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特表2022-507339非磁性オーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法
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  • 特表-非磁性オーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法 図1
  • 特表-非磁性オーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(54)【発明の名称】非磁性オーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220111BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20220111BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/58
C21D9/46 Q
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021525856
(86)(22)【出願日】2019-10-31
(85)【翻訳文提出日】2021-05-12
(86)【国際出願番号】 KR2019014538
(87)【国際公開番号】W WO2020101227
(87)【国際公開日】2020-05-22
(31)【優先権主張番号】10-2018-0138491
(32)【優先日】2018-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,キョン‐フン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジ オン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ハク
(72)【発明者】
【氏名】カン,ヒョン‐グ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジ ス
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA05
4K037EA12
4K037EA13
4K037EA15
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA21
4K037EA27
4K037EA28
4K037EB05
4K037EB07
4K037EB09
4K037FA03
4K037FB00
4K037FF03
4K037FG00
4K037FG01
4K037JA06
(57)【要約】
【課題】製造時の熱間加工性に優れ、低い透磁率を有する非磁性オーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の非磁性オーステナイト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.01~0.05%、Si:1.5%以下、Mn:0.5~3.5%、Cr:17.0~22.0%、Ni:9.0~14.0%、Mo:1.0%以下、Cu:0.2~2.5%、N:0.05~0.25%、残りFe及び不可避な不純物からなり、下記式(1)及び(2)を満足することを特徴とする。
(1)0≦3*(Cr+Mo)+5*Si-65*(C+N)-2*(Ni+Mn)-27≦5
(2)660-500*(C+N)-10*Cr-30*(Ni+Si+Mo+Cu)≦0
(ここで、Cr、Mo、Si、C、N、Ni、Mn、Cuは、各元素の含量(重量%)を意味する)
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.01~0.05%、Si:1.5%以下、Mn:0.5~3.5%、Cr:17.0~22.0%、Ni:9.0~14.0%、Mo:1.0%以下、Cu:0.2~2.5%、N:0.05~0.25%、残りFe及び不可避な不純物からなり、
下記式(1)を満足することを特徴とする非磁性オーステナイト系ステンレス熱延焼鈍鋼板。
(1)0≦3*(Cr+Mo)+5*Si-65*(C+N)-2*(Ni+Mn)-27≦5
(ここで、Cr、Mo、Si、C、N、Ni、Mnは、各元素の含量(重量%)を意味する)
【請求項2】
透磁率1.05以下及び硬度170Hv以上であることを特徴とする請求項1に記載の非磁性オーステナイト系ステンレス熱延焼鈍鋼板。
【請求項3】
表面クラック個数が単位メートル(m)当たり0.3個以下であることを特徴とする請求項1に記載の非磁性オーステナイト系ステンレス熱延焼鈍鋼板。
【請求項4】
重量%で、C:0.01~0.05%、Si:1.5%以下、Mn:0.5~3.5%、Cr:17.0~22.0%、Ni:9.0~14.0%、Mo:1.0%以下、Cu:0.2~2.5%、N:0.05~0.25%、残りFe及び不可避な不純物からなり、
下記式(1)及び(2)を満足することを特徴とする非磁性オーステナイト系ステンレス冷延鋼板。
(1)0≦3*(Cr+Mo)+5*Si-65*(C+N)-2*(Ni+Mn)-27≦5
(2)660-500*(C+N)-10*Cr-30*(Ni+Si+Mo+Cu)≦0
(ここで、Cr、Mo、Si、C、N、Ni、Mn、Cuは、各元素の含量(重量%)を意味する)
【請求項5】
前記冷延鋼板は、圧下率60%以上の冷間圧延材であり、
透磁率1.05以下及び硬度350Hv以上であることを特徴とする請求項4に記載の非磁性オーステナイト系ステンレス冷延鋼板。
【請求項6】
重量%で、C:0.01~0.05%、Si:1.5%以下、Mn:0.5~3.5%、Cr:17.0~22.0%、Ni:9.0~14.0%、Mo:1.0%以下、Cu:0.2~2.5%、N:0.05~0.25%、残りFe及び不可避な不純物からなるスラブを熱間圧延及び焼鈍熱処理して熱延焼鈍鋼板を製造するステップ、及び前記熱延焼鈍鋼板を60%以上の圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を製造するステップ、を含み、
前記スラブは、下記式(1)及び(2)を満足し、
前記熱延焼鈍鋼板及び前記冷延鋼板の透磁率は、1.05以下であることを特徴とする非磁性オーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
(1)0≦3*(Cr+Mo)+5*Si-65*(C+N)-2*(Ni+Mn)-27≦5
(2)660-500*(C+N)-10*Cr-30*(Ni+Si+Mo+Cu)≦0
(ここで、Cr、Mo、Si、C、N、Ni、Mn、Cuは、各元素の含量(重量%)を意味する)
【請求項7】
前記熱延焼鈍鋼板の硬度は、170Hv以上であり、
前記冷間圧延により硬度が150Hv以上増加されることを特徴とする請求項6に記載の非磁性オーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非磁性オーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法に係り、より詳しくは、製造時の熱間加工性に優れ、低い透磁率を有する非磁性オーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、多様な機能を有するスマート器機の出現によって電子機器に用いられる素材にも器機の機能に影響を及ぼし得る因子に対する新しい要求が強化されている。特に、電気効率の向上及び誤作動防止のための磁性低減に対する要求が増加している。300系ステンレス鋼は、オーステナイト相の非磁性特性により恒常的に非磁性特性を示すので、このような電磁器機用素材として広く用いられている。
【0003】
一方、300系ステンレス鋼は、凝固時にデルタ-フェライトが形成される。凝固時に形成されたデルタ-フェライトは、結晶粒の成長を抑制し、熱間加工性を向上させる効果がある。一般的に、デルタ-フェライトは、熱処理を通じて1,300~1,450℃温度範囲で安定的に分解することができる。しかし、デルタ-フェライトが圧延及び焼鈍工程でも完全に除去されず残留する場合があり、残留したデルタ-フェライトにより磁性が生じて電磁器機用材料として用いられないという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的とするところは、オーステナイト系ステンレス鋼の磁性形成及び熱間加工性の低下を防止するために凝固時に形成されるデルタ-フェライトの含量を制御し、加工硬化工程でもマルテンサイト変態による磁性発生を抑制することができる非磁性オーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の非磁性オーステナイト系ステンレス熱延焼鈍鋼板は、重量%で、C:0.01~0.05%、Si:1.5%以下、Mn:0.5~3.5%、Cr:17.0~22.0%、Ni:9.0~14.0%、Mo:1.0%以下、Cu:0.2~2.5%、N:0.05~0.25%、残りFe及び不可避な不純物からなり、下記式(1)を満足することを特徴とする。
(1)0≦3*(Cr+Mo)+5*Si-65*(C+N)-2*(Ni+Mn)-27≦5
ここで、Cr、Mo、Si、C、N、Ni、Mnは、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0006】
前記熱延焼鈍鋼板は、透磁率1.05以下及び硬度170Hv以上であることがよい。
前記熱延焼鈍鋼板の表面クラック個数が単位メートル(m)当たり0.3個以下であることが好ましい。
【0007】
本発明の非磁性オーステナイト系ステンレス冷延鋼板は、重量%で、C:0.01~0.05%、Si:1.5%以下、Mn:0.5~3.5%、Cr:17.0~22.0%、Ni:9.0~14.0%、Mo:1.0%以下、Cu:0.2~2.5%、N:0.05~0.25%、残りFe及び不可避な不純物からなり、下記式(1)及び(2)を満足することを特徴とする。
(1)0≦3*(Cr+Mo)+5*Si-65*(C+N)-2*(Ni+Mn)-27≦5
(2)660-500*(C+N)-10*Cr-30*(Ni+Si+Mo+Cu)≦0
ここで、Cr、Mo、Si、C、N、Ni、Mn、Cuは、各元素の含量(重量%)を意味する。
前記冷延鋼板は、圧下率60%以上の冷間圧延材であり、透磁率1.05以下及び硬度350Hv以上であることがよい。
【0008】
本発明の非磁性オーステナイト系ステンレス鋼の製造方法は、重量%で、C:0.01~0.05%、Si:1.5%以下、Mn:0.5~3.5%、Cr:17.0~22.0%、Ni:9.0~14.0%、Mo:1.0%以下、Cu:0.2~2.5%、N:0.05~0.25%、残りFe及び不可避な不純物からなるスラブを熱間圧延及び焼鈍熱処理して熱延焼鈍鋼板を製造するステップ、及び前記熱延焼鈍鋼板を60%以上の圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を製造するステップ、を含み、前記スラブは、下記式(1)及び(2)を満足し、前記熱延焼鈍鋼板及び前記冷延鋼板の透磁率は、1.05以下であることを特徴とする。
(1)0≦3*(Cr+Mo)+5*Si-65*(C+N)-2*(Ni+Mn)-27≦5
(2)660-500*(C+N)-10*Cr-30*(Ni+Si+Mo+Cu)≦0
ここで、Cr、Mo、Si、C、N、Ni、Mn、Cuは、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0009】
前記熱延焼鈍鋼板の硬度は、170Hv以上であり、前記冷間圧延により硬度が150Hv以上増加されることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、本発明の非磁性オーステナイト系ステンレス鋼は、熱間加工性の低下なしにデルタ-フェライトの形成を抑制して非磁性特性を確保することができる。また、加工誘起マルテンサイトの生成を抑制して強度向上のための加工硬化時に磁性の形成を防止することができる。
磁性の抑制は、スマート器機での通信エラー防止及び電力効率上昇の効果をもたらし、加工硬化を通じた強度の向上は、部品の軽量化に寄与できるので、スマート器機の重さを低減する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例の式(1)による熱延焼鈍鋼板の表面クラック個数分布を示すグラフである。
図2】本発明の実施例の式(2)による冷延鋼板の透磁率分布を示すラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施例による非磁性オーステナイト系ステンレス熱延焼鈍鋼板は、重量%で、C:0.01~0.05%、Si:1.5%以下、Mn:0.5~3.5%、Cr:17.0~22.0%、Ni:9.0~14.0%、Mo:1.0%以下、Cu:0.2~2.5%、N:0.05~0.25%、残りFe及び不可避な不純物からなり、下記式(1)を満足することを特徴とする。
(1)0≦3*(Cr+Mo)+5*Si-65*(C+N)-2*(Ni+Mn)-27≦5
ここで、Cr、Mo、Si、C、N、Ni、Mnは、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0013】
以下、本発明の実施例について添付図面を参照して詳細に説明する。
以下の実施例は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有した者に本発明の思想を充分に伝達するために提示するものである。本発明は、ここで提示した実施例に限定されず、他の形態で具現化できる。図面は、本発明を明確にするために説明と関係ない部分の図示を省略し、理解を助けるために構成要素のサイズを多少誇張して表現することがある。
【0014】
本発明の一実施例による非磁性オーステナイト系ステンレス板は、重量%で、C:0.01~0.05%、Si:1.5%以下、Mn:0.5~3.5%、Cr:17.0~22.0%、Ni:9.0~14.0%、Mo:1.0%以下、Cu:0.2~2.5%、N:0.05~0.25%、残りFe及び不可避な不純物からなる。
以下、本発明の実施例での合金元素含量の数値限定理由について説明する。以下では、特に言及がない限り、単位は、重量%である。
【0015】
Cの含量は、0.01~0.05%である。
Cは、強力なオーステナイト相の安定化元素であって、凝固時だけでなく加工硬化時にも磁性増加の抑制に有効な元素である。オーステナイト相の安定化効果のために0.01%以上添加する必要がある。しかし、含量過多時には粒界で耐食性に有効なCrと結合し、炭化物を形成するので、結晶粒界周囲のCr含量を低下させて腐食抵抗性を減少させる虞がある。したがって、十分な耐食性を確保するためにCの含量を0.05%以下に制限する必要がある。
【0016】
Siの含量は、1.5%以下である。
Siは、耐食性の向上に効果を示すが、フェライト相の安定化元素として磁性を発生させる問題がある。また、Si含量が過多な場合、σ相などの金属間化合物の析出を助長して機械的特性及び耐食性を低下させるので、1.5%以下に制限することが好ましい。
【0017】
Mnの含量は、0.5~3.5%である。
Mnは、C、Niのようなオーステナイト相の安定化元素であって、非磁性の強化に有効である。しかし、Mn含量の増加は、MnSなどの介在物を形成し、耐食性を低下させ、表面光沢を低下させる虞があるので、Mn含量を0.5~3.5%に制限することが好ましい。
【0018】
Crの含量は、17.0~22.0%である。
Crは、ステンレス鋼の耐食性の向上のために最も重要な元素である。十分な耐食性の確保のために17.0%以上含むことが好ましいが、Crがフェライト相の安定化元素であるので、非磁性鋼では添加を制限する必要がある。Crの含量が高くなると、フェライト相の分率が増加し、非磁性特性を得るために多量のNiが含まれなければならないので、費用が増加し、σ相の形成が助長されて機械的物性及び耐食性低下の原因になる。したがって、Cr含量は、22.0%以下に制限することが好ましい。
【0019】
Niの含量は、9.0~14.0%である。
Niは、オーステナイト相の安定化元素のうち最も強力な元素であって、非磁性特性を得るためには、9.0%以上含有する必要がある。しかし、Ni含量の増加は、原料価格の上昇と直結するので、14.0%以下に制限することが好ましい。
【0020】
Moの含量は、1.0%以下である。
Moは、耐食性の向上に有用な元素であるが、フェライト相の安定化元素であって、多量添加するとき、フェライト相の分率が増加して非磁性特性を得にくい。また、σ相の形成が助長されて機械的物性及び耐食性低下の原因になるので、1.0%以下に制限することが好ましい。
【0021】
Cuの含量は、0.2~2.5%である。
Cuは、オーステナイト相の安定化に有用な元素であって、高価のNiの代替して用いることができる。非磁性の確保及び原価低減のために0.2%以上添加する必要がある。しかし、多量添加するとき、低融点の相を形成して熱間加工性を低下させて表面品質を劣化させる虞がある。したがって、Cuの含量は、2.5%以下に制限することが好ましい。
【0022】
Nの含量は、0.05~0.25%である。
Nは、オーステナイト相の安定化に有用な元素であって、非磁性の確保のために必須な元素である。したがって、0.05%以上添加する必要がある。しかし、多量添加したとき、熱間加工性を低下させて鋼の表面品質を劣化させるので、0.25%以下に制限することが好ましい。
【0023】
上述した合金元素を除いたステンレス鋼の残りは、Fe及びその他不可避な不純物からなる。
一般的に、300系ステンレス鋼は、大部分オーステナイト相で構成され、凝固時に形成された一部のフェライト上が残存する微細組織として現われる。300系ステンレス鋼でフェライト相は、凝固時に粒界偏析防止及び再加熱時の結晶粒成長を抑制して熱間加工性の向上に効果的である。したがって、通常の304、316鋼種の場合も凝固時にフェライト相が形成され、製品でも一部フェライト相を含んでいる。
【0024】
一方、300系ステンレス鋼の組織内に存在するオーステナイト相は、面心立方形構造として磁性を帯びないが、フェライト相は、体心立方形構造を有する組織の特性によって磁性を帯びることになる。したがって、残存するフェライト相の含量によって磁性を示して電子製品用に適用が制限され得る。このような理由で、非磁性鋼の場合には、フェライト相の分率を最大限低くするか、無くすことが必須である。
残留するフェライト相の含量は、合金成分及び焼鈍熱処理の影響を大きく受ける。300系ステンレス鋼で凝固時に形成されるフェライト含量は、Ni、Mn、C、Nなどオーステナイト相を安定化させる成分元素とフェライト相を安定化させるCr、Moなどの成分元素の含量に影響を受ける。凝固時に生成されたフェライト相は、高温で不安定な状態なので熱間圧延と後続工程である焼鈍熱処理を通じて低減させることができる。多様な成分に対する連続鋳造及び熱延以後の後続工程により分解される程度を考慮した残留フェライト分率を評価した結果、式(1)のような残留フェライト含量についての式を導出した。
【0025】
(1)0≦3*(Cr+Mo)+5*Si-65*(C+N)-2*(Ni+Mn)-27≦5
式(1)が0未満の負の値を有する場合、熱間加工性の低下により表面にクラックが発生するようになる。図1は、式(1)による熱延焼鈍鋼板の単位メートル当たり表面クラック個数(個/m)分布を示すグラフである。図1に示したとおり、式(1)の値が0未満であるとき、クラック個数が0.3個/m以上となり、クラックが頻繁に発生することが確認できる。
【0026】
一方、透磁率1.05以下の非磁性特性を確保するために熱延焼鈍鋼板の残留フェライト分率は、1%以下に制限される。式(1)の値が5を超過する場合、残留フェライト分率が1%以上になる。このことから、本発明では、式(1)の値が0~5の範囲を有するとき熱間加工性の低下なしに非磁性特性を満足するオーステナイト系ステンレス鋼が製造できる。
一方、オーステナイト系ステンレス鋼は、加工硬化時にマルテンサイト相の形成により磁性が発生する。加工硬化は、素材の強度を高めるために適用する工程でだけではなく、製品形状を作るための成形時にも発生することになる。磁性が増強した場合、家電製品用での使用が制限されるので、磁性の増強を抑制する必要がある。
【0027】
加工硬化による磁性の増強を防止するために、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、式(2)を満足することが好ましい。
(2)660-500*(C+N)-10*Cr-30*(Ni+Si+Mo+Cu)≦0
式(2)の値が0超過の正の値を示すと、冷間加工時にマルテンサイト変態が起きるようになる。本発明による非磁性オーステナイト系ステンレス冷延鋼板は、式(2)を満足する場合、60%以上の冷延時にも加工誘起マルテンサイト相の形成を抑制することができるので、透磁率1.05以下の最終冷延材を提供することができる。
【0028】
次に、本発明の一実施例による非磁性オーステナイト系ステンレス鋼の製造方法について説明する。
本発明による非磁性オーステナイト系ステンレス鋼の製造方法は、オーステナイト系ステンレス鋼の一般的な工程を通じて製造することができる。熱延焼鈍熱処理後の残留フェライト分率の低下、及び冷延時の加工誘起マルテンサイト相の形成の防止のためには、合金元素の組成の制御が重要である。
【0029】
本発明の一実施例による非磁性オーステナイト系ステンレス鋼の製造方法は、重量%で、C:0.01~0.05%、Si:1.5%以下、Mn:0.5~3.5%、Cr:17.0~22.0%、Ni:9.0~14.0%、Mo:1.0%以下、Cu:0.2~2.5%、N:0.05~0.25%、残りFe及び不可避な不純物からなるスラブを熱間圧延及び焼鈍熱処理して熱延焼鈍鋼板を製造するステップ、及び前記熱延焼鈍鋼板を60%以上の圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を製造するステップ、を含むことができる。
式(1)を満足することで、熱延焼鈍鋼板は、透磁率1.05以下を示すことができ、式(2)を満足することで、冷延鋼板の透磁率も1.05以下を示すことができる。
【0030】
本発明の一実施例によると、熱延焼鈍鋼板の硬度は、170Hv以上であることができ、冷延時に加工誘起マルテンサイト相の形成を抑制することができるので、60%冷延条件で150Hv以上の硬度増加を確保することができる。
熱延焼鈍鋼板及び冷延鋼板の硬度増加は、C及びNのような侵入型元素の添加に起因する。通常の300系ステンレス鋼は、マルテンサイト変態を通じて強度増加を示すが、本発明では磁性の増強を抑制するために、このような変態現象を制限し、侵入型元素の添加による固溶強化効果を極大化する。これにより、熱延焼鈍材の硬度を増加させ、冷間加工時の転位ピンニング(dislocation pinning)現象により強度の増加を確保することができる。
【実施例
【0031】
以下、本発明の好ましい実施例を通じてより詳しく説明する。
<1.熱間加工性及び非磁性の評価>
表1に記載した合金組成を有する鋼を連続鋳造工程により200mm厚さのスラブに鋳造した後、熱延及び焼鈍熱処理工程を行って熱延焼鈍鋼板を製造した。熱間圧延は、1,250℃で2時間加熱した後、6mm厚さまで圧延を実施し、熱延鋼板を1,150℃で焼鈍熱処理した後、特性評価を実施した。
【0032】
【表1】
【0033】
表2は、6mm熱延コイルの表面クラック個数と透磁率、そして2.4mm厚さで60%冷間圧延した後の冷延鋼板の透磁率を評価した結果である。表面クラックの個数は、6mm厚さのコイルで全体表面クラック個数をコイル長さで分けて単位メートル当たりクラック個数を求めたものであって、通常どおり、0.3個以下のクラックを有するとき、表面品質優秀材であると判断する。透磁率は、接触式フェロメータを用いて測定し、通常、電子製品用で用いるためには1.05以下の値が要求される。
【0034】
【表2】
【0035】
表1及び表2に示したとおり、1~18鋼種の熱延焼鈍鋼板は、式(1)の値が0以上の正の値を有するとき、表面クラック個数が0.24個/m以下であって、良好な表面品質を示した。一方、24~31鋼種は、式(1)の値が負の値を有しており、クラック個数が増加した。
透磁率も式(1)の値が5以下であるとき、1.05以下の値が測定され、一方、5超過の場合には、残留フェライト分率が過多であり、1.05超過の透磁率を示した。
以上の結果から、熱間加工性の問題なしに電子製品用途の使用に適合なレベルの透磁率を得るためには、式(1)の範囲が0~5範囲を有する必要があることが確認できた。式(1)によるクラック個数の発生分布を図1に示した。
【0036】
式(1)を満足する1~18鋼種のうち1~14鋼種のみ式(2)を同時に満足する。1~14鋼種は、式(2)も満足することによって、60%圧下率の冷間圧延時にも加工誘起マルテンサイト相の形成が抑制されて最終冷延鋼板の透磁率が増加せず1.05以下を満たした。しかし、15~18鋼種は、式(1)を満足して熱延焼鈍鋼板の透磁率は、1.05以下であったが、式(2)の値が正の値を示して冷間圧延後の透磁率が増加した。このことから冷間圧延時に加工誘起マルテンサイト相が形成されたことが分かった。
19~23鋼種は、式(1)の値が5を超過して透磁率が1.05以上に該当する。そのうち19~22鋼種は、式(2)の値も正の値を有して透磁率の増加幅が大きいことが分かり、そこから加工誘起マルテンサイト相の形成を類推することができた。23鋼種は、合金組成が本発明の範囲を満足するが、式(1)の不満足によって熱延焼鈍鋼板の透磁率が高く、式(2)の満足によって透磁率の増加が大きくはなかった。
【0037】
24~31鋼種は、式(1)の値が負の値を示して熱間加工性が低下した場合を示している。24~30鋼種は、熱間加工性の低下による高い表面クラック個数にもかかわらず冷延工程を実施した結果、式(2)を満足して透磁率の増加は非常に小さかった。しかし、31鋼種は、表面クラック個数が高いが、熱延焼鈍鋼板の透磁率が1.004と非常に低いレベルであったが、式(2)の値が高くて透磁率が1.081とかなり増加したことが確認できた。
このように、式(2)の値が0以下を満足するとき、60%以上冷延工程で加工誘起マルテンサイト相の生成を抑制して非磁性特性を維持し得ることが確認できた。図2に本実施例を土台に式(2)による透磁率分布をグラフで示した。
<2.硬度評価>
【0038】
表3は、前記1~14鋼種の6mm熱延コイルと2.4mmで60%冷間圧延した後の冷延鋼板それぞれの硬度を評価した結果である。
【0039】
【表3】
【0040】
本発明の合金組成を満足する1~14鋼種の熱延焼鈍鋼板の硬度は、170Hv以上を示し、60%冷間圧延後に最小150Hv以上の硬度増加を示した。最終冷延材は、加工誘起マルテンサイト相の生成なしにも350Hv以上の優れた硬度を示し、電子製品用途への使用時に十分な硬度を確保できることを確認した。
【0041】
以上、本発明の例示的な実施例を説明したが、本発明はこれに限定されず、該当技術分野において通常の知識を有した者であれば、次に記載する特許請求の範囲の概念と範囲を脱しない範囲内で多様に変更及び変形が可能であることを理解すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によるオーステナイト系ステンレス鋼は、非磁性及び高強度特性を具現化することが可能なので、多様化するスマート器機などの非磁性特性が要求される分野に多様に適用することができる。
図1
図2
【国際調査報告】