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特表2022-508376異波長の2つの光の曝露を含む光線力学療法
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  • 特表-異波長の2つの光の曝露を含む光線力学療法 図1
  • 特表-異波長の2つの光の曝露を含む光線力学療法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-19
(54)【発明の名称】異波長の2つの光の曝露を含む光線力学療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/19 20060101AFI20220112BHJP
   A61K 31/22 20060101ALI20220112BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20220112BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220112BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20220112BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20220112BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
A61K31/19
A61K31/22
A61K9/107
A61K47/10
A61K47/14
A61K47/34
A61P35/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021534428
(86)(22)【出願日】2018-08-23
(85)【翻訳文提出日】2021-04-16
(86)【国際出願番号】 EP2018072823
(87)【国際公開番号】W WO2020038583
(87)【国際公開日】2020-02-27
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500386688
【氏名又は名称】バイオフロンテラ バイオサイエンス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Biofrontera Bioscience GmbH
【住所又は居所原語表記】Hemmelrather Weg 201, D-51377 Leverkusen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(74)【代理人】
【識別番号】100136696
【弁理士】
【氏名又は名称】時岡 恭平
(72)【発明者】
【氏名】ヘルマン・リュバート
【テーマコード(参考)】
4C076
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA17
4C076BB11
4C076BB31
4C076CC27
4C076DD01
4C076DD09
4C076DD37
4C076DD46
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA09
4C206DB03
4C206NA06
4C206ZA89
4C206ZB26
(57)【要約】
本発明は、患者の皮膚疾患の予防または治療に用いる光増感剤含有組成物であって、該組成物が、以下の順序のステップ:(a)前記患者の皮膚領域に、前記組成物を局所塗布または皮下注射すること、(b)皮膚の少なくとも前記領域に、太陽光と類似または同一の波長スペクトルの光を30分~5時間、曝露させること、および、(c)皮膚の少なくとも前記領域に、前記光増感剤の吸光スペクトルの1つの極大値のみを含む波長スペクトルの光を曝露させること、で使用される組成物、に関し、また、概説したステップを用いて皮膚疾患を治療する方法、および、そのような組成物およびそれぞれ示された光を適用するのに適した光源を含む部品のキット、に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の皮膚疾患の予防または治療に用いるための光増感剤含有組成物であって、該組成物が、以下の順序のステップ:
(a)前記患者の皮膚領域に、前記組成物を局所塗布または皮下注射すること、
(b)皮膚の少なくとも前記領域に、太陽光と類似または同一の波長スペクトルの光、好ましくは放射照度の光を、30分~5時間、好ましくは1~3時間、より好ましくは1~2時間、曝露させること、および、
(c)皮膚の少なくとも前記領域に、ステップ(b)に比べてより狭い、好ましくは前記光増感剤の吸光スペクトルの1つの極大値のみを含む、波長スペクトルの光を曝露させること、
で使用される、組成物。
【請求項2】
ステップ(c)で使用する光が、赤色光または紫色光である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
皮膚領域が、疾患によって影響を受けた皮膚、または疾患によって影響を受ける可能性のある皮膚を含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
ステップ(a)の後、ステップ(b)の前に、好ましくは光曝露がない条件で、1~90分、特に15~30分の滞留時間間隔がある、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
ステップ(b)で使用する光が、好ましくは患者が快適に滞在できる場所で、日陰または太陽の下での天候に応じて、平均的な太陽光の放射照度と類似の放射照度を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
ステップ(b)の光が、380nm~780nmの波長スペクトルを有し、好ましくは全体にわたって等しい放射照度であるか、または約405nmおよび/または505nmおよび/または635nmに放射照度のピークを有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
ステップ(c)の光が、570nm~750nmの範囲、好ましくは570nm~670nm、より好ましくは約635nmの波長を有する;または、
ステップ(c)の光が、360nm~495nmの範囲、好ましくは360nm~460nm、より好ましくは約410nmの波長を有する、
請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
ステップ(c)の赤色光により、10~75J/cm、好ましくは25~45J/cmの放射曝露が生じ;
ステップ(c)の紫色光により、1~30J/cm、好ましくは5~15J/cmの放射曝露が生じる、
請求項2~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
ステップ(b)で使用する光が、ステップ(c)で使用する光よりも低い放射照度を有し、好ましくは放射照度がステップ(c)よりも2~15倍低い、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
ステップ(c)の曝露が、少なくとも5分、好ましくは5~60分、より好ましくは10~30分、継続される、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
光増感剤が、5-アミノレブリン酸(ALA)、ALA-エステル、特に、メチル-5-アミノ-4-オキソペンタノエート、またはヘキシル-5-アミノ-4-オキソペンタノエート、またはそれらの誘導体、から選択される、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
該組成物が、さらに、
(a)少なくとも1種の水性成分、および、
(b)(i)少なくとも1種の親油性成分、
(ii)少なくとも1種の界面活性剤、および、
(iii)少なくとも1種のアルコール、を含む担体、
を含み、ナノエマルジョンとして製剤化されている、請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
担体が水性成分に存在する、および/または
ナノエマルジョンの総重量を基準として、界面活性剤が1重量%~30重量%の量で存在し、アルコールが0.1重量%~10重量%の量で存在する、
請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
水性成分が、ナノエマルジョンの総重量を基準として、50重量%~98重量%の量で存在する、請求項12または13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
少なくとも1種のアルコールが、イソプロピルアルコール、および/または1-プロピルアルコールであり、および/または、
少なくとも1種の親油性成分が、トリグリセリド、および/またはそれらの混合物であり、および/または、
少なくとも1種の界面活性剤が、レシチン、および/またはポリオキシエチレン系界面活性剤であり、および/または、
乳化粒子の平均粒径が、10~100nmの範囲である、
請求項12~14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
皮膚疾患が、過剰増殖性疾患、好ましくは角化症、より好ましくは光線角化症;基底細胞癌、その部位の扁平上皮癌、いぼ、にきび、酒さ、または炎症性または感染性の皮膚疾患、である、請求項1~15のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
以下のステップ:
(a)患者の皮膚領域に、組成物を局所塗布または皮下注射すること、
(b)皮膚の少なくとも前記領域に、太陽光と類似または同一の波長スペクトルの光を、30分~5時間、好ましくは1~3時間、より好ましくは1~2時間、曝露させること、および、
(c)皮膚の少なくとも前記領域に、ステップ(b)に比べてより狭い、好ましくは前記光増感剤の吸光スペクトルの1つの極大値のみを含む、より好ましくは635nmの極大値を含む、波長スペクトルの光を曝露させること、
を含む、それを必要とする患者の皮膚疾患を治療または予防する方法。
【請求項18】
太陽光と類似または同一の波長スペクトルの光、好ましくは放射照度の光、および/または黄赤色光または紫青色光、を発することが可能な光源、および、請求項17に記載の方法のステップ(b)および(c)を実施するための指示マニュアル、を含む部品キット。
【請求項19】
太陽光と類似または同一の波長スペクトルの光、好ましくは放射照度の光、および/または黄赤色光または紫青色光、を発することが可能な光源、および、請求項17に記載の方法のステップ(b)および(c)を実施するようにプログラムされているコントローラー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、副作用、特に痛みを軽減する、改良された光線力学療法における光増感剤の使用に関する。特に、本発明は、患者の皮膚疾患の予防または治療に用いられる光増感剤含有組成物であって、該組成物が、以下の順序のステップ:
(a)前記患者の皮膚領域に、前記組成物を局所塗布または皮下注射すること、
(b)皮膚の少なくとも前記領域に、太陽光と類似または同一の波長スペクトルの光を30分~5時間、曝露させること、および、
(c)皮膚の少なくとも前記領域に、前記光増感剤の吸光スペクトルの1つの極大値のみを含む波長スペクトルの光を曝露させること、
で使用される組成物、に関し、
また、概説したステップを用いて皮膚疾患を治療する方法、および、そのような組成物およびそれぞれ示された光を適用するのに適した光源を含む部品のキット、に関する。
【背景技術】
【0002】
光線力学療法(PDT)は、皮膚またはその他の上皮器官または粘膜のさまざまな異常または障害、特に癌または前癌病変、および特定の非悪性病変(例えば、乾癬、光線角化症(AK)、および、にきびなどの皮膚症状)、の治療に使用される低侵襲治療法である。PDTは、光増感剤を全身的または局所的に身体の患部に適用し、続いて、光学的に活性化した光を曝露し、光増感剤を活性化して細胞毒性形態に変換するものであり、それにより、処置した細胞を殺滅するか、その増殖能を低下させる。
【0003】
ソラレン、ポルフィリン(例えば、フォトフリン(商標))、クロリンおよびフタロシアニンなどの、様々な光増感剤が、当技術分野において知られている。局所または皮下の適用として、現在、臨床的に最も注目されている光増感剤は、標的細胞において代謝的に変換される前駆体形態の光増感剤である。最も注目されているは、5-アミノレブリン酸(ALA)およびその誘導体、例えば、5-ALAエステルなどのエステルである。
【0004】
5-ALAおよび5-ALA誘導体によるPDTは、さまざまな疾患の治療に臨床的に非常に有効であるが、この治療は副作用も引き起こす。これらには、多くの場合、痛み、紅斑、腫れ、浮腫、灼熱感、かゆみ、剥離、色素沈着、および、治療後の長期にわたる刺激および過敏症、が含まれる。このような副作用は、治療部位が、顔、頭皮、または首である場合に、特に望ましくない。これは、PDTにより、病変(例えば、光線角化症、にきび、基底細胞癌、いぼ、乾癬、酒さ、創傷治癒、その部位の扁平上皮癌、または、その他の過剰増殖性または感染性障害)を治療する場合、および、高出力光源による短期照射を用いてPDTを実施した場合に、よく見られる。特に、これらの状況で患者が経験することが多い実質的な痛みにより、特にPDTを複数回または拡張した皮膚領域に適用する必要がある場合、この治療が受け入れにくくなっている。
【0005】
代替治療法は、従来のPDTで使用される高出力光源の代わりに、太陽光を曝露時間を長くして使用して光増感剤を活性化させる、日光PDTである。日光PDTの副作用、特に痛みは、大幅に軽減される(Dirschka et al., J Eur Acad Dermatol Venereol. 2018 Jul 19)。日光PDTの有効性は従来のPDTに匹敵するように見えるが、再発率は日光PDTの方が大幅に高くなっている。
【0006】
本発明は、2つの異なる光曝露を含む改良されたPDTにおける光増感剤の使用を教示する。したがって、本発明は、とりわけ、副作用の減少、特に痛みの減少、および再発率の低下という利点を提供する。
【発明の概要】
【0007】
第1の態様において、本発明は、患者の皮膚疾患の予防または治療に用いるための光増感剤含有組成物であって、該組成物は、以下の順序のステップ:
(a)前記患者の皮膚領域に、前記組成物を適用すること、
(b)皮膚の少なくとも前記領域に、太陽光と類似または同一の波長スペクトルの光を、30分~5時間、好ましくは1~3時間、より好ましくは1~2時間、曝露させること、および
(c)皮膚の少なくとも前記領域に、ステップ(b)に比べてより狭い、好ましくは前記光増感剤の吸光スペクトルの1つの極大値のみを含む、波長スペクトルの光を曝露させること、
で使用される、組成物を提供する。
【0008】
第2の態様において、本発明は、本発明の第1の態様に示されるように、光増感剤を患者の皮膚領域に適用する、それを必要とする患者の皮膚疾患を治療または予防する方法を提供する。
【0009】
第3の態様において、本発明は、太陽光と類似または同一の波長スペクトルの光、好ましくは放射照度の光、および/または黄赤色または紫青色光、を発することが可能な光源、および、本発明の第2の態様の方法のステップ(b)および(c)を実施するための指示マニュアル、を含む部品キット、を提供する。
【0010】
第4の態様において、本発明は、太陽光と類似または同一の波長スペクトルの光、好ましくは放射照度の光、および/または黄赤色または紫青色光、を発することが可能な光源、および、本発明の第2の態様の方法のステップ(b)および(c)を実施するようにプログラムされているコントローラー、を提供する。
【0011】
以下、本明細書に添付した図の内容を説明する。この文脈において、上記および/または下記の本発明の詳細な説明も参照されたい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】PDTの副作用(痛みスコア)は、5-ALA光増感剤を使用し、続いて一般的に使用されるPDT赤色光源により照射を行う光線力学療法によって体感した痛みと、最初に人工日光を施し、続いて同様の赤色光を照射する組み合わせを用いた、本発明のPDTと5-ALAとの組み合わせを使用した場合との比較を示す。痛みは、痛みの視覚的アナログスケール(VAS)でスコア化した。治療領域は、両方の治療において、体感した痛みに影響を及ぼした。驚くべきことに、光増感剤の適用後の赤色光照射のみとは対照的に、光増感剤の適用後の日光と赤色光との組み合わせを用いた場合、体感する痛みは著しく軽減した。
図2】プロトポルフィリンIX(PpIX)の吸光スペクトルは、350nm~700nmの範囲の吸光スペクトルを示す。最も大きい吸収極大は405nmに位置する。それより小さいが、長波光の組織浸透が非常に優れているため、臨床的に重要な吸収極大は635nmに位置する。間に、追加の3つの極大値が、500nm~550nmの範囲に位置する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を以下に詳細に説明する前に、本発明は、これらがさまざまであるように、本明細書に記載された特定の方法論、プロトコル、および試薬に限定されないことを理解されたい。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することを意図するものではないことも理解されたい。特に断りがない限り、本明細書で使用されるすべての技術的および科学的用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0014】
好ましくは、本明細書で使用される用語は、“A multilingual glossary of biotechnological terms: (IUPAC Recommendations)”, Leuenberger, H.G.W, Nagel, B. and Klbl, H. eds. (1995), Helvetica Chimica Acta, CH-4010 Basel, Switzerland、に記載されたように定義される。
【0015】
本明細書および以下の特許請求の範囲を通じて、文脈上断りがない限り、「含む」という単語、および「含み」および「含んでいる」などの変形は、記載された整数またはステップ、または整数またはステップのグループを含むが、他の整数またはステップ、または整数またはステップのグループを除外しないことを意味すると理解される。以下の欄では、本発明のさまざまな態様がより詳細に定義されている。そのように定義された各態様は、明らかに反対のことが示されない限り、他の態様と組み合わせることができる。特に、任意であって、好ましいまたは有利であると示された特徴は、任意であって、好ましいまたは有利であると示された他の特徴または複数の特徴と組み合わせることができる。
【0016】
本明細書の本文全体において、いくつかの文書が引用されている。本明細書で引用された各文書(すべての特許、特許出願、科学刊行物、製造業者の仕様書、説明書などを含む)は、上記または下記のどちらにおいても、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書には、本発明が、先行発明によってそのような開示に先行する権利がないことを認めるものと解釈されるべき事項はない。本明細書で引用されるいくつかの文書は、「参照により組み込まれる」として特徴付けられる。そのような組み込まれた参考文献の定義または教示と、本明細書に記載されている定義または教示との間に矛盾がある場合、本明細書の文章が優先される。
【0017】
以下、本発明の構成について説明する。これらの構成は、特定の実施形態によって説明されている。しかしながら、これらは、追加の実施形態を作成するために、任意の方法および任意の数で組み合わせることができることを理解されたい。さまざまに記載された例および好ましい実施形態は、明示的に記載された実施形態のみに本発明を限定すると解釈すべきではない。この説明は、明示的に記載された実施形態を、任意の数の開示された、および/または好ましい構成と組み合わせた、実施形態をサポートし、包含すると理解されるべきである。さらに、本願で説明されるすべての構成の順序および組み合わせは、文脈上断りのない限り、本願の明細書によって開示されているものとみなされる。
【0018】
定義
以下、本明細書において頻繁に使用される用語のいくつかの定義を示す。これらの用語は、その使用の各例にあり、明細書の残りの部分で、それぞれ定義された意味と好ましい意味を有する。
【0019】
本明細書および添付の特許請求の範囲において、単数形「a」、「an」、および「the」は、内容が明らかに他のことを示さない限り、複数の指示対象を含む。
【0020】
数値に関連して用いられる「約」との用語は、示された数値よりも5%小さい下限から、示された数値よりも5%大きい上限までの範囲内の数値を包含することを意味する。
【0021】
本明細書において「担体」との用語は、治療剤を投与するに際しての、希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを意味する。そのような医薬担体は、食塩水、および石油、動物、植物または合成由来のものが含まれる油(例えば、ピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油など)、などの無菌の液体であり得る。医薬組成物を静脈内投与する場合、生理食塩水が好ましい担体である。生理食塩水、およびデキストロースおよびグリセロールの水溶液も、特に注射可能な溶液として、液体担体として使用することができる。適した医薬賦形剤としては、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、モルト、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが挙げられる。組成物は、所望により、少量の湿潤剤または乳化剤、またはpH緩衝剤を含むこともできる。これらの組成物は、溶液、懸濁液、エマルジョン、錠剤、ピル、カプセル、粉末、持続放出性製剤などの形態をとることができる。組成物は、トリグリセリドなどの従来の結合剤および担体を用いて、坐剤として製剤化することができる。本発明の化合物は、中性または塩の形態として製剤化することができる。薬学的に許容される塩としては、遊離アミノ基と、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来するものなどで形成されるもの、および、遊離カルボキシル基と、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来するものなどで形成されるものが含まれる。適した医薬担体の例は、E. W. Martinの「Remington's Pharmaceutical Sciences」に記載されている。そのような組成物は、患者に適切に投与するための形態を提供するために、治療有効量の化合物を、好ましくは精製された形態で、適切な量の担体とともに含む。製剤は投与方法に適合すべきである。
【0022】
本明細書において、「光増感剤」との用語は、光の吸収によって活性化する感光性分子を意味する。光増感剤の光活性化は、光化学反応において、活性酸素種(一重項酸素が含まれる)の形成を引き起こし得る。これらの活性酸素種は、光増感剤を取り込んだ細胞を損傷し得る。本発明の文脈において光増感剤は、直接光増感剤、すなわち光増感性分子、または、標的の細胞において直接光増感剤に変換される直接光増感剤の前駆体、を意味し得る。直接光増感剤としては、これに限定されるものではないが、例えば、ポルフィリン(例えば、フォトフリン)、クロリン、およびフタロシアニンが挙げられる。光増感剤の前駆体としては、これに限定されるものではないが、例えば、5-アミノレブリン酸(ALA)およびその誘導体、例えば、5-ALAエステルなどのエステルが挙げられる。ALAは、直接光増感剤プロトポルフィリンIX(PpIX)の生合成前駆体として機能する。本発明に適したALAのすべての誘導体は、それらがPpIXに代謝され得るという共通点を有する。
【0023】
PpIXは、405nmに最大の光吸収(いわゆるソーレーピーク)と、635nmにかなり弱い吸収ピークを含む、いくつかの吸収ピーク(図2参照)を示す。後者の吸収ピークは、血液由来のヘモグロビンからの干渉を減らしながら(635nmでの吸収が低い)、PpIXを励起するために使用することができる。PpIXは、さらに505nmに吸収ピークを有している。350nm~700nmの範囲の波長に関するPpIXの吸光度を、図2に例示的に示す。当業者は、分子が、最大吸収波長と同じ波長において最小のエネルギーで励起され得ることを知っているが、異なる波長の光で分子を光活性化(=励起)することも可能である。最大吸収極大とは異なる波長の使用は、標的の組織内の他の光吸収分子との干渉を減少させたり、紫青色光と比較した赤色光の場合のように組織浸透性を高くするなど、さまざまな効果を発揮するのに有用である。PpIXの場合、405nmにおいてPpIXを励起するのに最も適した紫色(または青色)光は、635nmにおいてPpIXを励起するのに最も適した赤色光と比較して、PpIXを励起するのに要するエネルギーはかなり少ない。しかしながら、赤色光の組織浸透性は、紫色(または青色)光の組織浸透性よりもかなり高く、そのため、赤色光は、表皮のより深いレベルにおいて(Moan et al., Proceedings of the SPIE, 1996, Vol. 2625, p544-549)、特に表皮が、簇出(budding)および/または乳頭状簇出(papillary sprouting)の領域を示すところにおいて(Schmitz et al., J Dtsch Dermatol Ges. 2018 Aug;16(8):1002-1013)、PpIXを励起するのに適している。
【0024】
本明細書において、「波長スペクトル」との用語は、特定の範囲の波長の光を意味する。例えば、赤色光の波長スペクトルは、620nm~750nmである。より狭い波長スペクトルは、参照されるスペクトルとしてより小さい範囲の波長を含む。例えば、赤色光の波長スペクトル(620nm~750nm)は、太陽光の波長スペクトル(約100nm~1000nm)と比較して、狭い波長スペクトルである。
【0025】
本明細書において、「痛みの視覚的アナログスケール」または「VAS」との用語は、痛みの強度の一次元的測定を意味する(McCormack et al. Psychol Med 1988; 18: 1007-19、参照)。痛みVASは、長さが通常10センチメートル(100mm)で、各極端な症状に、2つの口頭の説明が付けられた、線で構成される連続的なスケールである。痛みの強さについては、「痛みなし」(スコア0)と「可能な限りのひどい痛み」または「考えられる最悪の痛み」(スコア10)が、スケールに設けられた。
【0026】
本明細書において、「放射照度」との用語は、単位面積あたりの表面が受ける放射束(またはパワー)を意味し、1平方センチメートルあたりのワット(W/cm)として表される。「放射照度」との用語は、光の強度に関して、「強度」と同等に使用される。
【0027】
本明細書において、「放射曝露」との用語は、単位面積あたりに受ける放射エネルギー(ジュール/平方センチメートル;J/cm)を意味し、言い換えれば、照射時間にわたって積分された表面の放射照度を意味する。この用語は、「有効光線量」および「放射フルエンス」との用語と同等に使用される。
【0028】
実施形態
以下では、本発明のさまざまな態様がより詳細に規定される。そのように規定された各態様は、明らかに反対のことを示すものでない限り、他の態様や複数の態様と組み合わせることができる。特に、好ましいまたは有利であることが示された特徴は、好ましいまたは有利であることが示された他の特徴または複数の特徴と組み合わせることができる。
【0029】
第1の態様において、本発明は、患者の皮膚疾患の予防または治療に用いるための光増感剤を含有組成物であって、該組成物が、以下の順序のステップ:
(a)前記患者の皮膚領域に、前記組成物を局所塗布または皮下注射すること、
(b)皮膚の少なくとも前記領域に、太陽光と類似または同一の波長スペクトルの光、好ましくは放射照度の光を、30分~5時間、好ましくは1~3時間、より好ましくは1~2時間、曝露させること、および、
(c)皮膚の少なくとも前記領域に、ステップ(b)に比べてより狭い、好ましくは前記光増感剤の吸光スペクトルの1つの極大値のみを含む、より好ましくは635nmの極大値を含む、波長スペクトルの光を曝露させること、
で使用される、組成物、を提供する。
【0030】
吸光スペクトルは、波長の関数としての吸光度のプロットである。当業者は、化合物の吸光スペクトルを測定するための種々の方法を知っている。そのような方法の1つが分光光度法である。したがって、分光光度計は、試験される化合物を溶液中に含むサンプルに、典型的には0.1nm、0.5nmまたは1nmの狭い波長範囲の光を透過させる。分光光度計は、化合物によって吸収された光を測定する。例えば、可視光などの特定の波長範囲にわたる測定を用いることにより、前記化合物の吸光スペクトルが生成される。このような吸光スペクトルを表す曲線は、通常、吸収ピークとなる1つ以上の極大値を有する。極大値のピークは、吸収ピークと称される。当業者はさらに、当技術分野で知られている数学的手段によって、吸光スペクトルなどの曲線の極大値を規定する方法を知っている。識別され得る曲線のそのような方法の1つは、微分テストである。このテストでは、曲線の極大点、極小点、および鞍点を判定できる。一次微分テストでは、曲線の傾きが同定される。曲線の極大値は、その点で曲線が増加から減少に切り替わる点である。言い換えれば、曲線の一次微分は、極大値において0である。二次微分テストでは、一次微分テストで特定された点が極大値であるかどうかが判定される。この点の2次微分が0未満の場合、曲線はこの点で極大値を有する。
【0031】
換言すると、処理される領域は、光増感剤を含む組成物の適用後、少なくとも30分間、太陽光と類似または同一の波長スペクトルの光に曝露され、その後、より狭い波長スペクトルの光に曝露される。第2の曝露の波長スペクトルは、前記光増感剤の吸光スペクトル(=吸収ピーク)の1つの極大値のみの波長を含む。
【0032】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、ステップ(c)の光は、赤色光、青色光、緑色光、または紫色光である。
【0033】
赤色光とは、620nm~750nmの波長スペクトルの光を意味する。紫色光とは、380nm~450nmの波長スペクトルの光を意味する。青色光とは、450nm~495nmの波長スペクトルの光を意味する。緑色光とは、495nm~570mnの波長スペクトルの光を意味する。
【0034】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、ステップ(c)の光は、赤色光または紫色光である。赤色光とは、620nm~750nmの波長スペクトルの光を意味する。紫色光とは、380nm~450nmの波長スペクトルの光を意味する。
【0035】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、ステップ(c)の光は、赤色光である。赤色光は、より短い波長の光と比較して、組織浸透性に優れるという特別な利点を有する。
【0036】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、皮膚領域は、疾患によって影響を受けた皮膚、または疾患によって影響を受ける可能性のある皮膚を含む。
【0037】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、ステップ(a)の後、ステップ(b)の前に、好ましくは光曝露がない条件で、1~90分、特に5~60分、さらに特に15~30分の滞留時間間隔がある。滞留時間間隔は、組成物または少なくともその中に含まれる光増感剤が意図された標的細胞/組織に到達するための時間を与えることを可能にする。使用される光増感剤が実際の光増感剤の前駆体であり、その前駆体から生じる実際の光増感剤の代謝変換および集積を行う場合、滞留時間は特に有用である。滞留時間は、光曝露がないものであり得る。これは、光への暴露後に発生する可能性のある光増感剤の光退色を避けるために特に有用である。
【0038】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、ステップ(b)で使用する光は、平均的な太陽光の放射照度および/またはスペクトル分布と類似の放射照度および/またはスペクトル分布を有する。ステップ(b)は、日陰または太陽の下での屋外の天候、または窓に隣接する屋内の天候に応じて、患者が快適に滞在できる場所に患者がいるときに行うことが好ましい。
【0039】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、ステップ(b)で使用する光は、太陽光(=日光)と類似または同一の波長スペクトルを有する合成光である。
【0040】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、ステップ(b)で使用する光は、8J/cm以上、好ましくは8~75J/cm、より好ましくは10~40J/cm、最も好ましくは15~30J/cmの放射曝露を生じさせる。
【0041】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、ステップ(b)で使用する光は、ステップ(c)で使用する光よりも低い放射照度を有し、好ましくは、放射照度は、ステップ(c)の放射照度の2~15倍低い、すなわち、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15倍低いものである。
【0042】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、ステップ(b)は、10℃以上、好ましくは15℃以上、より好ましくは20℃以上の温度で実施される。温度は、組成物が適用される対象の皮膚温度に関して重要である。皮膚温度が低いほど、光増感剤前駆体の摂取の場合、摂取または代謝変換が遅くなる。温度が低すぎる場合、標的細胞内の光増感剤の量が、標的細胞に影響を与えるには不十分になり得る。
【0043】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、ステップ(b)の光は、可視光の波長スペクトル(すなわち、380nm~780nm)を有し、好ましくは、全体にわたって等しい放射照度であるか、または約410nmおよび/または505nmおよび/または635nmに放射照度のピークを有する。
【0044】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、ステップ(b)の光は、570nm~650nm、好ましくは570nm~630nmの波長スペクトルを有する。
【0045】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、ステップ(b)の光は、360nm~460nm、好ましくは380nm~440nmの波長スペクトルを有する。
【0046】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、ステップ(b)の光は、黄色光および/またはオレンジ色光である。黄色光とは、波長スペクトルが570nm~590nmの光を意味する。オレンジ色光とは、波長スペクトルが590nm~620nmの光を意味する。
【0047】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、ステップ(c)の光は、570nm~750nmの範囲、好ましくは570nm~670nm、より好ましくは約635nmの波長を有する。
【0048】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、ステップ(c)の光は、360nm~495nmの範囲、好ましくは360nm~460nm、より好ましくは約410nmの波長を有する。
【0049】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、ステップ(c)の赤色光により、10~75J/cm、好ましくは25~75J/cm、より好ましくは約25~45J/cm、最も好ましくは約37J/cmの放射曝露が生じる。
【0050】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、ステップ(c)の紫色光により、1~30J/cm、好ましくは5~15J/cmの放射曝露が生じる。
【0051】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、ステップ(c)の曝露は、少なくとも5分、好ましくは5~60分、より好ましくは5~30分、最も好ましくは5~20分、継続される。
【0052】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、光増感剤は、5-アミノレブリン酸(ALA)、ALA-エステル、特に、メチル-5-アミノ-4-オキソペンタノエート、またはヘキシル-5-アミノ-4-オキソペンタノエート、またはそれらの誘導体、から選択される。本発明の文脈において、前駆体、特に生合成前駆体は、光増感剤とも称される。例えば、5-アミノレブリン酸(ALA)とその誘導体は、生合成前駆体である。ALAの代謝変換後にのみ、光増感性分子プロトポルフィリンIXが合成され、これは、光活性化に応答してPDTの作用に関与する。
【0053】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、組成物は、さらに、
(a)少なくとも1種の水性成分、および、
(b)(i)少なくとも1種の親油性成分、
(ii)少なくとも1種の界面活性剤、および、
(iii)少なくとも1種のアルコール、を含む担体、
を含み、ナノエマルジョンとして製剤化されている。
【0054】
光増感剤は、有効であるために、または前駆体である光増感剤がまず変換される場合に、標的細胞によって取り込まれなければならない。ナノエマルジョンとしての組成物の製剤は、光増感剤の取り込みを促進する。
【0055】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、担体は水性成分に存在し、ナノエマルジョンの総重量を基準として、界面活性剤が1重量%~30重量%の量で存在し、アルコールが0.1重量%~10重量%の量で存在する。
【0056】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、担体は水性成分に存在する。
【0057】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、ナノエマルジョンの総重量を基準として、界面活性剤が1重量%~30重量%の量で存在し、アルコールが0.1重量%~10重量%の量で存在する。
【0058】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、水性成分は、ナノエマルジョンの総重量を基準として、50重量%~98重量%の量で存在する。
【0059】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、少なくとも1種のアルコールは、イソプロピルアルコール、および/または1-プロピルアルコールである。
【0060】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、少なくとも1種の親油性成分は、トリグリセリド、および/またはそれらの混合物である。
【0061】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、少なくとも1種の界面活性剤は、レシチン、および/またはポリオキシエチレン系界面活性剤である。
【0062】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、乳化粒子の平均粒径は、10~100nmの範囲である。
【0063】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、皮膚疾患は、過剰増殖性疾患、好ましくは角化症、より好ましくは光線角化症;基底細胞癌、その部位の扁平上皮癌、いぼ、にきび、酒さ、または炎症性または感染性の皮膚疾患、である。
【0064】
第2の態様において、本発明は、本発明の第1の態様に示されるように、光増感剤を患者の皮膚領域に適用する、それを必要とする患者の皮膚疾患を治療または予防する方法を提供する。したがって、本発明の方法は、以下のステップ:
(a)患者の皮膚領域に、組成物を局所塗布または皮下注射すること、
(b)皮膚の少なくとも前記領域に、太陽光と類似または同一の波長スペクトルの光を、30分~5時間、好ましくは1~3時間、より好ましくは1~2時間、曝露させること、および、
(c)皮膚の少なくとも前記領域に、ステップ(b)に比べてより狭い、好ましくは前記光増感剤の吸光スペクトルの1つの極大値のみを含む、より好ましくは635nmの極大値を含む、波長スペクトルの光を曝露させること、
を含む、それを必要とする患者の皮膚疾患を治療または予防する方法、を提供する。
【0065】
本発明の第1の態様に示された上記の好ましい実施形態のすべては、本発明の方法の文脈において、同様に好ましい。
【0066】
第3の態様において、本発明は、太陽光と類似または同一の波長スペクトルの光、および/または黄赤色光または紫青色光、を発することが可能な光源、および、本発明の第2の態様の方法のステップ(b)および(c)を実施するための指示マニュアル、を含む部品キット、を提供する。
【0067】
第4の態様において、本発明は、太陽光と類似または同一の波長スペクトルおよび/または放射照度の光、および黄赤色光または紫青色光、を発することが可能な光源、および、本発明の第2の態様の方法のステップ(b)および(c)を実施するようにプログラムされているコントローラー、を提供する。
【0068】
ステップ(b)および(c)のスペクトル光を発するために用いるのに適した光源は、当技術分野においてそれぞれよく知られており、本発明のすべての態様において使用するために組み合わせることができる。
【実施例
【0069】
実施例1:体感した痛みに対する複合PDTの効果
顔、頭皮および/または額に軽度から中等度の重症度の光線角化症(AK)に罹患している患者を、7.8%の5-アミノレブリン酸(ALA)を含む局所塗布ナノエマルジョン系ゲルである、BF-200 ALA(Ameluz)で処置した。塗布後、光がない条件で滞留時間を設け、2つの異なる光曝露を行った。その後、被験者が体感した痛みをVASスコアによって判定した。
【0070】
調査対象集団
臨床的な確認によって強度が軽度から中等度の光線角化症病変を有すると診断された男性および女性の被験者(63~85歳)が参加した(表1参照)。
【0071】
表1:調査対象集団とVASスコア
【表1】
【0072】
治療プロトコル
研究治療には、研究群に応じて、1つの照射(従来式PDT)または2つの照射期間(複合PDT)からなる単一の光線力学療法(PDT)が含まれた。
治療部位のAK病変のかさぶた、痂皮、増殖角質を脱脂して注意深く除去した後、AK病変および周囲の健康な皮膚の0.5~1.0cmを覆うように、Ameluzの薄層を病変に投与した。治療部位を、30分間、光を通さない密封包帯で覆った。Ameluzは、照射期間全体にわたって病変に留まった。人工太陽光による日光照射は、Indoorlux(商標)システム(Swiss Red AG;スイス)を用いて実施し、Kellnerら(Br J Dermatol. 2015 Apr;172(4):1146-8)に記載されているように、光源からの距離(110~150cm)に応じて、15,000~25,000ルクスの範囲とした。PpIXの活性化に関するスペクトル領域(570~590nmの緑/黄色、および620~640nmのオレンジ/赤色)の放射照度は、それぞれ21.14mW/cmおよび3.04mW/cmであった。これらの波長での合計有効光線量は、光源からの距離に応じて14.3~24.2J/cmであり、天井に対する処置面の角度によって程度が低くなるが、天然の日光PDTに必要とされる9.4~10.8J/cmを下回ることはなかった。日光照射は、滞留時間と遮光包帯除去の直後に始め、2時間連続して行った。
その後すぐに、皮膚表面から5~8cmの距離で赤色光源(BF-RhodoLEDランプ)を使用して治療領域全体を10分間照射し、結果、総光線量は37J/cmとなった。2回目の光曝露期間の後すぐに、体感した痛みを視覚的アナログスケール(VAS)を用いて痛みについて評価した(図1参照)。この研究群の結果は、Reinholdら(Br J Dermatol. 2016 Oct;175(4):696-705)に記載された、BF-200 ALA(Ameluz)を使用した第III相試験の一部である2番目の研究群と比較した。簡単に言えば、2番目の研究群も上記のようにBF-200 ALA(Ameluz)による治療を受けたが、主な違いは、日光照射ステップが実行されなかったことであった(従来式PDT)。
複合PDT群のVASスコアは、治療した領域に依存し、額が最も痛みを感じた領域(VASスコアの中央値3)であり、頭皮の領域(VASの中央値2)、顔の領域(VASの中央値1)がそれに続いた。図1から分かるように、従来式PDT群では、顔/額の群(領域A)で体感したVASスコアの中央値は5であり、頭皮の領域(領域B)ではVASスコアの中央値は6であった。これにより、従来式PDTと比較して、複合PDT群の痛みが大幅に軽減した結果を得た。
【0073】
実施例2:光線角化症の治療における複合PDTの効率
個々の病変のクリアランスに関して、実施例1に記載の複合PDTおよび従来式PDTの効率を、目視検査および触診によって評価し、治療後12週目でベースラインと比較した。
使用したPDT治療(実施例1参照)は両方、90%を超える病変の完全なクリアランス率をもたらした。肌の質に関する美容的な結果も、従来式PDTでなされた結果と有意な差はなかった。
【0074】
実施例3:複合PDTの再発率
治療12ヶ月後の光線角化症の再発率は、日光PDTと比較して従来式PDTでは有意に異なる。従来式PDTでは、軽度の病変の再発率は5.2%であるのに対し、日光PDTでは17.7%であり、中等度の病変では、それぞれ11.4%と20.1%である。これにより、治療12ヶ月後の全体的な再発率は、従来式PDTでは9.4%であるのに対して、日光PDTが19.9%である。再発率のこの有意差は、日光PDTの主要な欠点を表している。
出願日において、全研究集団について治療12ヶ月後の期間に達していないが、初期の結果は、複合PDT群において治療12ヶ月後の全体的な再発率が約10%であることを示している。これは、従来式PDTでなされた9.4%の再発率と実質的に同じであり、日光PDTのみでなされた19.9%から大幅に改善されている。
【0075】
要約すると、本発明は、痛みの有意な軽減に関する日光PDTの利点と、より低い再発率に関する従来式PDTの利点とを驚異的に組み合わせた、光線力学療法(PDT)における光増感剤の新しい適用レジームを教示する。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2021-08-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の皮膚疾患の予防または治療に用いるための光増感剤含有組成物であって、該組成物が、以下の順序のステップ:
(a)前記患者の皮膚領域に、前記組成物を局所塗布または皮下注射すること、
(b)皮膚の少なくとも前記領域に、太陽光と類似または同一の波長スペクトルの光、好ましくは放射照度の光を、30分~5時間、好ましくは1~3時間、より好ましくは1~2時間、曝露させること、および、
(c)皮膚の少なくとも前記領域に、ステップ(b)に比べてより狭い、好ましくは前記光増感剤の吸光スペクトルの1つの極大値のみを含む、波長スペクトルの光を曝露させること、
で使用される、組成物。
【請求項2】
ステップ(c)で使用する光が、赤色光または紫色光である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
皮膚領域が、疾患によって影響を受けた皮膚、または疾患によって影響を受ける可能性のある皮膚を含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
ステップ(a)の後、ステップ(b)の前に、好ましくは光曝露がない条件で、1~90分、特に15~30分の滞留時間間隔がある、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
ステップ(b)で使用する光が、好ましくは患者が快適に滞在できる場所で、日陰または太陽の下での天候に応じて、平均的な太陽光の放射照度と類似の放射照度を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
ステップ(b)の光が、380nm~780nmの波長スペクトルを有し、好ましくは全体にわたって等しい放射照度であるか、または約405nmおよび/または505nmおよび/または635nmに放射照度のピークを有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
ステップ(c)の光が、570nm~750nmの範囲、好ましくは570nm~670nm、より好ましくは約635nmの波長を有する;または、
ステップ(c)の光が、360nm~495nmの範囲、好ましくは360nm~460nm、より好ましくは約410nmの波長を有する、
請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
ステップ(c)の赤色光により、10~75J/cm、好ましくは25~45J/cmの放射曝露が生じ;
ステップ(c)の紫色光により、1~30J/cm、好ましくは5~15J/cmの放射曝露が生じる、
請求項2~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
ステップ(b)で使用する光が、ステップ(c)で使用する光よりも低い放射照度を有し、好ましくは放射照度がステップ(c)よりも2~15倍低い、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
ステップ(c)の曝露が、少なくとも5分、好ましくは5~60分、より好ましくは10~30分、継続される、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
光増感剤が、5-アミノレブリン酸(ALA)、ALA-エステル、特に、メチル-5-アミノ-4-オキソペンタノエート、またはヘキシル-5-アミノ-4-オキソペンタノエート、またはそれらの誘導体、から選択される、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
該組成物が、さらに、
(a)少なくとも1種の水性成分、および、
(b)(i)少なくとも1種の親油性成分、
(ii)少なくとも1種の界面活性剤、および、
(iii)少なくとも1種のアルコール、を含む担体、
を含み、ナノエマルジョンとして製剤化されている、請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
担体が水性成分に存在する、および/または
ナノエマルジョンの総重量を基準として、界面活性剤が1重量%~30重量%の量で存在し、アルコールが0.1重量%~10重量%の量で存在する、
請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
水性成分が、ナノエマルジョンの総重量を基準として、50重量%~98重量%の量で存在する、請求項12または13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
少なくとも1種のアルコールが、イソプロピルアルコール、および/または1-プロピルアルコールであり、および/または、
少なくとも1種の親油性成分が、トリグリセリド、および/またはそれらの混合物であり、および/または、
少なくとも1種の界面活性剤が、レシチン、および/またはポリオキシエチレン系界面活性剤であり、および/または、
乳化粒子の平均粒径が、10~100nmの範囲である、
請求項12~14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
皮膚疾患が、過剰増殖性疾患、好ましくは角化症、より好ましくは光線角化症;基底細胞癌、その部位の扁平上皮癌、いぼ、にきび、酒さ、または炎症性または感染性の皮膚疾患、である、請求項1~15のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
患者の皮膚疾患の予防または治療のための医薬の製造における光増感剤含有組成物の使用であって、該組成物が、以下の順序のステップ:
(a)患者の皮膚領域に、前記組成物を局所塗布または皮下注射すること、
(b)皮膚の少なくとも前記領域に、太陽光と類似または同一の波長スペクトルの光、好ましくは放射照度の光を、30分~5時間、好ましくは1~3時間、より好ましくは1~2時間、曝露させること、および、
(c)皮膚の少なくとも前記領域に、ステップ(b)に比べてより狭い、好ましくは前記光増感剤の吸光スペクトルの1つの極大値のみを含む、波長スペクトルの光を曝露させること、
で使用される組成物である、該組成物の使用。
【請求項18】
太陽光と類似または同一の波長スペクトルの光、好ましくは放射照度の光、および/または黄赤色光または紫青色光、を発することが可能な光源、および、請求項17に記載の方法のステップ(b)および(c)を実施するための指示マニュアル、を含む部品キット。
【請求項19】
太陽光と類似または同一の波長スペクトルの光、好ましくは放射照度の光、および/または黄赤色光または紫青色光、を発することが可能な光源、および、請求項17に記載の方法のステップ(b)および(c)を実施するようにプログラムされているコントローラー。
【国際調査報告】