例5
延伸段階で3個のゴデットローラーを利用した3段延伸と16倍の総延伸比での延伸および熱固定を行い、巻取張力が0.35g/dであることを除き、実施例2と同様の方法でポリエチレンマルチフィラメント交絡糸を製造した。
【0125】
比較例6
延伸段階で14個のゴデットローラーを利用した14段延伸と25倍の総延伸比での延伸および熱固定を行い、巻取張力が0.35g/dであることを除き、実施例2と同様の方法でポリエチレンマルチフィラメント交絡糸を製造した。
【0126】
比較例7
150psiの空気圧条件で交絡を行うことを除き、実施例2と同様の方法でポリエチレンマルチフィラメント交絡糸を製造した。
【0127】
比較例8
10psiの空気圧条件で交絡を行うことを除き、実施例2と同様の方法でポリエチレンマルチフィラメント交絡糸を製造した。
【0128】
[実験例]
実施例および比較例によってそれぞれ製造されたポリエチレンマルチフィラメント交絡糸の強度、初期モジュラス、伸び率、重量平均分子量(Mw)、多分散指数(Mw/Mn:PDI)、および交絡度を、下記の方法によってそれぞれ測定し、その結果を次の表1および2に示した。
【0129】
*強度(g/d)、初期モジュラス(g/d)、および伸び率(%)
ASTM D885方法により、インストロン社(Instron Engineering Corp、Canton、Mass)の万能引張試験器を利用して、ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸の変形-応力曲線を得た。サンプル長さは250mmであり、引張速度は300mm/minであり、初期ロード(load)は0.05g/dに設定した。破断点での応力と伸長から、強度(g/d)および伸び率(%)を求めたのであり、前記曲線の原点付近の最大勾配を与える接線から、初期モジュラス(g/d)を求めた。各交絡糸毎に5回測定後、その平均値を算出した。
【0130】
*重量平均分子量(Mw)(g/mol)および多分散指数(PDI)
ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸を下記の溶媒に完全に溶解した後、次のゲル透過クロマトグラフィー(GPC)を利用して、前記ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および多分散指数(Mw/Mn:PDI)をそれぞれ求めた。
【0131】
-分析機器:PL-GPC 220 system
-カラム:2×PLGEL MIXED-B(7.5×300mm)
-カラム温度:160℃
【0132】
-溶媒:トリクロロベンゼン(TCB)+0.04wt.%ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)(after drying with 0.1% CaCl
-溶解条件:160℃、1~4時間、溶解後ガラスフィルター(0.7μm)を通過した溶液を測定
【0133】
-Injector、Detector温度:160℃
-Detector:RI Detector-流速:1.0ml/min
-注入量:200μl
-標準試料:ポリスチレン
【0134】
*交絡度(nodes/m)
ASTM D4724(2011)(Standard Test Method for Entanglements in Unwinded Filament Yarns by Needle Insertion)にしたがい、Lenzing社のRAPID-500を利用して、ポリエチレンマルチフィラメント交絡糸を解糸しながら、その交絡度を測定した。測定しようとする交絡糸の繊度(ここでは、400デニール)を前記装備に入力すれば、その繊度に対応する所定荷重(ここでは、約29g)が前記交絡糸にかかった状態で、前記交絡糸の交絡度が測定される。
【0135】
【表1】
【0136】
【表2】
【0137】
表1および2の結果から、総延伸比が11倍~23倍の範囲内に調節され、ゴデットローラーを利用した多段延伸が4段以上~20段以下に調節される実施例1~7の場合、比較例に比べて、強度に優れながらも交絡度が10nodes/m以上を示して、延伸時の毛羽発生を減らすポリエチレンマルチフィラメント交絡糸が提供されることが分かる。また、実施例は、交絡時の空気圧も特定の範囲内に調節されることによって、毛羽発生を減らすことができる交絡糸を提供することができた。さらには、7.5のPDIを有するポリエチレンチップを利用してマルチフィラメント交絡糸を製造した実施例の場合、1%のリラックスが付与された実施例2、および3%のリラックスが付与された実施例4の交絡糸はもちろんのこと、引いてはリラックスが全く付与されなかった実施例1、3、および4の交絡糸も、10nodes/m以上の高い交絡度を有することが分かる。
【0138】
これに対し、4.5のPDIを有するポリエチレンチップを利用してマルチフィラメント交絡糸を製造した比較例の場合、比較例1はもちろんのこと、3%のリラックスおよび0.35g/dの巻取張力が適用された比較例2も、10nodes/m未満の低い交絡度を有することが分かる。また、比較例1および2の場合、延伸時の毛羽発生は少なくても、低い交絡度を有すると共に初期モジュラスが高くて製織性が低下し、生地がごわごわするという問題を招いた。
【0139】
また、比較例3および4の場合、3段以下の延伸および延伸倍率が6倍および8倍と過度に低いため、本願と類似する強度を示しても、十分な交絡を付与することができず、初期モジュラスも高く、合糸工程時の毛羽発生が激しくて、生地の製品不良を招いた。比較例5~6は、延伸種類および総延伸比条件が本発明の範囲を全て外れて、延伸時に切糸により原糸生産が不可能であった。比較例7~8は、交絡時に空気圧が過度に高いか低いため、6nodes/m以下の低い交絡度を示し、その結果、延伸時の毛羽発生頻度だけでなく、合糸工程での毛羽発生が増加した。
【符号の説明】
【0140】
100:エクストルーダー
200:口金
300:冷却部
400:集束部
500:延伸部
600:交絡装置
700:ワインダ
図1
【国際調査報告】