(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(54)【発明の名称】脳機能地図のサル-ヒト種間移行に基づいて精神疾患の個別的予測を行う方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20220111BHJP
【FI】
A61B5/055 380
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021528405
(86)(22)【出願日】2019-11-04
(85)【翻訳文提出日】2021-07-19
(86)【国際出願番号】 CN2019115401
(87)【国際公開番号】W WO2020103683
(87)【国際公開日】2020-05-28
(31)【優先権主張番号】201811384845.X
(32)【優先日】2018-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520267510
【氏名又は名称】センター フォー エクセレンス イン ブレイン サイエンス アンド インテリジェンス テクノロジー,チャイニーズ アカデミー オブ サイエンシーズ
【氏名又は名称原語表記】CENTER FOR EXCELLENCE IN BRAIN SCIENCE AND INTELLIGENCE TECHNOLOGY,CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
【住所又は居所原語表記】320 Yueyang Road,Xuhui District,Shanghai 200031,CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】ワン,チェン
(72)【発明者】
【氏名】ザン,ヤーフェン
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AD14
4C096BA42
4C096DC28
4C096DC32
4C096DC33
(57)【要約】
脳機能地図のサル-ヒト種間移行に基づいて精神疾患の個別的予測を行う方法、システムおよび精神疾患の予測モデルを確定する方法。当該精神疾患の予測モデルを確定する方法は、(a) データの獲得、(b) 前処理、(c) 脳領域の選択、(d) 特徴の構築、(e) 特徴のスクリーニング、および(f) モデリング・予測という工程を含む。当該方法およびシステムは、非侵襲的、正確率が高い、敏感性が高い、特異性が良い、普及しやすいといった特徴がある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
精神疾患の予測モデルを確定する方法であって、
(a) データの獲得:非ヒト霊長類動物およびヒトの機能磁気共鳴データを獲得する工程、
(b) 前処理:前記機能共鳴データに基づき、それぞれ非ヒト霊長類動物およびヒトの脳領域の間のピアソン相関係数を計算することにより、それぞれヒト霊長類動物およびヒトの全脳機能コネクトームを構築する工程、
(c) 脳領域の選択:前記前処理の非ヒト霊長類動物の処理結果から、関連するグループ変数に基づいた特徴選択アルゴリズムを使用し、病理に関連する特徴脳領域を得る工程、
(d) 特徴の構築:前記脳領域の選択で得られた特徴脳領域および前処理で得られたヒト機能コネクトームに基づき、特徴脳領域に接続する機能接続を選んでヒトの機能接続特徴集合を構築する工程、
(e) 特徴のスクリーニング:前記特徴の構築で得られた機能接続特徴集合に基づき、関連する特徴選択アルゴリズムを使用し、冗長な特徴を除去し、最適機能接続特徴部分集合を得る工程、ならびに
(f) モデリング・予測:前記特徴のスクリーニングで得られた最適機能接続特徴部分集合に基づき、回帰分析を行うことにより、精神疾患の予測モデルを得る工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記の機能磁気共鳴データは安静時機能磁気共鳴データを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記の機能磁気共鳴データは脳部の機能磁気共鳴データであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程(b)では、各脳領域の平均時系列を取り出し、任意の2つの脳領域の時系列の間のピアソン相関係数(すなわち、r値)を計算し、Fisher-Z変換を利用し、r値をz値へ変換することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【数1】
【請求項5】
工程(c)では、前記関連するグループ変数の特徴選択アルゴリズムは、グループ最小角回帰アルゴリズム(group lasso)を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
工程(e)では、前記関連する特徴選択アルゴリズムは、最小絶対値縮小選択演算子(lasso)を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記グループ最小角回帰アルゴリズム(group lasso)は下記式によって分析することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【数2】
(式中において、
Aは全脳機能接続行列を表し、特徴行列Aにおける同一の脳領域のノードgに接続する列を一つのグループ(脳領域)に分け、[A]
gで表す。
λはモデルがトレーニングデータをフィッテイングしすぎないようにするための正則化パラメーターを表し、取れる値が0.05~1の範囲内における100個の等分点である。
W
gは第gグループの加重値(グループgの要素数の平方根)を表す。
yは非ヒト霊長類動物精神疾患グループ(1)または正常野生型グループ(0)を表す。
[X]
gは相応するグループの係数を表す。
【数3】
は関数F(X)の値が最小となるようにN次元実数Xの解を求めることを表す。
R
NはN次元実数を表す。
Gはグループの合計数を表す。)
【請求項8】
精神疾患の予測システムであって、
(a) データ獲得モジュールで、非ヒト霊長類動物およびヒトの機能磁気共鳴データを獲得するためのモジュール、
(b) 前処理モジュールで、前記機能共鳴データに基づき、それぞれ非ヒト霊長類動物およびヒトの脳領域の間のピアソン相関係数を計算することにより、それぞれ非ヒト霊長類動物およびヒトの全脳機能コネクトームを構築するモジュール、
(c) 脳領域選択モジュールで、前記前処理の非ヒト霊長類動物の処理結果から、関連するグループ変数に基づいた特徴選択アルゴリズムを使用し、病理に関連する特徴脳領域を得るモジュール、
(d) 特徴構築モジュールで、前記脳領域の選択で得られた特徴脳領域および前処理で得られたヒト機能コネクトームに基づき、特徴脳領域に接続する機能接続を選んでヒトの機能接続特徴集合を構築するモジュール、
(e) 特徴スクリーニングモジュールで、前記特徴の構築で得られた機能接続特徴集合に基づき、関連する特徴選択アルゴリズムを使用し、冗長な特徴を除去し、最適機能接続特徴部分集合を得るモジュール、ならびに
(f) モデリング・予測モジュールで、前記特徴のスクリーニングで得られた最適機能接続特徴部分集合に基づき、回帰分析を行うことにより、精神疾患の予測モデルを得るモジュール
を含むことを特徴とするシステム。
【請求項9】
精神疾患の早期補助診断システムであって、
(a) データ入力モジュールで、ある対象の脳部の機能磁気共鳴画像データを入力し、そして全脳機能コネクトームを構築するためのモジュール、
(b) 特徴脳領域-精神疾患判定処理モジュールで、精神疾患に関連する特徴脳領域に基づき、関連する最適機能接続特徴集合を構築し、所定の判断基準によって分析処理を行うことにより、補助診断結果を得るが、ここで、前記の判断基準は請求項1に記載の精神疾患の予測モデルを確定する方法または請求項8に記載の精神疾患予測システムによって提供されるものであるモジュール、ならびに
(c) 補助診断結果出力モジュールで、前記の補助診断結果を出力するためのモジュール
を含むことを特徴とするシステム。
【請求項10】
精神疾患に対して早期補助診断を行う方法であって、
(a) ある対象からの機能磁気共鳴データを提供する工程、
(b) 前記対象の機能磁気共鳴データに基づいて入力された機能磁気共鳴データに対して全脳機能コネクトームの構築を行うことを含む精神疾患予想処理を行い、前記特徴脳領域に基づき、関連する最適機能接続特徴集合を構築し、所定の判断基準によって予測することにより、補助診断結果を得る工程を含み、
ここで、前記の判断基準は請求項1に記載の精神疾患の予測モデルを確定する方法または請求項8に記載の精神疾患予測システムによって提供されるものである方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオインフォマティクスおよび計算医学の技術分野に関し、より具体的に、脳機能地図のサル-ヒト種間移行に基づいて精神疾患の個別的予測を行う方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
環境の変化、生活リズムの加速、人口の高齢化および社会的競争の日々の激化に伴い、脳発達障害(たとえば自閉症や知的発達遅滞)、精神疾患(たとえばうつ病、強迫性障害、不安障害など)およびに神経変性疾患(たとえばアルツハイマー病やパーキンソン病)は我が国の各年齢層の人々の健康に深く影響するようになってきた。臨床において、このような精神疾患に対する診断は、現在、主に行動評価尺度によって患者の行動を評価するが、精神疾患の臨床症状が複雑で、異なる精神疾患の間の認識または行動の所見で特徴付けが大きく重複し、症状や行動の所見のみによる診断には、明らかに不足が存在する。一方、行動評価尺度に基づいた診断方法はある程度の主観性がある。そのため、臨床における精神疾患に対する診断には、客観的で、確実な診断基準が欠けている。
【0003】
非ヒト霊長類モデル動物は、脳機能と構造でヒトに近い種である。非ヒト霊長類モデルによるヒト脳疾患の研究の利点は、以下の点にある。まず、非ヒト霊長類動物から開発される疾患モデルはヒト疾患との類似性が高い。次に、非ヒト霊長類モデルは発病機序が比較的に単一で、疾患モデルが大幅に簡略化され、疾患に関連しない要素が可能な限り排除、制御される。最後に、ヒトとの比較、相互移行が可能な脳機能コネクトームデータ(磁気共鳴画像などの脳機能画像データを含む)が得られ、簡略化されるアカゲザル疾患モデルはヒト脳疾患の機序の理解に貢献し、基礎研究から臨床応用への転換を促進し、価値のある手がかりを提供する。
【0004】
近年、人工知能の発展につれ、人工知能はすでに自然言語理解系および医学画像認識系補助診断システムなどの分野への応用に成功した。「人工知能+医学画像」はコンピューターが医学画像に基づき、ディープラーニングにより、画像に対する分類、目標検出、画像分割および検索の仕事をこなし、医者が診断、治療の仕事を遂げるように協力する補助ツールである。Airdocは人工知能のディープラーニングに基づき、コンピューター視覚画像認識技術により、医学専門家の指導の下で医学画像認識アルゴリズムモデルサービスをこなし、医者を助けて効率を向上させる。米国のArterys社の製品Arterys Cardio DLはFDAによって許可され、クラウドでAIによって心臓イメージングを補助し、ディープラーニングで自動的に放射線科医がかつて人工的に行っていた任務を完成させ、通常の心臓MRI画像に基づいて自動的な心室分割を行い、正確性はベテランの医者に匹敵する。それは初めてFDAによって許可された、臨床においてクラウドコンピューティングおよびディープラーニングを使用する応用でもある。
【0005】
精神疾患は臨床症状が複雑で、患者の間で病理的特徴が複雑で、異質性が高い。同時に、臨床診断の面において、客観的で有効な診断基準が欠けている。
そのため、本分野では、より有効で、より早期でかつより正確に精神疾患に対して個別的予測を行う方法およびシステムの開発が切望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、より有効で、より早期でかつより正確に精神疾患に対して個別的予測を行う方法およびシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の側面では、精神疾患の予測モデルを確定する方法であって、
(a) データの獲得:非ヒト霊長類動物およびヒトの機能磁気共鳴データを獲得する工程、
(b) 前処理:前記機能共鳴データに基づき、それぞれ非ヒト霊長類動物およびヒトの脳領域の間のピアソン相関係数を計算することにより、それぞれヒト霊長類動物およびヒトの全脳機能コネクトームを構築する工程、
(c) 脳領域の選択:前記前処理の非ヒト霊長類動物の処理結果から、関連するグループ変数に基づいた特徴選択アルゴリズムを使用し、病理に関連する特徴脳領域を得る工程、
(d) 特徴の構築:前記脳領域の選択で得られた特徴脳領域および前処理で得られたヒト機能コネクトームに基づき、特徴脳領域に接続する機能接続を選んでヒトの機能接続特徴集合を構築する工程、
(e) 特徴のスクリーニング:前記特徴の構築で得られた機能接続特徴集合に基づき、関連する特徴選択アルゴリズムを使用し、冗長な特徴を除去し、最適機能接続特徴部分集合を得る工程、ならびに
(f) モデリング・予測:前記特徴のスクリーニングで得られた最適機能接続特徴部分集合に基づき、回帰分析を行うことにより、精神疾患の予測モデルを得る工程
を含む方法を提供する。
【0008】
もう一つの好適な例において、前記の精神疾患の予測モデルは、ある対象の精神疾患の罹患の有無の予測に使用される。
もう一つの好適な例において、前記の精神疾患の予測モデルは、ある対象の精神疾患の罹患の有無の補助診断および/または早期診断に使用される。
もう一つの好適な例において、前記の対象はヒトである。
もう一つの好適な例において、前記の機能磁気共鳴データは安静時機能磁気共鳴データを含む。
【0009】
もう一つの好適な例において、前記の機能磁気共鳴データは脳部の機能磁気共鳴データである。
もう一つの好適な例において、前記非ヒト霊長類動物は、サル、チンパンジー、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
もう一つの好適な例において、前記非ヒト霊長類動物は正常野生型および精神疾患非ヒト霊長類動物モデルを含む。
もう一つの好適な例において、前記ヒトは正常者および精神疾患に罹患しているヒトを含む。
【0010】
もう一つの好適な例において、工程(b)では、各脳領域の平均時系列を取り出し、任意の2つの脳領域の時系列の間のピアソン相関係数(すなわち、r値)を計算し、Fisher-Z変換を利用し、r値をz値へ変換する:
【数1】
。
もう一つの好適な例において、工程(c)では、前記関連するグループ変数の特徴選択アルゴリズムは、グループ最小角回帰アルゴリズム(group lasso)を含む。
もう一つの好適な例において、工程(e)では、前記関連する特徴選択アルゴリズムは、最小絶対値縮小選択演算子(lasso)を含む。
もう一つの好適な例において、工程(c)では、グループ最小角回帰アルゴリズム(group lasso)により、前記非ヒト霊長類動物の全脳機能コネクトームから関連脳領域をスクリーニングすることにより、前記非ヒト霊長類動物の前記精神疾患に関連する特徴脳領域を得る。
【0011】
もう一つの好適な例において、前記グループ最小角回帰アルゴリズム(group lasso)は下記式によって分析する。
【数2】
(式中において、
Aは全脳機能接続行列を表し、特徴行列Aにおける同一の脳領域のノードgに接続する列を一つのグループ(脳領域)に分け、[A]
gで表す。
【0012】
λはモデルがトレーニングデータをフィッテイングしすぎないようにするための正則化パラメーターを表し、取れる値が0.05~1の範囲内における100個の等分点である。
W
gは第gグループの加重値(グループの要素数の平方根)を表す。
yは非ヒト霊長類動物精神疾患グループ(1)または正常野生型グループ(0)を表す。
[X]
gは相応するグループの係数を表す。
【数3】
は関数F(X)の値が最小となるようにN次元実数Xの解を求めることを表す。
R
NはN次元実数を表す。
Gはグループの合計数を表す。)
【0013】
もう一つの好適な例において、前記の非ヒト霊長類動物精神疾患グループはMeCP2過剰発現遺伝子組み換え動物モデルグループである。
もう一つの好適な例において、工程(e)では、最小絶対値縮小選択演算子(lasso)方法により、前記機能接続特徴集合から冗長な特徴を除去することで、最適機能接続特徴部分集合を得る。
【0014】
もう一つの好適な例において、前記最小絶対値縮小選択演算子(lasso)方法は以下の公式によって行われる。
【数4】
(ただし、Mは前記ヒトサンプルの機能連結特徴集合を表す。
Xは解の係数を表す。
R
PはP次元実数を表す。
yは精神疾患者(1)または正常被験者(0)を表す。
λはモデルがトレーニングデータをフィッテイングしすぎないようにするための正則化パラメーターを表し、取れる値がMATLAB(登録商標)におけるlasso関数のデフォルト方法によって算出される。)
【0015】
もう一つの好適な例において、MATLAB(登録商標)統計と機械学習ツールボックス(Statistics and Machine Learning Toolbox)におけるlasso関数で冗長な特徴を除去し、正則化パラメーターλは関数のデフォルト方法によって算出され、異なるλで得られた機能接続を合併し、最適機能接続特徴部分集合を得る。
もう一つの好適な例において、工程(f)では、スパースロジスティック回帰法によって回帰分析を行う。
【0016】
もう一つの好適な例において、前記のスパースロジスティック回帰法は以下のロジスティック回帰の数式を使用する。
【数5】
(ただし、
【数6】
はロジスティック回帰分類器への拡張特徴ベクトルの入力を表す。
Sはlassoによってスクリーニングされた最適機能接続特徴部分集合を表す。
Wは解の係数を表す。)
もう一つの好適な例において、前記予測はヒトの精神疾患に対する予測を含む。
もう一つの好適な例において、前記精神疾患は自閉症および強迫性障害を含む。
もう一つの好適な例において、前記強迫性障害は自閉症に類似する臨床所見を有する強迫性障害を含む。
もう一つの好適な例において、前記方法は非診断的で非治療的なものである。
【0017】
本発明の第二の側面では、精神疾患の予測システムであって、
(a) データ獲得モジュールで、非ヒト霊長類動物およびヒトの機能磁気共鳴データを獲得するためのモジュール、
(b) 前処理モジュールで、前記機能共鳴データに基づき、それぞれ非ヒト霊長類動物およびヒトの脳領域の間のピアソン相関係数を計算することにより、それぞれ非ヒト霊長類動物およびヒトの全脳機能コネクトームを構築するモジュール、
(c) 脳領域選択モジュールで、前記前処理の非ヒト霊長類動物の処理結果から、関連するグループ変数に基づいた特徴選択アルゴリズムを使用し、病理に関連する特徴脳領域を得るモジュール、
(d) 特徴構築モジュールで、前記脳領域の選択で得られた特徴脳領域および前処理で得られたヒト機能コネクトームに基づき、特徴脳領域に接続する機能接続を選んでヒトの機能接続特徴集合を構築するモジュール、
(e) 特徴スクリーニングモジュールで、前記特徴の構築で得られた機能接続特徴集合に基づき、関連する特徴選択アルゴリズムを使用し、冗長な特徴を除去し、最適機能接続特徴部分集合を得るモジュール、ならびに
(f) モデリング・予測モジュールで、前記特徴のスクリーニングで得られた最適機能接続特徴部分集合に基づき、回帰分析を行うことにより、精神疾患の予測モデルを得るモジュール
を含むシステムを提供する。
【0018】
もう一つの好適な例において、前記のシステムは、さらに、(g)予測モジュールで、精神疾患の予測モデルに基づき、予測される個体に対して精神疾患の予測、補助診断および/または早期診断を行うモジュールを含む。
もう一つの好適な例において、前記特徴脳領域は精神疾患に関連する特徴脳領域である。
もう一つの好適な例において、前記の精神疾患は、自閉症、強迫性障害、注意欠陥・多動性障害、統合失調症、うつ病、双極性障害、妄想性障害からなる群から選ばれる。
もう一つの好適な例において、前記の精神疾患は自閉症および強迫性障害である。
もう一つの好適な例において、前記強迫性障害は自閉症に類似する臨床所見を有する強迫性障害を含む。
もう一つの好適な例において、前記の精神疾患は自閉症および強迫性障害で、かつ前記の特徴脳領域は自閉症に関連する特徴脳領域である。
もう一つの好適な例において、前記自閉症に関連する特徴脳領域は、左側中央側頭葉皮質(TCc)、右側上側頭葉皮質(TCs)、右側腹外側前頭前皮質(PFCvl)、右側一次体性感覚野皮質(S1)、右側一次運動皮質(M1)、左側前帯状皮質(CCa)、右側中央外側前頭前皮質(PFCcl)、左側上頭頂葉皮質(PCs)、右側背外側前頭前皮質(PFCdl)、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0019】
本発明の第三の側面では、精神疾患の早期補助診断システムであって、
(a) データ入力モジュールで、ある対象の脳部の機能磁気共鳴画像データを入力し、そして全脳機能コネクトームを構築するためのモジュール、
(b) 特徴脳領域-精神疾患判定処理モジュールで、精神疾患に関連する特徴脳領域に基づき、県連する最適機能接続特徴集合を構築し、所定の判断基準によって分析処理を行うことにより、補助診断結果を得るが、ここで、前記の判断基準は本発明の第一の側面に記載の精神疾患の予測モデルを確定する方法または本発明の第二の側面に記載の精神疾患予測システムによって提供されるものであるモジュール、ならびに
(c) 補助診断結果出力モジュールで、前記の補助診断結果を出力するためのモジュール
を含むシステムを提供する。
【0020】
もう一つの好適な例において、前記の判断基準は最適機能接続特徴部分集合に基づいて得られた予測モデルである。
もう一つの好適な例において、前記の対象はヒトである。
もう一つの好適な例において、前記の対象は嬰幼児、青少年または成人を含む。
もう一つの好適な例において、前記の特徴脳領域-精神疾患判定処理モジュールは、プロセッサー、および特徴脳領域を記憶している記憶装置を含む。
もう一つの好適な例において、前記の出力モジュールは、ディスプレイ、プリンター、携帯電話、タブレットを含む。
もう一つの好適な例において、前記の各モジュールは有線または無線の形態によって接続している。
【0021】
もう一つの好適な例において、前記の精神疾患は自閉症および強迫性障害で、かつ前記の特徴脳領域は自閉症に関連する特徴脳領域である。
もう一つの好適な例において、前記強迫性障害は自閉症に類似する臨床所見を有する強迫性障害を含む。
もう一つの好適な例において、前記自閉症に関連する特徴脳領域は、左側中央側頭葉皮質(TCc)、右側上側頭葉皮質(TCs)、右側腹外側前頭前皮質(PFCvl)、右側一次体性感覚野皮質(S1)、右側一次運動皮質(M1)、左側前帯状皮質(CCa)、右側中央外側前頭前皮質(PFCcl)、左側上頭頂葉皮質(PCs)、右側背外側前頭前皮質(PFCdl)、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0022】
本発明の第四の側面では、精神疾患に対して早期補助診断を行う方法であって、
(a) ある対象からの機能磁気共鳴データを提供する工程、
(b) 前記対象の機能磁気共鳴データに基づいて入力された機能磁気共鳴データに対して全脳機能コネクトームの構築を行うことを含む精神疾患予想処理を行い、前記特徴脳領域に基づき、関連する最適機能接続特徴集合を構築し、所定の判断基準によって予測することにより、補助診断結果を得る工程を含み、
ここで、前記の判断基準は本発明の第一の側面に記載の精神疾患の予測モデルを確定する方法または本発明の第二の側面に記載の精神疾患予測システムによって提供されるものである方法を提供する。
もう一つの好適な例において、前記の機能磁気共鳴データは安静時機能磁気共鳴データを含む。
もう一つの好適な例において、前記の対象はヒトである。
【0023】
もちろん、本発明の範囲内において、本発明の上記の各技術特徴および下記(たとえば実施例)の具体的に記述された各技術特徴は互いに組合せ、新しい、または好適な技術方案を構成できることが理解される。紙数に限りがあるため、ここで逐一説明しない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本特許の全体的な概念を示す。精神疾患アカゲザルモデルの機能コネクトームを利用して病理回路に関連する特徴脳領域を取り出す。ヒトサンプルの機能コネクトームに対し、特徴脳領域に関連する機能接続を取り出してヒトサンプルの機能接続特徴集合を構築する。最小絶対値縮小選択演算子(lasso)によって冗長な特徴を除去し、最適機能接続特徴部分集合を得る。lassoによってスクリーニングされた最適機能接続特徴部分集合に基づき、スパースロジスティック回帰判定によって分析して予測モデルを生成させる。予測モデルで個体に対して精神疾患の予測を行う。
【0025】
【
図2】
図2は、具体的な実施例におけるグループ最小角回帰アルゴリズム(group lasso)によって取り出された自閉症の病理に関連する特徴脳領域を示すが、具体的に、左側中央側頭葉皮質(TCc)、右側上側頭葉皮質(TCs)、右側腹外側前頭前皮質(PFCvl)、右側一次体性感覚野皮質(S1)、右側一次運動皮質(M1)、左側前帯状皮質(CCa)、右側中央外側前頭前皮質(PFCcl)、左側上頭頂葉皮質(PCs)、右側背外側前頭前皮質(PFCdl)を含む。ここで、
図2に関する脳領野情報の詳細は表1を参照する。
【0026】
【
図3】
図3aは、具体的な実施例におけるMeCP2過剰発現遺伝子組み換えアカゲザルモデルに基づいて構築された予測モデルとヒト自閉症サンプルに基づいた予測モデルの個体に対する自閉症の予測の正確性、敏感性および特異性の比較図を示す。
図3bは、具体的な実施例におけるMeCP2過剰発現遺伝子組み換えアカゲザルモデルに基づいて構築された予測モデルとヒト自閉症サンプルに基づいた予測モデルの個体に対する強迫性障害の予測の正確性、敏感性および特異性の比較図を示す。
【0027】
【
図4】
図4aは、具体的な実施例におけるMeCP2過剰発現遺伝子組み換えアカゲザルモデルに基づいて構築された予測モデルとヒト自閉症サンプルに基づいた予測モデルの個体に対する自閉症の予測結果の受信者動作特性曲線(ROC)のの比較図を示す。
図4bは、具体的な実施例におけるMeCP2過剰発現遺伝子組み換えアカゲザルモデルに基づいて構築された予測モデルとヒト自閉症サンプルに基づいた予測モデルの個体に対する強迫性障害の予測結果の受信者動作特性曲線(ROC)のの比較図を示す。
【
図5】
図5は、実施例の脳機能地図のサル-ヒト種間移行に基づいて精神疾患の予測を行うシステムの構造概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
具体的な実施形態
本発明者は、深く幅広く研究したところ、初めて、非ヒト霊長類動物モデルを利用し、サル-ヒト種間の精神疾患関連性を行い、そして初めて、有効で、正確な非ヒト霊長類モデルに基づいて臨床精神疾患に対して個別的予測を行う方法およびシステムを開発した。具体的に、半発明者は、非ヒト霊長類モデルで病理回路に関連する特徴脳領域を取り出し、そして一連のアルゴリズムによって冗長な特徴を除去し、最適な機能接続特徴部分集合を得、さらに回帰モデルによって個体に対して予測を行う。本発明の方法およびシステムは、非侵襲的、正確率が高い、敏感性が高い、特異性が良い、普及しやすいといった多くの特徴がある。これに基づき、本発明を完成させた。
【0029】
用語
本明細書で用いられるように、用語「全脳機能コネクトーム」とは、機能磁気共鳴画像データにおける大脳の任意の2つの脳領域の時間信号の間の相関係数で構成される全脳接続行列である。
本明細書で用いられるように、用語「特徴選択」とは、指定された特徴集合から関連特徴部分集合を選び出す過程である。
本明細書で用いられるように、用語「最小絶対値縮小選択演算子」とは、特徴選択と正則化(数学)を同時に行う回帰分析方法で、最初はスタンフォード大学の統計学教授Robert Tibshiraniによって1996年にLeo Breimanの非負圧縮推定量(non-negative garrote)に基づいて提案された。
【0030】
本明細書で用いられるように、用語「スパースロジスティック回帰モデル」とは、機械学習における一つのロジスティック回帰分類モデルである。
本明細書で用いられるように、用語「グループ最小角回帰アルゴリズム」とは、最小絶対値縮小選択演算子をグループ変数に拡張する特徴選択と正則化(数学)の回帰分析方法である。
本明細書で用いられるように、用語「含む」または任意のほかの類似する用語とは、非排他的に包括することで、よって一連の要素を含む過程、方法、物品または設備/装置はその要素のみならず、明確に挙げられていないほかの要素、あるいはその過程、方法、物品または設備/装置の固有の要素を含む。
【0031】
本明細書で用いられるように、用語「モジュール」とは、単一の計算システム(たとえば、コンピュータープログラム、タブレットPC(PAD)、一つまたは複数のプロセッサー)にまとまって実行されるソフトウェア対象またはルーチン(たとえば、独立のスレッドとして)で、前記システムのモジュールおよび方法が実現できるように、このような本発明を実現するプログラムはコンピュータープログラムのロジックまたはコード部分が含まれるコンピューター可読媒体に記憶されてもよい。ソフトウェアによって本明細書に記載のシステムのモジュールおよび方法を実現することが好ましいが、ハードウェアまたはソフトウェルとハードウェアの組み合わせによる実現も可能で、かつ想像できるものである。
【0032】
脳機能地図のサル-ヒト種間移行に基づいた精神疾患の個別的予測方法
本発明は、脳機能地図のサル-ヒト種間移行に基づいた精神疾患の個別的予測方法を提供する。
一つの好適な実施形態において、本発明の方法は、以下の工程を含む:
工程a:非ヒト霊長類精神疾患モデルの脳機能地図を利用して特徴脳領域を取り出す:
a1:核磁気共鳴スキャナーによって精神疾患モデルアカゲザルおよび正常野生型アカゲザルのサンプルの機能磁気共鳴データを採取する;
a2:サル-ヒト脳領域が1対1の相応関係を有する全脳テンプレートから、各アカゲザルサンプルのそれぞれ2つの脳領域の時間信号の間のピアソン相関係数を計算してアカゲザルサンプルの全脳機能コネクトームを構築する;
a3:全脳機能接続行列における同一の脳領域のノードに接続する機能接続を一つのグループ(脳領域)に分け、グループ最小角回帰アルゴリズム(group lasso)によってすべてのサンプルのモデリングに対して脳領域レベルの特徴選択を行い、病理回路に関連する特徴脳領域を取り出す;
【0033】
工程b:ヒトサンプルの脳機能地図から特徴脳領域に接続するすべての機能接続を取り出して特徴集合を構築する:
b1:ヒトサンプルの機能磁気共鳴データを獲得する;
b2:サル-ヒト脳領域が1対1の相応関係を有する全脳テンプレートから、各ヒトサンプルのそれぞれ2つの脳領域の時間信号の間のピアソン相関係数を計算してヒトサンプルの全脳機能コネクトームを構築する;
b3:工程aで取り出された特徴脳領域に基づき、ヒトサンプルの全脳機能コネクトームから特徴脳領域に接続するすべての機能接続を取り出し、ヒトサンプルの機能接続特徴集合を構築する:
工程c:最小絶対値縮小選択演算子(lasso)方法によって特徴集合から冗長な特徴を除去し、最適な機能接続特徴部分集合を得る;
工程bで各ヒトサンプルの機能接続特徴集合が得られ、最小絶対値縮小選択演算子(lasso)方法によってヒトサンプルの機能接続特徴集合から冗長な特徴を除去し、最適な機能接続特徴部分集合を得る;
工程d:最適機能接続特徴部分集合に基づいてスパースロジスティック回帰によって予測モデルを構築する:
工程cでヒトサンプルの最適機能接続特徴部分集合が得られ、スパースロジスティック回帰によって予測モデルのモデリングを行い、スパースロジスティック回帰の入力は得られた最適機能接続特徴部分集合である;
工程e:予測モデルで個体に対して精神疾患お予測を行う:
予測される個体の工程cで得られた最適機能接続特徴部分集合を取り出し、そして工程dで得られた予測モデルを入力し、予測される個体の精神疾患を予測する。
【0034】
精神疾患の個別的予測システム
本発明によって提供される精神疾患の個別的予測方法に基づき、本発明は、相応する精神疾患の個別的予測システムも提供する。
図5に示すように、一つの代表的なシステムは、データ獲得モジュール、前処理モジュール、脳領域選択モジュール、特徴構築モジュール、特徴スクリーニングモジュール、およびモデリング・予測モジュールを含んでもよい。ここで、データ獲得モジュールは、非ヒト霊長類動物およびヒトの機能磁気共鳴データを獲得するためのものである。前処理モジュールは、それぞれ非ヒト霊長類動物およびヒトの脳領域の間のピアソン相関係数を計算することにより、非ヒト霊長類動物およびヒトの全脳機能コネクトームを構築するためのものである。脳領域選択モジュールは、前処理の非ヒト霊長類動物の処理結果から、関連するグループ変数に基づいた特徴選択アルゴリズムを使用し、病理に関連する特徴脳領域を得るものである。特徴構築モジュールは、脳領域の選択で得られた特徴脳領域および前処理された機能コネクトームに基づき、ヒトの機能接続特徴集合を構築するものである。特徴スクリーニングモジュールは、前記特徴構築モジュールで得られた機能接続特徴集合に基づき、関連する特徴選択アルゴリズムを使用し、冗長な特徴を除去し、最適な機能接続特徴部分集合を得るものである。モデリング・予測モジュールは、特徴スクリーニングモジュールで得られた最適機能接続特徴部分集合に基づき、回帰分析を行うことにより、精神疾患の予測モデルを得、予測される個体に対して精神疾患の予測をするものである。説明が必要なのは、上記実施例によって提供される脳機能地図のサル-ヒロ種間移行に基づいて精神疾患の個別的予測を行うシステムで精神疾患の個別的予測を行う場合、上記各機能モジュールの区別を例として挙げた説明にすぎず、実際の応用では、実際の要求および操作の便利性を考慮して上記機能モジュールのいくつかを組み合わせて一つのモジュールにしたり一つのモジュールを子機能モジュールに分解して上記機能を完成させたりすることができる。それらのモジュールの名称は場合によって当該モジュール自体に対する限定にならず、各モジュールまたは工程を区別するためのもので、本発明に対する不当な限定とみなされない。
【0035】
当業者には、上記脳機能地図のサル-ヒロ種間移行に基づいて精神疾患の個別的予測を行うシステムは、さらに、ほかの公知の構造、たとえばプロセッサー、記憶装置などを含むが、本公開の実施例が明瞭になるように、それらの構造が
図5で示されていないことが理解できる。
もちろん、上記システムの実施例は上記方法の実施例を実行するために使用することができ、その技術原理、解決する技術課題および生じる技術効果が類似し、属する技術分野の技術者は明確に理解することができ、記述の便宜および簡潔さのため、上記で記述されたシステムの具体的な稼働過程は、前記方法の実施例における相応する過程を参照し、ここで重複説明を省略する。
なお、以上では、それぞれ本発明のシステムの実施例と方法の実施例を記述したが、本発明の制限ではなく、一つの実施例に対して記述された詳細はもう一つの実施例にも応用することができる。
【0036】
以上、本発明の実施例によって提供される技術方案を詳しく紹介した。本明細書において具体的な例で本発明の原理および実施形態を説明したが、本発明の実施例の説明は本発明の実施例の原理がわかるようにするためのものにすぎず、同時に、当業者は、本発明の実施例から、具体的な実施形態および応用の範囲内で変更する。
説明が必要なのは、本明細書に関連するブロック図は本明細書で示された形態に限らず、ほかの分割および/または組み合わせも可能である。
また、説明が必要なのは、図面における記号および文字はより明確に本発明を説明するためのものにすぎず、本発明の保護範囲に対する不当な限定と見なされない。
【0037】
本発明の主な利点は以下の通りである。
(a) 初めて、脳機能地図のサル-ヒト種間移行に基づいた精神疾患の個別的予測方法を提供し、高正確性、高敏感性、高特異性を有する。
(b) 本発明では、非ヒト霊長類動物モデルに基づいて特徴の選択を行い、非ヒト霊長類モデルは発病機序が比較的に単一で、疾患モデルが大幅に簡略化され、従来のアルゴリズムにおける表現型の異質性および遺伝異質性の高いヒト臨床サンプルによる取り出される特徴の不一致を避け、疾患に関連しない要素が可能な限り排除、制御され、より正確な精神疾患の病理回路の基礎の発見を促進する。
(c) 本発明では、人工知能/機械学習により、非ヒト霊長類動物モデルの機能コネクトームに基づいて脳領域のレベルで精神疾患の病理回路の基礎を認識し、より正確に精神疾患の病理回路に関連する異常な脳領域を確定する。
(d) 本発明では、種間の機械学習より、莫大なヒト脳疾患の画像データを深くマイニングして分析し、ヒト患者の診断の予測に有用な脳地図の特徴を取り出すことにより、サル-ヒト移行可能な画像学研究を行い、そしてヒトに対して精神疾患の個別的予測を行う。
(e) 本発明では、人工知能の予測アルゴリズムで個別的予測を行う場合、完全にヒトサンプルの脳領域信号のモデル研究によって個別的予測を行い、その過程では人工的な判断の関与がなく、主観的な要素による誤差が避けられる。
(f) ヒトサンプルに基づいて取り出される特徴脳領域の予測モデルと比較すると、本発明の脳機能地図のサル-ヒト種間移行に基づいた精神疾患予測アルゴリズムは従来のアルゴリズムにおけるヒト臨床サンプルに基づいたモデルよりも高い予測の正確率、敏感性および特異性を有する。
(g) 本発明では、非ヒト霊長類精神疾患モデルの脳機能地図で特徴脳領域を取り出し、サル-ヒト移行可能な画像学方法を確立し、ヒト精神疾患の病理回路の神経機序に対する理解に重要な意義があり、精神疾患の臨床移行可能な研究および早期診断に価値のある手がかりを提供する。
【0038】
以下、具体的な実施例によって、さらに本発明を説明する。これらの実施例は本発明を説明するために用いられるものだけで、本発明の範囲の制限にはならないと理解されるものである。以下の実施例において、具体的な条件が記載されていない実験方法は、通常、通常の条件、あるいはメーカーの薦めの条件で行われた。
【0039】
実施例1
本実施例において、遺伝子組み換えアカゲザルの自閉症動物モデルを例とし、サル-ヒト移行可能な画像学研究を行うことにより、精神疾患の予測方法を確立した。
具体的な実施例の主な流れ、詳しい手順は以下の通りである。
工程S1:MeCP2過剰発現遺伝子組み換えアカゲザル(非ヒト霊長類自閉症動物モデル)で特徴脳領域を取り出した:
S11:核磁気共鳴スキャナーによってMeCP2過剰発現遺伝子組み換えアカゲザルおよび正常野生型アカゲザルのサンプルの安静時機能磁気共鳴データを採取した;
【0040】
S12:サル-ヒト脳領域が1対1の相応関係を有する全脳テンプレートから、具体的に、Regional Mapテンプレートを利用し、サル大脳皮質を相応する80個の脳領域に分け、INIA19テンプレートでそれぞれサル脳皮質下核を14個の脳領域に分け、左右でそれぞれ47個の脳領域(表1)、計94個の脳領域になっている。
【表1】
【0041】
各アカゲザルサンプルの各脳領域の平均時系列を取り出し、任意の2つの脳領域の時系列の間のピアソン相関係数(すなわち、r値)を計算し、Fisher-Z変換でr値をz値へ変換した:
【数7】
各z値を機能接続値とし、アカゲザルサンプルの全脳94×94機能接続行列を構築した(各脳領域と自身(z=0)および残りの93個の脳領域の間のz値);
S13:全脳94×94機能接続行列における同一の脳領域のノードに接続する列を一つのグループ(脳領域)に分け、脳領域を単位に全脳機能接続を94のグループに分け、たとえば第iグループ(脳領域)の機能接続は
【数8】
である。グループ構造を含有する回帰方程式について、グループ最小角回帰アルゴリズム(group lasso)では、目的関数において各グループのl2ノルムを罰則し、目的関数の数式は以下の通りである。
【0042】
【数9】
(式中において、
Aは全脳機能接続行列を表し、特徴行列Aにおける同一の脳領域のノードgに接続する列を一つのグループ(脳領域)に分け、[A]
gで表し、全脳機能接続行列を94のグループに分ける。
λはモデルがトレーニングデータをフィッテイングしすぎないようにするための正則化パラメーターを表し、取れる値が0.05~1の範囲内における100個の等分点である。
W
gは第gグループの加重値(グループの要素数の平方根)を表す。
yはMeCP2過剰発現遺伝子組み換えグループ(1)または野生型グループ(0)を表す。
[X]
gは相応するグループの係数を表す。
【数10】
は実数の範囲内で関数F(X)の最小値を求めることを表す。
R
NはN次元実数を表す。
Gはグループの合計数を表す(実施例ではG=94)。)
【0043】
最適化の過程において、group lassoでは、なるべく少ないグループを選び(グループ間スパース)、グループ内はl2ノルムで、スパースの制限が弱く、その結果、一つのグループ全体の係数が同時にゼロになるようにすること、すなわち、一つのグループ全体の特徴をなくすことができることで、自閉症の病理に関連する特徴脳領域を取り出す目的を果たす。異なる正則化パラメーターλで得られた特徴脳領域を合併し、最終的な自閉症の病理に関連する特徴脳領域を取り出した。
【0044】
図2は、本実施例のgroup lasso方法によって取り出された自閉症の病理に関連する特徴脳領域を示すが、具体的に、左側中央側頭葉皮質(TCc)、右側上側頭葉皮質(TCs)、右側腹外側前頭前皮質(PFCvl)、右側一次体性感覚野皮質(S1)、右側一次運動皮質(M1)、左側前帯状皮質(CCa)、右側中央外側前頭前皮質(PFCcl)、左側上頭頂葉皮質(PCs)、右側背外側前頭前皮質(PFCdl)を含む。ここで、
図2に関する脳領野情報の詳細は表1を参照する。
【0045】
工程S2:ヒトサンプルから特徴脳領域に接続するすべての機能接続を取り出して特徴集合を構築した:
S21:ヒトサンプルの安静時機能磁気共鳴データを獲得した;
具体的な本実施形態において、自閉症脳イメージングデータ交換I(Autism Brain Imaging Data Exchange I、ABIDE I)公開データベースにおけるASDデータが使用された。データ収集の表記は、被験者についてASDのサンプル標識を実験データの分割基準とする。具体的な本実施形態において、計133名のASD患者(自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorders、ASD))および203名の正常の被験者が含まれている。
S22:サル-ヒト脳領域が1対1の相応関係を有する全脳テンプレートから、具体的に、Regional Mapテンプレートを利用し、ヒト大脳皮質を相応する80個の脳領域に分け、Freesurferテンプレートでヒト脳皮質下核を14個の脳領域に分け、左右でそれぞれ47個の脳領域(表1)、計94個の脳領域になっている。
【0046】
各ヒトサンプルの各脳領域の平均時系列を取り出し、それぞれの2つの脳領域の時系列の間のピアソン相関係数(すなわち、r値)を計算し、Fisher-Z変換でr値をz値へ変換した:
【数11】
各z値を機能接続値とし、ヒトサンプルの全脳94×94機能接続行列を構築した(各脳領域と自身(z=0)および残りの93個の脳領域の間のz値);
S23:工程S1で取り出された特徴脳領域に基づき、ヒトサンプルの全脳機能接続行列から特徴脳領域に接続するすべての機能接続を取り出し、ヒトサンプルの機能接続特徴集合を構築した:
【0047】
工程S3:最小絶対値縮小選択演算子方法によって機能接続特徴集合から冗長な特徴を除去し、最適な機能接続特徴部分集合を得た;
工程S2で各ヒトサンプルの機能接続特徴集合が得られ、最小絶対値縮小選択演算子(lasso)方法によって特徴集合から冗長な特徴を除去し、lasso目的関数の具体的な数式は以下の通りである。
【数12】
(ただし、Mは前記ヒトサンプルの特徴(機能連結)集合を表す。
Xは解の係数を表す。
R
PはP次元実数を表す。
yは自閉症患者(1)または正常被験者(0)を表す。
λはモデルがトレーニングデータをフィッテイングしすぎないようにするための正則化パラメーターを表し、MATLAB(登録商標)統計と機械学習ツールボックス(Statistics and Machine Learning Toolbox)におけるlasso関数で冗長な特徴を除去し、正則化パラメーターλは関数のデフォルト方法によって算出され、異なるλで得られた機能接続を合併し、最適特徴部分集合を得る。)
【0048】
工程S4:最適機能接続特徴部分集合に基づき、スパースロジスティック回帰によって予測モデルを構築した:
工程S3でヒトサンプルの最適機能接続特徴部分集合が得られ、スパースロジスティック回帰(SLR)によって予測モデルのモデリングを行い、スパースロジスティック回帰の入力は得られた最適機能接続特徴部分集合である;SLRはロジスティック回帰分析をベイズ推定のフレームワーク内に拡張したもので、特徴ベクターの次元数の圧縮と判定のための加重値の推定を同時に行う方法で、ロジスティック回帰の数式は以下の通りである。
【数13】
(ただし、
【数14】
はロジスティック回帰分類器への拡張特徴ベクトルの入力を表す。
Sはlassoによってスクリーニングされた最適機能接続特徴部分集合を表す。
Wは解の係数を表す。)
【0049】
スパースロジスティック回帰は、階層ベイズ推定方法によってパラメーターベクターの確率分布を推定したが、ここで、パラメーターベクターの各要素の事前分布はガウス分布で表示する。階層ベイズ推定方法の関連度自動決定理論(automatic relevance determination、ARD)の属性のため、一部のガウス分布は0において鋭くピーク値に達し、線形判定分析における加重パラメーターwをゼロとし(すなわち、変数の選択を行い)、類別判定への貢献が少ない特徴量の加重値が0に近いようにすることによって当該特徴量を計算から排除し、判定に関連する極少数の特徴量のみを取り出した(スパース性)。SLRによって得られた特徴データに対し、分けられた各類別について当該特徴データが当該類別に属する確率Pを求め、当該特徴データを最大値を出力する類別に分配した。
【0050】
工程S5:予測モデルで個体に対して精神疾患お予測を行った:
予測される個体の最適機能接続特徴部分集合に相応するデータを取り出し、そして工程S4で得られた予測モデルを入力し、個体に対して精神疾患の予測を行った。
【0051】
実施例2
性能検証実験
強迫性障害は自閉症の合併症状の一つで、ステレオタイプと強迫は共存する行為で、両者の間に重複部分が存在する。本発明の方法(MeCP2過剰発現遺伝子組み換えアカゲザルモデルに基づいて認識された自閉症に関連する特徴脳領域)の多疾患の汎化性能を検証するために、本発明の方法は強迫性障害患者の予測にも応用した。具体的な本実施例において、計79名のOCD(強迫性障害(Obsessive compulsive disorder、OCD))患者および92名の正常の被験者が含まれている。本発明の方法に基づいて特徴脳領域を取り出す予測方法によって個体に対して強迫性障害の予測を行った。
また、本発明の方法の優位性を検証するために、本発明の方法(アカゲザル)を自閉症脳イメージングデータ交換II(Autism Brain Imaging Data Exchange II、ABIDE II)公開データベースにおけるASDデータに基づいて取り出された予測モデルと比較した。ここで、ABIDE IIデータ収集の表記は、被験者についてASDのサンプル標識を実験データの分割基準とする。
【0052】
具体的な本実施例において、さらに、60名のASD患者および89名の正常の被験者が含まれている。ABIDE IIのASDデータに基づいてgroup lassoによって自閉症の病理に関連する特徴脳領域を取り出し、左側上側頭葉皮質(TCs)、左側二次視覚皮質(V2)、左側背側視覚野前部(VACd)、左側前帯状皮質(CCa)、右側一次運動皮質(M1)、右側前帯状皮質(CCa)、右側中央外側前頭前皮質(PFCcl)、右側腹外側前頭前皮質(PFCvl)、右側淡蒼球(GP)が含まれている。取り出された特徴脳領域からABIDE IのASD全脳機能コネクトームデータにおける特徴脳領域に接続するすべての機能接続を取り出して特徴(機能接続)集合を構築した。lassoによって冗長な特徴を除去し、最適な機能接続特徴部分集合を得た。スパースロジスティック回帰判定によって分析して予測モデルを生成させた。予測モデルで個体に対して精神疾患の予測を行った。ABIDE IIの自閉症サンプルで特徴脳領域を選択する方法をABIDE II法と呼ぶ。
【0053】
本発明の方法とABIDE II法の性能比較は
図3と表2および
図4に示す。
図3aは、MeCP2過剰発現遺伝子組み換えアカゲザルモデルに基づいて構築された人工知能予測モデルとヒトABIDE II自閉症サンプルに基づいた予測モデルを比較し、個体に対する自閉症の予測の正確性、敏感性および特異性の比較図を示す。
図3bは、MeCP2過剰発現遺伝子組み換えアカゲザルモデルに基づいて構築された人工知能予測モデルとヒトABIDE II自閉症サンプルに基づいた予測モデルを比較し、個体に対する強迫性障害の予測の正確性、敏感性および特異性の比較図を示す。横座標はそれぞれ正確性、敏感性および特異性の指標を示し、縦座標は各指標の数値を示し、黒色縦棒グラフはMeCP2過剰発現遺伝子組み換えアカゲザルモデルに基づいて構築された人工知能予測モデルの正確性、敏感性および特異性を示し、灰色縦棒グラフはヒトABIDE II自閉症サンプルに基づいた予測モデルの正確性、敏感性および特異性を示す。
【0054】
MeCP2過剰発現遺伝子組み換えアカゲザルモデルに基づいて構築された人工知能予測モデルはヒトABIDE II自閉症サンプルに基づいた予測モデルと比較すると、個体に対する自閉症の予測では、20%向上した分類正確性で、個体に対する強迫性障害の予測でも、18%向上した分類正確性である。
図3で示される縦棒グラフにおける正確性、敏感性および特異性の値はそれぞれ表2に示す。
【表2】
【0055】
図4aは、MeCP2過剰発現遺伝子組み換えアカゲザルモデルに基づいて構築された人工知能予測モデルとヒトABIDE II自閉症サンプルに基づいた予測モデルを例とし、個体に対する自閉症の予測結果の受信者動作特性曲線(ROC)のの比較図を示す。
図4bは、MeCP2過剰発現遺伝子組み換えアカゲザルモデルに基づいて構築された人工知能予測モデルとヒトABIDE II自閉症サンプルに基づいた予測モデルを例とし、個体に対する強迫性障害の予測結果の受信者動作特性曲線(ROC)のの比較図を示す。横座標は偽陽性率(誤判率)を示し、縦座標は真陽性率(敏感性)を示す。実線はMeCP2過剰発現遺伝子組み換えアカゲザルモデルに基づいて構築された人工知能予測モデルのROC曲線を示し、破線はヒトABIDE II自閉症サンプルに基づいた予測モデルのROC曲線を示し、ここで、曲線下面積が大きいほど、分類正確率が高くなる。
【0056】
上記の結果からわかるように、本発明は、MeCP2過剰発現遺伝子組み換えアカゲザルモデルに基づいてサル-ヒト種間自閉症予測モデルを構築し、数学モデルによって計算し、ヒトABIDE II自閉症サンプルに基づいて取り出された予測モデルと比べ、MeCP2過剰発現遺伝子組み換えアカゲザルモデルに基づいた場合のほうが、予測の正確性、敏感性および特異性が良い。同時に、本発明のMeCP2過剰発現遺伝子組み換えアカゲザルモデルに基づいた方法は、多疾患の汎化性能を有し、個体の自閉症の予測のみならず、自閉症に類似する臨床所見を持つ疾患、たとえば強迫性障害などの予測にも使用することができる。MeCP2過剰発現遺伝子組み換えアカゲザルモデルに基づいて取り出された特徴脳領域は主に側頭葉皮質、前頭前皮質、感覚運動皮質および前帯状皮質に分布するが、ヒト自閉症サンプル(ABIDE II)に基づいて得られた特徴脳領域は視覚皮質などの脳領域の組み合わせに関し、比較的に、遺伝子組み換えアカゲザルモデルに基づいて得られた特徴脳領域の組み合わせが既知の自閉症の病理回路に合致し、そしてより高い正確性を有し、検出された脳領域は自閉症の重要なバイオマーカーとして有用で、かつ当該バイオマーカーをほかの独立サンプル群体に応用して検証・分析することができる。そのため、本発明に係る方法により、MeCP2過剰発現遺伝子組み換えアカゲザルモデルで自閉症の病理回路に関連する脳領域を取り出し、さらに種間機械学習により、莫大なヒト自閉症画像学データに対する深いマイニングと分析に使用し、ヒト患者の診断の予測に有用な脳地図の特徴を見つけるというのは、機能的にサル-ヒト移行可能な画像学方法を確立し、ヒト自閉症の病理回路の神経機序に対する理解に重要な意義があり、自閉症の臨床移行可能な研究および早期診断に価値のある手がかりを提供する。
【0057】
各文献がそれぞれ単独に引用されるように、本発明に係るすべての文献は本出願で参考として引用する。また、本発明の上記の内容を読み終わった後、当業者が本発明を各種の変動や修正をすることができるが、それらの等価の形態のものは本発明の請求の範囲に含まれることが理解されるはずである。
【国際調査報告】