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  • 特表-腫瘍内注射製剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-19
(54)【発明の名称】腫瘍内注射製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20220112BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220112BHJP
   A61K 31/337 20060101ALI20220112BHJP
   A61K 31/4745 20060101ALI20220112BHJP
   A61K 31/365 20060101ALI20220112BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220112BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20220112BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20220112BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20220112BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20220112BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P35/00
A61K31/337
A61K31/4745
A61K31/365
A61K47/10
A61K47/14
A61K47/44
A61P35/04
A61P35/02
A61K47/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021546181
(86)(22)【出願日】2019-08-19
(85)【翻訳文提出日】2021-04-14
(86)【国際出願番号】 US2019047079
(87)【国際公開番号】W WO2020081148
(87)【国際公開日】2020-04-23
(31)【優先権主張番号】62/746,322
(32)【優先日】2018-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】521160801
【氏名又は名称】ユーエス・ナノ・フード・アンド・ドラッグ・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100188374
【弁理士】
【氏名又は名称】一宮 維幸
(72)【発明者】
【氏名】プイ,ヒング・サング
(72)【発明者】
【氏名】プイ,イプ・シュ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076BB11
4C076CC27
4C076DD37E
4C076DD46E
4C076EE23E
4C076EE53E
4C076FF33
4C084AA17
4C084MA66
4C084NA02
4C084NA05
4C084ZB26
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA02
4C086BA17
4C086CB22
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA66
4C086NA02
4C086NA05
4C086ZB26
(57)【要約】
生体適合性担体中に溶解または懸濁された治療的有効量の化学療法剤を含む注射用製剤を悪性腫瘤に直接投与することにより、哺乳動物における悪性腫瘤を治療するための製剤および製剤の使用が開示されている。特定の好ましい実施形態において、注射用製剤は、タキサン(例えば、パクリタキセル)、ポドフィロトキシン誘導体(例えば、エトポシド)、またはカンプトテシン誘導体(例えば、ヒドロキシカンプトテシン)である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬学的に許容される生体適合性担体中に溶解または懸濁された治療的有効量の化学療法剤の注射用製剤を含む、哺乳動物における悪性腫瘤の治療に使用するための医薬組成物であって、悪性腫瘤に直接投与される医薬組成物。
【請求項2】
悪性腫瘤が、脳、頭、眼、鼻咽頭、口、舌、頸部、甲状腺、消化器系、肝臓、膵臓、胆嚢、肺、呼吸器系、泌尿生殖器系、腎臓、膀胱、乳房、リンパ系、心血管系、神経系、皮膚、胸郭、胸膜、中皮腫、肺がん、筋骨格系、腹部から成る群から選択される、哺乳動物における位置に、原発性または二次性で、存在する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
悪性腫瘤が、哺乳動物において別の器官から転移した、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
注射用製剤が、シリンジまたはファイバースコープのニードルを通して投与される、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
化学療法剤が、タキサン、ポドフィロトキシン誘導体、またはカンプトテシン誘導体から成る群から選択される水不溶性化合物である、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
水不溶性化合物が、パクリタキセルおよびドセタキセルから成る群から選択されるタキサンである、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
水不溶性化合物が、ヒドロキシカンプトテシンである、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項8】
生体適合性担体が、PEG、植物油、および中鎖トリグリセリドから成る群から選択される、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項9】
化学療法剤がパクリタキセルであり、かつ生体適合性担体が中鎖トリグリセリドである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
悪性腫瘤が、
(i)皮膚、眼、舌、口、甲状腺、乳房、子宮頚部、子宮、肛門、前立腺、膣の表在性悪性疾患、骨の肉腫、尿道、陰茎、精巣および精巣上体の癌腫であり、化学療法剤は、シリンジを用いて希釈なしに直接、悪性腫瘤内に注射され、あるいは
(ii)鼻咽頭のがんであり、化学療法剤は、鼻咽頭鏡によりシリンジまたはニードルを用いて、悪性腫瘤内に注射され、あるいは
(iii)肝臓、腎臓および胆嚢のがんであり、化学療法剤は、超音波の補助下でシリンジを用いて、皮膚を通して悪性腫瘤内へ注射されるか、または腹腔鏡下手術時に患者の腹壁に開けられた孔を通して悪性腫瘤内へ注射され、あるいは
(iv)卵巣、輸卵管、膵臓のがん、リンパ節の転移または腹腔の直接的腹膜浸潤、腹部のリンパ腫であり、化学療法剤は、シリンジにより腹腔鏡下手術時に患者の腹壁に開けられた孔を通して悪性腫瘤内へ注射され、あるいは
(v)食道、胃、十二指腸、小腸の癌腫または肉腫であり、化学療法剤は、小腸内視鏡により、もしくは腹腔鏡下手術時に患者の腹壁に開けられた孔を通してロングシリンジにより、ニードルを用いて悪性腫瘤内へ注射されるか、または胸腔鏡下手術時に患者の胸壁に開けられた孔を通して注射され、
(vi)大腸および直腸の癌腫または肉腫であり、化学療法剤は、大腸内視鏡によりニードルを用いて悪性腫瘤内へ注射されるか、または腹腔鏡下手術時に患者の腹壁に開けられた孔を通してシリンジを用いて注射され、あるいは
(vii)肺および気管の癌腫または肉腫であり、化学療法剤は、ファイバー気管支鏡のニードルを用いて悪性腫瘤内へ注射され、あるいは
(viii)肺の癌腫であり、化学療法剤は、超音波、x線、CTスキャン、もしくはMRスキャンの使用と共にシリンジを用いて注射されるか、または胸腔鏡下手術時に患者の胸壁に開けられた孔を通して注射され、あるいは
(ix)膀胱の癌腫または肉腫であり、化学療法剤は、膀胱鏡によりニードルを用いて、悪性腫瘤内へ注射されるか、または腹腔鏡下手術時に患者の腹壁に開けられた孔を通して注射され、あるいは
(x)子宮の癌腫または肉腫であり、化学療法剤の注射用製剤は、子宮鏡のシリンジもしくはニードルにより悪性腫瘤内へ注射されるか、または腹腔鏡下手術時に患者の腹壁に開けられた孔を通して注射され、あるいは
(xi)鼻咽頭および喉頭の癌腫または肉腫であり、化学療法剤は、喉頭鏡によりニードルを用いて、悪性腫瘤内へ注射され、あるいは
(xii)脳の癌腫であり、化学療法剤は、X線、CTスキャンまたはMRスキャンの使用と共に、当該頭蓋骨における穿孔後に、シリンジまたはファイバースコープのニードルを用いて悪性腫瘤内へ注射され、あるいは
(xiii)悪性リンパ腫または転移のあるリンパ節であり、化学療法剤は、ニードルを用いて患者の皮膚を通して悪性腫瘤内へ注射されるか、または腹腔鏡下手術時に患者の腹壁に開けられた孔を通して、もしくは胸腔鏡下手術時に患者の胸壁に開けられた孔を通して注射される、
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
約PEG 200から約PEG 400の分子量を有するPEG、中鎖トリグリセリドまたは薬学的に許容される植物油から成る薬学的に許容される注射用の生体適合性担体中に、タキサン、ポドフィロトキシン誘導体、カンプトテシン誘導体、それらのアナログまたはプロドラッグ、薬学的に許容されるそれらの塩、およびそれらの混合物から選択される治療的有効量の化学療法剤を含む、化学療法剤の安定な腫瘍内注射用製剤。
【請求項12】
植物油がダイズ油である、請求項11に記載の腫瘍内注射用製剤。
【請求項13】
中鎖トリグリセリドが、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、およびそれらの混合物から成る群から選択される、請求項11に記載の腫瘍内注射用製剤。
【請求項14】
タキサンがパクリタキセルまたはドセタキセルであり、ポドフィロトキシン誘導体が、エトポシド、テニポシド、およびそれらの混合物から成る群から選択され、かつ、カンプトテシン誘導体がヒドロキシカンプトテシンである、請求項11に記載の腫瘍内注射用製剤。
【請求項15】
結晶化、粉末化、または凍結乾燥された化学療法剤を含む第一のバイアル、ならびに化学療法剤を腫瘍に送達するのに必要な薬学的に許容される賦形剤であって、約PEG 200から約PEG 400の分子量を有するPEG、中鎖トリグリセリド、エタノール、アルコール、薬学的に許容される植物油、ポリソルベート、薬学的に許容される希釈剤、および前記のもののいずれかの混合物を含む薬学的に許容される賦形剤を含む第二のバイアルを含む、腫瘍内注射用製剤キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本発明は、悪性疾患に罹患している哺乳動物(例えば、ヒト)におけるがんまたは肉腫の悪性腫瘤への直接注射のための抗がん薬の医薬用製剤を対象とする。
【背景技術】
【0002】
[0002]がんは身体の他の部分に浸潤するかまたは広がる可能性のある異常な細胞増殖を含む疾患群である。ヒトが罹るがんは100種類を超える。最もよく見られる種類のがんは、肺がん(209万症例/年)、乳がん(209万症例/年)、結腸直腸がん(180万症例/年)、前立腺がん(128万症例/年)、皮膚がん(非メラノーマ/年)(104万症例)、および胃がん(103万症例/年)であり、男性において最もよく見られるがんは、肺がん、前立腺がん、結腸直腸がん、および胃がんであり、女性において最もよく見られるのは、乳がん、結腸直腸がん、肺がんおよび子宮頸がんである。がんのリスクは、年齢と共に有意に増大し、多くのがんは、先進国において、より一般的に発生する。がん発生率はまた、より多くの人々が長生きするにつれ、および発展途上世界でライフスタイルの変化が起こるにつれて増大している。
【0003】
[0003]がんは、世界中の死亡の主因であり、2018年には、推定で960万の死亡を占めている。がんの経済的影響は著しく、かつ増大しつつある。2010年時点で、がんの総年間経済コストは、1年当たり1.16兆ドルと見積もられた。
【0004】
[0004]がんは、元の部位から、局所的広がり、リンパ性の広がりによって局所リンパ節へと、または血液を介する血行性の広がりによって遠位部位へと広がることがあり、転移として知られる。がんが血行性経路によって広がる場合、通常は、身体全体に広がる。しかし、がん転移の土壌と種仮説(soil and seed hypothesis)において仮定されるように、がんの「種」は特定の選択された部位(「土壌」)においてのみ増殖する。
【0005】
[0005]分散された腫瘍は、転移性腫瘍と称され、元の腫瘍は原発性腫瘍と称される。ほとんど全てのがんは、転移する可能性があり、がんの末期において転移は、よく見られる。転移において典型的ステップは、局所浸潤、血液またはリンパへの脈管内侵入、身体全体への循環、新たな組織への浸出、増殖および血管新生である。様々な種類のがんが、特定の器官に転移する傾向があるが、概して、転移が発生する最も一般的な場所は、肺、肝臓、脳および骨である。
【0006】
[0006]乳がん、子宮頸がん、口腔がん、および結腸直腸がんなどの、最もよく見られるがんの種類のいくつかは、早期に検出されかつベストプラクティスに従って治療された場合、治癒率が高い。主要な目標は、がんを治癒させること、または大幅に延命することであるが、患者の生活の質を向上させることもまた、重要な目標である。これは、サポーティブケアまたは緩和ケアおよび心理社会的支援により達成され得る。
【0007】
[0007]がんは、放射線療法、外科手術、化学療法および/または標的療法(加熱法または冷却法)の何らかの併用により治療されることが多く、進行性疾患の患者においては緩和ケアが特に重要である。がんに罹患している患者の大多数は、診断時または手術時にがんで死亡することはなく、むしろがんの転移または再発により死亡する。進行がんに関して、放射線照射、手術および化学療法後の療法は有効でないことが多いため、新たな製剤および新たな治療法なしでは、生存の可能性は低い。
【0008】
[0008]放射線療法は、がんの早期および中期にある臨床的に局在性の疾患を示す患者に対してのみ有効であり、転移を伴うがんの末期に対しては有効ではない。手術は、腫瘍の全部または一部を身体から除去する伝統的なアプローチであるが、手術は一般に、より早期のがんを治療するのに有効であるのみである。がん患者の50%超が、診断を受ける時点までにもはや有効な手術治療の候補ではなくなっている。さらに、外科的処置は、手術の間の血液循環により腫瘍転移を増大させることがある。
【0009】
[0009]化学療法は、細胞複製または細胞代謝の撹乱を含むが、がん細胞を殺滅すること、その増殖を停止または緩徐化することによって作用し、痛みおよびその他の問題を引き起こしている腫瘍を収縮させるために使用され得る。しかし、がん細胞は正常細胞と大きく異なってはいないため、化学療法は、急速に増殖および分裂する急増殖しているがん細胞を殺滅するのみでなく、急速に増殖および分裂する健常細胞の増殖をも止めるかまたは緩徐化する。実際、身体にはより多数の健常細胞があるため、化学療法は、がん細胞よりも多くの健常細胞を殺滅する可能性がある。急速に増殖および分裂するために化学療法の影響を特に受けやすい健常細胞の例は、口および腸管の内壁にある細胞ならびに毛髪を成長させる細胞である。これらの健常細胞に対する損傷は、口内炎(mouth sores)、悪心、および脱毛などの副作用を引き起こすことがある。
【0010】
[0010]化学療法はまた、とりわけ、次の副作用を起こすこともある:貧血、食欲不振、出血および内出血(血小板減少症)、便秘、せん妄、浮腫、下痢、疲労、受精能の問題、脱毛、感染症および好中球減少症、口および喉の問題、悪心および嘔吐、神経の問題、皮膚および爪の変化、心毒性、肺毒性、ならびに骨髄毒性。副作用は、化学療法の完了後にしばしば快方に向かうかまたは消散するが、遠位転移を伴う進行がんについては、有害作用はしばしば、患者をさらなる化学療法に耐えられないほど脆弱にさせる原因となり、患者の身体(特に、心臓、骨髄および消化管)の細胞に対する重度の副作用は、多くの進行期患者がさらなる治療を拒むことにつながることがある。
【0011】
[0011]抗がん薬の極度の副作用は、そうした薬物の標的特異性が低いことに起因する。薬物は、患者の大部分の正常な器官および意図された標的腫瘍を循環する。副作用を引き起こす標的特異性の低さはまた、薬物の一部分しか正しく標的化されないため、化学療法の有効性をも低下させる。化学療法の有効性は、標的腫瘍内での抗がん薬の滞留性の低さにより、さらに低下する。
【0012】
[0012]長年にわたり、悪性疾患に対する化学療法は、経口、静脈内、動脈内、腹膜腔内、および胸膜腔内注射に限定されてきた。
[0013]米国において市販が承認された注射用ドセタキセル製剤は、例えば20mg/ml、20mg/2ml、20mg/0.5ml、40mg/ml、80mg/2ml、80mg/4ml、80mg/8ml、120mg/6ml、130mg/13ml、140mg/7ml、160mg/8ml、160mg/16ml、200mg/10mlおよび200mg/20mlの力価で、数多く存在する。2015年10月に、米国Eagle Pharmaceuticalsは、ドセタキセル注射の新規製剤の市販に関するTeikokuとのライセンス契約を発表した。Eagleのドセタキセル製剤は、事前希釈を必要としないことが記載されており、20mg/mlの単回用量バイアルで、または80mg/4mlもしくは160mg/8mlの複数回用量バイアルで入手可能である。アルコール非含有製剤の各ミリリットルは、20mgのドセタキセルを、27.5mgのダイズ油、585.0mgのポリソルベート80、10.0mgのクエン酸、および442.2mgのポリエチレングリコール300と共に含む。Eagleの製剤について、FDAは、事前希釈が必要ないこと、および薬剤は、0.3mg/mLから0.74mg/mLの間の最終濃度で、0.9%塩化ナトリウム溶液または5%ブドウ糖溶液のいずれかの250mL輸液バッグまたは瓶から成ってよい輸液に直接加えられ得ることを特記した。この製品は、FDAのオレンジブックに収載されている2つの米国特許、米国特許第8,940,786号および米国特許第9,308,195号によりカバーされているとされる。ドセタキセル製剤に関する他の特許および特許出願があり、例えば、凍結乾燥の溶媒としてリン脂質およびエタノールが使用されたドセタキセルの凍結乾燥物を記載している、米国特許公開第2008/0319048号、ならびにこの特許ファミリーの一部でもあり、ポリソルベート、ポリオキシエチル化植物油およびポリエトキシル化ヒマシ油から選択される界面活性剤に溶解したドセタキセルから本質的に成る製剤であって、本質的にエタノール非含有である製剤に関する米国特許第5,714,512号がある。米国特許第5,698,582号もまた、この特許ファミリーの一部であり、ポリソルベートまたはポリエトキシル化ヒマシ油から選択される界面活性剤に溶解したドセタキセルを含む、本質的にエタノール非含有の製剤に関する。
【0013】
[0014]21 U.S.C. §355(b)(2)(「505(b)(2)申請としても知られる)下でFDA承認のドセタキセル注射は、2つのカテゴリーに入る。一方のタイプは、2本の瓶から成り、1本の瓶は主薬物の濃縮物を含み、もう1本の瓶は希釈剤を含む。2本の瓶は、均一に予混合され、次いでグルコースまたは生理食塩水が使用前の希釈のために添加されることになる。もう一方のタイプは、1本の瓶のみから成り、グルコースおよび生理食塩水は、使用前に主薬物の濃縮物を希釈するために直接添加される。このタイプの製品は、「ready-to-use(すぐに使用できる)」とも称される。
【0014】
[0015]以下の表1は、505(b)(2)下で承認された、FDA承認のドセタキセル注射製剤の概要を示す:
【0015】
【表1】
【0016】
[0016]表1から分かるように、各社により開発された濃度および仕様は異なるが、全ての製品は臨床投与の前に、5%グルコース溶液または0.9%生理食塩水により規定された濃度(0.3~0.74mg/mL)に希釈される必要がある。
【0017】
[0017]以下の表2は、異なる製造による、希釈前の市販のドセタキセル注射組成物間の違いを示す(mg/mL):組成物は、最終の静脈内注射前にドセタキセルの水への分散を促進するために、多量のポリソルベート80、エタノールまたはPEGを含む。
【0018】
【表2】
【0019】
[0018]パクリタキセルは、米国において使用が承認されているもう1つの周知の化学療法剤である。パクリタキセルは、いくつかの製薬会社から、6mg/mlの濃度で注射用製剤として入手可能である。静脈内(IV)注入用の懸濁液として使用するための100mgバイアル入りでも入手可能である。パクリタキセル注射の市販の製剤は、ポリソルベート80含有または非含有で、50%ヒマシ油および50%エタノールを含む。現在入手可能なパクリタキセル注射製剤は全て、静脈内注射用のみであるが、これは、ヒマシ油は、静脈内注射に含まれた場合、有害作用(感作性)を引き起こす可能性があることが知られているためである。
【0020】
[0019]化学療法の副作用の予防または副作用からの保護は、がん患者にとって大きなベネフィットであろう。したがって、先行技術の治療の副作用および毒性に苦しむことがないよう、哺乳動物(例えば、ヒト)における悪性腫瘤に直接、化学療法を投与することを可能にする送達系および方法を提供することは、本発明の目標である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
[0020]動物における悪性腫瘤を治療する製剤および方法を提供することは、本発明の目的である。
[0021]化学療法剤を動物(例えば、ヒト)に投与する方法であって、そうした剤の投与により現在経験される有害な副作用を低減する方法を提供することは、本発明のもう1つの目的である。
【0022】
[0022]本発明の方法において有用であるタキサンの安定な製剤を提供することは、本発明のもう1つの目的である。
【課題を解決するための手段】
【0023】
[0023]上記の目的などに従って、本発明は、哺乳動物(例えば、ヒト)における悪性腫瘤に直接投与するための薬学的に許容される担体中に溶解または懸濁された化学療法剤の注射用医薬用製剤を対象とする。特定の好ましい実施形態において、注射用医薬用製剤は安定である。
【0024】
[0024]本発明はまた、生体適合性担体中に溶解または懸濁された治療的有効量の化学療法剤を含む注射用製剤を、悪性腫瘤に直接、投与するステップを含む、哺乳動物における悪性腫瘤を治療する方法も対象とする。特定の実施形態において、悪性腫瘤は、脳、頭、眼、口、舌、頸部、甲状腺、消化器系、肝臓、膵臓、胆嚢、肺、呼吸器系、泌尿生殖器系、乳房、リンパ系、心血管系、神経系、皮膚、胸郭、胸膜、中皮腫、肺がん、筋骨格系、腹部から成る群から選択される、哺乳動物における位置に、原発性または二次性で、存在してよい。悪性腫瘤は、哺乳動物の別の器官から転移したものであってよい。特定の好ましい実施形態において、生体適合性担体は、ポリエチレングリコール(PEG)または植物油を含む。特定の好ましい実施形態において、化学療法剤を含む製剤は安定である。特定の好ましい実施形態において、化学療法剤は油溶性抗がん薬を含む。特定の好ましい実施形態において、化学療法剤は、水不溶性および油不溶性の両方である。
【0025】
[0025]特定の種類のがんに関して、転移の位置は限定されている。腫瘍および転移は注射によってより容易に治療されて、それにより根絶される可能性があるため、本発明は、そうした例において特に有用である。
【0026】
[0026]特定の好ましい実施形態において、注射用製剤は、シリンジまたはファイバースコープのニードルを通して、投与される。
[0027]特定の好ましい実施形態において、化学療法剤は、タキサンを含む。特定の好ましい実施形態において、タキサンは、パクリタキセル、またはそのアナログもしくはプロドラッグまたは薬学的に許容されるその塩である。特定の好ましい実施形態において、化学療法剤は、パクリタキセルおよびダイズ油を含む。特定の好ましい実施形態において、化学療法剤は、パクリタキセルを含む。他の好ましい実施形態において、タキサンはドセタキセルである。他の好ましい実施形態において、化学療法剤は、エトポシドまたはテニポシドなどの、ポドフィロトキシン誘導体を含む。特定の好ましい実施形態において、化学療法剤は、ヒドロキシカンプトテシン(例えば、7-エチル-10-ヒドロキシカンプトテシンのフェノール性水酸基と結合する誘導体を含む、10-ヒドロキシカンプトテシンまたは7-エチル-10-ヒドロキシカンプトテシン)などの、カンプトテシン誘導体を含む。
【0027】
[0028]特定の実施形態において、悪性腫瘤は、
(i)皮膚、眼、舌、口、甲状腺、乳房、子宮頸部、子宮、肛門、前立腺、膣の表在性悪性疾患、骨の肉腫、尿道の癌腫などであり、化学療法剤は、シリンジを用いて悪性腫瘤内に直接注射されてよく、あるいは
(ii)鼻咽頭のがんであり、化学療法剤は、鼻咽頭鏡によりシリンジまたはニードルを用いて、悪性腫瘤内に注射されてよく、あるいは
(iii)肝臓、腎臓および胆嚢のがんであり、化学療法剤は、シリンジを用いて、超音波の補助下で皮膚を通して悪性腫瘤内へ、または腹腔鏡下手術時に腹壁に開けられた孔を通して悪性腫瘤内へ、注射されてよく、あるいは
(iv)卵巣、輸卵管、膵臓のがん、リンパ節の転移または腹腔の直接的腹膜浸潤であり、化学療法剤は、ニードルにより腹腔鏡下手術の孔を通して悪性腫瘤内へ注射されてよく、あるいは
(v)食道、胃、十二指腸、小腸の癌腫または肉腫であり、化学療法剤は、小腸内視鏡により、または腹腔鏡下手術時に開けられた孔もしくは胸腔鏡下手術時に開けられた孔を通して、ニードルを用いて、悪性腫瘤内へ注射されてよく、あるいは
(vi)大腸および直腸の癌腫または肉腫であり、化学療法剤は、大腸内視鏡により、または腹腔鏡下手術の腹壁の孔を通して、ニードルを用いて悪性腫瘤内へ注射されてよく、あるいは
(vii)喉、肺および気管の癌腫または肉腫であり、化学療法剤は、ファイバー気管支鏡のニードルを用いて悪性腫瘤内へ注射されてよく、あるいは
(viii)肺または気管の癌腫であり、化学療法剤は、超音波、x線、CTスキャン、MRスキャンの補助下で、または胸腔鏡下手術の孔を通して、シリンジを用いて注射されてよく、あるいは
(ix)膀胱の癌腫または肉腫であり、化学療法剤は、膀胱鏡により、または腹腔鏡下手術時に腹壁に開けられた孔を通して、ニードルを用いて悪性腫瘤内へ注射されてよく、あるいは
(x)子宮の癌腫または肉腫であり、化学療法剤は、子宮鏡のシリンジにより、または腹腔鏡下手術時に腹壁に開けられた孔を通して、悪性腫瘤内へ注射されてよく、
(xi)咽頭および喉頭の癌腫または肉腫であり、化学療法剤は、喉頭鏡により、ニードルを用いて悪性腫瘤内へ注射されてよく、あるいは
(xii)脳の癌腫であり、化学療法剤は、X線、CTスキャンまたはMRスキャンの補助下で、当該頭蓋骨における穿孔後に、ニードルを用いて悪性腫瘤内へ注射されてよく、あるいは
(xii)精巣、精巣上体、陰茎、および/または膣の癌腫であり、化学療法剤は、ニードルを用いて希釈なしで直接、悪性腫瘤内へ注射されてよい。
【0028】
[0029]本発明はさらに、部分的に、本発明の方法(悪性腫瘤内への直接注射)において使用する注射用製剤を対象とする。そうした実施形態において、注射用製剤は、化学療法剤が悪性腫瘤内へ直接注射されることが可能であるように化学療法剤を溶解または懸濁する薬学的に許容される賦形剤と共に、1つまたは複数の化学療法剤を含むかまたはから成る。好ましくは、注射用製剤は、生体適合性であり、一般に安全と認められる(generally regarded as safe(GRAS))剤のみを含む。
【0029】
[0030]本発明はさらに、部分的に、治療的有効量のタキサン、そのアナログもしくはプロドラッグ、または薬学的に許容されるその塩を、約PEG 200から約PEG 400の分子量を有するPEGを含むかまたはから成る薬学的に許容される注射用の担体中に含む、タキサンの注射用製剤、および/あるいは治療的有効量のタキサン、そのアナログもしくはプロドラッグ、または薬学的に許容されるその塩を、約PEG 200から約PEG 400の分子量を有するPEG、中鎖トリグリセリドまたは薬学的に許容される植物油から成る薬学的に許容される注射用の担体中に含む、タキサンの安定な注射用製剤を対象とする。特定の好ましい実施形態において、植物油はダイズ油である。特定の好ましい実施形態において、中鎖トリグリセリドは、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸およびそれらの混合物から成る群から選択される。特定の好ましい実施形態において、タキサンは、パクリタキセルまたはドセタキセルである。パクリタキセルに関して、薬学的に許容される注射用の担体は、好ましくは中鎖トリグリセリドである。
【0030】
[0031]本発明はまた、部分的に、治療的有効量のポドフィロトキシン誘導体を、約PEG 200から約PEG 400の分子量を有するPEGを含むかまたはから成る薬学的に許容される注射用の担体中に含む、ポドフィロトキシン誘導体の注射用製剤、および/あるいは治療的有効量のポドフィロトキシン誘導体、そのアナログもしくはプロドラッグ、または薬学的に許容されるその塩を、約PEG 200から約PEG 400の分子量を有するPEG、中鎖トリグリセリドまたは薬学的に許容される植物油から成る薬学的に許容される注射用の担体中に含む、ポドフィロトキシン誘導体の安定な注射用製剤を対象とする。特定の好ましい実施形態において、植物油はダイズ油である。特定の好ましい実施形態において、中鎖トリグリセリドは、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸およびそれらの混合物から成る群から選択される。特定の好ましい実施形態において、ポドフィロトキシン誘導体は、テニポシド、エトポシド、またはそれらの混合物である。特定の好ましい実施形態において、ポドフィロトキシン誘導体に対する薬学的に許容される担体は、PEG、例えば、約PEG 200から約PEG 400の分子量を有するPEGである。
【0031】
[0032]特定の実施形態において、本発明は、治療的有効量のヒドロキシカンプトテシン(カンプトテシン誘導体)を、PEG、例えば、約PEG 200から約PEG 400の分子量を有するPEGを含むかまたはから成る薬学的に許容される注射用の担体中に含む、カンプトテシンまたはその誘導体の注射用製剤、あるいは治療的有効量のヒドロキシカンプトテシン、そのアナログもしくはプロドラッグ、または薬学的に許容されるその塩を、PEG、例えば、約PEG 200から約PEG 400の分子量を有するPEG、中鎖トリグリセリドまたは薬学的に許容される植物油、最も好ましくはPEGから成る薬学的に許容される注射用の担体中に含む、カンプトテシン誘導体の安定な注射用製剤を対象とする。
【0032】
[0033]本発明はさらに、結晶化、粉末化、または凍結乾燥された化学療法剤を含む第一のバイアル、および化学療法剤を腫瘍に送達するのに必要な薬学的に許容される賦形剤であって、約PEG 200から約PEG 400の分子量を有するPEG、中鎖トリグリセリド、エタノール、または薬学的に許容される植物油を含む薬学的に許容される賦形剤を含む第二のバイアルを含むキットを対象とする。
【0033】
[0034]特定の実施形態において、化学療法剤は、水に不溶である。特定の実施形態において、化学療法剤は、タキサン(例えば、パクリタキセル、ドセタキセル)、ヒドロキシカンプトテシン、テニポシド、エトポシド(etososide)、Dダンチノマイシン、カルムスチンなどであり、注射用組成物は好ましくは、非水性溶媒として、ダイズ油、ヒマシ油、ゴマ油、ラッカセイ油、中鎖トリグリセリド、ヤシ油、魚油、綿実油、トウモロコシ油、オリーブ油、モモ核油、または化学療法剤を、所望の部位、例えば、悪性腫瘤内に注射するのに十分に溶解または懸濁することができる、任意の他の薬学的に許容される注射用油を含むが、これらに限定されない、1つまたは複数の有機賦形剤を含む。特定の実施形態において、注射用組成物は、他の溶媒を含まない。他の実施形態において、注射用製剤は、アルコールを含む。他の実施形態において、注射用製剤は、いかなるアルコールをも含まない。他の実施形態において、注射用組成物は、1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤、例えば、しかし限定ではなく、オレイン酸エチル、安息香酸ベンジル、ポリソルベート、PEG、コレステロール、リン脂質、プロピレングリコール、グリセリン、エチルアルコール、ナイアシンアミド、ジメチルスルホキシド、ナツメグイソプロパノール、ジメチルアセタミド、界面活性剤(例えば、非イオン性界面活性剤)などをさらに含む。特定の好ましい実施形態において、注射用組成物は、局所がん組織内への直接注射のためのものであり、静脈注射を意図されていない。特定の実施形態において、注射用組成物は、2つ以上の化学療法剤を含む。
【0034】
[0035]中鎖トリグリセリドは、その脂肪酸が、6~12個の炭素原子の脂肪族テールを有するトリグリセリドである。本発明において溶媒として有用な中鎖トリグリセリドの例は、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、およびそれらの混合物を含む。
【0035】
[0036]本発明の特定の実施形態において、治療的有効量のタキサン、そのアナログ、または薬学的に許容されるその塩を、約70%から約100%の薬学的に許容されるヒドロアルコール性溶媒(例えば、エタノールの)を含むかまたはから成る薬学的に許容される注射用の担体中に含む、タキサンの注射用製剤が提供される。特定の好ましい実施形態において、タキサンはパクリタキセルである。他の好ましい実施形態において、タキサンはドセタキセルである。
【0036】
[0037]本明細書に記載の本発明がより十分に理解されるために、以下の定義が本開示のために提供される:
[0038]用語「患者」は、本明細書に開示された組成物によりおよび方法により治療されようとする任意の動物を広く指す。本製剤および方法は、任意の動物、例えば、ヒト(好ましい実施形態)、霊長類、イヌ、ネコ、ウマ、ウシなどを含むがこれらに限定されない、任意の脊椎動物に対する治療を提供することができる。好ましい実施形態において、患者はヒトである。患者(ヒトなど)は、進行性疾患または低腫瘍負荷などのより低い程度の疾患を有してよい。いくつかの実施形態において、患者は、増殖性疾患の早期(がんなど)にある。他の実施形態において、患者は、増殖性疾患の進行期(進行がんなど)にある。
【0037】
[0039]本明細書で使用するとき、用語「単位用量」は、哺乳動物被験者に対する単位投与量として好適な物理的に個別の単位を指す。
[0040]用語「含む(comprising)」は、この用語に続いて列挙された要素を含有する、包含する、カバーする、または包括するが、他の非列挙要素を除外しないことを意味すると解釈される包括的用語である。
【0038】
[0041]「治療的有効量」は、疾患を治療するために動物に投与される場合、量が、所望の治療効果を生み出すのに(例えば、その疾患に対する治療に影響を及ぼすのに)十分であることを意味する。
【0039】
[0042]本明細書で使用するとき、用語「治療する」または疾患の「治療」は、疾患の素因があるかもしれないが、まだ疾患の症状を経験していないかまたは示さない動物において、疾患の発生を防止すること(予防的治療)、疾患を抑制すること(疾患の進展を遅らせるかまたは停止すること)、疾患の症状または副作用から救済すること(緩和治療を含む)、および疾患を軽減すること(疾患の退行を引き起こすこと)を含む。
【0040】
[0043]用語「組成物」および「製剤」は、本明細書において互換的に使用される。
[0044]用語「安定な」は、本発明の製剤に適用されるとき、本発明の目的から、製剤が、5℃から20℃の間、好ましくは5℃から40℃の間の温度で、少なくとも14日の期間、保存された場合、許容可能なレベルの不純物を有することを意味する。許容可能なレベルの不純物は、本発明の目的から、製剤に含まれる薬物の全量の2%以下の不純物の総レベルとみなされる。他の実施形態において、薬物が、パクリタキセルなどのタキサンである場合、安定性はまた、そうしたタキサンに関して一般的に見出される個々の不純物の量を含むこととも定義され得る。例えば、パクリタキセルに関して、安定性は、0.8%以下のバッカチン、0.4%以下のエチルエステル側鎖、0.8%以下の10-デアセチルパクリタキセル、0.6%以下の7-エピ-10-デアセチルパクリタキセル、0.6%以下の7-エピ-10パクリタキセル、および/または0.1%以下の他の最多量の不純物を含む製剤として定義され得る。したがって、安定性は、特定の実施形態においては、総不純物に基づいており、他の実施形態においては、最後の文で言及された不純物の1つまたは複数に基づく。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1図1は、実施例16の化学療法(パクリタキセル油)の初回注射後の、種々のマウス群の経時的生存率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
[0045]本発明は、種々の特定のかつ好ましい実施形態および手法に関して記載されることになるが、本発明の精神および範囲を維持しながら、多くの変形および変更がなされ得ることが理解されるべきである。
【0043】
[0046]現在の慣行において、最も治癒可能性の高い固形腫瘍の標準治療は、外科的除去としばしばそれに続く化学療法である。肺、乳房、および結腸直腸がんなどの主要な死亡率の高いがんに関して、腫瘍が外科的に除去された後の化学療法の投与は、手術後に依然として残存がん細胞を有する患者において、微小転移性疾患(通常の画像診断技術を用いて検出不能な疾患)を根絶する可能性がある。しかし、この治療は不成功であることが多く、化学療法は、(上で先に説明したような)そうした剤により引き起こされる副作用によって、しばしば限定される。
【0044】
化学療法剤
[0047]本発明の好ましい実施形態において、治療的有効量の1つまたは複数の薬学的に許容される化学療法剤は、本発明の注射用製剤に組み込まれる。
【0045】
[0048]動物(例えば、ヒト)の悪性腫瘤内に直接注射するために、いかなる化学療法(例えば、抗がん)剤(薬物)も使用され得る。がん細胞の膜は、二重脂質層構造を有するため、好ましくは、化学療法剤は、油に可溶である。したがって、薬物が脂溶性である場合、薬物は容易にがん細胞に入ることができる。がんの静脈または動脈内に注射された化学療法剤は、がん細胞内に入ることなく、腫瘍から離れて運ばれる可能性があり、したがって有効性(例えば、細胞殺滅効果)は低い。対照的に、脂質に溶解された化学療法剤が、直接腫瘍内に注射される場合、化学療法剤は、その効果をより長期間にわたって発揮し、より容易にがん細胞に入ることができる。
【0046】
[0049]本発明の製剤において有用な化学療法剤の例は、タキサン、またはそのアナログもしくはプロドラッグ、およびその塩を含む。タキサンは、部分的に、微小管機能を撹乱することにより機能し、細胞分裂の抑制をもたらす、ジテルペン化学療法剤である。
【0047】
[0050]好ましくは、タキサンは、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセル、タキサジエン、バッカチンIII、タクスチニンA、ブレビフォリオール、およびタキサスパインD、または薬学的に許容されるそれらの塩から成る群から選択される。特定の実施形態において、タキサンは、パクリタキセル、ドセタキセル、およびカバジタキセル、または薬学的に許容されるそれらの塩から成る群から選択される。特定の好ましい実施形態において、タキサンは、パクリタキセル、そのアナログもしくはプロドラッグ、および/または薬学的に許容されるその塩である。
【0048】
[0051]パクリタキセルの「アナログ」は、本明細書で使用するとき、パクリタキセルの1つまたは複数の原子または官能基を置換することにより生成された化合物を指す。最もよく知られたパクリタキセルアナログは、半合成アナログドセタキセル(Taxotere(登録商標))であり、肺がん、乳がん、および前立腺がんを含む広範ながんの治療に対して承認されている。他のパクリタキセル誘導体は、前立腺がんの治療に対して承認されているカバジタキセル(Jevtana(登録商標));DJ-927(Tesetaxel(登録商標))、XRP9881(Larotaxel(登録商標))、BMS-275183、Ortataxel(登録商標)、およびRPR 109881A、およびBMS-184476を含むが、これらに限定されるものではない。パクリタキセルの「プロドラッグ」は、本明細書で使用するとき、被験者への投与後に、パクリタキセルに変換される化合物を指す。パクリタキセルプロドラッグの例は、いずれも臨床開発中である、DHA-パクリタキセル(Taxoprexin(登録商標))およびパクリタキセルポリグルメックス(Opaxio(登録商標))を含むが、これらに限定されるものではない。
【0049】
[0052]本明細書で使用するとき、タキサンの「薬学的に許容される塩」は、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応などを伴わずに、患者の組織と接触しての使用に適し、妥当なベネフィット/リスク比に相応し、かつ意図された使用に対して有効であり、可能な場合には、タキサンの両性イオン性形態である。用語「塩」は、タキサンの比較的非毒性の無機および有機酸付加塩を指す。代表的塩は、臭化水素酸塩、塩酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、オキサレート、吉草酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、ホウ酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、トシル酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、ナフチル酸塩、メシル酸塩、グルコヘプトン酸塩、ラクトビオン酸塩、およびラウリルスルホン酸塩などを含む。これらは、アルカリ金属およびアルカリ土類金属、例えばナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどをベースとするカチオン、ならびにアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミンなどを含むがこれらに限定されない、非毒性アンモニウム、第四級アンモニウムおよびアミンカチオンを含んでよい。
【0050】
[0053]パクリタキセルは、薬物抵抗性卵巣がんにおいて有意な抗悪性腫瘍および抗がん効果を有することが示されており、かつ多種多様な腫瘍モデルにおいて優れた抗腫瘍活性、および非常に低用量で使用された場合に血管新生の抑制を示した(Grantら、Int.J.Cancer、2003)。しかし、経口送達が有効でない場合、本質的に水性媒質に不溶または難溶である薬物の送達は著しく損なわれる可能性があるため、パクリタキセルの水溶解度の低さは、ヒトへの投与に関して問題を生じる。したがって、現在使用されるパクリタキセル製剤(例えば、Taxol(登録商標))は、薬物を溶解するためにCremophor(登録商標)および/またはエタノールを必要とする。
【0051】
製剤の投与
[0054]本発明の注射用製剤および治療に使用される化学療法剤は好ましくは、当業者に公知の治療的有効量で投与される。特定の実施形態において、治療的有効量は、最大の治療効果をもたらす量である。他の実施形態において、治療的有効量は最大の治療効果未満の治療効果をもたらす。例えば、治療的有効量は、最大の治療効果をもたらす投与量に関連する1つまたは複数の副作用を回避しながら、治療効果をもたらす量であってよい。臨床および薬理学分野の当業者であれば、日常的実験により、すなわち剤の投与に対する被験者の反応をモニタリングし、それに応じて投与量を調節することによって、治療的有効量を決定することができるであろう。さらなる指針については、例えば、参照によりその全開示が本明細書に組み込まれる、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、22nd Edition、Pharmaceutical Press、London、2012およびGoodman & Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics、12th Edition、McGraw-Hill、New York、N.Y.、2011を参照のこと。
【0052】
[0055]パクリタキセル(Abraxane(登録商標))は、転移性乳がんの治療に対して承認されている(推奨用量は、3週間毎に、260mg/mを30分間で静脈内に。非小細胞肺がんに対して、推奨用量は、各21日間サイクルにおいて、1、8および15日目に100mg/mを30分間で。膵臓の腺癌に対して、アブラキサンの推奨用量は、各28日間サイクルにおいて、1、8および15日目に125mg/mを30~40分間で静脈内に)。パクリタキセルは、使用前に復元する(復元用の0.9%塩化ナトリウム注射を用いる)ための無菌の凍結乾燥粉末として供給される。この製剤は、平均粒径約130nmの注射用懸濁液用のアルブミン結合ナノ粒子を含む。直接注射によるパクリタキセル投与の用量は、本発明に従い、したがって通常使用される静脈内用量と比較して減少されてよい。他方で、身体の他の組織は、静脈内投与と同程度まで薬物に曝露されることはなく、副作用の低減につながるため、パクリタキセルの用量が増加され得ることも可能である。
【0053】
[0056]本発明によるパクリタキセルの好適な投与量の例は、以下の表3に示される。使用される注射液の量は、腫瘍のサイズまたは体積による。
【0054】
【表3】
【0055】
[0057]上記のように、本発明の製剤の可能性のある適用は、身体の悪性のがんまたは肉腫腫瘤への直接投与(例えば、注射)を含む。特定の実施形態において、可能性のある治療部位は、以下のがんまたは腫瘍を含むが、これらに限定されるものではない:肝細胞癌、肝臓の転移性がん、進行肝細胞癌、膵臓がん、腺癌、肥満細胞腫すなわちマスト細胞腫瘍、卵巣がん、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、メラノーマ、網膜芽細胞腫、乳腺腫瘍、結腸直腸癌、組織球性肉腫、脳腫瘍、星細胞腫、膠芽腫、神経腫、神経芽腫、大腸癌、子宮頸癌、肉腫、前立腺腫瘍、膀胱腫瘍、細網内皮組織の腫瘍、ウィルムス腫瘍、卵巣癌、骨がん、骨肉腫、腎臓がん、または頭頸部がん、口腔がん、喉頭がん、または中咽頭がん、乳がん、泌尿生殖器がん、肺がん、消化管がん、類表皮がん、メラノーマ。本発明のより広い意味において、本発明の製剤および治療は、過剰増殖状態、例えば、過形成、線維症(特に肺線維症であるが、腎線維症などの他の種類の線維症も同様に)、血管新生、乾癬、アテローム動脈硬化症、および血管形成術後の狭窄または再狭窄などの血管内での平滑筋増殖から選択される増殖性疾患の治療に使用されてよい。特定の実施形態において、製剤および治療は、膵臓がん以外の消化管がんに関して使用される。いくつかの実施形態において、増殖性疾患は、がんである。いくつかの実施形態において、増殖性疾患は、非がん性疾患である。いくつかの実施形態において、増殖性疾患は、良性または悪性腫瘍であり、腫瘍の元の器官もしくは組織におけるおよび/または任意の他の位置における転移を包含する。いくつかの実施形態において、原発性腫瘍を治療する方法が提供される。いくつかの実施形態において、原発性腫瘍から転移したがんを治療する方法が提供される。いくつかの実施形態において、進行期のがんを治療する方法が提供される。いくつかの実施形態において、例えば、進行乳がん、ステージIV乳がん、局所進行乳がん、および転移性乳がんを含む、(HER2陽性またはHER2陰性の)乳がんを治療する方法が提供される。いくつかの実施形態において、例えば、非小細胞肺がん(NSCLC、例えば進行NSCLC)、小細胞肺がん(SCLC、例えば進行SCLC)、および肺における進行固形腫瘍悪性疾患を含む、肺がんを治療する方法が提供される。いくつかの実施形態において、卵巣がん、頭頸部がん、胃悪性腫瘍、メラノーマ(転移性メラノーマを含む)、結腸直腸がん、膵臓がん、および固形腫瘍(例えば進行固形腫瘍)のいずれかを治療する方法が提供される。
【0056】
[0058]本発明の方法において、化学療法剤は、好ましくは、(直接)注射により、身体のがんまたは肉腫の悪性腫瘤内へ直接投与される。皮膚、眼、舌、口、甲状腺、乳房、子宮頸部、子宮、肛門、前立腺、膣の表在性悪性疾患、骨の肉腫、尿道の癌腫などに対して、化学療法剤は、希釈せずに、シリンジにより悪性腫瘤内に直接注射されてよい。
【0057】
[0059]本発明の特定の実施形態において、本発明の注射用製剤は、シリンジにより悪性腫瘤内へ直接注射される。この実施形態は、例えば、肝臓、腎臓および胆嚢、卵巣、輸卵管、膵臓のがん、リンパ節の転移または腹腔の直接的腹膜浸潤に対して特に有用である。
【0058】
[0060]さらなる実施形態において、本発明は、例えば、皮膚、眼、舌、口、甲状腺、乳房、子宮頸部、子宮、肛門、前立腺、膣の表在性悪性疾患、骨の肉腫、尿道の癌腫などに対して特に有用である。
【0059】
[0061]本発明の特定の実施形態において、本発明の注射用製剤は、鼻咽頭鏡によりシリンジまたはニードルを用いて、悪性腫瘤内に注射される。この実施形態は、例えば、鼻咽頭のがんに対して特に有用である。
【0060】
[0062]本発明の特定の実施形態において、本発明の注射用製剤は、シリンジを用いて、超音波の補助下で皮膚を通して悪性腫瘤内へ、または腹腔鏡を介して悪性腫瘤内へ、注射される。この実施形態は、例えば、肝臓、腎臓および胆嚢のがんに対して、特に有用である。
【0061】
[0063]本発明の特定の実施形態において、本発明の注射用製剤は、腹腔鏡的に、ニードルにより悪性腫瘤内へ注射される。この実施形態は、例えば、卵巣、輸卵管、膵臓のがん、リンパ節の転移または腹腔の直接的腹膜浸潤に対して、特に有用である。
【0062】
[0064]本発明の特定の実施形態において、本発明の注射用製剤は、小腸内視鏡により、または腹腔鏡もしくは胸腔鏡下手術との併用療法により、悪性腫瘤内へ注射される。この実施形態は、例えば、食道、胃、十二指腸、および/または小腸の癌腫または肉腫に対して、特に有用である。
【0063】
[0065]本発明の特定の実施形態において、本発明の注射用製剤は、大腸内視鏡、または腹腔鏡下手術との併用療法により、ニードルを用いて悪性腫瘤内へ注射される。この実施形態は、例えば、大腸および/または直腸の癌腫または肉腫を治療するのに特に有用である。
【0064】
[0066]本発明の特定の実施形態において、本発明の注射用製剤は、ファイバー気管支鏡のニードルを用いて悪性腫瘤内へ注射される。この実施形態は、例えば、喉、肺および/または気管の癌腫または肉腫を治療するのに特に有用である。
【0065】
[0067]本発明の特定の実施形態において、本発明の注射用製剤は、超音波、x線、CTスキャン、MRスキャンの補助下で、または胸腔鏡下手術の胸壁の孔を通して、シリンジを用いて注射される。この実施形態は、例えば、肺および胸郭の癌腫、胸郭のリンパ腫または胸郭におけるリンパ節転移を治療するのに特に有用である。
【0066】
[0068]本発明の特定の実施形態において、本発明の注射用製剤は、膀胱鏡により、または腹腔鏡下手術時に腹壁に開けられた孔を通して、ニードルを用いて悪性腫瘤内へ注射される。この実施形態は、例えば、膀胱の癌腫または肉腫を治療するのに特に有用である。
【0067】
[0069]本発明の特定の実施形態において、本発明の注射用製剤は、子宮鏡を介してシリンジまたはニードルにより、悪性腫瘤内へ注射される。この実施形態は、例えば、子宮の癌腫または肉腫、子宮頸部の癌腫、子宮内皮の癌腫を治療するのに特に有用である。
【0068】
[0070]本発明の特定の実施形態において、本発明の注射用製剤は、喉頭鏡により、ニードルを用いて悪性腫瘤内へ注射される。この実施形態は、例えば、咽頭および/または喉頭の癌腫または肉腫を治療するのに特に有用である。
【0069】
[0071]本発明の特定の実施形態において、本発明の注射用製剤は、X線、CTスキャンまたはMRスキャンの補助下で、当該頭蓋骨における穿孔後に、ニードルを用いて悪性腫瘤内へ注射される。この実施形態は、例えば、脳の癌腫を治療するのに特に有用である。
【0070】
[0072]当業者であれば、種々の器官のがんまたは肉腫に対する用量は、治療されようとする腫瘤のサイズまたは体積に依存することを理解するであろう。
[0073]特定の好ましい実施形態において、製剤は、5mlの薬学的に許容される担体(例えば、PEG 300)中、治療的有効用量(例えば、約60mg)のパクリタキセルを含むかまたはから成る。特定の好ましい実施形態において、パクリタキセルの濃度は、5mlの薬学的に許容される担体(例えば、PEG 300)中、約30mgのパクリタキセルである。そうした製剤において、注射用製剤としてのパクリタキセルの濃度は、6mg/mlである。一般に、投与量は、腫瘤のサイズまたは体積に応じて、約1から10mlの溶液または懸濁液である。使用される薬物の体積は、好ましくは腫瘤の8%よりも小さくあるべきであり;そうでなければ、注射部位から液が流出することになる。
【0071】
[0074]特定の実施形態において、本発明の注射用製剤は、1回より多く投与される。例えば、特定の実施形態において、注射用製剤は、1週間に1回、1カ月に1回、または2カ月毎に1回投与される。注射の回数および注射同士の間隔は、当業者の知識の範囲内であり、部分的に、腫瘍のサイズに依存する。
【0072】
[0075]特定の実施形態において、注射用製剤は、特に注射によって到達するのが困難な場所において、ファイバースコープを用いて投与される。ファイバースコープの使用は、最小限に侵襲的な手術と考えられる。化学療法剤は、ファイバースコープ、腹腔鏡、胸腔鏡または他の医療機器の使用により、脳内空洞、胸腔内または腹腔内の腫瘍に投与され得ることが企図されている。例えば、原発性腫瘍が転移した特定の実施形態において、本発明の注射用製剤は、原発悪性腫瘤およびいずれかの二次性腫瘍の両方に対して投与される。以前は、外科医が患者の2つ超の器官において同時に、例えば、腹部、肺および脳において同時に、手術を行うことは、がん患者への外傷により、非常に困難であったため、本発明のおかげで、多数の部位を治療することがはるかに容易である。
【0073】
[0076]本発明の方法は、患者の外傷がより少ないこと、および(化学療法剤が全身的に投与された場合に起こる)正常細胞の殺滅はせずにがん細胞を殺滅することの両方を可能にする。化学療法剤の悪性腫瘍内への直接注射はまた、多くの一般的な副作用を大きく低減するかまたは除去する。例えば、手術を、化学療法剤の悪性腫瘍内への直接注射に置き換えることは、舌または口の癌腫の患者の顔の外観が損なわれること、乳がん患者における乳房の喪失、肉腫の患者における脚の切断、子宮頸がんまたは早期の子宮がんの患者における子宮の喪失を防止する。化学療法剤の悪性腫瘍内への直接注射はまた、骨髄機能抑制、神経毒性、肺損傷、肺線維症、急性心毒性、左室機能不全、心不全、心臓内伝導障害および不整脈、心膜炎、筋肉および/もしくは関節の痛み、消化管の反応、ならびに/または脱毛症などの副作用を低減するかまたは除去する。
【0074】
[0077]がん転移の土壌と種仮説において仮定されるように、がんの「種」は特定の選択された部位(「土壌」)においてのみ増殖する。転移および悪性腫瘍の原発性腫瘤が小さい場合、患者の生命を危険にさらす可能性はない。腫瘍が大きい場合、CTスキャンまたはMRスキャンまたはファイバースコープの補助により、容易に検出され得る。ファイバースコープおよび/または腹腔鏡の補助により、本発明の製剤(化学療法薬または抗がん薬を含む)は、正常な(周囲の)組織に影響することなく、大きな腫瘍に直接注射されることが可能であり、がん細胞の殺滅を可能にし、悪性腫瘤の成長を停止または遅延させる(例えば、腫瘍を小さくするかまたは腫瘍を収縮させる)ことができ、かつ進行がんの患者が腫瘍と共に生きること(寄生虫と共に生きるヒト患者と同じように)を可能にする。化学療法薬または抗がん薬が腫瘍に注射された場合、薬物は血管またはリンパ管の中を転移まで流れ、転移細胞を殺滅することになる。化学療法剤の腫瘍への注射は、患者への外傷をほとんどなくし、例えば、1カ月当たり何回も、繰り返されることが可能である。直接注射はまた、原発性腫瘍とがんが転移した二次性腫瘍の両方に同時に投与され得る。
【0075】
併用療法
[0078]本発明の特定の実施形態において、化学療法剤(例えば、パクリタキセル)は、がんまたは肉腫を治療するために、追加の(1つまたは複数の)剤と併用で投与される。例えば、特定の実施形態において、化学療法剤は、タキサン(例えば、パクリタキセル)であり、1つまたは複数の抗体、例えばアレムツズマブ、ブレンツキシマブベドチン、セツキシマブ、ゲムツズマブ、オゾガマイシン、アブリツモマブチウキセタン(abritumomab tiuxetan)、ニモツズマブ、オファツムマブ、パニツムマブ、リツキシマブ、トシツモマブ、もしくはトラスツズマブ、または参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、米国特許公開第2018/0222983号に記載の拮抗性FGFR3抗体と共に投与される。他の実施形態において、治療は、例えば、IL-6、HGF、PGE-2、PGF、TGF-ベータ、PDGF-BB、MCP-1およびMMP-9またはそれらの受容体の1つまたは複数に対する抗体などの他の抗体による治療をさらに含んでよい。別の実施形態において、化合物または組成物は、これらのリガンド受容体相互作用によって誘発される受容体二量体化を防ぐことができ、したがって下流の活性化を防ぐことができる、リン酸オセルタミビルなどのneu-1シアリダーゼ阻害剤であるかまたはこれを含む。他の実施形態において、化合物または組成物は、とりわけ、NF-kbおよびStat-3などの転写活性化因子の阻害剤を含む、これら別個のリガンド受容体相互作用によって誘発される転写活性化因子の低分子阻害剤であるかまたはこれを含む。これら別個のリガンド受容体相互作用の効果を撹乱するために使用されてよい他の治療剤は、上記の別個のリガンド受容体相互作用によって上方制御された標的遺伝子の転写後活性を撹乱する、miRNA治療薬である。
【0076】
[0079]本発明の製剤および方法と併用で使用されてよい他の治療剤は、水溶性または水不溶性の抗がん薬、ドキソルビシンまたはカルボプラチン、アポトーシス誘導剤または有糸分裂阻害剤または抗微小管阻害剤、アルキル化剤、ヌクレオシドまたはヌクレオチドアナログ、トポイソメラーゼ阻害剤を含むがこれらに限定されるものではない。任意選択で、アポトーシス誘導剤または有糸分裂阻害剤または抗微小管阻害剤は、ラルチトレキセドまたは等価物、またはTomudex(登録商標);ドキソルビシンまたは等価物、またはAdriamycin(登録商標);フルオロウラシルまたは5-フルオロウラシルまたは等価物;エポチロンまたはエポチロンA、B、C、D、EもしくはFまたは等価物;イクサベピロン(アザエポチロンBとしても知られる)または等価物、またはBMS-247550(商標);ビンクリスチン(ロイロクリスチンとしても知られる)または等価物、またはOncovin(登録商標);ビンブラスチン(vinblastin)、ビンブラスチン(vinblastine)、ビンデシン、ビンフルニン、ビノレルビンまたはNavelbine(登録商標)または等価物;あるいは、それらのいずれかの組合せを含むかまたはから成り、かつ任意選択で、アルキル化剤は、テモゾロミド、(TMZ)(Temodar(登録商標)、Temodal(登録商標)またはTemcad(登録商標))、シスプラチンまたは等価物;シスプラチナムまたは等価物;シス-ジアミンジクロリド白金(II)(CDDP)または等価物;カルボプラチンまたは等価物;オキサロプラチンまたは等価物;シクロホスファミド(シトホスファン)または等価物、またはEndoxan(登録商標)、Cytoxan(登録商標)、Neosar(登録商標)またはRevimmune(登録商標);メクロレタミンまたは等価物;クロルメチンまたは等価物;ムスチンまたは等価物;ナイトロジェンマスタードまたは等価物;クロラムブシルまたは等価物、またはLeukeran(登録商標);あるいは、それらの組合せを含むかまたはから成り、かつ任意選択で、トポイソメラーゼ阻害剤は、エトポシドまたは等価物、またはEposin(登録商標)、Etopophos(登録商標)、Vepesid(登録商標)またはVP-16(登録商標);アムサクリンまたは等価物;トポテカンまたは等価物、またはHycamtin(登録商標);テニポシドまたは等価物、またはVumon(登録商標)またはVM-26(登録商標);エピポドフィロトキシンまたは等価物;カンプトテシンまたは等価物;イリノテカンまたは等価物、またはCamptosar(登録商標);または前記のもののいずれかの組合せを含むかまたはから成る。
【0077】
[0080]いくつかの実施形態において、追加の化学療法剤は、アドリアマイシン、コルヒチン、シクロホスファミド、アクチノマイシン、ブレオマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、マイトマイシン、メトトレキサート、ミトキサントロン、フルオロウラシル、カルボプラチン、カルムスチン(BCNU)、Navelbine(登録商標)(ビノレルビン)、アントラサイクリン(Doxil(登録商標))、メチル-CCNU、シスプラチン、エトポシド、インターフェロン、カンプトテシンおよびそれらの誘導体、フェネステリン、トペテカン(topetecan)、ビンブラスチン、ビンクリスチン、タモキシフェン、ピポスルファン、nab-5404、nab-5800、nab-5801、イリノテカン、HKP、オルタタキセル、ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、Herceptin(登録商標)、ビノレルビン、カペシタビン(Xeloda(登録商標))、Alimta(登録商標)、Avastin(登録商標)、Velcade(登録商標)、Tarceva(登録商標)、Neulasta(登録商標)、Lapatinib(GW57016)、ソラフェニブ、それらの誘導体、当技術分野において公知の化学療法剤などのいずれかである(いくつかの実施形態において、これらから成る群から選択される)。
【0078】
[0081]いくつかの実施形態において、化学療法剤は、腫瘍成長に関与する他の因子のアンタゴニスト、例えば、EGFR、ErbB2(Herbとしても知られる)、ErbB3、ErbB4、またはTNFである。時として、1つまたは複数のサイトカインを患者に投与することが、有益であることがある。いくつかの実施形態において、治療剤は、増殖阻害剤である。増殖阻害剤の好適な投与量は、現在使用される投与量であり、増殖阻害剤とタキサンとの複合作用(相乗作用)により、低減されてもよい。
【0079】
[0082]いくつかの実施形態において、化学療法剤は、抗-VEGF抗体、HER2抗体、インターフェロン、およびHGfβアンタゴニスト以外の化学療法剤である。
【0080】
製造
[0083]本発明の注射用製剤は、当業者に公知の種々の方法のいずれかにおいて使用するために調製されてよい。製剤は、予め調製されてよく、かつ必要とされるまで、無菌形態で、任意選択で有効量の防腐剤を含めて、保存されてよい。
別法として、注射用製剤(化学療法剤、例えば抗がん薬)の活性成分を、固体形態で保存し、投与される少し前の時点で、すなわち使用前1時間以内、または好ましくは使用の約15分前に、製剤を、注射用製剤に復元することが好ましいことがある。そのような場合、化学療法剤は、水性液体とは個別に保存される。
【0081】
[0084]使用前に、化学療法剤(例えばタキサン)は、好ましくは薬学的に許容される担体中に含まれる。薬学的に許容される担体の例は、PEG、植物油、中鎖トリグリセリド、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、ブドウ糖、グリセロール、エタノールなどの1つまたは複数およびそれらの組合せを含む。多くの場合、等張剤、例えば、糖類、マンニトール、ソルビトールなどのポリアルコール、または塩化ナトリウムを組成物中に含むことは好ましいであろう。薬学的に許容される担体は、組成物の成分と(例えばヒト)患者の両方に適合しなければならない。非水性溶媒の他の例は、プロピレングリコールおよび他のグリコール、代謝性油、水およびアルコール/水溶液を含む水性担体、ならびにエマルションまたは懸濁液(例えば生理食塩水および緩衝された媒質)を含む。
【0082】
[0085]特定の好ましい実施形態において、本発明の製剤は、化学療法剤を、油、中鎖トリグリセリド、またはPEGと共に含むかまたはから成る。特定の好ましい実施形態において、PEGは、約100から約600、好ましくは約200から約400、または好ましくは約200から約300の分子量を有し、最も好ましくは、PEGは、PEG 200、PEG 300、PEG 400および前記のもののいずれかの混合物から選択される。特定の好ましい実施形態において、化学療法剤は、タキサン(例えば、パクリタキセル)である。
【0083】
[0086]特定の実施形態において、化学療法剤は、水に不溶である。特定の実施形態において、化学療法剤は、タキサン(例えば、パクリタキセル、ドセタキセル)、ヒドロキシカンプトテシン、テニポシド、エトポシド(etososide)、Dダンチノマイシン、カルムスチンなどである。そうした実施形態において、注射用組成物は、非水性溶媒として、ダイズ油、ヒマシ油、ゴマ油、ラッカセイ油、中鎖トリグリセリド、ヤシ油、魚油、綿実油、トウモロコシ油、オリーブ油、モモ核油、または化学療法剤を、所望の部位、例えば、悪性腫瘤内に注射するのに十分に溶解または懸濁することができる、任意の他の薬学的に許容される注射用油を含むがこれらに限定されない、1つまたは複数の有機賦形剤を好ましくは含む。特定の実施形態において、注射用組成物は、他の溶媒を含まない。他の実施形態において、注射用製剤は、アルコールを含む。他の実施形態において、注射用製剤は、いかなるアルコールをも含まない。他の実施形態において、注射用組成物は、1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤、例えば、しかし限定ではなく、オレイン酸エチル、安息香酸ベンジル、ポリソルベート、PEG、コレステロール、リン脂質、プロピレングリコール、グリセリン、エチルアルコール、ナイアシンアミド、ジメチルスルホキシド、ナツメグイソプロパノール、ジメチルアセタミド、界面活性剤(例えば、非イオン性界面活性剤)などをさらに含む。特定の好ましい実施形態において、注射用組成物は、局所がん組織内への直接注射のためのものであり、静脈注射を意図されていない。特定の実施形態において、注射用組成物は、2つ以上の化学療法剤を含む。
【0084】
[0087]タキサン(例えば、パクリタキセル)が、ヒマシ油に溶解されている(以下に論じられたEagle Pharmaceuticalsにより市販される製品と同様に)場合、またはポリソルベート80に溶解されている場合、シリンジまたはファイバースコープの小さなニードルにより引き出すことは困難である。他方で、タキサンがエタノールで希釈される場合、薬物の濃度は不安定であり、不純物のレベルを非常に高くする。
【0085】
[0088]特定の好ましい実施形態において、タキサン(例えば、パクリタキセルまたはドセタキセル)を溶解するために使用される溶媒は、例えば、約1mm/sから約2000mm/sの範囲の粘度を有する。本発明において有用な特定の溶媒の粘度の例は、以下の表4に示される:
【0086】
【表4】
【0087】
[0089]以下の表5は、本発明の注射用製剤に使用されてよい生体適合性の医薬用溶媒中の特定の好ましい化学療法剤の溶解度を示す。
【0088】
【表5】
【0089】
[0090]特定の実施形態において、本発明の注射用製剤を調製するために、溶媒の組合せが使用されてよい。好適な組合せは、例えば以下の表6に示される:
【0090】
【表6】
【0091】
[0091]製剤(液体または懸濁液)の形成または復元は、任意の通常の混合方法により、手作業かまたは混合装置の使用のいずれかによって達成される。微粒子材料は、単位用量として、無菌環境において保存されてよく、容器は、製剤の事前の粘度を達成するために加えられる液体担体(例えば、注射用水などの無菌水)の量に関する指示を含んでよい。
【0092】
[0092]特定の実施形態において、製剤は、薬学的に許容される界面活性剤を含む。好適な界面活性剤は、ポリソルベート、例えば、しかし限定されることなく、ポリソルベート80(Tween 80)、およびそれらのいずれかの組合せまたは混合物を含む。特定の他の実施形態において、基剤は薬学的に許容される界面活性剤および溶媒の組合せであってよい。他の基剤は、ステアリルフマル酸ナトリウム、セチル硫酸ジエタノールアミン、イソステアレート、ポリエトキシル化ヒマシ油、塩化ベンザルコニウム、ノノキシル(nonoxyl)10、オクトキシノール9、ラウリル硫酸ナトリウム、ソルビタンエステル(モノラウリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、トリステアリン酸ソルビタン、ラウリン酸ソルビタン、オレイン酸ソルビタン、パルミチン酸ソルビタン、ステアリン酸ソルビタン、ジオレイン酸ソルビタン、セスキイソステアリン酸ソルビタン、セスキステアリン酸ソルビタン、トリイソステアリン酸ソルビタン)、レシチン、薬学的に許容されるそれらの塩、およびそれらの組合せまたは混合物を含んでよい。
【0093】
[0093]特定の好ましい実施形態において、界面活性剤は、薬学的に許容される親水性界面活性剤、例えば、非イオン性界面活性剤を含む。非イオン性界面活性剤は、好ましくは、希釈後に、薬学的に許容される注射用媒質(例えば、水溶液)からの原薬の沈殿を抑制するのに十分な量で含まれる。非イオン性界面活性剤は、原薬と安定なミセルを形成し、薬物を可溶化することができ、かつ薬物に追加の光安定性を与えることがある。
【0094】
[0094]おおよその目安としてHLB値を用いると、親水性界面活性剤は、10超の、特に12から17のHLB値を有するこれらの化合物と考えられる。親水性非イオン性界面活性剤は、油よりも水に、より可溶性である(10より高いHLBを有する)。本発明の製剤において有用な、薬学的に許容される非イオン性界面活性剤は、例えば、ポリオキシエチレン化合物、エトキシル化アルコール、エトキシル化エステル、エトキシル化アミド、ポリオキシプロピレン化合物、プロポキシル化アルコール、エトキシル化/プロポキシル化ブロックポリマー、およびプロポキシル化エステル、アルカノールアミド、アミンオキシド、多価アルコールの脂肪酸エステル、エチレングリコールエステル、ジエチレングリコールエステル、プロピレングリコールエステル、グリセリルエステル、ポリグリセリル脂肪酸エステル、ソルビタンエステル、ショ糖エステル、およびグルコース(ブドウ糖)エステルを含むがこれらに限定されるものではない。さらなる例は、天然またはポリエトキシル化ヒマシ油と酸化エチレンとの反応生成物である。エトキシル化ヒマシ油は、1分子当たり25から100モルの酸化エチレン、好ましくは1分子当たり35から60モルの酸化エチレンの酸化エチレン含量を有してよい。天然またはポリエトキシル化ヒマシ油は、酸化エチレンと、約1:35から約1:60のモル比で、生成物からのポリエトキシル化成分の任意選択の除去を伴って、反応させられてよい。本発明において有用な非イオン性親水性界面活性剤は、アルキルグルコシド(alkylgluceosides);アルキルマルトシド;アルキルチオグルコシド;ラウリルマクロゴールグリセリド(lauryl macrogolglycenides);ポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンアルキルフェノール;ポリエチレングリコール脂肪(モノ-およびジ-)酸エステル;ポリエチレングリコールグリセロール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー;ポリグリセリル脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセリド;ポリオキシエチレンステロールおよびそれらのアナログ;ポリオキシエチレン植物油;ポリオキシエチレン水添植物油;ポリオールと、脂肪酸、グリセリド、植物油、水添植物油、およびステロールから成る群から選択される少なくとも1つのメンバーとの反応混合物;糖エステル、糖エーテル;スクログリセリド;脂肪酸塩、胆汁酸塩、リン脂質、リン酸エステル、カルボキシレート、サルフェート、スルホネートをさらに含む。より具体的には、非イオン性界面活性剤は、例えば、ポリオキシエチレン脂肪アルコールエステル、ソルビタン脂肪酸エステル(Spans)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えば、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(Tween 80)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート(Tween 60)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween 20)および他のTween、ソルビタンエステル、グリセロールエステル、例えば、Myrjおよびグリセロール三酢酸(トリアセチン)、ポリエチレングリコール、セチルアルコール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、ポリソルベート80、ポロキサマー、ポロキサミン、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体(例えば、Cremophor(登録商標)RH40、Cremphor A25、Cremphor A20、Cremophor(登録商標)EL)および他のCremphor、スルホサクシネート、アルキルサルフェート(SLS);PEGグリセリル脂肪酸エステル、例えば、PEG-8カプリル酸/カプリン酸グリセリル(Labrasol)、PEG-4カプリル酸/カプリン酸グリセリル(Labrafac Hydro WL 1219)、ラウリン酸PEG-32グリセリル(Gelucire 444/14)、モノオレイン酸PEG-6グリセリル(Labrafil M 1944 CS)、リノール酸PEG-6グリセリル(Labrafil M 2125 CS);プロピレングリコールモノ-およびジ-脂肪酸エステル、例えば、ラウリン酸プロピレングリコール、カプリル酸/カプリン酸プロピレングリコール;Brij(登録商標)700、アスコルビル-6-パルミテート、ステアリルアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、トリリシノレイン酸(triiricinoleate)ポリオキシエチレングリセロール、およびそれらのいずれかの組合せまたは混合物を含んでよい。ポリエチレングリコール(PEG)それ自体は、界面活性剤としては機能しないが、種々のPEG-脂肪酸エスエルは、有用な界面活性剤特性を有する。PEG-脂肪酸モノエステルの中で、ラウリン酸、オレイン酸、およびステアリン酸のエステルが最も有用である。それらの例は、ラウリン酸PEG-8、オレイン酸PEG-8、ステアリン酸PEG-8、オレイン酸PEG-9、ラウリン酸PEG-10、オレイン酸PEG-10、ラウリン酸PEG-12、オレイン酸PEG-12、オレイン酸PEG-15、ラウリン酸PEG-20およびオレイン酸PEG-20を含む。ポリエチレングリコール脂肪酸エステルもまた本発明の組成物における界面活性剤としての使用に好適であり、例えば、ジラウリン酸PEG-20、ジオレイン酸PEG-20、ジステアリン酸PEG-20、ジラウリン酸PEG-32、ジオレイン酸PEG-32、ラウリン酸PEG-20グリセリル、ラウリン酸PEG-30グリセリル、ラウリン酸PEG-40グリセリル、オレイン酸PEG-20グリセリル、およびオレイン酸PEG-30グリセリルである。親水性界面活性剤は、前記のもののいずれかの混合物をさらに含んでよい。
【0095】
[0095]ポリソルベート80は、本発明の製剤において特に好ましい親水性非イオン性界面活性剤であり、タンパク質非経口製剤において、空気-水界面での変性を最小化するために一般的に使用される界面活性剤である。ポリソルベート80はまた時として、低分子の注射用溶液製剤において、ミセル形成による溶解性向上を目的として使用される。ポリソルベートは、ソルビタンエステルの非イオン性界面活性剤である。本発明において有用なポリソルベートは、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート80(Tween 80)およびそれらのいずれかの組合せまたは混合物を含むが、これらに限定されるものではない。他の好適な好ましい界面活性剤は、ポロキサマー、ポロキサマー407、およびトランスクトール(transcutol)を含む。界面活性剤は、医薬組成物における使用に適するいかなる界面活性剤であってもよい。好適な界面活性剤はまた、イオン性親水性界面活性剤または疎水性界面活性剤であってもよい。非イオン性親水性界面活性剤が現在のところ好ましいが、好適な親水性界面活性剤は、アニオン性、カチオン性、両性イオン性または非イオン性であってよい。
【0096】
[0096]特定の実施形態において、薬学的に許容される注射用の溶媒(担体)中の化学療法剤の濃度は、約1mg/1mlから約50mg/mlである。特定の好ましい実施形態において、薬学的に許容される注射用の溶媒(担体)中の化学療法剤の濃度は、約10mg/5mlから約500mg/5mlである。
【0097】
[0097]特定の実施形態において、注射用製剤は、緩衝剤を含んでよい。緩衝剤は、製剤のpHを注射可能な範囲、例えば、約pH6から約pH8好ましくは約pH7に調節するのに適切な量で使用される。緩衝剤は、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、トロメタモール、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、メグルミン、アルギニン、トリエタノールアミン、およびクエン酸であってよい。注射用製剤は、2つ以上の緩衝剤を含んでよい。
【0098】
[0098]特定の実施形態において、注射用製剤は、本製剤の浸透圧を注射可能な範囲に調節するために、等張剤を含んでよい。等張剤は、例えば、塩化ナトリウム、およびD-マンニトールであってよい。好ましくは、等張剤は、塩化ナトリウムである。
【0099】
[0099]特定の好ましい実施形態において、化学療法剤のための薬学的に許容される担体は、水(例えば、水性担体)を含む。本明細書で使用される用語「水」は、精製水、またはそれと同じかまたはそれより高いグレードの水と定義され、そうした水は、その中に種々の成分を溶解した後に、滅菌される必要があり、またはすでに滅菌された水(例えば、注射用水)が、全ステップにわたり無菌状態下で行われるプロセスにおいて使用される。加えて、本明細書で使用される用語「注射用水」は、上記の「水」(出発材料としての)の中に基質または試薬を溶解した後に、滅菌フィルターなどによって滅菌された水を含む。
【0100】
[00100]本発明の特定の実施形態において、本発明の注射用製剤は、予混合され、かつその後の使用のために薬学的に許容される容器(例えば、バイアル)中に保存される。そうした実施形態において、注射用製剤が、例えば、米国食品医薬品局(「FDA」)などの政府の規制当局によって規定されたガイドラインに従って十分な安定性をもたらすものであることは好ましい。他の実施形態において、化学療法剤は、別個に供給され、かつ例えば、ヒト患者の腫瘍内に注射される前の短時間内または直前に、本明細書に記載されたものなどの不活性な薬学的に許容される成分と混合されることが企図されている。そうした実施形態において、化学療法剤(例えば、タキサン)は、一方の容器中に保存され、かつ薬学的に許容される注射用の担体はもう一方の容器中に保存されてよく、薬学的に許容される担体は、水性液体または有機液体である。2つの容器の内容物を混合した後に、薬学的に許容される注射用製剤が好ましくは形成され、それは特定の実施形態において、懸濁液であってよく、化学療法剤の徐放を提供してよい。本発明の注射用製剤は、以下のステップにより投与され得る;すなわち、本製剤が充填されたバイアルから、内容物がニードルを介して注射用シリンジに移され、次いで腫瘍内に直接投与される。
【0101】
[00101]さらに、特定の実施形態において、本製剤は、結晶化もしくは凍結乾燥された化学療法剤を含むバイアルなどの1つの容器を含んでよく、または化学療法剤の結晶を、単離、乾燥し、次いでバイアルなどの容器中に入れて、粉末充填製剤を得てもよい。凍結乾燥製剤または粉末充填製剤は、そのバイアルの内容物を、化学療法剤を腫瘍に送達するのに必要な薬学的に許容される賦形剤を含む第二のバイアルと混合することによって、投与され得る。例えば、第二のバイアルは、化学療法剤のための注射可能な溶液または懸濁液を含んでよく、最終製剤は、使用の直前に、第一のバイアルの化学療法剤を第二のバイアルの注射可能な懸濁液と混合することによって、調製される。さらに、第二の容器の注射可能な懸濁液または溶液は、滅菌および/または超音波処理および/または例えば濾過により滅菌されてよく、次いでバイアルに充填されてよい。化学療法剤の粒子は、バイアルに充填され、次いでガンマ線照射により滅菌されることが可能である。化学療法剤粒子および懸濁液(または溶液)媒質は、投与前に化学療法剤粒子を注射用媒体中に懸濁または溶解するように即時的に混合されてよい。
【0102】
[00102]本発明による注射用製剤は、少なくとも3時間、または少なくとも4時間、5時間、6時間、12時間、24時間、30時間、36時間、48時間以上の化学療法剤の徐放を伴う投与に有用であり得る。
【0103】
好ましい実施形態の詳細な説明
[00103]本発明による抗がん製剤の以下の実施例は、いかなる方法によっても本発明を限定すると解釈されるべきものではなく、本明細書に記載の種々の製剤の例であるに過ぎない。本発明の注射用製剤は以下に記載するように、おおよそ、患者が治療されようとする時点において作製されてよく、例えば、1本のバイアルは化学療法剤(例えば、パクリタキセル)を含んでよく、もう1本のバイアルは溶媒および注射に適するいずれかの他の任意選択の医薬用賦形剤を含んでよく、これらの材料は次いで本明細書に記載のように患者の腫瘍への直接注射に先立って混合されてよいことが企図されている。別法として、本明細書に記載の製造方法は、予混合された注射用製剤(好ましくは本明細書で定義するように安定な)の調製に使用されてよく、この注射用製剤は次いで、その後の使用のために、許容可能な保存条件下で、薬学的に許容される容器(例えば、バイアル)中に保存されることもまた企図されている。以下に示す製造方法のスケールアップもまた、企図されている。
【実施例
【0104】
実施例1
パクリタキセルとPEG 300
[00104]400mlのPEG 300を25℃で、ビーカーに入れ、次いでこの液体を85~95℃に加熱した。次いで、4.5グラムの無水パクリタキセルを、(ビーカーの内容物をせん断条件下で)混合しながら、ビーカーに加えた。追加量のPEG 300を、体積が450mlに達するまで、ビーカーに加えた。結果として生じた溶液を、窒素を導入しながら、0.22ミクロンのフィルターに通し、次いで3mlの濾液をバイアルに充填し、密封した。パクリタキセル溶液は、調製後には、無色透明でpH値7.96を有した。パクリタキセル溶液Iの含量および不純物を表7に示す。
【0105】
【表7】
【0106】
[00105]結果:バッチの不純物は、5℃および20℃において安定であったが、40℃においては不安定であった。
【0107】
実施例2
パクリタキセルとダイズ油
[00106]730mlのダイズ油を25℃で、ビーカーに入れ、次いでこの液体を85~95℃に加熱した。次いで、4.5グラムの無水パクリタキセルを、(ビーカーの内容物をせん断条件下で)混合しながら、ビーカーに加えた。無水パクリタキセルは、溶解しなかったため、300mlの無水エタノールをビーカーに加えて、パクリタキセルを溶解した。結果として生じた溶液を70~80℃に維持し、エタノールを蒸発させた。追加量のダイズ油を、体積が750mlに達するまで、ビーカーに加えた。結果として生じた溶液を、窒素を導入しながら、0.22ミクロンのフィルターに通し、次いで5mlの濾液をバイアルに充填し、密封した。
【0108】
パクリタキセル溶液は、調製後に、淡黄色を帯び、透明で、pH値7.63を有した。種々の保存条件下での、パクリタキセル溶液の含量および不純物を表8に示す。
【0109】
【表8】
【0110】
[00107]結果:試料は、5℃および20℃では澄明かつ透明であり、試料は、40℃では、パクリタキセル沈殿の可能性がある明瞭な綿状物を有した。
【0111】
実施例3
75%エタノール中のパクリタキセル
[00108]150mlの無水エタノールを25℃で、ビーカーに入れ、次いで、1.2グラムの無水パクリタキセルを、(ビーカーの内容物をせん断条件下で)混合しながら、ビーカーに加えた。追加量の注射用(無菌)水を、体積が200mlに達するまで、ビーカーに加えた。結果として生じた溶液を、窒素を導入しながら、0.22ミクロンのフィルターに通し、次いで5mlの濾液をバイアルに充填し、密封した。パクリタキセル溶液は、調製後に、無色透明で、pH値7.97を有した。種々の保存条件下での、パクリタキセル溶液の含量および不純物を表9に示す。
【0112】
【表9】
【0113】
[00109]結果:時間の増加と共に、大部分の不純物は有意に増加し、20日後に総不純物は、基準値を超過した。
【0114】
実施例4
パクリタキセルと無水エタノールおよびクエン酸
[00110]730mlの無水エタノールを25℃で、ビーカーに入れ、次いで、4.5グラムのパクリタキセルを、(ビーカーの内容物をせん断条件下で)混合しながら、ビーカーに加えた。少量のクエン酸を、溶液がpH3.5~4.5になるまで加えた。次いで、追加量の無水エタノールを、体積が750mlに達するまで、ビーカーに加えた。結果として生じた溶液を、窒素を導入しながら、0.22ミクロンのフィルターに通し、次いで5mlの濾液をバイアルに充填し、密封した。パクリタキセル溶液は、調製後に、無色透明であった。表10は、種々の保存条件下での、パクリタキセル製剤に関する不純物データを示す。
【0115】
【表10】
【0116】
[00111]結果:不純物は、全ての温度において安定であり、10-デアセチルパクリタキセルは、40℃において、増加傾向を示した。
【0117】
実施例5
パクリタキセルと中鎖トリグリセリド
[00112]450mlの中鎖トリグリセリドを25℃で、ビーカーに入れ、この液体を85~95℃に加熱した。次いで、4.5グラムの無水パクリタキセルを、(ビーカーの内容物をせん断条件下で)混合しながら、ビーカーに加えた。パクリタキセルが完全には、溶解しなかったため、300mlの無水エタノールをビーカーに加えて、パクリタキセルを溶解した。結果として生じた溶液を70~80℃に維持し、エタノールを蒸発させた。次いで溶液を、室温(25℃)に冷却した。結果として生じた溶液を、窒素を導入しながら、0.22ミクロンのフィルターに通し、次いで3mlの濾液をバイアルに充填し、密封した。パクリタキセル溶液は、調製後に、無色透明で、pH値5.65を有した。表11は、種々の保存条件下での、パクリタキセル製剤に関する不純物データを示す。
【0118】
[00113]結果:20℃で6カ月の保存後に、生成物は安定であった。
【0119】
【表11】
【0120】
実施例6
パクリタキセルと1,2-プロパンジオール
[00114]450mlの1,2-プロパンジオールを25℃で、ビーカーに入れ、この液体を55~60℃に加熱した。次いで、4.5グラムの無水パクリタキセルを、(ビーカーの内容物を高速せん断下で)混合しながら、ビーカーに加えた。パクリタキセルが完全には、溶解しなかったため、温度を85~90℃に上昇させたところ、溶液は澄明になった。次いで溶液を、室温に冷却した。結果として生じた溶液を、窒素を導入しながら、0.22ミクロンのフィルターに通し、次いで3mlの濾液をバイアルに充填し、密封した。パクリタキセル溶液は、調製後に、無色透明で、pH値9.2を有した。表12は、種々の保存条件下での、パクリタキセル製剤に関する不純物データを示す。
【0121】
[00115]結果:20℃で6カ月の保存後に、生成物は安定であった。
【0122】
【表12】
【0123】
実施例7
ドセタキセルと75%エタノール
[00116]150mlの無水エタノールを25℃で、ビーカーに入れ、次いで、0.8グラムの無水ドセタキセルを、(ビーカーの内容物をせん断条件下で)混合しながら、ビーカーに加えた。追加量の注射用水を、体積が200mlに達するまで、ビーカーに加えた。結果として生じた溶液を、窒素を導入しながら、0.22ミクロンのフィルターに通し、次いで5mlの濾液をバイアルに充填し、密封した。ドセタキセル溶液は、調製後に、無色透明で、pH値5.0を有した。表13は、種々の保存条件下での、ドセタキセル製剤に関する不純物データを示す。
【0124】
【表13】
【0125】
[00117]結果:製剤は不安定であった。
【0126】
実施例8
ドセタキセルと無水エタノールおよびクエン酸
[00118]400mlの無水エタノールを25℃で、ビーカーに注ぎ、次いで、1.6グラムの無水ドセタキセルを、混合しながら、ビーカーに加えた。この液体を撹拌した。少量のクエン酸を、溶液がpH3.5~4.5になるまで加えた。結果として生じた溶液を、窒素を導入しながら、0.22ミクロンのフィルターに通し、次いで5mlの濾液をバイアルに充填し、密封した。ドセタキセル溶液は、無色透明であった。表14は、種々の保存条件下での、ドセタキセル製剤に関する不純物データを示す。
【0127】
【表14】
【0128】
[00119]結果:製剤は、5℃および25℃において、安定であった。
実施例9
ドセタキセルと中鎖トリグリセリド
[00120]450mlの中鎖トリグリセリドを25℃で、ビーカーに入れ、この液体を85℃~95℃に加熱した。次いで、3グラムの無水ドセタキセルを、(ビーカーの内容物を高速せん断下で)混合しながら、ビーカーに加えた。室温(約25℃)に冷却した後、結果として生じた溶液を、窒素を導入しながら、0.22ミクロンのフィルターに通し、次いで3mlの濾液をバイアルに充填し、密封した。ドセタキセル溶液は、調製後に、無色透明で、pH値5.1を有した。ドセタキセル溶液の含量は、生成0日目に、総不純物が非検出で、100.0%であった。表15は、種々の保存条件下での、ドセタキセル製剤に関する不純物データを示す。
【0129】
【表15】
【0130】
[00121]結果:種々の温度において6カ月後に、この製剤中の不純物は全て、有意に増加せず、比較的安定であった。
【0131】
実施例10
ドセタキセルとPEG 300
[00122]450mlのPEG 300を25℃で、ビーカーに入れ、この液体を85℃~95℃に加熱した。次いで、3グラムの無水ドセタキセルを、(ビーカーの内容物を高速せん断下で)混合しながら、ビーカーに加えた。室温(約25℃)に冷却した後、結果として生じた溶液を、窒素を導入しながら、0.22ミクロンのフィルターに通し、次いで3mlの濾液をバイアルに充填し、密封した。ドセタキセル溶液は、調製後に、無色透明で、pH値5.4を有した。表16は、種々の保存条件下での、ドセタキセル製剤に関する不純物データを示す。
【0132】
【表16】
【0133】
[00123]結果:常温において、製剤は安定であった。
【0134】
実施例11
ドセタキセルとダイズ油
[00124]450mlのダイズ油を25℃で、ビーカーに入れ、この液体を85℃~95℃に加熱した。次いで、3グラムの無水ドセタキセルを、(ビーカーの内容物を高速せん断下で)混合しながら、ビーカーに加えた。室温(約25℃)に冷却した後、結果として生じた溶液を、窒素を導入しながら、0.22ミクロンのフィルターに通し、次いで3mlの濾液をバイアルに充填し、密封した。ドセタキセル溶液は、調製後に、帯黄色透明で、pH値5.6を有した。表17は、種々の保存条件下での、ドセタキセル製剤に関する不純物データを示す。
【0135】
【表17】
【0136】
[00125]結果:製剤は、25℃以下で安定であった。40℃において、第2月から、沈殿が存在し、これが放出効果を遅延させたかもしれなかった。
【0137】
実施例12
12-ドセタキセルと1,2-プロパンジオール
[00126]450mlの1,2-プロパンジオールを25℃で、ビーカーに入れ、この液体を85℃~95℃に加熱した。次いで、3グラムの無水ドセタキセルを、(ビーカーの内容物を高速せん断下で)混合しながら、ビーカーに加えた。室温(約25℃)に冷却した後、結果として生じた溶液を、窒素を導入しながら、0.22ミクロンのフィルターに通し、次いで3mlの濾液をバイアルに充填し、密封した。ドセタキセル溶液は、調製後に、無色透明で、pH値5.5を有した。表18は、種々の保存条件下での、ドセタキセル製剤に関する不純物データを示す。
【0138】
【表18】
【0139】
[00127]結果:製剤は、温度に感受性があり、保存温度の上昇に伴い、不純物は、明らかに、増加した。40℃において、不純物および総不純物は増加し、含量は明らかに減少した。3カ月後に、種々の温度で白濁が現れ始めた。これは、過飽和による沈殿によるものかもしれなかった。
【0140】
実施例13
ヒドロキシカンプトテシンとPEG 300
[00128]300mlのPEG 300を25℃で、ビーカーに入れ、この液体を85℃~95℃に加熱した。次いで、3グラムのヒドロキシカンプトテシンをビーカーに加え、溶解した(ビーカーの内容物を高速せん断下においた)。室温(約25℃)に冷却した後、結果として生じた溶液を0.22ミクロンのフィルターに通し、窒素保護下で、5mlの濾液をバイアルに充填した。次いで生成物を密封し、121℃で15分間、滅菌した。ヒドロキシカンプトテシン溶液は、調製後に、帯黄色透明で、8.2~8.7の範囲のpH値を有し、含量は104.2%であり、総不純物は、0.6%であった。
【0141】
実施例14
テニポシドとPEG 300
[00129]10gのテニポシドを、ビーカー中の500mlのPEG 300に加え、次いで100℃に加熱した。テニポシドは、高速せん断下で完全に溶解した。室温(約25℃)に冷却した後、結果として生じた溶液を、窒素保護下で、0.22ミクロンのフィルターに通し、5mlの濾液をバイアルに充填した。次いで生成物を密封し、121℃で15分間、滅菌した。テニポシド溶液は、無色透明で、pH値5.7を有した。滅菌後に、含量は99.3%であり、総不純物は、1.3%であった。
【0142】
実施例15
エトポシドとPEG 300
[00130]15gのエトポシドを200mlのPEG 300に加え、次いで混合物を55~65℃に加熱した。エトポシドは、高速せん断により、完全に溶解した。室温(約25℃)に冷却した後、結果として生じた溶液を、窒素保護下で、0.22ミクロンのフィルターに通し、5mlの濾液をバイアルに充填した。次いで生成物を密封し、121℃で15分間、滅菌した。エトポシド溶液は、調製後に、無色透明で、pH値4.5を有した。エトポシド溶液の含量は94.5%であり、総不純物は、0.8%であった。
【0143】
[00131]3世代の蘇生後に、対数的増殖期にある細胞を、消化させ、完全培地中に懸濁した。細胞数を算出し、予想される細胞数は3×107/ml超であった。ヌードマウスの右腋窩部をアルコールで消毒した。細胞懸濁液を0.15mlの用量で、皮下注射した。注射後に、円形の半透明液泡が隆起した。ヌードマウスの状態および腫瘍の成長を、注射後毎日観察した。腫瘍の皮下移植ヌードマウスモデルの成功を、直径5mm超の触知可能な腫瘍の皮下成長を基準として判定した。腫瘍モデル構築に成功したマウスは45匹であった。全てのマウスは、5週齢の雌であり、体重は16~22gであった。成功したヌードマウスを無作為に4群に分けた:陽性対照群に11匹、高用量群に11匹、低用量群に11匹、および陰性対照群に12匹とした。群化後に、陽性対照群に静脈内注射を行い、他の群には腫瘍内注射により異なる被験物質またはブランク溶媒を投与した。以下の表19は、エトポシド注射および使用されたレジメンに関する情報を示す。表20は、エトポシドの注射前後のヌードマウスにおける平均腫瘍体積を示す。
【0144】
【表19】
【0145】
【表20】
【0146】
[00132]腫瘍の最大径a(mm)および最小径b(mm)を電子式Vernierノギスにより測定した。ヌードマウスの腫瘍体積を、式:TV=ab/2により算出し、相対腫瘍体積(RTV)をRTV=Vt/Voとして得た。Voは、注射前の腫瘍体積であり、Vtは、初回注射から何日か後の腫瘍の体積を測定するために使用した。陽性群の腫瘍の体積は小さかったが、それはこの静脈内注射群のマウスの食欲が重度の有害反応のために減少したためである。注射後12日目に、LV12/NV=49.3%で、腫瘍の成長抑制効果が示された。表21は、薬物投与後の被験マウス各群の生存期間を示す。陰性対照群のマウスは全て、注射後20日目に生存していた。陰性群の全てのマウスの腫瘍の体積は、1500mm3よりも大きかった。マウスは注射後21日目に、倫理的理由により屠殺した。注目すべきことに、低投与量群のマウスのうち3匹が、注射後20日間生存した。表22は、エトポシドの陽性対照群と比較した高用量群および低用量群の生存期間中央値および30%生存期間の比較を示す。
【0147】
【表21】
【0148】
【表22】
【0149】
[00133]他の群の体積に関して、局所注射は、陰性対照注射よりも良好な結果を得た。見かけの結果は静脈内注射よりも良くはないが、これはエトポシドの大投与量静脈内注射の毒性作用によるもので、これがマウスの食欲を減少させたためであった。マウスの生存期間に関して、低投与量群のMSTは15日であり、静脈内群のMSTは9日であった。2群のMSTの比は、1.67(15/9=167%)であり、基準値の125%を上回った。エトポシドの大投与量の静脈内注射は、陰性群と比較した場合、不良な結果を示した。陰性群のマウスは、21日後に死亡すると見込まれたが、低投与量群のマウスのうち3匹が初回注射後21日目に依然として生存していた。低投与量のエトポシドの局所腫瘍内注射を受けていたマウスの全生存期間は、陰性群の生存期間よりも長かった。したがって、低投与量群の局所腫瘍内注射は、静脈内注射および陰性対照群よりも優れていた。しかし、結果は局所注射の投与量をさらに低減することにより、改善されるであろう。
【0150】
実施例16
パクリタキセルの腫瘍内注射
実施例16において、無作為化パイロット試験での、肝臓がんの皮下移植のヌードマウスモデルにおけるパクリタキセル油溶液の腫瘍内注射対パクリタキセル溶液の静脈内注射によるマウスの生存期間中央値を比較する。
【0151】
方法:
[00134]試験のデザインおよび実施:ヌードマウスにおけるヒト腫瘍異種移植モデルの無作為化in vivo抗悪性腫瘍実験を行った。使用した動物は、健常であり、マウスは全て雄であった。マウスは全て5~6週齢であり、体重19~24.5グラムであった。
ヌードマウスにおける腫瘍モデルの確立
[00135]各ヌードマウスの右腋窩をアルコールで消毒した。肝臓がん細胞(Hepg2)懸濁液を1用量当たり0.15mLの投与量で、皮下注射した。がん細胞の濃度は310/mLであった。懸濁液をゆっくりと注射し、注射後に、円形の半透明液泡が形成された。ヌードマウスの健康状態および腫瘍の体積を注射後毎日観察し、腫瘍の直径が最も大きいおよび最も小さいヌードマウスで、3日毎に測定を行った。腫瘍の体積が約50mmに達したとき、腫瘍の皮下移植ヌードマウスモデルが確立された。
【0152】
[00136]実験動物に対する無作為群化および薬物の投与を、2週間後に完了した。ヌードマウスの腫瘍は、約250mmの体積に成長した。50匹のヌードマウスを、10匹ずつ、5群に無作為に割り付けた。群1は陰性対照群、群2は高用量群、群3は中用量群、群4は低用量群、および群5は陽性対照群であった。群化後に、群1のマウスの腫瘍に、実験の3週毎に1回、または腫瘍のサイズが2000mmの体積に達するまで、ブランク溶媒(8μLの中鎖油)を直接注射した。動物倫理により、腫瘍の体積が2,000mmより大きくなった場合、マウスを屠殺し、実験を終了した。他の3群(群2、3および4)のマウスの腫瘍に、実験の3週毎に1回、パクリタキセル油溶液を直接注射した。群2の各マウスの腫瘍に、480μgのパクリタキセル(マウスのLD50であるパクリタキセルの静脈内注射量の2倍)を含む32μLのパクリタキセル油溶液を直接注射した。群3の各マウスの腫瘍に、240μgのパクリタキセル(マウスのI.V.LD50と同量)を含む16μLのパクリタキセル油溶液を直接注射した。群4の各マウスの腫瘍に、120μgのパクリタキセル(マウスのI.V.LD50の量の1/2)を含む8μLのパクリタキセル油溶液を直接注射した。群5(陽性対照群)に関して、各マウスに、120μgのパクリタキセルを含む100μLのパクリタキセル溶液をマウスの尾静脈に注射した。群2、3および4のマウスは腫瘍が、体積2000mmに達したときに屠殺しなかったが、これは増大した腫瘍の体積は、パクリタキセルの毒性作用によるものであったかもしれず、これを評価する必要があったため、およびマウスが治療下にあったためでもあった。表23は、マウスにおける群化および薬物投与に関する情報を示す。
【0153】
【表23】
【0154】
[00137]マウスの静脈内LD50は、12mg/kgであった。マウスの平均体重は20gであり、したがって120μgは、マウスのLD50の半量であった。マウスの1kg当たり6mgというこの量は、ヒト患者に注射されるであろう量よりも大きかった。ヒト患者に対する投与量は、1.73135mg/m2=233.5mgである。人体の投与量は60kgで除され、3.9mg/kgである。
【0155】
[00138]陰性対照群のマウス(腫瘍は中鎖油を注射されたのみ)は、4つの被験群と、腫瘍の体積、死亡率、生存期間、体重に関して比較された。群5のマウス(マウスの尾静脈に薬物注射を受けた陽性対照群)は、3つの薬物被験群と、腫瘍の体積、死亡率、生存期間および体重に関して比較された。群2、3、4および5のマウスに関して、マウスの死亡後に、死亡したマウスの腫瘍を検査し、パクリタキセルの濃度を他の被験群のマウスと比較した。マウスの腫瘍の体積を測定し、次のように計算した:腫瘍の最大径a(mm)と最小径b(mm)を電子式Vernierノギスにより測定した。相対腫瘍体積(RTV)はVt/Voであった。Voは、薬物投与の第1日における腫瘍の体積を表すために使用し、Vtは、初回投与後のある時点での腫瘍の体積を表すために使用した。
【0156】
[00139]陽性対照群においてマウスの静脈内注射に使用されたパクリタキセル注射は、パクリタキセル、エタノールおよびポリオキシエチレンヒマシ油から成っていた。局所注射用のパクリタキセル油溶液は、パクリタキセルおよび中鎖油を含んでいた。注射溶液各1mlは、15mgのパクリタキセルを含んでいた。各瓶は、2mlを含んでいた。
【0157】
アウトカム:
[00140]主要評価項目は、各々の異なる群のマウスの注射後の生存期間中央値であった。副次評価項目は、各々の異なる群のマウスの初回注射後の30%生存期間、注射後の腫瘍の体積および腫瘍中の薬物の濃度であった。
【0158】
統計的解析:
[00141]この試験は、マウスの生存期間中央値を比較するよう設計された。各々の異なる投与量群の生存期間中央値の増加のパーセンテージが、静脈内陽性対照群と比較して算出され、評価基準は、MSTのT/C%が125%超であるときであった。
【0159】
[00142]群1、2、3、4および5の結果を以下の表24および25に示す。
【0160】
【表24】
【0161】
【表25】
【0162】
[00143]注射後12日目に、HV>MV>NV>PV>LVであったが、注射後24日目においては、NV>LV>PV>HV>MVであった。腫瘍の体積は、多くの因子、例えば食欲およびマウスが食べた食物、ならびに抗がん薬の局所毒性作用に依存することから、腫瘍の体積は、高感度指標ではなかった。同様に、投与量は個別化されなかった。注射後12日目の前に、HVおよびMVの体積は、LVよりも大きかったが、これはより高い濃度のパクリタキセルの局所毒性作用が、LV群の腫瘍の膨張よりも大きなHVおよびMV群の腫瘍の膨張を引き起こしたためであった。
【0163】
[00144]低投与量群、中投与量群および高投与量群の生存期間中央値は、静脈内群のMSTよりも長かった。IV群の生存期間中央値は、22日であり、高投与量群に関して、生存期間中央値は27日、中投与量群に関して、生存期間中央値は26日、低投与量群に関して、生存期間中央値は28日であった。静脈内群PCGと比較した低投与量群の相対MSTは、127%であり、評価基準値の125%よりも大きかった。IV群(陽性対照群)と比較した被験群の相対MSTを、T/C(%)で表した。
【0164】
[00145]腫瘍に直接薬物を注射された3つの薬物被験群のうち、注射後12日目の前に、低投与量群の腫瘍の体積が最も小さく、低投与量群の相対増殖率もまた最小であったことが見出された。この知見は、2回目の注射を行う最良の時期は、初回注射から1~2週間後であったことを示唆する。したがって、注射計画は、2回目の投与後に変更された。30%生存期間に関して、低投与量群が最も長く、IV対照群に対して154.2%であり、陰性対照群に対して142.3%であった。
【0165】
[00146]陰性群に対する静脈内群の全生存期間は、約100%であり、肝臓がんに対して、静脈内注射は、緩和治療よりも良好ではないことを意味する。図1は、化学療法剤の初回注射後の、種々のマウス群の経時的生存率を示す。表26は、試験群に関する生存データを示す。30%生存期間において、低用量群が最も長く生存し、それはIV対照群の154.2%であり、陰性対照群の142.3%であった。
【0166】
【表26】
【0167】
[00147]局所注射されたマウスおよび静脈内注射されたマウスの腫瘍組織をすり潰し、パクリタキセルの含量をHPLC法により検出した。PCGに関して、検出されたパクリタキセルの量は、非常に少なく、無視され得るものであった。これは、肝臓のがんの治癒において、薬物は有効ではないことを裏付けた。中投与量群および低投与量群の腫瘍内のパクリタキセルは、注射された投与量の約63~66%であった。高投与量群に関して、マウスの腫瘍内のパクリタキセルは、注射された投与量の約46.7%であった。
【0168】
[00148]上記の現象は、パクリタキセル油溶液は、局所的に注射された場合、持続放出効果を有していたことを示した。パクリタキセルの静脈内注射ががん細胞の治癒に影響を及ぼすのであるならば、水不溶性の抗がん薬の局所注射の結果は、それよりもはるかに良好であるはずである。
【0169】
[00149]実験は、局所注射群において、マウスの腫瘍の成長を抑制する効果は、静脈内注射群のマウスにおける効果よりも大きかったことを示した。実験はまた、腫瘍内注射のマウスの生存率は、静脈内注射群のマウスの生存率よりも高かったことを示した。腫瘍内注射では、腫瘍中の抗がん薬の濃度が、静脈内群よりも高かった。この実験は、最良の投与量は腫瘍のサイズに応じて個別化されるべきであり、注射の間隔は1~2週間であるべきことを示した。表27は、被験群および陽性対照群のマウスの腫瘍におけるパクリタキセルの量を示す。
【0170】
【表27】
【0171】
結論
[0001]前述の明細書において、本発明は特定の例示的実形態およびその実施例に関して記載されている。しかし、続いての特許請求の範囲に記載される本発明のより広い精神および範囲から逸脱することなく、本発明に種々の修正および変更がなされ得ることは明らかであろう。本発明の局所用抗がん製剤は、本明細書において具体的には言及されていない多くの追加の術前状態において、手術時および術後治療の間に、追加の方法において変更され得るかまたは使用され得ることもまた、当業者には明らかになるであろう。加えて、そうした製剤は、本明細書において具体的には言及されていない追加の部位において(外用を含めて)使用され得ることが企図されている。そうした明らかな修正は、添付の特許請求の範囲内にあるものとみなされる。したがって、明細書は、限定的な意味ではなくて例示的であるとみなされるべきである。
図1
【国際調査報告】