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特表2022-5074162本のクロマトグラフィーカラムに含有される2相の固定相間でラジオアイソトープを移動させる方法
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  • 特表-2本のクロマトグラフィーカラムに含有される2相の固定相間でラジオアイソトープを移動させる方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(54)【発明の名称】2本のクロマトグラフィーカラムに含有される2相の固定相間でラジオアイソトープを移動させる方法
(51)【国際特許分類】
   G21G 4/08 20060101AFI20220111BHJP
【FI】
G21G4/08 G
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021526332
(86)(22)【出願日】2019-11-08
(85)【翻訳文提出日】2021-07-13
(86)【国際出願番号】 FR2019052676
(87)【国際公開番号】W WO2020099770
(87)【国際公開日】2020-05-22
(31)【優先権主張番号】1860562
(32)【優先日】2018-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521125578
【氏名又は名称】オラノ・メッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン・トルグ
(72)【発明者】
【氏名】レミ・デュロー
(57)【要約】
本発明は、第1のクロマトグラフィーカラムに含有される第1の固定相上に固定されているラジオアイソトープを第2のクロマトグラフィーカラムに含有される第2の固定相に移動させて、第2の固定相上にラジオアイソトープを固定する方法に関し、ラジオアイソトープは、トリウム、ラジウム、鉛、ビスマス及びウランの放射性同位元素から選択される。前記方法は、少なくとも:
a)ラジオアイソトープを錯化する薬剤を含む水溶液A1で第1の固定相からラジオアイソトープを溶出させ、それによりラジオアイソトープの錯体を含む水溶液A2を得る工程と;
b)水溶液A2のpHを改変することにより水溶液A2中に存在するラジオアイソトープの錯体を解離し、それにより脱錯化したラジオアイソトープを含む水溶液A3を得る工程と;
c)第2の固定相に水溶液A3を添加する工程と;
d)水溶液A4での第2の固定相の洗浄を少なくとも1回実行する工程と
を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のクロマトグラフィーカラム(10)に含有される第1の固定相(20)上に固定されているラジオアイソトープを第2のクロマトグラフィーカラム(40)に含有される第2の固定相(50)に移動させて、第2の固定相上にラジオアイソトープを固定する方法であって、ラジオアイソトープは、トリウム、ラジウム、鉛、ビスマス及びウランの放射性同位元素から選択され、少なくとも下記の工程:
a) ラジオアイソトープを錯化する薬剤を含む水溶液A1で第1の固定相(20)からラジオアイソトープを溶出させ、それによりラジオアイソトープの錯体を含む水溶液A2を得る工程と;
b) 水溶液A2のpHを改変することにより水溶液A2中に存在するラジオアイソトープの錯体を解離し、それにより脱錯化したラジオアイソトープを含む水溶液A3を得る工程と;
c) 第2の固定相(50)に水溶液A3を添加する工程と;
d) 第2の固定相(50)を水溶液A4で少なくとも1回洗浄する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
ラジオアイソトープを錯化する薬剤が、アミノポリカルボン酸又はアミノポリカルボン酸塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アミノポリカルボン酸が、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸又はジエチレントリアミン五酢酸であり、好ましくは、エチレンジアミン四酢酸である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
水溶液A1が、10mmol/L~100mmol/Lのエチレンジアミン四酢酸又はその塩を含み、pHが4~8である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
水溶液A1が、25mmol/Lのエチレンジアミン四酢酸又はその塩を含み、pHが6±0.5である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
水溶液A2のpHの改変が、水溶液A2のpHを最大で1に等しい値にするための酸性化である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
水溶液A2の酸性化が、酸、好ましくは硝酸又は塩酸を水溶液A2に添加することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
水溶液A2の酸性化が、第1の固定相(20)を酸性水溶液で少なくとも1回洗浄することと、洗浄から生じる水溶液の全部又は一部を水溶液A2に添加することとを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
酸性水溶液が、0.01mol/L~0.1mol/Lの硝酸又は0.1mol/L~1mol/Lの塩酸を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
水溶液A4が、0.5mol/L~4mol/Lの硝酸又は2mol/L~4mol/Lの塩酸を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程a)の前に、第1の固定相の状態調節を行う工程を更に含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
第1の固定相が第1の固定相材料からなり、第2の固定相が第2の固定相材料からなり、第1及び第2の固定相材料が同一である、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
第1の固定相が第1の固定相材料からなり、第2の固定相が第2の固定相材料からなり、第1及び第2の固定相材料が異なるものである、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ラジオアイソトープがトリウム-228である、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
第1の固定相及び/又は第2の固定相が、トリウムの配位子の分子により官能化されたポリマーを含む粒子からなる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ポリマーがポリメタクリレート、又はポリ(スチレン-co-ジビニルベンゼン)であり、トリウム-228の配位子がN,N,N’,N’-テトラオクチルジグリコールアミド、ジ(2-エチルヘキシル)リン酸、トリオクチルホスフィンオキシド、又はこれらの混合物である、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジオアイソトープとしても知られる放射性同位元素の生成の分野に関する。
【0002】
より具体的には、第1のクロマトグラフィーカラムに含有される第1の固定相上に固定されているラジオアイソトープを第2のクロマトグラフィーカラムに含有される第2の固定相に、このラジオアイソトープをこの第2の固定相に固定することを目的として移動させる方法に関する。
【0003】
この方法は特に、ラジオアイソトープジェネレータ、特に、トリウム-228の放射性壊変によってラジウム-224が生成されるラジウム-224ジェネレータの予防的維持を実行するために使用することができる。
【0004】
したがって、方法は、核医学での使用、特に、癌治療のための標的アルファ放射線治療での使用に適切な、鉛-212又はビスマス-212をベースとした放射性医薬品の製造に用途を見出す可能性がある。
【背景技術】
【0005】
標的アルファ線治療としても知られる標的アルファ放射線治療は、癌細胞の表面上に存在する特異的部位を非常に正確に標的とすることができる、抗体等のベクターに結合した放射性同位元素を注入することからなる。次に、ラジオアイソトープの自然放射性壊変によって放出されたアルファエネルギーが、周囲の健康な細胞の損傷を抑えながら、癌細胞を破壊することを可能とする。
【0006】
トリウム-232の壊変生成物の一部、特に、鉛-212、及び鉛-212の娘核ラジオアイソトープであるビスマス-212は、標的アルファ線治療に、特に、膵癌、他の腹腔内癌及び黒色腫、すなわち、特に米国において標的アルファ線治療が前臨床試験の対象となってきた疾患の治療に使用することができる。
【0007】
鉛-212及びビスマス-212を含む、トリウム-232の自然壊変又は崩壊連鎖を表す添付の図1に示すように:
- 鉛-212は、ラジウム-224の放射性壊変によって生成することができ、
- ラジウム-224は、トリウム-228の放射性壊変によって生成することができ、
- トリウム-228は、ラジウム-228の放射性壊変によって生成することができ、一方、
- ラジウム-228は、モナザイト又はトーライト等の鉱石から抽出される天然トリウムの主な構成材料を代表するトリウム-232の放射性壊変によって生成することができる。
【0008】
ラジウム-224の生成は、ラジウム-224「ジェネレータ」として知られるもの、すなわち、典型的には固体固定相を含むクロマトグラフィーカラムによって実行することができ、固体固定相上にはトリウム-228が固定されており、それが定期的に液相で洗浄され、それにより、トリウム-228の放射性壊変により形成されるラジウム-224を選択的に溶出させることが可能である。
【0009】
ラジウム-224ジェネレータに特に使用可能な固定相の材料は、例えば、Triskem International社及びEichrom社により「DGA DN Resin」の名称で提供されている、3価及び4価のアクチニド、特にアメリシウム及びアクチニウムのクロマトグラフィーによる分離のためのものである。この樹脂は、直鎖状ジグリコールアミド、すなわち、TODGAという名称の方がよく知られている、N,N,N’,N’-テトラオクチルジグリコールアミドで官能化されたポリメタクリラートの粒子からなる。
【0010】
このような樹脂からなる固定相を含むラジウム-224ジェネレータの動作の限界は、放射線分解により樹脂が次第に劣化するという事実と関係しており、それがトリウム-228を保持する樹脂の能力に徐々に影響を与え、ジェネレータをある一定期間使用すると樹脂がその保持容量の多くを失い、この放射性元素を完全に保持できなくなるためにトリウム-228の漏出の発生に至る。
【0011】
したがって、この放射線分解による樹脂の劣化プロセスのために、特にそのアルファ線に起因する、放射線分解の原因となる寿命が短いトリウム-228の壊変生成物を樹脂から除去することを主目的とした溶出の形態でのジェネレータの定期的な維持が必要であり、樹脂1グラム当たりの固定できるトリウム-228のピーク放射能量(ある一定の閾値を超えると、実行できない頻度の溶出が必要となる)が制限される。
【0012】
しかし、ジェネレータがトリウム-228の漏出の発生を防止するための定期的維持を受けたとしても、トリウム-228の漏出の発生をもはや防止できないほど樹脂が劣化し、その結果、ラジウム-224ジェネレータを廃棄しなければならなくなる時期が来ることがわかっている。しかし、トリウム-228の半減期は1.9年であり、この廃棄は、ジェネレータ内に存在するトリウム-228の半分が崩壊してラジウム-224となることができるよりずっと以前に発生する。
【0013】
本発明者らは、この問題に対する解決策を見出すことを、自らの目的とした。
【0014】
しかし、この研究の範囲内において、本発明者らは、第1の固定相、例えば使用済みのラジウム-224ジェネレータの固定相上に固定されているトリウム-228を、任意選択で第1の固定相と同じ組成であるが、事前に全く使用していない第2の固定相に移動させることが可能であり、この移動時にトリウム-228の顕著な損失が生じないことを認めた。第2の固定相が配置されている第2のクロマトグラフィーカラムは、次にラジウム-224ジェネレータとして機能することができる。
【0015】
本発明者らは、トリウム-228以外のラジオアイソトープ、例えばラジウム、鉛、ビスマス又はウランのラジオアイソトープを同様に、同じ効率で、第1の固定相から第2の固定相へと移動させることが可能であることも認めた。特に、本発明による方法が同様に適用可能なラジオアイソトープは、ラジウム-228、ラジウム-224、鉛-212、ビスマス-212及びビスマス-213から選択することができる。
【0016】
本発明は、これらの結果に基づくものである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
したがって、本発明は、第1のクロマトグラフィーカラムに含有される第1の固定相上に固定されているラジオアイソトープを第2のクロマトグラフィーカラムに含有される第2の固定相に移動させて、第2の固定相上にラジオアイソトープを固定することを可能にする方法を提案し、ラジオアイソトープは、トリウム、ラジウム、鉛、ビスマス及びウランの放射性同位元素から選択され、方法は、少なくとも下記の工程:
a) ラジオアイソトープを錯化する薬剤を含む水溶液A1で第1の固定相からラジオアイソトープを溶出させ、それによりラジオアイソトープの錯体を含む水溶液A2を得る工程と;
b) 水溶液A2のpHを改変することにより水溶液A2中に存在するラジオアイソトープの錯体を解離し、それにより脱錯化したラジオアイソトープを含む水溶液A3を得る工程と;
c) 第2の固定相に水溶液A3を添加する工程と;
d) 第2の固定相を水溶液A4で少なくとも1回洗浄する工程と
を含む。
【0018】
したがって、本発明によると、第1の固定相上に固定されているラジオアイソトープは、錯化又はキレート化(ここでは、両用語は同意語であるとみなされる)によりラジオアイソトープを第1の固定相から溶出させる薬剤を含む水溶液によってこのラジオアイソトープを第1の固定相から溶出させることと、次いで、得られた溶出液中に存在するラジオアイソトープの錯体の解離後に、脱錯化したラジオアイソトープを第2の固定相上に再固定することにより、第2の固定相に移動される。
【0019】
上記及び下記において、ラジオアイソトープが固定相上に固定されているとみなされるのは、ラジオアイソトープと固定相との間の共有結合の存在を伴わない錯化若しくはキレート化、イオン交換、分子認識又は他の任意の機構によりラジオアイソトープがこの相に保持されている場合である。
【0020】
本発明によると、水溶液A1中に存在する錯化(又はキレート化)剤は、好ましくはアミノポリカルボン酸又はアミノポリカルボン酸塩である。
【0021】
したがって、錯化剤は特に、ニトリロ三酢酸(若しくはNTA)、エチレンジアミン四酢酸(若しくはEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(若しくはDTPA)、又はこれらの塩のうちの1種からなるものとすることができるが、EDTA及びその塩、例えばそのナトリウム塩が好ましい。
【0022】
したがって、水溶液A1は、優先的にはEDTA又はその塩を、有利には10mmol/Lと100mmol/Lの間の濃度、より好ましくは25mmol/Lに等しい濃度で含み、pHが4と8の間であり、より好ましくは6±0.5に等しい溶液である。
【0023】
したがって、以上により得られる溶出液(又は水溶液A2)は、ラジオアイソトープを錯化形態で含む。
【0024】
したがって、工程b)は、工程c)において、脱錯化した、換言すれば、遊離したラジオアイソトープを含む水溶液を第2の固定相に添加できるようにすることを目的として、溶出液中に存在するラジオアイソトープの錯体を解離することを意図している。
【0025】
本発明によると、この解離は、水溶液A2のpHを改変して、このpHを錯化剤がラジオアイソトープを錯化する能力が低下する、又はゼロになる値とすることにより実行される。
【0026】
したがって、例えば、錯化剤がEDTA又はその塩のうちの1種である場合、ラジオアイソトープの錯体の解離は、水溶液A2を酸性化して、この溶液のpHをEDTAがほとんどカチオン形態で検出される値、すなわち、最大で1に等しい値にすることにより実行される。
【0027】
この酸性化は、単純に酸、例えば硝酸又は塩酸を水溶液A2に添加することにより実行することができる。
【0028】
しかし、本発明の範囲内において、水溶液A2の酸性化は、好ましくは酸性水溶液、例えば硝酸又は塩酸での第1の固定相の洗浄を少なくとも1回遂行し、且つ、この洗浄から生じる水溶液の全部又は一部を水溶液A2に添加することにより実行される。
【0029】
より好ましくは、水溶液A2を酸性化するには、第1の固定相を、
- ラジオアイソトープの錯体、及び第1の固定相の間隙容量に保持された非錯化ラジオアイソトープのあらゆる可能性のある痕跡量の第1の固定相による保持に洗浄が有利に働かないように、酸濃度を適切に選択した酸性水溶液での1回目;
- 典型的には先のものよりも酸性度が高い酸性水溶液での2回目
の2回で洗浄することが好ましい。
【0030】
実際、このように進めることが有利であり、それは、これにより、水溶液A2を酸性化するだけでなく、ラジオアイソトープの錯体、及び第1の固定相の間隙容量に保持された非錯化ラジオアイソトープのあらゆる可能性のある痕跡量を回収することも可能になるためである。
【0031】
第1の固定相の洗浄から生じる1つ又は複数の溶液を添加することにより水溶液A2の酸性化を実行する場合、方法は、工程b)とc)の間に、この酸性化の後に得られる水溶液A3のpHを監視することと、必要な場合には、酸、例えば硝酸又は塩酸を添加することによりこのpHを最大で1に等しい値に調整することを含むことができる。
【0032】
工程c)において、第2の固定相に水溶液A3を添加することは、有利には単純に第2のクロマトグラフィーカラム内にこの溶液を流通させることからなるが、カラムの上部でのラジオアイソトープの保持に有利となるよう、好ましくは低流速、例えば0.1mL/分~5mL/分で実行される。
【0033】
先に言及したように、工程d)において、第2の固定相は、一方では、第2の固定相の間隙容量に保持されている遊離した錯化剤を除去するために、他方では、第2のクロマトグラフィーカラムを、例えばラジオアイソトープジェネレータとして引き続き使用することを目的として第2の固定相の状態調節を行うために、水溶液A4での少なくとも1回の洗浄に供される。
【0034】
水溶液A4は、好ましくは、例えば硝酸又は塩酸の酸性水溶液であり、その濃度は、この固定相によるラジオアイソトープの保持を最適に保ちながら第2の固定相の間隙容量に保持された錯化剤が析出するのを防ぐために、適切に選択される。
【0035】
したがって、錯化剤がEDTA又はその塩のうちの1種である場合、水溶液A4の酸濃度は、酸が硝酸である場合、有利には0.5mol/Lと4mol/Lの間であり、より好ましくは0.5mol/Lに等しい一方で、酸が塩酸である場合、有利には2mol/Lと4mol/Lの間であり、より好ましくは2mol/Lに等しい。
【0036】
本発明によると、方法は、工程a)の前に、第1の固定相の状態調節を行う工程、すなわち、その以前の使用のためにこの相の間隙容量において優勢となっている酸性度を、工程a)中に水溶液A1中に存在する錯化剤が析出するあらゆるリスクを防ぐのに適する値とすることを目的とする工程を更に含むことができる。
【0037】
典型的には、この状態調節は、第1の固定相を、酸性度が第1の固定相の間隙容量において優勢な酸性度よりも低い、例えば硝酸又は塩酸の酸性水溶液で洗浄することにより実行される。
【0038】
第1及び第2の固定相のそれぞれは、固定相材料からなり、固定相材料は、両方の相で同一とすることも、対照的に、ラジオアイソトープを移動させる目的に応じて、相ごとに異なるものとすることもできる。
【0039】
したがって、例えば、ラジオアイソトープの移動が、ラジウム-224ジェネレータの予防的維持の範囲内で、すなわち、ジェネレータからのトリウム-228の漏出を未然に防ぐために遂行される場合、第1及び第2の固定相は、同じ固定相材料からなる。
【0040】
他方、例えば、ラジオアイソトープの移動が、その壊変生成物の異なる溶出プロファイルを得るために、又はこのラジオアイソトープをそれが位置している固定相よりも放射線に耐性のある固定相に移動するために遂行される場合、第1及び第2の固定相は、2種の異なる固定相材料からなるものとすることができる。
【0041】
それ自体公知の方法で、固定相材料は、鉱物(例えばシリカ若しくはアルミナ粒子又はシリカゲル)、有機物(例えばポリマー若しくはコポリマー)、又は無機-有機物である固体基材を含むことができ、固体基材は、例えばグラフト又は含浸により有機分子で官能化されており、有機分子は、錯化、イオン交換、分子認識又は他の任意の機構により、ラジオアイソトープが放射性同位元素である化学元素のイオン、例えば、ラジオアイソトープがトリウム-228である場合はトリウムイオンを保持することができるものである。
【0042】
本発明の特に好ましい実施形態において、ラジオアイソトープはトリウム-228であり、その場合、第1の固定相及び/又は第2の固定相は、好ましくは、トリウムの配位子の分子により官能化されたポリマーを含む粒子からなる。
【0043】
有利には、ポリマーは、ポリメタクリレート、又はポリ(スチレン-co-ジビニルベンゼン)である一方、トリウム-228の配位子は、N,N,N’,N’-テトラオクチルジグリコールアミド(若しくはTODGA)、ジ(2-エチルヘキシル)リン酸(若しくはHDEHP)、トリオクチルホスフィンオキシド(若しくはTOPO)、又はこれらの混合物である。
【0044】
この種の固定相材料は、特に、Triskem International社及びEichrom社から入手可能である。
【0045】
本発明によると、方法は、有利には、複数の溶出液が収集される(方法の工程a))複数(少なくとも2本)のジェネレータ(すなわち、数本の第1のカラム)の維持を実行するために実施することができ、溶出液は、処理(方法の工程b))後、同じ第2のカラムに添加され(方法の工程c))、第2のカラムは、洗浄(方法の工程d))後、新しいジェネレータを構成する。
【0046】
本発明による方法の更なる特徴及び利点は、下記の追加の説明を読めば明らかとなり、その説明は、この方法の実施形態の例に関するものである。
【0047】
明らかに、この実施形態は、単に本発明の主題の実例として与えられるものであり、決してこの主題の制限を表すものではない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】先に記載した、トリウム-232の放射性壊変連鎖を表す図である。
図2】本発明による方法の実施形態の一例の様々な工程を概略的に表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
第1のクロマトグラフィーカラム(参照符号10)に含有される第1のDGA DN樹脂(参照符号20)から第2のクロマトグラフィーカラム40に含有される第2のDGA DN樹脂(参照符号50)にトリウム-228を移動させる本発明による方法の、実施形態の一例の様々な工程を概略的に表す図2を参照する。
【0050】
第1のクロマトグラフィーカラム10は、例えば、使用済みのラジウム-224ジェネレータであり、一方、第2のクロマトグラフィーカラム40は、新しいラジウム-224ジェネレータを構成することを意図している。
【0051】
この実施形態において、方法は、下記の工程:
1. 硝酸又は塩酸水溶液で樹脂20の状態調節を行う工程と;
2. 樹脂20上に固定されたトリウム-228を、EDTAを含む水溶液A1で溶出させ、EDTA-228Th錯体の形態でトリウム-228を含む溶出液(又は水溶液A2)を容器(参照符号30)、例えばビーカー、フラスコ又は同様のものに収集する工程と;
3. 溶出液を酸性化してそのpHを最大で1に等しい値とすることによりEDTA-228Th錯体を解離し、それにより脱錯化したトリウム-228を含む水溶液A3を得る工程と;
4. 樹脂50に水溶液A3を添加して、この溶液中に存在する脱錯化したトリウム-228をこの樹脂上に固定する工程と;
5. 固定相50を硝酸又は塩酸水溶液A4で洗浄する工程と
を含む。
【0052】
これらの工程はすべて、以下に詳述するが、室温、すなわち、20℃~25℃の温度で遂行される。
【0053】
*工程1:
カラム10は、トリウム-228が添加されたDGA DN樹脂(Triskem International社/Eichrom社)20を含む。
【0054】
この種の樹脂は、粒子の形態で提示され、同位元素に関係なくトリウムを保持するが、同位元素に関係なくラジウムを保持しない。
【0055】
樹脂20は、数回のラジウム-224生成サイクルに供されたもので、各サイクルは、トリウム-228が放射性壊変によりラジウム-224を生成することを許容される期間と、それに続く、そうして生成されたラジウム-224の溶出とを含む。
【0056】
これらの溶出は、2mol/Lの硝酸又は3mol/Lの塩酸溶液を用いて実行されているため、樹脂20はまず、この樹脂の間隙容量において優勢な酸性度を低下させるために状態調節され、以下の工程2において使用するEDTAがこの工程中に析出しないようにする。
【0057】
この状態調節は、数BV、例えば3BVの水溶液を0.1mL/分と5mL/分の間の流速でカラム10内に流通させることにより実行され、水溶液は、実質的にラジウム-224の溶出に使用した溶液が呈する濃度以下の濃度の硝酸又は塩酸のいずれか(好ましくは硝酸)を含む。
【0058】
この濃度は、例えば、硝酸水溶液の場合は0.5mol/Lであり、塩酸水溶液の場合は2mol/Lである。
【0059】
*工程2:
樹脂20からのトリウム-228の溶出は、数BVの水溶液A1をカラム10内に流通させることにより実行され、水溶液A1は、典型的には10mmol/L~100mmol/L、好ましくは25mmol/LのEDTAを含み、pHが4~8であり、好ましくは6±0.5に等しい。
【0060】
最適な溶出のため、10BVの水溶液A1を0.1mL/分~5mL/分の範囲の流速、好ましくは1mL/分に等しい流速で使用し、10BVを任意選択で連続的に(すなわち1回で)、又は不連続的に、すなわち、数分の中断を挟んで2回に分けて流通させる。
【0061】
*工程3:
先に言及したように、この工程は、工程2において容器30に収集された溶出液(又は水溶液A2)を酸性化して、この溶出液のpHを最大で1に等しい値とすることからなる。
【0062】
この酸性化は、1以下のpHではEDTAがカチオン形態にあるため、溶出液中に存在するEDTA-228Th錯体の解離を達成するだけでなく、溶出液にDGA DN樹脂上でのトリウム-228の保持に好都合なpHを与えることも可能にする。したがって、これらの2つの複合効果により、以下の工程4においてトリウム-228を樹脂50上に再固定することが可能となる。
【0063】
溶出液の酸性化は、
- 単純に硝酸又は塩酸(硝酸が好ましい)を容器30内に存在する溶出液に添加すること;
- 又は、図2に示すように、樹脂20を、それぞれ酸性水溶液を用いて実行される連続2回の洗浄に供し、これらの洗浄の結果生じる溶液を容器30内に存在する溶出液に添加すること
のいずれかにより実行することができる。
【0064】
第1の洗浄は、例えば、数BV、例えば3BVの水溶液をカラム10内に流通させることにより実行され、水溶液は、
- 0.01mol/L~0.1mol/L、好ましくは0.1mol/Lの硝酸;
- 又は、0.1mol/L~1mol/L、好ましくは0.1mol/Lの塩酸
のいずれかを含む。
【0065】
第2の洗浄は、例えば、数BV、例えば3BVの水溶液をカラム10内に流通させることにより実行され、水溶液は、
- 0.5mol/L~4mol/L、好ましくは0.5mol/Lの硝酸;
- 又は、2mol/L~4mol/L、好ましくは2mol/Lの塩酸
のいずれかを含む。
【0066】
どちらの場合においても、硝酸水溶液がこの場合も好ましい。
【0067】
洗浄に使用する水溶液のカラム10における流通速度は、有利には0.1mL/分~5mL/分である。
【0068】
図2に示すように、洗浄から生じる溶液は、カラム10の出口から溶出液を入れる容器30に、直接収集することができる。
【0069】
或いは、溶液は、容器30以外の容器に収集し、次いで、容器30内に存在する溶出液に添加することができる。
【0070】
注目すべきことであるが、溶出液を酸性化する際、EDTAが析出し、次いでほぼ完全に再溶解する可能性がある。また、溶出液を酸性化するために選択される方法に関係なく、酸性化した溶出液(又は水溶液A3)の均一性、ひいてはEDTAが再溶解した後の溶出液の安定性を確保するために、この酸性化は撹拌しながら実行されることが好ましい。
【0071】
予防措置として、工程4での処理の前に、水溶液A3を、例えば細孔径が0.2μmのフィルタを用いて任意選択でろ過することができる。
【0072】
*工程4:
カラム40は、樹脂が以前に全く使用されていないことを除き、好ましくはカラム10と完全に同一であり、同じベッドボリュームと同じ質量のDGA DN樹脂を有する。
【0073】
カラム40に水溶液A3を添加することは、カラムの上部でのトリウム-228の保持に有利となるよう、この溶液をカラム40内に、好ましくは例えば0.1mL/分~5mL/分の流速で流通させることにより実行される。
【0074】
*工程5:
樹脂50の洗浄は、カラム40内に数BVの水溶液A4を流通させることにより実行され、水溶液A4は、典型的には
- 0.5mol/L~4mol/L、好ましくは0.5mol/Lの硝酸;又は
- 2mol/L~4mol/L、好ましくは2mol/Lの塩酸
を含む。
【0075】
この場合も、硝酸が好ましい。
【0076】
最適な洗浄のため、20BVの水溶液A4を0.1mL/分~5mL/分の範囲の流速、好ましくは2.5mL/分に等しい流速で使用する。
【0077】
それぞれ7.2mLのBVを有し、それぞれ3.3gのDGA DN樹脂(粒径:50~100μm)を含有するカラム10とカラム40、及び以下の作動パラメータ:
*工程1:0.5mol/Lの硝酸を含む5BVの水溶液を、0.5mL/分の流速でカラム10内に流通させることによる樹脂20の状態調節;
*工程2:25mmol/LのEDTAを含み、pHが6±0.5に等しい10BVの水溶液A1を、1mL/分の流速でカラム10内に流通させることによるトリウム-228の溶出;
*工程3:工程2からの水溶液A2への約14mol/LのHNO(すなわち、65質量%)を含む2BVの硝酸溶液の添加;
*工程4:工程3で得られた12BVを、2.5mL/分の流速でカラム40内に流通させることによる樹脂50への添加;
*工程5:0.5mol/Lの硝酸を含む5BVの水溶液A4を、0.5mL/分の流速でカラム40内に流通させることによる樹脂50の洗浄;
を使用する本発明による方法の実施形態は、方法の実施形態の時間t0の時点でカラム10に含有される樹脂に保持されているトリウム-228の放射能量の99%超をカラム40に含有される樹脂に移動させることを可能にする。
【符号の説明】
【0078】
10 第1のクロマトグラフィーカラム
20 第1のDGA DN樹脂
30 容器
40 第2のクロマトグラフィーカラム
50 第2のDGA DN樹脂
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2021-07-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のクロマトグラフィーカラム(10)に含有される第1の固定相(20)上に固定されているラジオアイソトープを第2のクロマトグラフィーカラム(40)に含有される第2の固定相(50)に移動させて、第2の固定相上にラジオアイソトープを固定する方法であって、ラジオアイソトープは、トリウム、ラジウム、鉛、ビスマス及びウランの放射性同位元素から選択され、少なくとも下記の工程:
a) ラジオアイソトープを錯化する薬剤を含む水溶液A1で第1の固定相(20)からラジオアイソトープを溶出させ、それによりラジオアイソトープの錯体を含む水溶液A2を得る工程と;
b) 水溶液A2のpHを改変することにより水溶液A2中に存在するラジオアイソトープの錯体を解離し、それにより脱錯化したラジオアイソトープを含む水溶液A3を得る工程と;
c) 第2の固定相(50)に水溶液A3を添加する工程と;
d) 第2の固定相(50)を水溶液A4で少なくとも1回洗浄する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
ラジオアイソトープを錯化する薬剤が、アミノポリカルボン酸又はアミノポリカルボン酸塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アミノポリカルボン酸が、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸又はジエチレントリアミン五酢酸である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
アミノポリカルボン酸がエチレンジアミン四酢酸である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
水溶液A1が、10mmol/L~100mmol/Lのエチレンジアミン四酢酸又はその塩を含み、pHが4~8である、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
水溶液A1が、25mmol/Lのエチレンジアミン四酢酸又はその塩を含み、pHが6±0.5である、請求項に記載の方法。
【請求項7】
水溶液A2のpHの改変が、水溶液A2のpHを最大で1に等しい値にするための酸性化である、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
水溶液A2の酸性化が、酸を水溶液A2に添加することを含む、請求項に記載の方法。
【請求項9】
酸が硝酸又は塩酸である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
水溶液A2の酸性化が、第1の固定相(20)を酸性水溶液で少なくとも1回洗浄することと、洗浄から生じる水溶液の全部又は一部を水溶液A2に添加することとを含む、請求項に記載の方法。
【請求項11】
酸性水溶液が、0.01mol/L~0.1mol/Lの硝酸又は0.1mol/L~1mol/Lの塩酸を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
水溶液A4が、0.5mol/L~4mol/Lの硝酸又は2mol/L~4mol/Lの塩酸を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程a)の前に、第1の固定相の状態調節を行う工程を更に含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
第1の固定相が第1の固定相材料からなり、第2の固定相が第2の固定相材料からなり、第1及び第2の固定相材料が同一である、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
第1の固定相が第1の固定相材料からなり、第2の固定相が第2の固定相材料からなり、第1及び第2の固定相材料が異なるものである、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
ラジオアイソトープがトリウム-228である、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
第1の固定相及び/又は第2の固定相が、トリウムの配位子の分子により官能化されたポリマーを含む粒子からなる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ポリマーがポリメタクリレート、又はポリ(スチレン-co-ジビニルベンゼン)であり、トリウム-228の配位子がN,N,N’,N’-テトラオクチルジグリコールアミド、ジ(2-エチルヘキシル)リン酸、トリオクチルホスフィンオキシド、又はこれらの混合物である、請求項17に記載の方法。
【国際調査報告】