(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(54)【発明の名称】光学顕微鏡および顕微鏡法
(51)【国際特許分類】
G02B 21/00 20060101AFI20220111BHJP
G02B 21/36 20060101ALI20220111BHJP
G02B 21/06 20060101ALI20220111BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
G02B21/00
G02B21/36
G02B21/06
G01N21/64 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021528348
(86)(22)【出願日】2019-11-07
(85)【翻訳文提出日】2021-07-15
(86)【国際出願番号】 EP2019080616
(87)【国際公開番号】W WO2020108948
(87)【国際公開日】2020-06-04
(31)【優先権主張番号】102018129657.6
(32)【優先日】2018-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506151659
【氏名又は名称】カール ツァイス マイクロスコピー ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】CARL ZEISS MICROSCOPY GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100180781
【氏名又は名称】安達 友和
(72)【発明者】
【氏名】アンハット,ティエモ
(72)【発明者】
【氏名】シュヴェット,ダニエル
【テーマコード(参考)】
2G043
2H052
【Fターム(参考)】
2G043EA01
2G043EA02
2G043FA02
2G043HA01
2G043HA02
2G043HA09
2G043KA08
2G043KA09
2G043LA03
2G043NA01
2H052AA08
2H052AA09
2H052AB01
2H052AB24
2H052AC04
2H052AC15
2H052AC18
2H052AC34
2H052AF02
2H052AF14
2H052AF25
(57)【要約】
光学顕微鏡は、照明光(12)で試料(35)を走査するスキャナ(25)と、試料光(15)を測定するための光検出器(60)とを備える。複数のマイクロレンズ(51~54)を備えるマイクロレンズアレイ(50)は、光検出器(60)の前で、瞳平面の領域中に配置されている。光検出器(60)は、各マイクロレンズ(51~54)の後方に、それぞれ複数の検出器素子(61~65)を備え、その完全な読み出し周波数は、少なくとも100kHzである。各マイクロレンズ(51~54)の後方に配置された検出器素子(61~65)を用いて、試料光(15)に関する波面情報を決める。さらに、検出器素子(61~65)からの信号を加算して試料スポット信号を算出する。スキャナ(25)を用いて、照明光を次々に様々な試料スポット向け、かつ各試料スポット信号を記録し、この際、様々な試料スポットの少なくともいくつかについては、各波面情報も決定される。複数の試料スポット信号から試料画像を演算する際に、求められた波面情報を考慮することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明光(12)で試料(35)を走査するスキャナ(25)と、
試料光(15)を測定するための光検出器(60)と、
複数のマイクロレンズ(51~54)を備え、瞳平面の領域中に配置された、マイクロレンズアレイ(50)と
を備え、
各マイクロレンズ(51~54)の後方に、前記光検出器(60)の複数の検出器素子(61~65)がそれぞれ配置されている光学顕微鏡であって、
前記光検出器(60)の完全な読み出し周波数は、少なくとも100kHzであり、
電子装置(70)が設けられ、
前記電子装置(70)は、
前記マイクロレンズ(51~54)の後方にそれぞれ配置された前記検出器素子(61~65)を用いて、強度分布を測定し、そこから前記試料光(15)に関する波面情報を導き出し、
前記検出器素子(61~65)からの信号を加算して試料スポット信号を算出し、
前記スキャナ(25)を用いて、照明光(12)を次々に様々な試料スポット向け、各試料スポット信号を記録し、この際、前記様々な試料スポットの少なくともいくつかについては、前記試料光(15)に関する各波面情報も決定される
ように構成されていることを特徴とする、光学顕微鏡。
【請求項2】
前記電子装置(70)は、
前記複数の試料スポット信号から1つの試料画像を演算し、この際、同じ検出器素子(61~65)を用いて求められた波面情報を、前記試料画像の前記演算のために考慮する
ように構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の光学顕微鏡。
【請求項3】
前記電子装置(70)は、
各マイクロレンズ(51~54)の後方の前記各強度分布から、それぞれ1つの焦点位置(71~74)を決定し、このようにして決定された複数の焦点位置(71~74)から前記波面情報を導き出す
ように構成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の光学顕微鏡。
【請求項4】
前記電子装置(70)は、
前記求められた波面情報から、前記各関連する1つまたは複数の試料スポット信号についての点拡がり関数を求め、
前記試料画像の演算において、前記試料スポット信号のデコンボリューションのために前記求められた点拡がり関数を利用する
ように構成されていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の光学顕微鏡。
【請求項5】
前記各マイクロレンズ(51~54)について決定される焦点位置(71~74)は、平均化された焦点位置であり、このために、前記電子装置(70)は、
前記各マイクロレンズ(51~54)の後方に配置された検出器素子(61~65)により、次々に照射された様々な試料スポットについて記録された信号を平均化または加算する
ように構成されていることを特徴とする、請求項3または4に記載の光学顕微鏡。
【請求項6】
平均化された焦点位置を演算する試料領域のサイズを、等波面試料片に適応させるために、前記電子装置(70)は、
前記マイクロレンズ(51)のうちの1つに対する各前記検出器素子(61~65)を用いて、まず、連続して照明される試料スポットごとに、1つの瞬間的な焦点位置(71)を決定し、
複数の瞬間的な焦点位置(71)を平均化し、前記平均化されるべき瞬間的な焦点位置(71)の数が、連続する瞬間的な合焦位置(71)間の差に応じて確定される
ように構成されていることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の光学顕微鏡。
【請求項7】
適応光学素子(20)が照明光路中に存在し、前記適応光学素子により、前記照明光(12)の波面がその断面にわたって可変であるように影響を受けることができ、
さらに、前記電子装置(70)は、前記試料画像の演算のみのためでなく、前記適応光学素子(20)の設定のためにも、前記求められた波面情報を考慮するように構成されていることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の光学顕微鏡。
【請求項8】
検出光路中に適応検出光学系(40)が存在し、前記適応検出光学系を用いて、前記試料光(15)の波面がその断面にわたって可変であるように影響を受けることができ、
前記電子装置(70)は、前記試料画像の演算のみのためでなく、前記適応検出光学系(40)の設定のためにも、前記求められた波面情報を考慮するように構成されていることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の光学顕微鏡。
【請求項9】
前記電子装置(70)は、走査試料スポットの数を変動させるように構成され、その後、試料スキャン中に、特に前記求められた波面情報が連続する試料スポットの間でどの程度変化するかに応じて、前記適応光学素子(20)または前記適応検出光学系(40)の調整が行われることを特徴とする、請求項7または8に記載の光学顕微鏡。
【請求項10】
データバッファが存在し、前記電子装置(70)は、
前記データバッファ中に、連続して照明された2つ以上の試料スポットについて記録された信号を、前記試料(35)の前記走査中にロードし、
前記データバッファに一時的に格納された信号のデータの平均化を行い、
前記平均化された信号に基づいて、実際の波面情報を導き出し、
前記試料(35)の走査中に、このようにして求められた現在の波面情報に基づいて、前記適応光学素子(20)または前記適応検出光学系(40)を設定する
ように構成されていることを特徴とする、請求項7~9のいずれか一項に記載の光学顕微鏡。
【請求項11】
前記適応光学素子(20)または前記適応検出光学系(40)を設定するために、前記試料(35)の走査中に実施される現在の波面の演算は様々なものがあり、特にデータの平均化に関して、前記試料(35)の完全な走査後に前記試料画像の演算用に使用される波面を求めることとは異なることを特徴とする、請求項9または10に記載の光学顕微鏡。
【請求項12】
前記電子装置(70)は、
様々な試料スポットについて記録された検出器素子(61~65)の信号をデータメモリ中に格納し、
いかに前記信号から前記波面情報を求め、試料画像を演算するかについて、ユーザーに異なる選択肢を提供する
ように構成されていることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の光学顕微鏡。
【請求項13】
照明光(12)を試料(35)に向けるために、前記電子装置(70)および前記光学素子(21、23、24、26、27)は、2本以上の照明光線で前記試料(35)を同時に走査するように構成され、
中間像面の領域中に、ビームスプリッタ、特にレンズアレイが設けられていて、これにより、異なる照明光に由来する試料光線が、異なる光路に分割され、前記異なる光路は、前記マイクロレンズアレイ(50)の異なる部分につながり、その後方にある検出器素子(61~65)および/または適応検出光学系(40)にも共につながることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の光学顕微鏡。
【請求項14】
前記電子装置(70)中には、特にニューラルネットワークに基づく評価アルゴリズムが格納されており、前記評価アルゴリズムは、決定された前記複数の焦点位置(71~74)から、前記試料光(15)の波面(16)を求めるように設計されていることを特徴とする、請求項3~13のいずれか一項に記載の光学顕微鏡。
【請求項15】
前記電子装置(70)は、同じ試料スポットについて前記検出器素子(61~65)により記録された信号から、試料スポット信号として共焦点信号を演算するように構成されていることを特徴とする、請求項1~14のいずれか一項に記載の光学顕微鏡。
【請求項16】
前記検出器素子(61~65)は、光子計数検出器素子、特に単一光子アバランシェダイオードであることを特徴とする、請求項1~15のいずれか一項に記載の光学顕微鏡。
【請求項17】
スキャナ(25)を用いて、照明光(12)で試料(35)を走査する工程と、
前記試料(35)から発せられた試料光(15)を、マイクロレンズアレイ(50)を用いて光検出器(60)に導く工程と
を含む方法であって、
前記マイクロレンズアレイ(50)が、複数のマイクロレンズ(51~54)を備え、かつ瞳平面の領域中に配置され、
前記光検出器(60)が複数の検出器素子(61~65)を備え、前記複数の検出器素子(61~65)が各マイクロレンズ(51~54)の後方にそれぞれ配置され、
前記検出器素子(61~65)は、前記試料(35)の前記走査が行われる画素滞留時間内の周波数で読み出され、
前記マイクロレンズ(51~54)の後方にそれぞれ配置された前記検出器素子(61~65)を用いて、強度分布が測定され、そこから前記試料光(15)に関する波面情報が導き出され、
検出器素子(61~65)からの信号が加算されて、試料スポット信号が算出され、
前記スキャナ(25)を用いて、照明光(12)が次々に様々な試料スポットに向けられ、各試料スポット信号が記録され、前記様々な試料スポットの少なくともいくつかについては、前記試料光(15)に関する各波面情報が決定されることを特徴とする、顕微鏡法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
第1の態様において、本発明は、請求項1の前提部に記載の光学顕微鏡に関する。第2の態様において、本発明は、請求項17の前提部に記載の顕微鏡法に関する。
【背景技術】
【0002】
顕微鏡画像を可能な限り高い品質で撮像するためには、顕微鏡の光路内の波面を知ることが有利である。
【0003】
検査対象の試料上に向けられる照明光の波面、および検出対象の試料光の波面は、特に光学的に複雑な媒体により変化しうる。このような媒体は、屈折率が不均一であることがありえ、小さな粒子における多重散乱によって点像関数(点拡がり関数)が破壊されうる。このような媒体を照明光および試料光が通過すると、検出された測定信号は、瞬間的に検査している試料領域のみならず、通過した他の媒体の影響も受ける。励起の効率が悪くなり、これにより、より高い照度が必要となり、その結果試料の光損傷にもつながる可能性がある。
【0004】
このような悪影響を検出し、可能な補償を行うために、瞳平面中の波面センサーによる直接波面測定や、像面周辺の測定による間接的な波面演算が公知であるが、これらについては後に詳しく説明する。
【0005】
一般的な光学顕微鏡は、瞳平面つまり対物レンズの瞳と共役な面で試料光の波面を直接測定することに基づいている。このような光学顕微鏡は、例えば、非特許文献1に記載されている。このような一般的な光学顕微鏡は、試料を照明光で走査するスキャナと、試料光を測定する光検出器とを備える。例えば、照明光により試料の蛍光が励起され、その結果試料光が蛍光になるようにすることができる。光学顕微鏡は、さらに、瞳平面の領域中で光検出器の前方に配置されている複数のマイクロレンズを備えるマイクロレンズアレイを備え、光検出器の方は、複数の検出器素子を備え、これらの複数の検出器素子が各マイクロレンズの後方に配置されている。
【0006】
したがって、一般的な顕微鏡法は、スキャナを用いて試料を照明光で走査する工程と、マイクロレンズアレイを用いて試料からの試料光を光検出器に向ける工程とを含む。マイクロレンズアレイは、複数のマイクロレンズを備え、瞳平面の領域中に配置されている。光検出器は、複数の検出器素子を備え、これらの複数の検出器素子のそれぞれは、各マイクロレンズの後方に配置されている。
【0007】
このようなマイクロレンズアレイと光検出器との配置は、シャック・ハルトマン・センサーとも呼ばれ、波面の測定が可能である。波面の丸みまたは湾曲は、マイクロレンズが入射光を屈折および合焦させたりする方向を決定する。これにより、マイクロレンズの後方にある検出器素子によって、入射光の局所的な波面曲率を決定することができる。複数のマイクロレンズを使用することで、光線の全断面にわたって波面を測定することができる。
【0008】
求められた波面情報を適応光学系の設定に利用することは公知である。この適応光学系は、例えば、照明光の光路中に配置された変形可能なミラーでありうる。この変形可能なミラーは、波面情報を用いて、収差や、光学的に複雑な媒体ゆえの波面の望ましくない変化を少なくとも部分的に補償するように設定される。
【0009】
例えば上述の非特許文献中で記載されているように、直接波面測定を行う従来の光学顕微鏡では、試料光を分割して、その一部分をシャック・ハルトマン・センサー(例えば、EMCCDカメラチップを備えるセンサー)に導く。一方、試料光の他の部分は、別個の検出器(例えば、フォトマルチプライヤー、PMT)で測定され、試料画像の生成に使用される。これらの別個の検出器が利用されている理由は、高速スキャンを行うレーザー走査顕微鏡の短い画素滞留時間が、従来技術によるシャック・ハルトマン・センサーの測定時間よりも短いためである。シャック・ハルトマン・センサーに入射した試料光は、部分的に試料画像を生成するためには利用できない。したがって、従来の光学顕微鏡では、試料光のかなりの部分を実際の画像生成のためには断念せねばならなかった。
【0010】
また、従来の光学顕微鏡の欠点として、補償速度の低さがある。適応光学系を介した補償は、走査された試料スポットごとに個別に行うことはできない。むしろ、シャック・ハルトマン・センサーの方が、その測定時間がより長いため、より大きな試料領域についてのみ波面を決定する。これにより、適応光学系の調整はより大きな試料範囲ごとのみにも行われるが、これは波面の影響の受け方が試料領域内で大きく異なっていても行われる。
【0011】
瞳平面中で波面を測定するハルトマン・シャックセンサーは、直接波面センサー(英語:direct wavefront sensor)とも呼ばれる。波面を精確に測定するためには、瞳平面中でのこの直接測定が重要である。間接的な波面測定は、通常像面の周りのいくつかの面中で行われるが、あまり有効ではない。波面の変形が大きいほど、画像を撮像した後でデータ評価を行う面の数を多く選択せねばならない。このような間接波面センサー(英語:indirect wavefront sensor)のデータ評価については、非特許文献2中に説明されている。間接波面センサーを備えた対応する光学顕微鏡は、特許文献1および特許文献2から公知である。記録されたデータから位相を再構成することができるが、この際、正確な結果を得るためには様々な平面での複数の測定が必要である。さらに、波面のこのような再構成は、収差が比較的小さく、測定のノイズが少ない場合にのみ機能する。
【0012】
したがって、正確な結果を得るためには、冒頭に述べた直接波面センサーの方が優れており、瞳中に配置することで波面の測定が可能となり、例えば記録された画像データから波面を再構成することは行われない。しかし、上述のように、直接波面センサーの欠点は、試料光のかなりの部分が波面センサーでの測定に使用され、試料画像の実際の撮像には利用されないことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許出願公開第2015/0185454号公報
【特許文献2】独国特許出願公開第102013015931号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Wang他、“Rapid Adaptive Optical Recovery of Optimal Resolution over Large Volumes”、Nature Methods、2014年6月;11(6):625~8頁. doi:10.1038/nmeth.2925
【非特許文献2】A.Polo他、“Linear phase retrieval for real-time adaptive optics”、J.Europ.Opt.Soc.Rap.Public.8、13070(2013年)
【発明の概要】
【0015】
本発明の目的は、可能な限り単純な構造で、試料の撮像と波面の測定とを可能な限り正確かつ効率的に行うことができる光学顕微鏡および顕微鏡法を提供することであると考えられる。
【0016】
この目的は、請求項1の特徴を備えた光学顕微鏡と、請求項17の特徴を備えた方法とによって達成される。
【0017】
本発明による光学顕微鏡および本発明による顕微鏡法の有利な変形例は、従属請求項の対象であり、さらに、以下の説明中でも説明されている。
【0018】
上述の様式の光学顕微鏡において、光検出器は、少なくとも100kHzの完全読み出し周波数を有する。さらに、電子装置が設けられ、これが以下のように、すなわち、
・マイクロレンズの後方にそれぞれ配置された検出器素子を用いて、強度分布を測定し、そこから試料光に関する波面情報を導き出し、
・検出器素子からの複数のまたは全ての信号を加算して試料スポット信号を算出し、とりわけ、加算ないし積分し、
・スキャナを用いて、照明光を次々に様々な試料スポット向け、各試料スポット信号を記録し、この際、様々な試料スポットの少なくともいくつかについては、試料光に関する各波面情報も決定される
ように構成されている。
【0019】
特に、この電子装置は、ここで複数の試料スポット信号から1つの試料画像を演算することができ、この際、求められた波面情報を、試料画像の演算のために考慮する。ここでは、波面情報と試料スポット信号とが同じ検出器素子で得られる。
【0020】
本発明によれば、上述の様式の方法では、検出器素子を、試料の走査が行われる画素滞留時間内の周波数で読み出す。一方では、マイクロレンズの後方にそれぞれ配置された検出器素子を用いて、強度分布を測定し、そこから試料光に関する波面情報を導き出す。他方では、検出器素子からの信号を加算して試料スポット信号も算出する。スキャナを用いて、照明光を次々に様々な試料スポット向け、各試料スポット信号を記録する。様々な試料スポットの少なくともいくつかについては、試料光に関する各波面情報も決定する。これで、複数の試料スポット信号から、1つの試料画像を演算することができ、この際に、この試料画像を演算するために、求められた波面情報を考慮する。
【0021】
それぞれのマイクロレンズ、または少なくともいくつかのマイクロレンズについて、各マイクロレンズの後方に配置された検出器素子を用いて、それぞれ強度分布が測定される。この各強度分布は、関連するマイクロレンズでの波面形状に特徴的である。したがって、強度分布またはこれから導き出される情報を、波面の尺度として利用することができる。電子装置は、複数のマイクロレンズについて、または各マイクロレンズについて、各マイクロレンズの後方に配置された検出器素子を用いて焦点位置を決定することができる。このようにして決定された複数の焦点位置は、波面情報とみなすことができる。あるいはこれに代えて、焦点位置から波面の情報を導き出すこともできる。原理的には、波面形状に特徴的な任意の情報を波面情報とみなすことができる。本明細書では、用語「波面」と「波面情報」とは交換可能である。
【0022】
従来、通常、シャック・ハルトマン・センサーを用いてゆっくりと測定を行う間に、いくつかの試料スポットを次々と走査していた。これにより、従来、読み出しは、1画素滞留時間よりも長い時間をかけて行っていた。これにより、2つの別個の検出器、すなわち、シャック・ハルトマン・センサー用の検出器と、試料画像信号を記録するための別の(より高速な)検出器とが必要であった。本発明によれば、この目的のために第2の検出器は不要である。完全な読み出し周波数が少なくとも100kHz、詳細には、少なくとも200kHzまたは少なくとも1MHzである光検出器を使用することで、必要な全ての検出器素子の読み出しをぴったり1画素滞留時間内に行うことができる。したがって、この画素滞留時間の値は、特に10μ秒以下、5μ秒以下または1μ秒以下でありえる。これにより、検出器素子は、走査される試料スポットごとに1つの信号を出力する。画素滞留時間が特に短い場合には、全ての検出器素子が読み出されないように設けることができ、その結果、使用される検出器素子について、完全な読み出し周波数よりも高い読み出し周波数が得られるように設けることができる。
【0023】
パルス照明の場合、画素滞留時間または画素滞留期間とは、ある光のパルスから次の光のパルスまでの期間を指し、この場合、光のパルスがスキャナによって様々な試料スポットに向けられる。連続照明では、ある特定の試料スポットが照明されている間の照明期間を、画素滞留時間と考えることができる。特に、画素滞留時間は、測定信号が次の試料スポット/画素に割り当てられると定められうる期間と理解することができる。画素滞留時間内で、ある検出器素子によって記録された測定信号が積分される。ある検出器素子により1画素滞留時間内に複数の測定信号が連続して記録された場合、それらを加算することができる。1画素滞留時間内に複数の測定信号が連続して記録される場合、これらは、例えば、オーバーサンプリングの場合スキャナの動きが連続することにより、異なるサブ画素領域に対応することがある。ある画素滞留時間が経過すると、次の画素滞留時間中に記録された測定信号は、次の試料スポット/画素に割り当てられる。
【0024】
検出器素子の読み出しを十分に高速化可能にするために、この光子計数検出器素子は、特に単一光子アバランシェダイオードでありうる。光子計数検出器素子は、通常シャック・ハルトマン・センサーに使用されていた検出器素子よりも、はるかに高いゲインが得られ、かつこれによりMHz領域の速度までの高速測定が可能となる。これにより、広い範囲の画素滞留時間において、走査すべき試料スポットごとに測定信号を記録することが可能になる。高速な光子計数検出器素子を使用できるためには、入射光子の速度が速すぎてはいけない。この目的のためには、マイクロレンズアレイとそれに続く光検出器とを、直接波面センサーとして配置することが有用である。瞳平面中では、比較的大きな領域が比較的均一に照射される一方で、画像平面中では、光の強度ははるかに小さな面積で集束する。したがって、瞳中では、様々なマイクロレンズとそれに続く検出器素子とに光子流を比較的均等に分布させることができる。これにより、個々の光子計数検出器素子が過剰な強度を受けないこと、すなわち検出器素子のデッドタイム中に光子が衝突することをほぼ回避することが達成可能となる。
【0025】
米国特許出願公開第20150185454号公報および独国特許出願公開第102013015931号公報で本出願人が記載した間接波面測定を行う光学顕微鏡では、波面情報を直接測定することができず限られた範囲でしか再構成することができない画像面中で測定を行っている。加えて、試料スポットが共焦点検査されることで、センサー面内のわずかな検出器素子のみの上に非常に高い光度が発生する。これにより、検出器素子は光子計数検出器素子として設計・動作させることはできない。さらに、米国特許出願公開第20150185454号公報および独国特許出願公開第102013015931号公報では、マイクロレンズから検出器素子へ光をさらに伝送するために光ファイバーを使用している。本発明によれば、これは必須ではなく、むしろ、光子計数検出器素子を、マイクロレンズの真後ろで、瞳平面中で、間に何も部材を介在させないで配置することが好ましくありえる。本発明によれば、瞳平面中では、マイクロレンズごとに多数の検出器素子を使用することができるため、それぞれのマイクロレンズへの光の焦点の位置を決定することができ、精密な波面測定を行うことができる。
【0026】
本発明による光学顕微鏡の電子装置では、特に、求められた各波面(情報)から、関連するそれぞれの試料スポット信号についての点拡がり関数(PSF、英語で、point spread function)を求めるように備えることができる。特に、このPSFはフーリエ変換を介して波面から決定することができ、光学顕微鏡による情報伝達や結像を表している。PSFを知ることで、原理的に既知の方法で、記録された試料スポット信号を算出して、品質の改良した試料画像を演算することができる。特に、試料画像の演算においては、試料スポット信号のデコンボリューションに、求められた点拡がり関数を利用することができる。このようにして、光学的に複雑な媒体の収差または作用を計算上で補償することができる。
【0027】
特に、ある特定の期間内に受信した光子の数を出力するように動作する光検出器素子は、光子計数検出器素子として理解することができる。光検出器素子の中には、選択的にガイガーモードとも呼ばれるこの動作モード以外のモードでも動作させうるものもあるが、その場合は、もはや光子計数検出器素子とは表現されない。光子計数検出器素子の一例は、例えば単一光子アバランシェダイオード(英語では、single-photon avalanche diode、SPAD)である。光子計数検出器素子は、1個の光子を受信するとすぐに、増幅信号を出力することができ、出力される増幅信号の数は受信した光子の数と一致する。SPAD検出器素子は、シャック・ハルトマン・センサーで通常使用されている検出器素子に比べて、はるかに高いゲインを有する。その結果、この種の検出器素子は、従来採用されたシャック・ハルトマン・センサーとは異なり、ガイガーモードで動作させることが可能である。
【0028】
また、SPADアレイの前には、追加のマイクロレンズアレイがあることも可能である。これには、フィルファクターを高めるという課題があり、つまり、全ての入射光を可能な限り後続の各検出器素子に向けるという課題がある。追加のマイクロレンズアレイのレンズ数は、検出器素子の数と同じでよい。追加のマイクロレンズアレイは、先に説明したマイクロレンズアレイの焦点面にあってもよい。
【0029】
検出器素子の記録された信号は、一方では波面決定に使用され、他方では他の検出器素子のさらなる信号(測定信号)とともに加算されて、試料スポット信号となる。このようにして、全ての記録された信号を試料スポット信号の生成に利用することができ、光の一部分が波面の別の測定のために失われることはない。
【0030】
原理的には、様々な検出器素子の同時に記録された信号(光子計数)のみから、波面を決定することができる。しかし、測定精度を高めるためには、連続して記録された複数の信号を介した平均化が有意義でありうる。照明光がスキャン移動するがゆえに、次々に記録された信号は、隣接する様々な試料スポット/試料領域に由来する。試料媒体によっては、隣接する試料スポットについて非常に類似の収差または波面変形が発生する場合がありえる。この場合は、「等波面パッチ/片」と言う。これは、通過する光に対する収差または波面の影響が実質的に同じである試料部分を指す。これにより、波面決定のための信号の平均化を、まさに等波面パッチに対応する試料区間に限定すれば、測定精度を高めることができる。したがって、いくつかの実施形態では、各マイクロレンズについて決定される焦点位置は、平均化された焦点位置である。平均化された焦点位置は、電子装置によって演算されるが、これは、連続して照射された様々な試料スポット対して、それぞれのマイクロレンズの後方に配置された検出器素子によって記録された信号を1つの電子装置が平均化することによって行われる。これにより、同じ検出器素子で次々と記録された信号を平均化することができる。この平均化は、波面決定のためだけに行われ、試料画像のスポットの演算のためには使われない。平均化とは、ここでは信号の加算、またはこれ以外の集計であると解釈することができる。
【0031】
平均化された焦点位置を演算する試料領域のサイズは、理想的には等波面の試料片に合わせるべきである。特にこの目的のために、電子装置を、以下のように、すなわち、
・1つのマイクロレンズに対する各検出器素子を用いて、まず、連続して照明される試料スポットごとに、それぞれ瞬間的な焦点位置を決定し、
・(同じマイクロレンズについて記録された)これらの複数の瞬間的な焦点位置を平均化して、このようにして、平均化された焦点位置のうちの1つを算出し
・次々に検出される瞬間的な焦点位置間の差に応じて、平均化されるこの瞬間的な焦点位置の数を定めることができる
ように構成されうる。
【0032】
これらの変形例では、複数の焦点位置を平均化する代わりに、同じ検出器素子により次々と記録された信号の平均化(または合計)をそれぞれ行うことができ、これによって、続いて焦点を決定することができ、これも、複数の次々と検査される試料スポットの平均化に相当する。
【0033】
等波面のパッチ内では、同じマイクロレンズを用いて次々と決定される瞬間的な焦点位置の差は小さくなる。これにより、同じマイクロレンズについての瞬間的な焦点位置間の差を、測定データが等波面パッチに属するか否かの基準として利用することができる。例えば、上記の差が予設定された閾値を上回らない限り、全ての瞬間的な焦点位置に対して平均化を行うことができる。原理的には、瞬間的な焦点位置間の差の代わりに、同じ検出器素子の連続した測定信号間の差を基準として使用することもできる。
【0034】
試料光への望ましくない影響は、説明した実施形態によって計算上で効果的に補償することができる。代替的にまたは追加的に、照明光の補正を行うこともできる。この目的のために、適応光学素子が、照明光のみが導かれる照明光路の一部の中、または照明光と試料光との共通光路中に存在することができる。適応光学素子を用いて、照明光の波面が可変であるように影響を与えることができ、配置によっては試料光の波面が可変であるように影響を与えることができる。このために、適応光学素子では、光断面を介して、位相遅延の可変値を設定することができる。これは、例えば、マイクロミラーアレイを用いて、変形可能なミラーを用いて、またはこれ以外の空間光変調器(英語で、spatial light modulator)を用いて、画素ごとに行うことができる。電子装置は、ここでは、照明光の波面を補償するために、適応光学素子の設定用に求められた波面を考慮するように備えられることができる。この補正により、特に照明光を回折限界の光片として試料面内に結像させることができる。特に、波面情報は、適応光学素子の設定のため、および試料画像の演算のための両方に利用することができる。
【0035】
これに追加してまたは代替的に、試料光を操作するために、適応光学素子が存在することができ、これは以下で適応検出光学系とも呼ばれる。これは、検出光路中に配置されていて、すなわち、顕微鏡光路の一部(この中には、試料光のみ、または代替的に照明光のみ、または代替的に照明光と試料光とが向けられる)中に配置されている。適応検出光学系では、試料光の波面(および、配置によっては照明光の波面も)が断面に渡って可変であるように影響を受ける。また、電子装置は、試料画像の演算のためのみならず、適応検出光学系の設定のためにも、求められた波面情報を考慮するように備えられている。
【0036】
以下では、より単純に言語表現をするために、「適応光学系」または「適応光学素子」と表記するが、これは特に明示しない限り、照明光用の適応光学素子も、適応検出光学系も含むことを意図している。
【0037】
適応光学系を備えた従来の光学顕微鏡では、固定的に定められた期間もしくは不変の期間後に、または、試料スポットの走査の数にしたがって、適応光学系は切り替えられる。シャック・ハルトマン・センサーは従来時間分解能が低いため、波面を求めるたびに、適応光学系を適応させることが特に有効であった。これとは逆に、本発明では、波面決定の時間分解能がはるかに高いため、適応光学素子の適応がいつ行われたかを、スキャン過程中で可変であるように定めることが可能である。このように、走査される試料スポットの数(これにしたがって、適応光学素子の調整が行われる)を、特に、求められた波面または求められた波面情報が連続する試料スポット間でどの程度変化するかに応じて、1試料スキャンに渡って変化させるように、電子装置は構成されうる。
【0038】
適応光学素子の適応を伴うフィードバックループは、追加の時間を必要とすることを意味する。とりわけこの理由から、適応光学素子を各走査後に試料スポットの配置を変えることはしないことが有用でありうる。さらに、適応光学素子を設定するためのデータ演算は、可能な限り時間的に効率の良い方法で行うべきである。試料画像の演算の間は、波面をリアルタイムで演算する必要はないが、適応光学素子にとっては、高速動作過程が特に重要である。したがって、適応光学素子の設定のために、最初に、より高速で波面決定を行い、さらにその後、試料画像の演算のために(同じ記録された信号から)おそらくはより正確な波面決定を行うことができる場合に、好都合でありうる。連続して照射された2つ以上の試料スポットに関して、記録された信号は、データバッファ(すなわち、データが一時的にロードされるバッファメモリ)にロードされる。電子装置は、データバッファ中に一時的に格納された信号のデータ平均化を行う(例えば、各検出器素子からの連続して記録された信号を加算または平均化することができる)。平均化された信号に基づいて、焦点の決定と波面の決定とが行われる。これにより、連続して走査された2つ以上の試料スポットに対して、単一の波面が求められる。このようにして求められた波面に基づいて、試料走査の間に、適応光学素子を設定する。これにより、適応光学素子の設定を非常に高速に行う機構が可能になる。一方、全ての信号が格納されていることにより、試料スポット信号を算出するために、焦点決定のために信号の異なる平均化を行うことができる(例えば、平均化する信号の数を、上述のように連続する信号の差に依存させるなどにより行う)。また、このデータバッファにより、移動平均の演算も実現することができる。
【0039】
電子装置は、様々な試料スポットついて記録された検出器素子の信号をデータメモリに格納するように構成されうる。このように、信号は、試料画像の演算をする際の瞬間的な撮像に使われるだけではない。むしろ、格納された信号は、その後の撮像のためにも利用することができる。一方で、求められた波面情報は、波面情報を決定したのと同じ試料スポットについて記録されたものであれば、時間的に後から記録された試料スポットの信号に使用することができる。他方で、格納をすることで、続いて波面情報を様々な方法で評価することができる。例えば、電子装置は、信号から波面情報をどのように求めるか、および試料画像をどのように演算するかについて、ユーザーに異なる選択肢を提供することができる。例えば、次々と記録された波面情報/焦点位置をどのように平均化するか、特に平均化されるべきデータの数について、選択肢は異なりうる。これにより、1つの試料画像を演算するために、異なるサイズの等波面領域を定めることができる。
【0040】
また、本発明の光学顕微鏡は、多点走査用に設計されうる。この場合、照明光を試料に向けるための電子装置および光学素子を、2本の照明光線で同時に試料を走査するように構成される。中間像面の領域中(検出光路中)には、ビームスプリッタ、特にレンズアレイが存在することができる。これにより、試料光は、異なる光路に分割され、これらは、マイクロレンズアレイの異なる部分に導かれ、その後方にある検出器素子へも導かれる。マイクロレンズアレイの上述の部品は、別々の部品として設計されてもよいし、共通のマイクロレンズプレートとして設計されてもよい。同様に、マイクロレンズアレイのこれらの2つ(またはそれ以上)の部分の後方にある検出器素子は、2つ(またはそれ以上)の別々の検出器装置を形成してもよいし、または検出器素子の同じアレイの部分であってもよい。
【0041】
電子装置中には、決定された複数の焦点位置(すなわち、異なるマイクロレンズを介して決定された焦点位置)から、試料光の波面を求めるように設計された評価アルゴリズムを格納しうる。この評価アルゴリズムは、テストデータを学習することができ、特に、ニューラルネットワークを利用して、焦点位置のパターンから波面を推測することができる。
【0042】
(同時に)記録された検出器素子の信号から演算される試料スポット信号は、共焦点信号でもありえる。照明光路中にピンホール(ピンホール絞り)を設けることで、回折限界の点形状の合焦を生成する。共焦点結像を生成するために、検出光路中にさらなるピンホール(検出用ピンホール)が中間像面中に配置されている。しかし、波面測定を可能にするためには、検出用のピンホールは小さすぎてはならない。そうしないと、検出用ピンホールからは実質的に球形の波面しか出てこない。共焦点顕微鏡では、1エアリー未満の検出用ピンホールの直径が用いられることが多いが、ここで説明する本発明の変形例では、検出用ピンホールの直径が、例えば少なくとも2エアリーまたは少なくとも3エアリーとはるかに大きくなっている。1つの試料スポット信号が好ましくは1つの小さな試料領域からの試料光のみに基づいているようにするために、全ての検出器素子から同時に記録された信号ではなく、いくつかの検出器素子からのみ記録された信号を加算するように設けることができる。また、電界のモード分解に基づいて、試料スポットについて記録された信号から、共焦点成分を抽出することも可能である。
【0043】
検出器素子を冷却するために、およびこれにより暗騒音を低減するために、能動冷却装置を設けることができる。
【0044】
本明細書では、「マイクロレンズアレイ」とは、複数のマイクロレンズを2次元のパターンで並べた配置を意味すると理解できる。「マイクロレンズ」という言葉は、レンズの寸法の制限を意図するものではなく、入射光の光線断面がレンズの直径よりも大きく、例えば、少なくとも2倍または5倍の大きさであると理解できる。
【0045】
瞳平面の領域中にマイクロレンズアレイを配置するとは、マイクロレンズアレイが瞳平面内または瞳平面の近傍に配置されていることであると理解できる。特に、このことは、マイクロレンズアレイが、光の伝搬方向に沿って、空間的に、最も近い(中間)像面よりも、瞳平面に近いと理解できる。
【0046】
電子装置は、原理上、任意の電子部品または計算装置を備えて形成することができる。電子装置の上述の機能は、ソフトウェアまたはハードウェアでプログラムされている。また、電子装置の複数の部分を、光学顕微鏡の他の部分から離れた場所に配置し、例えばデータケーブルやインターネット接続を介して通信可能に接続することもできる。
【0047】
スキャナとは、一般的に、光の偏向を可変であるように変位可能な装置として理解されうる。このために、例えば、1つまたは複数の可動式、特に傾斜式の光学素子が存在してもよい。光学素子とは、例えば、ミラー、レンズまたはプリズムなどでありうる。スキャナは、照明光を様々な試料スポットに次々と向ける。
【0048】
照明光は、原理的に任意のスペクトル領域の光を含むことができる。パルス状または連続的に試料に向けることができる。光源には、1つまたは複数のレーザーや他の照明手段を採用することができる。コヒーレント方式用の複数の固定位相誘導パルスレーザーを使用することもでき、これらは、例えば、CARSまたはSRSなどであり、これらは、照明光としてまたはここで説明した照明光に加えて使用され、この際、コヒーレント方式のために送信される光も適応光学素子を介して向けられる。この照明光は、特に、蛍光励起のため、多光子励起のため、または共焦点照明のために利用することができる。試料光は、照明光の照射に基づいて送信されるもので、様々な種類でありうる。これは、例えば、蛍光または燐光などである。しかし、試料光は、試料に散乱した照明光であってもよいし、または他の光学的効果によって発生するものであってもよい。多光子励起の場合、試料励起は「ガイドスター」と呼ばれることもでき、その場合、「ガイドスター」から送信される試料光は、上述のように測定および評価される。また、試料には蛍光小玉(ビーズ)が設けられていることができ、その結果、波面決定を容易にするための目的に合ったエミッタが提供されうる。ここでは、「ビーズ」とは点状のエミッタを表す(したがって、測定された収差を補償すると点状の光源が得られるはずである)という知識を利用することができるが、逆に、他の発光試料領域は必ずしも点状のエミッタを表すわけではない。
【0049】
波面とは、光の表面、特に試料光の表面であって、その上では光が同じ位相を持つ表面であると理解できる。
【0050】
より容易に言語を理解できるように、焦点位置の決定をする多数の実施形態を説明し、そこから波面が求められる。これらの実施形態の変形例では、焦点位置の決定の代わりに、除外された強度分布から他の波面情報を求めることもできる。したがって、「波面を求める」とは、波面についての情報を求めることや、波面についての寸法を求めることと見なされうる。
【0051】
光学顕微鏡の追加の特徴として説明した本発明の特徴は、意図した用途で使用する場合、本発明による方法の変形例にもなる。逆に、光学顕微鏡が、上述の方法の変形例を実施するように構成されうる。特に、電子装置は、上述の方法工程を実施し、このために、光源、スキャナ、光検出器および他の顕微鏡部品を相応に制御するように構成されうる。
【0052】
以下に、本発明のさらなる利点と特徴とを、添付の概略図を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】本発明の光学顕微鏡の一実施形態を示す概略図である。
【
図3】本発明の光学顕微鏡のさらなる一実施形態を示す概略図である。
【
図4】本発明の方法のプロセスを示す概略図である。
【
図5】本発明のさらなる方法変形例のプロセスの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
同様の構成要素および同様の作用をする構成要素には、通常、図中で同じ参照符号をつけている。
【0055】
図1は、本発明による光学顕微鏡100の一実施形態を示しており、この光学顕微鏡はレーザー走査型顕微鏡として設計されている。
【0056】
この光学顕微鏡100は、光源接続部8を備え、この光源接続部を介して光源10からの照明光12が結合される。光源10は、ここで一例として1つまたは複数のレーザーを備える。オプションとなる光学素子(例えば、ここでは不図示の階段状のミラー)を介して、1つまたは複数のレーザーからの照明光を合わせて同じ光路に導くことができる。
【0057】
照明光12は、試料35を走査するために用いられる。これは、照明光12が試料スポット上に合焦され、スキャン移動に応じて異なる試料スポットが次々に照明されることであると理解すべきである。照明光12を試料35に向けるために、複数の光学素子21、23、24、26、27と対物レンズ30とが存在する。照明光12で試料35をスキャンするために、スキャナ25を使用する。これは、例えば、2つの可動可能なスキャンミラーまたはこれ以外の数のスキャンミラーを備えうる。原理的には、これ以外の任意の変位可能な光線偏向装置もスキャナとして可能であり、例えば音響光学的に動作する光線偏向器も可能である。
【0058】
試料光15は、試料35から送信され、これは、例えば、蛍光または燐光でありえる。特に、照明光をパルス状に放射して、多光子蛍光励起に利用してもよい。その結果、試料光15は、とりわけ小さな試料領域からのみ発せられ、照明光12よりも波長が短くなる。
【0059】
図示したデスキャンされた構造では、試料光15は、対物レンズ30、スキャナ25および光学素子27、26、24、23を介して戻される。この試料光は、ビームスプリッタ22によって、照明光12から空間的に分離される。例えば、ビームスプリッタ22は、波長に応じて光を反射または透過するように設計可能である。この際、試料光15は、マイクロレンズアレイ50を介して光検出器60に向けられる。
【0060】
マイクロレンズアレイ50とそれに続く光検出器60とを
図2に拡大して示す。マイクロレンズアレイ50は、複数のマイクロレンズ51~54を備え、これらは2次元のパターンで並んで配置されている。光検出器60は、マイクロレンズ51~54毎に複数の検出器素子を備えている。
図2では、第1マイクロレンズ51の後方に、複数の検出器素子61~65があり、残りのマイクロレンズ52~54の後方にある検出器素子については、分かりやすくするために参照符号を付していない。これにより、マイクロレンズ51の直径は、隣接し合う検出器素子61、62の距離よりも大きく、例えば少なくとも5倍となっている。
【0061】
ここで、マイクロレンズアレイは、瞳平面中または瞳平面の領域中に配置されている。この利点については後でより詳しく説明する。マイクロレンズ51~54から検出器素子61~65までの距離は、マイクロレンズ51~54の焦点距離と等しいまたは実質的に等しい。これにより、検出器素子上にある試料光15の焦点位置71~74は、波面がマイクロレンズ51~54に当たる際の波面16の形状に依存する。各マイクロレンズ51~54の後方で、それぞれの検出器素子61~65を用いて焦点位置決定(すなわち、受光強度/光子数の重心決定)を行うことにより、各マイクロレンズ51~54を介して、試料光断面全体の波面16の一部を検査することができる。これら複数の焦点位置71~74から、波面16を演算することができる。より一般的に表現すると、波面16を表すまたは特徴づける波面情報は、マイクロレンズの後方の各強度分布から決定することができる。
【0062】
波面16は、試料光15が通過する媒体の影響を受ける。したがって、まさに光学的に複雑な試料または試料媒体は、波面16に重要な作用を与える。生体試料の場合、細胞成分が異なると、特により深い細胞層を検査する場合には、非常に異なる作用を与える可能性がある。生物以外の試料、例えば電子部品なども、波面に強く影響する複雑な構造を持ちうる。
【0063】
撮像する顕微鏡画像の品質を向上させるには、後の時点の算出により行うことができるが、これは、波面16の知識を利用する。従来の顕微鏡では、直接波面を測定するためと、顕微鏡画像を撮像するためとに、別々の光検出器を使用していた。この理由は、試料の撮像は、試料の非常に高速での走査により行われるため、非常に高速な検出器が必要となるからである。逆に、波面測定に採用されるセンサーは、通常はるかにより低速である。これにより、波面センサーにより測定された信号は、単一の試料スポットに割り当てることができず、試料画像の測定には使用されない。したがって、従来の顕微鏡では、試料光の強度の大部分が波面測定によって失われ、試料撮像に利用されなかった。
【0064】
これらの欠点は、本発明では克服される。光学顕微鏡100は、同じ光検出器60と、これにより撮像された同じ測定データ/信号とを利用して、波面の決定と、試料スポット信号の決定(これは、求められた波面を考慮して試料画像を算出する)との両方を行う。波面測定のために試料光が分岐されることはなく、それによって試料画像検出が利用できなくなることがない。
【0065】
この点については、以下に説明する観点が特に関連している。
【0066】
光検出器60は、少なくとも100kHzの完全な読み出し速度を有するが、この速度は、検出器60の全ての検出器素子が読み出される周波数を示す。このように、読み出し速度は、少なくとも走査速度と同じくらい速くすることができ、つまり、逆読み出し周波数は、逆画素滞留時間以下にすることができる。原理的には、走査された試料スポットに対して、光検出器60の検出器素子の全てではなく、一部が読み出されれば十分である。したがって、検出器60の検出器素子61~65に関する記述は、検出器素子の全てではなく一部を指すものと解釈することができる。したがって、画像演算のために使用する検出器素子61~65を読み出す期間は、画素滞留時間以下であれば十分である一方、全ての検出器素子を読み出す時間を画素滞留時間より長くすることも可能である。
【0067】
検出器素子61~65としては、光子計数検出器素子が好ましくありえ、特に単一光子アバランシェダイオード(英語:single-photon avalanche diode、SPAD)が好ましくありえる。光子計数検出器素子は、非常に高い時間分解能を有しており、これは、例えば波面測定によく用いられるEMCCDセンサーなどよりも、はるかに優れている。光子計数検出器は、その読み出し時間(すなわち、光子計数の時間)が、スキャナを介した試料スポット(画素)が照射される画素滞留時間と一致するように動作する。各試料スポットについて光子係数を行う。
【0068】
光子計数を行う検出器素子が正確な結果を出すためには、できる限り飽和しないことが必要である。光子を受け取って電子雪崩が起きた後、次の光子を検出できるまでの時間(デッドタイム)が発生する。光検出器の飽和が可能な限り起こらないようにするために、光検出器が、瞳平面中のマイクロレンズアレイの後方に配置される多数の検出器素子、例えば10,000個を上回る検出器素子を備えている場合に有利である。試1つの料スポットから発せられた試料光は、瞳をほぼ均一に照射し、すなわち像面よりもはるかに均一に照射する。これにより、瞳平面内では、複数のマイクロレンズとそれに続く検出器素子との上に、試料の光成分がはるかにより均一に分布する。
【0069】
また、光検出器の飽和を可能な限り避けるためには、瞳平面内にマイクロレンズアレイを配置するのに加えて、照度または照明パルス周波数を設定することも重要である。飽和の可能性が高いかどうかに従って、以前に記録された検出器素子の測定信号を、スキャン過程の間に評価するように、電子装置が構成されうる。これは、例えば、1つまたは複数の検出器素子からの光子計数が予め定められた閾値を上回った場合に想定されうる。これに続いて、電子装置は、照度および/または光源のパルス周波数を低下させることができる。
【0070】
電子装置70は、光検出器60を制御し、特に画像撮像のための上述のプロセスを制御し、これらは、例えば、波面情報の演算、試料スポット信号/共焦点信号を形成するための光検出器の測定信号の集約、および波面情報を考慮して次々に記録された複数の試料スポット信号からの試料画像の演算などである。電子装置70は、さらなる顕微鏡部品、特に光源10、適応光学素子20および/またはスキャナ25を制御することができる。
【0071】
図1に示す実施形態では、適応光学素子20は照明光路内にある。また、これらの変形例では、適応光学素子20を、照明光12と試料光15との共通の光路、特にビームスプリッタ22と対物レンズ30との間に配置することもできる。この場合も、試料光15は適応光学素子20を介して向けられ、これによりこの試料光の波面を操作することができる。
【0072】
図1の実施形態の変形例では、例えば、試料35が配置された試料面と共役な面に、例えばピンホール絞りが補足されている。この面は、対物レンズ30とビームスプリッタ22との間にありえ、特に光学素子26と光学素子27との間で図示される中間像面中や、光学素子23と光学素子24との間の中間像面中に配置されていることができる。この場合、適応光学素子20またはさらなる適応光学素子を、試料35とピンホール絞りとの間に配置することができる。
【0073】
変形例を
図3に示す。これは、検出光路中に適応検出光学系40が補足されている点で、
図1と異なる。なお、適応検出光学系40は、適応光学素子20に関して説明したと同様に形成することができる。
図3で図示した例では、試料光15は、まず適応検出光学系40に当たり、これに続いてマイクロレンズアレイ50に当たるが、この順序は逆でもよい。
図3では、試料光15をさらに伝送するための光学素子41(ここではミラー)を図示している。適応検出光学系40は、図示したように適応光学素子20に加えて設けられていることもできるが、これに代えて適応光学素子20が省略されてもよい。適応検出光学系40は、適応光学素子20に関して説明したのと実質的に同様に、電子装置70によって制御されうる。特に、適応検出光学系40は、試料スキャンの間に、瞬間的に測定された波面情報に応じて適応させられてもよい。
【0074】
画像記録と波面測定とのための個々の方法工程を
図4に示す。本発明による光学顕微鏡のある実施形態の電子装置は、これらの方法工程を自動的に実行するように、特に光源、スキャナおよび光検出器を相応に制御してこれを行うように構成されている。
【0075】
方法工程S1では、照明光を試料スポット上に合焦させる。照明光は、例えば、多光子励起用の光パルスとすることができる。
【0076】
工程S2では、試料スポットから出た試料光を、マイクロレンズアレイを介して検出器素子上に導く。スキャナの速度と意図する解像度とによって予め決められた画素滞留時間の後、検出器素子の測定信号を読み出す。光子計数検出器の場合、各測定信号は測定された光子数を表す。これらの測定信号は、データメモリに一時的に格納される。
【0077】
工程S3では、スキャナを用いて、試料光を次の試料スポットに方向転換する。スキャン移動は連続して行うことができ、それによって工程S2とS3とが同時に行われる。この際、試料を複数の試料領域に分割することを想定でき、スキャナが同じ試料領域内で照明光を移動させた場合は同一試料スポットとみなし、照明光が隣接する後続の試料領域に当たる場合は、これを次の試料スポットに方向転換すると称する。
【0078】
次の試料スポットについても、工程S2に従って試料光を測定し、相応の測定信号をデータメモリ/バッファメモリ中に格納する。
【0079】
このようにして、試料全体または関心領域(ROI、region of interest)全体を走査する。
【0080】
試料を走査している間、または試料を完全に走査した後にも、工程S4および工程S5を実行する。
【0081】
工程S4では、各マイクロレンズの測定信号から焦点位置を演算する。これに基づいて、波面、つまり例えば対物レンズ瞳における波面を演算する。より良いS/N比を得るために、連続する試料スポットのために記録された、同じマイクロレンズについての複数の測定信号を組み合わせたり、加算したりして、波面を決定するためにともに利用することもできる。この場合、試料スポットごとに個別の波面が求められるのではない。むしろ、特定の領域のためにそれぞれ1つの波面が演算される。これは、複数の部分が、実質的にいわゆる1つの等波面パッチに対応している場合に適している。
【0082】
波面の決定は、スキャン中に非常に迅速に行われることが有利でありうる。このため、焦点位置の決定は、例えば、グラフィックプロセッサ(GPU、英語でgraphics processing unit)中で並行して行うことができる。マイクロレンズおよびしたがって波面の横方向の領域へのセンサー素子の割り当てが予め固定的に決められているので、焦点位置の決定はこれに特に適している。このように、各マイクロレンズにGPU内の1つのプロセッサを割り当てることができ、その結果、焦点位置決定アルゴリズムを、アレイ内の各マイクロレンズについて同時に適用することができる。
【0083】
工程S5では、ある試料スポットについて複数の検出器素子を用いて記録された複数の測定信号をまとめる。特に、全ての検出器素子の測定信号、つまり同時に記録された全ての信号を加算/積分することができる。これにより、試料スポット信号が得られる。したがって、走査された試料スポットごとに、1つの試料スポット信号が記録される。その結果、試料スポット信号は、同時に検出された全試料光の総量に基づいている。波面測定では、試料スポット信号では失われてしまう試料光成分が分岐されなかった。むしろ、単数または複数の波面と試料スポットの信号とは、同じ測定信号から決定される。特に、全ての測定信号は、波面決定と試料スポット信号決定との両方のために利用することができる。
【0084】
試料全体の走査が終わると、工程S6に進む。ここでは、求められた波面を考慮して、試料スポット信号から試料画像を演算する。これは、例えば、試料スポット信号を組み合わせて生画像を形成することによって行うことができる。各試料スポット信号は、生画像の1画素に対応している。続いて、生画像のデコンボリューションが行われるが、そのために、求められた波面が利用される。デコンボリューションは、異なる生画像領域に対して別々に行われ、各生画像領域に対してそれぞれ波面が求められた。生画像領域は、等波面パッチに従って確定することができる。このために、同じマイクロレンズについて決定された連続する焦点位置間の変化を求めてもよく、すなわち、1つのマイクロレンズにより次々と照射された様々な試料スポットについての焦点位置の差である。等波面パッチ内では、光が透過した媒体について小さな変化しかないため、各マイクロレンズの後方の焦点位置の変化も小さくなる。その変化が定められた閾値以下であり続ければ、等波面パッチであると想定できる。したがって、次々と照射されたこれらの試料スポットについての同じマイクロレンズの複数の焦点位置をともに加算し、ともに波面部分を決定するために利用する。また、複数の焦点位置を、閾値の比較や、等波面パッチがどこまで広がっているかの分類に利用することもできる。しかし、変動の大きい領域を平均化することが有利な場合もある。例えば、特定の収差オーダーのみをこのようにして考慮することができる。特定の焦点位置についての収差を空間的に平均化するという柔軟性は、いくつの試料スポットを介して測定信号を平均化して波面を演算するかを予め確定する従来の方法とは実質的に異なる。本発明では、これを可変であるように定めることができる。特に、1つの試料画像に対して、領域に応じて異なる数の試料スポットについての測定信号を利用して、波面を演算することができる。このようにして、工程S6では、従来の方法に比べて画質が向上した試料画像を出力する。工程S6では、いかに複数の信号から波面情報を求め、1つの試料画像を演算すべきかについて、ユーザーに対して、オプションとして異なる選択肢を提供することができる。特に、次々と記録された波面情報/焦点位置をどのように平均化するか、特に、次々と当てられた試料スポットについて平均化されるべき信号の数について、選択肢が異なりうる。これにより、1つの試料画像を演算するために、異なるサイズの等波面領域を定めることができる。
【0085】
試料スポット信号の算出で求められた波面を上述のように考慮することで、試料光の望ましくない収差を効果的に補償することができる。この目的のために、適応光学系を設けるにはおよばない。このように、フィードバックループおよび適応光学系を介したゆっくりとした補正が省かれるので、高速な結像を低コストで達成することができる。
図5は、代替となる方法の変形例で、適応光学系と共にフィードバックループを利用する例を示す。これは、工程S4で求められた波面が、すでにスキャン過程の間に使用されるという点で、前の図とは異なる。このため、工程S4に続いて工程S7が行われ、この工程では、1つまたは複数の試料スポットについて求められた波面を利用して、照明光路中の適応光学素子を設定する。この設定を用いて、次に工程S2を実行する際に、照明光が次の試料スポットに送られる。照明光路中の適応光学素子を設定するのに代えてまたはこれに追加的に、適応検出光学素子の設定を工程S7で行ってもよく、その場合、工程S7と工程S3とを同時に行うこともできる。
【0086】
適応光学素子の適応は、スキャナの変位よりも遅くてもよく、つまり、
図5に示す工程S2と工程S3とのサイクルは、工程S7よりも頻繁に行われうる。
【0087】
あるいは、1つの走査されるべき試料スポットのために、適応光学素子のいくつかの設定を次々と迅速に行うこともできる。このようにして、同じスキャン位置について、適応光学素子を様々に設定し、異なる収差を試してみることができる。この実施形態の
図5では、工程S7中の適応光学素子を合わせた後に、常に工程S3のスキャナ変位が続くとは限らず、工程S2に直接交替しうるという点が異なる。この場合、工程S4は、工程S2と工程S7との間でオプションとして行われるだけであるが、この理由は、工程S4と工程S5とのデータ評価は、原則として、試料の走査が完了した後にも初めて行いうるからである。
【0088】
適応光学素子20は、例えば、空間光変調器(SLM、英語でspatial light modulator)または変形可能なミラーでありうる。試料画像決定のための走査処理が完了する前に工程S4を実行することにより、波面についての情報を、工程S7での適応光学素子20の設定のために利用することができる。この際、適応光学素子20は、引き起こされた波面の変形を少なくとも部分的に補償するように設定される。上述の特性は、追加的または代替的に適応検出光学系40にも該当しうる。良い結果を得るためには、ここでの照明光は、工程S4で波面が求められたのと同じ等波面パッチにも向けられるべきである。この利点は、後に詳述する複数の照明スポットを利用した多点走査においても利用できる。
【0089】
また、波面について記録された情報は、同じ試料の次の結像のためにも格納することができる。これにより、後の時点で波面についての情報を様々な方法で評価し、望ましくない収差が可能な限り存在しない試料画像を演算することができる。
【0090】
図1の実施形態の変形例では、複数の照明スポットが、試料に渡って、同時にかつ間隔をあけて走査される。これらの照明スポットは、光源10の複数のユニット、例えば複数のレーザーなどにより生成することもできるし、または、照明光12を空間的に分割して生成してもよい。異なる照明スポットに由来する複数の試料光は別々に検出するべきである。このため、マイクロレンズアレイ50の前方、特にビームスプリッタ22とマイクロレンズアレイ50との間に、試料光線のビームスプリッタを配置することができる。この試料光線ビームスプリッタは、中間像面中に配置されていることができ、例えば、レンズアレイまたはミラーアレイでありえる。異なる照明スポットに由来する試料光は、これにより様々な検出光路に向けられ、この光路中に、それぞれマイクロレンズアレイがこれに続く光検出器と共に配置されている。複数の検出光路は、同じマイクロレンズアレイの異なる領域につながることができ、その結果、異なる試料光線が異なる検出器素子に当たる。このようにして、複数の試料領域を同時に走査することができる。
【0091】
照明光は、別々の試料領域を介して導かれることも、同じ試料領域を次々と走査することも可能である。画質を向上させるためには、同じ試料スポットを複数回走査することが目的にかないうる。この場合、上述したように、ある試料スポットについて決定された波面情報は、同じ試料スポットを繰り返し走査する際の照度の設定および/または適応光学素子の設定にも利用することができる。例えば、1回目の走査でこの試料スポットに対して照度が高すぎた場合、今度は(一時的に)照度を下げる。さらに、この試料スポットでの波面変形を少なくとも部分的に補償するように、適応光学素子を設定することができる。各照明光線用に、1つの適応光学素子をそれぞれ利用することができ、個々の照明光線が適応光学素子によって別個に対処されうるように、光線は明らかに瞳平面から伝搬されるべきである。その場合、等波面片の事前定義は、波面情報を決定するための開始条件に過ぎず、これは、上述の方法に従って試料または試料部分に適応される。
【0092】
従来、適応光学素子がある補正設定を行うべき試料領域の大きさと位置とは、予め、すなわちスキャン過程が始まる前に事前に定められていた。どのような補正設定を行うは、スキャン時に記録されたデータに応じて行われる。しかし、適応光学素子を用いて補正設定を行う試料領域の大きさと位置とは、固定的に定められている。これに対し、本発明では、適応光学素子を用いてこの同じ設定を行う試料領域の大きさと位置とを、スキャン中に可変であるように定めることができる。
【0093】
このように、本発明の光学顕微鏡は、波面測定によって試料画像を撮像するための試料光の一部を失うことなく、波面測定によって試料画像の品質を向上させることができる。
【符号の説明】
【0094】
8 光源接続部
10 光源
12 照明光
15 試料光
16 波面
20 適応光学素子
21、23、24、26、27 光学素子
22 ビームスプリッタ
25 スキャナ
30 対物レンズ
35 試料
40 適応検出光学系
41 光学素子
50 マイクロレンズアレイ
51~54 マイクロレンズアレイのマイクロレンズ
60 光検出器
61~65 光検出器の検出器素子
70 電子装置
71~74 マイクロレンズ51~54の後方の焦点位置
100 光学顕微鏡
S1~S7 方法工程
【国際調査報告】