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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(54)【発明の名称】癌を治療する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20220111BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220111BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220111BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20220111BHJP
   A61K 31/4439 20060101ALI20220111BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20220111BHJP
   A61K 31/4162 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P35/00
A61P43/00 111
A61K45/06
A61P43/00 121
A61K31/4439
A61P7/00
A61K31/4162
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021525682
(86)(22)【出願日】2019-11-13
(85)【翻訳文提出日】2021-05-26
(86)【国際出願番号】 EP2019081145
(87)【国際公開番号】W WO2020099470
(87)【国際公開日】2020-05-22
(31)【優先権主張番号】62/767,215
(32)【優先日】2018-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】391008951
【氏名又は名称】アストラゼネカ・アクチエボラーグ
【氏名又は名称原語表記】ASTRAZENECA AKTIEBOLAG
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】シダード,ジャスティン
(72)【発明者】
【氏名】ボイコ,スコット
(72)【発明者】
【氏名】ドゥルー,リサ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084AA20
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA06
4C084NA14
4C084ZA511
4C084ZA512
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC201
4C084ZC202
4C084ZC411
4C084ZC412
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB03
4C086CB31
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA06
4C086NA14
4C086ZA51
4C086ZB26
4C086ZC20
4C086ZC41
4C086ZC75
(57)【要約】
Mcl-1依存性癌を治療する方法が本明細書に記載される。この方法は、癌がBfl-1ポジティブであるか否かを決定する工程と、癌がBfl-1ポジティブである場合、患者にCDK9の阻害剤を投与する工程とを含み得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者におけるMcl-1依存性癌を治療する方法であって、
前記患者から生体試料を得るか又は得ていること;及び
Bfl-1の発現レベルを測定するためにアッセイを実施するか又は実施していること
により、前記癌がBfl-1ポジティブであるか否かを決定する工程と;
前記癌がBfl-1ポジティブである場合、次いで前記患者にCDK9の阻害剤を投与し、それにより癌アポトーシスを増加させる工程と
を含み、CDK9の阻害剤の投与時のBfl-1ポジティブな癌に対する癌アポトーシスの増加は、Bfl-1ネガティブな癌におけるであろうものよりも大きく、及び/又はMcl-1阻害剤の投与時のBfl-1ポジティブな癌に対する癌アポトーシスの増加は、Bfl-1ネガティブな癌におけるであろうものよりも小さい、方法。
【請求項2】
前記癌がBfl-1ネガティブである場合、Mcl-1阻害剤を前記患者に投与する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記CDK9の阻害剤は、CDK9の選択的阻害剤である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記CDK9の阻害剤は、AZD4573である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記癌は、リンパ腫である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記癌は、びまん性大B細胞リンパ腫(DLBCL)である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記癌は、活性化B細胞びまん性大B細胞リンパ腫(ABC-DLBCL)である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記Mcl-1阻害剤は、AZD5991である、請求項2~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
Mcl-1依存性癌の治療におけるCDK9の阻害剤の使用であって、前記癌は、Bfl-1ポジティブであると決定されている、使用。
【請求項10】
前記CDK9の阻害剤は、CDK9の選択的阻害剤である、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記CDK9の阻害剤は、AZD4573である、請求項9又は10に記載の使用。
【請求項12】
Mcl-1依存性癌の治療におけるMcl-1阻害剤の使用であって、前記癌は、Bfl-1ネガティブであると決定されている、使用。
【請求項13】
前記Mcl-1阻害剤は、AZD5991である、請求項13に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
骨髄細胞白血病1(Mcl-1)は、BCL-2ファミリーのタンパク質の重要な抗アポトーシスメンバーであり、細胞生存のマスターレギュレータである。MCL1遺伝子の増幅及び/又はMcl-1タンパク質の過剰発現は、複数の癌タイプにおいて観察されており、腫瘍発生に一般に関係している。実際に、MCL1は、ヒト癌で最も頻繁に増幅される遺伝子である。多くの悪性腫瘍において、Mcl-1は、極めて重要な生存因子であり、様々な抗癌剤に対して薬剤耐性を仲介することがわかっている。
【0002】
Mcl-1は、Bim、Noxa、Bak及びBaxなどのアポトーシス促進性タンパク質に結合し、それらの細胞死誘導活性を中和することにより、細胞生存を促進する。それにより、Mcl-1の阻害によってこれらのアポトーシス促進性タンパク質が放出され、多くの場合、生存のためにMcl-1に依存性の腫瘍細胞にアポトーシスが誘発される。
【0003】
Mcl-1のように、Bfl-1も抗アポトーシスタンパク質のBCL-2ファミリーに属する。
【0004】
サイクリン依存性タンパク質キナーゼ(CDK)は、サイクリン調節パートナーに結合すると活性となるセリン/トレオニンタンパク質キナーゼのファミリーである。最初に、CDK/サイクリン複合体が細胞周期進行の調節因子として同定された。CDK/サイクリン複合体は、転写及びmRNAプロセッシングにも関与している。CDK9/PTEFb(正の転写伸長因子b)は、RNAポリメラーゼII(RNAP II)の大型サブユニットのカルボキシル末端ドメイン(CTD)、主にSer-2をリン酸化し、転写の伸長を調節する。CDK9の阻害及び転写抑制は、短寿命mRNA転写物及び関連タンパク質、例としてMcl-1及びc-mycの急速な枯渇をもたらし、それらの生存タンパク質に対して過剰依存性である癌細胞におけるアポトーシスの誘導をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、Mcl-1及びBfl-1などの抗アポトーシスタンパク質のレベルを変える治療に対して、いずれの癌及びそれによりいずれの患者が高感受性であるかを決定する方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様において、患者におけるMcl-1依存性の癌を治療する方法であって、患者から生体試料を得るか又は得ていること;及びBfl-1の発現レベルを測定するためにアッセイを実施するか又は実施していることにより、癌がBfl-1ポジティブであるか否かを決定する工程と;癌がBfl-1ポジティブである場合、次いで患者にCDK9の阻害剤を投与し、それにより癌アポトーシスを増加させる工程と含み、CDK9の阻害剤の投与時のBfl-1ポジティブな癌に対する癌アポトーシスの増加は、Bfl-1ネガティブな癌におけるであろうものよりも大きく、及び/又はMcl-1阻害剤の投与時のBfl-1ポジティブな癌に対する癌アポトーシスの増加は、Bfl-1ネガティブな癌におけるであろうものよりも小さい、方法が提供される。
【0007】
他の態様において、Mcl-1依存性癌の治療におけるCDK9の阻害剤の使用であって、癌は、Bfl-1ポジティブであることが決定されている、使用が提供される。
【0008】
他の態様において、Mcl-1依存性癌の治療におけるMcl-1阻害剤の使用であって、癌は、Bfl-1ネガティブであることが決定されている、使用が提供される。
【0009】
他の特徴、目的及び利点は、説明及び図面から且つ特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1A-1Bは、一部のリンパ腫細胞株に対するMcl-1阻害と比較したCDK9阻害間の差次的応答を例示する。
図2図2は、Bfl-1発現が、Mcl-1阻害に対する感受性と比較してCDK9阻害に対する比較的高い感受性と関連することを示す。
図3図3A-3Dは、Bfl-1が不安定なタンパク質であり、且つその発現が一時的なCDK9阻害によって調節されることを示す。
図4図4A-4Bは、リンパ腫細胞株を発現するBfl-1が生存のために複数のBcl-2ファミリータンパク質に依存することを示す。
図5図5A-5Cは、AZD4573がABC-DLBCL細胞株における強い抗腫瘍活性を発揮することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
Mcl-1依存性癌を治療する方法が本明細書に記載される。その方法は、一般に、他のMcl-1依存性癌と比較して、CDK9阻害に対する高い感受性及び/又はMcl-1阻害に対する低い感受性を有するMcl-1依存性癌を同定することを含む。
【0012】
一部のMcl-1依存性癌における特定のメカニズムによって束縛されることを意図することなく、完全なアポトーシス応答には、複数の抗アポトーシスタンパク質の阻害及び/又は枯渇が必要とされ得る。DK9の阻害により、Mcl-1の他に他の抗アポトーシスタンパク質(例えば、Bfl-1など)の発現が低減されるため、一部のMcl-1依存性癌は、Mcl-1阻害剤に対してよりも、CDK9の阻害剤に対してより感受性であり得る。
【0013】
「治療する」、「治療すること」及び「治療」という用語は、癌などの病状、障害又は疾患を少なくとも一部軽減し、抑制し、予防し、且つ/又は回復させることを意味する。「癌の治療」又は「癌細胞の治療」という用語は、ヒトなどの温血動物などの生体外及び生体内治療の両方を含む。癌細胞の治療の有効性は、限定されないが、癌細胞増殖の抑制(癌増殖の逆転を含む);癌細胞死の促進(例えば、アポトーシスの促進又は他の細胞死メカニズムによる);症状の改善;治療に対する応答期間;疾患進行の遅延;及び生存の延長を含む様々な方法で評価することができる。
【0014】
治療に伴う副作用の性質及び程度に関しても治療が評価される。さらに、特定の生物学的現象と関連することが公知のタンパク質の発現又はリン酸化のレベルなど、バイオマーカーに関しても有効性が評価され得る。有効性の他の評価は、当業者に公知である。
【0015】
本明細書で使用される場合、「Mcl-1依存性癌」とは、Mcl-1が枯渇又は阻害された結果、臨床的に有益な効果を発揮するのに十分な癌細胞のアポトーシスが増加する癌を意味する。細胞死、切断型カスパーゼの増加などの様々な手段又は当技術分野で公知の方法により、アポトーシスを評価することができる。
【0016】
本明細書で使用される場合、「Bfl-1ポジティブ」とは、Bfl-1タンパク質を発現する癌、癌細胞又は癌細胞株を意味する。対照的に、「Bfl-1ネガティブ」とは、Bfl-1タンパク質を発現しない癌、癌細胞又は癌細胞株を意味する。所定の癌、癌細胞又は癌細胞株のBfl-1発現の状況は、例えば、ウェスタンブロットによって決定することができる。
【0017】
本明細書で使用される場合、「CDK9の阻害剤」という用語は、CDK9を阻害することができ、任意選択的に1種又は複数の他のCDKを阻害することができる化合物を意味する。化合物の一次標的がCDK9ではないとしても、CDK9の他に1種又は複数の他のCDKを阻害する化合物は、CDK9の非選択的阻害剤である。例えば、ジナシクリブは、CDK9などの複数のCDKを阻害する。したがって、ジナシクリブは、本明細書においてその用語が用いられる場合、CDK9の非選択的阻害剤である。CDK9の選択的阻害剤は、CDK9を阻害し、且つ他のCDKに対する阻害活性をほとんど又は全く有さない化合物である。したがって、本明細書で使用される場合、「CDK9の阻害剤」は、CDK9の非選択的及び選択的阻害剤の両方を含む。
【0018】
CDK9の阻害剤としては、例えば、AZD4573、BAY-1251152、BAY-1143572、CYC065、アルボシジブ、AT7519、ボルシクリブ、ロニシクリブ及びジナシクリブが挙げられる。CDK9の選択的阻害剤としては、AZD4573、BAY-1251152及びBAY-1143572が挙げられる。CDK9の非選択的阻害剤としては、CYC065、アルボシジブ、AT7519、ボルシクリブ、ロニシクリブ及びジナシクリブが挙げられる。
【0019】
(1S,3R)-3-アセトアミド-N-(5-クロロ-4-(5,5-ジメチル-5,6-ジヒドロ-4H-ピロロ[1,2-b]ピラゾール-3-イル)ピリジン-2-イル)シクロヘキサンカルボキサミドとも呼ばれるAZD4573、選択的CDK9阻害剤は、式:
【化1】
を有し、その全体が参照により組み込まれる国際公開第2017/001354号パンフレットに記載されている。
【0020】
本明細書で使用される場合、「Mcl-1阻害剤」という用語は、Mcl-1への結合によってMcl-1を阻害することができる化合物を意味する。本明細書で使用される場合、「Mcl-1阻害剤」という用語は、例えば、Mcl-1タンパク質の発現を制限することによってMcl-1に間接的に影響する化合物を除外する。したがって、この用語が本明細書で使用される場合、CDK9の阻害剤は、Mcl-1阻害剤とみなされない。Mcl-1阻害剤の例示的な一例は、AZD5991:
【化2】
であり、その全体が参照により組み込まれる米国特許第9,840,518号明細書に記載されている。
【0021】
Mcl-1依存性である癌細胞株は、Mcl-1阻害剤及びCDK9の阻害剤などの治療に対するその感受性が異なる。Mcl-1依存性癌細胞株のパネルにおいて、意外なことに、Bfl-1ポジティブ細胞株は、Bfl-1ネガティブ細胞株と比較して、Mcl-1阻害に対して低い感受性、CDK9阻害に対して高い感受性又はその両方を示す傾向があることが判明した。したがって、Bfl-1ポジティブ細胞株は、Mcl-1の阻害剤と比較して、CDK9の阻害剤に対するより高い相対的感受性と関連付けられた。このように、Bfl-1を使用して、Mcl-1依存性癌を区別し、Mcl-1阻害剤に対して非感受性であるとしても、CDK9の阻害剤に対して感受性である可能性のある癌を同定することができる。
【0022】
一実施形態において、患者におけるMcl-1依存性癌を治療する方法であって、患者から生体試料を得るか又は得ていること;及びBfl-1の発現レベルを測定するためにアッセイを実施するか又は実施していることにより、癌がBfl-1ポジティブであるか否かを決定する工程と;癌がBfl-1ポジティブである場合、次いで患者にCDK9の阻害剤を投与し、それにより癌アポトーシスを増加させる工程とを含み、CDK9の阻害剤の投与時のBfl-1ポジティブな癌に対する癌アポトーシスの増加は、Bfl-1ネガティブな癌におけるであろうものよりも大きく、及び/又はMcl-1阻害剤の投与時のBfl-1ポジティブな癌に対する癌アポトーシスの増加は、Bfl-1ネガティブな癌におけるであろうものよりも小さい、方法が提供される。
【0023】
一実施形態において、Mcl-1依存性癌において癌アポトーシスを増加させる方法であって、患者から生体試料を得るか又は得ていること;及びBfl-1の発現レベルを測定するためにアッセイを実施するか又は実施していることにより、癌がBfl-1ポジティブであるか否かを決定する工程と;癌がBfl-1ポジティブである場合、次いで患者にCDK9の阻害剤を投与し、それにより癌アポトーシスを増加させる工程とを含み、CDK9の阻害剤の投与時のBfl-1ポジティブな癌に対する癌アポトーシスの増加は、Bfl-1ネガティブな癌におけるであろうものよりも大きく、及び/又はMcl-1阻害剤の投与時のBfl-1ポジティブな癌に対する癌アポトーシスの増加は、Bfl-1ネガティブな癌におけるであろうものよりも小さい、方法が提供される。
【0024】
一実施形態において、Mcl-1依存性癌において1種又は複数の抗アポトーシスタンパク質のレベルを低減する方法であって、患者から生体試料を得るか又は得ていること;及びBfl-1の発現レベルを測定するためにアッセイを実施するか又は実施していることにより、癌がBfl-1ポジティブであるか否かを決定する工程と;癌がBfl-1ポジティブである場合、次いで患者にCDK9の阻害剤を投与し、それにより癌アポトーシスを増加させる工程とを含み、CDK9の阻害剤の投与時のBfl-1ポジティブな癌に対する癌アポトーシスの増加は、Bfl-1ネガティブな癌におけるであろうものよりも大きく、及び/又はMcl-1阻害剤の投与時のBfl-1ポジティブな癌に対する癌アポトーシスの増加は、Bfl-1ネガティブな癌におけるであろうものよりも小さい、方法が提供される。
【0025】
上記の実施形態のそれぞれにおいて、この方法は、癌がBfl-1ネガティブである場合、患者にMcl-1阻害剤を投与することをさらに含み得る。CDK9の阻害剤は、CDK9の選択的阻害剤であり得る。CDK9の阻害剤は、AZD4573であり得る。癌は、びまん性大B細胞リンパ腫(DLBCL)、マントル細胞リンパ腫、慢性リンパ性白血病、慢性小リンパ球性白血病、ヴァルデンストレームマクログロブリン血症、辺縁帯リンパ腫、慢性移植片対宿主疾患、濾胞性リンパ腫及び急性リンパ性白血病から選択され得る。本明細書で使用される場合、DLBCLとしては、活性化B細胞DLBCL(ABC-DLBCL)及び胚中心B細胞DLBCL(GCB-DLBCL)が挙げられる。癌は、リンパ腫であり得る。癌は、びまん性大B細胞リンパ腫(DLBCL)であり得る。癌は、活性化B細胞びまん性大B細胞リンパ腫(ABC-DLBCL)であり得る。Mcl-1阻害剤は、AZD5991であり得る。
【0026】
一実施形態において、Mcl-1依存性癌の治療におけるCDK9阻害剤の使用であって、癌は、Bfl-1ポジティブであることが決定されている、使用が提供される。CDK9の阻害剤は、CDK9の選択的阻害剤であり得る。CDK9の阻害剤は、AZD4573であり得る。
【0027】
一実施形態において、Mcl-1依存性癌の治療におけるMcl-1阻害剤の使用であって、癌は、Bfl-1ネガティブであることが決定されている、使用が提供される。Mcl-1阻害剤は、AZD5991であり得る。
【0028】
一実施形態において、患者におけるリンパ腫を治療する方法であって、患者から生体試料を得るか又は得ていること;及びBfl-1の発現レベルを測定するためにアッセイを実施するか又は実施していることにより、リンパ腫がBfl-1ポジティブであるか否かを決定する工程と;リンパ腫がBfl-1ポジティブである場合、次いで患者にCDK9の阻害剤を投与し、それにより癌アポトーシスを増加させる工程とを含み、CDK9の阻害剤の投与時のBfl-1ポジティブなリンパ腫に対する癌アポトーシスの増加は、Bfl-1ネガティブなリンパ腫におけるであろうものよりも大きく、及び/又はMcl-1阻害剤の投与時のBfl-1ポジティブなリンパ腫に対する癌アポトーシスの増加は、Bfl-1ネガティブなリンパ腫におけるであろうものよりも小さい、方法が提供される。
【0029】
一実施形態において、患者における活性化B細胞びまん性大B細胞リンパ腫(ABC-DLBCL)を治療する方法であって、患者から生体試料を得るか又は得ていること;及びBfl-1の発現レベルを測定するためにアッセイを実施するか又は実施していることにより、リンパ腫がBfl-1ポジティブであるか否かを決定する工程と;リンパ腫がBfl-1ポジティブである場合、次いで患者にCDK9の阻害剤を投与し、それにより癌アポトーシスを増加させる工程とを含み、CDK9の阻害剤の投与時のBfl-1ポジティブなリンパ腫に対する癌アポトーシスの増加は、Bfl-1ネガティブなリンパ腫におけるであろうものよりも大きく、及び/又はMcl-1阻害剤の投与時のBfl-1ポジティブなリンパ腫に対する癌アポトーシスの増加は、Bfl-1ネガティブなリンパ腫におけるであろうものよりも小さい、方法が提供される。
【実施例
【0030】
実施例1:リンパ腫の腫瘍モデルのサブセットは、Mcl-1阻害と比較してCDK9阻害に対して向上した感受性を示す
リンパ腫細胞株のサブセットは、Mcl-1阻害と比較してCDK9阻害に対して向上した感受性を示す。6時間のカスパーゼ活性化アッセイにおいて、33個のリンパ腫細胞株(図2Aに示す)を選択的CDK9阻害剤、AZD4573又は選択的Mcl-1阻害剤、AZD5991で処置した。33個の細胞株のうちの7個は、カスパーゼEC50に基づいて、AZD5991と比較して、AZD4573処理でのCDK9阻害に対して20倍を超える高い感受性を示した。さらに、これらのモデルのサブセットにおけるカスパーゼ活性化の規模は、Mcl-1阻害に比べて、CDK9阻害に応答して有意に高かった。
【0031】
方法:33個のびまん性大B細胞(DLBCL)及びマントル細胞(MCL)リンパ腫細胞株を、AZD4573又はAZD5991の10ポイント、1/2log滴定で前投与された384ウェルプレートに接種し、6時間インキュベートした。インキュベーションに続いて、製造元プロトコルに従ってカスパーゼ-Glo 3/7(Promega)を使用して、切断型カスパーゼを測定した。GeneData Screener及びSpotfireを使用して、データを解析した。
【0032】
結果を図1A~1Bに示す。CDK9及びMcl-1阻害剤に対するリンパ腫腫瘍モデルの薬理学的応答。図1Aは、33個の細胞株パネル全体のAZD4573及びAZD5991カスパーゼpEC50値を比較する散布図である。実線及び破線は、1:1又は1:10のy=x軸の一致(unity)をそれぞれ示す。赤で強調され/矢印によって示される細胞株は、AZD5991処理と比べて、AZD4573処理を受けて、20倍を超えるカスパーゼEC50の強力なシフトを有する。図1Bは、6時間の化合物のインキュベーション後にAZD4573及びAZD5991カスパーゼ最大効果と相関する散布図である。赤で強調され/矢印によって示される細胞株は、AZD4573処理に応答して最大効果>50%及びAZD5991処理に応答して最大効果<50%の基準に適合する。
【0033】
実施例2:リンパ腫腫瘍モデルを発現するBfl-1は、CDK9阻害に対して感受性が高いが、Mcl-1阻害に対する感受性が低い
リンパ腫モデルのサブセットがMcl-1阻害と比較してCDK9阻害に対する高い感受性を有する理由の理解を促進するために、Bcl2ファミリーメンバーのタンパク質発現が評価された。評価されたリンパ腫細胞株(n=33)の20%を超える株においてBfl-1発現が同定され、発現細胞株の大部分がABC-DLBCLリンパ腫サブタイプに属した。Bfl-1の発現がないことに基づいて、細胞株(n=25)がクラスター化された場合、AZD5991及びAZD4573のカスパーゼEC50幾何平均値の差は、わずか4倍であった。興味深いことに、Bfl-1発現細胞株(n=8)におけるAZD5991とAZD4573カスパーゼEC50との間に劇的に大きい22倍の差があった。カスパーゼEC50中央値を当てはめた場合にも同様の傾向が確認された。
【0034】
方法:33個のリンパ腫細胞株からの細胞溶解液を並行して作製し、生存促進性Bcl2ファミリーメンバーのタンパク質発現を評価した。BCAタンパク質アッセイキットを使用して、タンパク質濃度に対して細胞溶解液を基準化し、標準プロトコルに従ってウェスタンブロットを実施した。Bfl-1、TMD8の発現に対するポジティブ細胞株コントロールをパネルにおける他の細胞株に対する基準化に用いた。高及び低Bfl-1発現それぞれに基づいてクラスター化された細胞株から、AZD4573及びAZD5991それぞれのカスパーゼEC50中央値及び幾何平均値を計算した。
【0035】
結果を図2A~2Bに示す。リンパ腫腫瘍モデル全体にわたるBfl-1タンパク質発現。図2Aは、33個のリンパ腫細胞株におけるBfl-1タンパク質発現の評価を示す。棒の色は、リンパ腫のサブタイプを表す。破線を横切る棒は、ウェスタンブロットによってBfl-1発現に対してポジティブであった。スケールは、TMD8細胞株コントロールの発現に対するものである。図2Bは、33個のリンパ腫腫瘍モデルにわたるAZD4573及びAZD5991に対するカスパーゼ幾何平均値及び中央値EC50を示す。ジティブ又はネガティブBfl-1発現に基づいて、表は、クラスターにグループ化される。AZD5991とAZD4573のEC50との倍率差を、それぞれの細胞株カテゴリーについて列記する。
【0036】
実施例3:Bfl-1は、リンパ腫細胞株における一時的なAZD4573処置によって調節される不安定なタンパク質である
Bfl-1発現と、CDK9阻害に対する高い感受性との間にポジティブな相関性が見出されることから、CDK9阻害は、リンパ腫細胞株において、Mcl-1に加えてBfl-1を標的化し得ると仮定された。ABC-DLBCL細胞株OCILY10をAZD4573の段階稀釈で処理し、下流の標的タンパク質に対してイムノブロットした。近位のCDK9バイオマーカー、pSer2-RNAP2は、AZD4573を用いた用量依存的な様式で阻害された。Mcl-1及びBfl-1タンパク質における等効力の減少は、近位のCDK9バイオマーカーを阻害するAZD4573の濃度で確認された。OCILY10細胞をシクロヘキシミドで処理し、Mcl-1と同様にBfl-1が1時間未満の半減期を有することを明らかにすることにより、Bfl-1は、不安定なタンパク質であることが確認された。他のBcl2ファミリータンパク質の半減期は、すべて9時間を超えた。
【0037】
100nM AZD4573で処理されたOCILY10細胞において、CDK9阻害に対する時間依存性応答も確認された。pSer2-RNAP2の発現は、細胞に投薬して30分後に>80%阻害されたのに対して、Mcl1及びBfl1 mRNA発現は、2時間までに等しいレベルに低減され、続いて4時間でMcl-1及びBfl-1タンパク質が低減された。切断型カスパーゼを6時間で検出した。寿命が長いタンパク質Bcl2、Bcl-xL及びBcl-Wの発現は、AZD4573で処置して6時間後でも比較的変化しないままであった。本発明者らは、さらなるABC-DLBCL細胞株、TMD8におけるAZD4573処理後にBfl-1及びMcl-1の同様の結果を確認した。
【0038】
方法:AZD4573の9ポイント、1/2log用量反応で6時間、ABC-DLBCL細胞株OCILY10を処理し、タンパク質溶解液のために細胞を収集した。6時間までの様々な時点について、これらの細胞もAZD4573で100nMにおいて処理した。それぞれの時点(0、0.5、1、2、4、6時間)において、mRNA単離又はタンパク質溶解液のそれぞれのために細胞を収集した。mRNAをcDNAに変換し、標準プロトコルに従ってMcl1及びBcl2a1プライマーでPCR配列増幅を実施した。BCAタンパク質アッセイキットを使用して、タンパク質濃度に対してタンパク質溶解液を基準化し、標準プロトコルに従ってウェスタンブロットを実施した。期待される標的結合が達成されたことを裏付けるために、Mcl-1及びBfl-1と共にCDK9の近位バイオマーカー(pSer2-RNAPolII)に対してブロットをプローブした。アポトーシスの誘導までの時間を正確に測定するために、切断型カスパーゼ-3も評価した。正規化のためにローディングコントロール(ビンキュリン)も使用した。
【0039】
33個のDLBCL及びMCLリンパ腫細胞株からの細胞溶解液を並行して作製して、生存促進性Bcl2ファミリーメンバーのタンパク質発現を評価した。CAタンパク質アッセイキットを使用して、タンパク質濃度に対して細胞溶解液を基準化し、標準プロトコルに従ってウェスタンブロットを実施した。タンパク質(GAPDH)の等しいローディング及びTMD8細胞からのポジティブコントロール細胞溶解液を用いたウェスタンブロットアッセイ全体にわたる等しい発現を裏付けるために、コントロールを用いた。
【0040】
Bcl2ファミリータンパク質の半減期を推定するために、OCILY10細胞をシクロヘキシミド10μg/mLで処理して、新たなタンパク質合成を阻止した。シクロヘキシミド処理後の様々な時点(0、1、3、6、9、24時間)において、タンパク質溶解液の作製のために1e細胞を収集した。
【0041】
結果を図3A~3Dに示す。リンパ腫細胞株におけるAZD4573処置によるBfl-1の阻害:図3A:AZD4573の用量反応で6時間処置され、且つウェスタンブロットによって評価されたOCILY10。図3B:OCILY10細胞を示される時点において10μg/mLシクロヘキシミドで処理し、Bcl2ファミリータンパク質発現に対してイムノブロットした。図3C:AZD4573 100nMで処置した後の、OCILY10細胞における時間の経過によるBfl-1転写物のキネティクス及びタンパク質モジュレーション。図3D:示される時点においてAZD4573 100nMで処置され、且つMcl-1、Bfl-1及び切断型カスパーゼのタンパク質モジュレーションに対して評価された、TMD8細胞からの免疫ブロットデータ。
【0042】
実施例4:Bfl-1発現性リンパ腫細胞株は、生存のために複数のBcl-2ファミリータンパク質に依存する
siRNAを用いたBfl-1へのリンパ腫細胞の単一遺伝子依存性が以下の記載のように決定された。OCILY10及びTMD8細胞株におけるBfl-1を標的化するsiRNAで>80%ノックダウンした場合、内因性アポトーシスバイオマーカー切断PARPの発現は、スクランブルコントロールに対して増加しなかった。しかしながら、Bfl-1ノックダウン細胞をAZD5991で処理し、切断型カスパーゼに関して再評価した場合、OCILY10とTMD8細胞株との両方で達成されたアポトーシスの最大レベルが平均で45%から90%超に増加し、AZD4573による一時的CDK9阻害に応答して達成された同様の規模の最大カスパーゼ活性化が表現型模写された。
【0043】
方法:OCILY10及びTMD8細胞を対数期で増殖させ、12ウェルプレート(Dharmacon B-005000)で1×10細胞/mLにおいて血清不含siRNA送達培地中でプレーティングした。Bfl-1を標的化するsiRNA SMARTpool又はスクランブルネガティブコントロール(NTC)を各ウェルに0.1又は0.5μMにおいて24時間添加した(Dharmacon Bcl2a1-597,TC-D-001910-01)。トランスフェクトされたウェルすべてに細胞培地2mLを添加し、6ウェルプレートにさらに48時間移した。トランスフェクト細胞を回収し、Bfl-1タンパク質ノックダウン及び切断型カスパーゼ-3をウェスタンブロットによって評価した。AZD4573又はAZD5991の8ポイント滴定で前投与された384ウェルプレートにもトランスフェクト細胞を接種し、6時間インキュベートした。製造元のプロトコルに従い、カスパーゼ-Glo 3/7(Promega)を使用して、切断型カスパーゼの活性化についてプレートを測定した。
【0044】
結果を図4A~4Bに示す。リンパ腫モデルにおけるBfl-1依存性:図4A:Bfl-1 siRNAのトランスフェクト後、OCILY10及びTMD8細胞溶解液中のBfl-1及び切断PARP発現を示す免疫ブロット。図4B:Bfl-1ノックダウン条件下でのAZD5991処理に関する、OCILY10及びTMD8細胞株におけるカスパーゼ活性化の用量依存性増加を示すグラフ。
【0045】
実施例5:ABC-DLBCL細胞株におけるAZD4573は、強い抗腫瘍活性を実証する
生体内でのBfl-1発現に対するCDK9阻害の効果を評価した。ABC-DLBCL異種移植片OCILY10及びTMD8にAZD4573を間欠的に投与することにより、Mcl-1阻害と比較して強い腫瘍退縮(それぞれTGI 198%及び184%)を生じた。AZD4573仲介抗腫瘍活性は、pSer2-RNAPII、Mcl-1及びBfl-1の薬力学的減少、続いてカスパーゼ活性化と関連した。
【0046】
方法:ジメチルアセトアミド(DMA)/ポリエチレングリコール400(PEG400)/1%(w/v)Tween80溶液(2/30/68)中にAZD4573を配合し、1日目及び2日目に2時間分割で1日2回、5日間の休薬期間で15mg/kgにおいて腹腔内に(ip)に投与した。
【0047】
pH9.0~9.5に調整された、注射のための水中の30%HPBCD(ヒドロキシ-プロピル-β-シクロデキストリン)中にAZD5991を静脈内投与のために濃度20mg/mLまで配合した(元の形態をベースとする)。AZD5991を60mg/kgにおいて尾静脈内注入によって週に1回投与した。
【0048】
5×10個のOCILy10腫瘍細胞又は10×10個のTMD8腫瘍細胞を、C.B-17 SCID雌性マウスの右脇腹に、マトリゲル50%を含有する0.1mLの体積で皮下注射した。
【0049】
腫瘍体積(キャリパーにより測定)、動物の体重及び腫瘍状態を試験期間中週2回記録した。腫瘍体積は、式:長さ(mm)×幅(mm)×0.52を用いて計算した。有効性試験のために、コントロールと処置群との間の腫瘍体積の差の比較により、処置の開始からの増殖阻害を評価した。平均腫瘍サイズが約150~180mmに達したとき、投与を開始した。CR=完全奏効。
【0050】
腫瘍分離についての標準プロトコルに従って薬力学的測定を行った。BCAタンパク質アッセイキットを使用して、分離された腫瘍からのタンパク質溶解液を基準化した。イムノブロットを実施し、pSERII-RNAPII及びBcl2ファミリータンパク質の発現に対してプローブした。ローディングコントロール(GAPDH)を使用して、等しいタンパク質ローディングを確認した。
【0051】
結果を図5A~5Bに示す:Bfl-1発現リンパ腫異種移植片におけるAZD4573の生体内抗腫瘍活性。図5A:AZD4573処置により、OCILY10及びTMD8 ABC-DLBCL異種移植片モデルにおいて完全な腫瘍退縮が生じる。図5B:3回の投与サイクル後にそれぞれ達成されたAZD4573及びAZD5991有効性の一覧表。図5C:OCILY10及びTMD8モデルにおける短期間AZD4573処置後のBfl-1の薬力学的モジュレーション。
【0052】
他の実施形態は、以下の特許請求の範囲内に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】