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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(54)【発明の名称】膀胱癌の検出
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20220111BHJP
   G01N 33/70 20060101ALI20220111BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20220111BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/70
G01N33/574 A
G01N33/53 P
G01N33/53 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021527071
(86)(22)【出願日】2019-11-15
(85)【翻訳文提出日】2021-07-13
(86)【国際出願番号】 GB2019053253
(87)【国際公開番号】W WO2020099895
(87)【国際公開日】2020-05-22
(31)【優先権主張番号】1818744.3
(32)【優先日】2018-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512145734
【氏名又は名称】ランドックス ラボラトリーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラドック,マーク
(72)【発明者】
【氏名】ラモント,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】フィッツジェラルド,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアムソン,キャスリーン
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045CB03
2G045DA36
2G045DA38
2G045DA42
(57)【要約】
本発明は、女性患者において膀胱癌の存在又はリスクを検出するための方法であって、女性患者から単離された試料中のバイオマーカー団(panel of biomarkers)の存在を検出するステップであって、前記バイオマーカー団が、IL-13及びIL-12p70と、BTA、ミドカイン、PAI-1/tPA、8OHdG、CEA、CK18、クラステリン、クレアチニン、CXCL16、シスタチンB、シスタチンC、d-ダイマー、EGF、FAS、HAD、IL-1a、IL-1b、IL-4、IL-6、IL-7、IL-8、MCP-1、マイクロアルブミン、MMP9NGAL、MMP9TIMP1、NGAL、NSE、プログラニュリン、TUP、TGFB1、トロンボモジュリン、sTNFR1、TPA、VEGF及びトリグリセリドから選択される1種若しくは複数のバイオマーカーと、を含み、そして/又は女性患者から単離された試料中のアルブミン:クレアチニン比として表されるアルブミン/マイクロアルブミン/タンパク質及びクレアチニンの濃度を含む、ステップと;正常対照に比較されたバイオマーカーの存在上昇が、試料が単離された患者における癌の存在又はリスクを示す、結果を評定してそれらを正常対照と比較するステップと、を含む、方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
女性患者における膀胱癌の検出又は膀胱癌のリスクの検出のための方法であって、
(i)女性患者から単離された試料中のバイオマーカー団(panel of biomarkers)の存在を検出するステップであって、前記バイオマーカー団が、IL-13及びIL-12p70と、
BTA、ミドカイン、PAI-1/tPA、8OHdG、CEA、CK18、クラステリン、クレアチニン、CXCL16、シスタチンB、シスタチンC、d-ダイマー、EGF、FAS、HAD、IL-1a、IL-1b、IL-4、IL-6、IL-7、IL-8、MCP-1、マイクロアルブミン、MMP9NGAL、MMP9TIMP1、NGAL、NSE、プログラニュリン、TUP、TGFB1、トロンボモジュリン、sTNFR1、TPA、VEGF及びトリグリセリドから選択される1種若しくは複数のバイオマーカーと、を含み、そして/又はアルブミン:クレアチニン比として表されるアルブミン/マイクロアルブミン/タンパク質及びクレアチニンの濃度を含む、ステップと;
(ii)正常な対照と比較した前記バイオマーカーの存在上昇の検出が、前記試料が単離された前記女性患者における癌の存在又はリスクを示す、女性患者における膀胱癌の前記存在又は前記リスクを評定するステップと、を含む、方法。
【請求項2】
前記1種又は複数のバイオマーカーが、BTA、ミドカイン、PAI-1/tPA、クラステリン、IL-8、マイクロアルブミン、MMP9NGAL、NSE、シスタチンC、d-ダイマー、IL-7から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記バイオマーカー団が、BTAを含む、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記バイオマーカー団が、ミドカインを含む、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記バイオマーカー団が、PAI-1/tPAを含む、請求項3又は4のどちらかに記載の方法。
【請求項6】
前記バイオマーカー団が、表2又は表3内のバイオマーカーの組み合わせから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記バイオマーカー団が、
(i)BTA、IL-13及びIL12p70;
(ii)ミドカイン、IL-13及びIL12p70;
(iii)BTA、IL-13、IL12p70及びミドカイン;並びに
(iv)BTA、IL-13、IL12p70、ミドカイン及びPAI-1/tPAから選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記バイオマーカーの1種又は複数が、尿形態である、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
各バイオマーカーが、尿形態である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
患者の感染状態を特徴づけるステップをさらに含む、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記試料が、尿試料である、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
ステップ(ii)が、ステップ(i)からの前記バイオマーカーの前記測定濃度をアル
ゴリズムに入力することで、前記個体が膀胱癌を有するか、又は膀胱癌を発症するリスクがあるか、を前記アルゴリズムの出力が示す、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記アルゴリズムの前記出力が、少なくとも0.70の感度を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記アルゴリズムの前記出力が、少なくとも0.70の特異度を有する、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記患者が、血尿を呈している、請求項1~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
付着された結合分子を含む固体担体材料であって、前記結合分子が、IL-13に、そして別個にIL-12p70に特異的な親和性を有し、それぞれのための前記結合分子が、前記担体材料上の離れた位置に存在する、固体担体材料。
【請求項17】
離れた位置のそれぞれにおいて、請求項1に定義された追加的バイオマーカーの1種又は複数のための結合分子をさらに含む、請求項16に記載の固体担体材料。
【請求項18】
前記結合分子が別個に、表2又は表3に定義された前記バイオマーカーへの親和性を有する、請求項16又は請求項17に記載の固体担体材料。
【請求項19】
前記結合分子が別個に、前記バイオマーカー:
(i)BTA、IL-13及びIL12p70;
(ii)ミドカイン、IL-13及びIL12p70;
(iii)BTA、IL-13、IL12p70及びミドカイン;並びに
(iv)BTA、IL-13、IL12p70、ミドカイン及びPAI-1/tPAへの親和性を有する、請求項16~18のいずれかに記載の固体担体材料。
【請求項20】
前記結合分子が、抗体である、請求項16~19のいずれかに記載の固体担体材料。
【請求項21】
前記担体が、バイオチップである、請求項16~20のいずれかに記載の固体担体材料。
【請求項22】
女性患者における膀胱癌の検出又は膀胱癌のリスクの検出のための方法であって、
(i)女性患者が感染を有さないことを決定するステップと;
(ii)前記女性患者から単離された試料中の1種又は複数のバイオマーカーの存在を検出するステップであって、前記1種又は複数のバイオマーカーが、IL-13、IL12p70、BTA及びミドカインから選択される、ステップと;
(iii)正常な対照と比較した前記バイオマーカーの存在上昇の検出が、前記試料が単離された前記女性患者における癌の存在又はリスクを示す、前記女性患者における膀胱癌の前記存在又は前記リスクを評定するステップと、を含む、方法。
【請求項23】
前記1種又は複数のバイオマーカーが、以下のもの:
(i)IL-13 + IL12p70
(ii)IL-13 + BTA
(iii)IL-13 + ミドカイン
(iv)IL12p70 + BTA
(v)IL12p70 + ミドカイン
(vi)BTA + ミドカイン
から選択される、請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、女性患者における膀胱癌の存在又はリスクを検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膀胱癌は、世界各地の主たる死亡原因である。膀胱癌は、女性より男性に多く見られ3倍を超えるが、死亡率は女性の方が2倍高い。イングランド及びウェールズにおける女性の膀胱癌患者は、1年及び5年目でほぼ20%低い生存率、10年目でほぼ30%低い生存率を有し、女性患者がより進行した疾患を示していることを示唆している。血尿のある女性の17%に比較して血尿のある男性では39%が、GPにより泌尿器科専門医を紹介されることを、性別及び人種をコントロールした多変量解析が見出した。さらに男性は女性より、血尿についての完全な評価(complete evaluation)を有する可能性が高く(22%vs12%)、不完全な評価(incomplete evaluation)を有する可能性が低い(55%vs69%)。
【0003】
診断テストの有用性は、その感度及び特異度によって測られる。テストの感度は、真陽性の数(特有の疾患を有し、その疾患についてのテストで陽性と出た個体の数)であり、特異度は、真陰性の数(疾患を有さず、その疾患についてのテストで陰性と出た個体の数)である。膀胱癌で最も多くみられる兆候は、家庭医により検出されることの多い肉眼的又は顕微鏡的血尿であり、全膀胱癌患者の85%で観察される。簡単な尿ディップテストが、血液の存在を検出するために用いられ得る。血液を伴わない癌は稀であり、それが簡単な血液ディップテストの高感度につながっているが、テストの特異度は乏しく、血尿を示す患者の5%未満が実際に膀胱癌を有する。しかし症状を示した患者の5%は、容易に切除され得る表在性腫瘍と正常に診断される。
【0004】
膀胱鏡及び細胞診は、膀胱癌を診断するために用いられる好ましい方法である。細胞診検査は、排尿中の尿路上皮細胞の検査を伴う。この方法は、高い特異度を有し、試料を得るのが簡便である。しかしそれは、乏しい感度を有し、低細胞収量では主観的になる。細胞診の評定は通常、柔軟に膀胱鏡と組み合わせられる。白色光膀胱鏡(WLC)は、膀胱の直接的観察及び疑わしい領域の生検を可能にする。しかし近年の発表は、青色光膀胱鏡(BLC)がWCLの34%多く腫瘍(例えば、上皮内癌(CIS))を捉えることが示した。その上、CIS病変を有する患者53名のうち20名(37.7%)は、陰性の細胞診を有した(Fradet et al., 2007; Witjes et al., 2010)。不幸にもBLCは、WLCよりも高い偽陽性率を有する(それぞれ39%vs31%)(Fradet et al., 2007)。膀胱鏡は、それぞれ71%及び72%の感度及び特異度を有する(National Collaborating Centre for Cancer, Bladder Cancer: diagnosis and management; NICE Guideline 2, February 2015, Page 78)。
【0005】
膀胱鏡に関連する幾つかの欠点があり、即ち、膀胱鏡は高価であり、患者の不快感、感染リスクを誘発し、尿路上部の視覚化又は小さなエリアのCISの検出ができず、例えば陽性の尿テスト(細胞診)に関する情報が泌尿器科専門医に連絡されれば、多数の膀胱癌再発が膀胱鏡で検出されるが、その結果が伏せられた場合にはそのようにならない(van der Aa et al., 2010)。
【0006】
患者を膀胱鏡検査に託す前に、膀胱癌を示す患者を同定し得る1種又は複数の生化学的な膀胱癌バイオマーカーを同定する試みが、当該技術分野で行われてきた。今日、およそ20%の患者が、進行疾患を示し、その結果、予後は不良である。それゆえ、特に低リスクの無症状患者のために、膀胱癌のスクリーニングツールとして用いられ得る実証された
バイオマーカー又はバイオマーカー団(panel of biomarkers)を同定する試みが、当該技術分野で行われてきた。
【0007】
単一のバイオマーカー又はバイオマーカー団はいずれも、正確な診断に必要とされる膀胱鏡の頻度を低減するために要求される感度及び特異度のレベルを依然として成し遂げていない。ここ10年以上、膀胱腫瘍抗原(BTA)、核マトリックスタンパク質22(NMP22)、テロメラーゼ及びフィブリノゲン分解産物(複数可)(FDP)をはじめとする多数の膀胱癌マーカーが、ゴールドスタンダードの尿細胞診に対抗して評価されたが、極めて一貫した低特異度の結果となった。これらのマーカーは、膀胱癌以外の泌尿器病の患者及び尿路感染症(UTI)の患者の多くの割合で尿中に存在する。NMP22及びBTAは、ポイントオブケアのアッセイとしてFDA認可を有している。しかしNMP22は、尿中での即時安定化を要求するが、それは必ずしも可能ではなく、BTAは、尿中に存在する血液と混同される可能性がある。一部の膀胱癌細胞においてマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP9)の発現を誘導することが示されたサービビン、ヒアルロン酸、サイトケラチン8及び18、並びにEGFなどの新しい推定マーカーが、膀胱癌マーカーとして提案された。しかしこれらの推定バイオマーカーのいずれも、高特異度の尿細胞診及び高感度のテロメラーゼアッセイに対抗するベンチマークにならなかった。
【0008】
したがって膀胱癌診断及び処置の分野において、先行技術で同定されたバイオマーカーは、膀胱癌の正確な診断又はこの疾患を発症する患者のリスクの評定を行うのに要求される感度及び特異度が不足するため、それらのバイオマーカーは不充分である。結果として医師は、患者がこの疾患を診断及び管理するのに関連して高コストを生じるさらなる膀胱鏡及び細胞診テストを提示されるべきかどうかを正確に評定することができない。
【0009】
高リスク患者の膀胱鏡検査を受けるための待ち時間を増加させることよりむしろ、実際にはプライマリーケアで管理され得る低リスク患者に膀胱鏡検査を行うことに、高額の費用及び資金が用いられる。それゆえ、患者を膀胱鏡検査に送らずに、GPに診断から膀胱癌を除外させることが可能な正確な評定を提供するテストが、必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、男性と女性とで膀胱癌の診断に要求されるバイオマーカーに有意差が存在する、という認識に基づく。それゆえ本発明は、女性対象における膀胱癌の診断に有用な特異的バイオマーカー団を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第一の形態では、女性患者における膀胱癌の検出又は膀胱癌のリスクの検出のための方法であって、
(i)女性患者から単離された試料中のバイオマーカー団の存在を検出するステップであって、前記バイオマーカー団が、IL-13及びIL-12p70と、
BTA、ミドカイン、PAI-1/tPA、8OHdG、CEA、CK18、クラステリン、クレアチニン、CXCL16、シスタチンB、シスタチンC、d-ダイマー、EGF、FAS、HAD、IL-1a、IL-1b、IL-4、IL-6、IL-7、IL-8、MCP-1、マイクロアルブミン、MMP9NGAL、MMP9TIMP1、NGAL、NSE、プログラニュリン、TUP、TGFB1、トロンボモジュリン、sTNFR1、TPA、VEGF及びトリグリセリドから選択される1種若しくは複数のバイオマーカーと、を含み、そして/又はアルブミン:クレアチニン比として表されるアルブミン/マイクロアルブミン/タンパク質及びクレアチニンの濃度を含む、ステップと;
(ii)正常な対照と比較したバイオマーカーの存在上昇の検出が、試料が単離された女性患者における癌の存在又はリスクを示す、女性患者における膀胱癌の存在又はリスク
を評定するステップと、を含む、方法が存在する。
【0012】
本発明の第二の形態では、付着された結合分子を含む固体担体材料であって、前記結合分子が、IL-13に、そして別個にIL-12p70に特異的な親和性を有し、それぞれのための結合分子が、担体材料上の離れた位置に存在する、固体担体材料が存在する。
【0013】
本発明の第三の形態では、女性患者における膀胱癌の検出又は膀胱癌のリスクの検出のための方法であって、
(i)女性患者が感染を有さないことを決定するステップと;
(ii)女性患者から単離された試料中の1種又は複数のバイオマーカーの存在を検出するステップであって、前記1種又は複数のバイオマーカーが、IL-13、IL12p70、BTA及びミドカインから選択される、ステップと;
(iii)正常な対照と比較したバイオマーカーの存在上昇の検出が、試料が単離された女性患者における癌の存在又はリスクを示す、女性患者における膀胱癌の存在又はリスクを評定するステップと、を含む、方法が存在する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本発明は、添付の図面を参照しながら記載される。
図1】女性のためのSPSS分析(HaBio)から出力されたROC曲線を示す(4種のバイオマーカー)。
図2】女性のためのSPSS分析(HaBio)から出力されたROC曲線を示す(4種のバイオマーカー+感染)。
図3】感染に関する全ての癌の人口ピラミッドカウントを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、膀胱癌に罹患した女性患者に存在する特定のバイオマーカーが、男性及び女性の診断に用いられるバイオマーカーに基づく先行技術の診断方法に比較して、より正確な診断を行わせ得る、という知見に基づく。女性患者から単離された試料中の特有のバイオマーカーの同定は、女性患者における癌の易罹患性又は癌の存在の指標となり、驚くべきことに、これらのバイオマーカーが男性と女性で有意に異なることが見出された。
【0016】
本明細書で用いられる用語「バイオマーカー」は、患者から得られる生体試料中に存在する分子をいい、前記試料中のバイオマーカーの濃度が、病的状態の指標であってもよい。単独若しくは他の診断法との組み合わせのどちらかで、又は他のバイオマーカーと組み合わせた補助的バイオマーカーとして、膀胱癌を診断するのに有用であることが見出された様々なバイオマーカーが、本明細書に記載される。
【0017】
診断は、患者から単離された女性患者におけるバイオマーカーの発現レベル又は濃度に基づいて行われてもよい。本発明のバイオマーカーは、典型的には患者からの血清又は尿試料中で同定される。好ましくは、試料は尿試料である。
【0018】
本発明が関与されるバイオマーカー団は、IL-13及びIL-12p70と、BTA、ミドカイン、PAI-1/tPA、8OHdG、CEA、CK18、クラステリン、クレアチニン、CXCL16、シスタチンB、シスタチンC、d-ダイマー、EGF、FAS、HAD、IL-1a、IL-1b、IL-4、IL-6、IL-7、IL-8、MCP-1、マイクロアルブミン、MMP9NGAL、MMP9TIMP1、NGAL、NSE、プログラニュリン、TUP、TGFB1、トロンボモジュリン、sTNFR1、TPA、VEGF、トリグリセリド、好ましくはBTA、ミドカイン、PAI-1/tPA、クラステリン、IL-8、マイクロアルブミン、MMP9NGAL、NSE、シスタチンC、d-ダイマー、IL-7から選択される1種若しくは複数のバイオマーカーと、を含み、そして/又はアルブミン:クレアチニン比(ACR)として表されるアルブミン/マイクロアルブミン/タンパク質及びクレアチニンの濃度を含む。
【0019】
バイオマーカー団は、表2又は表3に列挙された組み合わせのいずれかであってもよい。
【0020】
好ましくはバイオマーカー団は、(i)BTA、IL-13及びIL12p70;(ii)ミドカイン、IL-13及びIL12p70;(iii)BTA、IL-13、IL12p70及びミドカイン;又は(iv)BTA、IL-13、IL12p70、ミドカイン及びPAI-1/tPAである。
【0021】
幾つかの態様において、試料は、アルブミン:クレアチニン比として表されるアルブミン及びクレアチニンの濃度を有する。これは、アルブミン及びクレアチニンの濃度を別個に測定することにより計算されてもよい。当業者は、アルブミン及びクレアチニンの濃度を測定するための従来法を認めており、例証的方法のための実施例を参照されたい。腎臓が適正に機能している場合、尿中にはアルブミンが事実上、存在しない。
【0022】
幾つかの態様において、患者は、血尿及び/又は感染を示していてもよい。疑念を避けるために、用語「血尿」は、尿中の赤血球細胞の存在をいう。適切には感染は、細菌又はウイルス感染、好ましくは細菌感染であってもよい。適切にはこの方法は、患者の感染状態を特徴づけるステップをさらに含んでいてもよい。感染を特徴づけることは、感染を有する、又は感染を有さない、と患者を診断することを意味し、感染種を同定することを含んでいてもよい。感染は、病歴、バイオマーカー、ディップスティック分析又はUTIマルチプレックスアレイ(例えば、Randox Urinary Track Multiplex Assay)を基にした、臨床に基づく診断を用いて決定されてもよい。初期感染テストを組み入れることにより、AUCは、増加され得、膀胱癌を診断するのに用いられるバイオマーカーの数も低減し得る。本発明の文脈において、用語「膀胱癌」は、尿路上皮癌(UC)、移行上皮癌、膀胱扁平上皮癌及び/又は膀胱腺癌を包含すると理解される。幾つかの態様において、血尿及び/又は感染の存在が、血尿及び/又は感染が女性の膀胱癌患者に存在しない場合に比べ、バイオマーカー団の中のバイオマーカーのレベル上昇をさらに増加させてもよい。
【0023】
好ましくはバイオマーカーは、尿形態の中にあり、即ち尿試料中で同定される。
【0024】
好ましい態様において、患者から単離された試料中で連続又は同時のどちらかで、この団の中のバイオマーカーが同定されてもよく、そして試料中のバイオマーカー濃度が決定されてもよい。試料を、バイオマーカー団に含まれるバイオマーカーのそれぞれに特異的な結合分子を有する基板と接触させることによるなど、当該技術分野で公知の日常的方法により、バイオマーカーが同定されてもよく、そして単離された試料中のバイオマーカー濃度が決定されてもよい。好ましくは基板は、表面に固定された少なくとも2種の結合分子、より好ましくは3種、4種又はより多くの結合分子を有し、各結合分子は、個々のバイオマーカーに特異的であり、第一のプローブは、IL-13に特異的であり、第二のプローブは、IL-12p70に特異的である。本明細書で用いられる用語「特異的」は、結合分子が本発明のバイオマーカーの1種のみと結合し、分析される本発明の他のバイオマーカー又は生体試料中の他の分析物には無視できるほどの結合であることを意味する。これは、本発明のバイオマーカーを用いた診断アッセイ及びその結果の完全性が、追加的結合事象により損なわれないことを保証する。
【0025】
バイオマーカー濃度は、免疫検出に基づく方法論を利用することにより測定されてもよい。そのため結合分子は、好ましくはポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体などの
抗体である。本明細書で用いられる用語「抗体」は、任意の免疫グロブリン若しくは免疫グロブリン様分子又はそれらの断片、Fab断片、ScFv断片及び他の抗原結合断片を包含する。用語「ポリクローナル抗体」は、標的/抗原上の複数のエピトープを認識する抗体の不均一集団をいう。用語「モノクローナル抗体」は、標的/抗原上の単一エピトープを認識する抗体(抗体断片を含む)の均一集団をいう。免疫検出技術はまた、臨床環境外での使用のために運搬可能な、又は持ち運び可能なデバイスに即座に組み入れられる。ウェスタンブロット又はELISAなどの定量的免役アッセイが、タンパク質バイオマーカーの量を検出するのに用いられ得る。好ましい分析方法は、複数のタンパク質を同時に検出及び定量させ得る多検体バイオチップを用いることを含む。2Dゲル電気泳動もまた、多検体分析に用いられ得る技術である。
【0026】
好ましい態様において、結合分子は、固体担体上に固定されており、患者の試料と即座に接触され得る。好ましい固体担体材料は、バイオチップの形態である。バイオチップは、典型的には、例えば鉱物又はポリマーを基材とし得るが、好ましくはセラミックである、平面基板である。固体担体は、例えば、内容を全体として本明細書に取り込む英国特許出願公告第2324866号明細書に開示された方法に従って製造されてもよい。固体担体は、例えば国際公開第2017/085509号パンフレットに開示された公知の方法に従ってスクリーン印刷されてもよい。好ましくはBiochip Array Technologyシステム(BAT)(Randox Laboratories Limitedから入手)が、試料中のバイオマーカーレベルを決定するのに用いられてもよい。より好ましくはEvidence Evolution及びEvidence Investigator装置(Randox Laboratoriesから入手)が、用いられてもよい。
【0027】
固体担体材料は、付着された結合分子を含み、前記結合分子は、IL-13に、そして別個にIL-12p70に特異的な親和性を有し、結合分子はそれぞれ、担体材料上の離れた位置に存在する。固体担体材料はさらに、1つ又は複数の結合分子をそれぞれ離れた位置に含んでいてもよく、それぞれが、BTA、ミドカイン、PAI-1/tPA、8OHdG、CEA、CK18、クラステリン、クレアチニン、CXCL16、シスタチンB、シスタチンC、d-ダイマー、EGF、FAS、HAD、IL-1a、IL-1b、IL-4、IL-6、IL-7、IL-8、MCP-1、マイクロアルブミン、MMP9NGAL、MMP9TIMP1、NGAL、NSE、プログラニュリン、TUP、TGFB1、トロンボモジュリン、sTNFR1、TPA、VEGF及びトリグリセリド、好ましくはBTA、ミドカイン、PAI-1/tPA、クラステリン、IL-8、マイクロアルブミン、MMP9NGAL、NSE、シスタチンC、d-ダイマー及びIL-7から選択される追加的バイオマーカーに特異的な親和性を有する。例えば固体担体材料に付着された結合分子は、表2又は表3のバイオマーカーの組み合わせ、好ましくは(i)BTA、IL-13及びIL12p70;(ii)ミドカイン、IL-13及びIL12p70;(iii)BTA、IL-13、IL12p70及びミドカイン;又は(iv)BTA、IL-13、IL12p70、ミドカイン及びPAI-1/tPAへの親和性を有していてもよい。
【0028】
本発明はまた、女性患者における膀胱癌の検出又は膀胱癌のリスクの検出のための方法に記載された基板の使用を提供する。
【0029】
本発明はまた、IL-13及びIL-12p70と、BTA、ミドカイン、PAI-1/tPA、8OHdG、CEA、CK18、クラステリン、クレアチニン、CXCL16、シスタチンB、シスタチンC、d-ダイマー、EGF、FAS、HAD、IL-1a、IL-1b、IL-4、IL-6、IL-7、IL-8、MCP-1、マイクロアルブミン、MMP9NGAL、MMP9TIMP1、NGAL、NSE、プログラニュリン、TUP、TGFB1、トロンボモジュリン、sTNFR1、TPA、VEGF及びトリグリセリド、好ましくはBTA、ミドカイン、PAI-1/tPA、クラステリン、IL-8、マイクロアルブミン、MMP9NGAL、NSE、シスタチンC、d-ダイマー及びIL-7から選択される1種又は複数のバイオマーカーと、を含むバイオマーカー団のためのプローブ、そして場合によりアルブミン及びクレアチニンの測定のための試薬を含むキットを提供する。例えばバイオマーカー団は、表2又は表3の組み合わせ、好ましくは(i)BTA、IL-13及びIL12p70;(ii)ミドカイン、IL-13及びIL12p70;(iii)BTA、IL-13、IL12p70及びミドカイン;又は(iv)BTA、IL-13、IL12p70、ミドカイン及びPAI-1/tPAであってもよい。そのようなキットは、本発明の第一の形態に従って女性患者の膀胱癌を検出するため、又は膀胱癌のリスクを検出するために用いられ得る。
【0030】
本発明はまた、女性患者における膀胱癌の検出又は膀胱癌のリスクの検出のための方法であって、
(i)女性患者が感染を有さないことを決定するステップと;
(ii)女性患者から単離された試料中の1種又は複数のバイオマーカーの存在を検出し、前記1種又は複数のバイオマーカーが、IL-13、IL12p70、BTA及びミドカインから選択されるステップと;
(iii)正常な対照と比較したバイオマーカーの存在上昇の検出が、試料が単離された女性患者における癌の存在又はリスクを示す、女性患者における膀胱癌の存在又はリスクを評定するステップと、を含む、方法を提供する。
【0031】
適切には1種又は複数のバイオマーカーは、(i)IL-13 + IL12p70;(ii)IL-13 + BTA;(iii)IL-13 + ミドカイン;(iv)IL12p70 + BTA;(v)IL12p70 + ミドカイン;又は(vi)BTA + ミドカインである。
【0032】
本発明の方法において、診断される膀胱癌のため、又は膀胱癌のリスクのために、テストされるバイオマーカー団の中のバイオマーカーは、正常な対照試料中の対応するバイオマーカーと比較されて上昇したレベルで見出されてもよい。幾つかの態様において、バイオマーカーの濃度は、対照試料中よりも有意に高レベルで見出される。「より高濃度」の決定は、相対的であり、膀胱癌を有さないことが知られた対照の対象に関して決定される。
【0033】
対照値は、膀胱癌を有さない1名又は複数の個体から得られた生体試料中の対応するバイオマーカーの濃度から導き出される。そのような個体(複数可)は、例えば健常な個体、又は膀胱癌以外の疾患に罹患した個体であってもよい。或いは対照値は、膀胱癌を生じる前に患者から得られた試料中のバイオマーカーそれぞれの濃度に対応してもよい。
【0034】
疑念を避けるために、用語「対応するバイオマーカー」は、患者の試料に関して決定されるバイオマーカーの同じ組み合わせの濃度が、対照値を決定するのにも用いられることを意味する。例えば、患者の試料中のIL-13及びIL-12p70の濃度が、決定されれば、対照のIL-13及びIL-12p70の濃度もまた、知られる。
【0035】
好ましい態様において、女性患者及び対照のバイオマーカー濃度値のそれぞれが、1つ又は複数の統計アルゴリズムに入力されて、膀胱癌が患者に存在するかどうかを示す出力値を作成する。出力値が、バイオマーカーのカットオフ未満であれば、患者は、膀胱癌のためのバイオチップにより陰性となる。出力値が、バイオマーカーのカットオフより高い場合、患者は、膀胱癌のためのバイオチップにより陽性となる。
【0036】
好ましい態様において、臨床リスクスコア(CRS)が、女性患者について計算され、それは、非限定的に以下の臨床及び人口統計学的尺度を利用した累積スコアである:年齢、血尿(非可視(non-visible)vs肉眼的血尿)、喫煙(パックイヤー)、BMI、血圧(コントロールされている、正常血圧、高血圧)、職業的リスクスコア(FINJEM)、社会階級(ONSコード)、併存疾患、例えば糖尿病、慢性腎臓病(CKD)ほか、投薬、例えばスタチン系、降圧剤ほか、特殊な投薬(膀胱癌のリスクを増加させることが見出された)、疼痛緩和、腎移植、腎臓癌、他の癌、骨盤部放射線照射及びUTI(微生物検査を伴う/伴わない)。
【0037】
患者のCRSを計算する場合に用いられる例としてのスコア:年齢が65歳を超えていればスコア1であり、年齢が65歳未満であればスコア0であり、非可視の血尿(NVH)はスコア1であり、肉眼的血尿はスコア2である。それゆえ、肉眼的血尿のある65歳を超える患者は、臨床リスクスコアとして年齢及び血尿を利用すれば累積スコア3を有することになる。
【0038】
好ましい態様において、バイオチップ膀胱癌テストデータとCRSが、組み合わせられて、患者が以下のカテゴリーの1つであるかどうかを決定する:低リスク、中リスク又は高リスク。この情報は、GPに、プライマリーケアで男性/女性患者を管理させることができ、もし適切である場合には患者にさらにテストさせるよう紹介させるさせることができる。例えば血尿を示し、バイオチップにより陰性となり、低CRSを有する患者は、膀胱鏡を紹介されるのではなくむしろGPによるプライマリーケアでモニタリングされる。バイオチップにより陰性となり、中等度のCRSを有する患者は、膀胱鏡のための泌尿器検査を紹介される(非緊急)。バイオチップにより陽性となり、低CRSを有する患者は、膀胱鏡のための泌尿器検査を紹介される(非緊急)。バイオチップにより陽性となり、中等度のCRSを有する患者は、緊急に膀胱鏡を受けるよう「警告(red flagged)」される。
【0039】
【表1】
【0040】
本発明に従って使用された統計方法の正確さは、受信者操作特性(ROC)により最良に記述され得る。ROC曲線は、テストの感度、つまり真陽性の数と、特異度、つまり真陰性の数の両方を扱う。それゆえバイオマーカーの所与の組み合わせのための感度及び特異度値は、アッセイの正確さの指標である。例えばバイオマーカーの組み合わせが、80%の感度及び特異度値を有するならば、膀胱癌を有する患者100名のうち80名が、バイオマーカーの特有の組み合わせの存在の決定から膀胱癌について陽性と正しく同定され、膀胱癌を有していない患者100名のうち80名が、疾患について陰性であると正確にテストで出ることになる。
【0041】
ROCはまた、テストの予測力の尺度を曲線下面積(AUC)の形態で提供する。AUCは、得られた測定値が病気の正しい同定を可能にする可能性の尺度である。慣例により、この面積は常に、0.5以上である。値は、1.0(2群のテスト値の完璧な分離)から0.5(テスト値の2群の間に明確な分布差がない)の範囲内である。この面積は、対角線に最も近い点又は90%特異度での感度など、プロットの特有の部分のみに依存せず、プロット全体に依存する。これは、ROCプロットが完璧なもの(面積=1.0)にどれほど近いかの定量的な記述表現である。原則として、約80%以上の感度及び約80%以上の特異度を有するテストが、当該技術分野において利用の可能性があるテストと見なされるが、これらの値は、臨床適用に応じて変動する。好ましい態様において、バイオマーカー団は、少なくとも0.7、適切には少なくとも0.75、好ましくは少なくとも0.8、より好ましくは少なくとも、0.85のAUC値を有する。
【0042】
バイオマーカーの正常な、又は「バックグランドの」濃度が、例えば年齢、性別又は民族的/地理的な遺伝子型(genotypes)により、わずかな変動を呈し得ることは、当該技術分野で十分に理解されている。結果として、本発明の方法で用いられるカットオフ値もまた、標的患者又は集団に応じた最適化によりわずかに変動する場合がある。カットオフを調整することもまた、オペレータに、特異度を犠牲にして感度を増加させること、そしてその逆を可能にする。
【0043】
一態様において、アルゴリズムは、それぞれ少なくとも0.7の感度及び/又は特異度を有する。好ましくはアルゴリズムは、少なくとも0.75、より好ましくは0.8の感度、及び/又は少なくとも0.75、より好ましくは少なくとも0.8の特異度を有する。
【0044】
2種以上のバイオマーカーが、本発明で用いられる場合、ロジスティック回帰式などの適切な数学又は機械学習分類モデルが、導き出され得る。熟練の統計学者は、患者の年齢及び性別などの他の変数を含み得るそのような適切なモデルがどのように導き出されるかを理解していると思われる。ROC曲線は、モデルの正確さを評定するために用いられ得、そのモデルは、臨床判断を支援するために、独立して、又はアルゴリズムにおいて使用され得る。ロジスティック回帰式は、そのような例及び本発明に関連した選択肢において用いられる共通の数学的/統計学的手順であるが、他の数学的/統計学的決定木又は機械学習手順もまた、用いられ得る。当業者は、所与の集団のために作成されたモデルが、異なる集団又は患者コホートから得られたデータベースへの適用のために調整される必要があり得ることを、認識すると思われる。
【実施例
【0045】
以下の実施例は、図を参照しながら本発明を例証するものである。
【0046】
患者
血尿を示す患者157名が、膀胱癌試験に動員された。血尿患者における膀胱癌の診断アルゴリズムの実現可能性を確立していたため、患者675名を動員した大規模な血尿バイオマーカー研究(HaBio)が設計された。
【0047】
尿及び血清の回収
尿試料(約50ml)及び血清試料(約10ml)が、全患者から滅菌コンテナに回収された。濾過されておらず遠心分離されていない尿試料が、直ちに分取されて、分析まで-80℃で凍結された。尿試料は、氷上で解凍され、その後、分析前に任意の粒子状物質を除去するために遠心分離された(1200×g、4℃で10分)。
【0048】
バイオマーカーの測定
全試料が、三重測定され、結果は、平均±SD(n=3)として表されている。
【0049】
Biochip Array Technology(Randox Laboratories Ltd.,英国 北アイルランド クラムリン)が、単一の患者試料(尿)からの複数の分析物の同時検出に用いられた。この技術は、固定された抗原特異性抗体を含む離れたテスト領域のアレイを支持する9mmの固体基板であるRandox Biochipに基づく。アッセイ緩衝液での抗体活性化に続いて、標準物質及び試料が添加されて、37℃で60分間インキュベートされ、その後、サーモシェーカに370rpmで60分間配置された。抗体コンジュゲート(HRP)が添加され、サーモシェーカにて370rpmで60分間インキュベートされた。ルミノール(コンジュゲートと1:1比)の添加後に形成された化学発光シグナルが、デジタル画像技術を利用して検出及び測定され、検量線から得られたものと比較されて、試料中の分析物の濃度を計算した。バイオチップの分析感度は、以下の通りであった:IL-2 4.8pg/ml、IL-4 6.6pg/ml、IL-6 1.2pg/ml、IL7 1.11pg/ml、IL-8 7.9pg/ml、IL12p70 2.61pg/ml、IL-13 5.23pg/ml、VEGF 14.6pg/ml、TNFα 4.4pg/ml、IL-1α 0.8pg/ml、IL-1β 1.6pg/ml、MCP-1 13.2pg/ml、NSE 0.26ng/ml、NGAL 17.8ng/ml、sTNFRI 0.24ng/ml、d-ダイマー 2.1ng/ml、sTNFRII 0.2ng/ml。CEA及びPSA(遊離及び全量)の機能的感度は、それぞれ0.2、0.02、及び0.045ng/mlであった。検出限界(LOD)/平均検出可能用量(Mean Detectable Dose)(MDD)未満のデータ - データが、任意の所与のテストの場合のLOD/MDD未満であった場合、そのテストではLOD/MDDの90%が、分析で用いられた(Papa L et al., 2012)。
【0050】
商業的ELISAキット
以下のマーカーが、市販のELISAキットを用い、製造業者の使用説明に従って検出された:8OHdG(Cell Biolabs);BTA(Polymedco);CK18(IDL);クラステリン(R&D Systems; Quantikine ELISA Human CLusterin、DCLU00);クレアチニン(Randox Rx Daytona);CXCL16(R&D Systems);シスタチンB(R&D Systems);シスタチンC(Randox Daytona Rx);FAS(RayBio);HAD(MyBioSource);マイクロアルブミン(Randox Rx Daytona);ミドカイン(CellMid);MMP9NGAL(R&D Systems;Quantikine ELISA Human MMP-9/NGAL Complex);MMP9TIMP1(R&D Systems);PAI-1/Tpa(AssayPro);プログラニュリン(R&D Systems);TUP(Bradford Assay A595nm);TGFB1(R&D Systems);トロンボモジュリン(R&D Systems)及びTPA(Abcam)。
【0051】
感染
感染は、以下のものを基にした臨床に基づく診断であった:患者の病歴、バイオマーカー及びディップスティック分析。感染はまた、尿試料からのDNAの抽出と、続く増幅(単一チューブでの28-plex PCR反応)、ハイブリダイゼーション及び検出を伴うUTIマルチプレックスアレイ(例えば、Randox Urinary Track Multiplex Assay)を用いて決定されてもよい。
【0052】
クレアチニン、オスモル濃度及びTUP
クレアチニン(μmol/L)測定は、Randox Laboratoriesの定量的インビトロ診断キット(Catalogue No CR3814)を用いて決定され、結果は、Daytona RX Series Clinical Analyser(Randox Laboratories Ltd)から回収された。クレアチニンアッセイは、66000μmol/Lまで直線性があり、310μmol/Lの感度を有する。
【0053】
オスモル濃度(mOsm)は、Loser Micro-Osmometer (Type 15)(Loser Messtechnik、ドイツ ベルリン)を用いて決定された。手短に述べると、オスモメータが、蒸留水(0.1ml)及び機器と共に供給された300-mOsm標準物質の3回の独立した読み取りを利用して較正された。較正は、新たに調製された0.9%NaCl溶液のmOsm(平均286±3mOsm、n=3)を測定することにより確認された。機器の較正もまた、同じ0.9%NaCl溶液を用いて分析の終了時に検証され(平均280.3±0.58mOsm、n=3)、変動をチェックした。
【0054】
尿中総タンパク質レベル(mg/ml)が、Bradfordアッセイ試薬キット(A595nm)(Pierce、米国イリノイ州ロックフォード)及び標準物質としてのBSA(1mg/ml)を用いて決定された。患者の試料(10μl/患者)が、Bradford試薬(1ml)と混合され、日立分光光度計(Model No U-2800)にてA595nmで読み取られた。尿試料中のレベルが、BSA較正チャート(0~5mg/ml、n=3)から決定された。
【0055】
統計解析
統計解析は、Mann-Whitney U検定(IBM SPSS v25)及びR(Wilcoxon)を用いて実施され、対照と膀胱癌の間で異なって発現されるマーカーを同定した。
【0056】
アルゴリズムに寄与したマーカーが、SPSS及びR(stats、glmnet(Lasso)、glmulti)を用いたバイナリロジスティック回帰(変数増加及び減少Wald)により同定された。
【0057】
統計学的有意性は、p<0.05レベルで捉えられた。
【0058】
実施例が、以下に示される(4種のバイオマーカーの組み合わせ、及び4種のバイオマーカー+感染のためのSPSS分析(HaBio女性))。
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
計算されたROC曲線が、図1に示される。
【0063】
【表5】
【0064】
【表6】
【0065】
【表7】
【0066】
計算されたROC曲線が、図2に示される。
【0067】
感染状態の組み入れ
初期感染テストを組み入れることが、AUCを増加させ、膀胱癌を診断するのに必要となるマーカー数を低減する。
【0068】
【表8】
【0069】
結果と考察
BTA、ミドカイン、PAI-1/tPA、8OHdG、CEA、CK18、クラステリン、クレアチニン、CXCL16、シスタチンB、シスタチンC、d-ダイマー、EGF、FAS、HAD、IL-1a、IL-1b、IL-4、IL-6、IL-7、IL-8、MCP-1、マイクロアルブミン、MMP9NGAL、MMP9TIMP1、NGAL、NSE、プログラニュリン、TUP、TGFB1、トロンボモジュリン、sTNFR1、TPA、VEGF及びトリグリセリド1をはじめとする特定のバイオマーカーが、女性の膀胱癌患者において有意に高かった(p<0.050;Mann-Whitney検定)。以下のバイオマーカーは、最も有意であった:BTA、ミドカイン、PAI-1/tPA、クラステリン、IL-8、マイクロアルブミン、MMP9NGAL、NSE、シスタチンC、d-ダイマー、IL-7。
【0070】
本発明者らにより同定されたアルゴリズムは、驚くべきものであり、このアルゴリズムに含まれるバイオマーカーは、予測され得なかった。
【0071】
表1は、Mann-Whitney U検定を用いた仮説検定の概要を示している。バイオマーカーが、0.7以上の相関を有した場合、このバイオマーカーと相関のあるバイオマーカーは、関係づけられるため、これらの2つのバイオマーカーは、置き換えられ得る。0.7未満の有意性の値は、2つのバイオマーカーが独立していることを示す。
【0072】
図3は、血尿を示す女性患者が、感染が原因であり(細菌及び/又はウイルス)癌が原因でない血尿を有する可能性があることを示している。図表の右半分は感染のある患者、左半分は感染のない患者、図表の下半分は癌のない患者、上半分は癌のある患者を表し、感染のある患者76名のうちおよそ2名が、癌を有する。膀胱癌を除外し、膀胱鏡を回避することが望ましいため、GPの医院を訪れた血尿のある女性を感染についてテストすること(任意の方法論/テストを利用して)が、感染陽性の女性を帰宅させて抗生物質治療させることができ、したがってNHS紹介の負担を軽減することができる。図3に基づくと、患者184名のうちおよそ76名が、帰宅することができ、2名のみが、誤診となる(誤られた患者2名は、抗生物質が奏功しない場合は紹介に送られる)。感染のない残り
の患者約108名は、バイオマーカーテストに供される。
【0073】
以下は、本明細書内で用いられた略語の列挙である:
80HdG
OxiSelect Oxidative DNA Damage
ACR アルブミン:クレアチニン比
AUC 曲線下面積
BLC 青色光膀胱鏡
BMI ボディマス指数
BTA 膀胱腫瘍抗原
CEA 癌胎児性抗原
CIS 上皮内癌
CK-18 サイトケラチン18
CKD 慢性腎臓病
CRP C反応性タンパク質
CRS 臨床リスクスコア
EGF 上皮成長因子
FAS FASタンパク質
FDP フィブリノゲン分解産物
FINJEM フィンランドの職業暴露マトリックス
GP 総合診療医
HRP 西洋ワサビペルオキシダーゼ
IL-2 インターロイキン2
IL-3 インターロイキン3
IL-4 インターロイキン4
IL-6 インターロイキン6
IL-7 インターロイキン7
IL-8 インターロイキン8
IL-10 インターロイキン10
IL-12p70
インターロイキン12p70
IL-13 インターロイキン13
IL-18 インターロイキン18
IL-23 インターロイキン23
LOD 検出限界
MCP 単球走化性タンパク質
MDD 平均検出可能用量
MMP9 マトリックスメタロプロテアーゼ9
MMP-9/NGAL
マトリックスメタロプロテアーゼ9/好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン複合体
MMP9/TIMP1
マトリックスメタロプロテアーゼ9/組織メタロプロテアーゼ阻害物質1NGAL 好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン
NICE 英国国立医療技術評価機構
NMP22 核マトリックスタンパク質22
NSE 神経特異エノラーゼ
NVH 非可視の血尿
ONS 国家統計局
PAI-1/tPA
プラスミノゲン活性化抑制因子1/組織プラスミノゲン活性化因子
POC ポイントオブケア
ROC 受信者操作曲線(Receiver Operating Curve)SD 標準偏差
SDS-PAGE
ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動
sTNFR1 可溶性腫瘍壊死因子1
sTNFR2 可溶性腫瘍壊死因子2
TGFB1 トランスフォーミング増殖因子β1
TM トロンボモジュリン
TPA 組織型プラスミノゲン活性化因子
TPSA 総前立腺特性抗原
TUP 総尿タンパク質
UTI 尿路感染症
VEGF 血管内皮増殖因子
WLC 白色光膀胱鏡
【0074】
表1 Mann-Whitney U検定を利用した仮説検定の概要を示す。
【表9-1】

【表9-2】
【0075】
表2 変数増加及び減少Waldバイナリロジスティック回帰の後、GLMulti(Rを利用)を用いて作成されたバイオマーカーの組み合わせでのAUC、感度及び特異度
を示す。「u」は、バイオマーカーが尿形態であることを意味し、「s」は、バイオマーカーが血清形態であることを意味する。
【表10-1】

【表10-2】

【表10-3】

【表10-4】

【表10-5】
【0076】
表3 バイオマーカーの組み合わせ
【表11-1】

【表11-2】

【表11-3】

【表11-4】
【0077】
参考資料
Fradet Y, et al., J Urol. 2007 Jul;178(1):68-73; discussion 73.
Witjes JA, et al., Eur Urol. 2010 Apr;57(4):607-14.
National Collaborating Centre for Cancer, Bladder Cancer: diagnosis and management; NICE Guidelines 2, February 2015, Page 78.
Van der Aa MN, et al., J Urol. 2010 Jan;183(1):76-80.
Papa L, et al., Ann Emerg Med. 2012 Jun;59(6):471-83.
図1
図2
図3
【国際調査報告】