(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(54)【発明の名称】揮発性化合物の光学検出装置並びにそれを用いた揮発性化合物を検出及び定量する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/41 20060101AFI20220111BHJP
G01N 21/55 20140101ALI20220111BHJP
【FI】
G01N21/41 Z
G01N21/55
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021528373
(86)(22)【出願日】2019-11-18
(85)【翻訳文提出日】2021-07-16
(86)【国際出願番号】 FR2019052736
(87)【国際公開番号】W WO2020104746
(87)【国際公開日】2020-05-28
(32)【優先日】2018-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512302876
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ デクス-マルセイユ
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】グロッソ デビット
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB01
2G059CC09
2G059CC12
2G059DD16
2G059EE02
2G059EE04
2G059HH01
2G059HH02
2G059JJ05
2G059KK01
2G059MM01
2G059MM09
2G059MM10
(57)【要約】
本発明の目的は、以下の構成を有する揮発性化合物の光学検出装置(1)であって、以下を備えるものである:・感応型反射素子(3)であって以下を備えるもの:*基材層(31)、*揮発性化合物の吸着及び脱離を可能にするように構成された少なくとも1つの感応層(33)、*基材層(31)と感応層(33)の間に設けられ、ジュール効果によって感応層(33)を加熱するように構成された導電層(35)、・感応層(33)を照らすように配置された光源(5)、・感応型反射素子(3)で反射された光の強度を測定するように構成された光検出器(7)及び・処理及び計算ユニット(9)。また、本発明は、この光学検出装置を用いた揮発性化合物の検出及び定量の方法を目的としている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性化合物(A、B、C)の光学検出装置(1)であって:
試験雰囲気中に含まれる揮発性化合物(A、B、C)及びその濃度の関数として反射光強度が変化する感応型反射素子(3)で、以下を含むものと:
* 基板(31)、
* 試験雰囲気中に含まれる揮発性化合物(A、B、C)の吸着及び脱離を可能にするように構成された、少なくとも1つの透明で多孔質の感応層(33)、並びに
* 基材層(31)と感応層(33)の間に挟まれ、基材層(31)と感応層(33)に直接接触して配置された非散乱性の透明な導電層(35)であって、前記導電層(35)は、感応層(33)に吸着した揮発性化合物(A、B、C)の脱離を可能にするために、ジュール効果によって感応層(33)を加熱することができるように構成されている、前記導電層(35)、
感応層(33)を入射角(α)で照射するように配置された少なくとも1つの単色又は準単色の光源(5)と
検出角度(β)で感応型反射素子(3)によって反射された光の強度を測定するように構成された少なくとも1つの光検出器(7)と、
感応型反射素子(3)で反射された光の強度の変化により、脱離温度とその濃度に応じて、試験雰囲気中に存在する揮発性化合物(A、B、C)を判定するように構成された処理及び計算ユニット(9)と、
を備えている光学検出装置(1)。
【請求項2】
所定の温度で吸着した揮発性化合物を含まない反射素子(3)で反射された光の強度と、これと同じ温度で脱離した直後の反射素子(3)で反射された光の強度との比較により、脱離した1つ以上の揮発性化合物(A、B、C)の存在を検出することを特徴とする。
請求項1に記載の光学検出装置(1)。
【請求項3】
前記試験雰囲気中で検出された揮発性化合物(A、B、C)の濃度は、揮発性化合物(A、B、C)の脱離に対応する反射光強度変化のピーク面積を積分することによって決定されることを特徴とする、
請求項1又は2に記載の光学検出装置(1)。
【請求項4】
少なくとも1つの感応層(33)が、50nmから2000nmの間、特に400nmから1200nmの間、さらに特に500nmから800nmの間の厚さ(e)を有することを特徴とする、
請求項1~3のいずれかに記載の光学検出装置(1)。
【請求項5】
少なくとも1つの感応層(33)が2nm未満の平均孔径を有することを特徴とする、
請求項1~4のいずれかに記載の光学検出装置(1)。
【請求項6】
前記少なくとも1つの感応層(33)は、25%未満の空隙率を有することを特徴とする、
請求項1~5のいずれかに記載の光学検出装置(1)。
【請求項7】
少なくとも1つの感応層(33)が、ゾル-ゲルシリカによって、又は、キセロゲルによって作られていることを特徴とする、
請求項1~6のいずれかに記載の光学検出装置(1)。
【請求項8】
少なくとも1つの感応層(33)が、試験雰囲気に暴露される前に、400nmから1000nmの間の波長に対して、1.2から1.6の間、特に1.3から1.5の間の屈折率を有することを特徴とする、
請求項1~7のいずれかに記載の光学検出装置(1)。
【請求項9】
前記少なくとも1つの感応層(33)は、光信号の変動を大きくするように構成された構造を有することを特徴とする、
請求項1~8のいずれかに記載の光学検出装置(1)。
【請求項10】
感応型反射素子(3)が1つ以上の感応層(33)からなることを特徴とする、
請求項1~9のいずれかに記載の光学検出装置(1)。
【請求項11】
入射角(α)及び検出角(β)が、感応層(33)の法線(11)に対してそれぞれ30°から75°の間であることを特徴とする。
請求項1~10のいずれかに記載の光学検出装置(1)。
【請求項12】
導電層(35)が150nm以下、特に70nmから90nmの間の厚さ(s)を有することを特徴とする、
請求項1~11のいずれかに記載の光学検出装置(1)。
【請求項13】
導電層(35)は、ジュール効果による感応層(33)の加熱を可能にするように、10
-4Ω・mから10
-7Ω・mの間の抵抗率を有することを特徴とする、
請求項1~12のいずれかに記載の光学検出装置(1)。
【請求項14】
導電層(35)が透明導電性酸化物、特にスズドープ酸化インジウム(1TO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)、又はフッ素ドープ酸化スズ(FTO)で作られていることを特徴とする、
請求項1~13のいずれかに記載の光学検出装置(1)。
【請求項15】
請求項1~13のいずれかに記載の光学検出装置(1)を用いて、試験雰囲気中の揮発性化合物(A、B、C)を検出及び定量する方法(100)であって、以下のステップを含むことを特徴とする:
単色又は準単色の光源(5)を用いて感光層(33)に入射角(α)で光を照射して(E1)、感光性反射体素子(3)で反射された光の強度を測定するステップ、
感応型反射素子(3)を、試験雰囲気に所定の期間曝露して(E2)、この試験雰囲気に含まれる揮発性化合物(A、B、C)の感応型反射素子(3)の感応層(33)への吸着を可能にするステップ、
導電層(35)によって感応層(33)を加熱して(E3)、感応層(33)からの揮発性化合物(A、B、C)の制御された脱離を可能にするステップ、
感光性反射素子(3)の屈折率の変化を測定する(E4)ために、加熱ステップ(E3)の間に感光性反射素子(3)によって反射された光の強度を測定するステップ、
加熱ステップ(E3)の間に感応層(33)から脱離した揮発性化合物(A、B、C)の性質及び量を決定するために、感応型反射素子(3)の屈折率の変化を監視する(E5)ステップ、ここで感応型反射素子(3)の屈折率の変化を監視する(E5)前記ステップは、処理及び計算ユニット(9)によって実行される、
試験雰囲気中の揮発性化合物(A、B、C)を検出及び定量する方法(100)。
【請求項16】
感応層(33)を加熱するステップ(E3)が、1℃/秒から20℃/秒の間の昇温速度に沿って制御された加熱によって実施されることを特徴とする、
請求項15に記載の試験雰囲気中の揮発性化合物(A、B、C)を検出及び定量する方法(100)。
【請求項17】
加熱ステップ(E3)中に脱離した揮発性化合物(A、B、C)の性質の決定が、温度の関数としての光学的応答の変化の曲線の微分による数学的処理によって行われることを特徴とする、
請求項15又は16に記載の試験雰囲気中の揮発性化合物(A、B、C)を検出及び定量する方法(100)。
【請求項18】
脱離した揮発性化合物(A、B、C)の定量が、対応する揮発性化合物の脱離に対応する感応型反射素子(3)で反射された光の強度の変化のピークの領域の積分によって行われることを特徴とする、
請求項15~17のいずれかに記載の試験雰囲気中の揮発性化合物(A、B、C)を検出及び定量する方法(100)。
【請求項19】
揮発性化合物(A、B、C)の混合物がある場合の揮発性化合物(A、B、C)の識別は、このガスの脱離中に感応型反射素子(33)によって反射された光の強度のデコンボリューションによって行われることを特徴とする、
請求項15~18のいずれかに記載の試験雰囲気中の揮発性化合物(A、B、C)を検出及び定量する方法(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサーの分野、より詳細には、例えばガスなどの揮発性化合物のセンサー、及びそのようなセンサーの使用分野に関する。
【背景技術】
【0002】
現在では、部屋の中、あるいは自動車の車室内など、大気中には多くの汚染物質が存在する可能性がある。汚染物質は一般的にガス状である。これらのガスは無色で無臭であったり、呼吸時にユーザーが直接感知できないほど低いレベルで存在していたりする。しかし、このようなガスは、定期的に、繰り返し、あるいは長期間にわたってさらされると、健康に害を及ぼす可能性がある。
【0003】
特定の要素を検出し、試験雰囲気中のその濃度を測定するように構成されたセンサーは、例えばWO 2014/189758に記載されているように、先行技術から知られている。
【0004】
一方、例えばWO2007/019517号では、選択層に吸着した化合物の熱脱離を可能にするために、ガスクロマトグラフィーオーブンを備えたガス中の汚染物質の検出器が知られている。この文書に記載されている装置は、測定装置に入る前に分析されるべきガスを濃縮するように構成された測定装置の上流にある濃縮器も備える。さらに、脱離した様々な元素を分析する。しかし、この文書に記載されている汚染物質検出器は、大量のエネルギーを消費する要素を実装しており、このガス中の汚染物質の存在を判定するためには、分析装置が必要となる。このように、この文書に記載されている汚染物質検出器は、改良の余地がある。
【0005】
また、US 2016/0084786、FR 2871573、及び論文「Planar indium tin oxide heater for improved thermal distribution for metal oxide micromachined gas sensors」、Sensors, 2016, 16, 1612により知られているのは、揮発性化合物が吸着できる感応層を実装したガス検知器である。これらの吸着された化合物は、次に熱により脱離させられ、これらの化合物の脱離は、この感応層の物理的特性、特にその抵抗を変更することによって判定される。しかし、抵抗値の変化の測定の実施は煩雑である。さらに、この感応層の抵抗値の変化を測定しても、脱離した化合物の化学的性質を判定することはできないため、後で追加の分析を行う必要がある。そのため、これらの文書に記載されている様々な検出器は、脱離した揮発性化合物の化学的性質を判定するために、かなり長い動作時間を必要とするようである。また、1TO層を発熱体として使用し、さらに感応層に電気を伝導させるためには、この2つの要素を非導電性の要素で分離する必要がある。そのため、このようなガス検知器は複雑で高価な構造になっている。
【0006】
一方、FR3046244では、揮発性化合物が吸着可能な固定又は移動可能な感応層を有するガス検知器が知られている。この感応層への揮発性化合物の吸着及び脱離は、この感応層の物理化学的特性の変化によって判定される。この文書による揮発性化合物の脱離は、熱的手段によって行われる。しかし、この文書では、感応層の組成を、検出したい揮発性化合物の性質に合わせることができると規定している。しかし、この文書では、いったん脱離した揮発性化合物の化学的性質をどのように判定し、その濃度をどのように評価するかについては開示も示唆もされていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、試験雰囲気中の少なくとも1つの揮発性化合物を検出及び定量するための検出器であって、使用が簡単で、先行技術の検出器と比較して時間をかけずに結果を提供する検出器を提供することである。
【0008】
前述の目的とは異なる本発明の別の目的は、安価な揮発性化合物検出器を提供することである。
【0009】
前述の目的とは異なる本発明の別の目的は、試験雰囲気中の低濃度の揮発性化合物に対しても有効な揮発性化合物検出器を提供することである。
【0010】
前述の目的とは異なる本発明のもう一つの目的は、試験雰囲気中の揮発性化合物の検出と定量を迅速に行う方法を提供することである。
【0011】
前述の目的とは異なる本発明の別の目的は、光電変換を妨げることなく好適な加熱を行う感応型反射素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的の少なくとも一部を達成するために、本発明は、揮発性化合物を検出するための光学装置であって、以下の構成を有するものを提供する:
・試験雰囲気中に含まれる揮発性化合物とその濃度に応じて反射光の強度が変化する感応型反射素子であって、以下の構成を有している感応型反射素子:
* 基材層、
* 試験雰囲気中に含まれる揮発性化合物の吸着及び脱離を可能にするように構成された少なくとも1つの透明で多孔質の感応層、及び
* 前記基材層と前記感応層の間に挟まれ、前記基材層及び前記感応層に直接接触して配置された散乱しない透明な導電層であって、前記感応層に吸着した揮発性化合物の脱離を可能にするためにジュール効果によって前記感応層を加熱できるように構成されている導電層、並びに
・ある入射角で感応層を照射するように配置された少なくとも1つの単色又は準単色の光源、
・ある検出角度で感応型反射素子から反射された光の強度を測定するように構成された少なくとも1つの光検出器、並びに
・感応型反射素子から反射される光の強度の変動を介して試験雰囲気中に存在する揮発性化合物を、その脱離温度及び濃度に応じて、判定するように構成された処理及び演算ユニット。
【0013】
このような光学検出装置は、感応型反射素子の屈折率の変化を検出するだけで、感応層からの揮発性化合物の脱離を識別することができるため、その実現が容易である。さらに、熱による脱離では、感応層の化学組成に応じて揮発性化合物ごとに脱離温度が異なるため、揮発性化合物の化学的性質を簡単かつ迅速に把握することができる。さらに、処理及び計算ユニットの存在により、試験雰囲気中の脱離した揮発性化合物の濃度を判定することが可能となる。このように、この光学検出装置は、低濃度、すなわちppmやppbの範囲であっても、試験雰囲気中の揮発性化合物の存在を簡単かつ迅速に検出し、その濃度を判定することができる。
【0014】
本発明による光学検出装置は、単独で又は組み合わせて取られる以下の特徴の1つ又は複数をさらに含んでもよい。
【0015】
一態様によれば、1つ以上の脱離させられた揮発性化合物の存在は、所定の温度で吸着された揮発性化合物のない感応型反射素子から反射された光強度と、その同じ温度で脱離直後の感応型反射素子から反射された光強度とを比較することによって検出されてもよい。
【0016】
試験雰囲気中で検出された揮発性化合物の濃度は、揮発性化合物の脱離に対応する反射光の強度変化のピークの面積を積分することによって判定することができる。
【0017】
少なくとも1つの感応層は、50nmから2000nmの間、特に400nmから1200nmの間、より特に500nmから800nmの間の厚さを有していてもよい。
【0018】
少なくとも1つの感応層は、2nm以下の平均細孔径を有していてもよい。
【0019】
特定の実施形態によれば、少なくとも1つの感応層は、25%未満の空隙率を有していてもよい。
【0020】
一実施形態によれば、少なくとも1つの感応層は、ゾル-ゲルシリカ(silice sol-gel)で作られていてもよい。
【0021】
別の実施形態によれば、少なくとも1つの感応層は、キセロゲルで作られていてもよい。
【0022】
このさらなる実施形態の一態様によれば、キセロゲルは、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を含んでいてもよい。
【0023】
このさらなる実施形態の別の態様によれば、キセロゲルはメチルトリエトキシシラン(MTEOS)を含んでいてもよい。
【0024】
このさらなる実施形態のさらに別の態様によれば、キセロゲルは、フェニル-トリエトキシシラン(Ph-TEOS)を含んでいてもよい。
【0025】
特定の実施形態によれば、キセロゲルは、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、メチルトリエトキシシラン(MTEOS)、及びフェニル-トリエトキシシラン(Ph-TEOS)の混合物を含んでいてもよい。
【0026】
1つの側面によると、少なくとも1つの感応層は、試験雰囲気に曝露される前において、400nmから1000nmの間の波長に対して、1.2から1.6の間、特に1.3から1.5の間の屈折率を有していてもよい。
【0027】
代替的又は追加的に、少なくとも1つの感応層は、光信号の変動を増大させるように構成されたパターニングを有していてもよい。
【0028】
少なくとも1つの感応層の構造は、回折格子で構成されていてもよい。
【0029】
少なくとも1つの感応層の構造は、共鳴領域を含んでいてもよい。
【0030】
少なくとも1つの感応層の構造は、フォトニック結晶で構成されていてもよい。
【0031】
少なくとも1つの感応層の構造は、層のスタックで構成されてもよい。
【0032】
第1の実施形態によれば、感応型反射素子は、単一の感応層で構成されていてもよい。
【0033】
この第1実施形態によれば、光学検出装置は、単一の光源と単一の光検出器を有している。
【0034】
第2の実施形態によれば、感応型反射素子は、複数の感応層から構成されていてもよい。
【0035】
この第2実施形態によれば、光学検出装置は、感応層の数だけ光源を持つことになる。
【0036】
この第2の実施形態によれば、光学検出装置は、光源の発光波長が異なっていても、単一の光検出器を有するものであってもよい。
【0037】
あるいは、光学検出装置は、光源と同数の光検出器を備えていてもよい。
【0038】
この第2の実施形態によれば、感応型反射素子の感応層は、化学物質のより正確な識別を可能にするために、垂直方向の化学親和性(affinites chimiques perpendiculaires)を有していてもよい。
【0039】
第1の実施形態では、垂直方向の化学的親和性を有する感応層が隣り合うように配置することができる。
【0040】
第2の実施形態によれば、垂直方向の化学的親和性を有する感応層は、感応型反射素子において互いに分離されていてもよい。
【0041】
一態様によれば、基材層は、半導体例えばシリコン、ガラス、サファイア、又は金属で作られていてもよい。
【0042】
特定の実施形態によれば、基材層は、250nmから1500nmの間の波長に対して、2.5より大きい、特に3より大きい屈折率を有していてもよい。
【0043】
入射角と検出角は、感応層の法線に対して、それぞれ30°から75°の間であってもよい。
【0044】
特定の実施形態によれば、光源から発せられる波長は400nmから1000nmの間である。
【0045】
この特定の実施形態の1つの側面によれば、光源によって放出される波長は単色であってもよく、入射角とともに、感応型反射素子の反射スペクトルの構成的な(constructive)及び破壊的な(destructive)2つの干渉ピークの間の変曲(inflextion)の波長位置と一致するように選択される。
【0046】
導電層は、150nm以下、特に70nm~90nmの厚さを有していてもよい。
【0047】
一態様によれば、導電層は、ジュール効果による感応層の加熱を可能にするために、10-4Ω・mから10-7Ω・mの間の抵抗率を有してもよい。
【0048】
一態様によれば、導電層を構成する材料の抵抗は、2Ω~200Ω、特に20Ω~50Ωである。
【0049】
導電層は、透明な導電性酸化物、特にスズをドープした酸化インジウム(ITO)、アルミニウムをドープした酸化亜鉛(AZO)、ガリウムをドープした酸化亜鉛(GZO)、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)などで構成されている。
【0050】
特定の実施形態によれば、光学検出装置は、感応型反射素子が配置された筐体を有していてもよい。
【0051】
筐体は、試験雰囲気の出入りを可能にするよう構成された少なくとも1つの開口部を有していてもよい。
【0052】
本発明の他の目的は、上述のような光学検出装置を用いて、試験雰囲気中の揮発性化合物を検出し、定量する方法である。検出及び定量する方法は以下のステップで構成されている:
・前記単色又は準単色光源を用いて前記感応層に入射角で光を照射するともに、前記感応型反射素子で反射された光の強度を測定し、
・前記感応型反射素子を試験雰囲気に所定の時間曝露することで、前記試験雰囲気中に含まれる揮発性化合物を前記感応型反射素子の感応層に吸着させ、
・感応層を導電層で加熱することで、感応層からの揮発性化合物の脱離を制御し、
・前記加熱のステップ中に前記感応型反射素子から反射される光の強度を測定することで、前記感応型反射素子の屈折率の変化を測定し、
・前記感応型反射素子の屈折率の変化を監視することで、前記加熱のステップ中に前記感応層から脱離した揮発性化合物の性質及び量を判定するところ、前記感応型反射素子の屈折率の変化を監視するステップは前記処理及び計算ユニットによって実行される。
【0053】
本発明による検出及び定量の方法では、特に、揮発性化合物を室温で感応層に吸着させることができる。次に、吸着した揮発性化合物の検出と定量は、感応型反射素子の屈折率の変化を簡単に検出することで行われ、これにより、検出された揮発性化合物の同定や、試験雰囲気中のこの揮発性化合物の濃度に関する迅速な結果を得ることができる。
【0054】
本発明による試験雰囲気中の揮発性化合物を検出及び定量する方法は、単独又は組み合わせて実施され得る、以下の特徴の1つ又は複数をさらに含んでもよい。
【0055】
代替案によれば、感応層を照射するステップと、感応型反射素子を試験雰囲気に曝露するステップを入れ替えてもよい。
【0056】
一態様によれば、感応層を加熱するステップは、毎秒l℃から毎秒20℃の間の加熱速度で制御された加熱によって行われてもよい。
【0057】
特定の実施形態によれば、加熱ステップ中に脱離した揮発性化合物の性質の判定は、所定の温度での感応型反射素子の屈折率を、この同じ温度での化合物を吸着していないこの感応型反射素子の屈折率と比較することによって行われる。
【0058】
代替案によれば、脱離した揮発性化合物の性質の判定は、導電層の温度の関数として感応型反射素子の屈折率の変化の曲線をプロットし、この曲線の導関数の値がゼロとなる温度に対応する脱離温度を、方程式を解くことによって判定することによって行われる。
[数式1]
【数1】
ここで:
T:導電層の温度(℃)、
N1:感応型反射素子の屈折率の値。
【0059】
別の選択肢によれば、脱離した揮発性化合物の量の判定は、加熱前と加熱後の屈折率変化を比較することによって行われる。
【0060】
この別の方法によれば、脱離した揮発性化合物の量は、式:N2-N1に比例する。
ここで:
N1: 吸着された揮発性化合物に感応型反射素子の屈折率の値
N2:揮発性化合物を含まない感応型反射素子の屈折率の値である。
【0061】
1つの側面によると、感応層から反射された光の強度を測定するステップは、0.2秒から5秒の間の時間間隔に従って実行されてもよい。
【0062】
脱離した揮発性化合物の定量は、対応する揮発性化合物の脱離に対応する感応型反射素子の屈折率変化のピークの面積を積分することによって行うことができる。
【0063】
一実施形態によれば、揮発性化合物の混合物がある場合、揮発性化合物の識別は、その揮発性化合物の脱離時に感応型反射素子の屈折率をデコンボリューションすることによって行うことができる。
【0064】
特定の実施形態によれば、光源の波長は、感応型反射素子の反射スペクトルの構成的な及び破壊的な2つの干渉ピークの間の変曲点の波長位置と一致するように選択されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
本発明のさらなる特徴と利点は、限定ではなく例示のために与えられた以下の説明と、添付の図面から明らかになるだろう。
【
図1】
図1は、光学検出装置の模式的な透視図である。
【
図2】
図2は、
図1の光学検出装置の感応型反射素子の模式的な断面図である。
【
図3A】
図3Aは、第1の実施形態による
図1の光学検出装置の感応型反射素子の概略断面図である。
【
図3B】
図3Bは、第2の実施形態による
図1の光学検出装置の感応型反射素子の概略断面図である。
【
図4B】
図4Bは、第2の実施形態による
図1の光学検出装置の模式的な断面図である。
【
図4C】
図4Cは、第3の実施形態による
図1の光学検出装置の模式的な断面図である。
【
図5】
図5は、
図1の光学検出装置を用いて試験雰囲気中の揮発性化合物を検出し、定量する方法の異なるステップを示すフローチャートの概略図である。
【
図6A】
図6Aは、揮発性化合物の検出及び定量の過程における、
図1の光学検出装置の感応層の模式図である。
【
図6B】
図6Bは、
図6Aの感応層から揮発性化合物を脱離する際の処理後に得られた曲線を示す模式図である。
【
図7A】
図7A~7Fは、特定の化学組成を有する感応層に対して分離された異なる揮発性化合物の脱離中に得られた屈折率変化曲線の模式図である;及び
【
図8A】
図8A~8Cは、化学組成の異なる感応層について、同一の試験雰囲気中に含まれる揮発性化合物を脱離する際に得られる屈折率変化曲線を模式的に表したものである。
【0066】
各図の中の同じ要素には同じ参照番号が付けられている。
【発明を実施するための形態】
【0067】
以下の実施形態は一例である。本明細書では1つ又は複数の実施形態について言及しているが、これは必ずしも各言及が同じ実施形態に対するものであること、又は特徴が1つの実施形態にのみ適用されることを意味するものではない。また、異なる実施形態の単純な特徴を組み合わせ、及び/又は交換して、他の実施形態を提供してもよい。
【0068】
本明細書では、第1の特徴や第2の特徴だけでなく、第1のパラメータや第2のパラメータ、第1の基準や第2の基準など、特定の特徴やパラメータを指標化してもよい。この場合、類似しているが同一ではない要素、パラメータ、基準を区別して名前を付けるという単純な索引付けになる。この索引付けは、ある要素、パラメータ、基準の他に対する優先順位を意味するものではなく、本明細書の枠組みを離れることなく、このような呼び方を容易に入れ替えることができる。また、このインデックスは、例えば、このような基準を評価するというような時間的な順序を意味するものではない。
【0069】
本明細書では、「揮発性化合物」とは、国際純正及び応用化学連合が定める標準的な温度及び圧力条件、すなわち25℃、1気圧で容易に気化及び蒸発する化合物を意味する。本明細書では、揮発性化合物は、有機物であってもよく、例えば、揮発性有機化合物(VOCの頭文字でも知られている)であってもよく、また、無機物であってもよく、例えば、水であってもよい。
【0070】
さらに、以下の説明では、「透明」とは、好ましくは無色の材料で、特に280nmから1300nmの間の波長に対して最大10%の強度吸収で光を通すことができるものを意味する。
【0071】
一方、以下の説明では、「キセロゲル」とは、ゾル-ゲル法で作られたガラス状の高分子酸化物ネットワーク材料を意味する。
【0072】
次に、以下の説明において、「準単色」とは、スペクトルが非常に狭い波長帯を占めるだけの波を意味すると理解され、その波のスペクトルは、例えば、2nm未満の波長帯を占めることがある。
光学的検出装置:
【0073】
図1~
図4Cを参照すると、揮発性化合物A、B、C(
図6Aに示す)の光学検出装置1が示されている。光学検出装置1は、感応型反射素子3と、少なくとも1つの単色又は準単色の光源5と、少なくとも1つの光検出器7と、処理及び演算ユニット9とを備えている。
【0074】
感応型反射素子3は、試験雰囲気中に配置され、前記試験雰囲気中に存在する揮発性化合物の少なくとも一部が前記感応型反射素子3に吸着され、その存在を検出し、脱離時にその濃度を判定できるようにすることが意図されている。したがって、感応型反射素子3の反射強度は、この感応型反射素子3に吸着された試験雰囲気中に含まれる揮発性化合物A、B、Cとその濃度の関数として変化するように意図されている。感応型反射素子3は、基材層31と、少なくとも1つの感応層33と、基材層31と感応層33との間に挟まれた導電層35とを備えている。一方、導電層35は、ジュール効果によって感応層33を加熱するように構成されている。
【0075】
基材層31は、半導体例えばシリコン、ガラス、サファイア、又は金属で構成されていてもよい。さらに、基材層31は、250nmから1500nmの波長に対して、2.5以上、特に3以上の屈折率を有している。また、基材層31は、導電層35に対向して配置された一方の面に鏡面状の金属をコーティングするなどして、反射性を持たせてもよい。
【0076】
さらに、少なくとも1つの感応層33は、多孔質で透明である。この感応層33は、試験雰囲気中に含まれる揮発性化合物A、B、C(
図6Aに示す)の少なくとも一部を吸着しさらに脱離させることができるように構成されている。この感応層33は、特定の揮発性化合物に対して特定の化学的親和性を有していてもよく、例えば、例えばクロロホルムなどのハロゲン誘導体、例えばアセチルアセトンなどのアルデヒド類やケトン類、例えばヘキサンやトルエンなどの飽和又は不飽和の直鎖状又は環状の炭化水素類、例えばエタノールやエチレングリコールなどのアルコール類などが挙げられる。より詳細には、この感応層33への揮発性化合物の吸着は、物理吸着に対応しており、すなわち、この吸着は、低エネルギーの力、特にファンデルワールス力によって達成される。このように、感応層33の性質や組成を工夫することで、特定の種類の揮発性化合物の吸着を有利にしたり不利にしたりすることができる。さらに、細孔の立体障害や化学的親和性を変更することで、特定の揮発性化合物A、B、Cのファミリーに対するこの感応層33の選択性を調整することも可能である。少なくとも1つの感応層33は、2nm未満の平均細孔径及び25%未満の空隙率を有していてもよい。このような感応層33の特性により、感応層33は多くの揮発性化合物A、B、Cに対して適切な吸着特性を有する。確かに、孔径が大きすぎると、一部の化合物が脱離しやすくなり、その揮発性化合物の測定精度が低下する可能性がある。平均孔径は、例えば、American Chemical Society誌に掲載された論文「Porosity and Mechanical properties of mesoporous thin films assessed by environmental ellipsometric porosimetry」(Cedric Boissiere et al.、2005)に詳細に記載されている既知の体積測定法によって求めることができる。Langmuir: the ACS journal of surfaces and colloids 2005, 21, 12362-71。さらに、感応層33は、140cm
2/cm
2以上のアクセス可能な細孔表面を有している。一方、少なくとも1つの感応層33は、試験雰囲気に曝露される前に、400nmから1000nmの間の波長に対して、1.2から1.6の間、特に1.3から1.5の間の屈折率を有していてもよい。本発明者らが行った試験によると、このような特性を有する感応層33では、揮発性化合物A、B、Cの1ppmあたり10
-4~10
-5光学単位
の感度が得られることがわかった。
【0077】
少なくとも1つの感応層33は、ゾル-ゲルシリカであってもよいし、キセロゲルであってもよい。ゾル-ゲル方法の使用により、この感応層33の形成、特にその厚さe(
図3A及び3Bに示す)を容易に制御することができる。より詳細には、少なくとも1つの感応層33は、50nmから2000nmの間、特に400nmから1200nmの間、より特に500nmから800nmの間の厚さeを有する。感応層33の厚さeにより、比較的短い応答時間を実現している。具体的には、感応層33の厚さeが大きすぎると、平衡時間が非常に長くなり、光学検出装置 1 の使用者には好ましくないと考えられる。また、感応層33の厚さeは、光源5の発光波長に対応する測定波長に最大傾斜の変曲点を配置することができる。さらに、感応層33のこのような厚さeにより、感応層33が加熱されたときに均一な温度とすることができる。具体的には、感応層33の厚さeが大きすぎると、その加熱時に感応層33の温度がその厚さe全体で均一にならず、光学検出装置1による測定に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0078】
さらに、少なくとも1つの感応層33は、構造化剤、すなわち、感応層33を構成する材料が組織化され得る無機物又は有機物の化学種を含んでいない。
【0079】
一方、感応層33がキセロゲルによって形成されている場合、このキセロゲルは、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、メチルトリエトキシシラン(MTEOS)、又はフェニル-トリエトキシシラン(Ph-TEOS)からなるものであってもよい。後に詳述する特定の実施形態によれば、キセロゲルは、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、メチルトリエトキシシラン(MTEOS)、及びフェニル-トリエトキシシラン(Ph-TEOS)の混合物から構成されていてもよい。
【0080】
さらに、感応型反射素子3の導電層35は、非散乱性であり、すなわち光を散乱させず、400nm~1000nmの波長で透明である。具体的には、この導電層35が光を散乱させてしまうと、測定の精度が損なわれる可能性がある。実際、導電層35が散乱を引き起こしている場合、光ビーム51の一部が散乱する可能性があり、一旦反射されたこの信号の強度に悪影響を及ぼし、導電層35におけるそれの散乱に関連する初期信号のマスキングにより、光検出器による分析が困難になる可能性がある。 さらに、この導電層35が不透明である場合、このケースでは、反射されたビームを得ることができず、したがって、光検出器7によるそれの検出が不可能になる。この導電層35は、基材層31及び感応層33に直接接して配置されている。この導電層35は、感応層33に吸着した揮発性化合物A、B、Cの脱離を可能にするために、ジュール効果による感応層31の加熱を可能にするように構成されている。そのために、導電層35は、10
-4Ω・mから10
-7Ω・mとの間の抵抗率を有してもよい。一方、この導電層35の成分は、ジュール効果による感応層33の加熱を可能にするために、2Ω~200Ω、特に20Ω~50Ωの抵抗値を有していてもよい。この導電層35を感応層33に直接接触させて配置することで、感応層33を効率的に加熱することができ、感応層33に吸着した揮発性化合物A、B、Cの脱離に要する時間を制限することができる。さらに、導電層35は、150nm以下、特に70nm~90nmの厚さs(
図3A及び3Bに示す)を有していてもよい。なお、この導電層35の厚さsは、光学的読み出しに支障をきたさないように調整してもよいし、加熱条件に必要な電力を調整するために、この導電層35の抵抗率を調整してもよい。
【0081】
一方、導電層35は、例えば、スズをドープした酸化インジウム(ITO)、アルミニウムをドープした酸化亜鉛(AZO)、ガリウムをドープした酸化亜鉛(GZO)、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)などの透明導電性酸化物(TCO)を用いてもよい。このような化合物は、ジュール効果による感応層33の加熱に必要な抵抗特性を備えている。このような構成の導電層35の透明導電性酸化物では、光源5から発せられた光ビーム51の直接反射による光電変換が可能となる。一方、透明導電性酸化物(TCO)は、ゾル-ゲル法による処理に適しているため、感応層33の形成に適している。本実施形態では、基材層31は、反射光ビームの強度を向上させるために、導電層35に接するように配置された側面に鏡面状の金属被膜が施されている。
【0082】
このように、感応型反射素子3は、厚みが小さいため、測定場所での配置や輸送が容易である。さらに、感応型反射素子3は、光学検出装置1の他の要素の存在を必要とすることなく測定位置に配置することができ、これらは、感応層33に吸着している可能性のある揮発性化合物A、B、Cの脱離を調べる場合にのみ必要である。
【0083】
さらに、光源5は、入射角αで感応層33を照射するように配置されている。
図1の特定の実施形態によると、光源5が放出する波長は400nmから1000nmの間である。さらに、光源5が発する波長は単色で、感応型反射素子3の反射スペクトルの構成的及び破壊的な2つの干渉ピークの間の変曲点の波長位置と一致するように、入射角αとともに選択してもよい。感応層33の厚さeは、反射スペクトルの変曲部の傾きを大きくするのに十分な大きさに選ばれており、干渉の数がアライメントを繊細にしすぎる値を超えないようになっている。
【0084】
さらに、光検出器7は、検出角度βで感応型反射素子3から反射された光強度を測定するように構成されている。 この光検出器7は、例えば、カメラや、感応型反射素子3から反射された光ビーム51を検出できる他の素子であってもよい。
図1の特定の実施形態によれば、入射角α及び検出角βは、感応層33の法線11に対して、それぞれ30°から75°の間である。この法線11は、感応層33に垂直に配置された仮想線である。一方、正反射の場合は、入射角αと検出角βが等しくてもよいが、その必要はない。
図2を参照すると、感応層31及び導電層35を通る光ビーム51の光路が示されている。この
図2に示すように、感応層33の法線11を基準にして、入射角α及び反射角βが決められている。この
図2では、光路の表現を意図的に誇張しており、入射角αと検出角β、及び感応層33と導電層35の界面で生じる光ビーム51の種々のずれをよく識別できるようになっている。
【0085】
基材層31の存在を考慮せず、フレネル方程式を用いて簡略化したアプローチによると、次のようになる。
[数式2]
【数2】
[数式3]
【数3】
[数式4]
【数4】
ここで、
Rsはs偏光の入射光に対する反射率、
Rpはp偏光の入射光に対する反射率、
Rは無偏光に対する反射率、
αは入射光束51の角度、
βは反射光束51の角度、
n
1は空気の屈折率で、n
1=1=一定である。
n
2は試験雰囲気に含まれる揮発性化合物A、B、Cの感応層33による吸着量に応じて変化する感応型反射素子3の屈折率である。
【0086】
この式では、n2のみが、試験雰囲気中に含まれる揮発性化合物A、B、Cの感応層33への吸着の関数として変化し、n1、α、βは一定であるため、屈折率n2の増加に伴って反射率が直線的に減少することが推測される。感応型反射素子3の屈折率n2は、感応層33に吸着した揮発性化合物A、B、Cの量に応じて直線的に変化することが判明した。
【0087】
図1に戻って、処理及び計算ユニット9は、感応型反射素子3で反射される光の強度を変化させることにより、脱離温度と濃度に応じて、試験雰囲気中に存在する揮発性化合物A、B、Cを判定するように構成されている。処理及び演算ユニット9は、後にさらに詳細に説明するように、所定の温度で感応型反射素子3によって反射された光強度と、この同じ温度で試験雰囲気に曝露される前にこの感応型反射素子3によって反射された光強度とを比較することによって、感応層33から脱離した1つ以上の揮発性化合物A、B、Cの存在を検出することができる。さらに、試験雰囲気中に検出された揮発性化合物A、B、Cの濃度は、揮発性化合物A、B、Cの脱離に対応する感応型反射素子3の屈折率の変化の各ピークの面積を積分することによって求められる。この積分は、特に処理及び計算ユニット9の校正後に行うことができる。
【0088】
このように、光学検出装置1は、光ビーム51の反射強度を変化させて感応型反射素子3の屈折率の変化を判定するだけで、試験雰囲気中の1種類以上の揮発性化合物A、B、Cの存在を容易に検出することができる。したがって、この検出は迅速に行うことができる。実際に、変換が光反射型であるため、揮発性化合物A、B、Cの検出は、揮発性化合物A、B、Cの感応層33への吸着に伴う屈折率の増加によって誘発される単一波長での反射強度の変化を測定することによって行われる。さらに、試験雰囲気中に最初に存在する脱離性の揮発性化合物A、B、Cを検出して定量するために、熱脱離を使用することは簡単で迅速に実行できる。また、感応型反射素子3を構成する各要素はかなり安価であるため、この光学検出装置1の製造コストを低く抑えることができる。
【0089】
さらに、感応層33の厚さeと、波長と入射角αの組み合わせを適切に選択することで、光学検出装置1の感度を高めることができる。具体的には、光学検出装置1の動作の基本を説明するために、上記の簡略化されたフレネル方程式が提示されている。
【0090】
代替的又は追加的に、少なくとも1つの感応層33は、この光学検出装置1の感度を向上させるために、光信号のバリエーションを増やすように構成された構造を有していてもよい。少なくとも1つの感応層33の構造は、回折格子、共鳴領域、フォトニック結晶、又は層のスタックを含んでいてもよい。
【0091】
図3Aに示す特定の実施形態によれば、感応型反射素子3は、単一の感応層33から構成されていてもよい。この感応層33として、単一の化学化合物のファミリーを選択してもよく、代わりに複数の化学化合物のファミリーを選択してもよい。感応型反射素子3が単一の感応層33を有する場合、光学検出装置1は、単一の光源5と単一の光検出器7とから構成される。この特定の実施形態によれば、導電層35は、80nmの厚さs、5*5mm
2の面積、及び30Ωの抵抗を有する。このような導電層35は、発電機13(
図1に示す)から4.5Vの電圧が供給されると、25秒で感応層33の温度を80℃に到達させることができ、また、発電機13がこの導電層35に12Vを供給すると、感応層33の温度は300℃に到達する。感応型反射素子3のための単一の感応層33の存在は、その製造を容易にする。しかし、揮発性化合物A、B、Cがこの感応層33の脱離温度が近い場合には、後で説明するように、これらの揮発性化合物A、B、Cを区別できないことがある。このような状況は非常に稀であるが、発生する可能性がある。
【0092】
この不測の事態を緩和するために、
図3Bを参照して示すように、感応型反射素子3は、導電層35上に互いに隣接して配置された複数の感応層33を含んでいてもよい。
図3Aの感応層33で起こり得る、近い又は同一の脱離温度を有する揮発性化合物A、B、Cの識別を可能にするために、感応型反射素子3の感応層33a、33b、33cは、垂直な方向の化学的親和性を有していてもよく、それによって、揮発性化合物A、B、Cのより正確な化学的識別が可能になる。垂直方向の化学的親和性とは、感応層33a、33b、33cの1つが、第1の化学化合物のファミリーに対して高い又は排他的な化学的親和性を有し、第2の化学化合物のファミリーに対して無視できる又は全く親和性を有さず、感応層33a、33b、33cのもう1つが、この第2の化学化合物のファミリーに対して高い又は排他的な化学的親和性を有し、この第1の化学化合物のファミリーに対して無視できる又は全く親和性を有さないことと定義される。
【0093】
図3Bの特定の実施形態によれば、感応型反射素子3は、3つの感応層33a、33b、33cを含む。感応層33a、33b、33cは、感応層33a、33bに関して垂直な化学的親和性を有しており、それらは隣り合うように配置されている。あるいは、感応層33a、33b、33cは、感応層33a、33cに関し垂直な化学的親和性を有しており、それらは感応型反射素子3の中で互いに分離されている。当然のことながら、感応層33a、33b、33cの組成は互いに異なっており、これらの感応層33a、33b、33cの揮発性化合物A、B、Cの脱離温度は、後に詳述するように、検討中の感応層33a、33b、33cに応じて互いに異なっていてもよい。具体的には、感応層33a、33b、33cの化学組成を変えることで、これらの感応層33a、33b、33cの同じ揮発性化合物A、B、Cとの化学的親和性が異なり、異なる化学組成を有する感応層33a、33b、33cの同じ揮発性化合物A、B、Cの脱離温度が変化する場合がある。この特定の実施形態によれば、光学検出装置1は、異なる感応層33a、33b、33cの数と同じ数の光源5を備え、各光源5は、特定の感応層33a、33b、33cに向けて光ビーム51を照射する。揮発性化合物A、B、Cの脱離の際に、感応層33の光学特性の変化を温度の関数として追いかけるために、異なる光源5が異なる波長の光ビーム51を放出する場合には、光学検出装置1は単一の光検出器7を有していてもよい。あるいは、光学検出装置1は、光源5の数だけ検出器7を有し、各検出器7は、特定の光源5及び特定の感応層33a、33b、33cに関連付けられていてもよい。
図3Bの特定の実施形態による感応型反射素子3は、例えば、人工鼻を構成することができる。
【0094】
図4A~
図4Cを参照すると、光学検出装置1の様々な代替実施形態が示されている。
【0095】
図4Aを参照すると、この光学検出装置1を取り巻く雰囲気中に存在する揮発性化合物A、B、Cを吸着できるように、感応型反射素子3をベース15上に配置し、雰囲気中に放置してもよい。なお、
図4Aに表したベース15は、例えばテーブルなど、感応型反射素子3が配置される要素に対応していてもよい。このベース15は、任意のタイプの支持体にこの感応型反射素子3を固定できるように構成された接着剤に対応することもできる。したがって、このベース15は、感応型反射素子3に追加された追加要素であってもよいし、光学検出装置1の別の要素であってもよい。
【0096】
図4B及び
図4Cを参照すると、光学検出装置1は、感応型反射素子3が配置された筐体20を有していてもよい。この筐体20の存在により、感応型反射素子3の取り扱いや移動が容易になる場合がある。具体的には、この筐体20の存在により、操作者の手に存在する可能性のある化合物による感応層33の汚染を防止することができる。筐体20は、ガス流Fの形で試験雰囲気の出入りを可能にするように構成された少なくとも1つの開口部21を有する。より詳細には、
図4Bの光学検出装置1は、ガス流Fの出入りを可能にするために、単一の開口部21を有している。 このような光学検出装置1は、例えば、室内や自動車の乗員室に存在する空気のように、自由大気中の特定の揮発性化合物の存在を検出するために使用することもできる。一方、
図4Cの特定の実施形態によれば、筐体20は、筐体20へのガス流Fの進入を可能にするように構成された第1の開口部21aと、筐体20からのこのガス流Fの退出を可能にするように構成された第2の開口部21bとを有している。
図4Cの特定の実施形態によれば、ガス流Fは、この筐体20の内部に配置されたファン(図示せず)の助けを借りて、筐体20の内部で生成される。
図4Cの光学検出装置1は、例えば、ボトルに収容されたガスの中や、室内や車内の雰囲気中に存在するに特定の揮発性化合物の存在を検出するために使用することができる。
図4B及び
図4Cの実施形態によれば、携帯型の光学検出装置1を得るように、光源5及び光検出器7をこの筐体20内に配置してもよい。このような構成では、導電層35によるこの感応層33の加熱中に、感応層33の屈折率をその場で測定して監視してもよい。 あるいは、筐体20は、感応型反射素子3のみを含み、他の要素は筐体20の外側に配置されていてもよい。さらに別の代替案によれば、感応型反射素子3は、感応型反射素子3に吸着された揮発性化合物A、B、Cの脱離、ひいては検出及び定量を可能にするために、この筐体20から取り外し可能であってもよい。
【0097】
本発明者らは、筐体20の存在や構成によっては、揮発性化合物A、B、Cの吸着率が同一ではないことを確認している。より詳細には、
図4Cを参照して示すように、第1の開口部21a及び第2の開口部21bを有する筐体20の構成は、揮発性化合物の感応層33へのより早い吸着を提供し、
図4A及び
図4Bを参照して示す構成は、
図4Cの筐体20の構成の場合と実質的に同等の低い吸着速度を提供する。
検出及び定量法:
【0098】
図5には、先に説明した光学検出装置1を用いて、試験雰囲気中の揮発性化合物A、B、C(
図6Aに示す)を検出及び定量する方法100を示すフローチャートが示されている。
【0099】
検出及び定量する方法100は、単色又は準単色の光源5(
図1 示されている)で感応層33を入射角αで照射し、感応型反射素子3で反射した光の強度を測定するステップE1を含む。この照射ステップE1により、揮発性化合物A、B、Cが感応層33に吸着する前の光ビーム51の初期反射を判定できる。
【0100】
続いて、検出及び定量する方法100は、感応型反射素子3の感応層33に、この雰囲気に含まれる揮発性化合物A、B、Cの吸着を試験できるように、感応型反射素子3を試験雰囲気に所定の時間曝露する晒すステップE2を実施する。この露光ステップE2では、感応型反射素子3の感応層33も照射され、この感応層33への揮発性化合物A、B、Cの吸着の可能性を観察できるようになっている。具体的には、感応型反射素子3の屈折率は、揮発性化合物A、B、Cの吸着により増減する。したがって、この露光ステップE2における感応層33の照明により、揮発性化合物A、B、Cが感応層33に吸着されているか否かを判定することができる。
【0101】
代替案によれば、感応層33に光を照射するステップと、感応型反射素子3を試験雰囲気に曝露するステップE2は、交換してもよい。より詳細には、感応型反射素子3を試験雰囲気に曝露するステップE2は、感応層33に光を照射するステップElの前に実施されてもよい。
【0102】
続いて、検出及び定量方法100は、感応層33から揮発性化合物A、B、Cを脱離させるために、導電層35によって感応層33を加熱するステップE3を実施する。特定の実施形態によれば、感応層33の加熱のステップE3は、l℃/sから20℃/sの間の昇温速度で制御された加熱によって行われる。
【0103】
検出及び定量する方法100は、この感応型反射素子3の屈折率の変化を判定するために、加熱ステップE3中に感応型反射素子3からの反射光の強度を測定するステップE4を含む。感応型反射素子3からの反射光の強度を測定するステップE4は、例えば、0.2秒から5秒の間の時間間隔で行うことができる。具体的には、感応型反射素子3の屈折率を変化させることにより、後者の感応層33による揮発性化合物A、B、Cの吸着や、この感応型反射素子3の感応層33からの揮発性化合物A、B、Cの脱離を検出することができる。
【0104】
最後に、検出及び定量する方法100は、加熱ステップE3の間に感応層33から脱離した揮発性化合物A、B、Cの化学的性質及び量を判定するために、感応型反射素子3の屈折率の変化を監視するステップE5を含む。この感応型反射素子3の屈折率の変化を監視するステップE5は、処理及び計算ユニット9によって行われる。より詳細には、感応型反射素子3の屈折率の変化を監視するこのステップE5の間に、処理及び計算ユニットは、温度の関数としての信号の微分を実行し、当該微分がゼロである温度の値をデータベースに存在する温度と比較することによって、加熱ステップE3の間に脱離した揮発性化合物A、B、Cの性質を判定する。一方、脱離した揮発性化合物A、B、Cの定量は、脱離した揮発性化合物の脱離に対応する反射光強度の変化の異なるピークの面積を積分することに発生器よって行われる。この積分は、処理及び計算ユニット9の較正後に行うことができる。
【0105】
本発明者らは、様々な試験の中で、この感応層33が250℃以上の温度になると、感応層33に潜在的に吸着していた揮発性化合物A、B、Cの全てが完全に脱離することを確認した。l℃/sから20℃/sの間の昇温速度とすることで、この検出及び定量する方法100によって応答時間を短縮できることが分かった。
【0106】
図6Aを参照すると、
図5を参照して説明した検出及び定量する方法100の概略が模式的に示されている。この模式図によれば、感応型反射素子3の感応層33は、初期状態Iに応じて示され、検出及び定量する方法100中の汚染状態Pに応じて示される。感応層33が初期状態Iにあるときは、そこに揮発性化合物A、B、Cが吸着されていない。測定値の較正を可能にするために、ジュール効果によって感応層33を加熱するために導電層35にエネルギーを提供するように(
図1に示す)発電機13を作動させてこの感応層33の加熱を行うことによって、その上に吸着されたいかなる元素もないこの感応層33の屈折率をその温度の関数として測定できる。
【0107】
次に、感応層33は、任意に、感応層33に吸着することが意図された少なくとも一部の揮発性化合物A、B、Cを含む試験雰囲気に曝露される。この感応層33の試験雰囲気への曝露は、典型的には、室温、すなわち約25℃で行われる。この曝露は、揮発性化合物A、B、Cの少なくとも一部をこの感応層33に吸着させるために、所定の時間行われる。この曝露時間は、数分、典型的には10~30分から数日、典型的には5~6日の間でよい。
図6Aに示す例によれば、感応層33は、これに吸着可能な揮発性化合物A及びBに特異的であり、一方、揮発性化合物Cは、この感応層33との化学的親和性が無視できる又は全くない。そのため、揮発性の化合物Cは後者には吸着されない。そして、発電機13によって導電層35に電流が供給されると、ジュール効果によって感応層33が加熱される。この加熱時に、この感応層33に吸着していた化学種AとBは、それぞれ異なる温度で脱離する。この差別化された脱離により、試験雰囲気中の揮発性化合物AとBの存在を検出し、その脱離温度により、これらの揮発性化合物AとBを特定することが可能となる。このようにして、感応層33は、揮発性化合物A、B、Cに関して二重の選択性を有することができることが観察される:第1の選択性は、この感応層33への揮発性化合物の吸着に関するものであり、第2の選択性は、この感応層33からの脱離温度に関するものである。このような測定及び定量する方法100は、したがって、高い測定感度を得ることができる。
【0108】
具体的には、
図6Bに示されているように、揮発性化合物AとBは、この感応層33から異なる温度で脱離する。このように感応層33の温度によって脱離が異なるのは、これらの化合物A、Bが感応層33との間に持つ化学的親和性と脱離熱に関係している。具体的には、揮発性化合物A、B、Cと感応層33との間の脱離熱や化学的親和性が高いほど、この揮発性化合物A、B、Cの脱離温度は高くなる。このように、
図6Aに示された概略によれば、揮発性化合物Bは、
図6Bに示されたように、より低い温度で脱離する揮発性化合物Aよりも、感応層33との高い化学的親和性を有している。
【0109】
図6Bを参照すると、脱離した揮発性化合物の性質の判定は、感応型反射素子3の屈折率変化曲線を導電層35の温度の関数としてプロットし、この曲線の微分の値がゼロになる温度に対応する脱離温度を、方程式を解くことによって判定することによって行われる。
[数式1]
【数5】
ここで:
T:導電層35の温度(単位:℃)、
N1:感応型反射素子3の屈折率の値。
【0110】
より詳細には、
図6Bによれば、曲線110は、この式を満たす曲線のプロットに対応する。そして、処理及び計算ユニット9(
図1に示す)により、この場合のように揮発性化合物A、B、Cの混合物がある場合には、揮発性化合物A、B、Cの識別が可能となる。揮発性化合物A、B、Cの識別は、このガスの脱離時に温度の関数として感応型反射素子3によって反射された光の強度の微分を数学的にデコンボリューションすることによって行われる。より具体的には、これらのデコンボリューションは、揮発性化合物Aの脱離時を表す曲線120と、揮発性化合物Bの脱離時を表す曲線130によって示されている。
図6Bの様々な曲線を解釈すると、化合物Aは約94℃の温度で感応層33から脱離し、化合物Bは約161℃の温度でこの感応層33から脱離することが推察される。これらの脱離温度を感応層33の組成に応じて判定することで、脱離させられた揮発性化合物A、B、Cの性質を把握することができる。感応層33の組成の関数としてのこれらの異なる脱離温度は、例えば、表にすることができる。
【0111】
一方、揮発性化合物Aの脱離に関連する感応型反射素子3の屈折率の変化のピークの領域に対応する曲線120の下に配置された領域S1を積分することにより、試験雰囲気に曝露されている間に感応層33に吸着された揮発性化合物Aの量を判定することが可能となり、この雰囲気中の濃度を追跡することができる。典型的には、領域S1は、この曲線120の下の斜めのハッチングの部分に相当する。一方、脱離した揮発性化合物Bの定量は、曲線130の下に配置され、揮発性化合物Bの脱離に関連する感応型反射素子3の屈折率の変化のピークの領域に対応する領域S2を積分することによっても得られる。 このように領域S2を積分することによって、脱離した揮発性化合物Bの量を得ることができ、その結果、試験雰囲気中の濃度を追跡することができる。この領域S2は、この曲線130の下で縦方向のハッチングの部分に相当する。このように、脱離した揮発性化合物の定量は、導電層35の温度の関数としての光学的な応答の変化の曲線、ひいては感応層33の温度の関数としての曲線の微分による数理処理によって行われる。
【0112】
この図には示されていないが、代替案として、脱離した揮発性化合物の量の判定は、感応層33を加熱する前と後の屈折率の変化を比較することによって行われる。この方法によれば、脱離した揮発性化合物の量は、N2-N1の式に比例する。
・N1:揮発性化合物が吸着された状態の感応型反射素子3の屈折率の値、及び
・N2:揮発性化合物を含まない感応型反射素子の屈折率の値。
特定の感応層に対する特定の揮発性化合物の脱離温度:
【0113】
図7A~
図7Fを参照すると、感応型反射素子3の屈折率の変化をその感応層33の温度の関数として示す様々な曲線が示されている。これらの異なる例では、同じ化学組成の感応層33を様々な実験のために用いており、この感応層33が曝露される揮発性化合物は予め分かっている。
【0114】
吸着した揮発性化合物A、B、Cに応じた脱離温度の違いを示すために用いた感応層33は、S3M3P3の組成物からなる。
【0115】
この組成物として、0.33 TEOS(オルトケイ酸テトラエチル);0.66 Ph-TEOS(フェニルトリエトキシシラン);7.8 H20;0.07 HCl;6.2 PrOH(イソプロパノール)からなるゾル-ゲル製剤で感応層を形成するが、示した各数値はモル比を表す。
【0116】
より詳細には、
図7A~
図7Fにそれぞれ示されている曲線700、710、720、730、740、750は、組成物S3M3P3の感応型反射素子3が、以下の揮発性化合物にそれぞれ個別に曝露されたときの、この感応層33の温度の関数としての屈折率の変化を表している。
* ヘキサン(
図7A)、
* トルエン(
図7B)、
* アセチルアセトン(
図7C)、
* クロロホルム(
図7D)、
* エチレングリコール(
図7E)、
* 水(
図7F)。
【0117】
これらの曲線700~750のそれぞれには、多かれ少なかれ感応型反射素子3の屈折率の変動のピークが1つ(又は複数)記されている。特に水の場合、変動ピーク751は非常に小さい。この変動ピーク751は、感応層33の温度が約40℃の場合に検出される。このスペクトル分析により、組成物S3M3P3の感応層33は、水をほとんど捕獲せず、水が非常に容易に脱離する(脱離温度40℃)ことから、疎水性の特性を有することを推測することができる。
【0118】
他の揮発性化合物A、B、Cは、それ自体が有機物であるため、感応型反射素子3の屈折率の変化はより顕著である。
【0119】
図7Bの曲線710によれば、感応層33からのトルエンの脱離に対応して、感応層33の温度が約53℃の場合に顕著な変動のピーク711が発生する。
【0120】
図7Cの曲線720によると、感応層33の温度が約59℃の場合に顕著な変動ピーク721が発生しており、これは感応層33からのアセチルアセトンの脱離に対応している。
【0121】
図7Dの曲線730によれば、感応層33の温度が75℃のときに、感応層33からのクロロホルムの脱離に対応して、顕著な変動ピーク731が発生する。
【0122】
図7Eの曲線740によれば、感応層33の温度が53℃のときに、感応層33からのエチレングリコールの脱離に対応して、顕著な変動ピーク741が発生する。
【0123】
これらのピークに対応する温度は、この曲線の導関数がゼロになる温度に対応している。このようにして、脱離させられた揮発性化合物の性質を、感応層33からの脱離温度の関数として容易に判定することができる。これらの値は、例えば、感応層33からの脱離温度を知り、所定の化学組成の感応層33に対する識別を容易にするために、異なる揮発性化合物A、B、Cのテーブルを作成することができる。
【0124】
図7Aの曲線700は、感応層33の屈折率の変化の第1のピーク701、第2のピーク702、第3のピーク703を示している。これらの第1の701、第2の702、及び第3の703の変動ピークは、ヘキサンの異なる異性体の脱離の差異に対応し、それぞれ69℃、100℃、及び179℃の異なる温度で発生する。これらの異なるヘキサン異性体は、例えば、n-ヘキサン、2-メチルペンタン、3-メチルペンタンに対応することができる。このように、ある化学物質の異なる異性体を、感応層33からの脱離温度によって区別することが可能である。
【0125】
それぞれ
図7B及び
図7Eを参照して示された曲線710及び740に戻ると、トルエン及びエチレングリコールは、組成物S3M3P3の感応層33に対して同じ脱離温度を有することが分かる。したがって、この組成物S3M3P3の感応層33は、これらの変動ピーク711及び741が混同されるため、試験雰囲気中にこれらの揮発性化合物が混在している場合、これらの揮発性化合物の検出を可能にするのには適していない。このような場合には、特にこれらの2つの揮発性化合物の識別を可能にするために、
図3Bを参照して示されるように、複数の感応層33a、33b、33cからなる感応型反射要素3を使用することが望ましいと考えられる。この識別は、これらの2つの揮発性化合物に対して垂直な化学的親和性を有する感応層33a、33b、33cを使用するか、又はこれらの2つの揮発性化合物が後述するように異なる脱離温度を有する感応層33a、33b、33cを使用することによって達成することができる。
感応層の化学組成の影響:
【0126】
感応層33の化学組成の関数として揮発性化合物A、B、Cの脱離温度の違いを説明し、前の例のトルエンとエチレングリコールの場合のように、異なる揮発性化合物が同じ温度で感応層33から脱離させられる可能性に対応するために、本発明者らは、異なる化学組成の感応層33を、揮発性化合物A、B、Cを含む同じ雰囲気に曝露した。熱脱離分析の結果は、
図8A~8Cを参照。より具体的には、本発明者らは、化学組成の異なる3つの感応層(REF、S3P7、S3M3P3と命名)を作製した。これらの異なる感応層は、以下の化学組成のゾル-ゲル製剤から作製され、数値はモル比に対応している。
組成物REF:1 TEOS(オルトケイ酸テトラエチル);4 H
20;0.17 HCl;5.8 PrOH(イソプロパノール);
組成物S3P7:0.33 TEOS(オルトケイ酸テトラエチル);0.33 MTEOS(メチルトリエトキシシラン);0.33 Ph-TEOS(フェニルトリエトキシシラン);7.8 H20;0.07 HCl;6.2 PrOH(イソプロパノール);
組成物S3M3P3:0.33 TEOS(オルトケイ酸テトラエチル)、0.66 Ph-TEOS(フェニルトリエトキシシラン)、7.8 H20、0.07 HCl、6.2 PrOH(イソプロパノール)。
【0127】
一方、これらの様々な感応層33が同時に暴露される雰囲気は、自動車の客室に対応しており、この特定の例では、5日間の期間曝露される。
【0128】
より具体的には、
図8Aは、組成物REFの感応層33を有する感応型反射素子3の屈折率変動曲線800を示し、
図8Bは、組成物S3P7の感応層33を有する感応型反射素子3の屈折率変動曲線810を示し、
図8Cは、組成物S3M3P3の感応層33を有する感応型反射素子33の屈折率変動曲線820を示す。より詳細には、これらの曲線800、810、820は、感応層33の温度の関数としての感応型反射素子3の屈折率の変化に対応する。
【0129】
これらの様々な
図8A~8Cによれば、
図8Cの曲線820は、約86℃の感応層33の温度に対して強く顕著な感応型反射素子3の屈折率の変動の単一のピーク821を有する一方、他の曲線は、温度の関数としての感応型反射素子3の屈折率の変動の2つのピーク801、802、811、812を有することに留意されたい。したがって、組成物S3M3P3の感応層33は、1つの揮発性化合物を吸着するのに対し、組成物REF及びS3P7の感応層33は、この自動車の客室の雰囲気に存在する2つの揮発性化合物を吸着すると考えることができる。これは、感応層33がその化学組成に応じて、特定の揮発性化合物A、B、Cに対して選択性を持つことを示している。
【0130】
さらに、
図8Aの曲線800は、化学組成REFの感応層33からの2つの揮発性化合物の脱離に対応しており、感応層33の温度が約55℃及び約132℃の場合に、感応型反射素子3の屈折率の変動の2つのピーク801、802がそれぞれ示されている。一方、
図8Bの曲線810は、化学組成S3P7の感応層の2つの揮発性化合物のそれぞれの脱離に対応して、感応層33の温度がそれぞれ約70℃及び約160℃の場合に、感応型反射素子3の屈折率の2つの変動ピーク811、812を示している。
図8A及び
図8Bを参照して示した感応層33の屈折率における変動801、802、811、812のこれら2つのピークは、2つの同一の揮発性化合物A、Bの脱離に対応すると仮定することができる。感応層33の化学組成の関数としてのこれらの揮発性化合物の脱離温度の変化は、
図3Bを参照して説明したように、複数の感応層33a、33b、33cを組み合わせることになる光学検出装置1の選択性の次元を向上させる。したがって、上述した組成物S3M3P3の感応層33の場合のトルエンとエチレングリコールの場合のように、単一の組成物の感応層33に対して同じ脱離温度を有しているような揮発性化合物に対して、より感度の高い測定を行うことができ、これらの揮発性化合物A、B、Cを識別することが可能となる。
【0131】
上述した様々な実施形態は、説明のために与えられた例であり、限定的なものではない。具体的には、当業者は、本明細書の範囲を超えることなく、必要に応じて、感応層33の昇温速度、感応層33の厚さe、導電層35の厚さs、支持層31、感応層33又は導電層35の組成を適合させることが全く可能である。一方、当業者であれば、本発明の範囲を逸脱することなく、本実施例に記載されたものとは異なる波長を有する光源を用いることができる。さらに、感応型反射素子3の様々な層の屈折率は、本発明の範囲から逸脱することなく、当業者が必要に応じて変更することができる。
【0132】
このように、上述の光学検出装置1、特に上述の検出及び定量する方法100で用いた感応型反射素子3のおかげで、使いやすく、安価で、試験雰囲気中の低濃度の揮発性化合物A、B、Cにも有効で、短時間で測定結果が得られる揮発性化合物A、B、C検出器を得ることができる。
【国際調査報告】