(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-19
(54)【発明の名称】高圧でミセルを注入するためのバルーン・カテーテル・システム
(51)【国際特許分類】
A61M 29/00 20060101AFI20220112BHJP
A61M 25/10 20130101ALI20220112BHJP
【FI】
A61M29/00
A61M25/10 510
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021543969
(86)(22)【出願日】2019-09-26
(85)【翻訳文提出日】2021-05-20
(86)【国際出願番号】 US2019053267
(87)【国際公開番号】W WO2020072280
(87)【国際公開日】2020-04-09
(32)【優先日】2018-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521143284
【氏名又は名称】カリバー セラピューティクス エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】CALIBER THERAPEUTICS,LLC
【住所又は居所原語表記】150 Union Square Drive,New Hope,PA 18938,USA
(74)【代理人】
【識別番号】100101340
【氏名又は名称】丸山 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100205730
【氏名又は名称】丸山 重輝
(74)【代理人】
【識別番号】100213551
【氏名又は名称】丸山 智貴
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム アール.バウムバッチ
(72)【発明者】
【氏名】ダレン アール.シャーマン
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA02
4C267AA07
4C267AA09
4C267BB08
4C267BB28
4C267BB52
4C267CC09
4C267GG16
4C267GG46
(57)【要約】
高圧でミセルを注入するためのバルーン・カテーテル・システム。システムは、多数の孔を有する有孔壁を備えた薬物溶出型バルーンを有するカテーテルと、バルーン内に配設されるかバルーンと流体連通している、水溶液中のナノ粒子のリザーバとを含む。粒子は薬物含有ミセルを含んでもよく、ミセルは、全体的に40~250nm(0.040μm~0.250μm)のサイズ範囲で提供され、バルーン壁の孔は、分裂を最小限に抑えてミセルの通過を可能にするように構成される。孔は円錐状であり、バルーン壁の内側における孔の直径は、バルーン壁の外側における孔の直径よりも小さい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠位端および近位端を有するカテーテル軸を備え、バルーンが前記遠位端に配設され、前記バルーンがバルーン壁を通して連通している複数の孔を有する前記バルーン壁を有する、カテーテルと、
溶液中のナノ粒子の懸濁液を収容したリザーバと、
前記ナノ粒子の懸濁液を前記カテーテルおよび前記バルーン壁に通すように動作可能な、インフレータと
を備え、
前記孔が、前記バルーン壁を通る前記孔の長軸に沿って、円錐状断面を有する、バルーン・カテーテル・システム。
【請求項2】
前記孔が、前記バルーンの内表面において3~8μmの範囲の第1の直径と、前記バルーンの外表面において7~16μmの範囲の第2の直径とを有する、請求項1に記載のバルーン・カテーテル・システム。
【請求項3】
前記孔が、前記バルーンの内表面において3~8μmの範囲の第1の直径と、前記バルーンの外表面において7~16μmの範囲の第2の直径とを有し、
前記懸濁液中の前記ナノ粒子が、40~250nmの範囲の直径を有する、請求項1に記載のバルーン・カテーテル・システム。
【請求項4】
前記孔が、前記バルーンの内表面において3~8μmの範囲の第1の直径と、前記バルーンの外表面において7~16μmの範囲の第2の直径とを有し、
前記懸濁液中の前記ナノ粒子が、60~120nmの範囲の直径を有する、請求項1に記載のバルーン・カテーテル・システム。
【請求項5】
前記ナノ粒子が治療剤を含有したミセルを含む、請求項3または4に記載のバルーン・カテーテル・システム。
【請求項6】
ミセルの直径と前記第1の直径の比が、約0.08対1(1対12)~約0.005対1(1対200)の範囲である、請求項3または4に記載のバルーン・カテーテル・システム。
【請求項7】
ミセルの直径と前記第1の直径の比が約1対20である、請求項3または4に記載のバルーン・カテーテル・システム。
【請求項8】
前記インフレータが、6~16気圧を前記リザーバに加えるように動作可能である、請求項3または4に記載のバルーン・カテーテル・システム。
【請求項9】
前記インフレータが、6~12気圧を前記リザーバに加えるように動作可能である、請求項3または4に記載のバルーン・カテーテル・システム。
【請求項10】
前記インフレータが、第1の期間は6~8気圧を加え、続けて第2の期間は12~14気圧を加えるように動作可能である、請求項5に記載のバルーン・カテーテル・システム。
【請求項11】
ナノ粒子の平均直径と前記バルーン壁の前記内表面における合計孔面積の比が、0.0000016対1~0.0008対1の範囲である、請求項3または4に記載のバルーン・カテーテル・システム。
【請求項12】
遠位端および近位端を有するカテーテル軸を備え、バルーンが前記遠位端に配設され、前記バルーンがバルーン壁を通して連通している複数の孔を有する前記バルーン壁を有する、カテーテルと、
溶液中のナノ粒子の懸濁液を収容したリザーバと、
前記ナノ粒子の懸濁液を前記カテーテルおよび前記バルーン壁に通すように動作可能な、インフレータと
を備え、
前記ナノ粒子の平均サイズと前記バルーン壁の内表面における合計孔面積の比が、0.0000016対1~0.0008対1の範囲である、バルーン・カテーテル・システム。
【請求項13】
前記ナノ粒子の平均サイズが40~250nmの範囲であり、
前記バルーン壁の内表面における合計孔面積が、900~30,000ミクロンの範囲である、請求項12に記載のバルーン・カテーテル・システム。
【請求項14】
前記ナノ粒子の平均サイズが40~250nmの範囲であり、
前記孔が、前記バルーンの内壁において3~8μmの平均サイズを有し、
前記孔の数が100~1000個の範囲である、請求項11に記載のバルーン・カテーテル・システム。
【請求項15】
前記ナノ粒子が治療剤を含有したミセルを含む、請求項12に記載のバルーン・カテーテル・システム。
【請求項16】
前記ナノ粒子が治療剤を含有し、前記治療剤が、ラパマイシンもしくはラパマイシン類似体、ABT-578、ゾタロリムス、エベロリムス、バイオリムスA9、デフォロリムス、テムシロリムス、タクロリムス、ピメクロリムス、一酸化窒素合成酵素、C3細胞外酵素、RhoA阻害剤、ツブリシン、A3作動薬、CB2作動薬、17-AAG、Hsp90拮抗薬、チルホスチン、カテプシンS阻害剤、パクリタキセル、コルチコステロイド、グルココルチコイド、デキサメタゾン、セラミド、ジメチルスフィンゴシン、エーテル結合ジグリセリド、エーテル結合ホスファチジン酸、スフィンガニン、エストロゲン、タキソール、タキソール類似体、アクチノマイシンD、プロスタグランジン、ビタミンA、プロブコール、またはバチムのうちの少なくとも1つを含む、請求項12から15のいずれか一項に記載のバルーン・カテーテル・システム。
【請求項17】
前記治療剤が、ラパマイシンもしくはラパマイシン類似体、ABT-578、ゾタロリムス、エベロリムス、バイオリムスA9、デフォロリムス、テムシロリムス、タクロリムス、ピメクロリムス、一酸化窒素合成酵素、C3細胞外酵素、RhoA阻害剤、ツブリシン、A3作動薬、CB2作動薬、17-AAG、Hsp90拮抗薬、チルホスチン、カテプシンS阻害剤、パクリタキセル、コルチコステロイド、グルココルチコイド、デキサメタゾン、セラミド、ジメチルスフィンゴシン、エーテル結合ジグリセリド、エーテル結合ホスファチジン酸、スフィンガニン、エストロゲン、タキソール、タキソール類似体、アクチノマイシンD、プロスタグランジン、ビタミンA、プロブコール、またはバチムのうちの少なくとも1つを含む、請求項5に記載のバルーン・カテーテル・システム。
【請求項18】
患者の患部血管を治療する方法であって、
バルーン・カテーテル・システムのバルーンを前記血管に挿入するステップであって、前記バルーンが、バルーン壁を通して連通している複数の孔を有する前記バルーン壁を備え、前記孔が、前記バルーン壁の内表面から前記バルーン壁の外表面まで通じる前記孔の軸に沿って、円錐状断面を有する、ステップと、
ナノ粒子の懸濁液を、前記バルーンに、また前記孔を通して血管壁に送り込むステップと
を含む、方法。
【請求項19】
前記孔が、前記バルーンの内表面において3~8μmの範囲の第1の直径と、前記バルーンの外表面において7~16μmの範囲の第2の直径とを有する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記懸濁液中の前記ナノ粒子が、40~250nmの範囲の直径を有する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記懸濁液中の前記ナノ粒子が、60~120nmの範囲の直径を有する、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記ナノ粒子が治療剤を含有したミセルを含む、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
前記ナノ粒子の懸濁液を前記バルーンに送り込む前記ステップが、前記ナノ粒子の懸濁液を、6~16気圧、より好ましくは6~12気圧の範囲の圧力で、前記バルーンに送り込むことを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記ナノ粒子の懸濁液を前記バルーンに送り込む前記ステップが、前記ナノ粒子の懸濁液を、第1の期間は6~8気圧の範囲の圧力で、続けて第2の期間は12~14気圧の範囲の圧力で、前記バルーンに送り込むことを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
ナノ粒子の懸濁液を前記バルーンに送り込み、前記孔を通して血管壁に至らせる前記ステップが、前記バルーンから前記懸濁液を0.0005~0.038ml/秒の流量で提供するように遂行される、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
ナノ粒子の懸濁液を前記バルーンに送り込み、前記孔を通して血管壁に至らせる前記ステップが、前記バルーンから前記懸濁液を0.0033~0.0375ml/秒の流量で提供するように遂行される、請求項18に記載の方法。
【請求項27】
前記治療剤が、ラパマイシンもしくはラパマイシン類似体、ABT-578、ゾタロリムス、エベロリムス、バイオリムスA9、デフォロリムス、テムシロリムス、タクロリムス、ピメクロリムス、一酸化窒素合成酵素、C3細胞外酵素、RhoA阻害剤、ツブリシン、A3作動薬、CB2作動薬、17-AAG、Hsp90拮抗薬、チルホスチン、カテプシンS阻害剤、パクリタキセル、コルチコステロイド、グルココルチコイド、デキサメタゾン、セラミド、ジメチルスフィンゴシン、エーテル結合ジグリセリド、エーテル結合ホスファチジン酸、スフィンガニン、エストロゲン、タキソール、タキソール類似体、アクチノマイシンD、プロスタグランジン、ビタミンA、プロブコール、またはバチムのうちの少なくとも1つを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項28】
治療すべき前記血管内の病変の長さを決定するステップと、
前記バルーン・カテーテルの前記バルーンを挿入する前記ステップを実施するステップであって、前記バルーンが、治療すべき前記血管内に前記病変に近接して配設されたとき、多孔質領域が前記病変の全体に沿って延在するとともに前記病変の遠位側および近位側両方にも延在するような、十分な長さの前記多孔質領域を有する、実施するステップと
を更に含む、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下に記載する発明は、血管疾患の治療の分野に関し、より具体的には、再狭窄を治療するための薬物溶出型バルーンの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らによる、体内の脈管に乾燥薬物送達ベシクルを送達するバルーン・カテーテル・システム(Balloon Catheter Systems For Delivery Of Dry Drug Delivery Vesicles To A Vessel In The Body)という名称の過去の米国特許第8,696,644号は、ナノ粒子、特にラパマイシン含有ミセルの懸濁液を患者の血管に送達して、様々な血管疾患を治療するのに良好に適合した、薬物溶出型バルーン・カテーテル・システムについて記載していた。
【発明の概要】
【0003】
後述するデバイスおよび方法は、薬物溶出型バルーンの壁を通してナノ粒子の懸濁液を改善された投与を提供する。システムは、多数の孔を有する有孔壁を備えた薬物溶出型バルーンを有するカテーテルと、バルーン内に配設されるかバルーンと流体連通している、水溶液中のナノ粒子のリザーバとを含む。粒子は薬物含有ミセルを含んでもよく、ミセルは、全体的に40~250nm(0.040μm~0.250μm)のサイズ範囲で提供され、バルーン壁の孔は、分裂を最小限に抑えてミセルの通過を可能にするように構成される。孔は円錐状であり、バルーン壁の内側における孔の直径は、バルーン壁の外側における孔の直径よりも小さい。デバイスおよび方法は、バルーン血管形成術と共に血管の病変を治療して、血管形成術後の再狭窄を防ぐか、ステント配置と共に病変によって閉塞された血管を開いて、ステント配置後の再狭窄を防いでもよく、あるいは血管形成術と同時に使用することなくまたはステントと同時に配置することなく、血管の病変を治療するのに使用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【
図1】バルーン・カテーテル・システムを示す図である。
【
図2】バルーンの孔の円錐形状を示すバルーンの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0005】
図1は、カテーテル軸の遠位端に多孔質バルーン4を有するカテーテル軸3を備えるバルーン・カテーテル2と、治療剤を含有したナノ粒子、特にミセルの懸濁液を収容したリザーバ5と、ミセルの懸濁液をカテーテルおよびバルーンに送り込み、バルーンの壁を通す、インフレータ6とを含む、バルーン・カテーテル・システム1を示している。バルーン壁は多孔質であり、バルーンの表面全体に配設されるとともにバルーン壁を貫通する多数の孔7が、バルーンの内部からバルーンの外部に通じている。バルーンは、患者の脈管系に導入し、冠状動脈、末梢動脈、または脈管系の別の場所に配置するのに適している。リザーバは、カテーテル軸の近位端に取り付けられ、軸の近位端からバルーンの内部まで延在する管腔と流体連通していてもよい。リザーバは、好ましくは、シリンジ8とシリンジ内に摺動可能に配設されるピストン9とを備えて、ナノ粒子の懸濁液を収容するとともに、管腔バルーン・カテーテル軸3およびバルーンの内部空間と流体連通している第1のチャンバ10と、膨張流体を収容するとともにインフレータ6と流体連通している第2のチャンバ11とを画成している。止め栓または三方弁12が提供されて、第1のチャンバを通気するか、または格納されたバイアルもしくは先立って再構成されたナノ粒子の懸濁液に接続して、第1のチャンバにナノ粒子の懸濁液を充填してもよい。
【0006】
図2は、バルーンの孔の円錐形状を示すバルーンの断面図を示している。バルーン4は多数の孔7を有する壁13を有する。孔は、
図2に示される縦断面で全体的には円錐状(バルーン壁の内表面からバルーン壁の外表面まで通じる孔の長軸に沿って、円錐状断面)であり、横断面では全体的に円形である。孔は、バルーン壁の内表面における第1の直径14と、バルーン壁の外表面における第2の直径15とを有し、第1の直径は第2の直径よりも小さい。第1の直径は、バルーンの内表面において、好ましくは3~8μm(ミクロンまたはμ)の範囲である。第2の直径は、バルーンの外表面において、好ましくは7~16μmの範囲(より好ましくは、7~12μmの範囲)であるが、第1の直径よりも大きい。壁厚は、好ましくは15~28μmの範囲、好ましくは厚さ約21μmである。患者の冠状動脈で使用するのに適した一実施形態では、バルーンの円筒状部分は長さ10~25mmであって、加圧すると直径約2~5mmまで拡張可能であってもよい。孔の数は、冠状動脈で使用する場合は100~400個の孔、末梢動脈で使用する場合は100~1000個の孔の範囲で、バルーンの円筒状部分全体に均等に分配され、任意選択で、バルーンの円周の周りで分散されて列状(5~15列)に配置されてもよい。
【0007】
ミセルは、ラパマイシンまたはラパマイシン類似体などの他の治療剤、ABT-578、ゾタロリムス、エベロリムス、バイオリムスA9、デフォロリムス(リダホロリムスとも呼ばれる)、テムシロリムス、タクロリムス、ピメクロリムス、一酸化窒素合成酵素、C3細胞外酵素、RhoA阻害剤、ツブリシン、A3作動薬、CB2作動薬、17-AAG、Hsp90拮抗薬、チルホスチン、カテプシンS阻害剤、パクリタキセル、コルチコステロイド、グルココルチコイド、デキサメタゾン、セラミド、ジメチルスフィンゴシン、エーテル結合ジグリセリド、エーテル結合ホスファチジン酸、スフィンガニン、エストロゲン、タキソール、タキソール類似体、アクチノマイシンD、プロスタグランジン、ビタミンA、プロブコール、バチマスタット、スタチン、トラピジル、マイトマイシンC、およびサイトカラシンBを含有してもよい。
【0008】
上述したこのシステムおよび方法で使用されるナノ粒子は、動的光散乱法によって決定されるように、一般に40~250nmの範囲、また上述したような三元ブロック・コポリマー(PLGA-PEG-PLGA)から配合されたミセルを含む場合、60~120nmの範囲の直径を有するべきである。このサイズにより、ミセルの動脈壁への効率的な浸透と、適切な量のラパマイシンまたは他の治療物質を封入するミセル内の十分な空間とのバランスがもたらされる。PLGA-PEG-PLGAなどの三元ブロック・ポリマーの使用によって、所望のサイズ範囲のミセルが提供される。ミセルの直径と第1の直径の比は、好ましくは、0.08対1(約1対12)~0.005対1(1対200)の範囲、より好ましくは約1対20である。上述したシステムおよび方法は、ナノ粒子およびリポソームなど、ミセルに加えて、他の小さい薬物送達ベシクルまたは送達ベッセルを送達するのに用いることができる。
【0009】
インフレータによってリザーバに加えられる圧力は、2~20気圧(203kPa~2027kPa)であってもよく、インフレータは好ましくは、6~16気圧(608kPa~1621kPa)、より好ましくは6~12気圧(608kPa~1216kPa)を加えるように操作される。ミセル製剤が懸濁液チャンバ内に懸濁し、上述したように穴のサイズおよび寸法が決められるので、12気圧(1216kPa)を60秒間加えることによって、懸濁したミセル製剤1mlが全てカテーテルおよびバルーン壁を通して送達される。投与の過程全体を通して、例えば6~8気圧(608kPa~811kPa)の範囲の圧力を約20秒間加え、更に20~40秒間、圧力を12~18気圧(1216kPa~1823kPa)に増加させることによって圧力を変化させてもよい(投与の過程全体を通して、平均12~14気圧(1216kPa~1418kPa))。パラメータは、10~120秒間、好ましくは約20~60秒間の過程にわたって、周囲の血管壁によって取り込まれるようにバルーンから、0.0033~0.0375ml/秒(冠状動脈の場合に好ましい)または0.0005~0.038ml/秒(末梢動脈の場合に好ましい)の流量で、懸濁液0.2~0.75mlを送達するように調節されてもよい。孔ごとの流量は、好ましくは、冠状動脈の場合は0.0001~0.00003、末梢動脈の場合は0.0001~0.00001mL/秒/穴の範囲である。これらの低い流量は、バルーンが周囲の動脈に開放力を働かせ続け、動脈壁との良好な接触を維持するように、バルーンを膨張させて保つ助けとなる。好ましくは、総送達量は0.2ml~0.75mlである。このように、実際に送達される薬物または治療剤の用量を制御し、ミセル格納チャンバ内に配設されたミセル製剤中の薬物または治療剤の量を制御することによって、ある程度の確実性で予め定めることができる。例えば、ラパマイシン2mgを血管の患部部分に送達することが望ましい場合、ラパマイシン2または3mgを収容したミセル・リザーバをミセル格納チャンバに格納して、ミセルを流体とともに再構成して2mg/mlの濃度を達成し(つまり、ミセル格納チャンバが合計2mgのラパマイシンを収容している場合、1ml)、流体1mlをコイル状チューブの懸濁液チャンバに引き込み、カテーテルおよびバルーンを通して1ml全てを血管壁に送り込むことができる。
【0010】
平均粒径と(バルーン壁の内表面における)合計孔面積の比は、血管形成術のためにバルーンに対する血管の力コンプライアンスに必要なバルーン内圧とバルーンからの懸濁液の流量とのバランスを取って、懸濁したミセルが周囲の脈管壁に取り込まれるのを促進するとともに、懸濁液が血流中で失われるのを回避するように、制御されてもよい。合計孔面積は、約900~約30,000平方ミクロン(942μm2(例えば、平均直径3ミクロンの穴100個)~25,120μm2(平均直径8ミクロンの穴1000個))の範囲であってもよい。平均ミセル粒子直径と内壁の合計孔面積の比が、小さい側では0.0000016対1、大きい側では0.0008対1と非常に小さいことによって、血管形成術には十分な高圧で懸濁液を投与するとともに、含有する治療剤でその面積を治療するのに十分なフローを孔を通して提供することが可能になる。例えば、平均孔直径5ミクロン(約20.7平方ミクロン)および穴数合計200個の構成では、合計孔面積が4142μm2(4142000平方ナノメートル)、粒径0.250μm(250nm)、粒径と内壁の合計孔面積の比は0.00006対1となる。
【0011】
使用の際、患部血管を治療する方法は、バルーン・カテーテル・システムのバルーンを血管に挿入することと、ナノ粒子の懸濁液をバルーンに送り込み、孔を通して血管壁に至らせることとを含み、インフレータを使用して圧力を高圧でリザーバに加えて、ナノ粒子の懸濁液をバルーンに送り込み、バルーンの壁を通す。
図1および
図2に示されるように孔を構成し、上述したようにナノ粒子をサイズ決めすることで、ナノ粒子がバルーンの内側からバルーンの外側まで流れ、血管壁によるナノ粒子の取込みを促進する、および/または血管形成術を実施するのに十分な力を、血管壁に加えるのに十分な圧力までバルーン自体が膨張させられる。方法は、バルーン血管形成術と共に血管の病変を治療して、血管形成術後の再狭窄を防ぐか、ステント配置と共に病変によって閉塞された血管を開いて、ステント配置後の再狭窄を防いでもよく、あるいは血管形成術と同時に使用することなくまたはステントと同時に配置することなく、血管の病変を治療するのに使用されてもよい。
【0012】
病変の全長が治療剤の適用によって治療されるのを確実にするため、方法に使用されるバルーンは、好ましくは治療すべき病変よりも長く、それによってバルーン16の多孔質領域(多数の孔7で穴が開いた領域)は病変よりも長い。バルーンが病変を覆うのに十分な長さであることを確実にし、領域を超えて延在するために、方法を実施する外科医は、最初に病変の長さを決定し、病変全体に沿って延在するとともに病変の遠位側および近位側両方にも延在するのに十分な長さの多孔質領域を有するバルーンを選択して挿入し、システムを操作して、ナノ粒子の懸濁液をバルーンに送り込み、病変全体ならびに病変の遠位側および近位側両方に延在する血管壁の部分に沿って、孔を通して血管壁に至らせる。あるいは、病変よりも短いいくつかのバルーン、または病変よりも短い単一のバルーンの複数回の適用が、方法において使用されてもよい。
【0013】
デバイスおよび方法の好ましい実施形態を、それらが展開された環境を参照して記載してきたが、それらは単に本発明の原理を例証するものである。様々な実施形態の要素は、他の種との組み合わせでそれらの要素の利益を得るように、そのような他の種のそれぞれに組み込まれてもよく、様々な有益な特徴が、単独でまたは互いに組み合わせて実施形態に用いられてもよい。本発明の趣旨および添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、他の実施形態および構成が考案されてもよい。
【手続補正書】
【提出日】2021-06-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠位端および近位端を有するカテーテル軸を備え、バルーンが前記遠位端に配設され、前記バルーンがバルーン壁を通して連通している複数の孔を有する前記バルーン壁を有する、カテーテルと、
溶液中のナノ粒子の懸濁液を収容したリザーバと、
前記ナノ粒子の懸濁液を前記カテーテルおよび前記バルーン壁に通すように動作可能な、インフレータと
を備え、
前記孔が、前記バルーン壁を通る前記孔の長軸に沿って、円錐状断面を有する、バルーン・カテーテル・システム。
【請求項2】
前記孔が、前記バルーンの内表面において3~8μmの範囲の第1の直径と、前記バルーンの外表面において7~16μmの範囲の第2の直径とを有する、請求項1に記載のバルーン・カテーテル・システム。
【請求項3】
前記孔が、前記バルーンの内表面において3~8μmの範囲の第1の直径と、前記バルーンの外表面において7~16μmの範囲の第2の直径とを有し、
前記懸濁液中の前記ナノ粒子が、40~250nmの範囲の直径を有する、請求項1に記載のバルーン・カテーテル・システム。
【請求項4】
前記孔が、前記バルーンの内表面において3~8μmの範囲の第1の直径と、前記バルーンの外表面において7~16μmの範囲の第2の直径とを有し、
前記懸濁液中の前記ナノ粒子が、60~120nmの範囲の直径を有する、請求項1に記載のバルーン・カテーテル・システム。
【請求項5】
前記ナノ粒子が治療剤を含有したミセルを含む、請求項3または4に記載のバルーン・カテーテル・システム。
【請求項6】
ミセルの直径と前記第1の直径の比が、約0.08対1(1対12)~約0.005対1(1対200)の範囲である、請求項3または4に記載のバルーン・カテーテル・システム。
【請求項7】
ミセルの直径と前記第1の直径の比が約1対20である、請求項3または4に記載のバルーン・カテーテル・システム。
【請求項8】
前記インフレータが、6~16気圧を前記リザーバに加えるように動作可能である、請求項3または4に記載のバルーン・カテーテル・システム。
【請求項9】
前記インフレータが、6~12気圧を前記リザーバに加えるように動作可能である、請求項3または4に記載のバルーン・カテーテル・システム。
【請求項10】
前記インフレータが、第1の期間は6~8気圧を加え、続けて第2の期間は12~14気圧を加えるように動作可能である、請求項5に記載のバルーン・カテーテル・システム。
【請求項11】
ナノ粒子の平均直径と前記バルーン壁の前記内表面における合計孔面積の比が、0.0000016対1~0.0008対1の範囲である、請求項3または4に記載のバルーン・カテーテル・システム。
【請求項12】
遠位端および近位端を有するカテーテル軸を備え、バルーンが前記遠位端に配設され、前記バルーンがバルーン壁を通して連通している複数の孔を有する前記バルーン壁を有する、カテーテルと、
溶液中のナノ粒子の懸濁液を収容したリザーバと、
前記ナノ粒子の懸濁液を前記カテーテルおよび前記バルーン壁に通すように動作可能な、インフレータと
を備え、
前記ナノ粒子の平均サイズと前記バルーン壁の内表面における合計孔面積の比が、0.0000016対1~0.0008対1の範囲である、バルーン・カテーテル・システム。
【請求項13】
前記ナノ粒子の平均サイズが40~250nmの範囲であり、
前記バルーン壁の内表面における合計孔面積が、900~30,000ミクロンの範囲である、請求項12に記載のバルーン・カテーテル・システム。
【請求項14】
前記ナノ粒子の平均サイズが40~250nmの範囲であり、
前記孔が、前記バルーンの内壁において3~8μmの平均サイズを有し、
前記孔の数が100~1000個の範囲である、請求項11に記載のバルーン・カテーテル・システム。
【請求項15】
前記ナノ粒子が治療剤を含有したミセルを含む、請求項12に記載のバルーン・カテーテル・システム。
【請求項16】
前記ナノ粒子が治療剤を含有し、前記治療剤が、ラパマイシンもしくはラパマイシン類似体、ABT-578、ゾタロリムス、エベロリムス、バイオリムスA9、デフォロリムス、テムシロリムス、タクロリムス、ピメクロリムス、一酸化窒素合成酵素、C3細胞外酵素、RhoA阻害剤、ツブリシン、A3作動薬、CB2作動薬、17-AAG、Hsp90拮抗薬、チルホスチン、カテプシンS阻害剤、パクリタキセル、コルチコステロイド、グルココルチコイド、デキサメタゾン、セラミド、ジメチルスフィンゴシン、エーテル結合ジグリセリド、エーテル結合ホスファチジン酸、スフィンガニン、エストロゲン、タキソール、タキソール類似体、アクチノマイシンD、プロスタグランジン、ビタミンA、プロブコール、またはバチムのうちの少なくとも1つを含む、請求項12から15のいずれか一項に記載のバルーン・カテーテル・システム。
【請求項17】
前記治療剤が、ラパマイシンもしくはラパマイシン類似体、ABT-578、ゾタロリムス、エベロリムス、バイオリムスA9、デフォロリムス、テムシロリムス、タクロリムス、ピメクロリムス、一酸化窒素合成酵素、C3細胞外酵素、RhoA阻害剤、ツブリシン、A3作動薬、CB2作動薬、17-AAG、Hsp90拮抗薬、チルホスチン、カテプシンS阻害剤、パクリタキセル、コルチコステロイド、グルココルチコイド、デキサメタゾン、セラミド、ジメチルスフィンゴシン、エーテル結合ジグリセリド、エーテル結合ホスファチジン酸、スフィンガニン、エストロゲン、タキソール、タキソール類似体、アクチノマイシンD、プロスタグランジン、ビタミンA、プロブコール、またはバチムのうちの少なくとも1つを含む、請求項5に記載のバルーン・カテーテル・システム。
【請求項18】
請求項1~17の何れかのバルーン・カテーテル・システムに用いられるバルーンの使用であって、
前記バルーン・カテーテル・システムのバルーンに用いられる前記バルーンが、バルーン壁を通して連通している複数の孔を有する前記バルーン壁を備え、前記孔が、前記バルーン壁の内表面から前記バルーン壁の外表面まで通じる前記孔の軸に沿って、円錐状断面を有し、
ナノ粒子の懸濁液を、前記バルーン
の前記孔を通して血管壁に送り込む、
バルーンの使用。
【請求項19】
前記孔が、前記バルーンの内表面において3~8μmの範囲の第1の直径と、前記バルーンの外表面において7~16μmの範囲の第2の直径とを有する、請求項18に記載の
バルーンの使用。
【請求項20】
前記懸濁液中の前記ナノ粒子が、40~250nmの範囲の直径を有する、請求項19に記載の
バルーンの使用。
【請求項21】
前記懸濁液中の前記ナノ粒子が、60~120nmの範囲の直径を有する、請求項19に記載の
バルーンの使用。
【請求項22】
前記ナノ粒子が治療剤を含有したミセルを含む、請求項20または21に記載の
バルーンの使用。
【請求項23】
前記ナノ粒子の懸濁液を前記バルーンに送り込む前記ステップが、前記ナノ粒子の懸濁液を、6~16気圧、より好ましくは6~12気圧の範囲の圧力で、前記バルーンに送り込むことを含む、請求項22に記載の
バルーンの使用。
【請求項24】
前記ナノ粒子の懸濁液を前記バルーンに送り込む前記ステップが、前記ナノ粒子の懸濁液を、第1の期間は6~8気圧の範囲の圧力で、続けて第2の期間は12~14気圧の範囲の圧力で、前記バルーンに送り込むことを含む、請求項22に記載の
バルーンの使用。
【請求項25】
ナノ粒子の懸濁液を前記バルーンに送り込み、前記孔を通して血管壁に至らせる前記ステップが、前記バルーンから前記懸濁液を0.0005~0.038ml/秒の流量で提供するように遂行される、請求項18に記載の
バルーンの使用。
【請求項26】
ナノ粒子の懸濁液を前記バルーンに送り込み、前記孔を通して血管壁に至らせる前記ステップが、前記バルーンから前記懸濁液を0.0033~0.0375ml/秒の流量で提供するように遂行される、請求項18に記載の
バルーンの使用。
【請求項27】
前記治療剤が、ラパマイシンもしくはラパマイシン類似体、ABT-578、ゾタロリムス、エベロリムス、バイオリムスA9、デフォロリムス、テムシロリムス、タクロリムス、ピメクロリムス、一酸化窒素合成酵素、C3細胞外酵素、RhoA阻害剤、ツブリシン、A3作動薬、CB2作動薬、17-AAG、Hsp90拮抗薬、チルホスチン、カテプシンS阻害剤、パクリタキセル、コルチコステロイド、グルココルチコイド、デキサメタゾン、セラミド、ジメチルスフィンゴシン、エーテル結合ジグリセリド、エーテル結合ホスファチジン酸、スフィンガニン、エストロゲン、タキソール、タキソール類似体、アクチノマイシンD、プロスタグランジン、ビタミンA、プロブコール、またはバチムのうちの少なくとも1つを含む、請求項22に記載の
バルーンの使用。
【請求項28】
治療すべき前記血管内の病変の長さを決定するステップと、
前記バルーン・カテーテルの前記バルーンを挿入する前記ステップを実施するステップであって、前記バルーンが、治療すべき前記血管内に前記病変に近接して配設されたとき、多孔質領域が前記病変の全体に沿って延在するとともに前記病変の遠位側および近位側両方にも延在するような、十分な長さの前記多孔質領域を有する、実施するステップと
を更に含む、請求項18に記載の
バルーンの使用。
【国際調査報告】