(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-19
(54)【発明の名称】軽水炉運転中のSiC被覆管を沈静化させるための被膜及び表面改質
(51)【国際特許分類】
G21C 3/06 20060101AFI20220112BHJP
【FI】
G21C3/06 200
G21C3/06 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021529091
(86)(22)【出願日】2019-11-18
(85)【翻訳文提出日】2021-07-14
(86)【国際出願番号】 US2019061947
(87)【国際公開番号】W WO2020106606
(87)【国際公開日】2020-05-28
(32)【優先日】2018-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521219442
【氏名又は名称】ウェスティングハウス エレクトリック カンパニー エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】WESTINGHOUSE ELECTRIC COMPANY LLC
【住所又は居所原語表記】1000 Westinghouse Drive, Suite 141, Cranberry Township, Pennsylvania 16066 United States of America
(71)【出願人】
【識別番号】594106405
【氏名又は名称】ウィスコンシン・アルムナイ・リサーチ・ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】WISCONSIN ALUMNI RESEARCH FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エドワード ジェイ. ラホダ
(72)【発明者】
【氏名】ペン シェイ
(72)【発明者】
【氏名】ロバート エル. エルリッチ ジュニア
(72)【発明者】
【氏名】ファソン ヨム
(72)【発明者】
【氏名】クマル スリダーラーン
(57)【要約】
本発明は、改良された耐食性及び気密性保護のために外面上に施された金属被膜、セラミック被膜及び/又は多層被膜を有するSiCセラミック基複合材料(CMC)被覆管に関する。被膜は、FeCrAl、Y、Zr及びAl-Cr合金、Cr2O3、ZrO2及び他の酸化物、炭化クロム、CrN、Zrシリケート及びYシリケート、並びにZrシリサイド及びYシリサイドから選択される一つ又は複数の材料を含む。被膜は、コールドスプレー、溶射プロセス、物理蒸着プロセス(PVD)、及びスラリーコーティングを含む様々な公知の表面処理技術を利用して施される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽水型原子炉の複合炭化ケイ素被覆管であって、
外面(25)を有する炭化ケイ素基材(21)と、
前記炭化ケイ素基材(21)の前記外面(25)に施された被膜と、を備え、
前記被膜は、
FeCrAl、Y、Zr、及びAl-Cr合金、
Cr
2 O
3、ZrO
2、炭化クロム、CrN、Zrシリケート及びYシリケート、並びに、
Zrシリサイド及びYシリサイド
からなる群から選択される一つ又は複数の材料を含む、複合炭化ケイ素被覆管。
【請求項2】
前記被膜は、
前記炭化ケイ素基材(21)の前記外面(25)に施されたFeCrAl合金被膜(28)、又は
前記炭化ケイ素基材(21)の前記外面(25)に施されたアルミニウム被膜(23)、及び前記アルミニウム被膜(23)に施されたFeCrAl合金被膜(28)、又は
前記炭化ケイ素基材(21)の前記外面(25)に施された混合被膜(30)であって、Al
4C
3+Si及びFe-Al合金を含む前記混合被膜(30)、前記混合被膜(30)に施されたFeCrAl合金被膜(28)、及び前記FeCrAl合金被膜(28)に施されたCr
2O
3被膜(32)、又は
前記炭化ケイ素基材(21)の前記外面(25)に施されたCrN層(41)、前記CrN層(41)に施されたクロム層(44)、及び、CrN層(46)及びクロム層(48)層が交互に施された一つ又は複数の追加層、又は
前記炭化ケイ素(21)の前記外面(25)に施されたイットリウムシリコン層、又は
前記炭化ケイ素層(21)の前記外面(25)に施されたイットリウムシリサイド若しくはジルコニウムシリサイド層(51)、又は、
炭化ケイ素層(21)の外面(25)に施されたイットリウムシリケート若しくはジルコニウムシリケート層(54)を含む、請求項1に記載の複合炭化ケイ素被覆管。
【請求項3】
軽水型原子炉に使用するための複合炭化ケイ素被覆管を製造する方法であって、
外面(25)を有する炭化ケイ素基材(21)を提供するステップと、
炭化ケイ素基材(21)の外面(25)上に被膜を堆積させるステップと、
前記被膜は、
FeCrAl、Y、Zr及びAl-Cr合金、
Cr
2O
3、ZrO
2、炭化クロム、CrN、Zrシリケート及びYシリケート、並びに
Zrシリサイド及びYシリサイド
からなる群から選択される一つ又は複数の材料を含む、方法。
【請求項4】
前記堆積させるステップは、
(a.)前記炭化ケイ素基材(21)の前記外面(25)上にFeCrAl合金被膜(28)を堆積させるステップ、又は
(b.)炭化ケイ素基材(21)の前記外面(25)上にアルミニウム被膜(23)を堆積させ、前記アルミニウム被膜(23)上にFeCrAl合金被膜(28)を堆積させるステップ、又は
(c.)前記炭化ケイ素基材(21)の前記外面(25)上にCrN層(41)を堆積させ、前記CrN層(41)上にクロム層(44)を堆積させ、その上にCrN(46)層及びクロム(48)層が交互に施された一つ又は複数の追加層を堆積させるステップ、又は
(d.)前記炭化ケイ素(21)の前記外面(25)上にイットリウムシリコン層を堆積させるステップ、又は
(e.)前記炭化ケイ素層(21)の前記外面(25)上にイットリウムシリサイド層又はジルコニウムシリサイド層(51)を堆積させるステップ、又は
(f.)前記炭化ケイ素層(21)の前記外面(25)上にイットリウムシリケート層又はジルコニウムシリケート層(54)を堆積させるステップ、
を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(b.)、(d.)、(e.)及び(f.)のうちの一つ又は複数が、前記被膜を熱処理することをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(b.)の前記被膜を熱処理することをさらに含み、
前記被膜を熱処理することは、
前記炭化ケイ素基材(21)の前記外面(25)に施された混合被膜(30)であって、Al
4C
3+Si及びFe-Al合金を含む前記混合被膜(30)と、
前記混合被膜(30)に施されたFeCrAl合金被膜(28)と、
前記FeCrAl合金被膜(28)に施されたCr
2O
3被膜(32)と、を形成する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(d.)の前記被膜を熱処理することをさらに含み、
前記被膜を熱処理することは、前記炭化ケイ素基材(21)の前記外面(25)に施されたイットリウムシリケート層(54)を形成する、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(e.)の前記被膜を熱処理することをさらに含み、
前記被膜を熱処理することは、
前記炭化ケイ素基材(21)の前記外面(25)に施されたイットリウムシリケート層又はジルコニウムシリケート層(54)を形成する、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(f.)の前記被膜を熱処理することをさらに含み、
前記被膜を熱処理することは、前記炭化ケイ素基材(21)の前記外面(25)に施されたイットリウムシリケート層又はジルコニウムシリケート層(54)を形成する、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記被膜を堆積させるステップは、コールドスプレー、溶射、物理蒸着、DC反応性スパッタリング、及びスラリーコーティングからなる群から選択されるプロセスを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項11】
前記熱処理は、500~600℃の温度で実施される、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府支援
本発明は、DE-NE0008800、DE-NE0008300、及びDE-NE0008222の下で、エネルギー省(DOE)によって授与された米国政府の支援によってなされた。米国政府は、本発明の一定の権利を有する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年11月20日に出願された米国実用特許出願第16/196,005号からの優先権を主張し、その開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
本発明は、概して原子炉に関し、より詳細には、軽水型原子炉を運転するときの炭化ケイ素被覆管に関する。
【背景技術】
【0004】
加圧水型原子炉(PWR)のような一般的な軽水型原子炉では、炉心は多数の燃料集合体を含み、各燃料集合体は複数の細長い燃料要素又は燃料棒から構成される。燃料集合体は、炉心の所望の大きさ及び原子炉の大きさに応じて、寸法及び設計が異なる。それぞれの燃料棒は、例えば二酸化ウラン(UO2)、二酸化プルトニウム(PuO2)、二酸化トリウム(ThO2)、窒化ウラン(UN)及びケイ化ウラン(U3Si2)、又はそれらの混合物のうちの少なくとも一つなどの核燃料核分裂性物質を含む。燃料棒の少なくとも一部はまた、例えばホウ素又はホウ素化合物、ガドリニウム又はガドリニウム化合物、エルビウム又はエルビウム化合物などの中性子吸収材料を含むことができる。中性子吸収材料は、核燃料ペレットのスタック(積層)状でペレット上又はペレット中に存在してもよい。環状形態又は粒子状形態の燃料も使用することができる。
【0005】
燃料棒の各々は、核分裂性物質を保持するための格納容器として作用する被覆管を有する。各燃料棒の被覆管は、各端部に配置されたプラグ又はキャップを有する。更に、燃料棒には、核燃料ペレットのスタックの構成を維持するための例えば金属ばねなどの押え装置が設けられている。
図1は、燃料棒における従来技術の設計を示しており、この燃料棒は、エンドプラグ16を備えたジルコニウムベースの被覆管12を示しており、燃料棒は、被覆管12の内側に配置されている、燃料ペレットのスタック10とばね押え装置14とを有している。エンドプラグ16の一方、即ち、押え装置14に最も近接して配置されたエンドプラグは、通常はトップエンドプラグと呼ばれる。燃料棒は、高速の核分裂と、その結果、熱の形で大量のエネルギーを放出することとをサポートするのに十分な中性子束を炉心内に供給するように構成されたアレイにまとめられている。例えば水などの冷却材が原子炉の炉心を通って圧送され、原子炉の炉心で発生する熱を取り出し、例えば電気などの有用な成果物を生成する。
【0006】
燃料棒の被覆管は、ジルコニウム(Zr)で構成されてもよく、重量比で約2パーセントの他の金属、例えばニオブ(Nb)、スズ(Sn)、鉄(Fe)及びクロム(Cr)などを含んでもよい。当技術分野における最近の進展により、炭化ケイ素(SiC)などのセラミック含有材料から構成される燃料棒被覆管が提供されている。SiCは、設計基準外事象、例えば、1200℃を超える温度において望ましい特性を発揮することが示されており、従って、核燃料棒被覆管における適切な構造材料と考えることができる。しかしながら、ハンドリング、又は事故、又は例えば地震などの自然現象によって誘発される屈曲中に、核分裂ガス不透過性を維持することは、一般的に、セラミック材料固有の非弾性のために困難である。1200℃を超える温度で、SiC管上のエンドプラグを高スループットで経済的な方法で締め付け、気密シールをもたらすことも難しい。SiC繊維で包まれたZr合金で構成されている内側スリーブの使用が試みられてきたが、SiCがSiC繊維内及びSiC繊維上に付着し、それらを一緒に保持する場合、化学気相含浸(CVI)中に生じる過剰な腐食のために失敗してきた。従って、例えば約800℃~約1200℃などの原子炉の炉心に関連する温度におけるZr管の腐蝕と、CVI工程中に発生する、例えばガスがH2、Cl2及びHClを含有することなどの化学条件と、を含む核燃料棒被覆管に関する問題が残存する。
【0007】
また、SiC巻線を別に作り、それをCVIにさらし、次いでZr管上に適合させることも試みられてきた。しかしながら、このアプローチにも問題がある。例えば、Zr管とSiC複合材料マトリックスとの間の空間は、被覆管層内に付加的な熱伝達障壁を形成する。これは、核燃料が遭遇する非常に高い線出力密度(通常5kw/ftより大きい)において燃料中心部の溶融を引き起こす可能性がある。その端部が覆われていないため、Zr管がSiC複合材料スリーブから滑りおち、高温の水蒸気及び他のガスがSiC複合材料の下方に浸透し、Zr合金管に到達する経路を提供する可能性がある。
【0008】
しかしながら、SiC-SiC複合材料が、事故耐性燃料(ATF)被覆材として、軽水炉(LWR)におけるZr合金の代替物の主要候補として出現している。SiC複合材料は、耐高温水蒸気腐食性、優れた高温強度、及び良好な放射安定性により、冷却材喪失事故(LOCA)及び他の発生し得る事故シナリオ下での対応時間(coping time)の延長が期待されている。SiC‐SiC複合材料の研究開発は、製造、エンドキャップ接合、スケーラビリティ及び高温試験の分野に焦点を当ててきた。
【0009】
ある一つのSiC被覆管の設計は、機械的靭性のための内側SiC-SiC複合材料(SiC繊維/マトリックス)と、耐食性を改善し、不浸透性核分裂ガスバリアとして役立つための外側モノリシックSiC被膜と、から成る。しかし、水冷却材中のSiCの水熱腐食は、LWRの通常運転条件において重要な懸念事項である。これは、プロトタイプの水性LWR環境におけるSiCの重量及び厚さの損失を示す
図2に示されるデータにおいて実証される。この作用は、原子炉冷却材中のSiCの酸化により形成されたシリカ相の溶解に起因する。可能性のある一つのシリカ形成反応及び溶解経路は、以下の通りである。
SiC
(s)+4H
2O
(aq)→SiO
2(s)+4H
2(g)+CO
2(g)(1)
SiO
2(s)+2H
2O
(aq)→Si(OH)
4(aq) (2)
【0010】
溶存酸素と水の放射線分解による水冷却材中の酸素活量が高いことと、放射線損傷がSiC被覆管表面の熱水腐食と減肉を加速させる可能性がある。SiC腐食を緩和する一つのアプローチは、水冷却剤の化学的性質を制御することである。以下の原子炉シミュレートされた水の化学的性質が
図2に示されている:330℃の温度で3.57ppmのH
2及びpH7.2を有するPWR、290℃の温度で0.3ppmのH
2及びpH5.6を有するBWR-HWC、及び290℃の温度で1.0ppmのO
2及びpH5.6を有するBWR-NWCである。
図2に示すように、例えば、水中に水素を溶解することは、腐食を低減することができるが、腐食は、存在する場合、より遅い速度で、且つ、微細構造欠陥(例えば、アモルファスSiC)で発生し続ける。
【0011】
さらに、純粋なSiCセラミック基複合材料(CMC)管は、微小亀裂の影響を受けやすく、ハンドリング中及び移送中に気密性を失う可能性があることが見いだされている。従って、腐食及び気密性の問題を緩和するために、SiC被覆管の外側に金属又はセラミック被覆を使用する新しいSiC被覆管設計が必要である。
【0012】
過去には、航空宇宙用途、即ち種々の酸化物(例えば、酸化イットリウム、アルミナ、ジルコニア)のプラズマ溶射被膜のために、SiCマトリックス複合材料上に被膜を施すことに成功してきた。本発明によれば、腐食及び気密性の問題を改善するために、SiC被覆管に対して同様の被膜を施すことができる。
【発明の概要】
【0013】
一態様では、外面を有する炭化ケイ素基材と、炭化ケイ素基材の外面に施された被膜とを含み、被膜は、FeCrAl、Y、Zr、及びAl-Cr合金、Cr2O3、ZrO2及び他の酸化物、炭化クロム、CrN、Zrシリケート及びYシリケート、並びにZrシリサイド及びYシリサイドから選択される一つ又は複数の材料を備える、軽水原子炉内の複合炭化ケイ素被覆管を提供する。
【0014】
特定の実施形態では、本発明は、炭化ケイ素基材の外面に施されたFeCrAl合金被膜、又は炭化ケイ素基材の外面に施されたアルミニウム被膜及びアルミニウム被膜に施されたFeCrAl合金被膜、又は炭化ケイ素基材の外面に施された混合被膜であって、Al4C3+Si及びFe-Al合金を含む混合被膜、混合被膜に施されたFeCrAl合金被膜、及びFeCrAl合金被膜上に施されたCr2O3被膜、又は炭化ケイ素基材の外面に施されたCrN層及びCrN層に施されたクロム層、及び、CrN層及びクロム層が交互に施された一つ又は複数の追加層、又は炭化ケイ素の外面に施されたイットリウムシリコン層、又は炭化ケイ素層の外面に施されたイットリウムシリサイド若しくはジルコニウムシリサイド層、又は炭化ケイ素層の外面に施されたイットリウムシリケート若しくはジルコニウムシリケート層を含む。
【0015】
別の態様では、本発明は、軽水型原子炉で使用するための複合炭化ケイ素被覆管を製造する方法を提供する。該方法は、外面を有する炭化ケイ素基材を提供することと、炭化ケイ素基材の外面に被膜を堆積させることとを含み、被膜は、FeCrAl、Y、Zr及びAl-Cr合金、Cr2O3、ZrO2及び他の酸化物、炭化クロム、CrN、Zr-シリケート及びYシリケート、並びにZr-シリサイド及びYシリサイドから選択される一つ又は複数の材料を含む。
【0016】
特定の実施形態では、本発明は、(a.)炭化ケイ素基材の外面上にFeCrAl合金被膜を堆積させるステップ、又は(b.)炭化ケイ素基材の外面上にアルミニウム被膜を堆積させ、アルミニウム被膜上にFeCrAl合金被膜を堆積させるステップ、又は(c.)炭化ケイ素基材の外面上にCrN層を堆積させ、CrN層上にクロム層を堆積させ、及びその上にCrN層及びクロム層が交互に施された一つ又は複数の追加層を堆積させるステップ、又は(d.)炭化ケイ素の外面上にイットリウムシリコン層を堆積させるステップ、又は(e.)炭化ケイ素層の外面上にイットリウムシリサイド層又はジルコニウムシリサイド層を堆積させるステップ、又は(f.)炭化ケイ素層の外面上にイットリウムシリケート層又はジルコニウムシリケート層を堆積させるステップ、を含む。
【0017】
特定の実施形態において、ステップ(b)、(d)、(e)及び(f)のうちの一つ又は複数は、被膜を熱処理することをさらに含む。(b.)被膜を熱処理すると、炭化ケイ素基材の外面に施されたAl4C3+Si及びFe-Al合金を含む混合被膜と、混合被膜に施されたFeCrAl合金被膜と、FeCrAl合金被膜に施されたCr2O3被膜とを形成することができる。(d.)被膜を熱処理すると、炭化ケイ素基材の外面に施されたイットリウムシリケート層を形成することができる。(e.)被膜を熱処理すると、炭化ケイ素基材の外面に施されたイットリウムシリケート層又はジルコニウムシリケート層を形成することができる。(f.)被膜を熱処理すると、炭化ケイ素基材の外面に施されたイットリウムシリケート層又はジルコニウムシリケート層を形成することができる。熱処理ステップは、500~600℃の温度で実施してもよい。
【0018】
成膜は、コールドスプレー、溶射、物理蒸着、DC反応性スパッタリング、及びスラリーコーティングからなる群から選択されるプロセスによって施すことができる。
【0019】
本発明のさらなる理解は、添付の図面と併せて読めば、好ましい実施形態の以下の説明から得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明を適用することができる従来技術の原子炉燃料棒の構造の簡略化された概略図である。
【
図2】様々な水化学物質についての水オートクレーブ試験におけるCVD-SiCの重量損失を示すグラフである。
【
図3A】本発明の特定の実施形態による、SiC基材上に成膜直後のアルミニウム結合層を有するコールドスプレーされたFeCrAl合金被膜の多層被膜構造の簡略化された概略図である。
【
図3B】本発明の特定の実施形態による、熱処理後の
図3Aの多層被膜構造の簡略化された概略図である。
【
図4】本発明の特定の実施形態による、SiC基材上にCrとCrNの交互の被膜層を有する多層被膜構造の簡略化された概略図である。
【
図5】Zr酸化物及びY酸化物形成の自由エネルギーを示すグラフである。
【
図6A】本発明の特定の実施形態による、SiC基材上に物理蒸着によって成膜直後のYSi層の多層被膜構造の簡略化された概略図である。
【
図6B】本発明の特定の実施形態による、Y
2Si
2O
7層を含む、熱処理後の
図6Aの多層被膜構造の簡略化された概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、改良された耐食性及び気密性保護のために外面上に施された金属、セラミック及び/又は多層被膜を有する新規なSiCセラミック基複合材料(CMC)被覆管を提供する。被膜材料は、FeCrAl、Y、Zr及びAl-Cr合金、Cr2O3、ZrO2及び他の酸化物、炭化クロム、CrN、Zrシリケート及びYシリケート、並びにZrシリサイド及びYシリサイドから選択される一つ又は複数の材料を含む。被膜は、コールドスプレー、溶射プロセス、物理蒸着プロセス(PVD)、及びスラリーコーティングを含む様々な公知の表面処理技術を利用して配置される。
【0022】
SiC-SiCは、優れた高温強度及び耐酸化性、並びに、文書で十分に立証された放射線損傷応答を有している。従って、それは、事故耐性の観点から、LWR燃料被覆管と炉心構成要素において優れた選択である。しかしながら、SiC-SiCは、この環境における二酸化ケイ素の熱力学的不安定性が起因して、通常のLWR運転条件下で顕著な水溶液腐食も示す。さらに、純粋なSiC CMC管は、その脆性のために、微小亀裂も起こりやすい。
【0023】
本発明の新規な特徴は、改良されたSiC被覆管を提供するだけでなく、前述の問題及び問題に対処する。
【0024】
本発明によるSiC被覆管は、被覆管の外側、例えば外面上における新規な金属又はセラミック又は多層被膜からなる。ある実施態様において、FeCrAl合金被膜がSiC被覆管上に堆積される。FeCrAl合金被膜は、SiC被覆管の外面上に直接堆積され得るか、又は代替的に、FeCrAl合金被膜は、例えば、SiC被覆管に直接施される結合層上に堆積されることによって、SiC被覆管に間接的に結合され得る。
【0025】
図3Aは、外面25を有するSiC基材21と、SiC基材21上に堆積されたFeCrAl合金被膜28とを有する多層被膜構造20を示す。加えて、構造20は、SiC基材21とFeCrAl合金被膜28との間に、アルミニウム(Al)層23、例えば、薄膜又は薄い層を堆積させた。Al層23は、SiC基材21の外面25上に直接堆積され、FeCrAl合金被膜28は、Al層23の外面26上に直接堆積される。ここで、Al層23は、結合層として働く。FeCrAl合金被膜28の外面29は、原子炉の炉心を通して圧送される、例えば水などの冷却剤と接触可能である、SiC CMCの外部表面として働く。
【0026】
本発明の新規な金属又はセラミック又は多層被膜は、従来のコールドスプレー被膜技術を用いて適用することができる。例えば、FeCrAl合金被膜28はコールドスプレー被膜技術によって形成することができ、Al(結合)層23は、コールドスプレーされたFeCrAl(金属)合金被膜28のSiC(セラミック)基材21への優れた接着性を提供する。
【0027】
更なる接着性向上は、
図3Aにおいて成膜直後の構造20を、例えば、約500℃から約600℃などの成膜後の熱処理にかけることによって達成することができ、これによって、Al層23とFeCrAl合金被膜28及びSiC基材21との相互混合が促進されて、結合強度が増加し、二層のコールドスプレー被膜が形成される。
図3Bは、熱処理を伴う多層被膜構造20をさらに示す。
図3Bは、
図3Aに示すように、SiC基材21及びFeCrAl合金被膜28を含む。さらに、
図3Bは、SiC基材21とFeCrAl合金被膜28との間に位置し、熱処理の結果としてAl
4C
3+Si及びFe-Al合金から構成される混合中間層30を示す。中間層30は、SiC基材21の外面25上に直接堆積される。Cr
2O
3層32は、FeCrAl合金被膜層28の外面29上に形成され、Cr
2O
3層32の外面33は、原子炉炉心を通って圧送される、例えば水などの冷却材と接し得るSiC CMCの外部表面を形成する。
【0028】
コールドスプレー堆積の代替として、本発明では溶射プロセスを使用してもよい。溶射プロセスは、通常、溶融粒子を形成するために濃縮熱源によって粉末供給物を溶融するステップと、溶融粒子を基材の表面に噴霧して緻密な被膜を形成するステップとを含む。このプロセスは、セラミック及び硬質金属基材上へのセラミック被膜の堆積のために産業界で広く利用されている。同様に、溶射を用いて、Cr、Y、Zr、Cr2O3、ZrO2、Cr3C2、CrSi2、Y2Si2O7、Y2Si3O9及びYSi2などのセラミックス及び半金属被膜材料をSiC被覆管上に堆積させることができる。
【0029】
例えば、Y2Si2O7は、ケイ素(Si)が高温水系のシリケート相中で非常に不動であるため、LWR冷却剤中において非常に安定である。Y2Si2O7とSiCの熱膨張係数は近似であり、つまり、Y2Si2O7の場合は4~5×10-6/°C、SiCの場合は4.3~5.4×10-6/°Cである。これは、被膜において熱ストレスが最小限であるということを示している。シリケート被膜は、イットリウムの中性子断面積がジルコニウムの中性子断面積の半分未満であるため、最小の中性子ペナルティをもたらす。
【0030】
本発明によれば、熱変換の有無にかかわらず、物理蒸着(PVD)を成膜用途に使用することができる。一般に、PVDプロセスは、高度の組成及び微細構造の制御性、均一性及び純度で、さまざまな種類の被膜材料を堆積させることができる。生成されたエネルギーイオン(一般にアルゴン)はターゲット材料に衝突し、スパッタされたターゲット原子は基材上に凝縮し、例えば、以下の材料の薄い被膜、ZrSi2、及びYSi2の薄い被膜を形成する。この2つのシリサイド被膜は、高温で耐久性の高いZrSiO4とY2Si2O7に変換される。
【0031】
さらに、PVDが施された薄いCrN被膜の耐食性は、ジルコニウム基材に対する水オートクレーブ試験において、TiAlN、TiN、及びAlCrNのような他の窒化物の膜より優れていることが示されている。本発明によれば、PVDプロセスを用いて、前述の窒化クロム(CrN)被膜をSiCに堆積させることができる。あるいは、CrN被膜は、直流(DC)反応性スパッタリングによっても生成することができ、市販のCrターゲットは、Arガス(Cr用)及び窒素とアルゴンの混合物(CrN用)によって、電圧バイアス下でスパッタリングされて、被膜の堆積速度を増加させる。
【0032】
特定の実施形態では、Cr-CrN多層被膜が、SiC被覆管表面上に堆積されてもよい。
図4は、SiC基材21(
図3A及び3Bに示されるようなベース層)を有する多層被膜構造40を示しており、外面25と、SiC基材21の外面25上に堆積された第1のCrN被膜41とを有している。第1のCrN被膜41の外面42には、第1のCr層44が施されている。第2のCrN層46が第1のCr層44の外面45に施され、第2のCr層48が第2のCrN層46の外面47に施される。第2のCr層48の外面49は、原子炉の炉心を通して圧送される水のような冷却材と接し得るSiC CMCの外部表面として機能する。
【0033】
特定の理論に拘束されることを意図するものではないが、多層被膜構造において、亀裂の伝播は、腐食に対する被膜の耐久性を高める界面によって、阻止されると考えられる。
【0034】
本発明によれば、堆積された多層被膜構造を成膜後に熱処理にかけることにより、SiC被覆管の耐食性を向上させることができる。高温での処理は、成膜直後の被膜構造及び組成をより耐食性のある構成に熱的に変換する。例えば、PVD堆積されたジルコニウムシリサイド(Zrシリサイド)及びイットリウムシリサイド(Yシリサイド)は、それぞれ、Zrシリケート被膜及びYシリケート被膜に熱的に変換することができる。
図5は、それぞれ36及び37で示されるZr酸化物及びY酸化物生成の自由エネルギーが、35で示されるSiO
2生成の自由エネルギーよりも負であることを図示している。従って、多くの遷移金属シリサイドとは異なり、Zrシリサイド又はYシリサイドの酸化は、SiO
2層の代わりに混合金属/シリコン酸化物をもたらす。その結果、金属シリケート(ZrSiO
4又はY
2Si
2O
7)の生成が熱力学的に有利になる。高密度ZrSiO
4層は、化学蒸着(CVD)したSiC表面上に、PVDしたZrSi
2被覆が大気中で1400℃、5時間酸化されることによって形成できることが実証されている。ZrSiO
4の最上層は、加圧蒸気中でSiを完全に固定し、腐蝕の影響をほとんど受けない。
【0035】
同様に、イットリウムシリケート層の形成は、イットリウムシリサイド被膜の後熱処理によって促進される。
図6Aは、外面25を有するSiC基材21と、SiC基材21の外面25上に堆積されたYSi被膜51とを有する多層被膜構造50を示す。YSi被膜51の外面52は、SiC CMCの外部表面として機能する。前述のように、YSi被膜51は、従来のPVD技術によって形成することができる。
図6Bは、熱処理後の
図6Aの多層被膜構造50を示す。
図6Bの熱処理された構造50は、
図6Aの成膜直後の構造に示すように、SiC基材21を含む。さらに、
図6Bの熱処理された構造50は、熱処理の結果としてSiC基材21上に堆積されたY
2Si
2O
7層54を示し、その結果、Y
2Si
2O
7層54の外面56は、SiC CMCの外部表面を形成し、この外部表面は、原子炉の炉心を通って圧送される水などの冷却材と接触可能である。
【0036】
別の代替的な成膜方法は、基材へのスラリーコーティングの適用である。この加工技術は、一般に、ポリマー前駆体法(Polymer Derived Ceramics(PDCs))と呼ばれる。それは、比較的低コスト、ニアネットシェイプ成形を実施する能力、並びに複雑な構造、高純度出発材料及び比較的低い加工温度(<1200℃)における製造のために魅力的な代替法である。アモルファス相及び結晶相のPDCコーティングは、一般に、多孔質非酸化セラミックと高融点金属とにおける腐食、酸化、及び摩耗保護に対するものとして関心が高まっている。
【0037】
本発明における特定の実施形態に従って、例えば有機金属ケイ素ポリマー、エチレンビスステアラミド(EBS)、化学式(CH2NHC(O)C17H35)2を有する有機化合物などのPDCをポリマー前駆体として使用することができる。TiO2、Cr2O3、ZrO2、Cr、Ti、CrAl合金、Zr合金、ZrO2等の充填材を用いることにより、耐食性や破壊靭性をさらに向上させることができる。
【0038】
本発明の特定の実施例が、詳細に記載されてきたが、当業者にはこれらの詳細に対する様々な修正物及び代替物が、本明細書に開示の全体的な教示に照らして、開発されることが理解されるだろう。従って、本明細書に開示された特定の実施形態は、例示的なものにすぎず、添付の特許請求の範囲並びにその任意の及びすべての均等物が与えられる本発明の範囲を限定するものではないことが意図されている。
【国際調査報告】