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特表2022-507268結合ドメインおよび分泌可能なペプチドの遺伝子を含む組換えベクター
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(54)【発明の名称】結合ドメインおよび分泌可能なペプチドの遺伝子を含む組換えベクター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/48 20060101AFI20220111BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20220111BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20220111BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220111BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220111BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220111BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20220111BHJP
   A61K 38/20 20060101ALI20220111BHJP
   A61K 38/45 20060101ALI20220111BHJP
   A61K 38/51 20060101ALI20220111BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220111BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20220111BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
C12N15/48
C12N15/86 Z ZNA
C12N7/01
C12N5/10
A61K35/76
A61K48/00
A61K38/19
A61K38/20
A61K38/45
A61K38/51
A61P35/00
A61P37/04
A61K39/395 N
A61K39/395 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021525756
(86)(22)【出願日】2019-11-13
(85)【翻訳文提出日】2021-07-09
(86)【国際出願番号】 US2019061297
(87)【国際公開番号】W WO2020102437
(87)【国際公開日】2020-05-22
(31)【優先権主張番号】62/760,912
(32)【優先日】2018-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/893,673
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520425176
【氏名又は名称】デノボ バイオファーマ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】リン, エイミー エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】ジョリー, ダグラス ジェイ.
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90Y
4B065AA93X
4B065AA97X
4B065AA97Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BC11
4B065BD15
4B065BD18
4B065CA24
4B065CA27
4B065CA44
4C084AA13
4C084DA01
4C084DA12
4C084DA21
4C084DA25
4C084DC25
4C084DC26
4C084NA14
4C084ZB091
4C084ZB261
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZB26
(57)【要約】
本開示は、異種ポリヌクレオチドに作動可能に連結している2A-ペプチドまたはペプチド様コード配列を含有する、異種分泌シグナルを有するタンパク質をコードする導入遺伝子を含む、改変組換えレトロウイルスを提供する。本開示はさらに、そのようなベクターを発現するまたは含む細胞およびベクター、ならびに疾患および障害の処置においてそのような改変ベクターを使用する方法に関する。本開示は、免疫グロブリン(Ig)足場タンパク質と非免疫グロブリン(非Ig)足場タンパク質の両方のポリペプチドサブユニットであって、各々が、抗原結合ドメインと、多量体化ドメイン、例えば、二量体化、三量体化および五量体ドメインと、必要に応じて、安定したホモおよび二量体タンパク質を形成することができるIgG Fcドメインとの融合ポリペプチドを含む、ポリペプチドサブユニットをさらに記載する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換え複製可能レトロウイルスであって、
レトロウイルスGAGタンパク質;
レトロウイルスPOLタンパク質;
レトロウイルスエンベロープ;
レトロウイルスポリヌクレオチドであって、前記レトロウイルスポリヌクレオチド配列の3’末端にある長鎖末端反復(LTR)配列と、前記レトロウイルスポリヌクレオチドの5’末端にあるプロモーター配列であって、哺乳動物細胞における発現に好適であるプロモーター配列と、gag核酸ドメインと、pol核酸ドメインと、env核酸ドメインとを含む、レトロウイルスポリヌクレオチド;
2Aペプチドまたは2Aペプチド様コード配列、続いて異種ポリヌクレオチドに作動可能に連結している分泌シグナルペプチドコード配列を含むカセットであって、前記カセットが、前記3’LTRの5’側に位置し、前記レトロウイルスエンベロープをコードする前記env核酸ドメインに作動可能に連結しており、前記env核酸ドメインの3’側にある、カセット;および
標的細胞における逆転写、パッケージングおよび組み込みに必要なシス作用性配列
を含む、組換え複製可能レトロウイルス。
【請求項2】
前記エンベロープが、両種指向性、多種指向性、異種指向性、10A1、GALV、ヒヒ内在性ウイルス、RD114、ラブドウイルス、アルファウイルス、麻疹またはインフルエンザウイルスエンベロープのうちの1つから選択される、請求項1に記載の組換え複製可能レトロウイルス。
【請求項3】
前記レトロウイルスポリヌクレオチド配列が、マウス白血病ウイルス(MLV)、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)、ネコ白血病ウイルス(FeLV)、ヒヒ内在性レトロウイルス(BEV)、ブタ内在性ウイルス(PERV)、ネコ由来レトロウイルスRD114、リスザルレトロウイルス、異種指向性マウス白血病ウイルス関連ウイルス(XMRV)、トリ細網内皮症ウイルス(REV)、またはテナガサル白血病ウイルス(GALV)からなる群より選択されるウイルスから操作される、請求項1に記載のレトロウイルス。
【請求項4】
ガンマレトロウイルスである、請求項1に記載のレトロウイルス。
【請求項5】
前記標的細胞が、哺乳動物細胞である、請求項1に記載のレトロウイルス。
【請求項6】
前記2Aペプチドまたは2Aペプチド様コード配列が、配列番号1の配列を含有するペプチドをコードする、請求項1に記載のレトロウイルス。
【請求項7】
前記2Aペプチドまたは2Aペプチド様コード配列が、配列番号55~125のいずれか1つのペプチドをコードする、請求項1に記載のレトロウイルス。
【請求項8】
前記2Aペプチドまたは2Aペプチド様コード配列が、配列番号8~19のいずれか1つに記載の配列を含む、請求項1に記載のレトロウイルス。
【請求項9】
前記異種ポリヌクレオチドが、>500bpである、請求項1から8までのいずれか一項に記載のレトロウイルス。
【請求項10】
前記異種ポリヌクレオチドが、少なくとも2つのコード配列を含む、請求項1に記載のレトロウイルス。
【請求項11】
前記カセットの下流に2Aペプチドまたは2Aペプチド様コード配列を含む第2のカセットをさらに含む、請求項1に記載のレトロウイルス。
【請求項12】
前記分泌シグナルペプチドコード配列が、配列番号289~301および302からなる群より選択される配列を含むペプチドをコードする、請求項1に記載のレトロウイルス。
【請求項13】
前記異種ポリヌクレオチドが、抗体、抗体断片、scFv、抗原結合ドメインまたは生体分子と同族のペプチドをコードする、前記請求項のいずれかに記載のレトロウイルス。
【請求項14】
前記異種ポリヌクレオチドが、異種タンパク質またはポリペプチドに作動可能に連結している分泌シグナルペプチドをコードする配列を含み、前記異種タンパク質またはポリペプチドが、プロドラッグ活性化酵素、サイトカイン、受容体リガンド、免疫グロブリン由来の結合ポリペプチド、非免疫グロブリン結合ポリペプチド、およびこれらの任意の組合せからなる群より選択され、複数の異種タンパク質またはポリペプチドが、2Aまたは2A様ペプチドにより分離されている、請求項1から12のいずれか一項に記載のレトロウイルス。
【請求項15】
前記カセットの下流に異なる異種ポリヌクレオチドに作動可能に連結している内部プロモーターまたは遺伝子発現エレメントを含む第2のカセットをさらに含む、請求項1から12のいずれか一項に記載のレトロウイルス。
【請求項16】
前記標的細胞が、肺がん細胞、結腸直腸がん細胞、乳がん細胞、前立腺がん細胞、尿路がん細胞、子宮がん細胞、脳がん細胞、頭頸部がん細胞、膵臓がん細胞、黒色腫細胞、胃がんおよび卵巣がん細胞からなる群より選択される、請求項5に記載のレトロウイルス。
【請求項17】
前記gag核酸ドメインが、ガンマレトロウイルスに由来する、請求項1に記載のレトロウイルス。
【請求項18】
前記gag核酸ドメインが、TがUであり得る、配列番号2の約ヌクレオチド番号1203~約ヌクレオチド2819の配列、またはそれに対して少なくとも95%、98%、99%もしくは99.8%の同一性を有する配列を含む、請求項17に記載のレトロウイルス。
【請求項19】
前記pol核酸ドメインが、ガンマレトロウイルスに由来する、請求項1に記載のレトロウイルス。
【請求項20】
前記pol核酸ドメインが、TがUであり得る、配列番号2の約ヌクレオチド番号2820~約ヌクレオチド6358の配列、またはそれに対して少なくとも95%、98%、99%もしくは99.9%の同一性を有する配列を含む、請求項19に記載のレトロウイルス。
【請求項21】
前記env核酸ドメインが、TがUであり得る、配列番号2の約ヌクレオチド番号6359~約ヌクレオチド8323の配列、またはそれに対して少なくとも95%、98%、99%もしくは99.8%の同一性を有する配列を含む、請求項1に記載のレトロウイルス。
【請求項22】
前記3’末端にあるLTR配列が、ガンマレトロウイルスに由来する、請求項1に記載のレトロウイルス。
【請求項23】
前記3’LTRが、U3-R-U5ドメインを含む、請求項22に記載のレトロウイルス。
【請求項24】
前記異種核酸配列が、生体応答修飾物質または免疫強化サイトカインをコードする、請求項1に記載のレトロウイルス。
【請求項25】
前記免疫強化サイトカインが、インターロイキン1から38、インターフェロン、腫瘍壊死因子(TNF)、および顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)からなる群より選択される、請求項24に記載のレトロウイルス。
【請求項26】
前記異種核酸が、非毒性プロドラッグを毒性薬物に変換するポリペプチドをコードする、請求項1に記載のレトロウイルス。
【請求項27】
非毒性プロドラッグを毒性薬物に変換する前記ポリペプチドが、チミジンキナーゼ、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)、またはシトシンデアミナーゼである、請求項26に記載のレトロウイルス。
【請求項28】
前記異種核酸配列が、受容体ドメイン、抗体、抗体断片、または非免疫グロブリン結合ドメインをコードする、請求項1に記載のレトロウイルス。
【請求項29】
請求項1に記載のレトロウイルスを産生するための組換えポリヌクレオチド。
【請求項30】
GSGリンカーコード配列を伴うまたは伴わない2Aペプチドまたはペプチド様コード配列とインフレームのMLV 4070Aエンベロープタンパク質遺伝子、および前記2Aペプチドまたは2A様コード配列とインフレームの第2の遺伝子を含む、請求項29に記載のポリヌクレオチド。
【請求項31】
GSGリンカーコード配列を伴うまたは伴わない2Aペプチドまたはペプチド様コード配列とインフレームのMLV 10A1エンベロープタンパク質遺伝子、および前記2Aペプチドまたは2A様コード配列とインフレームの第2の遺伝子を含む、請求項29に記載のポリヌクレオチド。
【請求項32】
GSGリンカーコード配列を伴うまたは伴わない2Aペプチドまたはペプチド様コード配列とインフレームのXMRVエンベロープタンパク質遺伝子、および前記2Aペプチドまたは2A様コード配列とインフレームの第2の遺伝子を含む、請求項29に記載のポリヌクレオチド。
【請求項33】
GSGリンカーコード配列を伴うまたは伴わない2Aペプチドまたはペプチド様コード配列とインフレームの非フレンドMLVエンベロープタンパク質遺伝子、および前記2Aペプチドまたは2A様コード配列とインフレームの第2の遺伝子を含む、請求項29に記載のポリヌクレオチド。
【請求項34】
GSGリンカーコード配列を伴うまたは伴わない前記2Aペプチドまたは2Aペプチド様コード配列と、分泌されるポリペプチドをコードする遺伝子または異種ポリヌクレオチドとの間に位置する分泌ペプチド配列をさらに含む、請求項29から33のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項35】
分泌されるポリペプチドをコードする前記遺伝子または異種ポリヌクレオチドが、分泌、膜、細胞質、核または細胞区画特異的タンパク質である、請求項34に記載のポリヌクレオチド。
【請求項36】
前記レトロウイルスおよび/または前記ポリヌクレオチドが、ヒトAPOBEC高頻度変異を起こしやすいトリプトファンコドンを除去するように操作されている、請求項1に記載のレトロウイルスまたは請求項29に記載のポリヌクレオチド。
【請求項37】
前記異種ポリヌクレオチドが、シトシンデアミナーゼ活性を有するポリペプチドをコードする、請求項36に記載のレトロウイルスまたはポリヌクレオチド。
【請求項38】
シトシンデアミナーゼ活性を有する前記ポリペプチドが、配列番号29のポリペプチドをコードし、ここでXaaがトリプトファンを除く任意のアミノ酸である、請求項37に記載のレトロウイルスまたはポリヌクレオチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は2018年11月13日に出願した米国特許仮出願第62/760,912号および2019年8月29日に出願した米国特許仮出願第62/893,673号の優先権を主張するものであり、これらの開示は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
配列表
本願は、電子形式での配列表とともに出願されている。配列表は、サイズが408,816バイトである、2019年11月13日に作成したSequence-Listing_ST25.txtと題するファイルとして提供される。この電子形式の配列表の情報は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0003】
本開示は、ウイルスベクターに関する。本開示はさらに、細胞における異種核酸の送達および発現のためのそのようなウイルスベクターの使用、ならびにそれらの発現および分泌に関する。
【背景技術】
【0004】
細胞および被験体への遺伝子および異種核酸の有効な送達方法は、研究者の科学的開発についてのならびに疾患および障害の考えられる処置についての研究目標になっている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、2A-ペプチドの下流および分泌される異種遺伝子の上流に分泌ペプチドコード配列を含有する2A-ペプチドカセットを含むウイルスを提供する。さらなる実施形態は、抗体、一本鎖抗体、または他の抗体関連構造、非免疫グロブリン足場タンパク質に由来する結合タンパク質などをコードする、異種遺伝子を含む。さらなる実施形態では、抗体関連ペプチドまたは非免グロブリン結合タンパク質は、標的実在に対するより高い結合親和性を提供するために結合タンパク質の多量体化をもたらす配列を含む。なおさらなる実施形態は、分泌される異種遺伝子産物の上流に、ウイルスと遺伝子の両方への、異種分泌シグナルを有する異種遺伝子を含むウイルスを含む。
【0006】
本開示は、免疫グロブリン(Ig)足場タンパク質と非免疫グロブリン(非Ig)足場タンパク質の両方のポリペプチドサブユニットであって、各々が、抗原結合ドメインと、多量体化ドメイン、例えば、二量体化、三量体化および五量体ドメインと、必要に応じて、安定したホモおよび二量体タンパク質を形成することができるIgG Fcドメインとの融合ポリペプチドを含む、ポリペプチドサブユニットをさらに記載する。非Ig足場タンパク質のオリゴマー複合体は、単一または複数のGly-Serリンカーにより形成されることもある。
【0007】
本開示は、ヒト、マウス、ラクダ(ラクダ科動物)、サメおよび雌ウシに由来する重鎖可変ドメインを含む操作されたIg足場タンパク質(参照により本明細書に組み入れられる、Curr Opin Struct Biol. 2017 Aug;45:10-16. doi: 10.1016/j.sbi.2016.10.019)(参照により本明細書に組み入れられる、Nat Biotechnol. 2017 Dec 8;35(12):1115-1117. doi: 10.1038/nbt1217-1115)、ならびに非Ig足場タンパク質(例えば、Skrlec et al., Trends Biotechnol., 33(7):408-18, Jul. 2015およびSimeon & Chen Protein& Cell 9:2-14, 2018を参照されたい;これらの両方が参照により本明細書に組み入れられる)を含み、これらは、アドネクチン、アフィボディ、アフィリン、アフィマー、アンチカリン、アトリマー、アビマー、センチリン、DARPin、Bynomer、Cys-ノット、クニッツドメイン、OBody、プロネクチン、Tn3、Hck、NPHP1、Tec、Amph、RIMBP#3、IRIKS、SNX33、Eps8L1、FISH#5、CMS#1、およびOSTF1を含み、これらの全てをヒトIgGのFcのN末端部分に作動可能に連結することができ、それによって、非常に複雑なオリゴマータンパク質を形成するためのジスルフィド結合形成による単量体またはオリゴマー足場タンパク質の二量体化が可能になる。
【0008】
レトロウイルス複製ベクターおよびレトロウイルス非複製ベクター、他のウイルスベクター、腫瘍溶解性ウイルスベクター、ならびに非ウイルス発現ベクターを含む、ウイルスベクターより送達されるがん免疫療法に有用である組成物および方法が、提供される。
【0009】
一実施形態では、非Ig足場は、抗足場タンパク質免疫応答を最小限に抑えるためにヒト由来のものである。
【0010】
一実施形態では、非Ig足場タンパク質の抗原特異的結合サブユニットは、CTLA-4、PD-1、PDL1、GITR、ICOS、LAG-3、TIM-3、OX40、CD40L、CD137/4-1BB、CD27、TIGIT、VISTA、BTLA、IL-2Rアルファ、IL-2Rベータ、IL-2Rガンマ、IL-15Rアルファ、IL-15Rベータ、またはIL-15Rガンマ、CD19、CD20、メソテリン、ガングリオシドGD2、線維芽細胞関連タンパク質FAP、BCMA、CD3、FOXP3、IL-12Rアルファまたはベータ、CD47、SIRPアルファ、CD94/NKG2、CD244/2B4、アデノシン受容体A2A、EGFR、EGF、VEGFR、VEGF、PDGFR、PDGF、HGFR/MET、HGF、IGF-IR、IGF-1、HER-1、HER-2、HER-3、CEA、EB-D、TRAILR1/DR4、TRAILR2/DR5、細胞外ドメインB(ED-B)、IL-10およびIL-35を標的とする、アゴニストまたはアンタゴニストとして機能する。
【0011】
別の実施形態では、非Ig足場タンパク質の抗原特異的結合サブユニットは、以下のもののうちの少なくとも1つを標的とするアゴニストまたはアンタゴニストとして機能する:60より多くの現行メンバーからなるインターロイキン1から38;ならびにそれらの受容体、例えば、IL-2、IL-4、IL-7、IL-9、IL-15およびIL-21で構成されているIL-2ファミリーのIL-10およびIL-35受容体(これらの受容体は、共通のサイトカイン受容体γ鎖(CD132 γc)を含有する);IL-13Rは、IL-4とIL-4Rαを共有し、IL-4およびIL-13の受容体は、2つの受容体鎖からなり - IL-4およびIL-13は、IL-4Rα(CD124)およびIL-13Rα1鎖からなるIL-4Rに結合し、IL-13Rは、IL-13Rα1およびIL-13Rα2という2つのサブユニットからなり、シグナル伝達が、IL-4RαおよびIL-13RαからなるIL-4R複合体II型を介して行われる;TSLPR(CRFlR-2)は、IL-7とIL-7Rを共有する;特有のα鎖および共通のβ鎖(βc、CD131)サブユニットを有するヘテロ二量体である、IL-3、IL-5およびGM-CSFの受容体;IL-10ファミリーメンバー(IL-10、IL-19、IL-20、IL-22、IL-24、IL-26、IL-28、およびIL-29)、および示されているような、共通の受容体サブユニットを共有する対応する受容体;TNF-αならびにその受容体TNFRIおよびTNFR2;TGF-β、ならびにTGF-βR1およびTGF-βR2からなるそのヘテロ二量体受容体;IL12ならびに2つのサブユニット:IL-12Rβ1およびIL-12Rβ3からなるその受容体IL-12R。IL-23および/またはそのヘテロ二量体受容体サブユニット、IL-12Rβ1およびIL-23R;IFN-αおよびIFN-β、ならびに/またはIFNAR1およびIFNAR2からなるそれらのヘテロ二量体受容体;IFN-γならびに/またはそのヘテロ二量体受容体サブユニットIFN-γR1およびIFN-γR2。
【0012】
一実施形態では、非Ig足場タンパク質が自己集合してホモ二量体、ホモ三量体、ホモ五量体タンパク質複合体、ホモ六量体または他のタイプのタンパク質複合体、例えばヘテロマー複合体などを構築し得る、非Ig足場タンパク質の抗原結合ドメインは、各々が抗原結合非Ig足場タンパク質、グリシン-セリンリンカー、機能的多量体化ドメインを含む、融合タンパク質である。
【0013】
一実施形態では、ホモ六量体非Ig足場タンパク質複合体は、各々が非Ig足場タンパク質、グリシン-セリンリンカー、機能的三量体化ドメインおよびIgG Fcドメインからなる、6つの抗原結合非Ig足場タンパク質を含む、融合タンパク質である。
【0014】
一実施形態では、ホモ十量体非Ig足場タンパク質複合体は、各々が非Ig足場タンパク質、グリシン-セリンリンカー、機能的五量体ドメインおよびIgG Fcドメインからなる、10の抗原結合非Ig足場タンパク質を含む、融合タンパク質である。
【0015】
別の実施形態では、非Ig足場タンパク質が自己集合してヘテロ二量体、ヘテロ三量体またはヘテロ多量体タンパク質を構築し得る、非Ig足場タンパク質の抗原結合ドメインは、異なる抗原結合非Ig足場タンパク質、グリシン-セリンリンカーを含む、多価融合タンパク質複合体である。
【0016】
一実施形態では、ネオ抗原プライミングのために抗原経験T細胞および/または活性化NK細胞および樹状細胞の生存または増殖を促進する方法であって、オリゴマー形態の非Ig足場タンパク質が、腫瘍細胞、T細胞、NK細胞、樹状細胞、骨髄性細胞、腫瘍関連線維芽細胞、B細胞の表面の抗原に特異的に結合することができる、方法。
【0017】
さらなる実施形態では、導入遺伝子は、プロドラッグ活性化タンパク質をコードし、このプロドラッグ活性化タンパク質は、分泌可能なペプチドまたはタンパク質として作製されたものである。さらなる実施形態では、プロドラッグ活性化導入遺伝子は、酵母由来のシトシンデアミナーゼである。
【0018】
本開示の1つまたは複数の実施形態の詳細は、添付の図面および下記の説明で示される。他の特徴、目的および利点は、本明細書および図面から、ならびに特許請求の範囲から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、口蹄疫ウイルス(F2A)、ウマ鼻炎Aウイルス(E2A)、Thosea asignaウイルス(T2A)およびブタテッショウウイルス-1(P2A)の2A領域のアミノ酸配列(配列番号55~58)の配列アラインメントを示す図である。
【0020】
図2-1】図2は、異なるクラスのウイルスに存在する2Aペプチド配列(配列番号59~125)の配列アラインメントを示す図である。
図2-2】図2は、異なるクラスのウイルスに存在する2Aペプチド配列(配列番号59~125)の配列アラインメントを示す図である。
【0021】
図3図3は、RRV-scFv-PDL1プラスミドDNAの概略図である。(A)PD-L1に対する2対の一本鎖可変断片(scFv)がpAC3 RRV骨格にコードされていた。一方の対は、ヒトIgG1からのFcを伴うscFvおよび伴わないscFvからなり、それぞれ、pAC3-scFv-PDL1およびpAC3-scFvFc-PDL1とそれぞれ表記されている。別の対は、C末端に組み入れられたHAおよびFlagエピトープを有するscFv-PDL1およびscFvFc-PDL1からなり、それぞれ、pAC3-scFv-HF-PDL1、pAC3-scFvFc-HF-PDL1と表記されている。灰色で塗りつぶされている長方形は、env遺伝子の下流に位置する、2Aペプチド、IRESまたはミニプロモーターを示し、黒で塗りつぶされている長方形(SP=シグナルペプチド、表A)は、例えばヒトIL-2に由来する、分泌/リーダー配列を示す。
【0022】
図4A図4A~Bは、一過性にトランスフェクトした293T細胞における、PDL1scFvおよびPDL1scFvFcタンパク質発現、ならびにEnv-scFvおよびEnv-ScFvFcポリタンパク質の分離効率を示す図である。(A)pAC3-GSG-T2A-PDL1scFv、pAC3-GSG-T2A-PDL1scFvFc、pAC3-GSG-T2A-PDL1scFv-タグ、pAC3-GSG-T2A-PDL1scFvFc-タグを一過性にトランスフェクトしたHEK293T細胞からのscFv-タグ(約30KDa)およびscFvFc-タグ(約55Kd)タンパク質発現。(B)一過性にトランスフェクトした293T細胞からの細胞溶解物の抗2A免疫ブロット。約110KDaより上で検出されたタンパク質バンドは、Env-scFvおよびEnv-ScFvFc融合ポリタンパク質を表す。約85KDaで検出されたタンパク質バンドは、融合ポリタンパク質から分離されたPr85ウイルスエンベロープタンパク質を表し、約15KDaで検出されたタンパク質バンドは、Pr85ウイルスエンベロープタンパク質からプロセシングされたp15E-2Aタンパク質を表す。
図4B図4A~Bは、一過性にトランスフェクトした293T細胞における、PDL1scFvおよびPDL1scFvFcタンパク質発現、ならびにEnv-scFvおよびEnv-ScFvFcポリタンパク質の分離効率を示す図である。(A)pAC3-GSG-T2A-PDL1scFv、pAC3-GSG-T2A-PDL1scFvFc、pAC3-GSG-T2A-PDL1scFv-タグ、pAC3-GSG-T2A-PDL1scFvFc-タグを一過性にトランスフェクトしたHEK293T細胞からのscFv-タグ(約30KDa)およびscFvFc-タグ(約55Kd)タンパク質発現。(B)一過性にトランスフェクトした293T細胞からの細胞溶解物の抗2A免疫ブロット。約110KDaより上で検出されたタンパク質バンドは、Env-scFvおよびEnv-ScFvFc融合ポリタンパク質を表す。約85KDaで検出されたタンパク質バンドは、融合ポリタンパク質から分離されたPr85ウイルスエンベロープタンパク質を表し、約15KDaで検出されたタンパク質バンドは、Pr85ウイルスエンベロープタンパク質からプロセシングされたp15E-2Aタンパク質を表す。
【0023】
図5図5は、293T細胞において一過性トランスフェクションを生じさせたウイルスエンベロープタンパク質のウェスタンブロット分析を示す図である。20マイクログラムの全タンパク質溶解物をウェルごとにローディングした。膜を、(左側のパネル)HAタグ付きおよびFlagタグ付きscFv-PD-L1およびscFvFc-PD-L1を検出する抗HAとインキュベートしたか、または(右側のパネル)Env-scFvポリタンパク質(Env-scFv)、Env-scFvポリタンパク質から分離されたプロセシングされていないウイルス前駆体エンベロープタンパク質(Env-2A)、およびC末端に2Aペプチドでタグ付けされているプロセシングされたウイルスエンベロープタンパク質(p15E-2A)を検出する抗2Aペプチド抗体とインキュベートした。ハウスキーピングタンパク質GAPDHをローディング対照として含めた、抗GAPDH抗体(左側のパネルの下方)。
【0024】
図6図6A~Bは、競合ELISAによるPD-L1へのscFv PD-L1結合の検出を示す図である。96ウェルマイクロタイタープレートのウェルを、(A)組換えヒトまたは(B)マウスPD-L1-Fcでコーティングし、その後、RRV-scFv-PDL1およびRRV-scFvFc-PDL1にそれぞれ最大限感染させたCT26細胞から回収した未定義scFv PD-L1(scFv)およびscFvFc PD-L1(scFvFc)タンパク質濃度の上清との競合で、Hisタグ付き組換えPD-1-Fcと共インキュベートした。抗PD-L1抗体を陽性対照としてインキュベートした。抗6X HIsタグ抗体を使用して、結合したHisタグ付きPD-1-Fcを検出した。450nmで光学密度を測定した。阻害パーセンテージを、競合に使用したRRV-GFP(非scFv-PD-L1)に最大限感染させたCT26からの上清に対して計算した。エラーバーは、データセットの標準偏差を示す。
【0025】
図7図7A~Bは、バイスタンダー細胞の細胞表面のPD-L1へのscFv PD-L1トランス結合活性を示す図である。示されている比のRRV-scFv-HF PDL1(HAタグ付きscFv-PD-L1)またはRRV-GFPで最大限感染させたIFNγ処理EMT6細胞を2セットに分割した。(A)細胞の一方のセットをAlexa Fluor 647コンジュゲート抗HA抗体で染色し、(B)細胞のもう一方のセットをPEコンジュゲート抗マウスPD-L1抗体で染色した。HA陽性、PD-L1陽性およびGFP陽性細胞集団をフローサイトメトリー分析により測定した。
【0026】
図8図8A~Dは、用量依存性抗腫瘍活性を実証する、scFV PD-L1およびscFvFc PD-L1を発現する事前に形質導入した腫瘍細胞を示す図である。(A)示されている比のRRV-GFPを事前に形質導入した腫瘍細胞と混合した、RRV-scFv-PDL1およびRRV-scFvFc-PDL1を事前に形質導入したEMT6腫瘍細胞を使用する同所性乳がんモデルを、8週齢BALB/c雌マウス(1群当たりn=10)の乳房脂肪体に移植した。生存を90日間モニターした。抗PD-1抗体を対照として含め、10日目(マウス1匹当たり300μg)、13日目、16日目および19日目(マウス1匹当たり200μg)にi.p.投与した。0%scFv/scFvFc対抗PD-1の場合、p=0.2529;**0%対2%の場合、p=0.2529;***0%対30%の場合、p=0.0919;****0%対100%の場合、p=0.1674。グラフ上のチェックマークは、腫瘍壊死に起因して打ち切ったマウスを示し、終了された。これらのマウスを死亡として採点せず、グラフから除外しなかった。(B~D)RRV-scFv-PDL1およびRRV-scFvFc-PDL1処置群からの最初の腫瘍移植を生き延びたマウス(n=5)をその側腹部に1×10EMT6腫瘍細胞でチャレンジし、腫瘍成長を経時的にモニターした。ナイーブ動物(n=5)を対照として含めた。エラーバーは、データセットのSEMを示す。
【0027】
図9図9A~Bは、用量依存性抗腫瘍活性を実証する、RRV-scFv-PDL1の頭蓋内注射を施した同所性神経膠腫モデルからのデータを示す図である。(A)雌B6C3F1マウス(8週齢;1群当たりn=10)に1×10のTu-2449細胞をi.c.移植した。生存分析を90日間モニターした。実験群のマウスには腫瘍移植後4日目に1×10または1×10形質導入単位(TU)の精製RRV-scFv-PDL1を注射した。対照群は、100%事前形質導入scFv-PD-L1発現腫瘍細胞を担持するマウス、および抗PD-1抗体もしくはアイソタイプ対照で処置したマウスである。scFv PD-L1および抗PD-1抗体を発現するRRV-scFv-PDL1で100%事前形質導入(4日目にマウス1匹当たり300μgのi.p.誘導;10、14および17日目にマウス1匹当たり200μgの維持用量)したTu-2449細胞を対照に含めた。生存データをカプラン・マイヤー法によりプロットした。アイソタイプで処置したマウスと、RRV-scFv-PD-L1で100%事前形質導入した群または注射処置RRV-scFv-PDL1群との間の生存の統計的有意性を、ログランク(マンテル-コックス)により決定した。(B)RRV-scFv-PDL1処置群からの最初の腫瘍移植を生き延びたマウスをその右側腹部に2×10Tu-2449細胞でチャレンジした。腫瘍成長および測定値を経時的にモニターした。エラーバーは、データセットのSEMを示す。
【0028】
図10図10は、pAC3-gT2A-アフィマー-SQTを一過性にトランスフェクトした293T細胞の上清からの直接免疫ブロット法および免疫沈降法によるエピトープタグ付きアフィマー-SQTタンパク質の検出を示す図である。
【0029】
図11図11A~Bは、一過性にトランスフェクトした293T細胞の、(A)に示されているpAC3-gT2A-Hckおよび(B)に矢印により示されているpAC3-IRES-Hckの上清からの、直接免疫ブロット法および免疫沈降法によるエピトープタグ付きHckタンパク質の検出を示す図である。
【0030】
図12図12は、RRV-足場プラスミドDNAの概略図である。非Ig足場に由来する抗原結合ドメイン[0066]は、pAC3-2A、pAC3-IRESまたはpAC3-ミニプロモーター骨格にコードされている。灰色で塗りつぶされている長方形は、導入遺伝子の発現を指示するためにenv遺伝子の下流に配置した2Aペプチド、IRESまたはミニプロモーターを示し、黒で塗りつぶされている長方形は、リーダー配列(表A)を示す。オリゴマー化ドメイン(表4、5および6)をリンカーで非Ig足場のN末端またはC末端に配置してオリゴマーを形成することができる。二重特異性または三重特異性抗体(Labrijn et al., Nature Rev. Drug Disc. 18:585-608 2019)のような2つまたは3つの標的に対する応答を結び付ける特性を有する二重特異性および三重特異性結合分子の分泌につながる構成も、最後の2つの線で示されている。
【0031】
図13図13は、RRV-syCD2プラスミドDNAの概略図である。分泌形態のyCD2は、pAC3-2A、pAC3-IRES、pAC3-ミニプロモーター骨格にコードされている。灰色で塗りつぶされている長方形は、導入遺伝子の発現を指示するためにenv遺伝子の下流に配置した2Aペプチド、IRESまたはミニプロモーターを示し、黒で塗りつぶされている長方形は、シグナルペプチド(SP)、(表A)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本明細書でおよび添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈による別段の明白な指図がない限り、複数の言及対象を含む。したがって、例えば、「細胞」への言及は、複数のそのような細胞を含み、「ベクター」への言及は、1つまたは複数のベクターへの言及を含む。
【0033】
また、「または」の使用は、別段の記述がない限り、「および/または」を意味する。同様に、「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(include)」、「含む(includes)」および「含む(including)」は、互換的であり、限定することを意図したものではない。
【0034】
様々な実施形態の説明が用語「含む(comprising)」を使用する場合、一部の特定の事例では、実施形態が、その代わりに「から本質的になる」または「からなる」という言葉を使用して説明されることがあることは、当業者には理解されるであろう。
【0035】
別段に定義されない限り、本明細書において使用するすべての技術および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者に一般に理解されているのと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様または同等の方法および材料を、本明細書で開示される方法および組成物の実施の際に使用することができるが、例示的な方法、デバイスおよび材料が本明細に記載される。
【0036】
ベクター、プロモーターおよび多くの他の関連トピックスの使用を含む、本明細書において有用な分子生物学技法を記載している一般的な文書としては、以下のものが挙げられる:Berger and Kimmel, Guide to Molecular Cloning Techniques, Methods in Enzymology Volume 152, (Academic Press, Inc., San Diego, Calif.)(「Berger」);Sambrook et al., Molecular Cloning--A Laboratory Manual, 2d ed., Vol. 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989(「Sambrook」);Current Protocols in Molecular Biology, F. M. Ausubel et al., eds., Current Protocols, a joint venture between Greene Publishing Associates, Inc. and John Wiley & Sons, Inc., (supplemented through 1999)(「Ausubel」);およびS. Carson, H. B. Miller & D. S. Witherow and Molecular Biology Techniques: A Classroom Laboratory Manual, Third Edition, Elsevier, San Diego (2012)。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、Qβ-レプリカーゼ増幅および他のRNAポリメラーゼ媒介技法(例えば、NASBA)を含む、in vitro増幅法を通して、例えば、本開示の相同核酸の産生のために、当業者を指導するのに十分なプロトコールの例は、Berger, Sambrook, and Ausubel, as well as in Mullis et al.(1987) 米国特許第4,683,202号;Innis et al., eds.(1990) PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications (Academic Press Inc. San Diego, Calif.)(「Innis」);Arnheim & Levinson (Oct. 1, 1990) C&EN 36-47;The Journal Of NIH Research (1991) 3: 81-94;Kwoh et al.(1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86: 1173;Guatelli et al.(1990) Proc. Nat'l.Acad. Sci. USA 87: 1874;Lomell et al. (1989) J. Clin. Chem 35: 1826;Landegren et al.(1988) Science 241: 1077-1080;Van Brunt (1990) Biotechnology 8: 291-294;Wu and Wallace (1989) Gene 4:560;Barringer et al.(1990) Gene 89:117;およびSooknanan and Malek (1995) Biotechnology 13: 563-564において見い出される。in vitro増幅核酸をクローニングするための改善された方法は、Wallace et al.、米国特許第5,426,039号に記載されている。最大40kbのPCRアンプリコンが生成される、大きい核酸をPCRにより増幅するための改善された方法は、Cheng et al. (1994) Nature 369: 684-685およびそこに引用されている参考文献に要約されている。本質的に任意のRNAを、逆転写酵素を使用する制限酵素消化、PCRによる拡大およびシークエンシングに好適な二本鎖DNAに変換することができることは、当業者には理解されるであろう。例えば、Ausubel, Sambrook and Berger、全て上掲、を参照されたい。
【0037】
本文全体にわたって論じられる刊行物は、本願の出願日より前のそれらの開示についてもっぱら提供される。過去の開示を理由にそのような開示に先行する資格が本発明者らにないことを認めると解釈すべきものは、本明細書中に存在しない。
【0038】
用語「発現する」および「発現」は、遺伝子またはDNA配列における情報の顕在化を可能にするまたは引き起こすこと、例えば、対応する遺伝子もしくはDNA配列の転写および翻訳に関与する細胞機能を活性化することによりタンパク質を産生すること、または阻害剤RNA(RNAi)の場合には、RNAi分子を、それがプロセシングされ、標的遺伝子の発現を阻害できるように、転写することを意味する。
【0039】
DNA配列は、細胞においてまたは細胞により発現されて、ポリペプチドまたはタンパク質などの「発現産物」を形成する。発現産物自体、例えば、結果として生じるポリペプチドまたはタンパク質も、細胞により「発現され」得る。ポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、例えば、それが、外来もしくはネイティブプロモーターの制御下で外来宿主細胞においてまたは外来プロモーターの制御下でネイティブ宿主細胞において発現または産生される場合、組換え発現される。
【0040】
一部の事例では、上述の用語「発現する」は、阻害性RNA分子(RNAi)の産生を含む。そのような分子の発現は、細胞の翻訳機構に関与せず、むしろ、宿主細胞の遺伝子発現を改変するために細胞の機構を利用する。一部の実施形態では、本開示の組換えウイルスベクターは、コード配列(例えば、ポリペプチドもしくはタンパク質)、RNAi分子、またはコード配列(例えば、ポリペプチドもしくはタンパク質を発現する)とRNAi分子の両方を、コード配列および/またはRNAi分子をその後発現することができる宿主細胞に送達するように、改変され得る。
【0041】
「2Aペプチドまたは2Aペプチド様配列」は、配列番号1のコンセンサス配列、図1および2における配列のいずれかと97%同一であり、配列番号1のコンセンサス配列を含有する配列を指す。2Aペプチドまたは2Aペプチド様配列を「コードする」配列は、例えば配列番号1のコンセンサス配列を有する、2Aペプチドまたは2Aペプチド様配列をコードする、ポリヌクレオチド配列である。コード配列は、ENVおよび異種配列に作動可能に連結しており、一実施形態では、ENVと異種配列の間に配置されており、したがって、配列が転写されると、その配列は単一の転写物(例えば、ポリmRNA)として転写され、転写物が翻訳されたときにその2つのポリペプチド(例えば、ENVおよび異種ペプチド)が産生される。
【0042】
内部リボソーム進入部位(「IRES」)は、コード配列の翻訳中にリボソームの、通常はIRESの3’側への、侵入またはそこでの保持を促進する、核酸のセグメントを指す。一部の実施形態では、IRESは、スプライスアクセプター/ドナー部位を含み得るが、好ましいIRESは、スプライスアクセプター/ドナー部位を欠いている。通常は、メッセンジャーRNAへのリボソームの侵入は、全ての真核生物mRNAの5’末端に位置するキャップを介して起こる。しかし、この普遍的規則には例外がある。一部のウイルスmRNAにおけるキャップの非存在は、これらのRNAの内部部位へのリボソームの侵入を可能にする代替構造の存在を示唆する。今までに、それらの機能のためにIRESと呼ばれる多数のこれらの構造が、キャップのないウイルスmRNAの5’非コード領域、例えば、ピコルナウイルス、特に、ポリオウイルス(Pelletier et al., 1988, Mol. Cell. Biol., 8, 1103-1112)およびEMCVウイルス(脳心筋炎ウイルス)(Jang et al., J. Virol., 62, 2636-2643 1988;B. T. Baranick et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 105:4733-8, 2008)のものにおいて、同定されている。本開示は、複製可能レトロウイルスベクターに関連してIRESの使用を提供する。
【0043】
用語「プロモーター領域」は、その通常の意味で、本明細書で使用され、DNA調節配列を含むヌクレオチド領域であって、調節配列が、RNAポリメラーゼに結合することおよび下流(3’方向)コード配列の転写を開始することができる遺伝子に由来する、ヌクレオチド領域を指す。調節配列は、所望の遺伝子配列と同種であることもあり、異種であることもある。例えば、ウイルスまたは哺乳動物プロモーターを含む、広範なプロモーターが、利用され得る。
【0044】
用語「調節核酸配列」は、レシピエント細胞のコード配列の複製、転写および翻訳を共同で提供する、プロモーター配列/領域、ポリアデニル化シグナル、転写終結配列、上流調節ドメイン、複製起点、エンハンサーなどを集合的に指す。選択されるコード配列が適切な宿主細胞において複製、転写および翻訳され得るのであれば、これらの制御配列の全てが必ずしも存在する必要はない。当業者は、公開データベースおよび材料から調節核酸配列を容易に同定することができる。さらに、当業者は、例えばin vivo、ex vivoまたはin vitroでの、意図された使用に適用可能な調節配列を同定することができる。
【0045】
本明細書で使用される場合、用語「RNA干渉」(RNAi)は、短鎖干渉核酸(siRNAまたはマイクロRNA(miRNA))により媒介される配列特異的転写後遺伝子サイレンシングのプロセスを指す。用語「RNA干渉を媒介することができる薬剤」は、siRNAはもちろん、細胞内で転写されたときにsiRNAをコードしているDNAおよびRNAベクターも指す。用語siRNAまたはmiRNAは、配列特異的RNA干渉を媒介することができる任意の核酸分子、例えば、短鎖干渉RNA(siRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、マイクロRNA(miRNA)、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)、短鎖干渉オリゴヌクレオチド、短鎖干渉核酸、短鎖干渉改変オリゴヌクレオチド、化学的に改変されたsiRNA、転写後遺伝子サイレンシングRNA(ptgsRNA)などを包含することが意図される。
【0046】
用語「分泌シグナルドメイン」または「分泌シグナルペプチド」(SSP)または「シグナルペプチド」は、前駆体タンパク質配列の一部として典型的にN末端に位置する短いペプチドを意味する。真核細胞の翻訳機構は、これらの短いペプチドを利用してタンパク質を標的化された目的地に選別する。SSPの一般的特性は、次の3つのドメインからなる:(1)N領域:正荷電ドメイン、(2)H領域:疎水性コア、および(3)C領域:切断部位(Owji et al., Euro J. of Cell Biol., 2018)。SSPは、エンドプロテアーゼSPase Iにより、それらのパッセンジャータンパク質またはポリペプチドから切断される。ポリペプチドまたはタンパク質発現レベルは、翻訳効率のみならず、分泌機構およびSSPにより決定されるトランスロケーション効率にも関連している。SSPの配列は、トランスロケーション効率に影響に影響を及ぼすことができ、したがって、パッセンジャーポリペプチドまたはタンパク質に連結している異種SSPの組合せを核酸レベルで操作して、分泌タンパク質のレベルをモジュレートすることができる(Kober et al., 2013;Zamani et al., 2015;Negahdaripour et al., 2017;Mousavi et al., 2017)。さらに、真核細胞系と原核細胞系の両方におけるタンパク質分泌を増進するように設計された人工SSPがある(Barash et al., Biochem and Biophy Res Comm., 2002;Clerico et al., Biopolymers, 2008)。SSPの存在および一般機能は、何十年にもわたって公知であるが、SSPが、特に、他の膜タンパク質、例えば、レトロウイルスベクターのENVタンパク質および2A発現システムと組み合わせられたとき、機能的な非ネイティブ発現遺伝子産物を宿主細胞から分泌することができることは、これまで記載されたことがない。
【0047】
用語「ベクター」、「ベクター構築物」および「発現ベクター」は、宿主を形質転換し、導入された配列の発現(例えば、転写および翻訳)を促進するために、DNAまたはRNA配列(例えば、外来遺伝子)を宿主細胞に導入することができる、ビヒクルを意味する。ベクターは、典型的には、タンパク質、ポリペプチド、核酸などをコードする外来DNAが制限酵素技術によって挿入される、DNAまたはRNAを含む。よく見られるタイプのベクターは、「プラスミド」であり、一般に、これは、追加の(外来)DNAを容易に許容することができ、好適な宿主細胞に容易に導入され得る、二本鎖DNAの独立式分子である。プラスミドおよび真菌ベクターをはじめとする多数のベクターが、様々な真核生物および原核生物宿主における複製および/または発現について記載されている。非限定的な例としては、pKKプラスミド(Clonetech)、pUCプラスミド、pETプラスミド(Novagen,Inc.、Madison、Wis.)、pRSETもしくはpREPプラスミド(Invitrogen、San Diego、Calif.)、またはpMALプラスミド(New England Biolabs、Beverly、Mass.)が挙げられる。本明細書で開示もしくは引用されるまたはそうでなければ関連技術分野の当業者に公知の方法を使用する、多くの適切な宿主細胞が、そのようなトランスフェクションに使用されている。組換えクローニングベクターは、クローニングまたは発現のための1つまたは複数の複製系、宿主における選択のための1つまたは複数のマーカー、例えば抗生物質耐性、または1つまたは複数の発現カセットを、多くの場合、含むことになる。
【0048】
本開示は、細胞または被験体への遺伝子またはタンパク質送達に有用な方法および組成物を提供する。そのような一実施形態では、方法および組成物は、タンパク質またはポリペプチドが、タンパク質またはポリペプチドをコードする遺伝子を取り込んだ細胞から分泌されることになるような、方法および組成物である。そのような方法および組成物は、がんならびに他の細胞増殖性疾患および障害を含む、被験体における様々な疾患および障害を処置するために使用することができる。本開示は、細胞への遺伝子送達のための複製可能ウイルスベクターを提供し、一実施形態では、ウイルスベクターは、複製可能レトロウイルスベクターである。
【0049】
本開示は、細胞または被験体に送達され得る、例えば、シトシンデアミナーゼもしくはその変異体、miRNAもしくはsiRNA、サイトカイン、抗原結合ドメイン(例えば、抗体もしくは抗体断片;または非抗体結合ドメイン)、非免疫グロブリン(Ig)足場タンパク質、またはコード配列の組合せなどをコードする、異種ポリヌクレオチドを含有するウイルスベクターを提供する。ウイルスベクターは、アデノウイルスベクター、麻疹ベクター、ヘルペスベクター、レトロウイルスベクター(アルファ-、ベータ-、ガンマ-、デルタ-レトロウイルスベクター、スプーマウイルス、例えば、サル泡沫状ウイルス(SFV)もしくはヒト泡沫状ウイルス(HFV)、またはレンチウイルスベクターを含む)、ラブドウイルスベクター、例えば、水疱性口内炎ウイルスベクター、レオウイルスベクター、セネカバレーウイルスベクター、ポックスウイルスベクター(動物ポックスまたはワクシニア由来のベクターを含む)、パルボウイルスベクター(AAVベクターを含む)、アルファウイルスベクター、または当業者に公知の他のウイルスベクターであり得る(例えば、Concepts in Genetic Medicine, ed. Boro Dropulic and Barrie Carter, Wiley, 2008, Hoboken, NJ.;The Development of Human Gene Therapy, ed. Theodore Friedmann, Cold Springs Harbor Laboratory Press, Cold springs Harbor, New York, 1999;Gene and Cell Therapy, ed. Nancy Smyth Templeton, Marcel Dekker Inc., New York, New York, 2000;およびGene & Cell Therapy: Therapeutic Mechanism and Strategies, 3rd. ed., ed. Nancy Smyth Templetone, CRC Press, Boca Raton, FL, 2008も参照されたい;これらの開示は、参照により本明細書に組み入れられる)。
【0050】
下記で説明されるように、本開示のRRVは、MLV、MoMLV、GALV、FELVなどに由来し得(すなわち、親ヌクレオチド配列は、これらから得られ)、異種ヌクレオチド配列に作動可能に連結している2Aペプチドまたは2A様ペプチド(本明細書では「2A-ペプチドカセット」と呼ばれることもある)を含有するように操作され得る。一部の事例では、2Aペプチドまたは2A様ペプチドは、分泌シグナルペプチドをコードするオリゴヌクレオチドにより異種ヌクレオチド配列から分離される。
【0051】
組換え複製可能レトロウイルスベクターまたはレトロウイルス複製ベクター(RRV)は、ウイルスのレトロウイルス科のメンバーに基づくベクターを指す。レトロウイルスの構造は、より十分に下記で説明されるように、十分に特徴付けられている。レトロウイルスは、様々な方法で分類されているが、命名法は、この10年間で標準化された(ワールワイドウェブ(www)上のncbi.nlm.nih.gov/ICTVdb/ICTVdB/でのICTVdB-The Universal Virus Database、v 4、および教科書"Retroviruses" Eds.Coffin, Hughs and Varmus, Cold Spring Harbor Press 1997を参照されたい;この開示は、参照により本明細書に組み入れられる)。組換え遺伝子技術を使用してそのようなベクターを操作して、親ウイルスを、異種遺伝子または配列を挿入することにより天然に存在しないRRVになるように改変することができる。そのような改変は、ベクターに、宿主細胞への発現される遺伝子の送達をin vitroまたはin vivoで可能にする特質をもたらすことができる。
【0052】
レトロウイルスは、それらがそれらの遺伝物質を複製する方法により定義される。複製中、ウイルスのRNAゲノムはDNA(プロウイルスDNAと呼ばれる)に変換される。細胞の感染後、逆転写として公知の分子プロセスによりウイルス粒子で運ばれるRNAの2つの分子から、DNAの二本鎖が生成される。このDNA形態は、宿主細胞ゲノムにプロウイルスとして共有結合により組み込まれ、この宿主細胞ゲノムから細胞および/またはウイルス因子の助けを借りてウイルスRNAが発現される。発現されたウイルスRNAは、粒子にパッケージングされ、感染性ビリオンとして放出される。
【0053】
レトロウイルス粒子は、2つの同一のRNA分子で構成されている。各野生型ゲノムは、5’末端がキャップされており、3’テールがポリアデニル化されている、一本鎖プラス鎖RNA分子を有する。二倍体ウイルス粒子は、gagタンパク質の「コア」構造内でgagタンパク質、ウイルス酵素(pol遺伝子産物)および宿主tRNA分子と複合体を形成している、2本のRNA鎖を含有する。宿主細胞膜に由来し、ウイルスエンベロープ(env)タンパク質を含有する、脂質二重層(脂質エンベロープ)が、このカプシドを包囲し、保護している。envタンパク質は、ウイルスの細胞受容体に結合し、ウイルスは、典型的には、受容体媒介エンドサイトーシスおよび/または膜融合によって宿主細胞に侵入する。
【0054】
標的化された細胞へのウイルス粒子の放出後、外側のエンベロープは脱落し、ウイルスRNAは、逆転写によりDNAにコピーされる。これは、pol領域によりコードされる逆転写酵素により触媒され、ビリオンにパッケージングされた宿主細胞tRNAをDNA合成のプライマーとして使用する。このようにして、RNAゲノムは、より複雑なDNAゲノムに変換される。
【0055】
逆転写により産生される二本鎖直鎖状DNAは、核内で環状化されていることもあり、されていないこともある。ここでプロウイルスは、長鎖末端反復(LTR)として公知の、2つの同一の反復を、両方の末端に有する。2つのLTR配列の末端は、組み込みを触媒するpol産物--インテグラーゼタンパク質--により認識される部位を産生し、したがって、プロウイルスは、LTRの末端から2塩基対(bp)が宿主DNAに常に結合されている。細胞配列の重複が両方のLTRの末端に見られ、これは、転位遺伝因子の組み込みパターンを想起させる。レトロウイルスは、それらのDNAを宿主DNAの多くの部位に組み込むことができるが、異なるレトロウイルスは、異なる組み込み部位優先性を有する。HIV-1およびサル免疫不全ウイルスDNAは、発現された遺伝子に優先的に組み込まれ、マウス白血病ウイルス(MLV)DNAは、転写開始部位(TSS)付近に優先的に組み込まれ、トリ肉腫・白血病ウイルス(ASLV)およびヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)DNAは、ほぼランダムに組み込まれ、遺伝子へのわずかな優先性しか示さない(Derse D, et al.(2007), J Virol 81:6731-6741;Lewinski MK, et al.(2006), PLoS Pathog 2:e601)。
【0056】
組み込まれたウイルスDNAの転写、RNAスプライシングおよび翻訳は、宿主細胞タンパク質により媒介される。様々にスプライシングされた転写物が生成される。ヒトの場合、レトロウイルスHIV-1/2およびHTLV-I/IIウイルスタンパク質は、遺伝子発現を調節するためにも使用される。細胞因子とウイルス因子間の相互作用は、ウイルス潜伏のおよびウイルスが発現される時系列の制御因子である。
【0057】
レトロウイルスを水平または垂直伝染させることができる。レトロウイルスの効率的感染は、ウイルスエンベロープタンパク質を特異的に認識する受容体の標的細胞上での発現を必要とするが、ウイルスは、効率の低い、受容体非依存性、非特異的侵入経路を使用することがある。通常は、ウイルス感染は、重複感染に対する耐性をもたらす結果となる受容体隠蔽または下方調節のため、細胞1個につき単一コピーまたは少数コピーのウイルスゲノムをもたらす(Ch3 p104 in "Retroviruses", JM Coffin, SH Hughes, & HE Varmus, 1997, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor NY;Fan et al. J. Virol 28:802, 1978)。組織培養における状況を操作することにより、ある程度、多重感染する可能性はあるが、これは、典型的には5コピー未満/二倍体ゲノムである。加えて、標的細胞型は、ウイルスが結合して浸透した後の複製サイクルの全ての段階を支援できなければならない。垂直伝染は、ウイルスゲノムが宿主の生殖細胞系列に組み込まれると起こる。次いで、プロウイルスは、まるで細胞遺伝子のように、世代から世代へと受け継がれることになる。したがって、多くの場合潜伏しているが、宿主が適切な作用因子に曝露されると活性化され得る、内在性プロウイルスが、樹立される。
【0058】
用語「レンチウイルス」は、その従来の意味で、逆転写酵素を含有するウイルスの属を記述するために使用される。レンチウイルスは、ヒト免疫不全(HIV)1型および2型(HIV-1およびHIV-2)ならびにサル免疫不全ウイルス(SIV)を含む、「免疫不全ウイルス」を含む。
【0059】
オンコウイルスは、ウイルス成熟中に電子顕微鏡下で見られるような粒子形態に基づいて、昔からA、B、CおよびD群にさらに細分されている。A型粒子は、感染細胞の細胞質に見られるBおよびD型粒子の未成熟粒子を意味する。これらの粒子は、感染性ではない。B型粒子は、細胞質内A型粒子のエンベロープ形成により原形質膜から成熟ビリオンとして出芽する。膜において、それらは、75nmのドーナツ型コアを有し、そのコアから長い糖タンパク質スパイクが突き出している。出芽後、B型粒子は、遍心的に位置する、高電子密度のコアを含有する。原型B型ウイルスは、マウス乳癌ウイルス(MMTV)である。C型ウイルスに感染した細胞では細胞質内粒子を観察することができない。その代わり、成熟粒子は、三日月「C」形に凝縮することによって細胞表面から直接出芽し、次いで、それ自体が接近し、原形質膜によって包囲される。エンベロープ糖タンパク質スパイクは、均一な高電子密度のコアとともに可視であり得る。出芽は、表面原形質膜から生じることもあり、または直接細胞内液胞へ生じることもある。C型ウイルスは、最もよく研究されており、トリおよびマウス白血病ウイルス(MLV)の多くを含む。ウシ白血病ウイルス(BLV)、ならびにヒトT細胞白血病ウイルスI型およびII型(HTLV-I/II)は、細胞表面からのそれらの出芽形態を理由に、同様にC型粒子として分類される。しかし、それらはまた、正六角形の形態、およびマウス白血病ウイルス(MLV)などの原型C型ウイルスよりも複雑なゲノム構造を有する。D型粒子は、これらのビリオンが短い表面糖タンパクスパイクを取り込むが、感染細胞の細胞質中で環状構造のように見える点でB型粒子に似ており、細胞表面から出芽する。高電子密度のコアも、粒子内に遍心的に位置する。Mason-Pfizerサルウイルス(MPMV)は、原型D型ウイルスである。
【0060】
組換え複製可能レトロウイルスを治療に使用するための多くの状況で、組換え複製可能レトロウイルスによりコードされる導入遺伝子の発現レベルが高いことは有利である。例えば、シトシンデアミナーゼ遺伝子などのプロドラッグ活性化遺伝子に関して、プロドラッグ5-FCの5-FUへの変換が効率的であるために細胞におけるCDタンパク質の発現レベルがより高いことは有利である。同様に、siRNAまたはshRNAの高い発現レベルは、標的遺伝子発現のより効率的な抑制につながる。サイトカインまたはポリペプチド結合ドメイン(例えば、一本鎖抗体(scAb)など)についても、高レベルのサイトカインまたは結合ドメインを発現することは、通常、有利である。加えて、ベクターまたは導入遺伝子の活性を不活性化するまたは損なわせる変異がベクターの一部のコピーにある場合、標的細胞にベクターの複数のコピーがあることは、それによって無傷の導入遺伝子が効率的に発現される確率が高くなるので、有利である。
【0061】
上述の通り、組み込まれたDNA中間体は、プロウイルスと呼ばれる。以前の遺伝子療法または遺伝子送達系は、適切なヘルパーウイルスの存在下で、または夾雑ヘルパーウイルスの同時産生を伴わずにカプシド内封入を可能にする適切な配列を含有する細胞系において、プロウイルスの転写および感染性ウイルスへの集合を必要とする、方法およびレトロウイルスを使用する。同様の方法(ヘルパーウイルスまたは細胞系を補完する)が、ヘルパーなしのウイルスベクター調製物、例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)からのものを生成するために使用されている。下記で説明されるように、カプシド内封入のための配列がゲノム内に備わっており、ひいては遺伝子送達または治療のための複製可能レトロウイルスベクターをもたらすので、ヘルパーウイルスは、本開示の組換えレトロウイルスの産生に必要とされない。同様に、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ラブドウイルス、麻疹、ポリオウイルス、ニューカッスル病ウイルス、アルファウイルス、ワクシニアまたは他のポックスウイルスに由来するものなどの、複製可能ウイルスベクターについては、特定の操作された補完細胞系が必要なく、ウイルスベクターは、正常の宿主細胞の感染、および結果として生じるウイルスの回収により作製される。
【0062】
本開示のレトロウイルスゲノムおよびプロウイルスDNAは、少なくとも3つの遺伝子:gag、polおよびenvを有し、これらの遺伝子は、1つもしくは2つの長鎖末端反復(LTR)と隣接しており、またはプロウイルスの場合は、2つの長鎖末端反復(LTR)、およびpsiなどのシス作用性配列を含有する配列と隣接している。gag遺伝子は、内部構造(マトリクス、カプシドおよびヌクレオカプシド)タンパク質をコードし、pol遺伝子は、RNA誘導性DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)、プロテアーゼおよびインテグラーゼをコードし、env遺伝子は、ウイルスエンベロープ糖タンパク質をコードする。5’および/または3’LTRは、ビリオンRNAの転写およびポリアデニル化を促進する働きをする。LTRは、ウイルス複製に必要な全ての他のシス作用性配列を含有する。レンチウイルスは、vif、vpr、tat、rev、vpu、nef、およびvpx(HIV-1、HIV-2および/またはSIVの場合)を含む、追加の遺伝子を有する。レンチウイルスゲノムが、RNAゲノムであり、したがって、いずれのレトロウイルスゲノム配列への言及も、「T」が「U」である配列を暗に指すことは、当業者には理解されるであろう。したがって、レトロウイルスゲノムに言及するとき、Tを含有する特定の配列を有するgag核酸配列への言及は、TがUで置き換えられることを暗に意味する。
【0063】
5’LTRには、ゲノムの逆転写に必要な配列(tRNAプライマー結合部位)、および粒子へのウイルスRNAの効率的なカプシド封入に必要な配列(Psi部位)が隣接している。カプシド封入(またはレトロウイルスRNAの感染性ビリオンへのパッケージング)に必要な配列がウイルスゲノムから欠けている場合、結果として、ゲノムウイルスRNAのカプシド封入を妨げるシス欠損となる。このタイプの改変ベクターは、非複製性だがパッケージング可能なRNAゲノムをパッケージングするウイルスタンパク質をトランスで提供する「ヘルパー」エレメントのような、以前の遺伝子送達系に典型的に使用されているもの(すなわち、ビリオンのカプシド封入に必要とされるエレメントを欠く系)である。
【0064】
本開示は、改変レトロウイルスベクターを提供する。改変レトロウイルスベクターは、レトロウイルス科のメンバーに由来し得、ENV-2A-SSP-導入遺伝子カセットを含有するように操作され得る。上述の通り、レトロウイルス科は、次の3つの群からなる:スプーマウイルス-(または泡沫状ウイルス)、例えばヒト泡沫状ウイルス(HFV);レンチウイルス、およびヒツジのビスナウイルス;およびオンコウイルス(この群内の全てのウイルスが発がん性であるとは限らないが)。
【0065】
一実施形態では、ウイルスベクターは、分裂哺乳動物細胞のみを感染させることができる複製可能なレトロウイルスベクターであり得る。一実施形態では、複製可能なレトロウイルスベクターは、レトロウイルスエンベロープのすぐ下流にありそれに作動可能に連結しており、かつ分泌シグナルペプチド(SSP)のコード配列のすぐ上流にある2Aペプチドまたは2Aペプチド様配列を含み、そしてまたSSPは、発現される異種核酸配列に連結している。ある特定の実施形態では、ベクターは、IRESカセットまたはPolII(もしくはミニプロモーター)もしくはpolIIIカセットをさらに含むことができる。異種ポリヌクレオチドは、例えば、シトシンデアミナーゼ、ニトロレダクターゼ、サイトカイン、受容体、抗体、抗体断片、結合ドメイン(例えば、非抗体結合ドメインもしくは非Igポリペプチド)などをコードすることができる。polIIIプロモーターが含まれている場合、ベクターは、miRNA、siRNA、または他のRNAi配列をさらに発現することができる。
【0066】
別の実施形態では、本開示は、ENV-2A-SSP-異種遺伝子カセットを提供する。カセットは、両種指向性、多種指向性、異種指向性、10A1、GALV、ヒヒ内在性ウイルス、RD114、ラブドウイルス、アルファウイルス、麻疹およびインフルエンザウイルスエンベロープのうちの1つから選択されるエンベロープを含むことができる。2Aペプチドまたは2Aペプチド様コード配列は、エンベロープコード配列のC末端に作動可能に連結している、図1または2に記載の配列のいずれかであり得る。別の実施形態では、2Aペプチドまたは2Aペプチド様コード配列は、GSGリンカー配列(例えば、ggaagcgga(配列番号3))を介して連結している。別の実施形態では、GSG-2Aペプチドまたはペプチド様コード配列は、SSPコード配列に連結している。異種遺伝子は、SSPコード配列のC末端に作動可能に連結している。異種遺伝子は、標的細胞内に送達され、発現される任意の所望の遺伝子であり得る。一実施形態では、異種遺伝子は、長さ500~1500bpまたはその間の任意の数値(例えば、1000bp、1100bp、1200bp、1300bp、1400bpなど)を有する。別の実施形態では、異種遺伝子は、長さ>1500bpを有する。別の実施形態では、カセットは、SSPペプチドコード配列の上流に、2Aペプチドまたは2Aペプチド様コード配列により分離された2つの異種遺伝子を含む。さらに別の実施形態では、カセットは、ENVのC末端と、異種遺伝子のN末端に連結しているSSP配列のN末端との間に、作動可能に連結している2Aペプチドまたは2Aペプチド様配列をコードするポリヌクレオチドであって、異種遺伝子の後に、第2の異種配列に連結しているIRESまたはプロモーターを含む第2のカセットが続く、ポリヌクレオチドを含むことができる。
【0067】
異種核酸配列は、2Aペプチドまたは2Aペプチド様配列に作動可能に連結しており、かつ2Aペプチドまたは2Aペプチド様配列の下流にある、SSPペプチドをコードする配列に作動可能に連結している。本明細書で使用される場合、用語「異種」核酸配列または導入遺伝子は、(i)野生型レトロウイルス内に通常は存在しない配列、(ii)外来種が起源である配列、または(iii)同じ種からのものである場合、その元の形態から実質的に改変され得る配列を指す。あるいは、細胞内に通常は発現されない不変の核酸配列は、異種核酸配列である。
【0068】
本開示のレトロウイルスベクターの使用目的に依存して、任意の数の異種ポリヌクレオチドまたは核酸配列をレトロウイルスベクターに挿入することができる。例えば、in vitro研究のために、抗生物質耐性および蛍光分子(例えば、GFP)または発光分子を含む、一般に使用されるマーカー遺伝子またはレポーター遺伝子を、使用することができる。任意の所望のポリペプチド配列をコードする追加のポリヌクレオチド配列を本開示のベクターに挿入することもできる。
【0069】
異種核酸配列のin vivo送達が求められる場合、治療用配列と非治療用配列の両方が使用され得る。本開示のRRVは、SSPドメインを含む少なくとも1つのカセットを含むことになる。典型的には、SSPドメインは、RRVに感染した細胞から分泌される特定のポリペプチドまたはタンパク質の上流にある。一実施形態では、SSPが翻訳されたときに結合する分泌ポリペプチドの量を、SSPを欠く同じポリペプチドと比較して測定することにより、SSPの生物学的効果を決定することができる。
【0070】
一部の実施形態では、-2A-SSP-導入遺伝子カセットの後に、ミニプロモーター-カセット、polIII-RNAiカセット、またはIRES-カセットが続くことがある。例えば、ミニプロモーターまたはpolIIIカセットが使用される場合、カセットは、細胞増殖性障害または他の遺伝子関連疾患もしくは障害に関連する特定の遺伝子に方向付けられたmiRNA、siRNAなどを含む、異種配列を含むことができる。他の実施形態では、SSPペプチドコード配列またはIRESの下流の異種遺伝子は、自殺遺伝子(例えば、HSV-tkもしくはPNP、またはシトシンデアミナーゼ活性を有するポリペプチド;改変型または未改変型のいずれか)、成長因子または治療用タンパク質(例えば、第IX因子、IL2など)であり得る。本開示に適用可能な他の治療用タンパク質は、当技術分野において容易に同定される。異種遺伝子が、分泌されるタンパク質またはポリペプチドをコードする、ある特定の実施形態では、異種配列の前に、SSPペプチドのコード配列がある。例えば、抗体、抗体断片、または結合ドメインが、異種遺伝子によりコードされる場合、治療用カセットは、2A-ペプチドまたはペプチド様コード配列、続いてSSPコード配列を含み、SSPコード配列の後に、分泌されるポリペプチドまたはペプチド(例えば、抗体、抗体断片または結合ドメイン)をコードする異種ポリヌクレオチド配列が続く。ある特定の実施形態では、分泌されるポリペプチドは、チミジンキナーゼではない。一部の実施形態では、RRVは、2つのカセットを含み、一方のカセットは、分泌されるポリペプチドを含み、そのカセットの前にSSPドメインがあり、もう一方のカセットは、分泌されないことになるポリペプチドまたは部分を含む。例えば、そのような二重カセットは、-2A-SSP-(分泌されるポリペプチド)-(2AまたはIRESまたはミニプロモーターまたはpolIII)-(ポリペプチドまたはmiRNA)-を含み得る。
【0071】
一実施形態では、ベクター内の異種ポリヌクレオチドは、ヒト細胞における発現のために最適化された、シトシンデアミナーゼまたはチミジンキナーゼを含む。さらなる実施形態では、シトシンデアミナーゼは、ヒトコドン最適化されている配列を含み、シトシンデアミナーゼ安定性を増大させる変異(例えば、分解の減少もしくは熱安定性の増大)を含み、および/または野生型シトシンデアミナーゼと比較してトリプトファンコドンを非トリプトファンコードコドンに変化させる変異を含む。さらに別の実施形態では、異種ポリヌクレオチドは、UPRTまたはOPRT活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結している、シトシンデアミナーゼ活性を有する(ヒトコドン最適化されているまたは最適化されていないいずれか、変異したまたは変異していないいずれか)ポリペプチドを含む、融合構築物をコードする。
【0072】
抗体(およびそれらの断片)は、治療薬の重要なクラスである。それらの特異的結合および機能特性は、それらの作用様式を決定付ける。FDA認可抗体のほとんどがアンタゴニストであり、それらの標的に対する高い結合親和性を有する。あるいは、抗体に置き換わる天然内在性タンパク質に由来する非免疫グロブリン(非Ig)足場タンパク質の開発が行われている。非Igタンパク質を使用する利点は、それらが、高い結合親和性を達成すること、それらが、抗体と比較して相対的に小さく、したがって、より効率的に組織に浸透することができることである。多価になるように、および/または複数の標的に対して特異的になるように、それらを操作することもできる。
【0073】
本開示は、プロドラッグ活性化遺伝子、サイトカインまたは受容体リガンドまたはそれらのアナログ、免疫グロブリン(Ig)および非Ig由来タンパク質を含むがこれらに限定されない、分泌タンパク質またはポリペプチドを産生するためのGSG連結2Aペプチド構成を有するRRV中の天然または人工シグナルペプチドの使用を記載する。本開示は、異種分泌シグナルペプチドを有する異種導入遺伝子の発現のためのIRESまたはミニ/マイクロプロモーターを有するものなどの、他のRRV構成も記載する。
【0074】
典型的には、本開示の組換え複製可能ウイルスベクターは、宿主細胞内に送達され、発現される異種遺伝子または配列を典型的に含有する「カセット」を含むように改変される。異種遺伝子または配列は、有効な発現を可能にするエレメント(例えば、異種配列の転写または翻訳を可能にするプロモーター、IRESまたはリードスルーエレメント)に作動可能に連結している。
【0075】
導入遺伝子(例えば、発現される異種配列)を、多数の位置のレトロウイルスゲノムに、例えば、長鎖末端反復(LTR)、エンベロープの下流およびスプライスアクセプターの後への挿入、gagまたはpolタンパク質との融合体、エンベロープコード配列の下流の内部IRES配列または小さい内部プロモーターなどに、挿入することができる。LTRへの導入遺伝子の挿入および追加のスプライスアクセプターの導入は、ベクターゲノムの急速な不安定化をもたらしたが、IRESおよび他の方法は、より大きな有望性を示している。導入遺伝子の発現および構成は、少なくとも一部は、潜在スプライスアクセプターの排除および導入遺伝子配列のヒト化などのキー配列の賢明な変化の影響を受け得る(例えば、その開示が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第8,722,867号を参照されたい)。導入遺伝子のサイズもベクターの安定性に影響を及ぼし得る。例えば、ある特定のベクターでは、導入遺伝子のサイズが増加するにつれて、ウイルスが不安定になり、異種遺伝子または配列の少なくとも一部を迅速に欠失する。この制限に、一部の事例では、例えばMLVでは、異種遺伝子または配列のわずか900~1200bpの挿入物しか残さない可能性がある、IRES(通常は約600bp、例えば、米国特許第8,722,867号を参照されたい)または小さいプロモーター(通常は250~300bp、例えば、参照により本明細書に組み入れられる国際出願公開番号WO2014/066700を参照されたい)などの発現可能化配列を含む必要性が、追い打ちをかける。したがって、利用可能な導入遺伝子のサイズを最大化して導入遺伝子のより多くの選択または複数の導入遺伝子を含めることができることは、非常に有用であろう。
【0076】
ヒト細胞において効率的に複製するレトロウイルスの一部の例としては、マウス白血病ウイルス(MLV)の両種指向性、多種指向性、異種指向性および10A1株、ならびにテナガザル白血病ウイルス(GALV)、ヒヒ内在性ウイルスおよびネコウイルスRD114が、挙げられる。同様に、両種指向性偽型RRVなどの非同種指向性エンベロープ遺伝子を含有するように改変されたMLVの同種指向性株も、処置される様々な種および細胞型において効率的複製することができる。しかし、レトロウイルスエンベロープを、非レトロウイルスエンベロープ、例えば、ラブドウイルス、アルファウイルス、麻疹またはインフルエンザウイルスエンベロープにより置換することもできる。
【0077】
ピコルナウイルスおよび脳心筋炎ウイルスを含むいくつかのウイルスは、単一のオープンリーディングフレーム(ORF)からの複数のタンパク質発現を媒介するために、それらのゲノムに2Aまたは2A様ペプチドをコードする。2Aペプチドは、典型的には配列が約16~18アミノ酸であり、コンセンサスモチーフ:D[V/I]EXNPGP(配列番号1)(式中、Xは、任意のアミノ酸である)を共有する。2Aペプチドが人工マルチシストロニックmRNAのORF間にコードされている場合、それは、リボソームを翻訳中のポリペプチドにおける2AペプチドのC末端で停止させ、したがって、各ORFに由来するポリペプチドが分離する結果となる(Doronina et al., 2008)。分離点は、2AのC末端であり、下流ORFの第1のアミノ酸はプロリンとなる(例えば図1を参照されたい)。2Aペプチドのユニークな特徴は、単一のマルチシストロニックmRNA構成からの複数タンパク質発現のための分子ツールとしてのその利用につながっている。
【0078】
2Aペプチドは、ピコルナウイルス科ウイルスファミリー、例えば、口蹄疫ウイルスおよびウマ鼻炎Aウイルス、ならびに他のウイルス、例えば、ブタテッショウウイルス-1および昆虫ウイルスThosea asignaウイルスの、ウイルスゲノムに存在する(図1)。2Aペプチドは、それらのネイティブの状況でほぼ100%「分離」効率を有し、それらが非ネイティブ配列に導入されたときにより低い「分離」効率を有することが多い。ウイルスの異なるクラスに見られる他の2A様配列も、非ネイティブ配列において約85%「分離」効率を達成することが示されている(Donnelly et al., 1997)。導入遺伝子を発現させるために本開示の方法および組成物において使用することができる多数の2A様配列がある(図2)。
【0079】
2A配列は、約20年間存在することが公知であるが、非ネイティブ状況で機能するそれらの能力は疑問視されている。特に、2A配列は、先行翻訳タンパク質のC末端におよそ17~22の追加のアミノ酸を残し、下流タンパク質のN末端にプロリンを加え、したがって、先行タンパク質の機能する能力に影響を与える可能性がある。タンパク質が、多くのウイルスエンベロープタンパク質の場合(T. Murakami, Mol Biol Int., 2012)と同様に、小胞体およびゴルジ体においてならびに/またはビリオンの成熟中に翻訳後修飾を必要とする場合、先行タンパク質の機能不全のさらなるリスクがある。
【0080】
通常は、ネイティブMLVエンベロープタンパク質のプロセシングは、感染宿主細胞において起こる、前駆体タンパク質Pr85からgp70(SU)およびp15E(TM)サブユニットへの切断を伴う。Pr85の切断は、宿主細胞からの出芽中のビリオンへのウイルスエンベロープタンパク質の効率的組み入れに必要とされる。ビリオンが宿主細胞膜から出芽するにつれて、ビリオンは、成熟プロセスを経て感染性になる。MLVビリオン成熟におけるプロセスの1つは、ウイルスプロテアーゼによる、エンベロープタンパク質のTMサブユニットのC末端に位置するR-ペプチドの除去を含む。最後のアミノ酸残基プロリン(Pro)を除いて、2Aペプチドは、R-ペプチドの下流に発現され、それにより、2Aペプチドの配列に依存して16アミノ酸から少なくとも32アミノ酸の長さのRペプチドが生じる。R-ペプチドの長さは、理論的には、2Aペプチド配列の付加により延長されるが、2Aペプチドは、Rペプチドの切断により同時に除去され、その結果、機能的なエンベロープペプチドが得られることになる。
【0081】
エンベロープ配列が、非機能的であった場合または弱毒化された場合、ウイルスベクターは、有用でない可能性が高い。マウスのみを感染させる特定のエンベロープ(同種指向性)を有するレトロウイルス構築物において特定の2A配列(ブタテッショウウイルス-1からのもの、「P2A」)を使用することが試みられている(S. Stavrou et al., PLoS Pathog 10(5):e1004145, 2014;およびE.P. Browne, J.Virol. 89:155-64, 2015)。しかし、これらのウイルスは、ヒト細胞を感染させず、一般的なタンパク質プロセシング問題が解決されたという期待はない。その上、そのように構築されたウイルスは、治療効果を達成するのではなく、in vivoでのウイルス複製を助長する遺伝子を発現するように設計された。
【0082】
一部の事例では、感染細胞から分泌される宿主に組換えレトロウイルスベクターにより送達されるタンパク質またはポリペプチドを有することが望ましい。すなわち、ポリペプチドまたはタンパク質をコードする異種ポリヌクレオチドを含有するカセットを有するRRVが、感染標的細胞から分泌されるように操作され、結果として生じるRRVのプロウイルスDNAは、標的細胞のゲノムに組み入れられる。上述の通り、分泌シグナルペプチドをポリペプチドまたはタンパク質の上流で操作して、ポリペプチドまたはタンパク質を細胞から分泌させることができる。そのような事例では、分泌シグナルペプチドコード配列は、2Aまたは2A様ペプチドと分泌されるポリペプチドまたはタンパク質との間に位置するように操作される。したがって、そのようなRRVにおけるカセットは、envコード配列と3’LRTの間に位置し、一般構造:--(env)--(2A)-(SSP)-(ポリペプチドまたはタンパク質)-(LRT)を有することになる。前述の一般構造から分かるように、カセットをモジュラーのおよび様々な2Aまたは2A様配列と見なすことができ、SSP配列およびポリペプチドまたはタンパク質配列を変化させる/シャッフルすることができる。
【0083】
モノクローナル抗体は、依然として、診断およびがん治療におけるヒト治療薬の主流である。それらは、長い血清半減期、二価性および免疫エフェクター機能を有する。免疫原性を最小限に押えるそれらの部分的または完全なヒトの性質にもかかわらず、モノクローナル抗体は、適切なジスルフィド結合形成およびグリコシル化プロセスを必要とする複数のドメインを有する複雑なタンパク質であり、したがって、その産生は真核生物細胞に制限され、このことによりスケーラビリティも制限されてきた。モノクローナル抗体のもう1つの重要な潜在的制限は、サイズ150KDaの完全抗体も限定された組織浸透性および細胞内アクセシビリティーを有し得ると考えられることである。これらの制限の一部は、一本鎖可変断片(scFv)またはFabなどの断片化抗体の開発により克服された。さらなる開発は、軽鎖を欠く重鎖のみのアイソタイプを含む、ラクダ科動物および軟骨魚類の結合タンパク質も利用した。
【0084】
非免疫グロブリン(Ig)足場タンパク質は、抗原結合配列を同定するためにランダム化戦略を使用して、バイオ治療薬のために開発された(U.H Wiedle et al., Cancer Genomics & Proteomics 10:155-168, 2013;K.Skrlec et al., Trends in Biotechnology,33:408-418, 2015)。非Ig足場タンパク質は、ヒトおよび他の種からの天然タンパク質のドメイン由来サブユニットであり、または人工であり、6~20kDaのサイズ範囲であり、単一のポリペプチドから発現され得る。それらは、ランダム化、ファージディスプレイスクリーニングおよび親和性成熟プロセスによって、アンタゴニストまたはアゴニストとして機能することができる抗原結合足場タンパク質をもたらした、挿入、欠失および置換を許容し得る、表面に露出したループまたはアミノ酸をアルファ-ヘリックスまたはベータシートフレームワーク内に有する。現況では、足場結合剤として同定され、治療薬のために開発された、50を超える異なるクラスの非Ig足場タンパク質がある。それらのサイズのために、これらのタンパク質が直面する1つの大きな課題は、循環における短い半減期につながる急速な腎クリアランスである。これらの非Ig足場タンパク質の半減期を向上させるための1つの一般的な解決策は、IgGのFc領域に連結している足場タンパク質を含有する融合タンパク質の使用を伴う。もう1つの課題は、それらが、通常は、モノクローナル抗体より低い結合親和性(KD 1~100nM)を有し、速い解離速度を伴うことである。多量体化ドメインを含めるためのこれらの足場タンパク質の遺伝子改変は、ある特定のシグナル伝達経路では生体機能および治療効果をもたらすことができる、立体障害媒介遮断またはアビディティーを増加させ得る。IgGのFc領域に連結した足場タンパク質を含有するかまたは二量体を生成するようにリンカーにより連結している足場タンパク質の2つの反復単位を含有する融合タンパク質を使用して、複数の方法が提案され、少なくとも一部は試験されている。リンカーペプチドおよびIgGのFc領域に加えて、二量体、三量体および五量体多量体化ドメインは、オリゴマー状態で天然に存在する所望のタンパク質の細胞外ドメインを発現させるために、またはタンパク質-タンパク質相互作用を強化するために利用されている。
【0085】
本開示は、足場ドメイン(例えば、アドヒロン足場;ヒトステフィンAからの足場-その開示が参照により本明細書に組み入れられる、欧州特許第22792058B1号およびWO2019/008335を参照されたい)により連結している重鎖および/または軽鎖CDRの組合せを含む結合ドメインを使用する組成物および方法を提供する。一部の実施形態では、結合ドメインのコード配列は、2Aまたは2A様ペプチドコード配列に作動可能に連結しており、2Aまたは2A様ペプチドコード配列の下流にある。別の実施形態では、結合ドメインのコード配列は、分泌シグナルペプチドのコード配列に作動可能に連結している。さらに別の実施形態では、結合ドメインのコード配列は、2Aまたは2A様ペプチドコード配列に作動可能に連結しており、2Aまたは2A様ペプチドコード配列の下流にあり、この2Aまたは2A様ペプチドコード配列は、今度は分泌シグナルペプチドコード配列に連結しており、したがって、核酸カセットは、一般構造:--2A-SSP-結合ドメイン---を有する。他の実施形態では、本開示は、オリゴマー抗原結合足場タンパク質を形成するためのIgGのFc領域、IgAおよびIgMのFc領域の部分、グリシン-セリンリンカーならびに多量体化ドメインの組成物および使用を提供する。前述のいずれかを、配列最適化を有するRRVと組み合わせて使用して、Apobec3媒介高頻度変異を最小限に抑えることができ、ひいてはタンパク質安定性および/またはアビディティーならびに可能性のあるより良好な生体機能および治療効果のための発現を増強することができる。本開示は、静脈内投与されたとき、血液循環におけるこれらの抗原結合性非Ig足場タンパク質の急速なクリアランスを相殺し、オフターゲット効果および毒性を最小限にするために、治療用ペイロードを腫瘍微小環境に送達するための、発現ベクターおよび使用方法、特に、高い腫瘍標的化特異性を有するウイルスベクターも提供する。表1、2、3、4および5は、本開示の組成物および方法において有用な配列を提供する。RNAが本開示により企図されるので、以下の核酸配列では「T」が「U」であり得ることに、留意されたい。
【0086】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0087】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【0088】
【表3】
【0089】
【表4】
【0090】
【表5-1】
【表5-2】
【0091】
【表6】
【0092】
【表7】
【0093】
本開示のRRVをそれらの安定性および/または発現を改変するように操作することができる。例えば、発現の変化は、不活性化または弱毒化変異が、複製するレトロウイルスベクターに、それが腫瘍組織において漸進的に複製するにつれて蓄積する頻度に起因して、起こることがある。研究は、最も頻度の高い事象の1つがGからAへの変異(逆転写ステップにおける第1の複製ステップからのマイナス鎖一本鎖DNAのApoBec媒介変異に特有のCからTに相当する)であることを示す。これは、RRVタンパク質のアミノ酸組成の変化、およびTGG(トリプトファン)から停止コドン(TAGまたはTGA)への壊滅的変化を引き起こし得る。一実施形態では、この不活性化変化は、トリプトファンコドンの代わりにフェニルアラニンまたはチロシンなどの、類似の化学的または構造的特性を有する他のアミノ酸のコドンを操作することにより回避される。
【0094】
したがって、2A-ペプチド-SSPカセットに加えて、RRVは、宿主細胞における構造の発現および/または安定性を向上させる複数の追加の変異を含み得る。そのような変異は、GAG、POLおよび/またはENVドメインの生物活性を維持する許容されるコドンにトリプトファンコドンを変化させる、GAG、POLおよび/またはENVコード配列内の1つまたは複数のコドンの改変を含み得る。トリプトファンのコドンがUGG(DNAではTGG)であることは、当技術分野において公知である。さらに、「停止コドン」がUAA、UAGまたはUGA(DNAではTAA、TAGまたはTGA)であることは、当技術分野において公知である。トリプトファンコドンの単一の点変異は、非天然停止コドンの原因となり得る(例えば、UGG->UAG、またはUGG->UGA)。ヒトAPOBEC3GF(hA3G/F)が、G->A高頻度変異によってレトロウイルス複製を阻害することも公知である(Neogi et al., J. Int. AIDS Soc., 16(1):18472, Feb. 25, 2013)。さらに、下記で説明されるように、長期発現およびウイルス安定性は、コード配列におけるトリプトファンコドンの使用を回避することによって、hA3G/Fにより引き起こされる高頻度変異に起因する非天然停止コドンの組み入れを回避することにより、向上させることができる。例えば、一実施形態では、MLV由来の核酸配列は、トリプトファンコドン内にある、表A(配列番号2を基準とするヌクレオチド番号)で同定されるヌクレオチドを含有するコドンの改変を含み得るGAG、POLおよびENVコードドメインを含み、hA3G/F耐性RRVを得ることができる。
【0095】
【表A】
【0096】
したがって、本開示の一実施形態では、変異がコドンをトリプトファン以外のアミノ酸のコドンに変化させる、トリプトファンのコドンの1つまたは複数の変異であって、生体適合性であるコドンを(すなわち、ベクターの機能を破壊しないコドン)をもたらす変異を含む、組換え複製可能レトロウイルスが、提供される。このベクターは、本明細書では、「ApoBec不活性化耐性ベクター」または「ApoBec耐性ベクター」と呼ばれることもある。組換えApoBec不活性化耐性ベクターは、IRESカセット、プロモーターカセットおよび/または2Aペプチド-SSPカセットを含み得る。
【0097】
上述の通り、ヒトAPOBEC3gは、GをAに変換するウイルスベクター配列の高頻度変異を引き起こす(Hogan et al., Can.Res., 2018)。したがって、2A-SSPペプチドカセットに含有される異種ポリヌクレオチドにおけるトリプトファンコドンは、hAPOBEC3により停止コドンに変換されやすい。そのような変異を回避するために、トリプトファンコドンを他のアミノ酸の生物学的に許容されるコドンに置き換えることができる。例えば、一実施形態では、本開示の2A-SSPカセットは、シトシンデアミナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むことができ、このポリヌクレオチドは、配列:
【化1】
(または「t」が「u」である上述のもの)を含む。
【0098】
この配列は、2つのトリプトファンコドン(太字/下線付き)を含む。本開示の一実施形態では、これらのコドンは、独立して、D、M、T、E、S、Q、N、F、Y、A、K、H、P、R、V、L、G、IおよびCからなる群より選択されるアミノ酸を提供するコドンへの変化を受ける。結果として得られるポリペプチドは、配列:
【化2】
を含み、このポリペプリドは、シトシンデアミナーゼ活性を有し、ここでXは、トリプトファンを除く任意のアミノ酸である。一実施形態では、配列番号29におけるXは、各々独立して、F、D、M、L、SまたはRからなる群より選択される。
【0099】
別の実施形態では、複製可能レトロウイルスベクターは、シトシンデアミナーゼを有するポリペプチドをコードする異種ポリヌクレオチド(本明細書に記載されるような)を含むことができ、ウイルスプロモーターからの一次転写物の一部としての、または細胞型または組織特異的であり得るプロモーターに連結している、いずれかの、miRNAまたはsiRNA分子を含むポリヌクレオチドをさらに含むこともある。またさらなる実施形態では、miRNAまたはsiRNAの前にpol IIIプロモーターがあることもある。
【0100】
マイクロRNA(miRNA)は、小さい非コードRNAである。それらは、コード遺伝子もしくは非コード遺伝子のイントロン内、非コード遺伝子のエクソン内、または遺伝子間領域に位置する。miRNAコード配列は、一次miRNA前駆体(pri-miRNA)と呼ばれる前駆体ポリヌクレオチドを生成するRNAポリメラーゼIIIにより転写される。核内のpri-miRNAは、リボヌクレアーゼDroshaによりプロセシングされて、miRNA前駆体(pre-miRNA)を産生し、この前駆体が短ヘアピン構造を形成する。その後、pre-miRNAは、エクスポーチン5によって細胞質に輸送され、ダイサーと呼ばれる別のリボヌクレアーゼによりさらにプロセシングされて、活性、成熟miRNAを生成する。siRNA配列の前にSSPコード配列がなく、むしろsiRNAは、ウイルスベクター内の治療用カセットに存在する第2のカセットの一部である。
【0101】
成熟miRNAは、およそ21ヌクレオチド長である。それは、標的化された遺伝子のmRNAの3’非翻訳領域に結合すること、およびmRNAのタンパク質翻訳の抑制または分解のいずれかによりタンパク質発現を抑制することによって、機能を発揮する。miRNAは、発生、細胞増殖、分化およびがん進行を含む、生物学的プロセスに関与する。miRNAプロファイリングの研究は、一部のmiRNA発現が組織特異的であり、ある特定の組織に濃縮されることを示す。例えば、miR-142-3p、miR-181およびmiR-223発現は、ヒトおよびマウスにおける造血組織に濃縮されることが実証されている(Baskerville et al., 2005 RNA 11, 241-247;Chen et al., 2004 Science 303, 83-86)。
【0102】
一部のmiRNAは、いくつかの腫瘍において上方調節される(発がん性miRNA)または下方調節される(リプレッサー)ことが観察されている(Spizzo et al., 2009 Cell 137, 586e1)。例えば、miR-21は、神経膠芽腫、乳房、肺、前立腺、結腸、胃、食道および子宮頸がん、子宮平滑筋肉腫、DLBCL、頭頸部がんにおいて過剰発現される。対照的に、let-7のメンバーは、神経膠芽腫、肺、乳房、胃、卵巣、前立腺および結腸がんにおいて下方調節されることが報告されている。がんにおけるmiRNA発現の恒常性の再確立は、がん進行を阻害するまたは逆転させるために不可避の機序である。
【0103】
がんにおいて下方調節されるmiRNAは、抗がん剤として有用であり得る。例としては、mir-128-1、let-7、miR-26、miR-124およびmiR-137が挙げられる(Esquela-Kerscher et al., 2008 Cell Cycle 7, 759-764;Kumar et al., 2008 Proc Natl Acad Sci USA 105, 3903-3908;Kota et al., 2009 Cell 137, 1005-1017;Silber et al., 2008 BMC Medicine 6:14 1-17)。miR-128発現は、中枢神経系に濃縮されることが報告されており、神経膠芽腫において下方調節されることが観察されている(Sempere et al., 2004 Genome Biology 5:R13.5-11;Godlewski et al., 2008 Cancer Res 68: (22) 9125-9130)。miR-128は、miR-128-1およびmiR-128-2という2つの明確に異なる遺伝子によりコードされる。両方ともプロセシングされて、同一の成熟配列になる。Bmi-1およびE2F3aは、miR-128の直接的標的であることが報告されている(Godlewski et al., 2008 Cancer Res 68: (22) 9125-9130;Zhang et al., 2009 J. Mol Med 87:43-51)。加えて、Bmi-1発現は、神経膠腫、マントル細胞リンパ腫、小細胞肺がん、B細胞非ホジキンリンパ腫、乳房、大腸および前立腺がんを含む、様々なヒトがんにおいて上方調節されることが観察されている。さらに、Bmi-1は、神経幹細胞をはじめとする多様な組織からの幹細胞ならびに神経膠腫における「幹様」細胞集団の自己複製に必要とされることが実証されている。
【0104】
ヘアピン二重鎖のステム長を設計するために好適な範囲は、20~30ヌクレオチド、30~50ヌクレオチド、50~100ヌクレオチド、100~150ヌクレオチド、150~200ヌクレオチド、200~300ヌクレオチド、300~400ヌクレオチド、400~500ヌクレオチド、500~600ヌクレオチド、および600~700ヌクレオチドのステム長を含む。ヘアピン二重鎖のループ長を設計するために好適な範囲は、4~25ヌクレオチド、25~50ヌクレオチドのループ長、またはヘアピン二重鎖のステム長がかなりのものである場合にはそれより長いループ長を含む。ある特定の文脈では、21ヌクレオチドより長い二重鎖領域を有するヘアピン構造は、ループの配列および長さに関係なく、有効なsiRNA依存性サイレンシングを促進することができる。
【0105】
さらに別のまたはさらなる実施形態では、異種ポリヌクレオチドは、インターロイキン、インターフェロンガンマなどのようなサイトカインを含むことができる。本開示のレトロウイルスベクターから発現され得るサイトカインとしては、IL-1アルファ、IL-1ベータ、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、IL-19、IL-20、IL-21、1L-22、IL-23、IL-24、IL-25、IL-26、IL-27、IL-28、IL-29、IL-30、IL-31、IL-32、IL-33、IL-34、IL-35、IL-36、IL-37、IL-38、抗CD40、CD40L、IFN-ガンマおよびTNF-アルファ、可溶性形態のTNF-アルファ、リンホトキシン-アルファ(LT-アルファ、TNF-ベータとしても公知)、LT-ベータ(複合ヘテロ三量体LT-アルファ2-ベータに見られる)、OPGL、FasL、CD27L、CD30L、4-1BBL、DcR3、OX40L、TNF-ガンマ(国際公開番号WO96/14328)、AIM-I(国際公開番号WO97/33899)、エンドカイン-アルファ(国際公開番号WO98/07880)、OPG、およびニュートロカイン-アルファ(国際公開番号WO98/18921)、OX40、および神経成長因子(NGF)、ならびに可溶性形態のFas、CD30、CD27、CD40および4-IBB、TR2(国際公開番号WO96/34095)、DR3(国際公開番号WO97/33904)、DR4(国際公開番号WO98/32856)、TR5(国際公開番号WO98/30693)、TRANK、TR9(国際公開番号WO98/56892)、TR10(国際公開番号WO98/54202)、312C2(国際公開番号WO98/06842)、およびTR12、ならびに可溶性形態のCD154、CD70、およびCD153が挙げられるが、これらに限定されない。血管新生タンパク質は、一部の実施形態では、特に、細胞系からのタンパク質産生に、有用であり得る。そのような血管新生因子としては、神経膠腫由来増殖因子(GDGF)、血小板由来増殖因子-A(PDGF-A)、血小板由来増殖因子-B(PDGF-B)、胎盤成長因子(PIGF)、胎盤成長因子-2(PIGF-2)、血管内皮増殖因子(VEGF)、血管内皮増殖因子-A(VEGF-A)、血管内皮増殖因子-2(VEGF-2)、血管内皮増殖因子B(VEGF-3)、血管内皮増殖因子B-1 86(VEGF-B186)、血管内皮増殖因子-D(VEGF-D)、血管内皮増殖因子-D(VEGF-D)、および血管内皮増殖因子-E(VEGF-E)が挙げられるが、これらに限定されない。線維芽細胞増殖因子は、本開示のベクターにより送達することができ、これらに限定されないが、FGF-1、FGF-2、FGF-3、FGF-4、FGF-5、FGF-6、FGF-7、FGF-8、FGF-9、FGF-10、FGF-11、FGF-12、FGF-13、FGF-14、およびFGF-15を含む。造血成長因子は、本開示のベクターを使用して送達することができ、そのような成長因子としては、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)(サルグラモスチム)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)(フィルグラスチム)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF、CSF-1)、エリスロポエチン(エポエチンアルファ)、幹細胞因子(SCF、c-kitリガンド、造血幹細胞因子)、巨核球コロニー刺激因子、PIXY321(GMCSF/IL-3)融合タンパク質などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0106】
異種核酸配列は、典型的に、ウイルスLTRプロモーター-エンハンサーエレメントの制御下にある。したがって、本開示の組換えレトロウイルスベクター、所望の配列、遺伝子および/または遺伝子断片をいくつかの部位に、異なる調節配列のもとで挿入することができる。例えば、挿入部位は、ウイルスエンハンサー/プロモーター近位部位(すなわち、5’LTR駆動遺伝子座)であり得る。
【0107】
一実施形態では、本開示のレトロウイルスゲノムは、SSPコード配列の上流に2Aペプチドまたは2Aペプチド様コード配列を含有し、SSPコード配列には、下流に、所望の/異種ポリヌクレオチドの挿入のためのクローニング部位が続く。一実施形態では、2Aペプチドまたは2Aペプチド様コード配列は、レトロウイルスベクター内のenv遺伝子の3’側に、しかしSSPコード配列および所望の異種ポリヌクレオチドの5’側に位置する。したがって、所望のポリペプチドをコードする異種ポリヌクレオチドは、2Aペプチドまたは2Aペプチド様-SSPコード配列に作動可能に連結している。
【0108】
別の実施形態では、標的化ポリヌクレオチド配列は、本開示の組換えレトロウイルスベクターの一部として含まれる。標的化ポリヌクレオチド配列は、標的化リガンド(例えば、ペプチドホルモン、例えば、ヘレグリン、一本鎖抗体、受容体もしくは受容体のリガンド)、組織特異的もしくは細胞型特異的調節エレメント(例えば、組織特異的もしくは細胞型特異的プロモーターもしくはエンハンサー)、または標的化リガンドと組織特異的/細胞型特異的調節エレメントの組合せである。好ましくは、標的化リガンドは、レトロウイルスのenvタンパク質に作動可能に連結し、またはレトロウイルスのenvタンパク質に存在し、キメラレトロウイルスenvタンパク質を生成する。ウイルスGAG、ウイルスPOLおよびウイルスENVタンパク質は、任意の好適なレトロウイルスに由来し得る(例えば、MLVまたはレンチウイルス由来)。別の実施形態では、ウイルスENVタンパク質は、非レトロウイルス由来である(例えば、CMVまたはVSV)。
【0109】
一実施形態では、本開示の組換えレトロウイルスは、ウイルスが、特定の細胞型(例えば、平滑筋細胞、肝細胞、腎細胞、線維芽細胞、ケラチノサイト、間葉系幹細胞、骨髄細胞、軟骨細胞、上皮細胞、腸細胞、乳腺細胞、新生物細胞、神経膠腫細胞、神経細胞および当技術分野において公知の他のもの)に標的化され、したがって、レトロウイルスベクターの組換えゲノムが、標的非分裂、標的分裂細胞、細胞増殖性障害を有する標的細胞に送達されるように、遺伝子改変される。
【0110】
一実施形態では、本開示は、非分裂細胞、分裂細胞、または細胞増殖性障害を有する細胞を感染させることができる組換えレトロウイルスを提供する。本開示の組換え複製可能レトロウイルスは、ウイルスGAG、ウイルスPOL、ウイルスENVをコードする、ポリヌクレオチド配列と、ウイルスENV配列のすぐ下流(例えば、下流の1~50の間(1~10、10~15、15~20、20~25、25~30、30~35、35~40、40~45、45~50、またはこれらの間の任意の整数)のヌクレオチド)の2Aペプチドまたは2Aペプチド様コード配列と、異種遺伝子に作動可能に連結しており、ビリオン内にカプシド封入されているSSPコード配列とを含む。
【0111】
「非分裂」細胞という句は、有糸分裂を経ていない細胞を指す。非分裂細胞は、細胞が活発に分裂しない限り、細胞周期の任意の時点(例えば、G/G、G1/S、G2/M)でブロックされ得る。ex vivo感染のために、分裂細胞を、照射、アフィジコリン(aphidocolin)処置、血清飢餓、および接触阻害を含む、当業者により使用される標準的な技法によって処置して、細胞分裂をブロックすることができる。しかし、多くの細胞が既に停止されている(例えば、最終分化細胞)ので、ex vivo感染は、細胞をブロックすることなく行われることが多いことは、理解されるはずである。例えば、組換えレンチウイルスベクターは、非分裂細胞を感染させることができる。体内の既存の非分裂細胞の例としては、神経、筋肉、肝臓、皮膚、心臓、肺および骨髄細胞、ならびにこれらの派生物が挙げられる。分裂細胞については、ガンマレトロウイルスベクターを使用することができる。このタイプのレトロウイルスは、分裂細胞にのみ生産的に感染し、この特性は、このベクタークラスの腫瘍選択性に寄与するからである。
【0112】
「分裂」細胞とは、活発な有糸分裂、または減数分裂を経る細胞を意味する。そのような分裂細胞は、幹細胞、皮膚細胞(例えば、線維芽細胞およびケラチノサイト)、内皮細胞、配偶子、および当技術分野において公知の他の分裂細胞を含む。特に興味深く、用語分裂細胞により包含されるのは、新生物細胞などの細胞増殖性障害を有する細胞である。用語「細胞増殖性障害」は、異常な数の細胞分裂を特徴とする状態を指す。状態は、肥大性(組織内の細胞集団の過成長を生じさせる継続的細胞増殖)および発育不全(組織内の細胞の欠乏または欠損)細胞成長の両方、または身体部位への過剰な細胞流入または遊走を含む。細胞集団は、必ずしも形質転換された、腫瘍原性または悪性細胞ではなく、正常細胞も含み得る。細胞増殖性障害は、結合組織の過成長に関連する障害、例えば、強皮症、関節炎および肝硬変をはじめとする様々な線維性状態を含む。細胞増殖性障害は、新生物障害、例えば、頭頸部癌を含む。頭頸部癌は、例えば、口、食道、咽頭、喉頭、甲状腺、舌、唇、唾液腺、鼻、副鼻腔、上咽頭の癌腫、上方鼻背部(superior nasal vault)および洞の腫瘍、感覚神経芽細胞腫、扁平上皮がん、悪性黒色腫、副鼻腔未分化癌(SNUC)、脳(多形性神経膠芽腫を含む神経膠芽腫)または血液腫瘍を含む。頸部リンパ節、喉頭前リンパ節、肺食道傍リンパ節および顎下リンパ節を含む局所のリンパ節の癌腫も含まれる(eds., Isselbacher, et al., McGraw-Hill, Inc., 13th Edition, ppl850-1853, 1994)。他のがん型としては、肺がん、結腸直腸がん、乳がん、前立腺がん、尿路がん、子宮がん、リンパ腫、口腔がん、膵臓がん、白血病、黒色腫、胃がん、皮膚がんおよび卵巣がんが挙げられるが、これらに限定されない。細胞増殖性疾患は、免疫系の細胞の不適切な増殖を、多くの場合、特徴とする、関節リウマチ(O'Dell NEJM 350:2591 2004)および他の自己免疫障害(Mackay et al NEJM 345:340 2001)も含む。
【0113】
一実施形態では、レトロウイルスベクターは、細胞の外表面に分子を有する細胞に結合することにより細胞に標的化される。レトロウイルスを標的化するこの方法は、レトロウイルスの表面での標的化リガンドの発現を利用して、レトロウイルスの表面の標的化リガンドと相互作用する受容体または結合分子を有する細胞または組織にウイルスを標的化するのを支援する。ウイルスによる細胞の感染後、ウイルスは、その核酸を細胞に送達し、逆転写の完了後、レトロウイルス遺伝物質が宿主細胞のゲノムに組み込まれ得る。
【0114】
例えば、特異的標的細胞上の受容体に対するリガンドをコードする別の遺伝子とともに、目的の異種ポリヌクレオチドを本開示のウイルスベクターに挿入することにより、ベクターは、今や標的特異的である。例えば、糖、糖脂質またはタンパク質を結合させることにより、レトロウイルスベクターを標的特異的にすることができる。当業者は、目的の核酸配列を含有するウイルスベクターの標的特異的送達を可能にするためにウイルスエンベロープに結合することができる、ウイルスゲノムまたはタンパク質に挿入することができる特定のポリヌクレオチド配列が分かるであろう、またはそのような配列を容易に突き止めることができる。
【0115】
したがって、本開示は、一実施形態では、標的化ポリペプチドに作動可能に連結しているレトロウイルスENVタンパク質を含むキメラENVタンパク質を含む。標的化ポリペプチドは、細胞特異的受容体分子、細胞特異的受容体のリガンド、細胞特異的抗原性エピトープに対する抗体もしくは抗体断片、または標的細胞と結合もしくは相互作用することができる当技術分野において容易に同定される任意の他のリガンドであり得る。抗体、抗体断片またはキメラENVを形成する結合ドメインは、抗体、抗体断片または結合ドメインのコード配列を含み得るSSPを伴うまたは伴わない2Aまたは2A様ペプチドコード配列の下流の異種遺伝子とは別であり、明確に異なることに、留意されたい。標的化ポリペプチドまたは分子の例としては、ビオチン-ストレプトアビジンをリンカーとして使用する二価抗体(Etienne-Julan et al., J. Of General Virol., 73, 3251-3255 (1992);Roux et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 86, 9079-9083 (1989))、ハプテンに対する一本鎖抗体可変領域をコードする配列をそのエンベロープに含有する組換えウイルス(Russell et al., Nucleic Acids Research, 21, 1081-1085 (1993))、レトロウイルスエンベロープにペプチドホルモンリガンドのクローニング(Kasahara et al., Science, 266, 1373-1376 (1994))、キメラEPO/env構築物(Kasahara et al., 1994)、LDL受容体を発現するHeLa細胞の特異的感染をもたらす、同種指向性MLVエンベロープにおける低密度リポタンパク質(LDL)受容体に対する一本鎖抗体(Somia et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA, 92, 7570-7574 (1995))が挙げられ、同様に、インテグリンリガンドの組み入れによりALVの宿主範囲を変更することができ、それにより、ウイルスは、今や種を越えてラット神経膠芽腫細胞を特異的に感染させることが可能であり(Valsesia-Wittmann et al., J. Virol.68, 4609-4619 (1994))、Dornbergおよび共同研究者(Chu and Dornburg, J. Virol 69, 2659-2663 (1995);M. Engelstadter et al.Gene Therapy 8,1202-1206 (2001))は、腫瘍マーカーに対する一本鎖抗体を含有するエンベロープを使用する、トリレトロウイルスである、脾臓壊死ウイルス(SNV)の組織特異的標的化を報告している。
【0116】
本開示は、標的細胞を感染させることができる組換えレトロウイルスを産生する方法であって、ウイルスgag、ウイルスpolおよびウイルスenvをコードするポリヌクレオチド配列と、envの下流にある2Aペプチドまたは2Aペプチド様コード配列と、作動可能に連結しており、2Aペプチドまたは2Aペプチド様コード配列と異種ポリヌクレオチドとの間にあるSSPコード配列と、パッケージングおよびプサイ配列とを含むベクターを、好適な宿主細胞にトランスフェクトするステップ、および組換えウイルスを回収するステップを含む、方法を提供する。
【0117】
本開示のレトロウイルスおよび方法は、ビリオンを増殖および産生させるためにヘルパーウイルスも追加の核酸配列またはタンパク質も必要としない複製可能レトロウイルスを提供する。例えば、本開示のレトロウイルスの核酸配列は、上記で論じられたような、群特異的抗原および逆転写酵素(ならびに成熟および逆転写に必要なインテグラーゼおよびプロテアーゼ酵素)をそれぞれコードする。ウイルスgagおよびpolは、レンチウイルス、例えばHIV、またはオンコレトロウイルスまたはガンマレトロウイルス、例えばMoMLVに由来し得る。加えて、本開示のレトロウイルスの核酸ゲノムは、ウイルスエンベロープ(ENV)タンパク質をコードする配列を含む。env遺伝子は、任意のレトロウイルスに由来し得る。envは、ヒトおよび他の種の細胞の形質導入を可能にする両種指向性エンベロープタンパク質であることもあり、またはマウスおよびラット細胞のみに形質導入することができる同種指向性エンベロープタンパク質であることもある。さらに、エンベロープタンパク質と特定の細胞型の受容体への標的化のための抗体または特定のリガンドとの連結により、組換えウイルスを標的化することが望ましいこともある。上述のように、例えば、糖脂質またはタンパク質を挿入することにより、レトロウイルスベクターを標的特異的にすることができる。標的化は、特定の細胞型(例えば、ある特定の組織に見られる細胞型、またはがん細胞型)上の抗原にレトロウイルスベクターを標的化するために、抗体を使用して遂行されることが多い。当業者は、過度の実験をすることなく、特定の標的へのレトロウイルスベクターの送達を果たすための特定の方法が分かるであろう、またはそのような方法を容易に突き止めることができる。一実施形態では、env遺伝子は、非レトロウイルス(例えば、CMVまたはVSV)に由来する。レトロウイルス由来のenv遺伝子の例としては、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMuLV)、ハーベイマウス肉腫ウイルス(HaMuSV)、マウス乳癌ウイルス(MuMTV)、テナガサル白血病ウイルス(GaLV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)およびラウス肉腫ウイルス(RSV)が挙げられるが、これらに限定されない。他のenv遺伝子、例えば、水疱性口内炎ウイルス(VSV)(プロテインG)、サイトメガロウイルスエンベロープ(CMV)、またはインフルエンザウイルス赤血球凝集素(HA)も、使用することができる。
【0118】
一実施形態では、レトロウイルスゲノムは、オンコ-レトロウイルス、より詳細には、哺乳動物オンコレトロウイルスに由来する。さらなる実施形態では、レトロウイルスゲノムは、ガンマレトロウイルス、より詳細には、哺乳動物ガンマレトロウイルスに由来する。「由来する」とは、親ポリヌクレオチド配列が、天然に存在する配列の挿入または除去(例えば、2Aペプチドもしくは2Aペプチド様コード配列、SSPコード配列、およびポリペプチドと必要に応じて1つもしくは複数のIRESとをコードする異種ポリヌクレオチド、または別の異種ポリヌクレオチドもしくは目的の阻害性核酸に連結しているpolIIIプロモーターそれぞれの挿入)により改変された野生型オンコウイルスであることを意味する。
【0119】
別の実施形態では、本開示は、調節配列を使用して標的化されるレトロウイルスベクターを提供する。細胞特異的または組織特異的調節配列(例えば、プロモーター)を利用して、特定の細胞集団における遺伝子配列の発現を標的化することができる。本開示に好適な哺乳動物およびウイルスプロモーターは、本明細書の他の箇所で説明される。したがって、一実施形態では、本開示は、レトロウイルスゲノムの5’末端に組織特異的プロモーターエレメントを有するレトロウイルスを提供する。典型的には、組織特異的調節エレメント/配列は、レトロウイルスゲノムのLTRのU3領域に存在し、例えば、新生物細胞に対する細胞特異的または組織特異的プロモーターおよびエンハンサー(例えば、腫瘍細胞特異的エンハンサーおよびプロモーター)、および誘導性プロモーター(例えば、テトラサイクリン)を含む。
【0120】
本開示の転写制御配列は、スーパー抗原、サイトカインまたはケモカインをコードする遺伝子と天然で会合している、天然に存在する転写制御配列も含み得る。
【0121】
一部の環境では、発現を調節することが望ましいこともある。例えば、様々な活性強度を有する異なるウイルスプロモーターを、所望の発現レベルに依存して利用することができる。哺乳動物細胞では、CMV最初期プロモーターが、強力な転写活性化をもたらすために使用されることが多い。作用強度が低いCMVプロモーターの改変バージョンも、導入遺伝子の発現レベル低下が所望される場合に使用されている。造血細胞における導入遺伝子の発現が所望される場合、MLVまたはMMTVからのLTRなどのレトロウイルスプロモーターを使用することができる。使用することができる他のウイルスプロモーターとしては、SV40、RSV LTR、HIV-1およびHIV-2 LTR、アデノウイルスプロモーター、例えばE1A、E2AもしくはMLP領域からのもの、AAV LTR、カリフラワーモザイクウイルス、HSV-TK、ならびにトリ肉腫ウイルスが挙げられる。
【0122】
同様に、組織特異性または選択的プロモーターは、標的としない組織に対する潜在的毒性または望ましくない効果を低下させるために、特定の組織または細胞における転写を行うために使用され得る。例えば、前立腺における遺伝子発現を標的とするために、PSA、プロバシン、前立腺酸性ホスファターゼまたは前立腺特異的腺性カリクレイン(hK2)などのプロモーターを使用することができる。乳清アクセサリータンパク質(WAP)を乳房組織発現に使用することができる(Andres et al., PNAS 84:1299-1303, 1987)。使用することができる他のプロモーター/調節ドメインは、下記に示される。
【0123】
「組織特異的調節エレメント」は、ある組織では遺伝子の転写を駆動することができるが、他の組織型では主として「サイレント」なままである、調節エレメント(例えば、プロモーター)である。しかし、組織特異的プロモーターが、それらがサイレントであることが予想される組織において検出可能な量の「バックグラウンド」または「基礎」活性を有することもあることは、理解されるであろう。プロモーターが標的組織において選択的に活性化される程度は、選択性比(標的組織における活性/対照組織における活性)として表現することができる。このことに関して、典型的には、本開示の実施に有用な組織特異的プロモーターは、約5より大きい選択性比を有する。好ましくは、選択性比は、約15より大きい。
【0124】
ある特定の適応症では、本開示の組換え複製可能レトロウイルス(RRV)の投与後の特定の時点で転写を活性化することが望ましいことがある。これは、ホルモンまたはサイトカイン調節可能であるプロモーターを用いて行うことができる。例えば、適応症が、特定のステロイドが産生されるまたは送られる生殖腺組織である、治療適用では、アンドロゲンまたはエストロゲン調節プロモーターを使用することが有利であり得る。ホルモン調節可能であるそのようなプロモーターは、MMTV、MT-1、エクジソンおよびRuBiscoを含む。他のホルモン調節プロモーター、例えば、甲状腺、下垂体および副腎皮質ホルモンに応答性であるものを使用してもよい。使用することができるであろうサイトカインおよび炎症性タンパク質応答性プロモーターとしては、KおよびTキニノーゲン(Kageyama et al., 1987)、c-fos、TNF-アルファ、C反応性タンパク質(Arcone et al., 1988)、ハプトグロビン(Oliviero et al., 1987)、血清アミロイドA2、C/EBPアルファ、IL-1、IL-6(Poli and Cortese, 1989)、補体C3(Wilson et al., 1990)、IL-8、アルファ-1酸性糖タンパク質(Prowse and Baumann, 1988)、アルファ-1アンチトリプシン、リポタンパク質リパーゼ(Zechner et al., 1988)、アンジオテンシノーゲン(Ron et al., 1990)、フィブリノゲン、c-jun(ホルボールエステル、TNF-アルファ、UV照射、レチノイン酸および過酸化水素により誘導可能)、コラゲナーゼ(ホルボールエステルおよびレチノイン酸により誘導される)、メタロチオネイン(重金属およびグルココルチコイド誘導性)、ストロメライシン(ホルボールエステル、インターロイキン-1およびEGFにより誘導可能)、アルファ-2マクログロブリンならびにアルファ-1アンチキモトリプシンが挙げられる。オステオカルシン、低酸素応答性エレメント(HRE)、MAGE-4、CEA、アルファ-フェトプロテイン、GRP78/BiPおよびチロシナーゼなどの腫瘍特異的プロモーターも、腫瘍細胞における遺伝子発現を調節するために使用することができる。
【0125】
加えて、プロモーターのこのリストを包括的または限定的であると見なすべきではなく、当業者は、本明細書で開示されるプロモーターおよび方法とともに使用することができる他のプロモーターが分かるであろう。
【表8】
【0126】
ある特定のプロモーターは、活性が単一の組織型には限定されないが、それでもやはり、それらが、組織のある群では活性であることがあり、別の群では活性がより低いかまたはサイレントであることがあることから、選択性を示すことがあることは、さらに理解されるであろう。そのようなプロモーターは、「組織特異的」と呼ばれることもあり、本開示とともに使用されることが企図される。例えば、種々の中枢神経系(CNS)ニューロンにおいて活性であるプロモーターは、脳の多くの異なる領域のいずれかを冒すことがある脳卒中に起因する損傷を防ぐ点で治療に有用であり得る。したがって、本開示で使用される組織特異的調節エレメントは、異種タンパク質の調節に適用可能であり、本レトロウイルスベクター中の標的化ポリヌクレオチド配列としても適用可能である。
【0127】
さらに別の実施形態では、本開示は、組換えレトロウイルス由来の構築物を含むプラスミドを提供する。プラスミドを標的細胞に、または細胞培養物、例えば、HT1080、NIH 3T3もしくは他の組織培養細胞に、直接導入することができる。得られる細胞は、レトロウイルスベクターを培養培地に放出する。
【0128】
本開示は、5’から3’へ、転写を開始するのに有用なプロモーターまたは調節領域;プサイパッケージングシグナル;gagコード核酸配列、polコード核酸配列;envコード核酸配列;2Aペプチドまたは2Aペプチド様コード配列;SSPコード配列;マーカーをコードする異種ポリヌクレオチド、治療用または診断用ポリペプチド;必要に応じたIRESまたはpolIIIカセット;およびLTR核酸配列を含む、ポリヌクレオチド構築物を提供する。上述の通り、gag、polおよびenv核酸ドメインを、ApoBec3により停止コドンに変換されるトリプトファンコドンを除去するように改変することができる。ある特定の他の実施形態では、ベクターは、異種ポリヌクレオチドの下流かつ3’LTRの上流にpolIIIカセットまたはIRESカセットをさらに含み得る。本明細書の他の箇所で説明されるように、および下記の通り、本開示のポリヌクレオチド構築物(例えば、組換え複製可能レトロウイルスポリヌクレオチド)の様々なセグメントは、一部は、所望の宿主細胞、発現のタイミングまたは量、および異種ポリヌクレオチドに依存して、操作される。本開示の複製可能レトロウイルス構築物を、当業者により個々に改変され得る多数のドメインに分けることができる。
【0129】
本開示の組換えレトロウイルスを産生するための例示的なDNA配列は、配列番号2で提供され、プロモーターは、配列番号2のヌクレオチド1~約ヌクレオチド582に記載の配列を有するCMVプロモーターを含むことができ、1つまたは複数(例えば、2~5、5~10、10~20、20~30、30~50、50~100またはそれより多くの核酸塩基)への改変を、改変されたプロモーターが転写を指示および開始することができるのであれば、含み得る。一実施形態では、プロモーターまたは調節領域は、CMV-R-U5ドメインポリヌクレオチドを含む。CMV-R-U5ドメインは、MLV R-U5領域に連結しているヒトサイトメガロウイルスからの最初期プロモーターを含む。一実施形態では、CMV-R-U5ドメインポリヌクレオチドは、配列番号2の約ヌクレオチド1~約ヌクレオチド1202に記載の配列、または配列番号2に記載の配列と少なくとも95%同一である配列を含み、ポリヌクレオチドは、それに作動可能に連結している核酸分子の転写を促進する。ポリヌクレオチドのgagドメインは、いずれの数のレトロウイルスに由来してもよいが、典型的には、オンコレトロウイルスに、より詳細には、MLVなどの哺乳動物オンコレトロウイルスに由来するであろう。一実施形態では、gagドメインは、配列番号2の約ヌクレオチド番号1203~約ヌクレオチド2819の配列、またはそれに対して(小数第1位に丸めて)少なくとも95%、98%、99%もしくは99.8%の同一性を有する配列を含む。ポリヌクレオチドのpolドメインは、いずれの数のレトロウイルスに由来してもよいが、典型的には、ガンマレトロウイルスに、より詳細には、MLVなどの哺乳動物ガンマレトロウイルスに由来するであろう。一実施形態では、polドメインは、配列番号2の約ヌクレオチド番号2820~約ヌクレオチド6358の配列、またはそれに対して(小数第1位に丸めて)少なくとも95%、98%、99%もしくは99.9%の同一性を有する配列を含む。ポリヌクレオチドのenvドメインは、いずれの数のレトロウイルスに由来してもよいが、典型的には、ガンマ-レトロウイルスに、より詳細には、MLVなどの哺乳動物ガンマ-レトロウイルスに由来するであろう。一部の実施形態では、envコードドメインは、両種指向性envドメインを含む。一実施形態では、envドメインは、配列番号2の約ヌクレオチド番号6359~約ヌクレオチド8323の配列、またはそれに対して(小数第1位に丸めて)少なくとも95%、98%、99%もしくは99.8%の同一性を有する配列を含む。2Aペプチドまたは2Aペプチド様/SSPカセットは、envドメインの後に(例えば、約ヌクレオチド8324に)挿入され、異種ポリヌクレオチドの末端に続く。好適なSSPペプチドの例は、表BおよびCに提供される。異種ドメインの後に、ポリプリンリッチドメインが続くこともあり、またはIRESカセットもしくはpolIIIカセットが続くこともある。3’LTRは、任意の数のレトロウイルス、典型的には、ガンマレトロウイルス、より典型的には、MLVなどの哺乳動物ガンマレトロウイルスに由来し得る。一実施形態では、3’LTRは、U3-R-U5ドメインを含む。さらに別の実施形態では、LTRは、配列番号2の約ヌクレオチド9111~約11654に記載の配列、またはそれと(小数第1位に丸めて)少なくとも95%、98%もしくは99.5%同一である配列を含む。
【0130】
【表B-1】
【表B-2】
【表B-3】
【表B-4】
【0131】
【表C】
【0132】
レトロウイルスベクターを使用して、多数の細胞増殖性疾患および障害を含む、広範な疾患および障害を処置することができる(例えば、各々が参照によりその全体が本明細書に組み入れられる、米国特許第4,405,712号および同第4,650,764号;Friedmann, 1989, Science, 244:1275-1281;Mulligan, 1993, Science, 260:926-932, R. Crystal, 1995, Science 270:404-410を参照されたい、また、各々が参照によりその全体が本明細書に組み入れられる、The Development of Human Gene Therapy, Theodore Friedmann, Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1999. ISBN 0-87969-528-5;Concepts in Genetic Medicine, ed. Boro Dropulic and Barrie Carter, Wiley, 2008, Hoboken, NJ.; Gene & Cell Therapy-Therapeutic Mechanism and Strategies, 3rd edition ed. Nancy Smyth Templeton, CRC Press, Boca Raton FL 2008;Xavier et al., Annu. Rev. Med. 70:273-88, 2019を参照されたい)。
【0133】
本開示は、細胞増殖性障害の処置のための遺伝子療法も提供する。そのような療法は、適切な治療用ポリヌクレオチド(例えば、抗原結合タンパク質/ポリペプチド、サイトカイン、リガンド、アンチセンス、リボザイム、プロドラッグ活性化酵素、siRNAをコードする)の、増殖性障害を有する被験体の細胞への、または同種異系間葉系幹細胞(MSC)、神経幹細胞(NSC)もしくは炎症もしくは腫瘍部位を標的とすることができることが公知の他の細胞型への導入により、その治療効果を達成することになる。ポリヌクレオチド構築物の送達は、本開示の組換えレトロウイルスベクターを使用して、特に、それが、分裂細胞を感染させることができるMLVまたは他のガンマレトロウイルスに基づく場合、達成することができる。
【0134】
加えて、本明細書に記載の治療方法(例えば、遺伝子療法または遺伝子送達方法)は、in vivoまたはex vivoで行うことができる。遺伝子療法の前に腫瘍の大部分を、例えば外科的にまたは放射線により、除去することが好ましいこともある。一部の態様では、レトロウイルス療法に先行してまたはその後に、手術、化学療法または放射線療法が行われることもある。
【0135】
したがって、本開示は、非分裂細胞、分裂細胞または新生物細胞を感染させることができる組換えレトロウイルスを提供し、その点で、組換えレトロウイルスは、ウイルスGAG;ウイルスPOL;ウイルスENV;2Aペプチドまたはペプチド様コード配列に作動可能に連結している異種核酸;およびパッケージング、逆転写および組み込みに必要なシス作用性核酸配列を含む。組換えレトロウイルスは、HIVなどのレンチウイルスであってもよく、またはガンマレトロウイルスであってもよい。
【0136】
本開示は、特定の核酸(例えば、異種配列)の発現をもたらすために標的細胞に核酸を移入する方法も提供する。したがって、別の実施形態では、本開示は、標的細胞内に異種核酸を導入し、それを発現させるための方法であって、標的細胞を本開示の組換えウイルスに感染させるステップ、および異種核酸を標的細胞に発現させるステップを含み、異種核酸が、envドメインの下流で組換えウイルスベクターに操作され、2Aまたは2A様ペプチド-SSP構築物に作動可能に連結している、方法を提供する。上述の通り、標的細胞は、レトロウイルスによる感染が可能であるのであれば、当業者に認識されている分裂、非分裂、新生物、不死化、改変および他の細胞型を含む、いずれの細胞型であってもよい。
【0137】
生体応答修飾物質(例えば、サイトカイン)をコードする核酸を細胞または被験体に移入することが望ましいこともある。このカテゴリーには、「インターロイキン」として分類される多数のサイトカインをコードする核酸を含む免疫強化剤が含まれる。これらは、例えば、インターロイキン1から38、ならびに本明細書の他の箇所で説明される他の応答修飾物質および因子を含む。このカテゴリーには、必ずしも同じ機序に従って作用するとは限らないが、インターフェロン、特にガンマインターフェロン、腫瘍壊死因子(TNF)および顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)も含まれる。他のポリペプチドとしては、例えば、血管新生因子および抗血管新生因子が挙げられる。酵素欠損症また免疫不全を処置するために、そのような核酸を骨髄細胞またはマクロファージに送達することが望ましいこともある。増殖因子、毒性ペプチド、リガンド、受容体または他の生理学的に重要なタンパク質をコードする核酸を、特定の標的細胞に導入することもできる。上述の生体応答修飾物質のいずれも、本開示のRRVの2Aまたは2A様ペプチド-SSP構築物の下流に操作され、2Aまたは2A様ペプチド-SSP構築物に作動可能に連結している。
【0138】
本開示を、薬物特異的標的化および効果を促進する異種ポリヌクレオチドの送達のために使用することができる。例えば、EGF受容体ファミリーのメンバーであるHER2は、薬物トラスツズマブ(Herceptin(商標)、Genentech)の結合の標的である。トラツズマブは、抗体依存性細胞傷害(ADCC)のメディエーターである。活性は、1+および非発現細胞ではなく、免疫組織化学により2+および3+の過剰発現レベルを有するHER2発現細胞に優先的に標的化される(Herceptin prescribing information, Crommelin 2002)。HER2が少ない腫瘍ではHER2または切断型HER2(細胞外および膜貫通ドメインのみに発現する)を発現するベクターを導入することによりHER2の発現を増進することで、ADCCの最適な誘発を助長し、臨床使用の際に観察されるHerceptinに対する耐性の急速な発現を克服することができる。これらの事例では、異種遺伝子は、HER2をコードすることになる。
【0139】
別の例では、CD20は、薬物リツキシマブ(Rituxan(商標)、Genentech)の結合の標的である。リツキシマブは、補体依存性細胞傷害(CDC)およびADCCのメディエーターである。フローサイトメトリーによってより高い平均蛍光強度を有する細胞は、リツキシマブに対する感受性増大を示す(van Meerten et al., Clin Cancer Res 2006; 12(13):4027-4035, 2006)。CD20が少ないB細胞ではCD20を発現するベクターの導入によりCD20の発現を増進することで、ADCCの最適な誘発を助長することができる。この事例では、異種遺伝子は、CD20をコードする。
【0140】
本開示は、がんおよび新生物などの細胞増殖性障害を処置する方法であって、本開示のRRVベクターを投与し、その後、化学療法剤または抗がん剤での処置を行うステップを含む方法を提供する。一実施形態では、RRVベクターは、RRVの感染および複製を可能にする化学療法剤または抗がん剤の投与の前に一定の期間、被験体に投与される。次いで、被験体は、化学療法剤または抗がん剤で、一定の期間、増殖を低減させるまたはがん細胞を死滅させるための投薬量で処置される。一実施形態では、化学療法剤または抗がん剤での処置が、がん/腫瘍を低減させるが、死滅させない場合(例えば、部分的寛解または一時的寛解)には、RRVからの細胞傷害性遺伝子(例えば、シトシンデアミナーゼ)の細胞発現時に毒性治療剤に変換される非毒性治療剤(例えば、5-FC)で被験体を処置することができる。
【0141】
そのような方法を使用して、本開示のRRVベクターが腫瘍細胞の複製プロセス中に拡散され、次いで、そのような細胞を抗がん剤または化学療法剤での処置により死滅させることができ、本明細書に記載のRRV処置を使用してさらなる死滅を生じさせることができる。
【0142】
本開示のさらに別の実施形態では、異種遺伝子は、標的抗原(例えば、がん抗原)のコード配列を含むことができる。この実施形態では、細胞増殖性障害を有する細胞は、標的抗原の発現(例えば、がん抗原の過剰発現)をもたらすために標的抗原をコードする異種ポリヌクレオチドを含むRRVに感染される。次いで、標的抗原と特異的に相互作用する標的化同族部分を含む抗がん剤が、被験体に投与される。標的化同族部分は、細胞傷害剤に作動可能に連結していることもあり、またはそれ自体が抗がん剤であることもある。したがって、標的化抗原コード配列を含むRRVに感染したがん細胞は、そのがん細胞上の標的の発現を増加し、その結果、細胞傷害性標的化の効率/有効性が増大されることになる。
【0143】
さらに別の実施形態では、本開示のRRVは、同族抗原またはリガンドと特異的に相互作用する結合ドメイン(例えば、抗体、抗体断片、抗体ドメイン、非抗体結合ドメインまたは受容体リガンド)を含むコード配列を含むことができる。したがって、結合ドメインのコード配列を含むRRVを使用して、がん細胞または新生物細胞などの、細胞増殖性障害を有する被験体における細胞を感染させることができる。次いで、感染した細胞は、結合ドメインまたは抗体を発現することになる。したがって、細胞傷害剤に作動可能に連結している、またはそれ自体が細胞傷害性である、抗原または同族部分(cognate)を、被験体に投与することができる。次いで、細胞傷害性同族部分は、結合ドメインを発現する感染した細胞を選択的に死滅させることになる。あるいは、結合ドメイン自体が、抗PD-L1または抗CTLA-4などの、例えば免疫系と相互作用する、抗がん剤であることもある。
【0144】
本開示は、細胞増殖性障害を有する被験体を処置する方法を提供する。被験体は、ヒトを含む任意の哺乳動物であり得る。被験体を本開示の組換え複製可能レトロウイルスベクターと接触させる。接触は、in vivoまたはex vivoであり得る。本開示のレトロウイルスベクターを投与する方法は、当技術分野において公知であり、例えば、全身投与、局所投与、腹腔内投与、筋肉内投与、頭蓋内、脳脊髄、ならびに腫瘍部位または細胞増殖性障害部位への直接投与を含む。当技術分野において公知の他の投与経路も利用することができる。
【0145】
したがって、本開示は、細胞増殖性障害を処置するのに有用な様々な医薬組成物を含む。本開示による医薬組成物は、本開示に従って細胞増殖性障害を処置またはモジュレートするのに有用な異種ポリヌクレオチド配列を含有するレトロウイルスベクターを、担体、賦形剤および添加剤または助剤を使用して被験体への投与に好適な形態にすることにより、調製される。よく使用される担体または助剤としては、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、ラクトース、マンニトールおよび他の糖、タルク、乳タンパク質、ゼラチン、デンプン、ビタミン、セルロースおよびその誘導体、動物および植物油、ポリエチレングリコールならびに溶媒、例えば、滅菌水、アルコール、グリセロールおよび多価アルコールが、挙げられる。静脈内ビヒクルとしては、体液および栄養補充液が挙げられる。保存薬としては、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤および不活性ガスが挙げられる。他の薬学的に許容される担体としては、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 15th ed. Easton: Mack Publishing Co., 1405-1412, 1461-1487 (1975)およびThe National Formulary XIV., 14th ed. Washington: American Pharmaceutical Association (1975)に記載されているような、塩、保存薬、緩衝液などを含む、水溶液、非毒性賦形剤が挙げられ、前記参考文献の内容は、これにより参照により本明細書に組み入れられる。医薬組成物中の様々な成分のpHおよび正確な濃度は、当技術分野における通例の技術に従って調整される。Goodman and Gilman's The Pharmacological Basis for Therapeutics (7th ed.)を参照されたい。
【0146】
他の実施形態では、本開示の複製可能レトロウイルスベクターでトランスフェクトされる宿主細胞が提供される。宿主細胞は、真核生物細胞、例えば、酵母細胞、昆虫細胞または動物細胞を含む。宿主細胞は、原核生物細胞、例えば、細菌細胞も含む。
【0147】
本明細書で提供されるベクター(例えば、複製可能レトロウイルスベクター)で形質導入される(形質転換またはトランスフェクト)される操作された宿主細胞も提供される。操作された宿主細胞を、プロモーターの活性化、形質転換体の選択またはコードするポリヌクレオチドの増幅のために必要に応じて改変された従来の栄養培地で培養することができる。温度、pHなどのような培養条件は、発現のために選択される宿主細胞とともに以前に使用されたものであり、当業者には明らかであろうし、例えば、Sambrook, Ausubel and Berger、ならびに例えば、Freshney (1994) Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique, 3rd ed. (Wiley-Liss, New York)およびそこに引用されている参考文献を含む、本明細書に引用される参考文献で明らかになる。
【0148】
適切な発現宿主の例としては、細菌細胞、例えば、E.coli、B.subtilis、Streptomyces、およびSalmonella typhimurium;真菌細胞、例えば、Saccharomyces cerevisiae、Pichia pastoris、およびNeurospora crassa;昆虫細胞、例えば、DrosophilaおよびSpodoptera frugiperda;哺乳動物細胞、例えば、CHO、COS、BHK、HEK 293 br Bowes黒色腫;または植物細胞または外植片などが挙げられる。典型的には、ヒト細胞または細胞系が使用されることになるが、本開示のベクターおよびポリヌクレオチドをシークエンシング、増幅およびクローニングのために非ヒト宿主細胞にクローニングすることが望ましいこともある。
【0149】
以下の実施例は、本開示を例証するためのものであり、限定するためのものではない。そのような実施例は、使用され得るものの典型であるが、当業者に公知の他の手順をその代わりに利用してもよい。
【実施例
【0150】
(実施例1)
RRV-2A-GFPm、RRV-GSG-2A、RRV-2A-yCD2およびRRV-GSG-2A-yCD2の設計。
【0151】
RRV-yCD2およびRRV-GFPは、両種指向性エンベロープ遺伝子および脳心筋炎ウイルス内部リボソーム進入部位(IRES)-env遺伝子の下流の導入遺伝子カセット-を有する、モロニーMLVに基づくRRVである(Perez et al, 2012)。RRV-2A-GFP(別名pAC3-2A-GFP)およびRRV-2A-yCD2(pAC3-2A-yCD2)ベクターは、RRV-GFPおよびRRV-yCD2に基づくが、IRES領域が、両種指向性エンベロープタンパク質および導入遺伝子(GFPまたはyCD2)とインフレームの様々な異なる2Aペプチドで置き換えられている。RRV-2A-GFPおよびRRV-yCD2ベクターのクローニングスキームは、以前に記載されている(Hofacre et al Hum. Gene Ther.29:437-451 2018)。手短に述べると、2つのDNA断片と、BstB IおよびNot I部位で消化されるpAC3-emd骨格とを含有する、ギブソンアセンブリクローニングキット(NEB)を使用して、先ず、pAC3-T2A-GFP構築物を生成した。最初に、両種指向性envの3’末端の配列、Thosea asignaウイルスからの2Aペプチド(T2A)、およびGFPの5’を5’から3’の順に含有する、1対のセンスおよびアンチセンスオリゴヌクレオチドを合成し(IDT)、ハイブリダイズして、DNA断片2A-Gを生成した。ギブソンアセンブリの第2のDNA断片は、FP断片であった。FP断片は、以下のプライマーを使用してPCRにより生成した:GFP-F-Gib(5’-GAAGTTCGAGGGCGACAC-3’(配列番号303))およびGFP-R-Gib(5’-TAAAATCTTTTATTTTATCTGCGGCCGCAC-3’(配列番号304))。
【0152】
2A-G断片において、5’は、pAC3骨格の両種指向性envのBstBI部位と重複する配列を含有し、3’は、FP DNA断片の5’と重複する配列を含有する。加えて、AscI制限酵素部位を、第2の導入遺伝子であるGFPの開始コドンのすぐ上流の、T2Aの3’末端に配置した。AscI部位を含めたのは、T2Aペプチドの他の2Aペプチドへのその後の置き換えのためである。AscI部位の前に追加のヌクレオチドTをAscI制限部位に含めることにより、結果として、T2Aペプチドの最後のプロリン残基のC末端に追加の3つのアミノ酸(グリシン-アラニン-プロリン)を得た。共翻訳プロセス中の、T2Aペプチドにより媒介されるエンベロープタンパク質からのGFPタンパク質の分離によって、結果として、GFPのN末端に追加の4つのアミノ酸P、G、AおよびPを得た。FP断片において、FP断片の5’末端は、2A-G断片の3’末端と24ヌクレオチド重複する配列を含有し、FP断片の3’末端は、Not I部位に及ぶpAC3-GFP骨格の5’末端に26ヌクレオチド重複する。ギブソンアセンブリクローニングの結果として得たプラスミドDNAをpAC3-T2A-GFPと名付けた。
【0153】
その後、ブタテッショウウイルス-1(P2A)、口蹄疫ウイルス(F2A)およびウマ鼻炎Aウイルス(E2A)に由来する3つの他のよく使用される2Aペプチドを2つの異なる構成で保有する追加のRRV-2A-GFPベクターを、合成した(IDT)。各DNA断片は、両種指向性env遺伝子の3’の配列と、pAC3-T2A-GFP骨格のT2Aの代わりに指定2AペプチドとをBstBIおよびAscI部位に含有した。結果として生じたプラスミドDNAを、pAC3-P2A-GFP、pAC3-F2A-GFP、pAC3-E2A-GFP、pAC3-GSG-T2A-GFP、pAC3-GSG-P2A-GFP、pAC3-GSG-F2A-GFP、およびpAC3-GSG-E2A-GFPと名付けた。
【0154】
記載したRRV-2A-GFPプラスミドDNA(pAC3-E2A-GFP、pAC3-F2A-GFP、pAC3-P2A-GFP、pAC3-T2A-GFP、pAC3-GSG-E2A-GFP、pAC3-GSG-F2A-GFP、pAC3-GSG-P2A-GFP、およびpAC3-GSG-T2A-GFP)全てが、GFPの3’末端に停止コドン変異を有することを、後に決定した。FP PCR断片を生成する際に、変異をGFP-R-Gibプライマー(5’-TAAAATCTTTTATTTTATCTGCGGCCGCAC-3’(配列番号4))に導入した。PCRから生じたGFPの停止コドン変異は、停止コドンに到達する前に追加の11アミノ酸(C-A-A-A-D-K-I-K-D-F-I(配列番号5))のGFP ORFのリードスルーを生じさせる結果となった。これらのプラスミドDNAを、pAC3-E2A-GFPm、pAC3-F2A-GFPm、pAC3-P2A-GFPm、pAC3-T2A-GFPm、pAC3-GSG-E2A-GFPm、pAC3-GSG-F2A-GFPm、pAC3-GSG-P2A-GFPm、およびpAC3-GSG-T2A-GFPmと再び名付けた。以後、2つの命名法pAC3-E2A-GFP/pAC3-E2A-GFPm、pAC3-F2A-GFP/pAC3-F2A-GFPm、pAC3-P2A-GFP/pAC3-P2A-GFPm、pAC3-T2A-GFP/pAC3-T2A-GFPm、pAC3-GSG-E2A-GFP/pAC3-GSG-E2A-GFPm、pAC3-GSG-F2A-GFP/pAC3-GSG-F2A-GFPm、pAC3-GSG-P2A-GFP/pAC3-GSG-P2A-GFPm、およびpAC3-GSG-T2A-GFP/pAC3-GSG-T2A-GFPmを互換的に使用する。
【0155】
4つのRRV-2A-yCD2ベクターの同等のセットは、GFPmオープンリーディングフレームをpAC3-P2A-GFPm、pAC3-GSG-P2A-GFPm、pAC3-T2A-GFPmおよびpAC3-GSG-T2A-GFPmプラスミドDNAのそれぞれの2AペプチドバージョンのyCD2 ORFで置き換えることにより生成した。以下のプライマーを使用して、pAC3-yCD2プラスミドDNAからAscI-yCD2-NotI PCR断片を生成した:AscI-yCD2-F(5’-GATCGGCGCGCCTATGGTGACCGGCGGCATGGC-3’(配列番号6)および3-37(5’-CCCCTTTTTCTGGAGACTAAATAA-3’(配列番号7)。PCR産物および4つのpAC3-2A-GFPmプラスミドDNAの各々をAscIおよびNotIで制限酵素消化し、AscI-yCD2-NotI消化PCR産物をGFPmの代わりにサブクローニングして、pAC3-P2A-yCD2、pAC3-GSG-P2A-yCD2、pAC3-T2A-yCD2、およびpAC3-GSG-T2A-yCD2を生成した(表D)。
【表D】
【0156】
(実施例2)
293T細胞から産生されたRRV-2A-GFPmおよびRRV-GSG-2A-GFPmベクターは、感染性であり、GFPタンパク質を発現する。
【0157】
HEK293T細胞を、トランスフェクションの18~20時間前に、10cmプレート1枚当たり2×10細胞で播種した。翌日、pAC3-2A-GFPmおよびpAC3-GSG-2A-GFPmプラスミドを、細胞播種の20時間後、リン酸カルシウム法を使用する20μgのプラスミドDNAの一過性トランスフェクションに使用した。トランスフェクションの18時間後、細胞をDMEM完全培地で3回洗浄し、新鮮な完全培養培地とインキュベートした。ウイルス上清をトランスフェクションのおよそ42時間後に収集し、0.45μmシリンジフィルターに通して濾過した。HEK293T細胞の一過性トランスフェクションからのRRV-2A-GFPm、RRV-GSG-2A-GFPmおよびRRV-IRES-GFPのウイルス力価を、以前に記載された(Perez et al., 2012)ように決定した。手短に述べると、ベクター調製物の力価をPC3細胞でベクターの単一サイクル感染により決定した。単一サイクル感染を、感染から24時間後のアジドチミジン処理により保証し、続いて細胞ゲノム当たりのウイルスDNAのコピー数を定量するための、感染から48時間後のベクターDNAに特異的な標的細胞ゲノムDNAの定量的PCR(qPCR)(MLV LTRプライマーセット;5-MLV-U3-R(5’-AGCCCACAACCCCTCACTC-3’(配列番号20))、3-MLV-プサイ(5’-TCTCCCGATCCCGGACGA-3’(配列番号21))、およびプローブ(5’-FAM-CCCCAAATGAAAGACCCCCGCTGACG-BHQ1-3’(配列番号22)))を行った。1ミリリットル当たりの形質導入単位(TU)(TU/mL)で報告するウイルス力価は、プラスミドDNAの2×10コピー~2×10コピーの範囲の標準曲線から導出する閾値サイクル(CT)値の計算により、ならびに既知のゲノムDNA投入量、細胞の数、および反応混合物当たりのウイルスストックの希釈から決定した。表Eは、HEK293T細胞から産生されたRRV-2A-GFPmおよびRRV-GSG-2A-GFPmの力価が、RRV-IRES-GFPの力価と同等であったことを示す。
【表E】
【0158】
次いで、HEK293T細胞から産生されたRRV-2A-GFPmウイルスを使用して、0.01の感染多重度(MOI)でU87-MGを感染させた。U87-MG細胞を初期感染のために6ウェルプレートに1×10細胞で播種した。細胞を6ウェルプレートの新しいウェルに各継代で1~4の希釈度で継代させ、各試料からの細胞の残部を回収して、BD FACS Canto II(BD Biosciences)を使用してGFPm発現細胞のパーセントおよびGFPm平均蛍光強度を測定することによりウイルス拡散を評価した。各継代でのGFP陽性細胞のパーセンテージをプロットした。アッセイの長さは、全てのRRV-2A-GFPウイルスが最大感染力(約95%またはそれより高いGFP陽性細胞)に達するまで行った。RRV-2A-GFPmとRRV-GSG-2A-GFPm間のウイルス拡散の速度は、感染U87-MG細胞において、遅滞を示したRRV-P2A-GFPm、RRV-T2A-GFPmおよびRRV-GSG-F2A-GFPmを除いて、RRV-IRES-GFPと同様であった。それにもかかわらず、それらは、18日以内に最大感染力に達した。また、GFPm発現レベルは、RRV-2A-GFPmベクターとRRV-GSG-2A-GFPmベクター間で異なったが、全て、RRV-IRES-GFP感染U87-MG細胞から発現されたもののおよそ20~50%であった。
【0159】
(実施例3)
RRV-2A-GFPmおよびRRV-GSG-2A-GFPmベクターはU87-MG細胞で安定している。RRV-2A-GFPmおよびRRV-GSG-2A-GFPm感染U87-MG細胞におけるGFP発現の低減が、ウイルスゲノムにおけるGFP遺伝子の欠失に起因しないことを保証するために、プロウイルスDNAの3’envおよび3’UTR領域に及ぶプライマーセットを使用するエンドポイントPCRにより2A-GFPm領域の完全性を評価した。その後、U87-MG細胞の最大感染力で、T75フラスコにおいて細胞を培養してコンフルエンシーに達し、この時点で、培地を新鮮培地で置き換え、その後、ウイルス含有上清を回収し、培地交換後18~24時間の時点で、0.45μM濾過を行った。回収した細胞上清をアリコートに分け、免疫ブロット実験および再感染実験に使用するまで-80℃で保管した。同時に、細胞を2つの画分に分割した;ゲノムDNAの単離のための1/10、および全細胞溶解物の単離のための9/10。400μLの1×PBSに再懸濁させることにより細胞ペレットからゲノムDNAを抽出し、Promega Maxwell 16 Cell DNA Purification Kit(Promega)を使用して単離した。次いで、100ナノグラムのゲノムDNAを、次のプライマーセットを用いるPCRの鋳型として使用した:IRES-F(5’-CTGATCTTACTCTTTGGACCTTG-3’(配列番号23))およびIRES-R(5’-CCCCTTTTTCTGGAGACTAAATAA-3’(配列番号24))。得られたPCR産物を1%アガロースゲルで分析した。データは、RRV-2A-GFPmおよびRRV-GSG-2A-GFPmベクターのプロウイルスDNAにおける2A-GFPmおよび GSG-2A-GFPm領域が、U87-MG細胞においてウイルス複製の時間経過中、安定していることを示す。
【0160】
(実施例4)
最大限感染させたU87-MG細胞から産生されたRRV-2A-GFPmおよびRRV-GSG-2A-GFPmは、その後の感染サイクルにおいて感染性のままである。長期感染力は、RRVによりもたらされる治療効果を維持するための多くの重要な判断基準の1つであるので、最大限感染させたU87-MG細胞から産生されたRRV-2A-GFPmおよびRRV-GSG-2A-GFPmの感染力をナイーブU87-MG細胞において追加の感染サイクルを行うことにより評価した。先ず、最大限感染させたU87-MG細胞から回収したウイルス上清を記載の通り力価測定し、次いで、0.01のMOIでナイーブU87-MG細胞に戻してこの細胞を再感染させた。最大限感染させたU87-MG細胞から生じた力価は、一過性トランスフェクトHEK293T細胞から得られた力価と同様であり、RRV-2A-GFPm、RRV-GSG-2A-GFPmベクターとRRV-IRES-GFPベクターの間で同等である。
【0161】
RRV-2A-GFPmおよびRRV-GSG-2A-GFPmのウイルス拡散を記載の通り各細胞継代でモニターした。一過性感染HEK293T細胞から生じたウイルス上清を使用して第1の感染サイクルで観察されたウイルス拡散速度とは対照的に、全てのベクターは、RRV-IRES-GFPと同等の速度で拡散した。しかし、この感染サイクルでのRRV-2A-GFPmおよびRRV-GSG-2A-GFPm感染U87-MG細胞からのGFP発現レベルは、以前に観察されたような、RRV-IRES-GFP細胞により発現されるレベルの20~50%に留まった。
【0162】
(実施例5)
RRV-2A-GFPmおよびRRV-GSG-2A-GFPmベクターのウイルスエンベロープおよびGFPmタンパク質は、感染U87-MG細胞において異なる効率でプロセシングされる。
【0163】
GFPm発現、ウイルスエンベロープタンパク質からのGFPmの分離効率、およびウイルスエンベロープタンパク質の適切なプロセシングを評価するために、感染U87-MG細胞から細胞溶解物を生成した。最大感染力でのU87-MG細胞、コンフルエント細胞単層を、1×PBSで1回洗浄し、TrpZean(Sigma)により解離させ、完全DMEMに再懸濁させ、再び1×PBSで洗浄し、その後、200μLのRIPA溶解緩衝液(Thermo Scientific)中、氷上で30分間の細胞溶解を行った。溶解物を14,000rpmで15分にわたり4℃での遠心分離によって細胞デブリについて清澄化し、上清を回収し、新しい管に移した。次いで、BCA沈殿アッセイ(Thermo Scientific)を使用して細胞溶解物をそれらのタンパク質濃度についてアッセイし、20μgのタンパク質をSDS-PAGEに付した。タンパク質を4~12%XT-Tris SDS-PAGEゲル(BioRad)で、200ボルトで45分間分解した。その後、iBlotドライブロッティングシステムを使用して、20ボルトで7分間、タンパク質をPVDF膜(Life Technologies)に転写した。抗gp70(ラット抗gp70、クローン83A25;1:500希釈)および抗GFP(ウサギ抗GFP;1:1000希釈)を使用して、膜をエンベロープタンパク質のgp70サブユニットおよびGFPmの発現についてアッセイした。ホースラディッシュペルオキシダーゼにコンジュゲートした対応する二次抗体を使用して、タンパク質発現を検出した。結果は、抗GFP抗体を使用して、約120KDaのenv-2A-GFPm融合タンパク質の高い分子量により示されるように、RRV-F2A-GFPm、RRV-P2A-GFPm、ならびにRRV-T2A-GFPm、RRV-GSG-F2A-GFPmおよびRRV-GSG-F2A-GFPmからのGFPmタンパク質が、ウイルスエンベロープタンパク質から非効率的に分離されたことを示す。対照的に、ウイルスエンベロープタンパク質からのGFPmの分離は、RRV-IRES-GFPからのものと比較して、RRV-E2A-GFPm、RRV-GSG-P2A-GFPmおよびRRV-GSG-T2A-GFPmベクターについて相対的に効率的であった。並行して、感染U87-MGにおけるウイルスエンベロープタンパク質のプロセシングを、抗gp70抗体を使用して検査した。結果は、前駆体(Pr85)またはプロセシングされた形態(gp70)のいずれかのエンベロープを有するウイルスが、全てのRRV-2A-GFPmおよびRRV-GSG-2A-GFPmベクターにおいて検出されたことを示し、これは、抗GFP免疫ブロットで明らかなようにGFPmからのウイルスエンベロープタンパク質の分離を示唆している。加えて、抗gp70ブロットに見られる分離効率は、抗GFP免疫ブロットに見られる分離効率とある程度一致している。融合ポリタンパク質であるEnv-GFPmのタンパク質発現は、RRV-2A-GFPmベクターとRRV-GSG-2A-GFPmベクター間で異なっていたが、抗GFP免疫ブロットと抗gp70免疫ブロットの両方におけるウイルスエンベロープ-GFPm融合ポリタンパク質の検出の欠如により示されるように、RRV-GSG-P2A-GFPmおよびRRV-T2A-GFPmは、最も効率的な分離を有するように見える。
【0164】
(実施例6)
適切にプロセシングされたウイルスエンベロープタンパク質の組み入れレベルは、ウイルスエンベロープタンパク質とGFPmタンパク質の間の分離効率と相関する。
【0165】
RRV-2A-GFPmおよびRRV-GSG-2A-GFPmで最大限感染させたU87-MG細胞からのウイルス上清を4℃で30分にわたり14000rpmで20%スクロース勾配によってペレット化し、その後、5%2-メルカプトエタノールを含有する20μLの1×Laemmli緩衝液に再懸濁させ、4~20%Trisグリシンゲル(BioRad)でのSDS PAGEに付した。電気泳動およびタンパク質転写を記載の通りに行った。適切にプロセシングされたビリオン関連ウイルスエンベロープタンパク質発現を、抗gp70(ラット産生抗gp70、クローン83A25;1:500希釈)および抗p15E(マウス産生抗TM、クローン372;1:250希釈)を使用して検査した。ホースラディッシュペルオキシダーゼにコンジュゲートした対応する二次抗体を使用して、タンパク質発現を検出した。データは、RRV-P2A-GFPmおよびRRV-T2A-GFPmベクターを除いて、RRV-2A-GFPmおよびRRV-GSG-2A-GFPmの適切にプロセシングされたエンベロープタンパク質、gp70およびp12E/p15Eが、ビリオンにおいてRRV-IRES-GFPのレベルと同等のレベルで検出されたことを示す。予想通り、ビリオン関連エンベロープタンパク質の最低レベルを示したRRV-GSG-P2A-GFPmおよびRRV-T2A-GFPmは、細胞溶解物中の融合ポリタンパク質の最高レベルを表した。公開されたデータと一致して、データは、プロセシングされていないエンベロープタンパク質前駆タンパク質Pr85またはこの場合はウイルスエンベロープ-GFPm融合ポリタンパク質がビリオンに組み入れられないという表記を支持する。さらに、「融合性」p12Eに至る2Aペプチドを有するRペプチドの切断もまた、最大限感染させたU87-MG細胞から生じた力価により示されるように、ビリオン成熟中に感染性ウイルス粒子を産生するのに十分であるように見える。p15E/p12E比の性質および感染中の膜融合におけるその役割は不明確である。要するに、データは、ウイルスエンベロープタンパク質組み入れのレベルが、標的細胞において測定される力価値と相関しないことを示唆している。ベクター、特に、RRV-GSG-P2A-GFPmおよびRRV-T2A-GFPmベクター間の力価値の差の予想外の欠如は、様々なエンベロープ発現レベルが、これらの細胞での力価に影響を与えることなく、RRV粒子に関して許容されることを示唆している。
【0166】
(実施例7)
293T細胞から産生されたRRV-P2A-yCD2およびRRV-T2A-yCD2、RRV-GSG-P2A-yCD2およびRRV-GSG-T2A-yCD2ベクターは、感染性であり、yCD2タンパク質を発現する。
【0167】
HEK293T細胞を、トランスフェクションの18~20時間前に、10cmプレート1枚当たり2×10細胞で播種した。翌日、pAC3-P2A-yCD2、pAC3-T2A-yCD2、pAC3-GSG-P2A-yCD2およびpAC3-GSG-T2A-yCD2プラスミドを、細胞播種の20時間後、リン酸カルシウム法を使用する20μgのプラスミドDNAの一過性トランスフェクションに使用した。トランスフェクションの18時間後、細胞をDMEM完全培地で3回洗浄し、新鮮な完全培養培地とインキュベートした。ウイルス上清をトランスフェクションのおよそ42時間後に収集し、0.45μmシリンジフィルターに通して濾過した。HEK293T細胞の一過性トランスフェクションからのRRV-P2A-yCD2、RRV-T2A-yCD2、RRV-GSG-P2A-yCD2、およびRRV-GSG-T2A-yCD2のウイルス力価を、以前に記載された(Perez et al., 2012)ように決定した。手短に述べると、ベクター調製物の力価をPC3細胞でベクターの単一サイクル感染により決定した。単一サイクル感染を、感染から24時間後のアジドチミジン処理により保証し、続いて細胞ゲノム当たりのウイルスDNAのコピー数を定量するための、感染から48時間後のベクターDNAに特異的な標的細胞ゲノムDNAの定量的PCR(qPCR)(MLV LTRプライマーセット;5-MLV-U3-R(5’-AGCCCACAACCCCTCACTC-3’(配列番号20))、3-MLV-プサイ(5’-TCTCCCGATCCCGGACGA-3’(配列番号21))、およびプローブ(5’-FAM-CCCCAAATGAAAGACCCCCGCTGACG-BHQ1-3’(配列番号22)))を行った。1ミリリットル当たりの形質導入単位(TU)(TU/mL)で報告するウイルス力価は、プラスミドDNAの2×10コピー~2×10コピーの範囲の標準曲線から導出する閾値サイクル(CT)値の計算により、ならびに既知のゲノムDNA投入量、細胞の数、および反応混合物当たりのウイルスストックの希釈度から決定した。表Fは、HEK293T細胞から産生されたRRV-P2A-yCD2、RRV-T2A-yCD2、RRV-GSG-P2A-yCD2およびRRV-GSG-T2A-yCD2の力価が、RRV-IRES-yCD2の力価と同等であったことを示す。
【0168】
【表F】
【0169】
加えて、最大限感染させたU87-MG細胞から回収したウイルス上清を記載の通り力価測定して、それらが感染性のままであることを保証した。力価のために使用したプライマーセットは、5-MLV-U3-R、3-MLV-プサイプライマーおよびプローブを含有するプライマーセットと同様のプライミング効率を有する。感染U87-MG細胞からのRRV-P2A-yCD2、RRV-T2A-yCD2、RRV-GSG-P2A-yCD2およびRRV-GSG-T2A-yCD2ベクターの力価測定に使用したプライマーセットは、Env2 For:5’-ACCCTCAACCTCCCCTACAAGT-3’(配列番号25)、Env2 Rev:5’-GTTAAGCGCCTGATAGGCTC-3’(配列番号26)およびプローブ5’-FAM-CCCCAAATGAAAGACCCCCGCTGACG-BHQ1-3’(配列番号27)である。最大限感染させたU87-MG細胞から生じた力価は、一過性トランスフェクトHEK293T細胞から得られた力価と同様であり、RRV-IRES-yCD2ベクターの間で同等であった。
【0170】
(実施例8)
感染U87-MG細胞におけるRRV-P2A-yCD2およびRRV-T2A-yCD2、RRV-GSG-P2A-yCD2およびRRV-GSG-T2A-yCD2ベクターのウイルスエンベロープおよびyCD2タンパク質は、異なる効率でプロセシングされる。
【0171】
yCD2発現、ウイルスエンベロープタンパク質からのyCD2の分離効率、およびウイルスエンベロープタンパク質の適切なプロセシングを評価するために、感染U87-MG細胞から細胞溶解物を生成した。最大感染力でのU87-MG細胞、コンフルエント細胞単層を、1×PBSで1回洗浄し、TrpZean(Sigma)により解離させ、完全DMEMに再懸濁させ、再び1×PBSで洗浄し、その後、200μLのRIPA溶解緩衝液(Thermo Scientific)中、氷上で30分間の細胞溶解を行った。溶解物を14,000rpmで15分間、4℃での遠心分離によって細胞デブリについて清澄化し、上清を回収し、新しい管に移した。次いで、BCA沈殿アッセイ(Thermo Scientific)を使用して細胞溶解物をそれらのタンパク質濃度についてアッセイし、20μgのタンパク質をSDS-PAGEに付した。タンパク質を4~12%XT-Tris SDS-PAGEゲル(BioRad)で、200ボルトで45分間分解した。その後、iBlotドライブロッティングシステムを使用して、20ボルトで7分間、タンパク質をPVDF膜(Life Technologies)に転写した。抗gp70(ラット抗gp70、クローン83A25;1:500希釈)および抗yCD2(マウス抗yCD2;1:1000希釈)を使用して、膜をエンベロープタンパク質のgp70サブユニットおよびyCD2の発現についてアッセイした。ホースラディッシュペルオキシダーゼにコンジュゲートした対応する二次抗体を使用して、タンパク質発現を検出した。結果は、抗yCD2抗体を使用して、約110KDaのenv-2A-yCD2融合ポリタンパク質の高い分子量により示されるように、RRV-P2A-yCD2およびRRV-T2A-yCD2からのyCD2タンパク質が、ウイルスエンベロープタンパク質から非効率的に分離されたことを示す。対照的に、ウイルスエンベロープタンパク質からのyCD2の分離は、RRV-IRES-yCD2からのものと比較して、RRV-GSG-P2A-yCD2およびRRV-GSG-T2A-yCD2について相対的に効率的であった。並行して、感染U87-MGにおけるウイルスエンベロープタンパク質のプロセシングを、抗gp70抗体を使用して検査した。結果は、前駆体(Pr85)またはプロセシングされた形態(gp70)のいずれかのエンベロープを有するウイルスが、RRV-GSG-P2A-yCD2、RRV-GSG-T2A-yCD2ベクターにおいて、しかし、はるかに低いレベルでRRV-P2A-yCD2およびRRV-T2A-yCD2ベクターにおいて、容易に検出可能であったことを示した。加えて、Pr85/gp70ウイルスエンベロープタンパク質のレベルは、抗yCD2免疫ブロットで観察されたレベルとある程度一致している。しかし、RRV-2A-GFPmまたはRRV-GSG-2A-GFPmベクターとは異なり、ウイルスエンベロープ-yCD2融合ポリタンパク質は、抗gp70抗体または抗2A抗体(カタログ番号ABS31、EMD Millipore)を使用して検出することができなかった。4つのベクターの中で、RRV-GSG-P2A-yCD2およびRRV-GSG-T2A-yCD2ベクターは、抗yCD2免疫ブロットにおけるウイルスエンベロープ-yCD2融合ポリタンパク質の検出の欠如により示されるように、融合ポリタンパク質の最も効率的な分離を示した。要するに、データは、GSG-P2AおよびGSG-T2A構成が、RRVエンベロープタンパク質オープンリーディングフレームに関連して最も効率的なポリタンパク質分離を生じさせることを示唆している。
【0172】
(実施例9)
RRV-G2G-P2A-YCD2およびRRV-GSG-T2A-yCD2は、U87-MG細胞において長期安定性を有する。U87-MG細胞においてRRV-GSG-P2A-yCD2およびRRV-GSG-T2A-yCD2の長期ベクター安定性を評価するために、連続感染を行った。6ウェルプレートに播種したおよそ10のナイーブU87-MG細胞を0.1のMOIでウイルスベクターに初期感染させ、1週間培養して単一感染サイクルを完了した。完全感染細胞からの2mlのウイルス上清のうちの100μLを使用して、10のナイーブ細胞を感染させ、最大16サイクル反復した。400μLの1×PBSに再懸濁させることにより小ペレットからゲノムDNAを抽出し、Promega Maxwell 16 Cell DNA Purification Kit(Promega)を使用して単離した。次いで、100ナノグラムのゲノムDNAを、導入遺伝子カセットに及ぶ次のプライマーペアを用いるPCRの鋳型として使用した;IRES-F(5’-CTGATCTTACTCTTTGGACCTTG-3’(配列番号:23))およびIRES-R(5’-CCCCTTTTTCTGGAGACTAAATAA-3’(配列番号24))。2A-yCD2領域のベクター安定性を感染細胞からの組み込まれたプロウイルスのPCR増幅により評価する。予想されるPCR産物のサイズは、およそ0.73kbである。0.73kbより小さい一切のバンドの出現が、2A-yCD2領域における欠失を示す。RRV-yCD2におけるIRES-yCD2(1.2Kb)領域は、以前に報告された(Perez et al., 2012)ように感染サイクル16まで安定している。同様に、RRV-GSG-P2A-yCD2およびRRV-GSG-T2A-yCD2両方の2A-yCD2領域も、感染サイクル16まで安定したままである。しかし、RRV-GSG-T2A-yCD2における2A-yCD2領域は、欠失(0.4kb)欠失が感染サイクル13で出現したのでRRV-GSG-P2A-yCD2よりわずかに安定性が低いが、サイクル16の間を通して安定したままである。
【0173】
(実施例10)
適切にプロセシングされたウイルスエンベロープの組み入れは、RRV-P2A-yCD2およびRRV-T2A-yCD2、RRV-GSG-P2A-yCD2およびRRV-GSG-T2A-yCD2ベクターに感染させたU87-MG細胞においてウイルスエンベロープタンパク質とyCD2タンパク質の間の分離効率と相関する。
【0174】
RRV-2A-yCD2およびRRV-GSG-2A-yCD2で最大限感染させたU87-MG細胞から産生されたウイルス上清を4℃、14000rpmで30分間、20%スクロース勾配によってペレット化し、その後、5% 2-メルカプトエタノールを含有する20uLの1×Laemmli緩衝液に再懸濁させ、4~20%Trisグリシンゲル(BioRad、Hercules CA)でのSDS PAGEに付した。電気泳動およびタンパク質転写を記載の通りに行った。適切にプロセシングされたビリオンウイルスエンベロープタンパク質発現および成熟を、抗gp70(ラット産生抗gp70、クローン83A25;1:500希釈)および抗p15E(マウス産生抗TM、クローン372;1:250希釈)を使用してアッセイした。ホースラディッシュペルオキシダーゼにコンジュゲートした対応する二次抗体を使用して、タンパク質発現を検出した。データは、RRV-P2A-yCD2およびRRV-T2A-yCD2ではなく、RRV-GSG-P2A-yCD2およびRRV-GSG-T2A-yCD2の適切にプロセシングされたエンベロープタンパク質、gp70が、ビリオンにおいてRRV-IRES-yCD2のレベルと同等のレベルで検出されたことを示す。
【0175】
重要なことに、データは、適切にプロセシングされたウイルスエンベロープタンパク質の組み入れレベルが力価値と相関しないことを示唆している。
【0176】
(実施例11)
yCD2タンパク質発現レベルは、RRV-P2A-yCD2およびRRV-T2A-yCD2、RRV-GSG-P2A-yCD2およびRRV-GSG-T2A-yCD2感染U87-MG細胞において様々であったが、RRV-IRES-yCD2感染U87-MG細胞の5-FC感受性と同等の5-FC感受性を示した。
【0177】
RRV-P2A-yCD2およびRRV-T2A-yCD2、RRV-GSG-P2A-yCD2およびRRV-GSG-T2A-yCD2の免疫ブロットが、感染U87-MG細胞においてウイルスエンベロープタンパク質からの分離タンパク質としてまたは様々な融合ポリタンパク質として発現されたyCD2タンパク質の量を示したので、LD50実験を行うことによりそれらの5-FC感受性を測定した。RRV-P2A-yCD2およびRRV-T2A-yCD2、RRV-GSG-P2A-yCD2およびRRV-GSG-T2A-yCD2ベクターに最大限感染させたU87-MG細胞を使用して、MTSアッセイによりそれらの5-FC LD50を決定した。感染および非感染U87-MG細胞系各々について、1×10細胞/ウェル/100μL培養培地を、96ウェルプレートに三連で播種した。細胞を、0.00001mM~1mMの範囲の一連の1:10希釈で5-FC(カタログ番号F7129、Sigma)を用いて処理した。5-FC処理なしを対照として含めた。播種の1日後に5-FCを添加し、次いで、2日ごとに、5-FCに加えた完全培地を補充した。5-FCの非5-FU媒介細胞傷害効果を決定するために、ナイーブU87-MG細胞を対照として含めた。細胞を7日間のインキュベーション時間にわたってモニターし、CellTiter 96 AQueous One Solution Cell Proliferation Assay System(Promega)を使用することにより2日ごとに細胞死を測定した。MTSの添加の後、MTSインキュベーション後60分の時点でInfinite M200(Tecan)プレートリーダーを使用して490nmでOD値を獲得した。三連の各試料からの平均OD値を、RRVに感染させたが未処置の細胞に対する細胞生存パーセンテージに変換した。その後、GraphPad Primを使用してそのパーセンテージ値を対数スケールで5-FC濃度に対してプロットして、LD50グラフを生成した。LD50値は、獲得したデータ点の非線形4パラメーターフィットを使用してソフトウェアにより計算した。データは、「分離」yCD2タンパク質のレベルが、RRV-P2A-yCD2およびRRV-T2A-yCD2感染U87-MG細胞よりもRRV-GSG-P2A-yCD2およびRRV-GSG-T2A-yCD2感染U87-MG細胞においてより高いにもかかわらず、RRV-P2A-yCD2およびRRV-T2A-yCD2感染U87-MG細胞において観察されたウイルスエンベロープ-yCD2融合ポリタンパク質は、RRV-IRES-yCD2のLC50濃度と同様のLC50濃度で5-FCを5-FUに変換することにおいて酵素的に活性であり、細胞傷害効果を達成することを示す。
【0178】
(実施例12)
RRV-GSG-P2A-yCD2およびRRV-GSG-T2A-yCD2感染Tu2449細胞は、RRV-IRES-yCD2の5-FC感受性と同等の5-FC感受性を示した。
【0179】
RRV-GSG-P2A-GMCSF-T2A-yCD2に最大限感染させたTu2449細胞を使用して、記載の通りにMTSアッセイによりその5-FC LD50を決定した。RRV-IRES-yCD2を対照として含めた。0.00001mM~1mMの範囲の一連の1:10希釈で5-FC(カタログ番号F7129、Sigma)を用いる処理を使用した。5-FC処理なしを対照として含めた。播種の1日後に5-FCを添加し、次いで、2日ごとに、5-FCに加えた完全培地を補充した。5-FCの非5-FU媒介細胞傷害効果を決定するために、ナイーブTu2449細胞を対照として含めた。細胞を7日間のインキュベーション時間にわたってモニターし、CellTiter 96 AQueous One Solution Cell Proliferation Assay System(Promega)を使用することにより2日ごとに細胞死を測定した。MTSの添加の後、MTSインキュベーション後60分の時点でInfinite M200(Tecan)プレートリーダーを使用して490nmでOD値を獲得した。三連の各試料からの平均OD値を、RRVに感染させたが未処置の細胞に対する細胞生存パーセンテージに変換した。GraphPad Primを使用してそのパーセンテージ値を対数スケールで5-FC濃度に対してプロットして、LD50グラフを生成した。LD50値は、獲得したデータ点の非線形4パラメーターフィットを使用してソフトウェアにより計算した。データは、RRV-GSG-P2A-yCD2およびRRV-GSG-T2A-yCD2感染Tu-2449細胞により発現されるyCD2タンパク質は、RRV-IRES-yCD2のLC50濃度と同様のLC50濃度で5-FCを5-FUに変換することにおいて酵素的に活性であり、細胞傷害効果を達成することを示す。
【0180】
(実施例13)
RRV-GSG-T2A-yCD2で処置した皮下、同系神経膠腫マウスはRRV-IRES-yCD2のものと同等の腫瘍成長遅延を示した。
【0181】
同系細胞系Tu-2449をB6C3F1マウス(Ostertag et al., 2012)における同所性腫瘍モデルとして使用した。Tu-2449細胞の亜系統(Tu-2449SQ)を皮下腫瘍モデル化のために樹立した。98%ナイーブTu-2449SQ細胞と2% RRV-GSG-T2A-yCD2感染Tu-2449SQ細胞の混合物をin vitrolで調製し、皮下腫瘍移植のためにリン酸緩衝食塩水(PBS;Hyclone)に再懸濁させた。98%ナイーブTu-2449SQ細胞と2% RRV-IRES-yCD2感染Tu-2449SQ細胞の混合物を陽性対照ならびに比較対照として含めた。各群のB6C3F1マウス(1群当たりn=10)に、0日目に、1×106の腫瘍細胞を皮下移植した。腫瘍移植後12日目に(腫瘍のおよそ>75%がRRVに感染した時点で)、マウスにPBSまたは5-FC(1用量当たり体重1kg当たり500mg、i.p.、b.i.d.)のいずれかを連続45日間投与し、その後、2日間、薬物なしでベクターを残存感染細胞から拡散させた。5日オン、2日オフの薬物処置サイクルをさらに2回繰り返した。腫瘍容積測定を毎日行った。結果は、5-FC処置なしのRRV-IRES-yCD2またはRRV-GSG-T2Aを有する担腫瘍マウスが成長し続けることを示す。対照的に、RRV-GSG-T2Aを有する担腫瘍マウスであって、その後5-FC処置を施したマウスは、事前に確立された腫瘍の腫瘍成長を遅延させ、RRV-IRES-yCD2+5-FCで処置したマウスで同等である。データは、皮下、同系神経膠腫マウスモデルではRRV-GSG-T2A-yCD2がRRV-IRES-yCD2と同等の治療有効性を有することを示唆している。
【0182】
(実施例14)
HEK293T細胞から産生されたRRV-GSG-T2A-GMCSF-GSG-P2A-yCD2およびRRV-GSG-T2A-yCD2-GSG-PS2-GMCSFベクターは、GMCSFおよびyCD2タンパク質を発現し、感染性である。
【0183】
pAC3-GSG-T2A-GMCSF-GSG-P2A-yCD2およびRRV-GSG-T2A-yCD2-GSG-P2A-GMCSFは、AscIおよびNotI制限部位が5’および3’末端にそれぞれ存在する、化学的に合成された(Genewiz)ヒトGMCSF-GSG-P2A-yCD2およびyCD2-GSG-P2A-GMCSFカセットを、AscIおよびNotI制限酵素で消化されたpAC3-GSG-T2A-yCD2骨格にクローニングすることにより生成した。結果として得られるGMCSF-GSG-P2A-yCD2およびyCD2-GSG-P2A-GMCSFカセットは、カセットのN末端(AscI制限部位の5’上流)のGSG-T2Aとインフレームである。
【0184】
HEK293T細胞をトランスフェクションの18~20時間前に、10cmプレート1枚当たり2×10細胞で播種した。翌日、20μgのpAC3-GSG-T2A-GMCSF-GSG-P2A-yCD2またはpAC3-GSG-T2A-yCD2-GSG-P2A-GMCSFプラスミドを、細胞播種の20時間後にリン酸カルシウム法を使用する一過性トランスフェクションに使用した。トランスフェクションの18時間後、細胞をCMEM培地で3回洗浄し、新鮮な完全培地とインキュベートした。ウイルス上清をトランスフェクションのおよそ42時間後に回収し、0.45μmシリンジフィルターに通して濾過した。HEK293T細胞に対する一過性トランスフェクションからのRRV-GSG-T2A-GMCSF-GSG-P2A-yCD2のウイルス力価を、記載の通りに決定した。データは、RRV-GSG-T2A-GMCSF-GSG-P2A-yCD2およびpAC3-GSG-T2A-yCD2-GSG-P2A-GMCSFの力価(約2×10TU/mL)がRRV-IRES-yCD2の力価と同等であることを示す。
【0185】
yCD2タンパク質発現を評価するために、細胞溶解物をpAC3-GSG-P2A-GMCSF-GSG-T2A-yCD2またはpAC3-GSG-T2A-yCD2-GSG-P2A-GMCSF一過性トランスフェクト293T細胞から生成した。この実験では、pAC3-IRES-yCD2およびpAC3-IRES-GMCSFも対照として含めた。GMCSF発現のために、一過性トランスフェクト293T細胞からの上清をELISA(カタログ番号DGM00、R&D Systems)による測定のために回収した。全細胞溶解物を記載の通りにyCD2タンパク質発現についてアッセイした。抗yCD2結果は、pAC3-GSG-P2A-GMCSF-GSG-T2A-yCD2またはpAC3-GSG-T2A-yCD2-GSG-P2A-GMCSFからのyCD2タンパク質が、約15KDaバンドにより示されるように、GMCSFから効率的に分離されることを示す。しかし、両方の構成での2Aペプチドにより媒介されるGMCSF(pAC3-GSG-P2A-GMCSF-GSG-T2A-yCD2)からの、またはウイルスエンベロープタンパク質(pAC3-GSG-T2A-yCD2-GSG-P2A-GMCSF)からの、yCD2の分離は、著しく異なり、RRV-IRES-yCD2からのyCD2と比較してyCD2のサイズにより示されるように、yCD2タンパク質はGMCSFからは適切に分離される。対照的に、ウイルスenvからのyCD2タンパク質分離は、わずかに高い分子量を有し、RRV-GSG-P2A-GFP、RRV-GSG-T2A-GFP、RRV-GSG-P2A-yCD2およびRRV-GSG-T2A-yCD2構築物のものと一致する。データは、EnvからのyCD2分離が、理論的に予想されるアミノ酸配列で正確に起こらないことがあることを示唆している。しかし、yCD2を別の分泌タンパク質(すなわち、GMCSF)の下流に配置した場合、yCD2タンパク質の適切な分離が観察される。しかし、RRV-GSG-P2A-yCD2およびRRV-GSG-T2A-yCD2から発現される2A-yCD2タンパク質の酵素的活性がin vitroでもin vivoでも5-FC感受性および細胞傷害効果に影響を与えないように見えることに留意することは重要である。
【0186】
pAC3-GSG-P2A-GMCSF-GSG-T2A-yCD2構築物中のウイルスエンベロープタンパク質からの、またはpAC3-GSG-T2A-yCD2-GSG-P2A-GMCSF構築物中のyCD2からの、GMCSFタンパク質の分離効率は不確定であるが、GMCSF ELISA結果は、分泌GMCSFの量が、RRV-GSG-P2A-GMCSF-GSG-T2A-yCD2については約500ng/mLであり、RRV-GSG-T2A-yCD2-GSG-P2A-GMCSFについては約760ng/mLであることを示す。両方の場合、発現されるGMCSFの量は、RRV-IRES-GMCSFの量(25ng/mL)よりも約20~30倍多い。並行して、感染U87-MGにおけるウイルスエンベロープタンパク質のプロセシングを、抗gp70抗体を使用して検査する。結果は、前駆体(Pr85)またはプロセシングされた形態(gp70)いずれかでのウイルスエンベロープタンパク質が容易に検出可能であることを示す。まとめると、データは、Env-GSG-T2A-GMCSF-GSG-P2A-yCD2ポリタンパク質構成とEnv-GSG-T2A-yCD2-GSG-P2A-GMCSFポリタンパク質構成の両方が、GMCSFおよびyCD2タンパク質を発現することができることを示唆している。
【0187】
加えて、最大限感染させたU87-MG細胞から回収したウイルス上清を記載の通りに力価測定して、ウイルスが感染性であるままであることを保証する。データは、最大限感染させたU87-MG細胞から生じた力価(約3×10TU/mL)が、一過性トランスフェクトHEK293T細胞から得られる力価と同様であり、RRV-IRES-yCD2と同等であることを示す。
【0188】
(実施例15)
RRV-GSG-T2A-GMCSF-P2A-yCD2およびRRV-GSG-T2A-yCD2-P2A-GMCSFベクターは、RRV-IRES-yCD2感染U87-MG細胞の5-FC感受性と同等の5-FC感受性を示す。
【0189】
RRV-GSG-T2A-GMCSF-GSG-P2A-yCD2またはRRV-GSG-T2A-yCD2-GSG-P2A-GMCSFに最大限感染させたU87-MG細胞を使用して、記載の通りにMTSアッセイによりその5-FC LD50を決定する。RRV-IRES-yCD2を対照として含める。データは、感染U87-MG細胞において検出される「分離」yCD2タンパク質の量が、RRV-IRES-yCD2のものと同様である0.008mMのLD50濃度で細胞傷害効果を達成することができることを示す。
【0190】
(実施例16)
HEK293T細胞および最大限感染させたU87-MG細胞から産生されるRRV-GSG-T2A-GMCSF-RSV-yCD2ベクターは、感染性であり、GMCSFおよびyCD2タンパク質を発現する。
【0191】
pAC3-GSG-T2A-GMCSF-RSV-yCD2は、AscIおよびNotI制限部位が5’および3’末端にそれぞれ存在する、化学的に合成された(Genewiz)ヒトGMCSF-RSV-yCD2カセットを、AscIおよびNotI制限酵素で消化されたpAC3-GSG-T2A-yCD2骨格にクローニングすることにより生成した。化学的に合成されたGMCSF-RSV-yCD2は、GMCSF ORFの3’末端に停止コドンを含有する。
【0192】
HEK293T細胞をトランスフェクションの18~20時間前に、10cmプレート1枚当たり2×10細胞で播種する。翌日、20μgのpAC3-GSG-T2A-GMCSF-RSV-yCD2プラスミドを、細胞播種の20時間後に、リン酸カルシウム法を使用する一過性トランスフェクションに使用した。トランスフェクションの18時間後、細胞をDMEM培地で3回洗浄し、新鮮な完全培養培地とインキュベートした。ウイルス上清をトランスフェクションのおよそ42時間後に回収し、0.45μmシリンジフィルターに通して濾過した。HEK293T細胞に対する一過性トランスフェクションからのRRV-GSG-T2A-GMCSF-RSV-yCD2のウイルス力価を、記載の通りに決定した。データは、RRV-GSG-T2A-GMCSF-RSV-yCD2の力価(約2×10TU/mL)がRRV-IRES-yCD2の力価と同等であることを示す。
【0193】
加えて、最大限感染させたU87-MG細胞から回収したウイルス上清を力価測定して、ウイルスが感染性であるままであることを保証する。データは、最大限感染させたU87-MG細胞から生じた力価(約2×10TU/mL)が、一過性トランスフェクトHEK293T細胞から得られる力価と同様であり、RRV-IRES-yCD2と同等であることを示す。
【0194】
GMCSFおよびyCD2タンパク質発現を評価するために、細胞溶解物をRRV-GSG-T2A-GMCSF-RSV-yCD2感染U87-MG細胞から生成する。この実験では、RRV-IRES-yCD2およびRRV-IRES-GMCSFも対照として含める。ELISA(R&D Systems)によりGMCSFのタンパク質発現レベルを測定するために、最大限感染させたU87-MG細胞から上清を回収する。全細胞溶解物を記載の通りにyCD2タンパク質発現についてアッセイする。抗yCD2免疫ブロット結果は、RRV-GSG-T2A-GMCSF-RSV-yCD2感染U87-MG細胞からyCD2タンパク質が、RRV-IRES-yCD2のレベルのおよそ2分の1~3分の1レベルで発現されることを示す。並行して、感染U87-MGにおけるウイルスエンベロープタンパク質のプロセシングを、抗gp70抗体を使用して検査する。結果は、前駆体(Pr85)またはプロセシングされた形態(gp70)いずれかでのウイルスエンベロープタンパク質が容易に検出可能であることを示す。予想通り、ウイルスエンベロープ-GMCSF融合ポリタンパク質も、抗gp70抗体を使用して細胞溶解物から検出される。ウイルスエンベロープタンパク質からのGMCSFタンパク質の分離は不確定であるが、GMCSF ELISA結果は、分泌GMCSFの量が、約300ng/mLであり、RRV-IRES-GMCSFの量(30ng/mL)より約10倍多いことを示す。まとめると、データは、ウイルスエンベロープタンパク質-GSG-T2A-GMCSF-RSV-yCD2ポリタンパク質構成が、RRVに関連して感染性ウイルスならびにGMCSFおよびyCD2タンパク質を産生することができることを示唆している。
【0195】
(実施例17)
RRV-GSG-T2A-GMCSF-RSV-yCD2ベクターは、RRV-IRES-yCD2感染U87-MG細胞の5-FC感受性と同等の5-FC感受性を示す。
【0196】
RRV-GSG-T2A-GMCSF-RSV-yCD2ベクターに最大限感染させたU87-MG細胞を使用して、記載の通りにMTSアッセイによりその5-FC LD50を決定する。この実験では、RRV-IRES-yCD2を対照として含める。データは、感染U87-MG細胞において発現されるyCD2タンパク質の量が、0.010mMのLD50濃度で細胞傷害効果を達成することができ、RRV-IRES-yCD2のものと同等であることを示す。
【0197】
(実施例18)
293T細胞および感染U87-MG細胞から産生されるRRV-GSG-P2A-YCD2-RSV-PDL1miR30shRNAベクターは、感染性であり、yCD2タンパク質を発現する。
【0198】
pAC3-GSG-T2A-yCD2-RSV-miRPDL1は、AscIおよびNotI制限部位が5’および3’末端にそれぞれ存在する、化学的に合成された(Genewiz)ヒトyCD2-RSV-miRPDL1カセットを、AscIおよびNotI制限酵素で消化されたpAC3-GSG-T2A-yCD2骨格にクローニングすることにより生成した。化学的に合成されたyCD2-RSV-miRPDL1カセットは、yCD2 ORFの末端に停止コドンを含有する。
【0199】
HEK293T細胞をトランスフェクションの18~20時間前に、10cmプレート1枚当たり2×10細胞で播種する。翌日、20μgのpAC3-GSG-T2A-yCD2-RSV-miRPDL1プラスミドを、細胞播種の20時間後に、リン酸カルシウム法を使用する一過性トランスフェクションに使用した。トランスフェクションの18時間後、細胞をDMEM培地で3回洗浄し、新鮮な完全培養培地とインキュベートした。ウイルス上清をトランスフェクションのおよそ42時間後に回収し、0.45μmシリンジフィルターに通して濾過した。HEK293T細胞に対する一過性トランスフェクションからのRRV-GSG-T2A-yCD2-RSV-mrRPDL1のウイルス力価を、記載の通りに決定した。データは、RRV-GSG-T2A-yCD2-RSV-miRPDL1の力価(約2×10TU/mL)がRRV-IRES-yCD2の力価と同等であることを示す。
【0200】
加えて、最大限感染させたU87-MG細胞から回収したウイルス上清を力価測定して、ウイルスが感染性であるままであることを保証する。データは、最大限感染させたU87-MG細胞から生じた力価(約2×10TU/mL)が、一過性トランスフェクトHEK293T細胞から得られる力価と同様であり、RRV-IRES-yCD2と同等であることを示す。
【0201】
yCD2タンパク質の発現およびPDL1細胞表面発現を測定するために、最大限感染させたU87-MG細胞を回収し、全細胞溶解物を記載の通りにyCD2タンパク質発現についてアッセイする。抗yCD2免疫ブロット結果は、RRV-GSG-T2A-yCD2-RSV-miRPDL1感染U87-MG細胞からのyCD2タンパク質が、抗yCD2抗体を使用して約15KDaバンドにより示されるように、ウイルスエンベロープタンパク質から効率的に分離されることを示す。予想通り、ウイルスエンベロープ-yCD2融合ポリタンパク質も、抗yCD2抗体と抗gp70抗体の両方を使用して細胞溶解物から検出される。並行して、感染U87-MGにおけるウイルスエンベロープタンパク質のプロセシングを、抗gp70抗体を使用して検査する。結果は、前駆体(Pr85)またはプロセシングされた形態(gp70)いずれかでのウイルスエンベロープタンパク質が容易に検出可能であることを示す。加えて、抗yCD2免疫ブロットで明らかなように、融合ポリタンパク質が検出される。
【0202】
(実施例19)
RRV-GSG-T2A-yCD2-RSV-miRPDL1感染U87-MG細胞は、RRV-IRES-yCD2感染U87-MG細胞の5-FC感受性と同等の5-FC感受性を示す。
【0203】
RRV-GSG-T2A-yCD2-RSV-miRPDL1ベクターに最大限感染させたU87-MG細胞を使用して、記載の通りにMTSアッセイによりその5-FC LD50を決定する。この実験では、RRV-IRES-yCD2を対照として含める。データは、感染U87-MG細胞において検出される「分離」yCD2タンパク質の量が、RRV-IRES-yCD2のものと匹敵するLD50濃度(0.008mM)で細胞傷害効果を達成することができることを示す。
【0204】
(実施例20)
RRV-GSG-P2A-yCD2-RSV-miRPDL1感染MDA-MB231細胞は、細胞表面で強力なPD-L1ノックダウンを示す。
【0205】
RRV-GSG-T2A-yCD2-RSV-miRPDL1のPDL1ノックダウン活性を評価するために、顕著なレベルのPDL1を発現することが示されているMDA-MB231細胞を、0.1のMOIを使用して感染させる。この実験では、RRV-RSV-miRPDL1を、PDL1ノックダウン活性を評価するための陽性対照として含める。感染後およそ14日目に細胞を回収し、細胞表面染色を行ってFACSによりPDL1タンパク質のレベルを測定した。データは、RRV-GSG-T2A-yCD2-RSV-miRPDL1に感染させたMDA-MB231細胞におけるPDL1の細胞表面発現が、およそ75%減少され、RRV-RSV-miRPDL1のものと同等であることを示す。まとめると、データは、ウイルスエンベロープタンパク質-GSG-T2A-yCD2-RSV-miRPDL1構成が、RRVに関連して感染性ウイルス、yCD2タンパク質およびmiRPDL1を産生することができることを示唆している。
【0206】
(実施例21)
HEK293T細胞および最大限感染させたU87-MG細胞から産生されるRRV-P2A-TKO、RRV-GSG-P2A-TKO、RRV-T2A-TKOおよびRRV-GSG-T2A-TKOベクターは、感染性であり、TKOタンパク質を発現する。
【0207】
pAC3-P2A-TKO、pAC3-GSG-P2A-TKO、pAC3-T2A-TKOおよびpAC3-GSG-T2A-TKOは、ヒトコドン最適化(TKO)(参照により本明細書に組み入れられる、国際出願公開番号WO2014/066700を参照されたい)カセットを有するSr39-tk(Black et al., Cancer Res., 61:3022-3026, 2001;Kokoris et al., Protein Science 11:2267-2272, 2002)をpAC3-2A骨格にクローニングすることにより生成した。TKOの配列は、AscIおよびNotI制限酵素で消化されたpAC3-GSG-P2A-yCD2またはpAC3-GSG-T2A-yCD2骨格に入れる、5’および3’末端にそれぞれ存在するAscIおよびNotI制限部位とともに化学的に合成された(Genewiz)。
【0208】
HEK293T細胞をトランスフェクションの18~20時間前に、10cmプレート1枚当たり2×10細胞で播種した。翌日、20μgのpAC3-GSG-P2A-TKOまたはpAC3-GSG-T2A-TKOプラスミドを、細胞播種の20時間後に、リン酸カルシウム法を使用する一過性トランスフェクションに使用した。トランスフェクションの18時間後、細胞をDMEM培地で3回洗浄し、新鮮な完全培地とインキュベートした。ウイルス上清をトランスフェクションのおよそ42時間後に回収し、0.45μmシリンジフィルターに通して濾過した。HEK293T細胞に対する一過性トランスフェクションからのRRV-P2A-TKO、RRV-GSG-P2A-TKO、RRV-T2A-TKOおよびRRV-GSG-T2A-TKOのウイルス力価を、記載の通りに決定した。データは、力価がRRV-IRES-yCD2の力価と同等であることを示す(表G)。
【0209】
【表G】
模擬
【0210】
加えて、最大限感染させたU87-MG細胞から回収したウイルス上清を記載の通りに力価測定して、ウイルスが感染性であるままであることを保証する。データは、最大限感染させたU87-MG細胞から生じた力価が、一過性トランスフェクトHEK293T細胞から得られる力価と同等であることを示す。
【0211】
TKOタンパク質発現を評価するために、細胞溶解物をRRV-P2A-TKO、RRV-GSG-P2A-TKO、RRV-T2A-TKOおよびRRV-GSG1-T2A-TKO感染U87-MG細胞から生成した。抗HSV-tk抗体(カタログ番号sc28037、Santa Cruz Biotech Inc)を1:200で使用して、全細胞溶解物をTKOタンパク質発現についてアッセイした。結果は、RRV-P2A-TKOおよびRRV-T2A-TKO感染U87-MG細胞からのTKOタンパク質が、GFPおよびyCD2導入遺伝子に関して以前に見られたように、RRV-GSG-P2A-TKOおよびRRV-GSG-T2A-TKOより低い効率で分離されることを示す。
【0212】
(実施例22)
RRV-P2A-TKO、RRV-GSG-P2A-TKO、RRV-T2A-TKOおよびRRV-GSG-T2A-TKOベクターは、U87-MG細胞において安定している。
【0213】
最大限感染させたU87-MG細胞におけるベクターの安定性を評価するために、Promega Maxwell 16 Cell DNA Purification Kit(Promega)を使用してゲノムDNAを細胞から抽出した。次いで、100ナノグラムのゲノムDNAを、前に説明したように、導入遺伝子カセットに及ぶプライマーペア:IRES-F(5’-CTGATCTTACTCTTTGGACCTTG-3’(配列番号23))およびIRES-R(5’-CCCCTTTTTCTGGAGACTAAATAA-3’(配列番号24))を用いるPCRの鋳型として使用した。全てのRRV-2A-TKO構築物についての予想されるPCR産物は、1.4kbである。データは、プロウイルスDNA RRV-P2A-TKO、RRV-GSG-P2A-TKO、RRV-T2A-TKOおよびRRV-GSG-T2A-TKOベクターにおける2A-TKOおよびGSG-2A-TKO領域が、U87-MG細胞においてウイルス複製の時間経過中、安定していることを示す。
【0214】
(実施例23)
RRV-P2A-TKO、RRV-GSG-P2A-TKO、RRV-T2A-TKOおよびRRV-GSG-T2A-TKO感染U87-MG細胞は、RRV-S1-TKOよりも優れたGCV感受性を示した。
【0215】
RRV-P2A-TKO、RRV-GSG-P2A-TKO、RRV-T2A-TKOおよびRRV-GSG-T2A-TKOに最大限感染させたU87-MG細胞を使用して、MTSアッセイによりそのGCV LD50を決定した。TKO発現が合成最小プロモーター(参照により本明細書に組み入れられる、国際特許公開番号WO2014/066700を参照されたい)により駆動されるRRV-S1-TKOを、対照として含めた。GCV(カタログ番号345700-50MG、EMD Millipore)での処置は、0.0001μM~0.5μMの範囲の一連の1:2希釈で行った。GCV処理なしを対照として含めた。播種の1日後にGCVを添加し、次いで、2日ごとに、GCVを加えた完全培地を補充した。GCVの細胞傷害効果を決定するために、ナイーブU87-MG細胞を対照として含めた。細胞を7日間のインキュベーション時間にわたってモニターし、CellTiter 96 AQueous One Solution Cell Proliferation Assay System(Promega)を使用することにより2日ごとに細胞死を測定した。MTSの添加の後、MTSインキュベーション後60分の時点でInfinite M200(Tecan)プレートリーダーを使用して490nmでOD値を獲得した。三連の各試料からの平均OD値を、RRVに感染させたが未処置の細胞に対する細胞生存パーセンテージに変換した。GraphPad Primを使用してそのパーセンテージ値を対数スケールでGCV濃度に対してプロットして、LD50グラフを生成した。LD50値は、獲得したデータ点の非線形4パラメーターフィットを使用してソフトウェアにより計算した。データは、RRV-P2A-TKO、RRV-GSG-P2A-TKO、RRV-T2A-TKOおよびRRV-GSG-T2A-TKOにより発現されるTKOタンパク質が、10分の1ミリモル濃度範囲でGCVを細胞傷害性GCVに変換することにおいて酵素的に活性であり、細胞傷害効果を達成することを示す。RRV-S1-TKOと比較して、RRV-P2A-TKO、RRV-GSG-P2A-TKO、RRV-T2A-TKOおよびRRV-GSG-T2A-TKOは、12.5~20倍高いGCV感受性を示す。加えて、Env-TKO融合ポリタンパク質からのTKO分離の差にもかかわらず、RRV-P2A-TKOとRRV-GSG-P2A-TKO間にも、RRV-T2A-TKOとRRV-GSG-T2A-TKO間にも、GCV LD50に有意な差ははかった。2A-yCD2と同様に、データは、細胞に発現されるTKOタンパク質の量がGCVを細胞傷害性GCVに変換するのに十分であることを示唆している。
【0216】
(実施例24)
RRV-GSG-P2A-TKOおよびRRV-GSG-T2A-TKOで処置した皮下、同系神経膠腫マウスはRRV-IRES-yCD2の腫瘍成長遅延と同等の腫瘍成長遅延を示す。
【0217】
同系細胞系Tu-2449をB6C3F1マウス(Ostertag et al., 2012)における同所性腫瘍モデルとして使用した。皮下腫瘍モデルのためのTu-2449細胞の亜系統(Tu-2449SQ)をTocagenで樹立した。98%ナイーブTu-2449SQ細胞と2% RRV-GSG-P2A-TKO、RRV-GSG-T2A-TKOまたはRRV-S1-TKO感染Tu-2449SQ細胞の混合物をin vitroで調製し、皮下腫瘍移植のためにリン酸緩衝食塩水(PBS;Hyclone)に再懸濁させた。98%ナイーブTu-2449SQ細胞と2% RRV-IRES-yCD2感染Tu-2449SQ細胞の混合物を陽性対照ならびに比較対照として含めた。各群のB6C3F1マウス(1群当たりn=10)に、0日目に、1×10の腫瘍細胞を皮下移植した。腫瘍移植後12日目に(腫瘍のおよそ>75%がRRVに感染した時点で)、マウスにPBS、5-FC(1用量当たり体重1kg当たり500mg、i.p.、b.i.d.)またはGCV(1用量当たり体重1kg当たり50mg、i.p.、b.i.d.)を連続5日間投与し、その後、2日間、薬物なしでベクターを残存感染細胞から拡散させた。5日オン、2日オフの薬物処置サイクルをさらに2回繰り返した。腫瘍容積測定を毎日行った。結果は、GCVなしのRRV-GSG-P2A-TKO、RRV-GSG-T2A-TKOもしくはRRV-S1-TKO、または5-FC処置なしのRRV-IRES-yCD2を有する担腫瘍マウスが、成長し続けることを示す。対照的に、RRV-GSG-P2A-TKO、RRV-GSG-T2A-TKO+GCVで処置した担腫瘍マウスは、事前に確立された腫瘍の腫瘍成長を遅延させる。さらに、RRV-S1-TKO+GCVで処置した担腫瘍マウスも、恐らくTKO発現の低減に起因して、RRV-GSG-P2A-TKO、RRV-GSG-T2A-TKO+GCVで処置した腫瘍よりも程度は低く、時間は長いが、腫瘍成長の遅延を示す。まとめると、データは、RRV-GSG-P2A-TKO+GCVおよびRRV-GSG-T2A-TKO+GCVの腫瘍成長の遅延が、RRV-IRES-yCD2+5-FCで処置したものと同等であることを示す。データは、皮下、同系神経膠腫マウスモデルではRRV-GSG-P2A-TKOおよびRRV-GSG-T2A-TKOがRRV-IRES-yCD2と同等の治療有効性を有することを示唆している。
【0218】
(実施例25)
HEK293T細胞および最大限感染させたU87-MG細胞から産生されるRRV-GSG-T2A-PDL1scFvおよびRRV-GSG-T2A-PDL1scFvFcベクターは、感染性であり、scFvおよびscFvFcタンパク質を発現する。
【0219】
pAC3-T2A-PDL1scFv、pAC3-T2A-PDL1scFv-タグ、pAC3-T2A-PDL1scFvFcおよびpAC3-T2A-PDL1scFvFc-タグを、ヒトおよびマウスPDL1に対する遮断一本鎖可変断片(scFv)として機能するように生成した。ヒトIgGの結晶性断片(Fc)領域を伴うまたは伴わないPDL1scFvカセットを設計した。加えて、HAおよびFlagエピトープタグがscFvまたはscFvFcのC末端に組み入れられたマッチするカセットも、scFvまたはscFvFcタンパク質発現の検出のために生成した。各カセットの配列(PDL1scFv、PDL1scFv-タグ、PDL1scFvFcおよびPDL1scFvFC-タグ)は、5’および3’末端にそれぞれ存在するAscIおよびNotI制限部位とともに化学的に合成されたものであり(Genewiz)、それを、AscIおよびNotI制限酵素で消化されたpAC3-GSG-T2A-yCD2骨格にクローニングした。
【0220】
HEK293T細胞をトランスフェクションの18~20時間前に、10cmプレート1枚当たり2×10細胞で播種した。翌日、20μgのpAC3-T2A-PDL1scFv、pAC3-T2A-PDL1scFv-タグ、pAC3-T2A-PDL1scFvFcおよびpAC3-T2A-PDL1scFvFc-タグプラスミドを、細胞播種の20時間後に、リン酸カルシウム法を使用する一過性トランスフェクションに使用した。トランスフェクションの18時間後、細胞をDMEM培地で3回洗浄し、新鮮な完全培地とインキュベートした。ウイルス上清をトランスフェクションのおよそ42時間後に回収し、0.45μmシリンジフィルターに通して濾過した。HEK293T細胞に対する一過性トランスフェクションからのRRV-GSG-T2A-GMCSF-GSG-P2A-yCD2のウイルス力価を、記載の通りに決定した。データは、RRV-GSG-T2A-PDL1scFv、RRV-GSG-T2A-PDL1scFvFc、RRV-GSG-T2A-PDL1scFv-タグ、RRV-GSG-T2A-PDL1scFvFc-タグの力価値が、RRV-IRES-yCD2の力価値と同等であることを示す(表H)。
【0221】
【表H】
【0222】
scFvタンパク質発現を評価するために、細胞溶解物をRRV-GSG-T2A-PDL1scFvおよびRRV-GSG-T2A-PDL1scFvFcトランスフェクトHEK293T細胞から生成した。抗Flagおよび抗HA抗体(カタログ番号1804およびカタログ番号H3663、Sigma Aldrich)を1:1,000で使用して、全細胞溶解物をscFvタンパク質発現についてアッセイした。結果は、RRV-GSG-T2A-PDL1scFv-タグ、RRV-GSG-T2A-PDL1scFvFc-タグ一過性トランスフェクトHEK293T細胞からのPDL1scFv-タグおよびPDL1scFvFc-タグタンパク質発現が、GFPおよびyCD2およびTKO導入遺伝子に関して以前に見られたように、Env-scFvポリタンパク質から分離されることを示す(図4A)。
【0223】
並行して、HEK293T細胞におけるウイルスエンベロープタンパク質のプロセシングを、抗2A抗体を使用して検査した。結果は、2Aペプチド配列を含有する前駆体(Pr85)またはプロセシングされた形態(p15E)のいずれかのエンベロープを有するウイルスが、4つ全てのベクターにおいて検出されたことを示し(図4B)、これは、抗Flagおよび抗HA免疫ブロットで明らかなようにscFvおよびscFvFcタンパク質からのウイルスエンベロープタンパク質の分離を示唆している。融合ポリタンパク質であるEnv-scFvまたはEnv-scFvFcの発現が細胞溶解物において検出されるが、細胞溶解物および上清からの免疫ブロットにより示されるように、有意な量のPDL1scFvおよびPDL1scFvFcタンパク質が融合ポリタンパク質から分離される。
【0224】
同様に、大量に存在するscFv-タグおよびscFvFc-タグタンパク質発現も、抗Flag抗体での免疫沈降、その後の抗HAでの検出により、または逆に抗HA抗体での免疫沈降、その後の抗Flagでの検出により、一過性トランスフェクトHEK293T細胞からの上清において検出される。さらに、上清ばかりでなく、細胞溶解物におけるscFv-タグおよびscFvFc-タグタンパク質発現もまた、一過性トランスフェクトHEK293T細胞からのレベルのおよそ2分の1~3分の1のレベルで、最大限感染させたMDA-MB231(ヒト乳がん細胞系)およびCT-26(マウス大腸がん細胞系)から検出される。
【0225】
(実施例26)
RRV-GSG-T2A-PDL1scFvおよびRRV-GSG-T2A-PDL1scFvFcは、in vitroで、PHA刺激T細胞活性化を回復させ、等価なPDL1遮断抗体を示す。RRV-GSG-T2A-PDL1scFvまたはRRV-GSG-T2A-PDL1scFvFcによる腫瘍細胞に対するPDL1遮断が、PDL1媒介T細胞抑制を緩和し得るかどうかを決定するために、本発明者らは、PDL1媒介トランス抑制共培養実験を行う。ここで、本発明者らは、IFNγの細胞内発現またはIFNγの上清への放出により測定して、様々な腫瘍細胞系上でのPDL1発現のモジュレーションが、健康なドナーPBMCのPHA刺激活性化を変更し得るかどうかを評価する。トランス抑制共培養アッセイにおいてIFNγ前処置の潜在的な多面的効果を排除するために、本発明者らは、高いPDL1基底細胞表面発現レベルを有するヒト乳がん細胞系MDA-MB-231を使用する共培養系を構築する。このアッセイへのPDL1関与の必要性を確認するために、抗PDL1遮断抗体も含めた。PDL1腫瘍細胞MDA-MB-231細胞は、抗PDL1遮断抗体の存在下では、IFNγ+/CD8+T細胞の出現頻度増加により示されるようにCD8+T細胞活性化を抑制することができない。同様に、RRV-GSG-T2A-scFvまたはRRV-GSG-T2A-scFvFcに感染させたMDA-MB-231細胞は、CD8 T細胞活性化を同様に回復させた。データは、PDL1遮断scFvによる腫瘍細胞およびリンパ球のPDL1:PD1軸の破壊が、抗PDL1遮断抗体と同等の活性を示し、RRV-GSG-T2A-PDL1scFvおよびRRV-GSG-T2A-PDL1scFvFcからの実質的な免疫学的利益の証拠を提供することを示す。
【0226】
(実施例27)
RRV、TOCA-511、変異プロファイリング。
【0227】
様々な腫瘍型は、迅速なRRV複製を可変的に支援することができ、この可変性は、異なる腫瘍のRRVに基づく治療的処置、例えば、高悪性度神経膠腫のためのRRV Toca 511(別名T5.0002)およびプロドラッグToca FC処置に対する感受性を変更し得る(T.F. Cloughsey et al., Sci Transl Med., 8(341):341ra75, June 1, 2016, doi: 10.1126/scitranslmed. aad9784.)。この可変性は、様々な要因に起因するが、患者の血液または腫瘍から回収された改変酵母シトシンデアミナーゼをコードするRRVの本発明者らのシークエンシングデータから、関連すると思われるのは、APOBEC機能、特に、APOBEC3BおよびAPOBEC3Gによる改変である(B.P. Doehle et al., J.Virol. 79: 8201-8207, 2005)。発現の改変は、不活性化または弱毒化変異が、複製するレトロウイルスベクターに、それが腫瘍組織において漸進的に複製するにつれて蓄積する頻度から推定される。研究は、最も頻度の高い事象の1つがGからAへの変異であることを示し、この変異は、逆転写ステップにおける第1の複製ステップからのマイナス鎖一本鎖DNAにおけるAPOBEC媒介変異に特有のCからTへの遷移に相当する。これらの変異は、RRVタンパク質のアミノ酸組成の変化、例えば、TGG(トリプトファン)から停止コドン(TAG、TGAまたはTAA)への壊滅的変化を引き起こし得る。一部の腫瘍(特に、膀胱、子宮頸、肺(腺癌および扁平上皮癌)、頭頸部および乳がん、APOBEC3B活性は、上方調節され、この上方調節は、APOBEC3B活性と一致する変化に伴う変異負荷量の増加と相関することが、示されている(MB. Burns et al., Nature Genetics 45: 977-83, 2013; doi: 10.1038/ng.2701)。この上方調節の背後にある駆動因子は、より高度な変異速度が腫瘍の進化ならびに腫瘍に有利な遺伝子型および表現型の選択に好都合であることであると、提案されている。一実施形態では、ウイルスの不活性化変化は、APOBECにより変換されないであろうフェニルアラニンまたはチロシンなどの、類似の化学的または構造的特性を有する他のアミノ酸のためのコドンの置換により回避される。Toca 511は、プロドラッグ5-FCの細胞傷害性5-FUへの変換を触媒する、IRESに連結されている熱安定性コドン最適化酵母シトシンデアミナーゼをコードする、MLV由来のRRVである。Toca 511処置の過程で、Toca 511は、逆転写のエラーおよび細胞の抗ウイルス防御機構、例えばAPOBEC媒介シチジンデアミナーゼに起因して、変異を起こしやすい。APOBECタンパク質は、主としてToca 511 RNAゲノムの逆転写中に、一本鎖DNAを標的とし、GからA点として顕在化する。
【0228】
Toca 511配列変異スペクトルを、腫瘍および血液から単離した臨床試料からのToca 511のハイスループットシークエンシングによりプロファイリングすることができる。GからAへの点変異は、APOBEC活性と一致する、Toca 511において最もよく見られる変異型である。これは、ハイスループットシークエンシングによるヒト試料からのガンマ-レトロウイルス遺伝子療法変異スペクトルの最初の特徴付けである。GからAへの変異の分析は、これらがコード配列の非同義変化を通常はもたらすことを示す。シトシンデアミナーゼポリペプチドをコードする遺伝子内には、複数の患者からの試料中のGからAへの反復変異を有する位置が2カ所ある(表I)。これらの変異は、トリプトファンをコードするコドンTGGをTGA、TAGまたはTAA停止コドンに変換し、結果として、9つのアミノ酸のみの後、CD翻訳を終結する。これらの結果は、トリプトファンコドンがレトロウイルス遺伝子療法の不活性化の潜在的原因であることを強調する。
【0229】
【表I】
【0230】
したがって、タンパク質機能に適合するアミノ酸をコードする代替コドンへのトリプトファンコドンの変化は、レトロウイルス遺伝子療法のAPOBEC媒介不活性化を軽減することができる。
【0231】
安定性に対する変異の効果を試験するために、Toca 511ゲノム配列(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第8,722,867号、‘867特許の配列番号19、20および22を参照されたい)を、ApoBec高頻度変異を示すコドンを、安定性および機能(例えば、トリプトファンのコドンを他の許容されるアミノ酸に変化させること)を保存する代替アミノ酸をコードするコドンへ変化させるように操作する。シトシンデアミナーゼ活性を有するToca 511ポリペプチド(配列番号29を参照されたい)は、天然に存在する真菌シトシンデアミナーゼタンパク質と密接に関連しており、そのようなシトシンデアミナーゼの高分解構造を利用することができる。したがって、系統発生学的に多様な真菌CDタンパク質からの構造的アラインメントと複数の配列アラインメントの組合せを利用して、例えば、ROSETTA、Provean、PSIpredまたは類似のプログラムを使用して、生体機能に対して有害効果を及ぼさない可能性のあるアミノ酸置換を同定することが可能である。次いで、Toca 511ゲノムを変更し、酵素および生体活性、溶解度、溶液中での熱安定性、細胞培養アッセイおよびマウス腫瘍モデル、例えば5-FCから5-FUへの変換、において機能する、細胞死を開始させる、および腫瘍に対する免疫応答を活性化して持続的奏効を達成する能力を測定することにより、一連の推定的アミノ酸置換を試験する。類似の分析を、GAG、POLおよびENV配列に使用して、そのような配列を改変して、ApoBec高頻度変異を起こしやすいコドンを除去することができる。
【0232】
(実施例28)
APOBEC耐性yCDウイルスベクターは、ヌードマウスにおいて頭蓋内ヒト異種移植片(T98G)において治療的である。
【0233】
APOBECを高度に発現しているT98Gヒト神経膠腫細胞系を使用する頭蓋内の異種移植片モデルを樹立して、高APOBEC活性条件下、ヌードマウス宿主において、RRVベクターの拡散および体内分布ならびにAPOBEC耐性RCRベクター媒介シトシンデアミナーゼ自殺遺伝子療法の治療有効性を試験する。
【0234】
順化後、マウスを9つの処置群(下記の群を参照されたい)のうちの1つに無作為に割り当てる。0日目に、8つの群には、投与されるT98G細胞1×10/マウスの右線条体への頭蓋内投与を施す。群9のマウスには腫瘍を移植しない。5日目に、マウスに製剤用緩衝液のみを注射するか、T5.0002(yCD発現APOBEC感受性RRV;群3)を9×10TU/5μlで注射するか、またはAPOBEC耐性RCRベクター(T5.002A)を9×10TU/5μl、9×10TU/5μl、もしくは9×10TU/5μlで注射する。無作為化した5-FCの投与を500mg/kg/日で行い、19日目から開始して単回IP注射として投与するか、または一部の群には5-FCを投与しない(群1、4、8)。中間用量のベクターを投与するマウスには全て5-FCを投与する(すなわち、この用量には別の対照群がない)。5-FC投与を連続7日間、毎日継続し、その後15日間は処置をしない。薬物と休薬のサイクルを最大4サイクル繰り返す。群8を除いて各群からのマウス10匹を、生存分析カテゴリーに無作為に割り当てる。所定のスケジュールに従って、残りのマウスを屠殺する。
【表9】
【0235】
静脈内投与は、尾静脈への注射によって行う。腹腔内投与は、膀胱を避けるように注意をして腹部への注射によって行う。頭蓋内注射のために、マウスをイソフルランで麻酔し、とがっていないイヤーバーを備えた定位固定デバイスに配置する。手術部位を準備するために、皮膚を剪毛し、ベタジンを使用して頭皮を処置する。動物を加温パッド上に置き、無菌条件下でメスを使用して、皮膚を通して正中切開を行う。切開部位における皮膚の退縮および筋膜の反射により、頭蓋の可視化が可能になる。3.5mmの突起を有するキャップを取り付けた3mmの突起を有するガイドカニューレを頭蓋内の小さい頭蓋穿孔経由で挿入し、頭蓋に歯科用セメントおよび3個の小さいネジを取り付ける。セメントの硬化後、皮膚を縫合糸で閉じる。投影定位座標は、AP=0.5~1.0mm、ML=1.8~2.0mm、DV=3.0mmである。動物のコホートの正確な定位座標は、パイロット実験(動物2~3匹)で染料を注射してその位置を決定することによって決定する。麻酔回復の間、動物をモニターする。鎮痛剤であるブプレノルフィンを手技の終了前に皮下(SC)に投与し、次いで、ブプレノルフィンを最大3日間、12時間ごとに適切に投与する。動物を毎日モニターする。ガイドカニューレを通して挿入した3.5mmの突起を有する注入カニューレによって、細胞またはベクターを頭蓋内注入する。ハミルトンシリンジと柔軟なチューブとを取り付けたシリンジポンプで速度を制御する。細胞注入については、1マイクロリットルの細胞を毎分0.2マイクロリットルの流量で(合計5分間)送達する。ベクター注入については、5マイクロリットルのベクターを毎分0.33マイクロリットルの流量で(合計15分間)送達する。
【0236】
APOBEC耐性ベクターをマウスに送達し、脳重量1g当たりの形質転換単位(TU)として計算する。このような計算を使用して、ヒトを含む他の哺乳動物用の用量変換を計算することができる。APOBEC耐性ベクターは、有効な用量応答を示すが、APOBEC活性に対して感受性のベクターは、有効な応答の減少を示す。同じ実験を、ヒトAPOBEC3GまたはAPOBEC3B用の発現ベクターをトランスフェクトしたU87細胞系で行い、前記ベクターは、異種移植モデルに移植されたU87の天然レベルより少なくとも3倍高いレベルでこれらのタンパク質を発現させる。これらの実験は、APOBEC耐性になるように設計した改変コドンウイルスが、APOBECレベルが増加したU87系において、APOBEC耐性用にコドン改変されていない元のRRVよりも複製および/または治療応答の点で有利であることを示す。
【0237】
(実施例29)
APOBEC耐性yCDウイルスベクターは、脳がんの同系マウスモデルにおいて治療的である。
【0238】
同系の動物モデルにおいて本開示の方法および組成物を実証するための追加実験を行う。
【0239】
同系のBALB/cマウスにおいてマウスAPOBEC3を産生するように安定的にトランスフェクトしたCT26結腸直腸がん細胞系を使用する頭蓋内移植モデルを樹立して、APOBEC耐性RRVベクターの拡散および体内分布、ならびにRRVベクター媒介シトシンデアミナーゼ自殺遺伝子療法の治療有効性およびその免疫学的な影響を試験する。
【0240】
この研究は、動物129匹、雄0匹、雌119匹および予備動物10匹(雌10匹)を含む。順化後、マウスを9つの処置群(下記の群を参照されたい)のうちの1つに無作為に割り当てる。0日目に、8つの群には、投与されるAPOBEC発現CT26細胞1×10/マウスの右線条体への頭蓋内投与を施す。群9のマウスには腫瘍を移植しない。4日目に、マウスに製剤用緩衝液のみを注射するか、APOBECに依然として感受性である対照ベクター(T5.0002)を9×10TU/5μlで注射するか、またはAPOBEC耐性ベクター(T5.0002A)を9×10TU/5μl、9×10TU/5μl、もしくは9×10TU/5μlで注射する。ベクターを施していないマウス、またはベクターを9×10TU/5μlもしくは9×10TU/5μlで施したマウスを無作為化して、13日目から開始してIP注射として投与される5-FC(500mg/kg/BID)を与えるか、または示したように5-FCを与えない(PBS)。中間用量のベクターを施すマウスには、5-FCを施す(すなわち、この用量には別の対照群がない)。5-FC投与を連続7日間、毎日継続し、その後10日間は処置をしない。薬物と休薬のサイクルを最大4サイクル繰り返す。群9を除いて各群からのマウス10匹を、生存分析カテゴリーに無作為に割り当てる。所定のスケジュールに従って、残りのマウスを屠殺する。
【0241】
ナイーブセンチネルマウスを計画屠殺動物と共に飼育し、同時点で屠殺して排出を介したベクター伝達を評価する。
【表10】
【0242】
静脈内投与は、尾静脈への注射によって行う。腹腔内投与は、膀胱を避けるように注意をして腹部への注射によって行う。頭蓋内投与のために、右線条体に移植した3.2mmの突起を有し、3.7mmの突起を有するキャップを取り付けたガイドカニューレを有するマウスを使用する。投影定位座標は、AP=0.5~1.0mm、ML=1.8~2.0mm、DV=3.2mm(ブレグマから)である。ガイドカニューレを通して挿入した3.7mmの突起を有する注入カニューレによって、細胞またはベクターを頭蓋内注入する。ハミルトンシリンジと柔軟なチューブとを取り付けたシリンジポンプで速度を制御する。
【0243】
細胞注入については、1マイクロリットルの細胞を毎分0.2マイクロリットルの流量で(合計5分間)送達する。ベクター注入については、5マイクロリットルのベクターを毎分0.33マイクロリットルの流量で(合計15分間)送達する。
【0244】
ベクターをマウスに送達し、脳重量1g当たりの形質転換単位(TU)として計算する。このような計算を使用して、ヒトを含む他の動物用の用量変換を計算することができる。この研究の結果は、APOBEC耐性ウイルスが、腫瘍全体にわたって拡散し、yCDの完全性を維持し、5FCとの組合せで腫瘍の処置に対して、APOBEC感受性RRVと比較して、より有効であることを示す。APOBEC耐性RRVはまた、ナイーブなケージの仲間に水平拡散しない。
【0245】
上記の通り、RRVは、「2Aカセット」を含有する。例えば、配列番号2、43~53および54は、2Aカセットを含有する一般的構築物を提供する。このカセットを多くの異なるカセットで置き換えることができる。例えば、以下のカセットを調製し、配列番号2、43~53または54ベクター骨格のいずれか1つにクローニングし、特定の構築物におけるカセットを置き換えることができる。
【0246】
本明細書で提供する方法および配列を使用して、以下のような多くのベクターを設計した:
pAC3-T2A-GFPm(配列番号43)
pAC3-GSG-T2A-GFPm(配列番号44)
pAC3-P2A-GFPm(配列番号45)
pAC3-GSG-P2A-GFPm(配列番号46)
pAC3-E2A-GFP(配列番号47)
pAC3-GSG-E2A-GFPm(配列番号48)
pAC3-F2A-GFPm(配列番号49)
pAC3-GSG-F2A-GFPm(配列番号50)
pAC3-T2A-yCD2(配列番号51)
pAC3-GSG-T2A-yCD2(配列番号52)
pAC3-P2A-yCD2(配列番号53)
pAC3-GSG-P2A-yCD2(配列番号54)
【0247】
(実施例30)
シグナルペプチド配列を欠いているscFv PD-L1の分泌を、N末端への異種シグナルペプチドの挿入により達成することができる。
【0248】
RRV-scFv-PDL1プラスミドDNAの構築。PD-L1に対する一本鎖可変断片(scFv)の2対の異なる構成を設計した。一方の対は、ヒトIgG1からのFcを伴うscFvおよび伴わないscFvからなり、それぞれ、scFv-PDL1およびscFvFc-PDL1と名付けた。もう一方の対は、C末端に組み入れられたHAおよびFlagエピトープを有するscFv-PDL1およびscFvFc-PDL1からなり、scFv-HF-PDL1およびscFvFc-HF-PDL1と名付けた。各構成のコード配列は、ウイルスエンベロープ遺伝子の3’コード配列、続いてgT2Aペプチド配列を含有し、各構成のコード配列を、結果としてpAC3-scFv-PDL1、pAC3-scFvFc-PDL1、pAC3-scFv-HF-PDL1、pAC3-scFvFc-HF-PDL1が得られるg2A-yCD2導入遺伝子を置き換えるための対応する部位のpAC3-gT2A-yCD2へのサブクローニングのためにAsc IおよびNot I制限部位を用いて合成した。全てのscFv-PDL1バリアントについて、scFv PD-L1の分泌を可能にするためにヒトIL-2からのシグナルペプチドをN末端に組み入れた。
【0249】
RRV-2A構成にコードされているscFv PD-L1を発現させ、適切にプロセシングする。図3に示されているように、2A配列以外のものにより、例えば、IRES配列またはミニプロモーターを使用して、異種シグナルペプチドを有するscFv PD-L1を発現させること、および分泌可能な形態のscFv PD-L1を発現させるベクターを得ることが可能である。しかし、本発明者らは、導入遺伝子発現のためにウイルス由来の「自己切断」2Aペプチドを利用するRRV構成は、RRV-2A構成が1.2kbまでの導入遺伝子挿入を許容することができることを実証したことを、ここに記載する。この研究で、本発明者らは、PD-L1に対する一本鎖可変断片(scFv)の2つの異なる構成を設計した。一方は、単独のscFvからなり、もう一方は、ヒトIgG1からのFcを伴うscFvからなり、それぞれ、pAC3-scFv-PDL1およびpAC3-scFvFc-PDL1と名付けた。scFv PD-L1タンパク質に対する抗体の非存在に起因して、本発明者らは、HAおよびFlagエピトープが導入遺伝子のC末端に組み入れられている、マッチする対の構築物を生成し、これらをpAC3-scFv-HF-PDL1およびpAC3-scFvFc-HF-PDL1と名付けた(図3)。
【0250】
RRV-2A構成においてウイルスエンベロープ(Env)タンパク質とインフレームでコードされている異なる細胞区画に標的化された導入遺伝子は、Env-導入遺伝子ポリタンパク質から効率的に分離される(Hofacre et al., 2018)。エピトープタグ付きのおよびエピトープタグが付いていないscFv PD-L1およびscFvFc PD-L1タンパク質は両方とも、ウイルスEnvタンパク質から分離され、細胞から分泌されるように設計されているので、本発明者らは、一過性トランスフェクション系を使用して導入遺伝子タンパク質を高度に過剰発現させて、エピトープタグ付きscFv PD-L1およびscFvFcタンパク質の検出を補助した。一過性トランスフェクト293T細胞からの細胞溶解物をSDS-PAGEで分解し、抗HAおよび抗Flag抗体で検出して、それぞれscFv PD-L1の存在および2Aペプチドにより媒介されるその分離効率を確認した。加えて、ポリタンパク質からのウイルスEnvタンパク質の適切なプロセシングを確認するために抗2A抗体も含めた。図5は、scFv-HF PD-L1とscFvFc-HF PD-L1の両方が、予想通り、検出され、ポリタンパク質から分離されること、および15E-2Aの検出により示されるようにウイルスEnvタンパク質がそのサブユニットへと適切にプロセシングされることを示す。検出される残留非分離ポリタンパク質も予想される。細胞溶解物は、タンパク質が高度に過剰発現される一過性にトランスフェクトされた系に由来し、そのような非分離ポリタンパク質はウイルス粒子に組み入れられないことは以前に示されているからである。さらに、ウェスタンによる細胞内エピトープタグ付きscFv PD-L1の検出は、タンパク質が最大分泌に達しなかった可能性があることを示唆している。
【0251】
RRV-scFv-PDL1およびRRV-scFvFc-PDL1感染細胞から分泌されるscFv PD-L1およびscFvFc PD-L1は、PD-L1結合についてPD-1と競合する。RRV-scFv-PDL1およびRRV-scFvFc-PDL1の導入遺伝子タンパク質発現およびウイルス機能が確認されたので、本発明者らは、scFv PD-L1およびscFvFc PD-L1の結合特性を評価した。PD-1とscFv PD-L1またはscFvFc PD-L1との共インキュベート後にPD-L1に結合したままであるHisタグ付きPD-1の量を定量するELISAベースの競合アッセイを使用して、PD-1/PD-L1相互作用を遮断するscFv PD-L1およびscFvFc PD-L1タンパク質の能力を評価した。上清中のscFv PD-L1およびscFvFc PD-L1濃度は未定義であるが、それらは、用量依存的にヒトPD-L1およびマウスPD-L1に特異的に結合する。100μLの上清を使用する阻害のレベルは、遮断抗体対照のものと同等であり、scFv PD-L1とscFvFc PD-L1間に有意差はなかった(図6A)。マウスPD-1/PD-L1相互作用の遮断におけるscFv PD-L1およびscFvFc PD-L1の作用強度は、有効であるように見えるが、ヒト対応物でよりも作用強度がわずかに弱く、しかし抗マウスPD-L1抗体対照よりも有効性が高い(図6B)。本発明者らは、表面プラズモン共鳴系を使用して、ヒトおよびマウスPD-L1に対するscFv PD-L1の結合動態をさらに評価した。scFv PD-L1 cDNAを一過性トランスフェクションのためにCMV駆動発現ベクターにクローニングし、その後、精製して純度>85%を得た。組換えヒトPD-L1およびマウスPD-L1に対するscFv PD-L1の平衡解離定数(K)を、それぞれ、0.426nMおよび4.78nMであると決定した、表J。より遅いKOffの結果としての、ヒトPD-L1に対するおよそ10倍高い結合親和性は、ヒトPD-L1とマウスPD-L1が、それらのアミノ酸配列に関してほぼ80%の相同性を共有するにもかかわらず競合ELISAで観察される、ヒトPD-1/PD-L1相互作用の遮断におけるscFv PD-L1のより高い作用強度を説明することができた。
【0252】
【表J】
【0253】
(実施例31)
RRV-scFv-PDL1感染細胞から分泌されたscFv PD-L1は、細胞表面のPD-L1へのバイスタンダーのトランス結合活性を示す。in situでの患者腫瘍細胞の100%の感染は、現在のところ、RRVを含むいずれのウイルスに基づく治療アプローチによっても実現不可能であるので、本発明者らは、隣接する未感染細胞上のPD-L1に結合する能力を有する分泌導入遺伝子産物を設計した。ここで、本発明者らは、scFv PD-L1またはscFvFc PD-L1の抗原結合特異的結合をフローサイトメトリーにより確認するために、細胞に基づくアッセイを利用した。この実験では、細胞表面上の結合scFv PD-L1およびscFvFc PD-L1の存在を検出するための抗体がなかったため、本発明者らは、検出のために、エピトープタグ付きscFv PD-L1およびscFvFc PD-L1(scFv-HF PD-L1およびscFvFc-HF PD-L1)、続いて抗HA抗体を使用した。これらのデータは、抗HA抗体に伴う平均蛍光強度(MFI)の著しいシフトにより示されるように、scFv-HF PD-L1およびscFvFc-HF PD-L1が、ヒトおよびマウス細胞系における細胞表面に発現されるPD-L1に結合することを示す。試験したヒト細胞系とマウス細胞系の両方においてscFvFc-HF PD-L1に関して観察されるMFIのより高度なシフトは、Fc領域間のジスルフィド結合形成による二量体形成によるscFvFc-HF PD-L1の二価二量体に起因する可能性が高く、したがって、scFvFc PD-L1がELISAにおいてscFv PD-L1ほど効率的に競合しない(図5)ので、結合親和性の増大ではなく細胞表面のscFvFc-HF PD-L1に結合したより多くの抗HA抗体の単なる反映である。さらに、抗HA抗体と共インキュベートしたときの細胞表面のPD-L1への抗PD-L1遮断抗体の接近可能性を阻止することによって抗PD-L1抗体でのMFIの顕著な減少が生じたことにより、抗原結合特異性を実証した。競合ELISAで観察されたデータと一致して、scFv-HF PD-L1およびscFvFc-HF PD-L1は、細胞表面のPD-L1に特異的に結合し、PD-L1への抗PD-L1抗体の結合を遮断し、これは、scFv-HF PD-L1およびscFvFc-HF PD-L1のエピトープが、重複しているかまたは抗PD-L1抗体のものの近位にあることを示唆している。加えて、抗PD-L1抗体でのMFIの顕著な減少は、細胞表面の完全な受容体(PD-L1)占有も示唆している。
【0254】
in vitroでのRRV-scFv-PD-L1のバイスタンダー効果を評価するために、本発明者らは、腫瘍細胞上の完全受容体占有を達成するために必要な最小形質導入レベルを試験した。この実験では、RRV-GFPに最大限感染させたEMT6細胞と様々な比率で混合した、RRV-scFv-HF-PD-L1に最大限感染させたEMT6マウス乳がん細胞を共培養して、抗HAおよび抗PD-L1抗体を使用して細胞表面に結合したscFv-HF PD-L1および結合していないPD-L1を測定した。本発明者らのデータは、細胞の5%しかscFv-HF PD-L1を発現しなかったときに、結合したscFv-HF PD-L1が全ての細胞表面においてを検出されたことを示す 図7A。PD-L1の完全占有は、用量依存的に細胞表面のPD-L1シグナルの減少と逆相関し(図7B)、これは、scFv PD-L1が、最小レベルの形質導入で100%のバイスタンダー効果を達成することができることを示唆している。
【0255】
(実施例32)
scFv PD-L1およびscFvFc PD-L1処置は、同系腫瘍モデルにおいて、用量依存的に腫瘍成長阻害をもたらし、免疫記憶応答を惹起する。本発明者らは、5%程度の少ない事前形質導細胞から分泌されるin vitro scFv PD-L1が、非scFv PD-L1発現細胞の細胞表面の完全PD-L1占有をもたらすバイスタンダートランス結合活性を示すことを明らかにした。本発明者らは、次に、チェックポイント阻害剤に応答性であると報告されている同系同所性EMT6乳がんモデルにおいてscFv PD-L1の抗腫瘍活性の用量応答を評価した。より臨床的に意義のあるシナリオでscFv PD-L1およびscFvFc PD-L1の抗腫瘍活性を評価するために、本発明者らは、RRV-scFv-PDL1、RRV-scFvFc-PDL1またはRRV-GFPベクターで最大限事前形質導入した異なる比率のEMT6細胞を使用して、scFv PD-L1が抗腫瘍活性を達成するために必要な最小形質導入レベルを決定しようとした。これらの細胞は、受容体下方調節に起因する、両種指向性エンベロープタンパク質により媒介される、さらなるRRV感染に対して耐性である。この実験では、RRV-scFv-PDL1またはRRV-GFPで事前に形質導入したEMT6腫瘍細胞の示した比率での混合物を、BALB/cマウスの乳房脂肪体に移植した。生存を90日間モニターし、カプラン・マイヤー生存分析を行って、scFv PD-L1の抗腫瘍活性を評価した。動物使用プロトコールに従って、壊死性腫瘍を担持するマウスを安楽死させ、分析を打ち切った(図6Aでは1カウントとして示した;これらのマウスを死亡のため採点せず、グラフから除外しなかった)。生存分析のために、同じ比率のscFv PD-L1またはscFvFc PD-L1を発現する担腫瘍マウスを一緒に群分けした。これらのデータは、2%、30%および100% scFv PD-L1またはscFvFc PD-L1発現腫瘍細胞を有する担腫瘍マウスには、統計的に有意ではないが、未処置動物と比較して生存利益への傾向があることを示す(図8A)(0% scFv/scFvFc対抗PD-1についてp=0.2529;0%対2%についてp=0.2529;0%対30%についてp=0.0919;0%対100%についてp=0.1674)。本発明者らは、原発性腫瘍から生き残ったマウスが、側腹部へのナイーブEMT6腫瘍細胞での再チャレンジにより抗腫瘍免疫記憶応答を確立するかどうかを、さらに研究しようとした。図8Bは、原発性設定でのscFv/scFvFc処置で腫瘍を排除したマウスが、再チャレンジ設定で腫瘍成長の中等度遅延を示したことを示し、これは、抗腫瘍免疫応答がこれらのマウスにおいて確立されたことを示唆している。まとめると、データは、scFv PD-L1またはscFvFc PD-L1を発現する腫瘍細胞が、市販の抗体での処置より優れているように見える抗がん活性をもたらすことができることを示す。
【0256】
Tu-2449SC腫瘍モデルをB6C3F1マウスにおいて試験して、scFv PD-L1が抗腫瘍活性を発揮するために必要な最小形質導入レベルを決定した。図8Cは、Tu-2449SC腫瘍モデルにおいて、scFv PD-L1を発現する2%程度の少ないTu-2449SC細胞を有する担腫瘍マウスが、抗PD-1抗体処置と同等である腫瘍進行の遅延をもたらしたことを示し、対照マウスと比較して有利である方向の強い傾向を示す(図8C)。30%事前形質導入細胞を用いて、100%事前形質導入細胞を用いた担腫瘍マウスでも見られるように、腫瘍進行が完全に阻害された。
【0257】
(実施例33)
RRV-scFv-PDL1の頭蓋内注射は、同系同所神経膠腫モデルの生存を延長する。scFv PD-L1抗腫瘍活性を、Toca 511およびToca FC処置に応答すると以前に報告された同所性同系神経膠腫モデルにおいて研究した。以前に確立された腫瘍内RRV送達手法(Ostertag et al., 2012)を利用した。最大限感染させたTu-2449細胞においてRRV-scFv-PDL1ウイルス機能およびゲノム安定性をin vitroで確認した。この実験では、2つの異なる用量(1×10および1×10TU)のRRV-scFv-PDL1を、腫瘍移植の4日後に単回腫瘍内注射により送達した。データは、1×10TUのRRV-scFv-PDL1の単回投与が、対照としておよび比較対照として含めた、RRV-scFv-PDL1で最大限に事前形質導入したTu-2449細胞と、同様に有効であることを示す(図9A)。前の実験で行った観察と一致して、原発腫瘍から遠隔部位へのTu-2449SC腫瘍の皮下再チャレンジは、ナイーブマウスと比較して腫瘍成長の有意な遅延につながる全身性抗腫瘍免疫応答を示した(図9B)。まとめると、これらの知見は、scFv PD-L1が、神経膠腫腫瘍モデルにおいて抗腫瘍活性を有すること、および単剤療法としてのチェックポイント阻害剤に応答する第2の神経膠腫マウスモデルを意味することを示す。
【0258】
(実施例34)
RRV-scFv-PDL1にコードされているscFvPD-L1におけるIL-2シグナルペプチドの、システインSからのシグナルペプチドおよび人工シグナルペプチドAP1での置き換えは、in vitroでscFv PD-L1タンパク質分泌を増加させ、複数のマウス腫瘍モデルにおいてバイスタンダー効果および腫瘍活性を増強する。
【0259】
増強された抗腫瘍有効性をもたらすことができるscFv PD-L1のバイスタンダー効果をさらに増大させるために、IL-2シグナルペプチドを、システインSからのシグナルペプチドで、または高い分泌レベルを有すると予測される人工シグナルペプチド(表BからのASP1)で置き換えた。in vitroバイスタンダー実験は、システインSからのシグナルペプチド(RRV-CSscFv-PDL1)およびASP1(RRV-AP1scFv-PDL1)を有するエピトープタグ付きscFv PD-L1を発現する感染細胞が、隣接バイスタンダー細胞上のPD-L1へのより高度なトランス結合活性を示すことを明示する。バイスタンダー細胞の細胞表面PD-L1の全てを飽和させるために、5~10%のRRV-scFv-PDL1細胞が必要とされるが、バイスタンダー細胞上の完全PD-L1受容体占有を達成するために、わずか2~4%のRRV-CSscFv-PDL1感染またはRRV-AP1scFv-PDL1感染細胞しか必要とされない。
【0260】
2%事前形質導入腫瘍を用いるTu2449SC腫瘍モデルを使用して、RRV-scFv-PD-L1、RRV-CSscFv-PD-L1およびRRV-AP1scFv-PD-L1に感染させた腫瘍間の抗腫瘍活性を比較した。2%形質導入レベルは、RRV-scFv-PD-L1に感染させた30%事前形質導入腫瘍よりも有効性が低いことが以前に示されているので、本発明者らは、in vitroでRRV-CSscFv-PD-L1およびRRV-AP1scFv-PD-L1で観察されるより大きいバイスタンダー効果が、2%事前形質導入設定でのより大きい抗腫瘍活性を示すことになると予想する。本発明者らのデータは、RRV-CSscFv-PD-L1およびRRV-AP1scFv-PD-L1感染腫瘍から産生されるscFv PD-L1の抗腫瘍効果が、RRV-scFv-PDL1から産生されるscFv PD-L1よりも有意に高いことを明示する。本発明者らのデータは、シグナルペプチドの選択が、増強された抗腫瘍活性をもたらすタンパク質分泌のレベルをモジュレートすることもできるという表記を支持する。
【0261】
(実施例35)
足場タンパク質に由来する抗原特異的結合剤(ASB)のN末端への強力なシグナルペプチドの組み入れもRRVにより発現され得る。
【0262】
RRV-ASB-PDL1プラスミドDNAの構築。PD-L1に対するASBの1対の同じ構成を設計する。一方は、ASBからなり、もう一方は、C末端に組み入れられたHAおよびFlagエピトープを有するASBからなり、ASB-HF-PDL1およびASB-HF-PDL1と名付けた。各構成のコード配列は、ウイルスエンベロープ遺伝子の3’コード配列、続いてgT2Aペプチド配列を含有し、各構成のコード配列を、結果としてpAC3-ASB-PDL1およびpAC3-ASB-HF-PDL1が得られるg2A-yCD2導入遺伝子カセットを置き換えるための対応する部位のpAC3-gT2A-yCD2へのサブクローニングのためにAsc IおよびNot I制限部位を用いて合成する。全てのASB-PDL1バリアントについて、ASB PD-L1またはASB-HF PD-L1の分泌を可能にするためにヒトIL-2からのシグナルペプチドをN末端に組み入れる。
【0263】
バイスタンダー細胞の全ての細胞表面PD-L1を飽和させるために5% RRV-scFv-PDL1感染細胞または5% RRV-ABS-PdL1感染細胞が必要とされる、in vitroバイスタンダー実験は、エピトープタグ付きASB PD-L1を発現する感染細胞が、scFv PD-L1と同等の、隣接バイスタンダー細胞上のPD-L1へのトランス結合活性を示すことを示す。
【0264】
その後、ASB PD-L1の抗腫瘍活性の用量応答を、同系Tu2449SC皮下モデルにおいて、scFv PD-L1と並行して評価する。in vivoデータは、ASB PD-L1が抗腫瘍活性を有することを示す。ASB PD-L1を発現する2%程度の少ないTu-2449SC細胞を有する担腫瘍マウスは、scFv PD-L1または抗PD-1抗体処置を発現する2% Tu-2449SC細胞と同等の、しかし対照マウスと比較して統計的に有意でない、腫瘍進行の遅延をもたらす。30%事前形質導入細胞を用いて、100%事前形質導入細胞を用いた担腫瘍マウスでも見られるように、腫瘍進行が完全に阻害される。
【0265】
(実施例36)
RRV-scFv-PDL1-yCD2の頭蓋内注射は、同系同所神経膠腫モデルの生存を延長する。scFv PD-L1抗腫瘍活性を同所性同系神経膠腫モデルにおいてyCD2および5-FCと組み合わせて研究して、それらの相乗効果を評価する。ヒトIL-2シグナルペプチド、gP2A-yCD2に連結されているscFv-PDL1からなるカセットを用いて、二重ベクターを設計する。この断片を合成し、RRV-gT2A骨格のAscIおよびNotI部位にクローニングする。結果として得られるベクターをpAC3-scFv-PDL1-yCD2と名付ける。in vitro特徴付けデータは、scFv PDL1およびyCD2タンパク質が、RRV-scFv-PDL1-yCD2感染細胞から発現され、それらの生体機能を保持する(すなわち、scFv PD-L1がPD-L1に結合し、yCD2が5-FCを5-FUに変換する)ことを示す。精製RRV-scFv-PDL1およびRRV-scFv-PDL1-yCD2ベクターをin vivo研究のために産生する。この実験では、単剤療法として準最適な抗腫瘍活性を示すRRV-scFv-PDL1の1×10TU(図9A)およびRRV-scFv-PDL1-yCD2の1×10TUの用量を、腫瘍移植の4日後に単回腫瘍内注射により送達する。scFv PD-L1のウイルス拡散および抗腫瘍活性を可能にするために10日後に、マウスをPBSまたは5-FC(500mg/kg)のどちらかで1日1回、7日間オンおよび7日間オフでIP処置する。本発明者らのデータは、5-FCで処置する1×10TUのRRV-scFv-PDL-yCD2の単回投与が、PBSで処置するRRV-scFv-PDL1およびRRV-scFv-PDL-yCD2よりも優れていることを示す。前の実験で行った観察と一致して、原発腫瘍から遠隔部位へのTu-2449SC腫瘍の皮下再チャレンジは、ナイーブマウスと比較して腫瘍成長の有意な遅延につながる全身性抗腫瘍免疫応答を示す。再チャレンジした一部のマウスは、最大90日間、無腫瘍である。これらのデータは、scFv PD-L1とyCD2/5FCの併用療法が、神経膠腫腫瘍モデルにおいてscFv PD-L1単剤療法よりも優れた抗腫瘍活性を有することを示す。
【0266】
(実施例37)
293T細胞から産生されるRRV-g T2A-アフィマー-SQTは、感染性であり、分泌可能な形態のアフィマー-SQTタンパク質を発現する。
【0267】
アフィマーのSQTバリアントのコード領域は、Stadler et al.(Protein Engineering, Design and Selection, 24(9) 751-763, 2011)から得た。アフィマー-SQTタンパク質発現の検出のために、HA、AU1およびMycエピトープを、アフィマー-SQTのN末端(シグナルペプチドに先行する)、L1およびL2にそれぞれ挿入した。ヒトIL-2に由来するシグナルペプチドを、アフィマー-SQTコード領域のN末端に配置した。DNA断片を合成し、RRV gT2A骨格内のAscIおよびNot I部位にクローニングした。結果として得られた構築物をpAC3-gT2A-アフィマー-SQTと名付ける。
【0268】
HEK293T細胞を、トランスフェクション前日に10cmプレート1枚当たり2×10細胞で播種した。翌日、20μgのプラスミドDNAを使用してリン酸カルシウムトランスフェクションを行った。トランスフェクションの18時間後、細胞をDMEMで2回洗浄し、完全培養培地で置き換えた。ウイルス上清を培地置き換えのおよそ24時間後に回収し、0.45μmシリンジフィルターに通して濾過した。RRV-g T2A-アフィマー-SQTのウイルス力価を、以前に記載された(Perez et al., 2012)ように決定した。表Kは、HEK293T細胞から産生されたRRV-g T2A-アフィマー-SQTの力価が、RRV-GFPの力価と同等であったことを示す。
【0269】
pAC3-gT2A-アフィマー-SQTにコードされているアフィマー-SQTタンパク質は、上清に分泌されるように設計する。上清中に存在する不確定のアフィマー-SQTタンパク質量のため、上清中のアフィマー-SQTタンパク質の検出は、抗HA抗体(Sigma カタログ番号H6908、1:1000)を使用する15μlの上清の直接免疫ブロット法、または1mLの上清を10μgの抗myc抗体(Abcam カタログ番号ab206486)と16 18時間、4℃でインキュベートすることによる免疫沈降、続いて抗HA抗体およびHPRコンジュゲート二次抗体での免疫ブロット法の両方により行った。図10は、約15kDaの予想分子量を有するアフィマーSQTが、上清中に豊富に発現されることを示す。
【0270】
【表K】
【0271】
(実施例38)
293T細胞から産生されるRRV-gT2A-HckおよびRRV-IRES-Hckは、感染性であり、Hckタンパク質を発現する。
【0272】
Hckのコード領域は、特許WO2017009533A1から得た。Hckタンパク質発現を検出するために、FlagおよびHisエピトープタグをHckのC末端に挿入し、ヒトIL-2に由来するシグナルペプチドをHckコード領域のN末端に配置した。AscIおよびNot I部位を有するDNA断片を合成し、RRV-gT2A骨格のAscIおよびNot I部位にクローニングし、PsiIおよびNot I部位を有するDNA断片を合成し、RRV-IRES骨格のPsiIおよびNot I部位にクローニングし、結果として構築物を得、それらをpAC3-gT2A-HckおよびpAC3-IRES-Hckとそれぞれ名付けた。
【0273】
RRVウイルス上清およびHckタンパク質をHEK293T細胞から記載の通りに産生した。表Lは、HEK293T細胞から産生されたRRV-gT2A-Hckの力価が、RRV-GFPの力価と同等であったことを示す。
【0274】
【表L】
【0275】
pAC3-gT2A-HckにコードされているHckタンパク質は、上清に分泌されるように設計する。上清中のHckタンパク質の検出は、抗Flag M2抗体(Sigma カタログ番号F1804、1:1000)およびHPRコンジュゲート二次抗体を使用して15μLの上清の直接免疫ブロット法により行った。図11は、約7kDaの予想分子量を有するHckタンパク質が、上清中に豊富に発現されることを示す。
【0276】
(実施例39)
293T細胞から産生されるRRV-gT2A-アンチカリンは、感染性であり、アンチカリンタンパク質を発現する。
【0277】
アンチカリン-Lcn2のコード領域は、Gebauer et al., 2013 (JMB 425(4) 780-802)から得る。アンチカリン-Lcn2タンパク質発現を検出するために、FlagおよびHisエピトープタグをアンチカリン-Lcn2のC末端に挿入し、ヒトIL-2に由来するシグナルペプチドをアンチカリン-Lcn2コード領域のN末端に配置する。DNA断片を合成し、RRV-gT2A骨格内のAscIおよびNot I部位にクローニングする。結果として得られた構築物をpAC3-gT2A-アンチカリン-Lcn2と名付ける。
【0278】
pAC3-gT2A-アンチカリン-Lcn2にコードされているアンチカリン-Lcn2タンパク質は、上清に分泌されるように設計する。上清中のアンチカリン-Lcn2タンパク質の検出は、抗Flag M2抗体(Sigma カタログ番号F1804、1:1000)およびHPRコンジュゲート二次抗体を使用して15μLの上清の直接免疫ブロット法により行う。データは、約20kDaの予想分子量を有するアンチカリン-Lcn2タンパク質が、上清中に豊富に発現されることを示す。
【0279】
(実施例40)
抗原結合に関与する骨格フレームワークアミノ酸残基および表面露出アミノ酸残基、ならびにオリゴマー化ドメインにおけるアミノ酸残基を、Apobec耐性になるように最適化することができる。
【0280】
足場タンパク質の1つの重要な態様は、足場の全体的完全性および構造を維持することである。ウイルス感染中にナンセンス/停止コドン(核酸TGA、TAAおよびTAG)をコードする結果となり得るApobec3媒介変異を回避するために、足場骨格フレームワークに存在する選択的もしくは全てのトリプトファン残基および/または抗原結合に関与する表面露出アミノ酸を、他の19のアミノ酸で置換して、Apobec3により媒介されるナンセンス/停止コドン高頻度変異を回避することによる、治療用導入遺伝子コード配列をApobec3耐性にさせる核酸置換の導入を利用する。
【0281】
Lcn2に由来するアンチカリン(Gebauer et al., 2012 J Mol Biol 425(4):780-802)は、一方がベータ鎖A中に存在し、もう一方がベータ鎖D中に存在する、2つのトリプトファン残基を含有する。加えて、ED-B結合剤アンチカリンであるN7Aは、ベータ鎖Dおよびループ3/ベータ鎖F中に3つの追加のトリプトファン残基を含有する。計算アルゴリズム(Parthiban et al., BMC Sturctural Biology 2007 7:54;Bywate, PLoS 2016 11(3):e150769)を利用し、選択されたトリプトファン残基のための19のアミノ酸のコンビナトリアル変異ライブラリー Yahez et al.(Nucleic Acids Reseasrch 32(20)e158, 2004)を生成して、それらの発現、抗原結合親和性について評価し、試験する。本発明者らのデータは、骨格フレームワークにおよびアンチカリンN7Aの抗原結合ループに存在する構造的完全性に関与するトリプトファン残基を、チロシンおよびフェニルアラニンなどの保存的アミノ酸残基により置き換えることができることを示す。Apobec耐性N7Aバリアントは、RRV-gT2A骨格にコードされている場合、親N7Aタンパク質のものと同等のタンパク質発現レベルを示す。最も重要なこととして、293F細胞においてpcDNA3.1ベクターから発現される精製Apobec耐性N7Aタンパク質は、遠UV円偏光二色性分光測定により分析すると同等の二次構造を示し、SPRに基づくバイオセンサー分析によりEB-Dと同様の結合親和性を示す。
【0282】
足場フレームワークにおけるトリプトファンのチロシンまたはフェニルアラニンでの置き換えの許容性は、src-ループに隣接して存在する2つの連続するトリプトファン残基を、その発現を損なわせることなく、2つのフェニルアラニン(FF)、2つのチロシン(YY)、チロシン-フェニルアラニン(YF)またはフェニルアラニン-チロシン(FY)で置き換えることができる、Hckタンパク質においても実証される。加えて、本発明者らは、I型脱ヨード酵素二量体化モチーフにおけるトリプトファン残基を、その二量体化機能を損なわせることなく、フェニルアラニンおよびチロシンで置換することができることも示す。
【0283】
(実施例41)
エピトープタグ付きアフィマー-SQTを、ヒトIgGのFc領域を使用してRRV-gT2A骨格からホモ二量体形態で発現させることができる。
【0284】
アフィマー-SQTのホモ二量体を発現させるために、N末端へのヒトIL-2シグナルペプチドの組み入れに加えて、アフィマー-SQTのコード配列を、IgG4 Fc領域が後に続く(G4S)3グリシン-セリンリンカーと連結させる。このタイプの非IG結合タンパク質をコードするベクターの設計を、多量体の形成を可能にするまたは二重特異性抗体もしくは抗体様二重もしくは三重特異性分子を形成するための多重結合特異性を可能にする結合タンパク質をコードする遺伝子を含む他のタイプの改変とともに、図12に示す。合成断片を、RRV gT2A骨格内のAscIおよびNot I部位にクローニングする。結果として得られる1つの構築物を、pAC3-gT2A-アフィマー-SQT-Fcと名付ける。データは、非還元条件下で、約50kDaの予想分子サイズで、抗ヒトIgG4 Fc抗体を使用して二量体形態のアフィマー-SQTが検出されることを示す。
【0285】
(実施例42)
二量体化ドメインを使用してエピトープタグ付きアフィマー-SQTをホモ二量体形態で発現させることができる。
【0286】
アフィマー-SQTのホモ二量体を発現させるために、アフィマー-SQTのN末端へのヒトIL-2シグナルペプチドの組み入れおよびアフィマー-SQTのC末端へのエピトープタグの組み入れに加えて、N末端とC末端両方にGGGGグリシンリンカーで連結されているI型脱ヨード酵素の二量体化ドメイン(表6)を、アフィマー-SQTが後に続くシグナルペプチドの下流に配置する。別の構成では、ヒトIL-2シグナルペプチドおよびエピトープタグをアフィマー-SQTのN末端に配置し、N末端とC末端両方にGGGGグリシンリンカーで連結されている二量体化ドメインを、アフィマー-SQTのC末端に配置する。合成断片を、RRV gT2A骨格内のAscIおよびNot I部位にクローニングする。結果として得られる構築物を、pAC3-gT2A-2アフィマー-SQTおよびpAC3-gT2A-アフィマー-SQT2とそれぞれ名付ける。
【0287】
タンパク質発現データは、非還元条件下で、2アフィマーSQTおよびアフィマーSQT2タンパク質の85%より多くが、約32kDaの予想分子サイズを有する二量体形態で検出されることを示す。
【0288】
(実施例43)
三量体化ドメインを使用してエピトープタグ付きアフィマー-SQTをホモ三量体形態で発現させることができる。
【0289】
アフィマー-SQTのホモ三量体を発現させるために、アフィマー-SQTのN末端へのヒトIL-2シグナルペプチドの組み入れおよびアフィマー-SQTのC末端へのエピトープタグの組み入れに加えて、N末端とC末端両方にGGGGグリシンリンカーを含むコロニン1aの三量体化ドメイン(表6)を、アフィマー-SQTが後に続くシグナルペプチドの下流に配置する。別の構成では、ヒトIL-2シグナルペプチドおよびエピトープタグをアフィマー-SQTのN末端に配置し、N末端とC末端両方にGGGGグリシンリンカーで連結されている三量体化ドメインを、アフィマー-SQTのC末端に配置する。合成断片を、RRV gT2A骨格内のAscIおよびNot I部位にクローニングする。結果として得られる構築物を、pAC3-gT2A-3アフィマー-SQTおよびpAC3-gT2A-アフィマー-SQT3とそれぞれ名付ける。
【0290】
タンパク質発現データは、非還元条件下で、3アフィマーSQTおよびアフィマーSQT3タンパク質の85%より多くが、約56kDaの予想分子サイズを有する三量体形態で検出されることを示す。
【0291】
(実施例44)
四量体ドメインを使用してエピトープタグ付きアフィマー-SQTをホモ四量体形態で発現させることができる。
【0292】
アフィマー-SQTのホモ四量体を発現させるために、アフィマー-SQTのN末端へのヒトIL-2シグナルペプチドの組み入れおよびアフィマー-SQTのC末端へのエピトープタグの組み入れに加えて、N末端とC末端両方にGGGGグリシンリンカーで連結されている軟骨マトリクスタンパク質(CMP)CMP(R27Q)四量体ドメイン(表6)を、アフィマー-SQTが後に続くシグナルペプチドの下流に配置する。別の構成では、ヒトIL-2シグナルペプチドおよびエピトープタグをアフィマー-SQTのN末端に配置し、N末端とC末端両方にGGGGグリシンリンカーで連結されている四量体化ドメインを、アフィマー-SQTのC末端に配置する。合成断片を、RRV gT2A骨格内のAscIおよびNot I部位にクローニングする。結果として得られる構築物を、pAC3-gT2A-4アフィマー-SQTおよびpAC3-gT2A-アフィマー-SQT4とそれぞれ名付ける。
【0293】
タンパク質発現データは、非還元条件下で、4アフィマーSQTおよびアフィマーSQT4タンパク質の85%より多くが、約56kDaの予想分子サイズを有する四量体形態で検出されることを示す。
【0294】
(実施例45)
五量体化ドメインを使用してエピトープタグ付きアフィマー-SQTをホモ五量体形態で発現させることができる。
【0295】
アフィマー-SQTのホモ五量体を発現させるために、アフィマー-SQTのN末端へのヒトIL-2シグナルペプチドの組み入れおよびアフィマー-SQTのC末端へのエピトープタグの組み入れに加えて、N末端とC末端両方にGGGGグリシンリンカーで連結されている軟骨オリゴマーマトリクスタンパク質(COM P)五量体ドメイン(表6)を、アフィマー-SQTが後に続くシグナルペプチドの下流に配置する。別の構成では、ヒトIL-2シグナルペプチドおよびエピトープタグをアフィマー-SQTのN末端に配置し、N末端とC末端両方にGGGGグリシンリンカーで連結されている五量体化ドメインを、アフィマー-SQTのC末端に配置する。合成断片を、RRV gT2A骨格内のAscIおよびNot I部位にクローニングする。結果として得られる構築物を、pAC3-gT2A-5アフィマー-SQTおよびpAC3-gT2A-アフィマー-SQT5とそれぞれ名付ける。
【0296】
タンパク質発現データは、非還元条件下で、5アフィマーSQTおよびアフィマーSQT5タンパク質の85%より多くが、約100kDaの予想分子サイズを有する四量体形態で検出されることを示す。
【0297】
(実施例46)
IgMに由来する六量体化ドメインを使用してエピトープタグ付きアフィマー-SQTをホモ六量体形態で発現させることができる。
【0298】
アフィマー-SQTのホモ六量体を発現させるために、アフィマー-SQTのN末端へのヒトIL-2シグナルペプチドの組み入れおよびアフィマー-SQTのC末端へのエピトープタグの組み入れに加えて、N末端とC末端両方にGGGGグリシンリンカーで連結されているヒトIgM Cμ4tp六量体化ドメイン(表4)を、アフィマー-SQTが後に続くシグナルペプチドの下流に配置する。別の構成では、ヒトIL-2シグナルペプチドおよびエピトープタグをアフィマー-SQTのN末端に配置し、N末端とC末端両方にGGGGグリシンリンカーで連結されている六量体化ドメインを、アフィマー-SQTのC末端に配置する。合成断片を、RRV gT2A骨格内のAscIおよびNot I部位にクローニングする。結果として得られる構築物を、pAC3-gT2A-6アフィマー-SQTおよびpAC3-gT2A-アフィマー-SQT6とそれぞれ名付ける。
【0299】
タンパク質発現データは、非還元条件下で、6アフィマーSQTおよびアフィマーSQT6タンパク質の95%より多くが、約175kDaの予想分子サイズを有する四量体形態で検出されることを示す。
【0300】
(実施例47)
(G4S)3グリシン-セリンリンカーを使用してRRV gT2A骨格においてエピトープタグ付きアフィマー-SQTおよびHckをヘテロ二量体形態で発現させることができる。
【0301】
アフィマー-SQTおよびHckのヘテロ二量体を発現させるために、アフィマー-SQTおよびHckのコード配列を、「融合」タンパク質のN末端にヒトIL-2シグナルペプチドが、C末端にエピトープタグが組み入れられている2つの可能な構成(アフィマー-SQT-g-HckおよびHck-g-アフィマー-SQT)で、(GGGGS)3グリシン-リシンリンカーで連結させる。合成断片を、RRV gT2A骨格内のAscIおよびNot I部位にクローニングする。結果として得られる構築物を、pAC3-gT2A-アフィマー-SQT-g-HckおよびpAC3-gT2A-Hck-g-アフィマー-SQTとそれぞれ名付ける。
【0302】
タンパク質発現データは、約23kDaの予想分子サイズを有するアフィマー-SQT-g-HckおよびHck-g-アフィマー-SQTのヘテロ二量体形態が検出されることを示す。
【0303】
(実施例48)
(G4S)3グリシン-セリンリンカーを使用してRRV gT2A骨格においてエピトープタグ付きアフィマー-SQTおよびアンチカリンをヘテロ二量体形態で発現させることができる。
【0304】
アフィマー-SQTおよびアンチカリンのヘテロ二量体を発現させるために、アフィマー-SQTおよびアンチカリンのコード配列を、「融合」タンパク質のN末端にヒトIL-2シグナルペプチドが、C末端にエピトープタグが組み入れられている2つの可能な構成(アフィマー-SQT-g-アンチカリンおよびアンチカリン-g-アフィマー-SQT)で、(GGGGS)3グリシン-リシンリンカーで連結させる。合成断片を、RRV gT2A骨格内のAscIおよびNot I部位にクローニングする。結果として得られる構築物を、pAC3-gT2A-アフィマー-SQT-g-アンチカリンおよびpAC3-gT2A-アンチカリン-g-アフィマー-SQTとそれぞれ名付ける。
【0305】
タンパク質発現データは、約36kDaの予想分子サイズを有するアフィマー-SQT-g-アンチカリンおよびアンチカリン-g-アフィマー-SQTのヘテロ二量体形態が検出されることを示す。
【0306】
(実施例49)
(G4S)3グリシン-セリンリンカーを使用してRRV gT2A骨格においてエピトープタグ付きアンチカリンおよびHckをヘテロ二量体形態で発現させることができる。
【0307】
Hckおよびアンチカリンのヘテロ二量体を発現させるために、Hckおよびアンチカリンのコード配列を、「融合」タンパク質のN末端にヒトIL-2シグナルペプチドが、C末端にエピトープタグが組み入れられている2つの可能な構成(Hck-g-アンチカリンおよびアンチカリン-g-Hck)で、(GGGGS)3グリシン-セリンリンカーで連結させる。合成断片を、RRV gT2A骨格内のAscIおよびNot I部位にクローニングする。結果として得られる構築物を、pAC3-gT2A-Hck-g-アンチカリンおよびpAC3-gT2A-アンチカリン-g-Hckとそれぞれ名付ける。
【0308】
タンパク質発現データは、約28kDaの予想分子サイズを有するHck-g-アンチカリンおよびアンチカリン-g-Hckのヘテロ二量体形態が検出されることを示す。
【0309】
(実施例50)
(G4S)3グリシン-セリンリンカーを使用してRRV gT2A骨格においてエピトープタグ付きアフィマー-SQT、Hckおよびアンチカリンをヘテロ三量体形態で発現させることができる。
【0310】
アフィマー-SQT、Hckおよびアンチカリンのヘテロ三量体を発現させるために、アフィマー-SQT、Hckおよびアンチカリンのコード配列を(GGGGS)3グリシン-リシンリンカーで連結させ、「融合」タンパク質のN末端にヒトIL-2シグナルペプチドを、C末端にエピトープタグを組み入れる。6つの可能な組合せがある断片(Hck-g-アフィマー-SQT-g-アンチカリン、Hck-g-アンチカリン-g-アフィマー-SQT、アフィマー-SQT-g-Hck-g-アンチカリン、アフィマー-SQT-g-アンチカリン-g-Hck、アンチカリン-g-Hck-g-アフィマー-SQT、およびアンチカリン-g-アフィマー-SQT-g-Hck)を合成し、RRV gT2A骨格のAscIおよびNot I部位にクローニングする。結果として得られた構築物を、pAC3-gT2A-Hck-g-アフィマー-SQT-g-アンチカリンおよびpAC3-gT2A-Hck-g-アンチカリン-g-アフィマー-SQT、pAC3-gT2A-アフィマー-SQT-g-Hck-g-アンチカリン、pAC3-gT2A-アフィマー-SQT-g-アンチカリン-g-Hck、pAC3-gT2A-アンチカリン-g-Hck-g-アフィマー-SQT、およびpAC3-gT2A-アンチカリン-g-アフィマー-SQT-g-Hckと、それぞれ名付ける。
【0311】
タンパク質発現データは、約43kDaの予想分子サイズを有する、Hck-g-アフィマー-SQT-g-アンチカリン、Hck-g-アンチカリン-g-アフィマー-SQT、アフィマー-SQT-g-Hck-g-アンチカリン、アフィマー-SQT-g-アンチカリン-g-Hck、アンチカリン-g-Hck-g-アフィマー-SQTおよびアンチカリン-g-アフィマー-SQT-g-Hckからのヘテロ三量体が検出されることを示す。
【0312】
(実施例51)
293T細胞から産生されるRRV-S1-アンチカリンは、感染性であり、コアプロモーターにより媒介されてアンチカリンタンパク質を発現する。
【0313】
アンチカリン-Lcn2のコード領域は、Gebauer et al., 2013 (JMB 425(4) 780-802)から得る。アンチカリン-Lcn2タンパク質発現を検出するために、FlagおよびHisエピトープタグをアンチカリン-Lcn2のC末端に挿入し、ヒトIL-2に由来するシグナルペプチドをアンチカリン-Lcn2コード領域のN末端かつコアプロモーターの下流に配置する。これらのコアプロモーターは、これらに限定されないが、アデノウイルス主要後期(AdML)およびサイトメガロウイルス(CMV)主要最初期遺伝子、ならびに合成「スーパーコアプロモーター」SCP1に基づく(その開示が参照によりその全体が本明細書に組み入れられる、米国特許出願公開第2015/0273029A1号も参照されたい)。コアプロモーターAdML-アンチカリン-Lcn2、CMV-アンチカリン-Lcn2およびSCP1-アンチカリン-Lcn2を含有するDNA断片を合成し、pAC3由来RRV骨格内にクローニングし、結果として得られた構築物を、pAC3-A1-アンチカリン-Lcn2、pAC3-C1-アンチカリン-Lcn2、およびpAC3-S1-アンチカリン-Lcn2と、それぞれ名付ける。
【0314】
pAC3-A1-アンチカリン-Lcn2、pAC3-C1-アンチカリン-Lcn2およびpAC3-S1-アンチカリン-Lcn2にコードされているアンチカリン-Lcn2タンパク質は、上清に分泌されるように設計する。上清中のアンチカリン-Lcn2タンパク質の検出は、抗Flag M2抗体(Sigma カタログ番号F1804、1:1000)およびHPRコンジュゲート二次抗体を使用して15μLの上清の直接免疫ブロット法により行う。本発明者らのデータは、約20kDaの予想分子量を有するアンチカリン-Lcn2タンパク質が、上清中に豊富に発現されることを示す。
【0315】
(実施例52)
RRV-GSG-T2A-syCD2(分泌改変酵母シトシンデアミナーゼ)に感染させたTu2449-MG細胞は、RRV-GSG-T2A-yCD2のものと比較して5 FU細胞傷害の遅延、しかしより大きいバイスタンダー効果を示す。
【0316】
pAC3-IRES-syCD2およびpAC3-GSG-T2A-syCD2を生成して、分泌yCD2(syCD2)を発現させる。非複製型アデノウイルスベクター内の細菌から前もって分泌されたシトシンデアミナーゼは、非分泌形態の場合、多くのバイスタンダーの死滅が生じる前に5-FUの局所産生により形質導入細胞を死滅させることが危惧されたため、研究されている(Rehemtulla et al. antixcan Res., 23:1393-1400 2004)。Rehemtullaとここに記載の研究には、いくつかの有意な差がある。これらは、以下のことを含む:1)Rehemtullaは、5-FCに対して野生型酵母シトシンと比較して20分の1の親和性を有する細菌シトシンデアミナーゼ(bCD)を研究している(Kievet et al.Can Res.59: 1417-1421 1999);動物モデルデータは、分泌bCDと細胞質bCDの両方において酵母由来のyCD2と比較して不十分な腫瘍阻害を示す(Rhemtulla et al.; Ostertag et al NeuroOnc 2012);Rehemtullaにより使用されたベクターは、細胞から細胞へと拡散するRRVコードyCD2とは異なり非複製性型であった。したがって、細胞死滅およびバイスタンダー効果に対する効果はより複雑であり、RehemtullaのbCDデータからはyCDについて予測できない。
【0317】
ヒトIL-2に由来するSSPが、pAC3-IRES-syCD2についてはyCD2のN末端にまたはpAC3-GSG-T2A-syCD2についてはGSG-T2AとyCD2の間にインフレームで配置されるように、IRES-scyCD2およびGSG-T2A-syCD2カセットを設計する。pAC3-IRES-syCD2のためのPsiIおよびNot I部位ならびにpAC3-GSG-T2A-syCD2のためのAscIおよびNotI部位を有するカセットが化学的に合成され(Genewiz)、これらのカセットをpAC3にpAC3-IRES-syCD2およびpAC3-GSG-T2A-yCD2骨格としてそれぞれクローニングしてyCD2を置き換える。抗yCD2抗体を使用して、トランスフェクトHEK293T細胞から収集した細胞溶解物と上清の両方からのsyCD2タンパク質の発現を評価する。IRES-yCD2およびGSG-T2A-yCD2に由来するyCD2の細胞内発現とは対照的に、結果は、IRES-syCD2およびGSG-T2A-syCD2にヒトIL 2 SSPを含めることにより、上清におけるsyCD2の確固たる発現および細胞溶解物におけるより少ないもしくは検出不能な発現が検出されることになることを実証する。両方の構築物におけるsyCD2の分泌は、免疫ブロットアッセイでの10μLの上清の最小投入量により示されるように効率的である。さらに、syCD2の細胞外形態は、それらの親構築物(pAC3-IRES-yCD2およびpAC3-GSG-T2A-yCD2)と比較して同様のサイズである。加えて、一過性トランスフェクトHEK293T細胞から回収したRRV-IRES-syCD2およびRRV-GSG-T2A-syCD2ウイルス上清は、0.5~5×10TU/mLの力価値を示し、RRV-IRES-syCD2の力価値(1.5×10TU/mL)およびRRV-GSG-T2A-yCD2の力価値(2×10TU/mL)とそれぞれ同等である。
【0318】
Tu2449/RRV-IRES-syCD2およびTu2449/RRV-GSG-T2A-syCD2に最大限感染させたTu2449細胞における細胞外5-FU濃度を、Tu24449/RRV-IRES-yCD2およびTu2449/RRV-GSG-T2A-yCD2とそれぞれ比較した。データは、Tu2449/RRV-IRES-syCD2およびTu2449/RRV-GSG-T2A-syCD2細胞からの上清への5-FCの添加後に存在する5-FUの濃度が、過剰な5-FCとの1時間の反応後、培養培地において細胞成長時間にわたって増加し、初回細胞播種から2~6日目までに最大レベルに達することを示す。Tu2449/RRV-IRES-syCD2およびTu2449/RRV-GSG-T2A-syCD2の上清に存在する5-FU濃度は、Tu2449/RRV-IRES-yCD2およびTu2449/RRV-GSG-T2A-yCD2のものより最大4log高い。その後、組織培養で、RRV-IRES-yCD2/RRV-IRES-GFPおよびRRV-IRES-syCD2/RRV-IRES-GFP、RRV-GSG-T2A-yCD2/RRV-GSG-T2A-GFPおよびRRV-GSG-T2A-syCD2/RRV-GSG-T2A-GFPに感染させたRRV形質導入Tu2449細胞のマッチする対を3/97、15/85、および30/70の比で生成し、培養物を5-FCで処理することにより、5 FUバイスタンダー効果の有効性を評価した。これらの実験では、GFPベクター感染細胞がさらに感染するのを阻止し、そのためCDコードベクターのさらなるウイルス拡散が起こらない。3/97および15/85設定の比でのin vitro細胞死滅データは、RRV-IRES-syCD2およびRRV-GSG-T2A-syCD2両方が、RRV-IRES-yCD2およびRRV-GSG-T2A-yCD2よりも大きいバイスタンダー媒介細胞傷害効果を有することを示す。IRES-syCD2およびRRV-GSG-T2A-syCD2は、RRV-IRES-yCD2での細胞死滅およびRRV-GSG-T2A-yCD2における細胞死滅とそれぞれ比較して、より効率的な細胞死滅を示す。
【0319】
(実施例53)
RRV-GSG-T2A-syCD2またはRRV-IRES-syCD2で処置したマウスにおける皮下、同系神経膠腫腫瘍は、RRV-GSG-T2A-yCD2またはRRV-GSG-T2A-yCD2のものとそれぞれ同等の腫瘍成長遅延を示した。感染腫瘍細胞からのsyCD2の分泌が、in vivoでの抗腫瘍応答を向上させる結果となるかどうかを試験するために、Tu2449細胞を使用してB6C3F1マウスに同系同所性神経膠腫を確立させる。前に説明したように、RRV-IRES-yCD2/RRV-IRES-GFPおよびRRV-IRES-syCD2/RRV-IRES-GFP、RRV-GSG-T2A-yCD2/RRV-GSG-T2A-GFPおよびRRV-GSG-T2A-syCD2/RRV-GSG-T2A-GFPに感染させたRRV形質導入Tu2449細胞のマッチする対を、3/97、15/85、および30/70の比で生成する。5-FC処置を施していない動物と比較して用量依存性生存利益が、RRV-IRES-yCD2/RRV-IRES-GFP、RRV-IRES-syCD2/RRV-IRES-GFP、RRV-GSG-T2A-yCD2/RRV-GSG-T2A-GFPおよびRRV-GSG-T2A-syCD2/RRV-GSG-T2A-GFPの各サブグループ内で観察される。しかし、90日の期間にわたって生存データを、3/97および15/85および30/70の比率で、RRV-IRES-yCD2群とRRV-IRES-syCD2群間、およびRRV-GSG-T2A-yCD2群とRRV_GSG-T2A-syCD2群間で比較したとき、データは、両方の場合、syCD2バリアントで形質導入した担腫瘍マウスが、yCD2バージョンで形質導入した担腫瘍マウスよりも有意に高い生存利益を受けることを示す。これは、syCD感染細胞のより低い比率でより明確に見られる。本発明者のデータは、分泌プロドラッグ活性化酵素の発現が有利であることを示す。これは、以下のことを含むいくつかの要因に起因し得る:ウイルス産生細胞の早期枯渇につながり、ひいてはさらなるウイルス拡散を妨害する、細胞内5-FCの急速な高濃度の回避;および/またはCDタンパク質のさらなる拡散、したがって致死濃度の5-FUのさらなる拡散。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4A
図4B
図5
図6
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図8
図9
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図12
図13
【配列表】
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【国際調査報告】