(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-19
(54)【発明の名称】加圧水型原子炉炉心溶融物捕捉冷却システム
(51)【国際特許分類】
G21C 9/016 20060101AFI20220112BHJP
【FI】
G21C9/016
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2020572851
(86)(22)【出願日】2018-12-28
(85)【翻訳文提出日】2021-02-04
(86)【国際出願番号】 RU2018000899
(87)【国際公開番号】W WO2020046165
(87)【国際公開日】2020-03-05
(32)【優先日】2018-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516233088
【氏名又は名称】ジョイント ストック カンパニー アトムエネルゴプロエクト
【氏名又は名称原語表記】JOINT STOCK COMPANY ATOMENERGOPROEKT
【住所又は居所原語表記】ul. Bakuninskaya,7,str.1 Moscow,105005 Russia
(71)【出願人】
【識別番号】520514768
【氏名又は名称】サイエンス アンド イノヴェーションズ - ニュークリア インダストリー サイエンティフィック デベロップメント,プライベート エンタープライズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】特許業務法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】シドロフ アレクサンドル スタレヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ズバノフスカヤ タチアナ ヤロポルコフナ
(72)【発明者】
【氏名】ロシチン ミハイル アレクサンドロヴィチ
【テーマコード(参考)】
2G002
【Fターム(参考)】
2G002AA04
2G002BA07
(57)【要約】
本発明の技術的結果は加圧水型原子炉炉心溶融物捕捉冷却システムの信頼性向上である。本発明が解決しようとする課題は炉心溶融物の排熱効率向上及び構造の信頼性向上である。上記の課題は、加圧水型原子炉炉心溶融物捕捉冷却システムにおけるメルトトラップ本体中に設置されたダンパーにより解決される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シーラントを挟む外壁及び内壁から構成される多層容器の形態を有する冷却された容器を含み原子炉圧力容器底部下方に配されるメルトトラップと、前記メルトトラップの内側本体内に配され、炉心溶融物を希釈するフィラーと、を備える加圧水型原子炉炉心溶融物捕捉冷却システムにおいて、
前記メルトトラップの内側本体内には、中央バレルと、前記中央バレルに連結された耐力リブと、前記耐力リブの間に位置する傾斜板とを有するダンパーが配されており、
前記ダンパーが固定具により前記メルトトラップの内側本体に固定されている
ことを特徴とする加圧水型原子炉炉心溶融物捕捉冷却システム。
【請求項2】
前記ダンパーの前記傾斜板の厚みh
plateと、前記耐力リブの厚みh
ribとが、
0.1h
rib<h
plate<1.0h
rib
の関係にあることを特徴とする請求項1に記載の加圧水型原子炉炉心溶融物捕捉冷却システム。
【請求項3】
前記メルトトラップ本体の内側底部に接合してラジアルサポートが設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の加圧水型原子炉炉心溶融物捕捉冷却システム。
【請求項4】
前記ラジアルサポートは、円形又は楕円形の穴が開設されており、固定具を介して前記ダンパーと接合されている
ことを特徴とする請求項3に記載の加圧水型原子炉炉心溶融物捕捉冷却システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は原子力分野、詳しくは原子力発電所安全システムに関するもので、炉心溶融、原子炉圧力容器の破壊、格納容器空間部への溶融物流出を招く過酷事故の際に利用できる。
【背景技術】
【0002】
受動的安全システム・能動的安全システムおよび通常運転システムの喪失(設備要素破壊)の様々な組み合わせ、又は原発の全交流電源喪失事故又は原発設計案に定める所定期間内の非常用炉心冷却のための給電が不能な状態により発生し得る炉心溶融を伴う事故は、最高度の放射能の危険性を伴う。
【0003】
このような事故では、コリウムと呼ぶ炉心溶融物が炉内構造物及び原子炉圧力容器を溶融させながら外部に流出し、その残留発熱により、放射能物質の外部環境への流出を防止する最後のバリアである格納容器の完全性を損ないかねない。
【0004】
上記の可能性を排除するためには、原子炉圧力容器から流出した炉心溶融物を捕捉した上で、炉心溶融物の全ての構成材料が完全に結晶化するまでに継続的に冷却させる必要がある。
【0005】
この機能は、原子炉炉心溶融物捕捉冷却システムによって実行され、原子炉の過酷事故において原発の格納容器の破損を防止し、放射線影響から住民及び環境を保護する。
【0006】
このような加圧水型原子炉炉心溶融物捕捉冷却システムとして、特許文献1に示すように、シーラント(sealant:封止材)を挟む外壁及び内壁から構成される多層容器の形を有する冷却された容器を備え、原子炉圧力容器底部下に設置されるメルトトラップ(melt trap:溶融物捕捉器)、及び上記多層容器内に炉心溶融物を希釈するフィラー(filler:充填材)を備えたものが知られている。
【0007】
また、特許文献2には、シーラントを挟む外壁及び内壁から構成された多層容器の形態を持つ冷却された容器を備え、その外層及び内層との間に耐力リブが存在し、原子炉圧力容器底部下に設置されるメルトトラップと、上記多層容器内に配置され、炉心溶融物を希釈するフィラーを備える加圧水型原子炉炉心溶融物捕捉冷却システムが開示されている。
【0008】
また、特許文献3にも、シーラントを挟む外壁及び内壁から構成される多層容器の形を持つ冷却された容器を備え、原子炉圧力容器底部下に設置されるメルトトラップ及び上記の多層容器に配置され、炉心溶融物を希釈するフィラーを備える加圧水型原子炉炉心溶融物捕捉冷却システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】ロシア特許第2576516号明細書
【特許文献2】ロシア特許第2576517号明細書
【特許文献3】ロシア特許第2575878号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、上記各システムの欠点として、原子炉圧力容器から流出する炉心溶融物が、原子炉圧力容器内の過圧、及び原子炉からの流出される炉心溶融物のレベルとメルトトラップ内の炉心溶融物受入のレベル間の差に起因する流体力学的圧力との影響により、メルトトラップ本体の底部・円錐部・環状部に熱機械的影響を与えられ、その結果、熱が限られた空間に高濃度で集中して、メルトトラップ本体の下部が過熱し、熱機械的影響により破壊しかねないという、メルトトラップの構造的特徴に起因する低信頼性が挙げられる。
【0011】
本発明の技術的結果は、加圧水型原子炉炉心溶融物捕捉冷却システムの信頼性向上である。本発明が解決しようとする課題は、炉心溶融物の排熱効率の向上及び構造の信頼性向上である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題は、シーラントを挟む外壁及び内壁から構成される多層容器の形態を有する冷却された容器を含み原子炉圧力容器底部下方に配されるメルトトラップと、前記メルトトラップの内側本体内に配され、炉心溶融物を希釈するフィラーと、を備える加圧水型原子炉炉心溶融物捕捉冷却システムにおいて、前記メルトトラップの内側本体内には、中央バレルと、前記中央バレルに連結された耐力リブと、前記耐力リブの間に位置する傾斜板とを有するダンパーが配されており、前記ダンパーが固定具により前記メルトトラップの内側本体に固定されていることにより達成される。
【0013】
また、前記ダンパーの前記傾斜板の厚みhplateと、前記耐力リブの厚みhribとが、
0.1hrib<hplate<1.0hrib
の関係にある。
【0014】
また、前記メルトトラップ本体の内側底部に接合してラジアルサポートが設けられている。
【0015】
さらに、前記ラジアルサポートは、円形又は楕円形の穴が開設されており、固定具を介して前記ダンパーと接合されている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態に係る炉心溶融物捕捉冷却システムの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の特徴は、メルトトラップ本体内にダンパーを設置することである。このダンパーは、中央バレルと、中央バレルに接合する耐力リブと、耐力リブの間に位置する傾斜板とを含み、固定具によりメルトトラップ本体に固定されており、メルトトラップ本体を炉心溶融物及び飛翔体(例えば、原子炉圧力容器底部破片)による破壊から保護する。
【0018】
また、ダンパーは溶融物の運動エネルギーを均一に分布させて過熱した炉心溶融物流の、本体下部にあるフィラーへの直接影響に対して流体力学的保護を与える。
【0019】
本発明のもう一つの特徴は、ダンパーの傾斜板の厚みhplate がダンパーの耐力リブの厚みと以下の関係にあることである
0.1hrib<hplate<1.0hrib
ここで、hribは、ダンパーの耐力リブの厚みである。
【0020】
これにより、過熱した炉心溶融物の噴流が本体底部の中央部に直接に当たらないように炉心溶融物の噴流の方向を効果的にそらすことができるようになる。
【0021】
なお、リブの厚みが例えば10mm-30mmと小さい場合、傾斜板の厚みは1.0hribに近い比を選択するのが望ましい。さもなければ、傾斜板は過熱した炉心溶融物噴流の偏向が困難になる。
【0022】
本発明のもう一つの特徴は、メルトトラップ本体の内面底部に設けられたラジアルサポート(radial support:半径方向支持部材)である。これにより、メルトトラップ本体の径方向の熱膨張が提供され、本体底部への非軸対称熱応力負荷による本体底部の破壊リスクが軽減される。
【0023】
これに反し、リングサポート・扇形サポート・弦サポートを使用すれば、本体底部の熱膨張において設計外の変形を招き、構造物の完全性を損なう追加の半径方向の応力及び方位角方向の応力を発生させる。
【0024】
本発明のもう一つの特徴は、本体の内部のラジアルサポートが固定具(clamp)によりダンパーに連結されており、各ラジアルサポート(及び固定具)には、せん断歪及び軸受け歪(bearing strain)だけでなく曲げ歪に対しても、固定具の円形もしくは楕円形の要素の機能を保証するためのギャップを有する円形又は楕円形の穴が開いていることである。
【0025】
例えば、円形要素としては、軸受け歪によってエネルギー吸収も確保される鋲、ピン、シャフト、パイプのいずれかを用いることができる。
【0026】
図1は、本発明に基づいて設計された、メルトトラップ内に設置されたダンパー及びフィラーを備える加圧水型原子炉炉心溶融物捕捉冷却システム(以下、「溶融物補足冷却システム」という。)を示す。
【0027】
本発明の動作は以下のとおりである。
【0028】
溶融物捕捉冷却システム(1)は、原子炉底部下方に設置され、
図1に示すように、シーラント(封止材)(6)を挟んで配置された内側本体(4)と外側本体(5)及び、内側本体(4)内に配され、炉心溶融物(3)を希釈するためのフィラー(7)とを含むメルトトラップ(2)に、ダンパー(8)を追加配置したものである。
【0029】
ダンパー(8)は、中央バレル(9)、中央バレル(9)に接合する耐力リブ(10)、耐力リブ(10)の間に位置する傾斜板(11)を含み、固定具(12)によって、メルトトラップ(2)の内側本体(4)内に取り付けられている。
【0030】
原子炉圧力容器の破壊の際、炉心溶融物溶融物(3)は、流体力学的圧力及び過圧により、メルトトラップ(2)の内側本体(4)の中に流入し、フィラー(7)と接触する。
【0031】
フィラー(7)は、メルトトラップ(2)内の炉心溶融物(3)の体積拡散を提供し、かつ体積エネルギーの放出の低減とエネルギー放出中の炉心溶融物とメルトトラップ(2)の外層との間の熱交換表面の面積拡大のため、炉心溶融物の完全酸化及び希釈の機能を果たすように設計されており、また、燃料含有炉心溶融物成分が鉄鋼層より上方に浮上する条件の構築を促す。
【0032】
フィラー(7)は、鉄鋼素材や酸化鉄・酸化アルミニウム・酸化ジルコニウムを含む酸化物素材で形成することができ、円筒部だけでなく底部円錐形空間における炉心溶融物の再分布ためのチャネル(channel)を有する。
【0033】
鉄鋼素材及び酸化物素材の要素は、円筒状のカセットとして形成されている。
【0034】
フィラー(7)は、原則として少なくともメルトトラップ本体の底部に設置された第1カセット(13)と、第1カセット(13)の上にある第2カセット(14)と、第2カセット(14)の上にある第3カセット(15)とを備える。第3カセット(15)は相互に積み重ねられた複数のカセットから構成されてもよい。
【0035】
ダンパー(8)の耐力リブ(10)の間に位置する傾斜板(11)は、枚数が1枚―5枚であって、耐力リブ(10))間の各セクションにおいてお互いに平行に設置される。傾斜板(11)の枚数が5枚を超えると、フィラー(7)への過熱した炉心溶融物(3)の噴流の偏向に必要な傾斜板(11)の傾斜角度の確保のために傾斜板(11)の厚みを小さくしなければならなくなるため、追加的な再分布の結果を発揮しにくい。
【0036】
内側本体(4)のラジアルサポート(16)は3本-10本の範囲で設置される。内側本体(4)のラジアルサポート(16)の本数が3本未満になると、炉心溶融物(3)の打撃領域が本体底部において再分布せず、底部崩壊を招かねない形で局所的に集中するため、打撃の運動エネルギーの効率的な吸収が困難になる。
【0037】
一方、内側本体(4)のラジアルサポート(16)の本数が10本を超えると、耐力リブ(10)の厚みを小さくする必要があるが、これは原子炉圧力容器底部破片の落下による打撃の運動エネルギーを吸収・再分布する能力及び原子炉圧力容器からの炉心溶融物(3)の流出におけるエネルギーを吸収する能力に悪影響を与える。
【0038】
ダンパー(8)は、原子炉圧力容器からフィラー(7)への炉心溶融物(3)の流入の初期段階において、炉心溶融物(3)噴流及び飛翔体(原子炉圧力容器の底部破片、炉内構造物破片、燃料集合体破片、上部熱防護材破片)による破壊に対して、第1カセット(13)、第2カセット(14)及び第3カセット(15)をそれぞれ保護する。
【0039】
ダンパー(8)は、飛翔体に対する機械的保護の他、過熱した炉心溶融物(3)噴流により直接影響を受ける第1カセット(13)の受動的流体力学的保護も保証する。
【0040】
炉心溶融物(3)が原子炉圧力容器から流出するに連れて破壊・溶融するダンパー(8)は、第1カセット(13)、第2カセット(14)、第3カセット(15)間で炉心溶融物(3)の運動エネルギーを再分布する。
【0041】
エネルギーは、主に過熱した液状鉄鋼を含む多量の炉心溶融物(3)の第1ピーク流入の際にダンパー(8)面による溶融金属の流体力学的偏向により再分布される。
【0042】
ダンパー(8)面の方向及び傾斜角度は、炉心溶融物(3)の噴流が第2カセット(14)及び第3カセット(15)の垂直面に向けて偏向されるように選択される。
【0043】
例えば、過熱した溶融鉄鋼60tが30秒内にピークで流入する場合、ダンパー(8)の寿命は約10秒であり、この時間は過熱した溶融鉄鋼の第1ピーク流入が第1カセット(13)に制限されるが、そこから炉心溶融物(3)の一部の運動エネルギーが第2カセット(14)及び第3カセット(15)に方向転換し、炉心溶融物(3)のレベルが第1カセット(13)より上昇し、その後の炉心溶融物(3)の噴流及び飛翔体の運動エネルギーによる直接影響に対して第1カセット(13)が保護される。
【0044】
炉心溶融物(3)の噴流の軸対称的又は非軸対称な落下における過熱した鉄鋼が一斉に流入すると、フィラー(7)は、部分的に密閉される。
【0045】
この場合、ダンパー(8)は、流体力学的なダンパーとしての機能を果たし、マクロ多孔性(macroporous)のフィラー(7)で跳ね返ってほぼ水平方向に向かう炉心溶融物(3)と、ダンパー(8)の傾斜板(11)によって半径方向に方向転換された垂直噴流が直接衝突するようになる。
【0046】
メルトトラップ内にダンパーを設置することにより、ダンパー面による溶融金属の流体力学的偏向がもたらすエネルギー再分布による溶融物捕捉冷却システムの信頼性の向上が可能になった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は原子力分野、詳しくは原子力発電所(原発)安全システムに関するもので、炉心溶融、原子炉圧力容器の破壊、格納容器空間部への溶融物流出を招く過酷事故の際に利用できる。
【国際調査報告】