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特表2022-507375ミオスミンから(S)-ニコチンを調製する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(54)【発明の名称】ミオスミンから(S)-ニコチンを調製する方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 17/12 20060101AFI20220111BHJP
   A61K 31/465 20060101ALI20220111BHJP
   A61P 25/26 20060101ALI20220111BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20220111BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20220111BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
C12P17/12 ZNA
A61K31/465
A61P25/26
A61K9/70
A61K9/20
A61K9/72
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021526250
(86)(22)【出願日】2019-03-12
(85)【翻訳文提出日】2021-07-08
(86)【国際出願番号】 EP2019056194
(87)【国際公開番号】W WO2020098978
(87)【国際公開日】2020-05-22
(31)【優先権主張番号】18206826.2
(32)【優先日】2018-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521173384
【氏名又は名称】ザノプリマ ライフサイエンシズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100176094
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 満
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】マッケイグ,レイモンド
(72)【発明者】
【氏名】ナラシムハン,アショク スリニヴァサン
【テーマコード(参考)】
4B064
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4B064AE49
4B064AE54
4B064CA21
4B064CB16
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA10
4C076AA36
4C076AA71
4C076AA93
4C076BB22
4C076BB27
4C076BB31
4C076CC01
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA04
4C086BC20
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA20
4C086ZA11
(57)【要約】
(S)-ニコチン([(S)-3-(1-メチルピロリジン-2-イル)ピリジン])を合成によって生産する方法が、提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)イミン還元酵素活性を有する酵素でミオスミンを還元して(S)-ノルニコチンを形成するステップと;
(ii)ステップ(i)から形成された前記(S)-ノルニコチンをメチル化して(S)-ニコチンを形成するステップと
を含む、(S)-ニコチンを作製する方法。
【請求項2】
ステップ(ii)が、還元的メチル化によって実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(ii)において、前記(S)-ノルニコチンが、還元剤の存在下でホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド系化合物を使用して還元的にメチル化される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ホルムアルデヒドが、水溶液の一部として導入される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ホルムアルデヒド系化合物が、ホルムアルデヒドの二量体、ホルムアルデヒドのポリマーまたはホルムアルデヒドのアセタールである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記還元剤が、ギ酸、シアノ水素化ホウ素ナトリウムまたはパラジウム/水素である、請求項2~4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記還元剤がギ酸である、請求項2~4のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
ステップ(i)から形成された前記(S)-ノルニコチンを単離することなく実施される、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ステップ(i)において前記(S)-ノルニコチンが水溶液の一部として形成され、ステップ(ii)が、前記水溶液に含有される前記(S)-ノルニコチンをメチル化するステップを含む、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
ステップ(ii)において前記(S)-ノルニコチンが、水溶液の一部として導入されるホルムアルデヒドを使用して還元的にメチル化される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記(S)-ニコチンが、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは少なくとも99%の鏡像体過剰率で得られる、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載の方法に従って(S)-ニコチンを形成するステップと、1つまたは複数の医薬賦形剤と一緒に医薬組成物に前記(S)-ニコチンを含めるステップとを含む、医薬組成物を生産する方法。
【請求項13】
前記医薬組成物が、経皮パッチ、口内錠または吸入処方物である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~11のいずれかに記載の方法に従って(S)-ニコチンを形成するステップと、1つまたは複数の添加物を含む溶媒中に前記(S)-ニコチンを含めるステップとを含む、電子たばこデバイス用の処方物を生産する方法。
【請求項15】
(S)-ニコチンを形成する方法におけるミオスミンおよびイミン還元酵素活性を有する酵素の使用であって、前記方法が、請求項1~11のいずれか一項に記載の特徴を含む、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(S)-ニコチン([(S)-3-(1-メチルピロリジン-2-イル)ピリジン])を合成によって生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニコチン(3-[1-メチルピロリジン-2-イル]ピリジン)は、タバコ属(Nicotiana)、すなわちタバコ植物の葉から得られ得る天然物である。タバコ産業、更には医薬分野の全体でニコチン製品に対する大きな需要がある。例えば、伝統的なタバコ製品、例えば伝統的な紙巻きたばこの需要は依然としてあり、それはニコチンの常習性による可能性が高い。しかしながら、消費者の健康に対する伝統的な紙巻きたばこ製品の有害な影響に関する懸念の広がりのため、電子たばこデバイス、パッチ、口内錠、鼻腔用スプレーおよびチューインガムなど、含ニコチンタバコ代用製品の需要が増大している。タバコ代用製品は、ピリジンアルカロイド、多環式芳香族、フェノールおよびN-ニトロソアミンの存在などにより有害な発癌効果をもたらす伝統的なタバコ製品の代替品として提供されてもよい。タバコ代用製品は、ニコチン依存症を治療するために特に使用されてもよい。医薬分野においては、ニコチンの治療適用の可能性に対する関心も存在する。
【0003】
適切なレベルの鏡像異性純度と化学純度の両方でニコチンを得るには課題が存在する。ニコチンは光学活性があり、すなわち、2つの考え得る鏡像異性形態:(R)-ニコチンまたは(S)-ニコチンのうちの1つで存在し得る。ニコチンのラセミ混合物を得る方法が、存在する(例えば国際公開第2016065209号パンフレット)。しかしながら、(S)-ニコチン(すなわち[(S)-3-(1-メチルピロリジン-2-イル)ピリジン])が、(R)-ニコチンより有意に活性があることは認知されている。したがって、タバコ産業および医薬分野における需要は、(S)鏡像異性体について鏡像異性純度のレベルが高いニコチンに対してである。特に医薬産業は、新たな医薬品に対して鏡像異性純度の要求レベルに厳しい規定を課しており、ニコチンの鏡像異性純度の既存の要求レベルが増大する可能性があると考えられる。ニコチンの鏡像異性純度に対する需要に加えて、高レベルの化学純度を得ることも医薬とタバコ産業両方において重要である。化学純度とは、非ニコチン不純物と比較したニコチン(すなわち(R)と(S)両方の鏡像異性形態)の量を指す。医薬産業は、非ニコチン不純物と比較してニコチンの化学純度の要求レベルについて極めて厳しい規定をすでに課している。実際に、ニコチンの化学純度に関する現在の米国薬局方参照基準は、少なくとも99%であり、いかなる単一の不純物も0.5%以下である。上記の有害な発癌効果は、発癌効果を及ぼす能力がある不純物に起因し得るので、高い化学純度はタバコ産業にも著しく重要なものである。
【0004】
(S)-ニコチンは、タバコ植物の葉から抽出することによって得ることができる。しかしながら、ニコチンがこの方法で得られる場合、関連するアルカロイド不純物の存在のため、一般にニコチンの化学純度は95%未満である。タバコ葉から抽出することによって得られるニコチン試料の典型的な組成物は、(S)-ニコチン93%、(S)-ノルニコチン2.4%、(S)-アナタビン3.9%および(S)-アナバシン0.5%を含む(E. Leete and M. Mueller, J. Am. Chem., Soc., 1982, 104, 6440-44)。アルカロイド不純物は、ニコチンと類似の化学構造のものであり、したがって除去が困難である。ニコチンの実際の組成物は、地理的供給源および収穫の季節などの因子によって決まる。
【発明の概要】
【0005】
(S)-ニコチンは、合成方法によって得られてもよい。(S)-ニコチンを合成によって生産するための様々な例が、先行技術にある。例えば、先行技術において、(R)-ニコチンおよび(S)-ニコチンのラセミ(すなわち等量)混合物が作られ、このラセミ混合物が、その後分割されて(S)鏡像異性体を得る方法がある(米国特許第8,389,733号明細書、米国特許出願公開第2014/0031554号明細書および米国特許第8,378,111号明細書)。生体触媒である酵素を使用して(S)-ニコチンを生産する合成方法の例も先行技術にある(国際公開第2014/174505号パンフレット);鏡像異性的に選択的な方法おける生体触媒の使用は、ニコチン分野以外で一般に公知である(L.S. Bleicher et al, J. Org. Chem., 1998, 63, 1109-18、国際公開第2013/170050号パンフレット、国際公開第2015/073555号パンフレット、P.N Scheller et al, Chembiochem, 2014, 15, 2201-4、Gand et al, J Mol. Cat. B, Enzymatic, 2014, 110, 126-32)。にもかかわらず、高い化学純度も達成しながら高い鏡像異性選択性で(R)鏡像異性体に優先して(S)-ニコチンを選択的に合成することは、課題のままである。
【0006】
(発明の概要)
第1の態様において、
(i)イミン還元酵素活性を有する酵素でミオスミンを還元して(S)-ノルニコチンを形成するステップと、
(ii)ステップ(i)から形成された(S)-ノルニコチンをメチル化して(S)-ニコチンを形成するステップと
を含む、(S)-ニコチンを作製する方法がある。
【0007】
ミオスミンが出発材料として使用される場合、この方法のステップ(i)および(ii)によって(S)-ニコチンに対して極めて高い鏡像異性および化学純度が達成されることが、驚くことに判明した。これは、ステップ(i)が、(S)異性体に優先傾向を持つ高度に鏡像異性選択的な合成ステップであり、ステップ(ii)が、高い化学純度も維持しながら、この優先傾向が最終的なニコチン産物において保持されるようなステップであることを示す。これにより、ラセミ混合物の分割に頼る必要なく(S)-ニコチンを生産することが可能になる。高い化学純度は、特に有利であり;ニコチンに一般に付随する望ましくない不純物のレベルの減少は、不純物に関連する潜在的な負の効果の危険性の減少をもたらす。更に、ステップ(i)および(ii)は、(S)-ニコチンを作製するのに簡便な製造方法を提供する。
【0008】
第2の態様において、第1の態様の方法を使用して(S)-ニコチンを形成するステップと、1つまたは複数の医薬賦形剤と一緒に医薬組成物に(S)-ニコチンを含めるステップとを含む、医薬組成物を生産する方法がある。
【0009】
第3の態様において、第1の態様の方法を使用して(S)-ニコチンを形成するステップと、1つまたは複数の添加物を含む溶媒中に(S)-ニコチンを含めるステップとを含む、電子たばこデバイス用の処方物を生産する方法がある。
【0010】
第4の態様において、(S)-ニコチンを形成する方法におけるミオスミンおよびイミン還元酵素活性を有する酵素の使用がある。
【0011】
第5の態様において、(S)-ニコチンを形成する上記方法に使用するための、ミオスミンおよびイミン還元酵素活性を含む酵素を含むキットがある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(好ましい態様の説明)
当業者なら認識するであろうが、ミオスミン、(S)-ノルニコチンおよび(S)-ニコチンは以下の構造を有する:
【0013】
【化1】
【0014】
当業者なら、ミオスミンを作製するのに適当な反応スキームに精通しているであろう。
【0015】
本明細書では、「イミン還元酵素活性を有する酵素」とは、イミン基、特に第2級イミン基を、対応するアミン基、特に第2級アミン基へと不斉還元し得る酵素を指す。特に、本明細書に開示される方法に使用されるイミン還元酵素活性を有する酵素は、ミオスミンの(S)-ノルニコチンへの転換を触媒し得る酵素である。当業者は、そのような酵素に精通している。酵素は、噴霧乾燥細胞の形態など様々な形態で反応混合物に添加され得る。
【0016】
好ましくは、(S)-ノルニコチンが少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは少なくとも99%の鏡像体過剰率で得られるように本方法は、ミオスミンを(S)-ノルニコチンに転換し得る酵素を使用する。鏡像体過剰率は、実施例に示される様式で測定される。本明細書に開示される方法において、この高い鏡像体過剰率は、最終産物として最終的に実現される(S)-ニコチンについても達成される。
【0017】
当業者なら認識するであろうが、イミン還元酵素活性を有する酵素には、NADH/NADPH依存的脱水素酵素およびNADH/NADPH依存的イミン還元酵素などのNADH/NADPH依存的酸化還元酵素が一般にある。NADH/NADPH依存的脱水素酵素には酵素分類番号E.C.1.1.1によって付託されているものがあり、特に6-ホスホグルコン酸脱水素酵素があり、酵素分類番号E.C.1.1.1.44によって付託されている。イミン還元酵素には、酵素分類番号E.C.1.5.1で付託されている、特に酵素分類番号E.C 1.5.1.48で付託されているものがある。
【0018】
イミン還元酵素の異なる種の例には、チアゾリニルイミン還元酵素、ジヒドロ葉酸還元酵素、Δ-ピロリン-2-カルボン酸還元酵素、Δ-ピペリデイン-2-カルボン酸還元酵素、サンギナリン還元酵素および1,2-ジヒドロレチクリン還元酵素がある。そのような酵素は、ストレプトマイセス属(Streptomyces)、ベルコシスポラ属(Verrucosispora)、メソリゾビウム属(Mesorhizobium)、エルシニア属(Yersinia)、シュードモナス属(Pseudomonas)、カンジダアルビカンス(candida albicans)、エスコルチア属(Eschscholzia)およびケシ属(Papaver)などの供給源から単離または得ることができる。
【0019】
考え得る酵素の例には、国際公開第2013170050号パンフレット(その内容を参照により組み込む)に開示されているものもある。
【0020】
酵素は、IRED_A、IRED_B、IRED_C、IRED_D、IRED_E、IRED_F、IRED_P、IRED_X、IRED_AB、IRED-20またはその同族体でもよい。IRED_A、IRED_B、IRED_C、IRED_D、IRED_E、IRED_F、IRED_P、IRED_XおよびIRED_ABは、Enzymicalsから入手可能であり;IRED-20は、Almac Groupから入手可能である。例えば、一実施形態において、酵素は、IRED_A、IRED_B、IRED_C、IRED_D、IRED_E、IRED-20またはその同族体である。
【0021】
本明細書に開示される酵素は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4のうちのいずれか1つによるアミノ酸配列、またはその同族体を含み得る。別の実施形態において、酵素は、配列番号1、配列番号2、配列番号3または配列番号4のうちのいずれか1つによるアミノ酸配列を含む。
【0022】
本明細書では、「その同族体」とは、本明細書に開示される酵素のうちのいずれか1つに対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む酵素を意味する。例えば、「その同族体」は、配列番号1、配列番号2、配列番号3または配列番号4のうちのいずれか1つによるアミノ酸配列に対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む酵素を意味し得る。
【0023】
本明細書では、用語「配列同一性」とは、2つ以上のアミノ酸配列の間の関係を指す。ある配列中の位置が、コンパレーター配列の対応する位置において同じアミノ酸残基によって使用されている場合、配列はその位置で「同一である」と言われる。パーセンテージ「配列同一性」は、両方の配列中に同一アミノ酸残基が存在する位置の数を決定して、「同一」位置の数を得ることによって算出される。「同一」位置の数は、次いで比較ウインドウ内の位置の合計数によって除算され、100で乗算されて、「配列同一性」のパーセンテージを得られる。「配列同一性」のパーセンテージは、比較ウインドウの始めから終わりまで最適にアラインされた2つの配列を比較することによって決定される。比較のために配列を最適にアラインするには、参照配列が一定に保たれるのに対して、比較ウインドウ内のポリペプチド配列の部分は、ギャップと称される追加または欠失を含んでもよい。最適なアラインメントは、ギャップがあっても、参照配列とコンパレーター配列の間に可能な限り多い数の「同一」位置を生じさせるアラインメントである。コード配列の間の配列同一性のレベルは、公知の方法を使用して算出され得る。
【0024】
配列同一性は、NCBIから利用可能なBLASTP、BLASTNおよびFASTA(Atschul et al., J. Molec. Biol., 215: 403-410, (1990))、BLASTXプログラム、ならびにGenetics Computer Group(Madison WI)製のGapプログラムを含めた配列同一性を決定するための公的に利用可能なコンピュータを使った方法を使用して算出され得る。アミノ酸配列を比較する場合、配列同一性のレベルは、ギャップペナルティ50およびギャップ長ペナルティ3を用いてGapプログラムを使用して得られる。
【0025】
一般に、ステップ(i)は、適切な補因子、特にNADHまたはNADPHの存在下で酵素によりミオスミンを還元するステップを含む。当業者なら認識するであろうが、酵素および補因子は、別々の成分として反応混合物に導入されてもよく、または同じ成分の一部として、例えば酵素と適当な補因子の両方を含有する微生物全細胞の形態で反応混合物に導入されてもよい。適切な補因子リサイクル系は、その酸化形態(NAD+またはNADP+)からその還元形態(NADHまたはNADPH)へ補因子を転換するために存在し得る。当業者なら、グルコース(一水和物)/グルコース脱水素酵素、ギ酸/ギ酸脱水素酵素およびイソプロパノール/アルコール脱水素酵素を含む適当な補因子リサイクル系に精通しているであろう。補因子リサイクル系が存在する場合、補因子は、その酸化形態、すなわちNAD+またはNADP+として反応混合物に添加されてもよい。
【0026】
補因子自体は、ミオスミン100重量部当たり、0.02重量部~10重量部の範囲で存在し得る。好ましくは、補因子は、ミオスミン100重量部当たり、0.05重量部~5重量部の範囲で存在し得る。より好ましくは、補因子は、ミオスミン100重量部当たり、0.5重量部~2重量部の範囲で存在し得る。
【0027】
ステップ(i)において存在する酵素の量は、ミオスミン100重量部当たり、0.1重量部~30重量部の量で存在し得る。好ましくは、ステップ(i)において存在する酵素の量は、ミオスミンの0.5重量部~10重量部の量で存在し得る。当業者なら、ステップ(i)において存在する酵素の量が、ステップ(i)の反応の所望の時間に応じて調整され得、より短い反応時間のためにはより多くの酵素が使用され得、逆もまた同じであることを認識するであろう。
【0028】
ステップ(i)は、イオン交換樹脂の存在下で実施されてもよいが、好ましくは、ステップ(i)は、イオン交換樹脂の非存在下で実施される。イオン交換樹脂が存在する場合、それはAmberlite IR-120などのAmberlite樹脂、Amberlyst樹脂、Amberjet樹脂またはDowex樹脂であり、これらイオン交換樹脂のそれぞれは、Aldrichから入手可能である。
【0029】
ステップ(i)に可能なpHは、pH5~9の範囲であり得る。
【0030】
(S)-ノルニコチンは、更なるステップ:(ii)ステップ(i)から形成された(S)-ノルニコチンをメチル化して(S)-ニコチンを形成するステップによって、(S)-ニコチンに転換される。
【0031】
ステップ(ii)の後、(S)-ニコチンが、特に高い化学純度および特に高い鏡像体過剰率で達成されたことが、驚くことに判明した。
【0032】
メチル化ステップ、すなわち、ステップ(ii)は、複数のステップの方法によって実施されてもよい。例えば、ステップ(ii)は、化合物(例えばN-ホルミル-(S)-ノルニコチン)を形成するステップと、次いでこの化合物をその後還元してメチル化産物、すなわち(S)-ニコチンに至るステップとを含んでもよい。しかしながら、好ましくは、ステップ(ii)は、還元的メチル化などの単一ステップの方法で実施される。当業者なら認識するであろうが、用語「還元的メチル化」とは、それにより単一ステップで種が形成され、還元されてメチル化産物(すなわち(S)-ニコチン)に至る方法を指す。
【0033】
好ましくは、(S)-ノルニコチンは、ホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド系化合物を使用して還元的にメチル化される。そのような試薬を使用する場合、ステップ(ii)は特に有効である。
【0034】
本明細書では、ホルムアルデヒド系化合物は、化学反応の間にin situでホルムアルデヒドを生成する能力がある化合物を指すために使用される。これは、ホルムアルデヒド系化合物が、反応混合物に添加され、その後分解されてホルムアルデヒド(および他の関連化合物)を放出し、そのホルムアルデヒドが、(S)-ノルニコチンと次いで反応して(S)-ニコチンを形成し得ることを意味することを当業者は認識するであろう。ホルムアルデヒド系化合物を添加する場合、当業者は、添加されるホルムアルデヒド系化合物の適当な量を調整してin situで特定量のホルムアルデヒドの放出を達成する方法に精通しているであろう。
【0035】
ホルムアルデヒド自体は、式HC(O)Hを有し、液体または気体として一般に導入される。ホルムアルデヒドは、ホルムアルデヒド水溶液(そのような水溶液は、ホルマリンと呼ばれる場合もある)の一部として反応混合物に導入されてもよい。
【0036】
ホルムアルデヒド系化合物は、固体または液体として一般に導入される。ホルムアルデヒド系化合物は、ホルムアルデヒドの二量体、ホルムアルデヒドのポリマーまたはホルムアルデヒドのアセタールでもよい。好ましくは、ホルムアルデヒド系化合物は、ホルムアルデヒドのポリマーである。
【0037】
当業者なら認識するであろうが、用語「ホルムアルデヒドのポリマー」とは、3つ以上重合したホルムアルデヒド繰り返し単位を持つ化合物を指す。好ましくは、ホルムアルデヒドのポリマーは、パラホルムアルデヒドである。本明細書では、用語「パラホルムアルデヒド」は、重合度8~100単位を持つホルムアルデヒドのポリマーを指す。
【0038】
(S)-ノルニコチンが、ホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド系化合物を使用して還元的にメチル化される場合、ホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド系化合物は、(S)-ノルニコチン100重量部当たり、50重量部~110重量部、好ましくは60重量部~90重量部の量で添加されてもよい。そのような量は、存在するホルムアルデヒド、ホルムアルデヒド系化合物および(S)-ノルニコチンの実際の量を指す。したがって、例えば(S)-ノルニコチンが、溶液(例えば水溶液)の一部として形成される場合、および/またはホルムアルデヒドもしくはホルムアルデヒド系化合物が、溶液(例えば水溶液)の一部として反応混合物に導入される場合、本明細書に開示される重量部とは、それぞれの溶液に含有されるホルムアルデヒド、ホルムアルデヒド系化合物および(S)-ノルニコチンの実際の量を指す。
【0039】
メチル化ステップが還元的メチル化ステップである場合、還元剤は、ギ酸、シアノ水素化ホウ素ナトリウムまたはパラジウム/水素であってもよく、好ましくはギ酸である。当業者なら認識するであろうが、還元剤の適当な量は、使用される特定の還元剤によって決まる。例えば、還元剤がギ酸である場合、還元剤は、(S)-ノルニコチン100重量部当たり40~110重量部、好ましくは40~100重量部、より好ましくは50重量部~70重量部の量で存在してもよい。そのような量は、還元剤および存在する(S)-ノルニコチンの実際の量を指す。
【0040】
好ましくは、ステップ(i)および(ii)は、ステップ(i)から形成された(S)-ノルニコチンを単離することなく実施されてもよい。これにより、特に簡便な合成経路を使用しながら高い鏡像体過剰率および高い化学純度の両方を持つ(S)-ニコチンの形成が可能になる。(S)-ノルニコチンの単離は、高コストの工場時間およびエネルギーのため(例えば抽出のために大量の溶媒を必要とするおよび/または溶液を煮つめることによる)集約的な方法になり得るので、これを(S)-ニコチンに転換する前にステップ(i)から形成された反応混合物から(S)-ノルニコチンを単離する必要性を回避することは、特に簡便な合成経路を提供するという利点を有する。例えば、ステップ(i)において(S)-ノルニコチンは水溶液の一部として形成されてもよく、その場合(S)-ノルニコチンを含有する水溶液は、ステップ(ii)おいて直接使用するために保持される。結果として、メチル化ステップ(ステップ(ii))は、ステップ(i)から形成された(S)-ノルニコチンの水溶液に対して実行される。本方法がこの様式で実施される場合、(S)-ノルニコチンは、パラホルムアルデヒドを使用するか、または水溶液の一部として反応混合物に導入されるホルムアルデヒドを使用するかいずれかによって還元的にメチル化されることが好ましい。ホルムアルデヒドは方法が進行する際の反応混合物の望ましくない起泡を減少させることが分かっているので、本方法がこの様式で実施される場合、(S)-ノルニコチンは、水溶液の一部として反応混合物に導入されるホルムアルデヒドを使用することによって還元的にメチル化されることがより好ましい。
【0041】
本明細書に開示される方法を使用して生産される(S)-ニコチンは、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは少なくとも99%の鏡像体過剰率を有する。当業者なら、鏡像体過剰率を測定する方法に精通しているであろう。例えば鏡像体過剰率は、実施例に示される様式で測定されてもよい。
【0042】
本明細書に開示される方法を使用して生産される(S)-ニコチンは、少なくとも98%、好ましくは少なくとも99%の化学純度を有する。当業者なら、化学純度を測定する方法に精通しているであろう。例えば化学純度は、実施例に示される様式で測定されてもよい。例によって達成される化学純度のレベルは、特に高い。
【0043】
上記の方法ステップを使用して生産される(S)-ニコチンは、1つまたは複数の医薬賦形剤と一緒に医薬組成物に含まれてもよい。好ましくは、医薬組成物は、経皮パッチ、口内錠または吸入処方物である。
【0044】
上記の方法ステップを使用して生産される(S)-ニコチンは、電子たばこデバイスに含めるための処方物に含まれてもよい。処方物は、1つまたは複数の添加物と共に溶媒中に(S)-ニコチンを含む。溶媒は、グリセロール、プロピレングリコール、水またはそれらの混合物を含んでもよい。好ましくは、溶媒は、グリセロールおよびプロピレングリコールを含み、グリセロール対プロピレングリコールの割合は、容積で80:20~20:80の範囲である。1つまたは複数の添加物は、1つまたは複数の香料を含んでもよい。
【0045】
(S)-ニコチンを形成する方法を使用する、ミオスミンおよびイミン還元酵素活性を有する酵素を含むキットも、本明細書に提供される。
【0046】
特に好ましい反応スキームは、スキーム1として以下に示される:
【0047】
【化2】
【0048】
本発明は、以下の非限定的な例により実証されることになる。
【実施例
【0049】
以下の例は、本明細書に開示される方法に関連する結果を実証する。様々な試薬を、方法を例示するために使用した。
【0050】
使用した酵素は、以下を含む:
【0051】
下記アミノ酸配列(a)または(b)を持つベルコシスポラマリス(Verrucosispora maris)(株AB-18-032、Uniprot:F4F8G5_VERMA)由来IRED_A。配列(a)は配列番号1と一致し、配列(b)は配列番号2と一致する。
【0052】
(a)ヘキサヒスチジンタグと共に使用して、合計302アミノ酸残基:
【0053】
【化3】
【0054】
(b)元の酵素、合計296アミノ酸残基:
【0055】
【化4】
【0056】
下記アミノ酸配列(a)または(b)を持つメソリゾビウム属、属種L48C026A00由来IRED_B、別名6-ホスホグルコン酸脱水素酵素。配列(a)は配列番号3と一致し、配列(b)は配列番号4と一致する。
【0057】
(a)ヘキサヒスチジンタグと共に使用して、合計310アミノ酸残基:
【0058】
【化5】
【0059】
(b)元の酵素、合計304アミノ酸残基:
【0060】
【化6】
【0061】
[実施例1]
生体内変換を、10mM ミオスミンおよびNADP+(0.5mM)、グルコース(25mM)、グルコース脱水素酵素(10U/mL)、ならびにイミン還元酵素活性を有する酵素の溶液で、0.5mL規模で行った。使用した酵素は表1に詳述し、Enzymicalsから入手可能である。各酵素について、酵素の量は、無細胞抽出物9mg/mlであった(含有される酵素はおよそ0.9mg/mlと推定)。特にIRED_BおよびIRED_Cの場合、0.9mg/ml無細胞抽出物を使用する追加の試験を行った。
【0062】
生体内変換から得られた(S)ノルニコチンの鏡像体過剰率を、Chiralpak AD-Hカラム(250×4.6mm id)を使用し、ヘキサン:エタノール:ジエチルアミン74.9:25.0:0.1(容積/容積/容積)の混合物を用いて30℃で、1ml/分間で18分間溶出して決定した。この方法を使用してミオスミンのノルニコチンへの転換も測定し、相対的な応答係数2.18:1が、254nmでの紫外線吸収検出に対して決定された。
【0063】
結果を、以下の表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
(S)-ノルニコチンの%鏡像体過剰率は、式[(S)-(R)]/[(S)+(R)]×100により同定され、ここで(S)および(R)は、それぞれ存在する(S)および(R)鏡像異性体の量である。%転換を、式、100-(ミオスミンの最終量)/(ミオスミンの開始量)×100により、すなわち消費されるミオスミンの量により同定した。
【0066】
[実施例2]
反応は、ミオスミン基質に対してグルコース1.5当量および1mol% NADP+を使用したことを除いて例1と類似の様式で実施し、反応時間24時間を利用した。使用した酵素を、表2、表3および表4のそれぞれに詳述する(Enzymicalsから入手可能)。
【0067】
100mMミオスミン濃度で、0.9mg/mL酵素無細胞抽出物を使用した場合、結果は下表に示される通りであった:
【0068】
【表2】
【0069】
100mMミオスミン濃度で、9mg/mL酵素無細胞抽出物を使用した場合、結果は下表に示される通りであった:
【0070】
【表3】
【0071】
250mMミオスミン濃度で、9mg/mL酵素無細胞抽出物を使用した場合、結果は下表に示される通りであった:
【0072】
【表4】
【0073】
[実施例3]
pH7.5 100mMリン酸ナトリウム緩衝液(200mL)中のミオスミン(20mmol、2.924g)、D-グルコース(30mmol、5.405g)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸ナトリウム塩(0.2mmol、157mg)、酵素IRED_A(Enzymicalsから入手可能)無細胞抽出凍結乾燥物(1.0g)、グルコース脱水素酵素(2000U、40mg)の溶液を、30℃で、200rpmでオーバーヘッドスターラーによって24時間混合した。溶液を、反応経過中にHPLCを用いてノルニコチンについて分析し、8時間後に77%の転換、および24時間後に99%以上の転換を示し、(S)-ノルニコチンe.e. 98.7%であった。この溶液を、37%ホルムアルデヒド溶液(8.1g)およびギ酸(2.8g)により80℃で4時間次いで処理し、反応を2時間後に完了した。冷却後、固体水酸化ナトリウム6gを添加し(pH12.7)、混合物を2×75ml MTBEで抽出した。硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を除去して、HPLCによって>純度99%(260nmでの領域%)であり、鏡像体過剰率98.7%を有する粗(S)-ニコチン2.25gを得た。
【0074】
[実施例4]
pH7.5 100mMリン酸ナトリウム緩衝液(200mL)中のミオスミン(20mmol、2.924g)、D-グルコース(30mmol、5.405g)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸ナトリウム塩(0.2mmol、157mg)、酵素IRED_B(Enzymicalsから入手可能)無細胞抽出凍結乾燥物(0.5g)、グルコース脱水素酵素(2000U、40mg)の溶液を、30℃で、200rpmでオーバーヘッドスターラーによって24時間混合した。溶液を、反応経過中にHPLCを用いてノルニコチンについて分析し、4時間後に91%の転換、および6時間後に99%以上の転換を示した。24時間後、(S)-ノルニコチンは、e.e. 98.2%であった。この溶液を、パラホルムアルデヒド(3g)およびギ酸(2.8g)により80℃で6時間次いで処理し、反応を4時間後に完了した。冷却後、固体水酸化ナトリウム6gを添加し(pH12.7)、混合物を2×75ml MTBEで抽出した。硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を除去して、HPLCによって>純度99%(260nmでの領域%)であり、鏡像体過剰率98.3%を有する粗(S)-ニコチン2.31gを得た。
【0075】
[実施例5]
この例は、高基質濃度における鏡像体選択性および転換率を実証する。この例は、すべての反応が、グルコース1.5当量、NADP(ミオスミンに対して1%)、イミン還元酵素、特にEnzymicalsから入手可能なIRED_C(4.5mg/ml無細胞抽出物)、GDH(250mMミオスミン濃度当たり10U/ml)、リン酸ナトリウム緩衝液pH7.5 100mMを使用したことを除いて、例1と類似の様式で24時間以上実施された。結果を、下に示す。
【0076】
【表5】
【0077】
[実施例6]
この例は、より大きい規模における鏡像体選択性および転換率を実証する。
【0078】
pH7.5 100mMリン酸ナトリウム緩衝液(1000mL)中のミオスミン(400mmol、58.5g)、D-グルコース(600mmol、118.9g)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸ナトリウム塩(4mmol、3.15g)、酵素IRED_C(Enzymicalsから入手可能)無細胞抽出凍結乾燥物(10.0g)、グルコース脱水素酵素CFE(0.32g)の溶液を、30℃で、200rpmでオーバーヘッドスターラーを用いて24時間混合した。溶液を、24時間後にHPLCでノルニコチンについて分析し、98%以上の転換を示した。
【0079】
検査の詳細は、以下の通りである:生体触媒反応混合物を、濃硫酸でpH1~2に酸性化し、次いで、90℃に20分間加熱してすべてのタンパク質を沈殿させた。タンパク質を、セライトにより混合物から濾過した。得られた透明な溶液を、40% NaOH溶液でpH>11に塩基性化し、メチル-t-ブチルエーテル(MTBE)500mLで4回抽出した。合わせたMTBE相を、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を蒸発させた。ノルニコチンの単離された収率は、茶黄色の液体として41.1g(70%)であった。
【0080】
検査および単離の前にノルニコチン反応混合物の別々の試料を、メチル化ステップに送った。特に、ノルニコチンを単離せずに生体触媒反応混合物にパラホルムアルデヒド(60g)およびギ酸(49.2g)を添加した。反応を85℃に加熱し、強く撹拌して(S)-ニコチンを形成させた。
【0081】
[実施例7]
(S)-ニコチンを形成させる一般的な実験的方法は、以下の通りであった。IRED_C(Enzymicalsから入手可能)を使用するミオスミンの(S)-ノルニコチンへの生体触媒作用を、ミオスミン濃度400mMで行った。(S)-ノルニコチンは、メチル-t-ブチルエーテルによる抽出および溶媒除去によって単離されたか、または生体触媒作用の水溶液を90℃で15分間加熱してタンパク質を沈殿させ、次いで冷却後、混合物を硫酸でpH1~2に酸性化し、沈殿タンパク質をセライトでの濾過によって除去し、溶液を水酸化ナトリウム水溶液で約pH7に次いで中和したかいずれかであった。
【0082】
[実施例7a]
ミオスミン(92g)の酵素還元から粗単離したノルニコチンを、水800mlに添加した。パラホルムアルデヒド(74g、4当量)およびギ酸(58g、2当量)を添加した。混合物を、80~85℃まで徐々に温めた。2時間後のHPLC分析は、反応の完了を示した。混合物を更に2時間同じ温度で保ち、次いで室温まで冷却した。50%水酸化ナトリウム溶液を添加して、およそ13のpHを得た。混合物を、MTBE 2×500mlで抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を除去し、粗(S)-ニコチンを真空下で蒸留した。約4gの前留分後に、精製ニコチン87gを得た(HPLCによって>99%およびキラルHPLCによって99.6%ee)。
【0083】
[実施例7b]
実施例1に使用した同じ生体触媒作用からの水性ノルニコチン溶液2.5リットル(5.63g/100ml)に、パラホルムアルデヒド(112.5g、4当量)およびギ酸(88g、2当量)を添加した。混合物を80~85℃まで徐々に加熱し、反応は、ガス発生による若干の発泡を伴って約70℃で始まった。80~85℃で1時間後、HPLCは、反応が完了していることを示した。反応を、合計4時間加熱し、次いで冷却した。混合物を、50%水酸化ナトリウム溶液で塩基性化し、MTBE(800ml、次いで500ml)で抽出した。乾燥後、粗混合物を蒸留して(S)-ニコチン118.7g(HPLCにより>99%およびHPLCにより99.5%ee)を得た。
【0084】
[実施例7c]
実施例1に使用した同じ生体触媒作用からの水性ノルニコチン溶液2.5リットル(5.63g/100ml)に、37%ホルムアルデヒド溶液(290ml、およそ4当量)およびギ酸(88g、2当量)を添加した。混合物を80~85℃まで徐々に加熱し、反応は、ガス発生による若干の発泡を伴って約60℃で始まった。80~85℃で1時間後、HPLCは、反応が完了していることを示した。反応を、合計4時間加熱し、次いで冷却した。混合物を、50%水酸化ナトリウム溶液で塩基性化し、MTBE(800ml、次いで500ml)で抽出した。乾燥後、粗混合物を蒸留して(S)-ニコチン119.1g(HPLCにより>99%およびHPLCにより99.5%ee)を得た。
【0085】
[実施例8]
ミオスミン(298g)およびグルコース一水和物(505g)の溶液を、0.1Mリン酸水素二カリウム緩衝液(6L)中に作った。アンバーライトIR-120樹脂(2kg、含水)をイオン交換樹脂として添加し、溶液を12M水酸化ナトリウム(約0.3L)でpH7に調整し、次いで25℃で終夜撹拌して安定なpHを確実にした。グルコース脱水素酵素GDH-102(6g)、ベータ-NADP+(6g)およびAlmac Groupから入手可能な酵素IRED-20(30g)を添加し、混合物を25℃に保ち、4M水酸化カリウムの添加によってpHを6.8~7.0に維持しながら150rpmで次いで攪拌した。72時間後、溶液をデカンテーションし、アンバーライト樹脂を脱イオン水(3×3L)で洗浄した。次いで、アンバーライト樹脂をカラムへ移し、脱イオン水(4L)で更に洗浄し、次いで2Mアンモニア水(4L)と共に3時間振盪し、2Mアンモニア(10L)で更に洗浄した。合わせた溶液を減圧下で乾燥するまで濃縮して、(S)-ノルニコチン(131.2g)を黄色の液体として得た。反応混合物から更なるノルニコチンを回収するために、再活性化したアンバーライト樹脂(2kg)を添加し、混合物を室温で終夜攪拌した。同じ処理を上記の通り繰り返して、更なる(S)-ノルニコチン(59.8g)を回収し、合計収率191.0gになった。上の2つのバッチを、別々に(S)-ニコチンに転換した。より大きいバッチのために、(S)-ノルニコチン(126.2g)を水(1L)中のパラホルムアルデヒド(154.5g)およびギ酸(118g)と組み合わせ、得られた撹拌した混合物を、終夜85℃に加熱した。混合物を、次いで0℃に冷却し、12M水酸化ナトリウムでpH14に調整した。混合物を、メチル-t-ブチルエーテル(3×8容積)で抽出した。有機相を、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、乾燥するまで濃縮し、黄色の液体(131.2g)として粗(S)-ニコチンを得た。(S)-ノルニコチンの第2のバッチ(59.8g)を、同じ様式で粗(S)-ニコチン(60.7g)へと同じく変換し、粗ニコチンの合計収率191.9gをもたらした。これらを組み合わせ、減圧下で蒸留して(0.53~0.67mbarでb.p.70~77℃)、HPLCで決定した鏡像体過剰率99.38%およびHPLCで決定した化学純度99.96%を持つ無色液体として(S)-ニコチン(174.5g)を得た。更なる方法を使用して、以下の鏡像体過剰率および化学純度を測定した。
【0086】
HPLCによる鏡像異性純度:比率95:5のn-ヘキサンおよび1-ブタノールで溶出し、0.1%ジエチルアミンを含有するChiracel OD-Hカラムを使用する。(R)-鏡像異性体は6.1分間で、(S)-鏡像異性体は5.6分間で溶出された。鏡像体過剰率は、式[(S)-(R)]/[(S)+(R)]により同定したピークの領域から決定される。それにより鏡像体過剰率を、99.38%と決定した。
【0087】
HPLCによる化学純度:95:5で0~10分間、70:30で10~13分間;10:90で13~16分間;その後95:5の勾配プログラムで(i)水中の20mM重炭酸アンモニウム(pH=8.7)および(ii)アセトニトリルの混合物を含む溶離液でX-Bridge C18カラムを、使用する。温度は、35℃であった。検出器の条件は、波長260nmの紫外線吸収であった。9.925分におけるニコチンに対して、12.132分に面積0.04%で単一の不純物が見られた。面積0.04%での単一の不純物により、純度を99.96%とみなした。比較すると、蒸留前の、使用した2つのバッチの加重平均は99.70%であった。
【配列表】
2022507375000001.app
【国際調査報告】