(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-20
(54)【発明の名称】固体圧縮機および固体圧縮機セルスタックにカウンタープレッシャーを供給する方法
(51)【国際特許分類】
C25B 9/05 20210101AFI20220113BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20220113BHJP
C25B 9/77 20210101ALI20220113BHJP
C25B 1/02 20060101ALI20220113BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20220113BHJP
C25B 13/02 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
C25B9/05
C25B9/23
C25B9/77
C25B1/02
C25B9/00 Z
C25B13/02 302
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021529145
(86)(22)【出願日】2019-11-21
(85)【翻訳文提出日】2021-07-15
(86)【国際出願番号】 NL2019050771
(87)【国際公開番号】W WO2020106153
(87)【国際公開日】2020-05-28
(32)【優先日】2018-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521220699
【氏名又は名称】エイチワイイーティー ホールディング ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】HYET HOLDING B.V.
【住所又は居所原語表記】Westervoortsedijk 71 K,6827 AV ARNHEM,the Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100092897
【氏名又は名称】大西 正悟
(72)【発明者】
【氏名】ボス,アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】スワンボーン,ロンバウト,アドリアン
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021CA13
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB49
4K021DB53
4K021DC03
4K021EA05
4K021EA06
(57)【要約】
本発明は、流体を電気化学的に圧縮する固体圧縮機に関する。固体圧縮機1は、2つのセルプレート4の間に挟まれた膜電極アセンブリ3を有する少なくとも1つの圧縮機セルを備える圧縮機セルスタック2と、圧縮機セルスタックを互いに反対側を向く両面においてクランプする筐体6と、圧縮機セルスタックと筐体との間に介在し、圧縮機セルスタックの外面に接触する少なくとも1つの接触体11とを備え、筐体と前記接触体とで囲まれた空間が存在し、空間は流体を加圧して収容するように構成されている。本発明はさらにそのような固体圧縮機の作動方法に関する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を電気化学的に圧縮する固体圧縮機であって、
-2つのセルプレートの間に挟まれた膜電極アセンブリを有する少なくとも1つの圧縮機セルを備える圧縮機セルスタックと、
-前記圧縮機セルスタックを互いに反対側を向く両面においてクランプする筐体と、
-前記圧縮機セルスタックと前記筐体との間に位置し、前記圧縮機セルスタックの外面に接触する少なくとも1つの接触体とを備え、
前記筐体と前記接触体とで囲まれた空間が存在し、前記空間は流体を加圧して収容するように構成されていることを特徴とする固体圧縮機。
【請求項2】
前記固体圧縮機は、前記空間に収容された前記流体の圧力を調整するように構成された圧力調整機構を備えることを特徴とする請求項1に記載の固体圧縮機。
【請求項3】
前記圧力調整機構は、少なくとも1つの前記膜電極アセンブリの陰極側に広がる圧力に基づいて前記流体の圧力を調整するように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の固体圧縮機。
【請求項4】
前記圧力調整機構は、前記少なくとも1つの膜電極アセンブリの前記陰極側に広がる圧力と前記流体の圧力との間に一定の比率を確保するように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の固体圧縮機。
【請求項5】
前記流体の圧力が前記少なくとも1つの膜電極アセンブリの前記陰極側に広がる圧力よりも大きく、好ましくは1.1倍から2.5倍大きい、より好ましくは2倍大きいことを特徴とする請求項4に記載の固体圧縮機。
【請求項6】
前記空間は流体貯蔵器に液圧的に連結されていることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の固体圧縮機。
【請求項7】
前記空間は流体貯蔵器に液圧的に連結されており、前記流体貯蔵器は容積が可変であり、前記圧力調整機構は前記流体貯蔵器の前記容積を調整するように構成されていることを特徴とする請求項2~5のいずれかに記載の固体圧縮機。
【請求項8】
前記圧力調整機構は、前記流体貯蔵器に接触して位置する第1ピストンヘッド面を有し、前記第1ピストンヘッド面の変位により前記流体貯蔵器の前記容積を変化させるディスプレイサー・ピストンを備えることを特徴とする請求項7に記載の固体圧縮機。
【請求項9】
前記ディスプレイサー・ピストンは、前記第1ピストンヘッド面の反対側に第2ピストンヘッド面を備え、前記第2ピストンヘッド面は加圧流体貯蔵器に接して位置しており、前記第2ピストンへッド面の変位により前記加圧流体貯蔵器の容積を変化させることを特徴とする請求項8に記載の固体圧縮機。
【請求項10】
前記少なくとも1つの膜電極アセンブリの前記陰極側は、前記加圧流体貯蔵器に連結していることを特徴とする請求項9に記載の固体圧縮機。
【請求項11】
前記第1ピストンヘッド面および前記第2ピストンヘッド面の面積は相互に異なることを特徴とする請求項9または10に記載の固体圧縮機。
【請求項12】
前記固体圧縮機は、前記筐体と前記圧縮機セルスタックの互いに反対側を向く2面のうちの異なる1面との間に存在する接触体を2つ備え、前記筐体とそれぞれの前記接触体とで囲まれた空間を有しており、前記空間は流体を加圧して収容するように構成されていることを特徴とする請求項1~11のいずれかに記載の固体圧縮機。
【請求項13】
前記接触体は、前記筐体と前記それぞれの接触体との間の前記空間の容積が前記筐体に対する前記接触体の移動に伴って変化するように前記筐体内に移動可能にはめ込まれていることを特徴とする請求項12に記載の固体圧縮機。
【請求項14】
前記筐体と前記それぞれの接触体との間の前記空間は相互に液圧的に連結されていることを特徴とする請求項12または13に記載の固体圧縮機。
【請求項15】
前記筐体は、相互に連結された2つの対向するフランジを備え、前記フランジはそれぞれの前記接触体の周囲を締結するように構成され、前記圧縮機セルスタックの外面に接触する側とは反対側の前記接触体の表面を完全に取り囲むことを特徴とする請求項12~14のいずれかに記載の固体圧縮機。
【請求項16】
前記対向するフランジは張力が与圧された接続部を介して相互接続され、前記空間内に含まれる前記流体が圧縮されるように、前記与圧が前記対向するフランジを互いの方向に動かすことを特徴とする請求項15に記載の固体圧縮機。
【請求項17】
前記対向するフランジは、少なくとも1つのボルト締結ジョイントで相互連結されていることを特徴とする請求項15または16に記載の固体圧縮機。
【請求項18】
1以上のベルビルワッシャーが前記フランジの少なくとも1つと前記ボルト締結ジョイントのボルトヘッドまたはナットとの間に配置されていることを特徴とする請求項17に記載の固体圧縮機。
【請求項19】
請求項1~18のいずれかに記載の固体圧縮機用の筐体および少なくとも1つの接触体のアセンブリ。
【請求項20】
請求項1~18のいずれかに記載の固体圧縮機の筐体と接触体との間の空間内に含まれる流体の圧力を調整する圧力調整機構。
【請求項21】
請求項1~18のいずれかに記載の固体圧縮機の作動方法であって、前記筐体と前記接触体との間の前記空間に加圧された流体を導入することを含むことを特徴とする方法。
【請求項22】
前記方法はさらに前記流体の圧力を調整することを含むことを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記流体の圧力は少なくとも1つの前記膜電極アセンブリの陰極側に広がる圧力に基づいて調整されることを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項24】
少なくとも1つの前記膜電極アセンブリの前記陰極側に広がる圧力と前記流体の圧力との間に一定の比率を確保するように構成されていることを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記流体の圧力は、少なくとも1つの前記膜電極アセンブリの前記陰極側に広がる圧力よりも大きく保たれており、好ましくは1.1倍から2.5倍大きい、より好ましくは2倍大きいことを特徴とする請求項24に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を電気化学的に圧縮する固体圧縮機に関する。本発明はさらに、固体圧縮機用の筐体および固体圧縮機で使用する圧力調整機構に関する。本発明はさらに、本発明による固体圧縮機の作動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の機械式圧縮機は、流体を圧縮するためにピストンやロータなどの機械的手段を用いるが、固体圧縮機はイオン輸送機構を利用する膜を介して前記流体を電気化学的に輸送することに基づいている。電気化学的方法で作動流体を圧縮するために、固体圧縮機は、典型的には1または複数の積層された膜電極アセンブリ(MEAとも呼ばれる)で構成される圧縮機セルを備える。MEAの電極は、電極間の電位差を維持するために電源に接続される。この電位差は、膜をまたがって存在する圧力勾配に逆らって、イオン化された作動流体をプロトン交換膜(通称PEM)を通過して電気化学的に移動させるために必要である。電流の方向はここではイオン輸送の方向を決定し、低圧作動流体は正に帯電した陽極でイオン化され、分離された電子とMEAの高圧の陰極側で再結合する。
【0003】
一般的な固体圧縮機は電気化学的水素圧縮機であり、水素が膜電極アセンブリに供給されてプロトンと電子に酸化される。プロトンはその後、膜を通過し、電子は外部回路を介して転送されて、その後、プロトンと電子は水素分子に還元される。この過程で、水素は低圧領域から高圧領域へ圧力勾配に逆らって移動し、その結果、膜を通過する際に圧力が上昇する。水やアンモニアなどの他の作動流体の圧縮も可能である。
【0004】
固体圧縮機は、機械式圧縮機に対して多くの著しい利点を有する。すなわち、固体圧縮機は、可動部品がないので一般的にコンパクトな設計である。さらに固体圧縮機は、機械式圧縮機を超える作動効率で1000バール以上の非常に大きな圧力まで流体を圧縮することができる。さらなる利点としては、電気化学的な圧縮は膜がイオン化された作動流体の輸送のみを可能にするので、作動流体の浄化につながる。
【0005】
作動流体の圧縮過程では、圧縮機セルの両端に非常に高い圧力差が存在する。前記圧力差を維持し、圧縮機セルの十分なシーリングを得るためには、圧縮機セルに十分な大きさのカウンタープレッシャーをかける必要がある。このために圧縮機セルは典型的には、フランジの周縁部近傍でフランジを係合するボルト配列によって、2つのフランジの間にクランプされる。
【0006】
このクランプ構造の欠点は、圧縮機セル内の高圧のために圧縮機セルがフランジに均等にガス圧を及ぼすことである。この結果、フランジは、フランジを固定しているボルト配列の係合点から離れて、その中心部で曲がる傾向がある。これにより、圧縮機セルの中央部での電気的接触が悪くなり、セル内部の破裂をもたらすことさえある。
【0007】
前述のクランプ構造の別の問題は、作動流体の電気化学的圧縮の際に生じる熱および圧力効果のために圧縮機セルの収縮や膨張が引き起こされ、これにより、圧縮機セルとそれぞれのフランジとの間のシーリングおよび接触圧力が変化することである。この圧力の変化や膨張および収縮の際の圧縮機セルの連続的な動きのために、ボルト締結ジョイントは時間の経過とともに徐々に緩んでいく。これはリークを引き起こすので定期的な検査やボルト締結ジョイントの再締め付けが必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、前述の欠点の少なくとも1つに対する解決策を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、流体を電気化学的に圧縮する固体圧縮機を提案する。固体圧縮機は、2つのセルプレートの間に挟まれた膜電極アセンブリを有する少なくとも1つの圧縮機セルを備える圧縮機セルスタックと、圧縮機セルスタックを互いに反対側を向く両面においてクランプする筐体と、圧縮機セルスタックと筐体との間に位置し、圧縮機セルスタックの外面に接触する少なくとも1つの接触体とを備え、筐体と接触体とで囲まれた空間が存在し、その空間は流体を加圧して収容するように構成されている。
【0010】
固体圧縮機は電気化学的水素圧縮機であってもよいが、アンモニア水などの他の作動流体を圧縮するように構成されていてもよい。これらの固体圧縮機の作動原理は、作動流体を圧縮機セルの一部である膜電極アセンブリに通過させることで作動流体を圧縮するという点で同一である。ここで、圧縮機セルは、複数の圧縮機セルを備える圧縮機セルスタックの一部でもよい。圧縮機セルの各々は従って、2つのセルプレートの間にクランプされた膜電極アセンブリを備え、セルプレートは、異なる膜電極アセンブリを分離して支持する機能を果たすとともに、作動流体を膜電極アセンブリに供給し、作動流体を膜電極アセンブリから離すように誘導する機能も果たす。
【0011】
しかしながら本発明は、H2OをH2とOに変えるための電気分解装置またはそれに類似する装置に関するものではないことを明示する。本発明による装置は、低圧でH2を受け取り、高圧でH2を出力する装置である。
【0012】
圧縮機セルスタックは、その中に収容される少なくとも1つの膜電極アセンブリとは反対側を向く外面を備える。固体圧縮機の動作中における圧縮機セルスタック内の内圧を補償するために、セルスタックをクランプする筐体は、圧縮機セルスタック内のこの内圧に少なくとも等しく、通常はこれを超えるカウンタープレッシャーをセルスタックに及ぼすように構成されている。前記カウンタープレッシャーは、ここでは、接触体の形態の接続要素を介して圧縮機セルスタックの外面に及ぼされる。接触体は、圧縮機セルスタックの外面に接触し、特に外面に完全に接触する。すなわちこの外面は、一般的な例では、セルスタックの最も外側のセルプレートによって形成される。これにより、接触体は、圧縮機スタックによって及ぼされる力を筐体に効率的に伝えることができ、その逆も可能である。
【0013】
空間が筐体と接触体とで囲まれているので、筐体によって提供されるカウンタープレッシャーは、しかしながら、接触体には直接的に作用しない。その代わりに、加圧された流体は、前述の空間内に収容されて、これにより筐体と接触体とに圧力をかける。圧縮機セルスタック上に筐体によって及ぼされる力は、従って、接触体と流体の両方を通して伝達される。
【0014】
この構造の主な利点は、接触体上と圧縮機セルスタック(の外面)上の圧力の均一な接触と分布が常に達成されることである。圧縮機セルスタック内に広がる大きな圧力下で、筐体それ自身が曲がったり、変形したりする場合でも、本発明による圧縮機は、加圧された流体を含む空間によって、接触体および圧縮機セルスタック上に均一に分布したカウンタープレッシャーを維持することができる。このようにして、圧縮機セルスタックの中央部での電気的接触不良およびセル内部で起こり得る破裂という問題を解決する。
【0015】
筐体が接触体および加圧された流体を介して圧縮機セルスタック上に必要なカウンタープレッシャーを及ぼすことの更なる利点は、セルスタック上のカウンタープレッシャーが圧縮機セルスタックの内部圧力を超える場合であっても、筐体と共にセルスタックに圧力を加えて筐体を締結する異なる部品間の接続を徐々に緩め、セルスタックの完全性に即時の影響を与えないことである。セルスタックと筐体との間の直接的な接続の場合には、接続の緩みおよび筐体の異なる部分の連続的な相対的変位が筐体と圧縮機セルスタックとの間の接触不良を引き起こし、これによりセルスタックのリークを引き起こす。しかしながら、加圧された流体は、筐体部分のいくらかの変位が生じるまで筐体の異なる部品の接続が緩み、従って空間の容積がわずかに増加した場合でも、流体の圧力が多少低下することを唯一の代償として、接触体との均一な接触を維持する。
【0016】
本発明による固体圧縮機の好ましい実施形態では、固体圧縮機は空間に収容された流体の圧力を調整するように構成された圧力調整機構を備える。しかしながら、筐体と接触体との間の空間が固定された容積であり、固定された量の加圧された流体を前記空間内に収容することも可能である。この場合では、流体は一定の圧力に加圧されている。この圧力は、しかしながら、圧縮機セルスタックの生じうる最大の内圧を補償することを目的とする必要がある。セルスタックと筐体とを含む圧縮機は、従って、圧縮機セルスタックの設計上で生じうる最大の内圧以上の圧力に常に耐える必要がある。
【0017】
筐体と接触体との間の空間に含まれる流体内に広がる圧力を調整することができるので、セルスタック内の現在の動作圧力を超えるカウンタープレッシャーを選択することができ、従って必要なシーリングを提供する。しかしながら、これらのカウンタープレッシャーは、流体の圧力およびそこでのカウンタープレッシャーがセルスタックの動作圧力の増加に伴って増加できるので、圧縮機セルスタックの生じうる最大の内圧よりも小さく選択してもよい。
【0018】
圧力調整機構は、さらに、少なくとも1つの膜電極アセンブリの陰極側に広がる圧力に基づいて流体の圧力を調整するように構成されてもよい。膜電極アセンブリの陰極側は、作動流体が圧縮される側である。陰極側に広がる内部セルスタック圧力の増加は、ほとんどの場合、必要なカウンタープレッシャーを提供するためのより大きな流体の圧力と、そこでの圧縮機セルスタックの適切なシーリングとが必要となる。流体の圧力が少なくとも1つの膜電極アセンブリの陰極側に広がる圧力に基づいて制御される場合には、加圧された流体によって提供されるカウンタープレッシャーは、自動的に内部セルスタック圧力と同一または上回ることが確認できる。
【0019】
圧縮機セルスタックの適切なシーリングと完全性とをさらに確実にするために、圧力調整機構は、少なくとも1つの膜電極アセンブリの陰極側に広がる圧力と流体の圧力との間に一定の比率を確保するように構成されてもよい。ここでは流体の圧力は、少なくとも1つの膜電極アセンブリでの陰極側に広がる圧力よりも好ましくは1.5倍から2.5倍大きい、より好ましくは2倍大きいことが推奨される。このようにして、筐体と接触体とで囲まれた空間内部の静水圧の動的制御が実現される。
【0020】
本発明による固体圧縮機の更なる実施形態では、筐体と接触体との間に囲まれた空間は、流体貯蔵器に液圧的に連結されている。貯蔵器は、接触体上および同時に圧縮機セルスタックの外面上に加えられるカウンタープレッシャーを提供するように作用する流体の全量を効果的に拡大する。流体の一部が漏出する流体のリーケージの場合でも、増加した流体の量が圧力の低下を保護する。従って、流体の漏れが直接的にセルスタック内圧を下回るレベルまで圧力を低下させる可能性は低い。さらに、流体貯蔵器の存在は、貯蔵器内および圧縮機セルスタックそれ自体から離れた筐体と接触体との間に囲まれた空間内に含まれる流体へのアクセスを提供する。
【0021】
空間内の流体の圧力を調整するために可能な方法としては、接触体と圧縮機セルスタックとの組み合わせは、筐体に対して変位可能なように筐体に移動可能に接続されてもよい。この方法では、筐体と接触体との間に囲まれた空間の容積を変化させることができて、それにより、流体内に広がる圧力を調整することができる。空間が流体貯蔵器に液圧的に連結されている場合には、液圧的に連結された空間と流体貯蔵器とを備える閉鎖システムの全容積を変化させるために、流体貯蔵器は代替的にまたは追加的に容積が可変でもよく、これにより、流体の圧縮の程度を調整して圧縮機セルスタック上に加えられるカウンタープレッシャーの量を調整する。圧力調整機構はここで、前述の流体貯蔵器の容積を調整するように構成されてもよい。
【0022】
流体貯蔵器の容積を調整する方法として圧力調整機構はディスプレイサー・ピストンを備えてもよい。ディスプレイサー・ピストンは、流体貯蔵器に接触して位置する第1ピストンヘッド面を有して、ピストンヘッドの変位により流体貯蔵器の容積を変化させる。ディスプレイサー・ピストンは、典型的にはハウジング内に収容されており、ハウジングはピストンへッドを液密に囲んでいる。ハウジングはここでは、第1ピストンヘッドが流体に接触するように流体貯蔵器の壁に接続または結合する。ディスプレイサー・ピストンが流体貯蔵器に向かって内側に移動すると、流体貯蔵器の容積は効果的に減少し、その中に含まれる流体はさらに圧縮される。ディスプレイサー・ピストンが流体貯蔵器から離れるように外側に移動する場合は、流体貯蔵器の容積は効果的に増大し、その中に含まれる流体の圧縮は弱まる。
【0023】
ディスプレイサー・ピストンは、また、第1ピストンヘッド面の反対側に第2ピストンヘッド面を備えてもよく、第2ピストンヘッド面は、ピストンヘッドの変位時に加圧流体貯蔵器の容積を変化させるために加圧流体貯蔵器に接触して位置する。第1ピストンヘッド面と同様に、第2ピストンヘッド面もハウジング内に収容されてもよく、ハウジングはピストンヘッドを液密に取り囲み、この場合では、加圧流体貯蔵器の壁に接続または結合している。ディスプレイサー・ピストンが加圧流体貯蔵器に向かって内側に移動すると、加圧流体貯蔵器の容積は効果的に減少し、その中に含まれる加圧流体はさらに圧縮される。ディスプレイサー・ピストンが加圧流体貯蔵器から離れるように外側に移動する場合は、加圧流体貯蔵器の容積は効果的に増大し、その中に含まれる加圧流体の圧縮は弱まる。第1および第2のピストンヘッドは、同一のピストンの一部であるので、第1ピストンヘッドの内側への移動は、第2ピストンヘッドの外側への移動をもたらし、その逆も同じである。ピストンヘッドのこの同時移動により、貯蔵器の容積は互いに依存して調整され、それにより、流体貯蔵器内および加圧流体貯蔵器内に広がる圧力が平衡する。
【0024】
少なくとも1つの膜電極アセンブリの陰極側が加圧流体貯蔵器と連結されて、加圧流体貯蔵器内の流体が膜電極アセンブリの陰極側の加圧された作動流体と同じ圧力になる場合には、特に有利である。可能な実施形態では、膜電極アセンブリの陰極側と加圧流体貯蔵器との間のリンクは流体リンクであり、加圧流体貯蔵器内に含まれる流体は実際には固体圧縮機によって加圧された作動流体と同じである。膜電極アセンブリの陰極側と加圧流体貯蔵器との間のそのような流体リンクの利点は、流体の圧力および従って圧縮機セルスタック上のカウンタープレッシャーは内部セルスタック圧力に基づいて自動的に調整されることである。
【0025】
流体リンクでは、膜電極アセンブリの陰極側での圧力変化は、加圧流体貯蔵器内の流体の同様な圧力変化を引き起こす。ディスプレイサー・ピストンの2つの逆向きで相互依存変位可能なピストンヘッドは、それぞれ流体貯蔵器と加圧流体貯蔵器に接触しているので、加圧流体貯蔵器内の圧力変化はディスプレイサー・ピストンを変位させ、それにより、流体貯蔵器内の圧力も同時に変化する。筐体と接触体との間に囲まれた空間は、流体貯蔵器と液圧的に連結されており、空間内に含まれる流体の圧力もまた変化し、従って、接触体を介して圧縮機セルスタックに及ぼすカウンタープレッシャーの大きさに影響を与える。
【0026】
流体貯蔵器内に広がる圧力と加圧流体貯蔵器内に広がる圧力との圧力比を一定にするために、第1および第2のピストンヘッド面の面積は、互いに異なってもよい。特に、第1および第2のピストンヘッド面がそれぞれ流体と加圧流体に接触する面積の比が、流体貯蔵器内および加圧流体貯蔵器内に広がる圧力の圧力比を決定する。すなわち、加圧流体と接するピストンヘッド面に垂直に加えられる力は、圧力にピストンヘッド面の表面積を乗じたものに等しい。流体貯蔵器内および加圧流体貯蔵器内に広がる圧力の好ましい差に応じて第1および第2のピストンヘッド面の面積を選択することにより、圧縮機セルスタック上に加えられる相対的なカウンタープレッシャーを自動的かつ動的に制御することができる。
【0027】
本発明による固体圧縮機の更なる実施形態では、固体圧縮機は圧縮機セルスタックの互いに反対側を向く2面のうちの異なる1面と筐体との間に存在する接触体を2つ備え、筐体とそれぞれの接触体とで囲まれた空間を有しており、その空間は流体を加圧して収容するように構成されている。この実施形態の利点は、両方の空間に含まれる流体が接触体上の均一な接触と圧力の分布を達成することである。これらの空間のいずれか一方に含まれる流体の圧力は既に述べた実施形態のいずれかによる圧力調整機構によって調整されてもよい。
【0028】
自動平衡システムを作り出すために、接触体は、筐体とそれぞれの接触体との間の空間の容積が筐体に対する接触体の動きに応じて変化するように、筐体内に移動可能に埋め込まれてもよい。接触体は圧縮機セルスタックの互いに反対側を向く両面に接触して位置するので、セルスタックは接触体と同時に移動する。この接触体とセルスタックの組み合わせの筐体内での動きが、それぞれの空間内に含まれる流体の圧力を平衡させる。空間のうちの1つの流体の圧力が変化する場合では、例えば、前述のいずれか1つの実施形態で述べた圧力調整機構によって接触体とセルスタックが筐体内部で移動することで、空間の容積が変化し、それぞれの空間に広がる圧力が等しくなる。
【0029】
自動平衡システムを作り出す別の方法として、筐体と接触体との間の空間が相互に液圧的に連結されてもよい。この方法でも各々の空間内の圧力は均等に保たれる。
【0030】
筐体の特定の実施形態では、筐体は、相互に連結された2つの対向するフランジを備えてもよく、フランジはそれぞれの接触体の周囲を締結するように構成されているので、圧縮機セルスタックの外面に接触する側とは反対側の前記接触体の表面を完全に取り囲むことができる。接触体のこの表面を完全に取り囲む利点は、筐体(フランジ)と圧縮力が加えられる接触体の表面の間に直接的な接触がないことである。その代わりに、接触体のこの表面は流体によって完全に接触されており、その上で均一な圧力分布が確保される。一般的な例では、フランジは、フランジと接触体との間の液密シーリングを確保しながら接触体がフランジに対して相対的に移動できるように、各接触体の周囲を十分に締結する。
【0031】
対向するフランジは予め張力が与圧された接続部を介して相互接続することも可能であり、空間内に含まれる流体が圧縮されるように与圧が対向するフランジを互いの方向に動かす。流体の圧縮を介して、接続部はクランプされた圧縮機セルスタック内に圧縮与圧を同時に導入する。与圧は一般的に圧縮機セルスタックが作動するように設計されている最高圧力と同等かそれ以上であるように選択される。
【0032】
対向するフランジは、1以上のボルト締結ジョイントで相互連結されてもよい。ボルト締結ジョイントのクリープや緩みの影響を打ち消すために、1以上のベルビルワッシャー(Belleville washers)がフランジの少なくとも1つとボルト締結ジョイントのボルトヘッドまたはナットとの間に配置されてもよい。
【0033】
本発明はまた、本発明による固体圧縮機用の筐体および少なくとも1つの接触体のアセンブリに関する。本発明は、さらに本発明による固体圧縮機の筐体と接触体との間に囲まれた空間内に収容される流体の圧力を調整するための圧力調整機構に関する。アセンブリと圧力調整機構の詳細および利点は、本発明による固体圧縮機の種々の可能な実施形態に関連してすでに詳細に述べられている。
【0034】
最後に、本発明は、本発明による固体圧縮機の作動方法に関する。方法は、筐体と接触体との間の空間に加圧された流体を導入することを含む。方法はさらに、流体の圧力を調整することを含む。流体の圧力は、ここでは、少なくとも1つの膜電極アセンブリの陰極側に広がる圧力に基づいて調整されてもよい。可能性として、少なくとも1つの膜電極アセンブリの陰極側に広がる圧力と流体の圧力との間に一定の比を保ってもよい。この場合、流体の圧力は、少なくとも1つの膜電極アセンブリの陰極側に広がる圧力よりも大きく保たれてもよい、好ましくは1.1倍から2.5倍大きく、より好ましくは2倍大きい。これらの固体圧縮機の作動方法の詳細および利点は、本発明による固体圧縮機の種々の可能な実施形態に関連してすでに詳細に説明している。
【0035】
本発明は、以下の図面に示す例示的な実施形態に基づいて更に明瞭にされる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図3】本発明による固体圧縮機の概略断面図である。
【0037】
図は、本発明の特定の例示的な実施形態を示しており、いかなる方法または形態においても本発明を限定的に考えるべきではない。本明細書および図面では、対応する要素に対しては対応する参照番号が使用されている。
【0038】
図1、
図2は、それぞれ本発明による固体圧縮機1の斜視図と分解組立図である。固体圧縮機1は、セルプレート4に挟まれた膜電極アセンブリ3を複数個有する圧縮機セルスタック2を備える。各セルスタック2の最外側プレート5は、通常、電極を電源に電気的に接続するための通過用として機能する集電板によって形成されている。圧縮機セルスタック2は、互いに反対側を向く両面においてセルスタック2上に圧力をかけ続ける筐体6の間でクランプされている。図示する筐体6は、ボルト8とナット9によって形成されたボルト締結ジョイントの配列によって周縁部付近で相互に連結された2つのフランジ7を備える。セルスタック2の互いに反対側を向く外面10と筐体6との間には、前記外面10に接触して位置する2つの接触体11が存在している。後述する
図3で分かるように、各フランジ7と接触体11とで囲まれた空間が存在し、その空間には加圧された流体が収容されている。この空間に流体を供給したり、この空間から流体を引き込んだりするために、接触体11は、それらの側面に流体供給開口部12を備えている。
【0039】
図3は、本発明による固体圧縮機20の概略断面図である。再び、圧縮機セルスタック21が示されており、互いに反対側を向く2つの外面22が2つの接触体23の間にクランプされている。セルスタック21と接触体23との組み合わせは、ボルト締結ジョイント26によって相互連結された2つの対向するフランジ25を備える筐体24によって囲まれている。フランジ25はこの結果、接触体23のそれぞれの周りを締結し、セルスタック21の外面22に接触する表面側とは反対側の接触体の面を完全に取り囲む。フランジ25と接触体23との間で囲まれた空間27は、加圧された流体28を収容する。フランジ25の側面と接触体23の間には、加圧された流体28を収容することができる閉塞された容積を得るためにシール29が設けられている。空間27の1つである上側空間は、流体ライン31によって流体貯蔵器30に液圧的に連結されている。空間27の1つである下側空間は、固体圧縮機のこの図示された実施形態においては、流体貯蔵器に液圧的に連結されてはいない、また、上側空間にも液圧的に接続されてはいない。そのように、受動的な圧力補償システムが固体圧縮機20の下側で得られる。最後に述べた変形は、本発明の範囲内である。
【0040】
流体貯蔵器30の容積は、ディスプレイサー・ピストン33を備える圧力調整機構32を介して可変である。ディスプレイサー・ピストン33は、ピストンハウジング34内で移動可能であり、流体貯蔵器30内に収容されている流体28に直接接触して位置する第1ピストンヘッド面35を備える。ディスプレイサー・ピストンは、さらに、第1ピストンヘッド面35の反対側に第2ピストンヘッド面36を備える。第2ピストンヘッド面36は、加圧流体貯蔵器38内に収容された加圧流体37に直接接触して位置する。第1および第2のピストンヘッド面35、36は、同一のピストンの一部として与えられているので、それらは同時に動作し、その結果、加圧流体貯蔵器38内の圧力と、流体貯蔵器30内の圧力とが平衡する。双方の貯蔵器内の圧力の比はこの結果、ピストンへッド面35、36の表面積に依存する。加圧流体貯蔵器38は、加圧流体ライン39を介してセルスタック21内に収容された膜電極アセンブリの陰極側に接続されている。加圧流体貯蔵器38内に収容された加圧流体37は従って圧縮機20の作動流体と同じである。
【国際調査報告】