(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(54)【発明の名称】リン酸アニオン-第四級アンモニウムイオン対配位のポリマーメンブレン
(51)【国際特許分類】
B01J 49/12 20170101AFI20220111BHJP
B01J 39/16 20170101ALI20220111BHJP
B01J 41/04 20170101ALI20220111BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20220111BHJP
H01M 8/1023 20160101ALI20220111BHJP
H01M 8/1072 20160101ALI20220111BHJP
【FI】
B01J49/12
B01J39/16
B01J41/04
H01M8/10 101
H01M8/1023
H01M8/1072
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021529055
(86)(22)【出願日】2019-11-26
(85)【翻訳文提出日】2021-07-16
(86)【国際出願番号】 US2019063173
(87)【国際公開番号】W WO2020112721
(87)【国際公開日】2020-06-04
(32)【優先日】2019-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505409292
【氏名又は名称】レンスラー ポリテクニック インスティチュート
【氏名又は名称原語表記】Rensselaer Polytechnic Institute
【住所又は居所原語表記】110 8th street,Troy,NY 12180-3590,U.S.A
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ベ、チュルスン
(72)【発明者】
【氏名】ティアン、ディン
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA05
5H126BB06
5H126GG18
(57)【要約】
本開示によるイオン交換膜材料は、機械的強度を犠牲にすることなく、低および中間の相対湿度において向上した伝導性を示す。1または複数のアリール基を有する骨格、ハロカルビル基、および骨格に取り付けられるハロカルビル側鎖を含むポリマーが提供され、ハロカルビル側鎖はヒドロカルビル鎖、ヒドロカルビル環、またはその組み合わせによって骨格から分離されるハロゲン化物を含む。ハロゲン化物は第三級アミンに置換され、ハロゲン化物アニオンは次に、水酸化物アニオンと交換される。ポリマーは次に、水酸化物イオンによって脱プロトン化されたリン酸と接触され、近接する第四級アンモニウム基との相互作用を促進してその第四級アンモニウム基の周囲にクラスタを形成するように余計なリン酸分子を誘起するアニオンを形成する。メンブレンは、高い相対湿度でさえも、無視できるドーパント浸出を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iによるポリマーを備えるイオン交換膜材料(式I)であって、
【化1】
Arは1または複数のアリール基を含み、R1はヒドロカルビル基であり、Aは第四級アンモニウム基であり、Dはイオンドーパントであり、R2はハロカルビル基である、イオン交換膜材料。
【請求項2】
前記1または複数のアリール基は、
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
またはその組み合わせを含む、
請求項1に記載のイオン交換膜材料。
【請求項3】
R1はヒドロカルビル鎖、ヒドロカルビル環、またはその組み合わせを含む、請求項1または2に記載のイオン交換膜材料。
【請求項4】
Aはトリメチルアミン、1-メチルピペリジン、ピリジン、1,2-ジメチルイミダゾール、キヌクリジン、ペンタメチルグアニジン、またはその組み合わせを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のイオン交換膜材料。
【請求項5】
前記イオンドーパントはリン酸二水素アニオンおよびリン酸分子を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のイオン交換膜材料。
【請求項6】
A基あたりのリン酸分子の数は約9より大きい、請求項5に記載のイオン交換膜材料。
【請求項7】
A基あたりのリン酸分子の数は約14より大きい、請求項6に記載のイオン交換膜材料。
【請求項8】
前記ハロカルビル基はCF
3を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載のイオン交換膜材料。
【請求項9】
1または複数のポリマーを準備する段階であって、前記1または複数のポリマーは複数の繰り返し単位を含み、前記繰り返し単位は、1または複数のアリール基を含む骨格と、前記骨格に取り付けられるハロカルビル基と、前記骨格に取り付けられるハロカルビル側鎖とを含み、前記ハロカルビル側鎖は、ヒドロカルビル鎖、ヒドロカルビル環、またはその組み合わせによって前記骨格から分離されるハロゲン化物を含む、準備する段階と、前記ハロゲン化物を第三級アミンで置換してアミン置換ポリマーおよびハロゲン化物アニオンを形成する段階と、前記ハロゲン化物アニオンを水酸化物アニオンと交換する段階と、前記アミン置換ポリマーおよび前記水酸化物アニオンを無機酸と接触させて、イオンドーパントを前記アミン置換ポリマーに提供する段階と、を備える、イオン交換膜材料を製造する方法。
【請求項10】
前記1または複数のポリマーは、架橋ポリマーネットワークとして提供される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第三級アミンは、トリメチルアミン、1-メチルピペリジン、ピリジン、1,2ジメチルイミダゾール、キヌクリジン、ペンタメチルグアニジン、またはその組み合わせを含む、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記無機酸はリン酸である、請求項9から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
アミン基あたりの無機酸分子の数は約9より大きい、請求項9から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
アミン基あたりの無機酸分子の数は約14より大きい、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
アノード、カソード、および前記アノードと前記カソードの間に配置されたイオン交換膜を備え、前記イオン交換膜は化学式Iによるポリマーを含み、
【化1】
Arは1または複数のアリール基を含み、R1はヒドロカルビル基であり、Aは第四級アンモニウム基であり、Dはイオンドーパントであり、R2はハロカルビル基である、電気化学的エネルギー変換システム。
【請求項16】
Aはトリメチルアミン、1-メチルピペリジン、ピリジン、1,2-ジメチルイミダゾール、またはその組み合わせを含む、請求項15に記載の電気化学的エネルギー変換システム。
【請求項17】
前記イオンドーパントはリン酸二水素アニオンおよびリン酸分子を含む、請求項15または16に記載の電気化学的エネルギー変換システム。
【請求項18】
前記イオン交換膜は補強基質上に配置される、請求項15から17のいずれか一項に記載の電気化学的エネルギー変換システム。
【請求項19】
前記補強基質はポリエチレンメッシュを含む、請求項18に記載の電気化学的エネルギー変換システム。
【請求項20】
Dは1または複数のアニオンおよび1または複数のドーパント分子を含み、A基あたりのドーパント分子の数は約9より大きい、請求項15から19のいずれか一項に記載の電気化学的エネルギー変換システム。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2019年11月25日出願の米国仮特許出願第62/940,084号および2018年11月26日出願の米国仮特許出願第62/771,372号の利益を請求し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
[連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載]
本発明は、エネルギー省ARPA-Eによって与えられた第DE-AR0000769号およびエネルギー省SBIR/STTRプログラムによって与えられた第DE-SC0018456号の許可のもとで政府支援によってなされた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
現在、イオン交換膜(カチオンおよびアニオン)は、それぞれ、直接のスルホン化およびクロロメチル化によって芳香族ポリマーから調製され、その後にアミンとの置換反応が続き、それぞれカチオン交換膜およびアニオン交換膜が生成される。カチオン交換膜において、スルホ基がポリマーの芳香環に直接取り付けられる。アニオン交換膜において、ベンジルトリメチルアンモニウム基がポリマーの側鎖に取り付けられる。
【0004】
不幸にも、これらの材料は、相対湿度(RH)が減るとき、イオン伝導性が減少する欠点がある。たいていのプロトン交換膜(例えば、Nafion(登録商標)などのペルフルオロ酸イオノマー)において、プロトン伝導性は、ペンダントスルホン酸側鎖からのプロトンの解離および、プロトンを運搬する水分子の拡散から導かれる。結果として、それらのプロトン伝導は、比較的高い水和レベル(例えば、>80%のRH)を提供するように加湿された気体を使用し、RHが減少するにつれてプロトン伝導性は急激に低下する(Nafion(登録商標)は、90%RHおよび80℃で89mS/cmのプロトン伝導性を有するが、しかしながら、それは50%RHおよび80℃では22mS/cmへと急激に減少する)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示のいくつかの実施形態は、式Iによるポリマーを含むイオン交換膜材料を対象とする。
【化1】
(式I)
いくつかの実施形態において、Arは1または複数のアリール基を含む。いくつかの実施形態において、1または複数のアリール基は、
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
またはその組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、R1はヒドロカルビル基である。いくつかの実施形態において、Aは第四級アンモニウム基である。いくつかの実施形態において、Aはトリメチルアミン、1-メチルピペリジン、ピリジン、1,2-ジメチルイミダゾール、キヌクリジン、ペンタメチルグアニジン、またはその組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、Dはイオンドーパントである。いくつかの実施形態において、イオンドーパントはリン酸二水素アニオンおよびリン酸分子を含む。いくつかの実施形態において、A基あたりのリン酸分子の数は約9より大きい。いくつかの実施形態において、A基あたりのリン酸分子の数は約14より大きい。いくつかの実施形態において、R2はハロカルビル基である。いくつかの実施形態において、ハロカルビル基はCF
3を含む。R1はヒドロカルビル鎖、ヒドロカルビル環、またはその組み合わせを含む、請求項1によるイオン交換膜材料。
【0006】
本開示のいくつかの実施形態は、1または複数のポリマーを提供する段階を含み、1または複数のポリマーは複数の繰り返し単位を含み、繰り返し単位は、1または複数のアリール基を含む骨格、骨格に取り付けられたハロカルビル基、および骨格に取り付けられたハロカルビル側鎖を含み、ハロカルビル側鎖は、ヒドロカルビル鎖、ヒドロカルビル環、またはその組み合わせによって骨格から分離されるハロゲン化物を含む、イオン交換膜材料を製造する方法を対象とする。いくつかの実施形態において、方法は、ハロゲン化物を第三級アミンで置換してアミン置換ポリマーおよびハロゲン化物アニオンを形成する段階と、ハロゲン化物アニオンを水酸化物アニオンと交換する段階と、アミン置換ポリマーおよび水酸化物アニオンを無機酸と接触させてイオンドーパントをアミン置換ポリマーに提供する段階と、を含む。いくつかの実施形態において、1または複数のポリマーは架橋ポリマーネットワークとして提供される。いくつかの実施形態において、第三級アミンはトリメチルアミン、1-メチルピペリジン、ピリジン、1,2-ジメチルイミダゾール、キヌクリジン、ペンタメチルグアニジン、およびその組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、無機酸はリン酸である。いくつかの実施形態において、アミン基あたりの無機酸分子の数は約9より大きい。いくつかの実施形態において、アミン基あたりの無機酸分子の数は約14より大きい。
【0007】
本開示のいくつかの実施形態は、アノード、カソード、およびアノードとカソードの間に配置されるイオン交換膜を含む電気化学的エネルギー変換システムを対象とする。いくつかの実施形態において、イオン交換膜は式Iによるポリマーを含む。
【化1】
(式I)
いくつかの実施形態において、Arは1または複数のアリール基を含む。いくつかの実施形態において、R1はヒドロカルビル基である。いくつかの実施形態において、Aは第四級アンモニウム基である。いくつかの実施形態において、Aはトリメチルアミン、1-メチルピペリジン、ピリジン、1,2-ジメチルイミダゾール、またはその組み合わせである。いくつかの実施形態において、Dはイオンドーパントである。いくつかの実施形態において、イオンドーパントはリン酸二水素アニオンおよびリン酸分子を含む。いくつかの実施形態において、R2はハロカルビル基である。
【0008】
いくつかの実施形態において、イオン交換膜は補強基質上に配置される。いくつかの実施形態において、補強基質はポリエチレンメッシュを含む。いくつかの実施形態において、Dは1または複数のアニオンおよび1または複数のドーパント分子を含み、A基あたりのドーパント分子の数は約9より大きい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示のいくつかの実施形態によるイオン交換膜材料の概略表示である。
【0010】
【
図2】本開示のいくつかの実施形態によるイオン交換膜材料の製造方法の図表である。
【0011】
【
図3】本開示のいくつかの実施形態によるイオン交換膜を含む電気化学的エネルギー変換システムの概略図である。
【0012】
【
図4】前駆体ポリマー材料と比較した、本開示のいくつかの実施形態によるイオン交換膜材料に関する、
1H NMRスペクトルを示す図である。
【0013】
【
図5】本開示のいくつかの実施形態によるイオン交換膜材料に関する応力ひずみ曲線を示す図である。
【0014】
【
図6】本開示のいくつかの実施形態によるイオン交換膜材料に関する機械的特性の、前駆体ポリマー材料との比較を示す図である。
【0015】
【
図7】Nafion(登録商標)と比較した、本開示のいくつかの実施形態によるイオン交換膜材料に関する機械的特性の比較を示す図である。
【0016】
【
図8】本開示のいくつかの実施形態によるイオン交換膜材料に関するプロトン伝導性平衡の、Nafion(登録商標)との比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
ここで
図1を参照して、開示された主題の形態は、1または複数のポリマーで構成されるイオン交換膜材料を含む。いくつかの実施形態において、1または複数のポリマーは、複数の繰り返しポリマーユニットで構成される。いくつかの実施形態において、繰り返しポリマーユニットのそれぞれは、実質的に同一の構造を含む。いくつかの実施形態において、1または複数のポリマーは、構造的に異なる2以上の繰り返しポリマーユニットを含む。いくつかの実施形態において、1または複数のポリマーは架橋される。いくつかの実施形態において、1または複数のポリマーはコポリマーまたはブロックコポリマーである。いくつかの実施形態において、1または複数のポリマーは以下の化学式を含む。
【化1】
(式I)
【0018】
いくつかの実施形態において、Arは1または複数のアリール基を含む。いくつかの実施形態において、Arは、鎖に組み込まれた、鎖上に接合された、またはその組み合わせである、1または複数のアリール基を有するヒドロカルビル鎖を含む。本明細書で使用されるとき、用語「ヒドロカルビル(hydrocarbyl」)は、飽和または不飽和炭化水素化合物を指すように使用される。いくつかの実施形態において、1または複数のアリール基は、
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
またはその組み合わせを含む。
【0019】
いくつかの実施形態において、R1はヒドロカルビル基である。いくつかの実施形態において、R1はヒドロカルビル鎖、ヒドロカルビル環、またはその組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、R1は線形、分岐、またはその組み合わせである。いくつかの実施形態において、R2はハロカルビル基である。いくつかの実施形態において、R2はCF3を含む。いくつかの実施形態において、基「A」は第四級アンモニウム基である。いくつかの実施形態において、Aはトリメチルアミン(TMA)、1-メチルピペリジン(Pip)、ピリジン(Pyr)および1,2-ジメチルイミダゾールキヌクリジン(Quin)、ペンタメチルグアニジン(PMG)、またはその組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、基「D」はイオンドーパントである。いくつかの実施形態において、Dは1または複数のアニオンおよび1または複数のドーパント分子、例えば酸、塩基、またはその組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、A基あたりのドーパント分子の数は約9より大きい。いくつかの実施形態において、A基あたりのドーパント分子の数は約14より大きい。いくつかの実施形態において、Dはリン酸二水素アニオンおよびリン酸分子を含む。理論に束縛されることを望むものではないが、リン酸でドーピングされたものなどの、本開示のドーピングされたイオン対配位されたメンブレンは、プロトン運搬のキャリアとして、第四級アンモニウム基を囲むイオンドーパント分子を使用する。結果としてそれらは、Nafion(登録商標)などの存在するメンブレン材料と比較すると特に、かなり低い相対湿度条件でプロトンを伝導することが可能である。理論に束縛されることを望むものではないが、低および中間のRHでの向上した伝導性は、プロトン伝導性の、水分子の存在への従属の減少から生じる。
【0020】
ここで
図2を参照すると、本開示のいくつかの実施形態は、イオン交換膜材料を製造する方法200を対象とする。202において、1または複数のポリマーが提供される。いくつかの実施形態において、1または複数のポリマーは架橋ポリマーネットワークとして提供される。いくつかの実施形態において、1または複数のポリマーは複数の繰り返し単位を含む。いくつかの実施形態において、繰り返し単位は、1または複数のアリール基を含む骨格、骨格に取り付けられるハロカルビル基、および骨格に取り付けられるハロカルビル側鎖を含む。いくつかの実施形態において、ハロカルビル側鎖は、ヒドロカルビル鎖、ヒドロカルビル環、またはその組み合わせによって骨格から分離されるハロゲン化物を含む。204で、ハロゲン化物は第三級アミンによって置換され、アミン置換ポリマーおよびハロゲン化物アニオンを形成する。いくつかの実施形態において、第三級アミンはトリメチルアミン、1-メチルピペリジン、ピリジン、1,2-ジメチルイミダゾール、キヌクリジン、ペンタメチルグアニジン、またはその組み合わせを含む。206において、ハロゲン化物アニオンは水酸化物アニオンと交換される。208において、アミン置換ポリマーおよび水酸化物アニオンは無機酸と接触され、イオンドーパントをアミン置換ポリマーに提供する。いくつかの実施形態において、無機酸はアミン置換ポリマーに余計に接触される。いくつかの実施形態において、アミン置換ポリマーおよび水酸化物アニオンは無機酸に浸される。いくつかの実施形態において、無機酸はアミン置換ポリマーおよび水酸化物アニオン上にスプレーされるか、そうでなければ堆積される。いくつかの実施形態において、無機酸はリン酸である。理論に束縛されることを望むものではないが、リン酸の第1の分子が水酸化物アニオンによって脱プロトン化された後に、リン酸二水素アニオン(H
2PO
4
-)が形成される。残りのリン酸分子は次に、アミン置換ポリマーの第四級アンモニウムを例えば水素結合を介して囲むクラスタとして保持される。上で説明されるように、いくつかの実施形態において、アミン基あたりのドーパント分子、例えばリン酸分子の数は、約9より大きい。いくつかの実施形態において、アミン基あたりのドーパント分子の数は約14より大きい。
【0021】
ここで
図3を参照すると、本開示のいくつかの実施形態は、電気化学的エネルギー変換システム300を対象とする。いくつかの実施形態において、システム300はアノード302、カソード304、およびアノードとカソードの間に配置される電解質306を含む。システム300は、電気化学式水素圧縮機、燃料電池、電解槽、エネルギー回収換気システム、バッテリ、センサ、アクチュエータなど、多くの用途での使用に好適である。いくつかの実施形態において、アノード302およびカソード304は、システム500における電解質306での使用のための任意の好適な材料で構成される。いくつかの実施形態において、システム300は、アノード302、カソード304、および電解質306に反応物を供給する、またはそこから反応生成物を取り除く、任意の注入口/注出口308を含む。いくつかの実施形態において、システム300は触媒層(図示せず)を含む。
【0022】
いくつかの実施形態において、電解質306は固形電解質を含む。いくつかの実施形態において、電解質306は、上で説明されるイオン交換膜材料を含むイオン交換膜310を含む。いくつかの実施形態において、イオン交換膜310はプロトン交換膜である。いくつかの実施形態において、イオン交換膜310は補強基質312を含む。いくつかの実施形態において、補強基質312はポリエチレンメッシュを含む。
【0023】
いくつかの実施形態において、システム300は約90%より低い相対湿度で動作する。いくつかの実施形態において、システム300は約85%より低い相対湿度で動作する。いくつかの実施形態において、システム300は約80%より低い相対湿度で動作する。いくつかの実施形態において、システム300は約75%より低い相対湿度で動作する。いくつかの実施形態において、システム300は約70%より低い相対湿度で動作する。いくつかの実施形態において、システム300は約65より低い相対湿度で動作する。いくつかの実施形態において、システム300は約60%より低い相対湿度で動作する。いくつかの実施形態において、システム300は約80℃より高い温度で動作する。いくつかの実施形態において、システム300は約90℃より高い温度で動作する。いくつかの実施形態において、システム300は約100℃より高い温度で動作する。いくつかの実施形態において、システム300は約110℃より高い温度で動作する。いくつかの実施形態において、システム300は約120℃より高い温度で動作する。いくつかの実施形態において、システム300は約130℃より高い温度で動作する。いくつかの実施形態において、システム300は約140℃より高い温度で動作する。いくつかの実施形態において、システム300は約150℃より高い温度で動作する。いくつかの実施形態において、システム300は約160℃より高い温度で動作する。いくつかの実施形態において、システム300は約170℃より高い温度で動作する。いくつかの実施形態において、システム300は約180℃より高い温度で動作する。いくつかの実施形態において、システム300は約190℃より高い温度で動作する。いくつかの実施形態において、システム300は約200℃より高い温度で動作する。例
【0024】
BPBr-100は、トリメチルアミン(TMA)、1-メチルピペリジン(Pip)、ピリジン(Pyr)、および1,2-ジメチルイミダゾール(DMIm)を含む異なる第三級アミンとの置換反応を受けて、それぞれBPN1-TMA、BPN1-Pip、BPN1-Pyr、およびBPN1-DMImの名称である、異なる第四級アンモニウム(QA)ベアリングイオンポリマーを提供した。BPN1の臭化物アニオン(Br-)は水酸化物アニオン(OH-)とイオン交換され、メンブレンはドーピングプロセスの最中に、リン酸(85wt%,aq)に浸された。上で説明されるように、理論に束縛されることを望むものではないが、リン酸(PA)の第1の分子が水酸化物アニオンによって脱プロトン化された後、リン酸二水素アニオン(H2PO4
-)が形成され、残りのPA分子は、水素結合を介してQAを囲むクラスタとして保持された。
【0025】
ここで
図4を参照すると、QAポリマーの合成が、1H NMR分光法によって確認された。NMRピークは期待される化学的構造と合致する。BPBr-100のCH
2Brに関連するピークcは、四級化反応の後に消え、異なるQA基の対応するプロトン信号が、対応して現れた。
【0026】
メンブレン内のPA含有量は、塩基群(この場合にはQA)あたりのPA分子の平均数として定義される、ドーピングレベルによって特徴づけられる。ドーピングレベルは酸塩基滴定によって実験的に取得され、結果は表1にまとめられる。BPN1-TMAおよびBPN1-Pipは比較的高いドーピングレベル(それぞれ16および15)を示すが、一方、BPN1-DMImおよびBPN1-Pyrは、それぞれ12および9である、低いドーピングレベルを有する。理論に束縛されることを望むものではないが、四級化のための前駆体第三級アミンの塩基性がより高くなる(共役酸のpKaの値がより大きく示される)と、イオン対ポリマーが提供できるドーピングレベルがより高くなることに注意する。この現象は、対応するカチオン-アニオンイオン対の間の相互作用強度の違いに起因するかもしれない。より塩基性のアミン前駆体から導かれるQAカチオンは、リン酸二水素アニオンとのより強い相互作用を有し、次に、水素結合を介してより多くのPA分子を保持することが可能となる。BPN1-TMAおよびBPN1-Pipは、トリメチルアミンおよびピぺリジンが同様に塩基性である(プロトンを付加されたアミン形態のpKa値が10.8および11である)結果として、同様のドーピングレベルを示した。BPN1-Pyrは、しかしながら、最も低いドーピングレベルを示した。ピリジンは最小の塩基部分であるため、得られたリン酸二水素ピリジニウムイオン対相互作用は、最も弱くなり、最も低いPAドーピングレベルを提供するであろう。BPN1-DMImは、1,2-ジメチルイミダゾールの中間の塩基性に起因して、中間のドーピングレベルを有した。
【表1】
表1 リン酸ドーピングレベルおよび水取り込み。*-PAドーピングされたメンブレンの乾燥重量と比較した、水の重量パーセント。
【0027】
ここで
図5を参照すると、自立型ポリマーフィルムと、PAドーピングされたBPN1-TMAのポリエチレン(PE)強化コンポジットメンブレン、双方の機械的特性が、30℃および0%RHで評価された。PE強化されたコンポジットメンブレンは、引っ張りに関して、劇的に自立型ポリマーフィルムより優れていた。BPN1-TMAコンポジットメンブレンの破壊時の伸長は363%に達し、これに対してBPN1-TMA自立型ポリマーフィルムは165%であった。
【0028】
ここで
図6を参照すると、理論に束縛されることを望むものではないが、機械的特性は、各メンブレンのPAドーピングレベルに強く関連することが判明していた。ドーピングされたPAはポリマー上の可塑化を誘起し得る。PAドーピングの前後のBPN1-TMAメンブレンの応力ひずみ曲線を比較すると、PAドーピングによって破壊時の伸長が116%から363%へと増加した一方、張力は79MPaから11MPaに減少した。そのような、破壊時の張力の減少および伸長の増加は、小さい分子が可塑化効果を誘起する場合と整合した。この場合、ドーピングされたPA分子は可塑剤として作用し、より柔軟性のあるメンブレンをもたらす。
【0029】
図7は、4つすべてのPAドーピングされたビフェニルコンポジットPEMの機械的特性と、それらのNafion(登録商標)との比較を示す。より高いPA含有量を有するBPN1-TMAおよびBPN1-Pipは、PAドーピングレベルが比較的低いBPN1-Pyrよりも柔軟性を示した。それらは同一の前駆体ポリマーから合成され、材料の機械的特性に関する分子量効果が除外される。理論に束縛されることを望むものではないが、機械的特性の違いは、可塑化効果の違いの結果と考えられる。特に、BPN1-TMA、BPN1-Pip、およびBPN1-DMImは、それぞれ363%、385%、315%の破壊時の伸長を示し、それらは、同一の試験条件下で破壊の伸長が216%であるNafion(登録商標)より優れている。ドーピングされたPAはメンブレンの張力が減少したが、それらはなお、MEAを製造するためには十分に強い。例えば、BPN1-TMA、BPN1-Pip、BPN1-DMImは、それぞれ11MPa、20MPa、および38MPaの張力を示す。
【0030】
ここで
図8を参照すると、例によるメンブレンに関するプロトン伝導性が、2つの条件下で試験された。30℃で50%から100%のRH、および80℃で5%から100%のRH。メンブレンは、信頼性のある平衡伝導性読み取り値を取得するように、少なくとも4時間の間、所定の温度およびRHに維持された。BPN1-TMAは、そのPAドーピングレベルが最高であり、該して最高のプロトン伝導性を示した。さらに、80℃での伝導性が、同一のRHで一貫して、30℃での導電性より高かった。例えば、BPN1-Pipは、80℃および50%RHで173mS/cmのプロトン伝導性を有し、一方、それは30℃および50%RHでは89mS/cmを有した。Nafion(登録商標)は、RHが80%より大きいときにのみ、良好なプロトン伝導性を示すように始まった。しかしながら、すべてのPAドーピングされたメンブレンは、90%より下のRH条件で、顕著にNafion(登録商標)より優れていた。例えば、BPN1-TMAは、80℃および60%RHで205mS/cmのプロトン伝導性を有し、一方、Nafion(登録商標)は、同一条件下で31mS/cmを提供するのみだった。イオン対PEMは加湿なしでプロトンを伝導可能であるが、所定の閾値RHまで増加するRHはプロトン伝導性の促進を助けた。
図7は約90%RHで30℃の閾値点と、70%RHで80℃の閾値点とを示す。BPN1-TMAは、80℃および70%RHで213mS/cmという最高のプロトン伝導性を示し、BPN1-PipおよびBPN1-DMImは、同一条件で207mS/cmおよび203mS/cmを示す。さらにRHの公差(90%RHで30℃および70RHで80℃)を確認すると、測定時間は14hまで延長され、明らかな伝導性の低下はどちらの場合にも観察されなかった。
【0031】
本開示の方法およびシステムは、Nafion(登録商標)で構成されたものなどの商業的に利用可能なメンブレンと比較して、それらが減少した相対湿度および増加した温度で向上した伝導性を示すイオン交換膜材料を提供することにより、有利である。低および中間のRHでの向上した伝導性が、水分子の存在へのプロトン伝導性の従属の減少から生じる。代わりに、プロトン伝導性は、リン酸ドーピング、特にメンブレンのポリマーネットワークの第四級アンモニウム基の周囲のリン酸分子のクラスタによって提供される。これらのメンブレンは、高い相対湿度でさえも、無視できるドーパント浸出を示し、メンブレンは、広い範囲の動作条件にわたって効果的なままである。さらに、特にポリエチレン強化メッシュの添加によって、メンブレンは優秀な機械的特性を維持する。
【0032】
本発明はその例示的な実施形態に関して説明および図示されてきたが、本発明の精神および範囲から外れることなく、前述の、および様々な他の変更、省略および追加が、本発明になされてもよいことは、当業者に理解されるべきである。
【国際調査報告】