(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-19
(54)【発明の名称】単回使用の無菌接線流濾過システム及び方法
(51)【国際特許分類】
B01D 63/08 20060101AFI20220112BHJP
B01D 63/00 20060101ALI20220112BHJP
B01D 65/02 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
B01D63/08
B01D63/00 500
B01D63/00 510
B01D65/02 500
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021526285
(86)(22)【出願日】2019-11-27
(85)【翻訳文提出日】2021-06-03
(86)【国際出願番号】 US2019063530
(87)【国際公開番号】W WO2020112946
(87)【国際公開日】2020-06-04
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503393010
【氏名又は名称】レプリゲン・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】Repligen Corporation
【住所又は居所原語表記】41Seyon Street,Building#1,Suite100,Waltham,Massachusetts02139,United StatesOfAmerica
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ペロー、マーク、 エー.
(72)【発明者】
【氏名】コナーズ、ジョン、エフ.
(72)【発明者】
【氏名】ロウェル、ポール、シー.
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA06
4D006GA07
4D006HA44
4D006JA04Z
4D006JA05A
4D006JA05B
4D006JA05C
4D006JA06A
4D006JA06B
4D006JA06C
4D006JA08A
4D006JA08B
4D006JA08C
4D006JA15A
4D006JA15B
4D006JA15C
4D006JA22C
4D006JA24Z
4D006JB06
4D006KC21
4D006MA03
4D006MA22
4D006MC12
4D006MC18
4D006MC21
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC29
4D006MC30
4D006MC39
4D006MC49
4D006MC54
4D006MC62
4D006MC63
4D006PA01
4D006PC41
(57)【要約】
無菌濾過に必要な組立及び分解を減らす接線流濾過(TFF)用カセットが開示されている。また、TFFカセットの包装システム及び方法も開示されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性隔離板と;
ガスケット及び濾板のうちの少なくとも一方と;
前記可撓性隔離板と前記ガスケット又は前記濾板との間に配設され、少なくとも1つの給液流路及び少なくとも1つの濾液流路を画定する重ね合わせ層スタックと;を備え、複数の前記重ね合わせ層は、
内周によって境された開放内部容積を画定し、且つ1つ以上の流体ポートを含む濾液流路スペーサと;
内周によって境された開放内部容積を画定し、且つ1つ以上の流体ポートを含む非可撓性給液流路スペーサと;
前記濾液流路スペーサと前記給液流路スペーサとの間に配設された膜と;任意選択的に、
前記膜と、前記濾液流路スペーサ及び前記給液流路スペーサのうちの一方と、を結合する感圧接着剤であって、前記感圧接着剤の薄膜が、隣接する流路の高さの50%未満の厚さを有する感圧接着剤と;を備え、
(a)前記可撓性隔離板は、可撓性ポリマー又は熱可塑性エラストマーを備え、前記重ね合わせ層スタックの第1の表面に接合されている、接線流濾過(TFF)カセット。
【請求項2】
ガスケットは、前記重ね合わせスタックの第2の表面に接合されており、前記ガスケットは、前記給液流路及び前記濾液流路用の別々の流体ポートを備える、請求項1に記載のTFFカセット。
【請求項3】
濾板は前記ガスケットに接合されており、前記濾板は流体多岐管を備え、前記濾板の給液ポートは前記ガスケットの給液ポートと整列しており、前記濾板の濾液ポートは前記ガスケットの濾液ポートと整列している、請求項2に記載のTFFカセット。
【請求項4】
最小管理単位(SKU)番号、ロット番号、シリアル番号、容量、給液流路及び/又は濾液流路の数、並びに膜数のうちの1つ以上によって前記TFFカセットを識別するためのタブ又は刻印を前記カセットの側壁にさらに備える、請求項1から3のいずれか一項に記載のTFFカセット。
【請求項5】
前記タブ又は刻印はバーコードを備える、請求項4に記載のTFFカセット。
【請求項6】
使用後に廃棄可能である、請求項1から5のいずれか一項に記載のTFFカセット。
【請求項7】
封止された縁部を備える、請求項1から6のいずれか一項に記載のTFFカセット。
【請求項8】
前記少なくとも1つの給液流路は、前記給液流路スペーサによって画定された空間内に配設された給液スクリーンを備える、請求項1から7のいずれか一項に記載のTFFカセット。
【請求項9】
前記給液スクリーンは、織成された又は押出成形されたポリマーメッシュを備える、請求項8に記載のTFFカセット。
【請求項10】
前記少なくとも1つの濾液流路は、前記濾液流路スペーサによって画定された空間内に配設された濾液スクリーンを備える、請求項1から9のいずれか一項に記載のTFFカセット。
【請求項11】
前記濾液スクリーンは、織成された又は押出成形されたポリマーメッシュを備える、請求項10に記載のTFFカセット。
【請求項12】
複数の濾液流路を備えるTFFカセットであって、各濾液流路は、上から下への順に、
第1のフィルタ膜と;現場硬化型(cured-in-place)ウレタン製周辺封止材内に配設されたポリマースクリーンを備える中間部と;第2のフィルタ膜又は平坦プラスチック部材のうちの一方と;を備え、前記第1のフィルタ膜及び前記第2のフィルタ膜又は平坦プラスチック部材のそれぞれは給液ポートを備え、前記中間部は、前記ポリマースクリーンを少なくとも1つの給液ポートと分け隔てる現場硬化型ウレタン製封止材を任意選択的に備える、TFFカセット。
【請求項13】
前記濾液流路と交互に配設された複数の給液流路をさらに備え、各給液流路は、前記ウレタン製周辺封止材内に配設された流路スペーサを備え、前記流路スペーサは、前記流路スペーサを前記第1のフィルタ膜及び前記第2のフィルタ膜又は平坦プラスチック部材に接合するための第1及び第2の感圧接着剤(PSA)層を任意選択的に備える、請求項12に記載のTFFカセット。
【請求項14】
前記第1及び第2のPSA層の厚さは、0.002インチから0.005インチの間である、請求項13に記載のTFFカセット。
【請求項15】
前記平坦プラスチック部材の厚さは、0.010インチから0.030インチの間である、請求項12から14のいずれか一項に記載のTFFカセット。
【請求項16】
封止された包装材内に配設されたTFFカセットを備える、接線流濾過(TFF)カセットを輸送するためのシステムであって、前記システムは、ガンマ線照射によって滅菌されるように構成されている、システム。
【請求項17】
前記包装材は複数の層を備える、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記包装材は、熱可塑性ポリウレタン、エチレンビニルアセテート、SBSブロック共重合体、ポリエステルエラストマー、又はこれらの組み合わせを備える、請求項16又は17に記載のシステム。
【請求項19】
前記包装材は、熱収縮スリーブへと形成されたシートを備える、請求項16から18のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項20】
前記TFFカセットは、
可撓性隔離板と;
ガスケット及び濾板のうちの少なくとも一方と;
前記可撓性隔離板と前記ガスケット又は前記濾板との間に配設された複数の重ね合わせ層であって、少なくとも1つの給液流路及び少なくとも1つの濾液流路を画定する複数の重ね合わせ層と;
を備える、請求項16から19のいずれか一項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権
本出願は、2018年11月30日に出願された米国仮出願第62/773,262号に対する米国特許法第119条に基づく優先権の便益を主張するものであり、同仮出願は、参照により、その全体がすべての目的で本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示の分野
本開示は、接線流濾過システム及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
接線流濾過(TFF)は、クロスフロー濾過(CFF)とも称され、物質流体懸濁液や溶液を、そのサイズの違いに基づいて分離又は精製する目的で、あらゆる産業で使用されている。TFFシステムでは、様々な分子種又は微粒子種を含む供給流体が、透過膜に垂直な方向で濾過容器に流入する。濾過容器では、この共有流体が、膜を通過し、供給流体に由来する特定種を含む透過液流(濾液とも称される)と、膜を通過せず、透過液流内に渡らなかった任意の種を含む保持液流という2つの成分流に分離される。
【0004】
TFFシステムには、同程度の膜透過流束であれば、フィルタケーキの形成によるファウリング率が概して低いなど、従来の直流式濾過システムを上回るいくつかの利点がある。
【0005】
TFFシステムは、プレート・アンド・フレーム型やカセット型が一般的である。これらの型は、外部の平板と多岐管との間に配置された複数の平坦シート膜を組み込んでいるのが典型的である。使用時には、供給流体が、多岐管の流入口を通過してカセット内に入り、膜の第1(上側)の表面に対して接線方向に渡される。透過液流が、膜を通過した後、カセットを通って多岐管の透過液専用流路に入るのに対し、保持液は膜を通過せず、多岐管の別の保持液流路に入る。
【0006】
従来、カセットは、感圧接着剤(PSA)及びスクリーンメッシュを用いて複数の膜層を重ね合わせ、任意選択で、シリコーン又はウレタンポリマーを用いたカプセル化などによって一部又は全部の層を固定することによって作製される。TFFカセットは、多岐管との界面となる開口又はその他の特徴部を概して含む。カセット型は、層同士の位置が整列していなかったり、層と多岐管の界面とが整列していなかったりすると、漏洩が発生しやすくなり得る。そのため、使用時にはカセットを平板又はガスケット間に挟んで、漏れないように封止することが多い。
【0007】
近年、バイオ処理用途の単回使用無菌TFFカセットシステムへの関心が高まってきた。単回使用システムは、個々の構成要素のコストの安さや、カセットの再処理及び滅菌を伴わない簡便なワークフローなど、多回使用システムを上回るいくつかの潜在的利点を提供する。ただし、無菌単回使用カセットは、カセットと、カセットを封止するための平板と、を備えるTFF「スタック」の組立てなど、ユーザーによる何らかの組立てを要する形態で提供されることが多い。このような設計は簡単且つ効果的ではあるが、板の欠陥やユーザーの組立てミスによる故障の可能性が存在する。これらのリスクの軽減により、コストを削減したり、カセットの故障による損失を回避できたりする可能性がある。
【発明の概要】
【0008】
本開示は、故障のリスク及びユーザーの組立て作業を低減する単回使用のTFFカセット並びにその製造方法及び使用方法を提供する。本開示の一態様は、可撓性隔離板と、ガスケット及び濾板のうちの少なくとも一方と、可撓性隔離板とガスケット又は濾板との間に配設された重ね合わせ層スタックであって、層が少なくとも1つの給液流路及び少なくとも1つの濾液流路を画定する重ね合わせ層スタックと、を備える接線流濾過カセットに関する。この複数の重ね合わせ層は、内部周囲によって境された開放内部容積を画定し、且つ1つ以上の流体ポートを含む濾液流路スペーサと、同じく内部周囲によって境された開放内部容積を画定し、且つ1つ以上の流体ポートを同じく含む非可撓性給液流路スペーサと、給液流路スペーサと濾液流路スペーサとの間に配設された膜と、を含む。これらの層は、膜と、濾液流路スペーサ及び給液流路スペーサのうちの一方と、を結合する感圧接着剤も任意選択的に含み、該感圧接着剤の薄膜の厚さは、隣接する流路の高さの50%未満である。可撓性隔離板は、可撓性ポリマー又は熱可塑性エラストマーを備え、重ね合わせ層スタックの第1の表面に接合されている。各種実施形態において、ガスケットは、重ね合わせ層スタックの第2の表面に接合されており、このガスケットは、給液流路及び濾液流路用の別々の流体ポートを備え、流体多岐管を備える濾板は、濾板の給液ポートがガスケットの給液ポートと整列し、濾板の濾液ポートがガスケットの濾液ポートと整列するようにガスケットに任意選択的に接合される。いくつかの実施形態において、TFFカセットは、最小管理単位(SKU)番号、ロット番号、シリアル番号、容量、給液流路及び/又は濾液流路の数、並びに膜数のうちの1つ以上によってTFFカセットを識別するためのタブ又は刻印をカセットの側壁に含む。このタブ又は刻印は、バーコードを含み得る。いくつかの事例においては、TFFカセットが使い捨てであり、且つ/又は封止された縁部を備える。場合によっては、給液流路及び/又は濾液流路が、流路スペーサによって画定された空間内に配設されたスクリーンを含む。このスクリーンは、織成メッシュ又はポリマーメッシュを含み得る。
【0009】
別の態様において、本開示は、複数の濾液流路を備えるTFFカセットに関し、各濾液流路は、上から下への順に、第1のフィルタ膜と;現場硬化型(cured-in-place)ウレタン製周辺封止材内に配設されたポリマースクリーンを備える中間部と;第2のフィルタ膜又は平坦プラスチック部材のうちの一方と;を備え、第1のフィルタ膜及び第2のフィルタ膜又は平坦プラスチック部材のそれぞれは給液ポートを備え、中間部は、ポリマースクリーンを少なくとも1つの給液ポートと分け隔てる現場硬化型ウレタン製封止材を任意選択的に備える。いくつかの実施形態において、カセットは、濾液流路と交互に配設された複数の給液流路も備え、各給液流路は、ウレタン製周辺封止材内に配設された流路スペーサを備え、流路スペーサは、流路スペーサを第1のフィルタ膜及び第2のフィルタ膜又は平坦プラスチック部材に接合するための第1及び第2の感圧接着剤(PSA)層を任意選択的に備える。PSA層の厚さは、場合によっては0.002~0.005インチ(0.051~0.127mm)であり得るのに対し、平坦プラスチック部材の厚さは、0.010~0.030インチ(0.254~0.762mm)であり得る。
【0010】
さらに別の態様において、本開示は、接線流濾過(TFF)カセットを輸送するためのシステムであって、単一の層又は複数の層を含み得る封止された包装材内に配設されたTFFカセットを備えるシステムに関する。包装材の1つ以上の層は、例えば、熱可塑性ポリウレタン、ポリオレフィンエチレンビニルアセテート、SBSブロック共重合体、ポリエステルエラストマーなどを備え得る。包装されたシステムであれば、ガンマ線照射によって滅菌することができる。
【0011】
本明細書に記載されているか、他の方法で提示された各種実施形態において、この包装材は複数の層を備え得る。この包装材は、熱可塑性ポリウレタン、ポリオレフィン、エチレンビニルアセテート、SBSブロック共重合体、ポリエステルエラストマー、又はこれらの組み合わせを備え得る。この包装材は、熱収縮スリーブへと形成されたシートを備え得る。TFFカセットは、可撓性隔離板と、ガスケット及び濾板のうちの少なくとも一方と、可撓性隔離板とガスケット又は濾板との間に配設された複数の重ね合わせ層であって、少なくとも1つの給液流路及び少なくとも1つの濾液流路を画定する複数の重ね合わせ層と、を備え得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の一実施形態にかかる積層型カセットの設計を表す。
【
図2】本開示の一実施形態にかかる給液流路及びフィルタ流路の分解図を表す。
【
図3】本開示の一実施形態にかかる接線流濾過システムの分解図を表す。
【
図4】本開示の一実施形態にかかる接線流濾過システムの透視図を表す。
【
図5】本開示の一実施形態にかかる積層型カセット設計の側面図及び切断面図を表す。
【
図6】本開示の一実施形態にかかる包装された単回使用カセットを表す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
積層型クロスフロー濾過カセット
本開示は、(a)ポリマー製流路封止材、及び/又は(b)ホットメルトテープやPSAテープなどの接着剤の薄膜でコーティングされた事前成形の流路スペーサを利用して、膜及び流路スペーサの交互層を接合及びカプセル化する積層型クロスフロー濾過カセットを特徴とする。このように結合される場合、流路スペーサにより、その流路の流体流の境界が正確に画定される。
【0014】
本開示の濾過カセットは、クロスフロー濾過を必要とする様々な小規模及び大規模用途で使用され得、ワクチン、モノクローナル抗体、及び患者固有の治療薬の製造を含むがこれらに限定されない小規模及び大規模な製薬及びバイオ医薬関連濾過処理に特に適し得る。
【0015】
PSAコーティングされた事前形成の流路スペーサのみを利用する積層型クロスフロー濾過カセットの一実施形態の断面図が
図1に大まかに示されている。濾過カセット10は、1つ以上の濾液流路スペーサ20と、1つ以上の給液流路スペーサ30と、1枚以上の膜40と、を含む。濾過カセットに含まれる流路スペーサ及び膜の数は、濾過カセットの容量要件に影響を受け得る。一般に、膜の数は給液流路スペーサの数の2倍であり得る。濾液流路スペーサの数は、給液流路スペーサの数又は給液流路スペーサの数に1を加えた数であり得る。ただし、カセットを、1枚の膜のみ、1つの濾液流路スペーサ及び1つの給液流路スペーサ、又は他の数の膜及びスペーサで構成することができる。
【0016】
カセット内の膜の総数は、1から1000以上、好ましくは1から500、より好ましくは1から250であり得る。カセット内の給液流路スペーサの総数は、1から500以上、好ましくは1から250、より好ましくは1から125であり得る。カセット内の濾液流路スペーサの総数も、1から500以上、好ましくは1から250、より好ましくは1から125であり得る。例えば、小型のカセットであれば、2枚の膜と、1つの給液流路スペーサと、2つの濾液流路スペーサと、を有し得る。1Xカセットであれば、22枚の膜と、11個の給液流路スペーサと、12個の濾液流路スペーサと、を有し得る。5Xカセットであれば、110枚の膜と、55個の給液流路スペーサと、56個の濾液流路スペーサと、を有し得る。10Xカセットであれば、220枚の膜と、110個の給液流路スペーサと、111個の濾液流路スペーサと、を有し得る。20Xカセットであれば、440枚の膜と、220個の給液流路スペーサと、221個の濾液流路スペーサと、を有し得る、という具合である。
【0017】
膜40は、給液流路スペーサ30と濾液流路スペーサ20との間に位置付けられる。濾過カセット10はまた、濾液流路スペーサ20の開放内部容積内に挿入された1枚以上の濾液スクリーン50を含むのが好ましい。濾過カセット10は、給液流路スペーサ30の開放内部容積内に挿入された1枚以上の給液スクリーン60をさらに含むことができる。濾液流路スペーサ20及び給液流路スペーサ30の開放内部容積のそれぞれが、1枚の濾液スクリーン50又は給液スクリーン60を有するのが好ましい。スクリーン50、60は、膜40及びスペーサ20、30によって画定された領域を埋めつつも、それを通過する給液又は濾液の流れを促すことができる。また、スクリーンには、付加的な濾過手段という目的や、流路の容積を比較的一定に保つことによってカセットの圧縮を防ぐなど、他の目的も果たし得る。接着剤の薄膜70は、濾液流路スペーサ20、膜40、及び給液流路スペーサ30の交互層を結合する目的で使用される。濾過カセット10は、1枚以上、好ましくは2枚の終端板80をさらに含むことができる。
【0018】
接着剤の薄膜70は、高分子接着剤などのホットメルト接着剤や、シリコーン系、アクリル系、又は合成ゴム系などのPSAであり得る。PSAは、ポリスルホン担体又はポリオレフィン担体に貼付された転写テープという形態であり得る。「感圧接着剤」又は「PSA」という用語は、硬化後も接着性を保ち、使用できる状態にある接合剤を意味する。接着剤の薄膜を形成する目的で使用され得る他の適切な接合剤としては、一液性又は二液性の接着剤、UV又は電子ビーム硬化性材料、又は薄いコーティングとして塗布可能な他の接合材料が挙げられるが、これらに限定されない。多くの用途で、接着剤の薄膜は、約0.020インチ(約500μm)以下とすることができる。厚さが約0.002インチ(約50μm)から約0.005インチ(約130μm)の範囲にあるPSAが好適である。
【0019】
本発明の濾過カセットにおいて接着剤の薄膜を使用することにより、先行技術による一液性及び二液性のウレタン系とシリコーン系とに含まれる望ましくない汚染物質に関連する溶出及び抽出の問題が、解消又は軽減され得る。また、接着剤の薄膜を使用することにより、従来のカセットに見られた化粧縁(cosmetic edge)が不要となることから、組立て時に使用される接着剤の量が75パーセントも削減され得る。加えて、接着剤の薄膜を有するスペーサは、液体ウレタンやシリコーンによるカプセル化システムよりも便利に使用できることもあり、本発明において接着剤の薄膜を使用することにより、製造時の効率又は費用対効果が高まりやすくなり得る。さらに、接着剤の薄膜としてPSAが使用されると、硬化時間が減少又は消滅し得、従来のカセットで2から3日である作成サイクルが、本発明の濾過カセットだと1日に短縮され得る。また、スペーサ及び接着剤の薄膜を使用することにより、カセットの高さが増し得、カプセル材の粘度の違いに伴う諸問題が解消され、生産時に必要なガスケットの数が減り得る。
【0020】
濾過カセット10の構成要素が、
図2にさらに示されている。濾液流路スペーサ20及び給液流路スペーサ30は、ポリプロピレン製が好ましいが、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリスルホン、ポリケトン(PEEK)、ナイロン、及びポリビニリジンジフルライド(PVDF)を含むがこれらに限定されない、シート又はフィルムの形態で供給され、必要なサイズ及び形状に切断することのできる任意の材料が想定されており、本発明の範囲内である。流路スペーサ20及び30は、打ち抜き加工されるのが好ましいが、機械加工、スタンピング、及び成形など、均一な形状及び厳格な公差をもたらす他の製造方法も想定されており、本発明の範囲内である。そのため、本発明の積層型カセットの流路は高度に画定され得、ウレタンやシリコーンのカプセル化システムを使用することによる欠点を免れ得る。加えて、打ち抜き加工されたスペーサを使用することにより、製造時の材料の取り扱いが低減され得、自動組み立て又はロボット組み立てがしやすくなり得る。
【0021】
流路の高さは、主に流路スペーサ20及び30の厚みによって画定され、接着剤70の薄膜の厚さ分だけ薄く画定される。一般に、流路の高さを求める式はC=S+2Aであり、式中、Cは流路の高さ、Sは流路スペーサ20又は30の厚さ、Aは接着剤の薄膜70の厚さである。流路の高さは、約0.010インチ(約0.25mm)から約0.10インチ(約2.5mm)の範囲が好ましいが、他の実施形態においては、流路の高さが約0.004インチ(約0.1mm)しかなかったり、約12インチ(約30cm)もあったりし得る。流路スペーサ20及び30の厚さを調整することにより、流路の高さが非常に厳しい公差の囲内に選択的に画定され得る。
【0022】
図1及び
図2をさらに参照すると、濾液スクリーン50及び給液スクリーン60は、ポリプロピレン織布製であり得るが、ポリエステル、ポリアミド、ナイロン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、及びエチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)などのテフロン(登録商標)系材料、又はこれらの材料のいずれかの配合物で作られた他の織成又は押出成形メッシュが想定されており、本発明の範囲内である。スクリーン50及び60は、打ち抜き加工され得るが、機械加工、スタンピング、又は成形を含む他の製造方法も想定されており、本発明の範囲内である。加えて、打ち抜き加工されたスクリーンを使用することにより、製造時の材料の取り扱いが低減され得、自動組み立て又はロボット組み立てがしやすくなり得る。濾液スクリーン50及び給液スクリーン60は、濾液流路スペーサ20及び給液流路スペーサ30の開放内部容積にそれぞれ任意選択的に挿入される。スクリーン50及び60は乱流を作り出すことができ、それにより、膜面における流体速度を上げつつ、ゲル層の形成を最小限に抑える。ゲル層が堆積すると、膜がファウリングを起こし、膜透過流束が減少し得る。また、濾液スクリーン50は、膜40を支持し、濾過カセット10からの流体の流出を促すアンダードレン(under drain)の働きをすることもできる。
【0023】
給液スクリーン60が使用されなければ、給液流路は開放したままとなり、流体が流れる。ただし、スクリーンがないと、同じ流路高さでスクリーンを使用した場合に実現される流体速度と同じ流体速度を膜面で達成するのに、より高いポンピング能力が必要となり得る。一般に、スクリーン50及び60は、流路を通過する流体の総量を減らしながらファウリングを最小限に抑えるための乱流促進器の働きをする。流量を減らせば、必要なポンプ力も下がる。一般に、低粘度の流体は、流路の高さが比較的低く、スクリーンを備えた流路への適性が高いのに対し、高粘度の流体は、流路の高さが比較的高く、スクリーンがないか、開放性の高いスクリーンを備えた流路への適性が高い。
【0024】
場合によっては、スクリーン50及び60が、流路内で「浮く」サイズになっている。すなわち、スクリーン50及び60が、流路スペーサ20又は30と接着剤の薄膜70との組み合わせによって形成される流路の合計高さを超えない厚さをそれぞれ有する。「浮いている」スクリーンは膜40に当接しないため、スクリーンの下でのデブリ堆積が減り得る。
【0025】
また、スクリーン50及び60並びに流路スペーサ20及び30は、スクリーン厚が流路の高さを上回るようなサイズにすることができるため、スクリーンが膜内に押し込まれて従来のカセット技術を模倣する。他の実施形態においては、スクリーン又は乱流促進器(非図示)が流路スペーサ20及び30へと成形され得る。
【0026】
図1及び
図2をさらに参照すると、膜40は、給液、保持液、及び濾液用のポートを含むが、濾液ポートを1つだけ有するか、又は複数の給液及び保持液ポートを有することを含むがこれらに限定されない異なる数及び構成のポートも想定されており、本発明の範囲内である。膜40は、変性ポリエーテルスルホン又は再生セルロース製であるのが好ましいが、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、再生セルロース、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ビニル共重合体、ポリカーボネート、及びこれらの材料の配合物から形成された限外濾過、微多孔、ナノ濾過、又は逆浸透フィルタなどを含むがこれらに限定されない任意の半透性シート材料も想定されており、本発明の範囲内である。膜40は、打ち抜き加工され得るが、機械加工、スタンピング、又は成形を含む他の製造方法も想定されており、本発明の範囲内である。加えて、打ち抜き加工された膜を使用することにより、製造時の材料の取り扱いが低減され得、自動組み立て又はロボット組み立てがしやすくなり得る。膜の孔径定格は、約1,000ダルトンから約1ミクロンの範囲内であるのが好ましいが、他の実施形態においては、孔径定格が約100ダルトン未満から約3ミクロンであり得る。
【0027】
封止された単回使用TFFカセット
本開示内の実施形態の一群は、事前に組み立てられた単回使用照射TFFカセットシステムに関するものであり、これまでエンドユーザーが別途用意して組み立てていたエンドプレート及び/又はガスケット構造を内蔵している点が、既存のシステムとは違なる。本明細書に記載されている実施形態は、クローズドシステムであり、使用前の少なくとも1つのユーザー組立てステップ、及び/又は使用後の少なくとも1つの分解ステップがないという利点がある。特に、分解ステップがないことにより、動作時にフィルタによって捕捉された生物有害性物質にエンドユーザーが晒されることが減少し得る。加えて、この設計により、TFFカセットが無菌密閉状態に保たれ、環境から隔離されるため、カセットの汚染を防ぐことができる。
【0028】
図3は、TFFカセット110と、濾板インサート120と、最上位プレート131及び最下位プレート132を備えるクランプ130と、含む標準的なTFFシステム100を表している。最上位プレート131とTFFカセット110との間には、可撓性のある非穿孔性可撓性隔離板111と、流体の流れを収容するための1つ以上のポートを備えるエラストマーガスケット112と、のうちの1つ以上が配設されている。TFFカセット110と濾板インサート120との間には、別のエラストマーガスケット113が配設されている。このシステムでは、エラストマーガスケット112、113及び可撓性隔離板111のそれぞれが、給液流、保持液流、透過液流を確実に分離し、これらの流れをカセット110及び濾板インサート120に閉じ込める。可撓性隔離板111及び/又はエラストマーガスケット112、113が省かれていたり整列していなかったりすると、流体の漏洩及び/又は汚染が生じ得る。重要なのは、カセットの表面にわずかな凹凸があったり、表面が完全に平坦ではなかったりしても、カセットスタックに圧縮力が印加されなければ、可撓性隔離板は封止された状態を保つということである。
【0029】
図4に目を向けると、本開示にかかる例示的なTFFカセット200は、重ね合わせた1~1000枚(例えば、1~10枚、10~100枚、100~250枚など)の膜のスタック210と、交互に配置された給液流路及び濾液流路を画定する流路スペーサ(例えば、感圧接着性材料を備える)と、を含む。任意選択で、給液流路及び/又は濾液流路にスクリーンが配設されている。
【0030】
TFFカセット200の頂部には、カセットを流体的に封止するための可撓性隔離板220が配設されている。可撓性隔離板220は、飽和ゴム、不飽和ゴム、及び/又は熱可塑性エラストマーなどの可撓性ポリマーを備え得、その厚さは、0.005インチから0.250インチ(0.127から6.35mm)の範囲内であり得る。本開示にかかる可撓性隔離板は、TFFカセット200の上側表面の非平坦領域又は凹凸に適合できるだけの可撓性を有し、両要素間をしっかりと封止する。可撓性隔離板220は、流体の通過を制限するために、中実、すなわち非多孔性且つ非穿孔性である。場合によっては、可撓性隔離板220とカセット200との間で接合が生まれ、均一に封止される。この接合は、PSA、熱硬化性接着剤、又は多液性接着剤配合物の使用など、任意の適切な方法で実施され得る。この接合は、可撓性隔離板220自体と同様、カセット200の上側表面の非平坦領域又は凹凸に適合する。
【0031】
底部では、TFFカセット200が、様々な形でガスケット(非図示)に接合するか、濾板とも称される多岐管300に直接接合する。多岐管300は、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン(HDPE)、又はエンジニアリング等級のプラスチックなどを含むがこれらに限定されない、任意の適切なポリマーを使用して製造される。多岐管300は、TFFカセット200の開口レイアウトや封止面に合うように成形又は機械加工される。多岐管は、0.25から4.00インチ(6.35から102mm)厚であり得る。
【0032】
ポリマー製の濾液流路封止材を有するTFFカセット。
本開示の別の態様においては、TFFカセットの濾液流路の一部又は全部に関して、給液材料又は保持液材料による濾液流路の汚染を防ぐために、流路の周辺の少なくとも一部分付近にポリマー(例えば、ウレタン)封止材が、そして給液ポート及び/又は濾液ポート付近にポリマー封止材が組み込まれている。
図5に示すとおり、TFFカセット300の例示的な設計は、フィルタ膜310と、給液流路スペーサ320と、周辺封止材330と、給液流路封止材335と、任意選択の給液流路スクリーン340及び/又は濾液流路スクリーン345を重ね合わせたスタックと、を備える。この配置構成により、給液流路360と濾液流路370とが交互に配置され、濾液流路370が周辺封止材330を含むのに対し、給液流路360には、事前形成の流路スペーサ320が組み込まれている。本開示の本態様にかかるスタックは、(a)濾液流路スクリーン345を2枚のフィルタ膜310で挟み、硬化性ポリマー(例えば、ウレタン)のビードをこのサンドイッチ構造体の周辺に塗布して濾液流路370を形成することによって形成され得る。ポリマービードの浸透を促し、確実な接合を確保するために、任意選択で、サンドイッチ構造体に負圧が印加される。ステップ(b)では、カセットを形成するために、ステップ(a)で形成された給液流路が、供給スペーサ320と、任意選択で給液流路スクリーン340と、を交互に積み重ねて組み立てられる。付加的な仕上げステップは任意選択であり、カセット又はカセットの特徴を識別するためのタブ又は他のマーカーを貼着すること、又は一様な縁部を形成するために、完成したスタックの縁部付近に、(例えば、オーバーモールディング、流し込み、又は現場鋳込み(casting-in-place)によって)ポリマー層を塗布すること、などを含み得る。
【0033】
給液流路スペーサ320は、例えば上記のような感圧接着性材料を介して隣接膜に接合される可撓性又は半剛性の材料で形成されたガスケットを備え得る。この可撓性又は半剛性材料の厚さは、概して0.005から0.060インチ(0.127~1.52mm)の間であるのに対し、PSAの厚さは、0.002から0.005インチ(0.051~0.127mm)であり得る。
【0034】
特定の実施形態においては、周辺封止材330が、ウレタンなどの可撓性ポリマーを備え得、各濾液流路の周辺を封止するように機能し、積層処理中に濾液層の外側又は縁部にウレタンを塗布することによって形成されるか、代替として、積層後に濾液流路にウレタンコートを塗布することによって形成される。給液ポート封止材335は、給液流路の周囲の少なくとも一部分付近にウレタンを(例えば、未硬化のウレタンビードとして)塗布することによって形成され得る。
【0035】
場合によっては、この給液流路が、一方の側ではフィルタ膜310によって形成され、他方の側ではプラスチックシートによって形成される。(非図示)。プラスチックシートの厚さは、0.010~0.030インチ(0.254~0.762mm)であり得る。
【0036】
熱可塑性ポリウレタンによる無菌TFFカセットの包装
無菌TFFカセット製作時の課題の一つは、過酷な滅菌条件に耐え、輸送及び保管中に構造的な一体性を保てる材料でカセットを包むことである。本発明者らは、本開示のカセットの一実施形態を包装することが、封止された包装材を含み得るということを見出した。各種実施形態において、封止された包装材は、単一の層又は複数の層を含み得る。包装材の1つ以上の層は、例えば、熱可塑性ポリウレタン、ポリオレフィン、エチレンビニルアセテート、SBSブロック共重合体、ポリエステルエラストマーなどを備え得る。包装されたシステムであれば、ガンマ線照射によって滅菌することができる。包装には、熱可塑性エラストマーなど複数の材料が選択され得る。包装材の1つ以上の層に使用される材料の質としては、耐摩耗性、低温での可撓性、加水分解及び/若しくは微生物の浸透に対する耐性、並びに/又はそれらの組み合わせなどが挙げられる。例えば、望ましい包装材は、1気圧の液圧に耐えられる材料又は構造、腐食性保存液(0.2M NaOHなど)に耐えられる材料又は構造を備え得る。熱可塑性ポリウレタン材料の1つは、例えば、Covestro LLC(マサチューセッツ州ディアフィールド)より商品化され、Dureflex(登録商標)PT9500の名称で販売されている芳香族ポリエーテルポリウレタンシートである。
【0037】
各種実施形態において、本明細書に記載された材料を備える1枚以上の包装材シートからスリーブが形成され、そのスリーブ内にTFFカセットが配置され得る。ガンマ線照射又は他の適切な手段で包装材内に包まれたTFFカセットを滅菌する前に、スリーブを熱収縮及び/又は封止する目的でスリーブが任意選択的に加熱される。包装材内に包まれた代表的なTFFカセットが、
図6に示されている。
【0038】
結論
本明細書において言及されている出版物、特許、及び特許出願はすべて、個々の出版物、特許、又は特許出願が参照によって組み込まれるものと具体的且つ個別に示されているかのように、その全体が参照によって組み込まれる。矛盾が生じた場合には、本明細書内での定義を含め、本出願が優先される。当業者であれば、慣例的な実験を用いるだけで、本明細書に記載されている具体的な実施形態の等価物を多数認識するか、確認できるであろう。かかる等価物は、以下の請求項によって包含されるものと意図される。
【国際調査報告】