(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-19
(54)【発明の名称】口腔・咽喉の微生物を蛍光励起・照射するハンドヘルド装置
(51)【国際特許分類】
A61N 5/06 20060101AFI20220112BHJP
【FI】
A61N5/06 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021537098
(86)(22)【出願日】2020-01-07
(85)【翻訳文提出日】2021-06-23
(86)【国際出願番号】 EP2020050222
(87)【国際公開番号】W WO2020144187
(87)【国際公開日】2020-07-16
(31)【優先権主張番号】102019100295.8
(32)【優先日】2019-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】521275493
【氏名又は名称】ケーニッヒ、カーステン
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ケーニッヒ、カーステン
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082PA02
4C082PC06
4C082PC08
4C082PJ01
(57)【要約】
口腔や咽喉の病原性微生物を励起・照射する、例えば歯ブラシなどのハンドヘルド装置に関するものであり、病原性微生物を自動蛍光励起する少なくとも一つの短波長可視スペクトル域の励起光源と、病原性微生物を一次照射して透過照明する少なくとも一つの赤色スペクトル域の一次照射光源と、オプションで病原性微生物を二次照射する少なくとも一つの可視スペクトル域の二次照射光源と、を備え、各光源は、病原性微生物が産生する内因性ポルフィリンに吸収されるスペクトル成分を有するので、後続の各処理を経て病原性微生物の蛍光励起および不活性化が起こる。目への不用意な照射を防ぐため、圧力センサは接触圧力が測定されて初めて高光度を放つよう設計されている。また、光線は発散するようにハンドヘルド装置から出る必要がある。オプションとして、病原性微生物の蛍光の空間分解検出を利用し、蛍光域での標的照射による細菌の不活性化を引き起こせる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔および咽喉の病原性微生物を励起・照射するためのハンドヘルド装置(1;1')であって、
表面領域にいる前記病原性微生物を自動蛍光励起・照射する少なくとも一つの、短波長可視スペクトル域の励起光源(31;31')と
前記病原性微生物を一次照射し透過照明する少なくとも一つの、赤色スペクトル域の一次照射光源(32;32')と
オプションとして少なくとも一つの、450nm~600nmの可視スペクトル域の二次照射光源(33;33')と、を備え、
それぞれの前記照射光源(32、33;32'、33')から放射された光線は、前記病原性微生物が産生する内因性ポルフィリンによって吸収され得るスペクトル成分を有することによって、後続の各処理を経て前記病原性微生物の蛍光形成および不活性化が行われ、
前記ハンドヘルド装置(1;1')は、前記表面領域への自らの圧力を検出すると、前記病原性微生物の不活性化を達成するために、照射光度を10mW/cm
2~100mW/cm
2の範囲の値に増加させる圧力センサをさらに備える
ことを特徴とするハンドヘルド装置。
【請求項2】
前記病原性微生物を自動蛍光励起・照射する前記励起光源(31;31')が、ポルフィリンの吸収極大に相当する励起光線を、好ましくは400nm~410nmの範囲で、さらに好ましくは405nmで放射する
ことを特徴とする、請求項1に記載のハンドヘルド装置。
【請求項3】
前記一次照射は、630nm~700nmの範囲、好ましくは630nm~635nmの範囲、さらに好ましくは633nmの波長成分を有する
ことを特徴とする、請求項1または2に記載のハンドヘルド装置。
【請求項4】
オプションの前記二次照射は、490nm~560nmの範囲、好ましくは505nmの波長成分を有する
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のハンドヘルド装置。
【請求項5】
前記励起光源(31;31')の光線と、前記一次照射光源(32;32')の光線と、オプションの前記二次照射光源(33;33')の光線と、の発光は、交通信号灯の方式で行われる
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のハンドヘルド装置。
【請求項6】
前記ハンドヘルド装置(1;1')は、前記病原性微生物の固有の蛍光放射を検出する少なくとも一つの光検出デバイスをさらに備え、
前記ハンドヘルド装置(1;1')は、好ましくは、前記光検出デバイスの検出出力を外部装置に送信する送信デバイスをさらに備える
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のハンドヘルド装置。
【請求項7】
前記励起光源(31;31')、前記一次照射光源(32;32')、および/またはオプションの前記二次照射光源(33;33')は、発光ダイオードLED、有機発光ダイオードOLED、および/またはレーザのうちの少なくとも一つを備える
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のハンドヘルド装置。
【請求項8】
前記ハンドヘルド装置(1;1')は、日常の歯科衛生の際に使用する歯科用クリーニング装置(1;1')であり、
好ましくは、前記励起光源(31;31')、前記一次照射光源(32;32')および/またはオプションの前記二次照射光源(33;33')は、前記歯科用クリーニング装置(1;1')のブラシヘッド(3;3')に配置されて、植毛の方向に照射が行われ、
さらに好ましくは、前記励起光源は、低強度では、前記病原性微生物中のポルフィリンの蛍光活性化による咽喉の細菌検出用であり、高強度では、表面の前記病原性微生物の不活性化用であって、
前記一次照射光源は、深部にいる前記病原性微生物を不活化するためのものであると同時に、透過照明による透過光源として副鼻腔炎の検出と経過観察を行うためのであり、
オプションの前記二次照射光源は、深部にいる前記病原性微生物を不活化するためのものである
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載のハンドヘルド装置。
【請求項9】
前記ハンドヘルド装置(1)は手動操作の歯ブラシ(1)であり、好ましくは、前記ブラシヘッド(3)には交換可能な植毛部(4)を備えているか、または
前記ハンドヘルド装置(1')は電動歯ブラシ(1')であり、好ましくは、回転および/または振動させることができる前記ブラシヘッド(3')は交換可能であって、前記ブラシヘッド(3')の電気駆動装置(24')への電力供給と、前記励起光源(31;31')、前記一次照射光源(32;32')および/または前記二次照射光源(33;33')への電力供給と、は、同一の電源(21')によって提供される
ことを特徴とする、請求項8に記載のハンドヘルド装置。
【請求項10】
前記ハンドヘルド装置(1;1')は、前記励起光源(31;31')、前記一次照射光源(32;32')および/またはオプションの前記二次照射光源(33;33')に電力を供給する統合化電源(21;21')を備え、
好ましくは、前記統合化電源(21;21')は、ワイヤレスで充電可能である
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載のハンドヘルド装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光放射によって口腔・咽喉の病原性微生物を蛍光励起・照射する、例えば歯ブラシの形をしたハンドヘルド装置に関するものであって、虫歯、歯肉炎、歯周炎の発症だけでなく、副鼻腔炎などの咽喉内炎症性変化にも決定的な役割を果たす、細菌などの微生物の発生を可視化するとともに、これらの微生物を不活性化して増殖を遅らせるか完全に防止すると同時に、すでにいる微生物を死滅させたりするのに適している。
【背景技術】
【0002】
より具体的には、本発明は、口腔や咽喉の病原性微生物を蛍光励起・照射する、例えば歯ブラシなどのハンドヘルド装置に関するものであって、前記装置は、口腔・咽喉の対象領域の表面にいる病原性微生物を自動蛍光励起・照射する少なくとも一つの、短波長可視スペクトル域の励起光源と、病原性微生物に一次照射して透照する少なくとも一つの、赤色スペクトル域の一次照射光源と、オプションとして、病原性微生物に二次照射する少なくとも一つの、450nmから600nmの可視スペクトル域の二次照射光源と、を備えており、これらの照射光源は、病原性微生物が産生する内因性ポルフィリンに吸収され得るスペクトル成分を有することによって、後続の各処理を経て病原性微生物の蛍光励起および不活性化が起こる。また、目への不用意な照射を防ぐために、前記ハンドヘルド装置は、接触圧力が測定されてからでないと高光度にならないように設計された圧力センサーを備えている。また、前記ハンドヘルド装置は、光線が発散ビームとして放射されるように配置されている。また、病原性微生物の蛍光の空間分解検出も利用して、蛍光域での標的照射による細菌の不活性化を引き起こすことができる。
【0003】
歯科・口腔・顎顔面医学の分野では、目視やX線を用いて、例えば歯垢のない歯の表面に直接細菌が繁殖しているか、あるいは深さの異なる歯垢層に細菌が発生しているかといった患者の歯の健康状態を検出し、それに基づいて適切な対策を講じるために、従来から様々な技術や装置が用いられてきた。このような細菌が咽喉に感染すると、血流に乗って重篤な全身疾患を引き起こす可能性がある。例えば、歯周炎の人は、心臓病のリスクが約2倍、脳卒中のリスクが約3倍になるという臨床結果が出ている。そのため、歯周病対策は非常に重要である。対策としては、フロスやブラッシング、洗口などの日常的な歯科衛生に加え、超音波洗浄を利用することもある、歯科医などの専門家による歯のクリーニングが知られている。しかし、通常は、部分的にしか十分に歯垢が除去されない。例えば、歯ブラシを使った従来の機械的な歯のクリーニングでは、歯の表面の三分の一にしか届かない。ほとんどの難治例では、細菌を不活性化する対策として、抗生物質活性を有する薬剤を使用することが多い。しかし、現在、細菌株の抗生物質耐性が増加しているため、歯の微生物感染症に対する、より効率的な診断・治療法の探求が非常に重要になっている。
【0004】
近年、高強度のレーザ光を歯の表面に照射することによる抗菌効果がすでに詳しく研究されてきている。この細菌損傷の処理は、本質的には光熱効果に依存するものであり、その結果、レーザの焼灼(アブレーション)効果によって焼灼による細菌除去が追加的に達成される。この種の治療法の明らかな欠点は、この目的のために通常は複雑で大型のレーザシステムが必要であることと、1平方センチメートルあたり数キロワット(kW/cm2)から1平方センチメートルあたり1ギガワット(GW/cm2)以上の高光度が必要であることと、である。通常は微生物に外部から加えられる光感受性物質を用いる光誘起化学反応による不活性化も、病原性微生物を除去する別の形態の治療法として認められている。しかし、これらの治療法は、熟練した専門家と適切な臨床機器を必要とするだけでなく、家庭での日常生活には適していない。
【0005】
レーザ支援自家蛍光分光法が臨床診断に用いられるようになってくるにつれて、最近では、多種多様な細菌種が自然に蛍光物質を合成し、適切な刺激を受けると自家蛍光による特徴的な光電現象を発生させるので、それを利用して臓器や組織への細菌の侵入を診断できることが次第に認識されてきた。本発明は、このような臨床現場での知見に基づいて、歯科、口腔および顎顔面医学の医療技術分野での適切な応用を考案することと、適切な新しい医療技術装置を開発することと、を目的として開発されたものであって、一方では歯の健康状態、特に虫歯、歯垢または細菌侵入の有無を判定することができ、他方では侵入判定が陽性の場合には、臨床現場に赴くという不都合がなく、熟練者を必要とせずに、すなわち、専門家や適切に高光度を得るための高価で大型のレーザシステムを必要としない簡単な方法で対応する治療を行うことができる。
【0006】
したがって、例えば、DE 30 31 249 C2号公報やDE 93 17 984 U1号公報では、虫歯、歯垢、細菌侵入を検出するための非接触診断法が提案されており、歯にほぼ単色の光源が照射される。歯に単色光を照射することで、歯に蛍光放射が励起され、その蛍光スペクトルは健康な歯の領域と病変した歯の領域との間ではっきりと見える違いを示す。このようにして照射された歯の蛍光スペクトルを検出し評価することによって、健康な歯の領域と病変した歯の領域を明確に区別することができる。
【0007】
紫外線(UV)照射による微生物の不活性化も広く利用されており、例えば、EP 0 818 181 A1号公報では、虫歯除去のためのUVレーザ照射の使用が提案されている。しかし、UV照射の欠点は、放射線が浸透する深さが数マイクロメートルと浅いことに加えて、特に発がん過程を誘発する可能性があることである。
【0008】
光増感剤と呼ばれる外因性の光感受性物質を用いて、可視光線により細菌を不活性化することは、歯科・口腔・顎顔面医学の分野でも知られている。このような光増感剤を光で適切に励起すると、光酸化過程の結果、酸素ラジカルや電子励起酸素、いわゆる一重項酸素が生成され、これらはその後の反応で生体物質での細胞破壊効果を発揮する。光増感剤は、いわゆる光線力学的治療(PDT)の過程で、特に腫瘍治療に使用されている(例えば、Cancer Res. 38 (1978) 2628~2635頁)。関連文献(例えば、J. Photochem. Photobiol.B 21(1993) 81~86頁)には、光増感剤を細菌の培養物に添加しその後に光活性化させると、細菌が不活性化されることが記載されている。しかし、上記した、組織の光線力学的治療や微生物の光線力学的不活性化には、光増感剤の添加が必要であるという決定的な欠点がある。照射時に周囲の組織に大きな損傷を与えないためには、目標物に光増感剤を濃縮することが必要である。しかし、これは一般的には実現できないため、幅広い研究の対象となっている。これまで臨床的に使用されてきた外因性の光増感剤では、例えば健康な皮膚など目標物質の外側で濃縮が起こり、患者の一時的な光過敏症や健康な組織の望ましくない光損傷を引き起こす恐れがある。
【0009】
前述の研究結果の一例として、EP 0 743 029 A2には、外因性光増感剤を使用して、口腔や咽喉の病原性微生物を光力学的に不活性化することに基づいて、導光物に関連したレーザ配置が記載されており、光増感剤の塗布は、歯磨き粉または液体に添加することで行われる。この方法の欠点は、外因性の光増感剤を使用することに加えて、レーザ導光システムを使用することと、顔の領域でレーザ放射を使用することに対応して必要となる高い安全要件と、である。また、光増感剤を含む歯磨き粉や液体を投与すると、健康な粘膜に光増感剤が蓄積される恐れがある。光増感剤が濃縮された粘膜、特に歯の部分や舌への照射は、組織に大きな損傷を与える可能性がある。
【0010】
さらに、咽喉にいるそれぞれの細菌が、例えば副鼻腔炎としても知られる副鼻腔の炎症の際に、上顎洞炎としても知られる上顎洞部位の炎症性疾患を引き起こし、細菌感染やウィルス感染が原因で欧州人口のうちかなりの割合が定期的にこの疾患になることが知られている。例えば、ドイツでは毎年、人口の約15%がこれらの病状に罹患している。粘膜の腫れのせいで、分泌物が正常に排出されなくなる。症状が一週間以上続く場合は、通常、細菌が関与している。症状が二ヶ月以上続く場合は、慢性副鼻腔炎と呼ばれる。これまでは副鼻腔炎の診断には、鼻汁の検査に基づいたり、コンピュータ断層撮影(CT)や磁気共鳴画像(MRI)に基づいたりしてきたが、これらは費用と時間がかかり、また放射線被曝の観点から、特に子供や青少年にはあまり適していない。しかし、光学的な方法であれば、咽喉の検査を内視鏡的に行うこともできる。2005年にWangらが発表した別の光学的方法では、咽喉に近赤外線(NIR)光源を設置し、透過したNIR放射をNIR感応型CCDカメラで検出する。副鼻腔炎による液体が蓄積すると、透過光が変化する(Wang et al. Near infrared transillumination of the maxillary sinuses: overview of methods and preliminary clinical results. Peoceed. SPIE 5686 (2005))。この方法の欠点は、目に見えないNIR光源とNIR感応型CCD特殊カメラを使用することであるが、ほとんどのCCDカメラにはNIR放射の検出を妨げるNIR遮断フィルターが装備されていることに留意すべきである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の課題は、口腔および咽喉の病原性微生物の透過照明および光力学的不活性化のための、歯ブラシまたはいわゆるライト歯ブラシの形態のハンドヘルド装置を提供することであって、この装置は、家庭での使用において取扱いが容易で使用者にリスクがなく、外因性の光増感剤の使用を必要としない。ここでは、特に、光線の患部組織への浸透深度が高いことと、光度の投与量が有利である。
【0012】
この点に関する我々の研究から、本発明を開発する際に、特に口腔や咽喉に存在するある種の病原性微生物が、他の物質に混じって、金属を含まない、蛍光性および感光性のポルフィリンであるプロトポルフィリンIX(PP EX)およびコプロポルフィリン(CP)を固有に合成することが判明した(Cell Mol. Biol.46(2000) pp.1297-1303)。 このような微生物としては、例えば、病原性グラム陽性ポルフィリン産生ATCC株であるプロピオ二バクテリウム・アクネス、アクチノミセス・オドントリティカス、ポルフィロモナス・ジンジバリスや、虫歯、歯肉炎、歯周炎の発症・発現に重要な役割を果たしていると考えられるプレボテラ属などが挙げられ、これらは、人工的な外部刺激がなくても前述したポルフィリンを合成する。したがって、これらの微生物は、内因性の光増感剤のキャリアとして、可視光に感応する。また、この分野の研究では、虫歯や歯垢にプロトポルフィリンIXやコプロポルフィリンが蓄積することが蛍光の研究で明らかになっている(Cell Mol. Biol. 44(1998) pp.1293-1300)。
【0013】
本発明を開発するに際して行った研究で、驚くべきことに、前述の病原性グラム陽性ポルフィリン産生ATCC株の不活性化が、633nm付近の赤色スペクトル域の放射によって、しかも、外因性の光増感剤を使用することなく、ミリワット/平方センチメートル(mW/cm
2)の範囲の非常に低い、したがって、組織無害な照射強度で、可能であることが発見された。この自らの研究結果は、
図1および
図2に例示してあり、照射したサンプル(「CFUrot」)と照射していないサンプル(「CFU0」)のコロニー形成単位(CFU)の数の商を示していて、この商は生存率に相当している。これらの実験では,大規模培養された細菌と歯周炎患者から採取した微生物試料に,例えばヘリウムネオンレーザなどを用いて,波長約633nm,例えば632.8nm,強度100mW/cm
2,エネルギー密度360J/cm
2の光線を一回照射した。一回だけの照射でも特徴的な不活性化効果が見られた。
図1および
図2から分かるように,ポルフィリンを含む細菌株アクチノミセス・オドントリティカスおよびポルフィロモナス・ジンジバリスの平均生存率は,それぞれ30%±4%および59%±10%でしかなかった。しかし,ポルフィリンが検出されない菌株であるミュータンス連鎖球菌では,照射しても顕著な不活化は見られなかった。歯周炎患者から採取した微生物試料の生存率は,嫌気性菌が45%,好気性菌が41%,プレボテラ属が42%,ポルフィロモナス・ジンジバリスが59%,アクチノバチルス・アクチノミセテムコミタンスが65%であった。これらの結果は、ポルフィリンを含む病原性微生物に赤色スペクトル域の光線を照射することで、外因性の光増感剤を使用せずにこれらの細菌を効果的に不活性化できることを明確に示している。
【0014】
通常、光増感剤の活性化は、赤色スペクトル域、すなわち、630~700nmの波長領域の光線によって起こる。このような赤色スペクトル域の光線は,いわゆる「光学窓」の領域,すなわち光線の生体組織への浸透深度が比較的高い領域に位置している。浸透深度は、光度が約37%まで減少した組織深度として定義することができ、典型的には、生体組織において1~5ミリメートルである。黄色スペクトル域、すなわち560~590nmの波長領域で照射すると、比較的高い浸透深度が得られる。一方、紫外線、紫光、2μm以上の赤外光の生体組織への浸透深度は、典型的にはマイクロメートルの範囲でしかない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、口腔や咽喉の病原性微生物を励起・照射するためのハンドヘルド装置が提供され、この装置は、照射対象領域の表面にいる病原性微生物を自動蛍光励起・照射する少なくとも一つの、短波長の可視スペクトル域の励起光源を備える。本明細書に記載の短波長可視スペクトル域は、400nmから410nmの範囲の紫色の光からなるのが好ましい。このスペクトル域における典型的な光の浸透深度は、歯において数百マイクロメートル、すなわち1mm未満である。また、本発明に係るハンドヘルド装置は、病原性微生物の一次照射のためと、透過照明のためと、の両方、すなわち二重の使い道を有する、少なくとも一つの、630nm付近の波長を有する赤色スペクトル域の一次照射光源を備える。また、本発明に係るハンドヘルド装置は、オプションとして、病原性微生物を照射する少なくとも一つの、可視スペクトル域できれば緑または黄色の二次照射光源を備える。励起光源ならびに一次およびオプションの二次照射光源は、適切な可視光線を放出し、この際に、すべての照射光源は異なる波長を有して、それぞれの放出された光線は、病原性微生物が産生する内因性ポルフィリンによって吸収され得るスペクトル成分で構成されている。そのため、病原性微生物の蛍光形成と不活性化を後続の各処理で実現することができる。微生物の不活性化のために微生物に直接照射することに加えて、630nm付近の赤色スペクトル域で一次照射光源を照射するのは、咽喉の炎症過程(副鼻腔炎)を透過照明で検出するのにも適している。言い換えれば、本発明によるハンドヘルド装置は、少なくとも一つの紫色の光線源(405nm)と、一つの赤色の光線源(633nm)と、を備えている。ここで、紫色の光線は、歯の硬質組織および軟質組織の表面にいる細菌を蛍光励起および不活性化するために使用される。一方、一次照射光源の赤色光線は、既に述べた二重の使い道のためのものであって、変化した散乱放射線による副鼻腔炎の検出のためのものであり、この散乱放射線は、顔領域の皮膚を通過する透過照明、すなわち、口腔に導入された光線源で生成され皮膚を通過することにより顔領域で検出可能な光線成分によって、検出することができる。この場合、病的領域の透過照明画像は、健康な領域と比較して、空間的に変化し強度的に変化したパターンを示す。一方、赤色光線は、組織深部、すなわち、歯の硬質組織の深層のような数ミリメートルの深さの組織層にいる細菌を不活性化する役割も果たす。また、本発明に係るハンドヘルド装置は、圧力センサを備えており、その測定出力を使用して目標とする表面領域へのハンドヘルド装置の接触圧力が検出されると、照射光源の照射光度を10mW/cm2から100mW/cm2の範囲内の値まで増加させて、病原性微生物を不活性化する強度にする。このようにして、ハンドヘルド装置が口腔や咽喉に配置されていないときに、特に、増加した照射強度でユーザの目に照射されることを避けるために、本発明によるハンドヘルド装置によって過剰な照射強度が放出されないことを保証できる。
【0016】
病原性微生物とは、例えば、病原性グラム陽性ポルフィリン産生ATCC株であるプロピオニバクテリウム・アクネス、アクチノミセス・オドントリティカス、ポルフィロモナス・ジンジバリスや、プレボテラ属に相当するものである。本発明に係るハンドヘルド装置は、励起光源を用いて、これらの病原性微生物の固有蛍光を励起することができるので、ユーザは、このような病原性微生物がどこの歯や歯の部分にいるかを肉眼で認識できるようになる。また、可視短波長スペクトル域の励起光源は、照射した時点で既に病原性微生物の初期不活性化を引き起こすことができる。その後、既に説明した透過照明に加えて、ユーザは、特に一次照射光源および/またはオプションの二次照射光源を使用して、病原性微生物が産生する内因性ポルフィリンによって吸収される波長を用い、固有の蛍光性のある病原性微生物およびその他の病原性微生物を照射することができる。この光線の吸収によって開始される適切な後続の各処理によって、微生物はさらに蛍光を形成し、少なくとも部分的に、できれば完全に不活性化されることになる。その結果、本発明に係るハンドヘルド装置は、内因性ポルフィリンを含む光線力学的反応を開始することによって、特定の病原性微生物の発生および繁殖を抑制し、既に存在するそのような微生物を破壊するのに適している。この目的のために、外因性の光増感剤をさらに投与する必要はない。
【0017】
好ましい実施形態によれば、病原性微生物の自動蛍光励起のための励起光源は、ポルフィリンの最大吸収値に相当する励起光線を放射し、ここで、励起光線は、例えば、400nm~410nmの範囲、例えば、紫色の光に相当する405nmの範囲でもよい。このようにすれば、対象となる微生物から可能な限り最大の固有蛍光を発生させることができ、ユーザが歯の表面上の可能な限り多くの微生物コロニーを可能な限り容易に検出して、対象となる方法でそれらと闘えるようにする。ただし、光線は通常、深い浸透深度には達しないので、生体の軟質組織および硬質組織への紫色の光の浸透深度が低いという特性により、表面の微生物はますます標的化され、不活性化される。
【0018】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、可視であって、より長い波長のスペクトル域の光線も、本発明によるハンドヘルド装置によって放射される。この場合、照射は、例えば630nm~700nmの範囲、好ましくは630nm~635nmの範囲、さらに好ましくは赤色光に相当する633nmの光の波長成分を追加で有する。630nm~640nmの光線を照射すると、放射線の浸透性が高く、内在性ポルフィリンであるプロトポルフィリンIXとコプロポルフィリンの吸収帯に狙いを定めて照射することができるため、より深部の微生物に到達して不活化することができる。励起光源からの光線と、630nm~700nm、できれば630nm~635nm、さらにできれば633nmの波長成分を有する、一次照射光源からの光線と、による照射を連続して行うとともに、オプションとして、490nm~560nm(緑~黄色)、好ましくは505nmの波長成分を有する二次照射光源を用いて照射することで、異なる浸透深度で所望の領域を照射し、対象となる微生物を可能な限り広範囲に不活化できる。したがって、オプションとして、できれば緑または黄色の光を有する、可視域の第三光線源を使用することができ、これは、表面およびそれよりもやや深いところにいる細菌の不活性化のために用いるのが好ましい。また、これらの光源は、指定された波長域に限定して連続的またはパルス的に放射してもよいが、その代わりに、より広い可視波長域の光線を放射してもよく、また、所望であれば白色光源を提供してもよい。上述した照射波長域の光線による発がん効果は知られていない。青や紫のスペクトル域、特に405nm付近と、黄や緑のスペクトル域、特に505nm付近と、の短波長の可視光は、内在性ポルフィリンがこれらのスペクトル域に吸収帯があることから、用いることができる。ただし、赤色のスペクトル域よりも照射深度が低いため、短波長の可視光で主に不活化できるのは表面領域の微生物だけである。上述した波長範囲の光線を使用する場合、ポルフィリンを産生する病原性微生物を不活性化するための外因性光増感剤を適用する必要はなく、本発明によるハンドヘルド装置は、外因性光増感剤などの別の補助剤を使用せずに、対象となる病原性微生物を不活性化することができるので、虫歯、歯肉炎、歯周炎などがユーザに生じるリスクを潜在的に排除することができる。本発明によるハンドヘルド装置のすべての光源は、内因性ポルフィリンのスペクトル成分に類似したスペクトル成分を含んでいるため、不活性化のための蛍光および光化学処理を開始することができる。
【0019】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、励起光源、一次照射光源、および二次照射光源の光線発光は、交通信号灯の方式で行われる。したがって、まず、励起光源の光線が、例えば、ハンドヘルド装置の上端部で発光される。固有の蛍光を発する微生物を検出し、励起光源で表面領域にいる微生物を照射した後、続いて、例えば励起光源の下方に位置する一次照射光源の光線を発光することができる。続いて、オプションの二次照射光源の発光を行うことができ、この二次照射光源は、例えば、一次照射光源の下方に配置することができる。したがって、例えば、ハンドヘルド装置の所定位置の励起光を用いてユーザの歯およびその周囲の軟組織への照射をまず行い、続いて、ハンドヘルド装置のより下方の位置の一次照射光源からの照射を用いてユーザの口腔および咽喉の微生物への照射を行い、続いて、ハンドヘルド装置のさらに下方の位置の二次照射光源からの照射を用いてユーザの口腔および咽喉の微生物への照射を行う。したがって、本発明に係るハンドヘルド装置の様々な光源のこのような交通信号灯は、医療技術的な目的だけでなく、さらに、審美的な目的も満たすことができるので、交通信号灯の各処理を通過することは、正しい照射順番に関する制御および制御性目的も満たすことができる。
【0020】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、ハンドヘルド装置は、病原性微生物の固有の蛍光発光を検出するための少なくとも一つの光検出デバイスをさらに備えることができ、ユーザは、固有の蛍光を発するすべての微生物を目視で検出する必要はなく、この仕事を光検出デバイスに託すことができる。したがって、光検出デバイスは、励起された微生物の固有の蛍光を検出し、対応する検出信号を、例えば、触覚的なまたは聴覚的なフィードバックに基づいてユーザに出力することができ、フィードバックの強度が固有な蛍光光度を反映することができる。さらに、光検出デバイスは、検出信号、すなわちユーザの歯における蛍光性微生物の分布を、伝送デバイス、例えば、無線ブルートゥース接続などを介してコンピュータや携帯電話などを用いることによって外部に出力することができ、それによって、ユーザは歯における蛍光性微生物の分布を検出し、特に、一次照射光源および/またはオプションの二次照射光源を用いた照射の必要性に関して、あるいは、それぞれの照射時間に関しても、適切な処理を開始することができる。また、蛍光光線および透過光線は、目、携帯電話に搭載されているようなCCDカメラ、および光ダイオードや光電子増倍管などの他の光子検出器によっても検出することができる。
【0021】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、励起光源、一次照射光源および/またはオプションの二次照射光源は、発光ダイオード(LED)、有機発光ダイオード(OLED)および/またはレーザのうち少なくとも一つを備えていてもよい。したがって、本発明に係るハンドヘルド装置は、励起光源、一次照射光源および/またはオプションの二次照射光源の形態の光源、好ましくは高発散LEDを備えていてもよい。例えば、LEDは、ハンドヘルド装置の表面または内部にアレイの形で配置されてもよい。発散度をできれば高くすることによって、ハンドヘルド装置の照射光源を誤って目にあてた場合に、ユーザのそれぞれの目の網膜で光放射が効率的に集束されないので、ハンドヘルド装置を誤って目にあてた場合に目の領域が損傷する可能性が起こりにくいことが有利になり得る。小型化された光源、特にLEDを使用することで、照射時の消費電力を低く抑えることができ、また、長寿命など、LEDによって通常達成されるすべての利点が、本発明に係るハンドヘルド装置にもあてはまる。また、この装置に圧力センサを備え、このセンサを用いて、歯磨きの際に歯ブラシが歯の材料にかける典型的な圧力に相当する圧力が加わるまでは、より高光度に切り替えないようにしてもよい。圧力センサは、歯ブラシヘッドに配置されるのが好ましい。
【0022】
本発明に係るハンドヘルド装置は、手動で歯を清掃するための手動歯ブラシ、または自動で歯を清掃するための自動歯ブラシもしくは電動歯ブラシなど、日常の歯科衛生時に使用する歯清掃装置であるのが好ましく、励起光源、一次照射光源および/またはオプションの二次照射光源は、歯清掃装置のブラシヘッドに配置されてもよく、光放射は、植毛の方向、すなわちハンドヘルド装置から離れて延びる植毛の方向に行われる。より具体的には、ハンドヘルド装置は、歯ブラシのブラシヘッドが交換可能な植毛部を備えているライト歯ブラシとも呼ばれる手動式の歯ブラシであってもよいし、ハンドヘルド装置は、回転および/または振動するように配置されたブラシヘッドが交換可能である電動式の歯ブラシであってもよくて、この場合、ブラシヘッドの電気的駆動のための電源と、励起光源、一次照射光源および/または二次照射光源のための電源と、を同一の電源から供給することができる。
【0023】
別の方法として、一時的に挿入可能な歯科用プラスチック製スプリント、例えば、ユーザの顎の歯の上に置くことができる歯冠スプリントまたは下顎スプリントのようなカスタマイズされた深絞りの歯科用プラスチック製スプリント(半透明プラスチック製で歯および顎を覆うもの)のようにハンドヘルド装置を実装することも考えられ、この場合、電源、スイッチおよびLED放射源をプラスチック本体に統合して、プラスチック支持体の任意の所望の位置に配置することができる。別の、しかし好ましくない代替案として、洗浄機能を持たずに咽喉の病原性微生物を励起・照射するハンドヘルド装置の実装も考えられる。
【0024】
一般に、上述の励起光源は、病原性微生物中のポルフィリンの蛍光活性化による咽喉の細菌検出のためには低強度で、表層にいる病原性微生物の不活性化のためには高強度で、使用することができる。また、一次照射光源は、より深部の病原性微生物を不活化したり、透過光源として、副鼻腔炎を検出するために透過照明を行ってその経過を追跡したりする役割を果たせる。また、オプションの二次照射光源は、二次照射領域での補助的な照射として、病原性微生物をさらに不活性化する役割を果たせる。したがって、励起光源は405nmの紫色光を発し、一次照射光源は633nmの赤色光を発し、二次照射光源は505nmの黄色光または緑色光を発することができ、ここで、紫色光および赤色光は咽喉の領域での微生物検出の役割を果たし、紫色光は微生物中のポルフィリンの蛍光活性化の役割を果たして、つまり、蛍光励起のためには低強度で、表層にいる微生物の不活性化のためには高強度で、使用できる。また、赤色光は、透過照明によって、副鼻腔炎などの炎症性変化を検出し、その経過を追跡することができる。緑色の光は、高強度で赤色の光と同様に、より深い組織層に存在する微生物を不活化するために使用できる。ただし、10mW/cm2~100mW/cm2の範囲の高強度の照射光は、圧力センサが接触圧力を検出して初めて、本発明に係るライト歯ブラシから放出され、この検出が、ライト歯ブラシが歯のクリーニングのために歯の表面か口腔と咽喉の組織のいずれかに接触したことを知らせる。このような圧力センサは、ピエゾ抵抗圧力センサまたは圧電圧力センサの形態であってもよく、ホール効果圧力センサの形態であってもよくて、そのサイズおよび/または動作モードに起因して本発明に係るライト歯ブラシに設置することができる、任意のタイプの市販の圧力センサを使用できる。圧力センサは、ブラシに隣接する歯ブラシヘッド内に配置されるのが有利である。
【0025】
また、本発明によれば、本発明に係るハンドヘルド装置の630nm付近の赤色光線は透過照明に使用され、630nmの赤色光線は、生体組織の光学窓にあって、数mmの高い光透過深度を特徴とする。通常、光浸透深度は、光度が初期強度の約37%まで低下したところの値である。したがって、多くの赤色光子は、数センチメートルの距離を移動できる。よって、赤色の光線は皮膚を透過することもできる。透過した赤色の光線は、目で見て簡単に検出できる。また、例えば、通常のCCDカメラを搭載した携帯電話や、光ダイオードやフォトマルチプライヤ(二次電子増倍管)などの他の光子検出器も画像取得に適している。よって、副鼻腔炎を検出してその経過を観察し記録することができる。本発明に係るハンドヘルド装置およびその使用は、特に子供および青年に適している。血液は、400nm付近(ソレー帯)および540nm~580nmの範囲で吸収する。内因性の吸収体であるプロトポルフィリンは、405nm付近、505nm、540nm、573nm、635nmで吸収する。400nmよりも高い浸透深度を得て、例えばプロトポルフィリンPP IXに吸収されるためには、本発明によれば、505nm(緑)および633nm(赤)付近の範囲の光を用いる必要がある。これは、組織深部、特に軟部組織の細菌を不活性化するためにも使用できる。405nm付近の光線は、表面を蛍光励起して表面にいる細菌を不活性化するために使用される。
【0026】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記ハンドヘルド装置は、励起光源と、一次照射光源および/または二次照射光源と、に電力を供給するために統合されたエネルギー源、例えば、バッテリまたは蓄電池を備え、統合された前記エネルギー源は、蓄電池として実装されている場合、ワイヤレスで再充電することができる。
【0027】
本発明の好ましい実施形態に関する以下の説明では、同等または類似の構成要素および要素は、同等または類似の参照番号を使用して示し、個々の場合にこれらの構成要素または要素を繰り返して説明するのは省略する。各図は、本発明の主題を模式的に表しているに過ぎない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
以下に記す各図を参照しつつ、本発明をより詳細に説明する。
【
図1】632.8nmの光線を用いて、大規模に培養した各種細菌株に一回照射した後の生存率を示したグラフである。
【
図2】632.8nmの光線を用いて、歯周炎患者から採取した微生物試料に一回照射した後の生存率を示したグラフである。
【
図3】電気的に制御されたブラシの動きがなくて、日常の機械的および光学的な歯科衛生のための、本発明に係るライト歯ブラシの模式断面図である。
【
図4】
図3の本発明に係るライト歯ブラシのブラシヘッドの模式図である。
【
図5】電気的に制御されたブラシの動きを有して、日常の機械的および光学的な歯科衛生のための、本発明によるライト歯ブラシの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
好ましい実施形態によれば、口腔および咽喉の病原性微生物を励起・照射するための本発明によるハンドヘルド装置は、
図3に例示的に示すように、機械的なプラークの減少および口腔および咽喉の微生物の光力学的な不活性化による日常の機械的および光学的な歯科衛生のために、手動で操作される機械的な歯ブラシ1として実現される。これによれば、本発明による歯ブラシ1は、洗浄効果が機械的な洗浄だけでなく、加えて発光によっても達成されることから、ライト歯ブラシ1とも呼ぶことができる。したがって、歯ブラシ1は、基本的に、歯ブラシ柄2と、歯ブラシヘッド3と、取り外し可能な植毛部4と、を備える。電源またはエネルギー源21は、例えば、無線電磁場によってワイヤレスで充電可能な充電式電池の形で、歯ブラシ柄2に内蔵されている。あるいは、エネルギー源21は、一般的に歯ブラシ1の重量を減少させるために、例えば交換可能なAA電池の形態の交換可能なエネルギー源であっても、または、交換可能なあるいは充電可能でもあるボタン電池のような小型化されたエネルギー源の形態であってもよい。歯ブラシ柄2には、例えばコンピュータチップなどの形態をしていて、光源31,32,33への配電を制御する論理回路22がさらに配置されており、歯ブラシ柄2には、押しボタンまたはスイッチ23の形態のインターフェースがさらに設けられており、これを介して、ユーザは、例えば光源31,32,33の作動を制御するために、コンピュータチップとインターフェースをとることができる。この場合、スイッチ23は、例えば、個々の光源31,32,33の電源を表示することができるタッチスクリーンの形態で提供することもできる。さらに、ライト歯ブラシ1は、歯磨き時の通常の接触圧と比較しながら、植毛部4または歯ブラシヘッド3の対象表面への接触圧を検出する圧力センサ(図示せず)を備えており、これによって、植毛部4または歯ブラシヘッド3が口腔や咽喉の歯の表面等に接触しているか否かを、論理回路22を用いて検出している。なお、安全のために、論理回路22は、この検出が行われた場合だけ、光源31,32,33の光度を10mW/cm
2~100mW/cm
2の範囲まで制御しつつ高めることができ、これによって、例えば、目には有害な光度に到達できるようになっている。
【0030】
光源31,32,33は、歯ブラシ1の歯ブラシヘッド3に配置されており、本実施形態例では、励起光源31と、一次照射光源32と、オプションとして二次照射光源33と、で構成されており、歯ブラシ1の操作時には上から下への配置に、
図3では右から左に、すなわち、交通信号灯の配置の形に配置されている。本実施形態では、光源31,32,33はそれぞれ、LEDまたは、例えばいわゆるLEDアレイに配列した複数のLEDで構成されており、LED光源31,32,33はスイッチ23を作動させて制御することができる。あるいは、各光源はそれぞれ、有機LEDまたは有機LEDのアレイ、あるいは一つ以上のレーザで構成されていてもよく、これらはスイッチ23を作動させて駆動することができる。
図3のジグザグ矢印で示すように、光源31,32,33は、植毛部4およびその上の植毛41を介して外側に発散される光線を放射する。これは、追加の光学部品を使用しなくても実現することができる。
【0031】
ただし、本実施形態では、光ファイバ311,321,331によって光線伝送が実現され、光ファイバ束311は、400nm~410nmの範囲、好ましくは405nmの励起光線を励起光源31から植毛41を介して外側に導き、光ファイバ束321は、630nm~700nmの範囲の、好ましくは633nmの一次照射光源の照射光線を一次照射光源32から植毛41を介して外側に導き、オプションの光ファイバ束331は、490nm~560nmの範囲の、好ましくは505nmの、オプションの二次照射光源のオプションの照射光線をオプションの二次照射光源33から植毛41を介して外側に導く。本実施形態では、
図4に示すように、光ファイバ束311,321,331の放射端は、歯ブラシヘッド3のうち、植毛41がない状態に保たれた領域に配置されている。しかし、別の方法として、植毛41が植毛部4の表面全体を覆っていてもよく、その場合、植毛41自体が光ファイバ束311,321,331の延長部として機能して、つまり、光ファイバとして設計されていてもよい。基本的に、本発明によるハンドヘルド装置は、取り外し不可能な植毛部を備え手動で操作される機械的な歯ブラシの形態、または取り外し可能な歯ブラシヘッドを備え電気的に操作される歯ブラシの形態でも実現することができ、この場合、光源は固定された歯ブラシ柄の中に配置することができ、光源から切り離すことができる外側への放射ガイドを必要とするだけである。
【0032】
また、本実施形態では、歯ブラシ1は、病原性微生物の固有の蛍光放射を検出するために配置された少なくとも一つの光検出デバイス(図示せず)を備えていてもよく、これにより、ユーザは、すべての固有の蛍光性微生物の目視検出に頼る必要はなく、この仕事を光検出デバイスに渡すことができる。こうすれば、光検出デバイスは、励起された微生物の固有な蛍光を検出して、対応する検出信号を、例えば、ユーザへの触覚的または聴覚的であって、その強度が固有な蛍光光度を反映できるフィードバックを用いて、あるいは、スイッチ23上でタッチスクリーンとして設計された視覚的表示としても、出力することができる。さらに、光検出デバイスは、検出信号、すなわち、ユーザの歯の端部にいる蛍光性微生物の分布を、送信装置(図示せず)を用いて、例えば、コンピュータや携帯電話などへの無線ブルートゥース接続などを介して外部に送信することができ、これによって、ユーザは、自分の歯にいる蛍光性微生物の分布を認識して、特に、一次照射光源32および二次照射光源33によって必要となる照射、その強度、あるいは、それぞれの照射時間に関しても、適切な措置を取ることができる。
【0033】
図5に示した別の好ましい実施形態によれば、本発明に係るハンドヘルド装置は、電動の、つまり自動の歯ブラシ1'として組み込むことができる。この場合、電動歯ブラシ1'は、歯ブラシ柄つまり歯ブラシ基体部2'と、植毛部4'と一体化した交換可能な歯ブラシヘッド3'と、で構成される。電源またはエネルギー源21'は、例えば、無線の電磁場などによってワイヤレスで充電可能な充電式バッテリの形態で、歯ブラシ柄2'に一体化されている。また、この場合も、電動ライト歯ブラシ1'は、植毛部4'および/または歯ブラシヘッド3'の接触圧力を検出する圧力センサ(図示せず)を備えており、それによって、植毛部4'および/または歯ブラシヘッド3'が口腔および咽喉の歯の表面などに密着しているか否かを検出することができる。さらに、歯ブラシ柄2'には、例えばコンピュータチップ等の形態をしていて、同じく歯ブラシ柄2'に配置された光源31',32',33'への配電を調整する論理回路22'が配置されており、この場合、歯ブラシ柄2'には、押しボタンまたはスイッチ23'の形態をしていて、ユーザが例えば光源31',32',33'の起動を制御するために、コンピュータチップとインターフェースをとることができるインターフェースも設けられている。ここで、スイッチ23'は、例えば、個々の光源31'、32'、33'用の電源を表示できるタッチスクリーンの形態で提供することもできる。光源31',32',33'は、歯ブラシ1'の歯ブラシヘッド3に配置されており、本実施形態例では、歯ブラシ1'の動作時には上から下に配置され、
図5では右から左に配置されている、励起光源31'と、一次照射光源32'と、オプションの二次照射光源33'と、から構成されている。また、本実施形態における光源31'、32'、33'はそれぞれ、LED、または例えばいわゆるLEDアレイとして配置された複数のLEDで構成されており、LED光源31'、32'、33'は、スイッチ23'を作動させることで制御することができる。さらに、本実施形態では、やはり電源21'によって動作させることができスイッチ23'によって作動させることができて、駆動軸241'を動作させるためのモータ24'が設けられており、この駆動軸241'は、装着可能なブラシヘッド3'に機械的な動きをもたらすために設けられている。
【0034】
図5に示すように、LED光源31,32,33は、光ファイバ311'、321'、331'を介して植毛部4'にガイドされ、その植毛41'を介して、外側に発散される光線を放射する。この光線ガイドの代わりに、光ファイバを使用しない代替的な導光路として、一つ以上のミラーによって実現することもできる。本実施形態例では、ビーム伝送は、光ファイバ311'、321'、331'によって行われ、光ファイバ束311'は、400nm~410nmの範囲、好ましくは405nmの励起光線を励起光源31'から植毛41'を介して外部に導き、光ファイバ束321'は、630nm~700nmの範囲、好ましくは633nmの照射光線を一次照射光源32'から植毛41'を介して外部に導き、オプションの光ファイバ束331'は、490nm~500nmの範囲、できれば505nmのオプションの照射光線をオプションの二次照射光源33'から植毛41'を介して外部に導き、光線ガイドは、光源31'、32'、33'から外部に脱着可能なのでブラシヘッド3'の交換ができる。
【0035】
上述した実施形態の技術的特徴は、説明した特定の実施形態に限定されるものではなく、したがって互いに交換できる。
【国際調査報告】