(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(54)【発明の名称】非小細胞肺がんの診断用末梢血miRNAマーカー
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6886 20180101AFI20220111BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20220111BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z ZNA
C12Q1/686 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021525727
(86)(22)【出願日】2019-11-11
(85)【翻訳文提出日】2021-07-09
(86)【国際出願番号】 CN2019117176
(87)【国際公開番号】W WO2020098607
(87)【国際公開日】2020-05-22
(31)【優先権主張番号】201811336972.2
(32)【優先日】2018-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521202558
【氏名又は名称】ミレックサス(ハンジョウ) バイオテクノロジー カンパニー リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】521202569
【氏名又は名称】ヂェアジャン キャンサー ホスピタル
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100125081
【氏名又は名称】小合 宗一
(72)【発明者】
【氏名】ゾウ、ルイヤン
(72)【発明者】
【氏名】ス、ダン
(72)【発明者】
【氏名】チェン、へ
(72)【発明者】
【氏名】イン、リシャ
(72)【発明者】
【氏名】ジョウ、リハン
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR42
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX01
(57)【要約】
非小細胞肺がん診断用末梢血miRNAマーカーであって、hsa-miR-1291、hsa-miR-1-3p、hsa-miR-214-3p、hsa-miR-375、又はhsa-let-7a-5pを含む、末梢血miRNAマーカーが提供される。アジア人及び白人集団での非小細胞肺がん診断に適する5個の特異的診断マーカーが多数の試料で検証され、既報の他のmiRNAマーカーと比較してより高い集団特異度を有する。これら5個のmiRNA診断マーカーは、初めて提案され、他のmiRNA分子マーカーよりも信頼性が高いことが示される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
hsa-miR-1291、hsa-miR-1-3p及びhsa-miR-214-3pの少なくとも1個を含む、非小細胞肺がんの診断のための末梢血miRNAマーカー。
【請求項2】
hsa-miR-375及びhsa-let-7a-5pの一方又は両方をさらに含む、請求項1に記載の非小細胞肺がんの診断のための末梢血miRNAマーカー。
【請求項3】
末梢血は血清又は血漿である、請求項1に記載の非小細胞肺がんの診断のための末梢血miRNAマーカー。
【請求項4】
末梢血miRNAマーカーの発現は、対照サンプル中のものと比較して、非小細胞肺がんと診断された患者の末梢血中で差次的に調節される、請求項1又は2に記載の非小細胞肺がんの診断のための末梢血miRNAマーカー。
【請求項5】
対照サンプルは非小細胞肺がんに罹患していない被検者である、請求項4に記載の非小細胞肺がんの診断のための末梢血miRNAマーカー。
【請求項6】
非小細胞肺がんは、扁平上皮肺がん及び腺がん肺がんを含む、請求項1又は2に記載の非小細胞肺がんの診断のための末梢血miRNAマーカー。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の末梢血miRNAの検出用試薬を少なくとも1つ含む、非小細胞肺がんの診断用キット。
【請求項8】
- 被検者から得られた末梢血サンプル中のmiRNAの存在を検出すること、
- hsa-miR-1291、hsa-miR-1-3p、hsa-miR-214-3p、hsa-miR-375及びhsa-let-7a-5pを含む群から選択される少なくとも1個のmiRNAの発現レベルを末梢血サンプル中で測定すること、
- 以前に測定されたmiRNA発現レベルに基づくスコアを使用して、被検者が非小細胞肺がんを発症するか、あるいは、非小細胞肺がんを有する可能性を予測すること、
を含む方法によって、被検者が非小細胞肺がんを発症する可能性、又は、非小細胞肺がんを有する可能性を予測するための、非小細胞肺がんの診断薬の調製における請求項1又は2に記載の末梢血miRNAマーカーの使用。
【請求項9】
miRNAの発現レベルのスコアは、サポートベクターマシンアルゴリズム、ロジスティック回帰アルゴリズム、多項ロジスティック回帰アルゴリズム、Fisherの線形判別アルゴリズム、二次分類器アルゴリズム、パーセプトロンアルゴリズム、k-近傍アルゴリズム、人工ニューラルネットワークアルゴリズム、ランダムフォレストアルゴリズム、決定木アルゴリズム、ナイーブBayesアルゴリズム、適応Bayesネットワークアルゴリズム及び複数の学習アルゴリズムを組み合わせた統合学習方法からなる群から選択される分類アルゴリズムを用いて計算される、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
分類アルゴリズムは、対照の発現レベルを使用して予め訓練される、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
対照は、非小細胞肺がんを発症していない対照と、非小細胞肺がん患者とからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
分類アルゴリズムは、被検者における発現レベルと、対照における発現レベルとを比較し、被検者がいずれかの対照群に属する可能性を特定する数学的スコアを返す、請求項9ないし11のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
miRNAの発現レベルは、濃度、濃度の対数、Ct/Cq及びCt/Cqの2乗のいずれか1つである、請求項8ないし12に記載の使用。
【請求項14】
非小細胞肺がんは種々のステージの非小細胞肺がんを含む、請求項8に記載の使用。
【請求項15】
被検者は、アジア人及び白人を含むが、これらに限られない、請求項8に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、疾患の早期発見の技術分野に関し、具体的には、非小細胞肺がんの診断用末梢血miRNAマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
肺がんは世界中のがんによる死亡の主要な原因である。国立がんセンターが2016年に発表した統計によると、429万人の新規発症がん患者のうち733,000人が肺がんによる。280万人のがん死亡者のうち、610,000人は肺がんが原因であり、名実ともに中国における「がんの第1位」となっている。これらのうち、非小細胞肺がん(non-small cell lung cancer、NSCLC)が肺がん全体の約80%を占め、その約75%の患者は診断時に既に中期に達しており、5年生存率は非常に低い。肺がんの初期の兆候は不明確で、診察時に肺がん患者の75%が局部浸潤及び遠隔転移を起こしており、手術の機会を逸してしまう。現行の治療は肺がんの全生存率を改善するにはほとんど効果がなく、ステージIIないしIVの肺がん患者の5年生存率は凡そ40%ないし5%であり、ステージIの患者では最大92%となることがある。したがって、高リスク集団のスクリーニングの強化と、早期診断及び治療率の改善が肺がん死亡率減少のための最も効果的な方法である。
【0003】
胸部X線及び喀痰塗抹標本が肺がんのスクリーニングの最も頻用される技術であるが、これらの感度は低すぎる。光ファイバー気管支内視鏡又は生検は、病変部を直接調べて病理学的性質を決定することができるが、侵襲的であるため、大規模なサンプル集団に適用するのは困難である。低線量スパイラルCTは現在のところ肺がんのスクリーニングに最も効果的な技術と考えられており、非侵襲的で高感度だが、偽陽性率が最大96.4%で、スクリーニングコストは比較的高い。したがって、最小限に侵襲的で、経済的で、かつ感度及び特異度が高い早期スクリーニングのための新規技術開発には需要がある。
【0004】
マイクロRNA(miRNA)は、近年発見されたヌクレオチド19-25個の長さのノンコーディング低分子RNAのクラスである。miRNAは、主に、標的遺伝子の3’UTRと完全又は不完全に対合することによって、標的遺伝子のmRNAを分解するか、あるいは、該mRNAの翻訳を阻害し、これにより、個体発生、細胞のアポトーシス、増殖及び分化のような生命活動の調節に関与して、腫瘍の発生及び進行の期間中にがん遺伝子又は腫瘍抑制遺伝子と類似の役割を果たす。miRNAの発現プロファイルは、明白な組織特異性があり、異なる腫瘍で特異的な発現パターンを有する。これらの特性は、miRNAが新規なバイオマーカー及び腫瘍診断の治療標的になることを可能にする。既知の循環核酸(DNA及びRNA)と同様に、miRNAは肺がんリスクの高い健常者及び腫瘍患者の血清に広範に存在し、そのタイプ及び数は生理学的状態及び病状の進行とともに変化するであろう。循環miRNAはアポトーシス細胞又は壊死細胞から誘導されるか、あるいは、細胞による活性放出及び循環細胞の溶解から誘導される場合がある。これらの内因性循環miRNA分子の大部分は、遊離形態では存在せず、タンパク質等との複合体を形成する。従って、内因性循環RNA分子はRNアーゼの分解に対する優れた耐性及び高い安定性を有する。この特性は、検出のためのバイオマーカーとしての循環miRNAの使用を可能にする。
【0005】
多くの研究は、肺がんにおけるmiRNAの異常な発現を報告している。既存の研究は、肺がんの早期診断のために多くの非常に有望な血清miRNAを発見したが、試験されたサンプルは組織、血清、血漿などを含み、検出方法は配列決定、増幅、ハイブリダイゼーションなどを含み、研究における参加サンプルの選択は厳密ではなく、種々の因子における一貫性の欠如が存在するため、非小細胞肺がんのmiRNAマーカーについて一致した結論はない。これらの結果は一貫性がなく、相互に検証できない。最後に、肺がんスクリーニングに用いることができる血清miRNAバイオマーカー及びその組み合わせの結論は下されていない。
【0006】
上記の最も重要な理由は以下の通りである。
【0007】
1.患者及び対照のサンプルの選択、収集及び保存の間に偏差が生じる。異なるタイプのサンプルは必然的にバイオマーカーの開発及び確認に不確実性をもたらすであろう。末梢血中のmiRNAは、主として肺がん関連細胞によって細胞外環境に分泌され、それらの成分は必然的に細胞内又は全血サンプル中のものとは異なるものであり、また前処理の有無のような他の因子にも影響される。ほとんどのmiRNAは、健常及びがん被検者の末梢血中で安定に存在し、体内の様々な組織細胞によって分泌され、その発現レベルは、環境及び遺伝因子のような種々の非がん性因子によって影響されるであろう。影響を排除するために、多くのヒトサンプルを研究及び開発と、バイオマーカーの真正性を確認するための確認とのために選択する必要がある。同時に、複数の研究が、異なる方法を使用して単離され、貯蔵されたとき、末梢血サンプルが異なるバイオマーカー含量を有することを示している。進行がんと比較することによって、異なる方法を使用して単離されかつ保存されたサンプル間で比較することによって、がん組織細胞によって発見され、多数のサンプルによって開発及び検証されたのでない、バイオマーカーは、すべて偽陽性の結果であり得、大規模な実験による確認に必ずしも耐えることができない。
【0008】
2.非常に低分子量のために、miRNAは検出に一定の困難を有する。特に、miRNAの含有量が少ない末梢血において、miRNAをいかに安定的かつ高感度に検出するかは、常に問題であった。いくつかの現行の高スループットチップ法、配列決定法及び高スループットRT-PCRスクリーニング法の限界は、不安定性、再現性不良及び低感度などを含む。少数のサンプルを使用することと組み合わせて、重要なmiRNAバイオマーカーを無視して、研究及び開発(R&D)相の間に偽陰性の結果を生成することは容易である。同時に、技術の不安定性はまた、独立したサンプル中のバイオマーカーの確認の不確実性を増大させ、偽陽性及び偽陰性の確率を高めることが容易である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、非小細胞肺がんの診断のための末梢血miRNAマーカーを提供することであり、ここで、多数のサンプルによる確認に基づいて、5個の特異的診断マーカーが、アジア人及び白人集団における非小細胞肺がんに適し、国際的に報告された他のmiRNAマーカーと比較してより高い集団特異性を示すと明示的に同定される。これら5個のmiRNA診断マーカーの全てが初めて提案され、他のmiRNA分子マーカーよりも信頼性が高い。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明により採用される本発明の技術的課題を解決するための技術的解決策は、hsa-miR-1291、hsa-miR-1-3p及びhsa-miR-214-3pの少なくとも1個を含む、非小細胞肺がんの診断のための末梢血miRNAマーカーである。
【0011】
末梢血miRNAマーカーは、hsa-miR-375及びhsa-let-7a-5pの一方又は両方をさらに含む。
【0012】
末梢血miRNAマーカーが、hsa-miR-1291、hsa-miR-1-3p、hsa-miR-214-3p、hsa-miR-375及びhsa-let-7a-5pから選択される少なくとも1個のmiRNAを含む、非小細胞肺がんの診断のための末梢血miRNAマーカー。
【0013】
1の実施形態では、末梢血miRNAマーカーは、hsa-miR-1291、hsa-miR-1-3p、hsa-miR-214-3p、hsa-miR-375及びhsa-let-7a-5pのうちの2個の組み合わせである。1の実施形態では、末梢血miRNAマーカーは、hsa-miR-1291、hsa-miR-1-3p、hsa-miR-214-3p、hsa-miR-375及びhsa-let-7a-5pのうちの3個の組み合わせである。別の実施形態では、末梢血miRNAマーカーは、hsa-miR-1291、hsa-miR-1-3p、hsa-miR-214-3p、hsa-miR-375及びhsa-let-7a-5pのうちの4個の組み合わせである。別の実施形態では、末梢血miRNAマーカーは、hsa-miR-1291、hsa-miR-1-3p、hsa-miR-214-3p、hsa-miR-375及びhsa-let-7a-5pの5個の組み合わせである。
【0014】
末梢血は血清又は血漿である。
【0015】
末梢血miRNAマーカーの発現は、対照サンプル中のものと比較して、非小細胞肺がんと診断された患者の末梢血中で差次的に調節される。hsa-miR-1291、hsa-miR-1-3p、hsa-miR-214-3pは、がん患者において上向き調節され、一方、hsa-miR-375及びhsa-let-7a-5pは両方ともがん患者において下向き調節される。
【0016】
対照サンプルは非小細胞肺がんに罹患していない被検者である。
【0017】
非小細胞肺がんは、扁平上皮肺がん及び腺がん肺がん(adenocarcinoma lung cancer)を含む。
【0018】
末梢血miRNAマーカーを検出するための少なくとも1つの試薬を含む、非小細胞肺がんの診断のためのキット。該キットは、hsa-miR-1291、hsa-miR-1-3p、hsa-miR-214-3p、hsa-miR-375及びhsa-let-7a-5pを含む群から選択される少なくとも1個のmiRNAの発現レベルを検出するためのキットである。
【0019】
- 被検者から得られた末梢血サンプル中のmiRNAの存在を検出すること、
- hsa-miR-1291、hsa-miR-1-3p、hsa-miR-214-3p、hsa-miR-375及びhsa-let-7a-5pから選択される少なくとも1個のmiRNAの発現レベルを末梢血サンプル中で測定すること、
- 以前に測定されたmiRNA発現レベルに基づくスコアを使用して、被検者が非小細胞肺がんを発症する可能性、又は、非小細胞肺がんを有する可能性を予測すること、
を含む方法によって、被検者が非小細胞肺がんを発症する可能性、又は、非小細胞肺がんを有する可能性を予測するための、非小細胞肺がんの診断薬の調製における末梢血miRNAマーカーの使用。
【0020】
前記miRNAの発現レベルのスコアは、サポートベクターマシンアルゴリズム、ロジスティック回帰アルゴリズム、多項ロジスティック回帰アルゴリズム、Fisherの線形判別アルゴリズム、二次分類器アルゴリズム、パーセプトロンアルゴリズム、k-近傍アルゴリズム、人工ニューラルネットワークアルゴリズム、ランダムフォレストアルゴリズム、決定木アルゴリズム、ナイーブBayesアルゴリズム、適応Bayesネットワークアルゴリズム及び複数の学習アルゴリズムを組み合わせた統合学習方法からなる群から選択される、分類アルゴリズムを用いて計算される。
【0021】
前記分類アルゴリズムは、対照の発現レベルを使用して予め訓練される。
【0022】
ここで、前記対照は、非小細胞肺がんを発症していない対照と、非小細胞肺がん患者とからなる群から選択される少なくとも1つである。
【0023】
ここで、前記分類アルゴリズムは、被検者における発現レベルと、対照における発現レベルとを比較し、被検者がいずれか1つの対照群に属する可能性を特定する数学的スコアを返す。
【0024】
ここで、前記miRNAの発現レベルは、濃度、濃度の対数、Ct/Cq及びCt/Cqの2乗のいずれか1つである。
【0025】
非小細胞肺がんは種々のステージの非小細胞肺がんを含む。
【0026】
被検者は、アジア人及び白人を含むが、これらに限られない。
【0027】
現在の報告では、肺がんの血清/血漿miRNAバイオマーカーについて一致した結論は存在しない。これらの結果は一貫性がなく、そのいくつかは上向き調節され、いくつかは下向き調節され、相互に検証することができない。最終的に、肺がんスクリーニングに使用可能な血清miRNAバイオマーカー及びそれらの組み合わせはまだ結論がでていない。既存の報告の例は以下の通りである。
【0028】
【0029】
本発明では、5個の特異的診断マーカーが、多数のサンプルによる確認に基づいて、アジア人及び白人集団における非小細胞肺がんに適していると明確に同定され、国際的に報告された他のmiRNAマーカーと比較してより高い集団特異性を示している。これら5個のmiRNA診断マーカーの全てが初めて提案され、他のmiRNA分子マーカーよりも高い感度及び特異性を有する
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、本発明による非小細胞肺がんのmiRNAマーカーをスクリーニングする際のスクリーニング、トレーニング及び確認の段階を示す実験デザインフローチャートである。
【
図2】
図2は、非小細胞肺がんを有する患者の血清中のmiRNAマーカーを診断するための本発明の方法を決定するための工程図である。対照群は、健常者又は肺炎の被検者を含む。
【
図3】
図3は、全ての確実に検出された272種のmiRNAの発現レベルのヒートマップである。該ヒートマップは、確実に検出できる全てのmiRNAを表し、miRNAの発現レベル(コピー/mL)は、log 2スケールで提示され、ゼロ平均に正規化される。ドットの色は濃度を表す。ユークリッド距離に基づく2次元(miRNA及びサンプル)について階層的クラスタリングを行う。水平方向のディメンジョンに関して、色は、患者-対照被検者を表すために使用される。
【
図4】
図4は、R&Dコホート中の29種の差次的に発現したmiRNAの発現レベルのヒートマップである。miRNAの発現レベル(コピー/mL)は、log 2スケールで提示され、ゼロ平均に正規化される。ドットの色は濃度を表す。ユークリッド距離に基づいて2次元(miRNA及びサンプル)について階層的クラスタリングを行う。水平方向のディメンジョンに関して、色は、患者-対照被検者を表すために使用される。
【
図5】
図5は、hsa-miR-1291、hsa-miR-1-3p、hsa-miR-214-3p、hsa-miR-375及びhsa-let-7a-5pから選択される異なる数のmiRNAを含む種々の多変数バイオマーカーパネルの相互検証から得られた平均AUCを示す棒グラフである。誤差棒は測定されたAUCの標準偏差を表す。
【
図6】
図6は、各コホートにおけるmiRNAマーカーの組み合わせのROCプロットである。
【
図7】
図7は、各コホート(対照及びがん)におけるmiRNAマーカーの組み合わせの発現レベルのボックスプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、具体的な実施例を用いて本発明の技術的解決策をさらに具体的に説明する。
【0032】
本発明では、特に明記しない限り、使用される材料、装置などは、全て市販されているか、又は、当該技術分野で一般的に使用されている。以下の実施例における方法は、特記しない限り、全て当該技術分野における従来のものである。
【0033】
本出願人は、研究において、非小細胞肺がんの診断に用いることができるmiRNAマーカーを発見したが、これにより、非小細胞肺がんを確実に同定することができる。
【0034】
本発明に開示される全てのmiRNA配列は、miRBaseデータベース(http://www.mirbase.org/)に保存されている。
【0035】
【0036】
本発明は、非小細胞肺がんの診断マーカーを決定するための方法であって、
a.非小細胞肺がん患者からの一定数の血清中の複数のmiRNAの発現レベルを高スループットで測定すること、
b.一定数の対照血清中の複数のmiRNAの発現レベルを決定すること及び
c.a及びbにおける複数のmiRNAの相対的発現レベルを比較し、非小細胞肺がんの診断マーカーとして1個以上の差次的に発現したmiRNAをスクリーニングして、検査対象者(tester)の血清を特定すること、
を含む、方法(
図2)を開示する。
【実施例1】
【0037】
R&Dコホートの血清サンプルの要件、採取及び調製
本研究では、初期の肺がんの検出(
図1)のためのバイオマーカー及びそのバイオマーカーの組み合わせを発見し、確認するために、6つのがん患者-対照コホートを使用した。R&Dコホート中の肺がんの患者は、中国の浙江省がん病院(Zhejiang Cancer Hospital)由来であり、対照サンプルは、中国浙江省柯橋区(Keqao)の肺がんについてのLDCT都市スクリーニングプロジェクト由来であった。1年当たり10パック超を喫煙した被検者を喫煙者と定義した。研究群及び対照被検者の年齢を可能な限り一致させるために、40-85歳の被検者のみを研究に含めた。
【0038】
実験デザインでは、200μLの血清を抽出し、全RNAを逆転写し、cDNAの量を予備増幅により増加させたが、miRNAの相対発現レベルは不変のままであった。予備増幅したcDNAをqPCR測定のために希釈した。miRNAの発現濃度が500コピー/mL未満の場合、分析から除外され、その後の研究では検出不能とされた。
【実施例2】
【0039】
逆転写-リアルタイム蛍光PCR法の手順及び結果
本発明は、血清サンプル中の520個の候補miRNAの特異的な発現を検出するためにRT-qPCR技術を使用した。人工的に合成されたmiRNAの標準曲線を用いて、血清サンプル1mL当たりのコピーを決定した。これらの中で、272個のmiRNAを90%超のサンプル(発現レベル≧500コピー/mL)で確実に検出した(
図3)これは、他の技術を用いて以前に報告された研究よりも多数のmiRNAであったが、優れた実験デザイン及び良好に制御されたワークフローを使用することの重要性を強調した。受信機動作特性曲線(ROC)が、個々のmiRNA又は複数の個々のバイオマーカーのパネルの特性を表すために使用された。連続順方向浮動探索(sequential forward floating search、SFFS)アルゴリズムを用いてmiRNAバイオマーカーの選択を最適化し、曲線下の面積(AUC)値を用いて最適マーカーを選択した。ロジスティック回帰式を用いて多自由度バイオマーカーパネルを構築して、対照群とがん群とを区別した。
【0040】
さらなる研究により、NSCLC検出のための個々のmiRNAバイオマーカーが明らかになった。補正後、29個のmiRNAは0.01未満のp値を有することが見出され、がん群と対照との間の差は絶対標準スコア1を超え、NSCLC被検者において22個が上向き調節され、7個が下向き調節された。これらの29個のmiRNAを、階層的クラスタリングのためにR&Dコホート中で抽出し、がんと対照被検者との間の明確な等級付けを観察した(
図4)非小細胞肺がん症例の種々のステージの間に有意な差異は観察されなかった。従って、検証コホートにおいて、これら29個の候補miRNAバイオマーカーは、検証が継続されるであろう。
【実施例3】
【0041】
前記29個のmiRNAの検証コホートにおける確認
本発明は、2つの適合した患者-対照コホートを使用してこれら29個の血清miRNAバイオマーカーを引き続き検出する。検証コホート1では、423例のがん及び対照サンプルは、R&Dコホートと同じ供給源由来であるが、標的集団が男性、女性、喫煙者及び非喫煙者に拡張された。検証コホート2では、サンプルは、218例の東欧人男性、女性、喫煙者及び非喫煙者を含んでいた。上記の2つの検証コホートは、初期段階(ステージ1及び2)の非小細胞肺がんサンプルのみを含んでいた。0.4未満のmiRNAマーカーは有意ではなかった。非小細胞肺がんの検出のためのバイオマーカーとして、p値が0.01よりも小さい、両方の検証コホートにおいて0.4より大きい絶対標準スコアを有する3個の上向き調節されるmiRNA(hsa-miR-1291、hsa-miR-1-3p、hsa-miR-214-3p)をさらに選択した。
【実施例4】
【0042】
前記候補miRNAの検証コホートにおける確認
本発明はさらに、これら3個のmiRNAバイオマーカー(hsa-miR-1291、hsa-miR-1-3p、hsa-miR-214-3p)を検証するために3つの追加の検証コホートを使用した。検証コホート3は、R&Dコホート及び検証コホートと同じ出所源由来の237例の中国人のがん及び対照サンプルを含んだ。確認コホート4は340例の独立したがん及び対照サンプルを含んだ。確認コホート5は、65例のシンガポール人のサンプルを含んだ。非小細胞肺がんをより正確に予測するために、バイオマーカーの組み合わせの使用が有利であり得る。
【0043】
【0044】
hsa-miR-375及びhsa-let-7a-5pは、発現レベルががんと対照サンプルとの間で有意に下向き調節されることも示されたmiRNAである。新規バイオマーカーhsa-miR-1291、hsa-miR-1-3p及びhsa-miR-214-3pを含むことができる多変量パネルへのこれらのバイオマーカーの併合は、評価された多変量パネルの少なくともいくつかにおけるAUC値を有意に改善することが見出された。以下の表は、個々のmiRNAについてのAUC、感度、特異度、正の予測値(PPV)及び負の予測値(NPV)を提供する。
【0045】
【0046】
次に、hsa-miR-1291、hsa-miR-1-3p、hsa-miR-214-3p、hsa-miR-375及びhas-let-7a-5pの組み合わせを評価した。
図5は、miRNAを個々に、又は、2個、3個、4個若しくは5個のmiRNAのパネルの一部として使用して、発見及び検証段階におけるサンプルの解析から得られた平均AUC値の表にまとめた結果を提供する。以下の表は、単一miRNAについてのAUC、感度、特異性、正の予測値(PPV)及び負の予測値(NPV)の平均値又は交差検証プロセス中に分析された種々の多変数バイオマーカーパネルについての平均値をさらに提供する。5個のmiRNAのパネルについては、以下の表に提供される値は、平均値ではなく、実際のAUC、感度、PPV及びNPV値を表す(5個のmiRNAの単一の可能な組み合わせのみが存在する)。個々のmiRNAの使用は、既に良好な診断性能を示し、そしてこれらのバイオマーカーの診断値は、最大5個のmiRNAの多変量パネルで組み合わせた場合にさらに増強されたと結論することができる。
【0047】
【0048】
以下の表は、2個、3個又は4個のmiRNAを含む多変量パネルの平均AUC値をさらに提供し、ここで1個のmiRNAが、hsa-miR-1291、hsa-miR-1-3p、hsa-miR-214-3p、hsa-miR-375及びhas-let-7a-5pのいずれかから選択される。5個のmiRNAのいずれもが、良好な診断性能を有する多変量パネルの基礎にできることは明らかである。
【0049】
【0050】
R&D及び検証コホートにおける5個のmiRNAマーカーの組み合わせ(hsa-miR-1291、hsa-miR-1-3p、hsa-miR-214-3p、hsa-miR-375、hsa-let-7a-5p)の診断効果を
図6及び7に示す。全体として、これら5個のmiRNAマーカーの組み合わせは、80%の感度及び90%の特異度で非小細胞肺がんを検出するために使用される。
図7は、5個のmiRNAマーカーの組み合わせを用いて計算された各コホートにおけるサンプルのスコアを示す。非小細胞肺がんと健常な対照集団とを良好に鑑別することができる。
【0051】
本発明は、血清miRNAバイオマーカーの組み合わせを発見及び検証するための完全なワークフローを確立し、そして非小細胞肺がんを検出するためのバイオマーカー及びこれらの組み合わせの同定に成功した。
【0052】
特定の態様では、肺がんを有すると診断された患者は、医療従事者によって適切であると決定された治療を受けることができる。治療は、(例えば、肺切除、肺葉切除又は肺セグメント切除による)悪性腫瘍の一部又は全部を除去するための外科手術、高周波アブレーション(RFA)又は放射線療法による腫瘍の切除、(例えば、治療上有効な量のシスプラチン、カルボプラチン、ドセタクセル、パクリタキセル、ゲムシタビン、ビノレルビン、イリノテカン、エトポシド、ビンブラスチン、ペメトレキセド又はそれらの任意の組み合わせを投与することによる)化学療法、標的化療法(例えば、ベバシズマブ及び/又はラムシルマブの投与のような抗体ベースの療法)、(例えば、ニボルマブ、イピリムマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ又はデュルバルマブのような1種又はそれ以上の免疫チェックポイント阻害剤の投与による)免疫療法及びそれらの任意の組み合わせを標的とする治療を含んでもよい。緩和治療が、肺がんの症状を治療するために使用されてもよい。疾患の早期段階での肺がん患者の治療は、有意な生存利益を示した。手術は、早期の肺がんを有する患者のために最初に選択すべき治療であり、そしてこれらの患者はしばしば良好な生存率を示し、ステージ1a肺がん(Lazdunski、2013)患者については約75%の5年生存率であった。早期肺がんのために提供されるアジュバント化学療法又は標的療法も有益であり得る(Gadgeel、2017)。
【0053】
前記実施例は、本発明の好ましい実施形態のみであり、本発明を決して限定することを意図するものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的解決策から逸脱することなく、他の変形及び修正が可能である。
【配列表】
【国際調査報告】