(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(54)【発明の名称】内燃機関のピストンおよびシリンダ
(51)【国際特許分類】
F02F 3/00 20060101AFI20220111BHJP
【FI】
F02F3/00 M
F02F3/00 G
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021526330
(86)(22)【出願日】2019-09-19
(85)【翻訳文提出日】2021-07-12
(86)【国際出願番号】 EP2019075169
(87)【国際公開番号】W WO2020099001
(87)【国際公開日】2020-05-22
(31)【優先権主張番号】102018128564.7
(32)【優先日】2018-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510153962
【氏名又は名称】マン・エナジー・ソリューションズ・エスイー
【氏名又は名称原語表記】MAN ENERGY SOLUTIONS SE
【住所又は居所原語表記】Stadtbachstr.1 86153 Augsburg,GERMANY
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】タラト・シェール
(72)【発明者】
【氏名】ウルフ・ヴァルデンマイヤー
(57)【要約】
ピストンスカート(12)を有し、ピストンスカート(12)の第1の軸方向側に位置するリングベルト(13)であって、リングランド(14)により制限され、かつリングランド(14)により互いに分離された複数のリング溝(15)を備え、ここにおいて、リング溝(15)のそれぞれが、圧縮リングとして、またはオイルスクレーパリングとして形成されたピストンリング(16)を受け入れる、リングベルト(13)を有し、かつピストンの軸方向に見て、ピストンスカート(12)とリングベルト(13)の間に位置するオイル収集チャネル(17)を有する、内燃機関のシリンダのピストン(10)。オイル収集チャネル(17)は、ピストンの軸方向に見て、ピストンの圧力側の周方向位置、および/またはピストンの反圧力側の周方向位置において、ピストンの結合側の周方向位置、および/またはピストンの反結合側の周方向位置におけるものよりも大きい深さを有する。オイル収集チャネル(17)は、ピストンの周方向に見て、勾配を、すなわち、ピストンの結合側および/または反結合側の領域における軸方向深さから始まって、ピストンの圧力側および/または反圧力側の領域における軸方向深さの方向に勾配を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダのピストン(10)であって、
ピストンスカート(12)と、
前記ピストンスカート(12)の第1の軸方向側に位置するリングベルト(13)であって、前記リングベルト(13)は、リングランド(14)により制限され、かつ前記リングランド(14)により互いに分離された複数のリング溝(15)を備え、前記リング溝(15)のそれぞれが、圧縮リングとして、またはオイルスクレーパリングとして形成されたピストンリング(16)を受け入れる、リングベルト(13)と、
前記ピストンの軸方向に見て、前記ピストンスカート(12)と前記リングベルトとの間に位置するオイル収集チャネル(17)と、を有するピストン(10)において、
前記オイル収集チャネル(17)は、前記ピストンの軸方向に見て、前記ピストンの圧力側の周方向位置、および/または前記ピストンの反圧力側の周方向位置において、前記ピストンの結合側の周方向位置、および/または前記ピストンの反結合側の周方向位置における深さよりも大きな深さを有し、
前記オイル収集チャネル(17)は、前記ピストンの周方向に見て、勾配を、すなわち、前記結合側および/または前記反結合側の領域における前記軸方向深さから始まって、前記圧力側および/または前記反圧力側の領域における前記軸方向深さの方向に、勾配を有することを特徴とする、ピストン(10)。
【請求項2】
周方向に見て、前記反圧力側の周方向位置は、前記圧力側の周方向位置の180°反対側に位置することを特徴とする、請求項1に記載のピストン。
【請求項3】
前記反結合側の周方向位置は、周方向に見て、前記結合側の周方向位置の180°反対側に位置することを特徴とする、請求項1または2に記載のピストン。
【請求項4】
周方向に見て、前記反結合側の周方向位置および前記結合側の周方向位置は、前記反圧力側の周方向位置および前記圧力側の周方向位置に対して、90°オフセットされることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のピストン。
【請求項5】
前記圧力側の周方向位置および前記反圧力側の周方向位置における前記オイル収集チャネル(17)の前記軸方向深さ(t2)は、4mmと30mmとの間であり、
前記反結合側の周方向位置および前記結合側の周方向位置における前記オイル収集チャネル(17)の前記軸方向深さ(t1)は、2mmと15mmとの間であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のピストン。
【請求項6】
径方向に見て、前記オイル収集チャネル(17)の幅(b)は、2mmと25mmとの間であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載のピストン。
【請求項7】
前記ピストンの軸方向に見て、制御縁部(20)が、前記オイル収集チャネル(17)と、前記オイル収集チャネル(17)に面する前記リングベルト(13)と、の間に形成され、前記軸方向に対して、角度(α、β)を含むことを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載のピストン。
【請求項8】
当該ピストンが、一体鋳造型ピストンであり、
前記一体鋳造型ピストンの前記リングベルトおよび前記ピストンスカートが、一体構造の組立体により形成され、前記角度(β)は、30°と70°との間であることを特徴とする、請求項7に記載のピストン。
【請求項9】
当該ピストンが、組立型ピストンであり、
前記組立型ピストンの前記リングベルト(13)および前記ピストンスカート(12)が、互いに別個のものであり、互いに結合された組立体(10a、10b)により形成され、前記角度(α)が60°と75°との間であることを特徴とする、請求項7に記載のピストン。
【請求項10】
前記制御縁部(20)が軸方向に対して含む前記角度は、周方向に変化することを特徴とする、請求項7から9のいずれか一項に記載のピストン。
【請求項11】
内燃機関のシリンダであって、
シリンダライナ(11)と、
前記シリンダライナ(11)内で上下に移動可能にガイドされる前記ピストン(10)と、を有し、
前記ピストン(10)が、請求項1から10のいずれか一項に従って形成されることを特徴とする、シリンダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のピストンに関する。本発明はさらに、内燃機関のシリンダに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のシリンダは、シリンダライナ内で上下に移動可能にガイドされるピストンを備える。接続ロッドを介して内燃機関のクランクシャフトに結合されるピストンの基本構成は、本明細書で扱われる技術分野の当業者にはよく知られたものである。したがって、ピストンは、ピストンスカートを備え、ピストンスカートを通して、ピストンを各接続ロッドに取り付けるためのピストンピンが延びる。ピストンスカートの側部にピストンのリングベルトが配置され、ピストンのリング組立体は、リングランドにより制限され、かつリングランドにより互いに分離される、ピストンリングを受け入れるための複数のリング溝を備える。
【0003】
ピストンの周方向に見ると、ピストンは、画定された周方向位置、すなわち、いわゆる圧力側と、いわゆる反圧力側と、を有する。シリンダライナ内でのピストンの運動中に、ピストンは、上死点付近において、ガス圧によりシリンダライナのシリンダ壁に押し付けられるが、この周方向位置は圧力側と呼ばれる。直径に沿って反対側に位置する側部において、いわゆる反圧力側が形成される。圧力側および反圧力側を通る直線を引くことができ、前記直線に対して直角をなす直線は、ピストンを各接続ロッドに接続するように働くピストンピンに平行に延びる。ピストンピンに平行に延びるこの直線上には、ピストンのいわゆる結合側と、直径に沿って結合側の反対に位置する、いわゆる反結合側とが位置する。
【0004】
特許文献1は、一体鋳造型設計における内燃機関のピストンを開示する。ここでは、ピストンスカートおよびリングベルトは、一体構造の組立体において一体に実施されている。この従来技術によれば、軸方向に見て、ピストンスカートとリングベルトとの間に、オイル収集チャネルが形成され、その中に、こすり取られたオイルを収集することができる。軸方向に見て、このオイル収集チャネルは、周方向に一定な軸方向深さと、径方向に見て一定な幅とを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
動作中にピストンに作用するピストンの横方向力により、ピストンは、上死点の領域において、すなわち、ピストンの圧力側の領域において、大きい力でシリンダライナに押し付けられる。ピストンの潤滑または冷却用のオイルが十分ではないときは特に、ピストンとシリンダライナとの間で金属接触が生ずる可能性があり、その結果、いわゆる焼付きが生ずるおそれがある。これは、シリンダを損傷させる可能性がある。損傷の危険を低減させるピストン、またはそのようなピストンを有する内燃機関のシリンダが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このことから始めて、本発明は、内燃機関の新しいタイプのピストンおよびシリンダを作製する目的に基づいている。この目的は、請求項1に記載の内燃機関のピストンにより解決される。本発明によれば、ピストンの圧力側の周方向位置および/またはピストンの反圧力側の周方向位置におけるオイル収集チャネルは、ピストンの軸方向に見て、ピストンの結合側の周方向位置、および/またはピストンの反結合側の周方向位置におけるものよりも、大きい深さを有する。さらにピストンの周方向に見て、オイル収集チャネルは、勾配を、すなわち、結合側および/または反結合側の領域における軸方向深さから始まって、圧力側および/または反圧力側の領域における軸方向深さの方向に勾配を有する。
【0008】
反圧力側、圧力側、結合側、および/または反結合側において、軸方向に画定された異なる深さを有する本発明により設計されたオイル収集チャネルを用いることにより、ピストンの下降運動のほぼ中間から下死点の方向に、すなわち、オイル収集チャネルの結合側および反結合側の領域において、ピストンの下降行程中にオイルが収集され得る。オイル収集チャネルに勾配があるために、この蓄積されたオイルは、ピストンの圧力側の方向に、また望ましくは、反圧力側の方向に流れ、ここにおいて、この収集されたオイルは、上昇運動の中間から上死点までのピストンの上昇運動中に、ピストンのリングベルトおよびシリンダライナの方向に、慣性力によりはね飛ばされ、オイルを、次いで、潤滑に利用することができる。したがって、シリンダには、圧力側、および望ましくは、反圧力側の領域におけるその上死点の領域において潤滑オイルが供給され、いわゆる焼付きの危険が低減されるようにする。したがって、ピストンに対する損傷の危険が低下する。
【0009】
望ましくは、圧力側の周方向位置における、かつ望ましくは反圧力側の周方向位置におけるオイル収集チャネルの軸方向深さは、4mmと30mmとの間、好ましくは、6mmと20mmとの間である。反結合側の周方向位置における、かつ望ましくは結合側の周方向位置におけるオイル収集チャネルの軸方向深さは、圧力側、および望ましくは、反圧力側の周方向位置における軸方向深さよりも常に小さいが、2mmと15mmとの間、好ましくは、3mmと10mmとの間である。オイル収集チャネルのこのような寸法付与は、オイル収集チャネルの領域において、ピストンの下降運動中にオイルを収集し、かつ上昇運動の領域においてオイルを再度分与するために特に好ましいものである。
【0010】
望ましくは、ピストンの軸方向に見て、オイル収集チャネルとリングベルトとの間に、オイル収集チャネルに面する制御縁部が形成され、制御縁部は、軸方向に対する角度を含む。制御縁部により、オイルの収集およびオイルの分与が特に影響され得る。
【0011】
望ましくは、制御縁部により軸方向に対して含まれる角度は、ピストンの周方向に変化する。こうすることにより、個々の角度は、次いで、オイルの収集およびオイルの分与に個々に影響を与えるように、反圧力側、圧力側、結合側、および/または反結合側の領域において調整することができる。
【0012】
本発明の好ましいさらなる展開は、従属請求項および以下の記述から得られる。本発明の例示的な実施形態は、図面によってさらに詳細に説明されるが、これに制限されない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ピストンが組立型である実施形態の結合側および反結合側を通って延びる断面方向における、本発明によるピストンからの抽出による横断面図である。
【
図2】ピストンの下降行程中における
図1からの抽出図である。
【
図3】圧力側および反圧力側を通って延びる断面方向において、
図1、
図2の本発明によるピストンからの抽出による横断面図である。
【
図4】ピストンの上昇行程中における
図3からの抽出図である。
【
図7】ピストンが一体鋳造型である実施形態における結合側および反結合側を通って延びる断面方向における、本発明によるピストンからの抽出による横断面図である。
【
図8】圧力側および反圧力側を通って延びる断面方向における、
図7の本発明によるピストンからの抽出による横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、内燃機関のシリンダのピストン、およびピストンを有する内燃機関のシリンダに関する。
【0015】
図1から
図6は、ライナ11内で上下に移動可能にガイドされる、本発明による内燃機関のシリンダのピストン10の様々な横断面、およびその細部を示す。
図1から
図6の例示的な実施形態のピストン10は、別々の組立体10aおよび10bとして形成され、かつ互いに結合された2つのピストン部分10aおよび10bからなるいわゆる組立型ピストンである。
【0016】
図1から
図6の例示的な実施形態のピストン10は、ピストンスカート12を有し、ピストンスカート12は、ピストンの組立体10aにより提供される。示されていない各シリンダの接続ロッドにピストン10を接続するための、図示されていないピストンピンは、ピストンスカート12を通って延びる。
【0017】
ピストン10はさらに、ピストン10の組立体10bにより提供されるリングベルト13を備える。リングベルト13は、接続ロッドの反対側に位置するピストンスカート12の軸方向側に配置される。
【0018】
リングベルト13は、リングランド14により制限され、かつリングランド14により互いに離間される複数のリング溝を備える。圧縮リングとして、またはオイルスクレーパリングとして形成されるピストンリング16が、リング溝15内に配置される。このようなピストンリング16が、
図1から
図6のピストン10に対して示されている。
【0019】
ピストンは、オイル収集チャネル17を備える。オイル収集チャネル17は、ピストン10の軸方向に見て、ピストンスカート12とリングベルト13との間に形成される、すなわち、軸方向に見て、ピストンスカート12とリングベルト13との間に位置する。
【0020】
ピストン10の周方向において、オイル収集チャネル17は、ピストン10の回りで円を描き、かつ示された例示の実施形態においては、ピストン10の組立体10aによって形成される。
【0021】
図3、
図4と
図1、
図2の比較から明らかなように、周方向に見て、このオイル収集チャネル17の軸方向深さtは一定ではなく、ピストン10の軸方向に見て、オイル収集チャネル17は、ピストンの結合側の周方向位置、およびピストンの反結合側の周方向位置に深さt1を有するピストン(
図1、
図2を参照のこと)よりも、ピストン10の圧力側の周方向位置、およびさらに望ましくは、ピストンの反圧力側の周方向位置において、大きい軸方向深さt2を有する(
図3、
図4を参照のこと)。
【0022】
すでに説明したように、ピストンの結合側および反結合側は、ピストンピンの軸に平行に延びる直線上に存在する。ピストン10の圧力側および反圧力側は、ピストンピンに対して直角に延びる直線上に存在する。
【0023】
結合側の周方向位置、および反結合側の周方向位置におけるオイル収集チャネル17の比較的小さい深さt1と、圧力側の周方向位置、および反圧力側の周方向位置におけるオイル収集チャネル17の比較的大きい深さt2と、の間の90°オフセットは、
図5からもまた明らかである。
【0024】
オイル収集チャネル17の軸方向深さtは、ピストンの周方向において変化するが、オイル収集チャネル17の径方向幅bは、周方向において一定であることが望ましい。
【0025】
オイル収集チャネル17は、圧力側、反圧力側、および結合側、反結合側において異なる深さを有するだけではなく、オイル収集チャネル17はまた、勾配を、すなわち、結合側および反結合側の領域における比較的小さい軸方向深さt1から始まって、圧力側および反圧力側の領域における比較的大きい軸方向深さt2の方向に勾配を有する。こうすることにより、オイル収集チャネル17の領域における結合側および反結合側の領域に蓄積されたオイルが、ピストン10またはオイル収集チャネル17の圧力側および反圧力側の方向に排出され、かつそこに収集され得ることが保証される。
【0026】
図2は、ピストン10の下降運動中の、すなわち、下死点の方向に上死点から始まる下降行程中の(矢印X1)ピストン10の細部を示しており、ここにおいて、下死点へのこの下降運動のほぼ中間から、結合側および反結合側の領域におけるオイルが収集されて、オイル収集チャネル17の中に入る。矢印18は、下降運動の中間から下死点へのピストン10の下降運動中におけるこのオイル収集を視覚化している。
【0027】
すでに説明したように、結合側および反結合側から生ずるオイルは、オイル収集チャネル17におけるオイル収集チャネル17の勾配の結果として、圧力側および反圧力側の方向に流れる。圧力側および反圧力側の方向に、結合側および反結合側から始まるオイル収集チャネル17の勾配は、連続的であること、すなわち、段もしくは肩部のないことが望ましい。
【0028】
図4は、ピストン10の上昇行程(矢印X2)中の、すなわち、下死点から始まり上死点の領域への、ピストン10の運動中の圧力側の領域におけるオイル収集チャネル17の細部を視覚化しており、ここにおいて、
図4の矢印19によるこの上昇行程のほぼ中間から、上死点まで、圧力側および反圧力側の領域におけるオイル収集チャネル17からのオイルは、シリンダライナ11の方向に導かれる。
【0029】
こうすることにより、大きい横方向結合力が存在する場合であっても、上死点の領域においてピストンの最適な潤滑を実現することができ、したがって、ピストン10とライナ11との間の金属接触を回避することができ、またピストンの焼付きの危険が低減される、またはなくすことができる。
【0030】
すでに説明したように、ピストン10の圧力側および反圧力側の領域におけるオイル収集チャネル17の軸方向深さt2は、ピストン10の結合側および反結合側の領域におけるオイル収集チャネル17の軸方向深さt1よりも大きい。ピストン10の結合側および反結合側の周方向位置において、オイル収集チャネル17の軸方向深さt1は、好ましくは、2mmと15mmとの間、特に好ましくは、3mmと10mmとの間である。軸方向深さt1よりも大きい、圧力側および反圧力側の周方向位置におけるオイル収集チャネルの軸方向深さt2は、好ましくは、4mmと30mmとの間、特に好ましくは、6mmと20mmとの間である。オイル収集チャネル17の径方向における幅bは、好ましくは、2mmと25mmとの間、特に好ましくは、5mmと20mmとの間である。
【0031】
示された例示的な実施形態では、ピストン10の軸方向に見て、制御縁部20が、オイル収集チャネル17とリングベルト13との間に形成され、制御縁部20は、軸方向に対して、角度αを含む(
図1を参照のこと)。この制御縁部20は、周方向に周囲に形成され、また周方向に、一定の角度αで周囲に構成することができる。周方向に可変の角度αを用いて、この制御縁部20を構成することも可能であり、その角度は、圧力側、反圧力側の領域で、また結合側、反結合側の領域で異なるように形成することができる。こうすることは、オイルの収集とオイルの分与に個々に影響を与えるために有利である。
【0032】
制御縁部20が軸方向に対して含む角度αは、望ましくは、0°を超え、かつ90°未満であり、好ましくは、この角度は、45°と90°との間にあり、特に好ましくは、60°と75°との間である。
【0033】
ピストン10の上昇行程中に、圧力側および反圧力側の領域において、シリンダライナの方向に、オイル収集チャネル17の外に飛び散る、またははね飛ぶオイルは、まず制御縁部20に達し(
図4を参照のこと)、シリンダライナ11の方向に、制御縁部20から飛び散る、またははね飛ばされる。
【0034】
図7および
図8は、本発明の第2の例示的な実施形態によるピストン10を通る横断面を示しており、
図7および
図8のピストン10は、互いに結合された2つの組み立てられた組立体10a、10bからなる組立型ピストンとして形成されておらず、一体鋳造型ピストンとして具体化されている点だけが、
図1から
図6の例示的な実施形態のピストン10とは実質的に異なっており、そのリングベルト13およびピストンスカート12は、一体構造の組立体により形成される。設計実施形態の細部に関しては、
図7および
図8のピストン10に対して、
図1から
図6のピストン10に関する説明を参照することができるが、一体鋳造型ピストンの場合、軸方向に対して制御縁部20が含む角度βは、同様に0°を超え、90°未満であり、好ましくは、30°と70°との間である。
【0035】
本明細書で示された本発明を用いると、上死点の直前および直後に、ピストン10の圧力側および反圧力側に、熱的および機械的な負荷を受ける領域において特に、シリンダライナ11に対するピストン10の潤滑を向上させることができる。ピストンが急に止まる危険は阻止され得る。この点で、本発明による異なる深さおよび勾配を備えるオイル収集チャネルの構成は有意義である。
【0036】
下降行程中に、結合側および反結合側の領域において、オイルをオイル収集チャネル17に収集することができ、オイルは、圧力側および反圧力側の方向の勾配に基づいてオイル収集チャネル17内で流れ、そこに収集することができ、かつ上昇行程中に、ピストン10とシリンダライナ11との間の潤滑領域へと導かれ得る。オイルを収集する挙動、およびオイルを分与する挙動は、制御縁部20の角度により協調させることができる。
[付記項1]
内燃機関のシリンダのピストン(10)であって、
ピストンスカート(12)と、
前記ピストンスカート(12)の第1の軸方向側に位置するリングベルト(13)であって、前記リングベルト(13)は、リングランド(14)により制限され、かつ前記リングランド(14)により互いに分離された複数のリング溝(15)を備え、前記リング溝(15)のそれぞれが、圧縮リングとして、またはオイルスクレーパリングとして形成されたピストンリング(16)を受け入れる、リングベルト(13)と、
前記ピストンの軸方向に見て、前記ピストンスカート(12)と前記リングベルトとの間に位置するオイル収集チャネル(17)と、を有するピストン(10)において、
前記オイル収集チャネル(17)は、前記ピストンの軸方向に見て、前記ピストンの圧力側の周方向位置、および/または前記ピストンの反圧力側の周方向位置において、前記ピストンの結合側の周方向位置、および/または前記ピストンの反結合側の周方向位置における深さよりも大きな深さを有し、
前記オイル収集チャネル(17)は、前記ピストンの周方向に見て、勾配を、すなわち、前記結合側および/または前記反結合側の領域における前記軸方向深さから始まって、前記圧力側および/または前記反圧力側の領域における前記軸方向深さの方向に、勾配を有することを特徴とする、ピストン(10)。
[付記項2]
周方向に見て、前記反圧力側の周方向位置は、前記圧力側の周方向位置の180°または約180°反対側に位置することを特徴とする、付記項1に記載のピストン。
[付記項3]
前記反結合側の周方向位置は、周方向に見て、前記結合側の周方向位置の180°または約180°反対側に位置することを特徴とする、付記項1または2に記載のピストン。
[付記項4]
周方向に見て、前記反結合側の周方向位置および前記結合側の周方向位置は、前記反圧力側の周方向位置および前記圧力側の周方向位置に対して、90°または約90°オフセットされることを特徴とする、付記項1から3のいずれか一項に記載のピストン。
[付記項5]
前記圧力側の周方向位置および前記反圧力側の周方向位置における前記オイル収集チャネル(17)の前記軸方向深さ(t2)は、4mmと30mmとの間、好ましくは、6mmと20mmの間であり、
前記反結合側の周方向位置および前記結合側の周方向位置における前記オイル収集チャネル(17)の前記軸方向深さ(t1)は、2mmと15mmとの間、好ましくは、3mmと10mmの間であることを特徴とする、付記項1から3のいずれか一項に記載のピストン。
[付記項6]
径方向に見て、前記オイル収集チャネル(17)の幅(b)は、2mmと25mmとの間、好ましくは、5mmと20mmの間であることを特徴とする、付記項1から5のいずれか一項に記載のピストン。
[付記項7]
前記ピストンの軸方向に見て、制御縁部(20)が、前記オイル収集チャネル(17)と、前記オイル収集チャネル(17)に面する前記リングベルト(13)と、の間に形成され、前記軸方向に対して、角度(α、β)を含むことを特徴とする、付記項1から6のいずれか一項に記載のピストン。
[付記項8]
当該ピストンが、一体鋳造型ピストンであり、
前記一体鋳造型ピストンの前記リングベルトおよび前記ピストンスカートが、一体構造の組立体により形成され、前記角度(β)は、30°と70°との間であることを特徴とする、付記項7に記載のピストン。
[付記項9]
当該ピストンが、組立型ピストンであり、
前記組立型ピストンの前記リングベルト(13)および前記ピストンスカート(12)が、互いに別個のものであり、互いに結合された組立体(10a、10b)により形成され、前記角度(α)が60°と75°との間であることを特徴とする、付記項7に記載のピストン。
[付記項10]
前記制御縁部(20)が軸方向に対して含む前記角度は、周方向に変化することを特徴とする、付記項7から9のいずれか一項に記載のピストン。
[付記項11]
内燃機関のシリンダであって、
シリンダライナ(11)と、
前記シリンダライナ(11)内で上下に移動可能にガイドされる前記ピストン(10)と、を有し、
前記ピストン(10)が、付記項1から10のいずれか一項に従って形成されることを特徴とする、シリンダ。
【符号の説明】
【0037】
10 ピストン
10a ピストン部分、組立体
10b ピストン部分、組立体
11 シリンダライナ
12 ピストンスカート
13 リングベルト
14 リングランド
15 リング溝
16 ピストンリング
17 オイル収集チャネル
18 矢印
19 矢印
20 制御縁部
b 幅
t 軸方向深さ
t1 軸方向深さ
t2 軸方向深さ
X1 矢印
X2 矢印
α 角度
β 角度
【国際調査報告】