(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(54)【発明の名称】菌糸体スキャフォールドを作製する方法及びそれらの適用
(51)【国際特許分類】
C12N 1/14 20060101AFI20220111BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20220111BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20220111BHJP
C12N 11/16 20060101ALI20220111BHJP
C12N 11/06 20060101ALI20220111BHJP
A23L 13/00 20160101ALI20220111BHJP
【FI】
C12N1/14 B
C12N5/071
C12M1/00 C
C12N11/16
C12N11/06
A23L13/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021527877
(86)(22)【出願日】2019-11-19
(85)【翻訳文提出日】2021-07-14
(86)【国際出願番号】 US2019062248
(87)【国際公開番号】W WO2020106743
(87)【国際公開日】2020-05-28
(32)【優先日】2018-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】520165401
【氏名又は名称】エコベイティブ デザイン リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100183379
【氏名又は名称】藤代 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】バイヤー エベン
(72)【発明者】
【氏名】マッキンタイヤー ギャヴィン
(72)【発明者】
【氏名】ミューラー ピーター
(72)【発明者】
【氏名】オブライエン メーガン
(72)【発明者】
【氏名】シャーク ダーメン
(72)【発明者】
【氏名】ウィニスキー ジェイコブ マイケル
(72)【発明者】
【氏名】カールトン アレックス
【テーマコード(参考)】
4B029
4B033
4B042
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA21
4B029BB06
4B029CC03
4B033NA16
4B033NB56
4B033NB65
4B033NC05
4B033ND02
4B033NG03
4B033NG05
4B042AC10
4B042AD39
4B042AK02
4B042AK16
4B042AP27
4B042AP30
4B065AA57X
4B065AA90X
4B065BC41
4B065BC46
4B065CA24
4B065CA41
(57)【要約】
いくつかの技術を使用するための菌糸体スキャフォールドを作製するためのいくつかの方法が記載される。一実施形態では、菌糸体スキャフォールドが細胞に基づく食肉技術のための灌流バイオリアクターシステムを用いて作製される。別の実施形態では、生物医学的適用のために菌糸体スキャフォールドが調製される。菌糸体スキャフォールドは、液体培地から又は固体基から作製され得る。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸状生物を、前記生物の培養及び成長のための栄養を含有する培地に植え付ける工程と、前記植え付け済み培地を規定の環境で、そこで菌柄、菌傘又は胞子を産生することなく前記培地から菌学的生体高分子成長物が成長するために十分な時間インキュベートする工程とを含む、菌糸体スキャフォールドの作製方法であって、前記真菌はa.生体適合性種であること、及び前記培地から菌学的生体高分子の成長物を一体自己完結型スキャフォールドとして取り出すことを特徴とする、菌糸体スキャフォールドの作製方法。
【請求項2】
前記真菌が糸状生物であり、前記スキャフォールド内での前記糸状生物と非糸状生物のインキュべーション及び共培養のために、非糸状生物を前記培地に導入する工程を更に特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記非糸状生物がウシ、鳥類及び魚類細胞株のうち1つの脊索動物筋細胞である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記糸状生物がアイカワタケ属種であり、前記非糸状生物がウシの脊索動物筋細胞である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記糸状生物がクモノスカビ属の腐生菌であり、前記非糸状生物が軟体動物門の筋芽細胞である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記菌学的生体高分子成長物を脱細胞化して脱細胞化糸状スキャフォールドを形成し、その後、選択された非糸状生物細胞株の培養のための液体培地を添加すること;前記液体培地に非糸状生物を植え付け、前記植え付け済み液体培地を、前記非糸状生物が前記細胞化糸状スキャフォールド中へ成長して混成細胞塊を形成するために十分な時間インキュベートすることを更に特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記培地がバイオリアクター容器内の液体培地であり、前記植え付け済み培地を、成長を補助するための下流のテクスチャー及び細胞接着に関して最適化された特定の結果的糸状ペレットサイズを目標とする植え付け率でインキュベートすること;前記植え付け済み液体培地の粘度を、糸状生物の繊維網としての培養のための溶存酸素を維持するために十分な程度に維持すること;及び前記植え付け済み培地を、前記繊維網からの特定の三次元繊維ペレット形態の発現に作用するために十分な程度で撹拌することを更に特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記植え付け済み培地を予備成形要素の表面に滴下方式で、前記要素から菌糸体シートを一体自己完結型スキャフォールドとして取り出す前に前記表面に菌糸体シートを形成するために十分な時間適用する工程を更に特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記糸状生物と非糸状生物のインキュベーション及び共培養のために、バイオリアクター容器内の前記液体培地に非糸状生物を導入する工程を更に特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記糸状生物が綿毛状ペレット形態を生じる食用真菌であり、前記非糸状生物がウシ筋細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記糸状生物がアイカワタケ属種であり、結果的糸状ペレット形態の特定のテクスチャー品質を目標とする割合で前記液体培地に植え付けられ、前記割合を下げるとペレットサイズが大きくなり、前記割合を上げるとペレットサイズが小さくなる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
非糸状ウシ筋細胞を植え付けた第2の液体培地を、その中で前記ウシ筋細胞を培養するために撹拌する前記工程の前に前記容器に添加する工程、及び前記植え付け済みの第2の培地を、混成細胞塊を形成するための前記撹拌工程の前に前記繊維網に前記ウシ筋細胞を成長させるために十分な時間インキュベートする工程を更に特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記培地がバイオリアクター容器内にあり、前記容器内の前記培地を、前記培地の外部での特定の三次元繊維網形態の発現に作用するために十分な時間、十分な条件下でインキュベートすること;及び前記繊維網形態を一体自己完結型スキャフォールドとして取り出す前に、前記繊維網形態に所定の特徴を付与するために、前記繊維網形態の発現中に前記繊維網形態に選択された材料の少なくとも1つの層を積層することを更に特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記選択された材料がホルモン及び無機質のうちの一方である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記容器から取り出した後に前記繊維網形態に所定の形状の模様を入れることを更に特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記スキャフォールドに所望の特徴を付与するために前記スキャフォールドに第2の生体適合性材料を導入することを更なる特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記第2の生体適合性材料が、第2の架橋剤を提供するためのアガロース及びゼラチンのうちの一方である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
テクスチャーを改善するために前記スキャフォールドにパパイヤ抽出物由来キチナーゼを適用する工程、
その後、テクスチャーを更に改変するために前記スキャフォールドを1モル酢酸中で加熱する工程、
その後、前記スキャフォールドに植物性脂肪を含浸させる工程、
前記スキャフォールドを自己消化酵母、スモークフレーバー、トマト抽出物及びスパイスでマリネにする工程、
前記マリネスキャフォールドを無機質及びビタミンで強化する工程、及び
前記強化スキャフォールドをクリスピーとなるまで調理して非動物ベーコン様製品を生産する工程
を更に含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
スキャフォールドトレイユニット内で菌学的生体高分子を成長させる工程;その中で菌学的生体高分子を成長させるために前記トレイユニットに空気を送り込む工程;その後、前記菌学的生体高分子を脱細胞化して、前記スキャフォールドトレイユニット内に脱細胞化繊維スキャフォールドを形成する工程;成長因子を含有するウシ胎児血清流を前記繊維スキャフォールドに導入する工程;その後、前記繊維スキャフォールドに及びその内部に付着させるために前記脱細胞化繊維スキャフォールド中に牛肉筋細胞流を送り込んで菌糸及び筋細胞の混成塊を形成する工程;並びに前記塊を代用食肉製品として加工する工程を更に特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
糸状生物を植え付けた培養培地を含有するため、且つ、それからの連続的菌糸網の成長のためのスキャフォールドトレイユニット;
前記トレイユニットに空気を送り込むため、且つ、内部への菌糸網の成長のための前記スキャフォールドトレイユニット内のスパージャ;
前記トレイユニット中に空気を散布するため、且つ、内部への菌糸網の成長のための、前記スキャフォールドトレイユニット内の前記スパージャに接続されたディフューザ;並びに
前記スキャフォールドトレイユニット内の菌糸網に牛肉筋細胞流を送り込むために前記スキャフォールドトレイユニットと連絡した牛肉筋細胞のための筋細胞懸濁リアクターユニット
を含む、代用食肉製品を作製するための装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
これは非仮出願であり、2018年11月20日に出願された仮特許出願第62/769,789号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、菌糸体スキャフォールドを作製する方法に関する。より詳しくは、本発明は、生体適合性及び生分解性の菌糸体スキャフォールドを作製する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
知られているように、糸状菌は、菌糸と呼ばれる繊維細胞の架橋網から構成され、極性した先端の伸張と分岐の形成により拡大増殖し(成長先端の数を増し)、これは動物及び植物の細胞分裂に等しい。Griffin D, Timberlake W, Cheney J., Regulation of macromolecular synthesis, colony development and specific growth rate of Achlya bisexuaiis during balanced growth. Journal of General Microbiology 80, 381-388.(1974)参照。菌糸先端の伸張は、重力屈性、自己屈性、及び電気屈性を含むいくつかの屈性(陽性又は陰性)を示すことがあり、その改変は、真菌の葉状体(菌糸体)及び子実体(キノコ)の有意な組織的及び形態的変動に影響を及ぼすに足るものである。Moore, Fungal Morphogenesis. Cambridge University Press. Cambridge, UK.(1998)参照。
【0004】
糸状菌は、それらの表現型の可塑性により定義され、定義された経路(Moore, Tolerance of Imprecision in Fungal Morphogenesis. Proceedings of the Fourth Conference on the Genetics and Cellular Biology of Basidiomycetes, 13-19参照)とは異なる、独立した「サブルーチン」の差次的発現に応じた分化の「ファジー論理」に基づき、複雑な生殖構造(キノコ)から完全に未分化の栄養菌糸体まで、細胞密度、分岐/架橋頻度、細胞直径分布、細胞集塊、構造異方性、及び体積分率が異なる様々な菌糸網形態を表す変動のある分化程度を表し得る二次菌糸体を生産し得る。
2018年11月14日に出願されたUSSN16/190,585に記載されるように、生体高分子材料を成長させる1つの既知の方法は、閉系のインキュベーションチャンバー内に置かれた容器内の栄養基質及び真菌から構成される成長培地のインキュベーションを用い、チャンバーは湿度、温度、二酸化炭素及び酸素の所定の環境で維持されつつ、各容器を通って空気が流れている。
USSN16/519,384に記載されているように、USSN16/190,585に記載されているような生体高分子材料のパネルは、食品又は組織スキャフォールドとして使用するための特殊なテクスチャー、フレーバー、及び栄養特性を備えた材料を作製するために改変することができる。この方法は、食感及び/又はフレーバー、脂肪、若しくは細胞培養などに対する親和性を改善するための、成長中の未分化真菌材料の密度、形態、及び組成の調整及び/又は後処理の使用を含む。
一実施形態では、インキュベーションチャンバー内の成長条件が、肉に似た、十分に整列された高分子構造をもたらすために変更され、これは次に限定されるものではないが、タンパク質、脂肪、フレーバー、芳香油、ヘム分子、微量栄養素、及び着色剤を含む調味料及びその他の添加剤で補正することができる。
【0005】
知られているように、細胞に基づく食肉技術は一般に、牛肉筋細胞の増殖、透析、酸素化のための懸濁リアクターユニット、リアクターユニットと培地供給の間で循環する培地用ポンプ、及び凝集細胞塊の機械的作動を用いて又は用いずに凝集細胞塊を作製するためのスキャフォールドバイオリアクターユニットからなる灌流バイオリアクターシステムを使用する。国際公開第2018011805A9号(Nahmias)、特許第6111510B1号(Yi)及びByrd, Clean meat’s path to your dinner plate, The Good Food Institute. Website Accessed 11/14/18,https://www.gfi.org/clean-meats-path-to-commercialization。
これも又知られているように、損傷器官の生産又は修復に注目した生物医学的適用のための組織培養及び組織培養工学は一般に、特定の機械的、空隙率、生体適合性及び生分解性の特徴を持つスキャフォールド上での所与の細胞の培養を必要とする。
【0006】
本発明の1つの目的は、特に対象とする菌糸網形態を備えた真菌スキャフォールド材料を作製するために糸状菌の表現型の可塑性を活用することである。
本発明のもう1つの目的は、細胞に基づく食肉技術のための灌流バイオリアクターシステムに実装するための菌糸体スキャフォールドを生産することである。
本発明のもう1つの目的は、懸濁培養又は浸漬培養において哺乳動物細胞の接着、増殖、及び凝集のために最適な繊維性複合基質を得るために菌糸体スキャフォールドを提供することである。
記載される発明の1つの目的は、生物医学的適用のために空隙率及び構造が独自に調製可能であるような独特な製造の可塑性を備えた生体適合性及び生分解性の菌糸体スキャフォールドを生産することである。
【発明の概要】
【0007】
簡単に述べれば、本発明は、生物の培養及び成長のための栄養を含有する培地に糸状生物を植え付ける工程並びに植え付け済み培地を規定の環境で、そこで菌柄、菌傘又は胞子を産生することなく前記培地から菌学的生体高分子成長物が成長するために十分な時間インキュベートする工程を含む、菌糸体スキャフォールドの作製方法を提供する。規定の環境は一般に、29.4℃(85°F)~35℃(95°F)の温度及び環境の3%~7%の二酸化炭素含量である。本方法は、真菌がa.生体適合性種であること、及び培地から菌学的生体高分子の成長物を一体自己完結型スキャフォールド(one piece self-contained scaffold)として、例えば、ビレット形態で取り出すことを特徴とする。
記載の方法は、独立した材料としての、又は非糸状の第2細胞種の培養のための構造スキャフォールドとしての特殊な大量生産された非動物スキャフォールドを作製するために、“Mycological Biopolymers Grown in Void Space Tooling”(米国特許第20150033620A号)に記載されているような三次元菌糸体マトリックスを改変するために使用され得る。
これらの方法は、生物医学的適用に使用するため又は食品として使用するための特殊なテクスチャー、フレーバー、及び栄養特性を備えた材料を作製するために更に改変され得る大きな、不活性の、組織ビレットの製造を可能とする。これらの方法は、成長中及び/又は後工程の使用の際に真菌菌糸マトリックスの密度、形態、及び組成を調整することを含む。
この1つの実施形態は、食肉に似た十分に整列された高分子構造をもたらすためにインキュベーション条件を変更することを含み、これは次に、調味料及びその他の添加剤(限定されるものではないが、タンパク質、脂肪、フレーバー、芳香油、ヘム分子、微量栄養素、及び着色剤を含む)で補正することができる。
【0008】
第2の実施形態は、成長過程での、液体若しくは固体定着、又は自然の細胞取り込み(生物吸着)による調味料及びその他の添加剤の定着を含む(例えば、組織中の最終含量を引き上げるためには、成長培地の無機質含量を高める)。
第3の実施形態は、後処理又はインキュベーション条件の変更のいずれかによる、所望でない残渣(例えば、悪臭、貯蔵安定性に影響を及ぼす酵素など)の除去を含む。
第4の実施形態は、テクスチャー的に動物の肉に似た組織を得るためのインキュベーション、合成生物学、及び/又は後処理条件の調整(例えば、温度及び空気流の制御によって整列性を高め及び成長密度を引き下げ、並びに/又は機械的、酵素的、若しくは化学的に組織の構造を変更すること)を含む。
第5の実施形態は、この後者の組織(そのまま、又は妨げとなる残渣を洗浄したもの)を、肉の消費、又は生物医学的適用のための組織のin vitro生産を可能とする、非真菌組織細胞の支持及び培養が可能な三次元マトリックスとして使用することを含む。この組織は、成長条件、後処理、又は合成生物学を用いて、所望の細胞成長に対する親和性を高めるように操作することができる(例えば、空隙率の増加若しくは減少、菌糸体直径の増加若しくは減少、キチンの脱アセチル化、細胞間接着部位の増強、又はより限定的な栄養を作り出すことによる収量の改善など)。
【0009】
本発明のこれらの及びその他の目的並びに利点は、添付の図面と共に以下の詳細な説明から更に明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、成長中の個々の菌糸の等方性マトリックスから構成される栄養菌糸体の顕微鏡写真を示す。
【
図2】
図2は、本発明による、菌糸束厚が増大し、菌糸網異方性比率が増大した改変型等方性マトリックスの顕微鏡写真を示す。
【
図3】
図3は、本発明による、菌糸束厚が増大し、菌糸網異方性比率は増大していない改変型等方性マトリックスの顕微鏡写真を示す。
【
図4】
図4は、本発明による、楕円形態を呈した改変型等方性マトリックスの顕微鏡写真を示す。
【
図5】
図5は、トレイユニット内の菌糸スキャフォールドに筋細胞(mycocytes)を付着させるための繊維スキャフォールドトレイユニットを備えた筋細胞懸濁リアクターユニットを使用する装置の流れ図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
方法例
[001]混成細胞塊の生産のための静置浸漬-浸漬培養
1.糸状生物植え付け物を、所与の糸状種の培養のために適当な無菌性及び栄養を備えた液体培地を含有するバイオリアクター容器に導入し、糸状成長を補助するための固体基質又は表面を含んでも含まなくてもよく、第1の植え付け済み培地を作製する。アイカワタケ属種(Laetiporus spp.)に適当な液体培地の例は、2g/Lペプトンを含む20g/L麦芽抽出物であろう。培地は0.2μmフィルターで濾過除菌してもよく、又は15psiで45分間加圧滅菌してもよい。
2.この第1の植え付け済み培地を、特定の三次元繊維網形態に作用するように選択された条件下でインキュベートする。アイカワタケ属種に対する一般例は、27℃で15日間の静置インキュベーションであろう。容器に固体基質又は表面が含まれる場合には、三次元繊維網はその表面に接着して発達し、含まれない場合には、繊維網は容器の内容物内で発達する。好適な基質は、菌糸が基質に進入できるように>1μmの孔径を有する。
3.三次元繊維網の発達が終了した後、容器内の培養培地を、菌糸マトリックスを脱細胞し、真菌細胞の構造壁マトリックスを保持しつつ非糸状細胞成長に干渉する可能性のある全ての成分を除去するように設計された化学物質に置き換えて脱細胞化繊維スキャフォールドを作製する。使用する化学物質は、溶媒、特に、75%エタノール溶液への1時間を超える期間での浸漬である。次に、この溶媒及び流出液を脱イオン水で洗い流す。
4.脱細胞化の後、脱細胞化化学物質を所与の非糸状生物細胞株の培養に適当な液体培地に置き換え、非糸状生物の植え付け物をその容器に導入し、第2の植え付け済み培地を作製する。
5.この第2の植え付け済み培地を、繊維スキャフォールド内の所与の非糸状生物株の代謝及び成長を補助するために適当な条件(例えば、筋細胞を培養するための典型的な条件)下でインキュベートし、繊維スキャフォールドの細胞間領域に定着させ、脱細胞化糸状細胞の表面に付着させる。
6.繊維スキャフォールドの細胞間領域に非糸状生物が十分に定着して混成細胞塊が形成されたと判断されたところで、その混成細胞塊をバイオリアクター容器から取り出し、後処理に送る。
【0012】
[002]混成細胞塊の生産のための静置固相-浸漬(SSSS)培養
1.所与の糸状生物の代謝及び成長を補助するために適当な無菌性及び補助栄養を備えた固体基質を調製し、その調製基質に糸状生物植え付け物を導入して植え付け済み基質を作製し、この植え付け済み基質をバイオリアクター容器に装填する。アイカワタケ属種のための基質例は、20%小麦ふすまを添加した広葉樹チップを、15psiで1時間加圧滅菌したものであろう。
2.この植え付け済み基質を、特定の三次元繊維網形態の発現に作用するように特に選択された条件下でインキュベートする。なお、この発現は固体基質塊の外部で起こり、固体基質塊から単離可能な粘着繊維網を作り出す。このようなインキュベーション条件は、USSN16/190,585に記載されている。
3.実施例001工程3~6。
【0013】
[003]混成細胞塊の生産のための撹拌浸漬-浸漬培養
1.糸状生物植え付け物を、所与の糸状生物の培養のための適当な無菌性及び栄養(実施例1のとおり)を備えた液体培地を含有するバイオリアクター容器に導入し、第1の植え付け済み培地を作製する。糸状生物植え付け物の添加率は、成長を補助するための下流のテクスチャー及び細胞間接着に関して最適化された特定の結果的糸状ペレットサイズを目標として調整され、培地調製及び植え付けは、糸状生物培養のための溶存酸素の維持のために150センチポアズの最適培地粘度を目標として行う。
添加率の一般例は、植え付け率8%(vol/vol 植え付け細胞懸濁液/液体培地)であると思われ、細胞懸濁液はOD590nmで少なくとも75%濁度に調製する。実施のために引き下げた植え付け率は5×104細胞アリコートであり、これを25μLの新鮮培養培地に再懸濁させ、培地中に浸漬させ、液体を排出するように加圧したスキャフォールド上に播種した。
2.植え付け済み培地の撹拌インキュベーションは、特定の三次元繊維ペレット形態の発現に作用するように選択された条件及び撹拌速度で行う。撹拌は、ペレット中のブレーキングマットの反対側にペレットを維持するように行う。植え付け物は個々の断片であるが、撹拌インキュベーション条件下で更にペレット化する。
3.実施例001工程3~6
【0014】
[004]成形繊維構造の生産のための撹拌浸漬-滴下培養
1.実施例003工程1~2
2.最終目的生成物に典型的な予備成形形状の表面に、無菌滴下適用によって、その形状の表面に十分に形成された菌糸体シートが成長するまで数日間、植え付け済み培地を適用する。
3.2Dシェル又はより厚い3D組織マットのいずれかとしての形状を保持しつつ、形状の表面から菌糸体シートを取り出す。
【0015】
[005]混成細胞塊の生産のための糸状生物及び非糸状生物の浸漬共培養
1.実施例001及び003、ここでは、糸状生物及び非糸状生物の両方の培養に適当な培地を調製し、各生物の植え付け物をその培地に同時に導入する。このような培地は、糸状菌及び単細胞細菌の両方を支持するジャガイモデキストロースブロスを含み得る。
2.実施例001及び003、ここでは、糸状生物及び非糸状生物の両方の培養に適当な条件、例えば、27℃~37℃の温度(上限閾値は哺乳動物組織培養及び細菌に適当である)でインキュベーションを行う。
【0016】
[006]形態が制御された細胞構造のSSSS培養
方法[002]に従う。
工程2の後、以下の工程を行う。
1.水分、ホルモンなどのシグナル伝達化合物、無機質、及びその他の分子を、成長培地の表面の格子(x,y)上にマイクロメートルの精度で直接付着させる。この実施形態はプリントヘッド(3Dプリンターによく似ている)の使用を企図するが、付着方法は、噴霧、空気搬送、又は平面の成長部分の表面への材料の正確な付着を可能とする他のいずれの方法によるものでもよい。成長を増進する、成長を改変する、及び成長を遅延させる両方の分子が企図される。この段階での他の生細胞の添加が企図され、更なるin-situ分子又はシグナル伝達合成(例えば、付着後の遅延型分子合成)を提供するか、及び/又はこの部分の成長物へ包埋してもよい。
2.付着速度は、生物のy方向の成長速度に合わせて対応させることができる。理想的には、この部分の全表面を更なる上方への組織拡大の前に処理することができる(例えば、全表面処理は、1菌糸長の細胞分裂の前に行うことができる)。付着速度は又、全成長サイクルで1回のみ可能となるように任意選択により遅くすることもできる。付着速度は、望まれる最終的な特徴的分解能に基づいて選択され、これらの2つの極値の間にある場合が多い。
3.z軸の菌糸成長の各サイクルn(ミクロン又は菌糸長で測定される)の間に、x,y格子のこの部分の表面をプリントヘッドが通過する。各x,y細胞は、組織形態及び代謝に影響を及ぼす正確な用量の液体を受容する。影響を受ける組織形態及び代謝としては、限定されるものではないが、菌糸分岐速度、細胞壁厚、作出される菌糸組織のタイプ、菌糸成長中に排出されるタンパク質及び化合物のタイプ、並びに菌糸伸張の方向が含まれる。格子間隔は、最小では1菌糸単位(例えば、ミクロン×ミクロンの細胞サイズ)又は上方では比較的大きい区分(例えば、1mm×1mm分解能)に合うように選択することができる。分解能は、成長した組織に必要とされる制度に基づいて選択される。キャピラリー用のスキャフォールド形成などの微小な特徴は極めて高レベルの分解能を必要とし得るが、バルク特徴(構造要素中により高い密度の組織の区画を作り出す)は、比較的低分解能の付着制御でよい。
4.工程3を、望まれる全パターン(x,y,zエンベロープ)が成長した組織上に刻まれるまで又は組織がその最大菌糸伸張限界に達するまで繰り返す。
5.x,y軸はプリント過程を記載するために使用され、この実施形態は、プリントヘッドが(0,0)の起点から(x,y)へ直線的に動くことを企図する。
6.この組織をリアクターから取り出し、更なる後処理を施すか、又はそのまま使用することができる。可能性のある適用としては、細胞スキャフォールド形成用の既存の器官タイプ(例えば、肺、肝臓、腎臓など)に合うような菌糸組織のパターン形成、並びに所定のマクロ幾何学的構造(例えば、
図1のような低密度の菌糸体領域を持つハニカム模様及び
図3のような高密度の菌糸体のより厚い六面壁)を作り出すための菌糸組織のパターン形成が含まれる。このアプローチの原理は、表面に予測される様式で様々な密度を呈するように菌糸体成長の領域を選択的に制御することである。
【0017】
[007]生物
1.実施例001~005、ここでは、糸状生物は担子菌門(Basidiomycota)、子嚢菌門(Ascomycota)、接合菌門(Zygomycota)、ツボカビ門(Chytridiomycota)、又はグロムス門(Glomeromycota)の腐生真菌である。
2.実施例001~005、糸状生物は、単一菌糸型、二菌糸型、又は三菌糸型菌糸体を生産する真菌である。又、最初は個々の酵母細胞として存在し、後に糸状となる二形成生物も使用可能であり、その例は黒酵母(Aureobasidium pullulans)である。
3.実施例001~005、ここでは、真菌は食用種の1つであり、一般にヒトが消費するのに安全と考えられる。
4.実施例001~005、ここでは、糸状生物は、一般に、菌糸、結合菌糸、サンゴ状結合菌糸、骨格菌糸、偽柔組織、偽果、介在出芽増殖細胞(intercalary blastogenic cells)、求頂出芽増殖細胞、細胞膨潤、末端分生子形成、介在分生子形成、オイディエーション(oidiation)、分節胞子形成、子座、子嚢殻、分生子形成細胞、分生子柄、仮根,又は菌糸束などの1以上の細胞構造を生じる真菌である。
5.実施例001~005、ここでは、糸状生物は、ヒラタケ属(Pleurotus)、マンネンタケ属(Ganoderma)、タマチョレイタケ属(Polyporus)、マイタケ属(Grifola)、マツオウジ属(Lentinus)、シイタケ属(Lentinula)、カワラタケ属(Trametes)、サンゴハリタケ属(Herecium)、フミヅキタケ属(Agrocybe)、ナラタケ属(Armillaria)、ハラタケ属(Agaricus)、モエギタケ属(Stropharia)、スエヒロタケ属(Schizophyllum)、アイカワタケ属(Laetiporus)、ムラサキシメジ属(Lepista)、ヒポミケス属(Hypomyces)、カワウソタケ属(Inonotus)、シュタケ属(Pycnoporus)、ツリガネタケ属(Fomes)、ツガルサルノコシカケ属(Fomitopsis)、チャミダレアミタケ(Daedaleopsis)、カンバタケ属(Piptoporus)、ヤニタケ属(Ischnoderma)、キコブタケ属(Phellinus)、ファエオルス属(Phaeolus)、ハナビラタケ属(Sparassis)、オシロイタケ属(Tyromyces)、エブリコ属(Laricifomes)、ワサビタケ属(Panellus)、クモノスカビ属(Rhizopus)、シワウロコタケ(Phlebia)、マクカワタケ(Phanerochaete)、ディコミタス属(Dichomitus)、セリポリオプシス属(Ceriporiopsis)、キツネノカラカサ属(Lepiota)、キウロコタケ属(Stereum)、トリコデルマ属(Trichoderma)、クロサイワイタケ属(Xylaria)、ノムシタケ属(Cordyceps)、タバコウロコタケ属(Hymenochaete)、シロタモギタケ属(Hypsizygus)、エノキタケ属(Flammulina)、ヒトヨタケ属(Coprinopsis)、ヒメヒトヨタケ属(Coprinus)、アミガサタケ属(Morchella)、カヤタケ属(Clitocybe)、タマチョレイタケ属(Cerioporus)、フクロタケ属(Volvariella)、シロキクラゲ属(Tremella)、ノウタケ(Calvatia)、又はカンゾウタケ属(Fistulina)の真菌である。
6.実施例001~005、ここでは、非糸状生物は脊索生物の細胞であり、哺乳動物、魚類、鳥類、爬虫類、又は両生類であり得る。
7.実施例001~005、ここでは、非糸状生物は植物細胞である。
8.実施例001~005、ここでは、非糸状生物は非脊索動物であり、軟体動物又は節足動物細胞であり得る。
9.実施例001~005、ここでは、非糸状生物は筋細胞、ニューロン、神経膠細胞、肺細胞、線維芽細胞、軟骨細胞、内皮細胞、骨細胞、骨芽細胞、脂肪細胞、又は幹細胞である。
10.実施例001~005、ここでは、非糸状生物は細菌、酵母、藻類、糸状菌、核酸に基づく生命体(ウイルス、バクテリオファージ)又はマイコプラズマである。
11.実施例001~005、ここでは、非糸状生物サンゴ又は貝殻構造の細胞である。
【0018】
[008]培養実例の変形
以下はいずれも実施例001~005と共に使用することができる。
1.実施例001、002、及び003、ここでは、第1及び第2の両方の植え付け済み培地のインキュベーションは1バッチで行い、全ての培地成分は、更に調整することなくそのインキュベーション相で消費する。
2.実施例001及び003(第1及び第2の両方の植え付け済み培地)並びに002(第2の植え付け済み培地)、ここでは、インキュベーションは流加法を用いて行い、所与の栄養濃度に関して設定した閾値条件の能動的又は周期的モニタリングに基づいて、消費された培地を比例して除去しつつ、植え付け済み培地に周期的に供給し、栄養(炭素、窒素、無機質、及びpH調整)を周期的に供給する。
3.実施例001及び003(第1及び第2の両方の植え付け済み培地)並びに002(第2の植え付け済み培地)、ここでは、インキュベーションは連続流加法を用いて行い、栄養(炭素、窒素、無機質、及びpH)は、所与の栄養濃度に関して設定した条件の連続的モニタリングに基づいて、連続的に調整する。
4.実施例002、ここでは、糸状生物の固相培養を、制御されたガス交換及び含量、相対湿度、及び温度を提供する第2の容器内でインキュベートされるトレイ容器で行う。この方式では、三次元粒子外糸状マトリックスは、トレイから、固体基質の上面から伸張する。
5.実施例002、ここでは、糸状生物の固相培養は、能動的に曝気される充填床バイオリアクター容器内で行い、そこでは、送り込まれた空気が特定のCO2、湿度、及び温度に対して条件付けされ、固体基質マトリックスを通り抜ける。
この方式では、容器内に空隙が残り、その中で三次元粒子外糸状マトリックスが発達する。
6.実施例002、ここでは、三次元糸状マトリックスが、脱細胞化の前に固体基質マトリックスから単離される。
7.実施例002、ここでは、三次元糸状マトリックスが脱細胞化前に固体基質マトリックスから単離されず、混成細胞塊は、培養の終了時に固体基質マトリックスから単離される。
8.実施例001、003、及び005、ここでは、糸状生物及び非糸状生物は、別の容器(それぞれA及びB)で平衡して培養し、非糸状細胞は容器Aから容器Bへ通り抜け、容器Bの糸状生物網で濾過され、糸状細胞網の全域に非糸状細胞を付着させる。完全に容器Bに通り抜ける非糸状細胞は再利用され、容器A又は容器Bへ戻る。容器Aから容器Bに向かう非糸状細胞の流れは周期的であっても連続的であってもよく、容器B内の糸状生物網の発達中に生じても発達後に生じてもよい。
9.実施例001~005、ここでは、糸状生物スキャフォールドにアガロース又はゼラチンゲルなどの第2の生体適合性材料が全面的に又は選択的に充填される。これらのゲルは内在する脈管又は構造を提供しないが、表面積及び空隙率の制御のもう1つの手段を提供し、第2の架橋剤として働き、繊維スキャフォールド内で弾性率の選択的調整を助け、接着細胞の細胞分化の誘導/命令並びに水の取り込み及び保持の強化を助ける。
10.実施例001~005、ここでは、糸状生物スキャフォールドに、非糸状生物の成長因子を全面的に又は選択的に吸収させる。これらの成長因子は、時限放出デバイス内に封入して、又は前記化合物を構成的に発現させるための合成生物学の使用によって、又は誘導型のDNA制御配列及び機構(すなわち、時間的、熱的、フィードバックループの利用可能性など)によって繊維スキャフォールド内に灌流させることができる(自然に拡散する)。
11.実施例001、ここでは、糸状生物スキャフォールドは、三次元繊維スキャフォールドの1以上の面で機械的作動デバイスと接続された固相支持体と付着して、又はそれ以外の付着で発達する。実施例001の工程4~6の際に、糸状生物スキャフォールドは、繊維スキャフォールド内での非糸状生物の増殖中に機械的作動を受け、分化及び増殖が刺激される。
【0019】
[009]種々の三次元真菌スキャフォールド形態に影響を及ぼすための培養条件の調整
1.実施例001~005、ここでは、糸状生物は腐生真菌、例えば、アイカワタケ属種である。このアイカワタケ属種は、個々の菌糸の等方性マトリックスから構成される栄養菌糸体を生産するために有利な条件下で選抜及び培養される(
図001)。アイカワタケ属種での例は、実施例001~005に記載の培地及び方式による27℃で15日間のインキュベーションであろう。
2.1の等方性マトリックスは、平均菌糸束厚が増大し、菌糸網異方性比率の増大を伴って(
図002)、又は伴わずに(
図003)電気屈性及び菌糸凝集を発現するように、並びにインキュベーション温度の上昇(例えば、37℃)、CO
2含量の上昇(例えば2%を超える)、揮発性有機化合物又はパラモルフォゲン、例えば、テルペンの添加、ガス交換率の低減、デンプン又は他の単炭水化物の補充の増大、脂肪酸の補充の増大、窒素補充の調整(例えば、ペプトンの補充による)、又は界面活性剤(例えば、Tween 80)の補充のいずれかの組合せによって楕円形態を発現するように(
図004)改変することができる。
3.1の等方性マトリックスは、インキュベーション温度の上昇、CO
2含量の上昇、揮発性有機化合物又はパラモルフォゲンの添加、ガス交換速度の低減、デンプン若しくは他の単炭水化物、脂肪酸又は窒素補充の低減、カルシウム補充の改変、又は界面活性剤の補充のいずれかの組合せによって低下した、菌糸網架橋(分岐、交差連絡、及び菌糸のもつれを合わせた効果)並びに/又は細胞体積密度を有し得る。
4.1の等方性マトリックスは、インキュベーション温度の低下;CO
2含量の低下(例えば、17~22℃への低下);ガス交換率の増大(例えば、CO
2が待機レベルに維持されるようにガス交換率を増大;デンプン又は他の単炭水化物補充の増大;セルロースなどの抵抗性炭水化物の補充;及びカルシウム補充の改変のいずれかの組合せによって増大した、菌糸網架橋及び/又は細胞体積密度を有し得る。
【0020】
[010]代用肉としての糸状真菌スキャフォールド上での筋細胞の増殖
1.実施例001~005及び008~009に従う、ここでは、糸状生物は実施例007に従う食用真菌、例えば、アイカワタケ属種である。
2.実施例001~005及び008~009に従う、ここでは、非糸状生物はウシ、鳥類(例えば、ニワトリ)、又は魚類細胞株の脊索動物筋細胞である。
【0021】
[011]繊維スキャフォールドペレットサイズの調整によりテクスチャーを改変する挽肉製品の生産
1.実施例003の工程、ここでは、糸状生物は、綿毛状ペレット形態を生産する食用真菌種(例えば、アイカワタケ属種)であり、非糸状生物はウシ(牛肉)筋細胞である。
2.実施例003、ここでは、アイカワタケ属種の培地への植え付け率は、得られる混成組織塊の特定のテクスチャー品を目標として調整される。例えば、粗いテクスチャーを目標とするためには、植え付け率を引き下げてより大きなペレットサイズとし、最終的にはより大きな牛肉筋細胞ペレットとなる。例えば、実施例3の添加率(8%v/v)は2%まで下げることができ、或いは又、75%濁度の植え付けを希釈してもよい。
或いは、微細なテクスチャーを作り出すには、植え付け率を引き上げてより小さなペレットサイズとし、最終的にはより小さな牛肉筋細胞ペレットとなる。例えば、実施例3の添加率(8% v/v)は16%まで上げることができ、或いは又、75%濁度の植え付けを濃縮してより高い細胞密度としてもよい。
3.得られるアイカワタケ属-牛肉筋細胞混成組織塊は、1及び2の組織ペレットサイズにより示される、「格子」、又はテクスチャーでの挽肉置換として適用される。
4.工程1~3、実施例007工程5~7のように代用筋細胞株を用いる。
【0022】
[012]特定の幾何学への更なる糸状生物の再成長を伴う実施例011
1.真菌スキャフォールドが牛肉筋細胞の培養前に脱細胞化されない、従って、真菌スキャフォールド画分の生存力が維持されること以外は、実施例011。
2.真菌-牛肉筋細胞混成塊を取り出した後に、その混成塊を所定の幾何形状、例えば、パティの鋳型に流し込む。
3.成形された真菌-牛肉筋細胞混成塊を真菌画分の連続的成長に適当な条件下でインキュベートして、糸状伸張により相互結合して所与の幾何形状の凝集性塊となった個々のペレットをもたらす。最終的な真菌-牛肉筋細胞形態は、食品製品として使用される。
【0023】
[013]代用タンパク質マトリックスの生産
1.実施例002、ここでは、糸状生物は、アイカワタケ属などの食用種であり、菌糸スキャフォールドは工程2の後にリアクター又は固相基質から無菌的に取り出され、更なる改変を行って又は行わずに食品製品として使用される。
【0024】
[014]代用タンパク質マトリックスの改変
1.実施例010~013、ここでは、採取した組織に、水への浸漬、培地栄養の変換、例えば、単糖の補充及び/又は環境条件、例えば、温度の37℃への引き上げによって過剰な細胞外粘液を発現させる。
2.実施例010~013、ここでは、より軟弱なテクスチャーを得るために生スキャフォールドに自己融解を誘導する。例えば、温度により誘導される自己融解は、インキュベーションサイクル(2~48時間)の終了時にインキュベーション温度を短期間40℃に上げることにより誘導され得る。
3.実施例010~013、ここでは、更なる酵素(例えば、キチナーゼ、トランスグルタミナーゼ、プロテアーゼ、又はグルカナーゼなど)がスキャフォールドを取り出すために適用され、又は構造のテクスチャーを改変するために発現される(合成生物学による)。
4.実施例010~013、ここでは、対象とする第2の生物生成酵素が、スキャフォールドのテクスチャー及び構造のin-vivo改変を行うためにスキャフォールドを共培養される。例えば、プロテアーゼ、グルカナーゼ(glucinases)、及びキチナーゼを産生するトリコデルマ属(Trichoderma)種又はムコール属(Mucor)種など菌寄生菌が第2の生物として使用可能である。
5.実施例010~013、ここでは、得られた構造のテクスチャー又は空隙率を変更するために、採取した組織を、加熱を伴って又は伴わずに、腐食性化合物(例えば、1M HCI又は、0.8M酢酸[ホワイトビネガー]など)に曝す。
6.実施例010~013、ここでは、キチンからアセチル基を除去し、及び/又はスキャフォールドのテクスチャー又は空隙率を変更するために、採取した組織を、加熱を伴って又は伴わずに、強塩基に曝す。キチン抽出のための方法の例は、http://www.iglobaljournal.com/wp-content/uploads/2015/07/6.-Krishnaveni- Ragunathan-IGJPS-2015.pdf.に記載されている。
7.実施例010~013、ここでは、テクスチャーを変更するため又は空隙率を改変するために、採取した組織を、キチンの既知の溶媒(例えば、CaCl2飽和メタノール、又はイオン液体など)に曝す。
8.実施例010~013、ここでは、組織の本来のテクスチャー、空隙率、又は密度を変更するために、採取した組織を、機械的分解(例えば、穿孔、切断、回転、又は加圧など)に曝す。
9.実施例010~013、ここでは、食用種の天然フレーバー化合物を栄養、合成生物学、又は環境条件により過剰発現させる(例えば、ヒラタケ属(Pleurotus)のベンズアルデヒド、ヌメリイグチ属(Suilmetes)のフェニルアセトアルデヒド、又はカワラタケ属(Trametes)のアニスアルデヒドなど)。
10.実施例010~013、ここでは、得られたマトリックス上で別の生物を培養し、ここで、前記生物は所望の調味料化合物(例えば、乳酸菌由来のジアセチル[バター風味]、又はコリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)由来のピラジン[ロースト風味]及びグルタミン酸塩[肉風味]など)を産生する。
11.実施例010~013、ここでは、食品製品を作製するために、市販の調味料、脂肪、着色料、ヘム、増粘剤、甘味剤、又は酸などが組織スキャフォールドに注入される。
12.実施例010~013、ここでは、最終産物のフレーバー、テクスチャー、又は色を変更するために、成長中の組織又は培地に化合物が添加させる(例えば、培地へのグルタミン酸塩の添加、ミスターによる着色剤の噴霧、天然フレーバー抽出物の噴霧、菌糸の分岐を誘導し最終テクスチャーを変更するための培地へのフォルスコリンの添加など)。
13.実施例010~013、ここでは、栄養価を増強し、及び/又は食肉の栄養価を再現するために、得られた組織にビタミン及び無機質を施す。
14.実施例010~013、ここでは、組織の最終的な栄養特性を変更するために、成長培地を補正する(例えば、脂肪酸濃度を高めるためのアミノ酸の添加、無機質の噴霧又は添加、ビタミンの補充、及びタンパク質など)。
15.実施例010~013、ここでは、実施例007及び009に従い、電気屈性及び菌糸凝集をもたらす真菌種又は培養条件の選択により、菌糸スキャフォールドに定義されたきめを付与する。
16.実施例010~013、ここでは、実施例007及び009に従い、介在及び/又は末端分生子形成をもたらす真菌種又は培養条件の選択により、菌糸スキャフォールドに、より繊細且つ壊れやすいテクスチャーを付与する。
17.実施例010~013、ここでは、実施例007及び009に従い、分生子形成をもたらす真菌種又は培養条件の選択により、菌糸スキャフォールドに、より繊細且つ壊れやすいテクスチャーを付与する。
18.実施例010~013、ここでは、実施例007及び009に従い、単一菌糸型、二菌糸型、又はそうでなければ構造的菌糸若しくは骨格菌糸を持たない菌糸形態を有する真菌種の選択により、菌糸スキャフォールドに、より繊細なテクスチャーを付与する。
19.実施例010~013、ここでは、実施例007及び009に従い、等方性菌糸形態をもたらす真菌種又は培養条件の選択により、菌糸スキャフォールドに均質なテクスチャーを付与する。
20.実施例010~013、ここでは、実施例007及び009に従い、三菌糸型、二菌糸型、又はそうでなければ構造的菌糸若しくは骨格菌糸を含む菌糸形態を有する真菌種の選択により、菌糸スキャフォールドに、弾力がある又は腰の強いテクスチャーを付与する。
21.実施例010~013、ここでは、実施例007及び009に従い、出芽増殖又は偽柔組織をもたらす真菌種又は培養条件の選択により、菌糸スキャフォールドに、集塊の低凝集性及び/又は凝集性を付与する。
22.実施例010~013、ここでは、実施例007及び009に従い、菌糸の分岐、交差連絡、及び/又はもつれを増大させるための培養条件の改変により、菌糸スキャフォールドにより大きな密度を付与する。或いは、実施例007及び009に従い、菌糸の分岐、交差連絡、及び/又はもつれを低下させるための培養条件の改変により、菌糸スキャフォールドに低密度を付与することもできる。
【0025】
[015]実施形態:ウシ肉
方法9及び10に従い、ここでは、繊維スキャフォールドは、そこに記載されている条件で成長させたアイカワタケ属の腐生菌であり、第2の非糸状生物は、ウシ属(Bos)の筋芽細胞から構成され、食品製品として使用される、増殖したウシ肉細胞が吸収された三次元食用真菌スキャフォールドを作製する。
【0026】
[016]実施形態:魚介類
方法005に従い、ここでは、繊維スキャフォールドは、そこに記載されている条件で成長させたクモノスカビ属の腐生菌であり、非糸状生物は、軟体動物門の筋芽細胞であり、食品製品又は構造材料として使用される、増殖した軟体動物肉細胞が吸収された三次元食用真菌スキャフォールドを作製する。
【0027】
[017]実施形態:中性代用タンパク質
方法013に従い、ここでは、非糸状生物の植え付けを行わずに、サンゴハリタケ属の栄養菌糸の固体ビレットが抽出される。このスキャフォールドを、014に従い、テクスチャーを改善するためにパパイヤ抽出物由来のキチナーゼの適用で後処理した後、テクスチャーを更に改変するために1モルの酢酸中で加熱する。次に、得られた組織に植物性脂肪を吸収させ、自己消化酵母、スモークフレーバー、トマト抽出物及びスパイスでマリネにし、無機質及びビタミンで強化する。次に、この組織をクリスピーとなるまで調理して非動物ベーコン様製品を生産する。
【0028】
[018]実施形態:フレーバー代用タンパク質
方法002に従い、ここでは、旨味及び必須食物無機質を付与するため、及び得られた組織を強化するために、培地にグルタミン酸塩を添加して、エノキタケ属の栄養菌糸の固体ビレットを成長させる。初期成長の後、in situでジアセチルを生産するために、繊維スキャフォールドに乳酸菌又は酵母を植え付け、バター様フレーバー及び芳香を添える。次に、組織を採取し、植物性脂肪及びタンパク質を吸収させ、調理する。結果として、自然の調味料及び肉様のテクスチャー及び特性を備えた食品が得られる。
【0029】
[019]実施形態:肺
方法006に従い、ここでは、繊維スキャフォールドは、そこに記載されている条件で成長させたマンネンタケ属の腐生菌であり、第2の非糸状生物は、気管支上皮細胞である。繊維スキャフォールドを009に記載される条件下で成長させ、ここで、肺胞の脈管特性を模倣するために凝集性の電気屈性成長を選択し、第2の細胞が構造化した三次元組織塊を形成することを可能とする。
【0030】
[020]実施形態:軸策成長を補助するための菌糸束を用いた脳
方法002及び006に従い、ここでは、繊維スキャフォールドは、そこに記載されている条件で、菌糸束成長、高い異方性、電気屈性、索状形態を発現する成長パラメーターを選択して成長させたナラタケ属の腐生菌である。これらの索状構造に、自然に構造化したスキャフォールドに沿って軸策様細胞成長を補助するために哺乳動物神経幹細胞などの第2の非糸状生物を植え付ける。
【0031】
[021]実施形態:美容アプリケーター
方法003に従い、ここでは、アイカワタケ属の栄養菌糸の固体ビレットを昼/夜の光周期下でインキュベートし、換気を増大させ、これにより、菌糸スキャフォールドの外因性色素沈着の発現が惹起される。次に、このスキャフォールドを014に従って後処理し、塗り心地及びフォームの堅さを改善するためにラウリン酸などの有益な脂肪酸を含浸させ、皮膚に塗布することができる天然生産色素を含むメイクアップアプリケーター様フォームを得る。
【0032】
[022]実施形態:使い捨てペイントブラシ
方法013に従い、ここでは、非糸状生物を植え付けずに、マンネンタケ属の栄養菌糸の固体ビレットを抽出し、014に従い、組織を剥離し空隙率/吸収能を高めるために10%過酸化水素で後処理すると、従来のポリマーフォームブラシの代用となり得る生分解性フォームビレットが得られる。
【0033】
[023]実施形態:センシング
方法002に従い、ここでは、繊維スキャフォールドは、そこに記載されている条件で成長させたクモノスカビ属の腐生菌であり、第2の非糸状生物は、シェワネラ属(Shewanella)などの電気活性細菌から構成され、下水、流去水、及び/又は汚染物の水への混入をモニタリングするための、集電装置及び電圧計に配線される。
【0034】
[024]実施形態:排水処理
方法002に従い、ここでは、繊維スキャフォールドは、そこに記載されている条件で成長させたマンネンタケ属の腐生菌であり、第2の非糸状生物は、酸素生産のためのシアノバクテリアと有機処理のためのベータプロテオバクテリア綱(Betaproteobacteria)のハイブリッド培養から構成され、堀込み便所の処理、又は災害救援などのために野外で使用及び/又は生産可能な生分解性カセットが得られる。
【0035】
[025]実施形態:抗生物質スポンジ
方法002に従い、ここでは、スキャフォールドは、そこに記載されている条件(抗生物質を含む又は含まない)で成長させたカワラタケ属の腐生菌(薬剤耐性を持つ又は待たない)から構成され、次に、このパネルを滅菌するか、抗生物質を吸収させるか、又は抗生物質産生生物を植え付けてインキュベートした後に滅菌し、包装する。この生分解性3Dスキャフォールドはその後、サイズに合わせて調整し、移植のために、創腔の内部抗生物質処置のために、又は外傷若しくは災害救援のための生分解性の一時的創傷包帯として使用することができる。
【0036】
[026]実施形態:吸収/散布
1.方法002に従い、その後、医学的処置のために所望の抗生物質を吸収させる。
2.次に、組織を冷湿布により平坦にして本質的に2D形状とする。
3.平坦化した組織を、組織品質を保持するために乾燥させる。
4.含浸済みの2D組織を小空間の挿入に使用する。
5.小さな挿入空間を超える空間内への拡大は、格子記憶により付与されるような特定の設計によって影響を受け、2Dフラットシートは、小さな穴/切開部に適合し、再水和し、元の形態に拡大し、接近不能な大きな空間を埋めることができる。
6.拡大した組織は、内部手術のための抗生物質に関して、内部拡散性スキャフォールドとしての役割を満たす。
【0037】
[027]実施形態:損傷した木の枝のための生分解性創傷包帯
1.方法002に従う。
2.得られた組織を、熱をかけることにより、生命活動的に不活性とする。
3.組織に、損傷した樹種に特有の抗真菌剤及び抗生物質含浸させる。
4.組織を、組織マットが分解される又は延び出すまで、一定の時間、損傷表面に適用する。
【0038】
[028]実施形態:半導特性を有する移植可能な真菌スキャフォールド
1.実施例001工程1~2、実施例002工程1~2、又は実施例003工程1~2、ここでは、糸状生物は、スエヒロタケ(Schizophyllum commune)又はアミガサタケ属種であり、その菌株はインジゴチンを産生する。
2.MgSO4 7H2Oを実施例001~003の培養培地に0.1~1%(質量/容量)で補充する。
3.インキュベーションは、選択された真菌株代謝及び成長を補助するために適当な環境条件下、外的インジゴチンの生合成が見られ、真菌菌糸の外部にインジゴチンの付着が生じるまで行う。この場合、インジゴチン生合成の程度及び外的付着は、工程の2のようにMgSO4 7H2Oの補充率によって変更可能である。
4.得られた、菌糸細胞の外的インジゴチン又はメラニン被覆を伴う三次元菌糸スキャフォールドを、移植可能な生体適合性、半導性材料としての下流使用のために単離する。
5.工程4の半導性菌糸スキャフォールドを実施例001~005工程3へ進める。
【0039】
[029]実施形態:外的インジゴチンを第2の表面に付着させる実施例028
1.実施例028工程1~3、ここでは、更なる細胞タイプ又は材料が、インジゴチン産生真菌株と共に培養培地に共存する。
2.工程1、ここでは、更なる細胞タイプは、実施例001~005の非糸状種である。
3.工程1、ここでは、培養培地に共存する更なる材料は有機基質である。
4.工程1、ここでは、培養培地に共存する更なる材料は無機基質である。
【0040】
[030]実施形態:代用食肉製品を生産するための灌流リアクターシステムにおける静置浸漬糸状真菌スキャフォールド形成リアクターユニットの実装形態
方法[001]に従う。
工程1で、選択される真菌は、食用種、例えば、アイカワタケ属種の一種、特に、マスタケ(Laetiporus sulphureus)であり、これをコーンスティープソリッド、グルコース、リン酸カリウム、硫酸マグネシウムから構成され、5.5~6.5にpH調整した培養培地を含有する容器に植え付ける。容器は、容器に培地が流れるようにするなどの設計がなされ、灌流バイオリアクターシステム内のスキャフォールドトレイユニットとして実装され、この場合、牛肉筋細胞用の懸濁バイオリアクターが、糸状菌が培養されるスキャフォールドトレイユニットに直接供給を行う。この容器は、スキャフォールドトレイ容器容積の中央に、スキャフォールドトレイ容器の全長にわたるスパージャ及びディフューザを含む。
工程2で、アイカワタケ属種が植え付けられた培地のインキュベーションは、スパージャ及びディフューザから供給される除菌空気により維持される溶存酸素レベルの静置条件下で牛肉筋細胞懸濁リアクターユニットからの流れのない状態で行われ、連続的な菌糸網がスキャフォールドトレイ容器内で発達することを可能とし、更にスパージャ及びディフューザ中へも成長し、連続的な菌糸網を所定の位置に係留する。スキャフォールドトレイバイオリアクターの操作は、バッチ法、流加法、又は連続供給法として行うことができる。この段階において、溶存酸素レベル、露光、温度、及び培地成分は方法[009]に従って変更可能である。
工程3に従う。
工程4で、脱細胞化化学物質を、牛肉筋細胞の成長因子を含有するウシ胎仔血清に置き換え、懸濁バイオリアクターユニットから糸状菌スキャフォールドトレイリアクターユニットへ向かう牛肉筋細胞の流れを開始する。牛肉筋細胞の脱細胞化糸状真菌細胞(菌糸)への接着を助けるために、培地に更にポリ乳酸、ポリカプロラクトン、又はポリグリコール酸を添加してもよい。
図005を参照すると、工程5及び6で、インキュベーションは、繊維スキャフォールドトレイユニット(3)と筋細胞懸濁リアクターユニット(1)の間でウシ胎仔血清及び懸濁牛肉筋細胞(6、7)の連続流又は間欠流で行い、その間に、筋細胞(2)は、スパージャ及びディフューザ(4)に係留されたスキャフォールドトレイリアクターユニット(3)内の菌糸スキャフォールド(5)に付着して複製し、繊維網の菌糸内容積内に筋細胞の凝集をもたらし、菌糸と筋細胞の混成細胞塊を作り出す。次に、この混成細胞塊は、代用肉としての後処理のために取り出される。
【0041】
[031]実施形態:代用食肉製品を生産するための灌流リアクターシステムにおける静置固相-浸漬糸状菌スキャフォールド形成リアクターユニットの実装形態
方法[002]に従う。
工程1で、固相基質は、トウモロコシ茎葉、デンプン、穀粒を用いて調製し、アイカワタケ属種、特に、マスダケなどの食用真菌種を植え付ける。調製された基質を、Mitchell et al. (Eds) Solid-State Fermentation Bioreactors, Springer-Verlag Berlin Heidelberg (2010)に記載されているものなどのタイプIトレイバイオリアクターシステムに充填し、温度、光、二酸化炭素、酸素、相対湿度、及び蒸着を制御したインキュベーション容器に装填する。
工程2で、インキュベーション条件は、5%二酸化炭素及びほぼ100%の相対湿度に維持する。加えて、この段階で、特定の異質な形態を果たすために方法[006]に従ってもよい。植え付け基質から負の重力屈性粒子外真菌菌糸マトリックスが発達し、これは更に、成長中に、方法[009]に従い、光、酸素、二酸化炭素、相対湿度,又は蒸着率の調整により改変される。粒子外菌糸マトリックスは発達して連続塊となり、これが後処理のために固体基質から単離される。
方法[001]工程3に従う。
脱細胞化菌糸スキャフォールドを灌流バイオリアクターシステム内のスキャフォールドトレイ容器に移す。実施形態030の工程4~6に従う。
【0042】
[032]実施形態:代用食肉製品の生産のための灌流バイオリアクターシステムでの糸状真菌マトリックスとの牛肉筋細胞の浸漬共培養の実装
方法[001]を方法[004]の改変に従って行う。
方法[001]工程1で、実施形態030に従い、培養培地を調製し、灌流バイオリアクターに実装されるトレイ容器リアクター内に植え付ける。
方法[001]工程2で、スキャフォールドトレイ容器内でのアイカワタケ属種のインキュベーションは、実施形態030に従い、アイカワタケ属種の糸状成長が樹立され、スパージャ及びディフューザに係留されるまで行う。
方法[005]工程1に従い、実施形態030のような牛肉筋細胞懸濁リアクターからの流れは、スキャフォールドトレイ容器内の発達中の真菌スキャフォールドにより開始される。この点で、培地は、アイカワタケ属種と牛肉筋細胞の両方の増殖を補助する栄養から構成され、コーンスティープソリッド、グルコース、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、ウシ胎児血清、牛肉筋細胞成長因子、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、又はポリグリコール酸を含み得、5~7にpH調製される。方法[004]工程2に従い、ヒラタケ(P.ostreatus)と牛肉筋細胞の両方が平衡して発達し、実施形態030工程5及び6の混成細胞塊を形成する。
【0043】
[033]実施形態:結晶構造定着をもたらすための含浸組織の使用
1.方法[002]に従って菌糸体組織シートを生産する。
2.組織シートを加圧して平坦とし、細胞間隙から残留水分を排出する。
3.次に、組織を、重鉱物を含む液体に曝し、完全に飽和するまで前記液体を吸収せる。
4.組織を、無機質定着区画として特定される場所に定着させる。
5.組織は周囲環境で乾燥し、細胞間隙に従前に保持されていた無機化残渣の時限放出として働く。
【0044】
[034]実施形態:脈管構造の作製
方法[001]を実施形態030に従って行い、糸状生物はワタゲナラタケ(Armillaria gallica)の菌糸束株であり、非糸状生物は内皮細胞、筋細胞、及び線維芽細胞の任意の組合せから構成される。
工程1及び2で、ワタゲナラタケは、スキャフォールドトレイバイオリアクターユニットの容積が直径<1mm~5mmの範囲の菌糸束のマトリックスで満たされている。
工程4~6で、内皮細胞、筋細胞、及び/又は線維芽細胞が、菌糸束の表面に付着して増殖し、凝集性の細胞外層又はスリーブを形成する。
後処理中、内皮細胞、筋細胞、及び/又は線維芽細胞のスリーブは、基礎にあるワタゲナラタケ菌糸束から、化学的溶解又は機械的分離の任意の組合せによって単離される。
【0045】
[035]実施形態:成長したツール
実施例001~005、ここでは、繊維スキャフォールドを、小工具(ハンマー)などの所定の形状に成長させる。スキャフォールドを非糸状細胞(すなわち、酵母及び細菌など)と共培養し、これらはスキャフォールドマトリックス上のポリマー、金属、ケラチン、方解石、又は蜘蛛糸に接着及び定着して、機械的強度及び構造安定性の増進をもたらす。化合物の合成及び定着は、細胞株の操作によって増強され得る。
【0046】
[036]実施形態:哺乳動物肉の代用(酵母)
実施例001~005、ここでは、繊維スキャフォールドは酵母細胞と共培養され、これらの酵母細胞は脱細胞化又は無傷細胞スキャフォールドのいずれかに接着させる。酵母は共培養で又は独立に培養され(ファーメンターB、
図5)、高価なウシ血清を用いる細胞培養、及び表面接着の必要を回避するために、哺乳動物細胞の代用として使用される。
1.酵母又は糸状生物は一般に、スキャフォールドに対する結合親和性を増強するために操作することができる(すなわち、キチン、ヒドロホビン結合モチーフ)。
2.酵母は、食肉に基づくフレーバー及び特性(すなわち、ヘム、脂肪、色素)を発現するように操作することができる。これらの化合物の発現は培養/集合の全域で構成的であってもよく、又は最適な発現及び影響のために、細胞集合過程の所望の時点で誘導することもできる。
【0047】
[037]実施形態:操作された真菌食用肉
実施例001~005、ここでは、繊維スキャフォールド生物は、自然の肉のフレーバー、色、テクスチャー、及び匂いの所望の特徴(すなわち、ヘム、脂肪、色素)を有するように遺伝的に操作される。
生物がどのように遺伝的に操作され得るかの例は、真菌組織内のグルタミン酸の組成を高めてより旨味のあるフレーバー特性を提供するため、又はメラニン誘導などの色素沈着経路に関してそうするために、既存の遺伝子を上方調節する方法を含む。更に、生物は、菌糸体のキノコへの分化をもたらす、テクスチャー変化を補正若しくは限定する特定の遺伝子を「ノックアウト」又は排除するように操作することができる。最後に、生物は、ヘムなどの別の生物に由来する分子に対するプロモーター及び遺伝子カセットを導入するように操作することができる。
【0048】
[038]実施形態:治療的送達
実施例001~005、ここで、繊維スキャフォールド生物及び/又は共培養非糸状細胞は、移植組織(すなわち、皮内、皮下、及び筋肉内など)に治療薬を送達するために使用される。この実施形態では、治療薬は非糸状細胞により産生され、繊維スキャフォールド内に封入される。治療薬の放出は、スキャフォールドと周囲組織の間の濃度差に関係し得る(例えば、フィック又は非フィックの拡散)。この治療薬は又、スキャフォールドが分解されるにつれ又は前記組織に組み込まれるにつれて周囲組織に放出され得る。
1 糸状生物は一般に、送達された治療薬を発現するように、又は送達された治療薬に対する細胞表面結合/放出親和性を有するように遺伝的に操作することができる。
2.非糸状生物は、送達された治療薬を発現するように、又は送達された治療薬に対する細胞表面結合/放出親和性を有するように遺伝的に操作することができる。
3.治療薬は、構成的化合物合成、又は時間的分解放出特性(治療薬結合親和性)により放出され得る。
4.両(1~2)細胞とも、移植された組織又は細胞外マトリックスにおいて治療薬の力価を検出する、従って、治療薬の合成又は放出を調節するように操作することができる。
【0049】
[039]実施形態:自己スキャフォールド(センス応答)
実施例001~005、ここでは、繊維スキャフォールド生物及び/又は共培養される非糸状細胞は、微生物混入物及び病原体(大腸菌(E.coli)、Staph)を探知するように遺伝的にプログラムされる。
この実施形態では、非糸状株(すなわち、細菌、酵母)が、ゲノムに組み込まれる、ヒトの健康を脅かす、又は繊維スキャフォールドマトリックスの構造的完全性に有害な細菌及び真菌などの微生物混入に関連するシグナルに応答する複数のセンサーを含むように遺伝的に操作される。複数のセンサー及び特異性は、この株を陽性同定するための遺伝的論理ゲートによるこれらのセンサーの組込みによって達成される。
操作された非糸状生物は、スキャフォールドと共に共培養され、感染に対する能動免疫を提供するために生細胞として維持される。これらの共培養株は、他の指標と共に混入物に関連するクオラム分子の特定のパターンに応答し、生産する適切な抗生物質/抗真菌薬を選択するために分級回路を使用する。
1.食品の安全性-食品が、病原性微生物(すなわち、大腸菌、サルモネラ菌属、クロストリジウム属など)の存在を特定し、前記混入物を抑制する又は死滅させるための種特異的抗生物質を発現及び分泌することにより応答を誘発することを可能とする。
2.移植-生きている細胞スキャフォールドマトリックスが、問題のある微生物混入物(すなわち、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)など)の存在を探知し、外科的移植の前後に侵入微生物を抑制する又は死滅させるための応答を誘発することを可能とする。
【0050】
[040]実施形態:生きているスキャフォールドの有用性
実施例001~005及び[007]生物、糸状細胞及び非糸状細胞が良好な培養及び外科的移植スキャフォールドの生存力のために制限栄養要求を発現することを可能とする。
1.天然の成長促進生物であり、高密度化を目的とする共培養マイクロバイオームに微生物を入れる。
2.培養/スキャフォールド構築工程でシステム全体にわたる旺盛な成長を促進するように微生物を遺伝的に改変する[007]。
3.医療機器として移植した場合にスキャフォールドの健全性及び持続可能性を補助するように微生物を遺伝的に改変する[007]。
【0051】
[041]実施形態:組織の生成/スキャフォールドの取り出し
実施例001~005、ここでは、繊維スキャフォールド生物は、共培養細胞(すなわち、筋芽細胞)の接着及び分化を補助して、機能的組織形態、すなわち、医学的デバイス、及び食品などを確立するために使用される。
1.スキャフォールドは、組織(すなわち、医学的移植、食品)の意図される有効寿命の間、形成された組織の一部として留まり、構造的支持を提供し続ける、又は付着した細胞の生存力及び/又は成長を助長する。
2.スキャフォールドが最終組織形態から「取り出される」。繊維スキャフォールドは、酵素、化合物、pH、及び熱化学的適用などを用いてin vitro又はin situで分解される。
3.スキャフォールド分解酵素、化合物、小分子、又はその他の基質は、最終組織の形成中に(すなわち、発酵槽内に)、外部供給源からリアクターに供給するか、又は共培養細胞(接着又は自由浮遊)から前記分解剤を発現させることにより導入することができる。
4.分解剤は、第2のリアクター内の微生物により産生させることもできる。薬剤は単離及び精製することもできるし、又は細胞懸濁液内で使用した後、最終的な組織に移して繊維スキャフォールドマトリックスを除去若しくは分解し、「純粋な組織」、すなわち、筋芽細胞を残すこともできるなどである。
【0052】
よって、本発明は、特に目的とする菌糸網形態を有する真菌スキャフォールド材料を生産するために、糸状菌の表現型の可塑性を活用する菌糸体スキャフォールドを作製する方法を提供する。
本発明は又、細胞に基づく食肉技術のための灌流バイオリアクターシステムに実装するための菌糸体スキャフォールドも提供する。
本発明は又、懸濁培養又は浸漬培養で哺乳動物細胞の接着、増殖及び凝集のための最適な繊維生複合基質を提供する菌糸体スキャフォールドを提供する。
本発明は又、生物医学的適用のために空隙率及び構造が独自に調製可能であるような独特な製造の可塑性を備えた生体適合性及び生分解性の菌糸体スキャフォールドを提供するための方法を提供する。
【国際調査報告】