(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(54)【発明の名称】脂肪酸ハロゲン化物を利用することによりセルロース基材を疎水化するための方法
(51)【国際特許分類】
D21H 19/10 20060101AFI20220111BHJP
【FI】
D21H19/10 A
D21H19/10 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021526569
(86)(22)【出願日】2019-11-15
(85)【翻訳文提出日】2021-06-08
(86)【国際出願番号】 IB2019059829
(87)【国際公開番号】W WO2020100101
(87)【国際公開日】2020-05-22
(32)【優先日】2018-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501239516
【氏名又は名称】ストラ エンソ オーワイジェイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハンソン、スザンヌ
(72)【発明者】
【氏名】ボーデンリッド、ライヤ
(72)【発明者】
【氏名】ブランデン、カール - マグナス
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AA00
4L055AG34
4L055AG37
4L055AJ01
4L055BE08
4L055EA13
4L055EA25
4L055EA30
4L055EA32
4L055FA19
4L055FA30
(57)【要約】
本発明は、第1の側と、第1の側とは反対側を向く第2の側とを含むセルロース基材を疎水化するための方法に関し、その方法は以下のステップを含む:‐セルロース基材を80%を超える、好ましくは85%を超える乾燥含有量まで乾燥させるステップ;‐スプレー形態で脂肪酸ハロゲン化物を提供するステップ;及び‐前記脂肪酸ハロゲン化物をスプレー形態でセルロース基材の第1の側に接触させ、少なくとも部分的にセルロース基材に浸透するように誘導するステップ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の側と、第1の側とは反対側を向いている第2の側とを含むセルロース基材(1)を疎水化するための方法であって、以下のステップを含むことを特徴とする方法:
‐セルロース基材(1)を80%を超える、好ましくは85%を超える乾燥含有量まで乾燥させるステップ;
‐スプレー形態で脂肪酸ハロゲン化物を提供するステップ;及び
‐前記脂肪酸ハロゲン化物をセルロース基材の第1の側に接触させ、少なくとも部分的にセルロース基材(1)に浸透するように誘導するステップ。
【請求項2】
前記脂肪酸ハロゲン化物を、セルロース基材の第2の側にも接触させ、少なくとも部分的にセルロース基材(1)に浸透するように誘導するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
脂肪酸ハロゲン化物の前記誘導が、脂肪酸がセルロース基材(1)を通して所定の方向にセルロース基材(1)に浸透するように、セルロース基材の第2の側で真空吸引することによって行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
脂肪酸ハロゲン化物の前記誘導が、脂肪酸がセルロース基材(1)の第1の側の表面に沿って所定の方向に誘導され、それにより脂肪酸をセルロース基材と接触させるように、セルロース基材の第1の側で真空吸引することによって行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
セルロース基材の乾燥含有量が90%を超える、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
脂肪酸が10~22個の炭素原子の脂肪族鎖長を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
脂肪酸がパルミトイルクロリド、C16、ステアロイルクロリド、C18又はそれらの混合物である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
スプレーされる脂肪酸が少なくとも1つの溶媒又は溶媒の混合物と混合され、前記溶媒が好ましくは、アセトン、酢酸エチル及びメチルエチルケトンを含む群から選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
脂肪酸ハロゲン化物と溶媒との混合物が、全混合物の0.1~20重量%、好ましくは0.1~10重量%、より好ましくは0.1~5重量%の溶媒を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
セルロース基材(1)が紙又は板紙のウェブである、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ウェブ(1)が単層又は多層ウェブである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
セルロース基材が三次元セルロースベースの製品である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
脂肪酸ハロゲン化物を添加する前及び/又は後に、基材(1)を加熱するステップをさらに含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記基材加熱ステップは、IR加熱によって行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
真空吸引が真空ボックス(11)によって行われる、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
真空吸引が回転真空シリンダ(6)によって行われる、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1項に記載の方法によって処理されたセルロースベースの製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
セルロース基材を疎水化するための方法であって、その基材は、第1の側(側面)と反対側の第2の側(側面)とを含む。
【背景技術】
【0002】
いくつかの分野で、例えば繊維産業と紙及び板紙産業でセルロースに基づく材料の疎水性を高める必要がある。
【0003】
紙及び板紙は通常、特定の品質を高めるために、とりわけ水や他の液体が紙又は板紙に浸透することに対する耐性を高めるために、サイジング剤で処理される。サイジングには、内部サイジングと表面サイジングの2種類がある。内部サイジングでは、化学物質がウェットエンドでパルプに添加される。例えばASA、AKD又はロジンサイズなどである。一般的な表面サイジング剤には、例えば、でんぷん又はアクリル共重合体が挙げられる。
【0004】
US4107426は、セルロース基材の表面に撥水性を付与するための方法を開示している。このプロセスは本質的に脂肪酸塩化物からなる気相に表面を曝露するステップを含む。
【0005】
この方法の欠点は、基材の内部ではなく、主に基材の表面が疎水性になることである。これにより、エッジ(端)のウィッキングの問題、つまり基材のエッジ(端)への液体の浸透が発生する。
【0006】
WO2017002005には、気化した脂肪酸ハロゲン化物をセルロース基材に浸透させるように配置する方法が記載されている。しかし、WO2017002005に準拠した方法を実行するために必要な機器は、多くのスペースを占有するため、既存の生産現場で実装することは困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、セルロース基材を用いて材料の疎水性を高めるための改善された方法を提供することであり、これは例えば、セルロース基材のエッジウィック(端の毛管作用)浸透に対する撥水性と耐性を強化する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下のステップを含む、セルロース基材を疎水化するための本発明の方法:
‐セルロース基材を80%を超える、好ましくは85%を超える乾燥含有量まで乾燥させるステップ;
‐スプレー形態で脂肪酸ハロゲン化物を提供するステップ;及び
‐前記脂肪酸ハロゲン化物をセルロース基材の第1の側に接触させ、少なくとも部分的にセルロース基材に浸透するように誘導するステップ。
【0009】
本発明の方法に従ってセルロース基材を処理すると、表面だけでなくそのコアにおいても材料の疎水性が増加し、その耐水性が向上し、セルロース基材のエッジウィック浸透に対する耐性が向上する。
【0010】
本発明による方法のおかげで、いくつかの追加の利点も達成される。例えば:
‐スプレーした脂肪酸ハロゲン化物を基材に適用するための装置は、異なる定義の方向に向けることができる。
‐試薬(すなわち、脂肪酸ハロゲン化物)は、表面が粗い場合でも、表面全体に均一に分布する。
‐投与量のキャリブレーションにより、基材上の試薬の不要な過剰を回避できる。
‐試薬の量は、圧力又はスプレーユニットの数を調整することで簡単に制御できる。
‐ノズル/ユニットは大きなスペースを必要とせず、既存のオンライン生産現場での設置を容易にする。
【0011】
「スプレー形態」は、複数の液滴又は粒子の形態にあることを意味し、スプレー形態の脂肪酸ハロゲン化物は、自由に流れる液体脂肪酸ハロゲン化物を上記のスプレー形態に分散させるための精密装置によって送達され得ることが理解されるべきである。液滴又は粒子は、直径1~900μmの範囲のサイズのマイクロスケールである可能性がある。
【0012】
本発明の別の態様によれば、スプレーされた脂肪酸ハロゲン化物は、セルロース基材の第2の側にも接触するように誘導され、セルロース基材に少なくとも部分的に浸透する。これは、真空吸引により達成することができる。
【0013】
セルロース基材は、紙又は板紙のウェブ、板紙の用途、セルロース繊維から作られたテキスタイル、又は三次元セルロースベースの製品の形態をとることができ、例えば熱成形によって製造される。
紙又は板紙のウェブは、単層又は多層のウェブであり得る。
【0014】
本発明の別の態様によれば、脂肪酸ハロゲン化物の前記誘導は、脂肪酸ハロゲン化物がセルロース基材を通って所定の方向にセルロース基材に浸透するように、セルロース基材の第2の側で真空吸引することによって行われる。このような真空吸引は、真空ボックス、回転真空シリンダー、又は他の適切な真空生成装置によって生成することができる。本発明による方法のおかげで、共有結合度は、例えば、走行基材上への自由に流れる試薬の従来のロールコーティングと比較して材料の厚さ全体にわたってより均一にすることができる。。
【0015】
共有結合度は、基材中のグラフトされた脂肪酸と総脂肪酸との比率である。グラフトされたものは反応した試薬に対応し、総量は基材に物理的に吸収されただけの遊離脂肪酸と合せたこの部分である。
【0016】
本発明の別の態様によれば、脂肪酸ハロゲン化物の前記誘導は、セルロース基材の第1の側で真空吸引することによって行われ、その結果、脂肪酸は、脂肪酸がセルロース基材と接触するような方法で所定の方向にセルロース基材の第1の側の表面に沿って誘導される。一例では、「表面に沿って」とは、脂肪酸が、制御された距離(基材に応じて)の間、基材の第1の側と実質的に平行に移動するようにされることを意味する。
【0017】
本発明の別の態様によれば、脂肪酸ハロゲン化物は、基材上にスプレーされる前に、少なくとも1つの溶媒と混合される。好ましくは、前記溶媒は、アセトン、酢酸エチル及びメチルエチルケトンを含む群から選択される。溶媒(又は溶媒の混合物)は、OH基を含まないことが好ましく、また、それは脂肪酸ハロゲン化物と混和性であることが好ましく、目詰まりを防ぐのに役立ち、適用システムの洗浄を促進する。溶媒を利用することで、脂肪酸ハロゲン化物の適用量を最小限に抑え、より良い方法で制御することも可能になる。
【0018】
溶媒の沸点は、生成物中に残留溶媒がないことを保証するために高すぎないことが好ましく、好ましくは200℃未満、より好ましくは150℃未満、さらにより好ましくは100℃未満である。アセトンの沸点は59℃である。酢酸エチルの沸点は77℃であり、メチルエチルケトンの沸点は59℃未満である。脂肪酸ハロゲン化物に溶媒を加えると、試薬の基材への浸透が改善されるという利点がある。
【0019】
本発明の一態様によれば、脂肪酸ハロゲン化物と溶媒との混合物は、混合物の総重量の0.1~20重量%、好ましくは0.1~10重量%、より好ましくは0.1~5重量%の溶媒を含む。溶媒量が多すぎると、試薬が希釈されすぎて、適用時に均一な被覆と分布が形成されない可能性があり、それにより、適用ユニットを増やす必要性が高まる。これにより、最終製品に溶媒分子が残留するリスクも高くなる。試薬の適用量が少なくなりすぎると、望ましい材料特性に悪影響を与える可能性がある。
【0020】
本発明のさらに別の態様によれば、セルロース基材の乾燥含有量は、80%を超え、好ましくは85%を超え、さらにより好ましくは90%を超える。乾燥含有量が高いほど、その後の疎水化の結果は良くなる。これは、脂肪酸ハロゲン化物が水に対して高い反応性を持っているためである。したがって、水の存在は、基材に付着していない脂肪酸の多過ぎる量での望ましくない形成につながる可能性がある。
【0021】
本発明のさらに別の態様によれば、スプレーされる脂肪酸ハロゲン化物は、10~22個の炭素原子の脂肪族鎖長を含む。前記脂肪酸は、好ましくは、パルミトイルクロリド(C16)、ステアロイルクロリド(C18)又はそれらの混合物から選択される。
【0022】
本発明のさらに別の態様によれば、この方法は、脂肪酸ハロゲン化物を添加する前及び/又は後に、セルロース基材を加熱するステップをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0023】
以下では、図面を参照して本発明をさらに説明する。
【
図1】
図1は、第1の実施形態による本発明の概略図を示し、スプレー形態の脂肪酸ハロゲン化物が基材上に適用される。
【
図2】
図2は、第2の実施形態による本発明の概略図を示し、気化された形態の脂肪酸ハロゲン化物が基材上に適用される。
【
図3】
図3a~bは、第3及び第4の実施形態による本発明の概略図を示し、基材の第1の側及び第2の側の両方が、脂肪酸ハロゲン化物にさらされる。
【
図4】
図4は、第5の実施形態による本発明の概略図を示し、気化された形態の脂肪酸ハロゲン化物が基材上に適用される。
【
図5】
図5は、セルロース基材の疎水化を概略的に示し、このような基材は、3次元のセルロースベースの製品の形態をしている。
【発明を実施するための形態】
【0024】
詳細な説明
以下の詳細な説明は、本発明による方法を実行するためのセットアップの例を示しており、これは、非限定的な方法で本発明のアイデアの原理を説明するのに役立ち得る。
【0025】
図1~4において、第1の側及び第2の側を含むセルロース基材1は、一般に「1」と称される。これらの実施形態では、基材は、紙又は板紙のウェブなどのセルロースベースのウェブの形態である。前記基材1の第2の側は、第1の側とは反対側を向いている。セルロース基材、例えば紙又は板紙ウェブ1は、乾燥ステップで乾燥される。乾燥は、セルロース基材の乾燥に適した従来の乾燥方法によって実行される。紙又は板紙ウェブのセルロース基材は、例えば、乾燥シリンダーによって乾燥させることができる。乾燥ステップ後、セルロース基材1は、80%を超える、好ましくは85%を超える、最も好ましくは90%を超える乾燥含有量を有する。より高い乾燥含有量は、より高い共有結合度を得ることにより、その後の疎水化のより良い結果を与えることができる。
【0026】
その後、セルロース基材1をさらに乾燥及び加熱することができる。加熱は、好ましくは、
図1~3に示されるように、IR加熱2による前処理ステップで実施される。前処理加熱ステップにはいくつかの利点がある。それは、基材との接触時の気体の望ましくない凝縮を最小限に抑え、また、その後の疎水化剤が基材をよりよく浸透することをもたらす。さらに、残っている水分はさらに乾燥させることができる。基材1は、95%までの乾燥含有量でさえ乾燥され得る可能性がある。
【0027】
次に、乾燥及び加熱された基材1の第1の側は、スプレー形態で又は気相で脂肪酸ハロゲン化物で処理されて、基材が疎水性になるように基材を疎水化する。これは、液体脂肪酸ハロゲン化物をスプレー50に分散させるためのデバイス5(「スプレーデバイス」5とも呼ばれる)によって達成され、スプレーは、基材に直接接触するか、又は気相に気化されて、そこでそのような気体が基材に接触する可能性がある。前記スプレー装置5は、液体を噴霧するために使用されるスプレーノズルの形態であり得る。ここでの「スプレー噴霧」とは、液体を圧縮空気と混合することにより、液体を微粒子のスプレーに変換することを意味する。スプレーノズルは、高圧で制御された方法で開口部を通過するときに噴霧スプレーを生成する。圧力が高いほど、液滴が小さくなり、スプレーが細かくなる。異なるスプレー装置5が考えられる。
【0028】
別の例は、エレクトロスプレーであり、これにより、さまざまな形状及び配置を有することができるノズルから流れる液体に電気力が利用され、その後、微細で均一な帯電液滴が形成されるが、これらは電気力が表面張力を超えるためである。また、機械的な歪みが原因である可能性もある。エレクトロスプレープロセスの一般的な利点は、低コスト、低エネルギー入力、優れた柔軟性で1つのステップとして実行できることである。周囲の温度と圧力も機能する。
【0029】
乾燥及び加熱された基材1の前記第1の側が脂肪酸ハロゲン化物で処理されると、適用された脂肪酸ハロゲン化物は、少なくとも部分的に前記基材1のセルロースに浸透し、その中のセルロースに共有結合し、材料の撥水性を向上させる。基材を通るスプレー又は気体の浸透を高めるために、基材の疎水化中に、基材の第2の側を同時に真空吸引に供することができ、その結果、スプレー又は気体が基材を通して所定の方向に輸送される。これにより、基材のコアだけでなく表面の疎水性も向上するため、基材は面内エッジの貫通に対してより耐性が生じる。
【0030】
脂肪酸ハロゲン化物は気化できる任意のハロゲン化物であるが、パルミトイルクロリド、C16は、テストで特に適していることが示されている。テスト中に、共有結合の割合がまったく得られないか、又はわずかしか得られず、その結果低い保持となり、それにより例えば移行の問題、汚れ、機械の停止などを引き起こす従来のAKDサイジングと比較して、40%を超える、さらには60%を超える共有結合度が達成される。
【0031】
脂肪酸ハロゲン化物を適用するためにスプレーを使用することの別の利点は、それが非常に位置特異的であり、疎水性がスプレーが基材にアクセスできる場合にのみ達成されることである。試薬は利用可能なヒドロキシル基と反応し、副生成物としてHClを形成する。試薬は水に対しても非常に反応性が高く、反応には乾燥した基材が必要である。それにもかかわらず、常にある程度の水が存在し、対応する反応性の低い脂肪酸も非結合分子として形成される。したがって、100%の共有結合度を達成することは不可能である。気相反応を使用することに関連するさらに他の利点は、気体がより容易に基材を通って浸透及び誘導されることができ、反応がより速くなり、液体状態で同じ試薬の適用と比較して化学試薬がより少ない量で済む可能性があるということである。
【0032】
図1は、本発明による方法を実行する例示的な方法を示している。紙又は板紙の形態の乾燥及び加熱されたセルロース基材1は、IR加熱ボックス2からのIR加熱によりさらに加熱及び乾燥される。追加のIR加熱は任意である。
【0033】
液体脂肪酸ハロゲン化物は、別のタンク3に貯蔵され、そこから、液体をスプレー50に分散させるための装置5を通して排出される。そのようなスプレー装置5は、例えば、液体を噴霧するために、すなわち流体を液滴50に分解するために、使用されるスプレーノズルの形態であり得る。この例では、液滴は、デバイス5によって、下にある走行中の基材1の第1の側1aにスプレーされる。基材1の前記第1の側1aは、同時に、下流の回転シリンダー6、例えば、液滴を気体に加熱する加熱シリンダーと接触しており、これにより、噴霧された脂肪酸分子は、基材のセルロースとより効率的に反応する。走行中の基材に関連して複数のスプレーユニットを互いに順番に配置することが考えられ、そのような各ユニットは、1つ又は複数のスプレーノズルを含むことができる。これにより、連続したステップでの脂肪酸の適用が可能になり、1つのユニットが一度に全量を適用する代わりに、より少ない用量を数回適用することができる。そのような手順は、場合によっては、セルロースウェブの厚さにおける試薬の浸透を改善し得る。
【0034】
基材の第2の側1bに関連して、スプレー装置5の下流に、穴のある回転真空シリンダ(図示せず)を配置して、セルロース基材1を通して脂肪酸ハロゲン化物を所定の方向に真空吸引するように配置することも考えられる。それにより、セルロース基材1は、基材の完全な厚さを通して疎水化することができる。
【0035】
脂肪酸ハロゲン化物を適用するための別の配置は、基材1が2つのニップロール(図示せず)の間に入るように配置され、好ましくは、ロールの少なくとも1つが加熱されたニップロールであり、脂肪酸ハロゲン化物スプレーがニップロール接合部に向いており、それによりスプレー液滴が加熱されたロールによって気相に変換される。この配置では、スプレーは、ニップロール接合部のすぐ上流の加熱されたニップロールに接触するように向けることもでき、それにより、脂肪酸ハロゲン化物は、基材上に適用されたすぐ後に、すなわち数秒又はミリ秒以内に、ロールの熱によって気化される。
【0036】
脂肪酸ハロゲン化物を適用するためのさらに別の配置は、脂肪酸ハロゲン化物が、直ちに、すなわち数秒又はミリ秒以内に、前記脂肪酸ハロゲン化物を走行中の基材に移すように配置された加熱ロールに直接スプレーされることである。基材に接触すると、ロールからの熱によって脂肪酸ハロゲン化物が気相に変化する。これは、脂肪酸ハロゲン化物が基材に接触すると同時に気化が生じることを意味する。そのような実施形態では、加熱されたロールはいくつかの機能を提供する:脂肪酸ハロゲン化物を基材と接触させる機能、脂肪酸ハロゲン化物を気相に気化させる機能、及び脂肪酸ハロゲン化物を基材に共有結合する化学反応を促進する機能。脂肪酸ハロゲン化物の気化は、加熱されたロールが基材に接触する前に、又は加熱されたロールのどこにスプレーが適用されるかに応じて、加熱されたロールが基材に接触すると同時に、生じるように調整することができる。例えば、加熱されたロールが基材に接触する少し前の距離で、脂肪酸ハロゲン化物が加熱されたロールに当たるようにスプレーが向けられた場合、気化が接触前に起こるが、ロールと基材の間のニップで脂肪酸ハロゲン化物が加熱されたロールに当たるようにスプレーが向けられた場合、接触と同時に気化が起こる。
【0037】
すべてのスプレーが気化されない場合でも、スプレーはロール上で依然として均一に分散され、液滴の形態でボードに取り込まれる。
【0038】
さらに、HClの副産物及びおそらく未反応の例えばパルミトイルクロリド及び/又は未結合のC16は、取り扱いのために除去して収集することができる。
【0039】
図2には、本発明による第2の実施形態が概略的に示されている。ここでは、紙又は板紙の形態の乾燥及び加熱されたセルロース基材1は、
図1に関連して前にも述べたように、任意選択で、IR加熱ボックス2からのIR加熱によりさらに加熱及び乾燥される。
【0040】
液体脂肪酸ハロゲン化物は、別のタンク3に貯蔵され、そこから、例えば、液体をスプレー50に分散させるための装置5へのチューブ4(又は他の移送手段)を介し輸送される。そのような装置5は、例えば、液体を噴霧する、すなわち流体を液滴50に分解するために使用されるスプレーノズルの形態であり得る。この例では、液滴は、装置5を介して、加圧加熱タンク7などの加熱チャンバ7にスプレーされる。スプレー液滴は、前記タンク7内で加熱されて気相に蒸発し、その後、前記気体70は、気体拡散装置71を介して前記基材1の第1の表面に噴射又は堆積される。基材の前記第1の側は、同時に回転シリンダー6と接触している。真空タイプのさらに他の回転シリンダーは、セルロース基材1を介して所定の方向に気体を吸引するための基材の第2の側1bに配置することができる。これにより、セルロース基材1は、基材の全厚さにわたって疎水化することができる。HCl副産物及びおそらく未反応の例えばパルミトイルクロリド及び/又は未結合のC16は、取り扱いのために除去して収集することができる。
【0041】
図1~2に示される両方の例示された方法について、最初に基材の第1の側を処理し、続いて基材の第2の側に面する追加のユニットで基材の第2の側を処理することが可能である。両側のそのような処理は、基材のコア全体が修飾されることを保証する。2つ以上のスプレーユニットの使用は、最小限のスペースが必要であり、既存の機器に適合するように配置できる。複数のユニットを利用することにより、機械をより高速で運転することも可能である。
【0042】
図3a~bは、それぞれ、第3及び第4の実施形態を示し、基材1の第1及び第2の側の両方が、スプレー形態の脂肪酸ハロゲン化物の適用によって疎水化(hydrophobization/hydrophobation)に供される。
【0043】
図3aを参照すると、基材1は、最初に、加熱、例えばIR加熱の形態で前処理2に供される。液体をスプレーに分散させるための装置5は、基材の第2の側1bで前処理2の下流に配置され、回転シリンダー6に隣接し、脂肪酸ハロゲン化物のスプレー50をシリンダー6の表面に向けるように配置される。これは、さらに回転すると、脂肪酸ハロゲン化物を基材1の第2の側1bの表面に送達する。回転シリンダー6は、スプレーされた液滴が基材に接触する前に気体に変化する程度まで加熱され得る。基材1の第1の側1aに真空ボックス8を配置して、試薬をセルロース構造に引き込む。本明細書に記載の第3の実施形態によれば、基材1は、後続の下流ステップでさらに疎水化され、ここで、脂肪酸ハロゲン化物50’は、基材1の第1の側1aにも適用される。したがって、
図3aに見られるように、液体をスプレー50’に分散させるための第2の装置5’は、第2の回転シリンダー6’に隣接して配置され、前記装置5’は、脂肪酸ハロゲン化物のスプレー50’をシリンダー6’の表面に向けるように配置され、シリンダー6’は、さらに回転すると、脂肪酸ハロゲン化物を基材1の第1の側1aの表面に送達する。回転シリンダー6’は加熱され得る。真空ボックス8’は、基材の第2の側1bで、回転シリンダーのすぐ近くに配置され、試薬を少なくとも部分的に基材1に浸透させるように誘導する。当業者は、装置(例えば、スプレー装置5、5’;真空ボックス8、8’;シリンダー6、6’など)は交換可能であり、最初に基材1の第1の側1aを処理し、続いて第2の側1bを処理することが可能であることを理解する。
【0044】
本発明による第4の実施形態が
図3bに見られ、
図3aと同じ目的を果たし、すなわち、基材1の両側を処理してその疎水性を高める。
図3aについて説明したのと同様の方法で、基材1は、脂肪酸ハロゲン化物が最初に基材の第2の側1bに適用され、次にその第1の側1aに適用される2つの後続の疎水化ステップを通して誘導される。第1のステップでは、スプレー装置5は、走行基材1の第2の側1bに隣接して配置され、脂肪酸ハロゲン化物のスプレー50を前記表面1bに直接向けるように配置されている。真空ボックス8は、スプレー装置5の反対側の基材の第1の側1aに配置され、前記真空ボックス8は、真空吸引によって少なくとも部分的に基材に浸透するように脂肪酸ハロゲン化物を吸引するように配置される。セルロース基材1への試薬の結合を促進するために、下流の回転シリンダー6、好ましくは加熱されたシリンダーを提供することができる。対応する第2の疎水化ステップが第1のシリンダー6の下流に配置され、それによって脂肪酸ハロゲン化物が第1の疎水化ステップについて記載された対応する方法で基材の第1の側1aにも適用される。
【0045】
第4の実施形態の脂肪酸ハロゲン化物は、基材1に接触するように誘導される前に、スプレー形態から気体形態に変換することができる。
【0046】
図4には、本発明による第5の実施形態が示されている。基材を加熱するための前処理ステップが示され、ここでそのような加熱は、例えば、IR加熱により行われる。さらに脂肪酸ハロゲン化物の前記誘導は、ここでセルロース基材の第1の側1aで真空吸引8によって行われ、その結果、脂肪酸がセルロース基材1に接触するように、セルロース基材1の第1の側1aの表面に沿って所定の方向に脂肪酸が誘導される。これにより、脂肪酸は、基材の第1の側と実質的に平行に移動するようになる。
【0047】
図5は、基材10が三次元セルロースベースの製品である本発明による方法を概略的に示している。ここで、コンベヤーベルト9は、請求項1に記載の方法により、複数の三次元セルロース製品10を疎水化するように構成されたユニット11を介して、前記製品を移送している。前記三次元製品11は、例えば、事前に作成された紙トレイ、マグカップ、コンテナ、又はセルロース製の他のタイプの3D形状のオブジェクトであり得る。気化した脂肪酸ハロゲン化物がセルロース基材に接触させられ、その厚さに少なくとも部分的に浸透したユニット11を通過した後、既存の生成物10’は疎水性を獲得した。
【0048】
反応の成功を特徴づけるために、接触角測定を利用して、セルロース基材がこの方法によってどれだけ疎水化されたかを定性的に分析した。未処理のセルロース基材は、接触角が約40°の前、本発明の方法の処理の後、片面のみが試薬と直接接触しているにもかかわらず、基材の第1の側及び第2の側の両方で110~130°の接触角を有していた。接触角が90°(高い接触角)を超えるということは、一般に、表面の濡れが好ましくないため、流体が表面との接触を最小限に抑え、コンパクトな液滴を形成することを意味する。
【0049】
本発明の上記の詳細な説明を考慮して、他の修正及び変形が当業者に明らかになるであろう。例えば、本発明による方法は、脂肪酸ハロゲン化物を基材に適用する他の方法を補完するものとして使用することができる。しかしながら、そのような他の修正及び変形は、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく影響を受ける可能性があることは明らかであるはずである。
【国際調査報告】