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特表2022-507369抗体の連続的製造のためのウイルス不活化方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(54)【発明の名称】抗体の連続的製造のためのウイルス不活化方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/06 20060101AFI20220111BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220111BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20220111BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220111BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20220111BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
C12N7/06
A61K45/00
A61K38/00
A61K39/395
A61K47/26
A61K47/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021526241
(86)(22)【出願日】2019-11-14
(85)【翻訳文提出日】2021-07-09
(86)【国際出願番号】 US2019061436
(87)【国際公開番号】W WO2020102505
(87)【国際公開日】2020-05-22
(31)【優先権主張番号】62/767,652
(32)【優先日】2018-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】507021757
【氏名又は名称】バイエル・ヘルスケア・エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Bayer HealthCare LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】リー,ジャニス・シウ・メイ
(72)【発明者】
【氏名】リュウ,シェンジアン
(72)【発明者】
【氏名】ゾウ,ジュネ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C085
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065BA14
4B065BB06
4B065BB07
4B065BB12
4B065CA44
4C076AA11
4C076DD08F
4C076DD41Z
4C076DD67
4C076EE23F
4C076FF67
4C076GG43
4C084AA06
4C084AA17
4C084NA06
4C084NA07
4C085AA13
4C085BA01
4C085BB01
4C085DD33
4C085EE01
(57)【要約】
本発明は、生物製剤の連続製造におけるウイルス不活化のために使用される方法を含む。この方法はカラムを用いて生物学的ウイルスおよび活性ウイルスで溶出液を分離すること、活性ウイルスでの溶出液を低pHの直交処理および非イオン性界面活性剤に同時に供してウイルスを不活化することを含み、溶出液のウイルス不活化のための時間は、低pHまたは非イオン性界面活性剤を別々に用いた溶出液の処理時間と比較して短縮され、生物学的物質は保持される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)カラムを用いて生物学的物質および活性なウイルスを含む溶出液を分離し、
(b)前記活性ウイルスを含む前記溶出液を、低pHおよびMega-10非イオン性界面活性剤の直交処理に同時に供し、前記ウイルスを不活化する、
生物製剤の連続プロセス製造に使用するためのウイルス不活化方法であって、
ここで、溶出液のウイルス不活化のための時間は、低pHまたはMega-10非イオン性界面活性剤を使用する溶出液の個別の処理時間と比較して減少しており、前記生物学的物質が保持される、前記ウイルス不活化方法。
【請求項2】
pHが3.0~4.0である、請求項1に記載のウイルス不活化方法。
【請求項3】
前記カラムがアフィニティーカラムを含む、請求項1に記載のウイルス不活化方法。
【請求項4】
前記アフィニティーカラムがプロテインAカラムを含む、請求項3に記載のウイルス不活化方法。
【請求項5】
生物学的物質がタンパク質を含む、請求項1に記載のウイルス不活化方法。
【請求項6】
生物学的物質が抗体を含む、請求項1に記載のウイルス不活化方法。
【請求項7】
生物学的物質が抗体断片を含む、請求項1に記載のウイルス不活化方法。
【請求項8】
前記溶出液が、1~100mg/mL(w/v)の生物学的物質を含む、請求項1に記載のウイルス不活化方法。
【請求項9】
ウイルスが、レトロウイルス科、フラウイルス科、トガウイルス科、コロナウイルス科、フィロウイルス科、ラブドウイルス科、ブニアウイルス科、オルトミクソウイルス科、パラミクソウイルス科、アレナウイルス科、ヘパドナウイルス科、ヘルペスウイルス科、バキュロウイルス科およびポックスウイルス科からなる群より選択されるファミリーにおけるエンベロープウイルスを含む、請求項1に記載のウイルス不活化方法。
【請求項10】
前記ウイルス不活化時間が60~120分から3~4分に短縮される、請求項1に記載のウイルス不活化方法。
【請求項11】
レトロウイルスがX-MuLVを含む、請求項9に記載のウイルス不活化方法。
【請求項12】
ヘルペスウイルス科がブタ仮性狂犬病ウイルス(PRV)を含む、請求項9に記載のウイルス不活化方法。
【請求項13】
前記Mega-10非イオン性界面活性剤の濃度が、0.05~1%(w/v)の範囲である、請求項1に記載のウイルス不活化方法。
【請求項14】
2~30℃で行うことを特徴とする請求項1に記載のウイルス不活化方法。
【請求項15】
溶出液が、Tween80、Tween20、またはTriton X-100界面活性剤をさらに含む、請求項1に記載のウイルス不活化方法。
【請求項16】
溶出液のpHが4.5である、請求項15に記載のウイルス不活化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景
本実施形態は、生物学的産物、特に抗体ベースの治療産物の連続製造中のウイルス不活化のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製造業者は規制当局に、それらの製造プロセスが、それらの生物学的治療製品中に存在し得るウイルス汚染物質の除去および/または不活化によって感染性ウイルスを除去する能力を有することを実証することを要求される。低pH処理による内因性または外因性の外来性エンベロープウイルスのいずれかの不活化は、単純で、低コストで、堅牢であるため、製造プロセスにおいて一般に実施される。低pHウイルス不活化は典型的にはタンパク質アフィニティー捕捉カラムから収集されたプールされた溶出液に対して実施され、低pH条件はプールされた溶出液に対する弱酸の滴定によって達成される。しかしながら、全ての抗体がこの低pH条件下で非常に安定であるわけではなく、凝集体を形成するので、処理はより高いpH範囲で行われなければならない。その結果、ウイルスの不活化はあまり強固でなくなり、ウイルス感染性の同じ対数減少を達成するためには、より長い処理時間が必要となる。
【0003】
低pHウイルス不活化以外に、アフィニティーカラムクロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィーおよびウイルス濾過が、抗体の製造におけるウイルス除去工程として一般に使用される。陰イオン交換クロマトグラフィーおよびウイルス濾過の両方が、エンベロープウイルスおよび非エンベロープウイルスの両方の除去において非常に有効であることが示されている。しかしながら、陰イオン交換クロマトグラフィーおよびウイルス濾過とは異なり、ウイルスの除去におけるプロテインA親和性の有効性は非常に限られている。したがって、検証されたウイルスクリアランス工程としてプロテインAアフィニティークロマトグラフィーを排除し、それをより単純かつより強固なウイルス不活化工程で置き換えることが望ましい。
【0004】
洗浄剤は、生物製剤の製造プロセスにおけるウイルス不活化のために以前から使用されている。清澄化された細胞培養上清への界面活性剤の添加はしばしば、エンベロープウイルスを不活化するために使用され、一方、抗体は、伝統的な溶媒または界面活性剤を介する低pH処理に対して不安定である。Triton X-100はエンベロープウイルスの不活化において非常に有効であり、強固であることが示されている。Triton X-100によるエンベロープウイルスの不活化のための一般的な条件も使用されている。しかし、Triton x-100の分解産物であるオクトリフェノールはヒト、魚類、および他の生物を害し、したがって環境に悪影響を及ぼす可能性を有する内分泌かく乱物質である。さらに、オクチルフェノール排出の定義された限界は0.01~0.1ppbであり、このことにより、生物製剤製造業者がバイオプロセス廃棄物流から除去するのに極めて高費用を要するであろう。
【0005】
バイオ医薬品産業において、バイオ医薬品産業の将来の要件を満たすために、バッチモードでの操作から連続製造へと移行する関心が高まっている。製造プロセスは、その間のホールド容積がゼロまたは最小限で統合された(物理的に接続された)連続的なユニット操作で構成されている場合、完全に連続したプロセスと見なされる。現在、標準的な抗体製造のほとんど全ての単位操作は、バッチプロセスにおいて現在実施されている低pHウイルス不活化工程を除いて、連続処理準備モードにある。一般に、プロテインAアフィニティーカラム捕捉工程の溶出液プールは、プールされたプロテインA溶出液に対する弱酸の滴定によって所望のpHに調整され、60~120分の必要な不活化時間の間、容器またはバッグに保持される。レトロウイルスの≧5.0logの有効な低pHウイルス不活化はpH≦3.6の条件下で、室温で、インキュベーション時間≧30分間(ASTM,2012)、達成され得たが、全てのモノクローナル抗体がこの低pH条件下で非常に安定であるわけではなく、凝集体を形成する。従って、ウイルス不活化処理はより高いpH(例えば、3.7~3.9)で行われなければならない。一般に、必要とされるpHが高く、不活化時間が長いほど、抗体の凝集による産物損失が高くなり、これは連続プロセスに適応する際の課題を表す。したがって、課題はフローモードでのウイルス不活化時間をバッチモードと同様に正確に制御しながら、バッチモードでの低pHウイルス不活化を連続プロセスに変換することである。
【0006】
低pHウイルス不活化および流出溶出液のための典型的な滞留時間(1~2時間)に適応するために、連続的な低pHウイルス不活化のための単位操作を開発するために、長くて狭いパイプが必要とされる。しかし、このような単位操作は、高い背圧および広い滞留時間分布を生じ、その結果、管壁に近い抗体分子についてより長い滞留時間を生じる。これは、低pH処理のための無限に長い滞留時間に起因して、抗体凝集体の形成に有利なモノマーの劇的な減少を引き起こし得る。現在、これらの問題に対処するために、狭い滞留時間のヘリックスモジュールと90度曲がりから成る「コイルドフローインバータ」(CFI)が提案されている。必要とされているのは、連続的なウイルス不活化の操作のための狭い滞留時間分布を有するより正確な処理システムである。これらおよび他の問題は、本実施形態によって対処された。
【0007】
概要
実施形態は、生物製剤の連続製造におけるウイルス不活化のために使用される方法を含む。この方法はカラムを用いて生物学的ウイルスおよび活性ウイルスで溶出液を分離すること、活性ウイルスでの溶出液を低pHの直交処理および非イオン性界面活性剤に同時に供してウイルスを不活化することを含み、溶出液のウイルス不活化のための時間は、低pHまたは非イオン性界面活性剤を別々に用いた溶出液の処理時間と比較して短縮され、生物学的物質は保持される。
【0008】
図面の簡単な説明
当業者は、以下に記載される図面が例示目的のみのためであることを理解するのであろう。図面は、本教示または特許請求の範囲をいかなる形でも限定することを意図していない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
[図1]
[図2]
[図3]
[図4]
[図5]
[図6]
[図7]
[図8]
【発明を実施するための形態】
【0010】
詳細説明
本開示は、ウイルス不活化に関する方法および組成物を提供する。
(定義)
本明細書を解釈するために、以下の定義が適用される。
以下に記載される定義が、参照により本明細書に組み込まれる文書を含む他の文書中の当該語句の使用と矛盾する場合、以下に記載される定義は反義的な意味が明確に意図されない限り(例えば、用語が最初に使用される文書中)、本明細書およびその関連するクレームを解釈する目的で常に管理されるものとする。
【0011】
必要に応じて、単数形で使用される用語には複数形も含まれ、その逆も同様である。ここでの「a」の使用は、特に明記されていない限り、または「1つ以上」の使用が明らかに不適切である場合を除き、「1つ以上」を意味する。「または」の使用は、特に明記しない限り、「および/または」を意味する。「含む」、「含む」、「含んでいる」、「含有する」、「含有している」、および「包含する」の使用は交換可能であり、限定的ではない。「など」、「たとえば」、「など」という用語もまた、制限することを意図していない。たとえば、「含む」という用語は、「含むがこれに限定されない」ことを意味する。
【0012】
本明細書中で使用される場合、用語「約」は、提供される単位値の+/―10%を意味する。
【0013】
本明細書で使用される場合、「実質的に」という用語は、関心のある特性または特性の全体的またはおおよその程度を示す定性的条件を指す。生物学的および化学的組成物および材料の試験、製造、および保管に影響を与える多くの変数のために、または、生物学的および化学的組成物および材料の試験、製造、および保管に使用される機器および機器に固有のエラーのために、生物学的および化学的現象が絶対的な結果を達成または回避することはめったにないことを、生物学技術の当業者は理解するであろう。したがって、「実質的に」という用語は、本明細書では、多くの生物学的および化学的現象に固有の完全性の潜在的な欠如を捉えるために使用される。
【0014】
本明細書中で使用される場合、用語「直交」は、ウイルスを除去/不活化するための別個の機構を使用する、別個の同定可能な工程またはプロセスをいう。プロセス開発に関連するように、これは一般に、多段階精製手順が互いに異なる分離メカニズムを使用すべきであることを意味すると理解され、各段階はデカルト空間における軸を表す。陰イオン交換および疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)を使用する2工程プロセスは、直交すると理解される。
【0015】
1980年代以降、ドナーから採取されたプール血液中のウイルスを不活化するための必須のツールとして洗浄剤が使用されてきた。このプロセスは、血漿由来第VIII因子(pdFVIII)のような、血液、血漿または血液/血漿由来成分を投与されている患者の安全性にとって重要である。さらに、この精製手段は、臨床検査室または血漿由来生物学的産物(PDBP)の製造施設における血液の処理に直接関与する職員の安全性を増加させる。より最近では、この実施はまた、動物由来材料を使用する生物学的治療剤またはワクチンのための生物医薬品製造プロセスに不可欠になっている。動物由来の原材料(すなわち、血液、血漿、組織)及び哺乳動物細胞で産生されるタンパク質は、内在性ウイルスを保有している可能性があるか、外来性ウイルスに容易に汚染される可能性がある。したがって、薬物製造プロセスは一連の有効なウイルス不活化(すなわち、溶媒-界面活性剤、低pH、および熱処理)および除去技術(すなわち、ウイルス濾過)を含み、患者がウイルスを含まないバイオ治療製品を確実に受けるようにする。これらのプロセスは、生物学的に誘導された治療またはワクチン製品の安全性にとって重要である。効率、堅牢性、および最も重要なことには、これらの製品の全体的な安全性を向上させるための新規な方法が非常に必要とされている。
【0016】
洗浄剤の種類
界面活性剤は、親水性(極性)頭部基および疎水性(非極性)尾部基からなる両親媒性分子である。このユニバーサル構造は洗浄剤と他の分子、最も顕著には水溶液中のタンパク質またはエンベロープウイルスとの相互作用を可能にする。基礎科学および応用技術において、界面活性剤は生物学的分子が凝集するのを防止するため、または細胞培養物もしくは組織懸濁液から膜タンパク質を可溶化するために、可溶化剤として、または安定化剤として使用され得る。タンパク質を可溶化するために使用される場合、以下の特性は特定の界面活性剤を他のものよりもより望ましいものにする:1)電荷を欠く界面活性剤(非イオン性界面活性剤)が目的のタンパク質の構造および活性を保持するのを助ける;2)低い臨界ミセル濃度(CMC)を有する界面活性剤が透析を介して界面活性剤の容易な除去を可能にする;3)透明であり、したがって、タンパク質吸収読み取りに影響を及ぼさない界面活性剤;および4)高度に純粋であり、実験ごとの変動性を減少させる界面活性剤。同様に、これらの特性の大部分はタンパク質薬物を破壊しないこと、界面活性剤からの妨害なしにタンパク質濃度を検出すること、および界面活性剤が高度に純粋であり、そのためウイルス不活化が一貫して起こることを確実にすることが必要であるため、ウイルス不活化のための界面活性剤候補を選択する場合に適用可能である。
【0017】
一般に、エンベロープウイルス不活化は、両親媒性構造および特定の界面活性剤の臨界ミセル濃度(CMC)に依存する。CMCは、界面活性剤モノマーが凝集してミセル構造を形成する濃度を指す。水溶液中では、より多くの界面活性剤モノマーが接触することにつれて、親水性ヘッドが隣接して疎水性テールを水溶液から遮蔽し、最終的にミセル構造に組織化することができる。CMCは、特定の条件下で所定の界面活性剤についてウイルス不活化が起こる濃度に関連しているよう。ウイルス不活化の理論的メカニズムはモノマーが界面活性剤CMCの下のウイルスエンベロープに挿入されることであり、これはウイルスに有害であり得る。濃度がCMC以上になるとすぐに、膜中に存在する界面活性剤モノマーは、完全性を破壊するか、またはウイルスエンベロープを完全に剥ぎ取ることができるミセルを形成する。ウイルスのエンベロープがなければ、ウイルスはその宿主細胞の細胞膜上の受容体に結合できず、その複製と拡散を促進することができない。
【0018】
これまで、生体治療製造産業は、エンベロープウイルスを不活化するために少数の界面活性剤を使用してきた。一般的な非イオン性界面活性剤の1つTriton X-100は、タンパク質薬物を破壊することなくエンベロープウイルスを不活化するのに有効であった。バイオ医薬品製造プロセスにおけるTriton X-100の使用後、それは、廃水処理プラントに処分されるか、または水生環境に直接放出される(Madsenら、1996、JAOCS,73:929-933)。残念ながら、Triton X-100副産物は、多くの国によって環境に対して有毒な化学物質と見なされているオクチルフェノールを含有する。したがって、多くのバイオ医薬品産業は、Triton X-100に匹敵する効力を有する環境的により安全な洗浄剤を探索することに専念してきた。例えば、いくつかの会社がそれぞれ、ラウリルジメチルアミンN-オキシド(LDAO)およびアルキルグルコシドを研究している(Conleyら、2014、米国特許第W02014025771A2号; Conleyら、2016、Biotechnol.Bioeng.、Epub ahead of print; Fisherら、2016、米国特許第2016/0333046A1号)。これらの会社は異なるクラスの新しい洗浄剤を区別することができたが、本実施形態はエンベロープウイルスの不活化に使用される完全に新規で非常に有効なクラスの非イオン性洗浄剤を定義する。
【0019】
糖ベースの洗剤は優れた物理的特性を有し、高度に生分解性であり、非毒性であり、これは、特に水生環境について、その安全性プロフィールに寄与する(Bogdan,2007、Stalmansら、1993)。したがって、開示された実施形態は、生物活性薬物製造においてウイルスを不活化するための新しい方法として、糖ベースの洗浄剤、N-メチルグルカミドの使用に焦点を当てている。N-メチルグルカミドは、アミド結合によって連結された高度に親水性のグルコース部分および疎水性の脂肪酸鎖から構成される非イオン性界面活性剤である。これらの界面活性剤は約95%の再生可能炭素指数で高度に生分解性であることが知られており、特に水生生物に対して無毒であると考えられているので、環境に優しい(Stalmansら、1993、SOFW、119:794-808)。
【0020】
Mega-10は高度に親水性のグルコース部分と、アミド結合によって連結された疎水性の脂肪酸鎖とから構成され、約95%の再生可能炭素指数で、水生環境に対する毒性なしに、高度に生分解性にする糖ベースの非イオン性洗浄剤である(Burczyk、B.、Wilk、K.A.、Sokolowski、A.、and Syper、L.,2001)(Foley、P.、Pour、A.K.、Beach、E.S.、and Zimmerman、J.B.,2012)。さらに、Mega-10またはTween80またはTween20のような界面活性剤の存在下での低pHの二重処理が、ウイルス感染性およびレトロウイルスを効果的に不活化するのに必要な時間の減少に相乗効果を有し得ることが、初めて観察された。ウイルス不活化のこれらの二重のメカニズムは、連続的なプロセシングによって製造されるモノクローナル抗体のウイルス不活化において潜在的な有用性を有し得る。
【0021】
ウイルス、タンパク質および洗剤
ウイルス不活化の評価に用いるモデルエンベロープウイルスは、BioReliance(Rockvile、MD)から購入したXenotropic Murine Leukemia Virus(X-MuLV)であった。X-MuLVは、哺乳動物培養産生において一般に見出される内因性レトロウイルス様粒子(ERLP)に似ているので、低pHおよび界面活性剤不活化研究のための特異的モデルウイルスとして選択された。
モデルタンパク質、mAb1のサンプル(IgG)、mAb2のサンプル(IgG)、およびmAb3のサンプル(IgG)を、それぞれの細胞培養物の清澄化に続いて、プロテインAアフィニティーカラムクロマトグラフィーの溶出液プールとして収集した。これらのmAbの等電点(pI)値は、それぞれ8.9、7.1および7.7であった。
N-メチルグルカミド(Mega-10)、Tween 20およびTween 80は、Sigma-Aldrich(StLouis、MO)から購入した。Mega-10粉末0.5gを10mLのMilli-Q水に溶解することによって、5%のMega-10ストック溶液(w/v)を調製した。Tween 20またはTween 80界面活性剤のストック溶液を、Milli-Q水により5%濃度(w/v)で調製した。
【0022】
ウイルス不活化実験
界面活性剤によるウイルス不活化
種々のプロテインA溶出液のpHを、1M Tris緩衝液で7.0に調整した。次に、pHを調整した溶出液を0.22umフィルターを通して濾過した。Mega-10、Tween 20、またはTween 80の種々の容量の5%ストック溶液を、濾過した中和プロテインA溶出液に添加した。これは、様々な濃度の各界面活性剤を含有するプロテインA溶出液を調製するために行われた。次いで、X-MuLVを、ウイルススパイキングの前に16℃の水浴でプレインキュベートした種々の濃度のそれぞれの界面活性剤を含む中和プロテインA溶出液に対して1:20の比率でスパイキングした。完全に混合した後、サンプルのアリコートを直ちに取り出し、希釈剤(3μg/ mLのポリブレンを含有するMcCoy培地)で、Mega-10については1:12で、またはTween 20およびTween 80については1:100でクエンチし、不活化を停止させ、サンプルを時間ゼロサンプルとした。残りのスパイクされた溶出液を水浴に戻し、ウイルス不活化動態を評価するために、示された時間にサンプルを収集した。
【0023】
低pHによるウイルス不活化
mAb1、mAb2、およびmAb3プロテインA溶出液のpHを、1M酢酸で3.91、4.05、または3.97に調整した。次に、pH調整した溶出液を0.22umフィルターで濾過した。濾過したプロテインA溶出液を、X-MuLVを1:20の比率でスパイクする前に、16℃の水浴でプレインキュベートした。完全に混合した後、サンプルのアリコートを直ちに除去し、1M Tris緩衝液で中和して不活化をクエンチし、時間ゼロサンプルとした。残りのスパイクした溶出液を水浴に戻し、ウイルス不活化動態を評価するために、指示された時間にサンプルを収集した。
【0024】
低pHおよび洗浄剤による二重ウイルス不活化
mAb1、mAb2、およびmAb3プロテインA溶出液のpHを、1M酢酸で3.91、4.05、または3.97に調整した。次に、pHを調整した溶出液を0.22 umフィルターで濾過した。次いで、種々の容量の5%洗剤原液を濾過されたプロテインA溶出液に添加した。Mega-10、Tween 80またはTween 20を含む低pHプロテインA溶出液を、X-MuLVを1:20の比率でスパイクする前に、16℃の水浴でプレインキュベートした。完全に混合した後、サンプルのアリコートを直ちに取り出し、1M Tris緩衝液で中和して低pHウイルス不活化を停止させ、次いで直ちに希釈剤で1:12(Mega-10)または1:100(Tween 20およびTween 80)でクエンチして界面活性剤によるウイルス不活化を停止させた。収集したサンプルを時間ゼロ基準とした。残りのスパイクした溶出液を水浴に戻し、ウイルス不活化動態を評価するために、指示された時間にサンプルを収集した。
【0025】
X-MuLV細胞ベースの感染能アッセイ
不活化処理後のサンプル中の残りのX-MuLV感染性を、接種した組織培養細胞の50%において細胞変性作用を生じるのに必要なウィルスの量を定量するための終点希釈アッセイであるTCID50 アッセイによって決定した。ウイルス力価を、スピアマン-カーバー法を使用して推定し、そして計算された95%信頼区間(CI)でTCID50/mLとして報告した。簡潔には、PG-4(ネコS、ATCC#CRL-2032)細胞を有する充分な数の96ウェルプレートを、ウイルス不活化実験を開始する前日に調製し、37℃の加湿COインキュベーター中で一晩インキュベートした。希釈した陽性対照(1:100)およびウイルス不活化サンプルの3.2倍希釈10セットを希釈ブロック中で調製した。試料の11の連続希釈物の各セットを、PG-4細胞を予め播種した96ウェルプレート中の最初の11カラムのウェル(ウェル当たり100μL)に対応して接種した。同じ平板中の12番目の列に対応する希釈剤を接種して、非ウイルス陰性対照とした。陽性対照は、濾過した中和プロテインA溶出液にX-MuLVを1:20の比でスパイクすることによって調製した。次に、接種したプレートを37℃の加湿COインキュベーター中で約2時間インキュベートした。100 uLの容量の2Xアッセイ培地(92% McCoy’s 5A培地、4% FBS、2%ペニシリン/ストレプトマイシン、2% Lグルタミン)を、インキュベーションの終わりにプレートの各ウェルに添加した。次いで、プレートを同じインキュベーターに戻し、6日間インキュベーションを続けた。プレートの各ウェルを、細胞変性効果(CPE)の存在について顕微鏡下でスコアリングし、結果をスコアリングシートに記録した。次に、スピアマンカーバー法を用いてウイルス力価を推定し、計算された95%信頼区間(CI)でTCID50/mLとして報告した。
【0026】
mAbのプロテインA溶出液中のMega‐10によるX‐MuLV不活化のロバスト性
mAb1のプロテインA溶出液中のMega10によるXMuLV不活化のロバスト性を評価するために、XMuLVを、0.1%、0.2%および0.3%のMega10を含有する中和されたmAb1プロテインA溶出液中に1:20の比率でスパイクした。完全に混合した後、16℃で培養してから0、2.5、5、10、30分後に試料を採取し、採取した試料中の残存ウィルス力価をTCID50法で測定した。TCID50検定の結果は、0.2%および0.3%濃度のMega‐10が2.5分の処理後に、検出限界未満のレベルまで急速にX‐MuLVを不活化し(図1A)、それぞれ≧5.58±0.19および≧5.58±0.19のLRF値を達成したことを示した(表1A)。
【0027】
表1A mAb1プロテインA溶出液中のMega-10によるX-MuLV不活化の影響
【0028】
ウイルスを不活化するためのMega10界面活性剤の有効性も、第2のmAb産物、mAb2試料のプロテインA溶出液で評価した。X-MuLVを0.1%、0.15%、0.2%および0.3%のMega-10(図1B)を含有する中和mAb2プロテインA溶出液とインキュベートした場合、ウイルス不活化の同様の効果が観察された。0.3%濃度のMega-10はX-MuLVを2.5分の処理後に検出以下のレベルまで急速に不活化し、≧5.81±0.18のLRF値を達成したことが示された(表1B)。LRF 5.31±0.75で2.5分処理後0.2% Mega-10でも有意なウイルス不活化が得られた(表1B)。
【0029】
表1B mAb2プロテインA溶出液中のMega-10によるX-MuLV不活化の影響
【0030】
X-MuLVの感染能低下に対する低pHおよびMega-10二重処理の相乗効果

エンベロープウイルスを不活化するために界面活性剤によって使用されるメカニズムは、界面活性剤とエンベロープウイルスの脂質膜との相互作用に起因している。この相互作用は膜を破壊し、そしてウイルスキャプシドタンパク質の崩壊を引き起こし、これは、次に、エンベロープウイルスの細胞への結合を妨げ、ウイルス感染性の損失を導く(Pamphilon,2000)(Kempf、C.、Stucki、M.およびBoschetti、N.,2007)。一方、低pH媒介ウイルス不活化は、別のメカニズムを介して作用すると考えられる。低pH環境はウイルス形態変化を誘導し、低pHウイルス不活化のメカニズムとして関係するウイルス粒子凝集をもたらす(Gaudin、Y.、Ruigrok、R.、Knossow、M.およびFlamand、A.,1993)。
【0031】
エンベロープウイルスを不活化するための界面活性剤および低pHの基礎となるメカニズムは非常に異なるので、これらの処置を一緒に組み合わせることは直感的または自明ではない。
【0032】
MuLVの不活化は、低pHおよび界面活性剤媒介ウイルス不活化の両方に最適以下の条件下で実施した。驚くべきことに、XMuLVを、0.1%のMega10を含有するmAb1プロテインA溶出液のサンプルと共にpH 3.91でインキュベートした場合に、XMuLVの感染性の減少に対する相乗効果が観察された(図2および表2)。
【0033】
2.5分のインキュベーション後、0.1%のMega‐10の試料はX‐MuLV不活化に影響を示さず、0.33±0.29のLRFを生じた。pH 3.91単独による処理は、同じインキュベーション時間後に2.60±0.33のLRFでウイルス感染性の適度な減少を生じた。驚くべきことに、0.1% Mega‐10およびpH 3.91の二重処理は検出限界未満のレベルまでX‐MuLVを効果的に不活化し、同じインキュベーション時間後に≧5.40±0.21のLRFを生じた。pH 4.05で0.15%のMega10を含有するmAb2プロテインA溶出液サンプルに対してXMuLV不活化を行った場合にも同様の効果が観察された(図3および表3)。
【0034】
表2 mAb1プロテインA溶出液における種々の処理により達成されたLRF
表3 mAb2蛋白質A溶出液中の種々の処理によって達成されたLRF
【0035】
5分間のインキュベーション後、0.15%のMega‐10のみが1.68±0.31のLRFを生成し、pH 4.05単独による処理は0.61±0.18のLRFを生じた。しかし、0.15%のMega‐10とpH 4.05の二重処理は5.50±0.83のLRFを生じ、これはそれらの個々の効果の合計よりはるかに大きかった。従って、界面活性剤の存在下での低pHでのプロテインA溶出液の処理は、ウイルス不活化の二重の直交メカニズムに起因して、エンベロープウイルスの感染性を減少させる相乗効果を有すると推測され得る。
【0036】
X-MuLVを不活化するのに必要な時間を検出以下のレベルまで短縮することに対する低pHおよび界面活性剤二重処理の相乗効果
X-MuLVの感染性の低下に対する低pHおよびMega-10二重処置の相乗効果に加えて、本発明者らはまた、X-MuLVを検出限界未満のレベルまで不活化するか、またはX-MuLVを完全に不活化するために必要な処置の期間を減少させることに対する、同時の低pHおよびMega-10処置の相乗効果を観察した。図4Aに示すように、mAb1プロテインA溶出液の試料をpH 3.91および18℃でインキュベートした場合(図4A)、検出限界未満のレベルまでXMuLVを不活化するのに240分かかったが、驚くべきことに、16℃で追加の0.1%のMega10の存在下で同じプロテインA溶出液をpH 3.91でインキュベートした後、検出限界未満のレベルまでXMuLVを不活化するのに2.5分しかかからなかった(図4B)。同様に、pH4.05および16℃の温度で0.15%のMega10を含む種々のmAb、mAb2プロテインA溶出液の試料中でのXMuLVの二重処理も、XMuLVを不活化するのに必要な時間を、より低いpH(pH4.0)およびより高い温度(18℃)での120分間のインキュベーションから10分(図4D)までの検知限度未満のレベルまで減少させることができた。
【0037】
我々はさらに、ウイルス不活化に対する二重処理の観察された相乗効果が、Mega10界面活性剤のみに限定されるかどうかを調査した。Tween 80またはTween 20などの他の非イオン性界面活性剤の存在下、低pHでのXMuLV不活化について実験を行った。pH 4.05および16℃の温度で0.5%のTween 80を含むmAb2プロテインA溶出液に対するXMuLVの二重処理はまた、XMuLVを不活化するために必要とされる時間を、pH 4.0およびより高い温度(18℃)での120分間のインキュベーション(図5A)から10分間の検知限度未満の水準まで減少させることができた(図5B)。同様の相乗効果は、pH 3.97で0.5%のTween 80(図6B)または0.5%のTween 20(図6C)を含有するmAb3(IgG2)プロテインA溶出液の異なるサブタイプに対して二重ウイルス不活化を行った場合にも観察された。いずれの場合においても、検出限界未満のレベルまでのXMuLVの不活化に必要なインキュベーション時間は、低pH処理単独による120分(図6A)から5分(図6Bおよび6C)に短縮された。
【0038】
本発明者らはさらに、pH3.99でプロテインA溶出液に0.2%の最低濃度のTween 80を添加することは、必要な不活化時間を120分から5分に減少させるのに十分であり、Tween80の濃度を0.3%または0.5%に増加させた間、さらなる時間の減少は観察されなかったことを実証した(図7A)。一方、0.1% Tween 80を含有するmAb3プロテインA溶出液のpH値が4.0から3.9、3.8、次いで3.7に減少することにつれて、XMuLV不活化に必要な時間は、それぞれ10分から2.5分、1分、次いで0分に減少した(図7B)。これにより、同時二重処理によるXMuLV不活化に必要な時間は界面活性剤の濃度が増加し、プロテインA溶出液のpH値が減少することにつれて減少する。さらに、二重処理に必要なTween 80の最小有効濃度はpH依存性であり、より低いpH値にはより低い最小有効濃度が必要である。
【0039】
本発明者らはまた、低pHおよび界面活性剤の同時処理が、4.30の高いpH値でさえ、低pHによるXMuLVの完全不活化に必要な時間を減少させ得ることを実証した。1% Tween80を含有するpH4.11、4.20または4.30のmAb4のプロテインA溶出液は1、3または4時間の処理後に、それぞれXMuLVを完全に不活化することができ、これにより、1% Tween80で4.30未満のプロテインA溶出液のpH値についてのpH調整なしに、またはTween20またはTriton X100でpH 4.50ほどの高さで、抗体製造の低pHウイルス不活化工程を実施することが可能になった。現在、低pHウイルス不活化は、一般的に4.10~4.50のpH値を有するプロテインA溶出液のpHを調節することによって、pH3.70~3.90で実施される。従って、プロテインA溶出液のpHを調節することなく低pHウイルス不活化を実施することは、抗体精製プロセスをより迅速かつより効率的にし得る(図8)。
【0040】
議論されるように、本実施形態は、環境に優しい界面活性剤であるMega10がモノクローナル抗体の中和されたプロテインA溶出液上で、モデルエンベロープウイルスXMuLVを低濃度で効果的に不活化し得ることを実証する。従って、Mega10によるエンベロープウイルスのための界面活性剤ウイルス不活化は、低pHウイルス不活化後の強力なウイルス不活化工程としてモノクローナル抗体製造プロセスに組み込むことができる。pH 6.0~8.0のmAbまたはIgG Fc融合蛋白質の無細胞中間体上で4.0以上のレトロウイルス不活化を達成するためには15~25℃の温度でTriton X-100≧0.5%の濃度および60分以上の保持時間が必要であるが、Mega-10では中和プロテインA溶出液(pH 7.0)上での5.81以上のウイルス不活化を16℃で30分の保持時間後に0.2%の濃度で達成することができる。したがって、Mega-10はレトロウイルスの不活化に対してTriton X-100よりも効果的であり、水環境に対する毒性を伴わずに高度に生分解性であることから、Mega-10はモノクローナル抗体製造におけるウイルス不活化界面活性剤として使用するためのTriton X-100に代わる生存可能な代替物となりうる。
【0041】
本発明者らはまた、低pHおよび界面活性剤(例えば、Mega-10、またはTween 80、またはTween 20)の同時二重処理が、ウイルス感染性およびレトロウイルスを効果的に不活化するために必要な時間の減少に対して相乗効果を有し得ることを初めて観察した。例えば、試料の中和プロテインA溶出液上に存在する0.1%のMega-10による、またはプロテインA溶出液のpH 3.91によるX-MuLVの2.5分間の処理は、それぞれ0.33±0.29および2.50±0.33のLRFを生じた。pH 3.91プロテインA溶出液(同時低pHおよび界面活性剤処理)中で2.5分間の0.1% Mega-10によるX-MuLVの二重処理は検出限界未満のレベルまでX-MuLVを効果的に不活化し、≧5.40±0.21のLRFを生じた。0.15%のMega-10を含有するpH 4.05のサンプルプロテインA溶出液中でX-MuLV不活化を行った場合にも同様の効果が観察された。中和されたプロテインA溶出液上に存在する0.15%のMega-10による、またはプロテインA溶出液のpH 4.05によるXMuLVの5分間の処理は、それぞれ1.68±0.31および0.61±0.18のLRFを生じた。pH 4.05のプロテインA溶出液の存在下での0.15% Mega-10によるXMuLVの二重処理(同時低pHおよび界面活性剤処理)は5.50±0.83のLRFを生じ、これはそれらの個々の効果の合計よりもはるかに大きかった。Mega-10および低pHの二重処理によって観察された相乗効果は、エンベロープウイルスを不活化するために界面活性剤または低pH処理によって利用される異なるメカニズムに起因する。さらに、界面活性剤および低pHの同時二重処理は、ウイルス感染性を減少させる相乗効果を有するだけでなく、エンベロープウイルスを不活化するために必要な時間を減少させる相乗効果も有する。我々は、Mega-10またはTween-80またはTween 20のような界面活性剤の存在下での低pHプロテインA溶出液中での二重処理がX-MuLVを不活化するために必要な時間を、検出限界未満のレベルまで、低pH処理単独で必要な1~2時間から、二重処理による2.5~10分まで減少させ得ることを観察した。16℃でのpH≧3.90での≧120分から10分未満への低pH処理によってLRF≧5.0を達成するのに必要な時間を短縮する際の低pHおよび界面活性剤の同時処理の相乗効果は、連続プロセシングによるモノクローナル抗体製造中のレトロウイルス不活化において潜在的有用性を有する。
【0042】
その低コスト、より少ない設備投資、より多くの柔軟性、より多くのプロセス制御、より容易なスケールアップおよびより良好な製品品質のために、連続処理は、バイオ医薬品会社の間でより一般的になっている。バイオ医薬品産業がバイオ医薬品産業の将来の要求を満たすために、バッチモードでの操作から連続製造に移行することに対する関心が高まっている。バイオ医薬品、特に抗体ベースのバイオ治療製品の市場は、20を超える第1世代のブロックバスター生物製剤の特許が間もなく期限切れになっているので、過去10年間に劇的に変化した。したがって、異なる体積で、安定または不安定な、異なる生体治療製品の生産を柔軟に切り替えることができる、費用効果の高い生産プロセスが必要とされている。製造プロセスは、その間のホールド容積がゼロまたは最小限の統合された(物理的に接続された)連続したユニット操作で構成されている場合、完全に連続したプロセスと見なされる。現在、標準的なモノクローナル抗体製造のほとんど全ての単位操作は、バッチプロセスにおいて現在実施されている低pHウイルス不活化工程を除いて、連続的なプロセシングレディーモード(continuous processing ready mode)にある。一般に、プロテインAアフィニティーカラム捕捉工程の溶出液プールは、所望のpHに調節され、そしてプロセスパラメーターに依存して、60~120分の必要とされる不活化時間の間、容器またはバッグ中に保持される。一般に、より高いpHでは、より長い不活化時間が必要とされ、抗体の凝集によるより高い産物損失がある。これは、連続プロセスに適応する際の課題を表す。バッチプロセスにおける現在の低pHウイルス不活化を連続プロセスに変換する場合の重要な考慮事項は、フローモードにおけるウイルス不活化時間がバッチモードにおけるのと同じくらい正確であり、かつ制御されることを確実にすることである。低pHウイルス不活化のための典型的な滞留時間(1~2時間)およびプロテインA連続クロマトグラフィー溶出液の流速(50~300L/時間)ならびに多数の溶出プールに適応させるために、連続低pHウイルス不活化のための単位操作を開発するために非常に長く狭いパイプが必要である。しかしながら、このような単位操作は、高い背圧および広い滞留時間分布を生じ、凝集体の形成に対するモノマーの劇的な減少を引き起こすことに注意すべきである。現在、これらの問題に対処するために、ヘリックスモジュールおよび狭い滞留時間を有する90度曲げからなる「コイルドフローインバータ」(CFI)が提案されており(Klutz、S.、Lobedann、M.、Bramsiepe、C.、and Schembecker、G.、2016)、現在、プルーフコンセプト段階にある。
【0043】
本実施形態はウイルス不活化に必要な時間を短縮するために、既存の処理プロセスを低pHおよび界面活性剤の同時二重処理に置き換えることによって、低pHウイルス不活化を現在のバッチプロセスから連続プロセスに変換することに関連する技術的課題に対処する。本実施形態および発見は、Mega-10またはTween80またはTween20などの低濃度の界面活性剤の添加による低pHプロテインA溶出液の二重処理が低pH処理によるレトロウイルスの不活化に必要な時間を60~120分から2.5~10分に短縮することができることを著しくかつ予想外に実証する。したがって、低pHおよび界面活性剤の同時二重処理を連続モノクローナル抗体製造プロセスに組み込むことにより、低pHウイルス不活化に必要な時間を大幅に短縮することができ、したがって、低pHウイルス活性化に必要な延長された時間に適応するための細長いパイプまたはCFIの必要性を排除することができる。これは、より低いpH条件および長い保持時間下で不安定である抗体についての改善された製造結果および収率を提供し得る。さらに、連続プロセスにおける低pHおよび洗剤の同時二重処理の組み込みは、費用効果があり、CFIの高価なスケールダウンモデルの設計および使用の必要性を排除するのに役立つであろう。
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
【国際調査報告】