(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(54)【発明の名称】眼の測定時に動き補正を行う方法及び測定システム
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20220111BHJP
A61B 3/107 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
A61B3/10 100
A61B3/107
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021525773
(86)(22)【出願日】2019-12-03
(85)【翻訳文提出日】2021-06-30
(86)【国際出願番号】 EP2019083514
(87)【国際公開番号】W WO2020115052
(87)【国際公開日】2020-06-11
(32)【優先日】2018-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520446894
【氏名又は名称】ハーグ―ストレイト アーゲー
【氏名又は名称原語表記】HAAG-STREIT AG
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ワグナー, ヨルク
(72)【発明者】
【氏名】カッティン, フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ロブレド, ルチオ
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA03
4C316AA21
4C316AA24
4C316AA25
4C316AB02
4C316AB11
4C316FA19
4C316FB21
(57)【要約】
本発明は、人の眼(14)の測定時に動き補正を行う方法に関し、眼(14)は、眼構造(40)の位置値のセット(39)を取得するために、測定ビーム(15)によってスキャンされる。スキャニングは、測定時間間隔にわたって延び、位置値(39)には、測定時間間隔内のタイムスタンプがそれぞれ付与される。表面形状及び変位関数(38)が決定され、変位関数(38)は、測定時間間隔の間の動きのパターンを表し、表面形状及び変位関数(38)は、表面形状が変位関数(38)に従って移動されるとき、位置値(39)が表面形状によって近似されるように決定される。さらに、本発明は関連した測定システムに関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の眼(14)の測定時に動き補正を行う方法であって、
a.眼構造(40)の位置値(39)のセットを取得するために測定ビーム(15)を用いて前記眼(14)をスキャンするステップであり、測定期間にわたって延び、前記位置値(39)には、前記測定期間内のタイムスタンプがそれぞれ付与される、スキャンするステップと、
b.表面形状を確認し、変位関数(38)を確認するステップであり、前記変位関数(38)が、前記測定期間の間の動きのシーケンスを表し、前記表面形状及び前記変位関数(38)が、前記表面形状が前記変位関数(38)に従って移動されるとき、前記位置値(39)が前記表面形状によって近似されるように確認される、確認するステップと、
を有する方法。
【請求項2】
前記位置値(39)が、前記変位関数(38)に基づいて補正されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
動き補正された角膜のトポグラフィが確認されることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記眼構造(40)の形状が、ゼルニケ多項式の和によって表されることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記変位関数(39)の係数及び前記ゼルニケ多項式の係数が、均一な最適化タスクを解くことによって確認されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記変位関数(39)が区間関数の連結であり、各区間関数が時間に依存する多項式であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
検査される前記眼構造(40)全体の位置値(39)が、各チャンク(35)内に含まれることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記最適化タスクが、前記変位関数(39)が、隣り合う区間関数の間の一次導関数において連続である及び/又は連続であると想定されるという点で、正規化されることを特徴とする請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記測定ビーム(15)が、OCT測定ビームであることを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記測定ビームが前記眼構造にわたる曲線に沿ってスキャンされ、前記曲線が少なくとも50個の交点、好ましくは少なくとも100個の交点、より好ましくは少なくとも400個の交点を有することを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記曲線が、複数回通過されることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
測定ビーム(15)と、前記測定ビーム(15)を横方向に偏向させるためのスキャニング装置(27、28)とを有する測定システムであって、検出器(36)であり、前記測定ビーム(15)によって生成された信号から眼構造(14)の位置値(39)のセットを生成し、前記位置値(39)には、測定期間内のタイムスタンプがそれぞれ付与される、検出器(36)と、評価ユニット(41)であり、表面形状を確認するように、及び変位関数(38)を確認するように設計され、前記変位関数(38)が、前記測定期間の間の動きのシーケンスを表し、前記表面形状及び前記変位関数(38)が、前記表面形状が前記変位関数(38)に従って移動されるとき、前記位置値(39)が前記表面形状によって近似されるように確認される、評価ユニット(41)とを有する測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼の測定時に動き補正を行う方法に関する。本発明はさらに、関連した測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
眼の測定の場合において、測定値の記録の間に眼が動く場合、測定結果は損なわれ得る。測定がより多くの時間を占めるほど、眼の動きが有する影響は強くなる。例えば、OCT測定において通常そうであるように、特に測定ビームを用いて眼をスキャンするときに結果としてより長い測定持続時間となる。
【0003】
1つの可能な手順は、最初に測定領域にわたって高速基準測定を記録することであり、その間において測定持続時間は非常に短いので、測定は眼の動きによって損なわれない。それに続く、より多数の支持点を有するより長い測定は、米国特許第7,365,856号、欧州特許出願公開第2797493号のデータから、動きを除去するように第1の測定に基づいて調整され得る。この手順の欠点は、基準測定における不正確さによって、測定結果全体が損なわれ得ることである。加えて、基準測定を十分高速に実行できるようにするために、高速スキャニングシステムが必要である。
【0004】
或いは、また複数の高速測定が記録されることができ、次いでそれらは互いに調整される。これに対する要件は、その中の眼の動きが無視され得るように、1つの測定内で眼の意味のある幾何形状(例えば経線)が十分高速に記録されることである。この目的のために、高速データ収集と、高速スキャナとを有する高速システムも必要である。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、誤差の影響の受けやすさが低減された、眼の測定時に動き補正を行うための方法及び測定システムを提示する目的に基づく。引用された従来技術から進んで、目的は独立請求項の特徴によって達成される。有利な実施形態は、従属請求項において規定される。
【0006】
本発明による方法において、眼構造の位置値のセットを取得するために、測定ビームを用いて眼がスキャンされる。スキャニングは測定期間にわたって延び、位置値には、測定期間内のタイムスタンプがそれぞれ付与される。表面形状及び変位関数が確認され、変位関数は、測定期間の間の動きのシーケンスを表す。表面形状及び変位関数は、表面形状が変位関数に従って移動されるとき、位置値が表面形状によって近似されるように確認される。
【0007】
本発明は、測定期間内で眼が行った動きは、変位関数によって記述され得るという前提から開始する。理想的な場合、測定は測定誤差がなく、眼構造の実際の形状に対応する表面形状が見出され、眼の実際の動きのシーケンスに対応する変位関数が見出される。この表面形状がこの変位関数に従って変位された場合、眼構造の記録されたすべての位置値は、したがって表面形状上に位置する(空間的及び時間的座標系の適切な相互調整によって)。従来技術とは対照的に、動き補正のための開始点としての基準測定は必要ない。これは、スキャニングシステムが、動きの少ない基準測定を実行するための必要な速度を有しない場合、特に有利である。
【0008】
実際には、測定誤差が生じ、並びに表面形状と眼構造の実際の形状との間、及びまた変位関数と実際の動きのシーケンスとの間の両方に偏差が起きる。位置値が表面形状によって「近似される」という表現は、理想と実際的に行われる方法との間の、この偏差を考慮に入れる。方法が理想的な形で行われた場合は、位置値及び表面形状は全く同じに対応するようになる。本発明の意味における近似とは、位置値が、実際的に行われる測定の境界条件の範囲において近似されるように、表面形状及び変位関数を確認することを意味する。例えば、近似のために品質基準が規定されることができ、表面形状及び変位関数は、品質基準に基づいて確立された偏差が、規定された閾値未満になるように確認され得る。以下の説明において、表面形状上に位置する位置値への言及がなされるとき、これは、したがってこの意味における近似と等価である。
【0009】
測定期間内の第1の時間と第2の時間を考える場合、これら2つの時間の間の眼の動きを記述する動きのシーケンスが、したがって結果として変位関数から生じる。眼構造の実際の形状を正しく再現し、変位関数に従って変位される表面形状は、表面形状が、両方の時間に対する測定を用いて取得される位置値に位置するように、座標系における測定の間に取得される位置値と一緒に表され得る。座標系における表面形状と位置値の合同の表示は、表面形状及び位置値の空間的座標は互いに対して正しく調整され、変位関数の時系列シーケンスは、位置値のタイムスタンプと一致することを意味する。表面形状及び位置値が、変位関数に従って互いに対して変位されるという表現は、空間的及び時間的座標の表示の特定の形に対する制限を含まない。動きの表示、時間に対する差の規定などの様々な形が可能である。測定期間内のある時間が基準時間として選択されることができ、それから開始して相対座標が定義される。
【0010】
方法は、第1の時間と第2の時間との間のタイムスタンプを有するすべての位置値が、変位関数に従って変位される表面形状上に位置するように行われ得る。第1の時間と第2の時間との間の位置値の数は1,000より大きくすることができ、5,000より大きいことが好ましく、20,000より大きいことがより好ましい。第1の時間は、測定期間の始まりに一致することができる。第2の時間は、測定期間の終わりに一致することができる。また、第1の時間と第2の時間との間の期間は、測定期間の区間に対応することが可能である。
【0011】
表面形状の確認及び/又は変位関数の確認は、様々な表面形状又は変位関数が試行されること、及びそれが、どの表面形状と変位関数との組み合わせが位置値を最良に近似するかの品質基準に基づいて確立されることからなり得る。測定期間において記録されたすべての位置値、又はこれらの位置値のサブセットは、近似され得る。位置値からの偏差が最小である表面形状及び変位関数は、位置値に対する最良の近似と想定され得る。関連のある表面形状及び/又は変位関数は、最適化法の範囲において選択され得る。表面形状及び/又は変位関数は、例えば、ランダムに選択されることができ、及びそれは、どの変位関数と表面形状との組み合わせが位置値を最良に近似するかの最小二乗法に従って確立され得る。
【0012】
このようにして確認された表面形状は、スキャンされる表面の形状の動き補正された表示と見られることができ、方法の結果として出力される。或いは、また変位関数に基づいて位置値の補正を行うこと、及び補正された位置データのセットに基づいてスキャンされる表面の形状を確認することが可能である。
【0013】
変位関数を用いて近似される位置値は、この目的のために変位関数に基づいて補正されることができ、その結果、補正された位置値のセットを生じる。補正された位置値のセットを近似する、表面関数が確認され得る。表面関数は、スキャンされる眼構造の形状の表示として出力され得る。出力は、例えば、ディスプレイ画面上の数学的又はグラフ表示において表示される表面関数、メモリに記憶される若しくは出力される表面関数、又はさらなる処理のために下流のモジュールに転送される表面関数からなり得る。このリストは網羅的なものではない。
【0014】
変位関数は、時間に依存する多項式として表され得る。1つの可能性は、動きのシーケンスを直交座標系の3つの軸線に沿った並進運動の重ね合わせとして見ること、及び時間に依存する多項式を3つの軸線のそれぞれに関連付けることである。小さな振幅において、回転運動は、並進運動の重ね合わせと見られ得る。本発明の1つの精緻化において、回転運動はまた、適切な数学関数によって直接近似され得る。
【0015】
座標系のZ軸線は、測定ビームの方向と並行に整列され得る。測定ビームは、光軸線に並行に眼に方向付けられ得る。Z軸線に関連付けられた多項式は、X軸線の多項式及び/又はY軸線の多項式より高次のものとすることができる。Z軸線の多項式の次数は、例えば、4~8とすることができる。
【0016】
変位関数の係数は、最適化タスクを解くことによって得られ得る。最適化の基準は、変位関数から導き出されたそれの時系列位置を考慮した、表面形状と、測定を用いて確認された位置値との差が、できるだけ小さいことである。この基準は、すべての位置値に同時に適用されることが好ましい。最適化問題は、例えば、最小二乗法に従って解かれ得る。
【0017】
一実施形態において、位置値のセットは、複数の時系列的に連続するチャンクに分割される。1つのチャンクの持続時間の間の動きのシーケンスは、区間関数によって記述されることができ、区間関数は、変位関数について上述されたのと同じ方法で確認され得る。一実施形態において、区間関数は各チャンクに対して確認される。変位関数は、区間関数を連結することによって結果として生じ得る。変位関数は、断片的多項式関数(スプライン)とすることができる。
【0018】
区間関数からの変位関数の編集のために、眼構造の形状及び時間に依存する並進がそれを用いて記述され得る最も簡単な又は最も妥当な形状が見出されることを確実にするために、正規化が規定され得る。正規化は、次の側面のうちの1つ又は複数を含み得る。区間関数、例えば時系列的に最初の区間関数の位置が、位置値のセット全体が、近似誤差の変化なしに空間内で変位されることができることを防止するために、空間内で固定され得る。変位関数は、すべての区間関数にわたって、平均変位が結果としてゼロとなるように正規化され得る。変位関数は、2つの時系列的に隣り合う区間関数の間の遷移が連続となるように正規化され得る。変位関数は、変位関数の一次導関数において、2つの時系列的に隣り合う区間関数の間の連続した遷移が結果として生じるように正規化され得る。
【0019】
位置値がそれを用いて近似される表面形状はまた、数学関数によって表され得る。位置値が関係し得る眼構造の例は、角膜の表面である。本発明による方法の1つの可能な応用は、表面形状が角膜のトポグラフィに対応することである。角膜及びまた、方法が適用され得る眼の他の構造は、円形形状を有する。したがって、単位円内で定義される多項式であるゼルニケ多項式が、眼構造を表す数学関数として用いられ得る。ゼルニケ多項式によってカバーされるエリアは、検査される眼構造のサイズにスケーリングすることによって適合され得る。
【0020】
動き補正を行うために、可能な限り高い数学的正確さで表面形状を表す必要はない。例えば4次まで、6次まで、又は8次までの、低次のゼルニケ多項式によって表面形状を示すことで十分となり得る。
【0021】
表面形状を確認するために、表面形状及び変位関数が一緒に変化される最適化問題が定式化され得る。表面形状がゼルニケ多項式によって記述される場合、ゼルニケ多項式の係数はこのようにして確認され得る。変位関数の多項式の係数と、ゼルニケ多項式の係数との両方が確認される均一な最適化手順が存在し得る。表面形状と、また測定期間の間の動きのシーケンスの両方に関する近似が、それにより1つの最適化ステップを用いて行われる。
【0022】
眼がそれを用いてスキャンされる測定ビームは、OCT測定ビームとすることができる。OCT測定において、短いコヒーレンスのOCT光は、オブジェクトビーム経路と、基準ビーム経路とに分割される。オブジェクトビーム経路は、測定ビームとしてオブジェクト上に導かれる。オブジェクトから後方散乱されたOCT光の成分は、基準ビーム経路の光と干渉するようにもたらされる。オブジェクト内の散乱中心は、干渉パターンから推論され得る。OCT光源は、スウェプトソース光源とすることができる。
【0023】
測定ビームを用いて、複数のAスキャンが取得され得る。オブジェクトの深さへの測定ビームの方向に延びる測定は、Aスキャンと呼ばれる。求める眼構造の軸線位置についての情報は、このようなAスキャンから導き出され得る。例えば、求める眼構造が角膜の表面である場合、この情報は、したがってAスキャンから取得され得る。このようなAスキャンから導き出される眼構造の軸線位置についての情報は、眼構造の位置値におけるAスキャンの位置と一緒に結果として生じる。本発明による眼構造の位置値のセットは、複数のAスキャンによって取得され得る。位置値のセットは、各点が眼構造の表面に位置する、点の集団を形成する。
【0024】
変位関数、及び場合によっては表面形状の数学関数の確認の前に、妥当でない測定値は位置値のセットから削除され得る。例えば、眼の測定の間に患者がまばたき、したがって測定ビームが角膜の表面ではなくまぶたに入射する測定の場合に起こり得る。チャンクは、すべてのチャンクで開始点において同じ数の位置値が含まれるように、特定の時間にわたって延びるように定義され得る。妥当でない測定値が削除された後、位置値の数はチャンクの間で異なり得る。このようにして、位置値が含まれない空のチャンクが結果として生じ得る。空のチャンクは、それらの間に空のチャンクが配置された2つのチャンクは隣り合うチャンクとは考えられないという点で、区間関数からの変位関数の編集の間で考慮に入れられる。
【0025】
測定ビームがそれを用いて眼をスキャンする、スキャニングパターンは、検査される眼構造全体からの測定データが各チャンクに含まれるように、選択され得る。言い換えれば、測定ビームによってスキャンされるエリア内のチャンクのそれぞれに対して、スキャンされるエリア内の10%より大きなエリアをカバーするあらゆる円は、少なくとも1つの測定値を含むと言うことができ、これは5%より大きいことが好ましく、2%より大きいことがより好ましい。これは、妥当でない測定値が削除される前の状態に対して当てはまる。
【0026】
測定ビームを用いた眼のスキャニングは、測定ビームが横方向に偏向されるように実行されることができ、その結果それは眼の表面の曲線を記述する。Aスキャンの所望のシーケンスは、曲線に沿って記録され得る。
【0027】
曲線は、スキャニング装置に対する高いストレスを表す突然の方向変化が避けられるように形成され得る。例えば、曲線は以下の形状を有し得る。
【数1】
【0028】
この場合、RSPはスキャンされる表面の半径、及びω=2π/Tは期間持続時間Tから導き出されるスキャニングの基本周波数である。スキャニングパターンがその間に1回通過される期間Tは、期間Tと呼ばれる。周波数の間の比率は、スカラー量a及びbによって定義される。スキャンされる表面の半径RSPは、例えば、2mm~8mmとすることができ、3mm~6mmとすることが好ましい。スカラー量bは、1.2~4倍スカラー量aより大きくなることができ、1.5~3倍とすることが好ましい。スカラー量aは例えば10~20、スカラー量bは20~40とすることができる。スキャニングパターンが1回通過される期間持続時間Tは、例えば、0.2秒~1秒とすることができる。曲線が一定の速度ωで通過される場合、記録される位置値は、スキャンされる構造のいくつかの領域ではより高い密度で分布され、他の領域ではより低い密度で分布される。本発明の一実施形態において、速度ωは、スキャンされる構造上の位置値のより良好な均一の分布を達成するように、通過の間に変化される。
【0029】
測定ビームを用いた眼のスキャニングの間、曲線を複数回、例えば2~10回、通過することが可能である。一実施形態において、例えば、曲線の開始点と終了点が同一である場合、曲線はできるだけ複数回、同一の経路に沿って通過される。実施形態はまた、曲線はパターンに対して同一であるが、互いに対して変位される又は回転されるように構成される。
【0030】
スキャンされる眼構造上の測定ビームが記述する曲線が、より多数の交点を有する場合は有利となる。交点の数は、例えば、50より大きくすることができ、100より大きいことが好ましく、400より大きいことがより好ましい。これは、曲線の単一の通過に当てはまる。曲線の複数の通過の場合、交点の数はそれに従って増加し得る。このような交点は、変位関数を確認するときに有用となり得る。この関連において、位置値が、それらができるだけ良好に交点と一致するように記録されれば、さらに有利である。曲線の1つの通過の間に、例えば、2,000~50,000個のAスキャンが記録されることができ、10,000~20,000個のAスキャンとすることが好ましい。チャンクは、例えば、1,000~25,000個までのAスキャンに延びることができ、5,000~10,000個のAスキャンとすることが好ましい。位置値のセットは、例えば、4~20個までのチャンクに分割されることができ、5~10個とすることが好ましい。
【0031】
本発明による方法のシーケンスは、本明細書の以下で例に基づいて述べられ、そこでは変位関数及び表面形状は同時に近似され、変位関数は複数の区間関数から断片的多項式として編集される。本明細書の以下で述べられるステップは、本発明の範囲において個々に又は組み合わせて適用され得る。測定ビームを用いて確認された眼構造の位置値のセットは、最適化法に対する入力変数として用いられることができ、ただし妥当でない測定値は前もって除外されていることが好ましい。
【0032】
位置値のセットは、座標Pn=(xn,yn,zn)T、及びn=0,1,・・・,Nt-1でのタイムスタンプtnの形で生成され、ただし、Ntは点の総数を示す。位置値のセットは複数のチャンクに分割され、チャンクは、例えば、0.05秒~0.2秒の期間にわたって延びる。個々のチャンクによってカバーされる時間スパンは、同一とすることができる。チャンクに含まれる位置値の数は、妥当でない測定値の削除後は、互いに異なり得る。妥当な位置値が全くないチャンクは、完全に削除されることができ、さらなる最適化法において、その間の空のチャンクが削除されている2つのチャンクは隣り合うチャンクとは考えられないという点で依然として考慮されるのみとなる。Z*個の数の有効なチャンクが結果として生じる。
【0033】
チャンクの断片的多項式変位は、以下の関数f(t)によって定義され得る。
【数2】
【0034】
この場合、ti
mはチャンクi内の位置値の平均時間を示し、αは個々の多項式の係数である。boxchar関数boxchari(t)は、tがチャンク区間i内である場合は1に等しく、tがこの区間の外側である場合は0に等しい。Ox=6、Oy=6、及びOz=8は、関連のある軸線における変位多項式の次数を示す。測定ビームに並行な軸線は、Z軸線と呼ばれる。X軸線及びY軸線は、それに直交する。
【0035】
変位多項式の係数は、以下の最小平均二乗の近似問題を解くことによって決定される。
【数3】
【0036】
この場合、βはゼルニケ係数を有する系列ベクトルであり、αは変位多項式の係数を有する系列ベクトルである。行列Zの列はx、y座標において記録されたゼルニケ多項式を含み、zは位置値のZ座標を表す。行列Mは各チャンクにおける変位に対する多項式基本関数を含み、αは以下の対応する係数である。
【数4】
【0037】
M
iは3つすべての軸線における変位基本関数を含み、α
iは特定のチャンク
iに対する3つすべての軸線における変位多項式の係数である。
【数5】
【数6】
【0038】
M
i
x、M
i
y、M
i
zの列は、関連のある方向における変位基本関数を表す。x及びy方向に対する変位基本関数は、位置値の集団上の初期ゼルニケ近似に基づいて推定される。ゼルニケ近似の次数は、例えば、4~8とすることができ、6であることが好ましい。各エントリは、関連のある点n及び次数mのx、y座標における、ゼルニケ面の偏微分係数によって確認される。
【数7】
【0039】
Z方向に対して、これは次のように簡単になる。
【数8】
【0040】
正規化行列Cは、変位及びその一次導関数の不連続性にペナルティを科すため、及び正規化のオフセットにペナルティを科すために導入される。不連続性のペナルティは、隣り合うチャンクに限定される。連続するチャンクは、それらの間の空のチャンクが除去されていなければ隣接すると考えられる。
【数9】
【0041】
R行列は、変位基本関数と、各方向に対する隣り合うチャンクの交点におけるそれらの一次導関数を含む。
【数10】
【0042】
正規化なしでは、問題は定義不足となり、位置値の集団全体が近似誤差に影響せずに変位され得る。行列Sを用いて、第1のチャンクα
0
x
0、α
0
y
0、α
0
z
0のオフセットはゼロに設定され、以て全表面の変位が防止される。
【数11】
【0043】
スカラー量Sregは、正規化の強度を定義する。
【0044】
最小二乗問題を解いた後、位置値は、点座標からの確立された変位の減算によって補正される。
【数12】
【0045】
変位関数が確認された後、品質チェックが行われ得る。最適化法がN個のチャンクに基づいて実行された場合、それぞれがN-1個のチャンクを備えるN個の異なるサブセットが、したがってそれぞれの場合に個々のチャンクを除外することによって形成され得る。
【0046】
ゼルニケ再構築の係数標準偏差は、サブセットのそれぞれに対して決定され得る。ゼルニケ再構築の次数は、変位関数を確認するときのゼルニケ再構築の次数より高くなることができ、特に次数は1だけ増加され得る。例えば、7次のゼルニケ再構築が行われ得る。サブセットの1つに対する最小係数標準偏差が、すべてのチャンクにわたる係数標準偏差未満である場合、関連のあるサブセットは、したがって前のデータの全体を置き換えることができる。品質チェックの結果として、したがって1つのチャンクの位置値が削除された、縮小された位置値のセットを用いて続行することが可能である。品質チェックは、(残りの)データ全体の係数標準偏差が、サブセットのそれぞれの係数標準偏差未満になるまで、反復的に続行され得る。
【0047】
眼構造の形状(例えば角膜表面のトポグラフィ)は、変位関数に基づいて補正された、位置値に基づいて再構築され得る。この目的のために、ゼルニケ再構築が補正された位置値に適用され得る。ゼルニケ再構築の次数は、変位関数を確認するときにそれを用いて表面形状が表される、ゼルニケ多項式の次数より高くなり得る。例えば、ゼルニケ再構築は、10次までのゼルニケ多項式を用いて実行され得る。
【0048】
ユーザにとって有用な他の情報、例えば角膜の前側及び後側の曲率マップ、並びに角膜厚さのマップ表示がそれから導き出され得る。また動き補正された断面像が計算されることができ、又は他の眼構造、例えば眼球の水晶体が動きなしに測定され得る。
【0049】
本発明はさらに関連した測定システムに関する。測定システムは、測定ビームと、測定ビームを横方向に偏向させるためのスキャニング装置とを備える。検出器を用いて、測定ビームによって生成された信号から眼構造の位置値のセットが生成され、位置値には、測定期間内のタイムスタンプがそれぞれ付与される。評価ユニットは、表面形状を確認するように、及び変位関数を確認するように設計され、変位関数は、測定期間の間の動きのシーケンスを表し、表面形状及び変位関数は、表面形状が変位関数に従って移動されるとき、位置値が表面形状によって近似されるように確認される。
【0050】
測定システムは、本発明による方法との関連において述べられる他の特徴を用いて精緻化され得る。方法は、本発明による測定システムとの関連において述べられる他の特徴を用いて精緻化され得る。
【0051】
本発明は、本明細書の以下で有利な実施形態に基づいて、添付の図面を参照として例として述べられる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】本発明による測定システムの概略説明図である。
【
図2】本発明によるスキャニング曲線を示す図である。
【
図3】X方向及びY方向でのスキャニング装置の
図2に関連付けられた偏向を示す図である。
【
図4】X方向、Y方向、及びZ方向におけるオブジェクトの実際の変位を示す図である。
【
図5】本発明による方法を用いて確認された、
図4に関連付けられた変位関数を示す図である。
【
図6】位置値のセットのグラフ表示を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
人の眼の形での測定オブジェクト14は、
図1に示されるOCT測定システムを用いてスキャンされる。OCT光15が測定オブジェクト14に方向付けられるという点で、測定オブジェクト14の深さへのOCTビームの軸線に沿って延びる画像情報が取得される(Aスキャン)。OCTビームが測定オブジェクト14の上をそれと垂直の方向にスキャンされるという点で、測定オブジェクト14の3次元画像が複数のAスキャンから編集され得る。眼のスキャニングが占める時間スパンの間、眼が動く場合があり、これは画像情報の品質に悪影響を及ぼし得る。
【0054】
OCTシステムは、スウェプトソース光源として設計されたOCT光源16を備える。スウェプトソース光源16は、スペクトル的にチューニング可能な狭帯域光を生成する。したがって各時点において、狭帯域光が放射され、その周波数は、スウェプトソース光源がチューニング時間の間に周波数範囲にわたってチューニングされるように、時間と共に変化する。
【0055】
OCT光源16によって放射されたOCT光15は、ファイバカプラ18まで延びる第1の光導波路17に供給される。ファイバカプラ18において、第1の光導波路17からのOCT光15は、オブジェクトビーム経路23と、基準ビーム経路24とに分割される。オブジェクトビーム経路23は、オブジェクトアームに沿って測定オブジェクト14まで延びる。基準ビーム経路24は、基準アームに沿って基準ミラー25まで延びる。
【0056】
オブジェクトアームは、ファイバカプラ18から出口端22まで延びる第2の光導波路21を備える。出口端22において、オブジェクトビーム経路23は第2の光導波路21から発散状態で出て行き、コリメーションレンズ26を用いてコリメートされた状態にされる。
【0057】
スキャニング装置は、互いに直交する2つの軸線の周りに回転可能な、2つのスキャニングミラー27、28を備える。オブジェクトビーム経路23は、スキャニング装置27、28を通じて対物レンズ29まで導かれる。オブジェクトビーム経路23は、対物レンズ29を通過し、測定オブジェクト14の領域に焦点が合わされる。
【0058】
オブジェクトビーム経路23が対物レンズ29に入射する方向は、スキャニングミラー27、28を回転させることによって変化する。第2のスキャニングミラー28は対物レンズ29の焦点に配置されるので、ビーム経路23は、対物レンズ29と測定オブジェクト14との間に、スキャニング装置27、28の位置とは無関係に、対物レンズ29の光軸線に並行に延びる。
【0059】
測定オブジェクト14から反射されたOCT光は、オブジェクトアーム19に沿って反対の伝搬方向に移動して、ファイバカプラ18に戻る。
【0060】
基準アームは、ファイバカプラ18から第2の偏光板32を通じて出口端33まで延びる、第3の光導波路31を備える。出口端33から発散状態で出て行く基準ビーム経路24は、コリメーションレンズ34に入射する。コリメーションレンズ34から、基準ビーム経路24は、コリメートされた状態で基準ミラー25まで伝搬する。基準ミラー25から反射されたOCT光は、基準アーム20に沿って反対の伝搬方向に進んで、ファイバカプラ18に戻る。
【0061】
基準ミラー25は、ファイバカプラ18と、基準アーム20内の基準ミラー25との間の光路が、ファイバカプラ18と、測定オブジェクト14内の基準点との間のオブジェクトアーム19内の光路と等しい長さになるように配置される。OCT光は、オブジェクトアーム19と基準アーム20とに沿って同じ光路に及んでいるので、オブジェクトビーム経路23と基準ビーム経路24とがファイバカプラ18において再び一緒にされたとき、結果として干渉信号を生じる。測定オブジェクト14の内部の特定の構造から、より多くのOCT光が反射されるほど、干渉信号はより強くなる。測定オブジェクト14の内部の散乱中心は、干渉信号を評価することによって特定され得る。
【0062】
散乱中心が、オブジェクトビーム経路の基準点に正確に配置された場合、オブジェクトビーム経路23と、基準ビーム経路24の光路は、したがって厳密に長さが等しく、それにより定在する干渉信号が結果として生じる。散乱中心が基準点から遠い場合、干渉信号は、したがって振動し(スペクトル表示において)、基準点までの距離が大きいほど、周波数はより高くなる。
【0063】
干渉信号は、第4の光導波路12を通じて検出器36に導かれる。干渉信号は検出器36を用いて記録され、位置的に分解された画像情報に変換される。
【0064】
図2は、それに沿って測定ビーム15が、眼14に対して、スキャニング装置27、28の制御のもとで、X方向及びY方向に移動する曲線を示す。
図2でスキャンされる円の半径は、4mmである。人の眼の角膜は、8mmの直径の円によって包括され得る。
【0065】
図2による曲線は、スキャニング装置27、28が、
図3に示される曲線に従ってX方向及びY方向に駆動されることで、測定ビーム15によって通過され得る。駆動は以下の関数に従って生じ、そのパラメータは上記でより詳しく説明された。
【数13】
【0066】
この曲線は、スキャニングミラー27、28の突然の方向変化が避けられるので、高速に通過され得るという利点を有する。曲線の単一のパスは、0.546秒にわたって延びる。
【0067】
Aスキャンが30kHzの周波数で記録される場合は、したがって
図2に示される曲線のパス当たり、16,384個のAスキャンが結果として生じる。この例示的実施形態において、曲線は4回通過されて位置値のセットを記録し、その結果合計65,536個のAスキャンが記録され、測定は2.184秒の持続時間にわたって延びる。
【0068】
検出器36を用いた測定の間に確認される画像情報は、
図6にグラフで表され、ここで65,536個のAスキャンの一部は、連続した断面像が結果として生じるように、互いに隣り合って配置される。測定は16個の時系列的に連続するチャンク35に分割され、
図6にはその1つが完全に示され、2つの隣り合うものが部分的に示される。
【0069】
測定において、妥当な測定値を有する大きな区間36と、その間に眼がまぶたで覆われた妥当でない測定値を有するより小さな区間37とがある。妥当でない区間37の測定値は、チャンク35から削除される。低減された数のAスキャンが残り、そのそれぞれにおいて、Z方向における角膜表面の位置についての位置情報が推論され得る。X方向及びY方向における測定ビーム15の位置と一緒に、角膜表面の位置値のセットが結果として生じる。
【0070】
本発明による方法を用いて、表面形状と、断片的多項式の形での変位関数38とが位置値から確認される。変位関数38及び表面形状を確認するための個々の方法ステップは、上記でより詳しく説明された。様々なチャンク35の位置値の間の関係は、変位関数38によって並進変位として記述される。
【0071】
図5は、X方向、Y方向、及びZ方向におけるこのような変位関数38の例を示す。重ねて配置された3つのグラフのそれぞれにおいて、ミクロンでの並進が、秒での時間にわたってプロットされている。変位曲線38は、測定オブジェクト14の実際の動きが
図4に示される進路を有する、実験から生じる。変位38は、動きの実際の進路を良好に再現していることが示される。
【0072】
変位関数38から、位置値の記録の間に、眼がどのように並進変位されたかが読み取られ得る。位置値は、変位関数38によって確認される並進が補償されるように、変位関数に従って互いに対して変位され得る。角膜の表面を記述する、動き補正された位置値のセットが結果として生じる。
【0073】
この位置値のセットから、高次ゼルニケ再構築(例えば10次)を用いて、角膜のトポグラフィが再構築され得る。動き補正された断面像が計算されることができ、又は他の眼構造、例えば眼球の水晶体が動きなしに測定され得る。
【国際調査報告】