(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-19
(54)【発明の名称】変異ワクシニア・ウイルスおよびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 7/01 20060101AFI20220112BHJP
C12N 15/39 20060101ALI20220112BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220112BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20220112BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20220112BHJP
C07K 14/07 20060101ALI20220112BHJP
C40B 40/08 20060101ALI20220112BHJP
C40B 40/10 20060101ALI20220112BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220112BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20220112BHJP
【FI】
C12N7/01 ZNA
C12N15/39
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/62 Z
C07K14/07
C40B40/08
C40B40/10
A61P35/00
A61K35/76
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021547043
(86)(22)【出願日】2019-10-21
(85)【翻訳文提出日】2021-06-16
(86)【国際出願番号】 US2019057134
(87)【国際公開番号】W WO2020086423
(87)【国際公開日】2020-04-30
(32)【優先日】2018-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521169022
【氏名又は名称】アイセルキーレクス セラピューティクス エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ソン, シャオトン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィスコブスカ, マリヤ
(72)【発明者】
【氏名】ゴメス メダグリア, マリア ルイーザ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA01
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4C087AA01
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4H045AA10
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4H045BA10
4H045CA01
4H045EA60
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、抗ウイルス防御に抵抗性であり、抗腫瘍活性が増強された組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンを開示する。一実施形態では、組換えVVは、1または複数の中和抗体エピトープに突然変異を有する1または複数のバリアントVVタンパク質を含み、これにより中和抗体からのウイルスエスケープがもたらされる。もう一つの実施形態では、組換えVVは、補体活性化の調節因子(例えば、CD55)の発現に起因して、補体に媒介される中和に抵抗性である。もう一つの実施形態では、組換えVVは、癌細胞および免疫エフェクター細胞を同時標的化する二重特異性抗体の発現、またはPD-1経路を遮断するポリペプチドの発現に起因して、抗腫瘍活性が増強されている。組換えワクシニア・ウイルス・ビリオンは、対象の癌を処置するために使用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)配列番号1と少なくとも約60%のアミノ酸配列同一性を有するバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)H3Lタンパク質;
b)配列番号2と少なくとも約60%のアミノ酸配列同一性を有するバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)D8Lタンパク質;
c)配列番号3と少なくとも約60%のアミノ酸配列同一性を有するバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)A27Lタンパク質;
d)配列番号4と少なくとも約60%のアミノ酸配列同一性を有するバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)L1Rタンパク質;
e)配列番号5と少なくとも約60%のアミノ酸配列同一性を有するバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)H3Lタンパク質;
f)配列番号6または配列番号174と少なくとも約60%のアミノ酸配列同一性を有するバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)D8Lタンパク質;
g)配列番号170と少なくとも約60%のアミノ酸配列同一性を有するバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)H3Lタンパク質;および
h)配列番号172と少なくとも約60%のアミノ酸配列同一性を有するバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)D8Lタンパク質
の1または複数を含む、分離された感染性組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項2】
前記バリアントVV H3Lタンパク質が、配列番号1の14、15、16、33、34、35、38、40、44、45、52、131、134、135、136、137、154、155、156、161、166、167、168、198、227、250、253、254、255、および256からなる群から選択される1または複数のアミノ酸残基でのアミノ酸置換または欠失を含む、請求項1に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項3】
前記バリアントVV D8Lタンパク質が、配列番号2の44、48、98、108、117、および220からなる群から選択される1または複数のアミノ酸残基でのアミノ酸置換または欠失を含む、請求項1に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項4】
前記バリアントVV A27Lタンパク質が、配列番号3の27、30、32、33、34、35、36、37、39、40、107、108、および109からなる群から選択される1または複数のアミノ酸残基でのアミノ酸置換または欠失を含む、請求項1に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項5】
前記バリアントVV L1Rタンパク質が、配列番号4の25、27、31、32、33、35、58、60、62、125、および127からなる群から選択される1または複数のアミノ酸残基でのアミノ酸置換または欠失を含む、請求項1に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項6】
前記バリアントVV H3Lタンパク質が、配列番号170の14、15、16、33、34、35、38、40、44、45、52、131、132、134、135、136、137、154、155、156、161、166、167、168、195、198、199、227、250、251、252、253、254、255、256、258、262、264、266、268、272、273、275、および277からなる群から選択される1または複数のアミノ酸残基でのアミノ酸置換または欠失を含む、請求項1に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項7】
前記バリアントVV D8Lタンパク質が、配列番号172の43、44、48、53、54、55、98、108、109、144、168、177、196、199、203、207、212、218、220、222、および227からなる群から選択される1または複数のアミノ酸残基でのアミノ酸置換または欠失を含む、請求項1に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項8】
前記異種核酸が、補体活性化の調節因子のドメインをコードする、請求項1に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項9】
前記補体活性化の調節因子が、CD55、CD59、CD46、CD35、補体H因子、およびC4結合タンパク質からなる群から選択される、請求項8に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項10】
前記異種核酸が、配列番号7のアミノ酸配列を含むCD55ポリペプチドをコードする、請求項1に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項11】
前記異種核酸が、免疫細胞上の第1の抗原と腫瘍細胞上の第2の抗原とに結合する二重特異性ポリペプチドをコードする、請求項1に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項12】
前記免疫細胞上の第1の抗原が、CD3、CD4、CD5、CD8、CD16、CD28、CD40、CD64、CD89、CD134、CD137、NKp46、およびNKG2Dからなる群から選択される、請求項11に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項13】
前記腫瘍細胞上の第2の抗原が、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、および多発性骨髄腫腫瘍抗原からなる群から選択される、請求項11に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項14】
前記二重特異性ポリペプチドが二重特異性scFvであり、前記第1の抗原がヒトCD3eであり、前記第2の抗原がヒトFAPであり、前記二重特異性ポリペプチドが配列番号8のアミノ酸配列を有する、請求項11に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項15】
前記多発性骨髄腫の腫瘍抗原が、B細胞成熟抗原(BCMA)、CD19、CD38、SLAMF7、CD26、LIGHT/TNFSF14、インテグリンベータ7、CD138、KIR、EGFR、PD-1/PD-L1、TGIT、CD56、CS1、NKG2D、TACI、およびCD44v6からなる群から選択される、請求項13に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項16】
前記二重特異性ポリペプチドが二重特異性scFvであり、前記第1の抗原がヒトCD3eであり、前記第2の抗原がヒトBCMAであり、前記二重特異性ポリペプチドが配列番号9のアミノ酸配列を有する、請求項11に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項17】
前記異種核酸が、免疫チェックポイント分子を含む融合ポリペプチドをコードする、請求項1に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項18】
前記免疫チェックポイント分子が、PD-1、PD-L1、PD-L2、CD47、CXCR4、CSF1R、LAG-3、TIM-3、HHLA2、BTLA、CTLA-4、TIGIT、VISTA、B7-H4、CD160、2B4、およびCD73からなる群から選択される、請求項17に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項19】
前記異種核酸が、ヒトPD-1細胞外ドメインおよびヒトIgG1 Fcドメインを含む融合ポリペプチドをコードし、前記融合ポリペプチドが、配列番号10のアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項20】
前記VVが、野生型VVに示される耐性と比較して、中和抗体に対する耐性を示す、請求項1に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項21】
前記VVが、野生型VVによる哺乳動物細胞の形質導入と比較して、VV中和抗体の存在下で哺乳動物細胞の形質導入の増加を示す、請求項1に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項22】
有効量の請求項1に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンを対象に投与することを含む、遺伝子産物をそれを必要とする対象に送達する方法であって、前記遺伝子産物が前記異種核酸によってコードされている、方法。
【請求項23】
請求項1に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンと、薬学的に許容され得る担体を含む、医薬組成物。
【請求項24】
有効量の請求項23に記載の医薬組成物を対象に投与することを含む、前記対象の癌を処置する方法。
【請求項25】
前記医薬組成物が、全身に、静脈内に、あるいは注射、吸入、注入、移植、非経口投与、または経腸投与によって前記対象に投与される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記対象がヒトまたは動物である、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
1または複数のバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンを含むライブラリーであって、前記1または複数のバリアントVVビリオンの各々は、1または複数のバリアントVVタンパク質を含み、前記バリアントVVタンパク質の少なくとも1つが、対応する野生型VVタンパク質のアミノ酸配列と比較して、少なくとも1つのアミノ酸置換または欠失を有するアミノ酸配列を含む、ライブラリー。
【請求項28】
前記1または複数のバリアントVVタンパク質の少なくとも1つが、H3Lタンパク質、D8Lタンパク質、A27Lタンパク質、およびL1Rタンパク質からなる群から選択される、請求項27に記載のライブラリー。
【請求項29】
前記1または複数のバリアントVVタンパク質の少なくとも1つが、配列番号5、配列番号6、または配列番号174のうちの1つの前記アミノ酸配列と比較して、少なくとも1つのアミノ酸置換または欠失を有するアミノ酸配列を含む、請求項27に記載のライブラリー。
【請求項30】
異種核酸および1または複数のバリアントVVタンパク質を含む、請求項27に記載のライブラリーに由来する組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンであって、前記バリアントVVタンパク質の少なくとも1つが、対応する野生型VVタンパク質の前記アミノ酸配列と比較して、少なくとも1つのアミノ酸置換または欠失を有するアミノ酸配列を含む、組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項31】
前記異種核酸が、補体活性化の調節因子のドメインをコードする、請求項30に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項32】
前記補体活性化の調節因子が、CD55、CD59、CD46、CD35、補体H因子、およびC4結合タンパク質からなる群から選択される、請求項31に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項33】
前記異種核酸が、配列番号7のアミノ酸配列を含むCD55ポリペプチドをコードする、請求項31に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項34】
前記異種核酸が、免疫細胞上の第1の抗原と腫瘍細胞上の第2の抗原とに結合する二重特異性ポリペプチドをコードする、請求項30に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項35】
前記免疫細胞上の第1の抗原が、CD3、CD4、CD5、CD8、CD16、CD28、CD40、CD64、CD89、CD134、CD137、NKp46、およびNKG2Dからなる群から選択される、請求項34に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項36】
前記腫瘍細胞上の第2の抗原が、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、および多発性骨髄腫腫瘍抗原からなる群から選択される、請求項34に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項37】
前記二重特異性ポリペプチドが二重特異性scFvであり、前記第1の抗原がヒトCD3eであり、前記第2の抗原がヒトFAPであり、前記二重特異性ポリペプチドが配列番号8のアミノ酸配列を有する、請求項34に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項38】
前記多発性骨髄腫の腫瘍抗原が、B細胞成熟抗原(BCMA)、CD19、CD38、SLAMF7、CD26、LIGHT/TNFSF14、インテグリンベータ7、CD138、KIR、EGFR、PD-1/PD-L1、TGIT、CD56、CS1、NKG2D、TACI、およびCD44v6からなる群から選択される、請求項36に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項39】
前記二重特異性ポリペプチドが二重特異性scFvであり、前記第1の抗原がヒトCD3eであり、前記第2の抗原がヒトBCMAであり、前記二重特異性ポリペプチドが配列番号9のアミノ酸配列を有する、請求項34に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項40】
前記異種核酸が、免疫チェックポイント分子を含む融合ポリペプチドをコードする、請求項30に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項41】
前記免疫チェックポイント分子が、PD-1、PD-L1、PD-L2、CD47、CXCR4、CSF1R、LAG-3、TIM-3、HHLA2、BTLA、CTLA-4、TIGIT、VISTA、B7-H4、CD160、2B4、およびCD73からなる群から選択される、請求項40に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項42】
前記異種核酸が、ヒトPD-1細胞外ドメインおよびヒトIgG1 Fcドメインを含む融合ポリペプチドをコードし、前記融合ポリペプチドが、配列番号10のアミノ酸配列を有する、請求項40に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項43】
前記VVビリオンが、野生型VVと比較して、中和抗体に対する耐性を示す、請求項30に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項44】
前記VVビリオンが、野生型VVによる哺乳動物細胞の形質導入と比較して、VV中和抗体の存在下で哺乳動物細胞の形質導入の増加を示す、請求項30に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン。
【請求項45】
有効量の請求項30に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンを前記個体に投与することを含む、遺伝子産物をそれを必要とする対象に送達する方法であって、前記遺伝子産物が、前記バリアントVVビリオンが有する異種核酸によってコードされている、方法。
【請求項46】
請求項30に記載の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンと、薬学的に許容され得る担体を含む、医薬組成物。
【請求項47】
有効量の請求項46に記載の医薬組成物を対象に投与することを含む、前記対象の癌を治処置する方法。
【請求項48】
前記医薬組成物が、全身に、静脈内に、あるいは注射、吸入、注入、移植、非経口投与、または経腸投与によって前記対象に投与される、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記対象がヒトまたは動物である、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
配列番号1、5または170の1つと少なくとも約60%のアミノ酸配列同一性を有する組換えワクシニア・ウイルス(VV)H3Lタンパク質。
【請求項51】
配列番号6、172または174の1つと少なくとも約60%のアミノ酸配列同一性を有する組換えワクシニア・ウイルス(VV)D8Lタンパク質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この特許協力条約出願は、2018年10月22日に出願された米国仮特許出願第62/749,102号および2019年10月8日に出願された米国仮特許出願第62/912,344号の優先権の利益を主張する。さらなる詳細は発明の概要を参照されたい。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
腫瘍溶解性ウイルスは、正常細胞に損傷を与えずに、腫瘍細胞に特異的に感染し、複製し、死滅させる。この形質転換細胞を好むという点により、腫瘍溶解性ウイルスは新しい癌治療法の開発のための理想的な候補と判断される。様々な腫瘍溶解性ウイルスが、直接的機構(例えば、ウイルス複製および免疫介在性細胞毒性による細胞溶解)と間接的機構(例えば、バイスタンダー細胞の死滅の刺激、細胞毒性の誘導など)の両方により、腫瘍特異的殺傷活性を用いるために利用されてきた。腫瘍溶解性ワクシニア・ウイルス(VV)は、現在の処置選択肢に追加される魅力的な選択肢であり、動物モデルおよび初期の臨床研究で有効性と安全性を示している。VVは、腫瘍細胞に直接感染して死滅させるだけでなく、腫瘍抗原に対するT細胞応答を誘発し、殺傷効率を高めることもできる。一部のウイルスでは、癌細胞に対するこの特異性は自然に存在するが(例えば、水疱性口内炎ウイルス、レオウイルス、ムンプス・ウイルス)、他のウイルスは、腫瘍特異性を改善したり、抗ウイルス免疫応答を誘導する能力を低下させたりするために遺伝子を改変することができる(例えば、アデノウイルス、麻疹ウイルス、ポリオ、およびワクシニア・ウイルス)。さらに、これらのウイルスは、ナチュラルキラー(NK)細胞およびT細胞の動員によって抗腫瘍免疫を増強する遺伝子を発現するように操作することができる。
【0003】
しかし、腫瘍溶解性ウイルスの有効性は、ウイルスによって誘発される強力な免疫応答によって妨げられる。抗体などの免疫因子は、ウイルスに直接結合して細胞の感染の成功を防ぐことによるか、あるいは補体または他の免疫細胞が破壊のマークを付けることによって、ウイルスを中和する。その後、ウイルスを投与するごとに、免疫応答はより速く、より強くなり、ウイルスが腫瘍に到達するのに十分な時間持続する能力を大幅に制限する。ウイルスを腫瘍に直接注入すると、この制限が克服され、すべてのウイルス粒子が癌細胞に直接送達される。しかし、このアプローチは一部の腫瘍には適さない場合があり、腫瘍が他の場所に転移した可能性があるケースは考慮されていない。より望ましいウイルスの全身投与は、潜在的な病原体を認識して排除する能力のある宿主免疫系にウイルスを曝す。中和抗体(NAb)などの免疫因子は、ウイルス糖タンパク質を高い親和性で認識および結合し、ウイルスの宿主細胞受容体との相互作用を防ぎ、ウイルスの中和を引き起こす。アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、および水疱性口内炎ウイルスなどのいくつかの腫瘍溶解性ウイルスは、抗ウイルス防御を誘導し、腫瘍特異性を改善する能力を弱めているように遺伝的に弱毒化されている。
【0004】
腫瘍溶解性ワクシニア・ウイルス(VV)は、ポックスウイルス科の最も研究されているメンバーであり、エンベロープを有する大型のdsDNAウイルスである。腫瘍細胞に非常に特異的な株が報告されている。VVの迅速な複製能力は、感染した細胞の効率的な溶解をもたらし、連続した複製の際に他の腫瘍細胞に広がり、腫瘍の深刻な局所的破壊を導く。VVゲノムは約250の遺伝子をコードし、最大20kbの外来DNAを受け入れることができるため、遺伝子送達媒体として理想的である。組換えVVベクターは、腫瘍関連抗原などの真核生物遺伝子を腫瘍に送達するように、したがって癌細胞を死滅させるために作られた宿主免疫系の誘導を促進するように開発されている。しかし、VVを癌処置送達ベクターとして使用する際の制限要因は、VVの血流への注射によって誘発される強いNAb応答であり、これはウイルスが持続および拡散する能力を制限し、ベクターの再投与を妨げる。NAbは、VVエンベロープに埋め込まれたウイルス糖タンパク質を認識して結合するため、ウイルスと宿主細胞受容体との相互作用を妨げる。宿主細胞の受容体認識に関与する多くのVV糖タンパク質が識別されている。その中でも、タンパク質H3L、L1R、A27L、D8L、A33R、およびB5RはNAbの標的となることが示されており、A27L、H3L、D8L、およびL1Rは成熟ウイルス粒子の表面に提示される主なNAb抗原である。A27L、H3L、およびD8Lは、宿主グリコサミノグリカン(GAG)、ヘパラン硫酸(HS)(A27LおよびH3L)およびコンドロイチン硫酸(CS)(D8L)に結合し、ウイルスの宿主細胞へのエンドサイトーシスを媒介する接着分子である。L1Rタンパク質はウイルスの成熟に関与している。
【0005】
ワクシニア・ウイルスは、ポックスウイルス科のオルソポックスウイルス属のプロトタイプウイルスであり、細胞の細胞質で複製し、190kbの二本鎖DNAゲノムに200を超えるオープンリーディングフレーム(ORF)をコードする。ワクシニア・ウイルス感染は、感染性粒子の複数の形態、すなわち、細胞内成熟ビリオン(IMV)、細胞内エンベロープビリオン(IEV)、細胞関連エンベロープビリオン(CEV)、および細胞外エンベロープビリオン(EEV)を生成する。IMVは最も豊富なビリオンであり、細胞内に単一の膜がある。IMVは、細胞溶解中にのみ放出される。放出されると、IMVは細胞受容体と、IMV膜に埋め込まれたウイルス糖タンパク質との間の相互作用を介して隣接する細胞を効率的に感染させる。その後、IMVの一部は2層のゴルジ膜で包まれてIEVを形成し、これは微小管を通って細胞周辺部に運ばれ、ビリオンが放出される時に膜を1枚失ってCEVとなる。IMVのごく一部(約5%)が細胞の周辺に向かって移動し、そこでIMVは細胞原形質膜との融合によって外被を獲得し、その後EEVとして細胞外空間に放出される。したがって、EEVは、ウイルスDNAコア、中間IMV、および最外膜で構成される。この外膜は壊れやすく、容易に失われる可能性があるため、EEVはIMVに容易に変換され、IMVに埋め込まれた抗原が露出する。IMVは堅牢で、環境的変化および物理的変化に抵抗性であることが公知であるが、CEVおよびEEVは非常に壊れやすく、精製手順中に外膜の完全性が損なわれる可能性がある。
【0006】
ワクシニア・ウイルスの異なる株のゲノムをはじめとする、ポックスウイルスゲノムの多くが配列決定されている。ワクシニア・ウイルス・ウエスタン・リザーブ(WR)株のゲノムは、218の潜在的なORFを含む。IMVのタンパク質の分析により、構造タンパク質、酵素、転写因子などをはじめとする81のウイルスタンパク質が含まれていることが示された。IMV中の81のウイルスタンパク質は、A2.5L、A3L、A4L、A5R、A6L、A7L、A9L、A10L、A12L、A13L、A14L、A14.5L、A15L、A16L、A17L、A18R、A21L、A22R、A24R、A25L、A26L、A27L、A28L、A29L、A30L、A31R、A32L、A42R、A45R、A46R、B1R、C6L、D1R、D2R、D6R、D7R、D8L、D11L、D12L、D13L、E1L、E4L、E6R、E8R、E10R、E11L、F8L、F9L、F10L、F17R、G1L、G3L、G4L、G5R、G5.5R、G7L、G9R、H1L、H2R、H3L、H4L、H5R、H6R、I1L、I2L、I3L、I5L、I6L、I7L、I8R、J1R、J3R、J4R、K4L、L1R、L3L、L4R、L5R、O2Lである。これらのタンパク質の中で、A27L、H3L、L1R、およびD8Lが主要な免疫原性タンパク質として識別されている。IMVタンパク質のA27L、H3L、およびD8Lは、宿主グリコサミノグリカン(GAG)、ヘパラン硫酸(HS)およびコンドロイチン硫酸(CS)(D8L)に結合し、ウイルスの宿主細胞へのエンドサイトーシスを媒介する接着分子である。IMVのL1Rタンパク質はウイルスの成熟に関与している。これらのタンパク質は、IMVの主要な免疫優性抗原である。
【0007】
VV H3Lは、C末端のその疎水性領域を介して翻訳後に成熟ウイルス粒子の膜に繋がれた膜タンパク質である。感染後期に発現し、A27Lとともに、HS細胞表面受容体を認識し、細胞へのVV接着に主要な役割を果たす。H3Lは、抗VV Ab応答における免疫優性抗原であり、天然痘ワクチンで免疫されたヒトにではNAbの直接の標的である。H3Lに対する強い免疫応答は、マウスおよびウサギでも示されている。現在まで、NAbが認識するH3Lの正確なエピトープは解明されていない。
【0008】
D8Lは、感染の初期に発現するVVエンベロープタンパク質であり、宿主細胞へのウイルスの接着に関与している。A27LおよびH3LはHS宿主細胞受容体と相互作用するが、D8LはそのN末端ドメイン(残基1~234の間)を介してCS受容体に結合する。主要なウイルス抗原の1つとして、D8Lは強力なNAb応答を誘発し、NAbはD8LのCS結合領域を標的とし、細胞へのウイルスの接着をブロックする。D8Lタンパク質を標的とするAbがいくつか報告されている。これらのAbの1つは、補体の存在下でVVを中和し、D8上の立体構造エピトープ(残基41~220の間)を標的とした。D8LのCS結合部位に隣接する領域である残基R44、K48、K98、K108、およびR220もAb結合に重要である。さらに、N9、E30、T34、T35、N46、F47、K48、G49、G50、Y51、N59、E60、L63、S64、D75、Y76、H95、W96、N97、K99、Y101、S102、S103、Y104、E105、E106、K108、H110、D112、Q122、L124、D126、K163、T187、P188、およびN190はD8抗体結合部位として識別されている。これらの残基の突然変異が中和抗体からの十分な回避をもたらすかどうかは不明である。さらに、細胞侵入におけるD8Lの役割のために、これらの残基の突然変異が、ウイルスのパッケージングおよび細胞侵入を阻害するかどうかはまだ決定されていない。
【0009】
L1Rは、成熟したVV粒子の表面に見出される膜貫通タンパク質である。その膜貫通ドメインは、タンパク質のC末端領域の残基186と204の間にある。L1Rは、L1R ORFによってコードされ、高度に保存されており、ウイルスの侵入および成熟に不可欠な役割を果たす。抗VV NAbの主な標的の一つとして、L1Rはポックスウイルスのタンパク質サブユニットおよびDNAワクチンの成分として含まれている。L1Rタンパク質のNAb結合エピトープは特徴づけられている。以前の研究で、残基118~128にまたがる線状エピトープと、線状ペプチドと部分的に重なる立体構造エピトープ、具体的には残基K125およびK127を認識する強力なNAbが識別された。さらに最近の研究で、アイソタイプおよび補体に依存しない方法でVVを強力に中和する3つの抗L1RモノクローナルAbが識別された。これらのNAbは、D35を重要な残基とする立体構造エピトープを認識した。残基D35に単一のアミノ酸変異(D35NまたはD35Y置換のいずれか)を含むウイルスクローンは、すべてのAbによる中和に対して完全に抵抗性であり、D35がNAbによるL1Rの認識および結合に必須であることを示す。しかし、D35Nが35Nに対する新たな中和抗体応答を誘発するかどうかは不明である。D35に加えて、残基E25、N27、Q31、T32、K33、S58、D60、およびD62が、Abとの結合に直接関与していることが識別された。細胞侵入におけるL1Rの役割のために、これらの残基の突然変異が中和抗体を十分に回避し、ウイルスのパッケージングおよび細胞侵入を阻害するかどうかは不明である。
【0010】
A27Lは、細胞内成熟ウイルス(IMV)のエンベロープにある14kDaのタンパク質であり、ウイルスの宿主細胞の認識および侵入に機能する。これは、そのN末端ドメイン(残基21~30)を介して宿主細胞表面のHS受容体に結合し、そのC末端ドメインを通してエンベロープタンパク質A17と相互作用することによりVVエンベロープに結合する。最近の研究では、抗A27L Abによって認識されるA27L上のいくつかの線状エピトープが識別されている。Abは4つの異なるグループに分類され、グループIのAbは、HS結合部位に隣接するペプチド(残基31から40)に結合し、補体の存在下で強力なウイルス中和を示した。これらのAbとの複合体における全長A27Lの結晶構造より、結合に重要である残基E33、I35、V36、K37、およびD39が識別された。これらの残基のアラニン置換は、ペプチドに結合するAbの能力の低下をもたらした。構造のさらなる分析により、残基K27、A30、R32、A34、E40、R107、P108、およびY109も、重要ではないが、A27L-Ab結合に寄与することが示された。
【0011】
以上のことから、抗ウイルス防御を誘導する能力が低下し、抗腫瘍活性が増強された、改善型または遺伝的に弱毒化されたワクシニア・ウイルスが必要とされている。例えば、抗ウイルス防御の誘導を減らして抗腫瘍活性を高める方法としては、中和抗体に抵抗するための戦略、補体媒介性のウイルス中和を克服するための戦略、ワクシニア・ウイルスを二重特異性ポリペプチドで武装させてウイルス治療を増強するための戦略、および/または免疫チェックポイント分子を組み込んでウイルス治療を増強するための戦略が挙げられる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の要旨
一実施形態では、本発明は、ウイルスベクターおよびワクチンとして有用な変異ワクシニア・ウイルスを提供する。
【0013】
本明細書では、配列番号170および172のものを含む、バリアントH3L、D8L、A27Lおよび/またはL1Rウイルスタンパク質を含む組換えワクシニア・ウイルスが開示される。さらに、本明細書では、以下のポリペプチド:CD55タンパク質のドメイン、CD3eおよびFAP(線維芽細胞活性化タンパク質)に結合する二重特異性ポリペプチド、CD3eおよびBCMA(B細胞成熟抗原)に結合する二重特異性ポリペプチド、およびヒトPD-1細胞外ドメインを含む融合ポリペプチドの1つをコードする異種核酸を含む組換えワクシニア・ウイルスが開示される。
【0014】
一実施形態では、本発明は、変異ワクシニア・ウイルスおよびその使用を提供する。一実施形態では、中和抗体またはT細胞の結合に関与するタンパク質をコードする遺伝子に1または複数の突然変異がある変異ワクシニア・ウイルスが提供される。これらの突然変異は、野生型ウイルスと比較した場合、ワクシニア・ウイルスに特異的な中和抗体またはT細胞を回避する能力を有する変異ワクシニア・ウイルスをもたらす。
【0015】
一実施形態では、本発明は、分離された感染性組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンを提供し、この組換えVVビリオンは、異種核酸と、以下の:
(a)配列番号1と少なくとも約60%、70%、80%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)H3Lタンパク質;
(b)配列番号2と少なくとも約60%、70%、80%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)D8Lタンパク質;
(c)配列番号3と少なくとも約60%、70%、80%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)のA27Lタンパク質;
(d)配列番号4と少なくとも約60%、70%、80%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)L1Rタンパク質;
(e)配列番号5と少なくとも約60%、70%、80%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)H3Lタンパク質;
(f)配列番号6または配列番号174と少なくとも約60%、70%、80%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)D8Lタンパク質;
(g)配列番号170と少なくとも約60%、70%、80%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)H3Lタンパク質;および
(h)配列番号172と少なくとも約60%、70%、80%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)D8Lタンパク質
の1または複数を含む。
【0016】
一実施形態では、本発明は、CD55、CD59、CD46、CD35、補体H因子、およびC4結合タンパク質などの一部または全部などの補体活性化調節因子をコードする核酸を含む組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン、およびその使用を提供する。補体活性化調節因子の発現により、野生型ウイルスと比較した場合に、補体活性化を調節し、補体に媒介されるウイルスの中和を減少させる能力を有する、組換えワクシニア・ウイルスが得られる。一実施形態では、CD55タンパク質は、配列番号7のアミノ酸配列を含む。
【0017】
一実施形態では、本発明は、配列番号8の配列を有するアミノ酸配列を含む二重特異性FAP-CD3 scFvを含む組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンを提供する。
【0018】
一実施形態では、本発明は、配列番号9の配列を有するアミノ酸配列を含む二重特異性BCMA-CD3 scFvを含む組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンを提供する。
【0019】
一実施形態では、本発明は、配列番号10の配列を有するアミノ酸配列を含むPD-1-ED-hIgG1-Fc融合ペプチドを含む組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンを提供する。
【0020】
もう一つの実施形態では、本発明は、遺伝子産物をそれを必要とする個体に送達する方法を提供し、この方法は、本明細書に開示される有効量の感染性組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンを個体に投与することを含み、該遺伝子産物は、組換えVVビリオンが有する異種核酸にコードされている。
【0021】
一実施形態では、本明細書に開示される組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンを含む医薬組成物、およびそのような組成物を使用して癌を処置する方法が提供される。
【0022】
一実施形態では、1または複数のバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンを含むライブラリーが提供され、前記バリアントVVビリオンの各々は、1または複数のバリアントVVタンパク質を含み、バリアントVVタンパク質は、対応する野生型VVタンパク質のアミノ酸配列と比較して少なくとも1つのアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む。
【0023】
もう一つの実施形態では、本発明は、遺伝子産物をそれを必要とする個体に送達する方法を提供し、この方法は、上記ライブラリーに由来する有効量の感染性バリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンを個体に投与することを含み、該遺伝子産物は、このようなバリアントVVビリオンが有する核酸にコードされている。
【0024】
もう一つの実施形態では、上記ライブラリーに由来する有効量の感染性バリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンを含む医薬組成物、およびそのような組成物を使用して癌を処置する方法が提供される。
【0025】
一実施形態では、配列番号1、5または170と少なくとも約60%、70%、80%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を有する組換えワクシニア・ウイルスH3Lタンパク質が提供される。もう一つの実施形態では、配列番号6、172または174と少なくとも約60%、70%、80%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を有する組換えワクシニア・ウイルスD8Lタンパク質が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1A】
図1A~Cは、H3Lの中和抗体(Nab)エピトープの決定-ペプチドアレイ配列分析を示す。H3L配列のペプチドアレイへの結合には、抗体35219を使用した(Ab35219は、VVに対するウサギポリクローナルである;免疫原:ネイティブウイルス、リスター株)。
図1Aは、SPOT合成ペプチドアレイの図を示す。
【0027】
【
図1B】
図1Bは、ab35219で探索したH3Lペプチドアレイのオートラジオグラフを示す。ペプチドアレイは、N末端(スポット1)から始まってC末端のペプチド(スポット69)で終わる、H3L配列内の12残基のペプチドのスポットで構成されており、各スポットのペプチドのN末端残基は、H3L配列に沿って前のスポットから4残基ずつシフトしている。
【
図1C】
図1Cは、各スポット(黒色バー)(x軸)の信号強度(y軸)を示すグラフである。
【0028】
【
図2A】
図2A~Bは、直鎖状ペプチドELISAによるH3LのNAbエピトープマッピングを示す。
図2Aは、H3Lペプチド1~4のELISA結果を示す。
図2Bは、H3Lペプチド5~9のELISA結果を示す。矢印は、抗体(Ab)結合に影響を与えるアラニン置換残基のいくつかの例を示す。アラニンスキャンにより、Ab結合に陽性の残基が合計29個識別された:I14A、D15A、R16A、K33A、F34A、D35A、K38A、N40A、E45A、V52A、E131A、T134A、F135A、L136A、R137A、R154A、E155A、I156A、K161A、L166A、V167A、M168A、I198A、R227A、E250A、K253A、P254A、N255A、およびF256A。光学濃度(OD)が低いほど、Abとともにプレインキュベートしたアラニン置換ペプチドが、プレートに結合したネイティブペプチドとAbの結合を妨げるほど十分に結合していることを示す。OD値(矢印)が高いほど、変異ペプチドがAbと相互作用する能力が低下していることを示し、変異した残基がH3LとAbの結合に重要であることを示している。
【0029】
【
図2B】
図2A~Bは、直鎖状ペプチドELISAによるH3LのNAbエピトープマッピングを示す。
図2Aは、H3Lペプチド1~4のELISA結果を示す。
図2Bは、H3Lペプチド5~9のELISA結果を示す。矢印は、抗体(Ab)結合に影響を与えるアラニン置換残基のいくつかの例を示す。アラニンスキャンにより、Ab結合に陽性の残基が合計29個識別された:I14A、D15A、R16A、K33A、F34A、D35A、K38A、N40A、E45A、V52A、E131A、T134A、F135A、L136A、R137A、R154A、E155A、I156A、K161A、L166A、V167A、M168A、I198A、R227A、E250A、K253A、P254A、N255A、およびF256A。光学濃度(OD)が低いほど、Abとともにプレインキュベートしたアラニン置換ペプチドが、プレートに結合したネイティブペプチドとAbの結合を妨げるほど十分に結合していることを示す。OD値(矢印)が高いほど、変異ペプチドがAbと相互作用する能力が低下していることを示し、変異した残基がH3LとAbの結合に重要であることを示している。
【0030】
【
図3A】
図3A~Dは、修飾されたH3L、D8L、L1R、およびA27Lプラスミドの構築を示す。
図3Aは、H3Lプロモーター、H3LのORF(変異ヌクレオチドを含む)、ならびに約250bpの隣接領域(H4L(左隣接領域)およびH2R(右隣接領域)を含む)を含むコンストラクトを示す。ORF配列は、GENEWIZによって合成され、pUC57-Ampプラスミドにクローニングされた。
【0031】
【
図3B】
図3Bは、D8Lプロモーター、D8LのORF(変異ヌクレオチドを含む)、ならびに約250bpの隣接領域(D9L(左隣接領域)およびD7R(右隣接領域)を含む)を含むコンストラクトを示す。ORF配列は、GENEWIZによって合成され、pUC57-Ampプラスミドにクローニングされた。
【0032】
【
図3C】
図3Cは、L1Rプロモーター、L1RのORF(変異ヌクレオチドを含む)、ならびに約250bpの隣接領域(G9R(左隣接領域)およびL2R(右隣接領域)を含む)を含むコンストラクトを示す。ORF配列は、GENEWIZによって合成され、pUC57-Ampプラスミドにクローニングされた。
【0033】
【
図3D】
図3Dは、A27Lプロモーター、A27LのORF(変異ヌクレオチドを含む)、ならびに約250bpの隣接領域(A28~A29L(左隣接領域)およびA26L(右隣接領域)を含む)を含むコンストラクトを示す。ORF配列は、GENEWIZによって合成され、pUC57-Ampプラスミドにクローニングされた。4つのコンストラクトすべてについて、VV p7.5プロモーターの制御下にあり、LoxP部位に隣接する緑色蛍光タンパク質(GFP)発現カセットを、右隣接配列の前の終止コドンのすぐ下流に挿入した。
【0034】
【
図4】
図4は、正しいH3L、D8L、L1R、およびA27L組換えクローンの識別を示す。単一のプラークを精製し、PCRによって正しい遺伝子挿入を確認した。
【0035】
【
図5】
図5は、ポリクローナル抗VV Abを使用するプラーク減少中和試験(PRNT)を示す。ab35219(Abcam)-VVに対するウサギポリクローナル(免疫原:ネイティブウイルス、リスター株)、ab21039(Abcam)-VVに対するウサギポリクローナル(免疫原:リスター株(ビリオンと感染細胞ポリペプチドの混合物))、ab26853(Abcam)-VVに対するウサギポリクローナル(免疫原:VVのA27Lの予測されるN末端のアミノ酸を含有する合成ペプチド)、9503-2057(Bio-Rad)-VVに対するウサギポリクローナルAb(免疫原:ワクシニア・ウイルス、New York City Board of Health(NYCBOH)株)、およびPA1-7258(Invitrogen)-VVに対するウサギポリクローナル(免疫原:NYCBOH株およびリスター株)からなる5つの抗VVポリクローナル抗体のパネルを使用して、インビトロでの中和回避について試験した。ウサギポリクローナルIgG ab37415をコントロールとして使用した。Abを、滅菌子ウサギ補体の存在下、エスケープバリアントかまたは野生型VVウイルス(コントロール)のいずれかとともにプレインキュベートした。次に、混合物をCV-1細胞に添加し、48時間後に細胞を染色し、プラークを計数した。コントロールVVウイルスはパネル全体で83.3~95.5%が中和されたのに対し、エスケープバリアント(FAP-VVNEV)は、Abによる中和が大幅に低いことが示され(7.88~66.1%)。エラーバーは、サンプルあたり2または3のデータポイントに基づいている。
【0036】
【
図6】
図6は、抗VVポリクローナルAbによるVV
EM(ワクシニア・ウイルス・エスケープ変異株)のインビトロプラーク減少中和試験を示す。VV
EMは、抗VVポリクローナル抗体の存在下、変異VVライブラリープールから分離された。ab35219、ab21039、ab26853、9503-2057、およびPA1-7258からなる5つの抗VVポリクローナル抗体のパネルを使用して、インビトロでの中和回避についてVV
EMを試験した。ウサギポリクローナルIgG ab37415をコントロールとして使用した。Abを、滅菌子ウサギ補体の存在下、VV
EMかまたは野生型VVウイルス(コントロール)のいずれかとともにプレインキュベートした。コントロールVVウイルスはパネル全体で77.7~96.4%が中和されたのに対し、VV
EMは、Abによる中和が大幅に低いことが示され(30.7~66.9%)。エラーバーは、サンプルあたり2または3のデータポイントに基づいている。VV
EMをさらに配列決定して、NAbの回避の原因となる可能性のあるH3、L1、A27、またはD8内の突然変異を識別した。
【0037】
【
図7】
図7は組換えウイルス複製アッセイの結果を示す。24ウェルプレートで、CV-1細胞を二連のVVコントロールとVV
NEVにMOI=0.05で感染させた。感染前に、ウイルスをAb9503-2057(40μg/mL)とともに37℃で1時間プレインキュベートした。サンプルを24、48、および72時間後に回収し、各時点の力価を決定した。ほぼ完全に不活化されていたコントロールAbと比較して、組換えウイルスはAbの存在下での複製において有意に効率的であった。
【0038】
【
図8】
図8は、組換えウイルスの抗腫瘍効率を示す。組換えウイルスおよびコントロールVVを、Ab9503-2057(上記参照)とともにプレインキュベートし、MOI=1で形質転換細胞を感染させるために使用した。細胞を48時間インキュベートし、MTSアッセイ(細胞の代謝活性の比色評価)により細胞の生存率を測定した。手短に言えば、48時間で回収した細胞をPBSTで1回洗浄し、完全DMEMに1×105細胞/mLで再懸濁した。各細胞の懸濁液100μLを96ウェルに添加した(3通り)。20μlのCellTiter 96(登録商標)AQueous One Solution Reagent(Promega、G358C)を、100μlの培地にサンプルを含む96ウェルアッセイプレートの各ウェルに添加した。このプレートを37℃で2時間インキュベートした(5%CO2)。MTSの細胞還元によって生成された可溶性ホルマザンの量を測定するために、96ウェルプレートリーダーを使用して各ウェルの吸光度を490nmで記録したAbの存在下で、組換えウイルスは細胞を効率的に死滅させることができた。
【0039】
【
図9】
図9は、抗VVポリクローナルAbによる組換えVV
NEVのインビトロでのプラーク減少中和試験を示す。抗VVポリクローナル抗体9503-2057およびPA1-7258を使用して、インビトロでの中和回避についてVV
EMを試験した。ウサギポリクローナルIgG ab37415をコントロールとして使用した。Abを、滅菌子ウサギ補体の存在下、VV
NEV(右パネル)かまたは野生型ワクシニア・ウイルス(コントロール、左パネル)のいずれかとともにプレインキュベートした。
【0040】
【
図10】
図10は組換えウイルス複製アッセイの結果を示す。24ウェルプレートで、CV-1細胞を二連のVVコントロールおよびVV
NEVの3つの単一クローンにMOI=0.05で感染させた。サンプルを24、48、および72時間後に回収し、各時点の力価を決定した。
【0041】
【
図11】
図11は、A27プロモーター、CD55-ED、A27、loxP隣接タグ、およびA27L(左隣接領域)とA27R(右隣接領域)を含む隣接領域を含むCD55-A27-VVコンストラクトを示す。ORF配列はGENEWIZによって合成され、pUC57-Ampプラスミドにクローニングされた。
【0042】
【
図12】
図12は、CD55-NEVがインビトロで補体に媒介される中和を効果的に回避することを示す。
【0043】
【
図13】
図13は、CD55-NEVがインビトロで中和抗体および補体に媒介される中和を効果的に回避することを示す。
【0044】
【
図14】
図14は、F17Rプロモーター、FAP-CD3 scFv、loxP隣接タグ、およびTKL(左隣接領域)とTKR(右隣接領域)を含む隣接領域を含むFAP-TEA-NEVコンストラクトを示す。ORF配列はGENEWIZによって合成され、pUC57-Ampプラスミドにクローニングされた。
【0045】
【
図15】
図15は、FAP-TEA-NEVがインビトロで腫瘍溶解およびヒトT細胞増殖を増強したことを示す(円、顕微鏡観察を参照)。
【0046】
【
図16】
図16は、FAP-TEA-NEVが腫瘍細胞のアポトーシスを効果的に誘発したことを示す(フローサイトメトリー分析)。
【0047】
【
図17】
図17は、ゲートされたU87腫瘍細胞のアポトーシスマーカー、PI染色のMFIを示す。
【0048】
【
図18】
図18は、FAP-TEA-NEVによって発現した二重特異性FAP-CD3 scFvがインビトロでバイスタンダー腫瘍溶解を増強したことを示す(円、顕微鏡観察を参照)。
【0049】
【
図19】
図19は、F17プロモーター、BCMA-CD3 scFv、loxP隣接GFPタグ、およびTKL(左隣接領域)とTKR(右隣接領域)を含む左隣接領域を含むBCMA-TEA-NEVコンストラクトを示す。ORF配列はGENEWIZによって合成され、pUC57-Ampプラスミドにクローニングされた。
【0050】
【
図20A】
図20A~Bは、BCMA陽性RMPI-8226MMとジャーカットT細胞の共培養のフローサイトメトリー分析を示す。
【
図20B】
図20A~Bは、BCMA陽性RMPI-8226MMとジャーカットT細胞の共培養のフローサイトメトリー分析を示す。
【0051】
【
図21A】
図21A~Bは、BCMA陽性RMPI-8226MMと24時間共培養した後のジャーカットT細胞によるIFNγおよびIL2発現のELISA測定を示す。
【
図21B】
図21A~Bは、BCMA陽性RMPI-8226MMと24時間共培養した後のジャーカットT細胞によるIFNγおよびIL2発現のELISA測定を示す。
【0052】
【
図22】
図22は、pE/Lプロモーター、PD-1-ED-hIgG1-Fc、loxP隣接GFPタグ、およびTKL(左隣接領域)とTKR(右隣接領域)を含む隣接領域を含むPD-1-ED-hIgG1-Fc-VVコンストラクトを示す。pE/Lプロモーター、PD-1-ED-hIgG1-Fc、F17Rプロモーター、FAP-CD3 scFv、loxP隣接GFPタグ、およびTKL(左隣接領域)とTKR(右隣接領域)を含む隣接領域を含むPD-1-ED-hIgG1-Fc-FAP-TEA-NEVコンストラクトも示される。ORF配列はGENEWIZによって合成され、pUC57-Ampプラスミドにクローニングされた。
【0053】
【
図23A】
図23A~Bは、PD-L1陽性Raji細胞とCD16陽性ジャーカットT細胞の共培養のフローサイトメトリー分析を示す。
【
図23B】
図23A~Bは、PD-L1陽性Raji細胞とCD16陽性ジャーカットT細胞の共培養のフローサイトメトリー分析を示す。
【0054】
【
図24A】
図24A~Bは、PD-L1陽性Raji細胞と24時間共培養した後のCD16陽性ジャーカットT細胞によるIFNγおよびIL2発現のELISA測定を示す。
【
図24B】
図24A~Bは、PD-L1陽性Raji細胞と24時間共培養した後のCD16陽性ジャーカットT細胞によるIFNγおよびIL2発現のELISA測定を示す。
【0055】
【
図25】
図25は、PD-L1陽性Raji細胞と24時間共培養した後のCD16陽性ジャーカットT細胞のルシフェラーゼ活性測定を示す。
【発明を実施するための形態】
【0056】
発明の詳細な説明
本発明は、抗ウイルス防御を誘導する能力が低下し、抗腫瘍活性が増強されたバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンの作製および使用を開示する。
中和抗体に対する抵抗性の強化
【0057】
一実施形態では、本発明のバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンは、抗VV中和抗体に対する抵抗性が増加している。例えば、本発明のバリアント・ワクシニア・ウイルスビリオンは、1または複数の中和抗体エピトープに突然変異を有する1または複数のバリアントVVタンパク質(H3Lタンパク質、D8Lタンパク質、A27Lタンパク質、およびL1Rタンパク質など)を含み、これにより中和抗体からのウイルスエスケープがもたらされる。
【0058】
本明細書は、バリアントVVタンパク質H3Lを研究する実験を開示する。同じ実験設定を使用して、D8Lタンパク質、A27Lタンパク質、L1Rタンパク質などの他のワクシニア・ウイルスのウイルスタンパク質を研究することができる。中和抗体と相互作用するウイルスタンパク質上の可能な領域を識別するために、全長ウイルスタンパク質を含むペプチドアレイを合成し、抗VV中和抗体に結合するペプチドについてスクリーニングした。このように識別されたペプチドをさらに調べて、中和抗体エピトープを解明した。一実施形態では、ペプチドアレイによって識別されたペプチドのバリアントは、アラニン置換によって合成され、中和抗体エピトープは、一連のELISA結合アッセイを使用してマッピングされた。中和抗体エピトープが識別されると、これらのエピトープを破壊する変異を遺伝子工学によってVVゲノムに導入することができる。
【0059】
本発明は、ワクシニア・ウイルスH3Lタンパク質、D8Lタンパク質、A27Lタンパク質、およびL1Rタンパク質のそれぞれの中和抗体エピトープをいくつか開示する。これらの中和抗体エピトープで1または複数のアミノ酸を変異または置換すると、中和抗体からのウイルスエスケープがもたらされることになる。同様に、これらの中和抗体エピトープで1または複数のアミノ酸を欠失させると、中和抗体からのウイルスエスケープがもたらされることも予想される。したがって、H3L、D28L、A27L、またはL1Rウイルスタンパク質内の1または複数のアミノ酸の欠失、あるいはH3L、D28L、A27L、またはL1Rウイルスタンパク質全体の欠失も、中和抗体との結合を回避することがあり得ると予想される。H3L欠失突然変異株が報告されており、たとえH3L欠失がウイルス変異株の感染性と複製能力を損なったとしても、1または複数のアミノ酸欠失または全タンパク質欠失ウイルス変異株が生成される可能性が示される。
【0060】
一実施形態では、本発明は、分離された感染性組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンを提供し、この組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンは、異種核酸と、以下の:
a)配列番号1と少なくとも約60%、70%、80%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)H3Lタンパク質;
b)配列番号2と少なくとも約60%、70%、80%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)D8Lタンパク質;
c)配列番号3と少なくとも約60%、70%、80%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)のA27Lタンパク質;
d)配列番号4と少なくとも約60%、70%、80%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)L1Rタンパク質;
e)配列番号5と少なくとも約60%、70%、80%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)H3Lタンパク質;
f)配列番号6または配列番号174と少なくとも約60%、70%、80%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)D8Lタンパク質;
g)配列番号170と少なくとも約60%、70%、80%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)H3Lタンパク質;および
h)配列番号172と少なくとも約60%、70%、80%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)D8Lタンパク質
の1または複数を含む。
【0061】
一実施形態では、上記のバリアントVVのH3Lタンパク質は、1または複数の以下のアミノ酸残基でのアミノ酸置換または欠失を含む:配列番号1の14、15、16、33、34、35、38、40、44、45、52、131、134、135、136、137、154、155、156、161、166、167、168、198、227、250、253、254、255、および256。任意の適したアミノ酸を置換に使用することができる。例えば、バリアントペプチドは、置換によって合成することができる。
【0062】
一実施形態では、上記のバリアントVVのD8Lタンパク質は、1または複数の以下のアミノ酸残基でのアミノ酸置換または欠失を含む:配列番号2の44、48、98、108、117、および220。任意の適したアミノ酸を置換に使用することができる。例えば、バリアントペプチドは、置換によって合成することができる。
【0063】
一実施形態では、上記のバリアントVVのA27Lタンパク質は、1または複数の以下のアミノ酸残基でのアミノ酸置換または欠失を含む:配列番号3の27、30、32、33、34、35、36、37、39、40、107、108、および109。任意の適したアミノ酸を置換に使用することができる。例えば、バリアントペプチドは、置換によって合成することができる。
【0064】
一実施形態では、上記のバリアントVVのL1Rタンパク質は、1または複数の以下のアミノ酸残基でのアミノ酸置換または欠失を含む:配列番号4の25、27、31、32、33、35、58、60、62、125、および127。任意の適したアミノ酸を置換に使用することができる。例えば、バリアントペプチドは、置換によって合成することができる。
【0065】
一実施形態では、上記のバリアントVVのH3Lタンパク質は、1または複数の以下のアミノ酸残基でのアミノ酸置換または欠失を含む:配列番号170の14、15、16、33、34、35、38、40、44、45、52、131、132、134、135、136、137、154、155、156、161、166、167、168、195、198、199、227、250、251、252、253、254、255、256、258、262、264、266、268、272、273、275、および277。任意の適したアミノ酸を置換に使用することができる。
【0066】
一実施形態では、上記のバリアントVVのD8Lタンパク質は、1または複数の以下のアミノ酸残基でのアミノ酸置換または欠失を含む:配列番号172の43、44、48、53、54、55、98、108、109、144、168、177、196、199、203、207、212、218、220、222、および227。任意の適したアミノ酸を置換に使用することができる。
補体に媒介されるウイルス中和の克服
【0067】
補体は自然免疫系の重要な構成要素であり、中和および循環器系からのクリアランスのためにウイルスを標的とする。補体は中和抗体の中和効力を高める可能性があり、天然痘ワクチン接種により誘発される抗体媒介防御免役は、補体の不在下ではインビトロで大きく低下し、ワクシニア・ウイルスの中和における補体の重要な役割を示している。補体活性化は、C3の切断と活性化、および表面でのオプソニンC3フラグメントの付着をもたらす。その後のC5の切断は、膜侵襲複合体(C5b、6、7、8、9)の集合を導き、これは脂質二重層を破壊する。
【0068】
補体活性化は、いくつかの補体活性化の膜調節因子(RCA)によって負に調節される可能性がある。RCAは様々なステップで補体活性化をダウンレギュレートする。第1に、CD35(補体受容体1)およびCD55(崩壊促進因子)が、C3コンバターゼ(C3活性化酵素)の形成を阻害し、崩壊を加速する。第2に、CD35およびCD46(膜補因子タンパク質)がC4bおよびC3bを異化し、C3コンバターゼ、C4b2aおよびC3bBbの形成を阻害する。第3に、CD59が膜侵襲複合体の形成を防ぐ。研究により、細胞外エンベロープワクシニア・ウイルス(EEV)は、宿主RCAがエンベロープに組み込まれているため、補体に対して抵抗性であることが示されている。しかし、CD55および/または他のRCAが、ウイルスのパッケージングおよび複製に影響を与えることなく、補体に媒介される中和を克服する能力を備えたVVのIMVの表面でうまく発現することができるかどうかは不明である。
【0069】
一実施形態では、本発明は、CD55、CD59、CD46、CD35、補体H因子、C4結合タンパク質、またはその他の識別された補体活性化調節因子などの補体活性化調節因子をコードする異種核酸を含む組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオン、およびその使用を提供する。補体活性化調節因子を発現することにより、野生型ウイルスと比較して、補体活性化を調節し、補体に媒介されるウイルスの中和を減少させる能力を有する、組換えワクシニア・ウイルスが得られる。一実施形態では、上記の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンが有する異種核酸は、ヒトCD55、CD59、CD46、CD35、補体H因子、C4結合タンパク質、または他の識別された補体活性化調節因子のドメインをコードする。もう一つの実施形態では、異種核酸は、配列番号7の配列を有するアミノ酸配列を含むCD55タンパク質をコードする。本明細書に示される開示を考慮すると、当業者であれば、本明細書に示される組換えワクシニア・ウイルスにその他の補体活性化調節因子(例えば、CD59、CD46、CD35、補体H因子、C4結合タンパク質など)を容易に採用するであろう。
ウイルス治療を後押しするための二重特異性抗体の組み込み
【0070】
腫瘍溶解性ウイルスは、免疫細胞上の第1の抗原と腫瘍細胞上の第2の抗原に結合する二重特異性抗体を発現するように武装させることができる。免疫細胞上の第1の抗原の例としては、限定されるものではないが、CD3、CD4、CD5、CD8、CD16、CD28、CD40、CD64、CD89、CD134、CD137、NKp46、およびNKG2Dなどが挙げられる。腫瘍細胞上の第2の抗原の例としては、限定されるものではないが、EphA2、HER2、GD2、グリピカン3、5T4、8H9、avb6インテグリン、B7-H3、B7-H6、BCMA、CADC、CA9、CD19、CD20、CD22、カッパ軽鎖、CD30、CD33、CD38、CD44、CD44v6、CD44v7/8、CD70、CD123、CD138、CD171、CEA、CSPG4、EGFR、EGFRv111、EGP2、EGP40、EPCAM、ERBB3、ERBB4、ErbB3/4、FAP、FAR、FBP、胎児AchR、葉酸受容体a、GD2、GD3、HLA-AI MAGE Al、HLA-A2、IL11Ra、IL13Ra2、KDR、ラムダ、ルイス-Y、MCSP、メソテリン、Mucl、Muc16、NCAM、NKG2Dリガンド、NY-ESO-1、PRAME、PSCA、PSCl、PSMA、RORI、SURVIVIN、TAG72、TEMl、TEM8、VEGRR2、癌胎児性抗原、HMW-MAA、VEGF受容体、および、フィブロネクチンの癌胎児性バリアント、テネイシン、または腫瘍の壊死領域など、腫瘍の細胞外マトリックス内に存在する他の例示的な抗原が挙げられる。
多発性骨髄腫を処置するためのB細胞成熟抗原(BCMA)の標的化
【0071】
多発性骨髄腫(MM)は、Bリンパ球系統に由来するクローン性形質細胞の悪性腫瘍であり、意義不明の単クローン性γグロブリン血症(MGUS)から形質細胞白血病までの範囲の一連の疾患の一部である。これは、米国で2番目に多い血液癌であり、2019年には新たに診断される症例が32,110、死亡例が12,960と推定されている。MMは現在、血液悪性腫瘍の10%、すべての癌関連死の2.1%を占めている。現在、MMのいくつかの治療法が利用可能であるが、根治療法は定義されておらず、治療計画または処置に対する初期応答に関わらず、ほとんどの患者は最終的に再発し、生存期間中央値は3~5年である。したがって、薬剤耐性MMを処置するために、新しい作用機構をもつ治療薬が緊急に必要である。
【0072】
腫瘍溶解性ワクシニア・ウイルス(VV)は、MMの処置に大きな可能性をもつ有望な新しいクラスの薬剤として登場した。生のVVは、天然痘を根絶するためにWHOが2億人以上に投与しており、VVのヒトでの安全性には優れた歴史がある。野生型VVには腫瘍選択性はないが、チミジンキナーゼ(TK)およびワクシニア増殖因子(VGF)などの正常細胞でのウイルス複製に必須のウイルス遺伝子の二重欠失により、厳密なVV腫瘍特異性がもたらされている。固形腫瘍に対するVVの最近の臨床試験は、有望な結果を報告している。TKとVGFを二重に欠失した株を利用するインビトロ研究により、MM細胞株がVVによる殺傷を受けやすいことが示された。これらの研究では、ウイルス複製は初代MM細胞で観察されたが、正常な末梢血単核細胞(PBMC)では観察されなかった。二重欠失株はまた、MMのマウス異種移植モデルにおいて腫瘍体積を減少させ、生存を増加させた。さらに、最近、2つの抗腫瘍因子であるmiR-34aとSmac(MMで頻繁に調節不全になる)を過剰発現するTK欠失VV株は、親ウイルスであるVV-miR-34a、またはVV-Smacによる個別の処置と比較して、インビトロおよびインビボの両方でMMに対する有効性の増加を示した。しかし、現在の臨床試験におけるVV治療の有効性は最適化されておらず、VV治療のさらなる改善の必要性が示されている。
【0073】
VVは、BCMA、CD19、CD26、CD38、CD44v6、CD56、CD138、CS1、EGFR、インテグリンベータ7、KIR、LIGHT/TNFSF14、NKG2D、PD-1/PD-L1、SLAMF7、TACI、およびTGITなどのMM抗原を標的化または同時標的化するT細胞エンゲージャーを発現させることができる。B細胞成熟抗原(BCMA)は、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリー17(TNFRSF17)の膜貫通糖タンパク質であり、すべての患者のMM細胞で有意に高いレベルで発現しているが、形質細胞(PC)を除く正常組織では発現していないことから、MM治療の有望な標的となっている。最近の臨床研究で、BCMAを標的化したキメラ抗原受容体(CAR)T細胞は、プロテアソーム阻害剤および免疫調節剤を含む少なくとも3回の前処置を受けた、再発した難治性多発性骨髄腫(RRMM)患者において有意な臨床活性を示した。抗BCMA抗体薬物複合体(ADC)も、少なくとも3つの前治療ラインに失敗した患者において有意な臨床応答を達成した。BCMAを標的としたCAR-TとADCはいずれも、2017年11月にFDAからRRMM患者に対する画期的なステータスが付与された。これらの2つの治療法は有望であるが、BCMAを標的とするにはいくつかの複雑な要因がある。最初に、抗BCMA処置は、長寿命のPCの数を減らす可能性があり、長寿命のPCは体液性免疫の維持に重要な役割を果たしているため、免疫機能に対する抗BCMA治療の影響を注意深く連続的に評価する必要がある。二番目に、γセクレターゼによってBCMAから切断されたsBCMAの高い血清レベルが、特に進行性疾患の状況のMM患者において検出されている。したがって、BCMAを標的とした処置をBCMA+MM細胞に直接送達するための治療戦略を開発する必要がある。
【0074】
本明細書に記載されるように、本発明は、BCMA-CD3 BiTEの発現が、BCMA+PCおよびsBCMAを回避しながらMM周辺領域内に制限されることになるため、上記の制限を克服する組換えワクシニア・ウイルス(VV)、BCMA-TEA-NEVを提供する。TEA-NEVは、VVに感染していない腫瘍細胞を認識して殺傷(バイスタンダー殺傷)するようにT細胞に指示する二重特異性scFvをコードし、その結果、腫瘍溶解が促進される。さらに、CD3-scFvは、腫瘍へのT細胞浸潤とそれらの活性化を促進し、活性化の際にそれらが放出するサイトカインは、腫瘍成長を阻害する炎症促進性の微小環境を作り出す。さらに、TEA-NEVは、全身性の副作用を低減すると同時に、標的部位でより高いT細胞濃度を可能にするT細胞エンゲージャーの局所産生を誘導する。このように、腫瘍溶解性VVを二重特異性scFvで武装させることは、T細胞を癌治療に関与させ、バイスタンダー殺傷を誘発することによって現在のVVの抗腫瘍活性の望ましい増加を生成するために重要である。
【0075】
一実施形態では、上記の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンが有する異種核酸は、免疫細胞上の第1の抗原と、多発性骨髄腫(MM)上の第2の抗原、B細胞成熟抗原(BCMA)に結合する二重特異性ポリペプチドをコードする。例えば、二重特異性ポリペプチドは二重特異性scFvであり、第1の抗原はヒトCD3eであり、第2の抗原はヒトBCMA(B細胞成熟抗原)であり、二重特異性scFvは配列番号9のアミノ酸配列を含む。
【0076】
もう一つの実施形態では、VVは、CD19、CD38、SLAMF7、CD26、LIGHT/TNFSF14、インテグリンベータ7、CD138、KIR、EGFR、PD-1/PD-L1、TGIT、CD56、CS1、NKG2D、TACI、およびCD44v6などのその他のMM抗原を標的化または同時標的化するT細胞エンゲージャーを発現させることができる。
【0077】
もう一つの実施形態では、二重特異性ポリペプチドは二重特異性scFvであり、第1の抗原はヒトCD3eであり、第2の抗原はほとんどの上皮癌で過剰発現するヒトFAP(線維芽細胞活性化タンパク質)である。一実施形態では、二重特異性FAP-CD3 scFvは、配列番号8のアミノ酸配列を含む。
ウイルス治療を後押しするための免疫チェックポイント分子の組み込み
【0078】
T細胞免疫療法が癌患者において腫瘍の成長を制御し、生存を延長する能力を有することを示す証拠は増加している。しかし、おそらく腫瘍細胞の様々な免疫回避機構の制限のために、腫瘍特異的T細胞応答を達成して維持することは困難である。免疫チェックポイント分子は、免疫応答を開始するために、例えば、体内の腫瘍細胞などの異常な細胞を攻撃するために活性化するかまたは阻害する必要のある、特定の免疫細胞で発現するタンパク質である。「免疫回避」には、刺激性免疫チェックポイント分子などの共刺激分子発現のダウンレギュレーション、および抑制性免疫チェックポイント分子などの抑制性分子発現のアップレギュレーションなど、腫瘍細胞によるいくつかの活性が含まれる場合がある。これらの抑制性免疫チェックポイント分子の遮断は、癌の処置の前臨床および臨床試験で非常に有望な結果を示している。しかし、場合によってはいくつかの望ましくない副作用がある。例えば、これらの抑制性免疫チェックポイント分子(受容体またはリガンド)を遮断することにより、免疫恒常性および自己寛容が破壊され、自己免疫/自己炎症性の副作用が生じる可能性がある。
【0079】
免疫チェックポイント分子 は当技術分野で周知である。例えば、PD-1(プログラム細胞死-1)受容体は活性化T細胞の表面に発現する。そのリガンドであるPD-L1およびPD-L2は、一般的に樹状細胞または腫瘍細胞の表面に発現する。PD-1およびPD-L1/PD-L2は、T細胞応答の発生を停止または制限することができる抑制性免疫チェックポイントタンパク質のファミリーに属している。腫瘍細胞に発現したPD-L1は、活性化T細胞のPD-1受容体に結合し、これにより細胞傷害性T細胞の阻害がもたらされることがあり得る。したがって、抗腫瘍免疫応答は、PD-1とそのリガンド間の相互作用を遮断することによって増強されることになる。
【0080】
一実施形態では、本発明は、抑制性PD-1経路を遮断することになる組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンを提供する。一実施形態では、本発明は、免疫グロブリン(immunoglobin)-G1(IgG1)の定常(Fc)ドメインに融合したPD-1の細胞外ドメインをコードする異種核酸を含む組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンを提供する。一実施形態では、PD-1融合タンパク質(PD-1-ED-hIgG1-Fc)は、配列番号10のアミノ酸配列を含む。本明細書に示される開示を考慮すると、その他の免疫チェックポイント分子は、本明細書に示される組換えワクシニア・ウイルスに容易に組み込むことができる。本明細書に示される組換えワクシニア・ウイルスは、限定されるものではないが、PD-1、PD-L1、PD-L2、CD47、CXCR4、CSF1R、LAG-3、TIM-3、HHLA2、BTLA、CTLA-4、TIGIT、VISTA、B7-H4、CD160、2B4、およびCD73をはじめとする免疫チェックポイント分子を含むことがある。
【0081】
一実施形態では、本発明は、分離された感染性組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンを提供し、このビリオンは、異種核酸と、以下の:
a)配列番号1と少なくとも約60%のアミノ酸配列同一性を有するバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)H3Lタンパク質;
b)配列番号2と少なくとも約60%のアミノ酸配列同一性を有するバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)D8Lタンパク質;
c)配列番号3と少なくとも約60%のアミノ酸配列同一性を有するバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)A27Lタンパク質;
d)配列番号4と少なくとも約60%のアミノ酸配列同一性を有するバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)L1Rタンパク質;
e)配列番号5と少なくとも約60%のアミノ酸配列同一性を有するバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)H3Lタンパク質;
f)配列番号6または配列番号174と少なくとも約60%のアミノ酸配列同一性を有するバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)D8Lタンパク質;
g)配列番号170と少なくとも約60%のアミノ酸配列同一性を有するバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)H3Lタンパク質;および
h)配列番号172と少なくとも約60%のアミノ酸配列同一性を有するバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)D8Lタンパク質;
の1または複数を含む。
【0082】
一実施形態では、バリアントVVのH3Lタンパク質は、1または複数の以下のアミノ酸残基でのアミノ酸置換または欠失を含む:配列番号1の14、15、16、33、34、35、38、40、44、45、52、131、134、135、136、137、154、155、156、161、166、167、168、198、227、250、253、254、255、および256。
【0083】
一実施形態では、バリアントVVのD8Lタンパク質は、1または複数の以下のアミノ酸残基でのアミノ酸置換または欠失を含む:配列番号2の44、48、98、108、117、および220。
【0084】
一実施形態では、バリアントVVのA27Lタンパク質は、1または複数の以下のアミノ酸残基でのアミノ酸置換または欠失を含む:配列番号3の27、30、32、33、34、35、36、37、39、40、107、108、および109。
【0085】
一実施形態では、バリアントVVのL1Rタンパク質は、1または複数の以下のアミノ酸残基でのアミノ酸置換または欠失を含む:配列番号4の25、27、31、32、33、35、58、60、62、125、および127。
【0086】
一実施形態では、バリアントVVのH3Lタンパク質は、1または複数の以下のアミノ酸残基でのアミノ酸置換または欠失を含む:配列番号170の14、15、16、33、34、35、38、40、44、45、52、131、132、134、135、136、137、154、155、156、161、166、167、168、195、198、199、227、250、251、252、253、254、255、256、258、262、264、266、268、272、273、275、および277。
【0087】
一実施形態では、バリアントVVのD8Lタンパク質は、1または複数の以下のアミノ酸残基でのアミノ酸置換または欠失を含む:配列番号172の43、44、48、53、54、55、98、108、109、144、168、177、196、199、203、207、212、218、220、222、および227。
【0088】
一実施形態では、組換えVVが有する異種核酸は、補体活性化の調節因子のドメインをコードする。補体活性化の調節因子の例としては、限定されるものではないが、CD55、CD59、CD46、CD35、補体H因子、およびC4結合タンパク質が挙げられる。一実施形態では、異種核酸は、配列番号7のアミノ酸配列を含むCD55ポリペプチドをコードする。
【0089】
もう一つの実施形態では、組換えVVが有する異種核酸は、免疫細胞上の第1の抗原と腫瘍細胞上の第2の抗原に結合する二重特異性ポリペプチドをコードする。一実施形態では、免疫細胞上の第1の抗原は、CD3、CD4、CD5、CD8、CD16、CD28、CD40、CD64、CD89、CD134、CD137、NKp46、またはNKG2Dであり得る。一実施形態では、腫瘍細胞上の第2の抗原は、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、または多発性骨髄腫の腫瘍抗原であり得る。
【0090】
一実施形態では、二重特異性ポリペプチドは二重特異性scFvであり、第1の抗原はヒトCD3eであり、第2の抗原はヒトFAPである。例えば、この二重特異性ポリペプチド配列番号8のアミノ酸配列を有する。
【0091】
もう一つの実施形態では、二重特異性ポリペプチドは、多発性骨髄腫の腫瘍抗原、例えば、B細胞成熟抗原(BCMA)、CD19、CD38、SLAMF7、CD26、LIGHT/TNFSF14、インテグリンベータ7、CD138、KIR、EGFR、PD-1/PD-L1、TGIT、CD56、CS1、NKG2D、TACI、またはCD44v6を標的とすることができる。一実施形態では、二重特異性ポリペプチドは二重特異性scFvであり、第1の抗原はヒトCD3eであり、第2の抗原はヒトBCMAである。例えば、この二重特異性ポリペプチド配列番号9のアミノ酸配列を有する。
【0092】
もう一つの実施形態では、組換えVVが有する異種核酸は、免疫チェックポイント分子を含む融合ポリペプチドをコードする。免疫チェックポイント分子の例としては、限定されるものではないが、PD-1、PD-L1、PD-L2、CD47、CXCR4、CSF1R、LAG-3、TIM-3、HHLA2、BTLA、CTLA-4、TIGIT、VISTA、B7-H4、CD160、2B4、およびCD73が挙げられる。一実施形態では、組換えVVが有する異種核酸は、ヒトPD-1細胞外ドメインおよびヒトIgG1 Fcドメインを含む融合ポリペプチドをコードし、例えば、この融合ポリペプチドは、配列番号10のアミノ酸配列を有する。
【0093】
一実施形態では、本明細書に開示される組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンは、野生型VVに示される耐性と比較して、中和抗体に対する耐性を示す。もう一つの実施形態では、本明細書に開示される組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンは、野生型VVによる哺乳動物細胞の形質導入と比較して、抗VV中和抗体の存在下で哺乳動物細胞の形質導入の増加を示す。
【0094】
もう一つの実施形態では、遺伝子産物を、それを必要とする対象(ヒトまたは動物)に送達する方法が提供される。この方法は、有効量の本明細書に開示される組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンを対象に投与することを含み、該遺伝子産物は組換えVVビリオンが有する異種核酸によってコードされている。
【0095】
もう一つの実施形態では、本明細書に開示される組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンおよび薬学的に許容され得る担体を含む医薬組成物が提供される。もう一つの実施形態では、対象の癌を処置するためにそのような医薬組成物を使用する方法が提供される。一実施形態では、医薬組成物は、静脈内に、または注射、吸入、注入、移植、非経口投与、経腸投与(例えば、胃腸管からの投与)によって、あるいは当技術分野で一般に公知のその他の全身投与手法によって、対象に投与することができる。一実施形態では、対象はヒトである。あるいは、本発明は、動物対象への投与および動物対象の処置に使用してもよい。
【0096】
もう一つの実施形態では、1または複数のバリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンを含むライブラリーが提供され、バリアントVVビリオンの各々は、1または複数のバリアントVVタンパク質を含む。バリアントVVタンパク質は、対応する野生型VVタンパク質のアミノ酸配列と比較して少なくとも1つのアミノ酸置換または欠失を有するアミノ酸配列を含む。一実施形態では、バリアントVVタンパク質は、バリアントH3Lタンパク質、バリアントD8Lタンパク質、バリアントL1Rタンパク質、および/またはバリアントA27Lタンパク質であり得る。もう一つの実施形態では、バリアントVVタンパク質は、配列番号5、6または174のいずれか記載されるアミノ酸配列と比較して少なくとも1つのアミノ酸置換または欠失を有するアミノ酸配列を含む。
【0097】
もう一つの実施形態では、上記ライブラリーに由来する有効量の感染性バリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンが提供され、該ビリオンは、異種核酸および1または複数のバリアントVVタンパク質を含み、該バリアントVVタンパク質の少なくとも1つは、対応する野生型VVタンパク質のアミノ酸配列と比較して少なくとも1つのアミノ酸置換または欠失を有するアミノ酸配列を含む。一実施形態では、そのようなバリアントVVビリオンが有する異種核酸は、CD55、CD59、CD46、CD35、補体H因子、またはC4結合タンパク質などの補体活性化の調節因子のドメインをコードする。例えば、異種核酸は、配列番号7のアミノ酸配列を含むCD55タンパク質をコードする。もう一つの実施形態では、異種核酸は、免疫細胞上の第1の抗原と腫瘍細胞上の第2の抗原に結合する二重特異性ポリペプチドをコードする。そのような第1の抗原と第2の抗原の例は、上記で考察されている。一実施形態では、二重特異性ポリペプチドは二重特異性scFvであり、第1の抗原はヒトCD3eであり、第2の抗原はヒトFAPであり、例えば、この二重特異性scFvは、配列番号8のアミノ酸配列を含む。もう一つの実施形態では、二重特異性ポリペプチドは二重特異性scFvであり、第1の抗原はヒトCD3eであり、第2の抗原はヒトBCMAであり、例えば、この二重特異性scFvは、配列番号9のアミノ酸配列を含む。さらにもう一つの実施形態では、異種核酸は、上記で考察されるような免疫チェックポイント分子を含む融合ポリペプチドをコードする。一実施形態では、融合ポリペプチドはヒトPD-1細胞外ドメインおよびヒトIgG1 Fcドメインを含み、融合ポリペプチドは配列番号10のアミノ酸配列を有する。
【0098】
一実施形態では、上記のライブラリーに由来するバリアントVVビリオンは、野生型VVに示される耐性と比較して、中和抗体に対する耐性を示す。もう一つの実施形態では、これらのバリアントVVビリオンは、野生型VVによる哺乳動物細胞の形質導入と比較して、抗VV中和抗体の存在下で哺乳動物細胞の形質導入の増加を示す。
【0099】
もう一つの実施形態では、上記のライブラリーに由来する有効量の組換えワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンを使用して、遺伝子産物をそれを必要とする対象(ヒトまたは動物)に送達する方法が提供され、該遺伝子産物は、それらのバリアントVVビリオンが有する核酸によってコードされている。
【0100】
もう一つの実施形態では、上記ライブラリーに由来する有効量の感染性バリアント・ワクシニア・ウイルス(VV)ビリオンおよび薬学的に許容され得る担体を含む医薬組成物が提供される。もう一つの実施形態では、対象の癌を処置するためにそのような医薬組成物を使用する方法が提供される。一実施形態では、医薬組成物は、静脈内に、または注射、吸入、注入、移植、非経口投与、経腸投与(例えば、胃腸管からの投与)によって、あるいは当技術分野で一般に公知のその他の全身投与手法によって、対象に投与することができる。一実施形態では、対象はヒトであるが、この技術は動物対象への投与および動物対象の処置にも使用することができる。
【0101】
もう一つの実施形態では、配列番号1、5または170と少なくとも約60%のアミノ酸配列同一性を有する組換えワクシニア・ウイルス(VV)H3Lタンパク質が提供される。もう一つの実施形態では、配列番号2、6、172または174のいずれかと少なくとも約60%のアミノ酸配列同一性を有する組換えワクシニア・ウイルスD8Lタンパク質が提供される。これらの組換えH3LまたはD8Lタンパク質は、抗VV中和抗体に対するウイルス耐性を付与することがあり得る。
【0102】
一般的に説明されている本発明は、本発明の特定の側面および実施形態を説明する目的でのみ含まれていて本発明を限定することを意図しない以下の実施例を参照することによって、より容易に理解されるであろう。
【実施例】
【0103】
実施例1
材料および方法
材料
pUC57-Amp A27L、pUC57-Amp L1R、pUC57-Amp D8L、pUC57-Amp H3L、(GENEWIZ)。CV-1細胞(ATCCカタログ番号CCL-70)。vSC20ワクシニア・ウイルス・ストック。GeneJuiceトランスフェクション試薬(Millipore、カタログ番号2703870)。DMEM培地(GEヘルスケア、カタログ番号SH30081.01)、FBS(GEヘルスケア、カタログ番号SH30070.03)、DPBS(Sigma、カタログ番号8537)。ドライアイス/エタノール浴、6ウェルの組織培養プレート、12×75mmポリスチレンチューブ、1mlシリンジの使い捨てスクレーパーまたはプランジャー、滅菌2mlの滅菌マイクロ遠心チューブ。
細胞の調製および野生型ワクシニア・ウイルスによる感染
【0104】
CV-1細胞(2×105/ウェル)を、6ウェル組織培養プレートのウェルの完全DMEM培地に播種し、50~80%のコンフルエンシーになるまでインキュベートした(37℃、5%CO2で一晩)。親ウイルスのアリコートを解凍し、氷水中で数回超音波処理して(30秒)、凝集塊を除去した(各超音波処理の間に氷上で冷却)。ウイルスを完全DMEMで0.5×105pfu/mlに希釈した。コンフルエントな細胞の単層から培地を除去し、細胞を0.5mlの希釈ワクシニア・ウイルス(0.05pfu/細胞)に感染させ、37℃で2時間インキュベートした。
pUC57-Ampプラスミドによるトランスフェクション
【0105】
トランスフェクトする各ウェルに、100μlの無血清培地を滅菌チューブに加えた。次に、3μlのGeneJuiceを無血清培地に直接滴下し、ボルテックスによって完全に混合し、室温で5分間インキュベートした。1μgのDNAを各チューブに加え、穏やかなピペッティング(ボルテックスは行わない)によって混合した後、室温で5~15分間インキュベートした。次に、ウイルス接種物を単層の細胞から取り出し、PBSで2回洗浄した。次に、0.5mLの新鮮な完全DMEM培地を細胞に加えた。次に、GeneJuice/DNA混合物の全量を、完全DMEM培地の細胞に滴下した。皿を穏やかに揺り動かして、均一に分散させた。インキュベーションの4~8時間後にトランスフェクション混合物を除去し、完全DMEM培地に交換した後、37℃(5%CO2)で24~72時間インキュベートした。24~72時間後、細胞をウェルから取り出し、2mlの滅菌マイクロ遠心チューブに移した。次に、ドライアイス/エタノール浴中の凍結、37℃水浴中の解凍、およびボルテックスを各回行うことによる、3回の凍結融解サイクルを行うことによって、細胞懸濁液を溶解した。細胞ライセートは必要になるまで-80℃で貯蔵した。
組換えウイルスプラークのスクリーニング
【0106】
CV1細胞(5×105/ウェル)を、6ウェル組織培養プレートの完全DMEM培地(2mL/ウェル)に播種し、90%超のコンフルエンシーになるまでインキュベートした(37℃、5%CO2、24時間)。100、10、1、または0.1μlのライセートを、1mlの完全DMEM培地を含む二連のウェルに加え、37℃で2時間インキュベートした。次に、ウイルス接種物を感染細胞から取り出した。2.5%メチルセルロースを含む完全DMEM培地2mlを各ウェルに加え、2日間インキュベートした。2日後、十分に分離されたプラークをピペットチップでこすり、吸引することにより取り出した。蛍光顕微鏡を使用してGFP+プラークを選択し、0.5mlの完全DMEM培地を含むチューブに移した。各ウイルス含有チューブをボルテックスした後、ドライアイス/エタノール浴中の凍結、37℃水浴中の解凍、およびボルテックスを各回行うことによる、3回の凍結融解サイクルを行った。
数ラウンドのGFP+プラーク精製
【0107】
6ウェル組織培養プレートのウェルで、5×105個のCV1細胞/ウェルを完全DMEM培地(2mL/ウェル)に播種した。細胞を、90%超のコンフルエンシーになるまでインキュベートした(37℃、5%CO2、24時間)。プラーク分離株ごとに1枚の6ウェルプレートが必要である。各プラークからの100、10、1、または0.1μlのライセートを、1mlの完全DMEM培地を含む二連のウェルに加え、2時間インキュベートした。培地を細胞単層から除去し、2.5%メチルセルロースを含む完全DMEMで覆った。上記のステップを3またはそれを超える回数繰り返してプラーク精製し、クローン的に純粋な組換えウイルスを確保した。
単一プラーク精製プロトコル
【0108】
約300万~400万のCV-1細胞を播種し、24ウェルプレートで100%コンフルエンスまで増殖させた。濃縮されたウイルスストックを、DMEM感染培地で10倍系列希釈に希釈し、各ウェルに加えた。インキュベーションの36~72時間後、単一のプラークを含むウェルに印を付け、ウェル全体が感染するまでインキュベーター内に保持した(初期感染から約4~5日要する)。感染細胞を回収し、PCRアッセイにより組換えを確認した。各反応のPCR条件を以下に列挙する。
【表1】
【表2】
実施例2
H3Lでの中和抗体(NAb)エピトープの決定-ペプチドアレイ配列分析
【0109】
NAb相互作用に関与するH3L上の可能な領域を識別するために、全長H3Lを含むペプチドアレイを合成し、抗VV NAbに結合するペプチドについてスクリーニングした。アレイはH3LのN末端から始まってタンパク質配列の全長にまたがっており、配列に沿って12アミノ酸を含む連続する各スポットは、C末端に向かって4アミノ酸だけシフトした。つまり、アレイ内の各スポットは8残基が前のスポットと重なっていた。次に、合成したH3Lペプチドアレイを含むセルロース膜をスクリーニングして、抗VV ポリクローナルNAb(Abcam、ab35219)に結合したペプチドを識別した。手短に言えば、膜をMillipore H
2Oで5分間3回洗浄し、5%(wt/vol)ミルク-PBS(MPBS)を用いて4℃で一晩ブロックグした。4μg/mLのNAbを、MPBS中の膜とともに、穏やかにかき混ぜながら室温で3時間インキュベートした。インキュベーションの後、1%Tween(登録商標)20を添加したPBS(PBST)20mLで膜を5分間6回洗浄した。ペプチドに結合したNAbは、この膜をMPBS中の2μg/mlのウサギ西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合二次抗体(Abcam、ab6721)とともに、穏やかに攪拌しながら4℃で4時間インキュベートすることにより検出された。次に、膜をPBSTで5分間3回洗浄し、5mlの強化化学発光(ECL)現像液(Thermo Fisher、#32109)中でインキュベートした。結合が陽性のペプチドは、膜上にスポットとして現れる(
図1B)。信号を視覚化し、各スポットの強度をCCDカメラ(GEヘルスケア、Amersham(商標)Imager 600)で測定した。スポットの過飽和は検出されず、積分後、スポットの強度をプロットした(
図1C)。110000以下の信号はバックグラウンドと考え(膜の分析によって決定)、1100000よりも高い信号を示すスポットは陽性結合を表すと考えた。26のスポットが、カットオフ強度よりも高い値でab35219との結合を示した。一部の陽性の信号が非特異的結合を表す可能性を考慮して、1100000以上の結合強度を示した少なくとも2つのスポットに存在していた残基のみを有意とみなした。合計9個のペプチド配列が、Ab結合に対して陽性であると識別された(配列は陽性結合信号をもつ複数のスポットに現れ、以下に示す下線付きの配列である)。
【表3-1】
【表3-2】
ペプチドアレイによって識別されたH3Lペプチドの配列(対応する残基番号付き)
【0110】
PVIDRLP(aa 11~18)(配列番号89)、NDQKFDDVKDN(aa 30~40)(配列番号90)、PERKNVVVV(aa 44~52)(配列番号91)、NVIEDITFLR(aa 128~137)(配列番号92)、QMREI(aa 152~156)(配列番号93)、KVKTELVM(aa 161~168)(配列番号94)、NIVDEIIK(aa 197~204)(配列番号95)、KINRQI(aa 224~229)(配列番号96)、FENMKPNF(aa 249~265)(配列番号97)。
【0111】
H3LのN末端ドメイン(aa 11~52)、中央(aa 128~168)、およびC末端部分(aa 198~256)に局在するAb結合部位。興味深いことに、タンパク質の最もC末端のドメイン(aa 260~324)は、Abとの結合を示さなかった。H3Lのこの疎水性領域は翻訳後にVV膜に挿入され、成熟したウイルス粒子の状況下ではAb結合に利用できないのであろう。N末端ドメインは、H3Lと細胞表面との結合に関与している可能性が最も高いため、Abとこの領域の結合は、ウイルスが細胞を感染させる能力を妨害し、この領域がAb結合に関与しているというアレイの結果を裏付ける。さらに、以前の研究により、H3Lがグリコシルトランスフェラーゼであることが示された。一部のウイルスは、宿主の免疫応答回避を助けるために独自のグリコシルトランスフェラーゼをコードしている。H3Lは、中央ドメインのD/ExDモチーフを介してUDP-Glcに結合し、このモチーフ(具体的には、aa 125および127)を変異させることにより結合が阻害された。ペプチドアレイは、D/ExDモチーフ(ペプチドNVIEDITFLR、aa 128~137(配列番号92))の近くに可能性のあるAb結合部位を示した。この領域でのAbの結合は、Abによるウイルス中和のもう1つの考えられる機構であるH3Lのグリコシルトランスフェラーゼ活性を妨害する。
実施例3
H3LのNAbエピトープ測定-識別されたペプチドのアラニンスキャン
【0112】
NAbエピトープをさらにマッピングし、本発明者らのペプチドアレイ研究によって識別されたH3Lペプチドの主要な残基を解明するために、9個の識別されたペプチドとそれらのアラニン置換バリアントを用いて一連のELISAを行った(
図2)。ペプチドアレイによって識別された9個のペプチドのバリアントは、アラニン置換で合成された(GenScript USA Inc.NJ、USA)。
【表4】
【0113】
天然ペプチド(上記で太字で示した非変異型、配列番号89~97)をビオチンでタグ付けした(N末端)。96ウェルのPierce(商標)NeutrAvidinコートされたプレート(Thermo Fisher、15507)をPBSTですすぎ、MPBS(ブロッキングバッファー、100μL/ウェル)中で4℃で一晩インキュベートした。ブロッキングバッファーを捨て、100μLのビオチン化ペプチドを200ng/mlでプレートに加え、4℃で90分間インキュベートした。同時に、抗VVウサギポリクローナルNAb(Abcam、ab35219)をバリアントペプチドとともにインキュベートした。本発明者らは800ng/mlのAbを30μL/ウェル使用し、それを100μg/mlのアラニン修飾ペプチド30μL/ウェルとともに4℃で90分間インキュベートした。プレートをPBSTで洗浄した後、50μLのAb/アラニンペプチドミックスをプレートに結合したペプチドに加え(二連のウェル)、4℃で60分間インキュベートした。プレートをPBSTで6回洗浄し、MPBSに1:1000に希釈した抗ウサギ西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合二次Ab(Abcam、ab6721)100μL/ウェルを加えた。次に、プレートを4℃で90分間インキュベートし、PBSTで4回洗浄し、3,3’,5,5’,-テトラメチルベンジジン(TMB)(Sigma、T0440-100ML)を用いて現像した。650nmのODをパーキンエルマーのマルチモードプレートリーダー(Corning)で読み取った。それぞれの信号の強度を測定し、Kaleido(商標)1.2ソフトウェアを使用してプロットした。変異ペプチドの各セットに対して、そのセットのネイティブコントロールよりも高い信号を陽性とみなした(
図2)。セット3のペプチドのコントロールペプチド(EKRNVVVV(配列番号169))は、セット内の残りのペプチドよりも高い信号を示し、このセット内の他の2つのペプチドのみが0.07を超える信号を示した。スキャンにより、Ab結合に陽性の残基が合計29個識別された:I14、D15、R16、K33、F34、D35、K38、N40、E45、V52、E131、T134、F135、L136、R137、R154、E155、I156、K161、L166、V167、M168、I198、R227、E250、K253、P254、N255、およびF256(
図2)。ペプチドアレイは線状ペプチドを含むため、3Dタンパク質構造の状況において残基の生理学的確認を表していない可能性がある。全長H3Lタンパク質の状況において識別された各残基を分析するために、本発明者らは以前に決定されたH3Lの結晶構造にそれらをマッピングした。2つの残基(N40およびF135)を除くすべての残基がタンパク質の表面にマッピングされているため、Absとの相互作用に利用可能である可能性がある。N40とF135はタンパク質の内側の折り畳みにマッピングされているため、Absと相互作用する見込みはないであろう。さらなる残基P44が別の実験(以下を参照)で識別されたため、これも本発明者らの設計にも含めた。最後に、アラニンスキャンにより、カットオフよりも低いがそれぞれのコントロールよりも高い信号を示した8個のさらなる残基が識別され、これらの残基もAbの結合に役割を果たしている可能性が示唆された:K33、F34、D35、K161、L166、V167、およびR227(
図2参照)。
【0114】
一実施形態では、変異H3Lタンパク質は、以下の突然変異を含む:I14A、D15A、R16A、K33A、F34A、D35A、K38A、N40A、E45A、V52A、E131A、T134A、F135A、L136A、R137A、R154A、E155A、I156A、K161A、L166A、V167A、M168A、I198A、R227A、E250A、K253A、P254A、N255A、およびF256A。変異H3Lアミノ酸配列の例は、配列番号1に示される。
実施例4
修飾されたH3L、D8L、L1R、およびA27L遺伝子をVVゲノムに導入するための相同組換え
【0115】
各修飾タンパク質について、そのタンパク質のネイティブプロモーター、ORF(変異が配置されている)、およびVVゲノム内の適切な遺伝子への相同組換えのための約250bpの隣接領域を含むDNA断片をGENEWIZによって合成し、pUC57-Ampプラスミドにクローニングした。4つすべてのコンストラクトについて、VV p7.5プロモーターの制御下にあり、LoxP部位に隣接する緑色蛍光タンパク質(GFP)発現カセットを、右隣接配列の前の終止コドンのすぐ下流に挿入した(
図3)。GFPカセットから発現した蛍光マーカーを使用して相同組換えを受けたクローンをスクリーニングし、LoxP部位を使用してGFPを除去した。pUC57-AmpプラスミドをCV-1細胞にトランスフェクトし、VVゲノムと組換えさせた。GFPカセットから発現した蛍光マーカーを使用して相同組換え(HR)を受けたクローンをスクリーニングし、LoxP部位を使用してGFPを除去した。VVゲノムへの正しい遺伝子挿入をPCRによって検証した。VVに感染させたCV-1細胞に、L1Rプラスミドから始めて、A27L、D8L、最後にH3Lの順で1つずつプラスミドをトランスフェクトした。各プラスミドの追加とともに、スクリーニングと精製のラウンドを行い、続いてPCRとシーケンシングを行って、正しい変異が存在することを確認した。GFPは、次のプラスミドとの組換えの前に除去された。最終的なバリアントには、4つすべてのタンパク質の修飾が含まれている。
【0116】
合成されたH3Lコンストラクトのヌクレオチド置換により、以下のアミノ酸変異が生じる:I14A、D15A、R16A、K38A、P44A、E45A、V52A、E131A、T134A、L136A、R137A、R154A、E155A、I156A、M168A、I198A、E250A、K253A、P254A、N255A、およびF256A。変異H3Lアミノ酸配列は、配列番号11に示される。左隣接領域、プロモーター領域、p7.5プロモーター、LoxP、GFP、LoxP、および右隣接領域を含む、そのような変異H3L遺伝子のヌクレオチド配列は、配列番号12に示される。
【0117】
合成されたD8Lコンストラクトのヌクレオチド置換により、以下のアミノ酸変異が生じる:R44A、K48A、K98A、K108A、K117A、およびR220A。変異D8Lアミノ酸配列は、配列番号2に示される。左隣接領域、プロモーター領域、p7.5プロモーター、LoxP、GFP、LoxP、および右隣接領域を含む、そのような変異D8L遺伝子のヌクレオチド配列は、配列番号13に示される。
【0118】
合成されたA27Lコンストラクトのヌクレオチド置換により、以下のアミノ酸変異が生じる:K27A、A30D、R32A、E33A、A34D、I35A、V36A、K37A、D39A、E40A、R107A、P108A、およびY109A。変異A27Lアミノ酸配列は、配列番号3に示される。左隣接領域、プロモーター領域、p7.5プロモーター、LoxP、GFP、LoxP、および右隣接領域を含む、そのような変異A27L遺伝子のヌクレオチド配列は、配列番号14に示される。
【0119】
合成されたL1Rコンストラクトのヌクレオチド置換により、以下のアミノ酸変異が生じる:E25A、N27A、Q31A、T32A、K33A、D35A、S58A、D60A、D62A、K125A、およびK127A。変異L1Rアミノ酸配列は、配列番号4に示される。左隣接領域、プロモーター領域、p7.5プロモーター、LoxP、GFP、LoxP、および右隣接領域を含む、そのような変異L1R遺伝子のヌクレオチド配列は、配列番号15に示される。
実施例5
抗VVポリクローナル抗体を用いるインビトロ中和アッセイ
【0120】
抗VVポリクローナルAbがエスケープバリアントを中和する能力を調査した。ab35219(Abcam)、ab21039(Abcam)、ab26853(Abcam)、9503-2057(Bio-Rad)、およびPA1-7258(Invitrogen)からなる抗VV Abのパネルを使用してインビトロでの中和回避を試験した。ウサギポリクローナルIgG ab37415(Abcam)をコントロールとして使用した。CV-1細胞を12ウェルプレートに播種し、コンフルエンスに達してから2日以内に使用した。40μg/mlのAbを、1×10
3pfu/サンプルのエスケープバリアントまたはコントロールVVのいずれかとともに、2%の滅菌子ウサギ補体の存在下、37℃で1時間プレインキュベートした。次に、混合物をCV-1細胞に加え、300μLの無血清培地中37℃/5%CO
2で2時間置いて付着させた。2時間後、接種物を取り出し、1mLの完全DMEM培地を細胞に添加した。次に、細胞を37℃/5%CO
2でインキュベートした。48時間後、細胞を固定し、1%クリスタルバイオレット/20%EtOH溶液で室温で20分間染色し、プラークを計数した。5つすべてのAbがコントロールVVプラーク数を劇的に減少させ、強い中和能力を示した(
図5)。パネル全体で平均83.3~95.5%のコントロールVVウイルスが中和された。対照的に、L1R+A27L+D8L+H3エスケープバリアントは、Abによる中和率が大幅に低く、平均17.8~66.2%の中和率を示した。興味深いことに、ab26853はコントロールVVの78%を中和したが、NEVバリアントをほぼ完全に中和できなかった(
図5参照)。これらの結果に基づいて、本明細書に示されるエスケープバリアントは、インビトロでの抗VV Abによる中和を効率的に回避することができると結論付けられる。
【0121】
組換えウイルス複製アッセイを実行した(
図7)。24ウェルプレートで、CV-1細胞を二連のVVコントロール、VVNEV、およびVVEMにMOI=.05で感染させた。感染前に、ウイルスをAb9503-2057(40μg/mL)とともに37℃で1時間プレインキュベートした。サンプルを24、48、および72時間後に回収し、各時点の力価を決定した。ほぼ完全に不活化されていたコントロールAbと比較して、組換えウイルスはAbの存在下での複製において有意に効率的であった。
【0122】
組換えウイルスの抗腫瘍効率を評価した(
図8)。組換えウイルスおよびコントロールVVを、Ab9503-2057(上記参照)とともにプレインキュベートし、MOI=1で形質転換細胞を感染させるために使用した。細胞を48時間インキュベートし、MTSアッセイ(細胞の代謝活性の比色評価)により細胞の生存率を測定した。手短に言えば、48時間で回収した細胞をPBSTで1回洗浄し、完全DMEMに1×105細胞/mLで再懸濁した。各細胞の懸濁液100μLを96ウェルに添加した(3通り)。20μlのCellTiter 96(登録商標)AQueous One Solution Reagent(Promega、G358C)を、100μlの培地にサンプルを含む96ウェルアッセイプレートの各ウェルに添加した。このプレートを37℃で2時間インキュベートした(5%CO2)。MTSの細胞還元によって生成された可溶性ホルマザンの量を測定するために、96ウェルプレートリーダーを使用して各ウェルの吸光度を490nmで記録したAbの存在下で、組換えウイルスは細胞を効率的に死滅させることができた。
実施例6
中和エスケープ変異株(VV
EM)の分離
【0123】
さらなる主要なNAbエピトープ残基を識別するために、ab35219およびab21039による中和に抵抗するVV変異株を選択した。手短に言えば、ウイルスDNAに塩基転位型突然変異を誘発するために、変異VVのストックは、メタンスルホン酸エチル(EMS)の存在下でVVのウエスタン・リザーブ株を感染させたCV-1細胞から調製した。次に、ポリクローナル抗VV ab35219およびab21039を使用して変異したウイルスを中和した。EMSは培地に500μμg/mLで存在していた。変異ウイルスストックを、2種類のポリクローナルAbの混合物と各50μg/ml(総濃度100μg/ml)で1時間インキュベートした後、12ウェルプレートに蒔いたCV-1細胞を感染させるために使用した。2時間後、接種物を取り出し、新鮮な完全DMEMを細胞に加えた。次に、細胞を37℃、5%CO
2で48時間インキュベートした。感染の第1ラウンドの間に、変異ウイルスの力価はAbによって大幅に低下した。一定のAb濃度で、前のラウンドよりもさらに精製されたウイルスによる複数ラウンドの感染後、継代されたウイルスストックは、もはやAbsによってほとんど中和されなかった。エスケープ変異株(VV
EM)のクローンをプラーク精製すると、上記の5つの抗VV Abのパネルによる中和の有意な回避が示された(
図6)。コントロールVVウイルスはパネル全体で77.7~96.4%が中和されたのに対し、VV
EMは、平均30.7~66.9%のAbによる中和を示し、コントロールよりも大幅に低いことが示された。純粋なウイルスからウイルスDNAを分離し、PCRを使用してVVの主要なAb抗原であるA27L、L1R、H3L、およびD8L遺伝子を増幅した。PCR産物を配列決定し、A27L、D8L、およびH3Lをコードする遺伝子に変異が存在することが示された。D8Lコード配列は、以下の変異を含む:V43F/L、R44W、G55W、A144T、T168S、S177Y、F199Y、L203S、P212T、N218C、P222L、およびD227G。A27Lコード配列は、A27LとのNAb相互作用に関与すると以前に決定され、本発明者らのA27Lプラスミド設計に含められていた、残基I35およびD39に2つの変異を示した。H3L配列は、Ab結合ペプチド(ペプチド3;
図2A)の一部としてペプチドアレイによって識別されたE45残基に直接隣接する残基である残基P44でアミノ酸置換を示したため、これもH3L組換えプラスミドの設計に含められた。H3遺伝子において識別されたその他の変異は以下の通りである:E250G、N255W(これら2つの残基はアラニンスキャンによっても識別された)、S258F、T262P、A264T、T265V、K266I、Y268C、M272K、Y273N、F275N、およびT277A。これらの変異はすべて、タンパク質の柔軟なC末端領域に集まっている。配列番号5は、変異H3Lアミノ酸配列を示す。配列番号6または配列番号174は、変異D8Lアミノ酸配列を示す。配列番号6と174の両方は、親出願である米国特許仮出願第62/749,102号に配列番号7として開示された。
実施例7
修飾されたH3L、D8L、L1R、およびA27L遺伝子をVVゲノムに導入するための相同組換え
【0124】
上記のように識別された変異を組み込むための新しい組換えVVを作製した。さらに、タンパク質の構造解析により、ペプチドアレイまたはEMシーケンシングのいずれによっても識別されなかったが、識別された残基に隣接しており、Abの相互作用に役割を果たす可能性のある追加の残基も識別された。これらの残基も設計に含められた。各修飾タンパク質について、そのタンパク質のネイティブプロモーター、ORF(変異が配置されている)、およびVVゲノム内の適切な遺伝子への相同組換えのための約250bpの隣接領域を含むDNA断片をGENEWIZによって合成し、pUC57-Ampプラスミドにクローニングした。4つすべてのコンストラクトについて、VV p7.5プロモーターの制御下にあり、LoxP部位に隣接する緑色蛍光タンパク質(GFP)発現カセットを、右隣接配列の前の終止コドンのすぐ下流に挿入した(
図3)。GFPカセットから発現した蛍光マーカーを使用して相同組換えを受けたクローンをスクリーニングし、LoxP部位を使用してGFPを除去した。pUC57-AmpプラスミドをCV-1細胞にトランスフェクトし、VVゲノムと組換えさせた。GFPカセットから発現した蛍光マーカーを使用して相同組換え(HR)を受けたクローンをスクリーニングし、LoxP部位を使用してGFPを除去した。VVゲノムへの正しい遺伝子挿入をPCRによって検証した。VVに感染させたCV-1細胞に、L1Rプラスミドから始めて、A27L、D8L、最後にH3Lの順で1つずつプラスミドをトランスフェクトした。各プラスミドの追加とともに、スクリーニングと精製のラウンドを行い、続いてPCRとシーケンシングを行って、正しい変異が存在することを確認した。GFPは、次のプラスミドとの組換えの前に除去された。最終的なバリアントには、4つすべてのタンパク質の修飾が含まれている。
【0125】
合成されたH3Lコンストラクトのヌクレオチド置換により、以下のアミノ酸変異が生じる:I14A、D15A、R16A、K33A、F34A、D35A、K38A、N40A、P44A、E45A、V52A、E131A、D132A、T134A、F135A、L136A、R137A、R154A、E155A、I156A、K161A、L166A、V167A、M168A、E195A、I198A、V199A、R227A、E250A、N251A、M252A、K253A、P254A、N255A、F256A、S258A、T262P、A264T、K266I、Y268C、M272K、Y273N、F275N、およびT277A。変異H3Lアミノ酸配列は、配列番号170に示される。左隣接領域、プロモーター領域、p7.5プロモーター、LoxP、GFP、LoxP、および右隣接領域を含む、そのような変異H3L遺伝子のヌクレオチド配列は、配列番号171に示される。
【0126】
合成されたD8Lコンストラクトのヌクレオチド置換により、以下のアミノ酸変異が生じる:V43A、R44A、K48A、S53A、G54A、G55A、K98A、K108A、K109A、A144G、T168A、S177A、L196A、F199A、L203A、N207A、P212A、N218A、R220A、P222A、およびD227A。変異D8Lアミノ酸配列は、配列番号172に示される。左隣接領域、プロモーター領域、p7.5プロモーター、LoxP、GFP、LoxP、および右隣接領域を含む、そのような変異D8L遺伝子のヌクレオチド配列は、配列番号173に示される。
【0127】
合成されたA27Lコンストラクトのヌクレオチド置換により、以下のアミノ酸変異が生じる:K27A、A30D、R32A、E33A、A34D、I35A、V36A、K37A、D39A、E40A、R107A、P108A、およびY109A。変異A27Lアミノ酸配列は、配列番号3に示される。左隣接領域、プロモーター領域、p7.5プロモーター、LoxP、GFP、LoxP、および右隣接領域を含む、そのような変異A27L遺伝子のヌクレオチド配列は、配列番号14に示される。
【0128】
合成されたL1Rコンストラクトのヌクレオチド置換により、以下のアミノ酸変異が生じる:E25A、N27A、Q31A、T32A、K33A、D35A、S58A、D60A、D62A、K125A、およびK127A。変異L1Rアミノ酸配列は、配列番号4に示される。左隣接領域、プロモーター領域、p7.5プロモーター、LoxP、GFP、LoxP、および右隣接領域を含む、そのような変異L1R遺伝子のヌクレオチド配列は、配列番号15に示される。
実施例8
抗VVポリクローナル抗体を用いるインビトロ中和アッセイ
【0129】
抗VVポリクローナルAbがエスケープバリアントを中和する能力を調査した。抗VV Ab9503-2057(Bio-Rad)およびPA1-7258(Invitrogen)を使用して、インビトロでの中和回避を試験した。ウサギポリクローナルIgG ab37415(Abcam)をコントロールとして使用した。CV-1細胞を12ウェルプレートに播種し、コンフルエンスに達してから2日以内に使用した。40μg/mlのAbを、1×10
3pfu/サンプルのエスケープバリアントまたはコントロールVVのいずれかとともに、2%の滅菌子ウサギ補体の存在下、37℃で1時間プレインキュベートした。次に、混合物をCV-1細胞に加え、300μLの無血清培地中37℃/5%CO
2で2時間置いて付着させた。2時間後、接種物を取り出し、1mLの完全DMEM培地を細胞に添加した。次に、細胞を37℃/5%CO
2でインキュベートした。48時間後、細胞を固定し、1%クリスタルバイオレット/20%EtOH溶液で室温で20分間染色し、プラークを計数した。NAbがコントロールVVプラーク数を劇的に減少させ、強い中和能力を示した(
図9)。パネル全体で平均86.1~92.1%のコントロールVVウイルスが中和された。対照的に、エスケープバリアントは、Abによる中和率が大幅に低く、平均20.8~23%の中和率を示した。これらの結果に基づいて、本明細書に示されるエスケープバリアントは、インビトロでの抗VV Abによる中和を効率的に回避することができると結論付けられる。また、エスケープバリアント(3つの単一ウイルスクローン)と野生型VVの複製を中和抗体の不在下で比較した。その結果、エスケープバリアントが野生型ウイルスと比較して同様の複製能力を持っていることが示唆され、突然変異がウイルスの侵入および複製能力を損わないことが示された(
図10)。
実施例9
CD55を発現するVVの構築
【0130】
腫瘍溶解性ワクシニア・ウイルス(VV)コンストラクトである、CD55-NEVは、ヒトCD55細胞外ドメインに対して作製された。VV A27に融合したヒトCD55細胞外ドメインを最適化し、合成し、pMSシャトルプラスミドにクローニングした(
図11)。CD55-A27を発現するワクシニア・ウイルス(ウエスタン・リザーブ)は、あるバージョンのpMSシャトルプラスミドをWRワクシニア・ウイルス(WR VV)またはNEVのTK遺伝子に組換えることによって作製された。挿入されたCD55およびA27は、元のA27プロモーターの転写制御下で発現した。組換えウイルスCD55-NEVを構築するために、シャトルベクターpMSをCV-1または293細胞にトランスフェクトした。次に、細胞をWR VVまたはNEVに0.1の感染多重度(MOI)で感染させた。プラークの選択および増幅を3ラウンド行ってCD55の発現を確認した後、対応するクローンの1つを増幅および精製のために選択した。
【0131】
一実施形態では、CD55-A27融合体を含むアミノ酸配列は、配列番号7に示される。シグナルペプチド、CD55、A27およびリンカー配列を含む、CD55-A27の最適化されたヌクレオチド配列の例は、配列番号16に示される。
実施例10
補体または補体/抗VVポリクローナル抗体を用いるインビトロ中和アッセイ
【0132】
CD55-VVの補体に媒介される中和を回避する能力を最初に調査した。これを行うため、CV-1細胞を12ウェルプレートに播種し、コンフルエンスに達してから2日以内に使用した。1×10
3pfu/サンプルのCD55-NEVまたはNEVコントロールを、1:10ヒト補体の存在下、37℃/5%CO
2で300μLの培地中のCV-1細胞に加えた。熱活性化された補体をコントロールとして使用して、回避率を計算した。48時間後、細胞を固定し、1%クリスタルバイオレット/20%EtOH溶液で室温で20分間染色し、プラークを計数した。CD55-NEVは、NEVよりも効果的に補体に媒介される中和を回避した(
図12)。CD55-NEVの約59%が補体に媒介される中和を回避したのに対し、NEVの約18%のみが補体に媒介される中和を回避した。
【0133】
補体の中和を回避するCD55-NEVの能力を抗VVポリクローナルAbを用いてさらに調査した。2つの抗VV Ab、9503-2057(Bio-Rad)およびPA1-7258(Invitrogen)を使用して、インビトロでの中和回避を試験した。CV-1細胞を12ウェルプレートに播種し、コンフルエンスに達してから2日以内に使用した。40μg/mlのAbを、1×10
3pfu/サンプルのCD55-NEVまたはコントロールVVのいずれかとともに、1:10希釈のヒト補体の存在下、37℃で1時間プレインキュベートした。次に、混合物をCV-1細胞に加え、300μLの無血清培地中37℃/5%CO
2で2時間置いて付着させた。2時間後、接種物を取り出し、1mLの完全DMEM培地を細胞に添加した。次に、細胞を37℃/5%CO
2でインキュベートした。48時間後、細胞を固定し、1%クリスタルバイオレット/20%EtOH溶液で室温で20分間染色し、プラークを計数した。結果は、補体の不在下または存在下で、CD55-NEVがNEVおよびVVよりも効果的に中和を回避したことを示唆した(
図13)。これらの結果に基づいて、本明細書に開示されるCD55-VVは、インビトロでの補体/NAbに媒介される中和を効率的に回避することができると結論付けられる。
実施例11
FAP-TEA-NEVの構築
【0134】
腫瘍溶解性ワクシニア・ウイルス(VV)コンストラクトである、FAP-TEA-NEVは、癌関連線維芽細胞(CAF)上のFAPおよびT細胞上のCD3を標的とする二重特異性FAP-CD3 scFvを発現するように作製された。二重特異性FAP-CD3 scFvを最適化し、合成し、pMSシャトルプラスミドにクローニングした(
図14)。mhFAP交差反応性一本鎖可変フラグメント(scFv MO36)は、以前、免疫化されたFAP/ノックアウトマウスからファージディスプレイによって作製されたものである。ヒトCD3 scFvはOKT3クローンに由来するものであった。分泌性二重特異性FAP-CD3 scFv(FAP-TEA-NEV)を発現するワクシニア・ウイルス(ウエスタン・リザーブ株)は、あるバージョンのpMSシャトルプラスミドをWR VVまたはNEVのTK遺伝子に組換えることによって作製された。挿入された二重特異性FAP-CD3 scFvは、F17R後期プロモーターの転写制御下で発現し、T細胞の活性化前に十分なウイルス複製を可能にした。組換えウイルスBCMA-TEA-NEVを構築するために、シャトルベクターpMSをCV-1または293細胞にトランスフェクトした。次に、細胞をWR VVまたはNEVに0.1の感染多重度(MOI)で感染させた。プラークの選択および増幅を3ラウンド行ってFAP-CD3の発現を確認した後、対応するクローンの1つを増幅および精製のために選択した。
【0135】
一実施形態では、FAP-CD3ポリペプチドを含むアミノ酸配列は、配列番号8に示される。シグナルペプチド、FAP scFv、CD3 scFvおよびリンカー配列を含む、FAP-CD3ポリペプチドのために最適化されたヌクレオチド配列の例は、配列番号17に示される。
実施例12
インビトロでのFAP-TEA-NEVの評価
【0136】
FAP-TEA-NEVの腫瘍溶解能力を調査した。FAP陽性U87腫瘍細胞を96ウェルプレートにウェルあたり5x10e4の細胞数で播種した。次に、U87腫瘍細胞をFAP-TEA-NEVまたはNEVにMOI1で感染させ、ヒトT細胞とU87:T=1:5の比で共培養した。48時間後、細胞を顕微鏡で観察した。顕微鏡写真により、FAP-TEA-VVが、NEVと比較して、U87腫瘍細胞溶解およびヒトT細胞の増殖を効果的に誘導することが示された(
図15)。細胞をアポトーシスマーカー、PIで染色し、フロー分析の結果、FAP-TEA-VVがNEVよりも効果的にU87腫瘍アポトーシスを誘発することが示唆された(
図16)。
図17は、ゲートされたU87腫瘍細胞のPI染色のMFIを示した。
【0137】
FAP-TEA-NEVがバイスタンダー腫瘍溶解を誘発する能力も調査した。CV-1細胞をFAP-TEA-VVにMOI1で感染させ、細胞培養培地を24時間で回収し、U87:T=1:5の比のFAP陽性U87腫瘍細胞とヒトT細胞の共培養に加えた。U87腫瘍細胞を96ウェルプレートにウェルあたり5x10e4の細胞数で播種した。48時間後、細胞を顕微鏡で観察した。顕微鏡写真により、FAP-TEA-VVが、NEVと比較して、U87腫瘍細胞溶解およびヒトT細胞の増殖を効果的に誘導することが示された(
図18)。
実施例13
BCMA-TEA-NEVの構築
【0138】
腫瘍溶解性ワクシニア・ウイルス(VV)コンストラクトである、BCMA-TEA-NEVは、多発性骨髄腫上のBCMAとT細胞上のCD3を標的とする二重特異性BCMA-CD3 scFvを発現するように作製された。二重特異性BCMA-CD3 scFvを最適化し、合成し、pMSシャトルプラスミドにクローニングした(
図19)。BCMA scFVは、C11D5.3クローンに由来するものであった(米国特許第9034324(B2)号)。ヒトCD3 scFvはOKT3クローンに由来するものであった。分泌性二重特異性BCMA-CD3 scFv(BCMA-TEA-NEV)を発現するワクシニア・ウイルス(ウエスタン・リザーブ株)は、あるバージョンのpMSシャトルプラスミドをWRワクシニア・ウイルス(WR VV)またはNEVのTK遺伝子に組換えることによって作製された。挿入された二重特異性BCMA-CD3 scFvは、F17R後期プロモーターの転写制御下で発現し、T細胞の活性化前に十分なウイルス複製を可能にした。組換えウイルスBCMA-TEA-NEVを構築するために、シャトルベクターpMSをCV-1または293細胞にトランスフェクトした。次に、細胞をWR VVまたはNEVに0.1の感染多重度(MOI)で感染させた。プラークの選択および増幅を3ラウンド行ってBCMA-CD3の発現を確認した後、対応するクローンの1つを増幅および精製のために選択した。
【0139】
一実施形態では、BCMA-CD3 scFvを含むアミノ酸配列は、配列番号9に示される。シグナルペプチド、BCMA scFv、CD3 scFvおよびリンカー配列を含む、BCMA-CD3 scFvのために最適化されたヌクレオチド配列の例は、配列番号18に示される。
実施例14
インビトロでのBCMA-TEA-NEVの評価
【0140】
BCMA陽性RPMI-8226MM細胞株を、BCMA-TEA-NEVまたはコントロールNEVにMOI2で感染させた。24時間後、ウイルスを感染させたRPMI-8226細胞を、ジャーカットT細胞(Invivogen)とともにジャーカットT:RPMI-8226=2:1の比で共培養した。24時間のインキュベーションの後、細胞数の計数および細胞集団のフロー分析のために細胞を収集した。細胞集団のフロー分析により、ジャーカットT細胞がBCMA-CD3によって有意に活性化されたことが示唆された(
図20A)。
図20Bは、RPMI-8266MM細胞および活性化ジャーカットT細胞の細胞数を示す。結果は、BCMA-TEA-NEVが、NEVコントロールと比較して、ジャーカットT細胞の活性およびRPMI-8266MM細胞溶解を有意に誘導したことを示唆した。
【0141】
上記の実験では、24時間のインキュベーションの後、ELISAによるサイトカインIFNγ(
図21A)およびIL2(
図21B)分泌の測定のために細胞を収集した。結果は、BCMA-TEA-NEVが、NEVコントロールと比較して、ジャーカットT細胞によるIFNγおよびIL2の発現を有意に誘発することを示唆した。
実施例15
PD-1-ED-hIgG1-Fc-NEVの構築
【0142】
腫瘍溶解性ワクシニア・ウイルス(VV)コンストラクトである、PD-1-ED-hIgG1-Fc-NEVは、免疫グロブリン(immunoglobin)-G1(IgG1)の定常(Fc)ドメインに融合したPD-1の細胞外ドメインを有する組換えタンパク質を発現させるために作製された。FAP-CD3は、癌関連線維芽細胞の線維芽細胞活性化タンパク質とT細胞のCD3を標的とする二重特異性分子である。PD-1-ED-hIgG1-Fcを最適化し、合成し、pMSシャトルプラスミドにクローニングした(
図22)。分泌性PD-1-ED-hIgG1-Fc(PD-1-ED-hIgG1-Fc-NEV)を発現するか、または分泌性PD-1-ED-hIgG1-FcとFAP-CD3(PD-1-ED-hIgG1-Fc-FAP-TEA-NEV)を共発現するワクシニア・ウイルス(ウエスタン・リザーブ株)は、あるバージョンのpMSシャトルプラスミドをWRワクシニア・ウイルス(WR VV)またはNEVのTK遺伝子に組換えることによって作製された。挿入されたPD-1-ED-hIgG1-Fc7は、pSE/Lプロモーターの転写制御下で発現した。挿入されたFAP-CD3は、F17R後期プロモーターの転写制御下で発現し、T細胞の活性化前に十分なウイルス複製を可能にした。組換えウイルスPD-1-ED-hIgG1-Fc-NEVまたはPD-1-ED-hIgG1-Fc-FAP-TEA-NEVを構築するために、シャトルベクターpMSをCV-1または293細胞にトランスフェクトした。次に、細胞をWR VVまたはNEVに0.1の感染多重度(MOI)で感染させた。プラークの選択および増幅を3ラウンド行ってPD-1-ED-hIgG1-FcまたはFAP-CD3の発現を確認した後、対応するクローンの1つを増幅および精製のために選択した。
【0143】
一実施形態では、PD-1-ED-hIgG1-Fcを含むアミノ酸配列は、配列番号10に示される。シグナルペプチド、PD-1 細胞外ドメイン、ヒトIgG1ヒンジおよびFcドメインを含む、PD-1-ED-hIgG1-Fcの最適化されたヌクレオチド配列の例は、配列番号19に示される。
実施例16
インビトロでのPD1ED-NEVの評価
【0144】
安定したPD-L1-Raji(Invivogen)細胞株を、PD1ED-NEVまたはコントロールNEVにMOI2で感染させた。24時間後、ウイルスを感染させたPD-L1-Raji細胞を、NFAT-CD16-LucレポータージャーカットT細胞(Invivogen)とともにジャーカットT:PD-L1-Raji=2:1の比で共培養した。分泌されたPD-1-ED-Fcの役割を調べるために、CV-1細胞をBCMA-TEA-NEVにMOI2で感染させ、24時間後に細胞培養培地を回収し、RajiとジャーカットT細胞の共培養に加えた。24時間のインキュベーションの後、フロー分析(
図23A)および計数(
図23B)のために細胞を収集した。結果により、分泌されたPD-1-ED-Fcがコントロール群と比較してRaji細胞溶解を効果的に誘発したことが示唆された。PD-1-ED-Fcは、著しいジャーカットT細胞の枯渇も誘発した(
図19B)。RajiはVV感染の影響を受けにくいため、RajiのNEV感染は効果がない可能性がある。上記の実験では、24時間のインキュベーションの後、ELISAによるサイトカインIFNγ(
図24A)およびIL2(
図24B)分泌の測定のために細胞を収集した。結果は、分泌されたPD1EDが、NEVコントロールと比較して、ジャーカットT細胞によるIFNγおよびIL2の発現を有意に誘発することを示唆した。
【0145】
別の実験では、安定したPD-L1-Raji(Invivogen)細胞株を、PD1ED-NEVまたはコントロールNEVにMOI2で感染させた。24時間後、ウイルスを感染させたPD-L1-Raji細胞を、NFAT-CD16-LucレポータージャーカットT細胞(Invivogen)とともにジャーカットT:PD-L1-Raji=2:1の比で共培養した。分泌されたPD-1-ED-Fcの役割を調べるために、CV-1細胞をBCMA-TEA-NEVにMOI2で感染させ、24時間後に細胞培養培地を回収し、RajiとジャーカットT細胞の共培養に加えた。6時間のインキュベーションの後、ルシフェラーゼ測定のために上清を回収した(
図25)。結果により、分泌されたPD-1-ED-FcがコントロールNEVまたは培地と比較してジャーカットT細胞を効果的に活性化したことが示唆された。
【配列表】
【国際調査報告】