(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(54)【発明の名称】熱間圧延帯鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20220111BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20220111BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20220111BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
C22C38/00 301W
C21D9/46 T
C21D8/02 B
C22C38/00 301A
C22C38/58
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021526254
(86)(22)【出願日】2019-11-13
(85)【翻訳文提出日】2021-05-21
(86)【国際出願番号】 EP2019081149
(87)【国際公開番号】W WO2020099473
(87)【国際公開日】2020-05-22
(32)【優先日】2018-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511126992
【氏名又は名称】エスエスアーベー テクノロジー アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ミッコ・ヘミレ
(72)【発明者】
【氏名】トンミ・リーマタイネン
(72)【発明者】
【氏名】アリ・ヒルヴィ
【テーマコード(参考)】
4K032
4K037
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA04
4K032AA05
4K032AA08
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4K032BA01
4K032CA01
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4K032CC04
4K032CD03
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4K037EA01
4K037EA02
4K037EA05
4K037EA06
4K037EA09
4K037EA10
4K037EA11
4K037EA13
4K037EA15
4K037EA16
4K037EA17
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4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
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4K037EA33
4K037EA35
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4K037EB08
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4K037FB07
4K037FC03
4K037FC04
4K037FC07
4K037FD04
4K037FE01
4K037FF01
4K037GA05
4K037JA06
(57)【要約】
【課題】875MPaより大きい引張強度を有する熱間圧延帯鋼を提供すること。
【解決手段】875MPa以上の引張強度を有し、質量%による以下の成分を有する熱間圧延帯鋼とする。
C 0.06-0.12
Si 0-0.5
Mn 0.70-2.20
Nb 0.005-0.100
Ti 0.01-0.10
V 0.11-0.40
ここで、V+Nb+Tiの合計量が0.20~0.40であり、
Al 0.005-0.150
B 0-0.0008
Cr 0-1.0
ここで、Mn+Crの総量は0.9~2.5であり、
Mo 0-0.5
Cu 0-0.5
Ni 0-1.0
P 0-0.05
S 0-0.01
Zr 0-0.1
Co 0-0.1
W 0-0.1
Ca 0-0.005
N 0-0.01
残りは鉄および不可避の不純物を含み、1/4の厚さで以下のような微細構造を有する。
- 島状のマルテンサイト・オーステナイト(MA)成分を含むマルテンサイトおよびベイナイトが90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上であり、
残りは、
- 5%未満のポリゴナルフェライトおよび準ポリゴナルフェライト、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満
- パーライトが5%未満、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満
- オーステナイト5%未満、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満
合計が100%になる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
875MPa以上の引張強度を有し、質量%による以下の成分を有する熱間圧延帯鋼。
C 0.06-0.12
Si 0-0.5
Mn 0.70-2.20
Nb 0.005-0.100
Ti 0.01-0.10
V 0.11-0.40
ここで、V+Nb+Tiの合計量が0.20~0.40であり、
Al 0.005-0.150
B 0-0.0008
Cr 0-1.0
ここで、Mn+Crの総量は0.9~2.5であり、
Mo 0-0.5
Cu 0-0.5
Ni 0-1.0
P 0-0.05
S 0-0.01
Zr 0-0.1
Co 0-0.1
W 0-0.1
Ca 0-0.005
N 0-0.01
残りは鉄および不可避の不純物を含み、1/4の厚さで以下のような微細構造を有する。
- 島状のマルテンサイト・オーステナイト(MA)成分を含むマルテンサイトおよびベイナイトが90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上であり、
残りは、
- 5%未満のポリゴナルフェライトおよび準ポリゴナルフェライト、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満、
- パーライトが5%未満、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満、
- オーステナイト5%未満、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満であり、
合計が100%である。
【請求項2】
V+Nb+Tiの合計量が0.22~0.40または0.25~0.40である、請求項1に記載の熱間圧延帯鋼。
【請求項3】
以下の機械的特性のうち少なくとも1つを有する、請求項1または2に記載の熱間圧延帯鋼。
260~350HBW、好ましくは270~325HBWの硬度、1050MPa以下の降伏強さ、875~1100MPa、好ましくは900~1050MPaの引張強度、全伸度A5が8%以上であること、34J/cm
2、好ましくは50J/cm
2のシャルピーV(-40℃)衝撃靭性、曲げ軸が圧延方向と平行な場合の最小曲げ半径≦2.0×鋼製試料の厚さt。
【請求項4】
厚さが12mm以下、好ましくは6mm以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の熱間圧延帯鋼。
【請求項5】
ニオブの含有量が、鋼の厚さtが6mm以下の場合は0.01~0.05質量%であり、鋼の厚さtが6mmを超える場合は0.01~0.10質量%である請求項1~4のいずれか一項に記載の熱間圧延帯鋼。
【請求項6】
チタン含有量が、鋼の厚さt≦6mmのときに0.01~0.07質量%、鋼の厚さt>6mmのときに0.03~0.15質量%である請求項1~5のいずれか一項に記載の熱間圧延帯鋼。
【請求項7】
炭素含有量が0.07~0.10質量%である請求項1~6のいずれか一項に記載の熱間圧延帯鋼。
【請求項8】
マンガン含有量が1.20~2.20質量%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の熱間圧延帯鋼。
【請求項9】
ニオブ含有量が0.005~0.080質量%、好ましくは0.01~0.08質量%である、請求項1~8のいずれか一項に記載の熱間圧延帯鋼。
【請求項10】
バナジウム含有量が0.15~0.30質量%である、請求項1~9のいずれか一項に記載の熱間圧延帯鋼。
【請求項11】
アルミニウム含有量が0.015~0.090質量%である、請求項1~10のいずれか一項に記載の熱間圧延帯鋼。
【請求項12】
Mn+Crの合計量が1.2~2.0質量%である、請求項1~11のいずれか一項に記載の熱間圧延帯鋼。
【請求項13】
875MPaを超える引張強度を有する熱間圧延帯鋼を製造する方法であって、該方法が、質量%で以下の組成の炭素0.06~0.12を含む鋼スラブを提供する工程を含む方法。
C 0.06-0.12
Si 0~0.5
Mn 0.70-2.2
Nb 0.005-0.100
Ti 0.01-0.10
V 0.11-0.40
ここで、V+Nb+Tiの合計量が0.20~0.40であり、
Al 0.005-0.150
B 0-0.0008
Cr 0-1.0
ここで、Mn+Crの総量は0.9~2.5であり、
Mo 0-0.5
Cu 0-0.5
Ni 0-1.0
P 0-0.05
S 0-0.01
Zr 0-0.1
Co 0-0.1
W 0-0.1
Ca 0-0.005
N 0-0.01
残りは鉄と不可避な不純物であり、
- 前記鋼スラブを900~1350℃の温度に加熱する工程と
- 前記鋼を750~1300℃の温度で熱間圧延する工程と
- 熱間圧延の最終パスの後に、少なくとも30℃/秒の冷却速度で、400℃未満、好ましくは150℃、より好ましくは100℃未満、通常は25~75℃の範囲のコイリング温度まで前記鋼を直接焼入れし、それによって、1/4の厚さで以下の微細構造を有する熱間圧延帯鋼を製造する方法。
- 島状のマルテンサイト-オーステナイト(MA)構成要素を有するマルテンサイトおよびベイナイトが90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上であり
残りの部分は
- 5%未満のポリゴナルフェライトおよび準ポリゴナルフェライト、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満、
- パーライトが5%未満、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満、
オーステナイトが5%未満、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満、
合計が100%である。
【請求項14】
直接焼入れ工程後に、焼入れされた鋼帯を100~400℃の焼なまし温度で連続的に焼なましする工程を含む請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、875MPa以上、好ましくは900MPa以上の引張強度を有し、適度な耐摩耗性と良好な曲げ加工性を有する熱間圧延帯鋼、および熱間圧延帯鋼の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの産業分野における現在の傾向は、より軽いデザインのものを生み出すことである。例えば、自動車産業では、この傾向は、二層鋼または多層鋼のような高強度鋼の使用量の増加に現れている。しかし、二層鋼や多層鋼よりも従来のマイクロアロイ高強度鋼の方が適した用途もある。そのような用途では、高強度と同時に良好な打抜性や良好な曲げ特性が求められている。
【0003】
高強度の成形可能な鋼は、均質な材料特性を必要とする自動車業界の自動化された製造ラインで使用されるのが一般的である。特に、鋼の降伏強度は鋼帯の全長にわたって基本的に均一でなければならない。なぜなら、降伏強度のばらつきはスプリングバック効果の変化を引き起こし、その結果、鋼製部品の寸法不良が発生するからであり、これは受け入れられない。
【0004】
マイクロ合金元素、すなわち微量のチタン、ニオブ、バナジウム(それぞれ0.15質量%以下、これらの元素の合計が0.25質量%以下)は、高強度の成形可能な鋼に使用される。マイクロレベルの合金含有量にもかかわらず、これらの合金元素は鉄鋼製品の機械的特性を大きく改善するため一般的に利用されている。合金レベルが低いため、これらのマイクロアロイ鋼の溶接性は優れている。マイクロアロイは、熱間圧延時の結晶粒の微細化を促進し、熱間圧延鋼材の結晶粒径を小さくすることができる。また、400℃以上の温度でのコイリング(coiling)、例えば550~650℃の温度でのコイリングや、その後のランアウトテーブルでの冷却の際に、このようなマイクロアロイ元素が析出することにより熱間圧延帯鋼の強度が向上する。このようなコイリング温度では、マイクロアロイ元素は、例えば炭素や窒素を含む析出物を形成し、鋼内の転位の移動が妨げられるため、強度が向上することになる。このような高温でコイリングを行うと、熱間圧延帯鋼のミクロ組織は一般的にフェライト-パーライト化する。
【0005】
しかし、熱間圧延帯鋼を析出硬化させ、一般的なコイリング温度で製造し、さらに連続焼なましライン(continuous annealing line以下、CAL)での焼なましや、溶融メッキライン(hot-dip coating line以下、HDCL)での焼なましを行うと、望ましくない効果が発生する。すなわち、熱間圧延帯鋼のさらなる処理を行う際の温度と、その温度にさらされる時間によって、析出物の粗大化が起こる。これは、析出硬化によって得られた強度増加の一部がさらなる処理の間に失われる可能性があることを意味する。さらに、粗大化した析出物は、CALまたはHDCLでの焼なまし中の粒成長を排除しないため過剰な粒成長が生じ、鋼の成形性に悪影響を及ぼす可能性がある。また、粗大化した析出物が破断の起点となり鋼帯の伸び特性を低下させる。
【0006】
また、コイリング温度が高いと、鋼帯の長さ方向の機械的特性が不均一になる。機械的特性の異なる鋼帯の頭部や尾部から作られた鋼製部品を除去することは可能だが、これは製造工程で失われる鋼素材の量を増やすことになり望ましくない。
【0007】
典型的な高コイリング温度で製造された冷延・連続焼なまし鋼(annealed steel)の場合、500MPa以上の降伏強度(600~700MPaの降伏強度を有するグレードなど)および875MPa以上の引張強度を、完全に再結晶した組織で達成することは困難である。鋼が許容される成形性を示すためには、冷間圧延後に連続焼なまし工程で冷間圧延結晶粒組織が完全に再結晶することが必要であるが、逆に析出強化が失われることがあってはならない。
【0008】
冷間圧延された結晶粒組織の完全な再結晶を保証するために、文献には、コイリング温度を高くすること、および/または冷間圧延減量を大きくすることによって再結晶を促進することが示されている。
【0009】
しかし、高温でのコイリングは上記で説明したように粗大化した析出物が発生し、そのような連続焼なましされた鋼帯の強度要求が満足されない。さらに、冷間圧延減面を大きくすると転位密度が高くなり拡散が早くなるため問題となる。つまり、析出物の少なくとも部分的な粗大化が起こりやすくなる。
【0010】
その結果、鋼の強度が低下する。特に冷間圧延と連続焼なましを施した高強度成形性鋼帯では、効果的な析出強化と完全な再結晶をいかにして同時に得るかという難題が生じる。さらに、冷間圧延と焼なましは、熱間圧延と低温への焼入れという、単純な方法に比べて製造時間とコストが増加する。
【0011】
特許文献1は、上記の問題を解決するかまたは少なくとも軽減するものである。特許文献1は、高強度(すなわち、340~800MPaの範囲の降伏強度、Rp0.2を有する鋼)、良好な成形性(伸び、A80>10%)、および成形中のスプリングバック効果(spring back effect)の変化を引き起こす降伏強度の変動を低減することによる改良された成形性を同時に提供する、高強度成形可能な連続焼なまし鋼帯を開示している。このような連続焼なましされた高強度成形可能な鋼帯製品の製造方法は、以下の工程を含む。
・以下の化学組成(質量%)を有するマイクロアロイ鋼スラブを用意する。
C 0.04~0.18%、Mn 0.2~3.0%、Si 0~2.0%、AI 0~1.5%、Cr 0~2%、Ni 0~2%。
Cu 0-2%, Mo 0-0.5%, B 0-0.005%, Ca 0-0.01%および以下の1つ以上を含むV:0.01~0.15%、またはNb:0.005~0.10%、またはTi:0.01~0.15%、残部は鉄および不可避の不純物であり、下記の式で算出されるMneq>0.5。
Mneq=Mn(%)+124B(%)+3Mo(%)+11/2Cr(%)+1/3Si(%)+1/3Ni(%)+1/2Cu(%)
・熱間圧延された鋼帯を得るために鋼スラブを熱間圧延する。
・熱間圧延された鋼帯を、平均冷却速度30℃/秒以上で400℃以下の温度に直接焼入れして焼入れ鋼帯を得る。
・焼入れされた鋼帯を400~900℃の温度で連続焼なましして強度成形可能な帯鋼製品を得る。
【0012】
しかし、特許文献1には、800MPa以上の引張強度を有する連続焼なまし高強度成形可能な鋼帯製品は、開示されている方法を用いて達成することが困難であることが示されている。さらに、開示された連続焼なましされた高強度成形可能な鋼帯製品の焼なまし前および焼なまし後の微細構造は、主にベイナイト・フェライトおよびフェライトである。
【0013】
このような微細構造(すなわち、主にベイナイトフェライトおよび焼なまし後のフェライト、または焼なまししていないフェライト)は、良好な曲げ特性または耐摩耗性を達成するために最適ではないことが知られている。
【0014】
特許文献2は、自動車シャーシ部品などに適したロール成形特性に優れ、ストレッチフランジ成形性に優れた熱間圧延高強度鋼帯またはシートに関し、より詳細には、引張強さが780MPa以上、好ましくは950MPa以上で、全伸び、ストレッチフランジ成形性、耐疲労性の組み合わせに優れた高強度鋼帯またはシート、およびその製造方法、ならびに部品への使用に関する発明である。
【0015】
特許文献3は、表面品質と打抜性に優れ、引張強度が690MPa以上である高強度熱延鋼板を提供することを目的とする。高強度熱延鋼板は、質量%で、C:0.06~0.13%、Si:0.09%以下、Mn:0.01~1.20%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Al:0.1%以下、N:0.01%以下、Nb:0.10~0.18%、V:0.03~0.20%、Ti:0. 02%以下(0を含む)、残りは鉄と不可避な不純物であり、ベイナイト相の面積率が80%以上、フェライト相の面積率が15%以下、マルテンサイト相の面積率が5%以下、セメンタイトの析出量が0. 08%以上で平均粒径が2μm以下、平均粒径10nm以下の炭化物がベイナイト相の結晶粒子中に微細に分散しており、Siの濃度割合が表面から深さ0.2μまでに制御されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】欧州特許EP2,647,730
【特許文献2】米国特許出願US2018/265939A1
【特許文献3】日本特許公報番号 JP 2015 160985 A
【発明の概要】
【0017】
本発明の目的は、875MPaより大きい引張強度を有する熱間圧延帯鋼を提供することである。この目的は、875MPaより大きい引張強さを有し、質量%で以下の化学組成を含有する熱間圧延帯鋼によって達成される。
【0018】
C 0.06-0.12,
Si 0-0.5
Mn 0.70-2.20,
Nb 0.005-0.100
Ti 0.01-0.10
V 0.11-0.40,
ここで、V+Nb+Tiの合計量が0.20~0.40であり、
Al 0.005-0.150
B 0-0.0008,
Cr 0-1.0,
ここで、Mn+Crの総量は0.9~2.5であり、
Mo 0-0.5
Cu 0-0.5
Ni 0-1.0
P 0-0.05,
S 0-0.01,
Zr 0-0.1
Co 0-0.1
W 0-0.1
Ca 0-0.005
N 0-0.01,
残りは鉄および不可避の不純物を含み、1/4の厚さで以下のような微細構造を持つ。
【0019】
・島状のマルテンサイト-オーステナイト(MA)成分を含むマルテンサイトおよびベイナイトが90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上であり、
残りの部分は
・5%未満のポリゴナルフェライトおよび準ポリゴナルフェライト、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満、
・パーライトが5%未満、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満、
・オーステナイト5%未満、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満、
そして合計が100%になる。
【発明の効果】
【0020】
本明細書中で使用される「A~B」という表記は、下限値のAと上限値のB、およびAとBの間のあらゆる値を含むものとする。
【0021】
本発明者らは、0.11~0.40質量%の比較的高いバナジウム含有量と、0.005~0.100質量%のニオブおよび0.01~0.10質量%のチタンとを併用し、V+Nb+Tiの合計量を0.20~0.40質量%とすれば、良好な摩耗特性と良好な伸び(例えば、A5総伸びが8%以上、好ましくは10%以上)を有する高強度熱間圧延帯鋼が得られることを見出した。
【0022】
これにより、本発明による熱間圧延帯鋼は、欧州特許第2,647,730号に開示されている熱間圧延帯鋼の耐摩耗性、高衝撃強度、高曲げ性を維持する。
【0023】
欧州特許第 2,647,730に開示された熱間圧延帯鋼の耐摩耗性、高衝撃強度、高曲げ性を維持し、さらに875MPa以上の引張強度を有する。さらに、本発明による高強度熱間圧延帯鋼は、0.01質量%までの窒素を含んでいてもよいが、窒素は必須元素ではなく添加しなくてもよい。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の一実施形態によれば、ベイナイトは、例えば、粒状ベイナイト、上部および下部ベイナイト、およびアシキュラーフェライトを含んでもよい。本発明の一実施形態によれば、上部ベイナイトの割合は、好ましくは80%以下である。本発明の一実施形態によれば、ベイナイトの割合は好ましくは20~90%であり、マルテンサイトの割合は好ましくは10~80%である。
【0025】
本発明の実施形態によれば、板厚が3mm以下の場合、ベイナイト含有率は好ましくは20~50%であり、マルテンサイト含有率は好ましくは50~80%である。本発明の一実施形態によれば、5mm以上のストリップの厚さに対して、ベイナイト含有率は好ましくは50~90%であり、マルテンサイト含有率は好ましくは10~50%であり、これにより、本明細書で引用した全ての実施形態において全割合は100%である。
【0026】
一般的に、板厚が薄い場合(冷却速度が30℃/秒以上と非常に速い場合)、板厚が大きい場合に比べてマルテンサイトの割合が増加する。厚みが増すとベイナイトの割合も増え、ベイナイトはますます粒状化する。
【0027】
なお、熱間圧延帯鋼の組織は、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡を用いて得られた熱間圧延帯鋼の断面の顕微鏡写真において、異なる相の割合を評価することによって決定してもよい。
【0028】
本発明による熱間圧延帯鋼は、1mm未満、1mm以上、2mm以下、3mm以下、4mm以下、5mm以下、6mm以下、6mm以上など、所望の厚さを有してもよい。
【0029】
本発明による熱間圧延帯鋼は、より薄いゲージの鋼、すなわち6mm以下の厚さを有する鋼を必要とする用途に特に適しているが、それだけではない。
【0030】
この鋼の高い衝撃強度により6mmを超える厚さ、通常は12mmまで、さらには16mmまでの厚さを有するストリップを使用することも可能であるが、ダウンコイリング(down coiling)が困難になる可能性がある。
【0031】
一般に、熱間圧延帯鋼の厚さが6mm以下で、冷却速度が非常に速い(すなわち、少なくとも30℃/秒)場合、鋼中のマルテンサイト量が増加する。熱間圧延帯鋼の厚さが6mm以上で、冷却速度があまり高くない場合、マルテンサイトの量が減少し、ベイナイトの量が増加し、ベイナイトはグラニュラー型になる。
【0032】
任意の厚さの熱間圧延帯鋼の場合、熱間圧延帯鋼の中心線付近のマルテンサイト量は、典型的には1/4厚さのマルテンサイト量よりも多く、熱間圧延帯鋼の表面付近のマルテンサイト量は1/4厚さのマルテンサイト量よりも少ない。また、熱間圧延帯鋼の表面における準ポリゴナルフェライト、ポリゴナルフェライトおよび/またはパーライトの合計量は、1/4厚さにおける量よりも多くすることができる。さらに、焼なましは不要である。
【0033】
本発明の実施形態によれば、V+Nb+Tiの合計量は0.22~0.40または0.25~0.40質量%である。
【0034】
本発明の一実施形態によれば、熱間圧延帯鋼は、以下の機械的特性のうちの少なくとも1つを示す:260~350HBW、好ましくは270~325HBWの硬度(これにより、ブリネル硬さ試験は、厚さ4.99mmまでは直径2.5mmの超硬球を用いて行われ、これにより、硬度は表面から少なくとも0.3mmで測定される(また、厚さ5~7.99mmでは、超硬球の直径は5mmであり、硬度は表面から少なくとも0. 5mm、厚さが8mm以上の場合は超硬球の直径が10mmで、硬さは表面から少なくとも0.8mmで測定される)、引張強さRmが875~1100MPa、好ましくは900~1150MPa、全伸びが8%以上10%以下、シャルピーV(-40℃)衝撃靭性が34J/cm2、好ましくは50J/cm2、最小曲げ半径が≦2. 0×t、または≦1.9×t、または≦1.8×t、または≦1.7×t、好ましくは曲げ軸が圧延方向と平行な場合であり、tは鋼製試料の厚さ(mm)である。
【0035】
本発明の一実施形態によれば、ニオブの含有量は、熱間圧延帯鋼の厚さが6mm以下の場合には0.01~0.05質量%であり、熱間圧延帯鋼の厚さが6mm以上の場合には0.01~10質量%である。
【0036】
本発明の一実施形態によれば、チタンの含有量は、熱間圧延帯鋼の厚さが6mm以下の場合には0~0.08質量%であり、熱間圧延帯鋼の厚さが6mm以上の場合には0.03~0.10質量%である。
【0037】
本発明はまた、875MPaを超える引張強度を有する本発明のいずれかの実施形態による熱間圧延帯鋼を製造する方法にも関し、本方法は、質量%で以下の化学組成を有する鋼スラブを提供する工程を含む。
【0038】
C 0.06-0.12,
Si 0~0.5
Mn 0.70-2.2
Nb 0.005-0.100
Ti 0.01-0.10
V 0.11-0.40,
ここで、V+Nb+Tiの合計量は0.20~0.40 であり、
Al 0.005-0.150
B 0-0.0008
Cr 0-1.0
ここで、Mn+Crの総量は0.9~2.5であり、
Mo 0-0.5
Cu 0-0.5
Ni 0-1.0
P 0-0.05
S 0-0.01
Zr 0-0.1
Co 0-0.1
W 0-0.1
Ca 0-0.005
N 0-0.01
残りは鉄と不可避な不純物を含み、
- 前記鋼スラブを900~1350℃の温度に加熱する工程と
- 前記鋼を750~1300℃の温度で熱間圧延する工程と
- 熱間圧延の最終パスの後に、少なくとも30℃/秒の冷却速度で、400℃未満、好ましくは150℃、より好ましくは100℃未満、通常は25~75℃の範囲のコイリング温度まで前記鋼を直接焼入れし、それによって、1/4の厚さで以下の微細構造を有する熱間圧延帯鋼を得る。
- 島状のマルテンサイト-オーステナイト(MA)構成要素を有するマルテンサイトおよびベイナイトが90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上であり、
残りは
- 5%未満のポリゴナルフェライトおよび準ポリゴナルフェライト、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満、
- パーライトが5%未満、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満、オーステナイトが5%未満、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満であり、
合計が100%になる。
【0039】
コイリング温度は、400℃以下でなければならず、最終熱間圧延パス後に直接焼入れされる鋼は、熱間圧延の残熱によりこのような温度になるので、通常は25~75℃の範囲である。コイリング温度が100℃を超えると、熱間圧延帯鋼の平坦性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0040】
本発明は、熱間圧延工程の最後の熱間圧延パスの後に、マイクロアロイ化された熱間圧延帯鋼を直接急冷する(すなわち、熱間圧延帯鋼がまだ熱間圧延工程からの熱を保持している間に、少なくとも30℃/秒の冷却速度で熱間圧延帯鋼を25~75℃の範囲のコイリング温度まで冷却する)という考えに基づいている。
【0041】
熱間圧延帯鋼の温度は、焼入れ工程の開始時に750℃以上、より好ましくは800℃以上である。これは、焼入れ工程における焼入れが、熱間圧延工程の最後の圧延パスから15秒以内に開始することを意味する。熱間圧延帯鋼の温度は、熱間圧延工程の最後の圧延パスの後に連続的に低下する。すなわち、本発明による方法は、この段階、すなわち直接急冷工程の間に過剰な析出を避けるために、熱間圧延帯鋼を二相領域(Ar3とAr1の間)または単相領域(Ar1以下)で一定温度に維持することを含まない。つまり、直接冷却工程は、いわゆる単一の冷却工程となる。
【0042】
直接焼入れ工程の結果は、焼入れされた鋼帯であり、この鋼帯は、マイクロ合金元素が鋼帯の長さ全体にわたって均一に溶液中に留まっているために、析出によって(焼なましされた場合)その降伏強度を均一に増加させる可能性があるが、本発明による方法では焼なましは必要ない。直接焼入れ工程の結果として、鋼帯は、その圧延長さRLを通してその機械的特性にほとんど変化を示さない。直接焼入れ工程の間またはその前に、予備的な析出が起こるかもしれないが、マイクロ合金元素の少なくとも一部、または好ましくはほとんどが溶液中に留まる。
【0043】
本発明による方法を用いて製造された熱間圧延帯鋼は、その全長にわたって、すなわち、その圧延長さ(RL)の少なくとも90%、好ましくは95%以上の長さにわたって、均一な機械的特性を示す。
【0044】
本発明による方法は、熱間圧延された鋼帯の全長にわたって機械的特性のばらつき、特に降伏強度および引張強度のばらつきを著しく低減する。このことは、本発明による熱間圧延帯鋼からなるコイルの鋼材が、スプリングバック効果の変化に起因する寸法不良を起こすことなく、自動化された製造ラインや成形機において、より効果的かつ安全に利用できることを意味する。
【0045】
言い換えれば、成形によって最終的な成形部品の寸法がより信頼性の高いものとなるため、本発明による熱間圧延帯鋼の成形性が向上する。さらに、本発明による方法では、強度レベルを考慮して極めて成形性の高い熱間圧延帯鋼を製造することができる。
【0046】
本発明は、マイクロアロイベースの強化の代わりに実質的な相硬化を利用する熱間圧延帯鋼の製造に関するものである。
【0047】
本発明の一実施形態によれば、この方法は、例えば焼入れ硬化効果が必要な場合、直接焼入れ工程の後に、焼入れ鋼帯を100~400℃の温度で連続的に焼きなましれする工程を含む。
【0048】
また、請求項1に記載の化学組成を有する鋼を900~1350℃の温度に加熱し、750~1300℃の温度で熱間圧延(例えば、熱機械圧延(TMCP)プロセスを使用)することにより、熱間圧延帯鋼を製造してもよい。少なくとも30℃/秒の冷却速度で加速冷却した後、580~660℃のコイリング温度でコイリングする(いわゆるACC(Accelerated Cooling and Coiling))ことにより、少なくとも95%のフェライト組織を有する熱間圧延帯鋼を得ることができる。
【0049】
本発明の一実施形態によれば、このような熱間圧延帯鋼は、以下の機械的特性の少なくとも1つを示す:260~350HBW、好ましくは270~325HBWの硬度、1050MPaまでの降伏強度、875~1100MPa、好ましくは900~1050MPaの引張強度、少なくとも8%の全伸びA5、34J/cm2、好ましくは50J/cm2のシャルピーV(-40℃)衝撃靭性、曲げ軸が好ましくは長手方向(すなわち圧延方向に平行)であるときに最小曲げ半径≦ 2.0 x t 。
【0050】
本発明は、以下の添付図を参照し、非限定的な例によって説明される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】本発明の一実施形態による方法のフローチャートである。
【
図2】本発明の一実施形態による厚さ6mmの熱間圧延帯鋼の表面における微細構造を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態による厚さ6mmの熱間圧延帯鋼の表面から1.5mm下(すなわち、1/4の厚さ)の微細構造を示す。
【
図4】
図3の微細構造の特徴をより大きく拡大して示す。
【
図5】本発明の一実施形態による厚さ6mmの熱間圧延帯鋼の表面から3.0mm下(すなわち1/2厚さ)の微細構造を示す。
【
図6】本明細書に記載されている溶接性試験で使用された溶接溝の形状を示す図である。
【
図7】本明細書で説明した溶接性試験で使用された溶接パスの配置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0052】
図1は、任意の工程が破線で示されている本発明の実施形態による方法の工程を示す。
【0053】
この方法は、以下の化学組成(質量%)を有する鋼スラブを提供する工程を含む。
【0054】
C 0.06~0.12、好ましくは0.07~0.10
Si 0~0.5、好ましくは0.03~0.5、より好ましくは0.03~0.25
Mn 0.70-2.2、好ましくは1.2-2.2、より好ましくは1.2-20
Nb 0.005~0.100、好ましくは0.005~0.08、より好ましくは0.01~0.08
Ti 0.01~0.10、好ましくは0.01~0.08、より好ましくは0.02~0.08
V 0.11-0.40、好ましくは0.15-0.30
ここで、V+Nb+Tiの合計量は0.20-0.40または0.22-0.40であり、
Al 0.005~0.150、好ましくは0.015~0.090
B 0~0.0008、好ましくは0~0.0005
Cr 0~1.0、好ましくは0~0.3または0~0.25
ここで、Mn+Crの合計量は0.9~2.5、好ましくは1.2~2.0であり、
Mo 0-0.5、好ましくは0-0.2、より好ましくは0-0.1
Cu 0~0.5、好ましくは0~0.15
Ni 0~1.0、好ましくは0~0.15
P 0-0.05、好ましくは0-0.02
S 0-0.01、好ましくは0-0.005
Zr 0-0.1
Co 0-0.1
W 0-0.1
Ca 0-0.005、好ましくは0.001-0.004
N 0-0.01、好ましくは0.001-0.006
残りは鉄および不可避な不純物。
【0055】
熱間圧延用の鋼は、例えば、このようなマイクロアロイ鋼スラブを鋳造または連続鋳造することによって提供することができる。
【0056】
本発明の一実施形態によれば、鋼の等価炭素含有量Ceqは、0.297~0.837である。
【0057】
例えば、鋼は、以下の化学組成(質量%)を有していてもよい。C: 0.09, Si: 0.175, Mn: 1.8, Cr: 0, (Mn+Cr=1.8), Nb: 0.027,V: 0.2, Ti: 0.045 (Nb+V+Ti=0.272), Al: 0.035, B: 0, Mo: 0, Cu: 0、Ni:0、P:0、W:0、Co:0、S:0、Zr: 0、Ca:0.003、Ceq:0.430。
【0058】
炭素は、固溶強化を形成したり、マトリックス中にさまざまな種類の炭化物として析出することで、鋼の強度を高めるために添加される。また、炭素は、主にマルテンサイトやベイナイトである所望の硬い微細構造を得るためにも不可欠である。所望の強度を得るために、また所望の析出関連の利点を得るために、鋼は炭素を0.06~0.12質量%、好ましくは0.07~0.10質量%含有する。炭素を過剰に使用すると、溶接性だけでなく成形性も弱くなるため、上限を設定している。
【0059】
マンガンは、溶錬処理上の理由から鋼に含まれ、また硫黄と結合してMnSを形成するためにも使用される。また、マンガンは鋼の強度を高めるためにも添加される。これらの理由から少なくとも0.70質量%を使用する。上限を2.20質量%としたのは、過度の強化を避け、さらに溶接性や任意のコーティング処理への適性を確保するためである。マンガンの含有量は1.2~2.2質量%が好ましい。Mn+Crの合計量が0.9~2.5質量%、好ましくは1.2~2.0質量%であれば、マンガンの一部をクロムで置き換えてもよい。
【0060】
チタン、ニオブ、バナジウムは、炭化物、窒化物、炭窒化物などの有益な効果をもたらす沈殿物を形成するために、また熱間圧延中に鋼の微細構造を微細化するために、鋼に添加される。バナジウムは所望の微細構造を得るための冷却段階で重要である。鋼のチタン含有量は、0.01~0.10質量%、好ましくは0.005~0.080質量%、より好ましくは0.02~0.08質量%である。鋼のニオブ含有量は、0.005~0.100質量%、好ましくは0.005~0.08質量%、より好ましくは0.01~0.08質量%である。鋼のバナジウム含有量は0.11~0.40質量%であり、好ましくは0.15~0.30質量%である。V+Nb+Tiの合計量は、0.20~0.40質量%または0.22~0.40質量%である。
【0061】
ケイ素は、アルミニウムと同様に脱酸元素として機能することができるため、任意に添加することができ、また、特により良い表面品質が望まれる場合には、固溶体強化にも利用することができる。上限値は、過剰な強化を避けるために選択される。鋼のケイ素含有量は、0~0.5質量%、好ましくは0.03~0.5質量%、より好ましくは0.03~0.25質量%とすることができる。
【0062】
アルミニウムは、鋼の熱処理時や脱酸時の炭化物形成に影響を与えるために、0.005~0.150質量%、好ましくは0.015~0.090質量%の量で利用される。
【0063】
クロムは、強度を高めるために、0~1.0質量%、好ましくは0~0.3または0~0.25質量%の量で任意に利用することができる。上限は、過度の強化を避けるために選択される。さらに、このような比較的低いクロム含有量は、鋼の溶接性を向上させる。
【0064】
ニッケルは、強度を高めるために、0~1.0質量%、好ましくは0~0.15質量%の量で任意に利用することができる。上限は、過度の強化を避けるために選択される。さらに、このような比較的低いニッケル含有量は、鋼の溶接性を向上させる。
【0065】
銅は、強度を高めるために、0~0.5質量%、好ましくは0~0.15質量%の量で任意に利用することができる。上限は、過剰な強化を避けるために選択される。さらに、このような比較的低い銅含有量は、鋼の溶接性を向上させる。
【0066】
また、クロム、ニッケル、銅を添加すると、耐候性を付与することができる。
【0067】
モリブデンは、強度を高めるために、0~0.5質量%、好ましくは0~0.2質量%、より好ましくは0~0.1質量%の量で任意に利用することができる。上限は、過度の強化を避けるために選択される。また、モリブデンの含有量が少ないと溶接性が向上する。しかし、本発明ではモリブデンは通常必要ないので、合金化のコストを下げることができる。
【0068】
ホウ素は、強度を高めるために、0~0.0008質量%、好ましくは0~0.0005質量%の量で任意に利用することができる。しかし、ホウ素の焼入れ率が高いため、ホウ素を使用しないことが好ましい。なお、ホウ素は意図的に鋼に添加するものではない。
【0069】
カルシウムは、溶鉱処理に関する理由から、0.005質量%まで、好ましくは0.001~0.004質量%の量で、鋼に含ませることができる。
【0070】
意図的および任意に添加された合金元素および鉄に加えて、鋼は少量の他の元素、例えば製錬に由来する不純物を含んでいてもよい。
【0071】
それらの不純物は、
-窒素は、鋼中に存在する微量合金元素を窒化物や炭窒化物に結合させることができる元素である。このため、窒素含有量は0.01%、好ましくは0.001~0.006質量%までは鋼に含まれていてもよい。しかし、0.01質量%以上の窒素含有量では、窒化物が粗大化してしまう。窒素は意図的に鋼に添加するものではない。
【0072】
-リンは、通常不可避的に鋼に含まれるが、0~0.05質量%、好ましくは0~0.02質量%に制限すべきである。
【0073】
-硫黄は、通常、鋼に不可避的に含まれており、最大でも0.01質量%、好ましくは0-0.005質量%に制限すべきである。硫黄は鋼の曲げ加工性を低下させる。
【0074】
-酸素は、鋼中に不可避的に含まれることがあるが、最大でも0.01質量%、好ましくは0.005質量%以下に制限すべきである。これは、鋼の成形性を低下させる介在物として存在する可能性があるからである。
【0075】
-鋼は、鋼の物理的性質に悪影響を及ぼすことなく、0~0.1質量%のジルコニウム、0~0.1質量%のコバルトおよび/または0~0.1質量%のタングステンを含んでいてもよい。
【0076】
本発明による方法は、熱間圧延に先立って鋼スラブ中のマイクロ合金元素を溶解するために、鋼スラブを900~1350℃の温度に加熱する工程と、その後、750~1300℃の温度で鋼を熱間圧延する工程とを含み、これにより、最終圧延温度(FRT)、すなわち、熱間圧延工程における最後の熱間圧延パスの温度は、例えば、850~950℃である。
【0077】
熱間圧延工程は、少なくとも部分的にはストリップ圧延機で行うことができる。熱間圧延工程は、750~1350℃、好ましくはAr3~1280℃の範囲の温度での熱間圧延を含むことができる。熱間圧延工程は、例えば、750~1000℃の最終圧延温度(FRT)を有するストリップ圧延機での前圧延と後圧延の2段階からなる熱機械的圧延(TMCP)工程であってもよい。ただし、熱間圧延工程での最終熱間圧延温度(FRT)は、鋼のAr3温度以上であることが好ましい。
【0078】
これは、そうしないと圧延テクスチャーやストリップの平坦性に関する問題が生じる可能性があるためである。
【0079】
熱機械圧延プロセスは、相硬化した微細構造の粒径を小さくし、さらに相の下部構造を増加させることによって、所望の機械的特性を達成するのに役立つ。
【0080】
最終熱延の後、鋼は少なくとも30℃/秒の冷却速度で、好ましくは25~75℃の範囲のコイリング温度(すなわち、熱延からの残留熱)まで直接焼入れされる。焼入れされた鋼帯は、相硬化した微細構造、例えば、主にベイナイト・フェライトおよびマルテンサイトからなる微細構造を含み、次のプロセス工程(複数可)に有益な相サブ構造を含む。さらに、焼入れ工程では、熱間圧延熱からの冷却中にマイクロ合金元素の少なくとも一部、または好ましくは大部分が溶液中に保持される。
【0081】
直接焼入れ後の鋼帯はコイル状になっている。鋼帯の温度は、直接焼入れ工程の終了からコイリング工程の開始まで、鋼帯の全長にわたって連続的に低下することができる。コイリングは、低温で、すなわち好ましくは25~75℃の範囲の温度で行われる。
【0082】
本発明の一実施形態によれば、コイリングの後、熱間圧延帯鋼は、連続焼なましなどの1つ以上のさらなる方法工程に付されてもよい。
【0083】
連続焼なましは、100~400℃の温度で行われてもよい。焼なまし温度が高く、焼なまし時間が十分に長い場合に、直接焼入れ工程後に鋼帯を焼なましすると、マイクロ合金元素が析出し始めたり予備析出物が成長し続けたりして軟化が生じる。このような焼なましは連続焼なましライン(CAL)で行ってもよいし、ホットディップコーティングライン(HDCL)で行ってもよい。焼なましの前に、熱間圧延帯鋼を酸洗してもよい。
【0084】
溶融めっき工程は、焼なまし工程の後に、熱間圧延帯鋼を亜鉛、アルミニウム、亜鉛-アルミニウムなどの溶融金属に浸漬する工程を含んでもよく、これにより、良好な成形性と高い強度を有する溶融めっき鋼帯が得られる。
【0085】
連続焼なましの温度は400℃以下である。温度が高いと軟化してしまう。焼なまし工程での焼なまし時間は、焼なまし温度にもよるが、10秒から1週間程度である。通常、焼なましは必要ない。
【0086】
熱間圧延された鋼帯は、1/4の厚さでの微細構造が以下の通りである。
- 島状のマルテンサイト・オーステナイト(MA)成分を有するマルテンサイトおよびベイナイトが90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上である。
残りの部分は
- 5%未満のポリゴナルフェライトおよび準ポリゴナルフェライト、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満
- パーライトが5%未満、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満
- オーステナイトが5%未満、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満であり、
合計が100%になる。
【0087】
ベイナイトとしては、例えば、粒状ベイナイト、上部および下部ベイナイト、アシキュラーフェライトなどが挙げられる。本発明の一実施形態によれば、上部ベイナイトの割合は、好ましくは80%以下である。本発明の実施形態によれば、ベイナイトの割合は、好ましくは20~90%であり、マルテンサイトの割合は、好ましくは10~80%である。本発明の実施形態によれば、板厚が3mm以下の場合、ベイナイト含有率は好ましくは20~50%であり、マルテンサイト含有率は好ましくは50~80%である。
【0088】
本発明の実施形態によれば、5mm以上のストリップ厚については、ベイナイト含有率は好ましくは50~90%であり、マルテンサイト含有率は好ましくは10~50%であり、これにより、本明細書で引用した全ての実施形態において、全面積割合は100%である。微細構造は、例えば、走査型電子顕微鏡を用いて決定することができる。
【0089】
本発明の一実施形態によれば、本発明による方法を用いて製造された熱間圧延帯鋼は、以下の機械的特性のうち少なくとも1つを示すことになる
【0090】
260~350HBW、好ましくは270~325HBWの硬度(これにより、ブリネル硬さ試験は、厚さ4.99mmまでの直径2.5mmの超硬球を用いて行われ、それにより、硬度は表面から少なくとも0.3mmで測定され、また、厚さ5~7.99mmについては、超硬球の直径は5mmであり、硬度は少なくとも0. 5mm、厚みが8mm以上の場合は、超硬球の直径が10mmで、硬さが表面から0.8mm以上で測定される)、引張強度Rmが875~1100MPa、好ましくは900~1150MPa、全伸びが8%以上または10%以上、シャルピーV(-40℃)衝撃靭性が34J/cm2、好ましくは50J/cm2、曲げ軸が圧延方向と平行な場合の最小曲げ半径が≦2. 0×t、または≦1.9×t、または≦1.8×t、または≦1.7×tでありtは鋼サンプルの厚さ(mm)である。
【0091】
表1は、本発明で検討された鋼組成を示しており、残りは鉄と不可避の不純物である。鋼組成物A1およびA2は、添付の独立請求項に記載された化学組成を有し、本発明の実施形態(「INV」)である。鋼組成物B、C1、C2、D1、D2およびE1は、添付の独立請求項に記載された範囲外の量の少なくとも1つの元素を含み、本発明の実施形態ではなく比較例(「REF」)である。
【0092】
【0093】
表2は、本発明で調査した熱間圧延帯鋼の製造に使用したパラメータである。
【0094】
【0095】
厚さt―barを有する鋼組成物A1、A2 B、C1、C2、D1、D2およびE1の鋼スラブは、表2に示された温度に炉内で加熱され、次いで、表2に示された圧延温度および最終圧延温度(FRT)で最終厚さtに熱間圧延された。最終熱間圧延パスの後、鋼組成物を少なくとも30℃/秒の冷却速度で50℃のコイリング温度まで直接焼入れした[鋼組成物A1(結果的に、25~75℃のコイリング温度に直接焼き入れする必要がある本発明による方法を用いて製造されていない)と、鋼組成物Bを用いた比較例の1つを除く]。
【0096】
表3は、鋼製組成物A1,A2 B,C1,C2,D1,D2,E1の機械的特性を示したものである。
【0097】
【0098】
従来の鋼は、通常、完全なマルテンサイト組織を有し、硬度が400HBW以上で、最小曲げ半径R/tが2.5~5.0である。
【0099】
従来の鋼も比較例も、本発明による熱間圧延帯鋼のように、高い引張強度を兼ね備えた良好な曲げ加工性を示すものではない。さらに、本発明による熱間圧延帯鋼は、その長手方向L(すなわち圧延方向RT)とその横方向Tの両方で良好な曲げ加工性を示す。
【0100】
さらに、本発明による熱間圧延帯鋼は、従来の鋼や比較例に比べて硬度が低く、それにより良好な曲げ性に加えて良好な耐摩耗性、さらには高い衝撃強度とともに高い引張強度が要求される用途に適している。
【0101】
図2、
図3、
図5は、それぞれ本発明の実施形態による厚さ6mmの熱間圧延帯鋼の表面、表面から1.5mm(すなわち1/4厚さ)、表面から3.0mm(すなわち1/2厚さ)の微細構造を示している。
【0102】
図4は、表面から1.5mm下(すなわち、1/4の厚さ)の微細構造の特徴を、
図3よりも拡大して示している。
【0103】
図3および
図4に示す1/4厚の微細構造は、島状のマルテンサイト・オーステナイト(MA)成分を含むマルテンサイトおよびベイナイトが90%以上である。残りの10%の微細構造は、ポリゴナルフェライトおよび/または準ポリゴナルフェライトおよび/またはパーライトおよび/またはオーステナイトから構成されていてもよい。
【実施例】
【0104】
表1に示す化学組成A1の厚さ6mmの熱延鋼板を用いて溶接試験を行った。
【0105】
溶接試験は、6×200×1050mmの試験片を用いて、4箇所の突合せ溶接を行うことで行った。試験片は、長さ1050mmの突合せ溶接部が圧延方向に対して横向きになるように、主圧延方向に沿ってコイルの中央部から切断した。
【0106】
溶接はMAG(メタル・アクティブ・ガス)溶接法で行い、2種類の溶接材料をテストした。
a) 本発明による熱間圧延帯鋼の強度と一致しない(すなわち、等しくない)が、より低い強度を有する非合金ソリッドワイヤLincoln Supramig(YS 420 MPa)、および
b) 本発明による熱間圧延帯鋼の強度と一致する(すなわち、等しい)マッチングソリッドワイヤベーラーX70 IG(YS 690 MPa)を用いた。
【0107】
突き合わせ部の溶接は、溝角度60°のシングルV溝を用いて予熱なしで行った。溶接試験中に計算されたt―8/5時間の範囲は7~19秒であり、t―8/5時間は溶接層の800℃から500℃への冷却が起こる時間である。
【0108】
図6は溶接性試験で使用した溶接溝の形状、
図7は溶接パスの配置を示している。
上記の試験で得られた結果を以下の表4~6に示す。
【0109】
Boehler Low」と表示された試験では、2回目のウェルドパスのt―8/5時間は6.7秒であった。このように800℃から500℃までの冷却時間(t―8/5)が短いということは、低入熱で溶接が行われたことを意味する。
【0110】
Boehler High」と表示されたテストでは、2回目の溶接パスのt―8/5時間は15.0秒であった。このように800℃から500℃までの冷却時間(t8/5)が長いということは、溶接に高い入熱が使用されたことを意味する。
【0111】
SupraMIG Low」と表示されたテストでは、2回目の溶接パスのt―8/5時間は6.7秒であった。
【0112】
溶接部の機械的試験には、以下の試験が含まれている。
o 2回の横方向の引張試験
o シャルピーV試験(-40℃):5x10mmの試験片を3個、溶接中心線、融合線(FL)+1mm、融合線(FL)+3mm、融合線(FL)+5mmの位置に設置。
【0113】
溶接部の降伏強さと引張強さは、EN 10149-2規格のS700 MC母材の要件を満たしていた。 また、マッチングワイヤBoehler X70 IGを使用し、より高い入熱(t8/5=15秒)を行ったところ、EN規格10149-2でS700 MC母材に設定されている強度要件も満たすことがわかった。
【0114】
通常、高強度構造用鋼の溶接試験は、溶接試験規格ISO 15614:2017に準拠して実施する必要がある。この規格では、シャルピーV衝撃エネルギー試験を、溶接金属の中央部と、母材との溶接部の融合線から1mmの位置の2箇所で実施することが求められている。
【0115】
要求された箇所で測定した衝撃靭性は-40℃で34J/cm2、言い換えれば、t―8/5時間が15秒までのフルサイズの試験片で27Jを満たした。しかし、より高い入熱量で、t―8/5冷却時間が19秒の場合、衝撃靭性は-40℃で34J/cm2を下回った。 実物大の試験片で27Jを達成することは、S700MCの最低条件である。
【0116】
通常、本発明による熱間圧延帯鋼のような耐摩耗性鋼は、低強度の溶接材料、すなわちアンダーマッチ溶接材料を用いて溶接される。一方、構造用鋼は、適切な強度の溶接材料を使用して溶接される。
【0117】
したがって、本発明による熱間圧延帯鋼が、適切な強度の溶接用消耗品を用いて溶接され、構造用鋼の標準的な要件を満たす機械的特性を達成できることは驚くべきことである。
【0118】
すなわち、本発明者らは、耐摩耗鋼である本発明による熱間圧延帯鋼が、構造用鋼のように溶接され、母材であるS700 MC材に設定された要件を満たす機械的特性を達成することを見出した。
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
請求項の範囲内での本発明のさらなる変更は、当業者にとっては明らかであろう。
【国際調査報告】