(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(54)【発明の名称】骨誘導性栄養素がドープされたハイブリッド材料から作られた制御された多孔度を有するインプラント
(51)【国際特許分類】
A61L 27/18 20060101AFI20220111BHJP
A61L 27/10 20060101ALI20220111BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20220111BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20220111BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
A61L27/18
A61L27/10
A61L27/58
A61L27/54
A61L27/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021526246
(86)(22)【出願日】2019-11-14
(85)【翻訳文提出日】2021-07-13
(86)【国際出願番号】 EP2019081383
(87)【国際公開番号】W WO2020099588
(87)【国際公開日】2020-05-22
(32)【優先日】2018-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517343911
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ クレルモン オーベルニュ
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】512034911
【氏名又は名称】アンスティトゥー ナショナル ドゥ ルシェルシュ プール ラグリキュルチュール ラリマンタシォン エ ランヴィロンヌマン
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラオ ジョナタン クロード アレクサンドル
(72)【発明者】
【氏名】ボサード セドリック
(72)【発明者】
【氏名】ジャロ エドゥアール ダニエル アルベール
(72)【発明者】
【氏名】ウィットラン ヨアン
(72)【発明者】
【氏名】グラネル アンリ
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB04
4C081BA12
4C081BA13
4C081BA16
4C081BB06
4C081CA171
4C081CE02
4C081CF131
4C081CG08
4C081DB03
4C081DB06
4C081DC12
4C081EA02
(57)【要約】
本発明は、骨欠損補填、骨再生、及び骨組織工学用のインプラント材料、この材料を含むインプラント、並びにそのようなインプラント材料を製造する方法に関する。本発明のインプラント材料は、SiO2及びCaOから作られ、任意にP2O5を含有する及び/又は任意にストロンチウムがドープされた生体活性ガラスMと、生分解性ポリマーPとを含み、骨誘導性栄養素Nがドープされている、骨誘導性栄養素Nがドープされたハイブリッド材料を含む。本発明は、特に医療分野に適用可能である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨欠損補填、骨再生、及び骨組織工学用のインプラント材料であって、
SiO
2及びCaOから作られ、任意にP
2O
5を含有する及び/又は任意にストロンチウムがドープされた生体活性ガラスMと、
生分解性ポリマーPであって、
好ましくはデキストラン、ヒアルロン酸、寒天、キトサン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム又はアルギン酸カリウム、ガラクトマンナン、カラギーナン、ペクチンから選択される生体吸収性多糖類、
生体吸収性ポリエステル、好ましくはポリビニルアルコール又はポリ乳酸、及び、
生分解性合成ポリマー、好ましくはポリエチレングリコール、ポリ(カプロラクトン)、
から選択される生分解性ポリマーPと、
を含むハイブリッド材料を含み、かつ、
該ハイブリッド材料は、ビタミンD2(エルゴカルシフェロール)、ビタミンD3(コレカルシフェロール)、ビタミンK1、ビタミンK2、オメガ-3脂肪酸、プニカ酸、α-リポ酸、アントシアニン、フラボノール、プロシアニジン、チロソール、オレウロペイン、ナリンゲニン、プニカラギン、エラグ酸、及びフィコシアニンから選択される骨誘導性栄養素Nがドープされていることを特徴とする、骨欠損補填、骨再生、及び骨組織工学用のインプラント材料。
【請求項2】
骨誘導性栄養素がドープされた前記ハイブリッド材料は、総重量(生体活性ガラスM+生分解性ポリマーP+骨誘導性栄養素N)に対して30重量%のSiO
2及びCaOから作られた生体活性ガラスMと、総重量(生体活性ガラスM+生分解性ポリマーP+骨誘導性栄養素N)に対して69重量%のポリ(カプロラクトン)と、総重量(生体活性ガラスM+生分解性ポリマーP+骨誘導性栄養素N)に対して1重量%のフィセチン及び/又はヒドロキシチロソールとを含むことを特徴とする、請求項1に記載の骨欠損補填、骨再生、及び骨組織工学用のインプラント材料。
【請求項3】
骨誘導性栄養素がドープされた前記ハイブリッド材料は、総重量(生体活性ガラスM+生分解性ポリマーP+骨誘導性栄養素N)に対して40重量%のSiO
2及びCaOから作られた生体活性ガラスMと、総重量(生体活性ガラスM+生分解性ポリマーP+骨誘導性栄養素N)に対して59重量%のポリ(カプロラクトン)と、総重量(生体活性ガラスM+生分解性ポリマーP+骨誘導性栄養素N)に対して1重量%のフィセチン及び/又はヒドロキシチロソールとを含むことを特徴とする、請求項1に記載の骨欠損補填、骨再生、及び骨組織工学用のインプラント材料。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の材料を含むことを特徴とする、骨欠損補填、骨再生、及び骨組織工学用のハイブリッド材料で作られたインプラント。
【請求項5】
骨欠損補填、骨再生、及び骨組織工学用のハイブリッド材料で作られたインプラントを製造する方法であって、以下の工程:
a)SiO
2及びCaOから作られ、任意にP
2O
5を含有する及び/又は任意にストロンチウムがドープされた生体活性ガラスMを選択する工程と、
b)少なくとも1つの溶剤S1に可溶であり、かつ少なくとも1つの溶剤Sに不溶である生分解性ポリマーPであって、
好ましくはデキストラン、ヒアルロン酸、寒天、キトサン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム又はアルギン酸カリウム、ガラクトマンナン、カラギーナン、ペクチンから選択される生体吸収性多糖類、
生体吸収性ポリエステル、好ましくはポリビニルアルコール又はポリ乳酸、及び、
生分解性合成ポリマー、好ましくはポリエチレングリコール又はポリ(カプロラクトン)、
から選択される、生分解性ポリマーPを選択する工程と、
c)製造されるインプラントを構成する材料内の細孔の所望の直径及びサイズに対応する直径及びサイズを有する細孔形成剤Aであって、
前記少なくとも1つの溶剤S1に不溶であり、かつ前記少なくとも1つの溶剤Sに可溶であるポリマーで作られている、
細孔形成剤Aの微小球を選択する工程と、
d)少なくとも1つの骨誘導性栄養素Nであって、
前記溶剤S1と同一又は異なるが、該溶剤S1と混和性であり、前記生分解性ポリマーPも前記生体活性ガラスMも分解せず、かつ前記細孔形成剤Aの微小球が可溶ではない少なくとも1つの溶剤S2に可溶であり、かつ、
前記溶剤Sに不溶であり、
ビタミンD2(エルゴカルシフェロール)、ビタミンD3(コレカルシフェロール)、及びビタミンK1、ビタミンK2、オメガ-3脂肪酸、プニカ酸、α-リポ酸、アントシアニン、フラボノール、プロシアニジン、チロソール、オレウロペイン、ナリンゲニン、プニカラギン、エラグ酸、並びにフィコシアニンから選択される、
骨誘導性栄養素Nを選択する工程と、
e)前記細孔形成剤Aの微小球を前記インプラントに所望される形状及びサイズを有する型に入れる工程であって、該微小球は、前記インプラント材料内に得られる前記細孔の形状及びサイズに対応する集密堆積物を形成し、かつ細孔形成剤A-生分解性ポリマーP-生体活性ガラスMのアルコキシド前駆体-骨誘導性栄養素Nの混合物の総体積に対して少なくとも60体積%、好ましくは少なくとも70体積%に相当する、工程と、
f)前記溶剤S2中の溶液での前記骨誘導性栄養素Nを、前記溶剤S1中の溶液での前記生分解性ポリマーPへと導入し、混合する工程と、
g)前記工程f)で得られた混合物を前記生体活性ガラスMのアルコキシド前駆体へと導入する工程と、
h)前記工程g)で得られた混合物を前記型に入れる工程と、
i)前記工程h)の後に前記型内に収容された混合物を固化させる工程と、
j)前記工程i)で得られた混合物を離型する工程と、
k)前記溶剤Sで洗浄することによって前記細孔形成剤Aの微小球を除去する工程と、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項6】
前記細孔形成剤Aの材料は、前記少なくとも1つの溶剤S1及び前記少なくとも1つの溶剤S2に不溶であり、かつ前記少なくとも1つの溶剤Sに可溶である生分解性ポリマーから選択され、好ましくはC
1~C
4アルキルポリメタクリレート、好ましくはメチルポリメタクリレート又はブチルポリメタクリレート、ポリウレタン、ポリグリコール酸、様々な形態のポリ乳酸、乳酸-co-グリコール酸コポリマー、ポリ(カプロラクトン)、ポリプロピレンフマレート、パラフィン及びナフタレン、又はアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)から選択され、
前記細孔形成剤Aの材料は、前記生分解性ポリマーPとは異なることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
生分解性ポリマーPと生体活性ガラスMとの重量比は、境界値も含めて20/80から80/20の間であり、かつ前記骨誘導性栄養素Nは、前記工程k)で得られた材料の総重量に対して0.1重量%~10重量%、好ましくは0.1重量%~5重量%、より好ましくは1重量%の量で存在することを特徴とする、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記生体活性ガラスMは、SiO
2及びCaOから作られたガラスであり、
前記生分解性ポリマーPは、ポリ(カプロラクトン)であり、
前記骨誘導性栄養素Nは、フィセチン及び/又はヒドロキシチロソールであり、
前記細孔形成剤Aの微小球の材料は、パラフィンであり、
前記溶剤Sは、シクロヘキサンであり、
前記溶剤S1は、前記溶剤S2と同一であり、かつテトラヒドロフラン(THF)であることを特徴とする、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨欠損補填用、骨再生用、及び骨組織工学用のインプラント材料、この材料を含むインプラント、並びにそのようなインプラント材料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界的な人口の高齢化及びそれに伴う骨関節系の障害により、高性能な骨組織代替材料を開発することが必要とされている。フランスでは毎年180億ユーロが骨関節系及び歯科系の疾患に対する医療費に費やされており、筋骨格系障害は先進国で最も蔓延している職業病理であり、一方で、高齢患者では骨粗鬆症が増加している。これらの事実は主要な社会的課題及び経済的課題を際立たせ、骨損失を補填することができる長寿命のインプラントである生体材料に対する需要の高まりを説明している。
【0003】
移植片の使用は限られており、動物由来の材料は生体適合性の問題又は感染のリスクを招く可能性があるため、骨再生を促進することができる合成生体材料の開発に研究努力が向けられている。
【0004】
これらは生体活性インプラントと呼ばれている。移植された材料は、可能な限り不活性に留めることによって骨喪失をただ受動的に補填することを目的とするのではなく、骨再生メカニズムを刺激し、これに能動的に関与しなければならない。このことは、自己修復メカニズムがもはや機能しなくなった大規模な骨欠損の場合に特に重要である。
【0005】
近年、骨代替物として使用される主な生体活性材料は、リン酸カルシウム等の生体活性「セラミック」、及び「バイオガラス」としても知られている生体活性ガラスである。
【0006】
最初の生体活性セラミックは、L.L. Henchによって開発された(非特許文献1、非特許文献2)。
【0007】
最初の生体活性ガラスは、SiO2、P2O5、CaO、及びNa2Oから作製された。ケイ素酸化物及びリン酸化物はガラス網目構造の凝集に関与する網目形成剤である。ナトリウム及びカルシウム等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属はこの能力を有さず、構造不規則性の増加と関連するこれらのガラスの低い溶融温度の原因である鎖切断を導入することにより、ガラス網目構造を改変する。これらが存在すると、特に水性環境での腐食を通じて、生体活性ガラスのより大きな反応性がもたらされる。この反応性は生理学的環境でのヒドロキシアパタイトの形成を可能にするため、骨の再建を促進する。
【0008】
最も研究されているバイオガラスは、Bioglass(商標)又はHenchのバイオガラスと呼ばれるソーダ-シリカ-リン酸-カルシウムガラスである。その基本組成は、組成物の総重量に対して45重量%のSiO2-24.5重量%のCaO-24.5重量%のNa2O-6重量%のP2O5である。この材料の顕著な生体活性特性は、もはや実証されるまでもない。Bioglass(商標)は、現時点では依然として最も興味深い(細胞からの特定の応答を誘導する)生体活性材料の1つである。
【0009】
生体活性ガラスの発見以来、この分野において種々の原子を導入すること又は有効成分を組み込むこと等の多くの開発が行われてきた(非特許文献3)。生体活性ガラスの組成は、骨芽細胞の増殖及び骨組織の形成を促進するように最適化された(特許文献1)。特に生体活性ガラスに抗細菌特性を付与するために、銀の導入が提案されている(特許文献2)。
【0010】
特許文献3は、ストロンチウムが生体活性ガラスの総重量の0.1%~10%の量で導入されている生体活性ガラスを記載している。
【0011】
これらの生体活性材料は、両者とも生体適合性であり、骨組織に自発的に結合することができ、骨細胞の接着を促進し、最終的に生体吸収性であり、骨の再成長が進むにつれて徐々に新生形成された骨組織に置き換わるという特徴を有する。
【0012】
しかしながら、これらの非常に満足のいく特徴にもかかわらず、これらの材料の脆性がそれらの用途を限定している。それらの剛性はしばしば骨の剛性よりも大きいが、それらの可撓性及び靭性の欠如は、周期的な機械的応力を受ける部位にこの生体活性材料を移植することができないことを意味する。
【0013】
この不利点を克服するために、特許文献4は、骨欠損補填、骨再生、及び骨組織工学用のインプラント材料であって、SiO2及びCaOから作られ、任意にP2O5を含有する及び/又は任意にストロンチウムがドープされた生体活性ガラスMと、
好ましくはデキストラン、ヒアルロン酸、寒天、キトサン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム又はアルギン酸カリウム、ガラクトマンナン、カラギーナン、ペクチンから選択される生体吸収性多糖類、
生体吸収性ポリエステル、好ましくはポリビニルアルコール又はポリ乳酸、
生分解性合成ポリマー、好ましくはポリエチレングリコール又はポリ(カプロラクトン)(以下、PCLと略記)、及び、
タンパク質、好ましくはゼラチン又はコラーゲン、
から選択される生分解性ポリマーPと、
から作られたハイブリッド材料を含む、インプラント材料を記載している。
【0014】
この材料は、ハイブリッド材料を含むマトリックスからなり、このマトリックスは、少なくとも70個数%(% by number)の球の形状又は球内に収まる球面多面体の形状を有する細孔を有し、球の直径は、境界値を含めて(inclusive)100μmから900μmの間、好ましくは200μmから800μmの間であり、最小の球又は最大の球の直径間の差は、インプラントの全ての球の算術平均直径に対して最大で70%、好ましくは最大で50%、より好ましくは最大で30%であり、かつ細孔間の相互接続は、境界値を含めて25μmから250μmの間のそれらの最小寸法を有し、これらの細孔の少なくとも70個数%(% in number)は、別の細孔との少なくとも1つの相互接続を有する。
【0015】
この材料から得られたインプラントは、骨組織に近い機械的特性と、海綿骨を彷彿とさせる特定の形態、すなわち、数百ミクロンの相互接続されたマクロ孔の三次元ネットワークからなる高度に多孔質の構造とを有する。実際、大規模な骨欠損の場合に、骨細胞は、血管新生及び組織浸潤過程と適合性でありながら、細胞接着、増殖、及び分化を誘導及び刺激することができる細胞外「支持」マトリックスを必要とする。
【0016】
このようなマクロ孔質構造は、骨組織工学で考慮される新しい用途にも必要とされる。患者から採取された細胞から研究室で新しい骨組織を製造し、引き続き患者に再移植することができる。最適な方法で実施するために、この組織培養はまた、良好な細胞接着、成熟細胞への分化、並びに組織の製造、及び特にバイオミネラリゼーションを可能にする多孔質三次元支持体から行われねばならない。
【0017】
特許文献4に記載される生体活性ガラス-生分解性ポリマーハイブリッド材料で作られたインプラントを用いてin vivoで骨再生に関して優れた結果が得られたが、この材料の骨誘導特性は、高齢患者又は骨粗鬆症を患う患者等の骨代謝の障害を患う或る特定の患者においては骨組織の再成長を刺激するのに十分でない場合がある。
【0018】
骨再成長を刺激する骨誘導性栄養素は知られている。
【0019】
そのような骨誘導性栄養素の例は、ビタミンD(ビタミンD2(エルゴカルシフェロール)、ビタミンD3(コレカルシフェロール))、ビタミンD誘導体及びビタミンD前駆体、ビタミンK1、ビタミンK2、オメガ-3脂肪酸、プニカ酸、α-リポ酸、アントシアニン、ポリフェノール、フラボノール、プロシアニジン、チロソール、オレウロペイン、ナリンゲニン、プニカラギン、エラグ酸、フィコシアニン、及び加水分解コラーゲンである。
【0020】
しかしながら、これらの骨誘導性栄養素、特にポリフェノール、フェノール化合物、及びより具体的にはフィセチン及びヒドロキシチロソールは、一般的に栄養補助食品として使用される。
【0021】
フィセチンは、イチゴ、リンゴ、及びキュウリ等の多くの果物及び野菜に天然に存在するポリフェノールであり、ヒドロキシチロソールは、オリーブに天然に存在するフェノール化合物である。
【0022】
両方の化合物は、それらの抗酸化特性について知られており、フィセチン又はヒドロキシチロソールが豊富な食事は骨を強化することが分かっている(非特許文献4、非特許文献5)。
【0023】
しかしながら、栄養補助食品として使用されるこれらの骨誘導性栄養素には、幾つかの不利点がある。
【0024】
第一に、生物学的利用能:摂取された栄養素は消化管上皮を通過せねばならず、摂取された量のごく一部だけしか血流に到達しない。
【0025】
第二に、経口投与は、血流全体における栄養素の希釈につながる。
【0026】
生物学的利用能が低く、かつ摂取された栄養素が希釈されるということは、大量の栄養素が経口投与されるべきであることを意味する。
【0027】
生分解性ポリマー又は多糖類で作られたインプラントであって、その網目構造内に薬物、生体分子、成長因子等が入れられた、インプラントが知られている。
【0028】
さらに、対象となる部位に直接送達するために薬物又は他の化合物が吸着されているインプラントが知られている。
【0029】
しかし、吸着は化合物又は薬物の徐放及び持続放出をもたらさない。放出は「バースト」現象、すなわち、急激で短い放出を伴って起こる。
【0030】
生分解性ポリマー又は多糖類で作られたインプラントであって、その網目構造内に薬物、生体分子、成長因子等が入れられた、インプラントが知られている。
【0031】
しかしながら、これらのインプラントは骨の構造を再現せず、1つ以上の無機部分を含まない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0032】
【特許文献1】国際公開第02/04606号
【特許文献2】国際公開第00/76486号
【特許文献3】国際公開第2009/027594号
【特許文献4】欧州特許第3003414号
【非特許文献】
【0033】
【非特許文献1】L.L. Hench et al., J. Biomed. Mater. Res. 1971, 2, 117-141
【非特許文献2】L.L. Hench et al., J. Biomed. Mater. Res. 1973, 7, 25-42
【非特許文献3】M. Vallet-Regi et al., Eur. J. Inorg. Chem. 2003, 1029-1042
【非特許文献4】Leotoing et al, The flavanoid fisetin promotes osteoblasts differentiation through Runx2 transcriptional activity, Mol. Nutr. Food Res. 58(6), 1239-1248, 2014
【非特許文献5】Mevel, Elsa PhD in life and health sciences, Biomolecules, pharmacology, therapeutics, University of Nantes, Use of the procyanidins and the hydroxytyrosol in the nutritional prevention of the osteoarthritis, 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0034】
この文脈において、本発明は、通常経口的に使用される骨誘導性栄養素を時間の経過に伴って長期的かつ定期的な様式で放出する、生分解性ポリマー-生体活性ガラスハイブリッド材料で作られたインプラント材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0035】
この目的のために、本発明は、骨誘導性栄養素N、好ましくは有機の骨誘導性栄養素Nがドープされた生体活性ガラスM-生分解性ポリマーPハイブリッド材料を含む、骨欠損補填、骨再生、及び骨組織工学用のインプラント材料を提供する。
【0036】
好ましくは、本発明のインプラント材料において、
生分解性ポリマーPは、
好ましくはデキストラン、ヒアルロン酸、寒天、キトサン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム又はアルギン酸カリウム、ガラクトマンナン、カラギーナン、ペクチンから選択される生体吸収性多糖類、
生体吸収性ポリエステル、好ましくはポリビニルアルコール又はポリ乳酸、及び、
生分解性合成ポリマー、好ましくはポリエチレングリコール又はポリ(カプロラクトン)、
から選択され、かつ、
骨誘導性栄養素Nは、ビタミンD2(エルゴカルシフェロール)、ビタミンD3(コレカルシフェロール)、25-ヒドロキシビタミンD2、25-ヒドロキシビタミンD3、24,25-ヒドロキシビタミンD2、24,25-ヒドロキシビタミンD3、1,25-ジヒドロキシビタミンD2、1,25-ジヒドロキシビタミンD3等のビタミンD誘導体、ビタミンK1、ビタミンK2、オメガ-3脂肪酸、プニカ酸、α-リポ酸、アントシアニン、フラボノール、プロシアニジン、チロソール、オレウロペイン、ナリンゲニン、プニカラギン、エラグ酸、及びフィコシアニンから選択される。
【0037】
また好ましくは、本発明のインプラント材料において、生分解性ポリマーPと生体活性ガラスMとの重量比は、境界値も含めて20/80から80/20の間であり、骨誘導性栄養素Nは、総重量(生体活性ガラスM+生分解性ポリマーP+栄養素N)に対して0.1重量%~10重量%、好ましくは0.1重量%~5重量%、最も好ましくは1重量%の量で存在する。
【0038】
更により好ましくは、本発明のインプラント材料は、骨誘導性栄養素Nがドープされたハイブリッド材料を含むマトリックスからなり、このマトリックスは、少なくとも70個数%の球の形状又は球内に収まる多面体の形状を有する細孔を有し、球の直径は、境界値も含めて100μmから900μmの間、好ましくは200μmから800μmの間であり、最小の球又は最大の球の直径間の差は、インプラントの全ての球の算術平均直径に対して最大で70%、好ましくは最大で50%、より好ましくは最大で30%であり、かつ細孔間の相互接続は、境界値も含めて25μmから250μmの間のそれらの最小寸法を有し、これらの細孔の少なくとも70個数%は、少なくとも1つの他の細孔との少なくとも1つの相互接続を有する。
【0039】
本発明のインプラント材料の第1の好ましい実施の形態では、骨誘導性栄養素がドープされたハイブリッド材料は、総重量(生体活性ガラスM+生分解性ポリマーP+栄養素N)に対して30重量%のSiO2及びCaOから作られた生体活性ガラスMと、総重量(生体活性ガラスM+生分解性ポリマーP+栄養素N)に対して69重量%のポリ(カプロラクトン)と、総重量(生体活性ガラスM+生分解性ポリマーP+栄養素N)に対して1重量%のフィセチン及び/又はヒドロキシチロソールとを含む。
【0040】
本発明のインプラント材料の第2の好ましい実施の形態では、骨誘導性栄養素がドープされたハイブリッド材料は、総重量(生体活性ガラスM+生分解性ポリマーP+栄養素N)に対して40重量%のSiO2及びCaOから作られた生体活性ガラスMと、総重量(生体活性ガラスM+生分解性ポリマーP+栄養素N)に対して59重量%のポリ(カプロラクトン)と、総重量(生体活性ガラスM+生分解性ポリマーP+栄養素N)に対して1重量%のフィセチン及び/又はヒドロキシチロソールとを含む。
【0041】
全てのその実施の形態では、好ましくは、本発明のインプラント材料は、骨誘導性栄養素Nがドープされたハイブリッド材料を含むマトリックスからなり、このマトリックスは、少なくとも70個数%の球の形状又は球内に収まる多面体の形状を有する細孔を有し、球の直径は、境界値も含めて100μmから900μmの間、好ましくは200μmから800μmの間であり、最小の球又は最大の球の直径間の差は、インプラントの全ての球の算術平均直径に対して最大で70%、好ましくは最大で50%、より好ましくは最大で30%であり、かつ細孔間の相互接続は、境界値も含めて25μmから250μmの間のそれらの最小寸法を有し、これらの細孔の少なくとも70個数%は、少なくとも1つの他の細孔との少なくとも1つの相互接続を有する。
【0042】
本発明はまた、本発明によるインプラント材料を含む、骨欠損補填、骨再生、及び骨組織工学用のハイブリッド材料で作られたインプラントを提供する。
【0043】
本発明のインプラント材料は、これまた本発明の目的である方法によって入手可能である。
【0044】
この骨欠損補填、骨再生、及び骨組織工学用の、骨誘導性栄養素がドープされたハイブリッド材料で作られたインプラントを製造する方法は、以下の工程:
a)SiO2及びCaOから作られ、任意にP2O5を含有する及び/又は任意にストロンチウムがドープされた生体活性ガラスMを選択する工程と、
b)少なくとも1つの溶剤S1に可溶であり、かつ少なくとも1つの溶剤Sに不溶である生分解性ポリマーPを選択する工程と、
c)製造されるインプラントを構成する材料内の細孔の所望の直径及びサイズに対応する直径及びサイズを有する細孔形成剤Aであって、
少なくとも1つの溶剤S1に不溶であり、かつ少なくとも1つの溶剤Sに可溶であるポリマーで作られている、
細孔形成剤Aの微小球を選択する工程と、
d)少なくとも1つの骨誘導性栄養素Nであって、
溶剤S1と同一又は異なるが、溶剤S1と混和性であり、生分解性ポリマーPも生体活性ガラスMも分解せず、かつ細孔形成剤Aの微小球が可溶ではない少なくとも1つの溶剤S2に可溶であり、かつ、
溶剤Sに不溶である、
骨誘導性栄養素Nを選択する工程と、
e)細孔形成剤Aの微小球をインプラントに所望される形状及びサイズを有する型に入れる工程であって、これらの微小球は、インプラント材料内に得られる細孔の形状及びサイズに対応する集密堆積物(compact stack:球充填体)を形成し、かつ細孔形成剤A-生分解性ポリマーP-生体活性ガラスMのアルコキシド前駆体-栄養素Nの混合物の総体積に対して少なくとも60体積%、好ましくは少なくとも70体積%に相当する、工程と、
f)溶剤S2中の溶液での骨誘導性栄養素Nを、溶剤S1中の溶液での生分解性ポリマーPへと導入し、混合する工程と、
g)工程f)で得られた混合物を生体活性ガラスMのアルコキシド前駆体へと導入する工程と、
h)工程g)で得られた混合物を型に入れる工程と、
i)工程h)の後に型内に収容された混合物を固化させる工程と、
j)工程i)で得られた混合物を離型する工程と、
k)溶剤Sで洗浄することによって細孔形成剤Aの微小球を除去する工程と、
を含む。
【0045】
この方法では、好ましくは、
生分解性ポリマーPは、
好ましくはデキストラン、ヒアルロン酸、寒天、キトサン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム又はアルギン酸カリウム、ガラクトマンナン、カラギーナン、ペクチンから選択される生体吸収性多糖類、
生体吸収性ポリエステル、好ましくはポリビニルアルコール又はポリ乳酸、及び、
生分解性合成ポリマー、好ましくはポリエチレングリコール又はポリ(カプロラクトン)、
から選択され、
細孔形成剤Aの材料は、少なくとも1つの溶剤S1及び少なくとも1つの溶剤S2に不溶の生分解性ポリマーから選択される。細孔形成剤Aの材料は、少なくとも1つの溶剤Sに可溶である。細孔形成剤Aの材料は、好ましくは、C1~C4アルキルポリメタクリレート、好ましくはメチルポリメタクリレート又はブチルポリメタクリレート、ポリウレタン、ポリグリコール酸、様々な形態のポリ乳酸、乳酸-co-グリコール酸コポリマー、ポリ(カプロラクトン)、ポリプロピレンフマレート、パラフィン及びナフタレン、又はアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)から選択され、
細孔形成剤Aの材料は、生分解性ポリマーPとは異なり、
骨誘導性栄養素Nは、ビタミンD2(エルゴカルシフェロール)、ビタミンD3(コレカルシフェロール)、25-ヒドロキシビタミンD2、25-ヒドロキシビタミンD3、24,25-ヒドロキシビタミンD2、24,25-ヒドロキシビタミンD3、1,25-ジヒドロキシビタミンD2、1,25-ジヒドロキシビタミンD3等のビタミンD誘導体、ビタミンK1、ビタミンK2、オメガ-3脂肪酸、プニカ酸、α-リポ酸、アントシアニン、フラボノール、プロシアニジン、チロソール、オレウロペイン、ナリンゲニン、プニカラギン、エラグ酸、及びフィコシアニンから選択される。
【0046】
また好ましくは、生分解性ポリマーPと生体活性ガラスMとの重量比は、境界値も含めて20/80から80/20の間であり、かつ骨誘導性栄養素Nは、工程k)で得られた材料の総重量に対して0.1重量%~10重量%、好ましくは0.1重量%~5重量%、最も好ましくは1重量%の量で存在する。
【0047】
本発明の方法の好ましい実施の形態では、生体活性ガラスMは、SiO2及びCaOから作られたガラスであり、生分解性ポリマーPは、ポリ(カプロラクトン)であり、骨誘導性栄養素Nは、フィセチン及び/又はヒドロキシチロソールであり、細孔形成剤Aの微小球の材料は、パラフィンであり、溶剤Sは、シクロヘキサンであり、かつ溶剤S1は、溶剤S2と同一であり、かつテトラヒドロフラン(THF)である。
【0048】
添付の図面を参照して以下の説明的記載を読むことで、本発明はより良く理解され、本発明の他の特徴及び利点はより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】マトリックスが非ドープのポリ(カプロラクトン)-生体活性ガラスハイブリッド材料で作られている、実施例1(比較)で得られたインプラントの70倍の倍率にて走査型電子顕微鏡で撮影された写真を表す図である。
【
図2】フィセチンがドープされたポリ(カプロラクトン)-生体活性ガラスハイブリッド材料からなる、実施例2で得られたインプラント材料の断面の70倍の倍率にて走査型電子顕微鏡で撮影された写真を示す図である。
【
図3】比較例(実施例1)で得られた従来技術のインプラントと比較した、実施例2及び実施例3で得られた本発明によるインプラントのin vitro評価の結果をヒストグラム形式で示す図である。ここで、初代ラット骨芽細胞の分化は、インプラントへのドーピング(実施例2及び実施例3)の効果の証拠としてアルカリホスファターゼ(ALP)の酵素活性を測定することによって評価される。
【
図4】材料を含まないコントロール(100%の率)、 実施例1で得られた材料、及び、 実施例2で得られた材料、の存在下での7日間の培養後の、初代ラット骨芽細胞の細胞生存率/増殖のレベルをグラフ形式で示す図である。
【
図5】上段の写真:2つの異なる倍率でのヒト皮質骨切片、 中段の写真:BG-PCLディスク(実施例1で得られた材料)、及び、 下段の写真:BG-PCL-Fisディスク(実施例2で得られた材料)、上で成長させた初代ラット骨芽細胞(PRO)の走査型電子顕微鏡画像を示す図である。
【
図6】マウス頭蓋冠における重大な欠損のモデルにおける材料の移植(開頭術)の結果を示す図である。これらの結果は、X線マイクロトモグラフィーによって得られたものであり、 「コントロール」動物での空のままでの骨欠損と、 BG-PCL(実施例1で得られた材料)で補填された骨欠損と、 BG-PCL-Fis(実施例2で得られた材料)で補填された骨欠損と、を区別することができる。
【
図7】マウス頭蓋冠の重大な欠損における移植後の骨再生の定量化の展開を表す図である。これらの結果は、 空のままのコントロールの骨欠損と、 BG-PCL(実施例1で得られた材料)で補填された骨欠損と、 BG-PCL-Fis(実施例2で得られた材料)で補填された骨欠損と、について移植日(J0)と比較した新しい骨形成の%として表現されている。
【発明を実施するための形態】
【0050】
上記及び下記において、以下の用語は以下の定義を有する:
「細孔相互接続(複数の場合もある)」:細孔間の相互の通過を可能にする開口部(複数の場合もある)、
「水性媒体」は、水を含有するあらゆる液体媒体又は水単独を意味する、
「生分解性」:生理学的液体、例えば生理食塩緩衝液(SBS)中で分解可能、
「生体吸収性」:生体細胞を含む生理学的培地中で除去可能、
「全ての細孔の算術平均直径」:細孔の直径の合計/細孔の数、
「球形の細孔」又は「球」:最小の直径と最大の直径との比が0.9±0.1である細孔又は球、
「球内に収まる多面体」:全ての点で同じ直径を有する球内に収まる多面体であって、球内に収まる多面体の種々の直径間の差が、多面体の収まる球の直径の最大で±15%である、多面体、
「細孔形成剤Aの微小球の集密堆積物」:細孔形成剤Aの微小球の堆積物であって、細孔形成剤A及び生分解性ポリマーP-生体活性ガラスM-栄養素Nハイブリッドの混合物が型内にあり、かつ微小球の堆積物が生体活性ガラスM-生分解性ポリマーP-栄養素Nハイブリッド混合物で覆われて浸透される場合に、微小球の少なくとも70個数%、好ましくは95個数%超が互いに接触しており、互いに接触したままとなっている、堆積物。細孔形成剤Aの微小球のそのような集密堆積物は、下記混合物のゲル化の前及び間に、細孔形成剤Aの微小球及び生分解性ポリマーP-生体活性ガラスM-骨誘導性栄養素Nハイブリッドの混合物を遠心分離することによって又は型に入れた細孔形成剤Aの微小球及び生分解性ポリマーP-生体活性ガラスM-骨誘導性栄養素Nハイブリッドの混合物に陰圧(真空)若しくは陽圧(大気圧を上回る)を印加することによって得ることができる。
「ハイブリッド材料」:ポリマー相及び生体活性ガラス相を含む材料であって、生体活性ガラス相が生体活性ガラスナノ粒子の鎖(ナノ粒子とは対照的に)からなり、該生体活性ガラスナノ粒子の鎖は連結して三次元網目構造を形成し、かつポリマー鎖と混ざり合っており、少なくとも1つの相が100nmより小さいサイズのドメインに囲まれているため、分子スケールを超える単一相として反応する特性がハイブリッド材料に付与される、材料。
「ドープされたハイブリッド材料」:ポリマー相、生体活性ガラス相、及び骨誘導性栄養素を含む材料であって、生体活性ガラス相が生体活性ガラスナノ粒子の鎖からなり、該生体活性ガラスナノ粒子の鎖は連結して三次元網目構造を形成し、かつポリマー鎖と混ざり合っており、少なくとも1つの相が100nmより小さいサイズのドメインに囲まれているため、分子スケールを超える単一相として反応する特性がハイブリッド材料に付与され、骨誘導性栄養素が生体活性ガラスナノ粒子鎖及び/又はポリマー鎖の三次元網目構造内に組み込まれている、材料。
【0051】
骨欠損補填、骨再生、及び骨組織工学用のインプラント材料は、
図1及び
図2と関連して記載される。
【0052】
本発明のインプラント材料は、ハイブリッド材料の網目構造内に入れられて骨誘導性栄養素Nがドープされた生体活性ガラスM-生分解性ポリマーPハイブリッド材料のマトリックスを含む。
【0053】
この構成により、骨誘導性栄養素Nがハイブリッド材料の重量に均一に分布しており、ハイブリッド材料が分解するにつれて放出されるため、長期的かつ定期的な様式で、すなわち一切「バースト」効果を伴わずに、骨誘導性栄養素Nの放出を対象となる部位で直接得ることができる。
【0054】
この場合、骨誘導性栄養素Nは分解されないため、この骨誘導性栄養素Nの全量が対象となる部位に到達する。
【0055】
好ましい実施形態では、本発明のインプラント材料のマトリックスは、
図2に示される特定の多孔度を有する。
【0056】
図1と
図2とを比較することで分かるように、
図2に示される骨誘導性栄養素がドープされた生分解性ポリマー-生体活性ガラスハイブリッド材料で作られたマトリックスを含む本発明のインプラント材料は、
図1に示される従来技術の非ドープの生分解性ポリマー-生体活性ガラスハイブリッド材料で作られたインプラント材料と同じ形態を有する。
【0057】
本発明のインプラント材料は、有機部分及び無機部分を含む材料のマトリックスと、それ自体が好ましくは有機である骨誘導性栄養素とを含む。
【0058】
この材料は、生体適合性、生体活性、生体吸収性であり、
図1及び
図2に見られるように、細孔分布及び細孔形状の点で非常に規則的な形態を有する。
【0059】
好ましくは、この材料は、直径が全ての点で同一である球の形態、又は最小の直径と最大の直径との比が最大で0.9±0.1である球の形態、又はそのような球内に収まる多面体であって、この球内に収まる多面体の異なる点での直径間の差が、多面体の収まる球の直径の最大で±15%である、多面体の形態の細孔を有する。
【0060】
本発明のインプラント材料は、境界値も含めて100μm~900μm、好ましくは200μm~800μmの非常に広い範囲の細孔サイズを有することができ、最小の球又は最大の球の直径間の差は、インプラントの全ての球の算術平均直径に対して最大で70%、好ましくは最大で50%、より好ましくは最大で30%であり、最小寸法が境界値も含めて25μmから250μmの間である細孔間の相互接続を伴う。
【0061】
これらの細孔の少なくとも70個数%は、別の細孔との少なくとも1つの相互接続を有する。
【0062】
そのような形状及び細孔サイズの分布並びに細孔間の相互接続のそのようなサイズは、特許文献4で実証されるように、細胞の伝導、骨の再成長、及び組織の浸潤に非常に有利である。
【0063】
マトリックスは有機相と、無機相と、従来技術のインプラント材料の骨誘導能を高める骨誘導性栄養素とからなる。
【0064】
無機相は生体活性ガラスMである。
【0065】
生体活性セラミック及び生体活性ガラスは、当業者によく知られており、特に、生体活性セラミックについては非特許文献1、非特許文献2に、特に非特許文献3、並びに特許文献1、特許文献2、及び特許文献3に記載されている。本発明では、生体活性ガラスのみが使用される。
【0066】
本発明のインプラント材料の有機部分は、生分解性ポリマーP及び骨誘導性栄養素Nを含む。好ましくは、骨誘導性栄養素は有機分子である。
【0067】
生分解性ポリマーPは、少なくとも1つの溶剤S1に可溶であり、少なくとも1つの溶剤Sに不溶である。これらの溶剤は水、水性媒体、又は有機溶剤であり得る。
【0068】
好ましくは、生分解性ポリマーPは、
好ましくはデキストラン、ヒアルロン酸、寒天、キトサン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム又はアルギン酸カリウム、ガラクトマンナン、カラギーナン、ペクチンから選択される生体吸収性多糖類、
生体吸収性ポリエステル、好ましくはポリビニルアルコール又はポリ乳酸、及び、
生分解性合成ポリマー、好ましくはポリエチレングリコール又はポリ(カプロラクトン)、
から選択される。
【0069】
骨誘導性栄養素Nは、溶剤S1と混和性の少なくとも1つの溶剤S2に可溶であり、溶剤Sに不溶である。
【0070】
溶剤S2は、最終的なインプラント材料の特性を低下させてはならない。溶剤S2は、有機相と無機相との分離を引き起こしたり、最終的な材料におけるこれらの相の均一性を変化させたりしてはならない。溶剤S2は、最終的なインプラント材料の機械的特性の損失を引き起こしてはならない。最終的なインプラント材料は、例えばやがて最終的なインプラントの形状及びサイズになるように取り扱い可能なままでなければならず、こうして、この材料で作られたインプラントはそれを移植しようとする外科医によって取り扱われ得る。
【0071】
好ましくは、骨誘導性栄養素Nは、ビタミンD2(エルゴカルシフェロール)、ビタミンD3(コレカルシフェロール)、それらの誘導体及び前駆体、ビタミンK1、ビタミンK2、オメガ-3脂肪酸、プニカ酸、α-リポ酸、アントシアニン、フラボノール、プロシアニジン、チロソール、オレウロペイン、ナリンゲニン、プニカラギン、エラグ酸、及びフィコシアニンから選択される。
【0072】
本発明のインプラント材料のマトリックスは、生体活性ガラスM及び生分解性ポリマーPからなり、これらがハイブリッド材料を形成し、すなわち、単一相を形成し、そこに骨誘導性栄養素Nが導入される。
【0073】
第1の好ましい実施形態では、本発明のインプラント材料にて、骨誘導性栄養素がドープされたハイブリッド材料は、総重量(生体活性ガラスM+生分解性ポリマーP+骨誘導性栄養素N)に対して30重量%のSiO2及びCaOから作られた生体活性ガラスMと、総重量(生体活性ガラスM+生分解性ポリマーP+骨誘導性栄養素N)に対して69重量%のポリ(カプロラクトン)と、総重量(生体活性ガラスM+生分解性ポリマーP+骨誘導性栄養素N)に対して1重量%のフィセチン及び/又はヒドロキシチロソールとを含む。
【0074】
第2の好ましい実施形態では、本発明のインプラント材料にて、骨誘導性栄養素がドープされたハイブリッド材料は、総重量(生体活性ガラスM+生分解性ポリマーP+骨誘導性栄養素N)に対して40重量%のSiO2及びCaOから作られた生体活性ガラスMと、総重量(生体活性ガラスM+生分解性ポリマーP+骨誘導性栄養素N)に対して59重量%のポリ(カプロラクトン)と、総重量(生体活性ガラスM+生分解性ポリマーP+骨誘導性栄養素N)に対して1重量%のフィセチン及び/又はヒドロキシチロソールとを含む。
【0075】
本発明で使用されるハイブリッド材料は、これまた本発明の目的である方法によって得られる。
【0076】
この方法は、生体活性ガラスの全てのアルコキシド前駆体を含むゾルを形成し、生分解性ポリマーPを溶剤S1に可溶化し、骨誘導性栄養素Nを溶剤S2に可溶化し、骨誘導性栄養素N溶液を生分解性ポリマーPの溶液へと加えた後に、これらを均一な混合物が得られるまで、すなわち相分離しなくなるまで混合し、この生分解性ポリマーP-骨誘導性栄養素N混合物を、生体活性ガラスの全てのアルコキシド前駆体を含むゾルへと加え、こうして得られた溶液を一連の重合反応(無機相のゾル-ゲル重合)(アルコキシド縮合)によってゲル化させることを含む。その際、無機相と有機相とが密接に結び付いたハイブリッド混合物が得られる。
【0077】
したがって、ハイブリッド材料は、2つの有機相と無機相との間の密接な絡み合いによって複合材料とは区別される。ハイブリッド混合物の場合に、これらの2つの相は(分子スケールを除いて)区別することができない。
【0078】
好ましい実施形態では、本発明のインプラント材料は、生分解性ポリマーP及び骨誘導性栄養素Nが可溶でない少なくとも1つの溶剤Sに可溶のポリマーで作られた微小球からなる細孔形成剤Aを使用する方法によって得られる。
【0079】
本発明のインプラント材料の機械的特性及び形態学的特性を低下させないために、骨誘導性栄養素Nを可溶化するのに使用される溶剤S2は、細孔形成剤Aを可溶化又は分解してはならない。溶剤S2はまた、生分解性ポリマーP又は生体活性ガラスMを分解してはならない。さらに、溶剤S2は、溶剤S1と混和性でなくてはならない。好ましくは、溶剤S2は、溶剤S1と同一である。
【0080】
次に、本発明の方法は、補填される骨欠損又は骨再生が望まれる欠損の形状に対応する形状及びサイズを有する型内に、生分解性ポリマーPとは異なるポリマー材料で作られた細孔形成剤Aの微小球を堆積することからなる。
【0081】
細孔形成剤Aのこれらの微小球は、そのサイズ及び分布が微小球の堆積に対するネガ型に相当する最終的な細孔を得ることを可能にする。
【0082】
実際のところ、マトリックスを構成することを目的とした材料をその後、細孔形成剤Aの微小球ビーズの堆積物中に浸透させ、次いで固化させることで、所望のインプラントの堆積物の形状及びサイズを変えずに離型することができる。次に、細孔形成剤Aを除去して、本発明のインプラント材料を得ることができる。
【0083】
理解されるように、この方法は、生体活性ガラスMを焼結するための高温熱処理を一切使用せず、必要とされる唯一の温度は、使用される溶剤Sの蒸発温度だけである。
【0084】
明らかになるように、本発明は、種々の材料及び種々の溶剤:
1)生分解性ポリマーPを構成する材料、
2)細孔形成剤Aを構成する材料、
3)骨誘導性栄養素N、
4)生分解性ポリマーP、骨誘導性栄養素N、及び生体活性ガラスMを溶解又は分解してはならない細孔形成剤Aの溶剤S、
5)同一又は異なっていてもよいが、共に混和性でなければならず、細孔形成剤Aを溶解せず、かつ生体活性ガラスMと、生分解性ポリマーPと、骨誘導性栄養素Nとのいずれも分解しない溶剤S1及び溶剤S2、
の選択の適切な組み合わせにある。
【0085】
その際、種々の材料及び溶剤の選択を、他のものの選択と独立して行うことはできないことが理解される。
【0086】
中でも、使用することができる好ましい生分解性ポリマーPは、
好ましくはデキストラン、ヒアルロン酸、寒天、キトサン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム又はアルギン酸カリウム、ガラクトマンナン、カラギーナン、ペクチンから選択される生体吸収性多糖類、
生体吸収性ポリエステル、好ましくはポリビニルアルコール又はポリ乳酸、及び、
生分解性合成ポリマー、好ましくはポリエチレングリコール又はポリ(カプロラクトン)、
である。
【0087】
特許文献4では、タンパク質が、使用可能な生分解性ポリマーとして列記されているが、本発明では、上記で提案された骨誘導性栄養素の存在下で可溶化することが困難であるため、タンパク質は使用可能な生分解性ポリマーPに含まれない。タンパク質は、アルコール、テトラヒドロフラン等の多くの有機溶剤に不溶又は実質的に不溶であると共に、水に難溶である。
【0088】
細孔形成剤Aのための材料の例は、好ましくはC1~C4アルキルポリメタクリレート、好ましくはメチルポリメタクリレート又はブチルポリメタクリレート、ポリウレタン、ポリグリコール酸、様々な形態のポリ乳酸、乳酸-co-グリコール酸コポリマー、ポリ(カプロラクトン)、ポリプロピレンフマレート、パラフィン及びナフタレン、又はアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)から選択される、水性媒体に不溶でかつ少なくとも1つの溶剤Sに可溶の生分解性ポリマーである。
【0089】
溶剤Sは、特に、アセトン、エタノール、クロロホルム、ジクロロメタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、ジエチルエーテル、ヘキサフルオロイソプロパノール、及びテトラヒドロフラン(THF)である。
【0090】
骨誘導性栄養素Nの例は、ビタミンD(ビタミンD2(エルゴカルシフェロール)及びビタミンD3(コレカルシフェロール))、その誘導体及び前駆体、ビタミンK1、ビタミンK2、オメガ-3脂肪酸、プニカ酸、α-リポ酸、アントシアニン、フラボノール、プロシアニジン、チロソール、オレウロペイン、ナリンゲニン、プニカラギン、エラグ酸、及びフィコシアニンである。
【0091】
加水分解コラーゲンは、本発明で使用可能な骨誘導性栄養素の1つではない。以下の実施例5に見られるように、ポリ(カプロラクトン)-生体活性ガラス-加水分解コラーゲンハイブリッド材料で作られたインプラント材料は、THF-酢酸溶剤を使用してPCL-加水分解コラーゲン混合物を可溶化する必要があるため、十分な機械的強度を有しない。
【0092】
本発明では、好ましくは、生分解性ポリマーPはポリ(カプロラクトン)(PCL)であり、細孔形成剤Aの微小球はパラフィンで作られており、溶剤Sはシクロヘキサンであり、骨誘導性栄養素Nはフィセチン及び/又はヒドロキシチロソールであり、溶剤S1は溶剤S2と同一であり、かつテトラヒドロフラン(THF)である。
【0093】
本発明のハイブリッドインプラント材料を製造する方法において、型に微小球を入れるのは、生体活性ガラスMのアルコキシド前駆体、生分解性ポリマーP、及び骨誘導性栄養素Nの混合物を入れる前に行われ得る。
【0094】
しかしながら、最初に生体活性ガラスMのアルコキシド前駆体、生分解性ポリマーP、及び骨誘導性栄養素Nの混合物を型に入れ、次いで細孔形成剤Aの微小球を型内に注ぐことも可能である。
【0095】
代替的に、生体活性ガラスMのアルコキシド前駆体、生分解性ポリマーP、骨誘導性栄養素N、及び細孔形成剤Aの微小球の混合物を作って、型に入れることができる。
【0096】
細孔の少なくとも70個数%が別の細孔との少なくとも1つの相互接続を有する材料を得るために、生分解性ポリマーP-生体活性ガラスM混合物へと導入される細孔形成剤Aの量は、型に入れられる生分解性ポリマーP-生体活性ガラスM-骨誘導性栄養素N-細孔形成剤Aの混合物の総体積の少なくとも60体積%に相当しなければならない。
【0097】
相互接続のサイズは、作られた球堆積物(sphere stack)内の細孔形成剤Aの球間の接触点のサイズに関連する。生成される相互接続のサイズを一定の細孔径で増加させることは、最初に作られた堆積物内の細孔形成球を部分的に融合して、それらの接触点のサイズを増加させることからなる工程を追加することによって可能である。
【0098】
細孔形成剤Aの微小球は、本発明では、生体活性ガラスMのアルコキシド前駆体、生分解性ポリマーP、及び骨誘導性栄養素Nのゾルと一緒に型内に入れたときに集密堆積物を形成しなければならない。
【0099】
このために、細孔形成剤Aの体積は、生分解性ポリマーP-生体活性ガラスMの前駆体-細孔形成剤A-骨誘導性栄養素Nの混合物の総体積に対して、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%でなければならない。
【0100】
生体高分子Pと生体活性ガラスMとの重量比は、10/90~90/10であり得る。好ましくは、得られる材料の機械的強度の理由から、その重量比は20/80~80/20であり、70/30の比で最高の機械的強度(材料の変形又は損失を伴わない容易な取り扱い)が得られる。
【0101】
骨誘導性栄養素Nの量は、総重量(生体活性ガラスM+生分解性ポリマーP+骨誘導性栄養素N)に対して、0.1重量%~10重量%、好ましくは0.1重量%~5重量%の範囲に及び得る。
【0102】
フィセチン及びヒドロキシチロソールの場合に、総重量(生体活性ガラスM+生分解性ポリマーP+骨誘導性栄養素N)に対して、1重量%の量で十分である。
【実施例】
【0103】
本発明をより良く理解するために、ここで、純粋に例示的かつ非限定的な方法で、幾つかの実施例を記載する。
【0104】
実施例1(比較):生分解性ポリマーPがポリ(カプロラクトン)であり、かつ生体活性ガラスMがガラスの総重量に対して75重量%のSiO2及び25重量%のCaOで作られている非ドープのハイブリッド材料で作られたマトリックスを含む従来技術によるインプラント材料の製造
第1工程は、細孔形成剤Aのパラフィン微小球を所望のインプラント形状を有する型内に堆積することであった。
【0105】
細孔形成剤Aの微小球の体積は、細孔形成剤A-生分解性ポリマーP-生体活性ガラスMの前駆体の混合物の総体積の70%に相当した。
【0106】
細孔形成剤は、すなわち400μm~600μmの直径を有する球形粒子の形態であった。
【0107】
それらの直径は、用途に応じて、数十ミクロン~数百ミクロンで選択され得る。最終的に得られる本発明のインプラント材料の多孔度は、これらの2つの点で制御することができる。第一に、得られる細孔の直径は、最初の細孔形成粒子の直径に直接的に依存する。したがって、所望の多孔度を非常に簡単に得るためには、最初のパラフィン微小球の粒子サイズを調整することで十分である。第二に、細孔間の相互接続のサイズは、最初の堆積物内のポリマービーズ間の接触領域のサイズに直接的に依存する。この接触領域のサイズは、最初のポリマー粒子を一緒に融合させるか、溶剤Sを使用するか、又は予備熱処理をすることによって変更することができる。この手順は既に、Descamps et al., "Manufacture of macroporous beta-tricalcium phosphate bioceramics". Journal of the European Ceramic Society2008, 28, (1), 149-157、及び"Synthesis of macroporous beta-tricalcium phosphate with controlled porous architectural". Ceramics International 2008, 34, (5), 1131-1137によって記載されている。
【0108】
第2工程で、ポリ(カプロラクトン)をテトラヒドロフラン(THF)中に溶解させた。
【0109】
第3工程で、ポリ(カプロラクトン)溶液を、生体活性ガラスのアルコキシド前駆体を含有するゾル中に注いだ。
【0110】
生体活性ガラスのアルコキシド前駆体は、以下の通りであった。
テトラエチルオルトシリケートTEOS
カルシウムエトキシドCa(OEt)2
2MのHCl
【0111】
これらは、生体活性ガラスの組成が最後に得られる生体活性ガラスの総重量に対して75重量%のSiO2及び25重量%のCaOであるような量であった。
【0112】
第4工程で、上記ハイブリッド混合物を、パラフィン微小球堆積物が入った型内に注いだ。
【0113】
遠心分離又は加圧浸透又は真空浸透を使用して、ハイブリッド混合物がパラフィン微小球間の隙間を満たすのを補助することができる。
【0114】
ゾル-ゲル法によってハイブリッド材料が得られた。
【0115】
この方法では、生体活性ガラスの全てのアルコキシド前駆体及び生分解性ポリマーを溶液中に含むゾルが一連の重合反応によってゲル化される。
【0116】
このゲル化は、得られたハイブリッド材料マトリックスを分解しないために、境界値も含めて0℃から60℃の間の温度で実施される。
【0117】
固化したら、パラフィン微小球を含有するインプラント材料を離型し、シクロヘキサンで洗浄することにより、細孔形成剤のパラフィン微小球を除去する。
【0118】
幾つかの洗浄工程の後に、パラフィン微小球の最初の印象材を完全に除去することで、最終材料がマクロ孔質の生体活性ガラス/ポリ(カプロラクトン)ハイブリッドブロックの形で得られる。
【0119】
70重量%のポリ(カプロラクトン)及び30重量%の生体活性ガラスで作られ、かつ細孔の少なくとも70個数%が別の細孔との少なくとも1つの相互接続を有するインプラント材料が得られた。
【0120】
得られた構造物は、塩化物、THF等の可能性のある不所望な残留物を除去するために、エタノール浴内で一切の損傷なく洗浄することができる。
【0121】
実施例2(本発明による):生分解性ポリマーPがポリ(カプロラクトン)であり、生体活性ガラスMがガラスの総重量に対して75重量%のSiO2及び25重量%のCaOで作られており、かつ骨誘導性栄養素Nがフィセチンである、骨誘導性栄養素がドープされたハイブリッド材料で作られたマトリックスを含むインプラント材料の製造
第1工程は、細孔形成剤Aのパラフィン微小球をインプラントに所望される形状を有する型内に堆積することであった。
【0122】
細孔形成剤Aの微小球の体積は、実施例1と同様に、細孔形成剤A-生分解性ポリマーP-骨誘導性栄養素N-生体活性ガラスMの前駆体の混合物の総体積の70%であった。
【0123】
細孔形成剤は、実施例1と同様に、すなわち400μm~600μmの直径を有する球形粒子の形態であった。
【0124】
第2工程で、実施例1と同様に、ポリ(カプロラクトン)をテトラヒドロフラン(THF)中に溶解させた。
【0125】
別個に、得られたポリ(カプロラクトン)溶液中にフィセチンを可溶化させた。これはフィセチンがTHFに可溶であるため可能である。均一な溶液が得られるまで、すなわち相分離しなくなるまで、混合物を撹拌した。
【0126】
導入されるフィセチンの量は、最終的なインプラント材料中のその重量が重量(生体活性ガラス+ポリ(カプロラクトン)+フィセチン)の1%となるような量であった。
【0127】
得られる溶液はフィセチンの存在により赤みがかった色合いを有する。
【0128】
第3工程で、ポリ(カプロラクトン)-フィセチン溶液を、生体活性ガラスのアルコキシド前駆体を含有するゾル中に注いだ。
【0129】
生体活性ガラスのアルコキシド前駆体は、実施例1で使用されたものと同じであり、実施例1と同じ量であった。
【0130】
第4工程で、上記ハイブリッド混合物を、パラフィン微小球堆積物が入った型内に注いだ。
【0131】
遠心分離又は加圧浸透又は真空浸透を使用して、ハイブリッド混合物がパラフィン微小球間の隙間を満たすのを補助することができる。
【0132】
ゲル化は、得られるハイブリッド材料マトリックスを分解しないために、境界値も含めて0℃から60℃の間の温度で実施される。
【0133】
固化したら、パラフィン微小球を含有するインプラント材料を離型し、シクロヘキサンで洗浄することにより、細孔形成剤のパラフィン微小球を除去する。
【0134】
幾つかの洗浄工程の後に、パラフィン微小球の最初の印象材を完全に除去することで、最終材料がマクロ孔質の生体活性ガラス/ポリ(カプロラクトン)/フィセチンハイブリッドブロックの形で得られる。
【0135】
69重量%のポリ(カプロラクトン)、30重量%の生体活性ガラス、及び1重量%のフィセチンで作られ、かつ細孔の70個数%が別の細孔との少なくとも1つの相互接続を有する赤みがかった色のインプラント材料が得られた。
【0136】
得られた構造物は、塩化物、THF等の可能性のある不所望な残留物を除去するために、エタノール浴内で一切の損傷なく洗浄することができる。
【0137】
シクロヘキサンで洗浄してパラフィン微小球を除去し、エタノールで洗浄すると、溶剤は無色のままであることから、フィセチンの放出がごくわずかである又は全く放出されないことを示している。
【0138】
実施例3(本発明による):生分解性ポリマーPがポリ(カプロラクトン)であり、生体活性ガラスMがガラスの総重量に対して75重量%のSiO2及び25重量%のCaOで作られており、かつ骨誘導性栄養素Nがヒドロキシチロソールである、骨誘導性栄養素がドープされたハイブリッド材料で作られたマトリックスを含むインプラント材料の製造
この方法は実施例2と同一であるが、フィセチンをヒドロキシチロソールに置き換えている。
【0139】
ポリ(カプロラクトン)溶液へのヒドロキシチロソールの可溶化の間に得られた溶液だけでなく、最後に得られたインプラント材料も、ヒドロキシチロソールの存在のために黄色がかった色合いを有する。
【0140】
本実施例においても、シクロヘキサンで洗浄してパラフィン微小球を除去し、エタノールで洗浄すると、溶剤は無色のままであることから、ヒドロキシチロソールの放出がごくわずかである又は全く放出されないことを示している。
【0141】
実施例4(比較):生分解性ポリマーPが加水分解コラーゲンであり、かつ生体活性ガラスMがガラスの総重量に対して75重量%のSiO2及び25重量%のCaOで作られているハイブリッド材料で作られたマトリックスを含むインプラント材料の製造
加水分解コラーゲンは、生理液と接触しても膨潤しない。
【0142】
さらに、ゼラチン及びコラーゲンと同様に、加水分解コラーゲンは、インテグリンの受容体として機能し、したがって細胞接着を促進するアミノ酸配列を有する。
【0143】
加水分解コラーゲンはコラーゲンから生成される。コラーゲンは、水素結合及び共有結合によって共に結合された3つのポリペプチド鎖から構成されるタンパク質である。コラーゲンは通常、豚又は牛の皮から抽出される。コラーゲンの部分加水分解により分子間結合が切断されて、鎖の解離を引き起こす。その際に、ゼラチンが得られる。次に、ゼラチンの高度な加水分解によりペプチド結合の切断が引き起こされて、最初は1000を超えるアミノ酸から構成されていた鎖が約20アミノ酸のペプチドへと分解される。こうして、加水分解コラーゲンが得られる。
【0144】
加水分解コラーゲンを水に溶解した後に、バイオガラスゾルと混合する。得られたハイブリッドゾルには、白色かつ不透明な外観を与える白色粒子が含まれている。撹拌及び超音波による均質化の後に、ハイブリッドゾルをパラフィンビーズの堆積物へと注ぎ、その後に全体を3900rpmで3分間遠心分離する。この遠心分離は、加水分解コラーゲン-バイオガラスハイブリッドゾルの浸透を可能にしない。実際、ビーズの堆積物上に白い沈着物が観察され、その上に澄明な溶液が漂っている。
【0145】
加水分解コラーゲン-バイオガラスの均一な混合物を得ることが不可能であることに鑑みて、研究を行ったことで、加水分解コラーゲン及びバイオガラスの両方が90%の酢酸を含有する酢酸(弱有機酸)-水混合物に可溶であることが分かった。クロマトグラフィー-質量分析により、酢酸が加水分解コラーゲンを分解しないことが分かる。
【0146】
次に、加水分解コラーゲンを、90体積%の酢酸を含有する酢酸-水混合物に0.30g/mLの濃度で溶解させる。
【0147】
次いで、70%ポリマー30%バイオガラスの重量組成に達するようにバイオガラスゾルを添加する。
【0148】
得られたハイブリッド溶液は澄明である。次いで、そのハイブリッド溶液をビーズの堆積物へと注ぎ、遠心分離する。
【0149】
ゲル化は、得られたハイブリッド材料マトリックスを分解しないために、境界値も含めて0℃から60℃の間の温度で実施される。
【0150】
固化したら、パラフィン微小球を含むインプラント材料を離型し、シクロヘキサンで洗浄することにより、細孔形成剤のパラフィン微小球を除去する。
【0151】
製造されたインプラント材料は機械的特性に乏しく、水中で急速に溶解する。そのインプラント材料は実際に優しく扱う必要があり、そうでなければ壊れる傾向にある。
【0152】
結果として、ここに示されるバイオガラスを加水分解コラーゲンでドーピングすることは、骨補填用には適していない。
【0153】
実施例5(比較):生分解性ポリマーPがポリ(カプロラクトン)であり、生体活性ガラスMがガラスの総重量に対して75重量%のSiO2及び25重量%のCaOで作られており、かつ骨誘導性栄養素Nが加水分解コラーゲンである、骨誘導性栄養素がドープされたハイブリッド材料で作られたマトリックスを含むインプラント材料の製造
実施例4で既に述べられたように、加水分解コラーゲンは骨芽細胞の活性を刺激し、カルシウムの吸収を改善し、抗炎症特性及び抗酸化特性を有する。
【0154】
加水分解コラーゲン-バイオガラスハイブリッドのインプラント材料の合成は断念されたが、このタンパク質を少ない割合でPCL-バイオガラスハイブリッドの有機骨格に導入することは興味深いと思われ、加水分解コラーゲンでの有機ドーピングはハイブリッドの骨誘導能を改善する可能性がある。加水分解コラーゲンはPCLの代わりになる。60%のPCL、10%の加水分解コラーゲン、及び30%のSiO2-CaOバイオガラスの重量組成を目標とし、これをPCL-colHと呼ぶ。
【0155】
以前の研究では、PCL及び加水分解コラーゲンのための共通の溶剤として酢酸が明らかになっている(実施例4を参照)。酢酸は有機成分の均一な溶解及びハイブリッドゾルの実現を可能にするが、パラフィンビーズの溶解(細孔形成)後に、インプラント材料は崩壊する。
【0156】
次いで、ポリ(カプロラクトン)及び加水分解コラーゲンのための共通の溶剤として80%の酢酸-20%のTHFの混合物を使用してインプラント材料を製造する。これらのインプラント材料は崩壊せず、非ドープのPCL-バイオガラスハイブリッド足場と同じ直径の境界が明瞭な細孔及び相互接続を有している。
【0157】
しかしながら、得られたインプラント材料の切断はきれいにはいかず、壁にわずかな裂け目を伴う。
【0158】
加水分解コラーゲンの放出を、材料1mg当たり1mLの速度でのSBF(擬似体液)中の準動的な相互作用によって研究する。SBFを2日ごとに新しく取り替え、相互作用したSBFをBioAssayキットで分析して、加水分解コラーゲンの濃度を決定する。この研究は2日間の6回の連続した相互作用を伴う。分析により、最初の相互作用後に加水分解コラーゲンがSBF中に40%放出され、その後にSBF中の加水分解コラーゲンの濃度が後続の相互作用について検出限界を下回っていることが明らかになった。これらの結果は、加水分解コラーゲンの急速な放出を裏付けている。加水分解コラーゲンは水溶性であり、PCL鎖に単に複雑に結び付いているにすぎないため(共有結合ではない)、急速な放出が予想された。したがって、この有機ドーピングの潜在的な作用は短期的であると結論付けることができる。
【0159】
PCL-colHインプラント材料の骨誘導能をin vitroで評価し、非ドープのハイブリッド(PCL-BV)及びウシ海綿骨(OTB)の骨誘導能と比較する。インプラント材料に初代ラット骨芽細胞を播種し、細胞培養の7日後及び14日後にALP(アルカリホスファターゼ)活性を決定する。ALP活性は、PCL-colHでは7日後に顕著に高く、PCL-colH及びPCL-BVについては14日後に同様である。したがって、加水分解コラーゲンは石灰化過程を刺激するが、この効果は予想通り短時間に限定される。この実験ではSBFを2日~3日ごとに新しく取り替えることが分かっているので、7日間の細胞培養(つまり、1回のプレインキュベーション及び3回の相互作用)の後に、ハイブリッド内に加水分解コラーゲンは残っておらず、もはや培地中に放出されない可能性があることから、早期に限定された骨誘導が説明されることとなる。したがって、これらの細胞の結果は、加水分解コラーゲンの急速な放出に関する以前の観察と一致している。
【0160】
最後に、PCL-colHインプラント材料をマウスの頭蓋冠に移植する。移植の3か月後に、PCL-colHインプラント材料では骨が再生されていないのに対して、非ドープのインプラント材料では骨の再成長が十分に進んでいる。この観察は、ALPの不存在によって示されるPCL-colHの移植領域における低い骨芽細胞活性と相関している。
【0161】
さらに、PCL-colHでは重大な炎症が観察される。
【0162】
したがって、PCL-colH材料は、in vivo性能により示されるように、非ドープの場合でさえも、PCL-BVハイブリッドとは対照的に骨補填には適していないように思われる。
【0163】
実施例6:実施例1~実施例3で得られたインプラント材料の機械的特性の評価
実施例1~実施例3で得られたインプラント材料の取り扱いにより、実施例2及び実施例3で得られるドープされたインプラント材料が、実施例1で得られる従来技術のインプラント材料と同一の機械的特性を有すること、すなわちこれらのインプラント材料が良好な機械的強度を有し、両者ともわずかに弾性であり、それらの取り扱いを可能にするのに十分に剛性であることが分かる。これらをメスで切断するのは簡単であり、きれいにいく。巨視的な観点から、色を除きドープされた材料と非ドープの材料とを区別することはできない。
【0164】
走査型電子顕微鏡検査では、形態及び表面仕上げに一切違いは示されない。
【0165】
図1及び
図2に示されるように、非ドープのインプラント材料は、ドープされたインプラント材料と同じ構造を有し、境界が明瞭で高度に相互接続された細孔、壁の表面上のマイクロメートル単位の粗さ、及び壁の内側のマイクロメートル単位の多孔度を有する。
【0166】
実施例7:実施例1~実施例3で得られたインプラントのin vitro評価
フィセチンがドープされたハイブリッドインプラント材料(PCL-fis)(実施例2)又はヒドロキシチロソールがドープされたハイブリッドインプラント材料(PCL-hyd)(実施例3)の骨誘導能をin vitroで評価し、非ドープのハイブリッド(PCL-BV)(実施例1)の骨誘導能と比較する。
【0167】
インプラント材料に初代ラット骨芽細胞を播種し、細胞培養の7日後及び14日後にALP活性を決定する。ALP活性は、各試料中に存在するGAPDHの相対量で正規化される。培養は軌道撹拌(10rpm)下で行われる。
【0168】
これらの材料との接触時の細胞分化に対する定量的結果をヒストグラム(ANOVA統計処理に続いての95%信頼区間についてのテューキー)の形式で示す
図3に示されるように、両方の時点で3つの材料間に有意差が観察されている。ALP活性は、PCL-fisで、次にPCL-hydで、そして最後にPCL-BVでより重大であることから、これらの有機ドーパントの骨誘導効果が裏付けられる。
【0169】
PCL-fis及びPCL-hydの骨誘導効果は、1回のプレインキュベーション及び6回の相互作用に相当する細胞培養の14日間まで観察される。これらのドーパントの放出は長期持続するように思われる。PCL-fisとの相互作用後に培養培地の色の変化が観察されるのは、培養培地がドーパントの色を帯びるからである。
【0170】
この色の変化は、培地を新しく取り替えるごとに減少するものの、依然として目立つことから、時間と共に放出が広がっていることを示している。フィセチン及びヒドロキシチロソールの段階的な放出は、水性媒体中でのフェノール化合物及びPCLから作られたハイブリッドの低い可溶性に関連し得る。
【0171】
結論として、フィセチン及びヒドロキシチロソールはハイブリッドの骨誘導能を改善する。また、経済的な観点から、生体材料の成分としてこれらの抗酸化物質を使用することは、手術後の栄養補助食品の摂取と比較してはるかに魅力的な方略を表している。PCL-バイオガラスハイブリッドの有機ドーピングには、特にポリフェノールのファミリー(オレウロペイン、ヘスペリジン、ナリンギン、レスベラトロール)における多数の骨誘導性有機化合物も考慮され得る。
【0172】
実施例8:実施例1及び実施例2で得られたインプラントのin vivo評価
倫理の尊重及び動物
全ての実験をパリ・デカルト大学の動物福祉委員会によって承認されたプロトコルに従って行った(プロジェクト承認17-093、APAFIS番号2018031514511875)。欧州連合理事会指令(動物飼育に関する協定C92-049-01)によって展開された倫理条件に従って動物を扱った。動物の痛み又は不快感を最小限に抑えるためにあらゆる努力を払った。マウスC57b16は、Janvier Labs(フランス、ル・ジュネスト=サン=ティスル)から購入した。これらのマウスは、フランス、モンルージュのデカルト大学の口腔顔面病理学、イメージング及び生物療法学科(the Department of Orofacial Pathology, Imaging and Biotherapy)の建物内において、22±2℃にて12時間の昼夜サイクルで、食物及び水を自由に摂取することができる状態で収容された。
【0173】
外科的移植、試料採取、及び実験手順
マウスC57b16(12週齢、およそ30g)を、どちらもCentravet Alfort社(フランス、メゾン=アルフォール)からのケタミン(80mg/kg)及びキシラジン(10mg/kg)の腹腔内注射によって麻酔した。
【0174】
頭皮を切開し、骨膜を除去して、頭蓋骨を露出させた。1500rpmで動作する低速のハンドピースに連結されたTissue(商標)パンチ(Praxis l'Instrumentiste社(フランス)製)を使用して、滅菌生理食塩水で洗浄しながら、頭頂骨の両側に頭蓋冠の3.5mmの直径の重大なサイズの欠損を作成した。
【0175】
矢状縫合を保存し、硬膜への侵入を最小限に抑えるために特別な注意を払った。
【0176】
骨片を優しく取り除いた後に、実施例2で得られたフィセチンがドープされたハイブリッド材料で作られたインプラント(BG-PCL-Fis)又は実施例1の非ドープのインプラント(BG-PCL)で欠損を補填した。
【0177】
円柱形インプラントの寸法は3.5mmの直径、1mmの高さであった(n=8)。
【0178】
各動物について、両方の欠損に同じ種類の材料を移植した。
【0179】
追加の6匹のマウスの頭蓋骨に作成された欠損は、欠損の重大性の対照を取るためのネガティブコントロール(「偽」手術)として空のままにした。
【0180】
吸収性縫合糸(Vicryl Rapid(商標)4.0、Ethicon, Johnson & Johnson社)で切開部の閉鎖を完了する。ブプレノルフィン(0.02mg/kg(体重))による鎮痛により、術直後ケアを適用した。手術後に、動物は常時観察しながら個別に収容した。
【0181】
手術中及び手術後の期間中に、致死は観察されなかった。
【0182】
感染の兆候、材料の露出、又はその他の合併症を一切伴わずに治癒が進行した。
【0183】
手術前後の十分な栄養を確実にするために、体重を定期的に監視した。
【0184】
手術後0日目、30日目、60日目、及び90日目に、動物の頭蓋骨を以下に記載されるようにマイクロX線トモグラフィー(マイクロCT)によって視覚化した。
【0185】
全ての動物を90日目に安楽死させ、それらの頭蓋冠を切除した。
【0186】
試料を70%(体積/体積)のエタノール(4℃で24時間)中に固定した後に、漸増する体積%のエタノールを含むエタノール溶液中で脱水して、微量の水を全て除去し、脱灰を行わずに-20℃でメチルメタクリレート樹脂(Merck社)中に包埋した。
【0187】
樹脂で覆われた頭蓋冠の骨試料を、硬組織用ブレード(Leica社)を備えたJung Polycut E(商標)ミクロトーム(Leica社)を使用して切断(5mmの厚さ)した。
【0188】
50%(体積/体積)のエタノールの液滴に浸した後に、切片をゼラチンでコーティングされたスライドガラス(Menzel-Glaeser社)上でしわのない状態に伸ばし、ポリエチレンホイルで覆い、スライドガラスへとしっかりと押し付けて、室温で一晩放置して乾燥させた。
【0189】
脱可塑化(deplastification)を2-メトキシエチルアセテート(Carlo Erba社)中において20分間で3回実施した。
【0190】
以下の手順のために、漸減濃度のエタノール溶液で切片の再水和を行った。
【0191】
X線マイクロトモグラフィー
ベースライン、30日目、60日目、及び90日目にマウスを麻酔(イソフルラン、0.8L/分~1.5L/分の気流下で3%~4%の誘導、その後400mL/分~800mL/分の空気流下で1.5%~2%の誘導)し、PIV Platform, EA2496(フランス、モンルージュ)からのX線コンピュータトモグラフィー装置(Quantum FX Caliper(商標)、Perkin Elmer Life Sciences社(マサチューセッツ州、ウォルサム))を使用して分析した。
【0192】
X線源を90kV及び160μAに設定した。
【0193】
3次元画像を20μmの等方性ボクセルサイズで取得した。
【0194】
ヒドロキシアパタイトのmg数で較正された内部密度ファントムを使用して、骨密度を測定した。
【0195】
X線源及びフラットパネル検出器の両方を試験片の周りに360°回転させることによって(スキャン時間は3分)、高解像度の3D生データを取得した。
【0196】
次いで、OsiriX(商標)イメージングソフトウェア(スイス、ジュネーブのA. Rosset博士のLGPLライセンス下で配布されたb5.7.1)を使用して、Dicoデータフレームから3次元レンダリングを抽出した。
【0197】
CTscan Analyzer(商標)ソフトウェア(Skyscan、バージョン1.13.5.1、ベルギー、コンティフ)を使用して、各欠損内の再生した骨の定量化を行った。
【0198】
最初の欠損領域を切り離すために連続した区間にわたり2D対象領域を内挿することによって、全体的な関心体積(VOI)をプロットした。
【0199】
得られた内挿されたVOIは、再形成された骨欠損領域のみを含んでいた。
【0200】
骨の選択及びバックグラウンドノイズの除去のために、全体的な閾値をインタラクティブに決定した。
【0201】
「新しい組織」の体積分率を、最初の欠損の総体積に対して表現した。
【0202】
統計学
各群における結果を、平均値±標準偏差として表現した。フィッシャーの検定を使用して、生物群を統計的に判別した。
【0203】
結果
図4は、コントロール(100%)、BG-PCL、及びBG-PCL-Fisの存在下での初代ラット骨芽細胞の細胞生存率の結果をグラフ形式で示している。
【0204】
細胞活性の生存率の測定は、7日間の培養後のXTT活性に基づいている。
【0205】
この図では、ミトコンドリア活性がコントロール条件(CTRL)のパーセンテージとして表現されている。
【0206】
図4で見ることができるように、コントロールと本発明又は従来技術によるインプラントとの間で細胞生存率に有意差は示されていない。
【0207】
この有意差の欠如は、BG-PCL及びBG-PCL-Fis溶解産物が細胞成長及び細胞増殖に対して悪影響を及ぼさないことを裏付けている。
【0208】
ヒト皮質骨の切片上、実施例1からのBG-PCLディスク、及び実施例2のBG-PCL-Fisディスクでの初代骨芽細胞の挙動を走査型電子顕微鏡検査により研究した。
【0209】
ヒト皮質骨の切片をコントロールとして使用した。
【0210】
図5は、
上段の写真:2つの異なる倍率でのヒト皮質骨切片、
中段の写真:BG-PCLディスク、
下段の写真:BG-PCL-Fisディスク、
上で成長させたRPOの走査型電子顕微鏡画像を示している。
【0211】
図5で見ることができるように、全ての場合に、細胞は材料の表面を覆い、星形状を示し、糸状仮足の接続を示したことから、適切な細胞接着が裏付けられる。
【0212】
認められるように、細胞はヒト皮質骨と比較して、BG-PCL表面上でより効率的に広がり、BG-PCL-Fis表面上ではより一層広がるように思われることから、本発明のドープされたハイブリッド材料の細胞接着に有利な環境が作り出されていることが裏付けられる。
【0213】
より重要なことに、
図6で再現されたコンピュータトモグラフィー画像は、30日後に、
空の欠損(空のままのコントロール)が、約10%の低い骨再生(欠損の重要な特徴を規定する不十分な自然的再生)を示すことと、
BG-PCLで補填された欠損が、およそ30%の有意により高い骨量を有することと、
BG-PCL-Fisで補填された欠損が、55%の骨再生を達成することと、
を示している。
【0214】
90日間の試験の終わりに、コントロールでは骨量がおよそ15%に達したのに対して、BG-PCLインプラントを使用すると骨欠損の30%超が修復された。
【0215】
注目すべきことに、実施例2のフィセチンがドープされたインプラントBG-PCL-Fisを使用した場合に、新しい骨形成は欠損全体に広がり、最初の欠損の55%超を覆った。
【0216】
【国際調査報告】