(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-19
(54)【発明の名称】冷媒蒸発によって媒体の温度を制御するシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
F28D 15/06 20060101AFI20220112BHJP
F28D 15/02 20060101ALI20220112BHJP
F28D 1/06 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
F28D15/06 D
F28D15/02 E
F28D15/02 101L
F28D15/02 102A
F28D1/06 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021534111
(86)(22)【出願日】2019-07-03
(85)【翻訳文提出日】2021-03-25
(86)【国際出願番号】 US2019040567
(87)【国際公開番号】W WO2020040887
(87)【国際公開日】2020-02-27
(32)【優先日】2018-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521076960
【氏名又は名称】エイベル,トーマス,ユー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エイベル,トーマス,ユー.
【テーマコード(参考)】
3L103
【Fターム(参考)】
3L103AA35
3L103BB35
3L103CC18
3L103DD62
(57)【要約】
冷媒蒸発によって媒体の温度を制御するシステムおよび方法。システムは、容器と、前記容器内の媒体の体積と熱的に結合し前記容器内の媒体熱的カバレッジを提供するよう構成される外表面を有する壁を含む少なくとも1つのリザーバ区画と、前記少なくとも1つの冷媒リザーバ内の冷媒蒸気圧の調整を提供する蒸気圧装置と、を備える。それによって、前記冷媒リザーバは、前記リザーバ区画のそれぞれに熱的に結合される前記容器内の前記媒体の体積の選択された温度においてまたはその近傍の温度において、冷媒蒸発を可能にするために、冷媒を収容することに応じて、および、前記冷媒の上の蒸気圧の蒸気圧装置調整に応じて、前記少なくとも1つのリザーバ区画のそれぞれの内部に蒸気空間を形成する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒蒸発によって媒体の温度を制御するシステムであって、
外部および内部を有する容器と、
前記容器に関連付けられる少なくとも1つの冷媒リザーバであって、前記少なくとも1つの冷媒リザーバは、冷媒を保持するよう構成される少なくとも1つのリザーバ区画を有し、少なくとも1つのリザーバ区画のそれぞれは、前記容器内の前記媒体の体積と熱的に結合し、かつ前記容器内の前記媒体の前記体積に熱的変化を提供するように構成された外表面を有する壁を有し、それによって、前記容器内の媒体熱的カバレッジの体積を提供し、前記媒体熱的カバレッジの体積は外部境界を有する、少なくとも1つの冷媒リザーバと、
前記少なくとも1つの冷媒リザーバ内の冷媒蒸気圧の調整を提供する蒸気圧装置と、
を備え、
前記少なくとも1つの冷媒リザーバは、冷媒を収容することに応じて、および、前記冷媒の上の蒸気圧の蒸気圧装置調整に応じて、前記少なくとも1つのリザーバ区画のそれぞれの内部に蒸気空間を形成して、前記少なくとも1つのリザーバ区画のそれぞれに熱的に結合される前記容器内の前記媒体の前記体積について、前記媒体熱的カバレッジの体積の選択された温度においてまたはその近傍の温度において、冷媒蒸発を可能にするよう構成される、
システム。
【請求項2】
前記少なくとも1つのリザーバ区画は、複数のリザーバ区画を備え、
前記複数のリザーバ区画は、それぞれ内部リザーバ空間を有し、
前記内部リザーバ空間は、隣接するリザーバ区画の少なくとも1つの他の内部リザーバ空間と流体連通し、
前記複数のリザーバ区画は、少なくとも隣接するような熱的カバレッジそれぞれの境界を有する媒体熱的カバレッジそれぞれの体積をもって、隣接するリザーバ区画に対して離間された関係で配置される、
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記冷媒リザーバおよび前記蒸気圧装置と流体連通する冷媒源をさらに備え、
前記蒸気圧装置によって調整される前記冷媒リザーバ内の蒸気圧の変化に応じて、前記冷媒リザーバに冷媒を提供するよう構成される、
請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記複数のリザーバ区画は、互いに直列に結合されるか、互いに並列に結合されるか、または、互いに直列および並列配置の組み合わせで結合される、請求項2に記載のシステム。
【請求項5】
各内部リザーバ空間は、各前記リザーバ区画内において少なくとも1つの堰によって形成され、
前記少なくとも1つの堰は、前記リザーバ区画を蒸気空間および冷媒空間に分割するような寸法および形状である、
請求項2に記載のシステム。
【請求項6】
前記冷媒リザーバはリザーバ区画の格子を備える、請求項2に記載のシステム。
【請求項7】
R3は以下のように決定される前記媒体熱的カバレッジの体積の半径であり、
【数1】
ただし、
H1=冷媒熱伝達率であり、境界層効果を含み(W/m
2*K)、
H2=媒体熱伝達率であり、境界層効果を含み(W/m
2*K)、
J=単位体積あたり単位時間あたりに媒体によって生成される熱(W/m
3)、
K1=冷媒リザーバ壁構成材料の熱伝導率(W/m*K)、
R1=リザーバ区画の中心からリザーバ区画壁の内部までの半径(m)、
R2=リザーバ区画の中心からリザーバ区画壁の外部までの半径(m)、
R3=リザーバ区画の中心から媒体熱的カバレッジの外部境界までの半径(m)、
T1=蒸発の位置における冷媒の温度(K)、
T2=熱的カバレッジの外部境界における前記媒体の温度(K)、
である、請求項2に記載のシステム。
【請求項8】
隣接するリザーバ区画の中心の間の最小間隔は、(2/√2)*R3以上であり、R3は前記媒体熱的カバレッジの体積の半径である、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記少なくとも1つの冷媒リザーバは、前記容器の前記内部に配置される、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記少なくとも1つの冷媒リザーバは、前記容器の前記外部に配置される、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
冷媒蒸発によって媒体の温度を制御する方法であって、
前記方法は、冷媒の冷媒蒸発によって前記媒体の前記温度を制御する装置を提供することを含み、
前記媒体の前記温度を制御する装置を提供することは、
‐外部および内部を有する容器と、
‐前記容器に関連付けられる少なくとも1つの冷媒リザーバであって、前記少なくとも1つの冷媒リザーバは、冷媒を保持するよう構成される少なくとも1つのリザーバ区画を有し、少なくとも1つのリザーバ区画のそれぞれは、前記容器内の前記媒体の体積と熱的に結合し、かつ前記容器内の前記媒体の前記体積に熱的変化を提供するように構成された外表面を有する壁を有し、それによって、前記容器内の媒体熱的カバレッジの体積を提供し、前記媒体熱的カバレッジの体積は外部境界を有する、少なくとも1つの冷媒リザーバと、
‐前記少なくとも1つの冷媒リザーバ内の冷媒蒸気圧の調整を提供する蒸気圧装置と、
を提供することを含み、
前記少なくとも1つの冷媒リザーバは、冷媒を収容することに応じて、および、前記冷媒の上の蒸気圧の蒸気圧装置調整に応じて、前記少なくとも1つのリザーバ区画のそれぞれの内部に蒸気空間を形成して、前記少なくとも1つのリザーバ区画のそれぞれに熱的に結合される前記容器内の前記媒体の前記体積について、前記媒体熱的カバレッジの体積の選択された温度においてまたはその近傍の温度において、冷媒蒸発を可能にするよう構成され、
前記方法は、
前記少なくとも1つの冷媒区画を部分的に占有し、前記少なくとも1つの冷媒区画内に蒸気空間を形成するように、前記少なくとも1つの冷媒リザーバに冷媒を導入することと、
前記少なくとも1つのリザーバ区画のそれぞれに熱的に結合される前記容器内の前記媒体の前記体積について、前記媒体熱的カバレッジの体積の選択された温度においてまたはその近傍の温度において、冷媒蒸発を可能にするために、前記少なくとも1つの冷媒リザーバ内の前記冷媒の上の蒸気圧を調整することと、
を含む、方法。
【請求項12】
容器に格納された媒体の温度を制御する方法であって、
前記媒体を局所化熱体積に区分することと、
前記媒体を選択された温度に維持するために、前記局所化熱体積の温度を制御するために、各局所化熱体積に冷媒を熱的に結合することと、
を含む方法。
【請求項13】
前記媒体を局所化熱体積に区分することは、各局所化熱体積に少なくとも1つの冷媒リザーバ区画を関連付けて冷媒リザーバを前記容器の物理的近傍に配置することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記熱的に結合することは、各前記局所化熱体積の温度を前記媒体の前記選択された温度に維持するために、少なくとも1つの冷媒リザーバ区画のそれぞれ内の前記冷媒の上の蒸気空間内の蒸気圧を調整することを含む、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は媒体の温度制御に向けられ、より具体的には、媒体を構成する各局所化熱体積の局所化温度制御による媒体の温度制御に向けられる。
【0002】
[関連出願への相互参照]
本願は、2018年8月23日に提出された米国非仮出願第16/110,895号明細書、2018年10月17日に提出された米国仮出願第62/746,751号明細書、2018年11月20日に提出された米国仮出願第62/769,980号明細書に対する35USC§119(e)に基づく利益を主張し、これらの出願はその全体が参照により本明細書に援用される。
【0003】
[背景技術の説明]
温度制御は、正しい化学反応工学のための基礎要件である。生体細胞は最適な温度で成長し生成物を生成する。同様に、化学触媒、分離、結晶化、蒸発、濾過、重合、異性化、および他の反応は、望ましい結果を最もよく達成する特定の動作温度を有している。
【0004】
伝統的な冷却方法は、化学的および生化学的反応(とくに熱出力が低いもの)の時間および空間に依存する熱生成特性に適応する能力を有しない。そのような反応は、エタノールおよび乳酸の発酵、嫌気性消化、製薬細胞培養、バイオディーゼルエステル化、および工業的重合を含む。これらの反応は、かなりの瞬間的熱を生成し得るが、全体的に生成される熱は少なく、熱生成値は時間および空間において大きく変動する。
【0005】
たとえば、赤ワインの発酵は、最初の数時間で急速に増加し、すぐに頂点に達し、その後数日にわたって徐々に低下する熱出力を有する。また、発酵熱出力は、代謝消化酵母の局所的な濃度にも正比例し、濃度は、タンクまたは器内で空間的に変動し得る。この変動は、攪拌/均質化のために自然に生成されたCO2への依存によって引き起こされ、CO2生成も代謝消化酵母の局所的な濃度に正比例し、さらに発酵サイクルの全体的な熱出力に比例する。
【0006】
赤ワインの発酵温度を制御できないと、バッチの品質に悪影響を与える可能性がある。具体的には、酵母は浮遊する皮に凝集し、局所化された高熱/代謝活性の加速された領域を生成し、局所的な温度の上昇により早期に死滅する可能性がある。これらの死滅の結果、タンクまたは器内のすべての糖の変換を完了するのに酵母の数が不十分となる(不完全/失敗した発酵)。さらに、発酵中に温度を制御できないと、揮発性代謝物の生成に対する酵母の代謝選択性が変化するため、ワインの風味が変わる可能性がある。
【0007】
発酵のための伝統的な温度制御方法は、冷たい水またはグリコールの可変流と反応容器に沈められた温度制御素子とを持つ外部の冷却ジャケットを利用する。この方法は、器体積を急速に冷却することができ、反応の熱を迅速にオフセットするが、不要な冷却が発生する場合がある。たとえば、温度素子は、反応体積の大部分が冷却を要しない時に、局所的な冷却要求を正しく解釈する可能性がある。同様に、素子は、タンクまたは器の別の場所で実際には反応が設定点温度を超過している時に、近傍の反応体積の冷却が不要であると正しく決定する場合がある。
【0008】
この問題に対する解決策の一つは、反応体積の撹拌である。撹拌は反応体積を均一化し、器全内容をよりよく表す温度素子の近くのより均一な濃度を提供する。しかしながら、多くの一般的生体反応(ビール発酵中のエタノール生成等)は、酵母がCO2を自然に生成して発酵培養を均一化することを助けるので、人工的には撹拌されない。また、人工的な撹拌は、発酵中のビールの偶発的酸化のリスクがあり、風味プロファイルが変わり商品寿命が短縮される可能性がある。したがって、醸造所は自然撹拌に頼らざるを得ないが、発酵体積における均一性の欠如のため、器冷却システムが最適条件で機能するか否かは不確定である。
【0009】
発酵に関して、ビール発酵もまた温度に敏感である。概して、ビール酵母は2つのカテゴリ(ラガーおよびエール)に分類し得る。ラガー株は45°Fと55°Fの間の温度を好むが、エール株は60°Fと70°Fの間の発酵温度を好む。温度制御は、とくに風味および発酵バッチ間の一貫性に関して、品質を保証するために重要である。望ましい範囲を超えるまたは下回る極端な温度は、望ましくない化学副生成物(エステル、ジアセチル、フーゼルアルコール、等)の生成および酵母の熱ショック(早期死滅を含む細胞損傷につながり得る)のリスクがある。
【0010】
発酵槽は、タンクまたは器を冷却するために、真空、水または空気の循環を利用するための従来技術を用いて設計されてきた。たとえば、米国特許第7,685,715号明細書は、螺旋帯によって覆われた内筒を有する同軸のタンクまたは器を持つ容器(container)およびタンクまたは器(vessel)の内容を処理する方法であって、これは外筒によって覆われ、これによって、内筒および内容の温度を調整するために筒間に流体が循環する。
【0011】
米国特許出願公開第20050077029号明細書は、同心の内筒(これを通して選択された温度の液体が通り、外筒の内容の温度を調整する)を伴う外筒を用いる発酵タンクまたは器の熱交換を教示する。米国特許第7,870,891号明細書は、空気を冷媒として用いるジャケット付き発酵槽を教示する。米国特許出願公開第20080175951号明細書は、発酵槽で蒸気圧を制御するために発酵した液体の上の真空を確立することを教示する。
【0012】
[簡単なサマリー]
一実装において、本開示は、容器(タンクまたは器等)内の媒体の温度を制御するシステムおよび方法に向けられる。
【0013】
本開示の一実装によれば、冷媒蒸発によって媒体の温度を制御するシステムおよび方法が提供される。システムは、容器と、容器内の媒体の体積と熱的に結合され容器内の媒体熱的カバレッジの体積を提供するための構造を有する外表面を持つ壁を含む少なくとも1つのリザーバ区画を有する少なくとも1つの冷媒リザーバと、少なくとも1つの冷媒リザーバ内の冷媒蒸気圧の調整を提供する蒸気圧装置と、を含み、これによって、冷媒リザーバは、冷媒の収容と、冷媒の上の蒸気圧の蒸気圧装置調整とに応じて、少なくとも1つのリザーバ区画のそれぞれの中に蒸気空間を形成し、各リザーバ区画と熱的に結合される容器内の冷媒の体積の選択された温度においてまたはその近傍の温度において冷媒蒸発を可能にする。
【0014】
上述の実装の別の態様によれば、少なくとも1つのリザーバ区画は複数のリザーバ区画を備え、複数のリザーバ区画はそれぞれ、隣接するリザーバ区画の少なくとも1つの他の内部リザーバ空間と流体連通する内部リザーバ空間を有し、複数のリザーバ区画は、少なくとも隣接するような熱的カバレッジのそれぞれの境界を持つ媒体熱的カバレッジの各体積について隣接するリザーバ区画に対して離間して配置される。
【0015】
上述の実装の別の態様によれば、システムは、さらに冷媒リザーバおよび蒸気圧装置と流体連通する冷媒源を含み、蒸気圧装置によって調整されるように、冷媒リザーバ内の蒸気圧の変化に応じて冷媒リザーバに冷媒を供給するよう構成される。
【0016】
上述の実装の別の態様によれば、複数のリザーバ区画は互いに直列または並列にまたは直列および並列配置の組み合わせで結合される。
【0017】
上述の実装の別の態様によれば、各内部リザーバ空間は、各リザーバ区画内の少なくとも1つの堰によって形成され、少なくとも1つの堰は、リザーバ区画を蒸気空間および冷媒空間に分割するような寸法および形状である。
【0018】
上述の実装の別の態様によれば、冷媒リザーバはリザーバ区画の格子(lattice)を備える。
【0019】
上述の実装の別の態様によれば、R3は以下のように決定される媒体熱的カバレッジの体積の半径である。
【数1】
ただし、
H1=冷媒熱伝達率であり、境界層効果を含み(W/m
2*K)、
H2=媒体熱伝達率であり、境界層効果を含み(W/m
2*K)、
J=単位体積あたり単位時間あたりに媒体によって生成される熱(W/m
3)、
K1=冷媒リザーバ壁構成材料の熱伝導率(W/m*K)、
R1=リザーバ区画の中心からリザーバ区画壁の内部までの半径(m)、
R2=リザーバ区画の中心からリザーバ区画壁の外部までの半径(m)、
R3=リザーバ区画の中心から液体媒体熱的カバレッジの外部境界までの半径(m)、
T1=蒸発の位置における冷媒の温度(K)、
T2=熱的カバレッジの外部境界における媒体の温度(K)、
である。
【0020】
上述の実装の別の態様によれば、隣接するリザーバ区画の中心の間の最小間隔は、(2/√2)*R3以上であり、R3は媒体熱的カバレッジの体積の半径である。
【0021】
上述の実装のさらに別の態様によれば、少なくとも1つの冷媒リザーバは、容器の内部に配置され、または、少なくとも1つの冷媒リザーバは、容器の外部に配置され、または、少なくとも1つの冷媒リザーバは、少なくとも2つの冷媒リザーバを含み、少なくとも1つの冷媒リザーバは容器の内部に配置され、少なくとも1つの冷媒リザーバは外部に配置される。
【0022】
本開示の実装の別の態様によれば、冷媒蒸発によって媒体の温度を制御する方法が提供され、方法は、
冷媒の冷媒蒸発によって媒体の温度を制御する装置を提供することであって、前記提供することは、
外部および内部を有する容器と、
容器に関連付けられた少なくとも1つの冷媒リザーバであって、少なくとも1つの冷媒リザーバは、少なくとも1つのリザーバ区画を有し、少なくとも1つのリザーバ区画は冷媒を保持するよう構成され、前記少なくとも1つのリザーバ区画のそれぞれは、容器内の媒体の体積と熱的に結合されて容器内の媒体の体積に対して熱的変化を提供する構造の外表面を有する壁を有し、それによって、容器内の媒体熱的カバレッジの体積を提供し、媒体熱的カバレッジの体積は外部境界を有する、少なくとも1つの冷媒リザーバと、
前記少なくとも1つの冷媒リザーバ内の冷媒蒸気圧の調整を提供する蒸気圧装置と、
を備え、
前記少なくとも1つの冷媒リザーバは、冷媒の上の蒸気圧の蒸気圧装置調整に応じて、かつ冷媒を収容することに応じて、前記少なくとも1つのリザーバ区画のそれぞれ内の蒸気空間を形成して、少なくとも1つのリザーバ区画のそれぞれに熱的に結合された容器内の媒体の体積について、媒体熱的カバレッジの体積の選択された温度においてまたはその近傍の温度において冷媒蒸発を可能にするよう構成される、
提供することと、
少なくとも1つの冷媒区画を部分的に占有し、前記少なくとも1つの冷媒区画内に蒸気空間を形成するために、少なくとも1つの冷媒リザーバに冷媒を導入することと、
前記少なくとも1つの冷媒リザーバ内の冷媒の上の蒸気圧を調整して、前記少なくとも1つのリザーバ区画のそれぞれに熱的に結合された容器内の媒体の体積について、媒体熱的カバレッジの体積の選択された温度において、またはその近傍の温度において、冷媒蒸発を可能にすることと、
を含む。
【0023】
本開示の別の態様によれば、容器内に格納された媒体の温度を制御する方法が提供される。方法は、媒体を複数の局所化熱体積に区分するステップと、媒体を選択された温度に維持するために局所化熱体積の温度を制御するために各局所化熱体積に冷媒を熱的に結合するステップとを含む。
【0024】
上述の方法のさらなる態様によれば、媒体を複数の局所化熱体積に区分することは、各局所化熱体積に少なくとも1つの冷媒リザーバ区画を関連付けて、冷媒リザーバを容器の物理的近傍に配置することを含む。
【0025】
上述の方法のさらに別の態様によれば、熱的に結合することは、各局所化熱体積の温度を媒体の選択された温度に維持するために、少なくとも1つの冷媒リザーバ区画のそれぞれ内の冷媒の上の蒸気空間内の蒸気圧を調整することを含む。
【0026】
上記から容易に理解されるように、本開示は、媒体の局所化温度制御を提供することによって、媒体の温度を制御するシステムおよび方法を提供する。本開示の各代表的実装は発酵の文脈で記載されるが、本開示のシステムおよび方法は、様々な媒体において温度を維持するために媒体の加熱および冷却の双方に応用を有し、高度な制御およびプログラミングを要しない熱生成の時間的および空間的変動の双方に対して調整する工学的温度制御に対する新規な手法である。従来の方法(最大強度で、可変時間についてシステム体積全体を冷却する)とは異なり、本開示の新規な手法は、たとえば熱を生成する空間的領域のみの温度を、局所的な熱生成に正比例する強度で調節する。その場合、媒体の加熱は、直接的に達成されるのではなく、反応の正味の熱出力の慎重な調整を介して達成される。冷媒蒸気圧は、媒体の設定点温度を増加させるよう変調されてもよく、本開示は、温度における許容可能な局所的増加がその新たな設定点を絶対に超えないことを保証する。このように、媒体の、ゆっくりの、考慮された加熱が実現可能である。
【0027】
従来のシステムは、測定された設定点温度を超過した時に活性化する冷たい水またはグリコールを採用する。活性化は、検知素子の近傍の局所的温度によって制御され、冷却は、水またはグリコールとシステム体積との間の大きな温度勾配の使用を介して急速に達成される。低温設定点が達成されたら、冷却システムは非活性化される。
【0028】
この手法は、明確な不利益を2つ有する。1.条件の局所的サブセットに基づいてシステム体積全体が冷却される。2.システム体積全体が、冷却サイクルの間、大きな温度勾配を受ける。したがって、検知素子から隔たって配置されたシステム内容は、要否に関わらず冷却され、システム内容は熱的な低温ショックを受ける可能性がある。この低温ショックは、とくにシステム体積が一貫した撹拌または均質化を欠く場合に、外部冷却ジャケットまたは内部冷却コイルの近傍に配置された内容に対してはより明白となる。
【0029】
本開示は、浅く水平の液体管に配置され、共通の蒸気ヘッドスペースにより接続された冷媒を用いることにより、これらの不利益を回避する。冷媒は、システム体積の所望の温度またはその近傍の温度に維持され、冷媒が同じ温度で蒸発するようにその蒸気圧が制御される。水平管内の液体は水力学的には接続されないので、各水平区画は、上または下の水平区画とほぼ同じ圧力/温度で蒸発する。
【0030】
システム体積の温度制御は、冷媒の蒸気圧の制御によって影響を受ける。冷媒は、その蒸発点において相を変えるために大きなエネルギー摂取を要するが、冷媒質量が枯渇するまで一定の温度でこのエネルギーを吸収する。したがって、水平管近傍のいかなる局所的システム体積も、管が冷媒を含んでいる限り、その内部の冷媒の蒸発温度を超えることから保護される。
【0031】
本開示は、システム体積の設定点温度の増加に対する、受動的、断続的(continual)および連続的(continuous)な保護を提供する。熱が生成されると、局所的な冷媒蒸発が生成空間点の近傍において熱をただちに除去するので、冷却システムを活性化するための温度検知素子はもはや不要となる。加えて、熱伝達を急速にかつ大きな距離(たとえば容器壁から容器中心まで)を隔てて達成する必要がないので、冷却のための大きな温度勾配は不要となる。局所的な熱生成が変動すると、システム体積と冷媒コイルとの間の局所的温度差分も変動し、局所冷媒の待機質量によって比例的に熱が除去される。
【0032】
要約すると、本開示のシステムおよび方法は、従来の制御方法を大きく改善する。本手法は、局所的な温度検知素子の近傍の状況に基づいてシステム体積全体を不要に冷却したり、検知素子の近傍の局所的状況に基づいて、必要な時に、冷却システムを活性しなかったりするリスクを負わない。また、本開示は、システム内容の熱的低温ショックのリスクがある大きな温度勾配を生成する必要を回避する。さらに、媒体の制御された加熱は、システム自身の発熱を用いて実現可能であり、オーバーシュートのリスクおよびシステム内容の熱的高温ショックの可能性がない。改善された温度制御の利益は、最適化された反応速度、望ましくない副反応の低減、および、バッチ処理についてバッチ間の一貫性の向上を含む。
【0033】
本開示の上述のおよび他の特徴および利益は、添付図面とともに読まれる以下の詳細な説明からよりよく理解される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本開示による、水平格子区画の長さに沿った径方向熱伝達の図
【
図2】
図1の水平格子区画の長さに沿った径方向熱伝達の図示の断面図
【
図3】本開示による、直角幾何学的形状を介した格子管間の理想的間隔の導出の図
【
図4】本開示による、最小カバレッジの複数の冷却体積の断面図
【
図5】本開示による、部分的カバレッジの複数の冷却体積の断面図
【
図6】本開示による、完全カバレッジの複数の冷却体積の断面図
【
図7】本開示の一代表的実装によって形成されるシステムの図
【
図8】本開示によって形成され容器の内部に配置された冷媒リザーバの断面側面図
【
図10】本開示の別の実装による容器の外部の冷媒リザーバの図
【
図11】複数の圧力調整器によってゾーンによる圧力制御が実現される、本開示の一代表的実装によって形成されるシステムの図
【
図12】コイル装置が容器の外部である、本開示の別の実装の図示表現
【
図13】本開示の別の実装による、圧力差分によってコイル中の流体が振動する、振動真空コイルおよびリザーバ設計の図
【
図14】
図8の装置の代替的実装によって形成された冷媒リザーバの側面断面図
【
図15】
図8の装置の別の代替的実装によって形成された冷媒リザーバの側面断面図
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下の説明において、様々な開示される実装の完全な理解を提供するために特定の詳細が提示される。しかしながら、当業者は、これらの具体的な詳細のうち1以上を省略して、または他の方法、構成要素、材料、等と組み合わせて実現できるということを認識する。他の例では、実装の説明を必要以上に曖昧にしないために、タンクまたは器、冷媒、蒸発システム、真空システム、管、パイプ、およびコイルに関連する周知の構造は示されないかまたは詳細に説明されない。「媒体」への参照は、気体、液体、固体、ゲルまたは他の状態を含むよう意図される。「容器」(container)への参照は、タンクおよび器(vessel)を含むよう意図されるが、これらに限定されない。加えて、「パイプ」または「管」への参照は、本明細書においてとくに断らない限り、様々な幾何学的形状の断面の導管および任意の長さの導管を包含するよう意図される。
【0036】
文脈から他様に要求されない限り、本明細書および添付の特許請求の範囲を通して、単語「備える(comprise)」およびその変形(comprisesおよびcomprising等)は、非限定的、包含的に、すなわち、「含むがこれに限定されない」と解釈される。
【0037】
本明細書を通して、「一実装」または「ある実装」とは、その実装に関して説明される具体的な特定事項、構造または特徴が少なくとも1つの実装に含まれるということを意味する。したがって、本明細書の様々な場所における「一実装において」または「ある実装において」という句の出現は、必ずしもすべて同一の実装を参照するわけではない。さらに、具体的な特定事項、構造または特徴は、1つ以上の実装において任意の適切な態様で組み合わせることができる。例示の簡明のために、適切と考えられる場合には、対応するまたは類似する要素またはステップを示すために、図面を通して参照符号が繰り返されるということが理解される。
【0038】
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いられる、単数形"a"、"an"および"the"は、文脈が明らかに他様に示す場合を除き、複数の指示対象を含む。また、用語「または」は、文脈が明らかに他様に示す場合を除き、その最も広い意味で採用され、すなわち、「および/または」を意味する。
【0039】
添付の要約書は、利便性のためのみのものであり、実装の範囲または意味を解釈するものではない。
【0040】
従来の冷凍方法と比較して、本開示は、最小温度勾配を利用する媒体の冷却の処理を提供する。本開示によれば、熱を正しく伝達するためには勾配を生成する必要があるが、多くの一般的プロセス(たとえば細胞培養)からの熱出力は低いので、熱が生成されるにつれて除去できる場合には、勾配を大きくする必要はない。さらに、冷却源と目標体積(たとえば媒体)との間の大きな温度勾配は、実際には、冷却システムインタフェースの近傍の熱的低温ショックを介して媒体を損傷する可能性がある。これは、たとえば、ジャケット付き細胞培養反応器の内壁の近くで発生し得る。
【0041】
概して、本開示の実装のいくつかの機械的構造は、金属格子加工物に類似する。本開示の一態様では、この構造は温度制御を要する体積に浸される。代替的に、この格子加工物は、媒体を保持する容器の外部にあってもよい。理想的には、格子の幾何学的形状、構成材料および冷凍システムの構成要素は、冷却すべき媒体の関数として決定される。しかしながら、所定の格子幾何学的形状、構成材料および冷凍システムについて、本開示によって形成された構造の冷却性能は、任意の媒体について決定可能である。
【0042】
本開示の代表的実装は、媒体(ビールおよびワインの発酵のプロセスにおけるもの等)の冷却の文脈で論じられるが、本開示のシステムおよび方法は、他のプロセスや、様々な媒体を加熱または冷却することにも応用を有するということが理解されるべきである。
【0043】
本開示による格子の設計は、3つの主な観点を有する:(1)格子内部寸法、(2)格子構成材料、(3)隣接する格子部分間の間隔。すべての格子設計は、共通のヘッドスペースと、水平に分離された区画(液体冷媒の体積を保持する)とを有する。これらの特性により、各水平区画内の冷媒が同じ温度で蒸発し、近傍で生成された熱を消散させるのに十分な液体冷媒が存在することが保証される。各水平区画内の液体冷媒高さの維持は、しばしば、重力に対するその区画の向きの機能である。
【0044】
理論的には、各区画が液体冷媒を格納できれば、格子は任意の形状およびサイズの一連の水平区画からなることができる。現実的には、奇妙な形状の全真空(full vacuum)レーティングの器に要求される高度な製造技術に訴えるのではなく、多くの冷媒に要求される全真空条件についてレーティングされた定義によって、円筒形状のパイプまたは配管を用いるのが最もコスト効率的である。また、パイプ/配管の内部に最大限の液体冷媒体積を保持しながら、ヘッドスペースの内表面からの液体冷媒の蒸発に十分な表面積を提供するために、パイプが最大でも70%満たされた状態に維持するのが理想的である。加えて、自由なヘッドスペースにより、蒸発した蒸気が水平区画から真空源までの長さに沿って邪魔されず移動することができる。格子内部設計の選択は、用途に依存するが、とくに、冷媒の選択および冷却方法(真空ポンプ、圧縮機、等)に依存する。
【0045】
理論的には、材料は冷却すべき媒体と適合性がなければならず、また、内部にトラップされる冷媒の動作条件と適合性がなければならないという要求によって、格子構成材料は制限を受ける。現実的には、構成材料はしばしば、洗浄要件(たとえば細胞培養のための衛生要件)および商業的に利用可能な材料厚さによって決定される。格子構成材料の選択は、用途に依存するが、たとえば、材料の厚さは、コストの増大に関わらず、熱伝達を改善するために調節されてもよい。
【0046】
理論的には、隣接する格子部分間の間隔は、冷却すべき媒体およびその希望の温度プロファイルの関数であり、また、水平長さには依存しない。たとえば、あるワインの風味プロファイルは、5°Fの範囲(70°Fから75°F)で製造され、その場合には、間隔は、隣接間隔の間の中心線にて格子外表面が70°F(最大75°F)に保持さるように構成される。現実的には、格子区画間の間隔は、しばしば所望の構成材料、溶接コスト、容器形状、管理のための移動の容易さ、洗浄の容易さ、等の関数である。しかしながら、理想的な間隔は、水平コイル区画に径方向の熱伝達方程式を適用し、その区画の長さを無視することにより決定できる(図面および導出を参照)。水平長さは、ほぼ常に、冷却すべき媒体を通して所望の格子間隔を提供する必要、および、各水平区画内に十分な冷媒の液体体積が存在することを保証する必要によって、決定される。
【0047】
理想的な格子間隔は、一連のユーザ定義変数を介して決定され得るため、数学的手法の使用が好ましい。さらなる利点として、単一の水平格子要素の断面についての空間的要件を検討することによって、完全な格子構成が設計可能である。
【0048】
たとえば、もし衛生要件が特定の構成材料を要求し、冷却システムの選択が特定の冷媒を要求する場合には、これら双方の基準を空間方程式に組み入れることができる。同様に、既存の格子構造および冷却システムについて、冷却すべき媒体内部の予測される温度勾配は、任意の媒体種類について計算可能である。
【0049】
重要なユーザ定義温度変数は、冷却すべき媒体内部の許容可能な最大温度差である。たとえば、最大温度勾配5°Fおよび最大温度75°Fが望ましい場合には、格子パイプ内部で冷媒蒸発温度70°Fおよび隣接する格子間の媒体内の中心線温度75°Fを仮定し、下記に詳述する導出された方程式群を用いて理想的な格子間隔を算出することができる。
【0050】
しかしながら、上記の5°Fの値は、実際には、適切な熱伝達に要求される最小温度勾配よりは大きい。現実では、この値は、冷媒蒸発位置から最も遠い部分の媒体から熱を駆動するのに必要な総合駆動力であり、格子の外表面にのみ熱を駆動するのに必要な値より大きい。
【0051】
この、より大きい値は、実際には3つの構成要素を有する:(1)格子間の中心線から冷却すべき媒体を介して格子の表面まで熱を伝達するための温度差、(2)格子の外表面から格子の機械構造を介して内表面まで熱を伝達するための温度差、(3)格子の内表面から液体冷媒を介して蒸発が発生する冷媒気液界面まで熱を伝達するための温度差。
【0052】
より具体的には、標的媒体を介した熱伝達について、最大許容温度勾配はエンドユーザによって決定される。この値は、冷却の時間スケールに関する媒体の所望の特性(たとえば風味プロファイル)に基づいて変動する。異なる媒体および固定の格子間隔について、勾配値が大きくなると、熱流に対する媒体の抵抗も大きくなる。しかしながら、媒体から格子への熱伝達のための実効表面積の増大は、この勾配を低下させる。たとえば格子の外表面に取り付けられるフィンタイプの構造の使用を介して、追加の表面積を生成してもよい。
【0053】
格子機械構造の壁を横切る温度勾配は、格子構成材料およびその厚さの関数である。共通の格子形状および構成については、この勾配値は、冷却すべき媒体に関わらず定数である。
【0054】
格子の内壁から冷媒気液界面までの温度勾配は、選択された冷媒と、内壁から界面までの距離との関数である。既知の冷媒および管内の液体冷媒高さについて、冷却すべき媒体に関わらずこの勾配値は定数である。さらに、一部充填された液体冷媒管のヘッドスペースは、その内表面に、蒸発する冷媒の薄い液体膜を形成する場合があり、熱が内表面のパーセンテージから気液界面まで移動するのに必要な距離を低減する。また、内表面を意図的に荒くすることは、蒸発熱伝達を改善する可能性があり、内壁から冷媒気液界面まで等量の熱を駆動するのに必要な温度勾配を効率的に低減する。
【0055】
所与の格子形状、構成材料、および冷却システムについて、水平区画は媒体の等価体積を冷却する役割を担う。しかしながら、その体積によって生成される熱は媒体の特性の関数として変化し得るので、格子の観測される冷却性能もまた変化し得る。
【0056】
図1および2を参照すると、ある水平格子区画50について、その機械的設計は、外部境界53を有する水平格子区画50を取り囲む媒体体積52によって生成される最大の熱を除去できなければならない。この体積は、水平格子区画50を半径R3で取り囲む円筒形状、および、格子中心線から管外部までの距離R2と格子外部から隣接格子間の中心線までの距離との組み合わせを、仮定することによって近似可能である。この場合、熱生成媒体の体積を計算するために、媒体が充填された容器の全体積から機械的格子の体積が減算される。
【0057】
R1は格子管54の内半径であり、所望の冷却システムの関数として選択すべきである。バッチ充填システムでは、各水平格子管54は、充填間の所与の時間(たとえば1時間)に周囲の媒体が生成する最大の熱を吸収するのに十分な冷媒質量を保持する必要がある。定常再充填冷却システムでは、この体積ははるかに小さいが、依然として、最大の媒体熱生成の間、水平長さ全体にわたって蒸発に十分な冷媒体積が残存するという基準が適用される。
【0058】
冷却システムの選択によって主に制御されるR1の値に関して、水平格子区画50の水平長さLは冷媒保持体積を確立するための主変数となる。現実的には、選択される水平格子区画50あたりの長さLは、ほぼ常に必要な最小値を超える。その理由は、この値は、主に構造的支持の理由で、また、媒体全体で最小間隔要件が確実に満たされるように選択されるからである。
【0059】
格子形状(間隔)は、いくつかの変数(媒体、冷媒、冷却方法、構成材料、を含む)に依存して変動する。隣接する格子中心線の間の理想的な間隔(たとえばワイン生産用)は、1”OD衛生ステンレス配管および真空下のエタノール冷媒を用い、許容可能温度変化5°Fとして、大まかに6インチである。許容可能温度変化を10°Fとすると、この理想的な間隔は約9インチに増加する。同じく10°F差で、1”から2”OD配管に変更すると、理想的な間隔はさらに大まかに12インチまで増加する。
【0060】
また、システムの動作中における格子ヘッドスペース56内の圧力降下に設計考慮が必要である。たとえば、真空ポンプを用いたバッチ充填システムでは、液体60と蒸気冷媒62との界面58における圧力は、常に真空源の圧力より大きい。この圧力降下を最小限に維持することは、真空源で維持しなければならない真空レベルを低減するので、格子設計の重要な基準となる。
【0061】
例示すると、発酵ワイン700Lについて、2L/時の最大液体エタノール蒸発レートが予測される。この液体質量蒸発は、80°Fの設定点温度において約5CFMの蒸気生成に対応する。システム形状のため許容可能圧力降下を5%のみとすると、配管の等価長さ(線形長さおよびフィッティング)が約115フィートを超えない限り、ヘッドスペースから真空源に接続するために0.75”ID配管を用いることができる。
【0062】
加えて、格子設計および数学的手法は、容器の外部、冷却ジャケットに代えて適応することもできる。これは、とくに小径の器について有益な可能性がある(格子が末端製造物に接触せず、バッチ間の洗浄を要しないため)。しかしながら、この設計は、隣接格子間の間隔が容器直径のそれの近くに計算される場合にのみ現実的な用途を有する可能性がある。
【0063】
理想的なコイル間隔を決定するための数学的導出の一例を以下に示す。
【数2】
【0064】
L=水平格子区画の長さ(m)
Q=単位時間あたりに媒体から水平区画に伝達される総熱(W)
R=単位時間あたりに温度差分を横切る熱伝達に対する総抵抗(K/W)
ΔT=媒体と蒸発する冷媒との間の最大温度差(K)
【0065】
【0066】
A2=水平格子区画の外壁の表面積(m2)
H1=冷媒熱伝達率(境界層効果を含む)(W/m2*K)
H2=媒体熱伝達率(境界層効果を含む)(W/m2*K)
J=単位体積あたり、単位時間あたりに生成される最大熱(W/m3)
K1=格子構成材料の熱伝導率(W/m*K)
R1=水平格子区画の中心から格子壁の内部までの半径(m)
R2=水平格子区画の中心から格子壁の外部までの半径(m)
R3=水平格子区画の中心から媒体体積の外部までの半径(m)
T1=冷媒気液界面における温度(K)
T2=媒体体積の外縁における媒体の温度(K)
【0067】
【0068】
R3以外の変数についてユーザ定義の値が与えられると、この方程式は値R3について解くことができる。ユーザ定義の値は、出版された文献、以前の設計経験、媒体の許容可能温度変化、商業的に利用可能なパイプ/配管サイズおよび厚さ、等から得ることができる。なお、この数学的解析は、水平区画の長さには依存しない。
【0069】
R3の既知の値をもって、管間の理想的な間隔が直角の形状を介して計算される。この方程式の導出は
図3に示す通りである。
【0070】
この例では、変数R3はa+b+cの合計に等しい。ただしaは格子パイプの外半径であり、bは格子管とイースト細胞の小凝集との間の距離であり、cはこの凝集の半径である。格子管中心線間の総間隔は、(2/√2)*R3に等しい。また、この方法は、隣接する格子区画間の径方向冷却体積に実質的な重なりがあり、媒体体積のいかなる部分も指定された最大温度差分を超え得ないということを前提とする。
【0071】
図4~6に示すように、代替的な形状構成により格子区画間の間隔を増加し得るが、その場合には、冷却不足により、媒体の一部が設計温度範囲を超える場合がある。
図4は、最小カバレッジの複数冷却体積の断面図示であり、
図5は部分的カバレッジの複数冷却体積の断面図示であり、
図6は完全カバレッジの複数冷却体積の断面図示である。
【0072】
図7は、冷媒蒸発によって媒体72の温度を制御するシステム70を示す。この代表的例示のシステムは、外部76および内部77を有する容器74を含む。少なくとも1つの冷媒リザーバ78が容器74に関連付けられ、冷媒リザーバ78は、内部リザーバ空間83内に冷媒82を保持する構造の少なくとも1つのリザーバ区画80を含む。この実装では、
図8および9により明確に示すように複数のリザーバ区画80があり、各リザーバ区画80は、容器74内の媒体の体積と熱的に結合し容器74内の媒体の体積の熱変化を提供する構造の外表面86を有する壁84を有し、これによって、
図1~6に関連して上述し以下により詳細に記述するように容器内の媒体熱的カバレッジの体積52を提供する。
【0073】
各リザーバ区画80は、それぞれ隣接するリザーバ区画80の少なくとも1つの他の内部リザーバ空間83と流体連通するそれぞれの内部リザーバ空間83を有し、複数のリザーバ区画80が隣接するリザーバ区画80と離間された関係で配置され、それぞれの媒体熱的カバレッジの体積52は、少なくとも隣接するような熱的カバレッジの各境界を有する。
【0074】
システム70は、さらに、リザーバ区画80内の冷媒蒸気圧の調整を提供する蒸気圧装置88を含む。リザーバ区画80は、それぞれ、冷媒82を収容することに応じて、および、冷媒82の上の蒸気圧の蒸気圧装置88調整に応じて、各リザーバ区画80内の蒸気空間90を形成し、各リザーバ区画80と熱的に結合された容器70内の媒体72の体積について媒体熱的カバレッジの体積52の選択された温度でまたはその近傍の温度で冷媒蒸発を可能にするよう構成される。
【0075】
蒸気圧装置88は、容易に入手可能な商業機器によって実装可能であり、したがって、本明細書では詳細に説明しないということが理解される。簡易には、蒸気圧装置88は、冷媒リザーバ78と流体連通する真空ポンプ92を含む。理想的には、圧力調整器94は真空ポンプ92と冷媒リザーバ78との間に配置される。真空ポンプ92の制御は、手動で、またはより好適には、センサおよびセンサからの信号を処理しセンサ信号に応じて制御信号を真空ポンプに送信するコンピュータプロセッサを利用する自動制御で、実行される。
【0076】
図7の実装において、冷媒(エタノール等)を凝縮するために凝縮器96が提供される。凝縮器96は、冷媒リザーバ78に連続的または断続的な冷媒の供給を提供するために冷媒リザーバ78と流体連通する。冷却された水のタンク98が、水の流体連通のために水ポンプ100を介して凝縮器96に結合される。
【0077】
冷媒源(冷媒タンク102等)が冷媒リザーバ78および蒸気圧装置88と流体連通し、蒸気圧装置88によって調整される冷媒リザーバ78内の蒸気圧の変化に応じて冷媒リザーバ78に冷媒82を提供するよう構成される。凝縮器96はベントソレノイド104を介して冷媒タンク102とも流体連通する。冷媒タンク102は、冷媒ポンプ106を介して冷媒リザーバ78に冷媒を供給するために、また、ドレインソレノイド108と並列に、冷媒リザーバ78に結合される。分離ソレノイド110が、冷媒リザーバ78と、冷媒ポンプ106とドレインソレノイド108との並列接続との間に配置される。要素LTは、冷媒タンク102内の冷媒の体積の指標を検知し送信するレベル送信機である。要素PTは、蒸気空間内の冷媒の蒸気圧の指標を検知し通信する圧力送信機である。
【0078】
図7の実装では、冷媒リザーバ78は、媒体72の温度制御を提供するために、蒸発した冷媒82を補充するために、冷媒ポンプ106を介して一定間隔で自動的に充填される。ベントソレノイド104は、凝縮器106から冷媒タンク102に冷媒を回収する。また、ベントソレノイド104は、冷媒ポンプ106から冷媒タンク102への閉ループ経路を提供し、内部リザーバ空間83が冷媒82で完全に満たされることを確実にする。ドレインソレノイド108は、重力を介して冷媒リザーバ78から冷媒タンク102に過剰な冷媒82を除去するよう機能し、蒸気空間90を生成する。
【0079】
図8に示すように、一実装の冷媒リザーバ78は、各リザーバ区画80に結合されたマニフォールド112を有し、空気ベントライン114に、および組み合わせ充填、ドレインおよび真空ライン116に、流体連通を提供し、これによって、システム冷媒充填およびシステム冷媒ドレインを可能にし、真空ポンプ92へのシステム接続を可能にする。複数のリザーバ区画80は、互いに直列に、または並列に、または直列および並列配置の組み合わせで結合されてもよい。冷媒リザーバ78は、一実装では複数のリザーバ区画80からなる格子を備える。各リザーバ区画80は、マニフォールド112である垂直サポート93によって適正位置に保持される。各リザーバ区画80は、それぞれのリザーバ区画に少なくとも1つの堰117を含み、堰117は、リザーバ区画を蒸気空間90と冷媒82のための空間とに分割するようなサイズおよび形状である。この実装では、堰117は、リザーバ区画80を形成する管またはコイルの曲がった区画であり、堰117は、上向きの角度を持って第2壁121に接合する第1壁119を含み、第2壁121は、下向きの角度を持って頂点123を形成する。頂点123は、冷媒82に対するダムとして作用し、リザーバ区画80におけるその高さが、そのリザーバ区画80内に保持される冷媒82の量を決定する。
【0080】
本開示の別の態様によれば、冷媒リザーバ78は容器74の外部に配置されてもよく、これが
図10に示される。
【0081】
動作において、冷媒82が、リザーバ区画80を部分的に占有し、各リザーバ区画80の内部リザーバ空間83内の冷媒82の上の蒸気空間90を形成するように、冷媒リザーバ78に導入される。冷媒リザーバ78内の冷媒82の上の蒸気圧は、各リザーバ区画に熱的に結合された容器74内の媒体72の体積について、媒体熱的カバレッジの体積52の選択された温度またはその近傍の温度で冷媒蒸発を可能にするように調整される。
【0082】
システム動作は、コイル全体を通して均一の(好ましくは同一の)温度で冷媒が蒸発することを必要とする。また、液体冷媒体積は、コイル全体を通して、媒体が生成する熱を蒸発を介して除去するのに十分に維持されなければならない。重力に対してコイルの向きを適切にすることにより、その内部の液体冷媒がコイル堰およびダムの設計意図に確実に適合する。コイルの冶金は、冷却すべき媒体の品質に悪影響を与えないように選択されなければならず、新たな冷却すべき媒体とのコンタミネーションの可能性を避けるために、コイルは使用と使用の間に洗浄されるべきである。媒体の熱ショックの可能性を避けるために、冷媒蒸気圧は、冷却すべき媒体の所望の温度で、またはこれに可能な限り近く、冷媒蒸発を提供するべきである。
【0083】
真空ポンプを有するバッチタイプのシステムでは、コイルは重力に対して適切に向けられ、液体冷媒で満たされ、水平区画を接続する共通のヘッドスペースを生成するようにドレインされ、内部に残存するすべての液体冷媒の上に共通の蒸気圧空間が生成できるように分離されなければならない。真空ポンプは活性化され、真空調整器によって冷媒蒸気圧が所与の媒体に対する所望の熱除去プロファイルに整合するよう調節される。再充填手順の間、コイルは冷却を提供できないので、液体冷媒再充填の時間間隔は最大限に維持されるべきである。しかしながら、再充填の時間間隔は、媒体熱的カバレッジの所望の体積を提供するように、コイルの全区画内に十分な液体冷媒が残存することを確実にするのに十分なほど頻繁でなければならない。冷媒蒸気圧および再充填の時間間隔の選択は、時間に関する冷却すべき媒体の熱生成プロファイルの関数である。理想的には、媒体の熱ショックを避けるために、再充填中の、新たな液体冷媒の温度は、冷却すべき媒体の所望の設定点温度またはその近傍の温度とするべきである。
【0084】
従来の冷媒圧縮機を有する連続的なスタイルのシステムでは、重力に対してコイルの向きを適切にすると、冷媒液の体積が各水平区画内で設計の通り維持されるので、最適なシステム性能が保証される。その場合には、共通の蒸気ヘッドスペースも同様に設計の通り維持される。圧縮機の性能も、時間に関して媒体の熱生成プロファイルに関連して監視されなければならない。最も重要なのは、圧縮機が、蒸気冷媒の可変の流速において、および冷媒蒸気圧の所望の全範囲において、連続的に動作できなければならないということである。たとえば細胞培養は、時間およびバッチ数の双方の関数として、熱生成率が変化する。システム監視は、圧縮機および関連する構成要素への損傷のリスクなく、プロセス変数の予期しない振れに対してシステム動作を調節するのに十分堅牢でなければならない。
【0085】
冷媒選択は、冷却機器の選択に関連する冷却すべき媒体の熱生成プロファイルおよび最適生産温度の関数である。たとえば、真空ポンプおよびエタノール冷媒を有するバッチスタイルのシステムでは、システム動作中の真空源とコイルとの間の圧力降下のため、動作圧力を0.15psia(pounds per square inch absolute; 絶対ポンド毎平方インチ)未満に維持するのが困難である。しかしながら、0.15psiaはエタノール冷媒の蒸発温度が約40°Fとなることに対応し、したがって、真空ポンプおよびエタノール冷媒の組み合わせは、冷却すべき媒体を40°Fまたはそれより高く維持する用途に最適である。設置後、真空源とコイルとの間の圧力降下は、適切なシステム動作ができるように、選択された冷媒が所望の温度で蒸発することを確実にするために、システムの幾何学的形状の関数として再度計算されなければならない。動作において、冷媒蒸気圧は冷媒蒸発温度に対応する。目的は、コイル内の冷媒の蒸気圧を、冷却すべき媒体の設定点温度の、またはその近傍の温度の、特定の蒸発温度に制御することである。
【0086】
ワインの発酵について、一般的な最大許容温度範囲は、赤ワインでは64~77°F、白ワインでは50~59°Fである。エタノール冷媒と真空ポンプの組み合わせを想定すると、これらの温度範囲は、赤ワインでは約0.232~0.288psia、白ワインでは約0.184~0.213psiaの蒸気圧に対応する。R-134a冷媒と圧縮機の組み合わせを想定すると、これらの温度範囲は、赤ワインでは約77.10~96.11psia、白ワインでは約59.98~70.61psiaの蒸気圧に対応する。
【0087】
ビールの発酵について、一般的な最大許容温度範囲は、エールでは60~70°F、ラガーでは45~55°Fである。エタノール冷媒と真空ポンプの組み合わせを想定すると、これらの温度範囲は、エールでは約0.217~0.256psia、ラガーでは約0.169~0.200psiaの蒸気圧に対応する。R-134a冷媒と圧縮機の組み合わせを想定すると、これらの温度範囲は、エールでは約71.87~85.48psia、ラガーでは約54.62~65.72psiaの蒸気圧に対応する。
【0088】
また、システムは、発酵サイクルの間、冷却を提供しなければならない。赤・白ワイン双方の一次発酵では、3~5日が一般的に要求される。ビールの一次発酵では、エールでは1~2週間が一般的に要求され、ラガーでは1~2ヶ月が一般的に要求される。
【0089】
本開示は、いくつかの用途について、様々なシステム、装置、デバイスにおいて実装可能であるということが理解される。これらは、限定なく以下のものを含む:
1.様々な圧力に保持された冷媒を蒸発させることにより、媒体の熱サイフォン撹拌/均質化を促進するための対流の人工的な生成。
2.熱伝達の空間的位置を示すための蒸発する冷媒の使用。
3.熱伝達の一貫性を改善するためのバッファ冷却流体の使用。バッファ流体は冷媒リザーバおよび媒体の双方と熱接触する。
4.蒸気圧の変動による熱伝達を改善するための、蒸発する冷媒内の流れの生成。
5.同一の冷媒蒸発装置によって加熱および蒸発冷却の双方が実現されるように、媒体の熱を提供するための、蒸発装置に供給する前の冷媒の予熱。
【0090】
これらの実装のそれぞれが、以下により詳細に、図面に関連して説明される。
【0091】
1.様々な圧力に保持された冷媒を蒸発させることにより、媒体の熱サイフォン撹拌/均質化を促進するための対流の人工的な生成
【0092】
図11に示すように、システム120が容器124内に複数の垂直に配列されたコイル区画122を有して示される。様々な垂直コイル区画122の様々な真空圧力における制御は、調整器126および圧力センサ(図示せず)を用いて実現され(手動であっても自動であってもよい)、これらは真空ポンプ128に結合される。これらは、容器124内の媒体(ビール等)の内部の流れを変更するために用いることができ、ビールからコイル表面への熱伝達を改善する。また、これらは、熱サイフォン効果を介してビールの撹拌を制御するために用いることもできる。
【0093】
電子コントローラ130は、センサ、圧力調整器126、および真空ポンプ128に結合される。電子コントローラ130の構成は、当業者の能力の範囲内であり、本明細書では詳細に説明しない。簡単にいうと、状況を監視するために各構成要素と通信し、それらに制御信号を送信するために、ポータブル計算機またはポータブル通信装置(携帯電話、タブレット、等)上のアプリ等のオンサイトのハード結線コントローラまたはリモートワイヤレスコントローラが提供される。制御された撹拌は、発酵、搬送および貯蔵において重要であり、圧力は固定であってもサイクルされてもよく、冷却媒体についてヘッドスペース圧力の自動的な管理および維持は調整可能である。ヘッドスペース圧力を測定する圧力送信機および真空源との電子通信を介して、すべてのリザーバヘッドスペースについて単一の圧力制御設定点が可能である。冷却媒体の分離された各部が異なるゾーン内で異なる圧力に制御され得るように、リザーバヘッドスペースが複数の区画に分割されてもよい。
【0094】
一態様によれば、熱サイフォン撹拌は、発酵中の均一化のために、また、ラガー熟成フェーズ中にこの均一化を維持するために利用可能である(コールドクラッシュ中およびその後32°F近傍まで)。熱サイフォン撹拌は、発酵中の麦汁の強い動きを制御するために最適化されてもよく、これによってイーストと麦汁との接触効率が向上する。
【0095】
熱交換器のリザーバは、冷却媒体供給および真空源と流体連通しており、冷却媒体が選択された量のヘッドスペースを残してリザーバを満たす。また、リザーバは、リザーバヘッドスペース内を所望レベルの真空に引くための真空源と流体連通し、媒体(ビール等)の温度またはその近傍の低温における制御された真空蒸発を提供する。エタノール冷媒を想定すると、真空レベルはラガーでは0.169psiと0.200psiの間であり、これは発酵温度45°F~55°Fと等価であり、エールでは0.248psiと0.265psiの間であり、これは発酵温度68°F~72°Fと等価である。加えて、冷却媒体の蒸発が検出され表示され、媒体内の熱活動を示すように、ヘッドスペース圧力の指標を提供することができる。
【0096】
本開示のさらなる態様によれば、発酵タンクの内部底に冷却コイルを利用して、ラガー熟成に用いる二次冷却ジャケットを置き換えることができる。この冷却コイルは、イーストが主に休眠していたり自然撹拌に必要なCO2を生成しなかったりという場合に、重力、密度、温度差、またはこれらのいずれかの組み合わせによるビールの分離を防止することによって均質化を改善する。
【0097】
2.熱伝達の空間的位置を示すための蒸発する冷媒の使用
【0098】
本開示の別の態様または実装によれば、導管内の流体の蒸発率を閲覧または決定するために、温度プローブまたはサイトグラス、圧力および真空計または他の器具を用いる。蒸発率は、液体冷媒の動きの増大によって、あるいは、熱制御導管または熱交換器の内表面に形成される泡によって、示される。これらの泡は、まず冷媒リザーバの表面に形成され、その後、いずれ離れてヘッドスペースに向かって上に移動する。オペレータ(醸造者等)は、蒸発プロセスを閲覧するためのサイトグラスまたは器具を用いて、流体の運動が発生する位置または泡が形成される位置を観測することにより、熱が生成される位置を決定するための視覚的データまたは器具補完データを得ることができる。
【0099】
一部の醸造者は、局所的な熱スポットのみから保護する正確な方法を持たず、冷却ジャケットの活性化を介してバッチ全体の熱ショックのリスクを負いたくないため、冷却システムをオフに切り替える。本開示は、ポンプ吐出下流の冷却媒体の予期しない存在を介した局所的な熱生成の連続的な指標を提供することができる。たとえば、指標を用いて醸造者にタンクを再均質化するための修正行為を行うよう指示してもよい。
【0100】
3.熱伝達の一貫性を改善するためのバッファ冷却流体の使用(バッファ流体は冷媒リザーバおよび媒体の双方と熱接触する)
【0101】
図12は、ジャケット付き発酵タンク等の容器138の外部136に取り付けられたコイルまたは接続された一連のコイル134を採用したシステム132を示す。媒体140が容器138内に収容される。この実装では、容器138の外部136に取り付けられたコイル134は、コイル内の流体またはバッファ流体と、容器138および容器138内の媒体140双方との間の接触を提供する。
【0102】
4.蒸気圧の変動による熱伝達を改善するための、蒸発する冷媒内の流れの生成
【0103】
本開示のさらに別の態様によれば、冷却コイルの機械的設計により、冷却コイル管自身内部の冷却流体の撹拌が提供され、コイル内の冷却液から蒸気界面への熱伝達をさらに改善する。機械的設計の結果、撹拌が発生し、これによって、液体冷媒充填コイルの少なくとも2つの端部に、共通の冷媒蒸気空間がリンクされる。真空によって液体冷媒が蒸発すると、発生した蒸気は共通の蒸気空間に向かって移動し、したがって、この移動が、蒸気源と共通のヘッドスペースとの間の冷媒液体積の撹拌を起こす。しかしながら、液体冷媒体積は2箇所以上の位置において共通のヘッドスペースに接続されるので、蒸気生成は、蒸気が移動する向きとは逆の向きに液体体積の一部を移動させ、液体のこの一部は共通のヘッドスペースの一部を満たすように移動する可能性がある。結果として、コイル内の液体冷媒のその一部は、コイル内表面に対して相対的に移動する。液体冷媒の移動は、コイルの内表面上で生成された冷媒蒸気の、冷媒液体への吸収を促進し、これによって、コイル外部の媒体から内部に含まれる冷媒への熱伝達を改善する。たとえば、ビールのエールについて、エタノール冷媒を想定すると、0.248psiと0.265psiとの間の真空レベル(68°F~72°Fの発酵温度と等価)が必要である。
【0104】
上述のことは
図13に示され、
図13は、共通の真空コイルリザーバ148(その頂部150に真空等化ライン152がある)に結合された2つのコイル(第1コイル144および第2コイル146)からなる真空コイルおよびリザーバシステム142を示す。第1および第2コイル144,146はそれぞれ、リザーバ148の頂部150の空のヘッドスペースにおいて、独立した第1および第2ポート158,160に結合される第1端154,156を有する。加えて、第1および第2コイル144,146は、リザーバ148の第2端168または液体充填部において、共通ポート166にそれぞれ結合される第2端162,164を有する。本質的には、真空が発生した際、コイル144,146内の液体は、リザーバ148の頂部150における2つの接続ポート158,160に対して振動し始める。クリアなコイル配管を介して観測すると、液体は、頂部接続ポート158,160の一方の側を介して逃げようとし、その後引き戻され、今度は頂部接続の反対の側を介して逃げようとするが、いずれの接続を介しても決して逃げることができないように見える。これが観測される振動運動である。リザーバは、蒸発する液体冷媒を補充し、振動の開始位置および終了位置に対してコイル内の液体冷媒のレベルを一定に保持するように、機械的に構成される。
【0105】
5.冷媒の予熱
【0106】
システムを冷媒で再充填する際に、冷媒を媒体の現在温度以上に熱してもよい。冷媒リザーバに導入されると、熱は冷媒が冷却されるに伴ってリザーバ壁を介して媒体に伝導し、これによって媒体が温められる。その後、冷却が必要な時に、冷媒は蒸発する。このように、同一の冷媒蒸発装置によって、加熱および蒸発冷却の双方が実現可能である。
【0107】
上述の様々な実装は、さらなる実装を提供するために組み合わせられまたは修正されてもよい。たとえば、
図14は、
図8の装置の代替的実装を示し、冷媒蒸気流が垂直配管170を介して器または容器の上方外部で合流して収集されるように誘導される。蒸気流を誘導する垂直配管170の直径は、各リザーバ区画80を形成する水平管の直径より小さくすることができ、これによって逃げる冷媒蒸気流の速度が増加する。これによって、垂直配管170内での凝縮が回避され、蒸発した冷媒が冷却コイルから逃げることが防止される。加えて、共通の冷媒充填およびドレインライン116に各マニフォールド112を接続する充填およびドレインライン171がある。充填およびドレインライン171を形成する配管の向きは、システムドレインの後に各マニフォールド112内に保持されるべき冷媒82の望ましいレベルに基づいて変更することができる。
【0108】
図15は、
図8の装置の代替的実装を示し、これは真空ポンプおよび従来の冷媒圧縮機の双方に適している。ここで、液体冷媒82が入ってくる頂部における入口ポート174を有する連続的配置を形成するために、垂直立ち上がり管176によって直列に結合される複数のリザーバ区画80を含む冷媒リザーバ172が提供される。組み合わせドレインおよび真空ポート178が他端に設けられ、これによって、真空ポンプ92または従来の冷媒圧縮機への接続とともにシステムドレインが可能になる。この実装では、液体冷媒82がシステムの頂部の入口ポート174に入り、蒸気は底部のドレインポート178から除去される。水平ティアから垂直ティアへの蒸気の通過を促進するために、垂直立ち上がり管または配管176もまた、リザーバ区画80の水平配管の直径より小さい直径からなってもよい。このコイルは、入口ポート174とドレインポート178との間で、いずれかの向きの温かい冷媒の循環を介して、媒体の加熱のために用いるのに適している。
【0109】
上述の説明に照らして、実装に対してこれらのおよび他の変更を加えることが可能である。概して、添付の特許請求の範囲において、用いられる用語は、本明細書および特許請求の範囲に開示される特定の実装に特許請求の範囲を限定するように解釈されるべきではなく、そのような特許請求の範囲が権利を与えられる等価物の範囲全体にわたってすべての可能な実装を含むと解釈されるべきである。したがって、特許請求の範囲は本開示によって限定されない。
【国際調査報告】