(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-19
(54)【発明の名称】シール要素及びシール要素の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3284 20160101AFI20220112BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20220112BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
F16J15/3284
F16J15/10 G
C09K3/10 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021527923
(86)(22)【出願日】2019-11-19
(85)【翻訳文提出日】2021-06-24
(86)【国際出願番号】 US2019062256
(87)【国際公開番号】W WO2020106745
(87)【国際公開日】2020-05-28
(32)【優先日】2018-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】391028362
【氏名又は名称】ダブリュ.エル.ゴア アンド アソシエイツ,インコーポレイティド
【氏名又は名称原語表記】W.L. GORE & ASSOCIATES, INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】ケビン イー.ダブ
(72)【発明者】
【氏名】スティーブ イー.マイナー
【テーマコード(参考)】
3J040
3J043
4H017
【Fターム(参考)】
3J040EA16
3J040EA27
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3J040FA06
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3J043DA11
4H017AA03
4H017AA04
4H017AA29
4H017AB12
4H017AD06
4H017AE05
(57)【要約】
シール要素及び製造方法を開示する。シール要素は、接触面に対してシールを提供するためのシール面を有する。焼結PTFEフィルムはエラストマー本体に結合され、動的シールに特に適したシール面を画定する。シールフィルムは、潤滑性粒子材料を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接触面に対してシールを提供するためのシール面を有するシール要素であって、該シール要素は、
エラストマー材料を含むエラストマー本体、及び
該エラストマー本体に結合され、そして該シール面を画定する焼結ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルム
を含んでなり、
該フィルムは約25ミクロン~200ミクロンの厚さを有し、かつ、該フィルムは約5質量%~40質量%の潤滑性粒子材料を含む、シール要素。
【請求項2】
前記焼結PTFEフィルムは、スカイブドPTFEフィルム、キャストPTFEフィルム、押出成形PTFEフィルム又は延伸PTFE(ePTFE)フィルムを含む、請求項1記載のシール要素。
【請求項3】
前記焼結PTFEフィルムはePTFEフィルムである、請求項2記載のシール要素。
【請求項4】
前記焼結ePTFEフィルムは二軸延伸されている、請求項3記載のシール要素。
【請求項5】
前記焼結ePTFEフィルムは25%以下の多孔度を有する、請求項3又は4記載のシール要素。
【請求項6】
前記焼結ePTFEフィルムは、前記焼結ePTFEフィルムの細孔内にエラストマー材料が存在する前記エラストマー本体に隣接する浸透領域と、前記シール面に隣接する非浸透領域とを含む、請求項3~5のいずれか1項記載のシール要素。
【請求項7】
前記シール要素は多層ラミネートを含み、該多層ラミネートは前記シール面を画定する前記焼結PTFEフィルムと、少なくとも1つの中間層とを含む、請求項1~6のいずれか1項記載のシール要素。
【請求項8】
前記多層ラミネートは、前記シール面を画定する前記焼結PTFE層と、少なくとも1つの中間PTFE層とを含む、請求項9記載のシール要素。
【請求項9】
前記多層ラミネートは、前記エラストマー本体に隣接する多孔質PTFE中間層を含む、請求項8記載のシール要素。
【請求項10】
前記多孔質PTFE中間層は、エラストマー材料が細孔内に存在している浸透領域であって、前記多孔質PTFE中間層の厚さを通して少なくとも部分的に延在している浸透領域を含む、請求項9記載のシール要素。
【請求項11】
前記多孔質PTFE中間層はePTFEフィルムである、請求項8又は9記載のシール要素。
【請求項12】
前記多層ラミネートは少なくとも1つの中間熱可塑性層を含む、請求項7~11のいずれか1項記載のシール要素。
【請求項13】
前記シール面を画定する前記焼結PTFEフィルム及び中間フィルム層又は各中間フィルム層の厚さは合計で約30~250ミクロンである、請求項7~12のいずれか1項記載のシール要素。
【請求項14】
前記シール面を画定する前記焼結PTFEフィルムは前記潤滑性粒子材料を含み、前記中間フィルム層又は各中間フィルム層は粒子材料を欠いている、請求項7~13のいずれか1項記載のシール要素。
【請求項15】
前記シール面を画定する前記焼結ePTFEフィルムは少なくとも部分的に高密度化されている、請求項3、又は、請求項3に従属する場合の請求項4~14のいずれか1項記載のシール要素。
【請求項16】
前記焼結PTFEフィルムは前記エラストマー本体の外面の一部又は全体に結合されている、先行の請求項のいずれか1項記載のシール要素。
【請求項17】
前記エラストマー本体は、天然ゴム(ポリイソプレン)、ブタジエン、エチレンプロピレン(EPR又はEPM)、エチレンプロピレンジエン(EPDR又はEPDM)、スチレン-ブタジエン(SBR)、イソブテン、ウレタン、アクリル又はニトリル(アクリロニトリル-ブタジエン、すなわち、ABR)、ハロゲン化ニトリル、クロロプレンなどのクロロエラストマー、ペルフルオロエラストマー、フルオロエラストマー、シリコーン、フルオロシリコーン、エピクロロヒドリンゴム、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、エチレンビニルアセテート(EVA)から選ばれる1つ以上のエラストマー材料を含む、請求項1~16のいずれか1項記載のシール要素。
【請求項18】
前記シール面は、0.5未満、0.4未満又は0.3未満の動摩擦係数を有する、請求項1~17のいずれか1項記載のシール要素。
【請求項19】
前記潤滑性粒子材料は粉末形態又はマイクロ繊維形態で提供されるか、又は、前記潤滑性粒子材料はマイクロ粒子を含む、請求項1~18のいずれか1項記載のシール要素。
【請求項20】
前記潤滑性粒子材料はナノ粒子の形態である、請求項1~19のいずれか1項記載のシール要素。
【請求項21】
前記潤滑性粒子材料は、炭素系成分を含む、又は、炭素系成分からなる、請求項1~20のいずれか1項記載のシール要素。
【請求項22】
前記潤滑性粒子材料はグラファイトから本質的になる、請求項21記載のシール要素。
【請求項23】
前記潤滑性粒子材料は、グラファイトと1つ以上の粒子炭素系成分との混合物から本質的になる、請求項21記載のシール要素。
【請求項24】
前記潤滑性粒子材料は1つ以上の潤滑性鉱物を含む、請求項1~23のいずれか1項記載のシール要素。
【請求項25】
前記1つ以上の潤滑性鉱物はタルク、粘土、層状硫化物又は無機ポリマーから選ばれる、請求項24記載のシール要素。
【請求項26】
前記焼結PTFEフィルムは、前記潤滑性粒子材料及び少なくとも1つの追加の粒子又は繊維材料を含む、請求項1~25のいずれか1項記載のシール要素。
【請求項27】
前記焼結PTFEフィルムのシール面に対して垂直に測定した炭素(C):フッ素(F)比(C:F)/前記焼結PTFEフィルムの厚さに対して垂直に測定したC:F比の比率が0.8以下、0.7以下又は0.6以下である、請求項21~23のいずれか1項記載のシール要素。
【請求項28】
前記シール要素は、液圧ポンプ、バルブ、熱管理モジュール、トランスミッション、ギアボックス、エンジン、モータ、コンプレッサ、液圧シリンダ又は空気圧シリンダ用のシールである、請求項1~27のいずれか1項記載のシール要素。
【請求項29】
シール要素の製造に使用するための焼結ePTFEフィルムであって、該ePTFEフィルムは約5質量%~40質量%の潤滑性粒子材料を含み、約25ミクロン~700ミクロンの厚さを有する、焼結ePTFEフィルム。
【請求項30】
前記ePTFEフィルムは二軸延伸されている、請求項29記載のePTFEフィルム。
【請求項31】
前記潤滑性粒子材料は、グラファイトから本質的になり、又は、グラファイトと1つ以上の粒子炭素系成分との混合物から本質的になる、請求項29又は30記載のePTFEフィルム。
【請求項32】
破断点伸び率が50%超、100%超、125%超である、請求項29~31のいずれか1項記載のePTFEフィルム。
【請求項33】
請求項29~32のいずれか1項記載のePTFEフィルムと、少なくとも1つのさらなるフィルム層とを含む、多層ラミネート。
【請求項34】
345kPaの荷重及び34rpmの回転速度の下でステンレス鋼のスラストベアリングを使用してASTM D 3702に従って測定して、0.1ミクロン/時未満、又は0.07ミクロン/時未満、又は0.05ミクロン/時未満の摩耗速度を有する、請求項1~28のいずれか1項記載のシール要素、又は、請求項29~33のいずれか1項記載のePTFEフィルム。
【請求項35】
エラストマー本体と、接触面に対してシールを提供するためのシール面とを有するシール要素を製造する方法であって、該方法は、
約5質量%~40質量%の潤滑性粒子材料を含む焼結PTFEフィルムを提供すること、
該焼結PTFEフィルムを、モールドキャビティの表面の少なくとも一部の上に配置すること、及び
該モールドキャビティにエラストマー材料を導入して該焼結PTFEフィルムをオーバーモールドし、シール要素を形成すること
を含んでなり、該焼結PTFEフィルムは、該エラストマー本体に結合され、かつ、約25~200ミクロンの厚さを有し、さらに該焼結PTFEフィルムは該シール面を画定する、方法。
【請求項36】
エラストマー本体と、接触面に対してシールを提供するためのシール面とを有するシール要素を製造する方法であって、該方法は、
約5質量%~40質量%の潤滑性粒子材料を含む焼結PTFEフィルムと、少なくとも1つのさらなるフィルム層とを含む多層ラミネートを提供すること、
該焼結PTFEフィルムがモールドキャビティの表面に面する状態で、モールドキャビティの表面の少なくとも一部の上に該多層ラミネートを配置すること、及び
該モールドキャビティにエラストマー材料を導入して該多層ラミネートをオーバーモールドし、シール要素を形成すること
を含んでなり、該多層ラミネートは該エラストマー本体に結合され、そして該焼結PTFEフィルムは該シール面を画定し、かつ、約25~200ミクロンの厚さを有する、
を含む、方法。
【請求項37】
前記焼結PTFEフィルムは焼結ePTFEフィルムであり、オーバーモールド前の前記焼結ePTFEフィルムの厚さは約25~700ミクロンであり、オーバーモールド中に、前記ePTFEフィルムは少なくとも部分的に高密度化され、それにより、前記シール要素のシール層を画定する前記焼結ePTFEフィルムの厚さは約25~200ミクロンである、請求項35又は36記載の方法。
【請求項38】
前記焼結PTFEフィルム又は前記多層ラミネートはガス透過性である、請求項35~37のいずれか1項記載の方法。
【請求項39】
成形中、及び/又は、本体のエラストマー材料の硬化又は乾燥中に、前記焼結PTFEフィルム又は多層ラミネートを通してガスを流すことを含む、請求項38記載の方法。
【請求項40】
前記焼結PTFEフィルムは多孔性であり、及び/又は、前記多層ラミネートは、モールド又はキャビティに面する多孔性表面を提供し、該方法は、オーバーモールド中に前記エラストマー材料を細孔に浸透させて、前記エラストマー本体に隣接する浸透領域を形成することを含む、請求項35~39のいずれか1項記載の方法。
【請求項41】
請求項35~40のいずれか1項記載の方法により得られるシール要素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン及びエラストマーを含むシール、特に動的シール、ならびにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動的シールは、しばしば、ポンプ、回転シャフト、バルブなどの機械システムの可動部品間で必要とされる。シール材は、シールの一方の側から他方の側への流体流を妨げ又は防止することができなければならないだけでなく、適切な耐用寿命の間、対向表面に過度の摩耗を引き起こすことなく、そうする必要がある。多くの用途では、可動部品間の摩擦損失も望ましくない。
【0003】
例えば、自動車産業において、摩擦による寄生エネルギー損失を減らし、車両の燃料効率を改善することが望ましい。これは、典型的に、冷却システム、燃料システム及び潤滑システムのポンプ及びバルブ内に見られるような可動又は回転部品の間にエラストマー動的シールが必要な場合に、これらの用途で使用されるエラストマーの生来的に高い表面摩擦のために、特に困難になる可能性がある。
【0004】
1つのアプローチは、エラストマー材料を比較的滑らかな材料と組み合わせて使用することであった。
【0005】
米国特許第4,133,927号明細書(Tomoda)は、ゴム及び多孔質PTFE層の複合体について記載しており、これらは摩擦抵抗が低く、シーリング材料、ベルト、バルブ、ポンプなどの潜在的な用途について記載している。Tomodaは、PTFEフォームをスカイブする(削る)ことにより得られるフィルム又は一軸延伸PTFE材料であるPTFE「ペーパ」の形でのPTFEの使用について記載している。
【0006】
シール材料におけるPTFEポリマーの使用は、例えば、米国特許第3,644,916号明細書(ゴア)に基づいて、1970年代から知られている。ゴアは、ePTFEテープのフィブリル構造、未延伸形態のPTFEに比べて比重が低いこと及びePTFEテープを製造するための処理温度、圧力及び延伸手順について記載している。フィブリル構造は米国特許第3,315,020号明細書に記載されており、焼結は米国特許第3,002,770号明細書に記載されており、PTFEの焼結温度は620°F又は326.7℃であり、その温度で、PTFEは結晶状態から非晶状態に変化する。ゴアはさらに、PTFEが周囲条件下で延伸すると、張力から解放されたときに弾性的に反応することを記載しており、それゆえ、200℃を超えるが、342℃未満、好ましくは約300℃までで二軸又は一軸の延伸/張力下で加熱するように指導している。
【0007】
米国特許第7,658,387号明細書(パーク)は、加硫エラストマー材料と、その中に分散されたPTFEなどのフィラー粉末とを含む加工可能なゴムから形成された動的シールを記載している。場合により、1以上のさらなる機能性充填剤が含まれてもよい。
【0008】
PTFEでコーティングされたエラストマー物品は以前から知られているが、それらは、PTFEをエラストマーに結合するのが困難であることを伴う。さらに、PTFEでコーティングされたエラストマーは、一般に、ポンプ、エンジンなどの高摩耗性動的シール用途に関連しない。
【0009】
したがって、特に動的シール用途で使用するための、改良されたシールが依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
本発明の第一の態様によれば、接触面に対してシールを提供するためのシール面を有するシール要素であって、該シール要素は、
エラストマー材料を含むエラストマー本体、及び
該エラストマー本体に結合され、該シール面を画定している焼結ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルム
を含んでなり、
該フィルムは約25ミクロン~200ミクロンの厚さを有し、かつ、該フィルムは約5質量%~40質量%の潤滑性粒子材料を含む、シール要素が提供される。
【0011】
使用中、接触面とシール面との間に圧力が加えられると、シール要素は、シール要素と接触面との間の流体の通過を制限又は遮断する。
【0012】
焼結PTFEフィルムの厚さは約25μm~150μm、約25μm~100μm、約25μm~75μm又は約35μm~75μmであることができる。
【0013】
シール要素は、シール面での動摩擦係数(CoF)が、エラストマー材料の動摩擦係数よりも有意に低い。シール面の低い摩擦係数はフィルムによって提供される。シール面の動摩擦係数は、シール要素の寿命の間、好ましくは0.5未満、より好ましくは0.4未満、最も好ましくは0.3未満である。シールの寿命の間、シール面で低いCoFを提供するために、フィルムは摩耗及びアブレーションに耐性があり、シール面に沿ったフィルム層がゴム本体まで完全に摩耗されることはない。潤滑性材料をPTFEフィルムに組み込むことで、シール面の低摩擦特性を過度に損なうことなく、シール要素の摩耗寿命が有意に延びる。これは、動的シール用途で特に役立つ。
【0014】
焼結PTFEフィルムは十分に薄く、柔軟性があり、必要なシール性を提供する。
【0015】
焼結PTFEフィルムは、必要なシール面の形状及び形態に適合し、エラストマー本体とともに変形することができる。この特性は「成形性」と呼ばれることがあり、すなわち、フィルムを事前に成形することなく、ゴム成形プロセス中に成形品の形状に合わせてフィルムを加工又は成形する能力である。
【0016】
焼結PTFEフィルムは、シール面と同じサイズであってもよいし、シール面を超えて延在していてもよい。すなわち、焼結PTFEフィルムの一部がシール面を画定していてもよいし、又は、焼結PTFEフィルム全体がシール面を画定していてもよい。
【0017】
焼結PTFEフィルムの厚さは、(シール面に垂直なシールフィルムを通した)シール要素の断面のSEM画像から、外面と隣接層又は材料の境界との間の、焼結PTFEフィルムの外面に垂直な距離として測定することができる。
【0018】
前記焼結PTFEフィルムがエラストマー本体に直接結合されている場合に、厚さは、フィルムの外面から焼結PTFEフィルムと本体のエラストマー材料との間の境界までの距離である。前記焼結PTFEフィルムが1つ以上の中間層又は材料(接着剤など)によってエラストマー本体に結合されている場合に、厚さは、焼結PTFEフィルムの外面と、焼結PTFEフィルムと隣接中間層又は材料との境界との距離である。
【0019】
フィルム自体の製造方法及び/又はシール要素の製造方法の結果のいずれかとして、本明細書に開示される焼結PTFEフィルムの厚さにある程度の変動がありうることを理解すべきである。フィルム厚の標準偏差は、平均(mean)厚さの約1~2%という低いものから、平均厚さの約10%、15%、20%又は25%まで様々であることができる。
【0020】
したがって、焼結PTFEフィルムの厚さは、少なくとも500倍のSEM画像から得られた少なくとも10回の測定値から計算された平均厚さであることができる。
【0021】
シール面を画定する焼結PTFEフィルムは、潤滑性粒子材料の分散体を含むことができる。例えば、フィルムは、潤滑性粒子材料とPTFE粉末とを均一に混合し、混合物を圧縮又は押出することにより得られるPTFE材料から形成することができる。
【0022】
シール面を画定するPTFEフィルム中の潤滑性粒子材料の量は既知の分析方法によって決定することができる。
【0023】
使用されうる1つの方法は、以下で詳細に説明するように、シール要素の断面のエネルギー分散型X線分光画像化(EDS画像化)である。
【0024】
別の既知の方法は、PTFEフィルム中の潤滑性粒子材料の量を決定するために、TGA法(熱重量分析)を使用することができる。当業者は他の方法を使用することができる。
【0025】
シール面を画定する焼結PTFEフィルムは、約10質量%~40質量%、約10質量%~30質量%又は約10質量%~20質量%の潤滑性粒子材料を含むことができる。
【0026】
潤滑性粒子材料は、シール面を画定する焼結PTFEフィルム全体に均一に分布することができる。
【0027】
潤滑性粒子材料は、シール面を画定する焼結PTFEフィルムの厚さ全体に、ある程度不均一に分布することができる。
【0028】
幾つかの実施形態において、焼結PTFEフィルムの厚さのわずかな部分を通って延在する焼結PTFEフィルムの表面領域は、フィルムの厚さの残りの大部分を通して存在するよりも少ない割合の潤滑性粒子材料を含むことができる。そのわずかな部分は、5ミクロン未満又は2ミクロン未満、又は、1ミクロン未満又はその付近であることができる。
【0029】
言い換えれば、シール面は、幾つかの実施形態において、前記フィルムの厚さ全体に存在するよりも少ない割合の潤滑性粒子材料を含むことができる。
【0030】
前記不均一な分布は、例えば、シール面を画定する焼結PTFEフィルムの断面を撮影したEDS画像と比較した、シール面のEDS画像の比較から明らかであることができる。
【0031】
フィルムの厚さ全体にわたる潤滑性粒子材料の割合に対するシール面での潤滑性粒子材料の割合の比率は、シール面に対して垂直に測定される炭素とフッ素の比(C:F)の、焼結PTFEフィルムの厚さを通して測定されるC:Fに対する比率によって決定することができる。
【0032】
C:F比の比は、0.8以下、0.7以下又は0.6以下であってよい。
【0033】
したがって、本発明は、接触面に対してシールを提供するためのシール面を有するシール要素に及び、該シール要素は、
エラストマー材料を含むエラストマー本体、及び
該エラストマー本体に結合され、該シール面を画定する焼結ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルム
を含んでなり、
該フィルムは約25ミクロン~200ミクロンの厚さを有し、該焼結PTFEフィルムのシール面に対して垂直に測定された炭素(C):フッ素(F)比の、焼結PTFEフィルムの厚さに垂直に測定されたC:F比に対する比は0.8以下、0.7以下、0.6以下である。
【0034】
逆に、幾つかの実施形態では、焼結PTFEフィルムの厚さのわずかな部分を通って延在する焼結PTFEフィルムの表面領域は、フィルムの厚さの残りの大部分を通して存在するよりも高い割合の潤滑性粒子材料を含むことができる。C:F比の比は、例えば、0.6以上、0.7以上又は0.8以上であることができる。
【0035】
シール要素の焼結PTFEフィルム内の潤滑性粒子材料の分布に関係なく、シール要素は、潤滑性粒子材料の別の分布(例えば、その均一な分散体)を有する焼結PTFEフィルム又はPTFEフィルムから製造することができる。幾つかの実施形態において、シール要素が作られるPTFEフィルムは、約5質量%~40質量%の範囲の潤滑性粒子材料を含む。したがって、本発明は、接触面に対してシールを提供するためのシール面を有するシール要素に及び、該シール要素は、
エラストマー材料を含むエラストマー本体、及び
該エラストマー本体に結合され、該シール面を画定する焼結ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルム
を含んでなり、該フィルムは約25ミクロン~200ミクロンの厚さを有し、該フィルムは約5質量%~40質量%、又は、5質量%~25質量%の潤滑性粒子材料を含むPTFE材料から形成される。
【0036】
「から形成される」とは、後に本体に結合されるPTFEフィルムを作るために使用される出発材料を指す。
【0037】
シール面を画定する焼結PTFEフィルムは、スカイブドPTFE(すなわち、PTFE材料からスライスされたフィルム)、キャストPTFE、延伸PTFE又は押出成形PTFE(例えば、PTFEテープ)を含むことができる。
【0038】
シール面を画定する焼結PTFEフィルムは延伸PTFE(ePTFE)フィルムであることができる。
【0039】
シール面を画定する焼結ePTFEフィルムは一軸又は二軸延伸されうる。
【0040】
ePTFEフィルム又は膜は、相互接続されたノード及びフィブリルの多孔質微細構造を含むことができる。細孔は、ノードとフィブリルの間に画定される。
【0041】
シール面を画定する焼結ePTFEフィルムは25%以下の多孔度を備える。
【0042】
実施形態において、多孔度は20%、15%又は12%以下である。1つの実施形態において、多孔度は20%未満である。
【0043】
当該技術分野で知られており、ゴアで開示されているように、ePTFEは、(実質的に非多孔質の)PTFEテープ又はフィルムを、PTFEの結晶融解温度未満で一方向又は二方向に延伸することによって形成することができる(延伸は典型的には摂氏約250℃で行われる)。各延伸方向で複数の延伸工程を行うことができる。物理的特性は、温度及び/又は延伸工程の速度、ならびに延伸工程の全体量及び延伸工程の数を変化させることによって調整することができる。
【0044】
ePTFE材料は、膜又はフィルムの寸法を維持しながら、PTFEの結晶融解温度(約327℃)を超える温度で加熱することによって「焼結」(非晶ロッキングとしても知られている)することができる。結果として生じる相変化により、ノード及びフィブリルが形成されるPTFEの密度が増加するが、全体の多孔質微細構造は実質的に変化しない。
【0045】
焼結PTFEは、示差走査熱量計(DSC)の機器モデルQ2000で測定して、結晶融解温度が約327℃であることを特徴とする。未焼結PTFEは結晶融点が約345℃である。DSC Q2000は、10℃/分の温度上昇速度で動作する。スキャンは、吸熱ピークが約345℃から、サンプルが「焼結」したものと考えられる325℃に20℃近く低下したことを示す。
【0046】
焼結は、ePTFEの強度の増加に関連しうる。焼結により、フィルムの耐摩耗性が向上することができる。
【0047】
焼結によりフィルムの摩耗寿命が有意に延びる可能性があるが、シール面の低摩擦特性が過度に損なわれることはない。これは、動的シール用途で特に役立つ。
【0048】
シール面を画定する焼結PTFEフィルムの少なくとも1つの表面は多孔質であることができる。
【0049】
焼結PTFEフィルム(例えば、スカイブド、キャスト又は押出成形フィルム)の表面は、レーザ又は化学エッチングなどによって、多孔性を提供するために処理されてもよい。このような処理は、焼結前又は焼結後に行うことができる。又は、上記のように、フィルムはePTFEを含むことができる。
【0050】
多孔質表面は、フィルムと、隣接する材料、例えば接着剤又はエラストマー本体の材料との間の結合を助けることができる。多孔質フィルム表面は、結合可能な表面を提供することができる。すなわち、多孔質表面は、エラストマー本体への接着のための向上した親和性を備える。幾つかの実施形態において、接着剤は細孔に浸透し、それにより接着性を改善することができる。
【0051】
幾つかの実施形態において、本体のエラストマー材料は細孔に浸透することができる。
【0052】
多孔質PTFEフィルムは、フィルムの成形及び適合特性を改善することができる。
【0053】
シール面は、例えば、シール面を画定する焼結ePTFEを含む実施形態において、多孔質であることができる。シール面の多孔度は、PTFEフィルムの低CoF特性を達成するために、最小にするか又は無孔に近いものとすることができる。
【0054】
シール面を画定する焼結ePTFEフィルムは、例えば、約10%~30%の範囲の多孔度及び約0.15~0.4のCoFを有することができる。多孔度は約18又は20~25%であることができ、CoFは約0.18~0.33であることができる。多孔度は約10~15%であることができ、CoFは約0.18~0.27又は0.18~0.22であることができる。
【0055】
焼結ePTFEフィルムを含む実施形態において(シール面を画定し及び/又はエラストマー本体に隣接して、例えば、以下でさらに詳細に議論される中間フィルム又は膜を含む実施形態において)、エラストマー材料(又は場合によっては接着剤)は、フィルムの厚さを部分的に浸透することができ、すなわち、フィルムは、ePTFEフィルムの細孔内にエラストマー材料が存在するエラストマー本体に隣接する浸透領域と、シール面に隣接する非浸透領域を含むことができる。エラストマー材料又は接着剤は、5~10ミクロン又は1~10ミクロン又は1~5ミクロンの深さまで浸透することができ、フィルムの厚さの大部分は浸透されていない。フィルム自体の厚さと同様に、浸透の深さは前記フィルム全体で変化しうることが理解されるであろう。
【0056】
シール要素は、シール表面を画定する焼結PTFEフィルムとエラストマー本体との間に少なくとも1つの中間層を含むことができる。
【0057】
シール要素は、少なくとも1つの中間熱可塑性層を含むことができる。熱可塑性層は、FEP、PFA PVDF又は同様の材料を含むことができる。
【0058】
シール要素は中間接着剤層を含むことができる。接着剤層は、シリコーン又はエラストマー材料などの柔軟な接着剤の層から形成することができる(本体の組成物と同じか又は異なる組成物であることができる)。典型的には、接着剤は、シール要素の製造中に加熱及び/又は圧縮されたときに、隣接する層の任意の孔に浸透できるように、流動可能な形態 (例えば、未硬化又は部分硬化又は溶媒などと混合されている)で塗布される。
【0059】
シール層を画定する焼結PTFEフィルム及び中間層又は各中間層の厚さは、合わせて、約30~250ミクロン、約30~100又は約30~80ミクロン又は約30~50ミクロン又は約50~150ミクロンであることができる。
【0060】
例えば、幾つかの実施形態において、シール要素は多層ラミネートを含むことができ、該多層ラミネートは、シール表面を画定する焼結PTFEフィルム及び少なくとも1つの中間層を含む。
【0061】
シール面を画定する焼結PTFEフィルム自体が多層ラミネートであることができる。
【0062】
シール面を画定する焼結PTFEフィルム、及び、少なくとも1つの中間層は、同じであっても又は異なっていてもよい。実際、シール要素は、複数の中間層、及び、場合により、複数のタイプの中間層を含むことができる。
【0063】
多層ラミネートは、シール面を画定する焼結PTFEフィルムと、エラストマー本体に隣接する多孔質PTFE(例えば、ePTFE)中間フィルム層とを含むことができる。多孔質PTFE中間フィルム層は、エラストマー材料が細孔内に存在する浸透領域を有することができ、その浸透領域は、中間フィルム層の厚さを通して少なくとも部分的に延在していることができる。
【0064】
例えば、シール要素は、天然中間ePTFEフィルム層などの粒子材料又はフィラーを欠いている中間PTFEフィルム層を含むことができる。少なくとも1つの中間ePTFEフィルム層は、焼結されていても又は焼結されていなくてもよく、シール面を画定する焼結ePTFEフィルムとは異なる多孔度、厚さ、密度及び/又は平均細孔サイズを有することができる。
【0065】
例えば、シール面を画定する焼結ePTFEフィルムは、動的シールに適切なシール面を提供する目的で、より高い密度及び/又はより低い平均細孔サイズを有することができる。一方、少なくとも1つの中間ePTFEフィルム層は、使用中に、エラストマー本体に結合するために、より大きな平均細孔サイズ及び/又はより低い密度を有することができる。
【0066】
シール面を画定する焼結PTFEフィルム及び前記中間層は、熱及び/又は圧力の作用下で互いに融着されてもよい。接着剤を使用して、多層ラミネートのフィルムを結合することもできる。
【0067】
焼結PTFEフィルムは、(エラストマー本体への結合前又は結合中に)さらなるフィルム層とラミネート化されうる。焼結PTFEフィルムは、シール面を提供するように構成されることができ、さらなるフィルム層は、エラストマー本体に強力な結合性を提供するための中間フィルム層として構成されることができる。
【0068】
存在するePTFEフィルムの多孔度は、特定の要件に従って選択できる。例えば、最終的にシール面を画定する焼結PTFEフィルムは25%未満の多孔度を有するが、エラストマー本体に結合層を形成するために、25%を超える多孔度を有するePTFEフィルムを使用することができる。製造前の各フィルムの多孔度は有意に高く、例えば約75%、80%又は85%以上であることができ、シール要素の所望の多孔度を提供するように選択できることを理解されたい。
【0069】
存在するePTFEフィルムの細孔サイズも、特定の要件に応じて選択できる。例えば、より大きな平均細孔サイズは、接着剤又はエラストマーの浸透を促進し、エラストマー本体に結合するために必要とされることがある。
【0070】
例えば、幾つかの高摩耗用途では、シール面を比較的高密度のPTFE又はePTFE材料(すなわち、約0.6又は0.7g/cm3以上、約1.5g/cm3以下又は約1.0g/cm3)で規定することが望ましいことがある。密度が高くなると、多孔度が低下する。
【0071】
一方、エラストマー本体に隣接する低密度(例えば、約0.5g/cm3未満)のePTFE膜は、エラストマー材料の細孔内への浸透を促進することができる。
【0072】
中間ePTFEフィルム層などの多孔質中間フィルム層は、一般的に上記のように浸透領域及び非浸透領域を含むことができ、又は、幾つかの実施形態において、場合によっては、中間ePTFEフィルム層の実質的にすべてにエラストマー材料又は接着剤を浸透させることができる。
【0073】
エラストマー材料は、シール要素の製造中に、ePTFEフィルムの細孔にある程度不均一に浸透することができることを理解されたい。さらに、ePTFE自体の厚さは、上で論じたように、フィルム全体で少なくともある程度まで変動することができる。このように、フィルムの厚さの割合としての厚さ浸透領域は変化しうる。さらに、エラストマー材料の浸透度(細孔の充填割合を意味する)は、深さとともに減少することができる。
【0074】
さらに、本明細書に開示されるように、エラストマー材料は複数の成分を含むことができ、各成分の膜への浸透速度はある程度異なることができる。エラストマー材料は、前駆体配合物として前記ePTFEフィルムと組み合わせることができる。前駆体配合物は、未硬化である又は部分硬化された形態のエラストマー材料を含むことができ、及び/又はその1つ以上の成分は懸濁液又は溶液として存在しうる。多孔質ePTFE微細構造への成分の拡散又は流れの速度は様々であることができる。さらに、複数の成分を含むエラストマー材料の溶融物の各成分の拡散又は流れの速度は様々であることができる。したがって、浸透領域のエラストマー材料内に組成勾配が存在することができ、結果として生じる組成勾配はエラストマー本体内にまで延在することができる。
【0075】
ePTFEフィルム(又は複数のフィルム)を有する実施形態において、ePTFEフィルム又は各ePTFEフィルムは、少なくとも部分的に高密度化されていることができる。
【0076】
高密度化は、圧縮及び場合によっては高温の影響下で、ePTFEの多孔質微細構造が少なくとも部分的に崩壊されるプロセスである。部分的な高密度化は、製造中に、例えば、射出成形又は圧縮成形及び/又はラミネート化中に発生することがある。
【0077】
高密度化は、ePTFEの多孔度の減少に関連しており、そしてePTFEフィルムの場合に、出発材料と比較した厚さの減少と相関している。
【0078】
高密度化は、浸透領域よりもePTFEフィルム又は層の非浸透領域で大きくなりうる。浸透領域は、幾つかの実施形態において、実質的に高密度化されなくてよい(すなわち、多孔質微細構造は、一般に、浸透前の膜と比較して変化されなくてよい)。
【0079】
シール面を画定する焼結PTFEフィルムがePTFEである場合に、高密度化は、シール面を画定する焼結ePTFEフィルムの厚さを通して、一般に、シール面からの距離とともに減少する。
【0080】
部分的に高密度化されたePTFEフィルムは、幾らかの残留多孔度を保持することができる(例えば、優先流路を介して)。これにより、製造中に生成されたガスがシール面を介して漏れる可能性がある。このようなガスは、成形中にエラストマー材料(又はその前駆体)のフローフロントによって置換される可能性があり、硬化反応中に発生される可能性があり、及び/又は、溶媒又は他の揮発性成分はエラストマー材料の硬化中、凝固中又は乾燥中に蒸発する可能性がある。シール面を介した(すなわち、シール面を画定する焼結PTFEフィルム、及び、場合により、1つ以上のさらなるePTFE中間フィルム層を介した)そのようなガスの逃がしは、シール面での気泡の形成を回避又は少なくとも制限するのに役立つことができる。シールの表面の平面性及び/又は平滑性を維持することは別として、この透過性は、結果として生じる機械的特性の脆弱性及び損失を回避することができる。
【0081】
シール面を画定するePTFEフィルム、特に焼結ePTFEフィルムの全体的な高密度化は、約60%、70%、75%又は80%であることができる(シール要素の製造前からの膜厚の変化によって測定)。
【0082】
部分的に高密度化されたePTFEは残留多孔度が25%未満であることができる。
【0083】
シール要素は、Oリング、Oリングボスシール、ピストンリング、ダイヤフラムシール、ワイパーシール、又は、シートガスケット、カムプロファイルガスケット (すなわち、溝付き金属又は鋸歯状ガスケット)、フィッシュボーンガスケット、フランジガスケットなどのガスケットなどの動的シール又は静的シールを含む、様々なシールの形成に使用することができる。
【0084】
シール要素は、液圧ポンプ、バルブ、熱管理モジュール、トランスミッション、ギアボックス、エンジン、モータ、コンプレッサ、液圧シリンダ又は空気圧シリンダなどのシールとして使用することができる。
【0085】
シール要素は、任意の適切な形状又は形態のシール面を含むことができ、湾曲した(外湾又は内湾した)領域及び/又は平坦な領域を含むことができる。シール面は連続的又は非連続的であることができる。
【0086】
シール要素は、2つ以上又は複数のシール面を含むことができる。
【0087】
シールフィルムは、エラストマー本体の外面の一部又は全体に結合することができる。
【0088】
シール要素は、動的シールの形成に使用することができる。つまり、使用中、接触面はシール面に対してスライドする。弁座と弁部材との間などの機構の可動部品の間、又は、流体ポンプ内などの回転部品の間に動的シールを設けることができる。動的シールは、接触面の過度の摩耗を引き起こすことなく、機械部品間の移動を可能にするのに十分に低い摩擦性であるが、さらに、注目の部品に適切な摩耗寿命、数か月又は幾つかの場合にはさらには数年であることができる摩耗寿命を有するシール面を備えなければならない。
【0089】
シール要素は、その質量の大部分をエラストマー本体、特に少なくとも75質量%、少なくとも85質量%又は少なくとも95質量%のエラストマー本体として有し、残りの質量はシール面を画定する焼結PTFEフィルム、及び、場合により、1つ以上の中間フィルム層とすることができる。
【0090】
エラストマー材料の主成分はまた、一般に、1つ以上のエラストマーから構成される。1つ以上のエラストマーは、エラストマー材料の80質量%超、90質量%超又は95質量%超を構成することができる。衝撃強度、引張強度、剪断抵抗、剪断弾性率及び/又は他の機械的特性を変更するための充填剤、耐薬品性を変更するための添加剤及び/又はコーティングなど、ならびに、当該技術分野で知られているような着色剤及び/又は質量調節剤として、他の成分も少量の成分としてエラストマー材料に存在することもできる。
【0091】
エラストマー材料は、熱可塑性又は架橋(硬化)エラストマーを含む、任意の適切な1つ以上のエラストマーを含むことができる。エラストマー材料は、不飽和ベースポリマー、飽和ベースポリマー又はその両方を含むことができ、硫黄又は非硫黄架橋剤で加硫することができる。適切なエラストマーの例としては、単独又は組み合わせで、天然ゴム(ポリイソプレン)、ブタジエン、エチレンプロピレン(EPR又はEPM)、エチレンプロピレンジエン(EPDR又はEPDM)、スチレンブタジエン(SBR)、イソブテン、ウレタン、アクリル又はニトリル(アクリロニトリル-ブタジエン、すなわちABR)、ハロゲン化ニトリル、クロロプレンなどのクロロエラストマー、(ペル)フルオロエラストマー、シリコーン、フルオロシリコーン、エピクロロヒドリンゴム、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、エチレン-ビニルアセテート(EVA)などが挙げられる。
【0092】
潤滑性粒子材料は、粉末の形態又はマイクロ繊維の形態で提供されうる(これにより、繊維の長さに横断してマイクロスケール寸法を有するが、必ずしも繊維の長さに沿ってマイクロスケール寸法を有するわけではない繊維が含まれる)。潤滑性粒子材料は、マイクロ粒子及び/又はナノ粒子を含むことができる(これらの用語は、それらの通常のIUPAC定義に従って使用される)。
【0093】
潤滑性粒子材料は、約5μm~20μmの粒子サイズを有することができる。グラファイト粒子材料の実施形態において、粒子サイズは、約6.5μm~19μmであることができる。
【0094】
潤滑性粒子材料は、グラファイト、チャコール、カーボンブラック(不完全燃焼又は熱分解などの炭化プロセスから形成される煤状材料)などの炭素系成分、又は、木材、バイオマス、プラスチックなどの合成又は天然有機材料の炭化から形成される、任意の他の適切な粒子炭素系成分を含むことができる。
【0095】
潤滑性材料は、グラファイトから本質的になり、又は、グラファイトと1つ以上の粒子炭素系成分との混合物から本質的になることができる。
【0096】
潤滑性粒子材料は、タルク、クレーなどの潤滑性鉱物、又は、層状硫化物成分(例えば、MoS2)などの任意の他の適切な無機成分、又は、ポリシリケート又はポリアルミネート成分などの無機ポリマー成分を含むことができる。
【0097】
潤滑性材料は、1つ以上のそのような成分を含むことができる。
【0098】
1つの実施形態において、焼結PTFEフィルムは、潤滑性粒子材料及び少なくとも1つの追加の粒子又は繊維材料を含む。追加の粒子又は繊維材料は、ガラス繊維、ガラス粉末、シリカ、二酸化チタン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)を含む群から選択することができる。
【0099】
シール面は、0.5未満、0.4未満又は0.3未満の動摩擦係数を有することができる。「動摩擦係数」は、表面に対する運動中の物体の摩擦抵抗の係数(静的摩擦係数とは区別される)であり、24時間後にASTM D3702に従って測定値を得た。一般に、本発明のシールの動摩擦係数は、未変性PTFE、PVDF、fPEPPなどの工業的に入手可能なフルオロポリマーの範囲内である。
【0100】
ASTM D3702に従って測定された、シール面を画定する焼結PTFEフィルムの全体の摩耗速度は、0.1ミクロン/時未満又は0.07ミクロン/時未満又は0.05ミクロン/時未満であることができる。
【0101】
PTFEフィルム、特にePTFEフィルムは、有利なことに、高い破断点伸び率を有し、シール要素の製造中に加えられる力に耐えることができる。例えば、射出成形又は圧縮成形の間に、シール面を画定する焼結PTFEフィルムは、エラストマー材料又はその前駆体の液圧下での破裂に耐えなければならない。
【0102】
シール面を画定する焼結PTFEフィルムを形成するために使用されるフィルムは、少なくとも2つの直交方向において、少なくとも50%又は少なくとも60%の破断点伸び率を有することができる。破断点伸び率は、約10~100%又は約15~90%又は約20~85%であることができる。破断点伸び率は、100%より大きくてもよく又は125%より大きくてよい。
【0103】
しかしながら、例えばePTFEフィルムの各方向の延伸条件が異なる場合に、所与のフィルムの破断点伸び率などが各方向で異なることができることを理解すべきである。フィルムの破断点伸び率、厚さ、多孔度などは、シール要素の一部として形成される前のフィルムの特性を指す。
【0104】
本発明の第二の態様は、シール要素の製造に使用するための焼結ePTFEフィルムであり、フィルムは約5質量%~40質量%の潤滑性粒子材料を含み、約25ミクロン~700ミクロンの厚さを有する。
【0105】
焼結ePTFEフィルムは、一軸又は二軸延伸されうる。
【0106】
厚さは、約25~500ミクロン又は25~300ミクロンであることができる。
【0107】
焼結ePTFEフィルムの質量/面積は、約50~200g/m2又は約50~150g/m2又は約75~150g/m2であることができる。
【0108】
焼結ePTFEフィルムは、多層(すなわち、2層以上)のラミネートの一部を形成することができる。
【0109】
したがって、第三の態様において、本発明は、シール要素の製造に使用するための多層ラミネートにまで及ぶ。このラミネートは、約5質量%~40質量%の潤滑性粒子材料を含み、約25ミクロン~700ミクロンの厚さを有し、少なくとも1つのさらなるフィルム層に結合されている焼結ePTFEフィルムを含む。
【0110】
本明細書に開示されるように、使用中の焼結ePTFEフィルムは、他の態様のシール要素のシール層を形成しているが、さらなるフィルム層は、他の目的のために最適化することができ、例えば、エラストマー本体に結合するために、又は、さらなるフィルム層の間の結合を支援するために最適化することができる。
【0111】
ラミネートの全体の厚さは、25~700ミクロンであることができる。幾つかの実施形態において、シール要素のシール表面を画定することを意図した焼結ePTFEフィルムは、多層ラミネートの全体の厚さの少なくとも50%又は少なくとも75%を構成する。
【0112】
焼結ePTFEフィルム及び少なくとも1つのさらなるフィルム層は、同じであっても又は異なっていてもよい。例えば、少なくとも1つのさらなるフィルムは、PTFE又はePTFEであることができ、粒子材料又は充填剤を欠いている。少なくとも1つのさらなるePTFEフィルムは、ePTFEシールフィルムとは異なる多孔度、厚さ、密度及び/又は平均細孔サイズを有することができる。少なくとも1つのさらなるPTFEフィルムは、焼結されていても又は焼結されていなくてもよい。少なくとも1つの前記さらなるフィルムは熱可塑性フィルム層であることができる。
【0113】
焼結ePTFEフィルム及び少なくとも1つのさらなるフィルム層は、熱及び/又は圧力の作用下で互いに融着されうる。接着剤を使用してフィルムを結合することもできる。ラミネート化前又はラミネート化後に焼結を行うことができる。
【0114】
潤滑性粒子材料は、グラファイトを含むか、又は、グラファイトから本質的になることができる。
【0115】
焼結ePTFEフィルム、又は前記焼結ePTFEフィルムを含む多層ラミネートは、エラストマー本体を形成するエラストマー材料と組み合わされ、フィルム又は多層ラミネートに結合されて、シール要素を形成することができる。エラストマー本体に面する層がePTFE層である場合に、フィルム又はラミネートは、浸透領域(エラストマー材料が隣接するフィルムの多孔質微細構造に浸透する領域)でエラストマー本体に結合されうる。
【0116】
本発明は、第四の態様において、エラストマー本体と、接触面に対してシールを提供するためのシール面とを有するシール要素を製造する方法であって、該方法は、
約5質量%~40質量%の潤滑性粒子材料を含む、焼結PTFEフィルムを提供すること、
モールドキャビティの表面の少なくとも一部の上に該焼結PTFEフィルムを配置すること、及び
エラストマー材料を該モールドキャビティに導入して、該焼結PTFEフィルムをオーバーモールドし、シール要素を形成すること、ここで、該焼結PTFEフィルムは該エラストマー本体に結合され、約25~200ミクロンの厚さを有し、該焼結PTFEフィルムはシール面を画定する
を含む、方法にまで及ぶ。
【0117】
焼結PTFEフィルムがePTFEフィルムを含むか、又はePTFEフィルムからなる実施形態において、オーバーモールド前の厚さは、約25~700ミクロンであることができる。オーバーモールド中に、ePTFEフィルムは少なくとも部分的に高密度化され、シール要素のシール層を画定する焼結ePTFEフィルムの厚さは、約25~200ミクロンであることができる。
【0118】
例えば、焼結PTFEフィルムがスカイブされ又はキャストされ又は押出成形される幾つかの実施形態において、フィルムの厚さは、オーバーモールド中に変化しなくてよく、したがって、開始厚さは、約25~200ミクロンであることができる。
【0119】
本発明は、第五の態様において、エラストマー本体と、接触面に対してシールを提供するためのシール面とを有するシール要素を製造する方法であって、該方法は、
本明細書に開示される第三及び他の態様による多層ラミネートを提供すること、ここで、該多層ラミネートは焼結PTFEフィルムを含み、該焼結PTFEフィルムは、約5質量%~40質量%の潤滑性粒子材料を含む、
該焼結PTFEフィルムがモールドキャビティの表面に面する状態で、モールドキャビティの表面の少なくとも一部の上に該多層ラミネートを配置すること、及び
エラストマー材料を該モールドキャビティに導入して、該多層ラミネートをオーバーモールドしそしてシール要素を形成すること、ここで、該多層ラミネートは該エラストマー本体に結合され、その焼結PTFEフィルムは該シール面を画定し、約25~200ミクロンの厚さを有する
を含む、方法にまで及ぶ。
【0120】
焼結PTFEフィルム又は多層ラミネートは、本明細書に開示されるように、ガス透過性及び/又は多孔性であることができる。
【0121】
ガス透過性の焼結PTFEフィルム又は多層ラミネートは、成形(及び幾つかの実施形態において、本体のエラストマー材料又は接着剤の硬化又は乾燥)中にフィルム又はラミネートを通るガスの流れを促進することができる。これにより、破裂、ブリスタリングなどのリスクが軽減される。
【0122】
モールド又はキャビティに面して多孔質表面が提供される実施形態において、オーバーモールドプロセス中に(すなわち、モールド表面から離れて)、焼結PTFEフィルム又は多層ラミネートは、エラストマー材料によって浸透されて、エラストマー本体に隣接する浸透領域を形成することができる。少なくとも部分的に、エラストマー材料と膜との間の密接な界面は、シールフィルムをエラストマー本体に結合する。
【0123】
このように、幾つかの実施形態において、焼結PTFEフィルム又は多層ラミネートは、接着剤を使用する必要なく、エラストマー本体に直接結合することができる。
【0124】
この方法は、エラストマー材料を前駆体材料の形態でモールドキャビティに導入することを含むことができる。
【0125】
この方法は、前駆体配合物を処理してエラストマー材料を形成することをさらに含むことができる。
【0126】
前駆体配合物の処理は、乾燥、凝固及び/又は硬化を含むことができる。
【0127】
前駆体配合物は、例えば、未硬化又は部分的に硬化した形態のエラストマー材料を含むことができ、方法は、前駆体配合物を硬化させることを含むことができる。
【0128】
したがって、この方法は、焼結PTFEフィルム又は多層膜の細孔に浸透し、次いで硬化(又は他の処理)してエラストマー材料を「その場で」形成することを含むことができる。硬化又は処理は、モールドキャビティ内で行うことができる。
【0129】
硬化は、例えば加硫によるポリマー又はオリゴマー種の架橋を含むことができる。硬化は、前駆体配合物内のモノマー又はオリゴマー種の重合又はさらなる重合を含むことができる。
【0130】
前駆体配合物は、エラストマー材料又はその前駆体種の溶液を含むことができる。前駆体配合物は、エラストマー材料又はその前駆体種の懸濁液又は分散液を含むことができる。したがって、この方法は、溶媒を除去するために乾燥することを含むことができる。
【0131】
前駆体配合物の処理は、例えば乾燥及び/又は硬化を促進するための加熱を含むことができる。
【0132】
幾つかの実施形態において、この方法は、モールドキャビティの表面の少なくとも一部を焼結PTFEフィルム又は多層ラミネートでライニングし、次に少なくとも1つのさらなるフィルム層でライニングすることを含むことができる。1つ以上の中間接着剤層を設けることもできる。
【0133】
この方法は、射出成形(エラストマー材料又は前駆体配合物が流体の形でモールドキャビティに注入される)又は圧縮成形(エラストマー材料又は前駆体配合物がしなやかな個体の形でモールドの第一の部分の内部に又はそれにわたって配置され、モールドの第一の部分とモールドの第二の部分との間に画定されるモールドキャビティ内で圧縮される)を含む、オーバーモールドの任意の適切な方法を含むことができる。
【0134】
射出成形は、発泡成形(エラストマー材料又は前駆体配合物がキャリアガスを含み、構造フォームエラストマー本体を形成すること)を含むことができ、又は、ガスアシストされる(空気又は窒素などのガスの圧力下でモールドキャビティ内に導入される)ことができる。
【0135】
回転成形、トランスファー成形などの他の成形方法も使用できる。
【0136】
特に圧縮成形法及び射出成形法などの方法を使用するオーバーモールドの工程中に、ガス透過性の焼結PTFEフィルム又は多層ラミネートを使用すると、ガスがシールフィルムを介してモールドキャビティから逃げることができる。これにより、破裂、ブリスタリングなどのリスクが軽減される。
【0137】
焼結PTFEフィルム又は多層ラミネートがePTFEを含む場合に、オーバーモールド工程中に、特に圧縮成形法及び射出成形法などの方法を使用して、本明細書に開示されるとおりに、部分的な高密度化が起こりうる。
【0138】
モールド表面に面する焼結ePTFEフィルムを含む実施形態において、前記ePTFEフィルムは、モールド表面と前進するエラストマー材料又は前駆体配合物との間で圧縮され、得られるシール要素のシール表面から広がる少なくともある領域の部分的な高密度化がもたらされる。
【0139】
焼結PTFEフィルム又は多層ラミネートを提供することは、ePTFEフィルム又は膜を形成することを含むことができる。ePTFEフィルムを形成する適切な方法は、本発明の技術分野において周知であり、US3953566又はUS5814405に記載された方法に概して基づくことができ、それらの全体を本明細書に取り込む。潤滑性粒子材料を含むPTFEテープの製造は、US4256806に記載されており、該テープから潤滑性材料を含む膜は作られる。
【0140】
ePTFEフィルムは、PTFEテープを一軸延伸して形成することができる。この方法は、PTFEテープを(該テープを第一の方向に延伸後、次いで、典型的には直交する第二の方向に延伸することによって)二軸延伸することを含むことができる。
【0141】
延伸工程は、テープ又はフィルムを一連の少なくとも2組のローラに通すことによって行うことができ、ローラの相対回転速度が延伸比を決定する。PTFEテープ自体は押出成形することができる。
【0142】
この方法は、前記潤滑性粒子材料を含むePTFEフィルムを形成することを含むことができる。例えば、潤滑性粒子材料の粒子を、PTFE粉末及び場合により潤滑剤などの追加の成分と混合し、押出して、5質量%~40質量%の潤滑性粒子材料を含むPTFEテープを形成することができる。次に、テープを延伸し、焼結して、前記潤滑性粒子材料を含む焼結PTFEフィルムを形成することができる。
【0143】
多層ラミネートを提供することは、第一のPTFEフィルム及び第二のフィルムを提供すること、ここで、少なくとも第一のPTFEフィルムは前記潤滑性粒子材料を含む、及び、前記第一のフィルムと前記第二のフィルムをラミネート化して、多層ラミネートを形成することを含む。少なくとも第一のPTFE膜は焼結されている。ラミネート化前、ラミネート化中又はラミネート化後に焼結を行うことができる。
【0144】
この方法は、1つ以上のePTFEフィルムを焼結することをさらに含むことができる。
【0145】
この方法は、シール要素がモールドから取り外されるときに、過剰なシールフィルムのトリミング及び/又はエラストマー本体のトリミング又は研削など、完成したシール要素を調製するために必要なさらなる工程を含むことができる。
【0146】
特許請求の範囲内のシール要素は、シールフィルムとエラストマー本体との間の優れた結合性を有することができ、エラストマー本体に結合されたフルオロポリマーを使用する既知のシールと比較して、耐摩耗性、ガス透過性、可撓性及び/又は耐久性が向上している。
【0147】
「提供する」という用語は、単に使用することも含む。
【0148】
モールド表面をライニングすることは、焼結PTFEフィルム又は多層ラミネートのシート、及び場合により1つ以上のさらなるフィルム層をモールド表面(又はモールドの第一の部分の表面全体)上に配置することを含むことができる。焼結PTFEフィルム又は多層ラミネートは、複雑なモールド形態に対応するために、例えばパターンに従って複数の部品で配置することができる。
【0149】
モールド表面をライニングする層又はその各層は、オーバーモールド中にモールドの形状に適合させるか、又はさらに適合させることができる。
【0150】
この方法は、焼結PTFEフィルム又は多層ラミネート(又は場合により存在する1つ以上のさらなるフィルム層)をモールドの形状に適合させる、又はさらに適合させるために、モールドキャビティにガスを流すこと、又はモールドキャビティを加圧することも含むことができる。
【0151】
第六の態様における本発明は、第四及び第五の態様の方法によって得ることができるシール要素に及ぶ。
【0152】
本発明の各態様のさらなる任意的な特徴は、本発明の他の態様の任意的な特徴に対応する。
【0153】
上記のすべての特許文書又はその他の刊行物は、その全体が本明細書に取り込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0154】
非限定的な例示的な実施形態は、図面を参照して以下でより詳細に説明される。
【
図1】
図1は、摩耗試験及び摩擦係数試験装置の分解図を示す。
【
図2】
図2は、成形性試験を行うために使用されるモールドである。
【
図3】
図3は、成形性試験を行うために使用されるモールドである。
【
図4】
図4は、試験シール要素を調製するために使用されるモールドを示す。
【
図5】
図5は、例1~11の摩耗対時間のプロットを示す。
【
図6】
図6は、例1~11の摩擦係数対時間のプロットを示す。
【
図7】
図7は、例1の成形品のシール面の一部の(a)SEM画像及び(b)EDS画像(上から見た図)、及び、例1の成形品の断面の(c)SEM画像及び(b)EDS画像(シール面に垂直な方向から見た図)を示す。
【
図8】
図8は、例2の成形品のシール面の一部の(a)SEM画像及び(b)EDS画像(上から見た図)、及び、例2の成形品の断面の(c)SEM画像及び(b)EDS画像(シール面に垂直な方向から見た図)を示す。
【
図9】
図9は、例3の成形品のシール面の一部の(a)SEM画像及び(b)EDS画像(上から見た図)、及び、例3の成形品の断面の(c)SEM画像及び(b)EDS画像(シール面に垂直な方向から見た図)を示す。
【
図10】
図10は、例6の成形品のシール面の一部の(a)SEM画像及び(b)EDS画像(上から見た図)、及び、例6の成形品の断面の(c)SEM画像及び(b)EDS画像(シール面に垂直な方向から見た図)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0155】
一連の成形品の試験例及び比較例として、同じ一般構造の試験シール要素を、以下に詳述する一連のエラストマー材料及びフィルムから圧縮成形プロセスを使用して調製した。成形品は、シール要素の製造に適した材料からできていたが、以下に記載される試験手順に適合した形状及び形態であった。
【0156】
実施例を準備するために使用されたモールドは
図4に示されている。モールドは、モールド表面を画定するキャビティ31を有するモールドベース29を含んでいた。モールドキャビティは寸法が約75mm×75mm×深さ3mmで、その周囲に45度の面取りがなされていた。
【0157】
モールドベースを液圧プレス(図示せず)の下部プラテン上で、プラテンの中心に置いた。ピン31はキャビティを囲み、モールドトップ27の開口部34に対応し、モールドベース29上に置かれたときにフィルム100を所定の位置に保持するのを助ける。
【0158】
フィルムサンプル100を所定のサイズにカットし、モールドベース29のピン31に対応する穴を設けた。
【0159】
未硬化エラストマー材料のブロック102を試験フィルムサンプルの上に置き、モールドキャビティ31上のモールドの中心に置いた。位置合わせのためにピン31を使用してモールドトップ27をモールドベース29上に置いた。
【0160】
フィルム100及びエラストマー材料102を配置する前に、モールドベース29及びトップ27を予熱した。
【0161】
次に、液圧プレス(図示せず)を使用してエラストマー材料102をフィルム100に圧縮成形し、モールド29内で硬化させた。各例について、146.4kN(40,000ポンド)のプレス荷重を使用した。所定の硬化時間終了後に、プレス荷重を解放した。プレス荷重を解放した後に、モールド及び成形品をプレスから取り出した。成形品はすぐにモールドから取り外された。
【0162】
余分なフィルム及びエラストマーを成形品の周囲からトリミングした。
【0163】
例を調製するために使用された未硬化エラストマーコンパウンドは、FKMエラストマー(Viton (商標) A)、水素化ニトリルブタジエンゴム(HNBR)及びエチレンプロピレンジエンモノマーゴム(EPDM)であった。
【0164】
FKM(Viton (商標)A)エラストマー、コンパウンド番号EE96070Aは、米国オハイオ州カヤホガフォールズのイーグルエラストマー社から市販されている。EE96070Aコンパウンドの硬化時及び後硬化時のショアAデュロメータは75であった。
【0165】
HNBRゴムコンパウンド、コンパウンド番号HNBR71B は、米国ニューヨーク州マセドニアの J. J. Short Associates, Inc. から市販されている。HNBRゴムはショアAデュロメータが70である。
【0166】
EPDMゴム、コンパウンド番号EP70PEROXは、米国ニューヨーク州マセドニアの J. J. Short Associates, Inc. から市販されている。EPDMゴムはショアAデュロメーターが70である。
【0167】
FKM Viton(商標)Aコンパウンドの硬化温度及び硬化時間は、それぞれ188℃及び4分であった。FKM Viton Aエラストマーで作られた成形品例は、200℃で6時間予熱された対流式オーブンで後硬化された。EPDMコンパウンドの硬化温度及び硬化時間は、それぞれ160℃及び20分であった。水素化ニトリルブタジエンゴム(HNBR)の硬化温度及び硬化時間は、それぞれ160℃及び20分であった。
【0168】
実施例で使用される焼結PTFEフィルムは、以下のように製造される:
1)24質量%の潤滑性粒子材料を含む焼結ePTFEフィルム
約22質量%の固形分を含むPTFE水性分散液(その大部分は約0.05μm~約5μmの範囲の粒子サイズを有するPTFE粒子である)を使用して、24質量%のグラファイト充填PTFE混合物を製造した。PTFE水性分散液は、Chemours Companyから購入できる。
【0169】
この例で使用されたグラファイトは、99%の高合成グラファイトに炭素グレード#TC305を加えたもので、Asbury Carbonsから購入したものであって、6.5~19μmの中程度の粒子サイズを有する。
【0170】
1.6kgの上述のグラファイトを27kg(60ポンド)の脱イオン水に入れてスラリー化した。次に、スラリーを5.17kgのPTFE分散液とともに3分間の混合時間で凝固させた。次に、得られた凝塊を1650℃で24時間乾燥させた。次に、乾燥した凝塊を-30℃で2時間凍結し、次いで、6mmの開口のスクリーンを通してふるいにかけ、凝塊を粉末形態にするのを助けた。次に、粉末をミネラルスピリットで、潤滑剤0.22kg対粉末1kgの質量比で潤滑化した。
【0171】
潤滑化された粉末を混転し、材料を再び-30℃で24時間凍結させ、6mmスクリーンを通して再びふるいにかけ、潤滑化されたグラファイト/PTFE混合物の大きな塊を砕いた。次に、得られた潤滑化された粉末を周囲の室内条件で24時間滞留させた。
【0172】
次に、材料をプレフォームに注入して直径10cmのペレットを作り、49℃のオーブンで24時間滞留させた後に、テープの形に押出した。厚さ660μmのダブルキャビティダイを使用して、幅約15cmの押出テープを作成した。次に、押出物を精密ローラを通して厚さ440μmにカレンダ加工した。次に、1:1の比率で設定温度2100℃でエアフローテーションドライヤを使用して潤滑剤を除去した。
【0173】
次に、270℃のドラム設定温度でMDOドラムエキスパンダでテープを長手方向に2.0:1の比率でおよそ30%/sの延伸速度で延伸した。
【0174】
次に、およそ13cm幅のテープをおよそ38cmの長さに切断し、二軸延伸加熱パンタグラフに入れた。このパンタグラフには、テープのすべての端をつかんで保持する能力があり、サンプルをある期間加熱した後に、パンタグラフは、同じ又は異なる延伸速度で一方向又は両方向に延伸比を適用することができる。
【0175】
延伸前に、320℃の温度及び30秒の滞留時間を使用した。機械方向での1.25:1のさらなる延伸比の直後に、横断方向に4:1の延伸比で延伸し、両方とも35%/sの同じ延伸速度であった。
【0176】
膜をフレームに拘束し、クラムシェルオーブンを380℃の温度に加熱しながら取り外した。オーブンが380℃の温度に落ち着いたら、膜を1:1の拘束のためにパンタグラフフレームに戻し、次いで、膜に90秒間のオーブン滞留時間を与えて、サンプルを「アモルファスロック」又は「焼結」してから、オーブン及び膜サンプルをパンタグラフフレームから取り外した。
【0177】
得られた膜は、厚さ約0.25mm(10ミル)、かさ密度0.40gcm-3であった。
得られた引張強度は、長手方向で7.85MPa、横断方向で7.28MPaであり、ほぼバランスの取れた強度の膜を提供した。
【0178】
2)12質量%の潤滑性粒子材料を含む焼結ePTFEフィルム
約22質量%の固形分を含むPTFE水性分散液(その大部分は約0.05μm~約5μmの範囲の粒子サイズを有するPTFE粒子である)を使用して、12質量%のグラファイト充填PTFE混合物を製造した。PTFE水性分散液は、Chemours Company から購入できる。この例で使用されたグラファイトは、99%の高合成グラファイトに炭素グレード#TC305 を加えたもので、Asbury Carbons から購入したものであって、6.5~19μmの中程度の粒子サイズを有する。
【0179】
0.82kg(1.8ポンド)の上述のグラファイトを27kg(60ポンド)の脱イオン水に入れてスラリー化した。次に、スラリーを6kg(13.2ポンド)のPTFE分散液とともに6分間の混合時間で凝固させた。次に、得られた凝塊を165℃で24時間乾燥させた。次に、乾燥した凝塊を-30℃で2時間凍結し、次いで、0.635cm(1/4インチ)の開口のスクリーンを通してふるいにかけ、凝塊を粉末形態にするのを助けた。
【0180】
次に、粉末をミネラルスピリットで、潤滑剤0.22kg対粉末1kgの質量比で潤滑化した。潤滑化された粉末を混転し、材料を再び-30℃で24時間再凍結し、0.635cmのスクリーンを通して再びふるいにかけ、潤滑化されたグラファイト/PTFE混合物の大きな塊を砕いた。次に、得られた潤滑化された粉末を周囲の室内条件で24時間滞留させた。
【0181】
次に、材料をプリフォームに注入して直径10cm(4インチ)のペレットを作成し、49℃のオーブンに24時間入れた後に、テープの形に押出した。厚さ0.66cm(26ミル)のダブルキャビティダイを使用して、幅約15cm(6インチ)の押出テープを作成した。
【0182】
次に、押出物を、精密ローラを通してカレンダ加工して、厚さ0.444mm(17.5ミル)にした。次に、設定温度210℃のエアフローティングドライヤを使用して、1:1の比率で潤滑剤を除去した。次に、270℃のドラム設定温度で、MDOドラムエキスパンダでテープを2.0:1の比率でおよそ30%/sの延伸速度で長手方向に延伸した。
【0183】
次に、およそ13cm幅のテープをおよそ38cmの長さに切断し、二軸延伸加熱パンタグラフに入れた。このパンタグラフには、テープのすべての端をつかんで保持する能力があり、サンプルをある期間加熱した後に、パンタグラフは、同じ又は異なる延伸速度で一方向又は両方向に延伸比を適用することができる。
【0184】
320℃の温度及び30秒の滞留時間を延伸前に使用した。機械方向に1.25:1の追加の延伸比の直後に、横断方向に4:1延伸比を課し、両方とも35%/sの同じ延伸速度であった。
【0185】
膜をフレームに拘束し、クラムシェルオーブンを380℃の温度に加熱しながら取り外した。オーブンが380℃の温度に落ち着いたら、膜を1:1の拘束のためにパンタグラフフレームに戻し、次いで、膜に90秒間のオーブン滞留時間を与えて、サンプルを「アモルファスロック」又は「焼結」した後に、オーブン及び膜サンプルをパンタグラフフレームから取り外した。
【0186】
得られた膜は、厚さ約0.25mm(10ミル)、かさ密度0.42gcm-3であった。
得られた引張強度は、長手方向で8.51MPa、横断方向で9.42MPaであり、ほぼバランスの取れた強度の膜を提供した。
【0187】
3)6質量%の潤滑性粒子材料を含む焼結ePTFEフィルム
約22質量%の固形分を含むPTFE水性分散液(その大部分は約0.05μm~約5μmの範囲の粒子サイズを有するPTFE粒子である)を使用して、6質量%のグラファイト充填PTFE混合物を製造した。PTFE水性分散液は、Chemours Company から購入できる。この例で使用したグラファイトは、99%の高合成グラファイトとカーボングレード# TC305を加えたもので、Asbury Carbons から購入したものであって、6.5~19μmの中程度の粒子サイズを有する。
【0188】
0.41kg(0.9ポンド)の上述のグラファイトを27kg(60ポンド)の脱イオン水に入れてスラリー化した。次に、スラリーを6.35kg(14ポンド)のPTFE分散液とともに10分間の混合時間で凝固させた。次に、得られた凝塊を165℃で24時間乾燥させた。次に、乾燥した凝塊を-30℃で2時間凍結し、0.635cm(1/4インチ)の開口のスクリーンを通してふるいにかけ、凝塊を粉末形態にするのを助けた。
【0189】
次に、粉末をミネラルスピリットで、潤滑剤0.22kg対粉末1kgの質量比で潤滑化した。潤滑化された粉末を混転し、材料を再び-30℃で24時間再凍結し、0.635cmのスクリーンを通して再びふるいにかけ、潤滑化されたグラファイト/PTFE混合物の大きな塊を砕いた。次に、得られた潤滑化された粉末を周囲の室内条件で24時間滞留させた。
【0190】
次に、材料をプリフォームに注入して直径10cm(4インチ)のペレットを作成し、49℃のオーブンに24時間入れてから、テープの形に押出した。厚さ0.66cm(26ミル)のダブルキャビティダイを使用して、およそ15cm(6インチ幅)の押出テープを作成した。
【0191】
次に、押出物を、精密ローラを通してカレンダ加工して、厚さ0.444mm(17.5ミル)にした。次に、設定温度210℃のエアフローティングドライヤを使用して、1:1の比率で潤滑剤を除去した。次に、270℃のドラム設定温度で、MDOドラムエキスパンダで2.0:1の比率でおよそ30%/sの延伸速度でテープを長手方向に延伸した。
【0192】
次に、およそ13cm幅のテープをおよそ38cmの長さに切断し、二軸延伸加熱パンタグラフに入れた。このパンタグラフには、テープのすべての端をつかんで保持する能力があり、サンプルをある期間加熱した後に、パンタグラフは、同じ又は異なる伸張速度で一方向又は両方向に伸張比を適用することができる。
【0193】
延伸前に320℃の温度及び30秒の滞留時間を使用した。機械方向で1.25:1の追加の延伸比の直後に、横断方向で4:1の延伸比を課し、両方とも35%/sの同じ延伸速度であった。
【0194】
膜をフレームに拘束し、クラムシェルオーブンを380℃の温度に加熱しながら取り外した。オーブンが380℃の温度に落ち着いたら、膜を1:1の拘束のためにパンタグラフフレームに戻し、膜に90秒間のオーブン滞留時間を与えて、サンプルを「アモルファスロック」又は「焼結」してオーブン及び膜サンプルをパンタグラフフレームから取り外した。
【0195】
得られた膜は、厚さ約0.25mm(10ミル)で、かさ密度は0.41gcm-3であった。得られた引張強さは、長手方向で8.71MPa、横断方向で10.38MPaであり、ほぼバランスの取れた強度の膜を提供した。
【0196】
4)25%の潤滑性粒子材料を含む焼結PTFEフィルム
アンモニアナトリウムエッチング剤で側面をエッチングした、25%のグラファイトフィラーを含む厚さ0.13mmのスカイブされたPTFEフィルムである。グラファイトが充填されエッチングされたスカイブされたPTFEフィルムは、米国コネチカット州ブリストルの Enflo LLC から市販されている。
【0197】
5)多孔質「POREX」PTFE膜
Porex PM6M 膜は、米国マサチューセッツ州サットンの Interstate Specialty Products から市販されている。Porex PM6M の多孔質PTFE膜は厚さが0.1mm(0.004インチ)、細孔サイズが5ミクロンであった(特性は供給者のWebサイトで入手できる)。
【0198】
6)ナチュラルスカイブドPTFEフィルム
エッチングされたスカイブされたPTFEフィルムは、米国コネチカット州ブリストルの Enflo LLC から市販されている。
【0199】
表1は、上記のとおりのフィルム材料の特性を要約している。
【表1】
【実施例】
【0200】
例1(6%グラファイトePTFE/Viton)
51グラムのFKM Viton(商標)Aエラストマーコンパウンド及び6%グラファイト充填ePTFEフィルムを使用して、
図4を参照して上述したように成形品を調製した。24時間摩耗試験(以下に記載される試験手順)の終わりに、フィルム層の摩耗溝の深さは51.6ミクロンであった。摩耗試験終了時の摩擦係数は0.185であった。
【0201】
例2(12%グラファイトePTFE/Viton)
49グラムのFKM Viton(商標)Aエラストマーコンパウンド及び12%グラファイト充填ePTFEフィルムを使用して成形品を調製した。24時間の摩耗試験の終わりに、フィルム層の摩耗溝の深さは41.9ミクロンであった。摩耗試験終了時の摩擦係数は0.181であった。
【0202】
例3(24%グラファイトePTFE/Viton)
51グラムのFKM Viton(商標)Aエラストマーコンパウンド及び24%グラファイト充填ePTFEフィルムを使用して成形品を調製した。24時間の摩耗試験の終わりに、フィルム層の摩耗溝の深さは32.5ミクロンであった。摩耗試験終了時の摩擦係数は0.185であった。
【0203】
例4(6%グラファイトePTFE/HNBR)
26グラムのHNBRコンパウンド及び6%グラファイト充填ePTFEフィルムを使用して成形品を調製した。24時間の摩耗試験の終わりに、フィルム層の摩耗溝の深さは71.2ミクロンであった。摩耗試験終了時の摩擦係数は0.268であった。
【0204】
例5(12%グラファイトePTFE/HNBR)
26グラムのHNBRコンパウンド及び12%グラファイト充填ePTFEフィルムを使用して成形品を調製した。24時間の摩耗試験の終わりに、フィルム層の摩耗溝の深さは57.2ミクロンであった。摩耗試験終了時の摩擦係数は0.220であった。
【0205】
例6(6%グラファイトePTFE/HNBR)
22グラムのHNBRコンパウンド及び24%グラファイト充填ePTFEフィルムを使用して成形品を調製した。24時間の摩耗試験の終わりに、フィルム層の摩耗溝の深さは52.8ミクロンであった。摩耗試験終了時の摩擦係数は0.213であった。
【0206】
例7(24%グラファイトePTFE/EPDM)
25グラムのHNBRコンパウンド及び24%グラファイト充填ePTFEフィルムを使用して成形品を調製した。24時間の摩耗試験の終わりに、フィルム層の摩耗溝の深さは63.2ミクロンであった。摩耗試験終了時の摩擦係数は0.324であった。
【0207】
比較例8(Porex/Viton)
49グラムのFKMコンパウンド及びPorex PM6M多孔質PTFE膜を用いて成形品を作製した。24時間の摩耗試験の終わりに、フィルム層の摩耗溝の深さは87.9ミクロンであった。摩耗試験終了時の摩擦係数は0.342であった。
【0208】
比較例9(4ミルのナチュラルスカイブドPTFE/EPDM)
27グラムのEPDMコンパウンドと、アンモニアナトリウムエッチング剤で側面を化学的にエッチングした厚さ0.1mmのナチュラルスカイブドPTFEフィルムとを使用して、成形品を調製した。24時間の摩耗試験の終わりに、フィルム層の摩耗溝の深さは244.1ミクロンであった。摩耗試験終了時の摩擦係数は1.231であった。スカイブドPTFEフィルムは24時間で完全に摩耗していた。
【0209】
例10(25%グラファイト充填スカイブドPTFE/EPDM)
32グラムのEPDMコンパウンドと、ナトリウムアンモニアエッチング剤で側面をエッチングした25%のグラファイトフィラーを含む厚さ0.13mmのスカイブドPTFEフィルムとを使用して、成形品を調製した。24時間の摩耗試験の終わりに、フィルム層の摩耗溝の深さは39.6ミクロンであった。摩耗試験終了時の摩擦係数は0.166であった。
【0210】
【0211】
PTFEフィルム及び比較フィルムの物性
引張強度法
プラスチックの引張特性のASTM D638-14標準試験方法を使用した。
引張強度(TS)の測定は、各フィルムから型抜きされた1インチx6インチ(2.54x15.2cm) のサンプルを使用して行った。米国Instron社の試験装置は、2インチ (2.54cm)の隙間があるように設定されており、各クランプで約2インチ(2.54cm)をつかんで保持できる。20インチ/分(51cm/分)のクロスヘッド速度を使用した。引張の間に得られる最大荷重を使用して、次の式(1a~1c)を使用してMTSを計算した。
【数1】
【0212】
厚さ(μm)
PTFEフィルムの厚さは、卓上に取り付けられたハイデンハイン厚さゲージモデル SGMT 60M を使用して測定した。
【0213】
質量/面積(g/m2)
フィルムの質量/面積の重量は、Toledo MettlerスケールモデルAG 204を使用して決定した。
【0214】
密度(g/cc)
密度を、引張試験用の1"x6"(2.54x15cm)のサンプルを使用して計算する。サンプルの重さを量り、厚さを測定する。密度は、質量(g)をサンプルの体積(cm3)で割って計算される。
【0215】
破断点伸び率(%)
破断点伸び率を、破断点での伸び(ゲージ長の変化)を読み取ることによってASTM D638-14、セクション11.3.1.2に従って計算した。破断点のゲージ長さを元のゲージ長さで割り、100を掛ける。
伸び率(%)=Lf-Li/Li×100
(上式中、Li=クランプ間の初期ギャップ、Lf=ギャップ距離を含む破損までの最終的な全距離である)
【0216】
成形性
成形性試験は、プラテンプレスと、加熱されたモールドトップ17とモールドベース19を含む
図2に示すモールドを使用して行われた。モールドベース19を通る領域Xの断面図も示されている。モールド19は、次の寸法を有するモールドキャビティを画定する環状チャネル21を有する。
内径=25.4mm(1.0”)
外径=34.93mm(1.38”)
深さ=7.16mm(0.282”)、キャビティの底の半径4.78mm
【0217】
モールドトップ17を160℃(320°F)に加熱した。モールドベース19を、各試験の前に予熱した。フィルムサンプルは、長さ及び幅を約114mmにカットした。
図3に示すように、フィルムサンプル22に穴パターンを切り、ダウエルピン23でフィルムをモールド19に固定した。穴パターンの穴の直径は、直径76.2mm(3インチ)の円形の中心線上に7.94mm(0.313インチ)であった。厚さ約3mmのEPDMゴムである未硬化のエラストマー材料24のディスクを、直径38.1mmのホールパンチで切断した。
【0218】
カットされたフィルムサンプルを、モールドベース19の上に置いた(フィルム22の穴にピン23を通過させた)。EPDMディスクを試験フィルムサンプルの上に置き、モールドキャビティ上のモールドの中心に置いた。ダウエルピンを使用してモールドトップをモールドベース上に配置し、モールドトップをモールドベースと位置合わせした。モールドを液圧プレスの下部プラテン上に置き、プラテン上の中心に置いた。
【0219】
89kN(20,000ポンド)のプレス荷重をプラテンに課し、20分間の滞留時間保持してEPDMゴムを硬化させた。滞留時間の終わりに、プレス荷重を解放し、プレスからモールドを取り外した。モールドトップを取り外し、成形品をモールドキャビティから取り出した。フィルムに裂け目がないか、成形品を視覚的に検査した。評価には合格/不合格基準を使用した。成形面(モールドキャビティの領域)上のフィルムに裂け目がないサンプルは合格と考えられた。
【0220】
【0221】
PTFEフィルムは、裂けたり又は膨れたりすることなく、十分な「成形性」(すなわち、エラストマー本体との結合を形成する能力)を有する。
【0222】
摩耗速度試験及び摩擦係数-ASTM D3702-94 (2014年再承認)
(ASTM D 3702; スラストワッシャー試験機を使用した自己潤滑摩擦接触における材料の摩耗速度及び摩擦係数の試験方法、American Society Testing & Materials、米国、1978 ~1994、参照により本明細書に取り込む)。
【0223】
成形品例の耐摩耗性及び摩擦係数特性は、自動トライボメータ(LRI-1a自動トライボメータ、Lewis Research Inc., Lewes, Delaware, USA)を使用して、ASTM D3702-94(2014)試験方法に規定され、注記された例外を伴う試験手順に従って測定された。
【0224】
摩耗試験の設備を
図1に見ることができる。試験サンプル1を試験サンプルプラットフォーム3上に置き、試験サンプルを介してプラットフォームにボルトで固定されたホールドダウンリング5で保持した。寸法は71.5mm×36.5mmであった(矩形板)。鋼製スラストベアリング7が環状ホルダ9に結合されている。ホルダ9は、駆動ピン13によって回転スピンドル11に結合されており、駆動ピン13はホルダ9の対応する開口部15に挿入される。
【0225】
1018スチールASTM D3702スラストベアリング7を使用して、試験サンプルのPTFEフィルム層を摩耗させた。試験サンプルに加えられた圧力は345kPa(50psi)であり、スラストベアリングの回転速度は34rpm(10fpm)であった。試験時間は24時間であった。サンプルの摩耗を測定する前に、慣らし時間を使用しなかった。試験を乾燥条件下で実施した。摩耗溝の深さ及び摩擦係数(CoF)は、試験全体を通じて継続的に測定した。全体の摩耗速度は、次の式で計算した。
【0226】
全体的な摩耗速度(μm/時)=試験終了時の摩耗溝の深さ(μm)/試験時間(時)
【0227】
摩耗試験及び摩擦係数試験の結果を表4に要約する。これらのデータのプロットと時間の関係を
図5及び6に示す。
【0228】
エラストマー本体の剛性は、摩耗性能及び摩擦係数に影響を与えることがわかった(例えば、例4~6と比較して、例1~3)。Vitonは最大デュロメータが75であり、一方、HNBR及びEPDMはデュロメータが70であった。
【0229】
【0230】
シールフィルムの厚さとエラストマー本体の剛性との関係も、耐摩耗性及びCoF性能の要因である。ePTFEシールフィルムは圧縮成形中に部分的に高密度化し、最終試験シール要素のフィルムの厚さを約250~300μmから約75~100μmに低減した。これを、約150μmの厚さのスカイブドPTFEフィルムと比較する。
【0231】
SEM/EDS法
走査型電子顕微鏡法(SEM)及びエネルギー分散型X線分光法(EDS)を使用して、本発明の実施例におけるePTFEフィルム中のグラファイト粒子の分布を分析した。EDS検出器を備えた日立高解像度走査電子顕微鏡ModelSU8230を使用した。イメージングのために2~5kVの加速電圧を使用し、EDS分析に10kVを使用した。EDS検出器では、検出器とサンプルとの間の動作距離が少なくとも15mm必要であった。成形サンプルの一部を炭素鋼刃でスライスして、エラストマー本体及びPTFEフィルムの断面図を取得することにより、サンプルを調製した。成形サンプル中のPTFEフィルムの上面を上から見た図を有するサンプルも調製した。カーボン接着テープを使用して、サンプルをSEMサンプルスタブに取り付けた。サンプルには、帯電を減らすために約2.5nmの白金でコーティングを施した。
【0232】
PTFEフィルムの厚さを複数箇所のSEM画像で測定した。
結果を表5に要約する。
【0233】
EDSを使用して、本発明の実施例のPTFEフィルム中の潤滑性粒子(グラファイト)を特定し、原子百分率基準で炭素及びフッ素の量を測定することによりグラファイトの量を計算した。EDSスキャンには500倍の倍率を使用した。EDSスキャンは、PTFEフィルムの上面及びPTFEフィルムの厚さにわたって行った。
【0234】
炭素原子及びフッ素原子の百分率測定値から、炭素/フッ素の比率(C:F)を計算した。純粋なPTFEは炭素/フッ素の比率が1:2、すなわち0.5である。これは、PTFEの2つのフッ素原子ごとに1つの炭素原子があるためである。
【0235】
EDSスキャン領域内のグラファイトの量は以下の式から評価されうる。
%グラファイト=(0.67xC:F-0.33)/(0.67+0.67xC:F)x100%
(上式中、C:FはEDS分析による炭素/フッ素の比率である)
【0236】
EDS分析の結果を表6及び7に要約する。
【0237】
表5は、
図7~10に示すSEM画像に基づく厚さの測定値を要約する。
【表5】
【0238】
表6は、断面で測定した、EDS分析からのC:F比及び%グラファイトを示す。その例を
図7~10に示す。
【0239】
【0240】
表7は、上面で測定した、EDS分析からのC:F比及び%グラファイト示す。その例を
図7~10に示す。表8は、表6及び7に示されているD:F比率の要約を、上部:断面のC:F比率とともに示す。
【表7】
【0241】
【0242】
本発明の発明者は、EDS分析を通じて、グラファイト充填延伸PTFEフィルムで作製したサンプルにおいて、フィルムの厚さ全体よりもPTFEフィルムの上面に見えるグラファイトが少ないことを驚くべきことに発見した。これは、グラファイト充填延伸PTFEで作られた例がPTFEに富んだ上面を有することを意味する。
【0243】
熱重量分析
熱重量分析は、熱重量分析装置を使用して、PTFEフィルム中の潤滑性粒子材料の質量パーセントを決定するために使用できる方法である。TGA法において、質量2.5~5mgのPTFEフィルムのサンプルを窒素雰囲気下で均一な速度で加熱する。粒子材料の酸化を防止するために、窒素又は他の不活性ガス雰囲気を使用する。熱重量分析装置は、時間又は温度によるサンプルの質量の変化を記録する。フィルム中のPTFE成分は、450℃~625℃の温度範囲を通して熱分解する。625℃を超えると、PTFE成分は完全に分解した。PTFE成分が分解した後のサンプルの残留質量は、潤滑性粒子材料に起因することができる。例えば、PTFEフィルムの潤滑性粒子材料がグラファイトである場合に、グラファイトは700℃を超える温度で熱的に安定しているため、700℃でのTGA曲線のフィルムサンプルの残留質量は、フィルム中のグラファイト含有量に起因することができる。PTFEの熱分解温度よりも低い温度で熱分解する材料の場合に、TGA曲線の質量変化を使用して、PTFEフィルム内の粒子材料の量を決定することもできる。
【0244】
初期多孔度及び最終多孔度の計算
各グラファイト充填ePTFEフィルムの理論最大密度を以下の式から計算した。
密度=%グラファイトxグラファイト密度+%PTFExPTFE密度
グラファイト粉末の密度は供給業者から提供され、2.7g/cm3の値であった。
【0245】
計算に用いたPTFEの密度は2.25g/cm3であった。
表1のフィルム密度を使用して、以下の式を使用してグラファイト充填ePTFE膜における初期多孔度を評価した。
%多孔度=膜密度/理論最大密度 x 100
初期の多孔度の評価結果を表9に示す。
【0246】
【0247】
本発明の実施例における圧縮ePTFEフィルムの残留多孔度を以下の式から計算した:
%残留多孔度=初期多孔度(%)×[圧縮フィルム厚/初期フィルム厚]
【0248】
【0249】
ここで
図7(b)及び7(d)のEDS画像を参照すると、赤い(元の画像の)点はグラファイト粒子の存在を示している。見ることができる粒子の大きい方の選択は、図中で矢印により強調表示されている。
表6のC:F比の値は、ボックスA内の画像の部分に基づいている。
【0250】
ここで
図7(c)の断面SEM画像を参照すると、エラストマー本体200及び焼結PTFEフィルム202の材料を見ることができる。フィルム202はシール面204を有し、境界206(点線で強調された部分)でエラストマー本体200に結合され、エラストマーはePTFEフィルム202の細孔を浸透する。境界での浸透領域は5ミクロン未満の厚さで、示されているSEM画像のスケールでは見えない。
【0251】
シール層204を画定する焼結PTFEフィルム202の全体の厚さの幾らかの変化は、画像で変化することがわかり(厚さ208a、b及びc)、これは他のサンプルと比較してさらに顕著であり(
図8(c)、特に10(c)を参照))、このような変動は成形条件(エラストマーの粘度、圧力など)によって変化する。
【0252】
図7(a)~(d)に見られる対応する特徴は、
図8~10にも見ることができる。
【手続補正書】
【提出日】2021-06-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0252
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0252】
図7(a)~(d)に見られる対応する特徴は、
図8~10にも見ることができる。
以下、本発明の実施態様を列挙する。
(項目1)
接触面に対してシールを提供するためのシール面を有するシール要素であって、該シール要素は、
エラストマー材料を含むエラストマー本体、及び
該エラストマー本体に結合され、そして該シール面を画定する焼結ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルム
を含んでなり、
該フィルムは約25ミクロン~200ミクロンの厚さを有し、かつ、該フィルムは約5質量%~40質量%の潤滑性粒子材料を含む、シール要素。
(項目2)
前記焼結PTFEフィルムは、スカイブドPTFEフィルム、キャストPTFEフィルム、押出成形PTFEフィルム又は延伸PTFE(ePTFE)フィルムを含む、項目1記載のシール要素。
(項目3)
前記焼結PTFEフィルムはePTFEフィルムである、項目2記載のシール要素。
(項目4)
前記焼結ePTFEフィルムは二軸延伸されている、項目3記載のシール要素。
(項目5)
前記焼結ePTFEフィルムは25%以下の多孔度を有する、項目3又は4記載のシール要素。
(項目6)
前記焼結ePTFEフィルムは、前記焼結ePTFEフィルムの細孔内にエラストマー材料が存在する前記エラストマー本体に隣接する浸透領域と、前記シール面に隣接する非浸透領域とを含む、項目3~5のいずれか1項記載のシール要素。
(項目7)
前記シール要素は多層ラミネートを含み、該多層ラミネートは前記シール面を画定する前記焼結PTFEフィルムと、少なくとも1つの中間層とを含む、項目1~6のいずれか1項記載のシール要素。
(項目8)
前記多層ラミネートは、前記シール面を画定する前記焼結PTFE層と、少なくとも1つの中間PTFE層とを含む、項目9記載のシール要素。
(項目9)
前記多層ラミネートは、前記エラストマー本体に隣接する多孔質PTFE中間層を含む、項目8記載のシール要素。
(項目10)
前記多孔質PTFE中間層は、エラストマー材料が細孔内に存在している浸透領域であって、前記多孔質PTFE中間層の厚さを通して少なくとも部分的に延在している浸透領域を含む、項目9記載のシール要素。
(項目11)
前記多孔質PTFE中間層はePTFEフィルムである、項目8又は9記載のシール要素。
(項目12)
前記多層ラミネートは少なくとも1つの中間熱可塑性層を含む、項目7~11のいずれか1項記載のシール要素。
(項目13)
前記シール面を画定する前記焼結PTFEフィルム及び中間フィルム層又は各中間フィルム層の厚さは合計で約30~250ミクロンである、項目7~12のいずれか1項記載のシール要素。
(項目14)
前記シール面を画定する前記焼結PTFEフィルムは前記潤滑性粒子材料を含み、前記中間フィルム層又は各中間フィルム層は粒子材料を欠いている、項目7~13のいずれか1項記載のシール要素。
(項目15)
前記シール面を画定する前記焼結ePTFEフィルムは少なくとも部分的に高密度化されている、項目3、又は、項目3に従属する場合の項目4~14のいずれか1項記載のシール要素。
(項目16)
前記焼結PTFEフィルムは前記エラストマー本体の外面の一部又は全体に結合されている、先行の項目のいずれか1項記載のシール要素。
(項目17)
前記エラストマー本体は、天然ゴム(ポリイソプレン)、ブタジエン、エチレンプロピレン(EPR又はEPM)、エチレンプロピレンジエン(EPDR又はEPDM)、スチレン-ブタジエン(SBR)、イソブテン、ウレタン、アクリル又はニトリル(アクリロニトリル-ブタジエン、すなわち、ABR)、ハロゲン化ニトリル、クロロプレンなどのクロロエラストマー、ペルフルオロエラストマー、フルオロエラストマー、シリコーン、フルオロシリコーン、エピクロロヒドリンゴム、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、エチレンビニルアセテート(EVA)から選ばれる1つ以上のエラストマー材料を含む、項目1~16のいずれか1項記載のシール要素。
(項目18)
前記シール面は、0.5未満、0.4未満又は0.3未満の動摩擦係数を有する、項目1~17のいずれか1項記載のシール要素。
(項目19)
前記潤滑性粒子材料は粉末形態又はマイクロ繊維形態で提供されるか、又は、前記潤滑性粒子材料はマイクロ粒子を含む、項目1~18のいずれか1項記載のシール要素。
(項目20)
前記潤滑性粒子材料はナノ粒子の形態である、項目1~19のいずれか1項記載のシール要素。
(項目21)
前記潤滑性粒子材料は、炭素系成分を含む、又は、炭素系成分からなる、項目1~20のいずれか1項記載のシール要素。
(項目22)
前記潤滑性粒子材料はグラファイトから本質的になる、項目21記載のシール要素。
(項目23)
前記潤滑性粒子材料は、グラファイトと1つ以上の粒子炭素系成分との混合物から本質的になる、項目21記載のシール要素。
(項目24)
前記潤滑性粒子材料は1つ以上の潤滑性鉱物を含む、項目1~23のいずれか1項記載のシール要素。
(項目25)
前記1つ以上の潤滑性鉱物はタルク、粘土、層状硫化物又は無機ポリマーから選ばれる、項目24記載のシール要素。
(項目26)
前記焼結PTFEフィルムは、前記潤滑性粒子材料及び少なくとも1つの追加の粒子又は繊維材料を含む、項目1~25のいずれか1項記載のシール要素。
(項目27)
前記焼結PTFEフィルムのシール面に対して垂直に測定した炭素(C):フッ素(F)比(C:F)/前記焼結PTFEフィルムの厚さに対して垂直に測定したC:F比の比率が0.8以下、0.7以下又は0.6以下である、項目21~23のいずれか1項記載のシール要素。
(項目28)
前記シール要素は、液圧ポンプ、バルブ、熱管理モジュール、トランスミッション、ギアボックス、エンジン、モータ、コンプレッサ、液圧シリンダ又は空気圧シリンダ用のシールである、項目1~27のいずれか1項記載のシール要素。
(項目29)
シール要素の製造に使用するための焼結ePTFEフィルムであって、該ePTFEフィルムは約5質量%~40質量%の潤滑性粒子材料を含み、約25ミクロン~700ミクロンの厚さを有する、焼結ePTFEフィルム。
(項目30)
前記ePTFEフィルムは二軸延伸されている、項目29記載のePTFEフィルム。
(項目31)
前記潤滑性粒子材料は、グラファイトから本質的になり、又は、グラファイトと1つ以上の粒子炭素系成分との混合物から本質的になる、項目29又は30記載のePTFEフィルム。
(項目32)
破断点伸び率が50%超、100%超、125%超である、項目29~31のいずれか1項記載のePTFEフィルム。
(項目33)
項目29~32のいずれか1項記載のePTFEフィルムと、少なくとも1つのさらなるフィルム層とを含む、多層ラミネート。
(項目34)
345kPaの荷重及び34rpmの回転速度の下でステンレス鋼のスラストベアリングを使用してASTM D 3702に従って測定して、0.1ミクロン/時未満、又は0.07ミクロン/時未満、又は0.05ミクロン/時未満の摩耗速度を有する、項目1~28のいずれか1項記載のシール要素、又は、項目29~33のいずれか1項記載のePTFEフィルム。
(項目35)
エラストマー本体と、接触面に対してシールを提供するためのシール面とを有するシール要素を製造する方法であって、該方法は、
約5質量%~40質量%の潤滑性粒子材料を含む焼結PTFEフィルムを提供すること、
該焼結PTFEフィルムを、モールドキャビティの表面の少なくとも一部の上に配置すること、及び
該モールドキャビティにエラストマー材料を導入して該焼結PTFEフィルムをオーバーモールドし、シール要素を形成すること
を含んでなり、該焼結PTFEフィルムは、該エラストマー本体に結合され、かつ、約25~200ミクロンの厚さを有し、さらに該焼結PTFEフィルムは該シール面を画定する、方法。
(項目36)
エラストマー本体と、接触面に対してシールを提供するためのシール面とを有するシール要素を製造する方法であって、該方法は、
約5質量%~40質量%の潤滑性粒子材料を含む焼結PTFEフィルムと、少なくとも1つのさらなるフィルム層とを含む多層ラミネートを提供すること、
該焼結PTFEフィルムがモールドキャビティの表面に面する状態で、モールドキャビティの表面の少なくとも一部の上に該多層ラミネートを配置すること、及び
該モールドキャビティにエラストマー材料を導入して該多層ラミネートをオーバーモールドし、シール要素を形成すること
を含んでなり、該多層ラミネートは該エラストマー本体に結合され、そして該焼結PTFEフィルムは該シール面を画定し、かつ、約25~200ミクロンの厚さを有する、
を含む、方法。
(項目37)
前記焼結PTFEフィルムは焼結ePTFEフィルムであり、オーバーモールド前の前記焼結ePTFEフィルムの厚さは約25~700ミクロンであり、オーバーモールド中に、前記ePTFEフィルムは少なくとも部分的に高密度化され、それにより、前記シール要素のシール層を画定する前記焼結ePTFEフィルムの厚さは約25~200ミクロンである、項目35又は36記載の方法。
(項目38)
前記焼結PTFEフィルム又は前記多層ラミネートはガス透過性である、項目35~37のいずれか1項記載の方法。
(項目39)
成形中、及び/又は、本体のエラストマー材料の硬化又は乾燥中に、前記焼結PTFEフィルム又は多層ラミネートを通してガスを流すことを含む、項目38記載の方法。
(項目40)
前記焼結PTFEフィルムは多孔性であり、及び/又は、前記多層ラミネートは、モールド又はキャビティに面する多孔性表面を提供し、該方法は、オーバーモールド中に前記エラストマー材料を細孔に浸透させて、前記エラストマー本体に隣接する浸透領域を形成することを含む、項目35~39のいずれか1項記載の方法。
(項目41)
項目35~40のいずれか1項記載の方法により得られるシール要素。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接触面に対してシールを提供するためのシール面を有するシール要素であって、該シール要素は、
エラストマー材料を含むエラストマー本体、及び
該エラストマー本体に結合され、そして該シール面を画定する焼結ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルム
を含んでなり、
該フィルムは約25ミクロン~200ミクロンの厚さを有し、かつ、該フィルムは約5質量%~40質量%の潤滑性粒子材料を含む、シール要素。
【請求項2】
前記焼結PTFEフィルムは、スカイブドPTFEフィルム、キャストPTFEフィルム、押出成形PTFEフィルム又は延伸PTFE(ePTFE)フィルムを含む、請求項1記載のシール要素。
【請求項3】
前記焼結PTFEフィルムは
二軸延伸されたePTFEフィルムである、請求項2記載のシール要素。
【請求項4】
前記焼結ePTFEフィルムは、前記焼結ePTFEフィルムの細孔内にエラストマー材料が存在する前記エラストマー本体に隣接する浸透領域と、前記シール面に隣接する非浸透領域とを含む、請求項3記載のシール要素。
【請求項5】
前記シール要素は多層ラミネートを含み、該多層ラミネートは前記シール面を画定する前記焼結PTFEフィルムと、少なくとも1つの中間層とを含む、請求項1~4のいずれか1項記載のシール要素。
【請求項6】
前記多層ラミネートは少なくとも1つの中間熱可塑性層を含む、請求項5記載のシール要素。
【請求項7】
前記焼結フィルムがePTFEフィルムであって、前記シール面を画定する前記焼結ePTFEフィルムは少なくとも部分的に高密度化されている、請求項3~6のいずれか1項記載のシール要素。
【請求項8】
前記潤滑性粒子材料は粉末形態又はマイクロ繊維形態で提供されるか、又は、前記潤滑性粒子材料はマイクロ粒子
もしくはナノ粒子を含む、請求項1~7のいずれか1項記載のシール要素。
【請求項9】
前記潤滑性粒子材料は、炭素系成分を含む、又は、炭素系成分からなる、請求項1~8のいずれか1項記載のシール要素。
【請求項10】
前記潤滑性粒子材料はグラファイトから本質的になる、請求項9記載のシール要素。
【請求項11】
前記焼結PTFEフィルムのシール面に対して垂直に測定した炭素(C):フッ素(F)比(C:F)/前記焼結PTFEフィルムの厚さに対して垂直に測定したC:F比の比率が0.8以下、0.7以下又は0.6以下である、請求項9又は10記載のシール要素。
【請求項12】
シール要素の製造に使用するための焼結ePTFEフィルムであって、該ePTFEフィルムは約5質量%~40質量%の潤滑性粒子材料を含み、約25ミクロン~700ミクロンの厚さを有
し、かつ、ePTFEフィルムは二軸延伸されている、焼結ePTFEフィルム。
【請求項13】
請求項12記載のePTFEフィルムと、少なくとも1つのさらなるフィルム層とを含む、多層ラミネート。
【請求項14】
エラストマー本体と、接触面に対してシールを提供するためのシール面とを有するシール要素を製造する方法であって、該方法は、
約5質量%~40質量%の潤滑性粒子材料を含む焼結PTFEフィルムを提供すること、
該焼結PTFEフィルムを、モールドキャビティの表面の少なくとも一部の上に配置すること、及び
該モールドキャビティにエラストマー材料を導入して該焼結PTFEフィルムをオーバーモールドし、シール要素を形成すること
を含んでなり、該焼結PTFEフィルムは、該エラストマー本体に結合され、かつ、約25~200ミクロンの厚さを有し、さらに該焼結PTFEフィルムは該シール面を画定する、方法。
【請求項15】
エラストマー本体と、接触面に対してシールを提供するためのシール面とを有するシール要素を製造する方法であって、該方法は、
約5質量%~40質量%の潤滑性粒子材料を含む焼結PTFEフィルムと、少なくとも1つのさらなるフィルム層とを含む多層ラミネートを提供すること、
該焼結PTFEフィルムがモールドキャビティの表面に面する状態で、モールドキャビティの表面の少なくとも一部の上に該多層ラミネートを配置すること、及び
該モールドキャビティにエラストマー材料を導入して該多層ラミネートをオーバーモールドし、シール要素を形成すること
を含んでなり、該多層ラミネートは該エラストマー本体に結合され、そして該焼結PTFEフィルムは該シール面を画定し、かつ、約25~200ミクロンの厚さを有する、
を含む、方法。
【国際調査報告】