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特表2022-509153患者の試料中のバイオマーカーとしてのラミニンおよび/またはガレクチンの発現レベルを測定することによって、癌に罹患している疑いのある患者の腫瘍溶解性パルボウイルス(PARVOVIRUS)H1(H-1PV)治療の臨床応答を予測する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-20
(54)【発明の名称】患者の試料中のバイオマーカーとしてのラミニンおよび/またはガレクチンの発現レベルを測定することによって、癌に罹患している疑いのある患者の腫瘍溶解性パルボウイルス(PARVOVIRUS)H1(H-1PV)治療の臨床応答を予測する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20220113BHJP
【FI】
G01N33/53 D ZNA
G01N33/53 S
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021528896
(86)(22)【出願日】2019-11-14
(85)【翻訳文提出日】2021-07-14
(86)【国際出願番号】 EP2019081368
(87)【国際公開番号】W WO2020104294
(87)【国際公開日】2020-05-28
(31)【優先権主張番号】18207749.5
(32)【優先日】2018-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】512151403
【氏名又は名称】ドイッチェス・クレープスフォルシュングスツェントルム
【氏名又は名称原語表記】DEUTSCHES KREBSFORSCHUNGSZENTRUM
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マルキーニ、アントーニオ
(72)【発明者】
【氏名】クルカルニ、アミット
(72)【発明者】
【氏名】グレベニヒ、アナベル
(72)【発明者】
【氏名】ロンメレーレ、ジャン
(72)【発明者】
【氏名】マルティラ、ティーナ
(72)【発明者】
【氏名】フェレイラ、ティアゴ
(57)【要約】
本発明は、癌患者における腫瘍溶解性パルボウイルス(parvovirus)H1(H-1PV)による治療の結果を予測するためのバイオマーカーとしてのラミニンおよび/またはガレクチンの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌に罹患している疑いのある患者の、パルボウイルス(parvovirus)H1(H-1PV)による治療の結果を予測するための、ラミニンおよび/またはガレクチンからなる群から選択されるバイオマーカーの使用。
【請求項2】
前記ラミニンが、LAMB1および/またはLAMC1である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記ガレクチンがLGALS1である、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
癌に罹患している疑いのある患者が、前記癌のH-1PV療法の候補であるかどうかを決定する方法であって、患者の生体試料を少なくとも1つのアッセイに供して、ラミニンおよび/またはガレクチンからなる群から選択されるバイオマーカーの存在を測定する工程を含む方法。
【請求項5】
前記ラミニンが、LAMB1および/またはLAMC1である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ガレクチンがLGALS1である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記生体試料が、生検材料、血液、血清または血漿である、請求項4から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記癌が固形腫瘍である、請求項4から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記固形腫瘍が、脳癌、肺癌、乳癌、皮膚癌、結腸癌、膵癌または肝細胞癌である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記脳癌が神経膠芽腫であり、前記肺癌が非小細胞肺癌であり、前記膵癌が膵管腺癌であり、前記乳癌が浸潤性乳管癌であり、前記皮膚癌が黒色腫であり、前記結腸癌が結腸腺癌である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記非小細胞肺癌が、肺腺癌または肺扁平上皮癌である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
癌に罹患している疑いのある患者がH-1PV療法の候補であるかどうかを予測するためのキットの使用であって、このキットが、
(a)ラミニンおよび/またはガレクチンからなる群から選択されるバイオマーカーのレベルを測定するための手段と、
b)場合により、癌に罹患している疑いのある患者がH-1PV療法の候補であるかどうかを予測する際の前記キットの前記使用のための指示を与えるラベルとを含む使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌患者における腫瘍溶解性パルボウイルス(parvovirus)H1(H-1PV)による治療の結果を予測するためのバイオマーカーとしてのラミニンおよび/またはガレクチンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍溶解性ウイルスは、導入遺伝子のための周知の発現ベクターである。数年前に、パルボウイルス(parvovirus)ハイブリッドベクターを使用した形質転換細胞内の導入遺伝子発現の増大が報告されている33
【0003】
腫瘍溶解性ウイルス(OV)は、正常な健康な組織を害することなく、腫瘍細胞内で選択的に複製し、腫瘍細胞を破壊する1、2。それらは多様に作用する。ウイルス癌細胞の感染および増殖に続いて、腫瘍微小環境への子孫ウイルス粒子の放出に関連する腫瘍崩壊が起こる。これらの粒子は、隣接する癌細胞に感染し、2回目の溶菌感染を引き起こし、局所抗腫瘍効果の自己増幅をもたらすことができる。さらに、直接殺傷活性であるOVは、抗癌免疫を誘導することもできる3、4。実際、ウイルスが介在する癌細胞の殺傷は免疫原性であることが多く、腫瘍関連抗原、損傷関連分子パターンおよび病原体パターン(pathogen pattern)(DAMPおよびPAMP)の放出を伴い、これにより、腫瘍床への免疫細胞の動員を刺激し、腫瘍微小環境の免疫変換(immunoconversion)をもたらす。活性化された免疫細胞は、OVに直接感染していない癌細胞(例えば、小さな播種性転移)の排除に関与する。それらの抗癌活性の結果として、少なくとも9つの異なるウイルスファミリーに属する40以上の異なる腫瘍溶解性ウイルスが、現在、様々な悪性腫瘍に対する臨床試験の初期または後期段階で試験されている。悪性転移性黒色腫に対するGM-CSFをコードする遺伝子操作された単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus)(HSV)(タリモジーン・ラハーパレプベック、T-Vec、Imlygic(商標))について、米国および欧州で認められた販売承認により、2015年に1つの重要な画期的事項が達成された。他のOVが他の癌の治療のために近い将来に承認され得るという理にかなった最適性が存在する。ただし、独立した療法としてのOVは、腫瘍の完全な退縮を誘導することはほとんど報告されていない。OVの臨床転帰を改善するための主な取組みは、毒性副作用を被ることなく癌細胞を死滅させる点でOVと相乗作用する他の抗癌様式を探索することに向けられている。1つの非常に有望な手段は、OVと他の形態の免疫療法(例えば、チェックポイント遮断)との組合せである。一方、腫瘍の遺伝的特徴がウイルス生活環に有利であるためにOV治療から最も利益を得る可能性が高い患者を選択することも、臨床転帰を改善し、臨床コストおよび承認時間を削減する「スマート」臨床試験のデザインにつながる。ウイルス感染の様々な段階を調節する細胞決定因子を同定することによってウイルス生活環をさらによく理解することは、併用治療の合理的な設計と、患者層別化に使用されるバイオマーカーの同定とをともに導くために重要である。
【0004】
臨床的に意義のある腫瘍溶解性ウイルスの中には、ラットパルボウイルス(parvovirus)H-1PVがある。その抗癌能は、いくつかのインビトロ細胞系および動物モデルでは前臨床レベルで実証されている。例えば、髄芽腫細胞株では、パルボウイルス(parvovirus)H-1の腫瘍溶解効果が報告されている34。さらに、再発性神経膠芽腫に罹患している患者を対象とした最初の第I/IIa相試験の最近の完了により、独立型療法としてのH-1PV治療が安全であり、忍容性が良好であり、(i)静脈内送達後に血液脳(腫瘍)関門を通過する能力(ii)広範囲の腫瘍内分布および発現(iii)腫瘍微小環境の免疫変換、ならびに(iv)既存対照と比較して、無増悪/総生存期間の中央値の延長を含む有効性の最初の証拠と関連することが実証された。膵癌患者を対象としたもう1つの臨床試験が、現在、その評価段階にある。
【0005】
H-1PVは、小さな無エンベロープ一本鎖DNAウイルスである。5.1kbのそのゲノムは、その発現がそれぞれP4およびP38プロモーターによって調節される非構造(NS)単位および構造(VP)単位の2つの遺伝子単位に編成される。NS遺伝子単位はNS1、NS2非構造タンパク質をコードし、VP単位はVP1およびVP2カプシドタンパク質ならびに非構造SATタンパク質をコードする。NS1は、ウイルスDNA複製および遺伝子転写を調節する多機能タンパク質であり、H-1PV腫瘍崩壊の主要な作用因子である10
【0006】
PVの小さいゲノムサイズはタンパク質コード能力を制限し、これは、ウイルスDNA複製および遺伝子発現が宿主細胞因子に厳密に依存していることを暗示する。例えば、H-1PV複製は、急速に増殖する癌細胞に通常過剰発現するため、ウイルス腫瘍親和性(virus oncotropism)の重要な決定因子であるE2F、CREB、ATFおよびサイクリンA8、10などの細胞因子に依存することが知られている。さらに、NS1の活性は、リン酸化およびアセチル化などの翻訳後修飾によって調節される10、11。これらの修飾はまた、関与する細胞因子の一部が癌細胞内でアップレギュレートされるか変化するため(例えば、NS1リン酸化12に関与するPRKCH/PKCη)、ウイルス腫瘍親和性に寄与する。ただし、H-1PV生活環に何らかの役割を果たす細胞因子の多くは、依然として同定されていない。例えば、一部の癌細胞株がH-1PV感染に対して非常に感受性であるのに対して、同じ腫瘍実体に由来する他の癌細胞株は感受性が低いか、完全に抵抗性でさえある理由はほとんど分かっていない。細胞-宿主相互作用は、許容性のこれらの差を調節すると考えられている。例えば、いずれもウイルスの複製および感染性を支配する事象である、ウイルス細胞膜の付着および侵入、またはウイルスのサイトゾル輸送および核への移行のレベルで制限が起こり得る。
【0007】
ウイルスと宿主細胞との最初の遭遇は、宿主細胞膜上に露出した単一の受容体または受容体複合体への結合によって起こる。細胞表面分子の認識は、ウイルス感染を開始させるため、ウイル親和性および感染性の根底にある重要な決定因子である。パルボウイルス(Parvoviridae)科のメンバーの一部では機能性受容体が同定されているが(例えば、イヌおよびネコパルボウイルス(parvovirus)ではトランスフェリン受容体;いくつかのアデノ随伴ウイルス(adeno-associated virus)血清型ではラミニン受容体を含むいくつかの受容体および付着因子32、35~38)、H-1PV細胞膜認識に関与する受容体(複合体)は依然として分かっていない。細胞膜上に提示され、H-1PV細胞付着に必要な必須成分は、SA相互作用に関与するウイルスカプシド上にマッピングされた2つの残基を有するシアル酸(SA)であることが以前に同定された17。ただし、SAを介した細胞への最初の付着がH-1PV細胞膜の認識および侵入を媒介するのに十分であるかどうか、またはウイルスが、これらの事象のために、SAを有するかSAを有しないタンパク質受容体との追加の相互作用を必要とするかどうかは分かっていない。ウイルス細胞膜結合後、H-1PV細胞の侵入は、その属に属する他のメンバーとの相同性に基づいて、クラスリン媒介性エンドサイトーシスを介して起こると推定されている18。ただし、H-1PV細胞の侵入の特異的な機構は依然として把握されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、H-1PV細胞(共)受容体の同定に特に注目して、H-1PV生活環に関与する新規な細胞因子を同定することである。実際、ウイルス感染の成功のために存在する必要があるこれらの因子は、H-1PV治療に対する癌患者の応答を予測するためのバイオマーカーとして使用することができる。
【0009】
現在までのところ、H-1PVに対する治療転帰と相関する有効な予測バイオマーカーは同定されていない。
【0010】
臨床試験に関与する患者に由来する生体試料のプロファイリング、ならびにそれらのゲノム/プロテオミクスおよび臨床データのその後の分析は、予測バイオマーカーの発見および潜在的検証を可能にする可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、独立請求項の主題によって解決されている。好ましい実施形態は、従属請求項の主題である。
【0012】
一態様では、本発明は、患者の生体試料を少なくとも1つのアッセイに供して、ラミニンおよび/またはガレクチンから選択されるバイオマーカーの存在および/またはレベルを測定する工程を含む、癌に罹患している疑いのある患者が上記癌のためのH-1PV療法の候補であるかどうかを決定する方法であって、生体試料中にバイオマーカーが存在する場合、患者がH-1PVによる癌療法の候補として同定される方法を提供する。これらの因子(ラミニンおよび/またはガレクチン)が存在しないことはH-1PV治療に低感受性の腫瘍を示し得るため、それらが腫瘍内で発現することを検証することが重要である。これらの因子が存在しない場合、ウイルスは癌細胞の外側に留まり得る。
【0013】
本発明者らは、ラミニンおよびガレクチンファミリーのメンバーが、ウイルス細胞表面認識および侵入のレベルでH-1PV生活環の初期段階に中心的役割を果たすことを示す。さらに、本発明者らは、H-1PV感染性に対して異なる感受性を有する53の異なる癌細胞株を使用することによって、ラミニンおよび/またはガラクチン、特に、ラミニンβ鎖、ラミニンγ鎖およびガレクチン-1をそれぞれコードするLAMB1、LAMC1およびLGALS1の発現レベルとH-1PV腫瘍溶解活性との間に統計的に有意な正の相関を見出した。これらの結果は、ラミニンおよびガレクチンが、H-1PV感染の転帰を決定するための予後マーカーまたは予測マーカーとして役立ち得るという明確な証拠を提供する。
【0014】
上記のように、ラットプロトパルボウイルス(protoparvovirus)H-1PVは、現在臨床試験で評価されている腫瘍溶解性ウイルスである。再発性神経膠芽腫に罹患している患者を対象とした最初の第I/II相臨床試験では、H-1PV治療が安全であり、忍容性が良好であり、腫瘍微小環境の免疫変換、および有効性の代替証拠に関連することが示された。ウイルス感染性および腫瘍崩壊に必要な細胞決定因子の同定によるH-1PV生活環の機構的な理解は、臨床環境でウイルスをさらに効率的に適用するために絶対的に必要である。この改善された知見は、併用戦略の合理的なデザインを導き、さらに強力で効果的なウイルスの操作を助けるだけでなく、治療に応答する可能性が最も高い患者の選択に必要なバイオマーカーの同定にも寄与し得る。本発明では、本発明者らは、いくつかの異なるアプローチ(例えば、siRNAライブラリースクリーニング、機能獲得および喪失実験、競合実験など)を使用することによって、ラミニンおよびガレクチンファミリーのメンバーがH-1PV細胞表面認識および侵入に関与することを示す。ラミニンおよびガレクチンがH-1PV感染の決定に重要な役割を果たすという発見は、H-1PVの臨床使用にとって重要な意味を有する。例えば、本発明者らは、抗凝固剤として臨床診療で使用され、ラミニンに結合することが知られているヘパリンがH-1PV侵入を阻止し、それによってウイルス細胞感染および腫瘍崩壊を減少させ得ることを見出した。したがって、ウイルス治療とのヘパリンの同時使用および/または併用は慎重に考慮されるべきである。さらに、同定された遺伝子は、発癌に関与しており、低グレード脳グリオーマ(brain lower grade glioma)を含むいくつかの腫瘍型の予後不良のマーカーである。本発明者らは、これらの遺伝子の発現パターンがウイルス腫瘍親和性の決定因子の1つであり得ることから、これらの遺伝子がH-1PV治療の臨床応答を予測するためのバイオマーカーとして役立つことを想定した。本発明者らは、ラミニンおよびガレクチンの発現レベルとH-1PV感染に対する感受性が異なる53の癌細胞株に対してH-1PVが腫瘍崩壊を誘導する能力との間の直接的な相関を示すことによって、それに関する重要な証拠を提供する。
【0015】
高レベルのラミニンおよびガレクチンを発現する肺癌、CNS癌、乳癌、膵臓および黒色腫に由来する癌細胞株は、H-1PV感染に対して最も感受性であった。対照的に、ラミニンおよびガレクチンのレベルが低い結腸癌および卵巣癌に由来する細胞株は、H-1PV感染に対して最も耐性であった。
【0016】
本発明者らは、「The Cancer Genome Atlas」(TGCA、http://cancergenome.nih.gov)から得られたデータを使用して、特定の腫瘍について、LAMC1およびLGALS1発現レベルと患者生存率との間の反比例相関、すなわち、LAMC1およびLGALS1発現レベルが最も高ければ、生存率が最も不良であることを観察した。したがって、LAMC1過剰発現は、腎臓の乳頭状腎細胞癌(kidney renal papillary cell carcinoma)(KIRP)、低グレード脳グリオーマ(LGG)、胃腺癌(STAD)、膀胱尿路上皮癌(BLCA)、子宮頸部扁平上皮癌および子宮頸部腺癌(CESC)、直腸腺癌(READ)ならびに肺腺癌(LUAD)の予後不良のマーカーと考えられ得る。一方、LGALS1過剰発現は、LGG、腎臓腎明細胞癌(KIRC)、急性骨髄性白血病(LAML)およびBLCAの予後不良と関連している(P値<0.05)(図1C)。LAMC1過剰発現および/またはLGALS1過剰発現に起因して、普通であれば予後不良である上記の腫瘍は、H-1PV感染の理想的な候補であり、予後不良は、H-1PV感染に対するそれらの感受性に起因して、良好な予後に逆転される可能性がある。予後不良から良好またはさらに良好な予後への逆転は、患者の総生存期間および/または無増悪生存期間が、H-1PVに基づく治療によって改善または増強され得ることを意味する。以下にさらに詳細に示すように、肺癌、CNS癌、乳癌および黒色腫に由来する癌細胞株は、H-1PV感染に対して最も感受性であった。さらに、以前の結果と一致して、H-1PV感染に対して感受性の高い2つの遺伝子を比較的高レベルに発現する細胞株である神経膠芽腫細胞株では、LAMC1およびLGALS1 mRNAレベルとH-1PV腫瘍崩壊との間の正の相関が見出された。
【0017】
H-1PVは癌併用療法に特に適しているため、本発明はまた、それらの併用療法の治療効果を高めることにも寄与する。これに関して、H-1 PVを使用した癌併用療法が記載されているいくつかの特許および特許出願、例えば、欧州特許第2082745号明細書、欧州特許第2431045号明細書、欧州特許第2227240号明細書、国際公開第2010/139401号パンフレット、国際公開第2011/113600号パンフレット、欧州特許第3024491号明細書、国際公開第2016/128146号パンフレット、国際公開第2017/167626号パンフレットを参照されたい。
【0018】
用語「ラミニン」は、細胞外マトリックスの高分子量(約400~約900kDa)タンパク質を意味する。ラミニンは、ほとんどの細胞および器官のためのタンパク質ネットワークの基礎である基底層(基底膜の層のうちの1つ)の主要成分である。ラミニンは、細胞の分化、遊走および接着に影響を及ぼす、基底層の重要かつ生物学的に活性な部分である。ラミニンは、それぞれ5つ、4つおよび3つの遺伝的変異体に見出されるα鎖、β鎖およびγ鎖を含むヘテロ三量体タンパク質である。ラミニン分子は、その鎖組成に従って命名される。したがって、ラミニン511は、α5、β1およびγ1鎖を含む。15の他の鎖の組合せが組織では同定されている。この三量体タンパク質は交差して、他の細胞膜および細胞外マトリックス分子に結合することができる交差様構造を形成する。3つの比較的短いアームは、他のラミニン分子に結合する点で特に優れており、これにより、それらがシートを形成することが可能になる。長いアームは細胞に結合することができ、これにより、組織化された組織細胞を膜に固定するのを助ける。糖タンパク質のラミニンファミリーは、生物のほぼすべての組織内の構造的足場の不可欠な部分である。それらは分泌され、細胞関連細胞外マトリックスに組み込まれる。ラミニンは、組織の維持および生存に不可欠である。例えば、正常な結腸直腸組織および乳房組織では、LN111が通常見出される。ヒト胃粘膜では、LNα鎖2、3、6がさらに豊富である。他のラミニン鎖は、異なる発現パターンを有する。癌腫では、ラミニンの異常な発現も見出され得る19。欠損したラミニンは、筋肉の不適切な形成を引き起こし、筋ジストロフィー、致死的な皮膚水疱症(接合部型表皮水疱症)、および腎臓濾過の欠損(ネフローゼ症候群)の形態をもたらし得る。16のラミニン三量体が同定されている。ラミニンは、異なるα鎖、β鎖およびγ鎖の組合せである。
・α鎖の5つの形態は、LAMA1、LAMA2、LAMA3(3つのスプライス形態を有する)、LAMA4、LAMA5である。
・β鎖には、LAMB1、LAMB2、LAMB3、LAMB4が含まれる。
・γ鎖は、LAMC1、LAMC2、LAMC3である。
【0019】
用語「ガレクチン」は、N結合またはO結合グリコシル化のいずれかによってタンパク質に結合することができるN-アセチルラクトサミン(Galβ1-3GlcNAcまたはGalβ1-4GlcNAc)などのβ-ガラクトシド糖に特異的に結合するタンパク質のクラスを意味する。それらは、安定性のためのジスルフィド結合、および炭水化物結合に対する依存性のために、S型レクチンとも呼ばれる。哺乳動物では、LGALS遺伝子によってコードされる15のガレクチンが発見されており、これらは連続的に番号付けされている。ヒトでは、ガレクチン-1、-2、-3、-4、-7、-8、-9、-10および-12のみが同定されている。齧歯類では、ガレクチン-5および-6が見られるが、ガレクチン-11、-14および-15はヒツジおよびヤギに固有に見られる。大部分のレクチンとは異なり、それらは膜結合ではなく、細胞内および細胞外の両方の機能を有する可溶性タンパク質である。それらは、独特であるが重複する分布を有するが、主にサイトゾル、核、細胞外マトリックスまたは循環中に見出される。癌に果たすガレクチンの役割は、Ebrahimらによる概説論文に要約されている27。ガレクチンは、ラクトースなどのβ-ガラクトシドと相互作用する能力を有する保存された炭水化物認識ドメインを含むレクチンのファミリーを構成する。例えば、β-ラクトースがガレクチン-1に結合し、このタンパク質の機能性に影響を及ぼす配座変化を誘導することが見出された28。本発明では、本発明者らは、ガレクチン-1と相互作用することによって、β-ラクトースがH-1PV感染/形質導入を減少させることを示した。
【0020】
用語「療法」、「治療薬」、「治療」および「治療する」は、本明細書では、(1)そのような用語が適用される疾患状態または状態の症状の進行、増悪または悪化を減速または停止させること、(2)そのような用語が適用される疾患状態または状態の症状を緩和するか、その改善をもたらすこと、および/または(3)そのような用語が適用される疾患状態または状態を逆転させるか、治癒させることを目的とする治療方法またはプロセスを特徴付けるために使用される。
【0021】
用語「総生存期間(OS)」は、治療中および治療後に患者が生存する時間の長さを指す。当業者が理解するように、患者が、患者の別のサブグループと比較して統計的に有意に長い平均生存時間を有する患者のサブグループに属する場合、患者の総生存期間が改善または増強される。
【0022】
用語「無増悪生存期間(PFS)」は、治療医師または治験責任医師の評価によれば、その間、患者の疾患は悪化しない、すなわち進行しない、治療中および治療後の時間の長さを指す。当業者が理解するように、患者が、同様の状態にある患者の対照群の平均無増悪生存期間よりも、疾患が進行しない長い期間を有する患者のサブグループに属する場合、患者の無増悪生存期間が改善または増強される。
【0023】
本明細書では、用語「基準レベル」は、所定の値を指す。当業者が理解するように、基準レベルは予め決定され、例えば、特異性および/または感度に関して要件を満たすように設定される。これらの要件は、例えば、規制機関ごとに異なり得る。例えば、アッセイの感度または特異性をそれぞれ特定の限界、例えば、80%、90%または95%に設定しなければならないことであり得る。これらの要件はまた、陽性または陰性の予測値に関して定義され得る。とはいえ、本発明で与えられる教示に基づいて、それらの要件を満たす基準レベルに到達することは常に可能である。一実施形態では、基準レベルは、健康な個体を対象に決定される。一実施形態では、基準値は、患者が属する疾病を対象に予め決定されている。特定の実施形態では、基準レベルは、例えば、検討される疾病における値の全体的な分布の25%~75%の任意の割合に設定され得る。他の実施形態では、基準レベルは、例えば、検討される疾病における値の全体的な分布から決定される中央値、三分位値または四分位値に設定され得る。一実施形態では、基準レベルは、検討される疾病における値の全体的な分布から決定される中央値に設定される。
【0024】
用語「予後」は、疾患の起こり得る転帰、ならびに症例の性質および症状によって示される疾患からの回復の見込みに関する予測を指す。したがって、負の予後または予後不良は、治療後生存期間または生存率の低下によって定義される。逆に、正の予後または良好な予後は、治療後生存期間または生存率の上昇によって定義される。通常、予後は、無増悪生存期間または総生存期間として提供される。
【0025】
用語「療法の監視」は、本発明の目的では、癌療法を受ける対象の疾患進行を観察することを意味する。換言すれば、治療中の対象は、適用された療法の効果について定期的に監視され、これにより、医師は、治療中の初期段階で、処方された治療が有効であるかどうかを推定することができ、したがって、それに応じて治療計画を調整することができる。
【0026】
本明細書で使用される場合、用語「対象」または「患者」は、限定するものではないが、特定の治療のレシピエントとなるヒト、非ヒト霊長類、齧歯類などを含む任意の動物(例えば、哺乳動物)を指す。典型的には、用語「対象」および「患者」は、本明細書では、ヒト患者に関して区別なく使用される。本明細書で使用される場合、用語「癌を有する疑いのある対象」は、癌(例えば、顕著な塊または腫瘤)を示す1つ以上の症状を呈する対象を指す。「癌を有する(疑いのある)対象」は、初期診断(例えば、腫瘤を示すCTスキャン)を受けたが、癌のサブタイプまたはステージが分からない個体を包含する。この用語にはさらに、以前に癌を有した人(例えば、寛解状態の個体)、および癌を有し、原発性腫瘍の転移拡散を有する疑いのある人が含まれる。
【0027】
用語「癌」および「癌細胞」は、多細胞生物の組織または器官内で、制御されない増殖を示す任意の細胞を指す。本発明に関連して特に好ましい癌は、結腸直腸癌、膵癌、胃癌、皮膚癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、肝細胞癌、子宮頸癌、卵巣癌、肝癌、膀胱癌、腎癌(kidney cancer)、尿路の癌、甲状腺癌、腎癌(renal cancer)、黒色腫、白血病、頭頸部癌、多発性骨髄腫または脳癌である。好ましい実施形態では、脳癌は神経膠芽腫であり、肺癌は非小細胞肺癌であり、膵癌は膵管腺癌であり、乳癌は浸潤性乳管癌であり、皮膚癌は黒色腫であり、結腸癌は結腸腺癌である。
【0028】
本明細書で使用される用語「生体試料」は、取得され、本発明によって開示されるラミニンおよび/またはガレクチンのいずれか1つ、またはそれらの遺伝子発現についてアッセイされ得る試料を指す。生体試料には、生体液(例えば、血液、脳脊髄液、尿、血漿、血清)、組織生検材料などが含まれ得る。いくつかの実施形態では、試料は、組織試料、例えば、腫瘍組織であり、新鮮、凍結または保管パラフィン包埋組織であり得る。特定の組織、器官または局所領域に由来する特定の生体液、および特定の他の生体液は、対象または生物学的供給源では比較的全体的または全身的に位置し得る。生体液の例には、血液、血清、血漿、リンパ液、尿、脳脊髄液、唾液、分泌組織および器官の粘膜分泌物、膣分泌物、腹水液、例えば、非固形腫瘍に関連するもの、胸膜、心膜、腹膜、腹腔および他の体腔の液などが挙げられる。生体液にはまた、対象または生物学的供給源と接触した液体溶液、例えば、細胞または器官馴化培地を含む細胞および器官培養培地、洗浄液などが含まれ得る。特定の非常に好ましい実施形態では、生体試料は血清であり、特定の他の非常に好ましい実施形態では、生体試料は生検材料である。
【0029】
本発明はさらに、癌に罹患している疑いのある患者がH-1PV療法の候補であるかどうかを予測するためのキットに関し、このキットは、
(a)ラミニンおよび/またはガレクチンからなる群から選択されるバイオマーカーのレベルを測定するための手段と、
b)場合により、癌に罹患している疑いのある患者がH-1PV療法の候補であるかどうかを予測する際の上記キットの使用のための指示を与えるラベルとを含む。
【0030】
本発明の上記の方法および使用は、例えば、インビトロまたはエクスビボの方法および使用であり得る。
【0031】
ラミニンおよび/またはガレクチンタンパク質の発現レベルを測定するための手段は、当技術分野で周知であり、ELISAアッセイなどのイムノアッセイを含む。この方法は、ラミニンまたはガレクチンタンパク質に結合する抗体、例えば、モノクローナルもしくはポリクローナル抗体、抗体変異体もしくは断片、例えば、一本鎖抗体、ダイアボディ、ミニボディ、一本鎖Fv断片(sc(Fv))、Sc(Fv)2抗体、Fab断片もしくはF(ab’)2断片、または単一ドメイン抗体を含む。そのような抗体、例えば、マウスモノクローナル抗ラミニンγ-1、マウスモノクローナル抗ラミニンβ-1またはウサギポリクローナル抗ガレクチン-1は、当技術分野で周知であり、市販されている。それらはまた、ラミニンまたはガレクチンタンパク質による動物(例えば、ウサギ、ラットまたはマウス)の免疫化によって特に得られ得る。抗体は、ウエスタンブロッティング、免疫組織化学/免疫蛍光(すなわち、固定細胞または組織に対するタンパク質検出)、RIA(放射-結合イムノアッセイ(radio-linked immunoassay))などのラジオイムノアッセイ、ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)、「サンドイッチ」イムノアッセイ、免疫沈降アッセイ、免疫拡散アッセイ、凝集アッセイ、補体結合アッセイ、免疫放射線アッセイ、蛍光イムノアッセイ、例えば、FIA(蛍光-結合イムノアッセイ(fluorescence-linked immunoassay))、化学発光イムノアッセイ、ECLIA(電気化学発光イムノアッセイ)およびプロテインAイムノアッセイなどの技術を使用する競合アッセイ系および非競合アッセイ系を含む様々な免疫学的アッセイにおいてタンパク質発現を決定するために使用され得る。そのようなアッセイは常用的であり、当業者に周知である(Ausubel et a/(1994)Current Protocols in Molecular Biology,Vol.1,John Wiley&Sons,lnc.,New York)。
【0032】
ラミニンまたはガレクチンのタンパク質発現は、質量分析アッセイ(LC-MSまたはLC-MS/MS)などのプロテオーム法によって決定され得る。当技術分野では、定性的および定量的質量分析技術が公知であり、使用される。この目的のために、マーカータンパク質に特異的な標的ペプチドが選択され、安定同位体によって標識された合成ペプチドを用いて確立された較正曲線に基づいて定量される。規定された量の同位体標識標的ペプチドを添加した酵素消化物を、質量分析と組み合わせた液体クロマトグラフィーにより分析する。標識標的ペプチドと非標識標的ペプチドとの間の比を測定して、標的ペプチド濃度、したがってタンパク質マーカー濃度を評価する。
【0033】
ラミニンまたはガレクチンの発現レベルを測定するための手段はまた、例えば、反応緩衝液および/または洗浄緩衝液などの試薬を含み得る。手段は、例えば、バイアルまたはマイクロタイタープレートに存在していても、プライマーおよびプローブの場合のようにマイクロアレイなどの固体支持体に結合されていてもよい。
【0034】
ラミニンおよびガレクチンの遺伝子発現レベルを測定するための他の方法はまた、核酸分析、すなわち、限定するものではないが、RT-PCR、デジタルPCR、ナノストリング技術、マイクロアレイ、FISHおよびノーザンブロットを含むmRNAレベルに基づいてもよい。
【0035】
ここで、以下の例では、添付の図面を参照して本発明をさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】siRNAライブラリースクリーニングは、H-1PV生活環の調節因子としてLAMC1およびLGALS1を明らかにする。 A、プロトコルデザイン。6,961のsiRNAプール(4つのsiRNA/プール/遺伝子)からなる完全なsiRNAヒトドラッガブルゲノムライブラリー(Qiagen)を96ウェルプレートに3連でスポットし(1つのプール/ウェル)、次いでHeLa細胞に逆トランスフェクトした。48時間後、EGFPレポーター遺伝子を有する組換えH-1PV(recH-1PV-EGFP)に細胞を感染させた。H-1PV形質導入効果の測定として、感染の24時間後にEGFPシグナルを定量した。内部陽性対照および内部陰性対照を各プレートに加えて、材料および方法に記載されているようにプレート間および日ごとの変動性を確認した。 B、siRNAライブラリースクリーニングにより、H-1PV生活環の活性化因子としてLAMC1およびLGALS1を同定した、 C、LAMC1およびLGALS1は、様々な異なる癌でアップレギュレートされ、予後不良のマーカーである。The Cancer Genome Atlas(TCGA、http://cancergenome.nih.gov)から得られた遺伝子発現データおよび臨床情報を検討して、21の癌型におけるLAMC1およびLGALS1の遺伝子発現と患者生存率との関連を調査した。視覚化を容易にするために、各癌型(Y軸)について、(Cox検定)p値の-log10をX軸に示す。黒点線は、p=0.05の位置を示す。LAML:急性骨髄性白血病;BLCA:膀胱尿路上皮癌;LGG:低グレード脳グリオーマ;BRCA:浸潤性乳癌;CESC:子宮頸部扁平上皮癌および子宮頸部腺癌;COAD:結腸腺癌;ESCA:食道癌;GBM:多形神経膠芽腫;HNSC:頭頸部扁平上皮癌;KIRC:腎臓腎明細胞癌;KIRP:腎臓の乳頭状腎細胞癌;LIHC:肝細胞癌;LUAD:肺腺癌;LUSC:肺扁平上皮癌;OV:卵巣漿液性嚢胞腺癌;PAAD:膵腺癌;READ:直腸腺癌;SARC:肉腫;SKCM:皮膚黒色腫(skin cutaneous melanoma);STAD:胃腺癌、UCEC:子宮体部子宮内膜癌(uterine corpus endometrial carcinoma)。
図2】ラミニンγ1はH-1PVの細胞受容体である。 A、LAMC1のサイレンシングはH-1PV細胞取り込みを減少させる。HeLa細胞に、対照siRNA、またはLAMC1の2つの別個の領域を標的とする2つの異なるsiRNAをトランスフェクトした。トランスフェクションの46時間後、細胞をH-1PV(MOI1、pfu/細胞)に37℃で4時間かけて感染させた。細胞を回収し、ウイルスDNAを、QiAamp MinElute Virus Spinキットを使用して抽出し、次いで、材料および方法に記載されているようにqPCRを使用して定量した。結果は、対照siRNAに対して正規化された細胞関連ウイルスゲノムの%として示される。列の上部の数字は、3連の実験からの相対標準偏差バーとともに、平均H-1PV取り込み値を示す。ウエスタンブロット分析により、ローディング対照としてβ-チューブリンを使用して、siRNAトランスフェクト細胞内のLAMC1のダウンレギュレーションを確認した。 B、LAMC1のサイレンシングはH-1PV形質導入を減少させる。HeLa細胞に、パネルAに使用したのと同じsiRNAをトランスフェクトした。トランスフェクションの46時間後、細胞をrecH-1PV-EGFP(1TU、GFP/細胞)に感染させ、さらに24時間増殖させた。次いで、細胞を固定し、透過処理し、DAPIを用いて染色した。BZ-9000蛍光顕微鏡(Keyence)を用いて20倍対物レンズを使用して画像を取得した。数字は、対照siRNAをトランスフェクトした細胞で得られたものに対して正規化されたGFP陽性細胞の割合(%)を示す。
図3】LAMC1のサイレンシングはH-1PV腫瘍毒性(oncotoxicity)から細胞を保護する。HeLa細胞に対照またはLAMC1 siRNAをトランスフェクトした。トランスフェクションの72時間後、細胞をH-1PV(MOI0.25、pfu/細胞)に感染させ、またはH-1PVに感染させずに、さらに72時間増殖させた後、材料および方法に記載されているようにCellTitre-Glo 2.0アッセイによって細胞生存率の測定を行った。列の上部の数字は、非感染細胞に対して正規化された細胞生存率の%を表す。
図4】LAMC1抗体はH-1PV細胞取り込みを損なう。 HeLa細胞を、IgGアイソタイプ(対照)、無関係なエフリンB型受容体(EPHB2)またはラミニンγ1(LAMC1)抗体のいずれかと氷上で45分間インキュベートした。細胞をH-1PV(MOI0.25 pfu/細胞)を用いて最初に氷中で30分間処理し、次いで無血清培地中37℃で60分間処理することによって、H-1PV細胞膜結合/侵入アッセイを行った。次いで、図2Aの凡例に記載されているように細胞を処理した。
図5】LAMC1のCRISPR-Cas9媒介性ノックダウンは、外因性LAMC1の再導入によって救済されるH-1PV取り込みを損なう。親HeLaおよびLAMC1 KD(CRISPR(商標)Cas9技術を使用して構築されたLAMC1ノックダウンHeLa細胞株)に、空ベクター(+ベクター単独)、またはLAMC1を発現するベクター(+LAMC1)のいずれかをトランスフェクトしたかトランスフェクトしなかった。トランスフェクションの48時間後、ウイルス取り込みアッセイのために、細胞をH-1PV(MOI100 pfu/細胞)に37℃で4時間かけて感染させた。次いで、図2Aの凡例に記載されているように細胞を処理した。
図6】LAMC1の過剰発現はH-1PV細胞取り込みを増強する。 A、HeLa細胞に、空ベクター(+ベクター単独)、またはLAMC1を有するベクターのいずれかをトランスフェクトした。次いで、図2Aに記載されているように細胞を処理した。B、HeLaにおけるLAMC1の過剰発現はH-1PV形質導入を増強する。HeLa細胞に、ベクター単独、またはLAMC1を発現するベクターのいずれかをトランスフェクトした。トランスフェクションの46時間後、細胞をrecH-1PV-EGFP(0.25TU、GFP/細胞)に感染させ、さらに24時間増殖させ、図2Bの凡例に記載されているように処理した。統計学的有意性は、対応のない両側スチューデントt検定によって計算し、*<p-0.05;**<p-0.01;***<p-0.001であった。
図7】ヘパリンによる処理はH-1PV細胞取り込みを減少させる。 A、ヘパリナーゼIIIによる細胞表面ヘパラン硫酸の除去ではなくヘパリンによる処理は、H-1PV取り込みを損なう。HeLa細胞をヘパリナーゼIII(0.1U/ml)またはヘパリン(50μg/ml)を用いて18時間前処理した後、H-1PV(MOI1、pfu/細胞)に37℃で4時間かけて感染させた。次いで、図2Aに記載されているように細胞を処理した。 B、ヘパリンは濃度依存的にH-1PV取り込みを損なう。HeLa細胞を漸増量のヘパリン(μg/ml)と24時間プレインキュベートし、次いで、H-1PV(MOI1、pfu/細胞)に37℃で4時間かけて感染させた。ウイルス細胞結合/侵入を阻止するための陽性対照として、ノイラミニダーゼ(NA)[0.1U/ml]を使用した。インキュベーションの終了時に、図2Aに記載されているように細胞を処理した。結果は、HeLa未処理細胞と比較した細胞関連ウイルスゲノム(%)として示される。 C、ヘパリンによる処理はH-1PV形質導入を損なう。HeLa細胞をヘパリン(100μg/ml)と18時間プレインキュベートし、次いで、さらに24時間かけてrecH-1PV-EGFP(TU0.5、GFP/細胞)に感染させた。次いで、図2Bに記載されているように細胞を処理した。 D、ヘパリンによる処理は、H-1PV腫瘍毒性から細胞を保護する。HeLa細胞をヘパリン(100μg/ml)またはNA(0.1U/ml)を用いて18時間前処理し、次いで、H-1PV(MOI1、pfu/細胞)に96時間かけて感染させた。CellTitre-Glo 2.0アッセイによって細胞生存率を評価した。結果は、未処理細胞に対して正規化された細胞生存率%として示される。未処理細胞または処理細胞の代表的な位相差顕微鏡画像も示す(E)。
図8】γ1鎖を含む可溶性ラミニンによる処理はH-1PV形質導入を損なう。 HeLa細胞を2μg/mlの示したラミニンまたはフィブロネクチンと24時間プレインキュベートし、次いで、recH-1PV-EGFP(TU0.5、GFP/細胞)にさらに27時間かけて感染させた。ウイルス感染を阻止するための陽性対照として、ノイラミニダーゼ(NA)[0.1U/ml]を使用した。次いで、図2Bの凡例に記載されているように細胞を処理した。
図9】LAMB1はH-1PV細胞侵入に何らかの役割を果たす。 A、LAMB1のサイレンシングはH-1PV感染性を低下させる。HeLa細胞に、対照siRNA、または遺伝子の異なる領域を標的とする2つのLAMB1 siRNAをトランスフェクトした。トランスフェクションの46時間後、細胞をH-1PV(MOI1、pfu/細胞)に感染させた。細胞結合/侵入アッセイを37℃で4時間行い、次いで、細胞を図2Aに記載されているように処理した。ウエスタンブロット分析により、LAMB1のsiRNA媒介性ダウンレギュレーションを確認した。ローディング対照としてβ-チューブリンを使用した。 B、siRNAによるLAMB1のダウンレギュレーションはH-1PV形質導入を減少させる。HeLa細胞に対照siRNAまたはLAMB1 siRNAをトランスフェクトした。トランスフェクションの46時間後、細胞をrecH-1PV-EGFP(TU0.5 GFP/細胞)に24時間かけて感染させた。次いで、図2Bに記載されているように細胞を処理した。
図10】ガレクチン-1はH-1PV侵入にも関与する。 A、LGALS1のサイレンシングはH-1PV細胞取り込みを減少させる。LGALS1の2つの異なる領域を標的とする2つのsiRNAを使用して、図2Aに記載されているように実験を行った。LGALS1サイレンシング効率を制御するために、ウエスタンブロット分析を行った。 B、LGALS1のsiRNA媒介性ダウンレギュレーションはH-1PV形質導入を減少させる。図2Bに記載されているように実験を行った。
図11】LAMC1、LAMB1およびLGALS1のダウンレギュレーションはH-1PV腫瘍毒性から細胞を保護する。 HeLa細胞に、対照siRNA、またはLAMC1、LAMB1もしくはLGALS1を標的とするsiRNAをトランスフェクトした。トランスフェクションの72時間後、細胞をH-1PV(MOI0.25 pfu/細胞)に感染させた。ウイルス細胞膜結合/侵入を阻止するための対照として、0.1U/mlの濃度のノイラミニダーゼ(NA)を使用した。感染の72時間後、CellTitre-Glo 2.0アッセイによって細胞生存率を評価した。結果は、非感染細胞と比較した細胞生存率の割合(%)として示される。列の上部の数字は、相対標準偏差バーとともに、6回の生物学的複製から得られた平均細胞生存率値を示す。統計学的有意性は、対応のない両側スチューデントt検定によって計算し、*<p-0.05;**<p-0.01;***<p-0.001であった。
図12】LAMC1、LAMB1およびLGALS1はH-1PVウイルス細胞膜結合/侵入に関与する。 HCT116(A)およびA549(B)癌細胞株を使用して、LAMC1、LAMB1およびLGALS1がH-1PV細胞取り込みに関与することを示す、HeLa細胞で得られた結果を確認した。細胞に、示したsiRNAをトランスフェクトし、図2Aに記載されているように処理した。結果は、対照siRNAに対して正規化された細胞関連ウイルスゲノム(%)として示される。ウエスタンブロット分析-βチューブリンをローディング対照として使用した、タンパク質レベルでの3つの遺伝子の対照siRNA媒介性ダウンレギュレーション。
図13】NCI-60癌細胞株のスクリーニングは、H-1PV腫瘍毒性の重要な決定因子としてのLAMC1およびLGALS1を明らかにする。 A、細胞増殖分析。xCELLigence Real-Time Cell Analyser(ACEA Biosciences,Inc)を使用することによって、H-1PV感染に対する感受性について、NCI60パネルに属する53の癌細胞株を試験した。癌細胞株を未処理のままにしたか、示したH-1PV感染多重度(MOI、プラーク形成単位(pfu)/細胞)に感染させた。細胞増殖を合計168時間にわたりリアルタイムで監視し、正規化細胞指数(CI)として表した。1つのH-1PV感受性(SNB-75)および1つのH-1PV耐性(COLO205)癌細胞株の速度論的応答プロファイルを代表例として示す。 B、EC50値の計算。xCELLigence分析によって得られたCI値を使用して、感染後の4つの時点(24、48、72および96時間、補足図2も参照)でのEC50値(細胞集団の50%を死滅させるウイルスMOI)を計算した。72時間に対応するEC50値に基づいて、示した6つの群に癌細胞株を分類した。 C、比較遺伝子発現分析。利用可能な遺伝子発現プロファイルデータセットを使用してH-1PV感受性癌細胞株対非感受性[MOI(pfu/細胞)50に耐性]癌細胞株の遺伝子発現プロファイルを比較したDTP-COMPARE分析[https://dtp.cancer.gov/databases_tools/compare.htm]のインプットとして、EC50値(72時間)を使用した。この方法によって、推定H-1PV抑制因子(H-1PV耐性癌細胞株でアップレギュレートされ、および/または感受性癌細胞株でダウンレギュレートされる遺伝子)および活性化因子(感受性癌細胞株でアップレギュレートされ、および/または耐性癌細胞株でダウンレギュレートされる遺伝子)を同定した。 D、示差的発現分析。CellMiner生物情報学ツール[https://discover.nci.nih.gov/cellminer/]を利用して、NCI-60癌細胞株のパネルから得られた遺伝子発現データを検索した。次いで、検索したデータを調整し、前処理し、6つの非感受性[MOI(pfu/細胞)50に耐性]と47のH-1PV感染感受性とを比較することによって得られた遺伝子発現データを統合することによって変換した。次いで、H-1PV生活環に関与する候補遺伝子の同定に、Limma+B&H補正に基づく示差的発現分析を適用した(p<0.05)。 E、ベン図。共通のH-1PV活性化因子を同定するために、DTP-COMPAREおよび示差的発現分析から得られた推定活性化因子の一覧を統合した。
図14】H-1PV生活環の共通の活性化因子を同定するためのデータセット統合。 a、ベン図。siRNAライブラリー(図1)およびNCI-60癌細胞株(図13)スクリーニングから得られた2つのデータセットの統合により、H-1PV生活環の強力な活性化因子としてLAMC1およびLGALS1を同定した。
図15】LGALS1のCRISPR-Cas9媒介性ノックアウトは、外因性LGALS1の再導入によって救済されるH-1PV形質導入を損なう。ウエスタンブロット分析により、NCH125-LGALS1KO細胞におけるLGALS1のCRISPR-Cas9媒介性ノックアウトを確認した。ガレクチン-1をコードするプラスミド(pLGALS1-mCherry)の一過性トランスフェクション後に、これらの細胞ではLGALS1発現が再確立された。ローディング対照としてβ-チューブリンを使用した。NCH125-LGALS1KO細胞(LGALS1KO)に、pLGALS1-mCherryをトランスフェクトしたかトランスフェクトしなかった。トランスフェクションの48時間後、細胞をrecH-1PV-EGFP(0.3TU、GFP/細胞)に感染させ、さらに24時間増殖させた。数字は、NCH125-対照で得られたものに対して正規化されたEGFP陽性細胞の割合(%)を示す。統計学的有意性は、対応のない両側スチューデントt検定によって計算した*<p-0.05、**p-0.01、***p-0.001。
図16】神経膠芽腫細胞株では、LAMC1およびLGALS1 mRNA発現レベルは、細胞溶解を誘導するH-1PV有効性と相関する。 A、示した神経膠腫由来細胞株をH-1PV(MOI10、pfu/細胞)に72時間かけて感染させた後、LDHアッセイのために処理して、H-1PV誘導性細胞溶解を測定した。 B、全RNAの単離後、Nanostring分析によって、6つの神経膠芽腫細胞株のLAMC1およびLGALS1 mRNA発現レベルを測定した。値は、ハウスキーピング遺伝子としてATCB1、RPL19およびGAPDHを使用して正規化した。列の上部の数字は、H-1PV高感受性癌細胞株(NCH125またはNCH37)と低感受性癌細胞株(U251、LN308、T98GおよびA172-MG)との間の遺伝子発現倍数変化を示す。
図17】β-ラクトースによる前処理はH-1PV形質導入を減少させる。HeLa細胞を200mMのβ-ラクトースと30分間プレインキュベートし、次いで、recH-1PV-EGFP(TU0.3、GFP/細胞)にさらに24時間かけて感染させた。次いで、図2Bの凡例に記載されているように細胞を処理した。統計学的有意性は、対応のない両側スチューデントt検定によって計算した*<p-0.05、**p-0.01、***p-0.001。
【0037】

例1:材料および方法
細胞株
子宮頸癌由来HeLa細胞株は、Angel Alonso(German Cancer Research Center、Heidelberg,Germany)から寄贈された。形質転換されたヒト胎児腎HEK293T細胞株は、ATCC(LGS Standards GmBH、Wesel,Germany)から入手した。結腸直腸癌(colon colorectal carcinoma)由来HCT116、および肺腺癌由来A549細胞株は、国立癌研究所(Rockville,Maryland US)により入手した。10%ウシ胎児血清(FBS;Gibco、Thermo Fisher Scientific、Darmstadt,Germany)および2mM L-グルタミン(Gibco)を添加したダルベッコ改変イーグル培地中で、HeLa、HEK293TおよびLAMC1-KD(LAMC1発現がCRISPR-Cas9技術によってダウンレギュレートされた、本試験で確立された操作されたHeLa細胞株)を増殖させた。LAMC1-KDの場合、クローン選択、増殖および維持のために、2μg/mlピューロマイシンを培地に加えた。10%FBSおよび2mM L-グルタミンを加えたRPMI培地中で、HCT116およびA549癌株を増殖させた。この試験で使用したNCI 60パネルに属する53の癌株はいずれも、10%FBSおよび2mM L-グルタミンを加えたRPMI培地中で増殖させた。全細胞株を37℃、5%COおよび90%湿度中で増殖させた。細胞株については、ヒト細胞認証試験(Multiplexion GmbH、Mannheim,Germany)によってその同一性を検証し、頻繁に試験し、VenorGEM OneStepマイコプラズマ(Mycoplasma)汚染キット(Minerva biolabs、Berlin,Germany)を使用してマイコプラズマ(mycoplasma)汚染がないことを確認した。
【0038】
H-1PV形質導入の高含有量siRNAベースのスクリーニング
Qiagen(Hilden,Germany)から、6,961個の細胞遺伝子を標的とするsiRNAプール(4つのsiRNA/プール)を含むヒトドラッガブルゲノムsiRNA Set 4.0ライブラリーを購入した。ライブラリーをスポットし、次いで、INTERFERin試薬(Polyplus-transfection SA、Illkirch France)を使用して、Greiner μClear 96ウェルマイクロプレートで増殖させたHeLa細胞に逆トランスフェクトした。最小の毒性で90~95%のトランスフェクション効率に達するようにハイスループットトランスフェクションプロトコルを最適化した。スクリーニングは、技術的な3連で行った。同じ細胞継代(n=3、解凍後)、血清およびトランスフェクション剤バッチを全プレートに使用して、生物学的変動性を制限した。各マイクロプレートに、以下の内部対照siRNAを使用して、プレート間および日ごとの変動を制御した:(i)NS1-siRNA5:5’GAATGGTTACCAATCTACC3’、NS1コード領域を標的とするsiRNA、NS1タンパク質がウイルス形質導入に必須であることから陽性対照として使用、(ii)スクランブルsiRNA:5’AATTCTCCGAACGTGTCACGT3’、非標的化siRNA、陰性対照として使用(Qiagen)、および(iii)ポロ様キナーゼ1遺伝子(PLK1)siRNA:PLK1遺伝子のサイレンシングが細胞死をもたらすことから、この遺伝子を標的とする5’CAACCAAAGTCGAATATGA3’をトランスフェクション効率制御として使用。トランスフェクションの2日後、細胞をrecH-1PV-EGFP(EGFPを発現する組換えH-1PV)20にMOI0.35 pfu/細胞で感染させ、さらに24時間増殖させた。次いで、プレートを固定し、DAPIを用いて染色し、蛍光イメージングに供して、GFP陽性細胞の割合を決定することによってH-1PV形質導入効率を定量した。siRNA、トランスフェクション試薬、細胞およびウイルスのプレート分配に、TECAN Freedom EVO液体処理ワークステーションを使用した。GE Healthcare Life Sciences INCELL1000 HCS落射蛍光顕微鏡(Freiburg,Germany)を用いてハイスループット細胞イメージングを行い、1マイクロウェル当たり平均25,000個の細胞を分析した。Multi Target Analysisソフトウェア(GE Healthcare Life Sciences、Chicago,Illinois,US)を使用して、細胞核を可視化し(DAPI染色)、GFP共局在を定量して、形質導入された細胞の割合を決定した。次いで、本発明者らの細胞セグメント化プロトコルを適用して、分析したDAPI染色細胞1個当たりのGFPシグナル強度を決定した。RReportGeneratorソフトウェアを用いて単一細胞データを分析し、統計学的有意性を決定した21
【0039】
プラスミド構築
Addgene(Cambridge,MA,US)からlentiCRISPRv1プラスミド22を購入した。LAMC1特異的sgRNA GATGGACGAGTGCACGGACGAをオンライン設計ツール(http://crispr.genome-engineering.org/)を使用して設計し、次いで、BsmBI消化lentiCRISPRv1プラスミドにクローニングした。U6プロモーターによる効率的な認識のために、Gヌクレオチド(太字)をsgRNAに付加した。LAMC1特異的ガイドRNAを発現する得られた組換えレンチウイルスをlentiCRISPRv1-sgLAMC1と命名した。機能獲得実験のために、pCAG-LAMC1-S/MAR発現ベクターを作製した。pTriEX-1(Winfried Stocker(EuroImmun、Luebeck,Germany)の厚意により寄贈)にクローニングされた、ラミニンγ-1をコードする全長LAMC1遺伝子をPCRの鋳型として使用した。PCR増幅は、以下のプライマーを用いて行った:CloneAmp HiFi PCR Premix(Takara Bio、Mountain View,CA US)とともに、LAMC1.FOR 5’-AAGAATATCAAGATCATGAGAGGGAGCCATCGGG-3’およびLAMC1.REV 5’-CGCCGAGGCCAGATCCTAGGGCTTTTCAATGGACGGG-3’。次いで、In-Fusion HDクローニングキット(Takara Bio-Europe、Saint-Germain-en-Laye,France)を使用して、BglII消化pCAG-S/MAR(Richard Harbottle(German Cancer Research Center、Heidelberg,Germany)の厚意により提供)にPCR断片をクローニングした。
【0040】
ウイルス作製
以前に記載されているように17、野生型H-1パルボウイルス(parvovirus)(H-1PV)を作製し、精製し、滴定した。El-Andaloussiら20に記載されているプロトコルに従って、緑色蛍光タンパク質コード遺伝子を内包する組換えH-1PV(recH-1PV-EGFP)を作製した。以前に記載されているように22、LAMC1特異的ガイドRNAを発現するレンチウイルス(lentiCRISPRv1-sgLAMC1)を作製した。要約すると、製造業者のプロトコルに従ってLipofectamine LTXおよびPlus試薬(Life Technologies Europe bv、Bleiswijk,Netherlands)を使用して、293T細胞に、比(2:1.5:1)でプラスミドlentiCRISPRv1-sgLAMC1、psPAX2(Addgene、Cambridge,Massachusetts,USA)およびpMD2.G(Addgene)をトランスフェクトした。トランスフェクションの70時間後、レンチウイルス粒子を含有する培養培地を除去し、遠心分離し、細胞片を廃棄した。0.45μMフィルター(Millipore Steriflip HV/PVDF)(Merck Millipore、Burlington,MA,USA)を通して上清を濾過し、PEG-it(BioCat Gmbh、Heidelberg,Germany)を用いて100倍濃縮し、10%FBS、2mM L-グルタミンおよび1%BSAを含有するDMEM細胞培養培地に再懸濁した。レンチウイルスのアリコートを-80℃で保存した。Global UltraRapid Lentiviral Titerキット(SBI System Biosciences、Palo Alto,CA,USA)を使用して、レンチウイルス滴定を行った。
【0041】
LAMC1-KD細胞株の作製
LAMC1-KD細胞を作製するために、5×10のHeLa細胞を24ウェルプレートに播種し、lentiCRISPRv1-sgLAMC1 DNAを内包する9.5×10IFU(100μl)のレンチウイルス粒子に感染させた。24時間後、同じ量のレンチウイルスを用いて感染を繰り返し、細胞をさらに24時間増殖させた。感染細胞の選択のために、10%FBS、2mM L-グルタミン、1%BSAおよび2μg/mlピューロマイシンを添加したDMEM細胞培養培地を加えた。単一細胞クローンを増殖させ、ウエスタンブロット分析によってLAMC1ノックアウト/ダウンを確認した。
【0042】
タンパク質の抽出および分析
培養培地中でラバーポリスマンを用いて直接穏やかに掻き取ることによって、細胞をディッシュから回収した。遠心分離によって細胞を収集し、氷冷PBSを用いて洗浄した。遠心分離後、プロテアーゼ阻害剤(完全EDTAフリー;Roche、Mannheim,Germany)を含有する5体積の溶解緩衝液(50mM Tris、pH8、200mM NaCl、0.5%NP-40、1mMジチオスレイトール[DTT])に細胞ペレットを懸濁し、氷上で30分間溶解させた。遠心分離(4℃で15分間にわたり13,000rpm)によって細胞片を除去し、製造業者の指示に従ってビシンコニン酸(BCA)アッセイ(Thermo Fisher Scientific、Carlsbad,CA,USA)によって、細胞溶解物中のタンパク質濃度を測定した。25~50μgの総タンパク質抽出物に対してSDS-PAGE分析を行った。分離後、タンパク質をHybond-Pメンブレン(GE Healthcare、Freiburg,Germany)に移した。以下の抗体を用いてイムノブロッティングを行った:1:2000希釈で使用したマウスモノクローナル抗β-チューブリン(クローンTUB 2.1;Sigma-Aldrich、Saint Louis,MO,USA)、1:500希釈でマウスモノクローナル抗ラミニンγ-1(クローンB-4;Santa Cruz Biotechnology、Heidelberg,Germany)、1:500希釈でマウスモノクローナル抗ラミニンβ-1(クローンD-9;Santa Cruz Biotechnology、Heidelberg,Germany)、および1:500希釈でウサギポリクローナル抗ガレクチン-1(クローンH-45;Santa Cruz Biotechnology、Heidelberg,Germany)。西洋ワサビペルオキシダーゼにコンジュゲートした二次抗体(Santa Cruz Biotechnology、Heidelberg,Germany)とのインキュベーション後、メンブレンをWestern Blot Chemiluminescence Reagent Plus(Perkin Elmer Life Sciences、Waltham,US)とインキュベーションし、Hyperfilm(商標)ECL放射線撮影フィルム(GE Healthcare、Buckinghamshire,UK)に曝露した。
【0043】
ウイルス細胞取り込みアッセイ
以下に記載するように処理した細胞を3回のスナップ凍結解凍サイクルに供して、細胞関連ウイルス粒子を放出させた。製造業者の指示に従ってQiAamp MinElute Virus Spinキット(Qiagen、Hilden,Germany)を使用して、接種材料として使用したウイルスのアリコート、および細胞溶解物の両方からウイルスDNAを精製した。以前に記載されているように17、パルボウイルス(parvovirus)特異的qPCRを使用してウイルスゲノムを定量した。試験された全条件について、少なくとも2つの独立した実験(それぞれ3連で実施)を行った。
【0044】
siRNA媒介性ノックダウン実験
HeLa、HCT116およびA549細胞株を24ウェルプレートに4×10細胞/ウェルの密度で播種し、抗生物質を含まない500μlの完全細胞培地中で増殖させた。24時間後、製造業者の指示に従ってLipofectamine RNAimax(ThermoFisher Scientific、Carlsbad,CA,USA)を使用して、無血清培地中でsiRNA(5~10nM)を細胞にトランスフェクトした。以下のsiRNAを使用した:LAMC1_1(SI00035742)、LAMC1_5(SI02757475)、LAMB1_4(SI00035707)、LAMB1_9(SI05109174)、LGALS1_7(SI03085453)、LGALS1_8(SI04998553)、および陰性対照として使用したAllStars Negative siRNA(SI03650318)(いずれもQiagen(Hilden,Germany)から購入)。24時間後、培地を交換し、細胞をさらに24時間増殖させて、効率的な遺伝子サイレンシングを可能にした。次いで、培養培地を除去し、MOI1(pfu/細胞)で、H-1PVを含有する0.2ml無血清培地と交換した。感染を37℃で4時間かけて行って、細胞表面結合とウイルス粒子の内在化とを最終的に可能にした。
【0045】
薬物/酵素感染前細胞処理
ヘパリン(カタログ番号H4784)、ノイラミニダーゼ(カタログ番号N2876)およびヘパリナーゼIII(カタログ番号H8891)はいずれも、Sigma-Aldrich chemie GmbH(Steinheim,Germany)から購入した。ヘパリン原液を新たに調製し、同日に使用した。ノイラミニダーゼおよびヘパリナーゼIII原液を調製し、分取し、使用前に-20℃で保存した。4×10のHeLa細胞を24ウェル/プレートに播種し、次いで、漸増量(10、25、50、100μg/ml)のヘパリン、またはノイラミニダーゼ(0.1U/ml)もしくはヘパリナーゼIII(0.1U/ml)を用いて24時間前処理した。感染に使用する前に、H-1PV(MOI1、pfu/細胞)も同じ濃度のヘパリン、ノイラミニダーゼまたはヘパリナーゼIIIと室温で15分間プレインキュベートし、次いで感染に使用した。細胞結合/侵入アッセイを37℃で4時間行った。
【0046】
抗体競合アッセイ
抗生物質を含まない500μlの完全細胞培地中で、24ウェルプレートに2×10細胞/ウェルの密度で播種したHeLa細胞を増殖させた。24時間後、細胞を氷上で45分間、10%FBSを添加したDMEM培地中10μg/mlのマウスモノクローナル対照抗IgG(アイソタイプ対照)(Millipore、Temecula,CA,USA)、マウスモノクローナル抗EPHB2(Abnova、Taipei,Taiwan)またはマウスモノクローナル抗ラミニンγ-1(クローンB-4;Santa Cruz Biotechnology、Heidelberg,Germany)とインキュベートした。インキュベーションの終了時に、培地を除去し、H-1PV(MOI0.25、pfu/細胞)を含有する0.1mlの無血清培地と交換した。ウイルス結合アッセイを氷上で30分間最初に行った。次いで、PBSを用いて細胞を2回洗浄して未結合ウイルス粒子を除去し、新鮮な完全細胞培地中で37℃で1時間さらにインキュベートしてウイルス粒子の内在化を可能にした。
【0047】
機能獲得実験
製造業者の指示に従ってLipofectamine LTX(Thermo Fisher Scientific、Carlsbad,CA,USA)を使用することによって、24ウェルプレートに播種したHeLaおよびLAMC1-KD細胞株に、無血清培地中でプラスミド単独、またはLAMC1遺伝子を有するプラスミドのいずれかを一過性にトランスフェクトした。トランスフェクションの4時間後、培地を完全細胞培地と交換し、細胞をさらに44時間増殖させた。細胞をH-1PV(MOI100、pfu/細胞)に37℃で4時間かけて感染させて、ウイルス細胞取り込みを行った。
【0048】
細胞形質導入アッセイ
siRNA媒介性遺伝子ノックダウン実験
2×10HeLa細胞/ウェルを24ウェルプレートに播種し、抗生物質を含まない500μlの完全細胞培地中で増殖させた。SiRNAトランスフェクションを上記のように行った。トランスフェクションの46時間後、細胞をrecH-1PV-EGFP(1TU、GFP/細胞)に感染させ、さらに24時間増殖させた。次いで、PBSを用いて細胞を1回洗浄し、3.7%ホルムアルデヒド中で5分間固定し、1%Triton X-100を用いて10分間透過処理し、DAPIを用いて2分間染色した。図の凡例に記載されているように、10倍または20倍の対物レンズを備えたBZ-9000蛍光顕微鏡(Keyence,Corporation、Osaka,Japan)を用いて、EGFP陽性細胞の蛍光画像を取得した。4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)染色を使用して、核(細胞)の数を可視化した。GFP陽性細胞の割合は、少なくとも1500個の細胞を計数することによって計算した。試験した条件ごとに、少なくとも2つの独立した実験(それぞれ2連で実施)を行った。
【0049】
薬物処理
4×10のHeLa細胞を24ウェル/プレートに播種し、次いで、ヘパリン(100μg/ml)と18時間プレインキュベートした後、recH-1PV-EGFP(TU0.5、GFP/細胞)に感染させた。感染の24時間後、細胞を上記のように処理した。
【0050】
可溶性ラミニンまたはフィブロネクチンによる処理。
ノイラミニダーゼはSigma-Aldrich chemie GmbH(Steinheim,Germany)から購入し、フィブロネクチンはMerck KGaA(Darmstadt,Germany)から購入した。ラミニン(LN111、LN121、LN211、LN221、LN411、LN421、LN511、LN521およびLN332)はいずれも、BioLamina AB(Stockholm,Sweden)から入手した。2×10/ウェルでHeLa細胞を96ウェル/プレートに播種し、次いで24時間後、10%FBSを含有する100μlのDMEM培地中、ノイラミニダーゼ(0.2U/ml)またはフィブロネクチン(2μg/ml)またはラミニン(2μg/ml)を用いて前処理した。処理の24時間後、細胞をrecH-1PV-EGFP(0.5TU、GFP/細胞)に感染させ、さらに27時間増殖させた。次いで、PBSを用いて細胞を1回洗浄し、3.7%ホルムアルデヒド中で5分間固定し、1%Triton X-100を用いて10分間透過処理し、DAPIを用いて2分間染色した。10倍の対物レンズを備えたKeyence Corporation(Osaka,Japan)製のBZ-9000蛍光顕微鏡を用いて、GFP陽性細胞の蛍光画像を取得した。
【0051】
機能獲得実験
2×10のHeLa細胞を24ウェルプレートに播種し、次いで、ベクター単独、またはLAMC1を発現するベクターのいずれかをトランスフェクトした。トランスフェクションの46時間後、細胞をrecH-1PV-EGFP(0.25TU、GFP/細胞)に感染させ、さらに24時間増殖させた後、上記のように処理した。
【0052】
細胞生存率アッセイ
siRNAノックダウン実験では、上記のsiRNAを96ウェルプレート(1つのsiRNA/ウェル)に3連でスポットし、次いで、2.5×10のHeLa細胞に逆トランスフェクトした。24時間後、細胞培地を交換し、細胞をさらに48時間増殖させた後、H-1PV(MOI0.25 pfu/細胞)に感染させた。感染の72時間後、CellTiter-Glo 2.0アッセイ(Promega、Madison,WI,USA)を使用して細胞生存率を測定した。要約すると、細胞を室温にし、培養培地を100μlのCellTiter-Glo 2.0試薬(細胞培地中で1:2に希釈)と交換した。プレートをオービタルシェーカー上に2分間置いた後、溶液と10分間インキュベートした。LB 943 Mithrasプレートマルチモードリーダー(Berthold Technologies、Bad Wildbad,Germany)を用いて発光を読み取った。ヘパリン処理実験のために、HeLa細胞を96ウェルプレートに2.5×10細胞/ウェルの密度で播種した。24時間後、ヘパリン(100μg/ml)を培地に加え、細胞をさらに24時間増殖させた後、予めヘパリンと室温で15分間プレインキュベートしたH-1PV(MOI1、pfu/細胞)に感染させた。感染の96時間後、上記のようにCellTiter-Glo 2.0(Promega、Madison,USA)を使用して細胞生存率を測定した。
【0053】
統計分析
データセットに関する統計は、特に明記しない限り、Graphpad PrismソフトウェアまたはMicrosoft Excel 2016を使用して、対応のない両側スチューデントt検定を用いて計算した。結果は、代表的な実験の3連±s.dの平均値、または少なくとも2回の反復実験の平均値として示される。
【0054】
細胞増殖アッセイ:NCI-60癌細胞株スクリーニング
6×96ウェル電子マイクロタイタープレートモジュールを含むRTCA-MT xCELLigenceシステム(ACEA Biosciences Inc.、San Diego,California,US)を使用することによって、細胞増殖をリアルタイムで監視した。4,000~16,000細胞/ウェル(細胞倍加速度による)の密度で、細胞を96ウェルEプレートに播種した。24時間~72時間後、0.05~50pfu/細胞(0、0.05、0.25、0.5、1、5、10および50)の感染多重度(MOI=pfu/細胞)に及ぶ漸増量のH-1PV野生型を細胞に感染させた。未処理細胞およびH-1PV感染細胞の増殖を30分ごとに5~7日間リアルタイムで監視し、正規化細胞指数(CI)、すなわち付着細胞数/ウェルに比例し、したがって細胞増殖速度と厳密に相関するパラメーターとして表した。各条件について少なくとも3回の反復を行った。NCI 60細胞株パネルに属する懸濁増殖性白血病細胞株に該当する6つは、接着細胞株の増殖を監視することしかできないxCELLigenceシステムに適合しないため、スクリーニングから除外した。
【0055】
NCI-60癌細胞株スクリーニングにおけるH-1PV感染に対するEC50値の決定
二段階データ分析アプローチ23を適用して、各NCI-60細胞株について、4つの感染後時点24、48、72および96時間のEC50値(細胞の50%を死滅させるウイルス濃度)を導出した。アプローチの段階1では、H-1PV量が正規化細胞指数に対して一定した効果を有するかどうかを評価するために、一元配置ANOVAと、それに続く対比「MOI0対MOI50」のpost hoc Dunnett対比試験(Dunnett 1955)を行った。(a)ANOVAが、正規化細胞指数に対するH-1PV量の全体的な効果を実証することができなかった場合(p>0.05)、または(b)全体的であるが一定していない効果が、ANOVA(p≦0.05)と、それに続くpost hoc Dunnett対比試験(p>0.05)によって明らかにされた場合、一定した効果は結論付けられなかった。事例(a)については、Dunnett対比試験は必要とされず、したがって行わなかった。段階1で一定した効果が見られなかった場合、NCI-60癌細胞株と感染後時点とのそれぞれの組合せについてEC50値は報告されなかった。そうでなければ、アプローチの段階2では、NCI-60癌細胞株と感染後時点とのそれぞれの組合せについて得られた濃度応答データ(濃度:H-1PV量、応答:正規化細胞指数)に4パラメーターログロジスティックモデルを適合させることによってEC50値を計算した。正規化細胞指数の負の値は生物学的に意味がないことから、4パラメーターログロジスティックモデル関数の下方漸近線を≧0に制限した。4つの状況ではEC50値は報告されなかった:(1)推定EC50値が試験された最大H-1PV量(例えば、MOI50)を超えた場合、得られたEC50推定値は信頼性がないと考えられたため、報告されなかった;(2)適合された濃度-応答曲線の下方漸近線cと上方漸近線dとの間の距離が小さすぎる場合(例えば、c>0.7*dの場合)、正規化細胞指数に対するH-1PV量の観察された効果は無関係であると考えられたため、EC50推定値は報告されなかった;(3)生物学的観点から解釈できない濃度-応答曲線の増加がログロジスティックモデルの適合から得られた場合;(4)4パラメーターログロジスティックモデル関数が濃度-応答データに適合しない場合。オープンソース統計ソフトウェア環境R、バージョン2.14.2(http://www.R-project.org)を用いてEC50計算を行った。
【0056】
LDHアッセイ
癌細胞株を96ウェルプレートに4,000細胞/ウェルの密度で播種し、24時間増殖させた。次いで、細胞をH-1PVに感染させ、5%の熱不活性化ウシ血清(100μl/ウェル)を添加したDMEM培地中でさらに72時間増殖させた。以前に記載されているように29、Cytotox 96非放射性細胞傷害性アッセイキット(商標)(Promega(Mannheim,Germany)製)を使用して、培養培地中に放出された乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の量によってウイルス誘導性細胞溶解を決定した。
【0057】
RNA単離
50,000細胞/ウェルの密度で、10%FBSおよび2mM L-グルタミンを添加したDMEM培地中、6ウェルプレート内で神経膠芽腫由来細胞株を増殖させた。20時間後、細胞を回収し、製造業者の指示に従ってZYMO RESEARCH Quick-RNA miniprepキット(ZYMO RESEARCH CORP、CA,USA)を使用して、細胞ペレットから全RNAを単離した。
【0058】
nCounter遺伝子発現分析
nanoString Technologies(Seattle,WA,USA)の推奨に従って、nCounter標的遺伝子発現分析を行った。nCounter技術は、蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブの同時ハイブリダイゼーションおよびデジタル定量に基づく多重遺伝子発現分析を可能にする30。分析に使用したプローブセットを表1に示す。Qubit(商標)RNA HSアッセイキットを使用することによって全RNA試料を定量し、Agilent 2100 Bioanalyzerシステム上でAgilent RNA6000 Nanokitを使用して品質管理を行った。試料を一晩ハイブリダイゼーションに供した。要約すると、65℃でのプローブセットハイブリダイゼーションのためのインプット材料として50ngの全RNAを使用した。15μlの総反応体積について、最大7μlの全RNA試料と、2μlのnCounterカスタマイズTagSet、5μlのハイブリダイゼーション緩衝液および0.5μlのプローブA+0.5μlのプローブBとを組み合わせた。試料を20時間インキュベートし、4℃に冷却し、次いで精製し、カートリッジに固定した。nanoString Technologies(Seattle,WA)製のSPRINT(商標)Profilerを使用して、実験の読み出しを行った。nanoString Technologies(https://www.nanostring.com/products/analysis-software/nsolver)によって提供されるnSolver Analysis Software(バージョン4.0)を使用して、データの正規化および評価を行った。Normfinder法に基づいて、正規化のために、安定に発現した参照遺伝子を選択した31
【0059】
【表1】
【0060】
NCH125-LGALS1KOおよびNCH125-対照細胞株の作製
NCH125-LGALS1KO安定細胞の作製のために、200,000個の細胞を6ウェルプレートに播種し、翌日、Lipofectamine LTXトランスフェクション試薬(Thermo Fisher Scientific、Carlsbad,CA,USA)を使用して、2μgのガレクチン-1 Double Nickase Plasmid([h]sc-400941-NIC、Santa Cruz、Heidelberg,Germany)をトランスフェクトした。10%FBS、2mM L-グルタミン、1%BSAを添加し、1μg/mlのピューロマイシンを加えたDMEM細胞培養培地中で、陽性クローンの選択を72時間かけて行った。単一細胞クローンを増殖させ、ウエスタンブロット分析によってLGALS1ノックアウトを確認した。NCH125-対照細胞株を作製するために、いかなるヒト遺伝子も標的としない対照プラスミドpCRISPR/Cas9スクランブルgRNA(sc-418922;Santa Cruz、Heidelberg,Germany)をトランスフェクションに使用した。
【0061】
NCH125-LGALS1KO細胞株における機能獲得
300,000細胞/ウェルの密度で、NCH125-対照およびNCH125-LGALS1KOの両方を6ウェルプレートに播種した。翌日、製造業者の指示に従ってLipofectamine LTX試薬(Thermo Fisher Scientific、Carlsbad,CA,USA)を使用して、mCherry(mCherry-Galectin-C-18、Michael Davidsonから寄贈;Addgene #62745)に融合したLGALS1遺伝子を有する2.5μgのプラスミドを細胞にトランスフェクトした。翌日、培地を完全細胞培地と交換し、細胞をさらに24時間増殖させた。細胞をrecH-1PV-EGFP(0.3TU、GFP/細胞)に24時間かけて感染させることによって、ウイルス形質導入を行った。次いで、3.7%ホルムアルデヒドを用いて細胞を10分間固定し、1%Triton X-100を用いて5分間透過処理した。DAPIを用いて細胞核を染色した。BZ-9000蛍光顕微鏡(Keyence)を用いてEGFP陽性細胞を分析した。EGFPシグナルについて少なくとも1,000個の細胞を分析した。
【0062】
β-ラクトース処理
40,000個のHeLa細胞を24ウェル/プレートに播種し、次いで、200mMのβ-ラクトース(#L3750、SIGMA-ALDRICH Co.、St.Louis,MO,USA)と30分間プレインキュベートした後、recH-1PV-EGFP(0.3TU、GFP/細胞)に感染させた。感染の4時間後、培地をβ-ラクトースを添加した完全細胞培地と交換し、細胞をさらに20時間増殖させた。次いで、3.7%ホルムアルデヒドを用いて細胞を10分間固定し、1%Triton X-100を用いて5分間透過処理し、DAPIを用いて細胞核を染色した。BZ-9000蛍光顕微鏡(Keyence)を用いて細胞を分析した。EGFP陽性細胞の割合の計算のために、少なくとも1,000個の細胞を分析した。
【0063】
例2:siRNAライブラリースクリーニング
本発明者らは、子宮頸癌由来HeLa細胞株を使用してsiRNAライブラリースクリーニングを行った(図1)。2組の細胞に、対照siRNA、または合計6,961個の異なる遺伝子(ドラッガブルゲノム、4つのsiRNA/プール、1つのプール/遺伝子)を標的とするsiRNAプールを含むドラッガブルsiRNAライブラリーを逆トランスフェクトし、次いで、効率的な遺伝子サイレンシングを可能にするために48時間増殖させた。次いで、1組の細胞を未処理のままにして、すべてのトランスフェクトsiRNAプールの固有の細胞傷害性を制御し、他方の組の細胞をrecH-1PV-EGFPに感染させた。この複製欠損組換えパルボウイルス(parvovirus)は、野生型ウイルスと同じカプシドを共有するが、天然PV P38プロモーターの制御下でEGFPレポーター遺伝子を有する24。このプロモーターは、PV NS1タンパク質によって特異的に活性化されるため、EGFPシグナルと相関するその発現は、ウイルス形質導入能力の尺度である。感染の24時間後、細胞を固定し、EGFPシグナルおよび細胞生存率を測定した(図1A)。対照スクランブルsiRNAをトランスフェクトした細胞で得られたEGFPシグナルをベースラインとして使用して、6,961個の標的遺伝子のそれぞれについてsiRNAプールを個別にトランスフェクトした細胞で得られたEGFPシグナルの割合を正規化した。2つの遺伝子、すなわちLAMC1およびLGALS1は、H-1PV生活環を調節するための上位候補として同定された(図1B)。両遺伝子のサイレンシングは、H-1PV形質導入を70%超減少させ、この2つの遺伝子がH-1PV生活環の強力な活性化因子であるという最初の証拠を提供した。本発明者らは、The Cancer Genome Atlas(TCGA、http://cancergenome.nih.gov)を分析することによって、LAMC1およびLGALS1が正のCox回帰係数を示すことを見出し(LAMC1の範囲:0.19~0.86;LGALS1の範囲:0.19~0.39)、これは、特定の腫瘍型に罹患している患者では、それらの過剰発現が総生存期間中央値の短縮に関連することを示している(図1C)。特に、本発明者らの分析によれば、LAMC1過剰発現は、腎臓の乳頭状腎細胞癌(KIRP)、低グレード脳グリオーマ(LGG)、胃腺癌(STAD)、膀胱尿路上皮癌(BLCA)、子宮頸部扁平上皮癌および子宮頸部腺癌(CESC)、直腸腺癌(READ)ならびに肺腺癌(LUAD)の予後不良のマーカーと考えられ得る。一方、LGALS1過剰発現は、LGG、腎臓腎明細胞癌(KIRC)、急性骨髄性白血病(LAML)およびBLCAの予後不良と関連している(P値<0.05)(図1C)。
【0064】
例3:ラミニン-γ1鎖は、H-1PV細胞表面結合および侵入に関与する。
ライブラリースクリーニングにより、H-1PV生活環の初期段階に関与する強力な候補としてLAMC1遺伝子が同定された。LAMC1は、細胞外マトリックスの合計16個のヘテロ三量体糖タンパク質のファミリーであるラミニンをαおよびβ鎖と一緒になって形成するラミニンγ1鎖をコードする。ラミニンは、基底膜の主要成分であり、細胞外アダプタータンパク質、硫酸化糖脂質および受容体タンパク質、例えば、インテグリンまたはジストログリカン糖タンパク質複合体によって細胞表面に連結されている。本発明者らは、ラミニンγ1鎖を含むラミニンが、H-1PV細胞表面結合および侵入を媒介するポリペプチド複合体の一部であり得ると仮定している。この仮説をさらに裏付けるのは、細胞表面へのラミニン接着には末端シアル酸を有するグリカン鎖が必要であるという事実である。実際、糖タンパク質からシアル酸基を切断するノイラミニダーゼ処理がH-1PV感染性を劇的に阻止したことから17、H-1PV細胞表面結合/侵入はシアル酸依存性であることが示された17。H-1PV細胞膜認識および侵入に果たすラミニンγ1鎖の生物学的役割に関する追加の証拠を提供するために、本発明者らは、第1のアプローチとして、遺伝子の2つの異なる領域を標的とする2つのsiRNAを使用してLAMC1の発現をサイレンシングし、細胞に結合し細胞内に浸透するH-1PVの能力を確認した(ウイルス細胞取り込みアッセイ)。この目的のために、Hela細胞にLAMC1および対照siRNAをトランスフェクトし、46時間後にH-1PVに感染させた。4時間後、細胞を洗浄して未結合ウイルス粒子を除去し、細胞に関連するものをqPCRによって分析した。対照siRNAと比較して、LAMC1 siRNAをトランスフェクトした細胞では、ウイルス細胞取り込みの強力な減少が観察された(図2A)。上記のようにsiRNAをトランスフェクトしたHela細胞を、siRNAライブラリースクリーニングに先に使用されたのと同じ組換えウイルスであるrecH-1PV-EGFPを細胞に感染させるウイルス形質導入アッセイにも使用した。4つのLAMC1 siRNAのプールを使用したsiRNAライブラリースクリーニングから得られた結果と一致して、個々のLAMC1 siRNAもH-1PV形質導入を強力に減少させた(図2B)。
【0065】
例4:LAMC1のサイレンシングはH-1PV腫瘍崩壊からHeLa細胞を保護する
本発明者らは、siRNAトランスフェクトHeLa細胞における細胞生存率を測定することによって、H-1PV誘導性腫瘍毒性に対するsiRNA特異的LAMC1ノックダウンの影響を評価した。感染から72時間後、非トランスフェクト細胞またはsiRNA対照トランスフェクト細胞は、H-1PVによって効率的に死滅した(それぞれ細胞生存率の77.2%および71.7%の低下)。対照的に、LAMC1 siRNAをトランスフェクトしたHela細胞では、H-1PV誘導性細胞傷害性に対して有意に耐性が高かった(図3)。
【0066】
例5:ラミニンγ1に対する抗体を用いた競合実験により、H-1PV細胞膜認識および侵入におけるこのタンパク質の関与が確認される。
本発明者らは、H-1PV細胞侵入を阻止するために、特異的抗ラミニンγ1抗体を使用して競合実験を行った。ラミニンγ1抗体とプレインキュベートしたHeLa細胞では、受容体チロシンキナーゼ膜貫通糖タンパク質である無関係なエフリンB型受容体(EPHB2)に対する対照IgGアイソタイプまたは対照抗体とプレインキュベートした細胞と比較して、H-1PV感染に対する感受性が有意に低かった(図4)。
【0067】
例6:CRISPR/Cas9 LAMC1遺伝子ノックダウンはH-1PVウイルス侵入を減少させる
本発明者らは、LAMC1遺伝子発現がCRISPR/Cas9ゲノム編集技術によってノックダウンされた安定なLAMC1 KD HeLa細胞株を作製した。LAMC1 KD細胞では、親HeLa細胞と比較して、H-1PV感染の強力な減少が観察された。H-1PV感染性のこの低下は、プラスミドトランスフェクションによるこれらの細胞へのLAMC1遺伝子の再導入によって救済された(図5)。
【0068】
例7:LAMC1遺伝子の過剰発現はH-1PV感染性を増加させる。
本発明者らは次に、親HeLa細胞に外因性LAMC1を過剰発現させることによって機能獲得実験を行った。ベクター単独と比較して、LAMC1を過剰発現させることによって、H-1PV細胞取り込みの62%の増加が観察された(図6A)。同様の条件下で、本発明者らは、H-1PV形質導入のためにLAMC1発現プラスミドを一過性にトランスフェクトしたHeLa細胞を評価した。ベクター単独と比較して、LAMC1プラスミドをトランスフェクトしたHeLa細胞では、H-1PV形質導入の有意な(2.2倍)増加が観察された(120.6%)(図6B)。
【0069】
例8:ヘパリン処理はH-1PV感染性を損なう。
ラミニンは、臨床では抗凝固剤として使用されるヘパリン25、26に対するいくつかの結合部位を含む。本発明者らは、ヘパリンによる処理が、ラミニンへの結合についてウイルスと競合することによってH-1PV感染性を妨害し得ると仮定している。この仮説を試験するために、様々な濃度の可溶性ヘパリンを用いてHeLa細胞を前処理した後、H-1PVに感染させた。表面シアル酸を切断することによってH-1PV細胞結合/侵入を防ぐ能力のために、ノイラミニダーゼを陽性対照として使用した。さらに、本発明者らはまた、細胞表面および細胞外マトリックスの豊富な成分であるヘパリン硫酸(HS)グリコサミノグリカン鎖を分解することが知られている酵素であるヘパリナーゼIIIを用いて細胞を前処理した。予測通り、ノイラミニダーゼによる処理はH-1PV感染性を強力に阻害し、H-1PV侵入のためのシアル酸の重要性が確認された。ヘパリナーゼIIIではなくヘパリンとのインキュベーションも、H-1PVが細胞に浸透する能力を低下させた(図7A)。阻害効果は、使用したヘパリンの濃度に比例した(図7B)。これらの結果と一致して、ヘパリン処理はまた、H-1PV形質導入効果を低下させ(図7C)、H-1PV誘導性腫瘍崩壊から細胞を保護した(図7D)。これらの結果は、ラミニンがウイルス細胞侵入レベルでH-1PV感染性に必須の役割を果たすという追加の証拠を提供する。
【0070】
例9:可溶性ラミニンによる処理はH-1PV細胞取り込みを阻止する。
ラミニンは、十字構造(1)を形成するジスルフィド結合を介して一緒に組み立てられた1つのα、1つのβおよび1つのγ鎖から構成される。16の公知のラミニン三量体アイソフォーム(ラミニン1~16)を構成する5つのα鎖(α1~5)、3つのβ鎖(β1~3)および3つのγ鎖(γ1~3)がこれまでに記載されている。ラミニンγ1の同定は、どの他のラミニン鎖がH-1PV細胞結合/侵入に関与するラミニンの一部であり得るかという疑問を提起した。この問題に対処するために、本発明者らは、市販の精製された可溶性三量体ラミニン、すなわち、いずれもγ1鎖を含むラミニン111、121、211、221、411、421、511および521、ならびにα3鎖、β3鎖、γ2鎖を含むラミニン332のパネルを使用して競合実験を行った。本発明者らは、対照として、細胞外マトリックスの別の一般的な構成成分である可溶性フィブロネクチンを使用した。細胞をラミニンまたはフィブロネクチンとプレインキュベートした後、recH-1PV-EGFPウイルスに感染させた。γ1鎖を含むあらゆるラミニンを用いて前処理した細胞では、ウイルス形質導入の有意な強力な減少が観察されたが、ラミニン332(わずかな減少)またはフィブロネクチンでは観察されず、γ1鎖がラミニンへのH-1PV結合に必要であり、様々なラミニンポリペプチドがウイルス細胞結合/侵入プロセスに関与し得ることが示唆された。
【0071】
例10:LAMB1のサイレンシングはH-1PV感染性を損なう。
H-1PV細胞結合/侵入におけるラミニンの関与を確認するために、本発明者らは、ラミニン遺伝子ファミリーの別のメンバーである、ラミニンβ1鎖をコードするLAMB1遺伝子の発現をサイレンシングすることにした。LAMB1遺伝子の選択は、本発明者らのsiRNAライブラリースクリーニングでは、siRNAプールによるそのサイレンシングもH-1PV形質導入効率の強力な低下に関連しており(対照siRNAと比較して約60%、例13を参照)、ライブラリーに表されるラミニン鎖をコードするものの中でLAMC1に次いで最良の遺伝子としてスコアリングされたという事実によって示唆された(データは示さず)。
【0072】
LAMC1によって得られた結果と同様に、LAMB1遺伝子の2つの異なる領域を標的とする2つの異なるsiRNAの使用も、H-1PV細胞結合/侵入および形質導入を強力に減少させた(図9AおよびB)。これらの結果は、ラミニンがH-1PV細胞膜認識および侵入を媒介するという追加の証拠を提供する。
【0073】
例11:ガレクチン-1はH-1PV侵入にも関与する。
レクチンガラクトシド結合可溶性1タンパク質(別名ガレクチン-1)をコードするLGALS1遺伝子は、H-1PV生活環の上位活性化因子として本発明者らのsiRNAライブラリースクリーニングによって同定された別の遺伝子であった(図1)。これらの結果を検証するために、LAMC1およびLAMB1について先に示されたように、本発明者らは、LGALS1のサイレンシングのために2つの独立したsiRNAを使用した。LGALS1サイレンシングは、対照siRNAと比較して、H-1PV細胞取り込み(図10A)および形質導入(図10B)の有意な減少と関連していた。これらの結果は、ガレクチン-1がH-1PV細胞侵入経路に重要な役割を果たし得るという証拠を提供する。
【0074】
例12:LAMC1、LAMB1およびLGALS1遺伝子のサイレンシングは、H-1PV腫瘍崩壊からHeLa細胞を保護した。
本発明者らの結果は、LAMC1のsiRNA媒介性サイレンシングが、H-1PV誘導性腫瘍毒性からHeLa細胞を保護することを示す(図3)。この結果に基づいて、本発明者らは、siRNAトランスフェクトHeLa細胞における細胞生存率を測定することによって、H-1PV誘導性腫瘍毒性に対するsiRNA媒介性LAMB1およびLGALS1サイレンシングの影響を評価した。LAMC1 siRNAによる処理を陽性対照として使用した。図3に上述したのと同じ実験条件下で、非トランスフェクト細胞またはsiRNA対照トランスフェクト細胞は、H-1PVによって効率的に死滅した(それぞれ細胞生存率の77.7%および69.5%の低下)。対照的に、LAMC1、LAMB1またはLGALS1 siRNAをトランスフェクトしたHela細胞では、H-1PV誘導性細胞傷害性に対して有意に耐性が高かった(図11)。
【0075】
例13:LAMC1、LAMB1およびLGALS1が他の癌細胞株におけるH-1PV細胞表面結合/侵入に関与することの確認。
本発明者らは、2つの他の癌細胞株、すなわち、HCT116(結腸直腸癌)およびA549(肺腺癌)におけるH-1PV細胞取り込みに果たすLAMC1、LAMB1およびLGALS1の役割を評価した。HeLa細胞について先に示されたように(図2)、LAMC1、LAMB1およびLGALS1の特異的サイレンシングは、対照siRNAと比較して両細胞株においてH-1PV細胞取り込みを有意に減少させた(図12AおよびB)。これらの結果は、この3つの遺伝子が、ウイルス侵入レベルでH-1PV生活環に関与しているという追加の証拠を提供する。
【0076】
例14:LAMC1の発現レベルは、H-1PVの腫瘍溶解活性と直接相関する。
H-1PVは、様々な腫瘍実体に由来する広範囲の癌細胞株に感染し、それらを死滅させることができる。ただし、あらゆる癌細胞がこのウイルスによって効率的に死滅するわけではなく、それらの一部はH-1PV感染に対して感受性が低いか、完全に抵抗性でさえある。パルボウイルス(parvovirus)生活環は宿主細胞因子に厳密に依存することから、許容性の差は、これらの重要な調節因子のいくつかの欠如または機能的欠陥に起因し得る。
【0077】
NCI-60癌細胞株スクリーニングは、特定のウイルス生活環に関与する許容性因子(例えば、細胞受容体)の同定に使用される強力なアプローチである13、16。この方法は、候補の同定のための許容癌細胞と耐性癌細胞との遺伝子発現プロファイリングの比較に依存している。
【0078】
したがって、H-1PV生活環の調節因子を同定するために、本発明者らは、本発明者らのsiRNAライブラリースクリーニングに対する独立した相補的アプローチとして、H-1PV誘導性腫瘍崩壊に対する感受性について、NCI-60細胞株パネルに属する53の癌細胞株をスクリーニングした。
【0079】
NCI 60細胞株パネルには、様々な腫瘍型、すなわち、肺、中枢神経系(CNS)、黒色腫、乳房、腎臓、卵巣、結腸、前立腺および白血病に由来する癌細胞株が含まれる。スクリーニングは、細胞増殖のリアルタイムの監視を可能にするXCELLigenceシステムを使用して行った。細胞を96ウェルEプレートに播種し、未処理のままにするか、0.05~50のMOIに及ぶ漸増量のH-1PVに感染させた(図13A)。未処理細胞およびH-1PV感染細胞の増殖を30分ごとに合計168時間監視し、ウェルに存在する細胞の数の直接的な尺度である正規化細胞指数(CI)として表した。懸濁増殖性白血病癌細胞株に該当する6つは、接着増殖細胞株の増殖を監視することしかできないXcellIgenceシステムと適合しないため、スクリーニングから除外した。次いで、感染の24、48、72および96時間後に、50%の細胞死(EC50)を引き起こすウイルス濃度を計算した。様々な起源の36の癌細胞株が、H-1PV感染性に対して非常に感受性であることが見出された(MOI≦10で細胞増殖抑制効果および細胞傷害効果が観察された)。11の癌細胞株は、低感受性をもたらした(MOI≧10~50でウイルスを使用した場合にのみ死滅した)が、合計6つの癌細胞株は、使用した最高H-1PV濃度(MOI50)に対して耐性であった(図13B)。肺癌、CNS癌、乳癌および黒色腫に由来する癌細胞株は、使用した最高ウイルス濃度(MOI50)に対して抵抗性であったLOX IMVI(黒色腫)およびMCF7(乳癌)のみを除いて、H-1PV感染に対して最も感受性が高かった。対照的に、結腸癌および卵巣癌に由来する細胞株は、H-1PV感染に最も耐性が高く(データは示さず)、HCT-15、HCC-2998、COLO 205(結腸癌)およびOVCAR-3(卵巣癌)は、使用した最高濃度のウイルスに耐性であった。
【0080】
H-1PV生活環を調節する候補遺伝子を同定するために、2つの生物情報学的後分析を行った。まず、本発明者らは、インプット(シードファイル)としてEC50値(72時間)を使用して、DTP-COMPARE分析[https://dtp.cancer.gov/databases_tools/compare.htm]を行った。この分析により、H-1PV感受性対低感受性または耐性癌細胞株の遺伝子発現プロファイル(公的に利用可能なデータベースに存在するマイクロアレイ結果に基づく)を比較し、EC50値のあらゆる勾配を考慮してH-1PV感染に対するそれらの感受性と相関させた。388個の遺伝子が推定抑制因子(H-1PV低感受性/耐性癌細胞株ではアップレギュレートされ、高/中感受性癌細胞株ではダウンレギュレートされる)として同定され、417個の遺伝子が潜在的活性化因子として同定された(p<0.05)(図13C)。第2のさらにストリンジェントな分析では、CellMiner生物情報学ツール[https://discover.nci.nih.gov/cellminer/]を利用して、NCI-60癌細胞株から得られた遺伝子発現マイクロアレイデータを最初に検索した。次いで、検索したデータを調整し、前処理し、H-1PV感染に耐性の6つのみの癌細胞株(0としてスコア付けされた)と感受性の47の癌細胞株(1としてスコア付けされた)とを比較することによって得られた遺伝子発現データを統合することによって変換した。次いで、H-1PV生活環に関与する候補遺伝子の同定に、Limma+B&H補正に基づく示差的発現分析を適用した(p<0.05)。この分析により、82の推定活性化因子が得られた(図13D)。DTP-COMPAREおよび示差的発現分析から得られた活性化因子の2つの一覧を統合し、これにより、スクリーニングされた53の癌細胞株を死滅させるH-1PVの能力と有意に相関する57の共通のH-1PV活性化因子を同定した(図13E)。本発明者らは、これらの因子の中で、ラミニンおよびガレクチンファミリーの2つのメンバーであるLAMC1およびLGALS1を見出した。
【0081】
例15:データセット統合により、H-1PV生活環の活性化因子としてLAMC1およびLGALS1が同定された。
本発明者らは、siRNAライブラリースクリーニング(図1)から同定された151の活性化因子と、NCI-60癌細胞株スクリーニング(図13)によって得られた57の活性化因子とをさらに統合した。後者のうち、スクリーニングに使用したsiRNAライブラリーでは23のみが示された。2つの異なるデータセットの統合から共通して同定された2つのみの遺伝子が、LAMC1およびLGALS1であり(図14)、H-1PV生活環に果たすこれらの2つの遺伝子の重要な役割が確認された。
【0082】
例16:CRISPR/Cas9媒介性LGALS1遺伝子ノックアウトは、LGALS1遺伝子の再導入によって救済されるH-1PV形質導入を損なう
H-1PV感染におけるLGALS1の関与を確認するために、本発明者らは、CRISP/Cas9ゲノム編集技術によってLGALS1遺伝子発現がノックアウトされた安定なLGALS1KO NCH125神経膠腫細胞株を作製した(図15)。EGFP遺伝子を有するrecH-1PVに細胞を感染させた。NCH125-対照(Cas9ヌクレアーゼと、その配列がいかなるヒト遺伝子も認識しない非特異的スクランブル20ntガイドRNAとをコードする対照CRISPR/Cas9プラスミドを使用することによって確立された)と比較して、LGALS1KO細胞では、H-1PV形質導入の強力な減少が観察された。H-1PV形質導入のこの減少は、プラスミドトランスフェクションによるこれらの細胞へのLGALS1遺伝子の再導入によって救済された(図15)。これらの結果は、ガレクチン-1をコードするLGALS1遺伝子が、H-1PV感染に必須の役割を果たすという追加の証拠を提供する。
【0083】
例17:LAMC1およびLGALS1 mRNA発現レベルは、神経膠芽腫患者由来細胞株において腫瘍崩壊を誘導するH-1PVの能力と相関する
本発明者らは、LAMC1およびLGALS1がH-1PV感染に必須の役割を果たすことを示した。H-1PV腫瘍崩壊に対する感受性について53の癌細胞株(NCI-60癌細胞株パネル)をスクリーニングすることにより、LAMC1およびLGALS1遺伝子の発現レベルと、このウイルスが癌細胞を死滅させる能力との間の統計的に有意な正の相関が明らかにされ、この2つの遺伝子が、ウイルス治療の成功を予測するためのバイオマーカーとして使用され得るという強力な証拠が提供された。これらの結果に基づいて、本発明者らはさらに、H-1PV腫瘍崩壊に対する感受性について、6つの神経膠芽腫由来細胞株を分析した。72時間かけてMOI10で細胞をH-1PVに感染させた。2つの細胞株、すなわちNCH125、NCH37は、ウイルスによって60%超死滅した。対照的に、U251、LN308、T98GおよびA172-MGは、H-1PV腫瘍崩壊に対して感受性が低く、30%未満死滅した。(図16A)。これらの細胞株から全RNAを単離し、Nanostring分析に供して、LAMC1およびLGALS1遺伝子発現レベルを測定した。以前の結果と一致して、H-1PV感染に対して感受性の高い2つの遺伝子を比較的高レベルに発現する細胞株である神経膠芽腫細胞株では、LAMC1およびLGALS1 mRNAレベルとH-1PV腫瘍崩壊との間の正の相関が見出された(図16B)。
【0084】
例18:β-ラクトース処理はH-1PV形質導入を損なう
ガレクチンは、ラクトースなどのβ-ガラクトシドと相互作用する能力を有する保存された炭水化物認識ドメインを含むレクチンのファミリーを構成する。例えば、β-ラクトースがガレクチン-1に結合し、このタンパク質の機能性に影響を及ぼす配座変化を誘導することが見出された28。本発明者らは、ガレクチン-1と相互作用することによって、β-ラクトースがH-1PV感染/形質導入を減少させ得ると考えている。200mMのβ-ラクトースを用いてHeLa細胞を前処理した後、recH-1PV-EGFPに感染させた。それらの考察と一致して、β-ラクトースによる前処理は、H-1PV形質導入効果を有意に低下させた(図17)。
【0085】
参考文献
【数1】


【配列表フリーテキスト】
【0086】
配列表5~6 <223>プライマー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A-C】
図7D-E】
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13A
図13B-C】
図13D-E】
図14
図15
図16
図17
【配列表】
2022509153000001.app
【国際調査報告】