(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(54)【発明の名称】光‐デジタルPCRチャンバおよびこれを用いる光‐デジタルPCR機器
(51)【国際特許分類】
C12M 1/40 20060101AFI20220111BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20220111BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
C12M1/40 B
C12M1/00 A
C12M1/34 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021527238
(86)(22)【出願日】2019-11-19
(85)【翻訳文提出日】2021-05-18
(86)【国際出願番号】 KR2019015897
(87)【国際公開番号】W WO2020106045
(87)【国際公開日】2020-05-28
(31)【優先権主張番号】10-2018-0142944
(32)【優先日】2018-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505448855
【氏名又は名称】コリア リサーチ インスティテュート オブ バイオサイエンス アンド バイオテクノロジー
【氏名又は名称原語表記】KOREA RESEARCH INSTITUTE OF BIOSCIENCE AND BIOTECHNOLOGY
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クォン,オソク
(72)【発明者】
【氏名】キム,キョンホ
(72)【発明者】
【氏名】パク,ソンジュ
(72)【発明者】
【氏名】ソ,ソンウン
(72)【発明者】
【氏名】ハ,テファン
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA23
4B029BB01
4B029CC01
4B029DF01
4B029FA02
4B029FA11
4B029FA12
4B029GA03
4B029GB09
(57)【要約】
本発明は、透明基板と、前記透明基板上に形成された金属薄膜層と、前記金属薄膜層上に形成された遮光層と、前記遮光層上に形成された微細流路構造体とを含む光‐デジタルPCRチャンバ、および、透明基板と、前記透明基板上に形成された金属薄膜層と、前記金属薄膜層上に形成された遮光層とを含む積層体を含む光‐デジタルPCR機器に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、
前記透明基板上に形成された金属薄膜層と、
前記金属薄膜層上に形成された遮光層と、
前記遮光層上に形成された微細流路構造体とを含む、光‐デジタルPCRチャンバ。
【請求項2】
前記金属薄膜層は、金薄膜層である、請求項1に記載の光‐デジタルPCRチャンバ。
【請求項3】
前記金属薄膜層は、マイクロパターン化している、請求項1に記載の光‐デジタルPCRチャンバ。
【請求項4】
前記遮光層は、ポリドーパミン膜、光触媒有機化合物膜およびダブシル有機化合物膜から選択される少なくとも一つを含む、請求項1に記載の光‐デジタルPCRチャンバ。
【請求項5】
前記微細流路構造体は、一つ以上の微細流路セットが独立して形成されている、請求項1に記載の光‐デジタルPCRチャンバ。
【請求項6】
前記微細流路セットは、一つ以上の試料注入部と、一つ以上の試料抽出部とを含み、前記試料注入部と前記試料抽出部を連結する複数個の微細流路を含む、請求項5に記載の光‐デジタルPCRチャンバ。
【請求項7】
透明基板と、前記透明基板上に形成された金属薄膜層と、前記金属薄膜層上に形成された遮光層とを含む積層体を含む、光‐デジタルPCR機器。
【請求項8】
前記金属薄膜層は、金薄膜層である、請求項7に記載の光‐デジタルPCR機器。
【請求項9】
前記金属薄膜層は、マイクロパターン化している、請求項7に記載の光‐デジタルPCR機器。
【請求項10】
前記遮光層は、ポリドーパミン膜、光触媒有機化合物膜およびダブシル有機化合物膜から選択される少なくとも一つを含む、請求項7に記載の光‐デジタルPCR機器。
【請求項11】
前記積層体の透明基板の下部に光源が配置される、請求項7に記載の光‐デジタルPCR機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光‐デジタルPCRチャンバおよびこれを用いる光‐デジタルPCR機器に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction、PCR)法は、核酸(DNAまたはRNA)の特定の領域を試験管内に大量で増幅する技術である。前記のような技術を用いたPCR装置は、病院、研究所などで血液に入っている少量のDNAを増幅させるために使用され、マラリア、結核、肝炎などの様々な疾病の診断のためにもPCR装置が使用される。
【0003】
かかるPCR方法は、最近、リアルタイムPCR(real‐time PCR)、デジタルPCR(digital PCR)などに発展しており、従来のPCRが提供することができなかったリアルタイム診断、高敏感度、測定結果とのデジタル化など、様々な便宜と高い正確度の結果を提供している。
【0004】
中でも、デジタルPCRは、核酸(DNAまたはRNA)を探知し、定量分析する新たな方法として、かかるデジタルPCR反応は、サンプル内に数百、数千個の分割されたサンプルで個別に行われ、少量の試料だけでも敏感な測定が可能であるという利点があり、各種の試料を同時に処理することができ、様々な範囲で応用可能であるという利点がある。
【0005】
デジタルPCRは、検出対象核酸(遺伝子)の相対的な量を確認するために、特定の増幅サイクル後に蛍光の強度を測定し、定量化した標準物質と結果値の比較により定量化する。かかるデジタルPCRの利点は、検出対象核酸を増幅し、サンプル自体で絶対定量が可能であり、良好な再現性と高い敏感度を有する。
【0006】
しかし、デジタルPCRにおいて、オイルエマルジョンによるDNA溶液分割技術などの従来技術は、製品をパッケージングする過程で発生する高い必要費用と分割技術などで必要となる長い検出時間が限界として認識されている。そのため、かかるデジタルPCRの限界を解消するための開発が行われ続けている。
【0007】
一方、PCRは、変性、結合、伸長の3ステップの過程が1サイクルで行われるが、各ステップに適する温度に合わせて温度を迅速に上昇および降下するようにすることが、PCR反応時間を短縮するために非常に重要である。しかし、従来に用いられるPCR装置は、電気エネルギーを熱エネルギー源として使用し、核酸増幅反応を完了するために1時間以上の長い時間がかかり、発熱装置、ヒートシンク(heat sink)などの付属品が必要であるため、装置が体積を多く占めるという不都合がある問題があり、迅速な疾病の診断を要する現場に適用するには多少不便であった。
【0008】
韓国公開特許2009‐0021957号公報には、マイクロポリメラーゼ連鎖反応に用いられるマイクロ反応槽チップとマイクロヒータチップを分離作製し、マイクロヒータチップを半永久に使用することで、作製が容易で、大量生産が可能なマイクロポリメラーゼ連鎖反応用チップが開示されているが、金薄膜に電流をかけて熱を発生させるという点で、光エネルギー基盤のPCRに比べて検出時間が長くかかるという限界がある。また、韓国公開特許2017‐0106995号公報には、光エネルギー基盤のPCRシステムが開示されているが、液体状でPCR反応を行うものであって、一つのチャンバ内で多重
診断が不可能であり、使用されたプライマーの回収が不可能であるという問題がある。
【0009】
特に、従来のPCR装置は、高い値段、装置の巨大化、長い検出時間(1時間以上)によって携帯が不便であり、現場での即時診断において限界があり、かかる問題を解決するために、PCRに関する研究が行われ続けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】韓国公開特許2009‐0021957号公報
【特許文献2】韓国公開特許2017‐0106995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような問題点を解決するために導き出されたものであって、光エネルギーを照射して発生する熱エネルギーを用いた光‐デジタルPCRで極少量の試料だけでも非常に迅速で、高い敏感度を有するPCR分析が可能であり、且つ、PCR蛍光物質の消光(quenching)現象を防止して、PCR性能を最適化した光‐デジタルPCRチャンバおよび光‐デジタルPCR機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、透明基板と、前記透明基板上に形成された金属薄膜層と、前記金属薄膜層上に形成された遮光層と、前記遮光層上に形成された微細流路構造体とを含む光‐デジタルPCRチャンバを提供する。
【0013】
また、本発明は、透明基板、前記透明基板上に形成された金属薄膜層および前記金属薄膜層上に形成された遮光層を含む積層体を含む光‐デジタルPCR機器を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光‐デジタルPCRチャンバを用いる場合、光によって金属薄膜層で急速に発生する熱でPCR反応を行うことから(光エネルギー基盤のPCR)、従来に比べて温度の変化をより迅速に調節することができ、従来のPCR反応より時間をはるかに短縮することができる効果がある。また、前記金属薄膜層をマイクロパターン化すると、温度差による渦流現象が引き起こされ、前記のような温度調節をより迅速に行うことができた。これにより、PCR反応時間をより短縮することができる。
【0015】
なお、光エネルギー基盤のPCRを適用するために形成された金属薄膜層の上に遮光層を導入して、金属薄膜層に照射された光が微細流路構造体にまで逹しないようにすることで、光‐デジタルPCR過程で用いられるPCR蛍光物質の消光(quenching)現象による光‐デジタルPCRの性能の減少を防止することができる効果がある。したがって、前記のように、光エネルギー基盤のPCRを適用しても、PCR蛍光物質が消光されないことから、従来のデジタルPCRに比べてより少ない量の試料でも迅速且つ敏感な定量分析が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の光‐デジタルPCRチャンバに含まれるガラス基板/金属薄膜層/微細流路構造体を含む積層体を示す図である。
【
図2】本発明の光‐デジタルPCRチャンバに含まれる微細流路構造体を示す図である。
【
図3】実験例1によって実施例1の光‐デジタルPCRチャンバを用いた光‐デジタルPCR反応にかかる時間を示す図である。
【
図4】実験例1によって比較例3の光‐デジタルPCRチャンバを用いた光‐デジタルPCR反応にかかる時間を示す図である。
【
図5】実験例2によって実施例2の光‐デジタルPCRチャンバを用いた光‐デジタルPCR反応にかかる時間を示す図である。
【
図6】実験例2によって実施例4の光‐デジタルPCRチャンバを用いた光‐デジタルPCR反応にかかる時間を示す図である。
【
図7】実験例3によってマイクロパターン化した金薄膜のダブシル/カルベンの表面処理の概略図および接触角の分析結果を示す図である。
【
図8】実験例3によってマイクロパターン化した金薄膜のダブシル/カルベンの表面処理光電子分光法の分析結果を示す図である。
【
図9】実験例4‐1によって光‐デジタルPCR反応後、蛍光評価を実施した結果を示す図である。
【
図10】実験例4‐2によって光‐デジタルPCR反応後、蛍光評価を実施した結果を示す図である。
【
図11】実験例5によって実施例4の光‐デジタルPCR反応後、蛍光評価を実施した結果を示す図である。
【
図12】実験例6‐1によって光‐デジタルPCR反応後、PCR蛍光物質の消光現象防止効果を評価した結果を示す図である。
【
図13】実験例6‐2によって光‐デジタルPCR反応後、PCR蛍光物質の消光現象防止効果を評価した結果を示す図である。
【
図14】本発明のマイクロパターン化した金薄膜の表面写真を示す図である。
【
図15】本発明のマイクロパターン化した金薄膜表面で熱伝達による渦流現象を示す図である。
【
図16】本発明のマイクロパターン化した金薄膜表面での温度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
PCR(Polymerase Chain Reaction)は、検出対象遺伝子(DNAまたはRNA)の特定の領域を試験管内に大量で増幅(amplification)する技術であり、その最初のステップは、DNA(またはRNA)を変性(Denaturation)させるステップである。二本鎖DNAは、加熱することで分離することができ、分離したそれぞれのDNAは、鋳型(Template)としての役割を果たす。変性温度は、一般的に、90℃~96℃であるが、DNA内にある塩基G+Cの量とDNAの長さに応じて変化する。PCRの二番目のステップは、結合(Annealing)するステップである。このステップでは、2種類のプライマー(Primer)をそれぞれ相補的な鋳型DNAに結合させる。結合温度は、反応の正確性を決定する重要な要素であるが、仮に、温度を高めすぎると、プライマーが鋳型DNAに過剰に弱く結合し、増幅したDNAの産物が非常に少なくなる。仮に、温度を下げすぎると、プライマーが非特異的に結合するため、好ましくないDNAが増幅し得る。一般的な結合温度は、50℃~65℃である。PCRの三番目のステップは、伸長(Elongation)ステップである。このステップでは、熱に強いDNAポリメラーゼ(polymerase)が鋳型DNAから新たなDNAを作る。この際、伸長温度は、70℃~75℃である。前記のように、PCR反応は、一連の3ステップがあり、前記の3ステップを1サイクル(cycle)として、約30~40サイクル程度繰り返してPCR反応が行われる。
【0019】
また、デジタルPCR(dPCR)は、従来のPCRで使用するプライマーとPCR蛍光物質(染色試薬)または酵素などの試薬を採用した形態であり、従来のPCRに比べて、正確な定量分析と検出対象核酸(DNAまたはRNA)の高感度探知が可能である。従
来のPCRの結果分析方式がアナログ方式であることに対し、結果信号が「0」または「1」の値を有するデジタル分析方式であるデジタルPCRは、大容量試料の分析、様々な試料の検査および各種の検査項目を一回に行うことができる利点がある。デジタルPCR技術は、DNA試料を標準曲線を要しない単一分子計数法を適用して絶対定量が可能な技術であり、一つのウェル当たり一つの液滴(droplet)に対するPCR反応でより正確な絶対定量を行うことができる利点がある。したがって、従来のPCRまたはリアルタイムPCR(qPCR)に比べて10~1,000ピコリットル(pico liter)程度のサンプルのみをロードしても、PCR反応が行われ、検出対象試料の遺伝子を確認することができる。また、従来の一般的なPCRは、一つのウェル(サンプル)当たり一つの反応を行うのに対し、デジタルPCRは、一つのサンプルが多数の区画で分離され、それぞれの区画内に含まれた試料内で単一反応を行うことで、各種の核酸(遺伝子)を分析/確認することができる利点がある。また、従来の一般的なPCRの場合、その結果を必ずアガロースゲル(agarose gel)に展開した後、蛍光イメージングで観察しなければならず、定量分析自体が不可能であるが、デジタルPCRの場合には、PCR分析結果を蛍光分析プログラムを通じてすぐ確認することができ、さらには、定量分析が可能であるという利点がある。
【0020】
一方、光PCR(photonic PCR)は、金属薄膜層表面の光子(photon)、電子(electron)、フォノン(phonon)の相互作用によるプラズモン光熱変換を用いたPCRである。具体的には、励起された(excited)エネルギー源から光子が金属薄膜層の表面に逹すると、光吸収が行われ、表面辺りで電子をより高い状態に励起し、高温の電子を形成する。かかる高温の電子が金属薄膜層の全体に迅速に拡散し、均一に分布することで、高温の金属表面によって周辺溶液の加熱が可能である。また、高温の電子は、格子フォノンとのエネルギー交換によってまた冷却することができる。前記のように、プラズモン励起された金属薄膜層は、最大500℃まで昇温し、金属薄膜層周辺のPCR試料溶液を150℃以上まで速い時間内で加熱することができ、非常に迅速にPCR反応を行うことができる利点がある。
【0021】
本発明は、前記のようなデジタルPCRの利点と光PCRの利点をすべて備えたものであり、光PCRと同じプラズモン光熱変換に基づいてデジタルPCRを行うことができる技術を提供する。これを本発明では、光‐デジタルPCR技術と称する。
【0022】
1.光‐デジタルPCRチャンバ
本発明は、光‐デジタルPCRに用いられるチャンバを提供する。
【0023】
本発明の光‐デジタルPCRチャンバは、透明基板と、前記透明基板上に形成された金属薄膜層と、前記金属薄膜層上に形成された遮光層と、前記遮光層上に形成された微細流路構造体とを含む。
【0024】
前記透明基板は、前記金属薄膜層が形成された反対の面の下部に位置した一つ以上の光源から照射された光を、前記金属薄膜層に損失なく伝達し、前記金属薄膜層との付着力に優れるように製造され得る。
【0025】
前記光源は、可視光線または赤外線を発生し得るものであれば、これに限定されず、ハロゲンランプ、LEDランプ、蛍光灯、白熱ランプ、アークランプ(arc source lamp)、赤外線ランプ、HMIランプなどを用いることができ、電力効率、または経済的な面で、LEDランプが好ましい。
【0026】
前記透明基板は、照射された光を透過させることができるように透明な素材からなることができ、光または熱による変形がほとんど生じない素材からなることができる。好まし
くは、ガラス基板、プラスチック基板(ポリエステル基板、ポリアクリル基板など)またはシリコン基板などであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0027】
前記透明基板は、一定な厚さを有し、前記透明基板の厚さは0.1mm~10mmであってもよく、好ましくは0.3mm~5mmであってもよく、さらに好ましくは0.3mm~1.5mmであってもよい。前記透明基板の厚さが前記範囲を満たす場合に、光源から照射された光エネルギーによる熱エネルギーが効率的に伝達され、光‐デジタルPCR反応サイクルを最適化することができる。
【0028】
前記光‐デジタルPCRチャンバは光エネルギーの照射による熱エネルギーを用いるために金属薄膜層を用いることができる。前記金属薄膜層に備えられた金属薄膜は、瞬間的に温度が最高500℃以上上昇することができるため、PCRサイクルの温度範囲(約50℃~95℃)内の温度変化を迅速に行うことができる。
【0029】
特に、従来のペルチェ基盤の1次エネルギーである電圧を加えることで発生する2次熱エネルギーを活用したPCRは、加熱(max.95℃)/冷やし(60℃)の繰り返し時間(1秒当たり2~3℃)が相対的に長くなるが、本発明のように光エネルギーを熱エネルギーに置換する金属薄膜層を用いる場合には、温度変化が1秒当たり4~5℃の速度で行われ得るから、PCRサイクル(加熱/冷やしの繰り返し)40回基準で約10~11分の非常に速い時間内に光‐デジタルPCR結果を確認することができる。
【0030】
前記金属薄膜層の金属は、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)およびこれらの組み合わせ(例えば、二元金属ナノ粒子(bimetallic nanoparticles))からなる群から選択されるいずれか一つであってもよい。好ましくは、安定性に優れ、光吸収が速い金(Au)であってもよい。
【0031】
前記金属薄膜層を前記透明基板の一面にコーティングする方法は、コーティングまたは蒸着技術であれば、これに限定されず、化学的気相蒸着(Chemical Vapor
Deposition、CVD)、物理的気相蒸着(Physical Vapor Deposition、PVD)、熱蒸発真空蒸着(Thermal evaporation deposition)、スパッタリング蒸着(Sputtering deposition)または原子層蒸着(Atomic Layer Deposition、ALD)などの方法により前記透明基板に均一な厚さで形成され得る。
【0032】
前記金属薄膜層の厚さは、10nm~200nmであってもよい。前記金属薄膜層の厚さが前記範囲を超える場合には、光エネルギーによる熱エネルギー転換に伴う温度変化を行うのに問題がある。
【0033】
また、前記金属薄膜層は、マイクロパターン化することができる。前記金属薄膜層をマイクロパターン化する場合、マイクロパターン化した部分は、温度が急激に上昇し、パターン化していないパターン間の温度は相対的に低くなり、水温の差による渦流現象が発生する。
【0034】
換言すると、前記のように金属薄膜層をマイクロパターン化する場合、光‐デジタルPCR反応時に照射される光によって熱エネルギーが発生する部分は、金属薄膜パターンに限定され、金属薄膜パターンの間では熱エネルギーが発生しないため、
図15および
図16のように金属薄膜パターンと金属薄膜パターンとの温度差が発生し、結局渦流現象が発生する。この際、マイクロパターン間の間隔、パターンのサイズおよび形状によって、熱伝達による渦流現状の程度が決定される。
【0035】
前記マイクロパターンは、円形または三角形、長方形、五角形、六角形などの多角形であってもよい。前記マイクロパターンのサイズは、平均直径または外接円の半径が1μm~20μmであってもよい。例えば、マイクロパターンが円である場合、直径またはマイクロパターンが多角形である場合、外接円の半径が1μm~20μmであってもよい。前記マイクロパターン間の平均間隔は、3μm~5μmであってもよい。
【0036】
前記金属薄膜層をマイクロパターン化する方法は、パターニング(patterning)技術であれば、これに制限されず、二重露光リソグラフィ(Double exposure lithography)、ナノインプリントリソグラフィ(Nano Imprint Lithography、NIL)、電子ビームリソグラフィ(Electron Beam Lithography、EBL)、集束イオンビーム(Focused Ion Beam、FIB)、ソフトリソグラフィ(Soft Lithography、SL)、またはブロック共重合体の自己組立などの方法により、前記金属薄膜層をマイクロパターン化することができる。
【0037】
好ましくは、従来の単一露光リソグラフィ(single exposure lithography)方法ではなく二重露光リソグラフィ(double exposure lithography)方法によってパターン化することが、より均一な間隔を有するパターン形態で鮮明なマイクロパターン化が可能である。
【0038】
前記遮光層は、前記金属薄膜層上に形成され、光‐デジタルPCR反応時に試料に含まれたPCR蛍光物質の消光現象を防止する。
【0039】
特に、PCR結果を確認する時に使用するPCR蛍光物質は、DNA二重結合に自然に結合するが、これらのPCR蛍光物質は、光エネルギー基盤のPCRでは、PCR反応40サイクル後に添加して結果を確認する時に使用するものであり、PCR蛍光物質の光による消光現象が発生する恐れがないが、デジタルPCRでは、PCR反応の初期にPCR蛍光物質を試料にともに含むことで、PCR反応40サイクル後には、PCR蛍光物質に消光現象が発生し得る。
【0040】
前記遮光層は、本発明の光‐デジタルPCRチャンバ内で、前記金属薄膜層と前記微細流路構造体との間に形成され、光源から照射された光が微細流路構造体にまで逹しないようにすることで、本発明の光‐デジタルPCRの性能減少を防止する効果をもたらし、結果として、金属薄膜層だけある場合より限界検出能力が約10倍以上増加することを確認することができ、このように遮光層を適用することによって非常に少ない極少量(約2pg/μl)の試料だけでも10倍以上の性能を向上させることができる。
【0041】
前記遮光層は、ポリドーパミン膜、光触媒有機化合物膜またはダブシル(Dabcyl)有機化合物膜であってもよい。
【0042】
前記光触媒有機化合物は、Melemおよびg‐C3N4(graphitic carbon nitride)から選択される少なくとも一つを含むことができる。
【0043】
前記遮光層の厚さは、1nm~1μmであってもよい。前記遮光層の厚さが1nm未満の場合、微細流路構造体に入る光を効果的に遮断することができず、PCR蛍光物質の消光が発生し得、1μm超の場合、金属薄膜層で光エネルギーから転換された熱エネルギーが、微細流路構造体内のPCR試料の温度変化を低下させ得る。
【0044】
前記ダブシルがカルベンと結合して形成されたダブシル層の厚さは、10nm未満であ
り、濃度は、10μM~3mMであってもよい。前記ダブシルの濃度が前記範囲を満たす場合に、微細流路構造体に入る光を効果的に遮断して、PCR蛍光物質の消光現象を防止することができる。
【0045】
前記マイクロパターン化した金属薄膜の表面に前記ダブシルを固定化するためのリンカーとして、N‐ヘテロサイクリックカルベン化合物を用いることができる。前記N‐ヘテロサイクリックカルベン化合物は、前記マイクロパターン化した金属薄膜の表面に金属‐カルベン結合により導入することができる。
【0046】
特に、固相PCRに用いられるチオール(Thiol:‐SH)基を有するリンカーは、金属‐硫黄結合の高温(70℃以上)での不安定性(金属‐硫黄結合の破断)のため、PCR反応結果の再現性が劣るという問題がある。これとは対照的に、前記ダブシルをマイクロパターン化した金属薄膜に固定化するためのリンカーとして、N‐ヘテロサイクリックカルベン化合物を用いる場合には、光源による前記マイクロパターン化した金属薄膜の表面温度が一時的に最高500℃まで上昇しても、金属‐カルベン結合によって高温で安定性を取得することができ、光エネルギーを用いたPCR装置にも適用が可能であるという利点がある。
【0047】
前記N‐ヘテロサイクリックカルベン化合物は、下記化学式1または2で表され得る。
【0048】
【0049】
【0050】
前記化学式1および2中、
R1、R2、R5およびR6は、互いに同一もしくは異なっており、それぞれ独立して、水素、炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基または炭素数2~30のヘテロアリール基であるか、
R4およびR9は、互いに同一もしくは異なっており、それぞれ独立して、水素、または炭素数1~20のアルキル基であり、
R3、R7、R8およびR10は、互いに同一もしくは異なっており、それぞれ独立して、水素、炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、または炭素数2~30のヘテロアリール基であるか、R7およびR8は、互いに結合して炭化水素環を形成してもよい。
【0051】
本発明において、「隣接した」基は、当該置換基が置換された原子と直接連結された原子で置換された置換基、当該置換基と立体構造的に最も近く位置した置換基、または当該置換基が置換された原子で置換された他の置換基を意味し得る。例えば、ベンゼンの環において、オルト(ortho)位置に置換された2個の置換基および脂肪族環において、同一炭素で置換された2個の置換基は、互いに「隣接した」基と解釈され得る。
【0052】
前記アルキル基は、直鎖または分岐鎖であってもよく、炭素数1~20であってもよく、好ましくは、炭素数1~10であってもよい。より好ましくは、炭素数1~6であってもよい。前記アルキル基の具体的な例としては、メチル、エチル、プロピル、n‐プロピル、イソプロピル、ブチル、n‐ブチル、イソブチル、tert‐ブチル、sec‐ブチル、1‐メチルブチル、1‐エチルブチル、ペンチル、n‐ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert‐ペンチル、ヘキシル、n‐ヘキシル、1‐メチルペンチル、2‐メチルペンチル、4‐メチル‐2‐ペンチル、3,3‐ジメチルブチル、2‐エチルブチル、ヘプチル、n‐ヘプチル、1‐メチルヘキシル、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、オクチル、n‐オクチル、tert‐オクチル、1‐メチルヘプチル、2‐エチルヘキシル、2‐プロピルペンチル、n‐ノニル、2,2‐ジメチルヘプチル、1‐エチルプロピル、1,1‐ジメチルプロピル、イソヘキシル、4‐メチルヘキシル、5‐メチルヘキシル、ベンジルなどがあるが、これに限定されるものではない。
【0053】
前記シクロアルキル基は、炭素数3~20であってもよく、好ましくは、炭素数3~10であってもよい。前記シクロアルキル基の具体的な例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、3‐メチルシクロペンチル、2,3‐ジメチルシクロペンチ
ル、シクロヘキシル、3‐メチルシクロヘキシル、4‐メチルシクロヘキシル、2,3‐ジメチルシクロヘキシル、3,4,5‐トリメチルシクロヘキシル、4‐tert‐ブチルシクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチルなどがあるが、これに限定されるものではない。
【0054】
前記アリール基は、炭素数6~30であってもよく、好ましくは、炭素数6~10であってもよい。前記アリール基は、単環式アリール基または多環式アリール基であってもよい。前記単環式アリール基の具体的な例としては、フェニル基、ビフェニル基、テルフェニル基などがあり、前記多環式アリール基の具体的な例としては、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントリル基、ピレニル基、ペリレニル基、クリセニル基、フルオレニル基、トリフェニレン基などがあるが、これに限定されるものではない。
【0055】
前記ヘテロアリール基は、異種原子として、N、O、P、S、SiおよびSeから選択される1個以上を含む芳香族環基であり、炭素数は、2~30であってもよく、好ましくは、炭素数2~20であってもよい。前記ヘテロアリール基の具体的な例としては、チオフェン基、フラン基、ピロール基、イミダゾール基、チアゾール基、オキサゾール基、オキサジアゾール基、トリアゾール基、ピリジル基、ピリミジル基、トリアジン基、トリアゾール基、アクリジル基、キノリニル基、キナゾリン基、キノキサリニル基、フタラジニル基、イソキノリン基、インドール基、カルバゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾイミダゾール基、ベンゾチアゾール基、ベンゾカルバゾール基、ベンゾチオフェン基、ジベンゾチオフェン基、ベンゾフラニル基などがあるが、これに限定されるものではない。
【0056】
前記炭化水素環は、脂肪族環または芳香族環であってもよく、前記脂肪族環は、上述のシクロアルキル基を含むことができ、前記芳香族環は、上述のアリール基またはヘテロアリール基を含むことができる。
【0057】
また、前記アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基または炭化水素環はまたアルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはヘテロアリール基で置換または非置換され得る。
【0058】
前記マイクロパターン化した金属薄膜の表面には、N‐ヘテロサイクリックカルベン化合物の一末端が結合してもよく、この際、化学的気相蒸着(Chemical Vapor Deposition、CVD)、物理的気相蒸着(Physical Vapor
Deposition、PVD)、熱蒸発真空蒸着(Thermal evaporation deposition)、スパッタリング蒸着(Sputtering deposition)、原子層蒸着(Atomic Layer Deposition、ALD)、化学溶液蒸着(Chemical‐bath deposition、CBD)などの方法によって金属‐カルベン結合が形成され得る。
【0059】
前記N‐ヘテロサイクリックカルベン化合物の末端は、カルボキシル基(Carboxyl group)で官能化されてもよい。
【0060】
前記N‐ヘテロサイクリックカルベン化合物の末端に様々なアミンを使用して官能化(functionalization)を行い、アミン層(amine layer)を形成することができる。
【0061】
前記アミンは、ジアミン、トリアミン、テトラアミン、ペンタアミン、ヘキサアミンまたはこれらの混合物を含むことができる。具体的には、前記アミンは、メチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチルジアミン、アミノエチルエタノールアミン、フェニレンジアミン、ジメチレントリアミン、ジエチレ
ントリアミン、トリエチレンテトラアミン(TETA)、テトラエチレンペンタアミン(TEPA)、ペンタエチレンヘキサアミン(PEHA)、ヘキサメチレンジアミン(HMDA)などであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0062】
前記アミンは、ポリエチレンイミンであってもよく、この場合、重量平均分子量が1,000~1,000,000g/molであってもよい。
【0063】
前記N‐ヘテロサイクリックカルベン化合物のアミン層には、ダブシル(Dabcyl)が結合して固定化することができる。
【0064】
前記N‐ヘテロサイクリックカルベン化合物の他末端が前記カルボキシル基で官能化する場合、
図7のように、アミンで表面処理を行って官能基をカルボキシル基からアミンに置換することができ、このように形成されたアミン層にダブシル(Dabcyl)を固定化することができる。これにより、一般的に、ダブシルがマイクロパターン化した金属薄膜と静電気的引力によって結合することに比べ、ダブシルがマイクロパターン化した金属薄膜に、より強固な化学的結合で固定化できることから、これを高温の固相のPCR反応に用いる場合、優れた安定性、貯蔵性および保管容易性が向上する効果がある。
【0065】
前記微細流路構造体は、前記遮光層上に形成され、本発明の光‐デジタルPCR反応の効率を極大化することができる。
【0066】
特に、前記微細流路構造体には、一つ以上の微細流路セットが独立して形成され得る。前記微細流路セットは、一つ以上の試料注入部と、一つ以上の試料抽出部とを含み、前記試料注入部と前記試料抽出部を連結する複数個の微細流路が形成され得る。また、前記微細流路は、一つの幹流路と、前記幹流路に連結されている複数個の枝流路とを含むことができる。かかる形状を有することで、光‐デジタルPCR反応が行われるホール(ウェル)の個数を極大化することができ、検出対象試料がスムーズに分配され、微細流路構造体内に存在する多数個のホール(ウェル)内でPCR反応を行うことができる。
【0067】
また、一つ以上の微細流路セットが独立して形成されることで、それぞれの微細流路セットに含まれた一つ以上の試料注入部に、検出対象試料を独立して注入し、同時に多重光‐デジタルPCR反応を行うことができる。
【0068】
前記微細流路構造体の素材は、透明な材質であるか、熱伝導性がある材質であれば、これに限定されず、具体的には、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などの成形が可能な高分子物質であってもよい。
【0069】
前記微細流路構造体の微細流路は、丸底の微細流路断面を有する溝であり、上部に透明フィルムが付着されてもよく、前記微細流路断面のサイズは、幅5μm~100μm、高さ5μm~100μmであってもよい。
【0070】
具体的には、本発明の光‐デジタルPCRチャンバを用いた光‐デジタルPCR反応の一連の過程および作用について説明すると、以下のとおりである。
【0071】
前記光‐デジタルPCRチャンバは、光源に隣接(近接)するように位置し得る。前記光源から発生する光エネルギーが金属薄膜層に逹することができれば、光源の位置は、これに限定されない。ただし、本発明の一実施形態において、前記光‐デジタルPCRチャンバが透明基板/金属薄膜層/遮光層/微細流路構造体のような積層構造である場合に、前記光源は、前記透明基板の下部(透明基板の金属薄膜層が位置した面の反対側)に位置し得る。
【0072】
例えば、前記光源が本発明の前記光‐デジタルPCRチャンバの透明基板の下部に配置される場合、前記透明基板の下部に位置した光源から出た光エネルギーは、透明基板を透過して金属薄膜層に逹する。前記金属薄膜層に逹した光エネルギーは、金属薄膜層でプラズモン光熱変換が起こることによって熱エネルギーに転換する。この場合、前記金属薄膜層の温度は、最大500℃まで昇温し、かかる熱エネルギーは、前記微細流路構造体に存在するPCR試料の温度変化(約50℃~95℃)を起こし、変性(denaturation)、結合(annealing)、伸長(elongation)ステップのサイクルを繰り返して行うようにし、これによってDNA(またはRNA)を増幅させることができる。このように増幅されたDNA(またはRNA)は、PCR試料内のPCR蛍光物質の蛍光を検出し、分析することができる。前記金属薄膜層は、より効率的な光熱変換のために、金薄膜を用いることができ、金薄膜をマイクロパターン化することによって、より迅速な温度変化が可能であり、本発明の光‐デジタルPCR反応時間を短縮することができる。
【0073】
前記微細流路構造体には、デジタルPCRのために、平均0.5個~1個のコピー数で希釈されるように準備された検出対象遺伝子(鋳型)、プライマー、Taqポリメラーゼ(Taq polymerase)、dNTPおよびPCR蛍光物質を含む液滴(PCR試料)を微細流路構造体に存在するそれぞれのウェルに分配し、前記のような温度変化にしたがってPCRを行った後、蛍光信号が現れるウェルは「1」の値にカウントし、蛍光信号のないウェルは「0」にカウントすることで、絶対定量を行うことができる。
【0074】
特に、本発明の光‐デジタルPCRチャンバは、デジタルPCRを用いることによって、前記微細流路構造体に存在するPCR試料にPCR蛍光物質もともに含まれるが、PCR蛍光物質が前記光源からの光によって消光現象が発生することを防止するために、金属薄膜層と微細流路構造体との間に遮光層を含むことで、前記微細流路構造体に存在するPCR蛍光物質への光を遮断させ、これにより、非常に迅速で、高い敏感度の光‐デジタルPCR反応が可能である。
【0075】
上記のように、本発明の光‐デジタルPCRチャンバは、光源が備えられたPCR装置にはどこでも備えて、光PCRとデジタルPCRを同時に用いることで、非常に速い時間内で正確且つ定量的なPCR分析が可能である。
【0076】
2.光‐デジタルPCR機器
本発明は、透明基板と、前記透明基板上に形成された金属薄膜層と、前記金属薄膜層上に形成された遮光層とを含む積層体を含む光‐デジタルPCR機器を提供する。
【0077】
前記光‐デジタルPCR機器に含まれた前記積層体を構成する前記透明基板、前記金属薄膜層、前記遮光層は、上述の光‐デジタルPCRチャンバで定義した内容が同様に適用され得る。
【0078】
前記積層体を含む光‐デジタルPCR機器は、光源をさらに含むことができる。前記光源は、可視光線または赤外線を発生できるものであれば、これに限定されず、ハロゲンランプ、LEDランプ、蛍光灯、白熱ランプ、アークランプ(arc source lamp)、赤外線ランプ、HMIランプなどを用いることができ、電力効率、または経済的な面で、LEDランプが好ましい。
【0079】
前記光‐デジタルPCR機器内で光源の位置は、前記積層体の金属薄膜層に光エネルギーが逹することができれば、これに限定されるものではないが、好ましくは、積層体(透明基板/金属薄膜層/遮光層)の透明基板の下部(透明基板の金属薄膜層が位置した面の
反対側)に位置し、熱エネルギーの伝達を最も効率的にすることができる。
【0080】
具体的には、本発明の光‐デジタルPCR機器を用いた光‐デジタルPCR反応の一連の過程および作用について説明すると、以下のとおりである。
【0081】
まず、デジタルPCRのために、検出対象遺伝子(鋳型)、プライマー、Taqポリメラーゼ、dNTPおよびPCR蛍光物質を含む液滴(PCR試料)を準備し、これを微細流路構造体のそれぞれのウェルに分配する。また、準備された微細流路構造体を、前記光‐デジタルPCR機器内に存在する前記積層体上に配置する。
【0082】
その後、前記光‐デジタルPCR機器の光源から発生する光エネルギーが前記積層体の金属薄膜層に逹するようにすると、前記金属薄膜層に逹した光エネルギーは、金属薄膜層でプラズモン光熱変換が起こることによって熱エネルギーに転換する。この場合、前記金属薄膜層の温度は、最大500℃まで昇温し、かかる熱エネルギーは、前記光‐デジタルPCR機器の前記積層体上に配置された前記微細流路構造体に存在するPCR試料の温度変化(約50℃~95℃)を引き起こし、前記微細流路構造体のそれぞれのウェルに分配された試料で変性(denaturation)、結合(annealing)、伸長(elongation)ステップのサイクルを繰り返して行うようにし、それにより、DNA(またはRNA)を増幅させることができる。この際、PCRを行った後、蛍光信号の現れるウェルは「1」の値にカウントし、蛍光信号のないウェルは「0」にカウントすることで、絶対定量を行うことができる。前記金属薄膜層は、より効率的な光熱変換のために、金薄膜を用いることができ、金薄膜をマイクロパターン化することで、より迅速な温度変化が可能であり、本発明の光‐デジタルPCR反応時間を短縮することができる。
【0083】
特に、本発明の光‐デジタルPCR機器は、デジタルPCRを用いることによって、前記微細流路構造体に存在するPCR試料にPCR蛍光物質もともに含まれるが、PCR蛍光物質が前記光源からの光によって消光現象が発生することを防止するために、金属薄膜層と微細流路構造体との間にポリドーパミン膜、光触媒有機化合物膜またはダブシル有機化合物膜の遮光層を含むことで、前記微細流路構造体に存在するPCR蛍光物質への光を遮断させることによって、非常に極少量の試薬でも、迅速で、高い敏感度の光‐デジタルPCR反応および分析が可能である。
【0084】
上記のように、本発明の光‐デジタルPCR機器で光‐デジタルPCR反応を行うにあたり、各種のPCR試薬を含む微細流路構造体を用いることもでき、一つの微細流路構造体内に、多数のウェルを含むことで、各種の検出対象遺伝子、プライマー、PCR蛍光物質を含む液滴を分配し、1回に多重PCR反応による分析を可能にすることもでき、光PCRとデジタルPCRを同時に用いることで、非常に速い時間内で正確且つ定量的なPCR分析が可能である。
【0085】
以下、好ましい実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。
【0086】
しかし、これら実施例は、本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の範囲がこれによって限定されるものではない。
【0087】
<製造例>
<製造例1>
鋳型DNAとして肺癌細胞株であるA549のcDNAを用いており、dNTP、Taqポリメラーゼ、以下のような逆方向プライマーおよび順方向プライマー、PCR蛍光物質としてSYBR Greenが含まれた液状のPCR反応物Aを準備した。
【0088】
<製造例2>
鋳型DNAとして肺癌細胞株であるA549のcDNAを用いており、dNTP、Taqポリメラーゼ、以下のような逆方向プライマーおよび順方向プライマー、PCR蛍光物質としてFluoresceinが含まれた液状のPCR反応物Bを準備した。
【0089】
[液状のPCR反応物内のプライマー]
‐順方向プライマー:5´‐GACCCAATCATGAGCACTG‐3´
‐逆方向プライマー:5´‐TGAAGCGACCCTCTGATG‐3´
【0090】
【0091】
<実施例>
<実施例1>
ガラス基板(0.5mm)上にマイクロパターン化した金薄膜を160nmの厚さで化学的気相蒸着方法で形成し、金薄膜上にポリドーパミン膜を形成した後、次いで、その上に微細流路構造体を配置して、積層体を形成した後、製造例1によって製造されたPCR反応物Aを含む光‐デジタルPCRチャンバを製造した。
【0092】
<実施例2>
実施例1において、遮光層としてポリドーパミン膜の代わりに、光触媒1有機化合物(Melem)膜を形成した以外は、前記実施例1と同じ方法で光‐デジタルPCRチャンバを製造した。
【0093】
<実施例3>
実施例1において、遮光層としてポリドーパミン膜の代わりに、光触媒2有機化合物(g‐C3N4)膜を形成した以外は、前記実施例1と同じ方法で光‐デジタルPCRチャンバを製造した。
【0094】
<実施例4>
実施例1において、遮光層としてポリドーパミン膜の代わりに、ダブシル有機化合物膜を形成した以外は、前記実施例1と同じ方法で光‐デジタルPCRチャンバを製造した。
【0095】
<実施例5>
実施例1において、製造例1によって製造されたPCR反応物Aの代わりに、製造例2によって製造されたPCR反応物Bを用いる以外は、前記実施例1と同じ方法で光‐デジタルPCRチャンバを製造した。
【0096】
<実施例6>
実施例2において、製造例1によって製造されたPCR反応物Aの代わりに、製造例2によって製造されたPCR反応物Bを用いる以外は、前記実施例2と同じ方法で光‐デジタルPCRチャンバを製造した。
【0097】
<実施例7>
実施例3において、製造例1によって製造されたPCR反応物Aの代わりに、製造例2によって製造されたPCR反応物Bを用いる以外は、前記実施例3と同じ方法で光‐デジタルPCRチャンバを製造した。
【0098】
<実施例8>
実施例4において、製造例1によって製造されたPCR反応物Aの代わりに、製造例2によって製造されたPCR反応物Bを用いる以外は、前記実施例4と同じ方法で光‐デジタルPCRチャンバを製造した。
【0099】
<比較例1>
ガラス基板(0.5mm)上にマイクロパターン化した金薄膜を160nmの厚さで化学的気相蒸着方法で形成し、金薄膜上に微細流路構造体を配置して、積層体を形成した後、製造例1によって製造されたPCR反応物Aを含む光‐デジタルPCRチャンバを製造した。
【0100】
<比較例2>
比較例1において、製造例1によって製造されたPCR反応物Aの代わりに、製造例2によって製造されたPCR反応物Bを用いる以外は、前記比較例1と同じ方法で光‐デジタルPCRチャンバを製造した。
【0101】
<比較例3>
ガラス基板(0.5mm)上にマイクロパターン化していない金薄膜を160nmの厚さで化学的気相蒸着方法で形成し、金薄膜上にポリドーパミン膜を形成した後、次いで、その上に微細流路構造体を配置して、積層体を形成した後、製造例1によって製造されたPCR反応物Aを含む光‐デジタルPCRチャンバを製造した。
【0102】
<比較例4>
ガラス基板(0.5mm)上にマイクロパターン化した金薄膜を160nmの厚さで化学的気相蒸着方法で形成した積層体を形成した後、製造例1によって製造されたPCR反応物Aを含む光‐デジタルPCRチャンバを製造した。
【0103】
<比較例5>
比較例4において、製造例1によって製造されたPCR反応物Aの代わりに、製造例2によって製造されたPCR反応物Bを用いる以外は、前記比較例4と同じ方法で光‐デジタルPCRチャンバを製造した。
【0104】
<実験例1>
金薄膜のマイクロパターン化有無による光‐デジタルPCR反応時間評価
前記実施例1および比較例3で製造された光‐デジタルPCRチャンバを用いて、光‐デジタルPCRサイクルを40回行った結果、かかる時間をそれぞれ
図3および
図4に示した。
【0105】
前記実施例1、
図3および
図4によると、金薄膜をマイクロパターン化した実施例1の場合に、40サイクルの光‐デジタルPCR反応を行うために10分の時間がかかるのに対し、金薄膜をマイクロパターン化していない比較例3の場合には、40サイクルの光‐デジタルPCR反応を行うために12分の時間がかかることを確認することができた。
【0106】
<実験例2>
遮光層による光‐デジタルPCR反応時間評価
前記実施例2および4で製造された光‐デジタルPCRチャンバを用いて、光‐デジタルPCRサイクルを40回行った結果、かかる時間を
図5および
図6に示した。
【0107】
前記実施例2、4、
図5および
図6によると、マイクロパターン化した金薄膜に光触媒1有機化合物(Melem)膜を形成した実施例2(
図5)の場合、40サイクルの光‐デジタルPCR反応を行うために10分の時間がかかり、遮光層として光触媒1有機化合物膜の代わりにダブシル有機化合物膜を形成した実施例4(
図6)の場合に、40サイクルの光‐デジタルPCR反応を行うために9分の時間がかかることを確認することができた。
【0108】
<実験例3>
マイクロパターンされた金薄膜のカルベンおよびダブシル表面処理の概略図および表面特性変化検討
前記実施例4および8のダブシル固定化のためのステップ別の概略図と接触角および光電子分光法測定を実施し、表面処理によって表面性質の変化を
図7および
図8によって確認することができた。
【0109】
図8によると、金薄膜(Bare gold)でカルベン処理後、N 1s narrowでピークが生成されることによって、金‐カルベン結合が形成されたことを確認することができた。また、ダブシル固定化した金薄膜の場合に、ピーク強度が増加することは、表面処理されていることを意味する。
【0110】
<実験例4>
1.遮光層による光‐デジタルPCR反応蛍光評価
前記実施例1、2、4および比較例1で製造された光‐デジタルPCRチャンバを用いて、光‐デジタルPCRサイクルを40回行った後、蛍光顕微鏡を通じて測定した蛍光結果を
図9に示した。
【0111】
2.遮光層による光‐デジタルPCR反応蛍光評価
前記実施例5、6、8および比較例2で製造された光‐デジタルPCRチャンバを用いて、光‐デジタルPCRサイクルを40回行った後、蛍光顕微鏡を通じて測定した蛍光結果を
図10に示した。
【0112】
前記実験例2によると、ポリドーパミン膜を遮光層として用いた実施例1および5、光触媒1有機化合物(Melem)膜を遮光層として用いた実施例2および6、ダブシル有機化合物膜を遮光層として用いた実施例4および8の場合には、40サイクルの光‐デジタルPCR反応を行った後にも、PCR蛍光物質の消光現象を防止して、PCR反応結果をより正確且つ精密に検出することができることを確認したが、遮光層を用いていない比較例1および2の場合には、PCR蛍光物質の消光現象が発生することを確認することができた。
【0113】
<実験例5>
遮光層ダブシル有機化合物濃度によるPCR蛍光物質(SYBR Green)に対する光‐デジタルPCR反応後の消光防止効果評価
実施例4に対して、ダブシル有機化合物の濃度を0mM、0.3mM、0.5mM、1mM、3mMに変動しながら光‐デジタルPCRサイクルを40回行った後、試料内に含まれたPCR蛍光物質の蛍光強度を測定した結果を
図11に示した。
【0114】
前記実験例5および
図11によると、ダブシルの濃度が増加するに伴い、消光現象を防
止する効果が向上することが分かる。
【0115】
<実験例6>
1.PCR蛍光物質(SYBR Green)に対する光‐デジタルPCR反応後の消光防止効果評価
実施例1、2,3、4および比較例4に対して、光‐デジタルPCRサイクルを40回行った後、試料内に含まれたPCR蛍光物質の蛍光強度を測定した結果を
図12に示した(ガラス基板を対照群として評価した。)。
【0116】
2.PCR蛍光物質(Fluorescein)に対する光‐デジタルPCR反応の消光防止効果評価
実施例5、6、7、8および比較例5に対して、光‐デジタルPCRサイクルを40回行った後、試料内に含まれたPCR蛍光物質の蛍光強度を測定した結果を
図13に示した(ガラス基板を対照群として評価した。)。
【0117】
前記実験例6、
図12および
図13によると、ポリドーパミン膜、光触媒1有機化合物(Melem)膜、光触媒2有機化合物(g‐C
3N
4)膜またはダブシル有機化合物膜を遮光層として用いた実施例1~8の場合には、光‐デジタルPCR反応(40サイクル)後にもPCR蛍光物質の消光現象を防止する効果に優れることを確認することができた。
【0118】
以上、本発明は、上述の実施例についてのみ詳細に説明しているが、本発明の技術思想範囲内で様々な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、かかる変形および修正が添付の請求の範囲に属することは言うまでもない。
【国際調査報告】